海洋安全保障情報旬報 2019年4月11日-4月20日

Contents

4月11日「ジブチでの中国による埠頭建設のための水中爆発―印専門家論説」(ThePrint, April 11, 2019)

 4月11日付の印デジタル紙The Printは、印陸軍の退役大佐Vinayak Bhatの“China’s massive underwater blasts at Djibouti military base pose risk to environment”と題する論説を掲載、ここでBhatは中国がジブチで行っている埠頭を建設するための水中爆発が環境危機をもたらしているとして、要旨以下のように述べている。
(1)東アフリカのジブチにある中国初の海外基地は、ここ数年間、大規模に建設が進められている。現在、ヘリポート、弾薬庫及び自動化補給システムを備えた主要部は完成している。しかし今、人民解放軍海軍は、基地の北西に7つの埠頭を建設しており、1つは海軍が独占的に使用している。この過程において、水中で爆発を起こし、そして、おそらく環境に大きな損害を与えている。
(2)新しい埠頭を建設する作業は2018年5月に始まり、ほぼ1ヶ月の間非常に速いペースで続けられた。しかし、それから、おそらくこの地域の海と気象条件のせいで速度が落ちた。その後、9月か​​ら10月にかけて、埋め立て作業の速度が増した。
(3)中国は、埠頭の拡張工事のために大量の強い爆発物を使って海底を掘り下げることにより、関連する国際条約に違反しているようである。最新の衛星画像は、2018年12月6日の水中爆発をはっきりと示している。衛星画像で見ることができるそのような巨大な水中爆発は、この場所で多数の爆発が定期的に行われているに違いないことを示している。
(4)威力の大きな水中爆発は、この地域の海洋生物に深刻な危険をもたらす可能性がある。その上、この場所は民間及び軍用船の主要な海上交通路に非常に近いので、それらはまた海上交通にとって危険である可能性がある。
記事参照:China’s massive underwater blasts at Djibouti military base pose risk to environment

4月16日「21世紀におけるシーパワーのための指揮統制-米専門家論説」(Center for International Maritime Security, April 16, 2019)

 米シンクタンクCenter for International Maritime Securityのウエブサイト は4月16日付で 米The Hudson Institute’s Center for American Seapower副デイレクターBryan McGrathの“Adapting Command and Control for 21st Century Seapower”と題する論説を掲載、McGrathはこの中で海兵隊を含む海上アセットを一元的に指揮する統合海上部隊指揮官(The Joint Forces Maritime Component Commander:JFMCC)の設定などが必要であるとして要旨以下のように述べている。
 (1)米国は、21世紀まで継続して来た「2つの大規模地域紛争への対応」という方針から中ロの二大スーパーパワーへの対応という新たな防衛計画、運用に転換しつつある。そのような多極世界で米国が繁栄と安全を維持していくには、シーパワーを改めて進化させなければならない。現代のシーパワーを構成する要素としては海軍と海兵隊の関係が何より重要であるが、本稿は、これらの指揮統制(command and control :C2)に係る20世紀型アプローチから脱却し、統合的アプローチを受け入れて統合海上部隊指揮官(The Joint Forces Maritime Component Commander :JFMCC)の設定などを提言するものである。
 (2)海軍と海兵隊はいずれも平戦時を問わず米国のシーパワーと影響力の根源である。海軍と海兵隊の統合の態様は時代とともに変化して来たが、20世紀の大半の間、水陸両用作戦は両用戦の各段階におけるドクトリンとCWCコンセプト(Combined Warfare Concept (CWC)、抄訳者注:CWCの定訳はないが一般に複合戦対応のためのコンセプトと理解されている。)の下で運用されていた。水陸両用任務部隊指揮官(The Commander, Amphibious Task Force :CATF)は作戦の重点が海上にある場合に海軍士官が任ずる全般指揮官であり、上陸部隊指揮官(The Commander, Landing Force :CLF)は上陸作戦時の海兵隊側の全般指揮官である。それぞれがそれぞれの段階で相互支援するというこうした作戦の基本的アプローチは1920年代に米海軍大学で開発され、以来、若干の変化を加えつつ継続して来た。
 (3)興味深いことに両用戦部隊(The amphibious force :AF)は、より大きな海軍の指揮統制構造の外側に構築されていた。両用戦の特異性と複雑さ故に、CATFとCLFの関係は海軍のより大きな指揮統制構造と異なる形になっていたのである。両用戦におけるC2を海軍のCWCコンセプト、あるいは統合指揮のいずれか一方に無理に組み込もうとすれば、組織的緊張が生起するのは、両用戦部隊が一般的な海軍のC2とは異なる構造を有していることに起因する。CATF- CLF 間のC2構造として開発された概念は、両用戦の一般的アプローチ、すなわち両用戦の目的が明示されているか否か、また、その任務が海上作戦との関係でどのように変化するのかといった点で、両用戦は海軍のC2構造に必ずしもエレガントには統合されていなかった。例えば、乗艦している海兵隊遠征部隊の攻撃ヘリコプターや固定翼機を含む種々のアセットは、海上作戦においては「両用任務部隊の緊急的な防衛」のためのみでしか使用が許されなかったのである。
(4)海軍と海兵隊は今世紀前半、3隻の両用戦艦艇から成る伝統的な両用戦部隊(Amphibious Ready Group :ARG)と乗艦した海兵隊遠征部隊(Marine Expeditionary Unit :MEU)から構成される遠征打撃群(The Expeditionary Strike Group :ESG)という新たなC2構造を創設した。ここでは海軍の将官ないしは海兵隊の将軍(とその幕僚達)が戦術指揮官(The Officer in Tactical Command :OTC)としてCWCコンセプトを遂行したが、従来のCATF-CLFの関係も、このC2構造でも両用戦における指揮統制の規定として継続していた。すなわち、海兵隊はあくまでCLFの指揮下にあり、そのアセットは緊急事態においてのみ海上作戦に使用されるというCATF-CLFの関係が継続していたのである。
(5)しかし、ここ数年、ESGの概念は放棄されかけている。それは護衛に充当する戦闘部隊の不足のためである。海軍と海兵隊はARG / MEUの訓練と空母機動部隊の訓練をそれぞれに1990年代と同様に実施しているが、一旦、ARG / MEUが海外に展開されることになれば、これに伴って幾つもの艦艇部隊が分派されるのが一般的である。シーパワーを巡る競争が激しさを増す中で、このような海軍と海兵隊の作戦態様も再検討の要があるだろう。これは米国のシーパワーの総合的な性質を活かし、既に実証済みのC2機構を活用しようとするものであるが、そのためにも各軍種はC2機構への統合的アプローチをより密接に取り入れるべきである。この枠組みにおいて海軍の将官ないしは海兵隊の将軍はその割当任務に係らず全てのアセットを使用し、必要に応じ、海軍のCWCコンセプトに基づいて水上、航空、情報部隊など他の作戦部隊指揮官に所要の航空支援が実施出来るようにならなければならない。JFMCCは、対地、地水上、対潜、対空などあらゆる戦闘場面に対応する様々な能力を有している。基本的にJFMCCは統合任務部隊指揮官となるであろうし、作戦目標がより大きな陸上作戦の一部である場合には海上部隊が統合陸上部隊指揮官(JFLCC)の指揮下に置かれる場合もあるかもしれないが、少なくとも両用戦の遂行に差しては、JFMCCは関連する全ての部隊に対する作戦統制権(OPCON)を行使する指揮官となるべきである。
(6)海軍がC2機構に係る統合的アプローチを採用することには幾つかの利点がある。 まず、これは運用レベルでの統合を一層推進することになる。世界各国の平和時のプレゼンス任務は基本的に海軍によって遂行されており、これを単一指揮官の下に統合することは「戦争の原則」に叶うものであり、より効率的な作戦遂行が期待出来る。第二に、JFMCCの下にこれらを統合することは、武器、ネットワーク及びセンサーなどの装備品の調達にも影響を与えるような運用構造、概念の統合化を促進するだろう。更にそのような共同開発的な発想があれば、例えば、両用戦艦艇の攻撃力欠如という弱点を解消する契機となるような恩恵をもたらすこともあるだろう。権限を有するJFMCCは両用戦艦艇の広大なデッキを活用した対地、対艦攻撃用ミサイルのプラットフォームとしての活用可能性などにも思い至るかもしれない。第三の点について言えば、現状では海兵隊の輸送兵力としてのみ考えられている両用戦艦艇を、単なる陸上作戦の支援用ではなくJFMCCが管轄するより幅広い目的を有するアセットと捉えることにより、その隻数、能力、整備状況などについて、より注意が払われることになるだろう。
 (7)海軍と海兵隊は、世界で最も強力で機動力のある航空兵力、世界で最も恐れられている陸上兵力、そして世界で最も高い攻撃力を有する水上戦闘艦艇及び潜水艦兵力を提供する。これらを統一された総体として取り扱い一貫したC2構造の下で効果的に運用していくことは、冒頭で述べた米国の繁栄と安全の維持に資するものである。海軍のC2構造においてJFMCCの統合的アプローチを採用することは、これを達成するための最良の選択肢の一つである。
記事参照:Adapting Command and Control for 21st Century Seapower

