海洋安全保障情報旬報 2019年5月1日-5月10日

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5月1日「印仏海軍、大規模演習実施―デジタル誌The Diplomat報道」(The Diplomat, May 1, 2019)

 5月1日付のデジタル誌The Diplomatは、同誌上席編集員Franz-Stefan Gadyの“India, France Hold Large Naval Warfare Exercise Involving 2 Aircraft Carriers”と題する記事を掲載し、印仏海軍が2019年のVaruna共同演習の前段を印仏両海軍の空母も参加して実施したと報じている。
(1)印仏海軍の年次2国間共同訓練Varuna 19.1/19.2は5月1日、ゴア沖のアラビア海で開始された。注目されるのは、2019年の演習には仏原子力空母 Charles de Gaulleと印海軍空母 Vikramadityaが参加し、両艦の搭載戦闘機による空中戦訓練が含まれていることである。
(2)Varuna 19は2つのフェーズに分かれており、フェーズ1ではゴアで相互訪問、討論、スポーツ交歓が行われ、フェーズ2の洋上訓練では対空戦、対潜戦を含む海上作戦の様々な訓練が実施される。印海軍航空部隊の主力Mig-29Kは仏ダッソー・ラファール戦闘機と模擬艦艇攻撃、印仏戦闘機間の異機種格闘戦闘を含む様々な航空戦訓練を実施する。
(3)「Varuna演習は共同訓練を通じて互いにその優れたところを学び合い、印仏領海軍の相互運用性を発展させ、相互協力を育成することを目的としている。演習は海洋安全を促進することの両国の利益とコミットメントを共有することを強調している」と印国防省はメディアに対し述べている。
(4)Varuna演習前段は10日間が予定されており、5月10日に終了する。後段のVaruna 19.2.は仏軍が主要な基地を運営しているジブチで5月末に行われる。2018年のVaruna演習には2017年12月に就役したばかりのScorpene級通常型潜水艦が参加し、対潜戦と対空戦に重点が置かれた。仏海軍の原子力空母Charles de Gaulleは2017年から参加している。
記事参照:India, France Hold Large Naval Warfare Exercise Involving 2 Aircraft Carriers

5月2日「尖閣の逆説:限定的軍事衝突を発展させないために―米専門家論説」(The Brookings Institute, May 2, 2019)

 5月2日付の米シンクタンクThe Brookings Instituteのウエブサイトは、同所外交上級研究員でResearch-Foreign Policy部長であるMichael E. O’Hanlonの “The Senkaku paradox: Preparing for conflict with the great powers”と題する論説を掲載し、尖閣諸島を巡る情勢について要旨以下のように述べている。
(1) ロシアがクリミアを制圧し中国が南シナ海を軍事化しようとする勢力を固めた2014年頃以来、ワシントンは、これらの核武装した大きな敵の一方または両方に対する戦争が起こるのではないかと心配して大騒ぎになっている。Obama政権の「第3のオフセット」戦略と元国防長官Jim Matisの2018年国家防衛戦略は、30年前の冷戦終結以来、大国の脅威を抑止することを初めて国家的軍事計画の最優先事項とした。
(2)ロシアや中国との戦争がどのような問題で本当に起きるのであろうか?多くのシナリオを真剣に考えることは重要である。しかし、全面的なロシアの侵略とバルト三国の併合、あるいは南シナ海全体への中国の主張の強制や台湾進攻の試みは、ほとんど起こりえないであろう。しかし、北京とモスクワが既存の世界秩序を変更するための小さな動きはどうであろうか。中国が尖閣諸島の島の1つに軍隊を上陸させることにした場合はどうなるのか?もしロシアが、東部エストニアまたはラトビアの小さな町におけるロシア人への「脅威」をつくり出し、ロシア人を救うことを口実にしてロシアが軍事行動をとるとしたら?フィリピンや他の国々を含むシナリオも想像することができる。
(3)モスクワや北京は、なぜそのような行動を検討するのであろうか。中国やロシアは、彼らの覇権の基礎を築き、過去の出来事を許していない隣人をたたくという考えを好むかもしれない。しかし、モスクワや北京の本当の目的は、特にその国境近くの地域で自身の権力と支配力を高めるため、米国の同盟システムを弱めること、そしてそれとともにアメリカ主導の世界秩序を弱めることかもしれない。
 (4)軍事技術の現状と将来の技術革新における予想される傾向が、問題を悪化させている。米国主導の大規模な軍隊を中国の沿岸近くやロシアの近くのヨーロッパのバルト海地域に展開することは、より難しくなりつつある。米国がかつて効果的に独占していた各種精密技術の拡散は、その理由の多くを説明している。この問題は、以下のような新たな切迫した武器体系によってさらに悪化するだろう。
・センサーまたは武器として個々にあるいは複数で機能する小型ロボット
・より大きな衛星に対して秘密の宇宙地雷として機能することができる小衛星
・ホーミング対艦ミサイルや各種の極超音速ミサイル全般
・従来の人為的なハッキングと人工知能(AI)が生成するアルゴリズムの両方によるコン
ピュータシステムへの脅威
(5)米国の中途半端な防衛力増強ではこれらの問題を解決する可能性は低い。上記のタイプのシナリオは、米国と同盟国にとって大きなジレンマを生み出すことになる。私はこれを「尖閣パラドックス」と呼んでいる。NATO条約と日米条約の第5条に基づく相互防衛条約に基づき、ワシントンは同盟の領土を守るか解放する。それでも、それは、それほど重要ではない賭けに対して、核武装している強力な国々の直接戦争につながる可能性がある。米国とその同盟国による大規模な対応は、非常に不均衡に見えるかもしれない。しかし、無回答は容認できず、さらなる攻撃を招くであろう。
(6)ワシントンは、そのような限定的ではあるが深刻なシナリオに対して、より良い、よりエスカレートしにくい、そしてより信頼できる選択肢を必要としている。侵略者によって攻撃されたり押収されたりする可能性のある同盟国の領土を解放するためには、迅速に米国主導の軍事行動がとられる可能性があるという既存の政策を置き換えるべきではない。この現在の政策は、同盟国にとっての安心のための利益と同様に抑止のための利益を持っているかもしれないので、正式に廃棄されるべきではない。しかし、そのような約束は十分に信頼できるものではないかもしれない。彼らはまた、抑止の失敗が起こった場合には、米国とその同盟国の政策立案者に十分に柔軟で賢い選択肢を与えないかもしれない。こうした正しい対応には以下の4つの主な要素がある。
a. さらなる攻撃を阻止するためのロシアまたは中国による最初の攻撃からすぐに米軍及び同盟軍の態勢を強化する。
b. 危機が迅速に解決されない限り、新たな展開を持続可能なものにするために米軍全体の規模(及びコスト)を迅速に増大させる。
c. 最初の攻撃の規模に合わせて制裁を組み合わせて適用した、次のような経済戦争の戦略をとる。
 (a)幅広い関税の組合せ
 (b)攻撃に最も関わっている個人や企業の資産や動きを標的とした制裁
 (c)ロシアや中国の将来の経済成長を遅らせるためのハイテク産業に対する部門別制裁
 (d)経済的制裁
d. 侵略が続いたり激しくなったりする場合は、米国やその同盟国が優位に立っているペルシャ湾などの他の戦域に対する中国やロシアの利益に対する非対称の軍事攻撃を検討する。
(7)そのような戦略は、ロシアや中国に対して最初の砲火をできるだけ長く続けないようにするためのものであり、そのような対応では優柔不断で弱いと考える者もいるだろう。そうではないが、しかし忍耐強くあるべきである。初期の攻撃に即座に反撃することについては、あまり神経質になる必要はない。この戦略を採用するには、適切な数の軍隊の短期的な行動も必要である。米国と同盟国は起こるかもしれない経済戦争について、特に中国に対して、準備する必要がある。
(8)中国は、主な鉱物や金属(その多くは今日は主に中国から来る)の備蓄を強化するための措置を講じることによって、主要技術の世界的サプライチェーンにおける中国への依存度を高めることにより、経済戦争を仕掛けることができる。ヨーロッパはまた、将来の危機においてロシアからのエネルギー輸入が中断された場合のバックアップとして、液化天然ガスを輸入するためのインフラを引き続き改善する必要がある。軍事的には、米国は、長距離攻撃やステルス、極超音速兵器、ミサイル防衛、中国沿岸向けの石油タンカーを無力化するために使用される可能性があるタイプの非殺傷的な武器などの分野で能力を向上させる必要がある。
(9)大国の闘争の新しい時代に、抑止力をより効果的にし、戦争を予防するためにどうやって我々が戦争に備えるかについて、もっと創造的で、よりきめ細かく考えるべき時が来た。ここで検討した数種類のシナリオにより、敵が実際に村破壊した後に、小さなエストニアの村または無人の尖閣諸島の迅速な解放を主張することもできるかもしれない。直接的な反撃は、それ自体が決定的に従来の紛争を失うことがわかったロシアまたは中国は、核戦争を含むエスカレーションの危険性を大いに増大させるかもしれない。しかし幸いなことに、我々は、一方では小さな賭けにより核戦争の危険を招き、もう一方では宥和政策や世界秩序の弱体化につながるキャッチ22(訳者注:キャッチ22とはアメリカの風刺作家Joseph Hellerが1961年に発表した小説であり、堂々巡りの状況での戦争を混乱した時間軸のなか、幻想ともユーモアともつかない独特な筆致で描いた戦記風の物語)を回避するための良い選択肢がある。
記事参照:https://www.brookings.edu/blog/order-from-chaos/2019/05/02/the-senkaku-paradox-preparing-for-conflict-with-the-great-powers/

