海洋安全保障情報旬報 2019年4月1日-4月10日

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4月1日「米国、越沿岸警備隊へ哨戒艇6隻を引き渡しー英通信社報道」(Reuters, April 1, 2019)

 4月1日付の英通信社Reutersは、“U.S. delivers six patrol boats to Vietnam amid deepening security ties”と題する記事を掲載し、米国の軍事的援助による米越関係の強化と印越関係について、要旨以下のように報じている。
(1)かつての敵同士の間で紐帯が深められる中、米国は1,200万ドル相当の哨戒艇6隻を越沿岸警備隊に引き渡したと駐越米大使館は4月1日に発表した。これは2017年、2018年の2年間に引き渡された12隻の哨戒艇や滞洋性の高いカッター(巡視船)に追加されるものである。「これら哨戒艇の引き渡しは海上法執行、海上捜索救難、越領海及び排他的経済水域における海上での人道支援の領域で深められつつある米越の協調を示すものである」と米大使館は声明で述べている。
(2)一方、ベトナムは歴史的に困難な中国との関係を均衡させる一助として、大国及び地域との紐帯の改善を希求してきた。4月1日には、印越の軍事的紐帯が強化される中で印沿岸警備隊船舶がダナンに4日間の親善訪問を行った。
記事参照:U.S. delivers six patrol boats to Vietnam amid deepening security ties
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4月4日「高まる印越の海洋協力―ウエブ誌The Diplomat編集委員論説」(The Diplomat, April 4, 2019)

 4月4日付のウエブ誌The Diplomatは、同誌編集主任Prashanth Parameswaranの“Coast Guard Visit Highlights India-Vietnam Maritime Cooperation”と題する論説を掲載し、ここでParameswaranは印越間の海洋安全保障上の結びつきが強まっていることが再び注目を集めているとして、要旨以下のように述べている。
(1)4月に入り、印沿岸警備隊の巡視船がベトナムのダナンに寄港した。ベトナムとインドは、2016年に包括的な戦略的パートナーシップに昇格した、より広範な彼らの関係の一環として既存の国防協力関係を促進させることを検討しており、その傾向はこの1年続いている。実際、ベトナム沿岸警備隊によるインドへの最初の訪問を含め、過去数ヶ月間だけでも海洋領域で重要な進展が数多く見られた。
(2)インドの巡視船がベトナムを訪問したことで、両国関係における海洋の側面が再び注目を集めた。印沿岸警備隊の巡視船Vijitが、4月1日から4月4日にかけてダナン訪問ためティエンサ港に停泊した。Vijitのダナン訪問は、特に印越両国と両国沿岸警備隊の間の総合的な包括的戦略的パートナーシップを強化する取り組みとして特徴づけられる。Vijitの到着後、一連の歓迎行事が開催され、ベトナムの沿岸警備隊、軍及び国境部隊司令部、そして駐越インド大使館の代表が参加した。印沿岸警備隊の将校と乗組員はまた、第5軍区司令部とダナン人民委員会を表敬訪問し、沿岸警備隊第2管区司令部で机上演習とスポーツ交歓試合に参加した。印越両沿岸警備隊は洋上捜索救難訓練にも参加した。
記事参照:Coast Guard Visit Highlights India-Vietnam Maritime Cooperation

4月2日「地上から海洋の安全保障を考える――比研究者論説」(Asia Pacific Pathways to Progress Foundation Inc. April 2, 2019)

 4月2日付の比シンクタンクAsia Pacific Pathways to Progress Foundation Inc.のウェブサイトは、One Earth Future FoundationのプログラムStable Seasのプロジェクト・マネージャーAsyura Sallehの“Building Maritime Security from Land: A Multi-Faceted Approach”と題する論説を掲載し、そこでSallehは、海洋の安全保障を狭く捉えるのではなく、地上で起きている諸々の要因を考慮にいれて検討する必要があるとして、要旨以下のとおり述べている。
(1)6500Kmの長さに及ぶ東南アジア周辺海域沿岸の安全保障が不安定であることは周知の事実である。そしてその不安定さに関して、これまで国家間の軍事的対立や、領土・領海をめぐる対立に焦点が当てられてきた。東南アジアの海洋安全保障は、同地域諸国間のパワーバランスや、安全保障上の危機を緩和する能力などによって決定づけられてきたのであり、その結果、多国間協調よりも対立的、競合的なアプローチが重要視されてきた。これは、海洋安全保障をあまりに狭い観点から眺めてきたことの弊害である。
(2)むしろ海洋安全保障は、地上におけるさまざまな出来事の展開の延長線上に位置づけられるものである。One Earth Future FoundationのプログラムであるStable Seasは、こうした観点から、東南アジアの海洋安全保障のより全体的かつ多面的な理解を促進するものである。具体的には、海洋安全保障に影響を与える9つの要因を提示し、それらが相互に関連していることを示す。その9つの要因とは、① 沿岸地域の繁栄・発展、② 違法取り引き、③ 漁業、④ さまざまな人びとの海上の移動、⑤ 海賊行為・テロ行為、⑥ ブルー・エコノミー、⑦ 国際協調、⑧ 海洋法執行能力、⑨ 法規範である。
(3)これら9つの要因はそれぞれに関連しあっている。たとえば沿岸地域の発展が十分でないとき、それは海賊行為などを引き起こし、さらに違法な漁業を行う要因になるし、地域の不安定化をさらに促進、固定化するような政治的アクターの出現をもたらす。彼らは法規範を無視し、地上でも海上でも不安定な状況を永続化させる努力を続ける。またStable Seasのアプローチは国際協調の重要性を指摘する。それは、スールー海とセレベス海に関する三カ国の協定が示している。同海域はなお不安定ではあるが、2018年には、海賊行為などの報告は25%も減少している。また国際協調をより効果的なものにするためには、諸国の海軍や法執行機関の海洋法執行能力の強化や、それらの間の情報共有などが重要であろう。
(4)海洋安全保障を、地上での出来事の延長と位置づけることによって、この問題をより包括的かつ多面的に理解することにつながるであろう。純粋に海洋の安全保障の問題に焦点を絞るという考え方から脱却し、その他様々な要因の役割を理解することによって、海洋の安全保障を確保するためのよりよい解決策を導き出せるであろう。
記事参照:Building Maritime Security from Land: A Multi-Faceted Approach

4月3日「アンダマン海の上げ潮―シンガポール研究員論説」(The Strategist, April 3, 2019)