4月16日「海事産業の発展を目指すインド――印研究者論説」(The Diplomat, April 16, 2019)

 4月16日付のデジタル誌The Diplomatは、インドのObserver Research Foundationで研究助手を務めるPratnashree Basuの“India’s Plan to Jumpstart Its Maritime Industry”と題する論説を掲載し、ここでBasuはインドが最近打ち出した海事クラスターをとりあげ、インドにおける海事産業発展政策について要旨以下のとおり述べている。
(1)近年インドは海洋産業の発展を目指している。2015年、インドはSAGAR(Security and Growth for All in the Region)プログラムとSagarmalaプログラムを打ち出した。これらプログラムは港湾開発や海事インフラ開発などによって国内海事産業の発展を目指すものであるが、その一部として、2016年にModi政権は海事クラスターの導入を発表した。そのために船舶省はグジャラート州、カルナータカ州、ケララ州、タミル・ナドゥ州やムンバイ、ゴアなど23のコミュニティ開発のために11億ルピー(1580万米ドル)の予算を割り当てた。
(2)海事クラスター(地域クラスターや産業クラスターとしても知られる)は、相互に関連するビジネスやサービスを地理的に集中することで、革新、技術発展、投資、公私のパートナーシップを促進し雇用を創出する。海事クラスターの主要な内容は、造船、海事サービス、海事関係生産、そして海事ツーリズムである。それは産業発展を目的としたものであると同時に持続可能な海洋開発のために重要であり、環境への配慮も視野に入れられている。
(3)海事クラスターはまずグジャラート州のGujarat Finance Tec-City(GIFT City)、タミル・ナドゥ州、そしてゴアで開始されるであろう。指定された場所はすべて、造船所や港湾、鉄鋼クラスターその他関連産業クラスター、そして大学などに近接した地域である。それらクラスターはさまざまな産業を引きつけて地域の産業を活性化させ、投資を呼び込み、海事ツーリズムを発展させることになるであろう。
(4)その試みは始まったばかりである。政府は既存インフラの近代化、港湾のパフォーマンス増大、グリーンエネルギー支援などの政策を遂行している。最も重要なのは産業構造の維持のために必要な技能の育成であり、そのための計画が実行中である。2016年には、港湾運営における地元当局に大幅な自由裁量を認めるという法案が提出されたが、これは労働組合などの反対によりペンディング状態にある。
(5)世界的な観点から見れば、海洋産業は好景気と不景気が循環するものであり、それは海事クラスターにも影響を及ぼすであろう。またインド海事産業の発展のためには、規制緩和や技術支援など多くの施策が必要であり、政府や企業の関与が重要である。そうした困難はあるものの、海事クラスターがもたらす利益は大きいものと予測されている。
(6)ノルウェーやアイスランド、シンガポール、南アフリカなどで実施された海事クラスター、とりわけシンガポールのそれは大成功を収めたと言ってよい。それは、利用可能な資源を連結し、効率的にし、デジタル化することによって利益がもたらされることを実証したのである。こうした他国の海事クラスターと協力することも重要であろう。理論的にインドの海事クラスターはインドの海事産業の発展をもたらすものである。諸々の政策が遂行され、持続的なメカニズムが適切に適用されなければならない。
記事参照:India’s Plan to Jumpstart Its Maritime Industry

