海洋安全保障情報旬報 2018年7月1日-7月31日

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71日「インド洋の要衝、ディエゴガルシア島と米印防衛関係の強化―米専門家論評」(The National Interest, July 1, 2018

 米シンクタンクCNA Corporation上席副会長Mark E. Rosen は、米誌The National Interest(電子版)に7月1日付で、"How Diego Garcia Can Play a Pivotal Role in America's Relationship with India"と題する論説を寄稿し、インド洋の小さな島、ディエゴガルシア島が米印関係において重要な役割を果たし得るとし、ワシントンはインド海軍艦艇の同島寄港、更には補給施設の設置さえ招請することを検討すべきとして、要旨以下のように述べている。

(1)インド洋の真ん中に孤立した小さな島、ディエゴガルシア島(DGAR)は、部外者の立ち入りが禁止されており、米軍に対して、軍装備品の事前集積と、軍事作戦の発進地として使用するための大きな自由裁量権が認められている。とはいえ、米国の政策決定者は、 DGAR に米軍のプレゼンスを継続的に維持するに当たって直面している課題を認識し、そこに留まるための基礎―英国との長期に亘る貸与契約―を固めるための措置を取る必要がある。英国との50年間の貸与契約は1966年に締結され、2016年に期限が切れた。英国は2016年に、DGARの施設を米国に貸与する契約を2036年まで延長した。

(2)DGARは、約60の小さな島嶼や環礁からなるチャゴス群島の一部で、最大の環礁であり、英国の主権下にある領土である。DGARはインド南方1,100カイリ、アフリカ東岸から2,200カイリにあり、その1万2,000フィートの滑走路はB-52、B-1及びB-2を含む米軍長距離航空機の運用が可能であり、北はアフガニスタンまで、北東方面は南シナ海や台湾まで作戦行動範囲に収める。また、DGAR は、米軍の事前集積船と戦闘支援艦船の拠点で、通信施設や燃料補給処があり、更に大型艦を収容する港湾や作戦機を収容する空港施設がある。そして重要なことは、DGAR が、アジア太平洋地域で行動する米軍の艦艇や航空機を脅かす、中国のHQ-9地対艦ミサイルやYJ-12超音速空対地ミサイルの覆域外にあるということである。

(3)米国防省が冷戦の最中にDGARに基地を設置することに関心を示したことから、チャゴス群島は1965年、「英領インド洋地域」(BIOT)を構成するため、英領モーリシャスから切り離された。そして米英両国は、翌1966年に、2016年までの50年間の基地貸与協定に調印した。その際、ココナツ・プランテーションの所有者や労働者は、セーシェルやモーリシャスなどに立ち退きを強いられた。その実際の数は200人以下とも、あるいは483人とする資料もあるが、今日、彼らの子孫と称する人々は約1,500~1,800人もいる。

(4)DGARは、インド洋の他の島嶼と同じ環境面での課題―すなわち、海の酸性化と温暖化による急速な砂礁の浸食に直面している。ある資料によれば、DGARの外洋に面した砂礁の95%が海水温度の上昇により死滅したという。また、海面レベルの上昇も深刻で、DGARは平均して海面上概ね4フィート(大部分で6.5フィートを超えない)にあって、10平方マイルの陸地がある。米海軍は現在、40人からなる工兵建設部隊を派遣し、海から浸食を防止するために持ち込んだ岩石を積み上げている。このため、米英両国は、重要な基地施設を防護する護岸と障壁などのシステムを構築しなければならないが、全ての資材を外部から持ち込まなければならず、従って米国防省は、この基地施設の作戦運用上の価値が、将来的な政治的不確実性を内包する貸与施設の改良に必要な経費を上回ることを証明する必要があろう。

(5)モーリシャスは、英国(引いては米国)のチャゴス群島の所有権に疑義を呈している。1965年のモーリシャス属領からのチャゴス群島の分離は、「ランカスターハウス了解文書」として知られる一連の文書で成文化された。この文書では、英国は、チャゴス群島を分離すること、及びモーリシャスと立ち退き住民の再定住に対する補償金として300万ポンドを支払うことが合意された。モーリシャスが1968年に独立した時、了解文書を閣僚会議で批准した。英国の基本的な主張は、了解文書に盛られた全ての約束を履行してきたというものである。英国は、モーリシャスに300万ポンドを支払い、チャゴス群島が「防衛目的から必要でなくなった時」には、モーリシャスに割譲するという約束を守り続けている。従って、英国は、モーリシャスと立ち退き住民に支払われるべき金額の全てを支払った、そしてチャゴス群島、特にDGARが不可欠な防衛施設であると主張するであろう。

(6)他方、モーリシャスは、チャゴス群島がモーリシャスの不可分の一部であり、分離されるべきでなく、当時もモーリシャスの一部でなければならなかったし、現在もそうである、と主張するであろう。モーリシャスは、1965年の英国とのいわゆる「ランカスターハウス了解文書」なるものは、「威嚇によって強要されたもの」であり、従って、2つの主権国家間の合意とは言えない、と主張するであろう。モーリシャスはまた、「防衛目的」なる文言が米国ではなく、英国のためになるよう意図されたものである、と主張するかもしれない。

(7)モーリシャスは2017年6月に国連総会に対して、国際司法裁判所(ICJ)に勧告的意見を求める決議案を提出し、賛成94票、反対65票、棄権15票で採択された。インドは、賛成した。この決議は、ICJに対して2つの問題に関して勧告的意見を求めた。即ち、

a.第1に、「モーリシャスからのチャゴス諸島の分離に続いて、モーリシャスが1968年に独立を認められた時、モーリシャスの非植民地化のプロセスが国際法に照らして合法的に達成されたのか」

b.第2に、「モーリシャスがチャゴス群島居住民、特にチャゴス群島原住民の再定住計画を履行できない」ことを含め、英国が継続的に統治することによって、国際法上の観点からどのような結果をもたらしたか。

(8)ICJは、裁判所規定第65条1項で、国連総会を含む「許可される団体の要請があったときには、いかなる法律問題についても勧告的意見を与えることができる。」勧告的意見は、国家間の紛争解決を意図するものではないが、国連諸機関に対する明確な法的勧告を与えることができる。英国は、モーリシャスと英国がこの紛争の真の当事国であり、国連総会の関与は2つの関係当事国の同意という要件を回避するものである、と主張するであろう。国連総会、そして一般的に国連は完全な自治には至っていない地域住民を弁護すると見られることから、ICJがこの要請を却下することは想像し難い。勧告的意見は当事国を拘束しないが、国連諸機関はICJの勧告に従う義務がある。従って、もしICJが完全な自治には至っていない地域の現、元住民に関して、(国連憲章第73条「住民の福利」に基づいて)国連総会が一定の行動をとることを指示したならば、国連総会は、チャゴス人の諸権利が守られることを保証する何らかの重要な決定をすることになろう。

(9)インドは、モーリシャスとの間で人種的、経済的な絆を有している。インドは、ICJに対してチャゴス諸島問題に関与することを要請する国連総会決議に賛成した。インドの賛成は、インドが一方で非植民地化のプロセスを支持することを望むが、しかし他方でインド洋における現在の安全保障バランスを覆したり、あるいはDGARから米国の撤退を強いたりすることを望んでいないことから、活発な国内論議を引き起こした。インドは、南アジアへの中国の進出に益々神経を尖らせており、より一層米国と協同するようになっている。米印間の防衛協力は急速ではないが、着実に増大している。

(10)現在、国連総会とICJがチャゴス群島問題に関与していることから、米国は、先手を打って問題を沈静化させる措置を講じる義務がある。そうした措置の一部には、DGARの元の住民問題への対処があり、更にまた、モーリシャス政府との連携もある。もし米国がモーリシャスと―理想的には英国とインドをも含めて―モーリシャス人の元チャゴス諸島住民に雇用機会を与えるとともに、漁業資源へのアクセスを保証するために協同することができれば、長期的に政治的懸念をある程度緩和し、信頼を醸成することになるかもしれない。

(11)インド軍は米軍との一層緊密な関係構築を望んでいるが、一方では、インド政府部内、そして恐らく議会内にも、一層抑制されたアプローチを主張する勢力もある。中国の資金が南アジアに引き続き流れ込んでおり、また南シナ海の人工島の軍事化も継続されていることから、インドは、これ以上日和見を決め込んでいる時間的余裕があるかどうか、自問してみる必要がある。米国は、DGAR における継続的なプレゼンスとインドとのパートナーシップとを堅固にするために、DGARへのインド海軍艦艇の寄港を招請するとともに、DGARにインド軍の兵站施設の設置さえ検討すべきである。同様に、米国は、DGARが南アジアの防衛にとって極めて重要であり、しかもこの防衛努力におけるインドの支援が望ましいだけでなく、不可欠であることをインドに対して明確にする必要がある。

記事参照:How Diego Garcia Can Play a Pivotal Role in America's Relationship with India

72日「インド太平洋におけるマイタイ外交」(The Interpreter, July 2, 2018

 豪空軍退役大佐でグリフィス大学アジア研究所客員研究員のPeter Raytonは、7月2日付の"The Interpreter"に"Mai Tai diplomacy in the Indo-Pacific"と題する論説を寄稿し、RIMPAC演習は米国が多国間の安全保障協力にコミットしていくことを示す重要な機会であるとして要旨以下のように述べている。

(1)世界各国の海空軍にとって今や再び「マイタイ(ポリネシア語で素晴らしいの意)」の時代である。

 現在、ハワイ諸島周辺海域でRIMPAC演習が進行中である。RIMPACは1971年以来開催されているが、時代の変化を反映して演習内容は進化しており、RIMPAC 2018は特に注目に値する。RIMPACは冷戦期の後半に開始され、オレンジ部隊がブルー部隊の空母戦闘群に対しソ連軍を模した大規模な航空攻撃を仕掛け、大規模な対潜戦演習が実施され、最終的に米海兵隊による上陸作戦が実施されるなど、当初は脅威対抗型の演習であった。これらは冷戦期の米海軍のシナリオに応じたハイエンドの訓練であった。

 大規模演習であるが故に、高度で緻密なシナリオの反作用としてのフリープレーの不足、コミュニケーションの不全などの不満も一部あったものの、オーストラリア、カナダ、日本などの同盟諸国は大規模なハイテク分野での演習に満足していた。しかし現在では限定的に対水上戦闘が実施される他は人道援助と災害救援が重視されており、それでも最終的には上陸作戦が展開される形で実施されている。

(2)今日のRIMPACは米国以外の海軍への訓練機会の提供を重視しており、また、米海軍と他国海軍の関係のみならず、他国海軍間の相互運用性の向上にも寄与している。そしてこのような連携の効果は演習そのものにとどまるものではない。

インドのShivalik級及びシンガポールのFormidable級フリゲート、日本の「ひゅうが」級ヘリコプター護衛艦、フィリピンの戦略海上輸送船と同海軍のGregorio del Pilar級フリゲートがハワイへと向かう海域で共同訓練を実施したが、このような多国間協力の演出は象徴的であり、今日のRIMPACはパートナーとしての米国の魅力をアピールするソフトパワーのイベントとなっている。ソーシャルメディアを含む広範な媒体によって、米海軍との連携を望む多くの海軍が招待され、また、それを米海軍が援助していることが発信されているのである。一方、中ロを含む他の主要国は、大規模な海軍演習に他国を招待しておらず、また、他国の側も中ロを特に有用なパートナーとはみなしていない。したがって米国としては「自分はこちら側のブロックに人気がある」と言うことが出来るのである。

(3)しかし、より大きな地政学的条件下では、このマイタイ軍事外交において重要なことは、ロシアと北朝鮮を除く全ての中国近隣諸国が、アメリカ、特に米海軍の支援を欲しているということであり、この傾向は特に中米間の緊張が高まっている南シナ海で顕著である。ASEAN諸国は、紛争海域において米海軍とともに行動する意思はないかもしれないが、米海軍と連携することには熱心であり、実際そのように連携しているように思われる。RIMPACへの参加はその受動的支援の一環であり、今回、ベトナムが同演習に初めて参加したことは注目に値する。また、マレーシアは以前からオブザーバー参加をしていたが、今後は海軍艦艇を参加させるであろう。さらにフィリピンの異例に大きな規模での参加は、中国に対して別の選択肢があるということを思い起させることになるだろう。皮肉なことに中国はアメリカのソフトパワーによるこうした動きを助長しているようにも思われる。

(4)一方、人民解放軍海軍は台湾周辺海域での実弾演習などを効果的に実施している。こうした演習は北半球が演習に適した季節であることを反映したものではあるが、同時に台湾との関係における懸念材料でもある。ここ数ヶ月、中国は台湾への圧力を着実に高めており、台湾はこれらが中国の主張の次の発火点となることを危惧している。その象徴性は明白であり、必然的に注目を集めることとなる。中国は近隣諸国を一方的に威圧し、ウォーゲームを仕掛けていると見なされている挑発的主張の故に、RIMPACの参加部隊から排除された。これに対し多国間主義の米海軍は、将来の人道援助や災害救援に備えるべく、他国海軍とも積極的に協力している。

