海洋安全保障情報旬報 2019年4月21日-4月30日

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4月22日「中国海軍、海洋権益防護のため陸戦隊増強―香港紙報道」(South China Morning Post, April 22, 2019)

 4月22日付の香港紙South China Morning Post電子版は、“China’s navy expands marine corps into own unit ‘to defend maritime interest’”と題する記事を掲載し、南シナ海での海洋権益防護、台湾再統一などの高まる水陸両用戦の要求に応じるため、その規模は不明であるが陸戦隊を増強しているとして要旨以下のように報じている。
 (1)中国海軍は、海軍の一つの部隊として運用している陸戦隊を著しく増強してきた。国営放送によれば、増強の規模は明らかにされていないが、中央電視台は、「陸戦隊は増強され、独立した部隊へと格上げされた」と報じている。しかし、陸海空軍と並立して作戦を実施する米海兵隊と異なり、陸戦隊は海軍の一部に留まっている。「水陸両用戦部隊は進歩してきており、発展のためさらなる広範な取り組みを行いつつある。この変革は海軍の組成とその機能の配分を最適化する」と4月14日の週の同報道は述べている
(2)2019年はじめ、米シンクタンクthe Jamestown Foundationは、中国軍が海兵隊を2個旅団から8個旅団、人員4万名へ増強すると推測していた。人民解放軍海軍は微博に陸戦隊は「5人の子供達」の1人と表現している。「長男は、潜水艦部隊、次男は水上艦部隊、3番目は航空部隊、4番目は陸戦隊、5番目は沿防隊」である。
(3)軍事専門家は、新しい部隊は急速に拡大する水陸両用戦の所要への対応であると述べている。「この増強と格上げは近年進められているより広範な軍の大改造の一部である。守るべき海洋権益はますます多くなっている。特に島礁において」と北京の海軍専門家李解は言う。南シナ海をめぐる緊張が高まり、台湾再統一という北京の目標が、必要であれば軍事力を行使して達成されるとすれば、より強力な水陸両用戦部隊が必要であると李解は言う。
(4)中国は外洋海軍を目指してきて、安全保障、対テロ、在外中国市民の救出のような新たな任務が出てきており、これらは陸戦隊の肩に掛かっていると香港の軍事専門家宋忠平は言う。李解によれば、中国軍は米海兵隊のような遠征戦を計画しておらず、「陸戦隊が米海兵隊のように海外において単独で作戦を実施するとは考えていない」と李解は言う。
記事参照:China’s navy expands marine corps into own unit ‘to defend maritime interest’

4月25日「マニラ、スービック湾の造船所への中国企業の入札参加排除へ―日経英字紙報道」(NIKKEI Asian Review, April 25, 2019)

 4月25日付の日経英字紙NIKKEI Asian Review電子版は、“Manila set to block Chinese bidders from largest shipyard”と題する記事を掲載し、2月に閉鎖されたフィリピン、スービック湾の造船所の救済企業探しの現状について、要旨以下のように報じている。
(1)南シナ海における中国の増大する軍事プレゼンスと、それがフィリピンの安全保障に及ぼす潜在的影響が懸念される中、フィリピン政府は、南シナ海への出入り口、スービック湾に位置する同国最大の造船所への中国の入札を排除する方針である。この造船所は韓国の韓進重工業フィリピン法人で、2019年1月に13億ドルの負債を抱えて倒産した。この造船所の取得を目指して、少なくとも2社の中国企業を含む、多くの外国からの入札企業が名乗りを上げた。本紙(NIKKEI Asian Review)が比政府当局筋から得た情報によれば、比貿易産業省は、中国企業による造船所の取得が国家安全保障を脅かすとの比国防省の主張を受け入れたようである。貿易産業省の担当者は、「国家安全保障と主権問題は、他の何ものにも優先される。もし関係省庁、この場合は国防省だが、既に難色を示している以上、我々はそれを考慮に入れる」と本紙に語った。一方、比海軍報道官は、貿易産業省の姿勢を歓迎し、「もし担当省庁が我々の勧告に留意してくれれば、我々は我国の海洋権益を守るために最善を尽くす」と本紙に語った。
(2)特定されてはいないが、中国政府に支援された中国の造船企業2社が、1月に韓進重工業フィリピン法人の件で貿易産業省に接触してきた。中国企業は3月まで同省貿易担当部局と接触を続けてきた。フィリピンの5つの銀行は、同造船所の4億1,200万ドルの債務の株式化の引き受けに合意し、これが完了次第、造船所の共同所有者となる。救済企業(a white knight)探しに関しては、現在のところ中国企業は視界に入っていないようである。造船所の再建管財人によれば、複数の外国企業が造船所に関心を示しているが、これまでのところ中国企業の接触はないという。投資に関心を示していると見られる企業には、オランダの造船業者Damen Group、フランスのNaval Group、カジノ王Enrique Razonが含まれ、他に企業名不特定の米国、日本及び欧州企業が名乗りを上げている。造船所の救済企業探しはこれまで主として民間部門主導で行われてきたが、フィリピン政府も、同造船所の自国経済にとっての、そしてその戦略的な重要性に鑑み、熱心に参画してきた。5銀行コンソーシアムの1行であるBDO UnibankのCEOは、「我々は政府の立場を考慮しないわけにはいかない。それは救済企業探しにおいて決定的要因の1つになることは間違いないであろう」と本紙に語った。
(3)韓進重工業はスービック湾経済特区の最大の外国投資企業で、2006年以来、23億ドルを投資した。その造船所は、2018年までに123隻の船舶を建造し、フィリピンを造船国の1つに押し上げた。2月に閉鎖されるまで、その全盛期には3万人を越える労働者を雇用していた。
記事参照:Manila set to block Chinese bidders from largest shipyard

4月25日「海軍健軍記念行事は複合したメッセージを発信―香港紙社説」(South China Morning Post, 25 Apr, 2019)