 4月3日付のAustralian Strategic Policy InstituteのウェブサイトThe Strategistは、National University of Singapore の研究員Ankush Wagle の“The rising tide in the Andaman Sea”と題する論説を掲載し、ここでWagleはアンダマン海を取り巻く情勢について、要旨以下のように述べている。
(1) 2018年、印首相Narendra Modiは、初めてアンダマンとニコバル諸島を訪問した。印本土から遠く離れ、しばしば忘れられているこの地域に、アンダマン・ニコバル軍(ANC)がある。これはインド初の三軍統合の軍である。印首相の訪問によって、この地域の安全保障上の重要性と戦略的価値がクローズアップされた。インド独立後の歴史の多くは、アンダマン海について触れていない。しかし、現在では、インド太平洋における海上での争いが、その状態を変えつつある。中国とインドは、影響力を求めてインド洋で激しく争っている。米国、日本、オーストラリア、ASEANもその争いに参加している。ベンガル湾やアンダマン海のような小さな海域が重要な戦域となっている。北と東に陸地があり南東にマラッカ海峡があるアンダマン海は、エネルギーと貿易にとって戦略的に避け難い重要な通商路(SLOC)である。
(2)アンダマン海防衛のため、印政府は、ANCの能力強化に注目した。Modi首相の就任以来、印政府は、この地域を守るというはっきりした意思を示してきた。2019年1月、印海軍は、急ピッチの建設を経て、北アンダマンに3番目の基地コハサを開設した。2018年印海軍は、3軍の活動を支援するために、統合補給処をANCに作った。またポートブレアに、さまざまな種類の艦艇の修理のため2番目の浮きドックも建設した。印海軍は2017年、キャンベル港の基地の改修を行い、滑走路を延長して基地を拡張した。2017年11月、ANCは5日間の「アンダマン・ニコバル防衛」演習を行った。演習は、各軍種に係る想定や訓練を実施することによって、ANCの即応能力を試すものであった。印政府は、2018年に南アンダマン諸島に近いルトランド島の長距離ミサイルの発射試験場に、環境上の使用許可も与えた。
(3)しかし、インドは自国だけで、ことを進めようとはしていない。2018年5月、Modi首相は、ジャカルタを初めて訪問し、両国の「インド太平洋における共有の海上協力ビジョン」を提唱した。特にアンダマン地域とインドネシアのスマトラ島とサバン港との連接を強化するための包括的文書を交わした。Modi首相訪問の直後に、インド海軍艦艇Sumitraがサバン港を訪問した。また最近では、印沿岸警備隊巡視船Vijitもサバン港を訪問した。検討中となっていた日本との物品・役務相互提供協定(ACSA)においても、海上自衛隊艦艇に補給できるようにする条項が含まれる予定である。
(4)インドは、現在の海上演習を継続しつつ、新たな演習も模索している。ANCは、現在、タイ、ミヤンマー、インドネシアと2国間の海上監視を含む、この地域の多国間訓練であるMILANを実施している。シンガポールとインドの2国間の演習(SIMBEX)も同じく実施している。2018年には、25年記念のSIMBEXが両国から多くの兵力が参加して行われ、多種類の艦艇航空機が参加して、実弾射撃を含む「多次元訓練」も実施された。インド、シンガポール、タイの3国による訓練も2019年に始まる予定である。
(5)インドが、アンダマン海に注意を払う唯一の国ではない。中国も、通商路(SLOC)の存在に戦略上の関心を長い間持ち続けてきた。中国のこの地域での活動は顕著である。中国海軍の潜水艦が、アンダマン海やニコバル諸島付近で目撃されたとの多くの報告がある。現在、中国は、影響力を保持するため沿岸国の戦略的なインフラ建設計画に投資している。そのような投資のひとつがクラ運河である。この運河は、アンダマン海と南シナ海を結び、マラッカ海峡のバイパスとなるものである。2018年、タイはこの運河の実現可能性について検討を始め、中国の投資家はこのプロジェクトに3000億ドルの投資をしたと伝えられている。2017年に両国が調印した協定により、タイは「アンダマン海における自国の資源を保護する」という目的で、中国から潜水艦を取得している。
(6)さらに北では、中国は、ミヤンマーのチャウピュー港の建設を支援している。中国とミヤンマーは、2018年11月にこの港の建設に関する協定を結び、中国は100億ドルを超える投資をしてきている。建設の目的は、表向きは貿易と通商の推進ではあるが、アンダマン海に関する何らかの条項があることはほぼ確かである。
(7)アンダマン海は、沿岸国以外の国にとっても重要である。オーストラリアは、インド太平洋の戦略的概念を重視している。専門家たちは、オーストラリアの努力は、ベンガル湾に集中しており、MILANや、やがてはMalabar演習のようなインド主導の訓練に参加するだろうと述べている。アンダマン海の戦略的価値が上がっているので、オーストラリアは、多国間演習や2国間のAUSINDEXのような演習など、現行のメカニズムの下でのアンダマン海での各国との協力を進めようとしている。
記事参照:The rising tide in the Andaman Sea

4月3日「インドがCOMCASAの下で米海軍と初の秘話伝達リンクを設定―印隔週誌報道」(Business Today, April 3, 2019)

 4月3日付の印隔週誌Business Todayのウェブサイトは、“India, US navies set up first ever secure communication link under COMCASA”と題する記事を掲載し、インドが通信共用安全保障合意(The Communications Compatibility and Security Agreement:COMCASA)の下で米海軍と初の秘話通信リンクを設定したとして、その内容を紹介し、要旨以下のように報じている。
(1) 米印の秘話通話装置の共用への道を開くCOMCASAが、2018年両国の初めての2+2対話の後で署名された。この合意の下、印海軍司令部と米中央軍司令部、米インド太平洋軍司令部司令部の間で、史上初めて秘話通信リンクが設定された。これによりインドは、米海軍の最新の情報にアクセスできるようになる。COMCASAの施行により、インドは米国から重要な防衛技術を取得するだけでなく、米軍の通信ネットワークやリアルタイムの米国の情報にアクセスすることができる。The Economic Timesによると米国は、現在、印空軍のC-130と C-17の数機において選択的に使用できる対妨害機能付GPSシステムなどを供用し、これらの機器更新により、米印双方が作戦情報をリアルタイムに共有できるようになる。
(2)この合意が署名される前は、インドが購入した米国の軍用機は、暗号コードを共有することができないので秘話通信装置を持っていなかった。このため、インドはP8I哨戒機に関しても、市場で購入可能な保全強度の低い通信システムに頼らざるを得なかった。COMCASAにより、これらの制約はなくなり、米国から暗号化された防衛技術を取得でき、インドがいつでも秘話通信装置を使用することができるようになる。軍事筋は、これらの通信機器をアップグレードするかは、すべてを米側が決めるのではなく、インド次第であると伝えている。
(3)インドはまた、インド軍航空機の情報はインドの事前承認なしには他国と共有しないとの確証を米国から得ている。事が順調に運べば、この合意により、やがて米印双方が同じ通信システムにより作戦できるようになり、両国の相互運用性が強固なものとなるだろう。
記事参照:India, US navies set up first ever secure communication link under COMCASA

4月4日「バルト諸国のロシアに対する「総力防衛」―米専門家論説」(The National Interest, April 4, 2019)