(5)RIMPACが約1ヶ月間継続する間にはバックグラウンドでも多くの事案が生じている。7月、Donald Trump米大統領はヨーロッパとカナダを非難してNATO、EU関係にダメージを与える一方、ロシアのVladimir Putin大統領を賞賛し、ロシアをG7に復帰させるよう主張した。そのような状況下では、一部のEU加盟国やその他の諸国は、なぜ太平洋における米国の訓練を支援しているのか疑問に思うかもしれない。これは現代の米国外交における顕著な不一致である。

しかしRIMPAC 2018は、Trump大統領の言動に係らず、米海軍が長期的、大局的立場をとっており、現政権の動向に係りなく友好国、同盟国、パートナー諸国との演習を維持していることを反映しており、この点は今回のRIMPACへの各参加国も同様の見方をしているであろう。それは新たな機会をもたらすものでもある。例えば、イスラエルは今回初めてRIMPACにオブザーバー参加している。ハワイは地中海、シリア、さらにはイランから遠く離れているにも係らず、である。おそらくイスラエルは改編された米インド太平洋軍司令部との連携を強化しようとしているのであろう。

記事参照:Mai Tai Diplomacy in the Indo-Pacific

73日「政治戦によって自国の勢力を世界規模で拡大する中国―台湾専門家評論」Asia Times.com, June 3, 2018

 台湾の国立政治大学教授Kerry K. Gershaneckは、7月3日付のAsia Times電子版に"China's 'political warfare' aims at South China Sea"と題する論説を寄稿し、中国が世界規模で政治戦を展開して、自国の勢力を拡大させていると指摘した上で、要旨以下のように述べている。

(1)北京は係争海域の完全な支配という目的を前進させるべく、眼が眩むほど多くの組織的活動や戦略そして戦術を繰り出してきた。オランダのハーグに設置された南シナ海仲裁裁判所が2016年7月に、南シナ海における中国の主張の大部分が国際法の下では違法だと裁定を下したとき、北京のプロパガンダ機関は怒気もあらわに北京が裁定を「受け入れず、認めない」と表明した。その2年後、係争海域における中国の急速な軍事拠点化に対して高まる批難を受けて、中国のプロパガンダ紙Global Timesは同年6月に、中国は南シナ海を横断する外国海軍艦艇に「一層厳しく対応」し、外国海軍の更なる強硬姿勢は「軍事衝突につながるだろう」と強調した。中国のプロパガンダ機関はまさにプロパガンダ機関が作られた意図どおりのこと、即ち北京の「政治戦」を脅迫も含む手段を用いて遂行している。

(2)これについて、ニューヨークに拠点を置く中国の影響力工作(influence operation)の専門家Anders Corrは、「中国の世界的な政治戦は、同国の安全保障戦略と外交政策の重要な要素である。中国は綿密に練られた政治戦活動によって近年、地域ひいては世界の勢力均衡を自らに優位に傾けることに著しい成功を収めてきた」と指摘する。それでは中国の政治戦の本質とは何なのだろうか。また、南シナ海の軍事紛争における中国の脅威が現実のものとなったとすれば、戦闘に伴って政治戦はどのような役割を果たすのだろうか。

(3)軍事理論家Carl Philipp Gottlieb von Clausewitzが書き残したように、「戦争とは他の手段をもってする政治の継続」であるとすれば、中国の政治戦を「他の手段をもってする武力紛争の継続」と評するのは正鵠を射ている。中国の政治戦の何がユニークなのかというと、あらゆる形態の行為が伴っていることにある。これは、実際のところ総力戦なのである。オーストラリアとニュージーランドは最近、中国の最も強力な政治戦の武器の一つである「統一戦線」が両国内に組み込まれていることを解明した。統一戦線の役割は、影響力工作を遂行するグループや組織の連合を構築することである。統一戦線は北京が組織するか、選出したグループから成るものである。前者の主要例は米軍の退役将校に影響を与えようとする組織「中国国際友好連絡会」であり、後者の好例は中国を積極的に支持するよう説得されたり、強制された在外中国人団体である。

(4)中国の政治戦は敵を打ち負かすべく、その実行者が神妙に「3戦」、すなわち、戦略的心理戦、公然・非公然のメディア操作及び法律の活用(「法律戦」としても知られている)と呼ぶ手法も用いている。こうしたツールを用いて中国は世論を形成し、学問の自由を弱体化させ、外国メディアやハリウッド映画を検閲し、自国の課題や関心から注目をそらすべく情報の自由な流れを広範に制限している。

(5)中国の政治戦における積極工作(active measures)は、路上暴力や諜報、破壊、脅迫、暗殺、賄賂、欺瞞、強制失踪、逮捕、検閲の強要と自主規制、及びミャンマーで中国と連携する反乱軍「ワ州連合軍」を用いていることから分かるように代理勢力の使用さえも伴う。米シンクタンク、ジェームズタウン財団特別研究員Peter Mattisは、「これらの活動のスケールはどれほど強調してもし過ぎることはない。中国は公式メディアプラットフォームの世界展開拡大といった特別な構想に何十億ドルもの資金を投じてきた。孔子学院のような控えめな計画においても、その運営には年間数千万ドルの経費を要するだろう。(こうした政治戦における活動は)主権や言論の自由などの基本的価値観を侵害することで、民主的政府に伝統的な安全保障上の懸念とは根本的に異なる形で挑戦を突き付けている」と指摘する。

(6)中国は戦火を交えることなく戦いに勝つことを好む。現に中国は政治戦と欺瞞を用いることで、2012年のフィリピンのスカボロー礁占領を含む重要な戦略的勝利をもぎ取ってきた。北京は米国が仲介した合意に基づき、誠実に交渉を行い、スカボロー礁から自国勢力を撤退させる旨、マニラとワシントンを説き伏せた。しかしながら、合意のインクが乾く間もなく、中国はスカボロー礁を占領し、今日に至っている。Obama政権はどうやら効果的な政治戦によって「中国を怒らせること」が危険過ぎると思い込んでいたため、行動を起こすことができなかった。南シナ海における中国の政治戦は、同国が2012年に本気で建設を始めた「新スプラトリー諸島」と現在呼称される人工島の軍事拠点化に対する抵抗を成功裏に無力化した。だが、米政府高官の強硬な声明や、英国及びフランスなどの関係諸国の海軍による行動が物語るように、中国は目下のところ同地域で自国の広範囲な主張に対して激化する抵抗に直面している。

(7)政治戦のみが自国の望む結果をもたらすだろう、と中国指導部が捉えているならば、中国は軍事紛争の脅迫を通じてそれらを達成しようとするだろう。オーストラリアのキャンベラ大学国立アジア研究センターのディレクターChristpher Robertsによると、中国はまさにそうした紛争に備えている。北京は2015年末、パラセル諸島に地対空ミサイルシステムを配備して、南シナ海に部隊を配置した。スプラトリー諸島で違法に埋め立てられた7つの人工島において、滑走路とインフラが完成するやいなや、北京は2015年の習主席の約束を反故にし、一帯の軍事拠点化を始めた。それ以降、北京は航空基地やレーダーシステムと海軍施設を完成させ、長距離射程の対艦巡航ミサイル及び著しい攻撃範囲をもたらす防空ミサイルシステムを構築した。中国は5月に戦略爆撃機H-6Kの配備によって攻撃力を更に増加させた。Robertは、現在の北京は航行の自由を否定でき、南シナ海の領有権主張諸国が同地の資源にアクセスすることを妨害できると指摘する。

(8)中国はドクトリンから考えて、南シナ海で敵対行為を起こす前と最中と後に政治戦を展開するだろう。中国は軍事対立に先立って大抵の場合、世界で政治戦を遂行している。これには統一戦線組織の活用や、その他の支持者が抗議を行い、支持集会を催し、プロパガンダや心理作戦のためにインターネット、テレビ、ラジオなど大規模な情報経路を使用することを含むその他の行動が包含される。

(9)歴史は、効果的に対処するには手遅れとなるまで敵の防衛行動を混乱させたり、遅らせることを目的とした中国の戦略的な欺瞞工作が、政治戦を巡る試みとよく結びついていることを示している。中国の安全保障、外交政策問題の専門家である米海軍退役大佐James Fanellは、南シナ海で如何にして武力紛争が起こり得るのかを述べた。彼は、中国の人民解放軍(PLA)が、「開戦段階において主導権を握ることが絶対的な必須条件である」とした上で、中国の政策が「中国の軍事的反応を引き起こす先制攻撃は軍事的なものである必要はない。政治的、戦略的領域における行動も、中国の軍事的反応を正当化し得る」と規定していると強調する。

(10)PLA海軍、空軍、戦略ロケット軍、戦略支援部隊及びその他部隊が南シナ海で動的戦闘を行う中で、中国の世界世論に向けた戦いはすぐさま第2の戦場となるだろう。政治戦の重点は、中国の立場を支援し、米国の指導者やその友好国、同盟国を悪魔化し、混乱させ、士気を下げることに置かれるだろう。専門家は北京が旧来のプロパガンダに加えて、誤った部隊の投降に関する報道や虐殺、国際法違反及び米国と同盟国の政策決定を麻痺させることを意図したその他の虚偽報道等の偽情報を拡散させると予期している。

(11)米国文化情報局など、冷戦期のソ連の政治戦への対抗で主要な役割を演じてきた組織は約20年前に解体された。この独特で挑戦的な事業における米国のスキル一式と影響力は、米国の友好国や同盟国と同様に冷戦後、退化してきた。米外交問題評議会のEly Ratnerは2月、米連邦議会で「米国は数10年もの間、米中政策で著しく考慮されてこなかった情報戦と戦略的な競争の遂行能力を復活させるべきである」と証言した。米国やその他諸国、諸機構にとっての第1歩は問題を認識して、中国の向上する政治戦の戦術に効果的な形で対抗できる制度と能力を築くことである。

記事参照:China's 'political warfare' aims at South China Sea

74日「『中国の港』化するハンバントタ―豪ジャーナリスト論評」(The Interpreter, July 4, 2018

 ジャーナリストのAarti Betigeriは7月4日付のThe Interpreterに"Hambantota: 'the Chinese port'"と題する論評を寄稿し、スリランカのハンバントタ港の動向について、2011年の訪問時の状況を交えつつ要旨以下のとおり述べている。

(1)2011年初頭、著者はスリランカ南部のハンバントタ港を訪れた。ハンバントタは小さな街で、港も開港したばかりであった。街から港までの道のりでは中国式の道路標識が数多く見られ、港では多くの中国人労働者が働いていた。実質的にハンバントタの開発は中国によって進められていたのである。滞在中に著者は何度も「中国の港(Chinese Port)」という表現を耳にしたという。

(2)2017年にハンバントタは実質的に「中国の港」となった。多額の債務を抱えたスリランカ政府が、ハンバントタ港およびその周辺地域15,000エーカーの管理権を、99年間の租借という形で中国に譲渡することに合意したのである。これは、中国がインド洋海域における影響力とパワーを増大させようとする動きの一環として、懸念の目をもって見られた。

(3)実質的に領土的主権を譲渡するような動きに出たスリランカ政府の意図は、2011年の段階においても理解可能ではあった。数十年におよぶ内戦で疲弊したスリランカは、その経済発展につながる施策を必要としていた。また、当時の指導者Mahinda Rajapaksaは、自身が育ったハンバントタ県が発展、繁栄し、スリランカの中心地域にするという野心を持っていた。しかし著者はハンバントタを訪れ、その野心がいかに無謀であったかを理解したと述べる。同地域は周囲から隔絶し、開発が遅れ、大規模なインフラ投資にふさわしいとは思われなかった。2011年当時には、ハンバントタがインド洋のシンガポールとしてスリランカを成長に導くという見通しもあった。しかしその見通しは現実とはかけ離れていた。

(4)2011年当時、ハンバントタではスリランカで2つめの国際空港が建設中であった。現在のMattala Rajapaksa国際空港は世界で最も空いている空港と言われている。今年6月には、同空港を利用していた唯一の航空会社であったフライドバイが一日一便のフライトをキャンセルし、まったく離着陸がない日もあった。クリケットのスタジアムも建設されたが、その周囲には何もなかった。2011年にクリケットのワールドカップが開催されたときには数試合を主催し、2012年にも20試合が行われたが、ほとんどが空席であった。2011年当時でさえ、ハンバントタのインフラ整備に対する支出を正当化する材料はほとんどなかった。期待はあったが、7年が経ち、ハンバントタの実験は失敗に終わったと言える。

(5)ここしばらくの間にハンバントタ港をめぐる取引について大規模な調査が行われ、New York Timesに掲載された。同紙はハンバントタ港の権利が中国へ譲渡されたことについて、中国が借款や支援を利用、すなわち「債務の罠」をしかけ、世界のあらゆるところで戦略的影響力を行使しようという事例のひとつであると批判した。

(6)建設に15億米ドルがかかったハンバントタ港は、毎年数万におよぶ船舶の主要航路に近接しているが、同港に停泊するのはそのごく一部にすぎない。しかしそれは中国の一帯一路構想の一部を構成するものである。中国が同地域の統制を強めようとしないか、あるいはハンバントタ港を軍事基地として利用するのではないかという懸念を、とりわけインドが強く抱いている。