 4月25日付の香港日刊英字紙South China Morning Postは、“Navy’s anniversary carried a complex message”と題する社説を掲載し、人民解放軍海軍健軍70周年の国際観艦式は軍事力の伸張を目に見える形で発信するとともに、平和と国際公共財のために共同する目的を構築する機会を提供しているとして要旨以下のように述べている。
(1)人民解放軍海軍健軍70周年を祝賀することは複雑なメッセージを持つことになる。中央軍事委員会主席で国家主席である習近平は平和と協調について演説し、参加艦艇は近代的で能力の高い海軍部隊であることを展示し、12ヶ国以上の国からの艦艇の参加は友好と外交関係を示した。成長する中国の海軍力は、最も視覚に訴える海軍拡張の印である。しかし、2018年の海南島沖での演習において行われた習近平の閲兵に比べれば比較的穏健な展示であり、その決定は習近平の訓示にも反映されている。習近平は訓示で、北京は友人ともライバルとも手を携えて働き、海洋における平和を確実なものとし、対話を促進するための協調を世界の海軍に働きかけてきたと述べた。地域の一部の隣国は常に懸念をもって強力な艦艇に目を向けているが、その心配を和らげるには十分な理由がある。そのような感触はかなりの場合、相互的である。
(2)中国の18,000Kmの海岸線と拡大する世界的な権益は、その安全と防護のために近代的で十分な兵装と装備を施された海軍を必要としている。しかし、国家の台頭はまた、その軍事力が国際的な責務を負うことを意味しており、2008年以来のインド洋における数千の海賊対処行動に象徴される人道支援任務が新たな軍事力の役割の重要性を強調している。健軍記念が今回の祝賀の理由ではあるが、それはまた平和と国際公共財のためともに働く新たな目標を設定することでもある。
記事参照:Navy’s anniversary carried a complex message

4月26日「ヨーロッパがリードする海洋エネルギー―米海事サイト報道」(Marine Link, April 26, 2019)

 4月26日付の米海事関係ウェブサイトMARINE LINKは、“Europe Leads in Ocean Energy”と題する記事を掲載し、海洋エネルギーにおいて世界をリードするヨーロッパの近年の当該分野の発展について、要旨以下のように報じている。
(1)Ocean Energy Europeが発表した年間統計によると、2018年にヨーロッパの潮流発電設備(tidal stream installations)の発電量は26.8MW、波力発電設備(wave energy installations)は11.3MWだった。ヨーロッパ諸国は、海洋エネルギー分野において世界をリードし続けている。年間発電量に関しては、2018年に3.7 MWの潮流発電設備が水中に設置された。これは2017年に設置された能力の2倍以上に相当する。
(2)2010年以降、26.8 MWの潮流発電技術がヨーロッパで展開された。このうち、11.9 MWが現在稼働中で、諸プロジェクトがそれらの検査プログラムを成功裡に完了したため14.9 MWが閉鎖された。過去10年間で、この部門の成長は、主に可能性を検証する実験と研究開発・技術革新(RD&I)の資金調達プログラムによって牽引されてきた。
(3)ヨーロッパでは潮流発電プロジェクトの重要な情報ルートがあるので、今後さらに加速が見込まれている。これらの大規模プロジェクトを切り開くためには、現在、国家レベルでの専用の収益援助が必要となる。実証プロジェクトの一環として、2018年に6つの装置がヨーロッパで展開された。設置されたタービンの半分は500kW以上、半分は150kW以下であった。
(4)年間発電量500kWの波力発電が2018年にヨーロッパで導入されたが、その大部分はグリッド対応の電力を生産する装置からである。設置量は、主に可能性検証の実験と研究開発・技術革新の資金調達によって動かされてきた。いくつかの波力発電装置開発者たちは、海洋で生産された電力の引き取り手(off taker)となっている、水産養殖や石油・ガスのようなニッチ市場もターゲットにしている。これらの分野では、沖合での運用を支援し、より小型で調整された波エネルギー装置を利用するために電力が必要である。
記事参照:Europe Leads in Ocean Energy

4月27日「200,000トン外交:空母2隻が地中海で示すもの-米海大教授論説」(The National Interest, April 27, 2019)

 4月27日付の米隔月誌The National Interest電子版は米海軍大学J.C.Wylie海洋戦略講座のJames Holmes教授の“200,000 Tons of Diplomacy: 2 Navy Aircraft Carriers are Making a Statement in the Mediterranean“と題する論説を掲載し、ここでHolmesは空母部隊の展開はまさに古典的な地政学を反映したものであるとして要旨以下のとおり述べている。
(1) 地政学の Nicholas Spykman が見たとすれば、今週の地中海でのNATOによる海軍演習に納得の表情を示したであろう。2個米空母機動部隊が地中海でスペイン、フランス、英国の艦艇・航空機と会合した。空母Abraham Lincolnに乗艦し演習を視察した駐露米大使Jon Huntsman Jr.は、「地中海を巡る200,000トン外交」と称した。Spykmanであれば、この演習を「古代を現代によみがえらせる海上覇権闘争」と評するだろう。Spykmanは、海洋国家はユーラシア大陸縁辺域を構成する海上ハイウエイをコントロールすることによって地球規模の影響力を誇示できると説いた。その上でSpykmanは、米国に対して、リムランドのコントロール能力を得るために海上ハイウエイを構成する地中海、南シナ海等における海上優位の獲得の重要性を訴えた。地中海はヨーロッパ、アフリカそしてアジアからなる巨大な島の中央に位置する海峡である。スエズ運河を通ってインド洋に至り、ダーダネルスとボスポラス両海峡を経て黒海からロシア・中央アジアに進出できる。歴史上、この海域の覇権を巡ってギリシャ、ローマ、英国などが他の勢力と争ってきた。
(2) 冷戦の時代、ソ連軍はワルシャワ条約機構加盟国の沿岸に沿った「防衛のブルーベルト」の構築を図った。ソ連による「接近阻止」戦略と言えるだろう。有効に構築できておれば、米国とその同盟による攻撃を抑止し、リムランドへの侵入のバッファーゾーンを提供したであろう。ソ連の戦略家は地中海を「ブルーベルト」の一部と見なしていた。イタリアに前方展開する米第6艦隊とNATO海軍の攻勢をかわし黒海から地中海へのソ連海軍の進出を確保することは、すなわちSpykmanの海上ハイウエイのコントロールを阻止することでもあった。ソ連海軍の艦艇は「ブルーベルト」による盾を背景に頻繁に地中海に進出を図っていた。1973年に発生した第四次中東戦争ではソ連海軍の東地中海派遣艦艇は米第6艦隊のそれを上回っていた。
(3) 現在のロシア海軍にはソ連海軍に匹敵するほどの勢力はないが、シリアのタルトゥースの海軍基地を復活させて東地中海で行動を活発化させている。「ブルーベルト」は残っており、NATO艦隊の黒海への介入の防壁となっている。NATOが平時における地中海のコントロール能力を放棄すれば、有事において、ロシアはNATO海軍が東地中海からロシア領域に入ることを阻止することができるだろう。ロシアによる活発で挑戦的な動向をバックグラウンドとして今回の2個空母打撃部隊の地中海への派遣を考察することもできるだろう。西側海軍は、ロシアの防衛ベルトの内側で作戦できるだけでなく、紛争海域に原子力空母を自信をもって派遣できることを宣言したことになる。今週実施された演習は、西側同盟は地中海を放棄してはおらず、海上優勢を維持しているとの「声明ゲーム」でもあった。来月あるいは来年に何が起こるか、それについてスパイクマン理論を持ち出して予言することはできない。それでも、西側の政治家と軍指揮官達は、軍事的な行動を続ける必要がある。今週の行動は良いスタートとなった。時にして、軍事的外交とは、無法で、一筋縄ではいかず、弱者がそれなりの損害を被り、誰もが騎手になることを目指す、そのような場での対話に似たものである。しかし、それが地政学におけるゲームの本質である。
記事参照:200,000 Tons of Diplomacy: 2 Navy Aircraft Carriers are Making a Statement in the Mediterranean