 4月4日付の米隔月誌The National Interest電子版は、同誌編集局次長John Dale Groverの“How to Create a Baltic Bulwark Against Russia”と題する論説を掲載し、ここでGroverは米国はバルト三国に「総力防衛」の強化を促すべきとして、要旨以下のように述べている。
(1)残念ながら、今日のヨーロッパのNATO加盟諸国は繰り返し所要の軍事力の維持に失敗しているが、米国は、バルト諸国とNATOヨーロッパが彼ら自身を強化するように迫るのが賢明だろう。
(2)70年前、ソ連はバルト諸国からシベリアへの9万5000人の強制収容を行った。現在独立しているエストニア、ラトビア及びリトアニアのバルト諸国は、その悲劇を鮮明に覚えており、防衛に真剣である。実際、RAND Corporationの頻繁に引用される2016年の報告書では、ロシアは3日でバルト諸国を占領する可能性があり、NATOは迅速に支援することができないと指摘した。一方、米国民は、戦争のコストを懸念しており、そして、ワシントンは増々中国に焦点を当てている。しかし、バルト諸国が採用し、強化すべきである「総力防衛」(total defense)という解決策がある。
(3)「総力防衛」は、誰もがその国の安全保障の一部であり、いかなる侵略にも抵抗する準備をしなければならないという考えである。これは、侵略のコストを引き上げ、敵の成功の可能性を低くする、防御的な社会全体の戦略である。2008年にロシアがジョージアに侵攻し、2014年にウクライナを侵略したことを考慮すると、この考えは勢いを増している。最低でも、「総力防衛」には、冊子による政府の情報キャンペーン、そして、警戒や市民が戦争にどのように対応するべきかに関する訓練が含まれる。「総力防衛」には、徴兵制度、そして、パルチザン、破壊工作員及び偵察兵として訓練された民間グループも含まれる。リトアニアの1990年代の取り組みを皮切りに、バルト三国はすべて様々な度合いで「総力防衛」を採用している。エストニアの防衛計画は「総力防衛」を求め、ラトビアは憲法にその戦略を取り入れている。民兵、市民団体、警察官、退役軍人、予備役軍人及び健康な市民は、正規の軍隊を支援し、必要ならば自主的に抵抗することが求められる。
(4)「総力防衛」は機能するし、歴史がある。一例として、1924年にエストニアで企てられたロシアが支援したクーデターへの対応がある。また、RANDによれば、スイスは冷戦期、国境近くの輸送インフラを破壊する「インフラストラクチャ拒否」を準備し、敵の前進を止めるためあらかじめ用意された罠と偽装した防衛施設の使用を計画していた。
(5)バルト諸国の「総力防衛」への米国の支援は、最も現実的で政治的に実行可能な選択肢である。ワシントンは、コストを急上昇させ、さらに海外に派遣された兵士の生命を危険にさらすことには過剰に用心深い。また、ヨーロッパのNATO加盟諸国のほとんどは、自分たちの防衛を真剣に考えていない。バルト諸国に自己を助けることを奨励することは、誰にとっても良いことである。困難を脱するためにワシントンに依存するのではなく、国家が自分たちを守ることができる場合に米国は利益を得る。米国は、切り札としてのバランサーである。ヨーロッパの同盟国は、支援のためにもっと力を尽くさなければならない。彼らは能力をもっているが、そうするという政治的意思を欠いていることは恥ずべきことである。
(6)バルト諸国は通常戦争に勝つことはできないが、彼らは強硬な抵抗によって攻撃者に血を流させることができる。ワシントンは、外交的な奨励でバルト諸国が「総力防衛」を2倍にすることを促し、彼らを支援し防衛するためにより多くのことをするようNATOヨーロッパを強制する政策を追求するべきである。正しく実施されれば、バルト諸国は、米国への相当なコスト又は危険なしにロシアを躊躇させるだろう。バルト諸国は、学校での市民防衛を十分に教えるべきである。また、24時間年中無休の準備を確実にするために、頻繁な民間のシミュレーションやウォーゲームも必要である。さらに、バルト諸国は、電波妨害やサイバー攻撃にもかかわらず、危機的な状況の指示が広まることを可能にすることを保証しなければならない。民兵や市民たちは、彼らの地勢、武器と物資の位置、そしてクーデターの試みを認識する方法を知る必要がある。NATO加盟国が自分たちを守るために必要なことをしたくない場合は問題があるが、バルト諸国は例外である。ワシントンは、「総力防衛」を達成するためにバルト諸国、そして、ギャップを埋めることを率先して行うようにNATOヨーロッパに迫るべきである。これにより、米国は、国内及びアジアでの重要な優先事項に集中することができる。
記事参照:How to Create a Baltic Bulwark Against Russia

4月4日「海氷の融解により、ロシア、カナダは北極の航路に対する法的主張を失うかもしれない-米ジャーナリスト論説」(ARCTIC TODAY, April 4, 2019)

 4月4日付の環北極メディア協力組織ARCTIC TODAYのウェブサイトは、米ジャーナリストMelody Schreiberの“Russia and Canada may lose their legal claim to Arctic seaways as ice melts, experts say”と題する論説を掲載し、ここでSchreiberは北極の海氷の融解に伴い国連海洋法条約第234条(氷に覆われた水域)に基づき北極海航路、北西航路に対する支配を正当化してきたロシア、カナダがその法的根拠を失うかもしれないとする専門家意見を紹介しつつ、要旨以下のように述べている
 (1)北極が急速に変化しているため、ロシア、カナダが北極の航路を支配する法的正当化もまた変化するかもしれない。最近、2つの異なる会議で専門家は国連海洋法条約第234条について議論した。
(参考:国連海洋法条約第二百三十四条 氷に覆われた水域)
 沿岸国は、自国の排他的経済水域の範囲内における氷に覆われた水域であって、特に厳しい気象条件及び年間の大部分の期間当該水域を覆う氷の存在が航行に障害又は特別の危険をもたらし、かつ、海洋環境の汚染が生態学的均衡に著しい害又は回復不可能な障害をもたらすおそれのある水域において、船舶からの海洋汚染の防止、軽減及び規制のための無差別の法令を制定し及び執行する権利を有する。この法令は、航行並びに入手可能な最良の科学的証拠に基づく海洋環境の保護及び保全に妥当な考慮を払ったものとする。
この条文は、ロシア、カナダ両国がそれぞれ北極海航路、北西航路を支配することを支持するものと解釈されてきた。しかし、この解釈は長く米国を含む他の国々との間で争われてきた。条文は環境の保全と地域を航行する際の安全を意図したもので、海運や経済活動を管制するものではない。
(2)気候変動は急速に進んでおり、両国は法的正当性を失うかもしれないと専門家は言う。米海大准教授Rebecca Pincusは、北極海航路に対するロシアの主張を補強するために234条をどのように使用してきたかを説明している。ロシアは北極のロシア領の島々に直線基線を引き、海域を囲い込んでそこを内水と宣言し、北極海航路の航行に関し特別の制限を設けてきており、最近は砕氷船の先導をつけるよう要求するようになったとPincus准教授は言う。そして、3月に出された新しい規則は北極海航路を航行する船舶はロシアの氷海水先案内人を乗船させるよう要求している。ロシアの主張は北西航路の管轄を正当化するカナダの主張に酷似しているとPincus准教授は言う。
(3)Wilson Centerが3月19日に実施した北極に関わる会議では、聴衆からのますます氷に閉ざされなくなった北極がロシア、カナダの主張にどのような影響を及ぼすのかという質問に対し、Wilson Centerの上席研究員David Baltonは「北極のようにますます氷が少なくなっていく所で、第234条がロシアやカナダが北極の彼らが関心を持っている所で行おうとしていることの正当化を依然法的に有効なものとするだろうか?答えはおそらく否である。第234条は1年の大半を氷に覆われている海域を必要とする。そして、そうではない北極のだんだんと現れてきている」と答えた。
(4)ロシア、カナダの北極の航路に対する主張の唯一の論争の根拠は氷に覆われていることではないとBaltonは指摘する。ロシア、カナダ両国が米国は現に同意していないとしている第234条に依拠しているだけではない、他の相違点や他の議論があるとBaltonは言う。Wilson Centerの研究員Sherri Goodmanも同意する。「これは、沿岸警備隊、海軍そして他の法学者が北極の物理的な変化とそれに続く法の法的解釈の双方にますます注意を払わなければならなくなる領域と考える」とGoodmanは述べている。
記事参照:Russia and Canada may lose their legal claim to Arctic seaways as ice melts, experts say