5月3日「ロシアと対峙する新生米第2艦隊-米専門家論説」(Breaking Defense, May 03, 2019)

 5月3日付の米安全保障専門ウエブサイトBreaking Defenseは同サイト専門ライター、Paul McLearyの“New 2nd Fleet To Confront Russia From Day One”と題する論説を掲載し、ここでMcLearyは新生米第2艦隊の現状と展望について、ロシアとの対峙という目的を効果的に達成するための新しい取り組みが行われているとして要旨以下のように述べている。
(1)新生第2艦隊発足の数日後には、旗艦Mount Whitney座上の Andrew Lewis司令官指揮の下、バルト海においてNATO合同演習BALTOPSが実施された。これは2011年に一旦解隊された同艦隊の再生のためでもあるが、同演習がロシアの裏庭であるバルト海で毎年開催されることを当然と考えてはならない。旧第2艦隊の解隊以降、ロシアのウクライナ侵攻やクリミア半島併合など多くの変化があったが、Lewisは同艦隊をグリーンランドから地中海まで、必要とされる場所では何処でも作戦遂行可能な部隊として想定している。第2艦隊は欧州に展開する第6艦隊を支援することになるだろうし、人道援助、対潜戦、欧州周辺海域のプレゼンスなど様々な任務において米国及びNATO艦艇を指揮統制し小規模部隊を緊急展開する訓練を実施している。冷戦終結以来、特に最近20年間では中東やアフガニスタンにおける地上戦闘を支援する以外、海軍が自身で作戦を実施することはほとんどなかった。したがって、ある意味では第2艦隊は中露の艦艇、航空機、潜水艦に対峙する最先端部隊の役割を海軍が担う新たな作戦のモデル化を求められているということにもなるのである。
 (2) Lewisは、何人の兵員を指揮しているのか尋ねられることにうんざりしていると言う。そして、兵員数は十分であり、今後数週間内に命令を発して新たな大規模演習を実施するとしつつ、より重要なのは将兵がどれだけ迅速に行動出来るか、また、どれだけ上手く考えることができるかという点であると述べている。Lewisはまた「指揮系統を大きくする必要はない」として、兵員数は既に任務遂行上十分な水準にあり、スリムで迅速に展開可能な作戦遂行能力の高い部隊を見て欲しいとも述べている。元F-18戦闘機パイロットであるLewisは2011年に解隊された第2艦隊再編のため昨年8月から現職に任じている。2011年当時、ロシアはまだウクライナを侵略してクリミア半島を併合してはおらず、また、中国の北極への野心も顕著ではなかった。そうした今日の状況下、必ずしも定期的ではないスケジュールで部隊を展開させるダイナミック・フォース・デプロイメントと呼ばれる海軍の新たな方針は、第2艦隊の今後の行動を理解する鍵となるだろう。
(3)Lewisは従来のパターン化された部隊運用は適切ではなく、「文化的な変容が必要であり大きな組織にはより機敏さが求められる」としつつ「艦隊はそれを必要としている」と指摘する。Lewisが隷下部隊指揮官に要求しているのは、戦域内でも迅速かつ柔軟に行動し得る思考力と作戦遂行能力であり、その能力は海上部隊指揮官にとって不可欠であると述べている。Lewisは隷下部隊指揮官に「必要なガイダンスを与えた上で、彼らをボードゲームのピースのようには扱いたくない」と望んでおり、彼らは自らが置かれた作戦環境を理解し、自立的に適切と考える行動を取らなければならないと考えているのである。
 (4) Lewisは来月(6月)、旗艦Mt. Whitneyに座乗してロシアの裏庭であるバルト海において例年実施されているBALTOPS演習を指揮する。この演習は海上及び陸上で活動しているNATO部隊の新たな指揮統制能力をテストするものであり、小規模だが高い機動力と打撃力を有する緊急展開部隊としての第2艦隊に対する海軍のビジョンの重要な試金石である。ロシアの海岸線やモスクワに配備されたレーダーシステムやミサイルの覆域内、射程内にあるバルト海の狭い水路に何十隻もの艦船を展開させることはNATO部隊にとって大きな課題となるだろう。実際、ロシア軍は昨年ノルウェー沖で実施されたトライデント・ジャンクチャー演習に際し、NATOの艦船及び航空機の通信を妨害しようとしたところでもある。Lewisは「彼らがやろうとしていることは判っている」としつつ、「プロフェッショナルである我々がそこに所在すること自体が抑止力であって、その意味ではBALTOPS演習が特に強く意識しているのは、プロフェッショナリズム、意図を持ったプレゼンス、そしてNATO同盟国とのパートナーシップの発揮という三点であると述べている。
 (5) 5月2日木曜日、米国防総省は中国の軍事力に関する年次報告書を発表したが、これは米軍の指導者たちが北極圏における北京の動きを警戒していることを如実に示している。昨年6月、中国は「一帯一路」構想を拡大する一環として「ポーラーシルクロード」を確立するべく、地球温暖化により生じた新たなシーレーンをより活用する計画を発表した。中国はグリーンランドに特に関心を示しており、科学研究基地の建設、飛行場の改良、衛星地上局設立などのプロジェクトを急いでいる。国防総省の報告書は「中国の民間研究施設は北極海における軍事的プレゼンスの強化を支援することも可能であり、その中には核抑止力としての潜水艦配備も含まれている」と指摘している。北極圏は第2艦隊の担当海域の一部であり、Lewisは「米国は国際法に基づく海洋の自由、航行の自由を維持するべく、北極圏においても長期的に能力とプレゼンスを確立しなければならない」と述べている。
 (6)もっとも、より多くの艦船(将兵)を洋上に展開させるというのは「言うは易く、行うは難し」である。例えば、本年6月までには洋上展開予定であった揚陸艦Bataanは、当初約1年間、予算約4500万ドルのオーバーホールのために2017年11月ノーフォークに帰港したものの、17ケ月経過した現在でも、所要の部品入手や作業スケジュール調整上の問題のため、今だ入港中である。一方、海軍は艦隊兵力355隻態勢を実現すべく艦船の延命工事にも取り組んでいるが、造船所のスペースなどの問題からメンテナンスを予定通りに完了できるのは予定隻数の半数以下でしかない。今年初めには、こうした問題のため、現在港内に居る駆逐艦の約70%がスケジュールどおりには出発できないということを海軍当局者が確認している。海軍は今後数年間で数百万ドルを産業施設に投資する予定であるが、これは艦船を迅速に洋上に復帰させるため官民の造船所に対して行われるものである。世界中に展開中の戦闘部隊司令官が大規模で一貫した海軍のプレゼンスを欲しており、第2艦隊が極北から南方海域まで行動することを計画している中、Lewisもまた他の艦隊司令官と同様に艦船を必要としているのである。
記事参照:New 2nd Fleet To Confront Russia From Day One

