海洋安全保障情報旬報 2019年5月11日-5月20日

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5月11日「全世界的に拡大する中国の港湾―米研究者論説」(The Diplomat, May 11, 2019)

 5月11日付のデジタル誌The Diplomatは、George Washington Universityの博士後期課程大学院生Eleanor M. Albertによる“China’s Global Port Play”と題する論説を掲載し、ここで Albertは、近年中国による港湾開発への投資が進められていることについて、それが経済的領域及び国家安全保障に関わる領域においてどのような意味を持つかについて要旨以下のように述べている。
(1)今年4月、香港を拠点とするOrient Overseas International Ltd.(OOIL)は、カリフォルニア州ロングビーチにあったコンテナターミナルを18億ドルで売却すると発表した。このニュース自体は一過性のものであるが、これが明らかにしたのは、中国の港湾建設計画が全世界的規模のものだということである。中国による港湾建設や投資に関しては、スリランカのハンバントタやパキスタンのグワダルなど、途上国におけるものに集中していたと見られてきたが、現実的にはそれだけではなかった。
(2)地域外の港湾に対する投資は、習近平国家主席が一帯一路構想を打ち出す以前から行われていたが、それが本格化するのは、やはりそれ以降のことである。そのキープレイヤーは2つの国有企業(China Merchants Port Holdingsと、OOILを2017年に買収したChina Ocean Shipping (Group) Company・COSCO)である。たとえば2013年に前者は商用コンテナターミナル運営会社TERMINAL LINKの株式49%を取得し、フランスやベルギー、アメリカなどにおけるターミナル運営に関わることになった。また2018年に同社はサンパウロにあるブラジルで最も利益の大きいターミナルであるTCP Participaçõesの株式90%を取得した。COSCOも2016年にはギリシアのピレウス港の株式過半数を取得し、地中海第二位の港湾へと復活させたし、それ以外にもヨーロッパでさまざまな港湾のターミナルの株式を保有している。2018年にはペルーとの間に港湾建設・運営に関する20億ドルの契約を締結した。
(3)西側諸国には、中国の海上の影響力拡大を抑制する手段がある。たとえば米国の「米国における外国投資に関する委員会」(CFIUS)は外国の投資による国家安全保障への影響について調査する省庁間機関であるが、それは近年中国からの投資を厳しく精査している。EUについても、加盟国それぞれが外国からの投資を調査する機関を保有しているが、EU全体として外国からの投資を検証するという新たな枠組みに関する合意が成立し、2019年に発効することになっている。このように、アメリカやEUについては、ペルーなど発展途上国に比べると、中国との関係においてパワーバランスが維持されている。
(4)中国による港湾開発・運営への投資は、GDPに貿易が占める割合が37%にものぼり(2017年)、その輸送路の大部分が海路である中国にとって経済的に重要なものであった。しかしその影響は経済的領域にとどまるものではない。言うまでもなく港湾はデュアルユースの機能を持つ施設である。中国海軍は近代化を進めており、ジブチには最初の軍事基地を建設するなどの動きも見せている。現在のところ、ヨーロッパやアメリカ太平洋岸においてそうした露骨な動きは見られないが、中国の投資が中国政府からの後押しを受けて進められていることはわれわれに懸念を残す。金に関することすべてに言えることだが、投資側が影響力を行使する可能性が常にあるのだ。中国がそうした影響力を行使するかどうか、どこで、いつそれを行使するか、今後どうなるかはわからない。
記事参照:China’s Global Port Play

5月11日「米国とCOFAの関係の再定義―米専門家論説」(The Diplomat, May 11, 2019)

 5月11日付のデジタル誌The Diplomatは、米the Johns Hopkins University School of Advanced International StudiesのDepartment of Southeast Asian Studies研究員Michael Walshの“The United States Needs a COFA Strategy”と題する論説を掲載し、ここでWalshは米国が自由連合盟約(Compacts of Free Association, COFA)との関係を再定義するために再交渉を始めるべきとして要旨以下のように述べている。
(1)数十年もの間、米国はマーシャル諸島共和国、ミクロネシア連邦及びパラオ共和国と自由連合としての特別な関係を維持してきた。これらの特別な関係は、自由連合盟約と呼ばれる国際協定によって生まれた。この国際協定の下で、これらの自由連合諸国は、自らの外交を行う権限を有する主権国家として認められている。しかし、米国は彼らの防衛と安全保障に対して権限をもっている。それとは別に、それらのほとんどの市民は、米国の特別な種類の移民特権を得る権利と、米国の軍隊で軍務に就く権利をもっている。さらに、米国は2023年までパラオ共和国、2024年までマーシャル諸島共和国、そして2024年までミクロネシア連邦へ経済的援助を提供する義務を負っている。
(2)今後数年間で、米国はこれらの特別な関係の条項を再交渉し始め、関係を以下のように再定義するべきである。
a. 第一に、行政機関は、National Free Association Strategyを策定し、国家安全保障戦略の戦略的ビジョンを達成するために、米国政府全体で実施すべき活動の全範囲を調和させる単一の協調的取り組みを示すべきである。
b. 第二に、行政機関は、National Free Association Strategyを実行するためのガバナンスモデルを確立する必要がある。このガバナンスモデルは、米国政府全体にわたる自由連合活動の全範囲を調整するための専用のメカニズムを確立する必要がある。
c. 第三に、行政機関は、自由連合活動に関する包括的な政策を確立する必要がある。この方針は、責任を割り当てるだけでなく、自由連合パートナーの団体との自由連合活動の実行のための手順を規定するべきである。
d. 第四に、執行機関は、それらの委任統治下に入る自由連合活動に関する具体的な政策を確立する必要がある。これらの政策は、国家安全保障戦略とNational Free Association Strategyに一致させるべきである。
(3)行政機関がこれらの戦略的投資を行う際は、米政府はそれが自由連合国に提供する経済的及びプログラム的支援を再交渉するためにより良い立場にあるだろう。これはまた、関連する大使たちと国別のチームを、それらの各海外での地位において、二国間の政策目標とプログラムの優先事項を決定するためのより良い立場に置くだろう。
記事参照:The United States Needs a COFA Strategy

5月13日「三沙海事局、2.300万ドルで新たな海巡船を発注。西沙諸島哨戒のため-香港紙報道」(South China Morning Post, 13 May 2019)