4月4日「危険な戦略の瀬戸際にある南シナ海―比専門家論説」(Asia Times.com, April 4, 2019)

 4月4日付の香港デジタル紙Asia Timesは、フィリピンのDe La Salle UniversityRichard J. Heydarian准教授による“South China Sea on a precarious strategic edge”と題する論説を掲載、ここでHeydarian准教授は南シナ海の最新の情勢について要旨以下のとおり述べている。
(1) 米中は、過去に例を見ないほどの2つのスーパーパワーによる海域を巡る争いを繰り広げている。3月31日に中国の戦闘機がこの10年間で初めて台湾海峡の中間線を越えて台湾側を飛行すると、米国とその同盟がいかに対応するかの憶測が飛び交った。米中紛争激化の憶測を煽っているのは、今年初めの習主席による「台湾の中国への統合は必然的なものであり、そのために武力を行使しないと約束することはできず、あらゆる選択肢を有する」旨の発言である。中国による南シナ海での行動のエスカレーションに対して、米国は自由で開かれた航行を維持することを誓っている。米中の挑発合戦がやがて両国の武力衝突を引き起こし、その衝撃が域外にも及ぶことが危惧される。中国の動きは台湾に限定されるものではない。先ごろ中国は、準軍事力に属する船舶や漁船からなる大軍団をフィリピンが占拠するパグアサ島の周辺に展開させ、威嚇的な行動をとった。これはフィリピンが同島の滑走路などを近代化したことに対抗するものであったことは明らかだ。
(2) 対してアメリカは、3月25日に沿岸警備隊の巡視船を派遣し台湾海峡を航行させた。これは今年1月と2月の海軍艦艇による航行に続くものであった。Pompeo国務長官は2月の東南アジア歴訪において、「南シナ海は太平洋の一部である。米国は南シナ海におけるフィリピンの艦船・航空機などへの武力攻撃において、米比相互防衛条約第4条のもとでフィリピンを援助する義務を有する」と述べている。米国には2012年の中国によるスカボロー礁占拠時の失敗がある。フィリピンでは米国との2国間条約の内容の見直しの動きがある。米国がフィリピンに武器供与する可能性がある。フィリピン国防相は、今月の訪米で移動式ロケットシステムの購入について話題に出した。米海軍は最近実施された米比演習で強襲揚陸艦とF-35B戦闘機を派遣した。強襲揚陸艦は軽空母に置き換える将来作戦構想に基づくものであるとの報道もあった。ただ、ドゥテルテ大統領が固執する米軍によるフィリピンの基地の固定的使用を認めないとする考えが障壁となっている。
(3) 米国は地域の同盟国に対して中国の拡張と南シナ海の軍事化に対抗する新たな意志を示しており、それはまた、地域を新たな戦略舞台とするものでもある。3月、米軍は核爆弾搭載可能なB-52爆撃機を歴史上初めて南シナ海に展開し、また東シナ海に接続する海域で航空自衛隊との共同訓練に参加させた。その後、米太平洋軍司令官(当時)は「米軍の航空機は、同盟国、友好国、自由で開かれたインド—太平洋を守るために常続的に南シナ海で作戦する」と述べている。米国の行動には中国による防空識別圏(ADIZ)設定への牽制がある。安全保障専門家の中には、中国は南シナ海島嶼での軍事基地化を進めた後に排他的海空域を設定するとの見方がある。米軍の南シナ海の海空域での行動は増加している。2月、米海軍作戦部長は中国による「グレーゾーン」や「戦闘に至らない」事態における作戦への対抗する作戦の必要性を強調した。
(4) 米国は、中国による民間人を装った武装集団による軍事的な作戦や監視活動等を公然と非難し始めた。米国国防総省は、中国の海上民兵を事実上の軍事組織と見なして人民解放軍海軍と同様のものとして対応すると述べている。米軍の中国沿岸域への作戦の拡大を受け、中国の強硬派は先のボアオフォーラムなどの場で厳しく対応すべき旨の発言をしている。中国南シナ海研究院の呉士存院長はボアオフォーラムにおいて、中国政府に対し紛争海域における抑止機能増強を訴え、「中国は米海軍艦艇が近傍海域に入ることを躊躇させるような防衛施設を展開すべきである」と述べた。呉院長はまた、「米国は単独では不十分と考え、英国、オーストラリアあるいは日本などの同盟国に共同行動を促すだろう」とも述べた。
中国が本気で米国が弱体していると認識しているか否かは別として、米軍の作戦立案者たちは、もし中国が軍事化と拡張政策を続ければ、地域諸国の厳しい反発を招き、結局、中国は南シナ海を失うことになると見ている。
記事参照:South China Sea on a precarious strategic edge

4月4日「米、ベトナムに2回目の空母派遣を計画―香港日刊英字紙報道」(South China Morning Post, 4 April, 2019)

 4月4日付の香港日刊英字紙South China Morning Postは、“US plans to send second aircraft carrier to Vietnam, highlighting concerns about China’s regional influence”と題する記事を掲載し、米国が2019年に空母の2回目の訪越を計画しており、これを定期的なものとする方向で米越が合意に向かっているとして要旨以下のように報じている。
(1)米国は2回目の空母のベトナム訪問と米越間の一層緊密な関係のためにこのような寄港を定例化することについて合意に達したいと希望していると高級国防当局者が4月3日に述べた。「ベトナム戦争終結以来、我々は初めて空母のベトナム訪問を行った。そして、ベトナム防衛当局者との間で2019年に2度目の空母訪問について合意に到達できると大いに期待している。我々の希望はこの空母訪問が両国関係の中で定期的なものとなることである。それが成熟した戦略的関係である」とインド太平洋地域担当国防次官補Randall Schriverがワシントンのシンクタンクhe Centre for Strategic and International Studiesで発言した。米国は、海洋における安全保障活動を支援するため2隻目の沿岸警備隊用カッター(巡視船)をベトナムに引き渡すことができるだろうとSchriver次官補は言う。
(2)南シナ海における中国の攻撃的な行動への懸念を共有することで、米越は紐帯を深めているように見られる。南シナ海は、毎年3兆ドル以上の貨物が航過する海域である。強化されつつある海軍の展開パターンの中で米空母はしばしば南シナ海を航過しており、そして、中国海軍艦艇に常態的に追尾されていると現場の海軍士官は言う。
(3)ベトナムは中国の領域の主張に対して最も遠慮なくものを言う反対者になっており、米沿岸警備隊のハミルトン級巡視船のような米国製装備を購入しつつある。
記事参照:US plans to send second aircraft carrier to Vietnam, highlighting concerns about China’s regional influence

4月7日「中国を抑止するため、なぜ台湾に新潜水艦が必要なのかー米海大教授論説」(The National Interest, April 7, 2019)