4月27日「印海軍は大幅な増強を目指す―印防衛ニュースサイト報道」(Defence News India, April 27, 2019)

 4月27日付の印防衛ニュースサイトDefence News Indiaは、印通信社Press Trust of India (PTI)による“Indian Navy aims to have 200 ships, 500 aircraft and 24 attack submarines”と題する記事を掲載し、印海軍が艦艇数の大幅な増加と能力の増強を計画しているとして、要旨以下のように報じている。
(1)4月25日、印海軍は戦略的海域における全体的な影響力を拡大するべく、新たな水上戦闘艦艇、潜水艦及び航空機を導入することにより、その作戦能力を大幅に高める巨大な計画に取り組んでいると国防当局者が述べた。この計画の下、海軍は200隻の艦艇、500機の航空機と24隻の攻撃型潜水艦を保有することを目指している、と彼らは述べた。現在、印海軍はおよそ132隻の艦艇、220機の航空機と15隻の潜水艦を保有している。
(2)印海軍はまた、海軍の戦闘、兵站及びその他いくつかの重要分野における解決策のためのビッグデータ分析と人工知能を取り入れる具体的な計画を打ち出す予定だと当局者は述べた。海軍参謀長Sunil Lanbaは発言の中で、作戦即応性、能力強化、作戦兵站運及びインフラに関係する様々な重要な問題について語ったと海軍報道官D K Sharma大佐は述べた。「運用効率の改善と最適な人員配置の改善に向けた印海軍の機能的再編成は、海軍の長期ロードマップの完成に向けた議論の中核を形成した」と彼は述べた。
(3)当局者たちによると、司令官たちはインド洋地域における中国による海軍のプレゼンスの高まりを受けて海軍の作戦能力を大幅に強化する方法を模索しているという。Nirmala Sitharaman国防相は4月23日に会議で演説し、高い作戦即応性を維持する海軍を称賛した。海軍はプルワマへの攻撃とその後の進展を受けて、最大の警戒態勢をとっている。「彼女は、現地化、自立及び“Make in India”構想への支援といった分野における海軍の取り組みを高く評価した」とSharma大佐述べた。
記事参照:Indian Navy aims to have 200 ships, 500 aircraft and 24 attack submarines

4月27日「英国海軍は、古い原子力潜水艦を廃棄する方法を見いだすことができない―米隔月誌報道」(The National interest, April 27, 2019)

 4月27日付の米隔月誌The National interest電子版は、“The Royal Navy Can’t to Figure Out How to Dispose of Old Nuclear Submarines”と題する記事を掲載し、英国海軍は、古い原子力潜水艦を廃棄する方法を見いだすことができないとして要旨以下のように報じている。
(1)古い車を廃棄したいときには廃棄場に行けばよい。しかし原子炉が人々に不安を与えるような原子力潜水艦を破棄するには、どうすればよいのか?英国は1980年以降退役した原子力潜水艦を20隻保有している。英国の会計検査院によると、そのうち1隻も廃棄されておらず、9隻にはまだ原子炉に核燃料が残っている。これらの原子力潜水艦は、26年間現役であった後、19年間退役したままである。「英国防省は、稼働している潜水艦の2倍の潜水艦を保有している。そのうち7隻は、現役であった期間よりも長く保管されたままとなっている」と会計検査院は述べている。「さらに悪いことは費用である。英国は、1980年から2017年の間に5億ポンド(6億4640万ドル)をこの退役した潜水艦のために支出した。1隻の原子力潜水艦を完全に廃棄するためには、9600万ポンド(1億1210万ドル)が必要とされている。その結果、NATOの計算によれば、英海軍の10隻の現役及び12隻の退役原子力潜水艦を廃棄するための予算総額は、75億ポンド(97億ドル)必要となる。
(2)原子力潜水艦を解体し廃棄することは、複雑なプロセスである。核燃料は、原子炉から特別な施設において注意深く抜き取られなければならない。その後、潜水艦そのものを解体しなくてはならない。艦の放射能に汚染された部分は、格別の注意を払って取りはずさなくてはならない。「Babcock International Group PLCという1つの業者が現在のところ核燃料抜き取りや船体分解ができる英国防省関連の唯一の企業である。その会社はDevonportとRosythの両方に核を取り扱う資格を持ったドックと施設を持っている」とNATO関係者は述べた。英国の核規制官庁が、核燃料抜き取り施設が基準を満たしていないと指摘した後、核燃料抜き取りは2004年に終了した。しかし英国防省は、核燃料抜き取りに関する完全に資金の裏付けのある計画は持っていない。
(3)これらのすべてのことが予算不足でありながら新しい原子力潜水艦の予算を獲得しようとしている英海軍に大きな損害を与えている。英国防省は現在Devonportに在籍している9隻の核燃料の残っている潜水艦を維持するために年間1200万ポンド(1550万ドル)を支払っている。核燃料の残っている潜水艦を維持することには技術的に不確実な問題があり、またドックの稼働率にも影響が出ている。このことはDevonportの施設をも圧迫している。英国防省は、少なくとも15年以内に原子力潜水艦を検査し整備し再整備する場所がなくなる危険があると考えている。2017年に退役し長期間保管される予定の英原潜Torbayに関するスペースがなくなりつつある。新しい潜水艦ができるまで、つまり英原潜Swiftsureが2023年に就役するまで、英国防省は原子力潜水艦要員を維持しておかなくてはならず、このことは英国防省の人員再配置計画にも影響を与えている。
(4)計画によると、英原潜Swiftsureが2023年に就役することにあわせて、核燃料抜き取りを始めることとなっている。しかし、その頃になると英国防省は、異なった廃棄方法が必要ないろいろな原子力潜水艦を取り扱わなくてはならなくなる。「現時点で、英国防省は、異なる型の原子炉を持つVanguard級、Astute級、Dreadnought級の潜水艦を廃棄する全般的な計画を保持していない。Vanguard級、Astute級についてはドック内に各級に合わせた特別な解体用の場所、それも使用したあと手直しが必要な場所となる」とNATO関係者は指摘した。
(5)興味深いことに、英軍は、核廃棄を行うときには資金免除が受けられる。「英国の民間の核施設に関しては、関連の組織は、原子力発電所など核インフラについては設計段階から核廃棄の方法を考慮に入れなければならない。英国防省にはそのような義務はない。」とされているからである
(6)英国は原子力潜水艦の廃棄に関して問題を有する唯一の国ではない。ソ連は、19隻の原子力潜水艦を沈めた。そのうちには14個の原子炉があった。そのことにより、環境面での大問題を引き起こした。米海軍でさえ、米空母Enterpriseのような原子力推進の潜水艦や空母の廃棄には苦労している。
記事参照:The Royal Navy Can’t to Figure Out How to Dispose of Old Nuclear Submarines