 5月13日付の香港日刊英字紙South China Morning Post電子版は、“South China Sea: Beijing unveils US$23.5 million contract for coastguard ship to patrol Paracel Islands”と題する記事を掲載し、永興島にある三沙海事局が新たな法執行を行う船舶を発注したとして要旨以下のように報じている。
 (1)永興島にある三沙海事局は、武昌船舶重工業集団に三沙海事局隷下で法執行に当たる船舶(以下、海巡船と言う)を2.300万ドルで発注した。新海巡船は、1,900トン、乗組員50名、巡航速力18ノット、最大速力22ノット、航続距離6,000海里で西沙諸島の哨戒を担任している三沙政府は、2016年に策定した5カ年計画で海上法執行部隊を1隻から20隻に拡充するとしている。新海巡船は係争中の南シナ海へのコミットメントを強化する戦略とアナリスト達が呼ぶものの中で、人民解放軍海軍以外のプレゼンスを拡大するという北京の努力の一部である。
(2)米海軍作戦部長Richardson大将は、中国海警は「航行の自由作戦」の実施を複雑なものとしてきたと述べている。米国あるいは他の主要国によるその種の行動は南シナ海にまたがる安定を損なうものであると北京は述べている。
(3)中国は、対立する海域における「洋上で不慮の遭遇をした場合の行動規範(CUES)」について、動きは遅々とはしているがASEANと作業を行ってきた。5月13日、マレーシア外相Saifuddin Abdullahは中国の南シナ海に対する主張は「少々極端に走り過ぎ」であり、2国間合意の代わりにASEANを通じて中国の主張に対応していくと述べた。Malay Mail紙は「我々は常に北京に対し、南シナ海問題はグループレベルで討議すると伝えてきた。それは必ずしも厳密なものではないかもしれない。しかし、マレーシアが懸念する限り、討議はグループで行わなければならない」と外相発言を引用している。中国社会科学院高級研究員の徐麗萍は、中国は南シナ海問題についてグループ討議と2国間協議の両面から取り組んできたと言う。「グループとしてのASEANとの協議は地域の安定と平和を確実にするものであり、2国間協議は係争中の島嶼の領域主権問題に取り組むものである」と徐麗萍は述べている。
記事参照:South China Sea: Beijing unveils US$23.5 million contract for coastguard ship to patrol Paracel Islands

5月13日「南シナ海における『ミニラテラリズム』の限界―米専門家論説」(The Diplomat.com, May 13, 2019)

 5月13日付のデジタル誌The Diplomatは、同誌編集責任者Dr. Prashanth Parameswaranの“South China Sea Minilateralism: Between Opportunities and Limits”と題する論説を掲載し、Parameswaranは南シナ海における「ミニラテラリズム」(小規模多国間主義)の有用性を評価しながらも、その限界について、要旨以下のように述べている。
(1)米国、日本、インド及びフィリピンは、5月初めに南シナ海で4カ国海軍合同によるプレゼンス誇示演習を実施した。こうした演習はインド太平洋地域諸国間に見られる南シナ海におけるミニラテラルな諸活動を強化するものであるが、こうした活動は、進行中のより広範な構造的力学と関連付けた視点でとらえる必要がある。中国の近年における南シナ海での益々高圧的な態度は、程度の差はあれ、様々な正面で多くの関係各国の懸念を高めてきた。これら諸国には、北京との領有権紛争を抱えるブルネイ、マレーシア、フィリピン、台湾及びベトナムだけでなく、地域の安定や航行の自由などの諸原則に広範な影響を及ぼすが故に、米国などの域内外諸国も含まれる。こうした動向に対応して、南シナ海で進行中の状況に対処するために、関係各国によって、自国の軍事力を強化する中国との外交的協調関係を追求する、あるいは他の有志諸国とのプレゼンス誇示行動を含む協同行動を実施するなど、広範な対応行動が見られる。
(2)これらの好事例が先述の5月初めの演習で、米第7艦隊の発表によれば、参加各国の6隻の戦闘艦は南シナ海の国際水域を通航しながら、陣形運動訓練、通信訓練、乗員及び指揮官の相互訪問などを演練した。ミニラテラリズムの視点からすれば、このような演習は、しばしば「4カ国枠組」(the Quad)が不必要に重視されている現状を是正するものであるとともに、インド太平洋地域において同じ利害関係を持つ諸国間による様々な態様のパートナーシップをより適切に重視していく上で有益である。アドホックな問題毎のミニラテラルな諸活動は、時に当該問題に関する重要な意思表示となり得るとともに、特に南シナ海のような環境下では、それ自体が有用性を発揮する。
(3)とはいえ、我々は、南シナ海におけるミニラテラリズムの重要性を過小評価すべきではないが、一方で過大に評価すべきでもない。
a.第1に、そして最も明白なことは、明白に中国優位の軍事バランス、他国を犠牲にして自国の過剰な主張を押し通すための広範な諸活動を履行する強化されつつある中国の能力と意志、そして米国を含む域外諸国による行動と同様に、東南アジア諸国による今日までの行動も北京に代価を強いるに至らなかったことなど、今日の南シナ海で際立っている懸念されつつある構造的力学を、このようなミニラテラルな諸活動が変えられないことである。この点に関して、米国の「航行の自由作戦」や、より多くの関係国によるプレゼンスの示威などの行動が話題となるが、南シナ海を軍事化しようとする継続的な意志とともに、中国の南シナ海に対する全体的なアプローチは依然継続されている。
b.第2に、ここ数年、南シナ海において幾つかのミニラテラルな諸活動が実現したが、それらの成果は、依然控え目なものであり、また2016年の南シナ海仲裁裁定以降も中国の行動に変化がないことから、期待を下回るものでもあった。例えば、最近のプレゼンス誇示演習へのフィリピンの参加は注目された。しかし、このことは、Duterte政権によるフィリピンの南シナ海政策が、Aquino III前政権下のそれと比較して、同時に他方で中国とのリスクある関与を進めていることについての懸念を払拭するものではない。更に、南シナ海に関するミニラテラリズムによる控え目な成果は、ASEAN自体も様々な理由から、多国間協同に対する見方が分かれているからでもある。
c.第3に、そして最後に、これらのミニラテラルな諸活動は、南シナ海の関係力学における間違いなく唯一最大の変数、即ち米国の役割を巡る、この地域における継続的な不確実性という現実から目をそらせている。問題はTrump米政権の政策にある。Trump政権は、南シナ海における中国の行動に対するより厳しいアプローチと、頻繁な「航行の自由作戦」の実施、同盟国とパートナー諸国とによるプレゼンス誇示行動の重視、そしてRIMPAC演習からの北京の排除などのある種の限定的な代価強要措置などを含む、幾つかの有益な行動をとってきた。これらの行動は有効なものではある。しかしながら、こうした行動自体は、米国がどの程度まで南シナ海にコミットするのか、そして米国の外交政策全般、より特定すれば対中政策に関する広範な不確実性が見られる状況下で、ワシントンは現在、現政権の残りの任期においても直面するであろう、南シナ海問題に対処するための新たな持続可能な戦略を持っているのか、という根深い疑念を払拭するには不十分である。
(4)もちろん、以上の指摘は、南シナ海で進行中の動向に及ぼす効果という点で、プレゼンス誇示行動やその他の措置の重要性を否定したり、過小評価したりするものではない。しかしながら、我々が南シナ海に関係する個々の事象についてその都度注目し続けているが、関係国が現在及び将来においてとるであろう決定を左右し続けるより広範な地域の趨勢と関連付ける視点から、これらの事象を捉えることの重要性は強調されるべきである。
記事参照:South China Sea Minilateralism: Between Opportunities and Limits

