海洋安全保障情報旬報 2018年9月1日-9月10日
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9月4日「太平洋の安全保障ジレンマ―豪専門家論評」(The Interpreter, September 4, 2018)
オーストラリアのシンクタンクLowy Instituteの非常勤研究員Jenny Hayward-Jones は、9月4日付の同シンクタンクのブログThe Interpreterに"Regional security dilemma in the Pacific"と題する論説を寄稿し、気候変動に対する姿勢と中国の債務外交に対する見解に関して、オーストラリアと太平洋島嶼国との間で齟齬があるとして、要旨以下のように述べている。
(1)Kevin Rudd首相の在任1期目の初期、そしてJulie Bishop外相の在任期間は、どちらも、太平洋地域のカウンターパートに耳を貸して関与し、彼らの前任者より頻繁に訪問し、新しい政策を策定する能力を示した。Julie Bishopは太平洋に大きな成果を残している。彼女は、労働党政権によって作られたこの地域のためのオーストラリアにおける「季節労働者受け入れ制度(Seasonal Worker Program)」を支援し、拡大した。そして、太平洋島嶼国からの長期的な要求を満たす、オーストラリアでの労働機会へのより多くのアクセスのために、太平洋労働者施設(Pacific Labour Facility)とともに、新しい太平洋労働者計画(Pacific Labour Scheme)を導入した。彼女は、援助プログラムにおける女性の権利に強い重点を置くことを奨励し、そして、彼女の任期中に粗野な援助削減を監督したが、それらの最悪の事態から太平洋の島々を守った。Bishopは、法の支配を促進し、腐敗を非難し、この地域における自由なメディアの重要性を支援するために、もっと多くを果たした可能性がある。パプアニューギニアとナウルの政府は近年、法の支配の基本原則を公然と無視しており、多くの太平洋島嶼国政府はメディアの自由を制限している。マヌスとナウルの亡命希望者収容センターを維持するためのオーストラリア政府の差し迫った必要性は、Peter O'Neillパプアニューギニア首相とBaron Waqaナウル大統領の政府を批判するBishopの力量を制限した。彼女の餞別は、おそらく、彼女がこの地域で行った成果を守るために、彼女の後継者がMarise Payneであることを確保したことだった。
(2)しかし、Payneが外務大臣に任命された時期と状況、そして、気候変動に関する彼女の党の政策上の空白は、太平洋におけるオーストラリアの利益を追求する上での彼女の成功の機会を妨げる可能性がある。Payneは、今週ナウルで開催された太平洋諸島フォーラムの指導者会合で、オーストラリアの気候変動政策に対して公然と落胆し軽んじ、地域の安全保障の優先事項がキャンベラと著しく異なり、彼らの国々への中国の関心を歓迎する指導者たちと交渉する予定である。太平洋諸島フォーラムの指導者たちは今週、人間の安全保障、環境安全保障、自然災害の影響に対する回復力の構築、そして気候変動により大きな焦点を置くことを含む、地域の安全保障優先事項を拡大するBiketawa Plusとして知られる宣言について交渉を行う予定である。
(3)オーストラリアは、この地域に対するこれらの問題の重要性をはねつけることはできないが、キャンベラの地域安全保障の優先事項はこれらの島嶼国の優先事項と反目していることが明らかになっている。オーストラリアはこの地域における最大の援助国であり、投資国であり、貿易相手国であるが、この地域における中国の影響力の増大をますます懸念している。中国の通信機器会社の大手である華為(Huawei)に対する安全保障上の懸念は、ソロモン諸島とパプアニューギニアとの海底インターネット・ケーブルを敷設する契約に署名するようキャンベラを導いた。オーストラリア政府の閣僚は、債務の罠を生み出す中国の融資リスクについて太平洋のカウンターパートに警告している。Bishopは、彼女のニュージーランドのカウンターパートであるWilson Petersとともに、英国、フランス及び米国に、中国の影響力に対抗する手段として、この地域の彼らの外交的プレゼンスや援助を拡大するよう求めている。太平洋島嶼国の政府は、オーストラリアやニュージーランドと比較すると、彼らの国家に対する中国の関心をあまり心配してはいない。多くの国々が、インフラと衛生のための財政支援に対する中国の関心を求め、歓迎し、そして、気候変動の脅威に対する北京の理解を高く評価している。トンガ首相のAkilisi Pohivaは、彼の国の債務水準に懸念を抱いているが、他の指導者たちは、「債務の罠となり得る中国の融資に署名をし、オーストラリアが、彼らは彼ら自身の経済状況を管理することができない」と仄めかしたことを不愉快に思っている。
(4)オーストラリアは、太平洋島嶼国政府に対し、中国がもたらす戦略的脅威にさらに注意を払う必要があることを納得させたい。一方、太平洋島嶼国の政府は、気候変動が彼らの国民に対する実存的な脅威であり、地域の安全保障に対する主要な脅威であることを、炭素排出量の削減に関して政策のないオーストラリア政府に納得させたい。
(5)今、島嶼国は彼らが利用できる他の援助パートナーや投資パートナーによって、オーストラリアとニュージーランドに対してより大きな影響力をもっている。オーストラリアは気候変動に対する信頼性が衰微の極に達しており、この地域へのその利益を主張する強い立場にはない。
記事参照:Regional security dilemma in the Pacific
9月5日「加海軍、ナニシヴィクに来夏、給油拠点開設―米専門家論評」(NUNATSIAQ NEWS, September 05, 2018)
米国の天文学研究者Beth Brownは、9月5日付の加週刊紙NUNATSIAQ NEWSに、"Access to fuel essential for Royal Canadian Navy's Arctic work-Nanisivik fuel depot set to open next summer, 12 years after project announce"と題する記事を寄稿し、ナニシヴィク(抄訳者中:カナダ北東部北極諸島のバフィン島にある町。鉛亜鉛鉱山として開発されたが、鉱山は廃鉱となった。2007年に時のHarper首相が加軍の入渠施設と給油施設建設を公表した。)に開設される給油拠点の含意について要旨以下のように述べている。
(1)加フリゲートCharlottetown艦長は8月29日夜のブリーフィングで達着をより難しくするかもしれない風に注意するよう副長に話していた。たとえそうであっても、(グリーンランド最大の港)ヌーク港への入港には約30分を要する
Charlottetownは1週間前に同港に寄港している。その寄港は、加軍は毎年実施している北極の主権を擁護する任務、ナヌーク作戦において国内に展開させているにもかかわらず、海軍が2回寄港させた内の1回であった。
Charlottetownの行動は8月12日から8月28日に及ぶものであった。しかし、この燃料補給のための寄港は東海岸の母港に帰投するために不可欠であった。個人所有の給油所を除き、カナダ極北地域には海軍艦艇に給油できるところは無いからである。
(2)かつては、ナヌーク作戦に従事する艦艇は洋上給油を行っていた。しかし、2018年には計画されなかったとCharlottetown艦長は言う。また、「洋上で2隻の大型艦を至近距離で併走させるのは危険である」と付け加えた。「気象のリスク、シーマンシップの問題、そして環境へのリスクもある」と彼は言う。
