海洋安全保障情報旬報 2019年5月21日-5月31日

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5月21日「気候変動とアメリカの新極地戦略――米ジャーナリスト論説」(ARCTIC TODAY, May 21, 2019)

 5月21日付の環北極メディア協力組織ARCTIC TODAYのウェブサイトは、米ワシントンDCで活動するフリーのジャーナリストMelody Schreiberの“As climate changes, US admirals see increasing need for Arctic presence”と題する論説を掲載し、ここでSchreiberは米国の新たな極地戦略の方向性と、そこにおける気候変動に関わる議論の回避について要旨以下のように述べている。
(1)2019年5月初旬にワシントンDC近郊で開催された海空宇宙博覧会において、米国のの海洋関連指導者たちは、気候変動の結果として北極圏の重要性が増大していること、それへの対応として弾力性のあるインフラの構築ないしは刷新の必要性について述べた。海軍作戦部長のJohn Richardson提督は「これまで開かれていなかった海路が今や開かれている」と述べ、これから建造されるインフラは「気候変動に対応するような基準」を満たす必要があると主張した。沿岸警備隊長官Karl Schultz大将も、そうした弾力性のあるインフラへの「投資は絶対的に必要なものだ」と訴えた。
(2)こうした議論において特徴的なのは、アメリカの海洋政策が極地地域における環境の変化に対応したものでなければならないと主張されるのと同時に、その環境変化の原因が気候変動であることを強調することや、気候変動という言葉それ自体の使用が避けられる傾向があるということだ。Schultzが気候変動という言葉を用いたとき、彼はすぐにその点については科学的に議論の余地があるとして、この問題に深入りすることを避けた。沿岸警備隊のDan Abel中将もまた、「状況が現在進行系で変化している」と理解しながらも、彼らが考えるべきなのは「それが何を意味するのか、次に何が起きるか」なのだと主張した
(3)しかし、果たしてそれでいいのか。海軍の気象学者John Okon少将は極地地域の状況が「極端に極端な」ものになっていると述べた。同地域の環境の変化が彼らの議論の根底にあるにもかかわらず、その変化を十分に理解できていないというのである。Okonによれば、北極圏における気象関係のデータ収集に関してアメリカは「100年遅れている」という。
(4)6月1日までに国防総省は最新の極地戦略を発表することになっているが、そこでは海軍と沿岸警備隊の極地戦略は統合されたものとなるであろう。Woodrow Wilson Centerの上席研究員Sherri Goodmanは次のように主張した。必要なのは、極地地域における変化の主要因が気候変動であることを理解することであり、それなしに長期的な戦略の構想及び実践は困難であると。「彼らが言葉を弄ぶのは、それについて話したがらないホワイトハウスの人々との会話でその話題を避けるためだ」として、アメリカは今こそ気候変動による環境の変化が、新しい極地戦略の練り直しにつながっていることをはっきりさせねばならないと主張した。
記事参照:As climate changes, US admirals see increasing need for Arctic presence

5月30日「中国近傍の島嶼部を軍事化せよ―米軍事ジャーナリスト論説」(The National Interest, May 30, 2019)

 5月30日付の米隔月誌The National Interest電子版は、同誌軍事担当編集者David Axeの“Analysts: U.S. Troops Should Fortify Islands Near China”と題する論説を掲載し、ここでAxeは米軍が太平洋西部において中国の優位な立場に対抗するための新たな戦略を立案すべきとして最近発表された研究の内容について要旨以下のとおり述べている。
(1)ワシントンDCを拠点とするCenter for Strategic and Budgetary AssessmentsのアナリストであるThomas Mahnken、Travis Sharp、Billy Fabian、Peter Kouretsosらは最近の研究で、太平洋西部における中国の地理的な圧倒的優位性を指摘し、米軍がそれに対抗するための措置について検討した。これまでの有事における戦略は、「大規模な戦闘部隊を結集し、決定的な反撃がなされる前にあらゆる領域における優位を得る」というものであった。しかし「広大な太平洋を越えて部隊を派遣することは簡単」ではない。米軍は新たなモデルを構築する必要がある。
(2)彼らは、米軍の地上部隊が、中国の第一列島線や、接近阻止・領域拒否ネットワークの内側に浸透し、その内側から相手を攻撃する準備を整える必要性を主張する。具体的には、移動式ロケットランチャーを備え、小規模の海・空軍部隊の支援を受けた陸軍ないし海兵隊の部隊を中国近郊の島々やその周辺に配備し、内から外への攻撃態勢を整えるというものだ。このやり方において、配備される「米軍部隊は、中国のミサイル射程範囲内で作戦行動を行い、生き残ることが必要となってくる」と言う。
(3)彼らは、地上部隊をうまく活用することによって、海軍や空軍はより優先順位の高い任務を、より脅威の小さい領域から展開することができるようになると言う。より効率的な海空戦力の利用は、前線における防御のリスクを軽減させるであろう。そして海空戦力は、「地上部隊の攻撃ネットワークが生む新たな機会を活用」できるようになるであろう。
(4)国防総省が、彼らが推奨したような戦略を準備しているのは偶然ではなかろう。陸軍と海兵隊は移動式対艦ミサイルを調達し、海軍や海兵隊、空軍は小規模の戦闘機部隊を多くの小さな島々の飛行場へと分散させるような訓練を行っている。
(5)彼らは言う。「アメリカは中国の指導者たちに、西太平洋において地域的紛争を実行に移し、短期間のうちの自分たちにとって有利な条件で勝利できると信じさせないようにせねばならない」と。アメリカが中国の地理的優位に対抗する戦略を準備しないのであれば、その結果は深刻なものになる可能性がある。
記事参照:Analysts: U.S. Troops Should Fortify Islands Near China

5月22日「南シナ海における米国と中国の『意思の戦い』―香港紙報道」(South China Morning Post, May 22, 2019)