 4月7日付けの米隔月誌The National Interest電子版は、米海大のJames Holmesの“Explained: Why Taiwan Needs New Submarines to Deter China”と題する論説を掲載し、ここでHolmesCarl von Clausewitz等を引用しつつ、台湾が自衛努力をすることがまず重要であり、それが米国等同盟国の支援を引き出すことになり、その文脈で台湾が採るべき戦略はシー・ディナイアルで、新しい潜水艦を整備することの意義は大きいとして要旨以下のように述べている
(1)ワシントンがかつて禁止していた台湾の潜水艦を艤装するための装備の輸出規制を解除したため、潜水艦建造はいまや、現実のものとなりつつある。伝えられるところでは建造隻数は8隻であるが、国内企業が船体を建造し、海外の協力会社がセンサー、戦闘システム、武器システムを技術的助言とともに提供するようである。新潜水艦で編制された部隊は現有潜水艦部隊では得られない政治的、戦略的利益をもたらすだろう
(2)台湾が自らの運命を引き受けることは理にかなっている。国際情勢の神々は自ら助けるものを助ける。賢明な社会は、武力衝突の時には信用できなくなる同盟国を信じるよりも可能な限り自身の安全と利益に向かう。Winston Churchillは、1940年から1941年にかけて枢軸国に一人で立ったときに勇気を示した。英国の戦い(英国本土防空戦)において独空軍に毎日立ち向かった英空軍パイロットに倣った台湾の回答が潜水艦かもしれない。台湾海軍の潜水艦は、本国への攻撃の企図を撃破するか、あるいは同盟国がはせ参じてくるよう積極的な攻撃を行うかもしれない。Carl von Clausewitzは優先順位の競合からの同盟国の不確実性を説明している。ある戦闘員は他を支援するかもしれないし、その支援を誠実に実施するだろう。しかし、同盟国の抱える原因を自身のものと同じように真剣に取り除こうとは決してしない。状況が困難になると、Clausewitzが指摘するように強固な同盟関係にない国は離脱して行く。台湾住民は、この現実をよく理解している。中国は、台湾防衛に外部勢力が支援しないよう外交的、経済的、軍事的に動機付け、強制しているため、台湾の人々は見捨てられるかもしれないという予測に毎日直面している。それが、大陸中国に対する防衛を自らが握っていなければならない理由である。海ではこのことが「シー・コントロール」戦略から「シー・ディナイアル」戦略へ転換することを意味する。
(3)台湾海軍はもはや、近傍海域を支配することはできないし、海上優勢を再獲得する機会もほとんどない。ただし、そのことはすべてを失ったことを意味しない。防衛のため、台湾海軍は、自らのために台湾近傍海域を支配するのではなく、当該海域を人民解放軍海軍が支配するのを拒否する必要がある。シー・ディナイアルは昔からある弱者の戦略である。巧妙に、そして想像力を持って運用される安価でありながら大きな能力を有する小艦艇群は敵艦隊に厄日をもたらすことができる。
(4)現代の通常型潜水艦はAIPシステムを搭載し、探知を回避するために長時間潜航を持続することができる。高速哨戒艇はその存在を秘匿するために海上交通に紛れ込むか、混雑する海岸線付近に潜むことができる。洋上を航走し、あるいは水面下で哨戒するシー・ディナイアルの艦艇は向かってくる敵に対し魚雷攻撃を実施し、あるいはミサイルを発射することができる。そしてこれら艦艇はあらゆる種類の無人航空機、無人水上艇、無人潜航艇と行動を共にすることができる。交戦は台湾海峡の狭隘な海域で生起し、人民解放軍海軍の艦艇は近距離からの攻撃を受け、対応時間が短いことから対処は困難であろう。現代の海戦では1982年のフォークランド紛争に見るようにたった1隻の潜水艦で敵の戦略を傾かせることができる。もし、台湾海軍が米国や同盟国から装備品、その操作法、助言を受けているとすれば、台湾海軍はアルゼンチン海軍よりも容易に優れた能力を発揮すると人々は考える。台湾海軍の効果的な潜水艦戦は、人民解放軍海軍の作戦パターンに歪みを生じさせ、台湾の利益になる可能性がある。理想的な場合、台湾近傍海域への侵入を完全に阻止するかもしれない。建造隻数は、台湾の目的に適合していると思われる。新しい潜水艦を建造し、老齢艦を除籍すると保有隻数は8隻で安定するだろう。訓練、整備、修理を考えると3ないし4隻がいざと言うとき戦闘任務に充当できる。これらは戦略的資産である。海軍の指揮官達は、係留中の潜水艦を先制攻撃から防護すると同時に、潜水艦を常に哨戒に展開し、乗組員の戦術能力を高めなければならない。
(5)台湾海軍はシー・ディナイアルの能力をどのように最大化できるのか。シー・ディナイアルは戦略的に防勢と見られるが、攻勢的戦術を排除するものではない。事実、海軍戦略の専門家達によれば、攻勢は戦略的防勢の中核である。潜水艦は価値ある部隊である。台湾海軍の潜水艦は港湾を出入港する船舶を襲撃するために大陸の港湾沖合で待ち伏せするかもしれない。あるいは、第1島嶼線にあるルソン海峡や宮古水道のような海峡やその近傍を哨戒するかもしれない。中国の攻撃目標が島嶼線の内側に集中することは、台北が台湾本島の東海岸の安全を守るのを助けるかもしれない。このことは、人民解放軍の海洋での動きを制約するために米軍が同盟国とともに島嶼線に沿って構築しようとしていると思われる「逆万里の長城」の中央部分を台湾軍が支えさせるかもしれない。台湾海軍の努力は台湾の将来を良い方向に進めるだけでなく、同盟国の戦略全体を前進させる。その結果、米海軍や海上自衛隊のような同盟国が台湾防衛に手をさしのべるような強い誘因を生み出すことになる。援助を提供するためだけの曖昧な誓約ではない相互主義は、共通の主義を支持して同盟を結束させる。台北は自身を助けることで他を助け、自身の利益が他国を台北支援に駆り立てる。
(6)好循環が始まるだろう。したがって、どうしても国内造船所に船体を建造させ、海外の協力者に潜水艦建造に、そして潜水艦乗組員に必要なものを提供させる。より多くの潜水艦をより早く海上の展開することがより望ましい。潜水艦部隊の間で共通の戦術、訓練、混交防止の方策等々について内密の討議を始めるのに早すぎるということはない。今、人的要因を整理し、台湾の水中における優れた能力を強化する問題を新装備品の調達の問題に切り替える。海中での多国間の戦闘の術と科学を洗練しよう。そして、ただちに始めよう。1982年のフォークランド紛争で英海軍、アルゼンチン海軍がともに学んだようにたった1隻の潜水艦でも敵の戦略を傾かせることができる。台湾が新しい潜水艦を取得する時だ。
記事参照:Explained: Why Taiwan Needs New Submarines to Deter China

4月8日「魚よりも多いプラスチック袋、東アジアの新たな環境危機―シンガポール専門家論説」(RSIS Commentary, 8 April 2019)