2019年、海軍の北極における燃料計画ははるかに容易になるだろう。それは、待望のナニシヴィクに、海軍施設、給油所を加政府が開業させた後である。この特定の季節だけ開設される拠点は北極圏海域の行動に「劇的な」変化をもたらし、「拠点は沿岸警備隊、海軍ともにより高緯度での行動を可能にする」とCharlottetown艦長は言う。
(3)水深の深い港に建設される基地は2基の燃料タンクを保有し、加沿岸警備隊及び加海軍の氷海航行能力のある新哨戒艦船が使用する同タンクは、毎年船舶用燃料で満タンにされる。新哨戒艦船は2018年秋に進水する。
現在、給油所の設備は建設中であり、2019年に運用開始を目指した試験を実施中である。ナニシヴィク計画の責任者を10年勤めてきたRodney Watsonは「給油所は北西航路の真南にあり、運用するのに都合の良い場所にある」と言う。
8月、国防大臣Harjit Singh Sajjanはナニシヴィクを訪問し、カナダ国旗及びヌナブト準州旗が掲揚された。「我々はアークティック・ベイと緊密な関係を持つことで多くの価値を得ている」とWatsonは述べており、さらに給油拠点事業は軌道に乗って順調に進んでおり、現在は支出が予算を下回ってきているとも言った。しかし、ナニシヴィクは2018年夏に開設されると考えられていた。
(4)カナダは、1990年代に建造されたHalifax級フリゲートをCharlottetownを含め12隻保有している。同級は665,000リットルの燃料を搭載している。
「同級は、主に北大西洋で対潜水艦戦を行うことを考えられていた」とCharlottetown艦長は言う。同級フリゲートは艦齢半ばでの改修を経て、現在は人道任務やNATOの対麻薬作戦に運用されている。
艦艇は北米から欧州まで燃料補給を受けずに迅速に移動できる。しかし、高速航行は燃料の効率性の面でコストがかかる。また、高出力のために多くの燃料を燃焼させ、燃料消費が大きくなるからである。
このことを念頭に、カナダの次期対氷能力強化のHarry De Wolf級は耐久性と燃料経済性を考慮して設計された。
(5)次期艦艇は最高速力を犠牲にして低く抑えている。彼らはある地点から他の地点へ高速で移動するように設計されていないし、意図されていない。それら艦艇はより低速でより長距離を航行するのにより適している。それが、北極の哨戒に当たる戦闘艦のメインエンジンが、Charlottetownが搭載するのと同種のディーゼルエンジンである理由である。フリゲートは中間速力の13ノットでディーゼルエンジンを運転すると1時間当たり約1,000リットルの燃料を消費する。ガスタービンエンジンでは3倍の約3,000リットルを消費する。
(6)しかし、北方行動の途中でギアボックスが故障した時、Charlottetownの機関科員は燃料効率の良いディーゼルエンジンから2基の高速ガスタービンエンジンに切り替えざるを得なかった。
この故障で同艦は8月25日にクガアルク付近で座礁し、困難に直面した調査兼観光船Akademik Ioffeを支援するため迅速に航行するのに支障をきたした。「もし、命を守ろうとすると、明らかに迅速に行動し、大量の燃料を消費するだろう」とCharlottetown艦長は言う。
救援するためには、同艦はヌークでまず給油するか、沿岸警備隊から燃料を補給しなければならなかった。そうすれば同艦は母港に帰港できるのである。その間、沿岸警備隊のPierre RadissonとAmundsenが食い止めた。砕氷に加え、捜索救難は加沿岸警備隊の主任務である。
「北極では、迅速で効果的な対応は困難である。距離の問題があるからである」とCharlottetown艦長は言う。新しい給油拠点と新型の対氷能力のある海軍艦艇がその状況を変えるだろうと付け加えた。
「北極沖合の哨戒艦艇が与えるものはより大きな距離である。」
記事参照:Access to fuel essential for Royal Canadian Navy's Arctic work-
Nanisivik fuel depot set to open next summer, 12 years after project announced
9月5日「自由で開かれたインド太平洋の定義を超えて-米専門家論説」(The Diplomat.com, September 5, 2018)
米国の新アメリカ安全保障センター(ASA)アジア太平洋安全保障プログラム助教のAbigail Graceは、9月5日付のWeb誌The Diplomatに"Beyond Defining a 'Free and Open Indo-Pacific'"と題する記事を寄稿し、「自由で開かれたインド太平洋」については実質的な中身の議論を進めるべきであるとして要旨以下のように述べている。
(1)「自由で開かれたインド太平洋(FOIP)」については観念的議論から脱却し、具体的な行動に焦点を当てるべき時である。この1年余りの米日豪印による「自由で開かれたインド太平洋」追求に際しては意図と目的に広範な誤解がある。確実な反証があるにもかかわらず、FOIPが反中国同盟ないしは米国による新たな「封じ込め」戦略であるとの主張もあるが、この分析は2016年8月、日本の安倍晋三首相によって提唱された地域戦略としての本質を見過ごしている。オーストラリアは2013年に政府の公式文書で「インド太平洋」構想を開始しており、2014年に発表されたインドの「アクトイースト」政策もまた、インド太平洋地域の「自由で開かれ包括的な」ビジョンの根幹をなすものである。
こうした混乱はFOIPとは何であるかを定義する四ケ国連携(Quad)各国の統一的な文書が示されていないことに起因しているのかもしれない。しかし、そのような文書は、各国の独自の政策形成を制限することで「自由で開かれたインド太平洋」の形成を蝕むことになり、また、こうした共通文書はその包括性を損なうことにもなるだろう。もちろんこれはインド太平洋諸国が完全に独自の戦略を構築すべきだと言っているのではなく、むしろ自由主義的な国際秩序の維持に関心を持つ地域の国々はインド太平洋の未来のために政府間レベルで共通の運営イメージを構築すべきである。
(2) ここ数ケ月、この関連では多くの進展も見られた。米豪日印、それぞれの戦略の一致はこのことを如実に示している。しかし、これを「一回限り」のイベントではなく、戦略的な協議が同盟国やパートナー諸国へのアプローチをより豊かにするよう、このコンタクトを定例化し制度化すべきである。
「自由で開かれたインド太平洋戦略」が提唱されて1年近く経過した今、FOIPとは何かといった観念的な議論から離れ、これを成功に導く指標に焦点を当てるべき時が来た。政策立案者にとっては、専門家コミュニティあるいは地域の期待は高く、太平洋地域からの米国の撤退という中国の望むシナリオを防止するためにも、具体的な行動が求められているのである。
米中の貿易上の緊張が継続している中、米国のビジョンを促進し、中国に積極的な立場を追求していくには固有の摩擦もある。米国の当地域への関心は「米国の利益」のみに基づくものであり、中国とは何者なのか、中国共産党とは何なのかという一般的懸念がなければ、米国のコミットメントの真実性は常に疑われることになる。Donald Trump大統領のAPEC、ASEAN、EAS年次会合を欠席するという決定は、米国のコミットメントが日和見主義的で信用できないという懸念を増幅させるだけである。
(3)米国のFOIP戦略は経済的な次元以上には根を下そうとしていない。2017年11月のTrump政権の発表では関係国と「自由で公平な相互貿易協定」を遂行しようとしているが、インド太平洋諸国との新たな二国間自由貿易協定(FTA)は締結されていない。この一つの要因としては米国通商代表部(USTR)の能力も限られており、NAFTAの継続交渉や中国を対象とする米国の関税の履行には限界があるとも考えられる。