 5月22日付の香港日刊英字紙South China Morning Post 電子版は、“Washington and Beijing in ‘contest of wills’ in South China Sea”と題する記事を掲載し、南シナ海における米中の争いを「意思の戦い」とみなして要旨以下のように報じている。
(1)米国と中国は、南シナ海において「意志の戦い」を行っている。最近では5月19日に、この問題となっている海域を通ってスカボロー礁付近を米海軍艦艇が通航した。このような行動は5月で2回目であり、2019年になってから数回行っている。米国は中国の南シナ海における活動に挑戦を試みているようである。
(2) 分析者たちは、中国は海洋における主権に対して妥協しないことを示すために対抗措置を強化するであろうと予測している。しかし同時に米中は、軍事衝突を避けるために対話のチャンネルは開いたままにしようとしている。
(3)米海軍太平洋艦隊のTim Gorman中佐は、5月19日の行動は米海軍駆逐艦Prebleが中国とフィリピンの双方が主権を主張しているスカボロー礁の12海里以内を通航したものと説明した。彼は、この行動は「過度の海洋主権の主張に対抗し、国際法に定められたとおりの水路へのアクセスを保持するために実施された。すべての行動は国際法に則って行われており、米国は国際法が許す場所はどこでも飛行し航行し行動できることを示している。我々は、過去にも行ってきた、そしてこれからも実施するような定期的な通常の『航行の自由作戦(以下、FONOPと言う)』を実施したまでである。FONOPは特定の国を対象としたものではなく、政治的な声明を行うこともない」と述べた。米国は2019年にFONOPを西沙諸島で1回、南沙諸島で2回行った。米国防総省によると、2018年には7回、2016年には6回行われている。
(4)中国南部戦区司令部は、5月19日の米軍の行動に対して中国の艦船とその乗員に危険を与え、主権と安全保障と基本的な規範を侵害し、地域の安全と安定を害するものであるという強い非難の声明を出した。中国南部戦区司令部のスポークスマンのLi Huamin上級大佐は、軍は高い警戒態勢を維持しており、自国の主権と安全保障を守るためにすべての必要な措置をとることができると述べた。米国もまた同盟国がこの地域における軍事施設の建設などの中国の活動に対抗することを手助けしようとしており、2019年までに英国、フィリピン、日本、インドとの共同訓練を実施してきた。過去12ヵ月でもフランス軍艦とドイツ軍艦が台湾海峡や西沙諸島付近を別々に通航している。シンガポールの南洋工科大学の海洋安全保障の専門家であるCollin Kohは、米中は現在「意志の戦い」を行っているが、「相互依存関係の破壊に至るようなことは望んでいない」と述べている。また「米軍はその行動を公開し通常なものであると主張したがっているが、私の考えでは米国側はこの行動についてより幅広く国際社会で戦略的コミュニケーションを強化することを模索しているように思われる。戦略的な確認という形で、沿岸国の政府に『見える』ものとしたがっているようだ。」と述べている。
(5)香港の軍事アナリスト宋仲平は、「米国はFONOPをやめないことを中国にわからせるために定期的に実施するものとした」、「中国は、米国の海洋主権の主張について絶対に譲歩しないということをわからせるために、対抗措置を強化していくだろう」、「中国は、自国の沿岸線から他国の部隊を遠ざけるために、沿岸警備隊と海軍と空軍の能力を強化するだろう」と述べた。米国研究が専門の国際関係学教授時殷弘は、「Trump大統領は過去2年間で既にFONOPの頻度と兵力を大幅に増加させた」、「この状況は既に常態となりつつあり、中国は衝突のリスクを避けるため少し自重しなければならなくなっている」、しかし「中国の領土主権を主張し、海洋における軍事能力を強化する政策は、米国に1インチたりとも主権を変更させない真の軍事的利益を中国にもたらすであろう」とも述べている。
(6)しかし、米中は相互の対話を継続させている。南洋工科大学のCollin Kohは、シンガポールでのシャングリラ・ダイアローグに中国国防相魏鳳和が今回は出席すること、彼のカウンターパートの米国防長官代行Patrick Shanahanもおそらく出席することに注目し、「これは、米中双方が衝突を避けるために対話のチャンネルを維持することを望んでいることを意味する」と述べている。
記事参照:Washington and Beijing in ‘contest of wills’ in South China Sea

5月23日「2025年まで北極圏における米国のプレゼンスは増強できない―米専門家論説」(High North News, May 23, 2019)

 5月23日付のノルウェー国立NORD UniversityのHigh North Centerが発行するHigh North News 電子版は、米国のシンクタンクArctic Instituteの上級研究員で創設者の1人であるMalte Humpertの “U.S. Will Not Increase Presence in Arctic Until 2025”と題する論説を掲載し、ここでHumpertは、米国は北極圏のプレゼンスを早くとも2025年まで増強することができないとして要旨以下のように述べている。
(1)米国は、北極圏での予想される関与レベルと能力について、混ざり合ったシグナルを送り続けている。
a. 5月21日に、米国沿岸警備隊長官のKarl Schultz大将は、新しい砕氷船のPolar Security Cutter(PSC)が主に南極大陸への科学的任務のために使用されるであろうと警告した。「2隻目又は3隻目の砕氷船までは、プレゼンスの観点から見れば、実際そこでは、それほど多くのゲームを展開できない」とSchultzは米国下院交通小委員会で語った。これは、未だ資金を供給されていないが、2隻目と3隻目の新しい砕氷船が就役される予定であり早くとも2025年、さらには2027年までは、米国がその地域での水上艦船のプレゼンスを増強できないということを意味してる。
b. その1日後、米国の国家安全保障担当特別補佐官のJohn Boltonが、Coast Guard Academyでの演説中に、同国の能力について矛盾する発言をした。「新しい砕氷船により、沿岸警備隊はあまりにも長い間軽視されてきた北極圏での米国のリーダーシップの再主張を先導する。これらの新しく革新的なツールは、沿岸警備隊が、極地での年間を通した米国のプレゼンスをもつことを可能にするだろう」と。
(2)Boltonはスピーチの中で、わずか2週間前にフィンランドのロバニエミで開催された北極評議会閣僚会議でMichael Pompeo国務長官が表明した言葉に同調し、ロシアと中国のこの地域における活動について警告した。専門家たちは、今後10年間の大半にわたって、米国の能力が他の北極圏諸国、さらには北極圏以外の国々にも後れを取っていくことに驚いていない。
(3)他の専門家たちは、米国は水上艦船以外の他の手段によってこの地域でのプレゼンスを高めることができると強調している。米シンクタンクCenter for a New American Security(以下、CNASと言う)の上級研究員であるJim Townsendは、北極圏における「プレゼンス」の定義を拡大することを求めている。「プレゼンスは単に砕氷船の問題にとどまらない。我々は航空機、水上艦、潜水艦及び無人航空機(UAV)を含む米海軍の能力を考慮する必要がある」と。海軍は現在、砕氷能力を有する艦艇を運用しておらず、それらを調達する計画もないため水上作戦は制限されている。UAVに関しては、通常の無人航空機は北極の極寒や極端な気象条件での運用には適していない可能性があるため米国の能力はロシアの取り組みよりも遅れを取る可能性がある。
(4)現実のプレゼンスの兆候として砕氷船の重要性は無視できないとSchultz大将は認めた。彼は、沿岸警備隊が米国で北極海を行動できる唯一の艦船を運用していると強調した。「極地では、プレゼンスは影響力に等しい。そして、あなたの沿岸警備隊は我々の権利を守り、主権を投影する唯一の水上のプレゼンスである」と彼は述べた。2隻目と3隻目の大型の砕氷船をもってさえ、北極圏での米国のプレゼンスは限られたままである可能性がある。Schultzが指摘したように、沿岸警備隊の南極大陸への補給任務は100日以上続き、船艇の整備と訓練を考慮すると、さらなる任務の余地はほとんどない。CNASのJim Townsendは、3隻の砕氷船があっても、継続的な北極圏でのプレゼンスを展開する米国の能力は非常に乏しいと認めた。
記事参照:U.S. Will Not Increase Presence in Arctic Until 2025