5月14日「Type052Dミサイル駆逐艦2隻が進水、海軍増強続く。しかし、・・―香港紙報道」(South China Morning Post, 14 May 2019)

 5月14日付の香港日刊英字紙South China Morning Post電子版は、“China launches two new Type 052D destroyers as it continues drive to strengthen naval force”と題する記事を掲載し、中国が2隻のType052Dミサイル駆逐艦を進水させ、海軍の増強を続けているとしながらも、そのペースはやがて減速するとして要旨以下のように報じている。
(1)中国は、海軍の能力向上を継続するべく新たなType052Dミサイル駆逐艦2隻を進水させた。しかし、一部の研究者は、人民解放軍が今後、訓練と人員により重点を置くようになり、建造のペースが減速すると考えている。中国はType052Dミサイル駆逐艦を既就役、建造中を含め20隻保有していると米議会報告書は述べている。大連造船所では、アジアで最も進んでいるとされるType055ミサイル駆逐艦が建造された。2018年7月に2隻のType055が進水した際、アーレイ・バーク級駆逐艦66隻を擁する米海軍に対抗するため北京は海軍の増強と能力向上を求めていると考えられていた。
(2)軍事専門家は急速な艦隊の増強はまもなく減速するかもしれないと述べている。「これら新艦艇建造は習近平以前の指導者によって決定されており、習近平の軍改革が始まっていることから新艦艇の建造ペースは2019年にピークに達している」と北京を拠点に活動する周晨明は言う。周晨明はまた、鉄鋼のような素材が比較的廉価であったことがこの建造計画を加速してきたと述べている。また、香港を拠点とする軍事専門家・宋仲平は、人民解放軍はType051(旅大級)駆逐艦等の古い艦艇の除籍という現実的な問題を処理する必要があると言う。人民解放軍筋によれば、Type052C及びType052Dは中国の駆逐艦の主力となるが、米国のアーレイ・バーク級駆逐艦との間には依然ギャップがある。Type052Dもアーレイ・バーク級駆逐艦も世界で最も高性能なフェーズド・アレイ・レーダを装備している。しかし、Type052Dの垂直発射装置は64セルであるのに対し、アーレイ・バーク級駆逐艦は96セルで、その内60セルに対空ミサイルが装填されていると考えられている。
(3)「中国はさらに新しい艦艇を加えつつある。しかし、おそらくこれまでよりもゆっくりとしたペースで。同時に装備品の先進性に追いつくよう乗組員の操法訓練と部隊運用を強化しつつある」と周晨明は言う。中国のレーダーは対干渉性能により優れており、異なる電子機器を制御するより大きな互換性能を有すると宋仲平は言う。
記事参照:China launches two new Type 052D destroyers as it continues drive to strengthen naval force

5月14日「イランの脅威に懐疑的な米同盟国はTrumpの新たな要求に抵抗-米紙報道」(The New York Times, 14 May 2019)