日本が「環太平洋パートナーシップに関する包括的及び先進的な協定(CPTPP)」の合意実現に向けリーダーシップを発揮したことは、米国の長年の信頼性を損なった。米国の地域経済におけるリーダーシップの放棄は自由で民主的な価値の侵食に向けたレシピである。
(4)米国経済に係る懸案に加えて、米国とそのインド太平洋地域におけるパートナー諸国が良好なガバナンスを促進するには、この地域の非民主主義国あるいは民主化の途上にある国家との関係も懸念事項である。FOIPの有効性に係る中心的課題は、強力な機構化の促進や基本的人権の尊重などを地域の重要なパートナー諸国を孤立させることなく実施することにある。例えば、フィリピンやタイとの同盟の再活性化は、より包括的なインド太平洋戦略のビジョンを支え、Quadへの依存度を相対的に緩和する可能性がある。フィリピンやタイとの相互防衛コミットメント、強力な軍事的関係の構築に専念するのではなく、米国にとってもこれら諸国との経済その他の関係の多様化と深化は必要であり、言葉だけでなく、行動を通して真に「自由で開かれたインド太平洋」の実現を促進することになる。
(5)インド太平洋地域のビジョンを実現するには、二国間関係、三国間関係のネットワークを構築し、維持していくことが必要である。志を同じくするパートナー諸国は、狭量な対応に晒されるリスクを考慮しつつも第三国との協調関係を促進すべきである。米豪英仏及びニュージーランドが太平洋諸国における外交スタッフの増員を検討しているという最近の報告は、強制を伴わない競争が保証される「外交的防衛」の好例であると言える。しかし、「外交的防衛」に基礎を置く戦略は長期的には持続可能なものではない。分散して配置された各在外公館の職員は、事実に基づく分析をタイムリーにそれぞれの首都における政策議論にフィードバックしなければならない。さらに言えば、米国と台湾の「グローバル協力訓練枠組み」のようなプログラムを拡大し、インド太平洋洋地域における米国との連携国の能力向上のためのテンプレートとして活用すべきである。
議論されている現実の一つは、「自由で開かれたインド太平洋」という戦略は、米国のみで地域の多くの国家を結集することは出来ないという認識に根ざしている。多様な国家が共通の価値に根ざした深い結びつきを持ち、開発を協調的に相互支援するといった共有のビジョンは、21世紀におけるグローバルな米国の取り組みの原型となるはずである。
今や「自由で開かれたインド太平洋」とは何かといった観念的な議論に終始している場合ではなく、それを有効に機能させるために必要な事項に焦点を当てるべきである。
9月5日「南シナ海で座礁したフィリピン艦の撤去と安堵する中国」(South China Morning Post.com, September 5, 2018)
9月5日付の香港の日刊紙South China Morning Post電子版は、"China 'relieved' Philippine warship towed from shoal in disputed South China Sea, analysts say"と題する記事を掲載し、南シナ海におけるフィリピン艦の座礁とその撤去に関する中国の見方を、要旨以下のように報道している。
(1)中国は、南シナ海の争いのある海域で座礁したフィリピン海軍の軍艦が最終的に回収されたことを見て、「安心」(relieved)しているとアナリストらは述べている。2隻の商用タグボートは、フィリピン海軍の旗艦であるGregorio del Pilarが座礁した5日後、紛争中の南沙諸島の東端のハーフムーン礁の浅い縁から引っ張るために9月3日月曜の夜遅くに使用されたと、フィリピン軍は述べた。「南シナ海における現状の維持は、米国との関係が緊張している現在、中国の主要な関心事だ」「これはすべての当事国にとって良い結末だった」と、上海に拠点を置く軍事評論家のNi Lexiongは語った。
(2)8月29日水曜日の夜の定期的なパトロール中に、このフィリピン艦が座礁してそのプロペラがダメージを受けた直後、北京は、付近の人工島から沿岸警備隊の複数の船艇と1隻の救助艇を送った。アナリストたちによると、中国は、フィリピンがセカンド・トーマス礁を効果的に「占領」することを可能にし、フィリピン軍の前哨基地とした、1999年のセカンド・トーマス礁におけるフィリピン海軍輸送艦の座礁の再現を警戒した。中国は、フィリピンと中国が権利を主張し、ハーフムーン礁の約110km北に位置するセカンド・トーマス礁からの現在は錆びてしまっているフィリピン軍艦Sierra Maddreの除去を繰り返し要求している。ハーフムーン礁はまだ領有権主張国のいずれかによってもコントロールされていない。沿岸警備隊と救助艇の派遣は、中国が地域の管理を支配していることを示すためのものだったとされる。さらに、外交努力と中国軍を現場に派遣することを組み合わせることで、フィリピンに「できるだけ早く」その座礁した軍艦を撤収するように圧力をかけることを意図した。
(3)20年前のフィリピン軍艦Sierra Madreの座礁以来、中国は、座礁した艦船が争いのある地域に長く留まりすぎないように努めてきた。2016年3月、中国当局は、南沙諸島のジャクソン礁にフィリピンの漁船が座礁した直後にそれを曳航した。世界の海運貿易の60%が通航する南シナ海の紛争を管理する努力の中で、中国とASEAN諸国は、8月に「行動規範」案で合意した。一方、フィリピンのRodrigo Duterte大統領は、権利の主張をめぐって、中国を仲裁裁判所に提訴した彼の前任者であるBenigno Aquinoよりも、紛争地域についてより穏やかな見解を示している。しかし、フィリピンは、南シナ海での中国、特にその軍隊のプレゼンスに関して、その立場を変えていないと、曁南大学の東南アジアの専門家Zhang Mingliangは述べた。
記事参照:China 'relieved' Philippine warship towed from shoal in disputed South China Sea, analysts say
9月6日「南シナ海行動規範を効果的にする3つの処方箋―米専門家論説」(East Asia Forum, September 6, 2018)
米戦略国際問題研究所アジア海洋透明性イニシアチブのディレクターGregory B Polingは、9月6日付のWeb誌、East Asia Forumに"South China Sea code of conduct still a speck on the horizon"と題する論説を寄稿し、「南シナ海行動規範」を効果的なものとするためには3つの視座が必要だと指摘した上で、要旨以下のように述べている。
(1)20年に及ぶ協議の後では、「南シナ海行動規範」(COC)の進展に対して懐疑的な見方が出るのも無理はないが、前進が見られた時にそれを認めることも重要である。2018年8月2日のASEAN・中国拡大外相会合前に明らかになった、草案集約への合意は評価されるべき重要なプロセスである。COCは南シナ海の紛争を解決しないし、またそのつもりもない。その代わりにCOCは紛争を管理しようと意図されている。しかしながら、南シナ海の紛争を効果的に管理する仕組みには3つのことが必要であるところ、草案ではそのいずれも実現していない。
a. 効果的なCOCは地理的に規定される必要がある。南シナ海領有権主張国は紛争を解決する必要はないが、その効果的な管理を望むならどこで紛争が起きているかに合意する必要がある。例えば、パラセル諸島とその周辺海域を含まない合意はハノイにとって受け入れ難いだろう。同じことは、フィリピンのスカボロー礁にも言えることである。では、インドネシアとマレーシアが主張する排他的経済水域内の海域と海底地形についてはどうだろう。中国はこれら全ての領域を「九段線」に基づいて主張しており、草案から除外されるようなことがあれば係争場所であり続けることになる。