5月3日「中国による北極圏における潜水艦の展開及び対台湾戦略―英通信社報道」(Reuters, May 3, 2019)

 5月3日付の英通信社Reutersのウエブサイトは、“Pentagon warns on risk of Chinese submarines in Arctic”と題する記事を掲載し、米国防総省の報告書で述べられている中国による核抑止のための北極圏における潜水艦の展開及び台湾問題について、要旨以下のように報じている。
(1)北極圏地域において中国が活動を活発化させることは、核攻撃に対する抑止力として機能する潜水艦の展開を含む軍事的プレゼンス強化への道を開く可能性もある、と米国防総省は5月2日に発表した報告書で述べた。中国は北極圏国ではないにもかかわらず極地でますます活発になっており、2013年に北極評議会のオブザーバー国となった。国防総省の報告書によるとデンマークはグリーンランドへの中国の関心に懸念を表明しており、これには研究ステーションと衛星地上局の設立、空港の改修及び採掘の拡大などの提案が含まれている。「民間の研究は、北極海における中国の軍事的プレゼンスの強化を支援する可能性がある。これには、核攻撃に対する抑止力として潜水艦をこの地域に展開することが含まれる可能性がある」と同報告書は述べている。
(2)国防総省の報告書によると、中国の軍隊は潜水艦の近代化を最優先事項としている。「潜水艦部隊の増強速度は減速しているものの、2020年までに潜水艦を65~70隻まで増強する可能性が高い」と報告書は予測している。この報告書は中国が、4隻が運用中であり、2隻が葫蘆島造船所において建造中である6隻の晋級弾道ミサイル搭載原子力潜水艦を保有していると述べている。1月の報告では、米国防総省国防情報局は、中国海軍が海洋での核抑止力を継続的に維持するためには最低5隻の晋級弾道ミサイル搭載原子力潜水艦を必要とすると述べた。そのため、米国とその同盟国は東アジア全域で対潜水艦のための海軍の展開を拡大している。
(3)中国の潜水艦部隊の拡大は、その軍隊の広範で費用のかかる近代化のほんの一要素である。2018年の北京の公式防衛予算は1,750億ドルだったが、米国防総省は、中国の予算が研究、開発及び外国の武器の調達を含めて実際には2000億ドルを超えたと見積もっている。中国の公式防衛予算は、2022年までに約2,600億ドルまで増加すると見込まれている。
(4)中国の軍事ドクトリンの大部分は台湾に焦点が当てられており、北京はこれを反逆の省と見なしている。国防総省の報告書においては、中国の大規模な上陸作戦による侵略の可能性を軽視しているように見え、それはその軍事力に負担をかけ、そして国際的介入を招く可能性があると述べている。それはまた、制限されたミサイル攻撃の可能性を「中国は、台湾の防衛力を低下させたり、台湾の指導部を無力化したり、台湾の人々の決意を挫くために、空軍基地、レーダーサイト、ミサイル、宇宙アセット及び通信施設を含む、防空システムに対してミサイル攻撃や精密空爆を使用する可能性がある」と指摘している。。中国は、過去数年間に何度も艦船航空機を訓練として島を取り囲むべく派遣し、台湾を国際的に孤立させるよう取り組んだ。それは数少ない台湾の外交的な協力国を減らすことになる。中国はまた、過去1年間、その頻度が増大している米国軍艦の台湾海峡の通過に強く反対している。台湾の軍隊は中国の軍隊よりもかなり小規模で米国防総省が指摘したギャップは年々拡大している。米国防総省の報告書は、この不均衡を認識し、「台湾は、非対称戦争のための新しい概念と能力の開発に取り組んでいると言明している」と指摘している。
記事参照:Pentagon warns on risk of Chinese submarines in Arctic

5月3日「中国は国連海洋法条約から脱退するのか?―中研究所研究員論説」(The Diplomat, May 03, 2019)