(7)スリランカ政府は今年6月末、同国の海軍の南部司令部をハンバントタ港へ移動していると発表し、そうした懸念を和らげようとした。Ranil Wickremesinghe首相は、中国指導部と協議し、同港の軍事利用を今後も認めず、スリランカ海軍の管理下に置かれると明確に述べた。こうした動きは、港湾が外国によって軍事施設に転用される可能性があるという認識をむしろ強めるものである。

記事参照:Hambantota: "the Chinese port"

75日「ホルムズ海峡封鎖と核合意維持のための駆け引き-英通信社報道」(Reuters.com, July 5, 2018

 ロイター通信社は7月5日付のWebサイトに"U.S.-Iran tensions rise over oil route as EU tries to save nuclear deal"と題する記事を掲載し、米国のイラン石油輸入禁止への圧力をめぐる米国-イラン間のホルムズ海峡封鎖の駆け引き、及び核合意から米国離脱に対する英仏独とイランの駆け引きについて、要旨以下のように報じた。

(1)イラン革命防衛隊が必要であればホルムズ海峡を封鎖すると警告したことに対し、米中央軍は7月5日(木)に米海軍は自由な航海と通商の流れを確実にする準備が整っていると発表した。

Rouhani大統領と一部の軍の上級部隊指揮官は、米国がイランの石油輸出の首を絞めるのであれば、湾岸国からの石油の海上輸送を途絶させると脅した。また、Rouhaniの対米「強硬姿勢」を讃え、革命防護隊のトップは部隊がホルムズ海峡封鎖の準備を完了したと述べた。

イラン最強の革命防衛隊を指揮するMohammad Ali Jafariは、7月5日にこれに対応した。もし、米国の圧力でイランが石油を売ることができないのであれば、地域の他の国も石油を売ることが許されないだろうというMohammad Ali Jafariの発言はTasnim news agencyに引用された。「我々の大統領が表明した計画が必要とあれば実行されることを我々は望んでいる。我々は敵に全ての者がホルムズ海峡を使用できるか、誰もできないかを理解させるだろう」とMohammad Ali Jafariは言う。

(2)「米国とその協調国は地域の安全と安定を提供し、促進している」と中央軍報道官Bill Urban米海軍大佐はロイターへのEメールで述べている。

もし、イランが海峡を封鎖すれば米海軍の対応はどのようなものかと尋ねたところ、Urban大佐は「国際法が許すいかなるところでも、我々は連携して航行の自由と通商の自由な流れを確保する準備はできている」と述べた。

革命防衛隊海軍部隊は強力な通常戦力に欠けている。しかし、多数の高速艇と携行型対艦ミサイルランチャーを有し、機雷敷設も可能である。

米軍の上級指揮官は「2012年に革命防衛隊は海峡を一時期封鎖する能力を有している。しかし、そのような事態になれば米国は啓開する行動を採るだろう」と述べた。

(3)EUは、石油と投資の流れを維持することを試み、2015年の核合意を米国抜きで維持することを決定した。合意署名の残りの5ヶ国(英仏独中ロ)外相は7月6日ウィーンでイラン当局者とEUの提案を討議するだろう。

しかし、Rouhani大統領はEmmanuel Macron仏大統領に7月5日の電話会談で、経済措置パッケージは米国の離脱と核関連制裁の再開の影響を十分に相殺するのに失敗していると述べた。

Rouhani大統領は彼の公式Webサイトで「核合意において協力を継続するという欧州が提案したパッケージは我々の要求を満たしていない。欧州から行程表が示された明確な行動計画を我々は期待している。そうすれば米国が合意から離脱したことを埋め合わせることができる」と述べている

Rouhani大統領は同様のメッセージをChancellor Angela Merkel独首相にも電話会談で述べたと彼のWebサイトは述べている。提案されたパッケージは「従来のEUの声明のような一般的な約束が含まれているに過ぎない」とRouhani大統領は言う。

イラン最高指導者Ayatollah Ali Khamenei師は、5月に英仏独がテヘランに合意に留まることを望む場合の条件を提示した。それには欧州の銀行がイランとの貿易を保護すること、イラン石油の取引の保証が含まれている。

7月4日(IAEA事務局長との会談で)、合意が崩壊すれば、IAEAへの協力に消極的姿勢を採るとRouhani大統領は警告した。

記事参照:U.S.-Iran tensions rise over oil route as EU tries to save nuclear deal

関連記事:日本の掃海活動参加は停戦が必須の前提条件か--ホルムズ海峡の機雷除去を巡って(河村雅美、退役海上自衛隊将補)

https://www.spf.org/oceans/analysis_ja02/b121115.html

75日「オーストラリアと4ヵ国枠組―印専門家論評」(The Strategist, July 5, 2018

 元国連事務次長補でオーストラリア国立大学名誉教授であるRamesh Thakurは、7月5日付のオーストラリア戦略政策研究所(ASPI)のブログであるThe Strategistに"Australia and the Quad"と題する論説を寄稿し、オーストラリアの4ヵ国枠組(the Quad)との関係性と、そのあり方について、要旨以下のように述べている。

(1)1月18日、オーストラリア、インド、日本及び米国からの提督たちが、ニューデリーでの人々の注目を浴びる"Raisina Dialogue"で、ステージ上でそろって着席した。彼らの同席は、中国がインド太平洋において、既存の価値基準を打ち砕くような力となったという共通の戦略的評価を反映している。オーストラリア国防産業大臣Christopher Pyneは、インドの国防大学で講演を行う時間を割いて、インドのNarendra Modi首相の2014年のオーストラリア議会での発言に同調し、インドがキャンベラの戦略的枠組の周辺から中心にシフトしたことを認めた。

(2)しかし、4月30日、The Australian紙は、オーストラリアは、インド海軍とのマラバール年次演習において、日本と米国に合流する招待を確保する活動に失敗したと報道した。オーストラリアが4ヵ国枠組に戻ってくるように招待することに躊躇するインドには、3つの根拠がある。それは、以前のオーストラリアによる4ヵ国枠組放棄の影響、 日本や米国との比較におけるオーストラリアとの二国間関係の深度の不均衡、そして、中国の感度への配慮である。最後のものは、とりわけ、絶え間ない戦争へのオーストラリアの表面的な本能と、Turnbull政府の過去18ヵ月間での反中国的姿勢への転換についての認識のために、特に重要である。

(3)2004年12月に、大規模な地震とインド洋の津波に対応した4ヵ国枠組の起源は完全に穏やかなものであった。2007年8月、オーストラリア、インド及び日本の首相、そしてDick Cheney副大統領の間で、第1回の非公式4ヵ国首脳会議が、マニラにおけるASEAN地域フォーラムの会議の脇で開催された。この4ヵ国は、翌月に、中国の外交部の抗議を引き出した大規模な海軍演習へとシンガポールを招いた。2008年2月に、Kevin Rudd首相は、オーストラリアをこの共同演習から離脱させた。

(4)しかし、何年もの中国の感度へのへつらいは、北京のインド洋にわたる自己主張の増大を緩和しなかった。インドは東方への外交構想を積極的に追求し始め、ワシントンはアジアのピボットを発表し、連立政権は、オーストラリアの主要戦略地域における中国の行動の側面について国民の不安を明確に話し始めた。米国の国家安全保障戦略は、米国が、「日本、オーストラリア及びインドとの4ヵ国間協力を増大する」と述べている。オーストラリアの2017年の外交政策白書は、「インド太平洋における将来の勢力均衡は、主に米国、中国、そして日本やインドのような大国の行動に依存する」と同じような主張をしている。

(5)インド太平洋の枠組みは、地理、「自由で開かれた」という原則、そして民主的価値を、一つの戦略的構造に統合する。広大なインド洋を介して、大西洋と太平洋の両方とつながりをもつことは、インドにとって不可欠な商業的、政治的及び戦略的重要性がある。オーストラリア大陸は、インド洋と太平洋の間の地理的分水嶺の一部である。オーストラリアは両地域の安全保障へと不可避的に力を注がれてきた。インド太平洋が、オーストラリア、インド、日本及び米国の外交政策の新しい組織化原理として受け入れられれば、この4ヵ国が非公式に4ヵ国枠組に集まることは論理的な結果である。オーストラリアの参加は、長年にわたって確立された民主主義国家間の友好協定を強調する上で象徴的な価値があるが、インドの中国との関係におけるコストをわずかに増大させるだろう。

(6)インドの政策のエリートは、依然としてオーストラリアの信頼性に疑念を抱いている。 2008年2月5日にキャンベラで開催された中国のカウンターパート楊潔篪との共同記者会見で、Stephen Smith外相は、「昨年中国の懸念を引き起こしたことの1つは、中国が懸念を表明した、(日本と米国との)プラスインドの戦略対話だった」、そして、再び、「オーストラリアはそういった類の対話を提案しない」と述べた。中国外交部長がいる所でのこの発表の見方と、4ヵ国枠組の一方的な解消の実体は、依然としてインドによるオーストラリアの信用証明の評価に影響を与えている。しかし、インドは2015年と2017年にオーストラリアとの間で二国間のAUSINDEX海軍演習を開催することに満足していた。両国はまた、彼らの国防相と外相が参加する2 + 2対話に合意した。

(7)豪印日のそれぞれにとって、米国との関係は最重要であり、中国との関係は他の2つのパートナーの重要性を上回る2番目に不可欠なものである。つまり、中国の感度への、より重要ではないこの2つのパートナーとの副次的な関係に対する強い圧力が常に存在することを意味する。中国封じ込めの意図による軍事的グループ化のために、4ヵ国間枠組はこの地域をさらに分裂させ、緊張したゼロサムの競争の方向にそれを曲げるだろう。したがって、戦略的抑止を目指す軍事同盟ではなく、包括的な目標は、広範囲に及ぶ外交安全保障政策における実務レベルの関与と軍同士の交流によって支えられた、外交的な諌止であるべきである。

記事参照:Australia and the Quad

76日「極地で増大する中国のプレゼンス、その実状と展望について―米専門家評論」The Diplomat.com, July 6, 2018

 米海軍大学准教授Rebecca Pincusは、7月6日付のweb誌、The Diplomatに、"China's Polar Strategy: An Emerging Gray Zone?"と題する論説を寄稿し、中国が極地におけるプレゼンスを様々な領域で拡大していると指摘した上で、要旨以下のように述べている。

(1)中国の北極及び南極大陸における戦略的な関心は、力と資源(魚、鉱物及び炭化水素)という古典的な大戦略目標を示している。両極地域は中国のような勃興勢力が成長を拡大・てこ入れでき、南極大陸、公海などを結ぶ「領土外域」(extraterritorial space)というレンズを通して見ると理解できる。両極地域は段階的にエスカレートする手前で止まりながら、あらゆる国家権力の手法を用いて、勢力均衡を作り変える「グレーゾーン」活動を進めるには理想的な場所である。

(2)南シナ海やインド洋、太平洋で中国が影響力を拡大し、米国の支配に対抗しようという動きが衆目を集めてきた一方で、中国の極地戦略にはさしたる関心が払われてこなかった。米シンクタンク、ウィルソン・センターのAnne-Marie Bradyによれば、中国は「極地大国」になろうとしている。2050年までに米国の戦略家は、夏季に氷結しない北極海と、大国間の潜在的な争いの舞台である南極大陸の両地域において、中国が支配的な勢力となるという根本的に異なった状況に直面するかもしれない。これは、米露の勢力均衡に特徴づけられる歴史的な極地の現状を著しく反転させることになるだろう。

(3)北京は政治的、経済的、科学的そして軍事的といった複数の領域横断的な極地戦略を追求している。中国は2013年、地域最高レベルの政府間フォーラムである北極評議会においてオブザーバー資格の承認を受けた。また、ついに中国は本年1月「北極白書」を公表し、習近平主席の「一帯一路構想」が「氷上シルクロード」によって北極海を包含すべく公式に拡大された。

(4)戦術レベルにおいて北京は最近、極地能力の開発に向けて大きな一歩を踏み出しただろうことを示す原子力砕氷船の公開入札を行うなど、環境が厳しい極地にプレゼンスを拡大し、食指を伸ばしている。中国の極地研究能力の進展のためと説明されてはいるが、このプラットフォームは中国の原子力空母の下準備だと広く受け止められている。中国は既に砕氷船「雪龍」を運営しているほか、ディーゼル式砕氷船「雪龍2号」も中国の造船所で建造中である。

(5)中国の極地戦略の重要な要素は不動産である。実際のところ、中国企業は北極圏の不動産に衆目を集める値をつけてきた。投資対象には、グリーンランドの使用されていない海軍基地や、アイスランド北部に位置する広大な沿岸の土地、スヴァールバル諸島の数少ない一区画の土地、ノルウェー北部の広大な土地が含まれている。

(6)自由貿易協定や鉱業、インフラに対する投資、その他の関係は、政治領域と経済領域の境界線を曖昧にしながら急増して、新重商主義が台頭する可能性を高めている。特に、中国がグリーンランドとアイスランドで影響を与えるべく取り入っていることは、NATOとロシアの勢力均衡やGIUKギャップにも影響を及ぼしかねない。

(7)中国はずっと密かに南極大陸における自国の立場を強化してもいる。南極条約体制(ATS)が南極大陸における軍事活動や資源開発を禁じる中で、科学研究活動は多くの国家の国益の代理として長期間役割を果たしてきた。中国は急速に南極大陸研究のプレゼンスを5つの研究拠点に拡大している。

(8)気候変動は、極地の地政学を裏打ちする地理そのものを急激に変化させている。ATSが採択された1959年の時点では、12か国が表明された、あるいは表明されていない(かつ重複する)主張を争っているに過ぎず、条約の継続期間に主張を凍結するという外交的解決法は理想的なものであった。ATSが100周年を迎える2059年までに、南極地域は大きな変化を迎えることになるだろう。南極大陸を守るATSが、21世紀の政治の圧力に耐え得ることができるのか、またそうであるべきなのかという問題は論じられている。それと同様に環境変化は北極海や、その周縁地帯を再形成している。

(9)歴史的に米国は領土外域に対するアクセスと、管理を保証するためのルールに基づくシステムを制定する試みを主導してきた。具体的には、米海軍の世界的なプレゼンスは世界中の海洋における法の支配の維持に貢献している。中国のプレゼンスと極地能力が増大するに伴って、米国の能力は衰えている。具体的に言うと、南極大陸における米国の研究拠点は膨大な維持管理業務の滞留に苦しめられており、米国の北極と南極の双方に対するアクセスは歴史的に最悪の状態にある。

記事参照:China's Polar Strategy: An Emerging Gray Zone?