4月16日「中国初の国産空母、7月までに就役へ-印デジタル紙報道」(The Print, 16 April, 2019)

 4月16日付の印デジタル紙The Printは、元印陸軍情報省担当VINAYAK BHAT退役大佐の“After 5 trial & a new coat of paint, China to commission second aircraft carrier by July”と題する記事を掲載し、中国初の国産空母が5回の公試を終了し、最終塗装中と見られることから7月までには就役するとして、要旨以下のように報じている。
 (1)外洋海軍になるという中国の夢がまた一歩現実のものとなる。最近の衛星写真では初の国産空母(以下、CV-17)は大連の造船所に5回目の公試から戻っており、最終塗装を実施した。外洋海軍は空母を必要としている。これが、人民解放軍海軍が開発を急ぐ理由である。
(2)CV-17の第4回公試は黄海及び渤海で2018年12月27日から2019年1月8日の間に行われた。ある場面では、CV-17は陣形を形成して他の艦艇と緊密に連携しながら黄海から渤海にかけて航行しているのが観測されている。CV-17は、おそらく陣形内の他の艦艇と相互運用性や同期を取った電子機器、新装備の試験を実施していた。また別の場面では、CV-17は渤海でほぼ漂泊状態にあったが、これはタッチアンドゴー(艦載機の離発着)の試験とも推測されているが、しかし飛行甲板に航空機のタイヤの後は観測されず、タッチアンドゴーが行われたことは確認できなかった。そして第5回公試はきわめて短期のものであった。「遼寧」も大連を出港し、東シナ海で実施された演習にこの僚艦も参加したかもしれない。
(3)人民解放軍海軍は3月22日にCV-17の甲板塗装を開始しており、23日の衛星画像では下地塗りが確認され、4月2日に塗装は完了していた。最新の衛星画像はCV-17に最終塗装が実施されており、これまでの塗装よりも濃い「遼寧」の塗装と同じ色となっており、滑り止め塗装も行われていることを示している。これらは、CV-17の準備が完了し、3ヶ月以内に就役することを示す兆候である。
記事参照:After 5 trial & a new coat of paint, China to commission second aircraft carrier by July

4月16日「南シナ海に焦点を当てた軍事演習を計画する米陸軍―米研究者論説」(The Diplomat, April 16, 2019)

 4月16日付のデジタル誌The Diplomatは、ニューヨークで活動する研究者Steven Stashwickの“Major US Army Exercise to Focus on South China Sea”という論説を掲載し、そこでStashwickは、2020年に開催される予定の米陸軍演習について近年の米陸軍の方針と関連づけて要旨以下のとおり述べている。
(1)米陸軍は2020年に太平洋地区における大規模演習(Defender Pacific)を計画している。その演習は一個師団規模の部隊を南シナ海周辺に配備し、伝統的な米パートナー国家であるフィリピンやタイなどで作戦が実施されるであろうし、また、マレーシアやインドネシア、ブルネイにも部隊が派遣される可能性がある。その焦点は中国に当てられており、海軍支援の作戦が含まれるなど、南シナ海の中国艦隊の中立化や南シナ海の基地・施設の中立化を視野に入れていると考えられる。
(2)陸軍だけでなく、米海軍も南シナ海への関心を強めている。最近では海軍は海兵隊と協同演習を実施し、沖縄南西部の小島に対する攻撃、占領作戦の演習を実施した。またフィリピンとの共同演習Balikatanも実施した。
(3)米陸軍は、海上の艦船への攻撃を可能とするような長距離ミサイルや大砲、ロケットなどの開発を進めている。2018年2月の演習(Rim of the Pacific)では地上から艦船に対するミサイル発射訓練を行った。米陸軍は砲撃システムの刷新も行っており、試作品の実験では62キロメートルの有効射程距離を叩き出した。これは現行の155ミリ砲の約2倍の射程距離である。最終的には有効射程距離120キロメートルを目指している。有効射程距離1000キロメートルの達成を目指す戦略的長距離砲撃プログラムも進められており、これらは、対中国艦船や沿岸部ミサイル・システムに対抗するアメリカ海軍支援のために利用されるであろう。
記事参照:Major US Army Exercise to Focus on South China Sea

4月17日「英海軍、無人潜水艇導入へ-米専門家論説」(The National Interest, April 17, 2019)