 5月3日付のデジタル誌The Diplomatは、中国のThe National Institute for South China Sea Studiesの非常勤上級研究員Mark J. Valenciaの“Might China Withdraw From the UN Law Of The Sea Treaty?”と題する論説を掲載し、ここでValenciaは、中国が国連海洋法条約を脱退することに伴う対価は利得よりも少ないと考えるかもしれないとして、要旨以下のように述べている。
(1)中国の反対にもかかわらず米艦の台湾海峡航過が著しく増加している中、仏フリゲート艦が4月はじめに同海峡を航過したことは、北京に国連海洋法条約からの脱退を考慮する今一つの理由を提供した。国連海洋法条約から脱退する(法的用語では「終了を正式に通告する」)考えはそれ以前からあり、特に中国の九段線に関して国際仲裁裁判所が国連海洋法条約に一致しないと裁決した時からである。
(2)現在、中国は海洋の急所である南シナ海において、安全保障上、「今そこにある危機」と軍が認識しているものに直面している。「航行の自由作戦」に関する米中の相違点は法的というより政治的、戦略的なものである。しかし、米国は対立を法的なものと特徴付け、中国が正しくないとしている。中国は、「航行の自由作戦」は中国の主権、統一、安全にとって脅威であると主張する。その法的根拠は明らかではない。中国にとって、安全保障に対する脅威は「米国が航行の自由」であり、米国がこの作戦を終了し、南シナ海からの撤退を主張するのには十分な理由がある。どのような理由であれ、関連する国際法の解釈と誰が国際法を侵犯しているかについて同意がないことは明らかである。
(3)米中の緊張が増す中、仏フリゲート艦の台湾海峡通峡とともに米艦艇の通峡が政治上、安全保障上の問題として前面に出てきた。最近の兵器、情報収集技術と練度の向上を考えると、米国、そして今はフランス、まもなく英国と日本も国内外において中国の安全保障に脅威を及ぼし、中国指導者の動きを邪魔するために海洋法の抜け穴を利用しつつあり、あるいは今後そうするだろうとおそらく中国軍は考えている。
(4)中国の「1つの中国」政策の解釈によれば、台湾海峡の全域は中国の管轄権下にあり、中国の内水、領海、排他的経済水域(以下、EEZと言う)を構成する。北京は国連海洋法条約に基づき、台湾海峡において通過通航権は適用されず、特に軍艦はルソン海峡のような他の航路を使用すべきであると主張している。
(5)米国は、台湾海峡が中国のEEZに属するのか台湾のEEZに属するのにかかわらず、台湾海峡の通航に関し艦艇、軍用機を含むすべての艦船、航空機の公海上での航行の自由と上空飛行の自由を主張している。ワシントンは、その航行の自由と上空飛行の自由には錨泊、航空機及び搭載艇あるいは他の軍事機材の発進と回収、情報、監視、偵察活動、訓練、艦隊運動、「軍事調査」が含まれるとしている。台湾海峡におけるそのような行動は中国の安全保障に対する脅威と中国は明確に見なしている。
(6)中国は、国連海洋法条約のいくつかの鍵となる部分の西側の解釈が、中国が不利となるように西側に利するものと考えている。中国と開発途上国は、国連海洋法条約を深海底採掘条項と引き替えに海洋国に広範な航行権を認めたことを含め海洋国と開発途上国間の多くの「取引」をまとめた協定と見ている。中国の視点では中国の安全を損なってまで支持する条文の解釈を米国は選択しつつある。このことは条文解釈について米国や他の国々の主張がますます強まってきたことと相まって、中国は条約加盟国であり続けることを再評価するかもしれない。
(7)国連海洋法条約からの脱退は重大な政治的対価を伴う。脱退の結果は、西側とアジアにおいて国際的非難の波と反中国派の宣伝工作であろう。また脱退は、地域における恐怖と不安定を作り出し、おそらく一部のアジアの国は中国に対する「バランサー」としての米国により接近するだろう。しかし、脱退には有利な点もある。中国はそれ以降、米国が現在行っているように条約の条文を法的に自由に「選び」、自国の好むように解釈することができる。条約からの中国の脱退は条約とその紛争解決メカニズムの権威を弱体化させる。北京は国際法を自分の好むように変更しようとしているので、中国は歓迎するだろう。少なくとも中国を軽々しく取り扱えないということを知らしめるだろう。米国とアジアの同盟国は、多くの国が最も恐れるように、国際関係において強制を行う今1つの「ならず者国家」に中国がならないように注意する必要がある。事実、これら意見の不一致という安全保障上の脅威の拡散と増大は、次第に国連海洋法条約からの脱退の対価は利得よりも少ないと考える方向に中国を動かしている。
記事参照:Might China Withdraw From the UN Law Of The Sea Treaty?

5月4日「中国軍の台湾侵攻はなお不可能――米国防問題専門家論説」(The National Interest, May 4, 2019)

 5月4日付の米隔月誌The National Interest電子版は、同誌防衛担当編集者David Axeの“China ‘s Military Can’t Conquer Taiwan Just Yet: Pentagon Report”と題する論説を掲載し、ここでAxeは、米国防総省発行の「中国の軍事的展開に関する年次報告」2019年版の内容に言及しつつ、中国軍の上陸作戦能力について、なお台湾への全面的上陸作戦を展開するまでには至っていないとして要旨以下のとおり述べている。
(1)中国は台湾に対する全面的侵攻作戦を行う軍事的能力を有しているだろうか。結論から言えば、それは否である。しかし中国人民解放軍海軍(PLAN)は上陸作戦展開能力を増強させており、中国軍が台湾海峡を安全に越えて台湾に大攻勢を仕掛けることが可能になる日はそう遠くないだろう。
(2)PLANは周辺地域で最大の海軍である。すでに大規模な戦力を有しながら、近年急速に軍の近代化を進めている。年次報告によれば、特に「上陸用艦船に対する中国の投資は、遠征部隊の能力向上を中国が意図してることを示している」とされる。具体的に言えば、「PLANは現在Yuzhao級ドック型揚陸艦(071型)を保有し、かつ3隻が2018年の間に建造中ないし艤装中であったが、PLANはおそらくYuzhao級揚陸艦の建造を進めるであろう」ということである。
(3)年次報告はPLAN陸戦隊(PLANMC)の増強も予想している。「2020年までにPLANMCは7個旅団規模、3万を超える兵員に至るだろう。そして、その任務を中国国境外における遠征作戦を含むものになるだろう」と指摘する。現在PLANMCの装備は不十分であり、全体的な作戦行動能力を有するためには十分な数の攻撃用ヘリが必要であろうし、本土外の基地へのヘリの配備なども必要であろうとも述べている。
(4)しかし現在のところ、中国にとって台湾への全面的上陸作戦は不可能に近い。「全面的上陸作戦は軍事作戦のなかで最も複雑かつ困難なもののひとつである。その成功は、空と海での優越、海から陸への速やかな補給、その増強と維持、そして絶え間のない支援にかかっている」からである。中国がそれを可能とするほどまでに軍備を増強している兆候はない。ただし全面的な上陸作戦以外の軍事的オプション、たとえば台湾周辺の島嶼地域などへの上陸作戦を行う能力は有している。
(5)しかし、そうした限定的なものも含め、中国は台湾攻撃に慎重にならざるをえない。「この種の作戦は重大な、そしておそらく法外な政治的リスクを伴うであろう。なぜなら台湾の独立志向をより刺激し、国際的批判を生むだろう」からである。
記事参照:China ‘s Military Can’t Conquer Taiwan Just Yet: Pentagon Report