5月23日「米沿岸警備隊の今後の役割―AP通信記者論説」(The Diplomat, May 23, 2019)

 5月23日付のデジタル誌The Diplomatは、AP通信の記者Dave Collinsの“John Bolton: Coast Guard to Help Reassert US Leadership in Arctic”と題する論説を掲載し、ここでCollinsは現在の世界情勢における米国沿岸警備隊の役割について、米国の国家安全保障問題担当大統領補佐官John Boltonの演説の内容を紹介しつつ要旨以下のように述べている。
(1)米国の国家安全保障顧問John Boltonは、水曜日にコネチカット州ニューロンドンで行われたCoast Guard Academyの第138回卒業式で240人の新しい卒業生たちに、「君たちは、米国が北極圏で増大するロシアの軍事的影響に異議を申し立て、『北極海近傍』という地位を主張する中国の不法な主張や北極圏諸国に対する「債務外交」の行使を押し返す手伝いをするだろう。そして、君たちは、極北でより大きな商業及び科学研究を促進するために必要とされる捜索救難活動及び災害対応能力を提供するだろう」と述べた。5月Trump政権は、中国とロシアに米国が温暖化と海氷の融解によって急速に開発と商業の領域を広げている北極地方での強引な動きを支持できないと警告した。「すぐに、新しい北極仕様の巡視船の助けを借りて、沿岸警備隊は、あまりにも長い間無視されてきた北極圏で米国の指導力の再確認を先導するだろう」と述べた。この巡視船は、Donald Trump大統領が極地での米国の1年を通してのプレゼンスを可能にするため、老朽化し​​た米国の砕氷船群へ導入を計画している多くの砕氷船の最初のものである。「米国は、この地域で永続的な国益をもつ北極圏国である。我々の北極の同盟国やパートナーたちのように、我々は軍事増強又は経済的搾取を通じて他国を強要しようとする国が存在しない、緊張の低い地域にしたい。我々は国際社会によって商業的に動かされる経済発展を奨励する一方で、北極諸国のために北極のガバナンスを確保する必要がある」と彼は述べた。
(2)Boltonによると、Trump政権は西半球のキューバ、ベネズエラ及びニカラグアの「独裁政治のトロイカ」(Troika of Tyranny)に絶え間なく圧力をかけているため、沿岸警備隊も重要な役割を果たすだろう。
(3)この演説はまた、Trump政権がイランが関係していると主張している詳細不明の脅威をめぐってイランとの間で緊張が高まる中で行われた。米国は、空母打撃群、4機の爆撃機及びその他の兵力をこの地域に派遣し、パトリオットミサイル部隊をこの地域の某国へと移動させている。イランに対するタカ派の立場で知られているBoltonはこの演説の中では特にイランに言及はしなかったが、沿岸警備隊の巡視船が米国の利益のため臨検を行っているペルシャ湾にいると述べた。5月、Boltonはイランによるいかなる攻撃に対しても「無慈悲な力」(unrelenting force)使用すると明言した。
記事参照:John Bolton: Coast Guard to Help Reassert US Leadership in Arctic

5月24日「米高官、太平洋島嶼国に台湾との関係維持を要請-英通信社報道」(Reuters, May 24, 2019)

 5月24日付の英通信社Reuters電子版は、“U.S. official urges Pacific Island nations to keep ties with Taiwan”と題する記事を掲載し、米国務省東南アジア担当次官補が太平洋島嶼国に対し、台湾との関係維持を訴えたとして、要旨以下のように報じている。
(1)台湾の対外的接触を縮小しようとする中国の「強圧的な」努力に直面し、台湾との外交関係を有する太平洋島嶼国はこれを維持しなければならないとし、米国とその同盟国が中国との影響力をめぐって争っている地域において太平洋島嶼国が主権と独立を守ることを支援し、彼らが開発、インフラ整備、国家建設に必要とする様々な代案と選択肢を準備することに米国は尽力してきたとMurphy米国務省代理次官補は言う。
 (2)台湾は米中関係において大きくなってきた発火点の1つである。「中国は現状を変更しようとしている。太平洋が良い例である。この地域で台湾の外交関係を縮小しようと中国は試みており、それは一種の強圧である。国家はどの国と外交関係を持つかは自ら選択できなければならず、選択は国内の要因によってなされるべきで外国の影響によるのではない」とMurphy代理次官補は言う。
(3)台湾は公式には17ヶ国と外交関係を持ち、それらの国のほとんどすべてが中央アメリカや太平洋の小国で途上国である。蔡英文が総統に就任した2016年以降、5ヶ国が中国との国交を樹立した。輸出の三分の二が中国向けのソロモン諸島のようなその他の国々は台湾との外交関係の利点を重視している。太平洋島嶼国が経済的に提供できるものは中国に対してであれ、台湾に対してであれ、わずかであるが、中国は台湾を孤立させようとしていることから、国連のような世界的な討議の場での彼らの支援は価値がある。
(4)「台湾は中国にとって、骨幹に関わる問題であり、その件で後退することはない。論評は米中関係修復の方策を提供するものではない」とthe University of Technology のAustralia-China Relations Institute部長James Laurencesonは言う。2019年、習近平国家主席は台湾を支配下に置くために必要であれば軍事力を使用するという中国が長く行ってきた脅しを更新した。
記事参照: U.S. official urges Pacific Island nations to keep ties with Taiwan