 5月14日付の米紙The New York Timesは“Skeptical U.S. Allies Resist Trump’s New Claims of Threats From Iran”と題する記事を掲載し、Trump政権が強く主張する「新たなイランの脅威」という考え方に同盟各国は懐疑的であるとして要旨以下のように報じている。
 (1)イランは展開する米軍と米国の国益に対する脅威であるとしてTrump政権が戦争計画を策定しつつあると言われている中、5月14日火曜日、英軍関係者が国防総省の記者団に対し、イラク、シリアに展開する同盟国軍に対するイランの脅威の顕著な増加は見られないと語ったが、その数時間後、米中央軍司令部は異例の早さでこれを打ち消した。イスラム国との戦闘における米国主導の有志連合軍副司令官であるChris Ghika英陸軍少将は、展開する米国及び連合軍部隊にとって、イランの脅威が復活しつつあるという情報は信頼するに足るものではないと述べたのである。
 (2)Trump政権は対イランを旗印に同盟国を結束させ、世界的な支持を集めることを目的としているため、同政権ではめったに生じないような論争がこの問題を浮き彫りにしている。5月15日 水曜日、米国務省は、脅威の情報についてイラク当局が懐疑的な見方をしているにも係らず同国内の米国大使館及び領事館の一部退避を命じた。ワシントンは昨年、イランがレバノン、イラク、シリアのシーア派民兵による攻撃を奨励し、また、イエメンのフーシ派反政府勢力にミサイルを提供して、それら勢力がペルシャ湾で好戦的に行動できるようにするなど、中東において米国の国益を脅かす存在と述べた。また、これらは全てイラン軍が長年に亘って準備して来た措置であるとも指摘した。Ghika少将は「我々は彼らの存在を明確に認識しており、広範囲に亘り監視している」と述べる一方、これに続けて「イラクやシリアにおけるイランの支援勢力からの脅威は増加していない」と述べたのである。
(3) また、14日火曜日にはスペイン防衛当局が、今後の紛争におけるイランとの衝突を回避すべく、ペルシャ湾で行動中の米空母任務部隊に派出していたフリゲート艦を離脱させた。
欧州各国のみならず、米国の多くの諜報機関及び軍当局者も過去1年間の積極的な動きはテヘランではなくワシントンで発生したものだと指摘しており、国家安全保障問題大統領補佐官のJohn R. BoltonがTrump大統領を後押ししていると述べている。某米政府関係者は匿名を条件に、イランの脅威が増大したという新たな情報は「小さなもの」であり、Bolton補佐官が推進する戦争計画に値するようなものではないと述べた。また、 同関係者はTrump政権の経済制裁の最終的な目標はイランを米国との紛争に巻き込むことであるとも述べている。2018年5月以降、Trump政権はイランとの「核合意」から離脱、制裁措置を再適用し、同盟国がイランからの石油輸入かアメリカ市場における取引かの選択をするよう要求するとともに、イラン革命防衛隊を国際テロリスト集団として認定した。このようなイランに対する措置は同盟国の中でさえ疑念があり、それはかつてBoltonが部分的に主導し、Saddam Hussainが大量破壊兵器を保有しているとの誤った見解に基づき展開されたイラクに対するキャンペーンを想起させるものである。
(4)何人かの欧州各国政府関係者は個人的な見解としつつ、Mike Pompeo国務長官とBolton補佐官が、Trump大統領をして米国を戦争への道に向かわせることができる立場にあると述べている。Trumpは中東における軍事紛争への介入に消極的であることを隠さず、シリアからの米軍撤退を命じたが、一方で国務長官と国家安全保障補佐官はイランに対する最大限の強硬なアプローチを推進しており、特にBoltonはイランへの軍事攻撃を繰り返し求めている。先の政府関係者は、Trump大統領はこのようなBoltonのアプローチが戦争につながる可能性もあることを認識しているが、自分自身は海外の紛争から手を引く事が軍事的なエスカレーションを抑制する最も大きな希望であると考えているようだと述べている。
 (5)Trump政権はイランが米軍を攻撃したり核兵器の開発を加速させたりした場合、12万人規模の兵力を中東に派遣する計画を検討しているとThe New York Timesは報じたがTrumpはこれをフェイクニュースであると否定した。ただしTrumpはこれに続けて「もしもそのような事態になれば、我々はそれよりもはるかに多くの兵力を送るだろう」と述べている。Trump大統領を批判する者も、イランがシリアやパレスチナなどにおいて米当局者が「悪意ある行動」と呼ぶ活動に関与し続けていることは認めている。もっとも彼らはテヘランとの距離感を混乱させたことについて現政権を非難しているのである。
(6)Johns Hopkins School of Advanced International Studies学部長Vali R. Nasrは「これは完全にTrump政権によって製造された危機であった」と指摘する。Nasrは2018年5月のイラン核合意からの離脱という決定について、これが他国を同調させるのに失敗したことを「米国の訴えに説得力を感じる国はなかった」としつつ、「それはTrump政権のイラン政策が根本的に信頼性を持っていなかったからである」と指摘している。そして、そうした信頼感の欠如は、同地域におけるイランに対する軍事行動を正当化することを同盟国に納得させる上で大きな障害となっている。
 (7)Patrick Shanahan国防長官代行は、前任者のJim Mattisほかの多くの軍関係者や議会代表が緊張の高まりを懸念していたのに比して、Boltonの要求に対しもっとも黙認的な立場を取って来た。これは2018年9月、ロケット弾がバグダッドの米国大使館の敷地に着弾した際、MattisがBoltonの主張するイランに対する軍事的選択肢に強く反論したこととは対照的である。イラク戦争の従軍経験を有するマサチューセッツ州選出のSeth Moulton民主党議員も「BoltonはGeorge W. Bushとイラクに対して同様のことを行った」と指摘する。
 (8)また、Trump政権が具体的なレッドラインを示さないまま、広範で曖昧な警告をイランに出したのも懸案事項であり、それは誤解や誤算による軍事衝突の可能性を高めることとなった。5月に発出された声明中でBoltonは軍事的関与の条件を「厄介でエスカレートする可能性のある兆候と警告」という曖昧な表現で示したのである。Boltonは「米国の利益または同盟国に対するいかなる攻撃も容赦のない力で対処されるであろう」としつつ、イランの軍隊に対し「あらゆる攻撃に対応する準備ができている」と警告した。
(9)更に、イランに対する強硬戦術は2つの方法で後退する可能性があるとInternational Crisis GroupのAli Vaezは指摘する。制裁措置が経済を崩壊させれば、イランはより自制心を失うことなく行動できるであろうし、一方、制裁が上手くいかない場合、アメリカの政府当局者の中にはイスラエル、サウジアラビア、アラブ首長国連邦が支持するような軍事行動を主張する者も出て来るであろう。
記事参照:Skeptical U.S. Allies Resist Trump’s New Claims of Threats From Iran

(関連記事)

(5月14日)イランの脅威に対する見解の相違のためスペインの派出フリゲート艦が米国の湾岸ミッションから離脱-英通信社報道)(Reuters, May 14, 2019)

 上記記事に関連し、5月14日付のReutersは“Spain pulls frigate from U.S. Gulf mission amid differences over Iran” と題する記事を掲載し、5月14日火曜日、スペイン政府はイランの脅威に係る認識の相違により、湾岸地域に展開中の米国主導海軍部隊からに派出していたフリゲート艦を離脱させたと報じている。
記事参照:Spain pulls frigate from U.S. Gulf mission amid differences over Iran

5月14日「船舶衝突事故に見るインド太平洋地域における緊張の高まり―豪専門家論説」(The Strategist, May 14, 2019)