5月4日「米国はアジアにおける存在感を高めるべき―元駐シンガポール米大使論説」(South China Morning Post.com, May 4, 2019)

 5月4日付の香港日刊英字紙South China Morning Post電子版は、元在シンガポール米大使David Adelmanの “The US needs to get back into Asia and be a stable counter to China’s influence”と題する論説を掲載し、ここでAdelmanは中国の高まる影響力がアジアの隣国に対する重圧となっていることから、米国はこれら諸国における存在感や絆を深めるべき時であるにもかかわらずアジアから目を逸らしつつあると警鐘を鳴らし、要旨以下のように述べている。
(1)ワシントンの関心が特別検察官報告や2020年の大統領選挙に集まる状況下で、太平洋地域に対する米国の関わりは、その国家優先課題リストの下方に急速に低下してきた。米国に対する信頼感が冷戦以来どの時期よりも重要視されている時期であるにもかかわらず、米本国における政治的混乱は、そのアジア戦略に対する疑念を根付かせてしまった。
(2)過去70年に亘る米国のアジアへの関わりと、現在の姿勢を比較してみよう。戦後、米国は、日本を含むアジア諸国との2国間関係を確立し、戦争で疲弊したこれら諸国に安全保障と経済援助を提供し、これら諸国はその見返りに、共産主義の拡大を封じ込める米国の政策に協力してきた。しかし、当時と比較して、今やアジアは劇的に変化し、世界最大で最もダイナミックな経済活動が営まれる地域となっている。この地域における中国の影響力は巨大で、その対外政策は強力な経済力を背景としている。このことは、東南アジアの小国に対する重圧となっている。これら諸国は、米国が安定を提供し、中国の台頭に対する対抗勢力となることを期待している。
(3)アジアにおけるバランスの重要性を理解する上で、シンガポールに勝る国はない。長年に亘って、米国は、アジアにおける政治的、経済的に微妙な雰囲気を理解するために、シンガポールに指針を求めることによって上手くやってきた。本稿の筆者(David Adelman)が米大使としてシンガポールに在任中の2010年から2013年までの間、我々は定期的に、Lee Kuan Yew内閣顧問を含む、シンガポールの指導者達に意見を求めてきた。シンガポールの指導者達やこの地域の他の賢明な人々のメッセージは、以下の2点であった。
a.まず第1に、期待される代役はいないということ、従って、米国とその同盟国はアジアにおけるその存在感を高めなければならないということである。我々は、このアドバイスに留意して、この地域に対する米国の外交政策を刷新してきた。当時のObama大統領は就任第1年目に、米国は「アジア太平洋国家」であると宣言し、2010年までに、米国の外交政策の「軸足」をこの地域においた。
b.第2に、アジアの友人達は我々に、多国間機構を強化するよう主張した。実際、米国は、18カ国からなる東アジア首脳会議に参加し、ASEAN大使を任命し、環太平洋経済連携協定(TPP)に積極的に関わり、そして2016年には初めて米本土でASEAN首脳会議を開催した。
(4)しかしながら、こうした動きは2017年に全て停止した。Trump大統領は、独力で事を進めることを好み、しばしば我々のアジアの友人達の疑念を高めている。大統領は、2国間のゼロサム交渉を好み、多国間協調を避けたがる。大統領は、代案なしにTPPから離脱するという選挙公約を実行した。大統領は、アジアにおける我々の友人達などに配慮することなく、中国やその他の国とのリスクが大きい貿易戦争に火を付けた。大統領は、北朝鮮の独裁者、金正恩との「恋に落ちた」と称して、米韓合同演習を中止するなど、国防省や国務省とともに、ソウルを驚かせた。更に、大統領は、2017年のマニラでの東アジア首脳会議に参加せず、2018年には、シンガポールとパプアニューギニアでの首脳会議にも参加しなかった。また、この2年半、米国の駐シンガポール大使は不在のままであり、議会上院で指名承認を求める者さえない。
(5)米国は、アドバイスを求め、賢明な声に耳を傾けるということでは謙虚ではない。世界は米国の政治動向に注目しており、我々のシステムが調整と修復の手段を有していることを理解している。再び、米国は賢明な声に耳を傾け始めなければならない。21世紀に適した米国の関与を必要としているアジア以上に、米国の顕著な姿勢を必要としている地域はないのである。
記事参照:The US needs to get back into Asia and be a stable counter to China’s influence

5月5日「中ロ海軍『海上聯合―2019』で初の艦対空ミサイル実射共同訓練を実施―中国メディア報道」(Global Times, May 5, 2019)

 5月5日付の中国共産党系英字紙Global Times電子版は、中ロ海軍が「海上聯合―2019」において初となる艦対空ミサイル実射、潜水艦救難訓練を始め各種共同訓練を実施したとして、要旨以下のように報じている。
(1)中ロ海軍は5月4日、初めての艦対空ミサイル共同実射訓練を実施し、対艦巡航ミサイル演習弾の撃破に成功した。防空訓練は青部隊が赤部隊に対し2発の対艦巡航ミサイル演習弾を発射して開始された。近接する巡航ミサイルに対し、赤部隊の中国駆逐艦Harbinとロシア対潜艦Admiral Tributsはそれぞれ短射程艦対空ミサイルを発射し、2発の突入してくる脅威を阻止することに成功した。人民解放軍海軍にとってこの種の訓練を外国海軍と実施するのは初めてのケースである。
(2)対艦巡航ミサイルはその高速と低高度などの特性から艦艇にとって非常な脅威となり、それらを阻止することは現代の海戦では決定的に重要な目的となると匿名を条件に軍事専門家は語っている。中国側演習統裁部副部長王瑞は、演習は、海軍にとっての脅威にともに対応するための両海軍の能力強化を促進するものであり、両海軍艦艇及び指揮機構間の緊密な調整だけでなくそれぞれの武器の性能要目を相互に利用を可能にすることを必要としていると言う
(3) 「海上聯演―2019」は5月2日に両海軍の潜水艦と深海救難艇が潜水艦救難訓練を成功裏に実施した。北部戦区海軍救難支隊支隊長杜長余は、救難部隊は中国海軍が全世界で行動する際の強力な道具であると述べている。ロシアとの潜水艦救難訓練は、中国軍が国際的責任と義務を担う完全な能力があることを証明した。杜長余は、人民解放軍海軍は国際的救難任務を完遂する決意であり、他国とともに任務を遂行できると述べている。
(4) 演習期間中に共同対潜訓練、実弾射撃訓練、対抗訓練等が実施された。
記事参照:China, Russia conduct first ever joint warship-based live-fire missile exercise

5月6日「米国は太平洋島嶼国に対する戦略では中国だけに焦点を当てるべきではない―米専門家論説」(The Strategist, May 6, 2019)