5月25日「台湾、国産コルベット、機雷敷設艇量産へ-香港紙報道」(South China Morning Post, 25 May, 2019)

 5月25日付の香港日刊英字紙South China Morning Post電子版は、“Taiwan begins mass production of home – grown missile corvettes, minelayers”と題する記事を掲載し、台湾が沱江級ミサイルコルベット及び高速機雷敷設艇の量産を開始したとして、要旨以下のように報じている。
(1)北京の敵対行為が拡大する中、台湾はその海軍を強化するため沱江級ミサイルコルベット及び高速機雷敷設艇の量産を開始した。コルベットは世界屈指のコンピュータシステムを搭載しており、部分的に高エントロピー合金(5成分以上の多成分軽合金で、ほぼ等原子組成比、単層固溶体を形成する合金を指すとされており、高強度、高延性を有する)を使用して建造される。そのステルス技術と小さなレーダー反射面積は洋上においてコルベットをレーダー画面上で見え難くしており、特に海岸近くで行動中はより探知されにくい。コルベットは亜音速の雄風Ⅱ対艦ミサイルと超音速の雄風Ⅲ対艦ミサイルのランチャーを各8基装備しており、現在より大型ではあるが運動性が悪く、より高価なフリゲートや駆逐艦が実施している任務の多くを代わって実施することを企図している。実際の北京との紛争の場合、コルベットはより大型で装備がより優れた敵に対抗する台湾の能力を高めるだろう。これは非対称戦として知られる概念である。
(2)コルベット、高速機雷敷設艇及び潜水艦建造は我々が独自の艦艇を建造でき、海軍力の新時代を切り開くことができることを証明する。沱江級ミサイルコルベット1番艦は2021年に就役させることができると考えられ、機雷敷設艇もまた同年に準備が整う」と蔡英文総統は言う。台湾は近年、自らの装備を開発することによって高まる中国の脅威に対抗しようとしてきている。北京の2019年の軍事予算は台湾の16倍である。過去3年以上、蔡英文は台湾の軍事力拡張を優先してきており、天弓Ⅲ型地対空ミサイル、雄風Ⅲ型超音速対艦ミサイルのような兵器の生産を加速するよう中山科学技術研究院に命じている。台湾はまた、CM-34雲豹8輪装甲車の2020年に量産に入ると考えられ、2023年までに284両の生産を目指している。試作車4両は5月27日から31日に行われる漢光演習35号に参加すると考えられている。
(3)国家政策研究基金会の安全保障研究員揭仲は、中台の軍事予算には大きな差異があるので台湾は中国との軍事拡張競争にかかわらず、軍の革新に向かわなければならないと述べている。「台湾は非対称防衛戦略を構築しなければならない。例えば、沱江級ミサイルコルベットを取り上げてみたい。同級は高速、ステルス機能、小型、そして強力な攻撃力によって、台湾海岸近傍のどこにでも配備でき、敵艦船を排除するために迅速に行動に移ることができる。同じように高速機雷敷設艇は迅速に機雷を敷設し、敵が海岸を攻撃することを非常に難しくする」と揭仲は言う。
記事参照:Taiwan begins mass production of home – grown missile corvettes, minelayers

5月28日「米国の対中政策策定に当たって留意すべき3つの疑問―米専門家論説」(PacNet, Pacific Forum, CSIS, May 28, 2019)