 5月14日付のAustralian Strategic Policy InstituteのウェブサイトThe Strategistは、University of QueenslandのCentre for Policy Futures上席研究員のGreta Nabbs-Kellerの、“Indonesia–Vietnam maritime clash a sign of rising Indo-Pacific tensions”と題する記事を掲載し、ここでKellerは、ベトナム船舶とインドネシア船舶との衝突事故について、単に両国の漁業を巡る対立という文脈だけでなく、より幅広いインド太平洋地域の戦略的ダイナミクスという文脈において理解するべきとして要旨以下のとおり述べている。
(1)4月27日、インドネシア領ナトゥナ諸島近くで、ベトナム沿岸警備艇とインドネシア海軍艦船の衝突事故が起きた。公開された映像から両国間の緊張の高まりは明らかであり、こうした事故が武力衝突にエスカレートする可能性があることを示している。それほど漁業問題をめぐる両国間の対立は激しくなっている。
(2)Joko Widodo政権第一期、海洋水産大臣Susi Pudjiastutiの方針のもと、インドネシアは違法な漁業に対する強硬な姿勢を示してきた。Susiは衝突事故の後のツイートで、司法長官と最高裁判所長官に対し、拿捕した船舶の強制的な破壊を要求し、5月4日にそれを実行した(原文では4月4日になっているが、おそらく5月4日:訳者注)。領土や資源に関する主権に対する強硬なスタンスゆえに、国民のSusiに対する人気は大きく、おそらく彼女は第二期Jokowi政権で何らかの閣僚の立場を得ることになろう。おそらくインドネシアの強硬なスタンスは今後も維持されると思われる。
(3)しかしこの衝突事故の重要性は、ベトナムとインドネシアの二国間関係にとってだけのものではない。インドネシアが拿捕してきた違法漁船の大半はベトナムのものであるが、近年、インドネシアのEEZにおける外国漁船の挑発的・攻撃的行為に、中国海上民兵が関わっているものが増えてきた。2016年に起きた一連のインシデントは中国に対する公式の抗議を惹起した。中国はナトゥナ諸島近海における「伝統的な漁業権」を主張し、それに対しインドネシア政府は、リアウ島周辺海域を「北ナトゥナ海」と名前をつけるなどして抵抗する姿勢を見せている。
(4)ASEAN加盟国は、中国との間に公式・非公式に南シナ海における領土的論争を抱えている。その加盟国同士の対立は、領土問題における中国に対する結束した姿勢を弱める可能性がある。実際にベトナム沿岸警備艇のやり方は中国のやり方をそっくり真似たようなものであった。こうした状況は、南シナ海に関する行動規範(COC)をめぐる交渉において、ASEANにとっては不利をもたらすであろう。
(5)準軍事船舶に対する対応の変化とも関係がある。今年1月、アメリカ国防総省は中国の準軍事船舶に対して軍事的交戦規則を適用するという声明を発表した。今回の衝突事故におけるインドネシア海軍側の厳しい対応に、このことが及ぼしているであろう影響を看取できる。しかしこうした厳しい対応が適用されるようになれば、海上での緊張を劇的に高める可能性がある。インドネシア政府は、海上の主権を擁護するための規則を定めつつ、ASEAN加盟国間の緊張を悪化させることのない外交上のリーダーシップを発揮するという非常に難しい外交上の舵取りを必要としている。
記事参照:Indonesia–Vietnam maritime clash a sign of rising Indo-Pacific tensions

5月14日「冷戦時代の核実験で発生した放射性炭素が深海で発見-米メディア報道」(CNN, May 14, 2019)

 5月14日付の米ニュースチャンネルCNNウエブサイトは、“Radioactive carbon from Cold War nuclear tests has been found deep in the ocean”と題する記事を掲載し、深海域で冷戦期に行われた核実験による放射性炭素が発見されたとして要旨以下のとおり報じている。
(1) 冷戦の時代の核実験による放射性炭素が深海域で見つかっている。Geophysical Research Letterが今年4月に深海に棲む甲殻動物の筋肉から放射性炭素が見つかったとの研究結果を報告している。当該研究に携わった研究者は、1950年代から60年代に実施された核実験によって生じたものが深海生物の食物連鎖で取り込まれたものであると結論付け、「このような高レベルの放射性炭素の発見は予想外であり、人類の活動によって海洋が汚染されつつある」と述べている。冷戦時代の核実験によって大気中の放射性炭素量は2倍になった。核実験の停止で大気中の放射性炭素は減衰したものの、残りが海面に落ち、海洋生物の体内に入り食物連鎖で深海にまで及んだと考えられる。放射性炭素が見つかった甲殻動物は西太平洋の6,000から11,000メートルの深海溝の3か所で見つかった。この種の甲殻類は深海に落ちてくる生物の死骸を食料としている。今回、甲殻動物から見つかったカーボン14は、深海の自然状態におけるものよりもかなりハイレベルであった。
(2) カーボン14はほとんどすべての生物で見られ、年齢測定などに利用される。核実験に起因する放射性炭素は自然状態で撹拌されて深海底にまで達するのに通常1,000年かかると想定されるが、今回の調査で、食物連鎖が絡むと予想以上に速くなることが判明したと言える。深海溝に棲む甲殻類は浅い海に棲むものよりも4倍近く長生きし、体も大きい。つまり、放射性炭素は体内に蓄積されていき、それが生体に長く大きく影響することになる。当該研究の担当者は、人類の活動が地球全体に影響を及ぼしていることを注視する必要があると警告している。
記事参照:Radioactive carbon from Cold War nuclear tests has been found deep in the ocean

5月17日「米国とイランの紛争はエネルギー供給に打撃を与える―英紙報道」(The Guardian, 17 May, 2019)