 5月6日付の豪シンクタンクAustralian Strategic Policy InstituteのウエブサイトThe Strategistは、米Georgetown UniversityのCenter for Australian, New Zealand and Pacific StudiesのディレクターであるAlan Tidwellの “Washington’s Pacific islands strategy shouldn’t focus solely on China”と題する論説を掲載し、ここでTidwellは米国が太平洋島嶼国に対する中国の関与に対抗するだけでなく、島嶼国のニーズに取り組むべきであるとして要旨以下のように述べている。
(1)中国の太平洋における影響は太平洋島嶼国に対する米国の政策形成にパラドックスを生み出す。ワシントンが中国の太平洋への関与にのみ焦点を当てるなら、それらの島嶼国を遠ざけるという危険を冒す。それでも、中国についての言及がなければ多くの米国の政策立案者たちは、情報を与えられず興味をそそられないままだろう。米国が直面する課題は中国の影響を抑制することを目的とした太平洋諸島政策を立てることであるが、それを明白かつ排他的な目標にすることではない。解決策は、太平洋島嶼国の必要性に取り組み、彼らの利益と米国及びその同盟諸国の利益の両方を促進することである。
(2)中国の太平洋への関与はワシントンにもっと注意を払うよう強いている。また2018年の下院1157号決議に反映されているように米国にとっても問題を引き起こしている。それは、太平洋の島民と米国の間の長年かつ深い関係性に対して声を出し、そして気候変動及び人間の安全保障に関する2018年のボエ宣言(Boe Declaration)を反映している。しかし、この決議は次に、太平洋地域における中国の影響力の増大、中国軍の関与拡大の脅威、そして、グアム島とヤップ島近くの大洋底への音響センサーの配置に対する懸念を表明している。オーストラリアとニュージーランドの外交官たちは、彼らの国の「ステップアップ」及び「リセット」プログラムに沿って、この決議が中国だけに焦点を当てないことを確保するために取り組んだ。彼らは、気候変動及び人間の安全保障に関する広範な地域的な懸念を反映した文言を挿入することに成功した。
(3)過去とは異なり2017年以降、米国は、太平洋島嶼国に対して関心が高まっている。Trump政権の初期の2017年4月、Mike Pence副大統領は、アジアとオーストラリアを訪問した後、米領サモアに立ち寄った。また、米内務長官のRyan Zinkeが、2018年の太平洋諸島フォーラムの首脳会議に出席した。それから、2018年11月のポートモレスビーでのAPEC首脳会議で、米国、日本、オーストラリア及びニュージーランドは、パプアニューギニアの70%に電力を供給するためのプロジェクトに協力することに同意した。米国、パプアニューギニア及びオーストラリアはまた、マヌス島の海軍基地をアップグレードすると発表した。同じ月、米国の国家安全保障会議はオセアニア及びインド太平洋の安全保障ディレクターという役作りを行っている。過去数年の間に、太平洋はアジアの管理に組み込まれている。
(4)歴史的な深いつながりがあっても、米国は太平洋島嶼国に焦点を合わせるのに苦労している。オーストラリアとニュージーランドの両国とも、ワシントンの太平洋島嶼国への配慮を高めるための措置を講じた。駐米豪大使館には、島嶼国について担当する外交官がいる。 2018年12月、ニュージーランドのWinston Peters外相がワシントンで演説を行い、この地域でもっと活動をするよう米国に促した。太平洋島嶼国の外交共同体は小さく、ワシントンで必要とされる困難な仕事に着手するための十分な資源がない。この外交使節団の多くは、ニューヨークに駐在しており、共同で国連とワシントンの両方から正式な代表として認められている。太平洋島嶼国家は米国内に出先機関を多くもっていないが、一部の代表者たちは非常に長く勤務し、ワシントンのやり方をよく理解している。太平洋全域の国々からの外交官たちは、米国がこの島々を中国に対する防波堤としてではなく、むしろ太平洋の人々のニーズに取り組む上でのパートナーと見なすことを求めている。
記事参照:Washington’s Pacific islands strategy shouldn’t focus solely on China

5月7日「インド太平洋地域をめぐる戦略的動向――豪元首相論説」(The Interpreter, May 7, 2019)

 5月7日付の豪シンクタンクLowy Instituteが発行するウェブ誌The Interpreterは、第26代豪首相Kevin Ruddの“Strategic trends across the Indo-Pacific region”と題する論説を掲載し、ここでRuddは、米国が近年展開するインド太平洋戦略について、当該地域諸国から見たときに中国の経済的プレゼンスが持つ重要性を指摘し、要旨以下のとおり述べている。
(1)中国の経済的、戦略的拡大に対する反応として、米国はインド太平洋地域に焦点を当てており、近年米国の方針について多くのものが書かれてきた。しかしインド太平洋地域の国々が同地域をめぐる米中の戦略的競合に関してどう対応しているのかについては、あまり明確にされてこなかった。それはさまざまな形をとっているが、ひとつ言えるのは、中国の経済拡大がきわめて大きな影響力を持っているということである。
(2)まず朝鮮半島であるが、同半島における中国の立場はより強固になっている。Donald Trump政権の対北朝鮮政策はまず中朝関係の雪どけをもたらし、おそらく中国が北朝鮮に非核化を強制することはありえそうにない。韓国について言えば、Trump政権の対北朝鮮政策は、韓国の北朝鮮に対する宥和をもたらす可能性がある。米国にとって北朝鮮の非核化拒否は受け入れがたいものである一方、現在の韓国にとっては必ずしもそうではない。中国は朝鮮の統一を望んでおらず、北朝鮮も韓国も中国経済への依存度を強めている。韓国が米国の戦略的軌道から離れていくというシナリオはありうる。
(3)次は日本である。日本はアジアにおける米国の同盟の柱であり続け、安倍晋三首相の強力なリーダーシップのもと、対外・国防政策についてより行動的、積極的になってきた。その日本でさえ、米国との協調一辺倒というわけではない。2018年10月の安倍首相の訪中は日中関係改善の兆候を示すものであったし、中国の一帯一路政策に対して、将来的な日本の協力の可能性を示唆してきた。
(4)東南アジアはいまや新たな「グレート・ゲーム」の舞台となっている。東南アジアにおける中国の経済的プレゼンスは圧倒的であるし、領土や領海をめぐる係争を地域的なものに封じ込めることに成功している。また、東南アジア諸国の間では、米国が東南アジアの戦略的重要性を理解していない可能性を懸念している。ただし、マレーシアで昨年、中国による「債務の罠」を警告したMahathirが首相に就任したことは、東南アジアが中国の思い通りにはいかない可能性を示唆している。インドネシアにおける港湾インフラ建設では中国ではなくインドや日本に入札権が与えられた。ただし、中国の経済的プレゼンス拡大に対して米国が有効的な手立てを打てなければ、状況は今後中国の有利に進展するであろう。
(5)インドはここ5年の間に、Narendra Modi政権において米国との関係を強化してきた。それは中国という脅威の高まりに突き動かれたものであった。しかし米印関係は必ずしも強固というわけではない。Trump政権がインドを特恵関税対象国から除外したためである。また、インドがロシアからの兵器輸入を続けていることも、米国の法律による制裁を引き起こす可能性がある。結局のところインドもまた日本と同様に、米国一辺倒の関係を築くつもりはなく、ヘッジ戦略を採用しているのである。2018年4月以降、Modi首相が習近平国家主席と階段を重ねているのはその表れである。
(6)最後にペルシア湾岸地域に目を向けよう。中国にとっての最重要の課題は石油とガスの持続的確保である。中国は、サウジアラビアが一帯一路に参加し、アフリカへと至る玄関口になることを望んでいる。2019年2月にMohammad bin Salman皇太子が訪中したが、それは両国の関係改善の兆しである。しかしサウジアラビアやUAEは、中国がイランと親密な関係を築いていること、あるいは新疆ウイグル自治区におけるイスラム系住民に対する中国の方針に対して警戒もしている。そうであっても、湾岸地域諸国は、10年前には考えられないほど中国よりの行動を見せている。
(7)インド太平洋地域における米国の軍事的プレゼンスは重要であろう。しかし米国の同地域に関する戦略に欠けている要素は経済的なパワーである。長期的に見て、TPPからの離脱というTrump政権の決定は致命的な戦略的過誤であることが明らかになりつつある。
記事参照:Strategic trends across the Indo-Pacific region