76日「ニュージーランドを上回る中国の太平洋島嶼国に対する影響力」(REUTERS, July 6, 2018

 REUTERS電子版は、7月6日付で"New Zealand warns of security risk from China's influence in Pacific"と題する記事を掲載し、太平洋島嶼国に対す影響力においてニュージーランドが中国に負けつつあるとして、要旨以下のように述べている。

(1)ニュージーランドは、7月6日金曜日の国防報告で、南太平洋における中国の台頭による影響力が、地域の安定を損なう可能性があると警告した。ニュージーランドとオーストラリアは伝統的に南太平洋で最も影響力をもっているが、ニュージーランド政府はこの報告書で、それが、小さな島嶼国をめぐる影響力において中国に負けていると述べた。「中国は、ニュージーランドにおいて広く行き渡っているものとは対照的な、人権と情報公開に関する見解をもっている」。

(2)ニュージーランドは、南太平洋における中国の増大する影響力に対抗して、対外援助を約3分の1増やすと発表した。オーストラリアは太平洋への援助の最大のドナー国であり、今年は1億6,440万豪ドル(1億2,900万ドル)を拠出している。しかし、財政赤字が大きければ、その経済援助予算は減少し、中国のためにドアを開くとアナリストたちは述べている。この地域への中国の経済援助は著しく伸びており、オーストラリアのシンクタンクであるローウィー研究所によれば、2016年までの10年間で、17億8,000万ドルの支出が推定された。

(3)中国は、かなりの天然資源に恵まれた地域において影響を及ぼすために、その援助を利用していることを否定している。しかし、職を辞するオーストラリアの国防長官Mark Binskinはインタビューで、行わないと約束したにもかかわらず、南シナ海の小さな島々や浅瀬に中国が軍事建造物を構築したことに言及し、「私は、そこに信頼があるとは思わない」と述べた。2月、台湾は、中国から大規模な援助を受けているパプアニューギニアに対し、台湾との関係を格下げするように圧力をかけていると中国を非難した。その政治における中国の干渉に対する疑念に言及したオーストラリアは、中国の影響力が及ぶ領域を制限すると見られる厳しい法案を先月可決した。中国はこのような干渉を否定している。

(4)オーストラリアやニュージーランドを含む太平洋島嶼国の指導者たちは、9月に国防、法律と秩序及び人道援助に関する新しい協定が署名されることが予期されるナウル島での年次首脳会談のために集まる予定である。

記事参照:New Zealand warns of security risk from China's influence in Pacific

79日「持続不可能に陥る世界の魚介類消費―ミャンマー食料安全保障問題専門家論評」(Reuters, July 9, 2018

 食料安全保障問題を専門とするジャーナリストのThin Lei Winは7月9日付のロイター通信に"World's fish consumption unsustainable, U.N. warns"と題する記事を寄稿し、水産物資源の持続不可能性という問題について、国連食糧農業機関(FAO)の報告書に言及しつつ要旨以下のとおり述べている。

(1)7月9日月曜日、FAOが発表した報告書によれば、魚介類の消費量は2015年の段階で史上最高を記録し、世界全体の海洋の3分の1において乱獲状態にある。そのため、人類の主要タンパク源である水産物資源の持続可能性について危機感が高まっている。とりわけ発展途上国において乱獲が激しい場合が多い。動物性タンパク質の摂取源として魚介類への依存度を高いためである。

(2)FAOの漁業・養殖部部長のManuel Barangeはこうした問題について以下のように述べる。

  a.海洋資源は大きな圧力にさらされている。国連は各国政府から漁場の改善についてコミットメントを得る必要がある。

b.将来的にアフリカ諸国は魚介類を輸入せねばならなくなる。それは魚介類の価格上昇につながり、貧困層に影響が及ぶであろう。

c.アフリカは養殖に関して高い潜在性を有している。しかし財政や飼料、魚介類の供給という点についての支援の必要がある。

(3)FAOの報告書によれば、養殖業はこの40年間で急激に発展し、魚介類供給について大きな役割を果たしてきた。公海での漁獲量が減少傾向にあるなか、多くの国が養殖に動いている。たとえばアルジェリア政府はサハラ砂漠の農場主に対して魚の養殖を奨励している。そうした動きが環境破壊をもたらすという批判もあり、「適切な規制、法律、監視及び管理」が必要だとBarangeは述べた。

(4)全世界的に見て、2015年の段階で水産資源の33.1%が生物学的に持続不可能なレベルで漁獲されており、2013年の31.4%、1974年の10%からさらに増加している。

(5)報告書によれば魚介類の消費量は、1961年には年一人当たり9キログラムであったが、2015年では20.2キログラムと史上最高値を記録した。この数字はさらに高くなっていくと予想されている。32億の人々(後発開発途上国やその他途上国など:抄訳者注)について、動物性タンパク質の摂取源として魚介類がその20%を占める。

(6)国際非営利団体ワールドフィッシュの調査プログラム・リーダーShankutala Thilstedは、水揚げされた魚介類の約35%(魚の頭や骨など:抄訳者注)が無駄にされていると言う。そうした無駄を削減することが漁業を持続可能にする方策であると提言する。

記事参照:World's fish consumption unsustainable, U.N. warns

7月10日「2年経過、依然として南シナ海仲裁裁定を無視し自己の主張を続ける中国-インドネシアジャーナリスト論説」(Eurasia Review.com, July 10, 2018

 ジャカルタを拠点とするジャーナリストであるVeeramalla Anjaiahは、7月10日付 Eurasia Review誌ネット版に"Two Years On, China Sticking To Its Guns On PCA Ruling On South China Sea"と題する論説を寄稿、要旨以下のとおり述べている。

(1)2年前の2016年7月12日、ハーグの常設仲裁裁判所は南シナ海におけるフィリピンの権利を認める裁定を下した。裁定ではフィリピンによる15の主張のうち14件を認め、残りの1件については部分的に却下した。中でもスカボロー礁に関わるものはフィリピンと中国の間の紛争の最大の争点である。仲裁裁定は9段線に基づく歴史的権利なるものを否定し人工島の建設も非難した。また、低潮高地について管轄権を有しないことにも言及した。裁定は1982年の国連海洋法条約の完璧な解釈を示すものであった。この裁定はフィリピンに限らず、インドネシア、マレーシア、ベトナム、ブルネイ、シンガポールなどASEAN諸国にも有利な結果をもたらしている。

(2)裁定が法的拘束力を持つものであるにも拘らず、中国は実行の責任を負うことを拒絶している。中国は国連海洋法条約に署名しながらもこれを蔑ろにしたことになる。中国は南シナ海においてASEAN諸国との行動規範の取決めに枠組合意している。本年6月の第15回ASEAN-中国高級事務レベル会合においては、行動規範の合意促進が宣言された。かつて中国は、紛争は当事者2国間で解決するものであると述べてきた。しかし中国は6個の人工島を静かに完成させ兵器を運び込んでいる。南シナ海の軍事化は国際法を犯すのみならず東南アジアの平和と安定を脅かす。中国の一方的な行動は航行の自由や漁業を脅かすものでもある。中国はその行動を自国の領域におけるものであるとし、主権を守るものであると主張している。そのような行動に対して、先のシャングリラ・ダイアローグではアメリカのMattis国防長官が「中国による兵器システムの設置は軍事的威嚇となる」と厳しく非難している。しかしアメリカは中国に仲裁裁定の履行を迫ってはいない。アメリカの政府高官は法の支配を説き続けることによって北京政府は変化すると考えているようだが、中国は変化していない。

(3)経済発展と軍事力増強を続ける中国はより強硬姿勢を見せ、南シナ海での国際的批判を無視することに自信すら持つようになった。中国は南シナ海での権利主張において武力行使をためらうことはなかった。ベトナムとの西沙での紛争では武力を行使している。

 アメリカ、日本、インド、オーストラリアなど多くの国が法に基づく地域安全保障構造の必要性を呼び掛けている。緊張の緩和と信頼醸成のために、可及的で速やかな行動規範の締結が求められる。中国が行動規範に関わるASEANとの枠組合意に同意したことは、緊張緩和への歓迎すべき動きではある。ASEAN諸国と中国は、行動規範が国際法に則り、法的拘束力があり、地域の平和に貢献するものとするため、更に交渉を促進させるべきである。もちろん、仲裁裁定は取り入れられるべきである。多くの国が、フィリピンのDuterte政権が中国からの経済支援を求めて仲裁裁定を取り上げなくなっていることを残念に思っている。Duterte大統領は中国との強固な関係を維持する意向ではあるが、一方で軍や多くの国民から大変な反対圧力を受けており、支持率の高い大統領であるとは言え、国の安全保障に関わる重要な事態を無視して独自の政策を推し進めるだけの力は持っていない。最近、フィリピンのRichard Javad Heydarian研究員がシンガポールで、「中国が南シナ海での拡張を続ければ、Duterte大統領の政策がどうであれ、フィリピンは強硬な姿勢を示すだろう」と述べている。

 中国に対して、将来における海上紛争の解決のための法解釈の標準となるであろう2016年の仲裁裁定の履行を迫ることは、ASEAN諸国のみならず世界の大国が果たすべき責務である。

記事参照:Two Years On, China Sticking To Its Guns On PCA Ruling On South China Sea

710日「マラバール海軍演習はモディのインド洋戦略を示す―印専門家論評」(East Asia.com, July10, 2018

 米国のインディアナ大学特別教授であるSumit Gangulyは、7月10日付のEast Asia.comに"Malabar manoeuvres mark Modi's Indian Ocean strategy"と題する論説を寄稿し、マラバール演習がModi政権の戦略の目安となるとして、要旨以下のように述べている。

(1)インドは、インド洋地域の初期の安全保障構造を構築する試みにおいて、米国と日本が参加する20回を超えるマラバール年次海軍演習を開催している。しかし、キャンベラにとって不幸なことに、インドは2018年にオーストラリアをこれらの演習から締め出すことを選んだ。インドの戦略コミュニティのほとんどのメンバーは、これが中華人民共和国の激怒を引き起こすインドの恐怖に起因する可能性があることを、それとなく示している。

(2)1992年に米国との二国間の試みとして開始されたマラバール演習は、現在は範囲が広がり、デリーのインド洋戦略の一環として当たり前のことになった。今日の世界的なパワー配分の変化、特に中国の台頭は、決して、米国とよそよそしくすること求めることを意味しない。断続的だとしても、インドは現在積極的に、潜在的な失地回復論者の中国に対するヘッジとして、この地域において拡大する米海軍の姿勢を求めている。

(3)2001年にインドは、アンダマン・ニコバル諸島に拠点を置く三軍の司令部を作った。この司令部は、東南アジアにおけるマラッカ海峡へと広がっているインド海軍の利益を守るためことを目的とするものである。

(4)マラバール演習にオーストラリアを含めることを望まないにもかかわらず、インドは、米国、日本及びオーストラリアを含む4ヵ国安全保障対話に参加する姿勢を示している。これらすべての取り組みは、インドがこの地域の安全保障体制を築くことを模索していることを示している。このような構想はどのようになる可能性があるのか?2018年6月初旬にシンガポールで開催された、毎年行われるシャングリラ・ダイアローグにおけるインドの首相Narendra Modiのスピーチから、いくつかの手掛かりが得られる。いくつかある問題の中でも特に、Modiは、「自由で開かれていて包括的な」地域と「共通のルールに基づく秩序」を求めている。インドの行動とModiの言葉から得られるものは、少なくとも今のところ、インドは、インド洋の中道を行きたいということである。