 4月17日付の米隔月誌The National Interest電子版は、同誌防衛問題編集委員David Axeの“The Royal Navy Wants Robotic Submarine (Here’s Why That Matters)”と題する論説を掲載し、ここでAxeは英海軍が情報収集、対潜戦、設置と回収の3任務を果たしうる超大型無人潜水艇導入を決定、関連業界に調達提案を提示するよう求めたとして、要旨以下のように述べている。
(1)英国防省は、2019年4月に大型無人潜水艇開発を開始するための3,300万ドルの競争入札を発動した。国防省は、関連業界に対し2019年6月までに超大型無人潜水艇(以下、XLUUVと言う)に対する提案を提出するよう求めている。契約は2段階で行われ、1年間の調査、設計、修正段階と試験、公試段階であり、システムは代表的な環境で長期間試験され、第2段階での公試は2年以上となるだろうと英海軍は言う。
(2)提案に当たって政府から示された要求には考えられる将来の無人潜水艇に対する3つの異なる作戦シナリオが描かれている。提案依頼書によれば、隠密裡の情報収集任務ではXLUUVは自立的に基地を出発し、隠密裡に作戦海域に進出し、そこで潜望鏡深度に留まるか、全没して、作戦海域を航行する艦船の情報を3ヶ月以上にわたって収集する。
(3)対潜任務では、3ヶ月以上指定された海域において対潜阻止線を形成し、対象目標、あるいはその音響信号を探知したら、識別を行い、敵の場合は隠密裡に生起事象を管制センターに報告すると提案依頼書は説明している。
(4)最後に「設置と回収」任務では、無人潜水艇は自律的に基地を出発し、作戦海域のすぐ外側に隠密裡に進出し、潜望鏡深度で待機する「実施」の信号を受信すると、全没し、作戦海域の海底に探知装置を設置し離脱する。無人潜水艇は「任務完了」を報告し、後日探知装置を回収する。
(5)何社かは英海軍の要求に合致すると思われる大型無人潜航艇を建造している。Boeing社は、自社のOrca 級XLUUVの設計をEcho Voyagerディーゼル電気推進無人潜航艇に援用している。米海軍は数隻のOrcaを発注した。「米海軍は最終的に、Orca 級XLUUVを対機雷戦、対潜戦、対水上戦、電子戦及び打撃任務に使用することになろう」と米海軍は述べている。
(6)除籍数と就役数の差によって、米潜水艦部隊の勢力は2109年の51隻から2028年の42隻へと緩やかに減少してきている。英潜水艦部隊も減少しつつあり、冷戦後の12隻をピークに Astute級原子力潜水艦が全艦就役した時点で7隻になる。XLUUVは、Astute級原子力潜水艦に代わって多くの退屈な任務を実施し、Astute級原子力潜水艦はロシアの艦艇を公海において捜索、追尾するような任務により多くの時間を割くことになるだろう。
記事参照:The Royal Navy Wants Robotic Submarine (Here’s Why That Matters)

4月18日「米比演習と比の南シナ海政策の変化―在比アナリスト論説」(PacNet, Pacific Forum, CSIS, April 18, 2019)

 4月18日付の米シンクタンクPacific Forum (CSIS)のウェブサイトPacNetは、 マニラを拠点とする安全保障問題アナリストChristian Vicedoの“Balikatan 2019 and Philippine Policy on the South China Sea”と題する論説を掲載し、ここでVicedoは最近のフィリピンの南シナ海政策の変化を、米比演習と関連付けて要旨以下のように述べている。
(1)米比両国は、4月1日~12日の間、35回目の年次演習、Balikatan 2019を実施した。この演習は、相互防衛、海洋安全保障、対テロ及び人道援助・災害救助(HADR)を含む広範な演習を通じて、互換性と相互交流を促進することで、米比同盟を強化することを狙いとしている。Balikatan 2019は、米比同盟が直面する地域的安全保障課題に留意して、Duterte政権発足以来、初めて領域防衛をこれまで以上に重視した演習となった。中国との政治経済関係を改善し、南シナ海における緊張緩和を目指した、Duterte大統領の政策に従って、前年までのBalikatan演習は対テロと HADRを重点としてきた。
(2)今年のBalikatan 2019は、空海及び海兵の統合戦力を誇示する、2つの領土防衛シナリオを演練した。サンバレス(ルソン島南シナ海沿岸)でのAMPHIBEX演習は、航空攻撃、と水陸両用強襲艇の着上陸によって不特定の敵からビーチを奪還し、その後地上作戦を遂行した。もう1つのシナリオでは、不特定のテロリスト集団からルバング島(マニラ南西)の飛行場を奪還する作戦を演練した。フィリピン軍の要請で実施したこの演習シナリオは、 南シナ海におけるフィリピン占拠海洋自然地形中、最大で唯一滑走路を有する(比名)Pagasa Island(英名:Thitu Island、中名:中業島)に対する潜在的脅威に対処する上で、重要な意義を持つ。Balikatan 2019には、4機のMV-22 Osprey、2機のMH-60S Sea Hawkヘリ及び少なくとも10機のF-35Bステルス戦闘機を搭載する、米海軍両用強襲艦、USS Wasp(LHD-1)が参加した。また、この演習には、今年の実動演習には参加しなかった日本に加えて、カナダ、英国、ニュージーランド、韓国、タイ及びベトナムからオブザーバーが参加した。
(3)最近の域内の政治、安全保障の動向は、フィリピン政府の南シナ海政策が目に見える形で戦術的に変化していることを示している。
a.第1に、南シナ海における中国の高圧的姿勢は今や、マニラが現存の滑走路を拡張しつつあるPagasa Islandにまで及んでいる。AFP通信の報道によれば、2019年第1四半期の間、600隻以上の中国漁船がPagasa Island周辺海域に出現し、時に沿岸警備隊の巡視船が随伴していた。AFPは、これら船団はマニラの滑走路拡張工事を監視していると推測している。中国社会科学アカデミーの専門家は、Pagasa Island周辺海域における中国の船団の存在はフィリピンへの「穏やかな警告」を狙ったものであると述べている。この専門家によれば、北京は、Pagasa Islandが米海空軍機の前方展開プラットフォームとなり、「南沙諸島における中国の人工島拠点の安全」を直接脅かすことになりかねないことを恐れている。
b.第2に、南シナ海での行動を求める、Duterte政権に対する高まる国内圧力がある。4月に実施されたある国内世論調査によれば、中国がフィリピンに善意を持って接していると見る者が、10人中、わずかに2人であった。この調査は現実を反映している。例えば、4月9日にマニラの中国大使館前で、約1,000人の抗議団が北京の活動を「侵略に等しい」と非難した。また、2人の上院議員は、海上民兵がPagasa Islandを取り囲むという中国の非友好的行動は許されないと言明した。つい最近では、中国外交部報道官がBalikatan 2019への米海軍強襲揚陸艦、USS Waspの参加を非難したことに対して、Lorenzana比国防相は、人工島を軍事化する中国こそが南シナ海におけるトラブルの元凶であると反論した。
c.そして最後に、Pompeo 米国務長官は、「南シナ海が太平洋の一部であり、従って、南シナ海におけるフィリピンの軍隊と航空機、あるいは民間船舶に対する如何なる武力攻撃も、米比同盟条約に基づく相互防衛義務発動の対象となる」と言明した。このPompeo長官の言明が、フィリピン政府の南シナ海政策の変化に影響を及ぼしたと見られる。フィリピン国防省は「インド太平洋地域における地政学と安全保障の力学」に「対応する」ように米比同盟条約の再検討を主張しているが、米国からのこうした言明は肯定的な動きとして歓迎された。注目すべきことに、このPompeo長官の言明の後に、Duterte大統領が中国に対してPagasa Island周辺海域から退去することを求め、同大統領の南シナ海がより強固なものとなってきた。
(4)Balikatan演習が領域防衛重視に転換したことによって米比同盟の信頼性が強化されることになったが、中国の高圧的な姿勢に対処するには、フィリピン政府の南シナ海政策は依然、不十分である。それ故、米比同盟は、中国を抑制するために、以下の戦略的行動を追求すべきである。
a.第1に、同盟は、南シナ海において合同哨戒活動を実施すべきである。こうした哨戒活動は、フィリピンのEEZ内とその周辺海域における法に基づく秩序を確保するために特定の海域で実施されるべきである。
b.第2に、同盟は、フィリピンにミサイルシステムを提供する可能性を検討すべきである。その際、ワシントンとマニラは、フィリピンの国防予算の限度内で可能な選択肢を検討すべきである。
c.最後に、同盟は、公的あるいは企業による合同開発計画を通して、防衛技術をフィリピンに移転する可能性を検討すべきである。防衛産業における協力は、より緊密な防衛関係のための経済的インセンティブとなるばかりでなくフィリピン軍の長期的な発展と近代化を支え、それによってフィリピン軍をより有能かつ信頼できる同盟軍に変えていくであろう。
記事参照:Balikatan 2019 and Philippine Policy on the South China Sea