2019年5月「我々が自由な海洋を守る理由―米研究員論説」(U.S. Naval Institute, Proceedings Vol. 145, May 2019)

 U.S. Naval InstituteのProceedingsの2019年5月号は、Columbia Universityの学生で米海軍大学The John B. Hattendorf Center for Maritime Historical Researchの研究員Hunter Stiresの “Why We Defend Free Seas”と題する記事を寄稿し、米国が海洋の自由を守る必要性について要旨以下のように述べている。
(1) 多くの人が考えているよりも南シナ海は危険な状態となっている。南シナ海の中国による海洋調査は、ほとんど一般的な関心を免れている。その理由の一部は、それが数えきれない一見ありふれた毎日の対応を通じて起こっているからである。中国の艦船がおとなしい東南アジアの漁船をいたぶっているとき、彼らの海洋調査は、行われていることの大きな危険を効果的に隠している。そのしばしば適切に見える外見にもかかわらず、現在南シナ海で露見していることは、実際は、世界史的なスケールと重要性を持つ対立である。
(2)米国は、建国以来、重要な国益である海洋の自由を保持してきた。米国は世界の大多数の人口と市場にアクセスするために海上輸送に依存してきており、海洋の自由またはその補助的な概念である航海の自由が米国の最高の目標であると宣言された6つの大きな戦争も行った。
(3)米国の海軍支配権が最高潮に達した1945年以来、海洋の自由は、米国が率いる自由主義の国際的な秩序の重要な信条であった。海洋の自由は非常に有益であり、これにより世界は繁栄し、数十億人が貧困から脱けだすことができた。海洋の自由は、強国の存在するユーラシア大陸の沿岸地域において、70年間大規模な攻撃を阻止し、米国と同盟国の海軍の平時の配備を許す法的基盤として機能してきた。
(4)中国は、この自由で開かれた法の支配に基づく海洋秩序を、海上での動乱や一帯一路構想などにより、閉鎖的で階層的な大陸的な秩序に置き換えるように努力している。中国の指導者たちは、自国がユーラシア大陸と世界貿易と政治の中心となり、他の国より優れたものになることを望んでいる。
(5)海洋の自由がなくなると、海上貿易において、無害通航の原則の下にある地点からある地点へ国際的または沿岸水域を往来することがもはやできなくなり、代わりに中国政府や他の政府が恣意的にさまざまな海域に対し「藍色国土」を主張したり、航法上の制限を主張したりするようになるだろう。一方、一帯一路構想関連の施設は、中国の影響力を高め、貿易や情報が利用可能な中国軍がユーラシア全域を陸路容易に移動することを可能にするだろう。米国はこの新しい秩序から不当に締め出されるであろう。地理的に孤立しているために一帯一路構想(BRI)の新たな内陸交易路にアクセスすることはできず、海上共同体のバルカン化のために、平時に海軍を派遣してユーラシア大国に影響を与えたり、抑止することはできないだろう。米国はユーラシア大陸のシステムを外側にいることになるであろう。この状況を既成事実として放置しておくと、アメリカは3つの厳しい選択に直面するであろう。戦争するか、中国の要望に屈するか、世界経済が荒れるままにしておくかである。
(6)海洋の自由を守らせることは、今世紀の世界秩序の進路と運命を形作るための進行中の闘争において現れる最初で最も重要な戦いの一つである。これはアメリカが負けるわけにはいかない戦いである。有効な反対がなかったので、中国の海上における暴動はすでに重大な侵害をもたらしている。今こそ、米国と同盟国が集中的に海上反乱への対抗戦略をとることによって潮流を変える時である。
https://www.usni.org/magazines/proceedings/2019/may/why-we-defend-free-seas

【補遺】

 旬報で抄訳紹介しなかった主な論調、シンクタンク報告書
(1) The U.S. Navy Is Unbalanced. It's Time to Fix It.
https://nationalinterest.org/feature/us-navy-unbalanced-its-time-fix-it-55447
The National Interest, May 2, 2019
John S. Van Oudenaren, assistant director at the Center for the National Interest. Previously, he was a program officer at the Asia Society Policy Institute and a research assistant at the U.S. National Defense University.
米シンクタンクCenter for the National Interestのアシスタント・ディレクターJohn S. Van Oudenarenは、5月2日付の米隔月誌The National Interest電子版に“The U.S. Navy Is Unbalanced. It’s Time to Fix It.”と題する論説記事を発表した。その中で彼は、①米海軍艦隊全体の規模は、1987年の600隻近くの艦艇から今日の約285隻まで減少したが、この期間、海軍計画担当者たちは、フリゲート艦のようなより小型の水上戦闘艦艇を犠牲にして、空母のような大型で高価な高性能のプラットフォームに予算のリソースを集中させた、②中国とロシアは、接近阻止・領域拒否の計画を作成することに成功しているため、米海軍の戦略的思考は「武器分散」(distributed lethality)と呼ばれる一時的な概念へと移行しており、これは戦闘力を多数のプラットフォームに分散させることを要求するため、小型艦であるフリゲート艦とコルベット艦が必要となる、③再びフリゲート艦を建造し潜水艦の生産を拡大することに加えて、海軍は「無人航空機、無人水上艦艇、無人潜水艇」に投資するべきである、④艦数の増加と、より高性能な水上艦艇とそれより性能が低い水上艦艇とのバランスの取れた艦隊は正しい方向性である、⑤海軍のより優先される目的は最終的に戦争をすることではなく、貿易と商業の自由な流れを保証し、海洋コモンズ全域での法による支配を守り、そして最も重要なのは、力による平和を維持することである、などの主張を展開している。
 