(5)インドは、インドの貿易とエネルギー資源の90%近くがインド洋を通過するため、海上交通路が妨げられないようにし続けなければならないと敏感に認識している。インドは、航行の自由を維持するために、多くの主要国、特に米国の安全保障協力を必要としている。しかし、Modi政権がオーストラリアをマラバール演習に参加させないことを決定したことが示すように、インドは、不必要に中国を怒らせる可能性のある行動を取ることに慎重であり続けている。もちろん、この用心深さは、2017年のブータン・インド・中国の三方の分岐合流点付近での中国とのインドの最近の争いから生じた可能性があったかもしれない。この戦略的な結合点において中国に対する相当な決意を示したので、インドは、オーストラリアをマラバール演習に参加するように招待することは、不必要な挑発になるだろうと確信したのかもしれない。それは、近い将来においてインドがこの問題について、その立場を変えるかどうかを確かめることになるだろう。

記事参照:Malabar manoeuvres mark Modi's Indian Ocean strategy

711日「一定の進展を見せる台湾の新南向政策とその現状について―東南アジア専門家評論」The Diplomat.com, July 11, 2018

 Web誌The Diplomatの編集主任であるPrashanth Parameswaranは、7月11日付の同誌に"What's Next for Taiwan's New Southbound Policy With ASEAN?"と題する論説を寄稿し、台湾の「新南向政策」(NSP)が一定の進展を見せつつも、台湾内外の諸環境がその展望に影響を与えていると指摘した上で、要旨以下のように述べている。

(1)台湾は先月末、一部の東南アジア諸国に対する初のビザ免除措置を1年間延長する旨を公式に発表した。この動きは、蔡英文総統によるASEAN地域を含む選ばれた地域諸国との関係を進展させることを目的とした、「新南向政策」(NSP)の展開に改めてスポットライトをあてた。台湾の東南アジア諸国との関係強化に向けた取り組みは目新しいものではない。かねてから東南アジア諸国は課題を伴うにせよ、台湾と一層緊密な関係を構築する利点を理解してきた。台湾が地域で直面する機会と課題に鑑みて、当初NSPは農業協力や医療・公衆衛生協力、青年交流といった特定の経済、人的分野に重点を置いた。また、新構想の持続可能性の鍵となる資源提供や国民意識といった問題にも適切な配慮がなされてきた。

(2)未だ初期段階にあるにも関わらず「新南向政策」はある程度、レトリックから現実へと形を変えるべく進展を見せ始めている。台湾の最近の統計は観光や教育などの分野における増加を示している。空路での東南アジアから台湾への観光客数や、第3期教育機関への入学者数を含む一部の統計は当初の目標を超過している。

(3)台湾は意図したよりもゆっくりとした動きながら、さらに多くの構想がその途上にあることを示した。これには主要な東南アジア諸国との投資協定の署名や、地域の連結性、東南アジア諸国言語のさらなる重視といった分野における進展が含まれる。台湾のNSP追求に向けた取り組みにも関わらず、台湾は未だその進展に当たっていくつかの大きな課題に直面している。そうした課題の一部は台北が行っていること、つまりは構想そのものと関係している。これらは台湾における全ての利害関係者間での資源提供や協力といった内政問題から、北京や両岸関係の照準線に踏み込むことに慎重な東南アジア諸国との関係管理といった外政問題を包含するものである。

(4)その他の障害はNSPが行われる地域の環境と関連している。その一部は、過去数年の間にますます多くの外国勢力が、東南アジア諸国に対する関与の強化を行うといった広範な潮流の産物である。しかしながら地域内部の潮流も存在する。その一つは、台湾を含む東南アジアに関与する外部主体に微妙なバランスを示す、民主主義と人権の弱体化である。Duterte大統領の下で浮上した人権に対する懸念に反抗しつつも、NSPを比較的熱心に支持するマニラのやっかいな両論併記はその代表例である。

(5)台湾当局は間違いなく一連の課題を認識しており、少なくとも問題に対処し始める試みが始まっている。一連の課題に対して台湾が如何に対処し、NSPの枠内で新たな機会を掴むかが、2018年内に注視すべきことだろう。

記事参照:What's Next for Taiwan's New Southbound Policy With ASEAN?

711日「南シナ海における中国の行動に対する国際法面からのアプローチ―英専門家評論」The Diplomat.com, July 11, 2018

 英国際法・比較法研究所(BIICL)主任研究員のConstantinos Yiallourides及びArthur Wattsは、7月11日付のweb誌The Diplomatに、"Is China Using Force or Coercion in the South China Sea"と題する論説を寄稿し、昨今の南シナ海情勢は緊張を増しているという現状認識を示した上で、要旨以下のように述べている。

(1)最近の中国による増強された人工島建設を受けて、南シナ海における緊張は着実に高まってきた。直近では、Mattis米国防長官が「脅しと威圧の目的で」軍を投入していると中国を批判し、かかる状況が続けば「結果」を招くだろうと警告した。

(2)スプラトリー諸島における中国の活動を表現するための、特に「威圧」といった特別な言葉遣いは全く偶然ではない。それどころか「威圧的な意図」(coercive intent)は、国連憲章第2条第4項で明示されているように、国家の行動が国際法の禁じる武力行使の違反と見なされ得る基準の1つである。「威圧の意図」は1961年のインドによる「速やかな」ゴア占領や、2014年のロシアによるクリミア併合、2018年のUAEによるイエメンのソコトラに対する非暴力の部隊展開及び占領といった、戦争行為を伴わない形での係争地域における部隊展開や、占領が行われる状況下で特に関係してくる。国際司法裁判所(ICJ)は2004年にイスラエルの分離壁建設事案で、同国のパレスチナ占領地域における分離壁建設は、国連憲章第2条第4項に違反する武力による領域取得だと認定した。

(3)ICJは2015年に、ニカラグアとコスタリカの水路を巡る係争において、ニカラグアが部隊の派遣に伴って武力を行使したか否かについて判断を下さなかったが、Patrick Robinson判事は当該案件に個別意見を提出した。Robinsonは「国家が禁止事項に違反したといえるには、1発の銃弾も重火器も発射される必要はなく、誰も殺される必要がないことは間違いない」とした。それでもなお彼は、係争地域における違法侵入が国連憲章第2条第4項の範疇にあるか否かの判断を下すに当たって、実際の武力紛争を伴わない場合も侵入国の「意図と目的」それに「動機」が関連性を有し、考慮され得る要因であると断定する。当該事例において、ニカラグア陣営と兵員の「長期に亘るプレゼンス」、係争地域からの撤退拒否、コスタリカの航空機に対して「武器の照準を向ける」こと等の組み合わせがニカラグアの「威圧的な目的」を示していた。それは即ち「コスタリカの主権に挑戦する」手段として、「ニカラグアが必要と考えるときに、武力を用いる準備」である。

(4)従って、中国の領土紛争や埋め立て活動、係争地域における継続的な軍事増強の解決に当たっての「武力行使に訴えない」との保証にも関わらず、それは必ずしも現場で既成事実を作り出し、その他の領有権主張国に新たな現状を受け入れさせるということではない。これはほぼ間違いなく、国際法違反の武力による違法な領土拡大を構成するものである。実際のところ中国は係争諸島を軍事拠点化することで、敵対国に領土を巡る新たな現状に従うか、地域で戦略的な位置を占める大国との大きな犠牲を伴う戦争に直面するか、えり好みの許されない選択を突き付けている。南シナ海仲裁裁判所が2016年に、中国の海洋における権利を無効と裁定した後でさえ、中国は同地域における領土資産を着実かつ漸進的に拡大させ続けてきた。著名な政治学者であるM. Taylor Fravel教授によると、中国の係争地域における武力行使は「領土問題で強硬だという評判を醸成し、その他の紛争で敵対国を抑止」することを目的としているという。

(5)それでは、なぜこの分類が国際法上、問題なのだろう。法律の問題として、南シナ海における中国の行動を国連憲章第2条第4項が意味するところの武力の行使と見なすと、どのような違いが生じるのだろうか。

a.第1に、スプラトリー諸島における中国の行動を国際法の下で武力の行使と見なすことは、その反発で自衛という形で力ずくの行動を招くことになりかねない。しかしながら、自衛はICJが米国との間でのニカラグア事件で判示した、その他の「より重大でない形態」と区別されるべき「最も重大な形態の武力の行使」の1つである、武力攻撃(国連憲章第51条)が発生した場合にのみ正当化されるものである。

 中国の武力の行使は相対的に言って、法的意味合いで武力行使だと見なすには規模が小さすぎるが、それよりむしろ、やがては中国優位の戦略的な領土変容に繋がる漸進的な武装行為におけるパターンの一部となっている。従って武力の展開が各々、それ単体では武力攻撃と見なされるには重大性に欠けていたとしても、それらの攻撃が累積的に行われたとき、国連憲章第51条で想定される武力攻撃の範疇に入ることになるだろう。

b.第2に、第三者の対抗措置に道を開くことになりかねない。武力行使の禁止は「対世的義務」(つまり、一般国際法の下で国家が「国際社会全体」に対して負う義務)だという広範な合意がある。「対世的義務」の義務違反が起こったときには、その他全ての国は自国が当該武力行使に遭って損害を受けたときと同様に、かかる違反を止めるべく非強制的な対抗措置を取る資格があることを意味する。 

 それゆえに、スプラトリー諸島における中国の占領と一方的な部隊配備が、その他の領有権主張国への武力行使だと見なされ、従って「対世的義務」の違反を構成する場合、第3国は自国が特段の影響を受けていなくとも中国の国際的な責任を問うことができる。そうした違反はベトナムやフィリピン、マレーシア、ブルネイそして台湾といった南シナ海領有権主張国以外も、中国に多くの制裁を課すことができることを意味する。しかしながら、そうした対抗措置を講じる国家は未だ現れていない。

記事参照:Is China Using Force or Coercion in the South China Sea

712日「台湾の新潜水艦に日、印等設計提案-米ジャーナリスト論説」(The Diplomat, July 12, 2018

 The Diplomatの上級編集者Franz-Stefan Gadyは、7月12日付のWeb誌 The Diplomatに"India, Japan to Submit Design Proposals for Taiwan's New Indigenous Submarine"と題する記事を寄稿し、台湾の国産潜水艦建造計画に対し、インド、日本等が設計提案を提出したとして要旨以下のように述べている

(1)地元メディアの報道によれば、6社が台湾海軍の純国産ディーゼル電気推進攻撃型潜水艦(通常型潜水艦)の設計提案を提出した。欧州の2社、米国の2社、そしてインド企業と日本の防衛産業からである。

 設計提案を提出したインドチームは、インド海軍のロシアのキロ級、ドイツのType209、仏西共同開発のスコルペヌ級から成る通常潜水艦部隊にかかわってきた海軍技術者によって構成されているのに対し、日本チームは三菱重工及び川崎重工の元技術者から構成されている。興味深いことに、日本チームは米国防産業の特別の要請で提案を提出した。米国防産業は日本チームの通常型潜水艦についての技能を求めて契約した。メディアの報道によれば、インドチームの提案には、攻撃型原子力潜水艦に基づいた設計部分が含まれている。報道によれば、台湾国防部当局者は米国防産業界とともに設計提案を評価中である。

(2)台湾のいわゆる国産潜水艦計画の予備的な設計作業は2014年12月に始まっており、2018年末に終了すると考えられている。1番艦の建造は2020年に開始されると思われる。

 国産潜水艦計画の目標は国内設計の通常型潜水艦8隻を建造し、1番艦は2024年までに海上公試に入り、2026年に運用を開始するというものである。これは野心的な工程表であり、台湾が通常型潜水艦の組み立て経験がないことから前もって推定しておくべき技術的支障や建造過程での遅れは見込まれていないようである。

(3)にも関わらず、先に私が報告したように、米国務省は2018年4月に米国防産業界に米国製潜水艦技術を台湾に売却する許可を承認した。したがって、ゼネラル・ダイナミックス社はAN/BYG-1戦闘管理システムを国産潜水艦に提供すると思われる。

 戦闘管理システムはまた、台湾海軍の「龍海」級潜水艦に使用されるかもしれない。ロッテルダムのRHマリーン社での計画の可能性の検討に続いて2020年から2022年の間に後日装備されると考えられている。

注目すべきことは2017年6月に米国務省はadvanced MK-48 Mod 6AT魚雷46本の台湾海軍への売却を承認した。

記事参照:India, Japan to Submit Design Proposals for Taiwan's New Indigenous Submarine

713日「南シナ海における行動規範制定が持つ危険性――ヴェトナム人・アジア安全保障専門家論評」(Asia Maritime Transparency Initiative, CSIS, July 13, 2018

 Australian Strategic Policy Institute上席分析官のHuong Le Thuは、米CSISのWebサイトAsia Maritime Transparency Initiativeに、7月13日付で"The Dangerous Quest for a Code of Conduct in the South China Sea"と題する論説を寄稿し、南シナ海における行動規範(COC)の制定に関する協議に内在する危険性について、要旨以下のとおり論じた。