4月27日「仏海軍艦艇の台湾海峡通航に係る中国の反応についての理解-ウエブ誌The Diplomat編集者論説」(The Diplomat, April 27, 2019)

 ウエブ誌The Diplomatの編集者Ankit Pandaは、4月27日付けの同誌に“Making Sense of China’s Reaction to the French Navy’s Taiwan Strait Transit”と題する論説記事を掲載し、この中でPandaは、本来的に合法であり、かつ、これまでも定常的に実施されている仏海軍艦艇の台湾海峡通航に北京が抗議したのは英仏両国などによる南シナ海への関心の高まりと、その活動の活発化に中国が脅威を感じ始めている証左であるとして、要旨以下のように述べている。
 (1)今週(4月21日の週)、中国国防省報道官は仏海軍艦艇による台湾海峡通航を非難し、この後、北京は人民解放軍海軍創設70年記念観艦式への仏海軍の招待を取り下げた。このような動きからして中国は違法な直線基線を設定している南沙諸島及び西沙諸島における「航行の自由作戦」と同様の行動を仏海軍がとったと考えたのかもしれないが、台湾海峡の幅は平均80海里であり前提が異なる。また、仏海軍のこうした行動は特異なものではなく、ある関係者は、仏海軍は例年こうした通峡を実施しているとFinancial Timesに語っている。
 (2)中国国防省報道官の任国強上級大佐は、仏海軍の台湾海峡通航について、「中国は仏海軍艦艇を退去させるべく法律と規則に従い海軍艦艇を派出した。中国軍は主権と安全を守るために警戒を続ける」と述べた。しかしこの記者会見後、中国国防省は任国強のコメントを公式記録から削除したようだ。Center for Strategic and International Studiesの中国専門家Bonnie Glaserは、任国強の発言は台湾海峡全体を中国の水域とする政策転換ともみなされかねない「ミススポーク」を含んでいる可能性があると指摘する。
(3)中国も批准している国連海洋法条約(UNCLOS)においては、台湾海峡の大部分は中国の沿岸12海里の領海部分以外、どの国のどんな艦船も軍民を問わず航行可能である。軍艦がこの地域で警戒監視その他の軍事的活動を実施することも自由である。しかし中国は長年、台湾海峡を通航する米海軍の動きに抗議してきた。Trump政権は中国へのより強硬な姿勢を採ったため、こうした行動は2017年以降、急増している。しかし、台湾関係法の下、特別な非公式の関係を結んでいる米国とは異なり、フランスはこれまで、こうした中国の抗議からは免除されていた。
 (4)ではなぜ今般、中国は仏海軍の台湾海峡通航に抗議したのだろうか? その理由の1つは、パリによる中国の台頭を懸念する米国、日本その他のインド太平洋地域諸国への支持にあるのかもしれない。フランスはその海外領土に100万人以上の人口とインド太平洋地域の排他的な経済圏を抱えており、パリは近年、同地域に強い関心を寄せている。例えば今年初め、日仏両国は地域の海洋問題に係る協力を促進するため2プラス2協議を実施した。もちろん、Emmanuel Macron政権以前からフランス政府はこの地域に大いに関心を持っており、2016年当時は仏軍事相で、現在は外相のJean Yves Le Drianは、フランスは南シナ海において欧州連合による「定期的で目に見える形」のパトロールを実施すると語っている。
 (5)仏海軍艦艇の台湾海峡通航に抗議するという北京の決定は、中国近傍海域で起きている事象に域外諸国が大きな関心を払っている中で、中国もまた、そのこと自体に大きな関心を払っているということを示唆している。そしてロンドンもまた、同地域におけるプレゼンスの強化を企図しており、このようなメッセージは英国においても間違いなく受信されるであろう。例えば 昨年8月、英海軍艦艇Albionが西沙諸島周辺海域において「航行の自由」作戦を実施したところである。
 (6)英仏両国がこの地域に多くの資源を投入するようになるにつれ北京は脅威を感じている。3月末に実施されたMacron大統領、Angela Merkel独首相、Jean-Claude Juncker欧州委員会委員長と、習近平国家主席との会談の結果も考慮すれば、欧州諸国が今後、中国に対しより広く、かつ公然と、対決的な手法を取るであろうことも明白である。仏海軍の台湾海峡通航という本来は平凡であり、かつ最終的には合法である事案に対する中国の反応も、そのような文脈において理解されるべきであろう。
記事参照:Making Sense of China’s Reaction to the French Navy’s Taiwan Strait Transit

 
 以下、上記に係る関係国の反応を比較する趣旨で、2件の関連記事を参考として掲載する。
(関連記事1)

4月25日「仏海軍艦艇の台湾海峡通航に伴い観艦式への招待を取り消し-香港日刊英字紙報道」(South China Morning Post, 25 Apr, 2019)