 5月17日付の英日刊紙The Guardian電子版は、“US-Iran conflict would hit energy supplies, says Iranian general”と題する記事を掲載し、米国とイランの紛争の情勢について要旨以下のように報じている。
(1) イランの軍高官は、イランのミサイルは湾岸海域にいる米艦船に容易に命中させることができ、紛争が起こると世界のエネルギー供給が脅かされると述べた。5月17日に緊張は沸点に達し、テヘランは米国が西側の情報当局が懸念する地域の危機を紛争に拡大しようとしていると非難した。「戦争が起きれば、世界のエネルギー供給は損なわれるだろう」と革命防衛隊副司令官のGen Saleh Jokarは5月17日に述べた。
 (2)イランの軍事指導者たちは、イランへの経済制裁や核協定からの一方的な撤退を含むTrump政権の「最大の圧力」に、対応せざるを得なくなったと述べている。5月16日には革命防衛隊司令官で国の軍事組織全体の指導者は、両国が本格的な対決の危機に瀕していると述べた。
 (3) Guardian紙は5月16日に、イランの最も著名な将軍であるQassem Suleimaniが、バグダッドでの会議においてイランの支援を受けるイラクの民兵に「代理戦争の準備をする」よう呼びかけたことを確認した。5月12日にサウジアラビア籍の石油タンカー2隻を含む4隻の船がUAE沿岸沖で船体に被害を受けて以来、緊張が高まったままである。米英は、イランが最終的に船舶に対する破壊活動の背後にいると信じている。
 (4)情報機関は、イラクとシリアで活動している友好的な民兵に対するQuds force(イラン革命防衛隊特殊戦部隊)の影響の範囲を調査するため長期間にわたり同部隊の活動を監視してきた。英国の情報筋によると、重要なことはこの地域の動向に関して誤算がないこと及び米国の制裁措置の拡大やイランに対する軍事行動を求める声が高まっているなかで脅威を過小評価も過大評価もしないことを確実にすることである。
(5)5月16日、サウジアラビアの国営メディアは、石油タンカーへの攻撃に対応してイランの目標に対する「外科的攻撃」を呼びかけた。ある情報当局者は、Guardian紙にサウジアラビアがワシントンに彼らの利益を守るために行動するかどうかを具体的に尋ねたと述べた。イラクとシリアにおいてイラン軍の「脅威は高まっていない」と予想外に英軍高級将校が発言したことで失敗に終わった5月13日の週のペンタゴンでのメディアへのブリーフィング以来、英国は米国と同調して行動していることを示したいと望んでいた。英国は、国防総省での発言を覆し、この地域での英軍に対する脅威レベルを上げている。5月16日、英外相Jeremy Huntは、イギリスがアメリカと同じ脅威について「同じ評価を共有している」と言った。
 (6) Saddam Husseinを追放し、イラクの大多数のシーア派に権力を与えた侵略の直後から、米国とイランは過去15年間の多くの期間を代理戦争に携わってきた。ISISとの戦いが勃発したとき、アメリカとイランは時々同じ側で戦った。この緊張の緩和は、Obama前大統領のイランへの働きかけと同じ時期に起こり、それが核協定につながった。サウジアラビアとアラブ首長国連邦という伝統的なアメリカの同盟国は、イランをスンニ派アラブ世界における破壊的な脅威と長い間みなしており、Obama前大統領が手をさしのべたことは、既存のパートナーシップを犠牲にしてイランの拡大主義を招いたと考えられている。
(7) シリアの内戦とその影響により、イランはイスラエルの玄関口に新たな足場を築いた。西シリアの軍事的利益を守るためのイランの動きはTrump政権で再び起こった対立の主要なもののである。
記事参照:US-Iran conflict would hit energy supplies, says Iranian general

5月18日「潜水艦を建造するだけでは台湾を守り得ないーシンガポール専門家論説」(The National Interest, May 18, 2019)

 5月18日付の米隔月誌The National Interest電子版は、シンガポールのthe S. Rajaratnam School of International Studiesthe Institute of Defense and Strategic Studies研究員呉尚蘇の“Why New Submarines Alone Won’t Save Taiwan from China”と題する論説を掲載し、ここで尚蘇は潜水艦建造だけでなく、基地建設、後方支援体制、防諜体制等を含む総合的な防衛体制の構築が必要であるとして要旨以下のように述べている。
 (1)5月9日に高雄市で行われた潜水艦建造施設の鍬入れ式は、台湾国産潜水艦建造計画の里程標である。潜水艦部隊の整備が完成すれば、中国の主要水上艦艇に対する潜水艦の非対称的特性から北京に対する台北の抑止力を強化するだろう。
(2)わずかな潜水艦部隊であってもこれを拒否しなければ、海岸に部隊を投入する人民解放軍海軍の水陸両用戦部隊はかなり混乱させられ、北京の賭けは相当程度不確実なものとなるだろう。水上艦艇は別としても、潜水艦発射巡航ミサイルは潜水艦の戦略的価値をさらに高めている。このことは中国が軍事力を行使するコストがより高くなることを意味する。
(3)抑止について描かれた素晴らしい像と現実との間で、潜水艦の配備もまた深刻な問題である。どれだけ速やかに、そしてどれだけの数の潜水艦が就役するかに関わりなく、基地から哨区への動きは重要であるだけでなく危険が多い。潜在的な敵に対し、ある程度の戦略的縦深を持つ多くの国にとって母基地から潜水艦を出撃させることは容易なことである。しかし、台湾は人民解放軍海軍の威力圏下にあり、中国側はそのような展開を当然のことと受け入れないだろう。もし、台北が新潜水艦基地を設営しないのであれば、台湾海峡に面した現在の新左営海軍基地は中国の戦略ミサイル、巡航ミサイル、その他爆弾等の直接攻撃を受けることになる。さらに、新左営は海上交通路のハブとなっている高尾港に近く、基地近傍を多くの商船が通航する。このことは人民解放軍海軍に非正規作戦を採る手段を提供するかもしれない。例えば、人民解放軍海軍の要員が1つないし複数の事故を作り出し、潜水艦の進出航路上に1隻ないし複数の船舶を沈めるかもしれない。また、コンテナ等に隠したミサイルにより新左営が対応の時間が短くなるような奇襲攻撃に船舶を使用するかもしれない。
(4)台湾東海岸に1ないし2個所の潜水艦基地を建設することは、人民解放軍の脅威にさらされる危険を減少し、兵力を分散する上でよりよい方策であろう。加えて、水深のある太平洋への進出が近くなる。しかし、東海岸の基地に問題がないわけではない。水深のある海域は、人民解放軍海軍も1ないし複数の潜水艦を「門番」役として配備し、台湾潜水艦の出撃を監視することを可能にする。計画されている新造潜水艦数及び潜水艦の稼働率から台湾が展開できる潜水艦数は6ないし7隻であろう。そして、人民解放軍海軍はこの監視任務を実施することは不可能ではない。
(5)北京の諜報活動は、サイバー攻撃、中核施設でのサボタージュ、中核乗組員の暗殺、指揮系統の攪乱など台湾潜水艦部隊を無力化する非正規手段を採るかもしれない。通常型潜水艦の行動期間は限られているので、後方支援が失われると台湾の潜水艦部隊の能力は基地の位置に関係なく失われるだろう。
(6)紛れもなく台湾の潜水艦に対する各脅威にはそれぞれ対抗策がある。新左営やその他の海軍基地前面の制限区域を拡大することで潜水艦の活動や商船をその他の戦術に利用することを阻止する、少なくとも制約することができるだろう。内部セキュリティ対策の強化は中国のスパイや特殊戦部隊の活動空間を制約する。海上哨戒や他の対潜水艦戦能力の改善は「門番」戦術の目的達成を妨げるだろう。言葉を換えれば台北は現在進めている潜水艦建造に平行して準備しなければならないことがある。加えて、潜水艦は比較的独立性のある兵種ではあるが、他の安全保障要素から全く独立しているわけでも戦略的な万能薬でもない。台湾が国防に関わる全般条件を総合的に強化しなければ、潜水艦だけでは台湾の困難な安全保障環境により重要な変化をもたらすことはないだろう。
記事参照:Why New Submarines Alone Won’t Save Taiwan from China