(1)2016年7月に南シナ海に関する仲裁裁判所裁定が下されて以降、COCに関する中国とASEANの協議に弾みがついた。2017年に中国はCOCの枠組みを採用する意図があることを表明したし、今年の3月にはヴェトナムで2002年の「南シナ海に関する関係国の行動宣言」(DOC)に関する合同作業部会第23回会合が。6月には中国でDOC実施に関する第15回高級実務者会合が開催されるなど、COCの在り方について意見が交わされた。こうした一連の展開は、COCの制定に向けてある程度の前進が見られる、あるいは前進させようという政治的意思が強まっていることを示唆している。

(2)しかしCOCプロセスは論争解決への期待というよりも、多くの困難を示している。重大な懸念として、中国がこのプロセスに関わりながら、他方でその精神を台無しにすることで、それが中国の南シナ海での行動を合法化するものになってしまうのではないかという疑念がある。それに向けた中国のCOCに対する挑戦としては以下のようなことが考えられる。

a.中国はCOCの協議を利用して時間稼ぎをし、南シナ海に関するASEANのコンセンサスから焦点を逸らそうとするであろう。

b.中国はCOCに、不必要かつ曖昧な文言を挿入し、中国の行動を正当化するために利用しようとするであろう。

c.そのうえで中国はCOCを外交的成功として主張するであろう。そしてそれを、中国に対する批判を回避するための道具として利用しつつ、南シナ海支配に向けた単独行動的な戦略を推し進めるであろう。

(3)1992年にASEANが、南シナ海における論争の平和的解決に向けた最初のコミットメントを表明してから25年が経過した。拘束力のないDOCを中国とともに発表するまでにそれから10年がかかっている。COCをめぐる交渉はそれから16年も続いているが、その間中国は、近年南沙諸島に人工島を建設したことに代表されるように諸々の設備を建設している。長く続く実りのない交渉は、中国のこうした行動に対する地域的な関心を失わせてしまっている。

(4)COCをめぐる交渉はASEANの側の問題も浮き彫りにした。まず、全体の合意を必要とするASEANの意思決定プロセスは行き詰まりにつながりやすい。たとえば2012年のASEAN外相会議では、議長国であったカンボジアが共同コミュニケの発表に反対した。カンボジアのこうした行動は、同国が中国に経済的に依存していることと関係していたと考えられた。また、ASEANにおいて南シナ海は取り扱いにくいテーマになっており、多くの議長国が会合でそれが議題に上がることを望んでいないという問題がある。今年の議長国シンガポールも、テロとの戦いやサイバー・セキュリティ、スマート・シティなど、南シナ海問題よりも協調の余地があり、親中国の加盟国からの反対が少ない問題に焦点を当てたいと考えている。

(5)COCの交渉に時間がかかるほど、それは中国にとって有利になり、南シナ海資源に対する統制をますます強めることになろう。中国は南シナ海海域で周辺国が資源を獲得しようとする動きを、漁船団を送り込むなどして妨害している。中国に対する融和的な政策であっても、その行動を止めることはできていない。フィリピンのRodrigo Duterte大統領は2016年の仲裁裁判所の裁定を無視し、さらに石油やガス資源の中国との共同開発を持ちかけた。その交渉が実ることはなさそうであるし、中国は軍事施設の増強を続けた。それはフィリピンの大陸棚であるミスチーフ環礁でも行われ、フィリピン漁船や空軍機、艦船の活動を妨害している。

(6)もしCOCがうまくいけば、それは当事国すべてにとっての大勝利である。それは国際社会による中国への批判をかわすものになるだろうし、中国が国際的なルールに基づいた秩序に従って行動しうることを示すものにもなるであろう。しかし曖昧で効力のない合意は、中国のみを利することになるであろう。目下のところそうなる蓋然性の方が大きい。COCをめぐる交渉がこの流れのまま進むのであれば、それは中国の利益のためだけに利用され、最終的には中国単独での南シナ海の支配につながり、それを正当化するであろう。中国以外の国々は、COCの締結という容易な「勝利」を優先し、ただ前進したという成果のみを追い求めるべきではない。求められているのは、論争を調整するための効果的でルールに基づいたメカニズムを構築する真のCOCなのである。

記事参照:The Dangerous Quest for a Code of Conduct in the South China Sea

714日「台湾にもっと潜水艦を-香港紙報道」(SOUTH CHINA MORNING POST, 14 July, 2018

 香港紙SOUTH CHINA MORNING POSTの6月14日付の電子版は、"We need more subs, says Taiwan, as it aims to bolster its naval defences in face of Beijing's increasing belligerence"と題する記事を掲載し、時代遅れの潜水艦を更新することはますます強くなる中国の圧力を抑止する上で緊要であるとするとともに、海外からの技術支援及び移転が不可欠であるとして、要旨以下のように報じている。

(1)台湾にとって主たる国防上の優先事項は艦齢が古くなった潜水艦を更新し、新しい潜水艦からなる独自の部隊を編成することであり、外国企業が台湾で建造可能な潜水艦の競争設計を提供している。

 ワシントンが4月に台湾独自の潜水艦を建造するのを支援するため米国の技術を移転する許可を承認して以後、台湾メディアによれば海外の6企業が台湾の国産潜水艦計画に設計提案を提出した。この計画はますます挑発的になってくる北京を抑止するために緊要なものである。

 2014年12月に開始された計画は、計画している8隻のディーゼル電気推進潜水艦を建造し、既存の4隻、うち2隻だけが戦闘任務に運用できるのだが、その性能向上を行うための機密扱いの技術的ノウハウと部材にアクセスできるようになることは困難な過程であった。

(2)台湾への軍事技術移転と売却に何十年もかかわってきた米Rehfeldtグループのトップは、「台湾は基本的に海中の防衛をするために潜水艦を必要としている」としながらも、潜水艦への関与については明言を避け、ただ「我々の主たる関心は台湾が独自のシステムを作ろうとすることを支援することであり、いつも外国に依存することは良いことではない。台湾が新しい装備を購入する承認を得るのは難しく、台湾は時代遅れになった装備を維持するうえで良い仕事をしてきた。我々はその装備の更新を支援する方策を模索している」と述べている。

 台湾の軍事筋は、South China Morning Post に対し、艦齢30年の海龍級潜水艦2隻の性能向上を計画していると述べた。

 台湾国軍が2016年に1,230万ドルをかけて艦齢延長計画を提案しており、15年以上、2030年以降まで対応できる作戦能力を強化するものであると軍事筋は述べている。

 新しい国産潜水艦の1番艦が2025年までに完成する前まで台湾は潜水艦戦力を保持し続けることを確実にするため能力向上は必要であると軍事筋は言う。

(3)北京は台湾周辺で軍事演習や活動をしばしば実施しており、ここ数ヶ月で台湾の軍事力の能力向上計画は喫緊になってきている。

 近代化の一部として台湾国防部は5月に潜水艦2隻の能力向上についてオランダ企業と合意に達した。

(4)元大陸委員会副主任、現淡江大学戦略研究所所長の黄介正は、「台湾が兵器を製造するためには海外からきわめて重要な技術を取得しなければならない。」、「我々に欠けているものは極めて重要な技術とノウハウであり、これらは関わってきた世代の人々の教育と育成を含めた長期にわたる計画を必要としている。短期間で達成することはできない。我々の防衛力が遅れないようにしたいのであれば、海外からの取得が必須である」と述べている。

(5)民進党員で行政院外交国防委員会委員長王定宇は、「台湾は自国を防衛する能力を保有しているが、F-16や潜水艦を含め能力向上あるいは更新する必要がある。したがって、中国は攻撃について「不適切な考え」を持たないだろう。台湾は、積極防衛戦略を採っている。我々はあなた方を攻撃しない。しかし、あなた方が攻撃するのであれば、厳しい対価を支払わなければならない」と述べた。

(6)復旦大学で台湾問題専門の信強教授は「中国の軍事行動は台湾の人々を目標にしたものではない。しかし、独立の考え方を対象にしている。我々は、もし民進党が将来、危険な台湾独立の動きを採るのであれば、極端な状況下で台湾が中国に非平和的手段を行使させる極めて厳しい可能性を全く排除することはできない。しかし、中国の台湾に対する基本政策は依然、平和的統一であり、これは変わらなかったし、変わらないだろう」と述べた。

(7)蔡英文総統の下で、中台関係は目立って冷却化しており、表面的には蔡英文総統が「92協識」の承認を拒否していることによる。

 このことは、長期にわたる相互防衛条約を締結し、昨年の14億ドルの武器売却を含む定期的な武器売却を米国からのより大きな支援を台湾に求めさせてきた。

 黄介正は、「北京からの「軍事的脅威は高まっている」が、中国は台湾に対して「台湾が抵抗しようとする考えを打ち破るよう」経済的、あるいは他の誘因を選択してきた。もし我々が、時代遅れのシステムを新しい次世代戦闘機と艦艇に代替できれば、本土を防衛し、我々自身を守り、中国に対し何事も試さないように、我々は外部からの援助無しにしかるべき期間抵抗することができるという明確なメッセージを中国に送る上で、より望ましい位置に立つだろう」と述べている。

記事参照:We need more subs, says Taiwan, as it aims to bolster its naval defences in face of Beijing's increasing belligerence

715日「日本とフランスが海洋対話フォーラム開催に合意」(Japan News, July 15, 2018

 時事通信パリ支局は、7月14日土曜日にフランスを訪問中の河野太郎外務大臣とJean-Yves Le Drian外務大臣との間で、海洋問題に関して包括的に協議する2国間の枠組みを設置することで合意したと伝えた。新たな枠組みでは、安全保障や環境保護など幅広いテーマを取り扱うことが期待されている。

記事参照:Japan, France agree to form maritime dialogue forum

717日「タイ首相、小型潜水艦導入計画を承認-タイ紙報道」(Bangkok Post, 17 Jul 2018

 タイの英字日刊紙Bangkok Postの7月17日付電子版は、"PM approves first stage of navy mini-submarine project"と題する記事を掲載し、小型潜水艦のタイ海軍への導入計画の第1段階を承認したとして要旨以下のように報じた。

(1)タイのPrayut Chan-ocha首相は、タイ海軍へのプロトタイプ建造の第一段階として、2億バーツの小型潜水艇設計の計画を承認した。

 設計には4年間かかる見込みであり、プロトタイプ建造にさらに2年を要し、10億バーツがかかると見積もられている。

 タイ王国海軍士官学校教育部兵科部副部長兼小型潜水艇プロジェクト長のSattaya Chandraprabha大佐は、7月17日(火)に首相の決定を発表した。

 計画では設計に4年を要し、小型潜水艇1番艇の建造に2年、堪航性試験と訓練に1年で、計7年であるとSattaya大佐は述べた。

 小型潜水艇の実際の価格は4年後に判明するが、約10億バーツと考えられている。

(2)Sattaya大佐は、海軍は2017年10月に小型潜水艇計画を開始したと述べた。25名の海軍士官が訓練のため英国に派遣された。

 Prayut首相は、小型潜水艇を建造するという考えを提案していた。約1億9,300万バーツが調査に当てられたとSattaya大佐は言う。

 小型潜水艇の1番艇は水上排水量150トンから300トン、乗組員10名、航続距離300海里になるだろうとSattaya大佐は言う。

(3)2017年4月、Prayut内閣は元級潜水艦の輸出型であるS26T潜水艦を中国から135億バーツで購入することを承認した。これは360億バーツで3隻を購入する計画の一部である。

記事参照:PM approves first stage of navy mini-submarine project

716日「インドネシアの「インド太平洋協調」戦略はうまくいくのか?―印アジア国際関係専門家論評」(PacNet, CSIS, July 16, 2018

 インド太平洋地域を専門とする国際問題アナリストのVibhanshu Shekharは米CSISのWebサイトPacNetに、7月16日付で"Is Indonesia's 'Indo-Pacific Cooperation' Strategy a Weak Play?"と題する論評を寄稿し、インドネシアによる「インド太平洋協調」戦略が持つ弱点について、要旨以下のとおり論じた。

(1)2018年、インドネシアはインド太平洋問題に参入している。インドネシアのJoko Widodo大統領は4月にASEAN首脳会議のリトリートに出席する一方、ASEANが中心となって進める「インド太平洋協調」戦略を新たに打ち出した。2018年1月にRetono Marsudi外相は、インドネシアが包括的な地域アーキテクチャーをとおして、インド太平洋地域における「平和・安定・繁栄のエコシステム」を構築することを目指すと宣言したが、大統領の宣言はそれに続くものであった。

(2)インドネシアがインド太平洋をめぐる議論に関わるのはこれが3度めである。1度めはMarty Natalegawa前外相による「平和的インド太平洋」ドクトリンで、2度めはWidodo政権の「世界の海洋の要」構想である。前者は、同地域について条約による拘束力を持つ規範的秩序を初めて提唱するものであった。後者はインド太平洋全域にまたがるきわめて野心的な対外政策であったが、その中心は「海の高速」(Tol Laut)としてよく知られる国内海洋インフラ開発を目指すものへと移っていった。