「行動規範」草案に関する詳細の多くを明らかにしたCarl Thayerによると、ベトナムは「国連海洋法条約に基づいて主張される、南シナ海のあらゆる係争中の地勢と重複する海域に現在の行動規範を適応すべきだ」と提案した。しかしながら、それでは曖昧過ぎて効果的ではない上に、他の南シナ海領有権主張国が国連海洋法条約の下で承認していない、北京が歴史的な権利を主張する領域を除外する言葉が選択されている。なんらかの規範がうまく機能するのは中国が歴史的な権利を主張しようとする全ての礁や岩礁、沈堤、海域・空域を含む、あらゆる係争領域が明確に包含される場合のみである。
b. 効果的なCOCは紛争解決メカニズムを必要としている。草案の解釈と適用を巡って意見の不一致が起こることは不可避である。そうしたことは曖昧過ぎた上に、意見の不一致を解決する手段を持たなかった、2002年の「南シナ海行動宣言」の歴史からも明確である。
この問題を解決すべくインドネシアとベトナムは、COC関係国が東南アジア友好協力条約下の理事会(High Council)に意見の不一致を持ち込めるよう提案したと報じられている。未だかつて招集されたことがない理事会はASEAN加盟国が指名する委員を含み、紛争の聴聞と調停を行うものである。理事会の裁定は法的拘束力を有さず、必ずしも強制できるものではないが、それ相応の影響力を具えるものである。
理事会に関する提案の主な問題点は、東南アジア友好協力条約の加盟国のみが構成員になれることである。もっと効果的なオプションは、中国を含むすべての関係国が選ぶ人材リストから調停者を選ぶ理事会に類似した機関を招集する手続きを明確にすることである。
c. 南シナ海の紛争を管理するいかなるレジームも、漁業管理と石油・ガス開発に関する詳細な条項を必要とするだろう。しかしながら、交渉中の草案でこれまで列挙されてきた見解は相互に矛盾している上に、資源管理の詳細かつ協調のとれた仕組みを描き出すには程遠い。
例えば、ジャカルタは関係国が違法漁業を越境犯罪の一形態として連携すべきだと提案するが、インドネシアが定義付ける違法漁業は他国、特に中国が合法と見なす活動を含んでいる。中国の石油・ガス協力に関する提案は、中国以外の領有権主張国と公平な資源管理を行うというよりも、外国企業の除外に注力しているように思われる。
残念ながら、COCには根本的な矛盾が存在する。メンバーの問題のためにCOCは資源管理の詳細を論じる手段としては相応しくないが、そうしなければ紛争を管理する効果的な手段とはなれない。ほとんどのASEAN諸国は係争中の漁業や炭化水素資源に利害を有しておらず、重複する資格や資源の権利の詳細を巡る交渉の詳細に関心も持たないだろう。
この問題の解決法は、明確な地理的範囲の中における一般的なルールを設けて、効果的な紛争解決メカニズムを創設して、漁業管理と石油・ガス協力に関係する主張国のみが参加する継続交渉の即刻開始を承認する、ASEAN全加盟国と中国が署名するCOCである。
そうした文書は南シナ海における紛争の平和的な管理に向けた大きな一歩である。しかしながら、関係国間の相違は大きなままであり、効果的なCOCの最終合意には暫しの時間を要するように思われる。
記事参照:South China Sea code of conduct still a speck on the horizon
9月6日「米印関係と軍事情報協定」(Reuters.com, September 6, 2018)
9月6日付のロイター通信は、"U.S. India seal military communications pact, plan more exercises"と題する記事を掲載し、中国の海洋進出を念頭に置いた、軍事情報協定の締結をはじめとした米印関係の発展と情勢について、要旨以下のように報じている。
(1)インドと米国は、慎重に扱うべき米軍の装備をインドに売却する道を開く可能性があり、双方が9月6日木曜日にブレイクスルーとして歓迎した、安全な軍事情報交換に関する合意に署名した。この協定は、Jim Mattis米国防長官とMike Pompeo国務長官が、インドのSushma Swaraj外相及びNirmala Sitharaman国防相と、政治と安全保障関係の深化を目的とした2プラス2会談の後に署名された。世界の2大民主国家が、近年お互いがより距離を詰め、アジアでの中国の影響力の広がりを相殺する方法を模索している。
(2)合意の内容は以下のとおりである。
a. ワシントンとニューデリーは、パキスタンに拠点を置く反西洋及び反インドのイスラム過激派に対する懸念を共有している。
b. 9月6日に署名されたCommunications Compatibility and Security Agreement(COMCASA)は、米軍とその通信ネットワークを開通するというインドの懸念から、何年も停滞していた。
c. この協定は、当局者たちが以前、武装した無人監視機のようなハイテク機器を移転させることを米国に可能にすると言っていたように、「大きな前進」だったとPompeoは述べた。ニューデリーは、パキスタンの密接な友好国である中国が近年繰り返し進出を行っているインド洋を監視する無人機を求めている。
d. インドと米国はまた、外交トップ間のホットラインを開設し、2019年にインドの東海岸沖で陸海空軍が参加する共同演習を開催することに合意したとインド政府は述べた。
e. この協定により「インドとの相互運用がより可能になるだけでなく、自国のシステム間でもインドとの相互運用性を高めることが可能になる・・・最も重要なのは、それが、広範な防衛技術をインドに開放することである」とJoseph Felter米国防次官補代理(南アジア・東南アジア担当)は一部の記者団に対して語った。
f. 米国は、過去10年間で150億ドル相当の契約を結んだインド第2位の武器供給国として浮上してきた。
(3)専門家たちは、COMCASA協定に署名すれば、ロシアのS-400地対空ミサイルシステムの購入に目を向けているインドに米国が制裁を課す可能性を減らすこともできると考えている。米国は、その防衛・情報部門に関わっているいかなる国も、二次的な米国の制裁に直面する可能性がある中、ロシアに対する全面的制裁を課している。しかし、新たな国防法案は、国家安全保障上の利益が危うい時に、米国大統領に免除を供与する権限を与えることを提案している。Pompeoは記者たちに、米国は、S-400を購入する案のためにインドを罰することを求めないと語った。
(4)米国は、テヘランの核開発能力を立ち往生させることを意図した、イランと世界の6大国との間の2015年の合意からTrumpが撤退した後、イランからの石油輸入を停止するよう諸国に圧力もかけている。インドは、中国に次ぐイランの最大の石油の買い手であり、米国からの免除を求めている。ニューデリーでの会談に先立ち、米国務省の高官は、米国は、イランからのインドの石油輸入を完全に停止するというワシントンの要求に対して、インドと「非常に詳細な打ち合わせ」を行っていると語った。
記事参照:U.S., India seal military communications pact, plan more exercises
9月6日「米中貿易戦争:輸出の視点から」(The Diplomat, September 06, 2018)
9月6日付Web誌The Diplomatは、「シリーズ環太平洋概観」の第154回におけるワシントン州中国関係会議のMercy A. Kuo所長が、DailyFX 社の主任通貨ストラテジストであるIlya Spivakと対談した際の内容を "US-China Trade War: Eye on Exports"と題して掲載し、要旨以下のとおり伝えている。
Q1: アメリカの輸出主要産品への関税がアメリカ経済に与える影響は?