(2)Vanguards of the Thawing Arctic
https://foreignpolicy.com/2019/05/04/bracing-in-cold-for-arctic-thaw-canada-soldiers-military-exercise-nunavut-polar-geopolitics-china-russia/
Foreign Policy, May 4, 2019
By Robbie Gramer, a diplomacy and national security reporter at Foreign Policy
2019年5月4日、米誌、Foreign Policyで外交・安全保障問題を担当するRobbie Gramerは、同誌(電子版)に、" Vanguards of the Thawing Arctic"と題する論説記事を発表した。その中で彼は、カナダを取り上げ、北極圏での同国軍の活動がいかに過酷な条件下で行われているのか解説した上で、これまで同地での活動に手が届かなかった、西側諸国にとって最大の地政学上のライバル(訳者注:中国を意味する)が北極圏に関する主張を強めていることに警戒感を示し、その一例として、グリーンランドへの空港建設計画への参画などを取り上げている。そして、カナダはこうした新たな脅威だけでなくロシアのような伝統的な安全保障上の問題にも極寒の中で対処しなければならないと述べている。
 
(3) The Pentagon reports: China’s Military Power
https://nationalinterest.org/blog/buzz/pentagon-reports-china%E2%80%99s-military-power-56542
The National Interest, May 8, 2019
By Andrew S. Erickson, a professor of strategy in the China Maritime Studies Institute at the Naval War College
2019年5月8日、米海軍大学中国海洋研究所戦略担当教授のAndrew S. Ericksonは、米誌The National Interest(電子版)に、"The Pentagon reports: China’s Military Power "と題する論説記事を発表した。その中で彼は、今般米国国防総省が議会に提出した123パージにもおよぶChina Military Power Reportを取り上げ、独自の解説を加えているが、その要旨は次のとおりである。
・同報告書は、中国の北極圏での活動を取り上げ、中国がグリーンランドに研究施設、衛星通信施設、空港施設といった様々な施設を建設することに意欲を見せていること、また、将来的には同国に弾道ミサイル搭載型潜水艦を配備してくる可能性も視野に入れねばならないことを指摘しているが、これは非常に有益であり、我々もこの動きには注視すべきである。
・同報告書によれば、中国の国防予算は、2009年から2018年にかけてインフレ調整後の数値で平均8%増加し、2018年の公式の国防支出は1700億ドルをわずかに上回っている。しかし、国防総省は実際の支出を2000億ドル以上と見積もっている。歳入の増加策に関しては、中国は現在、世界の武器輸出国の上位5カ国に入っており、通常、競争相手よりも柔軟な条件と創造的な副次的支払い(訳者注:相手国の支払能力に応じた支払い方法や分割支払い条件)を提供している。特に、パキスタンとの大型契約や中東での兵器類の売却増が、中国の歳入増加に貢献している。
・この最新の報告書でも、台湾や南シナ海に関する軍事活動を含む人民解放軍の最優先シナリオに焦点が当てられている。同報告書が、人民解放軍の最新の「軍事戦略指針(military strategic guidelines)」では、「情報化された局地戦争(informatized local wars)」において戦い、勝利し、平時から戦時にわたる「海上軍事闘争(maritime military struggle)」に勝利する準備を整えることが求められている、と指摘しているが、これは正しい認識である。特に、「中国は、現代紛争の重要な要素が海上で起こることを予期している」という部分は極めて正鵠を得ている。
・同報告書は、中国が武力紛争の限界を下回る「グレーゾーン」活動を強調していることに注目している。同報告書では、中国によるインドやブータンとの国境紛争での「グレーゾーン」活動の使用も報告されているが、このような中国の戦術の主な目的は、南シナ海や東シナ海に関する領有権主張を有利に争うことにある。中国は、「グレーゾーン」活動に基づき、第一海上部隊(人民解放軍海軍)が地平線上で後方抑制的な抑止の役割を果たすことが多く、第二海上部隊(中国海警局)と第三海上部隊(海上民兵)が前線で活動する。中国海警局はすでに「世界最大の沿岸警備隊」であり、2016年10月のスカボロー礁付近で起きた事件のように、中国以外の地元漁船を威嚇する能力を持っている。
・近海を超えた海域では、人民解放軍海軍や人民解放軍空軍が戦力投射能力の向上に取り組んでいる。この挑戦的な活動は、まさに現在進行形のものである。中国の3つの海洋戦力(訳者注:上述した、人民解放軍海軍、中国海警局、海上民兵)は、それぞれ船の数で世界最大規模となっている。その総トン数は180万トンであり、460万トンを誇る米海軍を大きく下回っているが、人民解放軍海軍の兵力構成とその能力は急速に拡大している。例えば、人民解放軍海軍は、過去十年間に30回以上、海賊対策特別部隊をアデン湾などに派遣してきた。また、すでに大型化している人民解放軍海軍の潜水艦戦力の伸びは鈍化しているが、その進歩には目覚ましいものがある。国防総省の修正予測では、2020年までに新たに65~70隻の潜水艦の配備が予測されている。また、原子力潜水艦に関しては、093商級攻撃型潜水艦(SSN)が6隻、094晋級弾道ミサイル原子力潜水艦(SSBN)が4隻、現在建造されている。
・中国は2,700機以上の航空機を保有し、そのうち2,000機以上が戦闘機であるが、これは世界第三位の航空戦力を保有していることになる。同報告書は、「J‐20ステルス戦闘機は、少数ながらすでに実際に運用を開始している可能性があり、テストおよびトレーニング部門との連携も考えられる」と指摘している。無人航空機(UAV)は、中国が注目をし、開発に注力している特別な領域である。航空エンジンは依然として中国の重大な弱点だが、中国は改善に多額の投資をしている。中国が公表した、「第13次5カ年計画(2016~2020)」では、ターボファンを技術重点分野のトップとして位置付け、超音速飛行技術の開発や、衛星の配備・強化を図り、航空戦力の向上を着実に進めている。
・同報告書のように、権威があり、野心的であり、文脈的にも議論の余地があるこの種の報告書は、必然的に批判を招く。中国の国営メディアの代弁者や外交部報道官は、毎年この報告書を非難しているが、たいていの場合、具体的な内容については触れていない。この報告書は、官僚的に組み立てられた情報の寄せ集めを表しており、それらの情報のつなぎ合わせは必ずしも完璧ではない。しかし、今年の報告書は、例年に比べて、より強い結論と、混乱や議論の余地のある矛盾が少ない。確かに、人はいつも難癖をつける。例えば、筆者も、同報告書が黄海、東シナ海、南シナ海を「中国の 『近海』」と表現していることに同意しない。これらの海域の大部分は世界の海洋コモンズの一部であり、今後もそうあるべきであるからだ。その他、同報告書のカバーする範囲が不完全といった問題はあるものの、我々にとっては、「それ(国防総省の報告書)」がないよりは、議会に提出され白日の下にさらされる方がはるかに有益である。