(3)アーキテクチャー構築を主眼とする戦略は、インド太平洋をめぐる議論についてのインドネシアの理解、およびそれへの参入における変化を特徴づけている。それまではインド太平洋は空間的・地理的構造としてだけ捉えられていたが、現在のアプローチは、インド太平洋をめぐる議論を大国の言説として理解し、地域の関係国を対立に導く影響力を持つものと見なしている。2017年11月に日米豪印4ヵ国戦略対話(Quad)が再開した半年後の2018年5月、Marsudi外相は太平洋経済協力会議の第25回総会で、インド太平洋という概念が「封じ込め戦略として利用されてはならない」と警告した。アメリカ主導のQuadと単独行動主義的な中国との間で地政学が展開するなかで、インドネシアのインド太平洋戦略は独自の道を進んでいるように思われる。

(4)「インド太平洋協調」戦略は、「自由で開かれたインド太平洋」からは距離を置いている。2018年1月の外相声明は、インド太平洋全域にまたがるアーキテクチャーは自由で開かれたものであるべきとしつつ、さらに次の3点を強調した。

a.包括的で透明性があり、広範囲に渡るものである。

b.同地域のあらゆる国々の長期的利益に資するものである。

c.インド太平洋地域諸国による、平和、安定、繁栄を確固たるものとする共同のコミットメントに基づくものである。

 後に国際法の遵守とASEAN主導という原則が付け加えられた。

(5)しかしこれらの諸原則は既存の問題解決に必ずしも寄与するわけではないし、むしろASEAN主導のインド太平洋戦略においてインドネシアが直面する難題を提示する。たとえばミャンマーにおけるロヒンギャの組織的排除において透明性や国際法の遵守という原則は無視されてきた。また、2019年にASEANの議長国となるタイの軍事政権が、ASEANの透明性という問題を改善することはないであろう。共同のコミットメントの必要性やASEAN主導という原則も同様に問題がある。Widodo大統領やMarsudi外相が何度か警告しているように、ASEANの結束が問題視されている現在、ASEAN主導という原則がプラスに働くことは考えにくい。実際のところWidodo政権は、ASEAN関連の予算削減などに見られるように、ASEANに大きな関心を払ってはいないようである。

(6)ASEAN主導のアプローチは、ASEANをインド太平洋地域に関わる議論における主要な対話者と位置づけるものである。それは周辺地域の地政学的文脈において理解可能なアプローチであるが、しかし、Natalegawaの「平和的インド太平洋」ドクトリンとは異なり、ASEANに何らかの武器を与えるわけではない。ASEAN主導というやり方によって、インドネシアが地域的平和・安定という目標をいかに達成しうるかははっきりせず、手段と目標の間には大きなギャップがある。アーキテクチャー構築を主眼とするインドネシアのインド太平洋戦略にも多くの問題がある。たとえばそれは、ASEAN限定のアプローチなのか、それとも環インド洋連合(IORA)やMIKTAなどASEAN以外のプロセスを含むものなのかがはっきりしない。インドネシア政府はインド太平洋地域における議論の場として東アジアサミット(EAS)を重要視しているようだが、EASの公式化(それは大国により多くの発言権を与え、ASEANの主導性を弱めることにつながる)を模索しているのかもはっきりしていない。

(7)ASEAN主導のアプローチに比べると、同国の二国間外交は非常にうまく展開されている。インドネシア政府はインドや日本との港湾共同開発、中国との高速鉄道共同開発計画及び韓国に潜水艦開発計画を持ちかけるなど、アジアの主要国との関係強化を模索しつつ、それらの国々の敵対関係から利益を得ようともしている。

(8)そうした二国間アプローチに比べると、ASEAN主導のアプローチには限界がある。その意味で、インドネシアの「インド太平洋協調」戦略は、ASEANが分裂して力を失っている現状においては実効性がなく、ただの曖昧な多国間アプローチでしかない。ASEANの加盟国が重要な問題について一致結束する意思を持たないのであれば、こうした試みは「ASEANというボートを難破させる」ものでしかないであろう。

記事参照:Is Indonesia's 'Indo-Pacific Cooperation' Strategy a Weak Play?

717日「4カ国間枠組みはASEANを納得させられるか―RSIS専門家論評」(RSIS Commentaries, July 17, 2018

 シンガポールのS.ラジャラトナム国際関係学院(RSIS)の副研究員Joel Ngは、7月17日付のRSIS Commentariesに"The Quadrilateral Conundrum: Can ASEAN Be Persuaded?"と題する論説を寄稿し、4カ国枠組み(the Quad)が、「インド太平洋」の復活において、3つの固有の矛盾にどう対処するのか明確にすることができない場合、ASEAN諸国からの支援を獲得することはできないとして、要旨以下のように述べている。

(1)最初の4カ国枠組みは、中国が反対を表明したときに崩壊し、それが中国の封じ込め戦略ではないと明言したにも関わらず、オーストラリアは脱退した。復活した4カ国枠組みの成功は、2つの問題次第である。まず、それは、中国が対立しているとしか解釈できないような、純粋な戦略的政策又は安全保障政策ではないということである。中国の一帯一路構想(BRI)が長期的に有利なスタートを切り、巨大な資源を自由に使えるため、これは、より大きな経済的要素を必要とする。第2に、それは、4カ国枠組みから提供される公共財が彼らの利益となるという保証を必要とする、ASEAN諸国からの同意を確保しなければならない。これら2つの準備が整った場合のみ、それは新しい封じ込め戦略ではない、そして、インド太平洋の真ん中にあるASEAN諸国はこのプロジェクトの中心であると、中国に確信させることができる。

(2)しかし、3つの矛盾が「インド太平洋」の概念による4カ国枠組みの復活に伴うASEANの困難さを実証している。この問題は、ASEANの中心性、中国との争い、そして4カ国枠組みから期待できる献身度である。

a. 最初の矛盾は、ASEANがこのプロジェクトの中心にあるが、発起人ではないということである。米国とオーストラリアは、ASEANがインド太平洋の中心にあり、自由で開かれたインド太平洋はそれなしでは不可能であると主張している。これは分かりきったことだが、ASEANの疑問には答えない。たとえば、「インド太平洋」の中心にある主要な民主主義国家であるインドネシアが存在しないことは疑問を投げかけている。なぜそれは5カ国枠組みではないのか?固有の緊張感は、ASEAN加盟国は、それらの中心性が安全保障にとって不可欠であり、この中心性は単なる地理的なものではないと確信しているということである。ASEANの「中心性」とは、ASEANが構築した地域フォーラムによって、ASEAN諸国の多様性と利益を管理することを最も良く実行しながら、彼らの協議と同意を確保することを意味する。4カ国枠組みの現在の構造は、競合する利益のバランスをとるその重要なメカニズムであるとASEANが考えるものを考慮していない。たとえその結果が必ずしも心から前向きな状態に合っていなくても、4カ国枠組みのメンバーと同じくらい中国がASEANのフォーラムに関与することは重要である。

b. 2番目の矛盾は、4カ国枠組みの共通の利益と戦略の中心にある「自由で開かれたインド太平洋」という考え方に関係する。4カ国枠組みが求めている、このルールに基づいた秩序は、国際舞台での紛争の解決における法の支配の必要性を主張しているASEANと明確に合致している。しかし実際には、南シナ海におけるその権利主張をめぐる4カ国枠組みの解釈は、中国の気分を害する。これは、ASEANがその立場に付きたくはないが、付かなくてはならないものである。もし4カ国枠組みが、加盟国にルールに基づいた秩序に従うことをはっきりと求めたり、罰則を設けたりすることを求めれば、ASEANは乗り気にはならないだろう。主権の譲歩に関するトロイの木馬であるルールに基づいた秩序は、ASEANが関与していないとき、特に大国の周辺で提案されたときには、常に考えられる解釈である。また、ASEANは、中国との経済関係の葛藤から、オーストラリアが撤退し、最初の4カ国枠組みが崩壊したことを十分に承知している。この考えに大筋で合意すること、そしてそれを実行することは、異なる問題であり、4カ国枠組みがこれをどのように促進するかについて明確にする必要があるものである。

c. オーストラリアの前回の撤退は、コミットメントにある最後の矛盾を提起する。4カ国枠組みが経済的インセンティブを通じて自由秩序を強化することにコミットしている場合、自由市場原理を用いてそれを具体的にどのように行うつもりかという疑問がある。自国の経済において予算配分の問題が国内政治の中でとても困難な問題である場合、中国の影響力と真剣に競争するために必要となる金額を、しぶしぶと払う可能性は低いだろう。民主主義国家の得意なものが何にせよ、緊縮財政は長期的で、多少あいまいな戦略的目標のために、それらが海外に金を使わせるのに適さない。中国は、その大きな国内剰余金と強力な官僚主義をもって、これらの資源を戦略的に指揮することができ、この課題​​に直面せず、実際にこれは国際的課題の燃料となる。したがって、アジア・アフリカ成長回廊のような日本とインドのインフラ整備計画の初期の兆候のいくつかは、この問題が克服できないことを示唆している。東京大学の河合正弘教授は、最近、既存の多国間金融機関を経た成功を確実にするために、BRIプロジェクトを多国間援助にするよう呼びかけた。同じ論理が4カ国枠組みプロジェクトに適用されるべきであり、それは歓迎され、ASEANにとっての中国と4カ国枠組みの間の選択であるとは解釈されないであろう。

記事参照:The Quadrilateral Conundrum: Can ASEAN Be Persuaded?

717日「『法に基づく秩序』、豪印両国における異なる意味合い―豪専門家論評」(The Interpreter, July 17, 2018

 豪La Trobe University研究員Alexander Davisは、Web誌The Interpreter に7月17日付で、"Australia and India: different worlds"と題する論説を寄稿し、「法に基づく秩序」に言及する時、豪印間ではその意味合いが異なっているとして、要旨以下のように述べている。

(1)Turnbull豪首相が7月12日に公表した、Peter Varghese前外務貿易省次官(現、The University of Queensland学長)作成の対印経済戦略に関する報告書*は、貿易問題が主体であり、514頁の報告書の中で、地政学的問題に言及しているのは1章(第18章)のみである。Varghese前次官は、地政学的に、3つの要因に着目している。第1に、豪印両国は、インド太平洋地域において後退しつつある米国の戦略的優越に対して懸念を共にし、米国に取って代わろうとする中国の野心に対する不安を共有していること。第2に、豪印両国とも、「法に基づく国際秩序を支持している」こと。そして第3に、インドは、「インド太平洋地域における(包括的な)地域機構を構築する」上で、オーストラリアのパートナーになり得ること。こうした要因は、インド太平洋地域における「4つの民主主義国家」―インド、米国、日本そしてオーストラリアが「戦略的結束を強めていく」ことへの期待に繋がる。但し留意すべきは、報告書が正しく指摘しているように、インドは、「人権問題を取り上げることに慎重であり」、「民主主義を促進する」ことに「関心がなく」、しかも自国の「戦略的自立性」を維持しようとするであろう。それにも関わらず、報告書は、インドは「リベラルな国際秩序を支持し続けるであろう」と見ている。

(2)この意味で、報告書は、全ての民主主義国が最終的には世界秩序に対する認識を同じくするであろうとの、オーストラリアの外交政策において共通するリベラルな前提と軌を一にしている。キャンベラは長い間、インドを、「共有する価値観」と「共有する歴史」を持つ国として遇してきたが、両国関係は、こうした期待に適うものではなかった。インドは、オーストラリアが望むような形で、「リベラルな国際秩序」を支持したことは一度もなかった。Varghese 前次官の報告書が言及していない重要な問題は、豪印両国が「法に基づく秩序」(a "rules-based order")を望むと語る時、両国は果たして同じこと言っているのかどうかということである。

(3)「法に基づく秩序」は、オーストラリア外交政策における最高のキャッチフレーズになってきた。オーストラリアの文脈では、これは、オーストラリアが自国に益すると見なす階層的な世界秩序を促進し、馴染ませるために使用する都合の良い用語である。インドは、この階層秩序に反対している。オーストラリアは、米国とその同盟国の軍事力に裏付けられた「法」によって自国の安全保障が得られると考えている。インドは、法や規範に反対しているわけではないが、インドも多くの主要プレイヤーの一員であり、従って国際的な意志決定に従属させられることの決してない、多様で、多極的で、あるいは「多元的な」の世界秩序を追求する戦略の一環として、差別的でない法や規範を主張しているのである。別の言い方をすれば、現在の法や規範は、インドにとってより、オーストラリアにとってより益するものである。従って、ニューデリーは、それらの一部を改変することを望んでいるのである。例えば、インドは、核の階層的秩序の合法化を排除するために「核拡散防止条約」の改変を望み、また国連安保理の常任理事国を目指している。オーストラリアは、インドと中国に対して、既存の秩序を忌避するのではなく、それを強化することを望んでいる。しかしながら、インドは、現状を変えることを望んでいる。報告書は、インドが非同盟主義を終わらせ、より「実際的に」なりつつあると見、「地政学的に大きな変換」を遂げつつある、と論じている。インドのModi 首相は、非同盟主義について語るのを止めたかもしれないが、その理念を完全に放棄したわけでなない。むしろ、Modi 首相は、非同盟主義を多国間の連携と言い換えただけであった。このことは、 多元的な世界秩序に対するインドの願望とも符合する。