A1: 報復的な関税合戦が繰り返されている。アメリカの輸出品に対する他国による関税は、例えば、ウイスキー業のように、関税対象となっている製造業にかなりの打撃を与えている。しかし、アメリカの輸出額はGDPの5%以下であり、輸出入のバランスが不均衡であるところから、アメリカ全体の経済を悪化させるとは考えられない。
Q2: 中国の輸出主要産品への関税が与える中国経済への影響は?
A2: アメリカは中国からの輸出の1,000品目に対して関税を課している。中国のGDPは輸出に依存しており、景気は後退する。中国の国内総生産高における輸出の占める割合は、2011年が10%であったものが、今年は7%に減少している。関税の拡大は特定の個人業に打撃を与えるだろうが、中国が内需拡大に舵を切ることができれば、重大な障害とはならないだろう。
Q3: 米中貿易紛争でもっとも脆弱な産品は?
A3: 中国の主要輸入品は、原油などの化石燃料、金属、そして大豆である。現在繰り広げられている貿易戦争は、生産地から中国の工場、そしてアメリカの消費者に至るまでのサプライチェーンを混乱させるだろう。このサプライチェーンに依存する国々も打撃を被るだろう。中国への輸出が多いオーストラリアの通貨も脆弱である。
Q4: アメリカの株式市場は好調だが投資家の信頼は低いのはなぜか?
A4: 株高ではあるが、貿易高は減少しており、リーマンショック前までの状況に回復していない。2012年以降変化がない。投資家は2013年以降に世界のGDPの増加が平均3%から成長していないことで、現在の株高に半信半疑なのであろう。
Q5: 米中貿易戦争が世界の輸出に与える影響と政治家や経済界が備えるべきことは何か?
A5: 重要なことは米中の貿易紛争がどの程度続くかだろう。長引けば、世界のサプライチェーンにダメージを与え、おそらく雇用にも及ぶだろう。消費動向に圧力を掛け、世界のGDP減少につながるだろう。政策決定者は適切な金融政策をとる必要がある。経済人は資本バッファーを維持することに努めるべきである。
記事参照:US-China Trade War: Eye on Exports
9月7日「フィジー基地建設をめぐる豪中の角逐と豪の勝利―フィジー誌報道」(Mailife.com, September 7, 2018)
フィジーで発行されている雑誌Mai Lifeは、9月7日付で"Australia Beats China To Fiji Base"と題する記事をウェブサイトに掲載し、フィジーのBlack Rock Campへの出資についてオーストラリアが単独で実施することに関して、要旨以下のとおり報じている。
(1)オーストラリアは、フィジーのBlack Rock Campの再開発をめぐる入札において、競合関係にあった中国を退け、唯一の海外出資者としての立場を維持することに成功した。オーストラリアの連立政権は、南太平洋の部隊が訓練を行うための地域的ハブ建設に大きく貢献したということになる。こうした動きは、南太平洋地域における中国の軍事的プレゼンスが高まっていることに対するオーストラリアの懸念の深さを反映している。
(2)オーストラリアはフィジーに対する軍事的コミットメントを深めようとしている。少し前にオーストラリアは装甲車Bushmaster vehiclesをフィジーに提供し、2017年11月にはBlack Rock Camp再開発のために2億ドルの資金を提供した。そうした文脈において、8月末、そのリーダーシップが動揺するなかで、Malcolm Turnbull首相は「オーストラリア国防軍とフィジー共和国軍との間に、より強力な相互運用性を築きあげる」ことを宣言した。オーストリア・フィジー両政府は、Black Rock Campが「警察活動、平和維持活動の訓練、および部隊が配備される事前準備のための地域的ハブ」として機能するだろうと述べた。
(3)「オーストラリアはうまくやった」と言うのは、フィジー軍のEroni Duaibe大尉である。彼によればオーストラリアはBlack Rock Campの再開発に関して、総合的な計画を提示した。つまりただインフラに限定した開発でもなければ、人員の供給や部隊の訓練などに限定した事業を提案したのではなかったのであり、これは中国にとって入札をためらわせるようなものだったのである。中国とフィジーの関係は、2006年にフィジーで軍事クーデターが起きた後に深まっていき、中国はそれ以来フィジーの海軍基地建設への投資などに関心を払ってきた。しかしオーストラリアが「うまくやった」ことで、今回は手を引かざるをえなくなった。
(4)フィジーにおけるプレゼンスをめぐって、中国とオーストラリアは競合し続けてきた。今年7月半ば、中国はフィジーに「監視・水路測量用」船舶を贈与したが、その同日、オーストラリアはフィジーに改修した巡視船を提供した。また今年初めには中国が科学監視船Yuanwang 7をフィジーに派遣したが、その日は、オーストラリア海軍のフリゲート艦Adelaideが、インド太平洋エンデバー2018の一環として、フィジーの首都スヴァに停泊していた。さらに中国とフィジーは警察に関して緊密な関係を築いていた。オーストラリアによるBlack Rock Campへの出資の成功は、こうした中国の動きに対するオーストラリアの懸念の反映であり、その意味においてこの成功は非常に大きな意味を持つものであった。
記事参照:Australia Beats China To Fiji Base
9月7日「台頭する中国の海上民兵、民主主義諸国の海軍が迫られる対応―米専門家論説」(Asia Times.com, September 7, 2018)
ジャーナリストのTodd Crowell及びAndrew Salmonは、9月7日付のWeb誌、Asia Timesに"Chinese fishermen wage hybrid 'People's War' across Asia's seas"と題する論説を寄稿し、中国の海上民兵がその存在を拡大しつつある中で、西側諸国の海軍は新たな脅威に備えるべきだと指摘した上で、要旨以下のように述べている。
(1)武装漁船団は北京に対して、低烈度の海洋対立における新戦力として増大する海軍力の露払いをもたらしている。中国の海軍力における第3の要素として浮上しているのは、武装漁船の大艦隊である。世界中の注目が中国の空母などの外洋海軍のポートフォリオ拡大に集まる中で、技術的にはさほど優れてはいないが、より展開しやすい船団が知られつつある。中国漁船団がアジアの海洋紛争で果たしている役割はようやく徐々に認識されてきたところである。中国は世界最大の漁船団を出動させているが、彼らがどの程度、準軍事部隊を構成するのかについては安全保障専門家の間でも意見が割れてきた。中国海軍と海警は既知の存在であるが、漁船団は中国に連携して対抗する勢力のレーダには次第に「海上民兵」として捉えられるようになってきている。