4月18日「北極圏での海上交通のためのロシアと中国の協力―香港日刊英字紙報道」(South China Morning Post.com, April 18, 2019)

 4月18日付の香港日刊英字紙South China Morning Post電子版は、“Russia seeks Chinese support in developing Arctic shipping routes, promising long-term gas supplies in return”と題する記事を掲載し、ロシアが天然ガスの長期供給と引き替えに北極圏の海上交通を促進するための港湾とその他の施設の開発を支援するよう北京に要請しているとして要旨以下のように報じている。
(1)在中国ロシア大使Andrey Denisovは、ロシアは中国と協力して北極海運ルートを構築したいと述べている。モスクワは最近、北極海航路としても知られている北極圏全体の物資輸送を増やすために新しい港や他のインフラ施設を建設するという野心的な計画を打ち出した。Denisov大使はSouth China Morning Postに対し、Power of Siberia Twoとして知られるルートを通じた中国へのロシアのガス供給に関する交渉は進んだ段階にあると語った。彼は、双方が交渉のペースを加速させており、合意に達することに楽観的であると述べた。
(2)「東側ルート」としても知られているPower of Siberia Oneの取り組みは、12月10日に終了すると予想され、毎年380億立方メートルのガスを中国に運ぶと予想される。Power of Siberia Two又は「西側ルート」に関するいかなる取引も、中国とロシアの間のエネルギー同盟をさらに強化する可能性がある。北極圏の海岸線全体の約50%をコントロールするモスクワは、この地域の開発に力を入れている。これは、中国へのもう1つの主要なガス供給源となる可能性がある。
(3)中国によるロシアとの協力は、両国をその地位に挑戦するための統一戦線を形成するとみなすワシントンを苛立たせた。ペンタゴンは今年すでに「米国の国益を守り、北極圏の安全と安定を支援する」という戦略に取り組んでいると述べた。
(4)ロシアのVladimir Putin大統領は、4月9日、10日にサンクトペテルブルクで開催された国際北極フォーラムで、ロシアが北極圏の港湾を拡大する計画であり、そのために外国からの投資を歓迎すると述べた。Denisov大使は、「北海航路は距離的には非常に効果的だが、弱点は航海施設の不足である。海岸線全体に氷の強度やその他の自然条件を示すことができる特殊な装置を取り付ける必要がある」と述べた。「我々には砕氷船が必要である。ロシアは、かなりの数の砕氷船を所有しているユニークな国であり、近年新しい砕氷船を建造するための非常によく計算され、立証されたプログラムをもっている」「中国には砕氷船の建造とこのルートの通過にも経験がある」と彼は述べた。
(5)北京は、1990年代に北極へ研究調査と科学的手法を行う遠征隊を送り始めたが、この地域にとって最も強力で重要な新参者である。モスクワの西側との緊張関係も中国の投資家に門戸を開いた。同時に、ロシアの主要エネルギー供給国としての役割は、北京の公害との戦いによって後押しされており、中国が石炭から離れるにつれてガスへの依存度が高まっている。
(6)Denisov大使は、北極圏での中国との協力は「長距離かつ長期」である可能性があり、航行施設及び海運や航空機のモニタリングへの投資も含まれる可能性があると述べた。Northern Sea Route Information Officeによると、昨年このルートを航行した27隻のうち8隻は、国有の中国遠洋運輸集団からのものだった。ロシアの天然ガス生産業者であるNovatekは昨年7月、液化天然ガスの船荷を中国に配送し始めた。モスクワの北極圏への野望とそこでの北京の役割の増大は、他の北極圏諸国や環境保護主義者の懸念を引き起こしている。
記事参照:Russia seeks Chinese support in developing Arctic shipping routes, promising long-term gas supplies in return