 4月25日付の香港日刊英字紙South China Morning Postは“China withdraws PLA Navy anniversary invitation to French warship after Taiwan Strait trip”と題する記事を掲載し、中国が仏海軍艦艇の台湾海峡通航を理由に人民解放軍海軍70周年観艦式への招待を取り消したのは、これが米国の教唆によるものと考えたからであると報じている。
記事参照:China withdraws PLA Navy anniversary invitation to French warship after Taiwan Strait trip


(関連記事2)

4月25日「台北は仏海軍艦艇の台湾海峡通航を明確に把握-香港日刊英字紙報道」(South China Morning Post, 25 Apr, 2019)

 4月25日付の香港日刊英字紙South China Morning Postは“Taipei ‘well aware’ of French warship in turbulent Taiwan Strait”と題する記事を掲載し、台湾は仏海軍艦艇の行動をしっかりと把握しており、米国をはじめとする諸外国の艦船が台湾海峡における「航行の自由」を享受することを基本的に歓迎する立場であると報じている。
記事参照:Taipei ‘well aware’ of French warship in turbulent Taiwan Strait

4月28日「ロシア海軍は、厳しい選択に迫られている―米海大教授論説」(The National interest, April 28, 2019)

 4月28日付の米隔月誌The National interest電子版は、米海軍大学the China Maritime Studies InstituteのLyle J.Goldstein教授の“The Russian Navy Is Facing Tough Decisions”と題する論説を掲載し、ロシア海軍は厳しい選択に迫られているとして、要旨以下のように述べている。
(1)ロシアの原子力潜水艦Kurskが2000年に沈没事故を起こして以来、ロシア海軍はほぼ中断のなく成功が続いている。ロシア海軍は、水中のすぐれた能力を再構成しようと懸命に努力してきた。高性能の新しい世代の静粛な潜水艦(SSBNとSSGNの両方)を配備し、ディーゼル潜水艦の比率も過去最高に達した。ロシア海軍は、長期間多くの艦艇を海に送り出してきた。この業績は、2016年後半のAdmiral Kuznetsovの地中海への一部栄光に満ちたとは言えない出撃(抄訳者注:2016年後半、シリア内戦に関連し地中海に出撃した際、艦載機の着艦時の事故、墜落事故などのトラブルがあったことを示す)によって、かすかに傷つけられただけだった。しかし、全般的には、ジョージア、ウクライナ、シリアなどロシアの不安定な地域での最近の多くの小規模な戦争において、ロシア海軍は、政府に信頼度の高い戦闘能力と抑止力を提供してきた。特に、ロシア海軍はシリアに遠征し、潜水艦を含む多くの海軍艦艇から長射程のカリブル巡航ミサイルを発射した。2018年のケルヒ海峡危機では、ロシア沿岸警備隊が一次的な役割を果たしたが、精強な黒海艦隊が依然としてこの海域のNATOの軍事的な対抗勢力として健在であることが明らかとなった。またロシア海軍は、新たな砕氷船Ilya Murometsの北極海での定期的な活動など、ロシアが重点を置いている北極海開発に対しても多くの支援をしている。最後にロシア海軍は、革命的なPoseidon(編集注:2月3旬記事で紹介)などのsuperweapon(超兵器)開発も行っている。Poseidonは、核弾頭ミサイルを敵のミサイル防衛網をすりぬけ敵の港湾まで運ぶ、原子力で動く無人水中ビークル(UUV)である。
(2)Putin大統領が、ロシア海軍にある程度好意を持っているのは確かである。しかしロシアの海軍戦略家たちの間では、相当大きな不安があることも確かである。少なくとも、4月初めに軍事雑誌Military Reviewにロシア語で書かれた無記名のある記事が載ったことは、その不安を暗示している。記事では水上艦艇について詳しい分析が行われているが、ロシア海軍がかなりの混乱にあることを強調している。我々は、ロシア海軍の支出がNATO全体の防衛費の10%以下という少ない金額であることは知っている。ロシアの戦略家たちが自分たちの要求を満たすために、より多くの資金を要求することは、理にかなっている。しかし、それはこの記事の筆者のとるアプローチではない。それは「海軍のための資金はあった。しかしそれは無駄に使われた」という記事の題名から明らかである。この手厳しいロシア語の記事は無記名であり、政府の海軍政策を批判することに関して全く手加減はしていない。
(3)記事の中に一枚の写真があり、それに関する短い説明書きで、それがサンクトペテルブルグ近くのクロンシュタット海軍基地であることを示している。この一枚の写真が示している問題が、記事の分析全体をほぼ要約している。写真には、6隻のコルベット艦と小型のフリゲートが並んで写っている。この6隻のうち1隻も同型艦はなく、ほとんどが全く違う型である。このように記事の筆者は、海軍の開発を適切に評価せず、貪欲で心の狭い造船所の経営者たちを満足させるために、海軍の資金を危険な計画に浪費してきたシステムを公然と非難している。それは結果として、経済効率と戦闘効率を害している。筆者は「腐敗・汚職」と「政治軍事の指導者層に対する教育の貧困」を指摘している。
(4)ロシア海軍の水上艦艇について、分析は全部が悲観的と言うわけではない。筆者は、タイプ11356 Admiral Grigorovich(すでに3隻が就役)を、「黒海艦隊の一翼を担う」「艦隊に必要なステップ」として賞賛している。他のフリゲートのタイプ22350 Admiral Gorshkov級(1隻が就役、3隻が建造中)も高い戦闘能力を持つと評価している。同様に、タイプ20380 Steregushchiy(6隻就役、4隻建造中)も賞賛し、この級については増産すべきと述べている。
(5)しかし一方では、いくつかの水上艦の計画は大失敗に終わったことも述べている。20386計画を国家にとっての重大な「損害」と呼び、「二度と建造されることはないだろう」と述べている。筆者は、タイプ23361 Buyan級コルベット(7隻就役、5隻建造中)について最も厳しい評価をしている。Buyan級コルベットは、ミサイル防衛の艦艇として有効なところはひとつもなく、ひとつの目的のためだけに作られ沿岸防衛には適していないと述べている。その上、対空、対潜能力が完全に欠けていると説明している。「一番雑音が多く古い潜水艦でもかなり多くのBuyan級コルベットを沈めることができるだろう。また対艦ミサイルを持ったヘリに遭遇したならば、まず沈められるだろう」と述べている。ここで筆者は、米政府のINF条約から離脱するという決定がこのコルベットの評価を変更させるかもしれないという興味深い解説をしている。なぜならこのコルベットにも「まもなく巡航ミサイルが載せられるようになる」からである。
(6)前の段落で「高価な大失敗」について説明した後、次世代の小型フリゲート22800 Karakurt級は少し良いとだけ述べられている。このクラスは、静粛性が高いが対潜戦(ASW)用の武器を全く装備していないとの報告がある。筆者は、この艦艇の価値は、INF条約の消滅によってなくなると述べている。しかし、この計画の最大の問題は、「理解しがたいことにディーゼルエンジンが必要な数量供給されない」ことである。上記で述べられたほとんどすべての艦艇建造計画において支出の「正確なデータがない」と述べた後、5000億ルーブル以上がロシア海軍の小型戦闘艦艇開発に使われ、まったく不完全な結果に終わっていると筆者は結論付けている。筆者は、潜水艦については同様の評価は提示していない。しかし、Poseidon(Status-6)核UUVシステムについては、最も厳しい批判を行っている。ここでは、数十億ドル匹敵する金額が費やされているにもかかわらず「まだ実験用の魚雷の原型のひとつすらできていない」と不平を述べている。この記事の終わりには、筆者は直接Putin大統領を批判し、ロシア海軍が強力な魚雷の漫画、明らかに世界で一番高価な漫画で動けなくなっていると述べている。
(7)最後の分析において、筆者は厳しい解釈を提示している。「我々は激しい混乱と動揺を見る。計画から計画にすぐ乗り換え、造船業界の貪欲な経営者たちは、際限のない予算の無駄遣いを行っている。その結果、少なくともいくつかの艦隊の代わりに、不確かな任務のために造られた理解不能な艦艇群をロシアは持つこととなっている。しかし、おそらくこの筆者が、数々の困難を抱えている米国の沿岸監視用の艦艇建造計画を見たならば、ロシアの小型艦艇の計画の方がまだよいと感じるかもしれない。ワシントンとモスクワの両方にとって、北京は、特にうまくいっており効率的とも思われる同様のフリゲート(タイプ054)とコルベット(タイプ056)に関する計画を進めている。中国は戦略的な利益を手に入れつつあると思われる。
(8)西側の読者にとって、かなり誠実なロシア海軍を分析した筆者のこの要約は、現在の防衛態勢を維持するためロシアが予算をほとんど持っていないことを確実に表している。大型水上艦艇ではなく小型水上艦艇に明らかに注目していることは、ロシアが「ロシアの脅威」という誇大広告にそぐわない、防衛的な戦略上の信条を持っていることを示している。ロシアの産軍複合体の実態を知ることのできるこの窓から、ロシアの戦略家たちが不安に思いながらも適切な軍事的能力を準備しようと苦労していることが読み取れる。西側の計画者は「敵」の汗を見て安心するかもしれない。しかし、ストレスを感じている敵は、核の時代ではよいこととは言えず、軍拡競争は一般的には競う両者の負けで終わることが多い。最も確かなことは、ロシアも含めて我々が、東欧の緊張を一歩一歩下げたことにより、軍事費が減り、そのため著しく経済的に豊かになったということである。
記事参照:The Russian Navy Is Facing Tough Decisions