5月20日「仏空母が日米豪海軍とベンガル湾で共同訓練―米専門家論説」(The Diplomat, May 20, 2019)

 5月20日付のデジタル誌The Diplomatは、米国の研究者でライターのSteven Stashwickの“French, US, Australian, Japanese Warships Drill in Bay of Bengal”と題する論説を掲載し、ここでStashwickは仏海軍とその空母が行った最近の共同演習について、要旨以下のように述べている。
(1)仏空母打撃群が5月14日の週にベンガル湾を行動し、日米豪の艦艇と「ラ・ペルーズ」演習を行った。この4カ国海軍だけで一緒に演習を行ったのは初めてのことである。この多国籍演習は、インド洋で対潜水艦演習を行うために、この仏空母打撃群に米国の潜水艦が加わった後に行われた。米海軍以外で、世界で唯一の原子力空母であるフランスのCharles de Gaulleとその4隻の護衛艦は米海軍の駆逐艦1隻、豪海軍のフリゲート艦1隻及び潜水艦1隻、そして、それから海上自衛隊で最大の護衛艦「いずも」及びその護衛艦1隻と合流した。この「ラ・ペルーズ」と呼ばれる演習は相互運用性、通信、艦隊運動、実弾射撃及び捜索救難訓練に重点的に取り組んだ。米第7艦隊司令官、Phillip Sawyer中将は、この協力関係について、志を同じくする海洋軍事力として価値観、伝統及び絆を共有していることを反映していると述べている。5月、すでに米海軍駆逐艦William P Lawrence、そして2隻の日本の護衛艦はインドとフィリピンの海軍とともに1週間にわたる哨戒活動を行っている。
(2)Charles de Gaulleとその護衛艦は、太平洋へ範囲を広げためったにない展開行動に従事している。仏軍事省は、この艦は展開の途次、米国、英国、デンマーク及びポルトガル海軍と協力すると述べている。英国は、2021年に新しい空母Queen Elizabethを太平洋に展開する計画を立てている。ヨーロッパの海軍は、南シナ海での中国による過激な主張に反応して、彼らの太平洋でのプレゼンスを高めている。2018年、仏英両海軍は、国際的な規範と航行の自由を支持するプレゼンスを明示するために、南シナ海の合同パトロールを行った。
記事参照:French, US, Australian, Japanese Warships Drill in Bay of Bengal

5月20日「北極でのロシアの軍事演習は噛みつくというよりは吠えているようなもの―豪専門家論説」(Foreign Policy, May 20, 2019)

 5月20日付の米ニュース誌Foreign Policyのウェブサイトは、the Australian National University のthe Centre for European Studies 研究員Elizabeth Buchananと 英シンクタンクChatham House のRussia and Eurasia Programme 研究員Mathieu Boulègueの“Russia’s Military Exercises in the Arctic Have More Bark Than Bite”と題する論説を掲載し、ここで両名は北極におけるロシアの軍事演習の状況について要旨以下のように述べている。
(1) 2019年夏、安全保障専門家達は北極圏での新たな冷戦についてきっと討議することだろう。毎年毎年、ロシアは北極圏で軍事演習を実施している。そして毎年、彼らは訓練の規模と複雑さにおいて、冷戦後の記録を更新している。
(2)通常、短期間の演習が主となる大規模演習の前に実施されるが、大体においてロシアの大規模演習は予定されたものであり、その内容の予測は可能である。ロシアは、ロシアの4つの大規模演習を軍管区持ち回りで計画している。Vostok(東)、Zapad(西)、Tsentr(中央)、Kavkaz(南)である。2019年は、Tsentr(中央)で、中央軍管区の北端、北極海航路(以下、NSRと言う)沿いで行われる。ロシア政府によれば、同演習は北極圏の環境における高次の戦闘即応体制を維持することに焦点をあてている。
(3)Tsentr 2019はおそらく3つの主な目標を持つことになる。第1に、ロシアは北極圏における領域拒否能力及びNSRにおけるその操作性を現示することを望んでいる。第2に、Tsentr 2019は北極圏で強いプレゼンスを維持するというロシアの意向を示すことである。しかし、そのテーマは驚くべきことでも新しいことでもない。地理的な位置がモスクワを最大の北極圏プレーヤーにしている。そしてクレムリンはこのリードを守りたいという願望を隠したことがない。第三は、この演習ではロシアが北極圏へのエネルギー投資を保護できることを実証することである。
(4) Tsentr2019の中で展示されるのは、Tor-M2DT防空システムやT-80BVMの主力戦車などのロシアの北極地域向けの新しい装備品である。新しいレーダーシステムと改装されたソビエト時代の軍事基地も展示されるであろう。特にロシア軍が北極圏環境でそれらを使用するための実際の備えをほとんどしていないことを考えると、これらの能力は大概、防御的なものであり特に警戒するほどではない。
(5)最後にロシアがNSRにおける最近の主張を軍事力で支援することに熱心であることは理にかなっている。2019年、モスクワはこの地域に新しい通航の規約を導入した。その規約は、NSRを航行する間、外国及び外国企業にロシアの水先案内人を雇うことを義務付けており、外国人はいかなる時点でも通航を拒否されるかもしれないと規定している。2019年夏の演習の後には、この法令は多くの軍事的な噛み付き(威嚇的部分)があるかもしれない。
(6)Tsentr 2019は、おおむね防衛的であるが、それでも西側は注意すべきである。西側の北極圏での協力に対する一貫した公約にもかかわらず、ロシアは今や受け入れる余地があまりないという態度を明らかに示している。ロシアは、北極圏において新帝国主義的な支配を実行する準備ができていないようであるが、ロシアがそれを望むならば、そのような行動を実行することができる。この現実は、最近のNATOの北大西洋軍司令部の開設や米国海軍が最近、北極圏に再び焦点を合わせていることを含めた北極圏における独自のプレゼンスを強化しつつあり、他の北極圏沿岸諸国にとって軍事的な意味を持つ。問題となるのはこの演習の規模が非常に大きいことである。ロシアの北海艦隊が、中央軍管区の兵員、ロシアの新しい北極旅団、そしてアルメニア、カザフスタン、キルギスタン、ロシア、タジキスタン、ウズベキスタンを含む集団安全保障条約機構の軍隊とともに同演習に参加することは驚くことではない。しかし、ロシアの太平洋艦隊も参加することには問題がある。象徴的ではあるが、北大西洋で海軍力を統合する能力を実証することは強い印象を与える。西側はまた、中国がTsentr 2019に参加するかどうかを確認する必要がある。中国軍は昨年の大規模なVostok 2018の演習に参加した。中露両国は関係が良好となってきているので、中国が参加することに問題はないであろう。
(6)中国がもし招かれないのであれば、中国が北極圏で歓迎されていない存在であることの大きなシグナルとなるであろう。もちろん、ロシアの北極エネルギーインフラストラクチャへの中国の大規模な投資とNSRへのアクセスに対する戦略的な関心を考えると、ロシアのPutin大統領が、中国の指導者である習近平を敬遠することは難しいだろう。 2人がTsentr 2019において協力した戦線を作り出すならば、西側の政策決定者は注意を払うべきである。
記事参照:Russia’s Military Exercises in the Arctic Have More Bark Than Bite