 5月28日付の米シンクタンクPcific Forum CSISの週刊デジタル誌PacNetは、米シンクタンクThe East-West Center上席研究員Denny Royの“US Strategy Toward China: Three Key Question for Policy-Makers”と題する論説を掲載し、Denny Royは中国の台頭に伴うリスクから自国を守るための米国の戦略の成否は3つの基本的な疑問に対する答え如何にかかっているとして、米国の対中政策決定者が政策策定に当たって留意すべき3つの疑問について、要旨以下のように述べている。
(1)第1の疑問は、「中国は地域覇権を目指しているのか」ということである。
a.覇権の条件は能力と意図を共に必要とする。覇権への能力とは、米国が地域諸国に米国寄りの姿勢を強要し得る以上に、中国がこれら諸国に中国の方針に従うよう強要し得ることを意味する。このことはまた、中国が対峙する地域において米軍の軍事行動を阻止するに十分な軍事力を配備し得ることも意味する。アジア太平洋地域の大部分の国において中国が最大の経済的パートナーであるということは、軍事力の増強と近代化に向けての中国の確固たる決意と相まって、もし現在の傾向が続くなら、およそ一世代の内に、中国をこうした覇権能力を獲得した容易ならざる競争相手とするであろう。軍への投資資源や景気停滞などの不確定要素があるが、賢明な戦略立案に当たっては、中国が大国としての能力を獲得する可能性を視野に入れておくことが必要である。
b.一方、覇権への意志は、国際関係における多様な問題対処に当たって、地域諸国の多数意見に、あるいは国際社会の大半が支持する取決めに反して、狭隘な自己利益に資する結果を強要しようとする、北京による試みとして現れるであろう。強力だが、覇権への意志を欠き、広く受け容れられた国際的な規則や規範を遵守する中国は、米国の脅威とはならないであろう。中国が覇権への意志を示しているかどうかは論議のあるところである。もちろん、中国政府は繰り返しこれを否定し、米国の一部もそう見ている。しかしながら、Trump政権は、北京が「自らに有利に地域を再編し」、米国の影響力を排除しようとしていると見、中国の覇権意志を明確に認めている。
(2)もし中国が地域覇権に向かって前進していることが確かなら、第2の疑問は、「アジア太平洋地域における中国の覇権によって想定される米国の国益に対する侵害は、覇権阻止のために米国が投入しようとする代価を正当化するか」ということである。
a.この疑問は我々に、アジア太平洋地域における同盟体制と前方展開態勢の終焉を含む、この地域からの米国の戦略的撤退の結果を想定することを求める。想定される答えの1つは、中国は、活発な国際貿易体制に利益を有するが故に、この地域において米国がビジネスを継続するのを阻止しないであろうということである。しかも、もしアジア太平洋地域が中国の覇権下にあったとしても、米本土の安全保障に対する脅威は高まることはないであろう。何故なら、中国がこの地域を自らの影響圏としているが故に、米中両国はもはや、台湾、南シナ海そして尖閣諸島などの域内の発火点で戦うこともないであろう。北朝鮮の核兵器も中国の問題となろう。米国はもはや、現在の同盟国を守ることはできないし、ワシントンがこの地域の管理を中国に委ねるなら、域内に同盟国を持つ必要性もなくなるであろう。従って、こうしたことを考慮すれば、米国が毎年何十億ドルもの必要な追加コストを投入し、台頭する中国との絶え間ない緊張に苦慮するより、むしろアジア太平洋地域における戦略的に卓越した地位から退く方が良い、と主張することも可能である。
b.これと正反対の答えは、この地域における比類なき影響力によって米国が得られる利点はこうした影響力を維持する代価に勝るということである。控えめに言っても、北京は、米国がコミットしている自由主義の価値を推進しているわけではない。実際、Trump政権は、世界を権威主義的支配者にとって好ましいものにしようとするのが中国政府の狙いであると批判している。米国が地域秩序の提供者としての役割を果たす経費と、それによる見返りを数量化することは難しい。米国の卓越性の維持を主張する者は、米国の影響力がなければ拡大し、最終的にはより一層高いコストで軍事介入を余儀なくされることになりかねない、この地域の軍事紛争を阻止し、あるいは局限化する上で、米国の卓越した地位が役に立つと論じる。
c.では、アジア太平洋地域における米国の同盟諸国は米国の戦略的撤退にどう対応するか。もしこれら諸国が、自国の防衛により多くの資源を投入するとともに、中国の地域支配の可能性を阻止し、そして自由な国際秩序を支持し続けるために団結することによって、米国の失われたコミットメントを補うことが期待されるなら、ワシントンは、この地域における死活的な利益を余り損なうことなく、地域的卓越の座から下りることができるであろう。しかしながら、域内諸国が、カンボジアと日本を両端として、程度の差はあれ、中国と協調していくことはあるであろう。
(3)以上の議論は、3つ目の疑問、すなわち「米国の安寧を大きく損ねることになるような中国の地域支配を阻止するために、最も効果的な米国の戦略はどのようなものか」に対する答えを導く。即ち、戦略の目標は、過剰負担になることなく、死活的な利益を守ることである。
a.以上で見てきたように、予測可能な地域秩序の態様には、(a)中国が地域覇権を求めない、あるいは求めることができない、(b)域内諸国による高圧的な中国へのバンドワゴニング、あるいは中国の行動を牽制するための能力強化、(c)米国の利益を大きく損ねる中国の覇権と、基本的に米国の利益と協調する中国の覇権、(d)米国経済の中期的な強さに大きく左右されるが、米国民にとって受容可能な、あるいは受容不能なアジア太平洋における国際主義的政策などが含まれる。したがって、米国の可能な戦略は新孤立主義から卓越性を回復するためのオフショアバランシングまで、多様なものとなる。
b.重要なことは、競争するかどうかというワシントンの決定も、予測することはやや困難ながら、中国の行動に影響を及ぼすということである。もし北京が中国覇権への道を困難であると認知するならば、中国はおそらく、一層慎重に振る舞うであろう。もし米国がこの地域における前方展開態勢と安全保障コミットメントを断念するなら、周辺地域(の戦略環境)が中国に及ぼす脅威は大幅に低下するであろう。北京は、強い中国が近隣小国にとって平和的で公正なものになろうという、中国指導部の誓約を果たす機会を得ることになろう。しかしながら、大国の歴史というものは、北京が返還後の香港でやってきたように、束縛されない中国がこの地域を同じように扱うであろうという可能性が高いことを示唆している。
(4)現在までのところ、米国は、地域の警官としての役割を維持している。Trump政権は、米国の軍事出費を減らしておらず、またこの地域における米国の同盟体制も放棄していない。それにもかかわらず、米国覇権維持のコストを高めるより強い中国とともに、米国民が本国における「国造り」の必要性に益々気付きつつあることから、西太平洋における過去数十年に及ぶワシントンの戦後外交政策は、再評価を余儀なくされており、戦略家に基本的な疑問を改めて問い直すことを求めている。
 記事参照:US Strategy Toward China: Three Key Question for Policy-Makers

5月29日「中国のシーパワー、その戦略的文化と海洋戦略―英専門家論説」(Asia Maritime Transparency Initiative, CSIS)