4月29日「グレー・ゾーンにおける行動の必要性―米海軍中佐論説」(The National Interest, April 29, 2019)

 4月29日付の米隔月誌The National Interest電子版は、米海軍中佐Bob Jonesの“Challenge Accepted: Why America Needs to Confront Its Adversaries in the Gray Zone”と題する論説を掲載し、ここでJonesは、近年の米・中露の大国間競合と冷戦期の状況の相似性に着目し、冷戦期に学び、戦争と平和の間のグレー・ゾーンに米国が注目する必要があるとして要旨以下のように述べている。
(1)2018年国防戦略の発表以降、米国の国家安全保障に関する議論において支配的なのは、大国間の競合であった。しかしその議論は、われわれに今多くの示唆を与えてくれる冷戦期の議論に対する関心を欠いてきた。私がここでとりあげるのは、1958年12月、当時の海軍作戦部長であったArleigh A. Burkeが海軍大学校で行った講演(「大戦争、あるいは大戦争に至らない紛争における米海軍の役割」)である。これは、戦争と平和の間のグレー・ゾーンにおいて、われわれが敵国に対してしっかりと向き合わねばならないという教訓を提示してくれるものである。
(2)Burkeの議論は現在においてもかなりの程度有用である。彼は中国・ソ連ブロックをはっきりと敵と位置づけつつ、中ソの目的を、「自由世界の諸制度を解体」し、国際秩序を脆弱にすることによって、外国の経済、外交、安全保障に関する決定に強い影響を及ぼすことのできる世界の構築だとした。今日の地政学的状況は、当時の冷戦期の状況の繰り返しとみなすことができるのである。その点においてBurkeの議論は以下の3つの点を示唆する。
(3)第一に、米国は中国とロシアに対する戦争だけに焦点を絞ってはならないということである。Burke提督が核による奇襲攻撃を恐れすぎてはならないと論じたように、われわれは、全面戦争と平和状態の間のグレー・ゾーンにおける長期的な消耗戦に関心を払わねばならない。中国もロシアも、段階的なアプローチによって、少しずつ勝利を積み重ねていくであろう。それは冷戦期ソ連にもみられたやり方であった。こうした問題への対処のため、米国は特殊作戦部隊や治安部隊支援のための継続的な投資、海上戦闘部隊の再構築などを実行していく必要がある。
(4)第二に、グレー・ゾーンというのは軍事的な領域にとどまらない。Burke提督も2018年国防戦略も指摘しているように、米国は外交、情報、軍事、経済など多岐にわたる領域において中国とロシアに立ち向かう必要があり、米政府・軍高官はそのことを理解している。「自由で開かれたインド太平洋」戦略(FOIP)や、BUILD法(Better Utilization of Investment Leading to Development Act)の通過などはその一環であるが、FOIPが十分理解されているとはいえず、BUILD法もそれだけでは不十分であり、ヨーロッパの同盟国との包括的戦略の構築などを含め、さらなる方策が今後とられる必要があろう。
(5)第三に、米国は次にどこで競合が起きるかを中国とロシアに決めさせてはならないということである。ロシアの隣国への介入や中国の台湾および南シナ海などでの積極的な活動は、それ自体が米国にとって決定的な利害を持つわけではない。しかし、Burke提督が警告するように、それは全体として決定的な意義を持つことになるのである。彼は言った。中国とロシアの冒険主義に対して断固とした態度をとることによって、彼らのパワーの拡大と国際秩序の不安定化に抵抗できるのだと。フィリピンとの間の相互防衛協定にコミットしたことは、こうした方向に向けた正しい一歩であった。
(6)冷戦期の状況と現在の状況は、その具体的な点においては異なるものであり、したがって冷戦的思考によってそれに向き合うことに警戒する人びともいるかもしれない。しかしBurke提督の講演が示唆するのは、大国間競合という構図の根底にあるものは共通しているという点である。この点において、近年米国の決意が疑問視される傾向があるが、冷戦期において米国がそうした意志を示してきたという事実もまた重要であろう。
記事参照:Challenge Accepted: Why America Needs to Confront Its Adversaries in the Gray Zone