 4月8日付のシンガポールThe S. Rajaratnam School of International Studies(RSIS)のウェブサイトRSIS Commentariesは、同国Nanyang Technological University (NTU)のthe Centre for Non-Traditional Security Studies (NTS Centre)研究員Lina Gongの“More Plastic Bags than Fish? East Asia’s New Environmental Threat”と題する論説を掲載し、ここで Gongは海洋プラスチック問題が東アジアにおける新たな環境上の脅威になっているとして、要旨以下のように述べている。
(1)海洋プラスチック汚染は人類が直面している新たな環境的脅威である。特に東アジアの6カ国が主要な汚染源となっており、これら諸国の中には新たな脅威への取り組みを始めている者もあるが、より多くのことができるはずである。国連環境計画(UNEP)は持続可能な開発目標(SDG)に基づき、2019年3月11日から15日までケニアのナイロビで第4回国連環境総会を開催したが、海洋プラスチック汚染抑制に焦点を当てた海洋保護も主要議題の一つであった。対策なしでは2050年までに魚よりプラスチック廃棄物の方が多くなるとの予測もある。本会議においては海洋プラスチック削減の協力呼び掛けを含め、持続可能な開発に関する決議が採択されたが、東アジアでも海洋環境保護の重要性が増している。
 (2)東アジア諸国は海洋プラスチック片の脅威に直面している。 2015年の海洋保護区に係るマッキンゼー環境ビジネスセンターの報告書によれば、中国、インドネシア、フィリピン、ベトナム、タイが世界の海洋に排出されるプラスチック廃棄物の60%を占めている。 一人当たり水準では日本も世界第2位である。海洋プラスチック汚染は多くの地域諸国の安全と発展を脅かす可能性があり、 それは海洋生物を殺し海洋環境を汚染することで生態系を破壊する。そして人々が汚染された魚介類を摂取することによりマイクロプラスチックが食物連鎖に組み込まれる。この地域の多くの住民が蛋白質摂取をシーフードに頼っている中、このことはアジア全体の食品安全と公衆衛生に対する潜在的脅威ともなり得る。一方、この地域の海洋関連経済部門における持続可能ではない種々の慣行は、海洋プラスチック廃棄物急増の一因ともなっており、結果的に自らの業績にも悪影響を及ぼしている。バリやボラカイなど観光収入に大きく依存している島々にとって沿岸地域の激しいプラスチック汚染は人気観光地としての評判を傷つけるかもしれない。また、生態系の混乱は海洋資源を巡る国家間の競争を激化させる可能性もある。
(3)こうした問題の深刻さを認識した東アジア地域諸国は行動を起こし始めている。インドネシアは2025年までに海洋プラスチック片を70%削減する目標を設定した。シンガポールでは国立公園委員会が環境NGOと共同で2017年から2年間の調査を開始、9か所でゴミやマイクロプラスチックの監視を実施している。ベトナムとフィリピンも増大する課題に対処するための行動計画、戦略を策定した。日本政府も2018年8月、具体的目標値を含む国家戦略の草案について議論を始めた。この問題に関する規制や法律の強化の議論もある。 例えば日本では、2018年6月、マイクロプラスチック削減を目的とした法案が可決された。
(4)こうした共通認識は地域的な共同努力に向けての基礎を構成する。 2018年10月28日から29日までインドネシアのバリ島でOur Ocean Conferenceが開催された。インドネシアはニュージーランド、日本と共同で海洋プラスチック廃棄物対応における地域協力の呼び掛けを実施し、その後、11月に開催された東アジア首脳会議(EAS)では、本件に係る首脳声明が採択された。また、今年度のASEAN議長国としてのタイも協力とパートナーシップを通じた持続可能な開発促進における全体的取り組みの一環として、海洋プラスチックの問題に取り組むことを考慮している。2019年3月5日、ASEANはバンコクで海洋ゴミ特別閣僚会議を開催した。海洋プラスチック問題に関する宣言は、今年後半にASEAN首脳会議に提示される可能性が高い。
(5)海洋プラスチック廃棄物への関心が高まるにつれて、この問題について政府及び国民の認識も高まっているが、海洋プラスチック、特にマイクロプラスチックをより効果的に削減するには全体的アプローチが不可欠である。それは、使い捨てプラスチック製品の使用制限ないし禁止にとどまらず、廃棄物管理の改善、法律制定と法執行、消費と生産の変革、資金調達及び新技術の適用なども含めなければならない。しかし、こうした意識の高まりと各国のコミットメントにも係らず課題と障壁は残っている。使い捨てプラスチック製品の使用を制限すれば事業コストが増加する可能性があり、それが政府の方針に影響を与える産業界からの抵抗を受けることになるだろう。 例えば、インドネシア政府が2018年にビニール袋の課税規則の起草を開始したが、その草案は依然さまざまな省によって議論されており、発表は予想よりも遅れるであろう。
(6)使い捨てプラスチック製品を削減しリサイクルを増やすことは人々の消費習慣を変えるということを意味しており、国民の理解と協力を得るには初期段階での意識向上と何らかのインセンティブも必要であろう。例えば、フィリピンとタイでは、プラスチック廃棄物の問題を含む沿岸及び海洋汚染への取り組みの一環として、2018年に幾つかの観光地を閉鎖したが、これは観光産業に依存する地域社会の懸念を引き起こした。こうした関係者の理解と協力を確実にするためには何らかのインセンティブと代替策が不可欠なのである。
(7)また、プラスチックを分解させて環境への悪影響を低減する技術的進歩も、この問題の解決策の一つとして期待されている。日本はThe Knowledge Centre on ASEAN Marine Debrisに技術的、財政的支援を実施することで、この分野におけるASEANとの協力を開始した。専門家コミュニティと関連の民間部門は技術的な専門知識と資金調達スキームを提供するという点で特に重要な役割を担っている。海洋プラスチック汚染のさまざまな側面に対処し、複数の関係者を巻き込んでの全体的アプローチは、この課題を効果的に解決するために不可欠なのである。
記事参照:More Plastic Bags than Fish? East Asia’s New Environmental Threat

4月8日「南シナ海、越占拠拠点における施設整備状況―CSIS公表」(Asia Maritime Transparency Initiative, CSIS, April 8, 2019)