 5月29日付の戦略国際問題研究所(CSIS)Asia Maritime Transparency Initiativeは、University of Cambridgeの准研究員でKing’s Collegeの研究員であるC. J. Jennerの“Facing China’s Sea Power: Strategic Culture & Maritime Strategy”と題する論説を掲載し、ここでJennerは中国の戦略的文化などについて要旨以下のように述べている。
(1) 「顔」(編集注:ここでは「対外的に見せる性格」といった趣旨で使用されているものと思われる)は中国の対人関係、外交そして海洋戦略において大きな意味を持つ。中国共産党は13億5000万人を統治し、地域において更には世界において中華帝国の地位を復権させる義務を約束する上において成り立っている。もし今、南シナ海における領有権を他の小国に奪われることがあれば、中国共産党の政治的存続意義は不安定なものとなる。中国はその作戦戦略文化として、相対的な力が有利になれば高圧的になる傾向がある。それに基づき、中国は専横的な海洋戦略を策定してきた。現在の中国の戦略を理解するためには、鄧小平と劉華清の構想と理論を知る必要がある。鄧小平は、中央軍事委員会を統率し1974年にベトナムから西沙諸島を奪う指揮をとった。人民解放軍海軍司令官であった劉華清は鄧小平から中国の海洋戦略策定を任され中国のシーパワー確立を図った。米国防情報局によれば、劉は中国の軍事関連研究開発、技術買収、装備の近代化に関する卓越した人物として扱われている。その劉が、1990年代後半まで中国の海洋戦略とシーパワーの構築に携わっていた。
(2) 1975年の中央軍事委員会において、鄧は人民解放軍の人員過剰、怠惰、傲慢、装備不足を指摘したが、1978年から91年に掛けての第3次インドシナ戦争におけるベトナムへの侵攻において、その実態を露呈することになった。「顔」と何千もの兵員の損失が、鄧と劉を人民解放軍海軍の近代化に駆り立てることになった。劉は中国の海軍戦略と海軍力を見直し、鄧は近代戦を遂行し得る海軍力による「近海防御戦略」の構築を指揮した。劉は、「人民解放軍海軍は中国の経済近代化を確保し太平洋地域における大国として成長するための歴史的使命を担っている」と述べている。劉は、1980年代中期までに「近海防御」のための海軍戦略構想を確立し、中央軍事委員会と人民解放軍総参謀部は1987年にそれを新国家海軍戦略として公表した。直後の1988年、劉の率いる人民解放軍海軍は南シナ海でベトナム海軍と戦闘、鄧は中央軍事委員会主席として新たな戦略による勝利を称えた。その後、人民解放軍海軍はその力を増強し、より攻撃的な姿勢を示していく。鄧と劉は、人民解放軍海軍を毛沢東による防御主体の戦略から解き放ったのである。
(3) 中国国防大学の海軍コースでは、「海上戦闘において作戦目標を達成するためには、攻撃的手段で敵艦艇等を撃破することが求められる。攻勢的作戦の遂行によって戦闘場面のイニシアティブをとることができる」と教示している。中国海軍力の攻撃的な姿勢は、戦時のみならず平時においても局面を支配することを可能とするだろう。中国は海軍作戦の50%を1995年から2014年まで20年間における南シナ海での領有権紛争に割いてきたとの統計がある。この先制的な軍事展開は、2003年に採択された世論戦、心理戦、法律戦からなる「三戦」の先にあるものとして捉えることができる。
(4) 1988年、鄧と劉は人民解放軍海軍の発展目標として以下の3点を挙げている。
a. 2000年までに第1列島線までの海洋権益を守る海軍力を確立する。
b. 2020年までに第2列島線までの「近海」における海洋権益を守る海軍力を確立する。
c. 中華人民共和国建国100年に当たる2049年までに空母機動部隊の展開能力を可能とし、地球規模での国益確保を実現する。中国の海軍力近代化と近海への軍事力展開は、鄧小平と劉華清による中国のシーパワーの実践を基礎として成り立っている。
記事参照:Facing China’s Sea Power: Strategic Culture & Maritime Strategy

5月30日「デンマークとロシアと同じくカナダも北極を含む大陸棚延長を主張している―環北極メディア協力組織報道」(Arctic Today.com, May 30, 2019)

 5月30日付の環北極メディア協力組織ARCTIC TODAYのウェブサイトは、“Like Denmark and Russia, Canada says its extended continental shelf includes the North Pole ”と題する記事を掲載し、北極海に関するカナダの大陸棚延長の主張について、要旨以下のように報じている。
 (1) カナダの2100ページに上る申請書には、議論となっているロモノソフ海嶺と北極が含まれている。カナダは、先週、大陸棚延長の申請書を大陸棚限界委員会に提出した。この申請書は北極海と北極を含む46万平方マイルをカバーしている。ロシアとデンマークもそれぞれの申請書において北極海と北極点を含めている。「大陸棚を決定することは、主権を確定し北極地方の原住民を含むすべてのカナダ国民に利益を提供する上で重要である」とカナダ外相Chrystia Freelandは述べた。
(2)国連海洋法条約においては、沿岸国は領海基線から12海里までの海域で主権を有し、海岸から200海里までの海域について排他的な経済的、環境上の権利を有している。しかし海底の特徴が大陸棚の延長であることが証明できる場合、国は200海里の限界を超えて管轄権を求めることもできる。
(3)申請書を提出するためには、沿岸国は、海山や海嶺など海底の地質上及び地理上の特徴が実際に大陸棚と関連があるという科学的根拠を提出しなければならない。カナダは、マルチビーム水深測定、反射地震探査、その他の技術を使用し、北極海で17回調査活動を行い、データを収集した。カナダはしばしばデンマーク、スエーデン、アメリカ、ドイツと協力して、この活動を行った。このデータを含めた申請書は2100ページに上るものとなった。
(4) デンマークやロシアと同じく、カナダも北極海を横切ってニューシベリア諸島からエレスメア島まで1100海里伸びているロモノソフ海嶺を申請書の内容に含めている。申請書では、この海域の科学的調査やその他の特有の活動の有効性だけでなく、海床の天然資源と大陸棚の底土に関する権利をカナダが持っていることを国際的に認めることを要望している。ロシアは2001年に申請書を提出し、その後要求事項を追加した。ノルウエーは2006年に、デンマークはグリーンランドに関する申請書を2014年に提出した。「カナダが数年前に北極を申請書に含めることを決定した時、特に驚かなかった」とUniversity of New Hampshireのthe Center for Coastal and Ocean Mappingセンター長兼米国極地調査委員会委員のLarry Mayerは述べた。ロシア、デンマーク、カナダは北極点を申請書に含めている。「だがそれはたいしたことではない。沿岸国が互いに権利を主張する時は、必ず重複部分が出るものだ。このような申請書で重複部分がある場合、通常、委員会はそれを考慮しない。しかし、この場合では、3つの国が委員会に、『先入感なしに』すべての申請書を審査し、どの国が要求のための科学的根拠を持っているかを検討することを求めている」とLarry Mayerは語った。
(6)大陸棚の限界を決定することは、領海など海洋の境界を決定することとは異なっている。しかしこの過程は、合意に至る重要なステップである。Larry Mayerは「これらの申請書は『主張』と呼ぶべきではない。なぜなら、すべての沿岸国が国連海洋法条約に基づき自国の大陸棚の限界を決定する権利を持っているからだ。それは各国の固有の権利である」と述べた。特にカナダは、国連海洋法条約に参加している国よりも、この条約を批准していないが自国の大陸棚について関心を持っているアメリカなどの「国」と「沿岸国」に言及している。
(7)各国の申請書の中の科学的根拠を評価するには、時間がかかり複雑な作業が必要となる。カナダは10年以上前から申請書作成に関する作業を開始した。大陸棚限界委員会が評価を出すには、もう10年かかるであろう。しかし急ぐ必要はないと専門家は言う。気候変動により北極航路が開設されるようになったが、専門家たちは北極周辺海域における厳しい環境で探査されることとなる自然資源の豊富さを重視している。その代り、重複部分の主張は、より「象徴的な」ものとなるであろう。
(8)カナダのイヌイット極地委員会は、カナダ政府が申請書に北極点までを含めたことを賞賛した。「イヌイットは、海氷を地図に書かれた国境を越えたハイウエーとして、また食物の保存のため使用している。これはカナダと交渉していく意思を持つ我々の共同体とイヌイットの未来に関する重要な決定だ。」とカナダのイヌイット極地委員会会長Ell-Kanayukは声明で述べた。
記事参照:Like Denmark and Russia, Canada says its extended continental shelf includes the North Pole