(2)8月に公表された米国防省の米議会に対する中国の軍事力に関する年次報告書は「人民武装海上民兵(PAFMM)」に注目し、「PAFMMは中国の国家民兵組織の一部であり、動員可能な民間人の武装予備部隊である。PAFMMは戦火を交えることなく、中国の政治的目的を達成するための威圧的な活動で大きな役割を果たしている」と指摘する。こうした分野の権威である米海軍大学教授Andrew Ericksonはオンライン上で、国防省が公的かつ権威的にPAFMMを定義づけたことによって警鐘を鳴らしたと強調した。日本の年次防衛白書「日本の防衛2018」も民兵に注目しており、ワシントンの分析を強化している。米海軍太平洋艦隊大将Scott Swiftは、海上民兵を慎重に扱っている。彼は2017年のインタビューに「彼らを漁民の混成集団だと見なさないように注意すべきである。私は彼らが明確な指揮命令系統に服しており、でたらめに動いているわけではないと考えている」と答えている。中国軍は自国の海洋機関に対して一層の統制を及ぼしている。今年初めに以前は国家海洋局の管理下にあった中国海警が、中国軍の最高司令部である中央軍事員会の直接指揮下に置かれた。
(3)実のところ、中国の海上民兵はユニークな存在である。Ericksonは「中国と概ね似たような組織を持つ国はベトナムぐらいだが、中国のものとは比べ物にならない。中国は明らかに世界最大かつ有能な海上民兵を擁している」と指摘する。海上民兵は非武装だが、報道によると漁船の多くは体当たり攻撃用に船体を強化している上に、一部は放水銃も備えている。また、船員は臨検に対抗すべく白兵戦用の武器を携帯している。とはいえ、海上民兵の主たる脅威はその途方もない数にある。かくして、海上民兵は毛沢東の「人民戦争」の思想の現代版となっているのである。漁船の要員となる訓練を受けた人材は豊富に存在する。人民解放軍陸軍の兵力削減で今年余剰となった30万人の兵士の多くが、海上民兵の「漁師」として新たに雇用されたと報じられている。
(4)「第3の海軍力」は北京に文字通り数百の漁船団を紛争地域に送り込むことで、対立を混沌としたややこしい混戦へと変える能力を付与している。こうしたことは「民間」船舶を沈めることを恐れる米国や日本、東南アジア諸国などの民主主義諸国の艦艇にとって問題である。「第3の海軍力」は北京に使い勝手の良い隠れ蓑を提供する。
(5)北京は3つの海洋組織のあらゆる要素を展開するに当たって、ますます洗練されてきている。Ericksonは「2017年に中国は海軍、海警および海上民兵が参加する共同作戦をフィリピンが占領するThitu島周辺で行った」と指摘する。また、同年には後方で潜む6隻の中国海警船と海軍艦艇の明らかな支援を受けた、260隻の中国漁船団が尖閣諸島に殺到した。多くの専門家はこれを同諸島に対する中国の将来的な一手のドレスリハーサルだと見なした。
(6)北京の統制下にPAFMMの多くの船舶と人員が置かれることで、中国は海警や海軍部隊、海兵隊といった表の部隊を用いることなく、スプラトリー諸島における係争海域全体のセンシティブな地点に監視を置けるようになった。
(7)西側民主主義諸国の地上軍は地上の暴徒に対応するに当たって、常に非常な困難を経験してきた。対暴徒作戦では地上軍が用いる武力を縮小する必要がある一方で、目標と火力の精密さを向上させなければならない。インドネシアや南ベトナム、イラクそしてアフガニスタンで見られたように副次的な被害(collateral damage)のリスク――広報上の惨事、それに続く軍や政府の政策に対する国民の支持低下と関連する――は重大である。それと同様に大規模な武装や装備を備え、相手国の海軍と戦うように訓練を受けた民主主義国家の海軍が、武力行使の調整を求められる低烈度海上作戦で直面する困難はあまりに大きい。英海軍は1970年代にアイスランドの漁船団や巡視船との「タラ戦争」で発砲せずに戦う困難さを認識した。同じように、2000年のイエメンにおけるイスラム過激派の米海軍艦艇Coleへの攻撃は、成功裏かつ破壊的な攻撃で使用された爆発物を搭載したFRP製スピードボートのようなローテクで非対称的な脅威に対して、海軍がいかに脆弱であるかを示した。
(8)21世紀の海上ハイブリッド戦争は未だ初期段階にある。米国や日本、韓国、東南アジア諸国がどのような戦力 、戦術及び交戦規程をこの高まる脅威に用いるかはまだ判然としていない。ワシントンと東京が海上民兵の脅威を公式文書で認めたという事実は、何らかの対抗策が準備されていることを示唆している。
記事参照:Chinese fishermen wage hybrid 'People's War across Asia's seas
9月7日「南太平洋諸国、中国の『債務の罠』外交の危険性に目覚める」(Asia Times.com, September 7, 2018)
在ジャカルタのジャーナリストErin Cookは、Web紙、Asia Timesに9月7日付で、"South Pacific waking to China's 'debt-trap' diplomacy"と題する論説を寄稿し、9月3日~5日までナウルで開催された「太平洋諸島フォーラム」(the Pacific Island Forum)における議論などを通じて、南太平洋諸国が中国の投資が内包する「債務の罠」の危険性に目覚めつつあるとして、要旨以下のように述べている。
(1)中国の「一帯一路構想」(BRI)を通じて借款を受けた南太平洋諸国にとって、最初の返済期限が迫っているが、ほとんどの国は返済できない。これら諸国は、頻繁な自然災害、崩壊しつつあるインフラそして低い経済成長による負担の増大によって、中国の1兆ドルに及ぶ BRI の野心的な世界的インフラ投資の格好の対象となっている。トンガ、バヌアツ及びパプアニューギニアなどの国では少額の借款でも苦労しているが、債務の返済能力あるいは借り換え交渉能力は、今や政治的に不人気な債務返済の決定を迫られている南太平洋諸国政府にとって試練となっている。こうした切羽詰まった状況は、南太平洋諸国中、最小国の1つであるナウルにおいても明白である。ナウルで開催された、域内協力を促進する政府間機構、「太平洋諸島フォーラム」(the Pacific Island Forum)において、ナウルのBaron Waqa大統領と中国の代表による物議を醸した論議によって、この地域における北京の野心に対する懸念が浮き彫りになった。
(2)この論議は、表向きは中国代表の過剰な要求に対する反論と受け取られたが、内実は、台湾との外交関係を断つよう益々圧力を強めてくる中国に対して、多くの南太平洋諸国が感じている不満を物語るものであった。ナウルのWaqa大統領は、中国の代表がツバルの首相より先に演説することを拒否した。ツバルとナウル両国は、北京の圧力に坑して台湾との外交関係を維持している*。中国との緊張関係は、比較的大規模なインフラ建設借款を中国から受け入れた南太平洋諸国が最初の返済額期限を迎えるにつれて、エスカレートすることになりそうである。
(3)トンガでは、首都ヌクアロファでのインフラ再開発と地方でのインフラ拡充のために、中国から借りた1億1,500万ドルの借款返済が、9月から始まる。中国にとって、1億1,500万ドルの借款は1兆ドルに及ぶ BRI の投資額から見ればほんのわずかだが、トンガから見れば、これは自国のGDPのほぼ3分の1に当たり、国家の債務総額を倍増させる額である。パプアニューギニアとバヌアツも、今後数年間で返済期限が来る債務危機に直面することになると見られる。パプアニューギニア は、自国の債務総額のほぼ4分の1に当たる、20億ドル近い中国からの低金利借款を抱えている。バヌアツの状況は更に深刻で、北京からの債務は自国の対外債務のほぼ2分の1に相当する。中国のBRI投資を受け入れたスリランカが高金利借款の返済不能に陥り、その結果、中国が2017年12月までに、その対価として同国のハンバントータ港の運営権を99年間のリース契約で取得したことは記憶に新しい。この出来事は、中国からの借款を安易に受け入れてきた南太平洋諸国にとって、BRI 関連プロジェクトや借款が内包する主権侵害のリスクに対する、明確な警告となった。