【補遺】

旬報で抄訳紹介しなかった主な論調、シンクタンク報告書
(1) South China Sea: Deterring a Fait Accomli
https://nationalinterest.org/feature/south-china-sea-deterring-fait-accompli-56777
The National Interest, May 12, 2019
By Lan D. Ngo (Ngo Di Lan), a Ph.D. candidate in International Relations at Brandeis University
2019年5月12日、米国Brandeis Universityの博士課程に在籍するNgo Di Lanは、米誌The National Interest(電子版)に、" South China Sea: Deterring a Fait Accomli"と題する論説記事を発表した。その中で彼は、南シナ海では、2014年のHYSY-981石油掘削リグ問題以降、比較的平穏な時期が続いているが、拘束力のある行動規範についての交渉が継続的に行われているにもかかわらず、この紛争が今後数年間で完全に安定するかどうかは不明であるとの認識を示した上で、現時点での中国の軍事力行使は想定できないが、南シナ海ではこれまで中国の実力行使が続いてきただけでなく、近現代においては国家が新たな領土を獲得するために総力戦ではなく既成事実を選択する傾向が強まっていることから、フィリピンやベトナムなどの係争国は、中国の既成事実化(戦略)を阻止する準備をしておくべきだと主張している。
 
(2) Charting a New Arctic Ocean
https://ocean.csis.org/spotlights/charting-a-new-arctic-ocean/
CSIS, May 15, 2019
By Heather A. Conley, senior vice president for Europe, Eurasia, and the Arctic and director of the Europe Program at CSIS
Matthew Melino, a research associate with the CSIS Europe Program
Dr. Whitley Saumweber, director of the Stephenson Ocean Security Project at CSIS
2019年5月15日、米シンクタンクCenter for Strategic and International StudiesのHeather A. Conley、Matthew Melino及びWhitley Saumweberは、同シンクタンクのウエブサイトに“Charting a New Arctic Ocean”と題する論説記事を寄稿した。この記事では、①北極圏は、過去5年間で1900年に開始された記録以降で最も暖かくなっている、②国連海洋法条約(以下、UNCLOSと言う)や国際海事機関が、そして地域レベルでは、1996年に北極沿岸諸国による政府間フォーラムとして設立された北極評議会が北極圏の課題に対処している、③北極評議会のワーキンググループは、2015年に、北極圏全域にわたる海洋保護区(以下、MPAと言う)のネットワークを通じた北極圏の海域を保全するための枠組みを提案したが、各国は国内のMPAしか受け入れていない、④北極圏の生物多様性を管理するために、Arctic Areas Beyond National Jurisdiction (以下、ABNJと言う)の資源の管理と保全のための多面的アプローチが重要である、⑤ABNJとは、「公海」であり、誰も管理責任を負うことができない海域のことで、地球上で最大かつ最も多様な生物多様性の貯蔵所であり、Biodiversity Beyond National Jurisiction(以下、BBNJと言う)と呼ばれている、⑥2017年7月、国連は、BBNJに関する法的拘束力のあるUNCLOSに基づく法律文書の交渉に合意したため、海洋資源管理と保全に関して期待されていることなどが主張されている。
 
(3)Is the Taiwan Strait in International Waters?
https://ippreview.com/index.php/Blog/single/id/972.html
IPP Review.com, May 17, 2019
Dr Peter K. H. Yu, a retired Distinguished Professor and a former Dean of Research and Development at New York University
2019年5月17日、米国New York University で学部長などを務めたPeter K. H. Yu名誉教授は、IPP Review.comに、" Is the Taiwan Strait in International Waters?"と題する論説を発表した。その中で彼は、2019年3月31日に中国のJ-11戦闘機二機が台湾海峡の中間線を通過したことを題材とし、蔡英文総統がその翌日に強制排除に触れたこと、また、2019年4月には台湾海峡は公海だと発言したことを取り上げ、蔡英文総統の発言に対し疑問を呈している。その主な理由として彼は、①ウエストファリア条約が締結された1648年に台湾海峡は存在していた一方で両岸に国家は存在しておらず「国際海峡」という概念は同海峡に適用されない、②台湾海峡を水路や狭い湾としてみなすことも可能であり、そうなると国際海峡と同一視することはできない、③UNCLOSの下では、台湾海峡の両岸を起点に中国と台湾の双方がEEZ(排他的経済水域)を設定することが可能で、そうなると、海峡全体が完全に国際化されているわけではない、④1996年の第三次台湾海峡危機の際に米海軍の2個空母群を含む40隻以上の艦船が派遣されたものの台湾海峡には入らなかったが、これは同海峡が(訳者注:中国か台湾かにかかわらず)国家に属する海峡であり国際海峡ではないことを示している、⑤蔡英文総統は頻繁に中国・台湾中間線よりの西側に位置する金門島を訪れていること、などを指摘している。