5月31日「米中対立:ASEANの「中心性」は衰退するのか?-シンガポール専門家論説」(RSIS Commentary, May 31, 2019)

 5月31日付のシンガポールのThe S. Rajaratnam School of International Studies (RSIS)のウェブサイトRSIS Commetaryは、同所シニアフェローのYang Razali Kassimの“US-China Conflict: Will ASEAN Centrality Be Derailed? ”を掲載し、ここでKassimは、米上院で提出された「中国制裁法案」が米中対立を安全保障面にも拡大させ、ASEANの「中心性」(抄訳者注:EAS、ARFなど各種の多国間枠組みをASEANが主体となってリードして来たことを指す概念)にも影響を及ぼすことになるとして要旨以下のように述べている。
 (1)2019年5月23日、米上院でいわゆる「南シナ海及び東シナ海裁法案」が再提案された。提案者である14人の超党派議員グループは、この法案が「南シナ海、東シナ海で周辺国を侵害し、威嚇する中国」の行動を牽制するものだと述べている。この法案は「これらの紛争地域で積極的に海上および領土の主権を表明する違法な活動に従事する中国の個人または団体に対して制裁を課すもの」とされている。このことは、共和党と民主党がその対立にも係らず、南シナ海における中国の陸海空の領域拡大を中断させるべく一致団結したという明確なシグナルを送るものでもある。米中貿易戦争が悪化する中、この「制裁法案」はTrump政権下で、より過激な米国の覇権への挑戦者として台頭しつつある中国との間でその意志を試す新しい段階を示している。
 (2)この法案が最初に提出された2017年以来、Trump政権下では大国間の貿易経済の緊張関係が政治上、安全保障上の衝突を生じ、あるいは近い将来そこまで発展する可能性があることを示唆している。南シナ海を引火点とするインド太平洋地域において、この法案はASEAN諸国にとって、中国との海上紛争におけるターニングポイントとなるのだろうか?この法案はASEANを支持しているように見受けられる。最近の米国の北京への圧力強化の動きは、南シナ海における中国の拡張主義に対するASEAN諸国の懸念とも一致している。
東南アジア諸国は「(南シナ海における)歴史的水域」という中国の主張を懸念してきた。その主張は国際社会に対する政治的、法的挑戦でもあるが、中国はその点は全く気にもしていないようである。米上院の法案は、中国の領土奪取に対する巻き返しを軍事紛争へと拡大させる可能性がある。
 (3)しかし、この法案にはASEAN諸国を懸念させる反作用の側面もある。例えば、この法案は中国の反撃を誘う可能性が高い。中国がそうした動きに出た場合、ASEANはより分裂的状況に引き込まれるだろう。すべてのASEAN加盟国が、米国を域内における中国への対抗者として歓迎しているわけではない。また、敢えて言えば、米上院の法案は実際には時代の流れから少し外れてもいる。何故ならば中国は現在、「良い隣人」の軌道に乗りつつあり、東南アジアの係争海域は小康状態にあるからである。中国はこれまで南シナ海行動宣言(DOC)について語る以外、何もしないことでASEANをいらいらさせてきたが、最近では、停滞していた南シナ海行動規範(COC)取りまとめに向けた協議を進めている。したがって、米上院法案の1つの可能性としては、南シナ海問題の中国の立場の主張がクレイマント国に対し再び強化されることであり、これはASEANの 4カ国のクレイマント国との交渉を再び複雑にすることになるだろう。
 (4)また、米上院法案は同海域の引火点を復活させることにもなる。これは中国の「一帯一路」構想(BRI)が将来の経済成長への拍車と考えるASEAN諸国の中国との経済的関係に影響する可能性がある。中国がこれを自国のプロジェクトへの妨害と捉え、報復する可能性があるということである。これらすべてはASEANにとって望ましくはない。したがってASEANは生き残りのための戦略を再構築し、「ASEANの中心性」として知られるバランスの取れた行動に再び頼らなければならないだろう。対立するパワーを中立的な基盤に収束させるためのプラットフォームはそう多くはない。そしてASEANは、長年の巧みな外交によって競争力のある大国もグローバルなパワーゲームにおいて彼らが有用と考える地域的枠組みに関与させることに成功しており、そのことがASEANの存在意義を高めている。 緊張が高まっている現在、ASEANの戦略は「ASEANの中心性」を通じてオープンで包括的であり続けることで、すべての関係国にとって、より「中心的」なものとなることである。
 (6)しかし、その基本的な前提は、強く統一された結束性のあるASEANということである。 平時または不安定な時代の地域枠組みは、競合する外部勢力への忠誠心による内紛のために引き裂かれるのを防ぐ必要がある。ASEANの「中心性」を強く主張するシンガポールのBalakrishnan外相は「我々は別々の旅で異なる別のバンドワゴン(抄訳者注:ここでは米中いずれの陣営に属するかという趣旨で使用されている用語)に分割されるであろうが、それでも我々はこの統合の旅を続けるだろう」と述べている。
 (7)先に述べたような事態を生起させないためには、ASEANを外部から動かすような方向性を取るべきではない。一方、この地域から大国のパワーを排除するべきでもない。大中小を問わず全てのパワーがASEANの主導するテーブルの上に存在することが望ましい。米中それぞれが優位に立つべく、南シナ海におけるこのような問題は必然的に議論され続けることになるでしょう。 21世紀の決定的問題であるアジア太平洋地域の大国間の覇権争いは、米国国防長官代理と中国国防相が出席するシャングリラ・ダイアローグにおいても焦点となるに違いない。そうした中にあってASEANは、自身のために、また、地域のバランサーあるいは地政学的な建築家としての影響力ある地位を衰退させず、さらに確固たるものにしていかなければならないであろう。
記事参照:US-China Conflict: Will ASEAN Centrality Be Derailed?