4月19日「科学の双肩にかかる南シナ海の自然環境保護―米専門家論説」(East Asia Forum April 19)

 4月19日付のデジタル誌East Asia Forumは、環境政策に関わるジャーナリストでthe University of South Carolina Walker Instituteの研究員であるJames Bortonとthe Duke University Nicholas Institute for Environmental Policy Solutions上級研究員のJackson Ewingによる“Standing on the shoulders of science above the South China Sea fray”と題する論説を掲載し、ここで両研究員は南シナ海が領域紛争と不可分の環境危機に直面しているとして要旨以下のとおり述べている。
(1) 南シナ海は領域紛争と不可分の環境危機に直面している。中国が最も多いのだが、人工島の建設を通して自国の主張を強める行為によって、エコシステムや経済的な価値が破壊されている。先ごろ、南シナ海の環境破壊を防ぐための地域における科学協力の呼び掛けを非難する記事がEurasia Reviewに掲載されたが、幾つかの面で誤解が見受けられる。筆者は、この呼び掛けはロマンチックな観点から南シナ海におけるナショナリズムに基づくリアリスティックな政治力学を無視したものであると決めつけている。筆者は、環境保護のための協力の取組みは称賛すべきではあるが、現実的な政治ゲームが織りなされる南シナ海では夢物語に過ぎないと述べ、さらには、口ばかりの協力の無駄を指摘している。
(2) Eurasia Reviewの記事には以下のとおりの誤解がある。南シナ海の環境悪化の要因は多国間海洋協力の欠如ではなく、過剰漁獲、沿岸域汚染、人工島建設、等々の複合要因によるものである。このことは、環境悪化域が紛争海域を横断していることからも分かる。また、協力こそが依然として唯一の実現可能な環境保全策であることは国際認識でもある。  Eurasia Review は遅すぎると指摘しているがそのようなことはない。南シナ海に焦点を当てる先駆的な科学者達は57平方キロメートルの掘削・埋め立て地を回復不能と判断している。しかし、少なくとも南沙諸島の3,821平方キロメートルと西沙諸島の481平方キロメートル内の礁については、ダメージはあるが「もう手遅れ」という状況ではない。環境保護の協力については過去の実績がある。2002年から2008年に掛けて、国連環境プログラム(United Nations Environmental Program (UNEP))が、すべての南シナ海主要国を招聘しての地球環境ファシリティー(Global Environment Facility (GEF))の資金を活用したプロジェクトを展開した。プロジェクトでは、地域の科学者、海洋の専門家、政策立案者達が協力し南シナ海環境保護のための政策を立案した。その努力は、領域紛争が顕在する中においても環境保護のための協力を為し得ることを証明したと言える。
(3) 南シナ海諸国にとって、環境保護と科学調査は対中国問題の1つでもある。一方、中国にとっては、共同プロジェクトに留まることによってGEFとUNEPのテーブルにつき主張を通す場を得ることになる。そのような情況において、アメリカの関与を取り込むことは共同プロジェクトを動かす原動力となるだろう。また、環境保護における協力は信頼醸成の一環ともなり得る。様々な政治的障害はあるものの、UNEPは政策ネットワークづくりに取り組んでおり、緩やかではあるが、環境保護をいかにして促進するかコンセンサスを創り上げてきた。
(4) 今日の海洋において、科学者達の最大の関心は環境破壊であり、酸性化や生物多様性の危機さらには漁業資源枯渇への対応に向き合っている。今年4月11、12日、人道対話センターと中国国際問題研究院が、エコシステムの保全と持続可能な生物資源管理の促進のための協力戦略を議論することを目的として、科学者、研究者そして関係省庁当事者を交えた1.5トラックの多国間海洋環境ワークショップを開催し、成果として科学協力の重要性を提唱している。Eurasia Reviewが指摘するように、南シナ海諸国は自国の利益の追求は続けるであろう。しかし、それは南シナ海での海洋資源保護と両立できないものではない。
記事参照:Standing on the shoulders of science above the South China Sea fray

4月19日「空母の同盟:英国はインドに新たなQueen Elizabeth級空母を建造するか?―米隔月誌報道」(The National interest, April 19, 2019)