 米シンクタンクCSISのWebサイト、Asia Maritime Transparency Initiative(AMTI)は、4月8日付で、 “Slow and Steady: Vietnam’s Spratly Upgrades”と題する記事を掲載し、ベトナムが南シナ海の自国占拠拠点における施設整備を、ゆっくりだが着実に進めているとして、要旨以下のように述べている。
(1)ベトナムは、南沙諸島の自国占拠拠点(outpost)における施設整備を着実に進めている*が、フィリピンが最近経験したような中国の海上民兵による抗議には直面していない。ベトナムは、南沙諸島の27の海洋自然地形(feature)とその周辺で49の拠点を占拠している。27の海洋自然地形の内、わずかに10が島嶼と称し得るもので、残りの大部分が海面下にある暗礁か砂洲である。Spratly Island(越名:Đảo Trường Sa)は、ベトナムの占拠拠点で最大であり、南沙諸島における管轄センターでもある。ベトナムは、2015年から2016年にかけて、同島の小規模な滑走路を延長するとともに、防波堤を備えた港を建設するために、拡張工事に着手した。ハノイは、建設機械を使用して、同島周辺の環礁の一部を浚渫し、砂を盛り上げて、約40エーカーの新たな地積を作り出した。この拡張工事は、時間をかけたもので、中国の大規模な人工島造成ほどの環境破壊をもたらさなかったが、意図的な珊瑚礁の破壊があった。
(2)AMTI が2017年半ばにベトナムの全拠点の調査結果を公表して以来、ハノイは、Spratly Islandの整備を目立たない程度に続けてきた。この2年間で、南沙諸島で唯一の同島の滑走路は、750メートルから1,300メートルに延長された。2017年半ばには、滑走路の両端に各2棟の大型格納庫が完成した。これら4棟の格納庫は、PZL M28B 海上哨戒機とCASA C-295輸送機、あるいは将来取得される同型機を格納するためと見られる。ハノイは、同島の北東端に、1対の大規模な情報収集施設か通信施設と見られる建屋を建設し、その内の1つが2018年にレドームで覆われた。同島の人工港に沿った新しい埋立地区に一群の建屋が建設された。これらの建屋の多くはソーラーパネルで覆われ、また新しい運動場もソーラーパネルで覆われた同島の管理棟の側に建設された。ベトナムは、同島の新たに造成された土地を暴風雨から護るために、島の端に沿って一連の排水設備網を建設した。Spratly Islandに加えて、ベトナムは、Pearson Reef(越名:Đảo Phan Vinh)の小規模な砂州(cay)に若干の改良を施した(また、同Reefの別の側に円形の施設を建設した)。ハノイは、2014年以前に同Reefの小島(islet)に約6エーカーの新たな土地を造成し、また2016年からヘリパッドとソーラーパネルの建設を含む施設整備を行い、そして新しい埋立地区に植栽し、2017年半ばから大型レドームを小島の西側の建屋の上に設置した。情報収集施設か通信施設の改良とみられる。浸食を防ぐためとみられる埋立地区の植栽は、完成しているようである。
(3)ベトナムが建設している施設の大部分は、Spratly IslandやPearson Reefのような海洋自然地形の上ではなく、低潮高地や完全に冠水した砂洲や暗礁に上に建設されている。これら施設の中で最も多いのが、南沙諸島周辺の砂洲や暗礁に上に建設された、25の円筒形の建造物である。2017年半ば以降、Petley Reef(越名:Đá Núi Thị)とSouth Reef (越名:Đá Nam)では新たに2つ目の建造物が増設され、Petley Reefの施設は2018年後半までには完成したが、最近の衛星画像によれば、South Reefでは依然建設中である。南沙諸島の環礁や島嶼の南西端までには、ベトナムの大陸棚の一部であるとされる、6つの冠水した暗礁があるが、ベトナムは、この海域で14の拠点を整備し、それらを「経済、科学、技術サービスステーション」(Dch v-Khoa: DK1)と呼んでいる。これらの冠水した暗礁は、ベトナムが中国の反対を押し切って外国の石油企業に開発ライセンスを認可した、石油・天然ガス開発鉱区に囲まれている。ハノイは、2017年以降、2つの開発鉱区の停止を余儀なくされたが、その背景には中国による暴力的威嚇があったと言われる。2017年半ば以降、Prince of Wales Bank(越名:Bãi Phúc Tần)とGrainger Bank(越名: Bãi Quế Đường)にある4つのDK1 プラットホームが、2階建ての建造物とより大きなヘリパッドを持つ施設に拡充された。2016年から2017年の間に、他にも8つのDKIが拡充された。
(4)ハノイは、南シナ海を巡る最近の状況とは関係なく、南沙諸島とその周辺における自らの能力を、ゆっくりだが着実に強化していく決心のようである。ベトナムは、中国のように自国占拠の海洋自然地形における大々的な軍事化を進めているわけではないし、これらに例えば攻撃機などを配備しようとする兆候もない。むしろ、ハノイの能力強化は、係争海域における監視、哨戒能力を強化することを目指しているようであり、特に円筒形の建造物とDK1 プラットホームでは、そこでの居住環境と、必要な場合、ヘリによる再補給を可能にするよう改善されている。ベトナムがSpratly Islandの建屋の屋根に、そして中国が西沙諸島のTriton Island(中国名:中建島)の砂浜に、それぞれ愛国的なディスプレイを描いたのに倣って、AMTI は2019年2月に、マニラがLoaita Cay(比名:Melchora Aquino Cay/Panata Island)の建屋の1つの屋根にフィリピン国旗を描いたことを公表した。対抗して、中国は最近数カ月で、Triton Island(中国名:中建島)のディスプレイ(「祖国万岁」と「党辉永耀」の文字)を、中華人民共和国国旗と共産党旗で覆い隠した。更に、同島北西の砂浜には、人民解放軍兵士によって、解放軍の任務に関する2012年の習近平主席の言葉が書かれた。
記事参照:Slow and Steady: Vietnam’s Spratly Upgrades
備考*:ベトナムの施設整備状況の衛星画像については以下を参照
Vietnam Island Tracker
備考**:Under Pressure: Philippine Construction Provokes a Paramilitary Response

4月9日「Putin大統領、北極での活動拡大の野心的計画を発表―加放送協会報道」(CBC, Apr 09, 2019)

 4月9日付のカナダ放送協会のウェブサイトは“Putin presents ambitious Arctic expansion program”と題する記事を掲載し、4月9日の北極フォーラムにおいてPutinロシア大統領が演説し、北極圏における新港建設、従来の基幹施設の拡充、更新、砕氷船隊の拡充を実施し、北極海の航路を使用する貨物輸送量を大幅に拡大するとの野心的計画を発表したとして要旨以下のように報じている。
(1)Putin大統領は4月9日、北極におけるロシアの足場を守る野心的計画を発表した。これには、新港及びその他の基幹施設建設、砕氷船隊の拡大が含まれる。サンクトペテルブルクで開催された北極フォーラムでの演説でPutin大統領は、ロシアは北極海の航路を航過する貨物海上輸送を2025年までに2千万トンから8千万トンに劇的に増加させる計画であると述べた。「これは現実的で、良く計算された具体的な計画である。ロシアは原子力砕氷船を保有する唯一の国であり、その勢力を拡大しつつある」とPutin大統領は言う。Putin大統領は、北極を横断する航路の両端コラ半島のMurmansk とカムチャツカ半島のPetropavlovsk-Kamchatskyの港湾を拡張する計画であり、この工事計画へ海外企業が投資するよう案内した。航路沿いの他の港湾、基幹施設も更新拡張されるとPutinは言う。
(2)「時々、北極が地政学の争点とされていることを耳にする。我々は平和と安定の地域として北極を理解している。それを当然と考えてはならない。それは北極圏国間の政治的決定と実践に当たっての協調の結果である。国際法の尊重と地域での協調が国境を越えた平和と安定の鍵である」とノルウェー首相Erna Solbergは演説した。Solbergノルウェー首相やフォーラムで発言した他の首脳達は北極圏の国その差異のではなく相互利益の領域に焦点を当てるべきだと強調した。
(3)ロシア軍は北極に広がる旧ソ連時代の軍事基地を刷新、近代化してきており、地球上で未発見の石油と天然ガスの四分の一が埋蔵されて北極の保持を守ろうとしているようである。フォーラムでSergey Lavrovロシア外相は北極における軍の展開は国益を擁護するためであると述べている。Putin大統領はフォーラムを利用してウクライナ問題に絡む米国、EUのロシアに対する制裁を非難したが、北極においてロシアがその存在を拡大するという計画を米国、EUは阻害しないだろうと強調した。
記事参照:Putin presents ambitious Arctic expansion program

4月10日「南シナ海における中国漁船団の活動が中比関係に与える影響――比研究者論説」(South China Morning Post, April 10, 2019)