【補遺】

旬報で抄訳紹介しなかった主な論調、シンクタンク報告書
(1) Toward a Shared Alliance Strategy in a Contested Indo-Pacific: A View from Australia
https://www.nbr.org/publication/toward-a-shared-alliance-strategy-in-a-contested-indo-pacific-a-view-from-australia/
The National Bureau of Asian Research, May 21, 2019
By Rory Medcalf , Australian National University
2019年5月21日、豪Australian National University のRory Medcalf教授は、The National Bureau of Asian Research(web版)上に、" Toward a Shared Alliance Strategy in a Contested Indo-Pacific: A View from Australia "と題する論説記事を発表した。その中で彼は、米中の包括的な競争が激化する中で、米国は、極めて重要な同盟国であるオーストラリアが、新たな厳しい安全保障環境との折り合いをつけようとしていることを理解する必要があるとした上で、中国がインド太平洋地域に確固たるポジションを求めている中、米国とオーストラリアは、同盟関係がこうした新たな衝撃に耐え、持続的な戦略的競争に適応できるよう微調整されていることを保証しなければならないと述べている。そして、特に米国は、オーストラリアが中国の力を抑止するために米国が現在とっているあらゆる措置を自動的に理解し、同意するとは考えないほうが良いと述べ、その理由として彼は、オーストラリアは中国によるこの地域の支配を阻止したいと考えているが、どのような手段を用いて(訳者注:中国を)押し戻すかについては選択的になるからだと主張している。
 
(2) China in US ‘s Adversarial Crosshairs in 2019 -Contours visible
http://www.southasiaanalysis.org/node/2467
South Asia Analysis Group, May 21, 2019
Dr Subhash Kapila, Fellow at South Analysis Group
2019年5月21日、印シンクタンクSouth Analysis Groupの研究員Subhash Kapilaは、同シンクタンクのウエブサイトに“China in US‘s Adversarial Crosshairs in 2019 -Contours visible”と題する論説を寄稿し、Donald Trump大統領は、中国が米国の世界的・地域的影響力を弱体化させることに従事していると語った。2019年の中国に対する米国の方針を定式化するのに最もふさわしい用語は、「好戦的関与」(Combative Engagement)であり、2019年の米国は世界的にもアジア地域においても中国に対する「経済戦争」に積極的に従事している。アジアの国々は、米国が中国に対する方針を転換し、インド太平洋地域における安全保障の究極の提供者という伝統的な役割の掌握を取り戻すことを期待していた。イラン石油禁止措置もイランに対する制裁と同時にイラン石油に大きく依存している中国に対する経済的武器とみることができる。パキスタンに対する軍事援助削減という締め付け強化も中国に対する経済戦争の一部として考えることができる。米国による地経学(geoeconomics)の行使、中国の経済成長率の低下、製造業の強みの弱体化、そして、債務不履行に陥る債務の罠に囚われる国々、これら全てが最終的には中国経済の活気の喪失となって中国国内の不満につながる。米露が対立する状況を利用して中国は台頭したが、米国は最終的に中国を主要な競争相手として認識し、本格的な軍事的封じ込めではないにせよ、現在米国が始めていることは、全領域において中国を打ち負かすことである、などと主張した。
 
(3)Japan Considers a New Security Relationship Via “Networking” with Taiwan
https://jamestown.org/program/japan-considers-a-new-security-relationship-via-networking-with-taiwan/
China Brief, The Jamestown Foundation, May 29, 2019
Howard Wang, the China Program Assistant at the Jamestown Foundation, and an M.P.P. candidate at Georgetown University’s McCourt School of Public Policy
2019年5月29日、米シンクタンク「ジェームズタウン財団(Jamestown Foundation)」で中国問題を担当するHoward Wangは、China Brief(web版)に、" Japan Considers a New Security Relationship Via “Networking” with Taiwan "と題する論説記事を発表した。ここでWangは、最近、日本が国際社会における台湾の地位に関して台湾を後押しするような態度を顕著にしていることを取り上げ、しかし、こうした日本の台湾に対する態度は、日中関係の悪化が必然的に引き起こしたものであり、日本と中国の関係性は、安倍晋三首相が日中関係を「完全に元の道に戻った」と表現する一方で、領土紛争を背景とする緊張や軍事的不均衡の拡大が未解決のままになっていると指摘している。さらに彼は、台湾に関連する議題、より高レベルの日台間の軍事的協定、日本版「台湾関係法」の制定、台湾との正式な安全保障同盟など多岐にわたると指摘した上で、これらのアプローチはいずれも、人民解放軍が軍事的脅威を増大させているという共通の前提に立っているが、日本は人民解放軍とのバランスをとるために連合軍を結成する必要があるし、その最大のパートナーは台湾であると主張している。