 4月19日付の米隔月誌The National interest電子版は、“Aircraft Carrier Alliance: Will Britain Build India a New Queen Elizabeth-Class Carrier?”と題する記事を掲載し、英国はインドで新たなQueen Elizabeth級の空母を建造する可能性があるとして、要旨以下のように報じている。
(1)英国の軍事産業BAEシステム社は、インドの3番目の空母として、Queen Elizabeth級空母の設計を提案した。その空母はインドで建造されるであろう。「BAEシステム社は、成功しているQueen Elizabeth級空母の設計に基づいた2番目の国産空母(IAC-2)の可能性について、インド側と協議を始めた。設計はスキージャンプ式でもカタパルト式でもどちらでも採用でき、インド海軍と現地の製造企業の要望に合致するようにすることができる」とBAE社は発表した。
(2)インドは、現在、4万5000トンのVikramadityaという1隻の空母を運用している。これは、実際は、元ソ連海軍のAdmiral Gorshkovである。この船にはエンジンの問題と艦載機であるMiG-29Kの信頼性の問題がある。しかし、インドは、初の国産空母である4万トン のVikrantを建造中であり、2020年には海上公試に出る予定である。インドの軍事計画ではよくあることだが、この艦も予算の大幅な超過などの問題や、部品を供給しているロシアの業者との問題が起きている。それでもインドは3隻目のより大きな空母を持ちたいと考えている。
(3)「英国の空母設計は海上で有効であることが証明されており、集中完全電気推進(IFEP)の6万5000トンの空母を持ちたいとのインドの要望に適している。この艦は、インドのMake in India’ programというスローガンの下、建造される。」とBAEシステム社の代表は、最近のマレーシアの軍事貿易ショーでオーストラリアの雑誌に答えて述べた。「政府、海軍、大企業、中小企業の各レベルに分散しているインドの建造業者が、英国で成功したように、空母建造に関して各々の役割と責任を分担し協力し合わなればならない。」とも付け加えた。
(4)英国の空母設計は、インドにとって興味深いものである。米海軍の10万トン級のNimitz級やFord級の空母は、カタパルトで発艦し着艦に際しアレスティンングギア(拘束具)を使用するCATOBAR方式である。英国海軍の2隻の空母は、米国で作られた垂直離着陸機(STOVL)F-35Bを使用するため、より甲板の短いスキージャンプ式である。スキーのジャンプ台のような傾斜した艦首を持つ空母では、カタパルトなしに発艦しヘリコプターのように垂直に着艦することができる。スキージャンプ式は、艦載機が垂直離着陸機に限られるようになるものの艦のサイズを小さくすることができる。
(5)インド現有の2隻の空母は、スキージャンプを使用したショートテイクオフで、着艦には米空母のようにアレスティンングギア(拘束具)を使用するSTOBAR方式である。CATOBAR方式よりも、簡素化し建造費を安くするためには、軽量化し積載量を減らすことが必要である。
(6)英国は、Queen Elizabeth級空母を建造する際に独自にCATOBAR方式も検討したが、最終的には費用のかからない垂直離着陸機(STOVL)用の空母とした。BAEシステム社は、カタパルト式でもスキージャンプ式でもどちらでも建造できると述べている。BAEシステム社を選ぶ利点の一つは、英国海軍とその関連の業者が、専門知識を使って二つの例を設計するという新たな経験を積むことである。もうひとつの興味深い問題は、インドが次期空母としてどのような空母を選ぶかである。米国のボーイング社はF/A-18スーパーホーネットを、フランスのダッソー社はラファール戦闘機を提案している。一方、インドはスキージャンプ式を選択したならば、艦載機は英国空母が使用しているF-35Bとなる可能性が大きい。
記事参照:Aircraft Carrier Alliance: Will Britain Build India a New Queen Elizabeth-Class Carrier?

4月20日「中国に対抗するため、米国は沿岸警備隊を変化させる―米紙報道」(The Washington Post, April 20, 2019)

 4月20日付のThe Washington Post 電子版は、“To help counter China, U.S. turns to the Coast Guard”と題する記事を掲載し、中国に対抗するため、米国は沿岸警備隊を変化させているとして、要旨以下のように報じている。
(1) 米沿岸警備隊(米沿岸警備隊所属船はCutterと呼ばれているが適訳がなく、以後「巡視船」と訳出)が、2019年3月東シナ海を通過する際に、中国艦船に公海上で追跡されたと米沿岸警備隊の高官が述べた。それは、米国人にとって、彼らがどこにいるのかを思い出させるものだった。中国沿岸から約200マイルの戦略的な問題となっている海にいたのだ。
(2)この状況は、中国の台頭に対抗する米国の新たな対応と、本来は比較的米国本土に近いところで活動する沿岸警備隊の新たな役割を明白にした。米沿岸警備隊は、古い巡視船に変え、新たな巡視船を配備し、ベトナムやスリランカの沿岸警備隊の訓練を支援することによって、徐々に中国に対応するようになってきた。米沿岸警備隊の司令官であるKarl Schultzは「国防総省はロシアと中国に対抗する方針をとったので、米海軍は『予約以上の申し込みがある状態になった(能力が与えられる任務についていかなくなった)』」と述べた。
(3)この要因には、「南シナ海の現実」と2017年に中国艦船と衝突した米海軍艦艇2隻の事件がある。「米沿岸警備隊は、米海軍と同じ能力を持っている」とKarl Schultzはあるインタビューで答えた。「米沿岸警備隊は、戦争になる以前の段階ではある程度の権限を持っている。我々は米国の軍艦である。外見は軍艦と違い、白い船体とオレンジ色のストライプの塗装をしているけれども。」
(4)米沿岸警備隊巡視船Bertholfが、2019年1月にカルフォルニアのアラマダからアジア太平洋地域に配備されたことは、この地域での米沿岸警備隊の活動拡大を示している。近代化されたこの巡視船は、米沿岸警備隊は国土安全省の管轄にはあるものの、アジア太平洋地域でこの地域に配備されている期間は米海軍第7艦隊の統制下にある。
(5)巡視船Bertholfは、2019年3月に米海軍軍艦Curtis Wilburとともに注目を集めた台湾海峡の通峡など、国防総省から与えられた多くの任務を遂行した。これは、中国沿岸の国際海峡がどの国の艦船でも通行可能であることを示したものである。そして巡視船Bertholfは、2019年4月15日に香港に寄港した。これは米沿岸警備隊にとって17年ぶりに中国港湾に寄港したものである。巡視船Bertholfは、東シナ海で、罰則強化の活動を行い、違法な船と船との北朝鮮あてと思われる荷物の移送(いわゆる瀬取り)の防止に努めた。巡視船Bertholfのこの行動は、ここ数年間で初めての米沿岸警備隊の比較的大きな巡視船のアジア太平洋地域への配備となっている。
(6)米沿岸警備隊は、2019年後半に、もう1隻の同規模の巡視船Strattonを配備することを発表した。巡視船Strattonは、アジア太平洋地域の訓練支援を専門に行う予定であると、同地域の沿岸警備隊指揮官であるLinda Fagan中将は言った。「米沿岸警備隊は、巡視船Bertholfが、アジア太平洋地域で米海軍の統制下にあるものの、軍艦としてだけ使用されることは望んでいない。米巡視船が米韓軍艦艇との相互運用性を持っていることを示したいという願望もある」とLinda Fagan中将は言った。
(7)米沿岸警備隊は、捜索救難活動や漁業者に対する法執行活動などに関して深い見識を示すこともできる。インド太平洋軍の副司令官であるDagvin Anderson空軍大将は、米沿岸警備隊はこの地域のパートナー国や同盟国にとって重要な「深い知識や独自の能力」を示しているとThe Washington Postへの発表の中で言った。
(8)米沿岸警備隊の法執行活動は、国防総省の目的を補完するものであるとも述べた。この地域での米沿岸警備隊の関与には、退役巡視船Morgenthauのベトナムへの移管も含まれる。これらの船舶は、ハノイの米大使館の声明文によればベトナムが密輸、海賊行為、不法操業をやめさせることに役立っているという。
(9)米国は、もう1隻の退役巡視船Sharmanをスリランカ海軍に2018年に引き渡した。このほか米沿岸警備隊は、24人乗りの高速巡視船を太平洋地域に配備しようとしている。3隻がハワイに、3隻がグアムに配備されるであろう。1隻はすでにホノルルからマーシャル諸島の一部であるKwajalein環礁まで航海した。
(10)米巡視船の配備により、ほとんどがコロンビア沿岸からであるが、1年間で180トン(400,000ポンド)のコカインが米本土に入ることを阻止することができた。Fagan中将は、米沿岸警備隊がもっと多くの巡視船を持てばアジア太平洋地域にいる巡視船はコロンビア沖に配備されるかもしれないと述べた。「それは、国家レベル、軍レベルで議論すべき問題となる。犯罪防止、東太平洋のプレゼンスの必要性、この地域での巡視船の価値について、どのようにすれば焦点を見失わないでいられるかが重要だ。」とFagan中将は述べた。
(11)この地域の安全保障問題を研究しているLyle Morrisは、「米沿岸警備隊はここ数十年間『地味な方法で』アジアに関与してきたが、現在は沿岸の小さな国々の自国の領海を守りたいという要望に応え始めている。沿岸諸国は、法執行の船舶や沿岸警備隊の巡視船を、比較的紛争にエスカレートすることのない、または少ないものと見ている。米沿岸警備隊の必要性は中国に対抗することを越えている。中国は、一つの大きくなってきている要因ではあるが、それだけが要因ではない。沿岸諸国の最大の制約要因は資金不足である。彼らは新しい船舶を購入する資金を持っていない。」と彼は述べた。
記事参照:To help counter China, U.S. turns to the Coast Guard