 4月10日付の香港日刊英字紙South China Morning Post電子版は、フィリピン人研究者Richard Heydarianの“How a swarm of Chinese fishing vessels could swamp Duterte’s effort to strengthen Philippines-China ties ”と題する論説を掲載し、ここでHeydarianは、近年の大量の中国漁船団による南シナ海での活動が、中比関係、特にRodrigo Duterte大統領の親中路線にどのような影響を与えるかについて、要旨以下のとおり述べている。
(1)ここ最近、南沙諸島に位置するパグアサ島をめぐって中国・フィリピン間の緊張が高まっている。2019年に入り、中国漁船の大群がパグアサ島近くで活動し続けている。比大統領Rodrigo Duterteは「パグアサから退去せよ」と強い口調で訴えたが、彼は従来中国との関係改善を方針としてきたのであり、5月の中間選挙を前に板挟みの状況にある。
(2)大量の中国漁船がパグアサ島近海で操業をしていることについて、アメリカのシンクタンクAsia Maritime Transparency Initiativeが報じていたが、比軍が公式にそのことを認めたように、フィリピンではようやく最近になって関心を集めるようになった。比外務省は4月4日に声明を発し、同海域における中国船の活動は違法であり、そこからの退去を要請するまでに至った。
(3)中国政府は、当該海域での中国船の活動は無害な船舶による合法なものであると主張する。しかし外部のアナリストは、その船団のほとんどが海上民兵部隊という準軍事組織に属していると見る。また、フィリピンからしてみれば、彼らの活動は、フィリピンが現在進めているパグアサ島の老朽施設の修復、改良や、その近くのサンディ岩礁における建設作業を監視、威嚇ないし妨害するものであった。
(4)中国によるこうした準軍事組織を用いた行動は近隣諸国に懸念されている。軍事的に弱体な国々は、海上民兵などによって補給線が寸断されることを恐れている。結局のところ、中国は実際に武力に訴えることなしに、南シナ海をはじめとする領海をめぐる論争において強固な立場を築くことができているのである。
(5)こうした中国の姿勢に対して比国民は快く思っていない。フィリピンの世論調査機関Social Weather Stationsによる最近の調査では、近隣諸国の間で中国に対する好意的感情が最も低いという結果が出た。Duterte大統領の敵対勢力は、こうした反中国感情を利用し、Duterteの親中路線を批判し、南シナ海問題についてもっと強硬な姿勢をとるべきだと主張している。元比外相のAlbert Del Rosarioと前最高裁判所判事のConchita Carpio-Moralesが、周辺諸国の漁民などへの人道に対する罪などで、習近平をはじめとする中国政府のトップを国際刑事裁判所に提訴するという動きすらあった。Del Rosarioは、Duterte政権は中国に対する「対外政策を再検討しなければならなくなる」と予測した。
(6)現在のところDuterte大統領は方針を転換する姿勢を見せていない。彼にとって南沙諸島をめぐる対立は、中比関係強化という全体的な方針を変更するようなものではない。「もし戦争になれば……われわれは勝利できないであろうし、その犠牲は想像を超えたものになるであろう」という考えのもと、彼は現実的なアプローチを是とする。しかし、パグアサ島をめぐる危機を前にして、今後中国に対する方針が維持されるかどうかは不明瞭な状況にある。
記事参照:How a swarm of Chinese fishing vessels could swamp Duterte’s effort to strengthen Philippines-China ties

【補遺】

旬報で抄訳紹介しなかった主な論調、シンクタンク報告書
(1) British Naval Activities in the South China Sea: a Double-Edged sword?
https://www.chinausfocus.com/peace-security/british-naval-activities-in-the-south-china-sea-a-double-edged-sword
China US Focus.com, April 4, 2019
Li Jianwei, Director and Research Fellow, National Institute for South China Sea Studies
Ramses Amer, Associated Fellow, Institute for Security & Development Policy, Sweden
2019年4月4日、National Institute for South China Sea Studies (中国南海研究院)のLi Jianwei(李建偉)研究員とスウェーデンのInstitute for Security & Development Policy のRamses Amer客員研究員は、ウェブサイトChina US Focus.comに連名で" British Naval Activities in the South China Sea: a Double-Edged sword?"と題する論説記事を発表した。同論説は、英海軍の南シナ海での活動、特に米海軍との共同訓練を切り口としたものであるが、英国が歴史的にアジア諸国との関係が密であり、現在も同国にとって南シナ海が重要なチョークポイントであることを指摘した上で、英国がEUから離脱しようがしまいが、同国にとっての南シナ海の重要度が変化するわけではなく、今後も積極的な関与を続けるだろうが、それは中国にしてみれば米国の封じ込め政策への賛同であるし、ASEAN諸国は新たな火種として捉える可能性があると指摘している。
 
(2) Vietnam wants a South China Sea dispute resolution pact with teeth, not more politics
https://www.scmp.com/week-asia/opinion/article/3005221/vietnam-wants-south-china-sea-dispute-resolution-pact-teeth-not
South China Morning Post.com, April 9, 2019
Dr Le Hong Hiep, Fellow, ISEAS-Yusof Ishak Institute
2019年4月9日、シンガポールのISEAS Yusof Ishak Instituteの研究員であるDr Le Hong Hiepは、香港紙South China Morning Post に“Vietnam wants a South China Sea dispute resolution pact with teeth, not more politics”と題する論説を寄稿した。その中でHiepは、①ベトナムは、南シナ海の権利主張国として、長年にわたり、無条件で十分な法的拘束力を持ち、紛争を管理するための実際のメカニズムを提供する「行動規範」を採用するよう当事諸国に繰り返し促してきた、②ベトナムは、中国の扱いを考慮して、友好的な交渉や調停などの紛争解決策を提案しているが、紛争解決の他の平和的手段を妨げるものは何もない、③ベトナムが2020年にASEAN議長を務めることで、ハノイは南シナ海問題を浮き彫りにする機会を得るし、「行動規範」交渉を加速させようと試みるかもしれないが、規範の本質を犠牲にするわけではない、④必然的に、「行動規範」の交渉は困難で時間が必要だが、「行動規範」を早期に達成することと、それを実質的かつ効果的にすることとの間の痛みを伴うトレードオフは、すべての当事国にとって困難な選択を提示するだろう、などと主張している。
 
(3)The Impact of Great Power Competition on the U.S. Navy
https://nationalinterest.org/feature/impact-great-power-competition-us-navy-51877
The National Interest, April 10, 2019
By John S. Van Oudenaren, assistant director at the Center for National Interest
2019年4月10日、米シンクタンク、Center for the National Interestのassistant director であるJohn S. Van Oudenarenは、米誌The National Interest(電子版)に" The Impact of Great Power Competition on the U.S. Navy"と題する論説記事を発表した。ここでOudenarenは、米海軍の戦略的優位性の確保に関し、艦船の建造をはじめとする戦力配備計画に触れ、米国が直面する大国間競争の相手国である中国やロシアは沿岸防衛に注力することが可能である反面、米国はグローバルな戦力配備が要求されている点や、そうした要求に十分に応えられるだけの予算を確保することが難しい点など、米国が様々な困難に直面していることを指摘した上で、今後、強大な海軍力の整備へと舵を戻すとするならば議論すべき多くの問題が山積していると指摘している。