(4)この地域の最大の援助提供国はこれまで伝統的にオーストラリアであったが、今や中国が急速にその地位に取って代わりつつある。オーストラリアでは、国内の政治的課題を優先するために、南太平洋諸国に対する援助予算が大幅に削減された。しかしながら、この地域への中国の急速な進出ぶり、特に、北京が海軍基地の設置を狙ってバヌアツに接近したとの報道が4月にあったことから、オーストラリアにとって、太平洋地域の新たな戦略的重要性が高まった。キャンベラはしばしば政治的に傲慢と受け取られ、多くの南太平洋諸国との関係が緊張してきたが、バヌアツとオーストラリアは、この何十年間も強力な2国間関係を維持してきた。オーストラリアは、バヌアツにとって最大の投資国であり、軍事、治安訓練の供与国であった。バヌアツと中国はともに海軍基地設置に関する議論を否定したが、これに関する報道は、この地域に対する北京の商業上そして戦略上の野心に関して、オーストラリアとその他の南太平洋諸国の懸念を増大させることになった。2018年5月に出版された、Debtbook Diplomacyの共著者の1人、Gabrielle Chefitzは、中国がインド太平洋地域周辺で商業港や軍事基地を強引に取得するためにBRI 投資や借款を活用しているとの認識が高まっていることで、中国が慎重に育んできた自国のソフトパワー・イメージが損なわれつつある、と指摘している。
(5)一部の太平洋地域専門家は、オーストラリアは太平洋地域で失った地歩を回復するために、こうした対中認識の変化の表れを梃子とすべきである、と考えている。例えば、Greg Coltonは、外交的には伝統的に二義的な扱いであったこれら南太平洋諸国への関与と関係の強化を図る戦略を発展させるために、特に日本、米国、フランス、ニュージーランド及びインドといった、この地域に関心を持つ諸国との多角的関係を活用することを勧告している。こうしたことは既に現実化しているといえるかもしれない。例えば、7月下旬には、日米両国とともに、オーストラリアは、太平洋地域におけるBRIプロジェクトと競合する、確定的なものではないが、新しい計画を発表した。計画の詳細は未だ公表されるには至っていないが、提携国に対しては、BRI とほぼ同規模だが、それよりはるかに低金利で、しかも受け入れ国の主権を脅やかさない借款が提供されることになると思われる。前述のスリランカの事例と、BRI が内包する「債務の罠」("debt traps")に対する警戒心の高まりに鑑み、オーストラリア、米国そして日本がこれまで南太平洋諸国に対して抱いてきた疑念は緩和されたかもしれない。しかも、大国が影響力拡大競争を繰り広げることによって、南太平洋諸国はやがて、対外援助と投資を懇願するより、むしろいずれかを選択できる贅沢に恵まれることになるかもしれない。
記事参照:South Pacific waking to China's 'debt-trap' diplomacy
備考*:「太平洋諸島フォーラム」(the Pacific Island Forum: FIP)の加盟国・地域は、オーストラリア、ニュージーランド、パプアニューギニア、フィジー、サモア、ソロモン諸島、バヌアツ、トンガ、ナウル、キリバス、ツバル、ミクロネシア連邦、マーシャル諸島、パラオ、クック諸島、ニウエ、仏領ポリネシア、及びニューカレドニアの16カ国と2地域。その内、台湾と外交関係を維持しているのは、ツバル、ソロモン、マーシャル諸島、パラオ、キリバス及びナウルである。
9月10日「太平洋島嶼地域をめぐる西側諸国と中国の競争―香港メディア報道」(South China Morning Post.com, September 10, 2018)
香港の新聞South China Morning Post電子版は、9月10日付で"Pacific islands new diplomatic battleground for China and the West"と題する記事を掲載し、太平洋島嶼地域が中国と西側諸国の外交闘争の場となっている現状について要旨以下のとおり報じている。
(1)中国は近年、台湾の孤立化をその目的のひとつとして、太平洋島嶼地域におけるそのプレゼンス強化を進めてきた(11の太平洋島嶼国家のうち、6カ国が台湾と外交関係を樹立している)。たとえば中国の習近平国家主席は、今年11月にパプアニューギニアで地域指導者による首脳会議を計画しているが、それはそこでAPEC首脳会議が開催される直前のことなのである。また、香港にある嶺南大学のアジア太平洋研究センター所長を務めるZhang Baohuiによれば、アメリカのDonald Trump大統領がAPEC首脳会議に欠席することは、アメリカの同盟国の懸念を増大させると同時に、中国がその状況でリーダーシップを発揮する可能性を高めている。
(2)Trump大統領のAPEC首脳会議欠席はあるものの、太平洋島嶼地域はアメリカのインド太平洋戦略にとって大きな重要性を持っている。その意味で中国の同地域へのプレゼンス強化は、アメリカの戦略にとって大きな障害となりうる。アメリカ連邦議会の米中経済・安全保障検討委員会は今年6月の報告書で、「同地域における台湾の国際的な居場所を狭め、中国のプレゼンスが高まる。このような展開は、インド太平洋におけるアメリカの利益にマイナスの影響を及ぼすであろう」と述べた。
(3)太平洋島嶼地域における影響力をめぐる競争、そして台湾と中国との外交的対立は、ナウル共和国で開催された第49回太平洋諸島フォーラム(9月3日~6日)の場で顕在化した。そこではアメリカ政府がパプアニューギニア、フィジー、トンガに対して700万米ドルの軍事援助を提供することなどが発表されたが、台湾もまた、太平洋諸国向けの医療基金として200万米ドルの支出を決定したのである。それに対して、このフォーラムの気候変動に関する会議において中国政府代表が憤慨して退出するという事件が起きた。それは、台湾と外交関係を結ぶナウルのBaron Waqa大統領が中国特使に発言を認めなかったことが原因であったという。ナウルと中国では、中国代表のナウル入国をめぐっても一悶着があり(ナウルは外交旅券での中国代表の入国を当初認めなかった)、これに対し中国と外交関係を結ぶ国(サモアなど)の強い批判を受けた。
(4)西側諸国は別の方法でも太平洋島嶼地域でのプレゼンス強化を模索している。そのひとつは外交官の増員や大使館(高等弁務官事務所)の設置である。アメリカはパラオやミクロネシア連邦、フィジーなどの外交官の増員を計画しているとされ、オーストラリアがツバルに初めて高等弁務官(大使に相当)を派遣するという観測もある。イギリスもバヌアツやトンガ、サモアに来年5月までに新しく高等弁務官事務所の開設を計画しているという。