4月29日「軍事支出の世界的増加傾向―英通信社報道」(Reuters, April 29, 2019)

 英通信社ロイターは4月29日付で “Global military spending at new post-Cold War high, fueled by U.S., China: think-tank”と題する記事を掲載し、スウェーデンのシンクタンクStockholm International Peace Research Instituteが発表した2018年度各国軍事支出に関する報告書に基づき、軍事支出の世界的増加傾向について要旨以下のとおり報じている。
(1)2018年度の軍事支出は、世界全体で1.82兆ドルにのぼり、前年比で2.6%の増加を示し、1988年以降で最も高い数字となった。トップは米国で6490億ドル、前年度比4.6%増で、2010年以降で初めて上昇した。これはTrump政権における新規の兵器調達計画によるものである。
(2)軍事支出第2位は中国で2500億ドル、前年比5%増で、24年連続の増加をマークした。米国と中国だけで世界全体の半分に相当する。続いてサウジアラビア、インド、フランス、ロシア、英国、ドイツ、日本、韓国と続く。サウジアラビアが多いのは、イランとつながりがあるフーシ派と戦う軍事同盟の主導国のためであり、国民一人あたりの軍事支出は米国に次ぐ第2位となっている。
(3)軍事支出に関して、米国とNATO加盟国の間で軋轢がある。NATO諸国はその軍事費をGDP比2%とすることを目標としているが、ドイツが1.2%、フランスが1.8%など、それに満たない国々もあり、それをDonald Trump大統領は批判している。
(4)ロシアに関してはクリミア併合やシリア介入などの影響で変動があるが、2018年にはトップ5から脱落し、昨年比で3.5%の減少を見せた。軍の近代化などを進めてはいるものの、原油価格の下落や国内問題が原因でそのような傾向を示した。2017年には大きな減少を見せ、貨幣価値の変動を考慮にいれれば、前年比で20%の減少であった。
記事参照:Global military spending at new post-Cold War high, fueled by U.S., China: think-tank

4月29日「中ロ、『海上協力―2019』演習開始―ウエブ誌The Diplomat報道」(The Diplomat, April 29, 2019)

 4月29日付のウエブ誌The Diplomatは、同誌上席編集委員Franz-Stefan Gadyの“China, Russia Kick Off Bilateral Naval Exercise ‘Joint Sea’”と題する記事を掲載し、中ロ両海軍が「海上協力―2019」共同訓練を開始したとして要旨以下のように報じている。
(1)中ロ両海軍は、4月29日から「海上協力―2019」演習を青島で開始した。「海上協力―2019」演習は2012年から毎年行われている中ロ両海軍共同演習の最新のものである。報道によれば2019年の演習は2つのフェーズに分かれており、4月29日から30日に陸上での訓練が行われ、5月1日から4日にかけて東シナ海及び黄海で洋上訓練が行われる。「航海計画によれば今日、旗艦Varyagに率いられた太平洋艦隊分遣隊は中国の青島に到着した」とロ国防省は声明で述べている。
(2)日本の防衛省は4月24日に対馬の北東150Kmを演習に向け航行中のロ艦隊を確認している。
(3)ロ国防省によれば両海軍は艦隊運動訓練、実弾射撃訓練、捜索救難訓練、通信訓練を実施する。このほか「海上協力―2019」では対潜訓練及び対空訓練も実施される。中国国防部報道官任国強は4月はじめの記者会見で、演習は「海洋安全に対する脅威に良く対応できる中ロ両海軍の能力を強化」することに焦点を当てた「共同海上防勢作戦」に重点を置いたものであると述べた。過去の中ロ海軍共同訓練の実施海域は、南シナ海、東シナ海、日本海、地中海、バルト海を含む広範囲にわたっていた。
記事参照:China, Russia Kick Off Bilateral Naval Exercise ‘Joint Sea’

4月29日「米海軍の簡潔な新北極戦略を評す-米フリージャーナリスト論評」(ARCTIC TODAY, April 29, 2019)