【補遺】

(1) Implementing the National Defense Strategy Demands Operational Concepts for Defeating Chinese and Russian Aggression
https://s3.amazonaws.com/files.cnas.org/documents/Key-Issues-for-Congress-Dougherty-final.pdf?mtime=20190410113128
Center for a New American Security, April 11, 2019
Chris Dougherty, a Senior Fellow in the Defense Program at the Center for a New American Security
2019年4月11日、米シンクタンク、The Center for a New American Security(CNAS)のChris Dougherty主任研究員は、同シンクタンクのウェブサイト上に" Implementing the National Defense Strategy Demands Operational Concepts for Defeating Chinese and Russian Aggression "と題する論説記事を発表した。同主任研究員は、2018年度版のNational Defense Strategy (NDS)で述べられている予算計画を取り上げ、大国である米国が戦略的優位性を維持していくためには、国防に関しても適切な投資を行っていく必要があり、米軍がロシアや中国と対抗できるだけの力を維持していかねばならないと主張し、そのためには予算に関して重要な役割を果たす米国議会がこの現状を理解し、新たな局面にある米軍の運用を予算面から適切にリードしていくことが重要であると述べている。
 
(2) Old Conflict Reignited: 30 Year-Old Compromise Divides USA and Canada
https://www.highnorthnews.com/en/30-year-old-compromise-divides-usa-and-canada
High North News, April 12, 2019
By Siri Gulliksen Tømmerbakke
2019年4月12日、ノルウェー国立NORD UniversityのHIGH NORTH CENTERが発行するHIGH NORTH NEWSの電子版は、“Old Conflict Reignited: 30 Year-Old Compromise Divides USA and Canada”と題する論説を掲載した。同論説では、①何十年ものの間、米国とカナダは、誰が北西航路の権利を保有しているかについて意見が一致しないことに同意してきたが、米海軍が2018年12月に北極海域での海運のための航行の自由を主張したことで、この議論は再び活気づいた、②米国は、これらの地域は国際公法の対象であり、したがって米国は国連海洋法(UNCLOS)に従って無害通航権を保有すると主張しているが、カナダとロシアは、北西航路(カナダ)又は北極海航路(ロシア)は通過権なしで完全統治権の対象となると主張している、③米国がカナダの北極海域で航行の自由の遠征を始めるのであれば、これは確かに両国間に大きな政治的摩擦を生み、米海軍が北極海航路で航行の自由の遠征を行うならば、ロシアはこれを戦争行為と見なすかもしれない、④問題は、米国人がこれらの作戦の目的と意味、航海が行われる場所と、ねらいは誰なのかを述べていないなどの見解、または主張が紹介されている。
 
(3) China’s Emerging Strategies in the Arctic
https://www.highnorthnews.com/en/chinas-emerging-strategies-arctic
High North News, April 19, 2019
By Marc Lanteigne, UiT: The Arctic University of Norway
2019年4月19日、ノルウェー、トロムソ大学のMarc Lanteigne准教授は、High North News上に" China’s Emerging Strategies in the Arctic "と題する論説を発表した。同准教授は、ここ数年で中国の北極圏への関心がそれまでの気候変動の自国への影響などといった問題から海運や資源採掘といった経済問題へとシフトしていると指摘した上で、中国のねらいは一帯一路で重要視してきたインド太平洋から西ヨーロッパにかけての地域に加え、北極圏における戦略的結節を確保することにあり、そのために北極圏の平和的利用や救難救助といった文言を持ち出している、などと指摘している。