(5)こうした西側諸国の動きは、太平洋島嶼地域における中国の行動、とりわけ投資の激増などによるプレゼンス拡大に対する強い懸念を反映している。中国政府は2011年以降、同地域の国々に対して譲許的貸付あるいは贈与という形で13億米ドルもの投資を行ったが、これはオーストラリアに次ぐ二番目に大きな額だという。中国による多額の投資は、投資を受けた国々が債務不履行に陥り、最終的にその地域を「没収」されることになる恐怖をかきたてるような行動であった。ソロモン諸島・オーストラリア間の海底ケーブル敷設に関して、当初中国企業のHuawei Technologiesによって事業が行われる予定であったが、オーストラリア政府がその事業に食い込んだのは、こうした懸念の表れであろう。
(6)ホノルルにあるPacific Forum CSISの会長Ralph Cossaは、太平洋島嶼地域の影響力をめぐる競争が今後激化すると観測する。アメリカ政府は、中国の行動がアメリカの影響力を小さくしようという試みであると認識しており、したがってアメリカのインド太平洋戦略はそれへの対抗を目的のひとつとする。しかしCossaは中国が太平洋島嶼部に対するアプローチを変えることは考えにくいと述べる。中国にとって、「ひとつの中国」の原則を妨げる台湾は忌々しい存在であり、台湾の国際的影響力を削ごうという試みは大きな重要性を持つのである。
(7)中国のこうした行動は2016年に蔡英文が総統に就任した後に活発化した。太平洋島嶼地域で台湾と国交を結んでいるのは6カ国(キリバス、マーシャル諸島、ナウル、パラオ、ソロモン諸島、ツバル)であるが(全世界では17カ国)、中国はこの国々に方針転換するよう圧力をかけている。こうした状況において、西側諸国が太平洋島嶼地域における中国の影響力拡大を阻止するために何ができるだろうか。キャンベラのオーストラリア国立大学の研究員Graeme Smithは、大使の派遣などでは十分ではないと主張する。彼によれば「西側諸国がある程度の影響力を維持するための最も効果的な方法は、太平洋島嶼諸国の懸念を真剣に汲み取ること」だという。気候変動の問題(抄訳者注:たとえばツバルは海面の上昇によって水没の危機にあるという。)、労働力移動の問題、そしてインフラなどが中心的な問題であろう。西側諸国は、太平洋島嶼諸国が本当に求めていることを満たす努力をしなければならない。
記事参照:Pacific islands new diplomatic battleground for China and the West
9月10日「中国の新砕氷船『雪龍2』進水」(The Maritime Executive.com, September 10, 2018)
海洋情報誌The Maritime Executive電子版は、9月10日付で"China Launches Icebreaker Xuelong 2"と題する記事を掲載し、中国が国産初の砕氷船「雪龍2」を進水させたと要旨以下のように報じた。
(1)中国は国産初の砕氷船「雪龍2」を9月10日に進水させた。同船は2019年に就役すると考えられている。2012年に中国極地研究所は新砕氷船の基本設計概念についてフィンランドのAker Arctic社と契約した。全長122.5m、13.990トンの同船は2016年12月に起工された。
(2)極地氷海船階級3(抄訳者注:国際船級協会連合が定めた統一規則による極地氷海船階級の1つで最も厳しい階級から3番目の階級を指し、多年氷が一部混在した2年氷がある海域を通年航行する船舶である)の船舶は航続距離約2万海里であり、前、後進とも2ないし3ノットで1.5mの氷を砕氷するよう設計されている。
船体形状は良好な対荒性能と開氷面における低い船体抵抗となるよう設計されている。特別な箱形キールは開氷海域でも氷海においても擾乱のない流れを船底に装備された計測機器に提供している。4基の主発電装置、2基の7.5キロワットのアジマス・推進装置、2基のサイドバウスラスタから成る電力システムと推進システムがDP2級の船位保持能力(推進装置自動船位保持代理機能の保有状況によって3種類に分けられており、DP2は1つのシステムが故障しただけでは船位保持能力を失わないよう代替システムを有しているものを指す)提供している。科学実験に使用される一連の施設にはドライラボやウェットラボ、いくつかのクレーンやウィンチがある広い後部作業甲板、氷海での科学器材の運用を考慮した科学的手法を取り入れた格納庫を持つムーンプールが含まれている。
(3)他の砕氷船として、3mの氷を砕氷し、氷点下45℃で航行する能力のある砕氷船が予定されている。今日までに中国は、34回の南極遠征、8回の北極遠征を行ってきた。
記事参照:China Launches Icebreaker Xuelong 2
【補遺】
旬報で抄訳紹介しなかった主な論調、シンクタンク報告書
1 China's Maritime Silk Road- Strategically impacts Indo-Pacific Security
http://www.southasiaanalysis.org/node/2345
South Asia Analysis Group, September 6, 2018
By Dr Subhash Kapila
元インド陸軍軍人で外交官経験も有する、South Asia Analysis GroupのアナリストであるSubhash Kapilaは、同グループのWEBサイトに中国の「海洋シルクロード」について以下のとおり解説記事を掲載している。中国の海洋シルクロードは、南シナ海及びインド洋の海洋国際公共財をつなぐ中国が支配する海洋グリッドの確立を目指すもので、米印日が採用するインド太平洋の安全保障テンプレートにとって直接的な戦略的、軍事的問題である。米国が主導するインド太平洋安全保障テンプレートの回転軸として、インドは全てにおいてその役割を積極的に果たす必要がある。そして、台頭する中国の脅威に対抗するため戦略的に協調することは、インドの「戦略的自立」を喪失するものではないと結論づけている。
2 Subs, ships and aftersales service: how Russia's military is making Moscow a player in the Asia-Pacific
South China Morning Post.com, September 6, 2018
Andrew McCormick, a writer and reporter whose work has appeared in The New York Times and other publications.
Andrew McCormickによる、ロシアがボストーク2018演習に中国を招待したことの背景などに係る論説記事。
McCormickは、ロシアは米国や台頭する中国に対抗しようとしているわけではないものの、武器輸出などを通じてインド太平洋地域における一定のコミットメントを維持しようとしていると指摘している。その証左としてフィリピンへの潜水艦輸出という情報、インドネシアへのSu-35戦闘機などの輸出などの事例を挙げつつ、人権などの前提条件を付けない防衛装備品の輸出は米国などの西側諸国に比して一定のアドバンテージがあると指摘する。また、同じ文脈で旧ソ連時代からの重要な顧客であったインドとの関係についても、同国が米国をはじめとする西側諸国との関係を強化しようとする中で、関係維持を模索していると指摘している。
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