 4月29日付の環北極メディア協力組織ARCTIC TODAYのウェブサイトは、米フリージャーナリストMelody Schreiberの“The US Navy’s new Arctic strategy is limited in scope and details, say critics”と題する論評を掲載し、ここでSchreiberは海軍のわずか14ページの「新北極戦略概観」は海軍が直面する問題及びこれへの対応能力を十分に描き出していないという専門家の批評を紹介し、結局のところ米海軍は北極における紛争のリスクを低く見ており、よりリスクの高い地域を優先する姿勢であるとして要旨以下のように述べている。
(1)米海軍は2019年初めに新北極戦略概観の骨子を余りプレイアップしない形で公表した。批評家は北極で海軍が直面する問題とこれへの対応能力を十分に描き出していないとしている。ARCTIC TODAYが入手した2019年1月付けの資料は北極におけるリスクの簡単な評価と地域に対する海軍の取り組みの概観を提供している。「戦略概観」は2014年2月に出された海軍の最も新しい北極ロードマップに取って代わるものである。北極周辺は紛争のリスクが低いと海軍は見ている。文書によれば、環境変化と海軍の能力を評価し、連邦の関連部局内と北極を跨ぐ両方の強固な連携に依拠して海軍は本質的には北極において通常の任務を遂行する計画である。
(2)元米海軍少将で現在the Pennsylvania State University のCenter for Solutions to Weather and Climate Risk のセンター長David Titleyは戦略とは特定の目的に対する問題と可能性のある解決を見極めることであると説明し、「ここには見るべきものはない。我々には今すぐしなければならない他の多くのことがある」と指摘して、この「戦略概観」が「米海軍は現時点で水上部隊を派遣する好機や将来北極できわめて大きな存在感を発揮する砕氷能力を有する水上艦の開発に予算を投入することにさえ関心がないと私に伝えている」と述べている。
公にされたものはシグナルになるとして、短く、極度に単純化された「戦略概観」は「海軍内では特段、高い優先順位にあるものではないかもしれないと我々に語っている」とTitleyは指摘する。
(3)海軍は、北極は紛争のリスクが低いと評価している。北極地域はその相違点をこれまで平和裏に解決できて来たからである。同時に超大国間の対立と長期の戦略的な競争相手の歳出減を認識した国防戦略とともに、北極戦略概観は「米海軍は北極での利益を守る準備を維持しなければならない」としている。また、環境の変化と付随する地政学上、経済上、調査等々における変化について述べている。海軍は、北極における主たる役割は抑止、シーコントロール、兵力投射、海上安全、海上輸送、捜索救難のような後方支援、その他の任務を提供することであると理解している。
(4)この「北極戦略概観」は、北極評議会、北極沿岸警備隊フォーラム、各統合軍、その他の組織を含め地域の協力の重要性を強調している。特に海軍は北極において沿岸警備隊との緊密な協同を強調している。緊密な協同は「機動的、季節的」取り組みで北極における米国の海洋任務を果たすことになる。(他方、沿岸警備隊の戦略は46ページの中で米海軍に言及しているのはたった1回だけである。)海軍の「北極戦略概観」はまた、国際的な同盟国、特にカナダとの緊密な連携を賞賛している。これによれば、米加は「他に類を見ない、永続する協力体制」を共有しており、両国の安全保障上の利益にとって死活的なものである。
(5)「北極戦略概観」は、北極へのアクセスがより容易になり混み合うようになるため、戦略的チョークポイントとしてベーリング海の重要性が増すと述べている。また、北極海航路と北西航路の変化する条件について触れ、将来の安全保障計画における海上交通増加の含意を考慮していると述べている。「戦略概観」は、北極の環境下での行動に備える中核となる努力としてICEXを強調している。今一つは「航行の自由」作戦である。戦略概観は、北極における水面下であれ水中であれこれらの公然の演習を実施できる海軍の能力を指摘している。「各国は北極地域における経済的機会を求めており、海軍は安定と安全に貢献する」と「戦略概観」の「航行の自由」作戦の項は述べている。しかし、海軍にとって北極よりも平和でない地域が優先されるともこの「戦略概観」は述べている。
記事参照:The US Navy’s new Arctic strategy is limited in scope and details, say critics

【補遺】

旬報で抄訳紹介しなかった主な論調、シンクタンク報告書
(1) The China Challenge: Marshal Xi
https://www.reuters.com/investigates/special-report/china-army-xi/
Reuters.com, April 23, 2019
By DAVID LAGUE in HONG KONG and BENJAMIN KANG LIM
Illustrations by CHRISTIAN INTON
2019年4月23日、英ロイター通信は、David Lague香港駐在記者による" The China Challenge: Marshal Xi "と題する記事を配信した。同記者は、記事の中で、習近平国家主席が進めた人民解放軍改革を取り上げ、伝統的に陸軍主体であった人民解放軍の海軍力を強化させ、毛沢東時代以来の強大な軍事官僚機構を解体し、指揮命令系統を自らが主席を務める中央軍事委員会に一本化させたことを指摘し、習近平は世界秩序を変更しようと「一帯一路」や「中国2025」といった典型的なソフトパワー路線を織り交ぜているが、その基本は人民解放軍改革を通じた中国の軍事大国化にあると指摘している。
 
(2) The United Kingdom and Southeast Asia after Brexit
https://www.iseas.edu.sg/images/pdf/ISEAS_Perspective_2019_33.pdf
Perspective, The ISEAS-Yusof Ishak Institute, April 23, 2019
Ian Storey, Senior Fellow and editor of Contemporary Southeast Asia at the ISEAS-Yusof Ishak Institute
2019年4月23日、シンガポールのシンクタンク、The ISEAS-Yusof Ishak Institute のIan Storey上級研究員は、ISEASのウェブサイト上に、"The United Kingdom and Southeast Asia after Brexit"と題する論説記事を発表した。その中で彼は、当初2019年3月29日とされた英国のEU離脱が10月31日に延期されたことを受け、英国がEUを離脱すれば、これはEU・ASEAN枠組みからの離脱も意味しており、英国はASEAN諸国との二国間対話枠組みを構築させ東アジアの安全保障問題へのコミットメントを強化しようとしていると解説している。その上で、同研究員は、こうした野心の実現は、東南アジア諸国の自己利益と、英国が地域の安定と繁栄に有意義な貢献をすることができるかどうかにかかっていると指摘している。
 
(3) What the new US Coast Guard Strategy tells us about the Arctic anno 2019
https://www.highnorthnews.com/en/what-new-us-coast-guard-strategy-tells-us-about-arctic-anno-2019
High North News, Apr 25, 2019
By Andreas Østhagen, Research Fellow Fridtj of Nansen Institute
2019年4月25日、Fridtj of Nansen Instituteの研究員であるAndreas Østhagenは、NORD UniversityのHIGH NORTH CENTERが発行するHIGH NORTH NEWSの電子版に、“What the new US Coast Guard Strategy tells us about the Arctic anno 2019”と題する論説記事を寄稿した。その中で彼は、①4月21日に発表された、米国沿岸警備隊による北極圏のためのビジョンにおける、北方で「主権を守る」、そして「ルールに基づく秩序」を守ることに焦点を当てたより厳しい言葉は偶然ではない、②北極において差し迫った軍事紛争の可能性は低いが、中国とロシア、そして他の北極諸国の長期的な戦略的投資と関与は、米国を潜在的に脆弱な立場に置いた、③「航行の自由」(FON)に関して、米沿岸警備隊が推奨する解決策は、新しいPolar Security Cutters(砕氷型巡視船)などの機能への投資の拡大や、海洋状況認識の向上に対して一層の焦点を合わせることだが、北方海域における沿岸警備隊の多目的な役割を忘れてはならない、④北極圏の沿岸警備隊に関して米国とロシアとの間に、潜在的に恐ろしい能力格差が生じているが、沿岸警備隊の能力を真剣に強化するという明確な決断を下した唯一の北極沿岸国はロシアである、⑤米国沿岸警備隊による北極圏のための「ビジョン」は、北方で米国の能力問題の明確な解決策を提案することと、米国が何もしない場合には潜在的に重大な地政学的状況に関して警告を鳴らすことという間の境界線をうろついている、などが主張されている。