(4)キャンベラとニューデリーが中国に対して異なったアプローチを採っていることは、中国を巻き込む新しい地域機構―例えば、上海協力機構やアジアインフラ投資銀行に対するインドの歓迎ぶりからも明らかである。また、インドと中国は、米国主導の覇権に挑戦することを目指して、世界貿易機関(WTO)において連携している。こうした措置は、米国主導の既存の秩序に対抗して、多元的な世界秩序の創設を促す。中印関係は、緊張を内包しているにも関わらず、現状を支持するよりそれに挑戦することにおいて同調している。もしオーストラリアがインドとのより親密な地政学的関係の構築を望むなら、オーストラリアは、一層真剣かつ熱意を以て、インドの国際的、戦略的思考に取り組んでいかなければならないであろう。インドに対するキャンベラの地政学的戦略には、未だインドの思考に対する本格的な取り組みが見られないし、Varghese前次官の報告書にもそれへの言及がない。インドの思考に対する本格的な取り組みのためには、オーストラリアは、民主主義国家間の交流が必然的に世界を同じように理解するようになるであろうという、極端に単純化されたリベラルな前提を乗り越えなければならない。もしそれが不可能であれば、地政学は、報告書が提案する対インド戦略における安定した柱とはならないであろう。

記事参照:Australia and India: different worlds

Note*: An India Economic Strategy To 2035

http://dfat.gov.au/geo/india/ies/pdf/dfat-an-india-economic-strategy-to-2035.pdf

718日「現在の中国の北極プロジェクト―米専門家論評」(The Diplomat.com, July 18, 2018

 米国のワシントンにあるシンクタンクAmerican Foreign Policy Councilの研究員であるAlexander Granは、7月18日付のWeb誌The Diplomatに"China's Arctic Future: A Sea Change"と題する論説を寄稿し、中国の積極的な北極圏への投資や関与について、要旨以下のように述べている。

(1)最近の数カ月において、数々の北極に関する中国の経済的及び軍事的投資や、北極地域のガバナンス組織への中国の正式な加盟が見られる。少なくとも、中国は、この地域に関係するロシアとの(不平等ではあるけれども)強まるパートナーシップを発展させている。

(2)北極圏には、石油、天然ガス及び鉱床を含む未開発の天然資源の膨大な埋蔵量がある。この大量の富を活用するために、中国のエネルギー企業は、北極で活動するロシアの天然ガス産業部門に多額の投資を行っている。したがって、中国石油天然気集団公司は、ロシアによる最近の北極LNG生産の拡大の一環である、シベリアの北極沿岸の主力プロジェクトである数十億ドルのヤマル液体天然ガス工場の株式20%を最近取得した。同工場の年間生産量は推定1,650万メートルトンで、中国向けの約5分の1に相当する。

(3)もう一つのプロジェクト、中国が支援するパイプライン"Power of Siberia"は、年間推定300億立方メートルの天然ガスを、ヤクーツクにあるロシアのガス田から中国のエネルギー市場にもたらし、2019年の完成を目指している。中国企業は、遠くのウラル北部のロシアの鉱物生産とアルハンゲリスクの北極港を結ぶ、"Belkomur"鉄道プロジェクトも推し進めている。

(4)モスクワと北京は、主にロシアから中国への北極及びシベリアの天然ガス輸出の拡大を長年望んできた。しかし、この二国は、ロシアはその欧州の顧客と同等の価格を要求し、中国は中央アジアからの輸入と同程度のコストを得ようとしたことにより、以前から価格に不一致がある。しかし、中国に有利にこの不一致が最近解決され、より大きな協力の道を切り開いた。今や、中国のロシアからの新しい天然ガスの輸入は、現在のヨーロッパ向けのガスの行く先を変えることから来るのではなく、新しく建設され、中国に購入されたパイプラインから来ている。

(5)北京はまた、この地域のその軍事能力を増強するための「砕氷船」を建造し、その優位のために地域のガバナンスの規範や北極評議会のような多国間機関を具体化するための構想を立ち上げている。

(6)中国国務院新聞弁公室の胡凱紅の言葉では、中国は、自国を「北極近傍国家」として見なしており、そのより大きな(そしてより厳しく精査された)アジアと中東における一帯一路構想と同時に、その地域において「北極シルクロード」(Polar Silk Road)を構築しようとしている。

(7)ロシアは地政学上の理由から、少なくとも今のところ、突出する中国の台頭を煽ることを厭わない。結果として、国際貿易と国際安全保障に及ぼす潜在的に重大な影響とともに、中国はますます利益を獲得し、その海岸から遠く離れた地域でその領域を形成し始めている。

記事参照:China's Arctic Future: A Sea Change

718日「英国海軍はインド太平洋に戻って来るのか?―英専門家論説」(The Interpreter, July 18, 2018

 英国、キングスカレッジの海洋研究名誉教授Geoffrey Tillは、7月18日付の"The Interpreter"に"Indo-Pacific: are the British coming back?"と題する解説記事を寄稿し、財政その他の制約はあるものの、英国海軍のインド太平洋への再展開は必然であるとして、要旨以下のように述べている。

(1)英国海軍はイラク、アフガニスタン紛争以来のインド太平洋地域への展開を再現しようとしているように思われる。オーストラリアのBAE社製Type 26対潜フリゲート9隻購入の決定は、英国のこの地域に対する戦略的関心の高まり、強い文化的、歴史的、そして防衛上の関係が維持されていることを示唆している。

 英国海軍は世界規模の展開能力を有することを自負しており、おそらくそのことは2021年に予定されるQueen Elizabeth空母戦闘群の最初の作戦行動が西太平洋方面に展開されることによって再確認されるだろう。

 中国海軍の着実な台頭、ワシントンの不透明なシグナル、そして南シナ海及び東シナ海の紛争といった状況下、英国海軍のプレゼンス低下に失望していた多くの人々は、英国のこの地域に対する関心の再強化を歓迎するだろう。そして英国は引き続き敬意を払われている海軍戦力として、控え目ながら常続的に実施する「航行の自由作戦(FONOPs)」や当該地域に対する能力構築支援などにより「ルールベースの国際秩序」を支持する事が出来るだろう。

 それは確かに英国の意志である。

(2)閣僚達は「世界の英国」というイメージの維持を切望しており、貿易国である英国はこうした経済成長の領域に大きな関心を持っているが、同時に提供出来る物もあると主張している。確かに歴史的に見れば、それは現代の海軍が望んでいることでもある。

 しかし、このことには2つの疑問も生じる。

 第一に、人員装備ともに英海軍の能力が大幅に低下した状況下で、インド太平洋地域へのプレゼンス発揮は実際に可能なのか?第二に、より実質的な問題として、この地域の平和と安定への貢献は、英国にとっては費用対効果が高いと言えるのだろうか?

 わずか19隻の駆逐艦、フリゲート艦に対し作戦命令を下すことは、所要の兵力の展開という点で一種の「挑戦」とも言えるだろう。現在、これらの艦船中の2隻(空母)は公試中であり乗組員の配備を待っている。2隻の空母を 長期に亘って展開させ、艦載攻撃機部隊を復活させることは海軍の人員や予算の問題に大きく影響する。更に、核抑止力更新のための経費も海軍の予算構成に大きなインパクトを与えている。

(3)そして英国防省における財政的なブラックホール状態の継続と、投入可能な資源と関与政策とのギャップを埋めようとする政府の姿勢は、この問題が簡単には解決出来ないことを示唆している。実際、現行の防衛力近代化計画(MDP)は、このギャップを実質的に拡大し、政治的な欺瞞に利用される可能性もある。そして当然ながら、Brexitの影響という予算上の不透明要素も考慮しなければならない。

 さらに、バルト海と北海におけるロシア海軍の台頭にも新たなコミットメントによって対応しなければならない。こうしたロシア海軍の挑戦に対抗するには、近年は無視されがちであった対潜戦などの伝統的war-fighting技術に関する相当な再投資が必要となるだろう。

 自国周辺と海外権益に対する脅威に同時に直面した場合、いずれに艦隊を派遣するべきかという問題は1940年代の英国における古典的ジレンマの再現のようにも思われる。しかし、最近の英国海軍の防衛調達は質的にはともかく規模として十分ではなく、一度に2か所の遠く離れた地域に展開することはできない。したがって、Choices will have to be made.選択肢を作る必要がある。

(4)こうした状況にも係らず、西太平洋における英国のプレゼンス強化は公式な目標である。最近も3隻の艦艇がこの地域に展開しており、英国海軍のプレゼンスは維持されている。

 さらに長期的に見れば、英国が欧州正面で同盟国である米国を含むNATO諸国とロシアの脅威に対抗するのと同時に、オーストラリアとtype26フリゲートを共同運用するという事実が相互協力の機会が確保されていることを示唆しており、より脅威が高く、かつ、有力な海軍国との同盟が確保出来ていなかった1941年当時との比較を過大視すべきではない。

 したがって、英国海軍による同地域へのプレゼンスが実現可能である場合、問題はそれが努力に値する価値があるか否かという点であるが、それはどのような条件が提示されるかによって大きく異なる。特に地域諸国の意見に反するか、少なくとも懸念させるような立場を英国が示した場合には、誤った結果を招くリスクもある。

(5)例えば、南シナ海のFONOPsの実施も実は厄介な問題である。これは法的に複雑であり、かつ非常に敏感な問題であり、本質を理解していなければならない。米国のスポークスマンでさえ法的解釈を誤って発信したことが知られている。

 米国の実施するFONOPsは広く公表されている物であり、かつ、力強く「信頼できる戦闘能力」を示すものでもある。中国の実力の向上にかんがみれば、本国から遠く離れ、かつ、米国に比して小規模な英国が同じことを実施するのは危険であり、現在は英国がそうした立場に向かっているようにも見える、

 要するに財政的な制約から現在の意図が大きく狂わない限り、英国はインド太平洋地域に戻って来るであろうが、それはこの地域の友好国、パートナー諸国の歓迎の程度に大きく依存し、かつ、慎重に考慮された方法でなければならないということである。その「挑戦」と「機会」、いずれの意味においても、英国の対応は1941年当時の悲惨なシンガポール戦略ではなく、むしろ1944-45年頃の英国太平洋艦隊の復活を反映するものでなければならないし、少なくとも英国自身はそれを望んでいるだろう。

記事参照:Indo-Pacific: are the British coming back?

719日「インド、掃海特別訓練に参加-印メディア報道」(Indian Defence News, July 19, 2018

 Indian Defence Newsは、7月19日付で"India Joins U.S. And Japan For Annual Mine-Sweeping Drills"と題する記事を掲載し、印海軍が水中処分隊員を日米間で毎年行われる掃海特別訓練に派遣したとして要旨以下のように報じた。

(1)7月18日(水)に開始され、7月30日まで実施される掃海特別訓練は伝統的に海上自衛隊と米軍のみが参加してきた。しかし今年、インド海軍は水中処分隊員4名を日米の20名とともに参加させた。

 訓練参加者は水中で機雷を探知するためにソナー機器を使用する。水中処分隊に配置された参加者は潜水訓練を行う。

 掃海特別訓練は日米間の訓練として実施される。この間、日米は模擬機雷を排除して安全な航路を確保するための調整と意思疎通を行う。

(2)第7艦隊水陸両用戦部隊指揮官Brad Cooper少将は、「演習は部隊が海洋を自由で安全なものに維持する助けになる」と述べている。

 「対機雷戦任務は、インド太平洋地域において全ての国からの軍用、民用の船舶運航にとって極めて重要であり、機雷の脅威から航路を安全に維持することは国家の安全保障及び交易の自由な流れの基礎である」とCooper少将は言う。

 日本側機雷戦部隊指揮官河上康博1佐は、今年の演習にインドが参加してうれしく思っていると述べた。

 「掃海及び潜水訓練における日米印共同は、地域の安全と平和をもたらすために重要であると確信している」と河上1佐は言う。

記事参照:India Joins U.S. And Japan For Annual Mine-Sweeping Drills

719日「南シナ海及び東シナ海における中国の行動が与える米国への示唆―米議会調査局報告書」(Congressional Research Service, July 17, 2018

 米議会調査局の海軍に関する問題の専門家Ronald O'Rourkeは、7月19日付で"China's Actions in South and East China Seas: Implications for U.S. Interests--Background and Issues for Congress"と題する報告書を発表し、その概要は以下のようになる。

(1)近年の南シナ海における中国の行動は、中国が急速に南シナ海の効果的なコントロールを得ているという米国の専門家たちの見解による懸念を強めている。中国によるその近海域の支配は、インド太平洋地域やその他の地域における米国の戦略的、政治的及び経済的利益に実質的に影響を与える可能性がある。

(2)中国は、南シナ海と東シナ海における複数の領土紛争の当事国である。2014年になるまで、これらの紛争に対する米国の懸念は、域内の中国と近隣諸国間の緊張、事件及び紛争のリスクを引き起こすそれらの可能性をより重視した。特に、中国と日本の紛争の可能性について、この懸念が残っている一方で、2014年以降の米国の懸念は、中国の強化されている立場がどのように新たな大国間競争のグローバルな状況において、南シナ海を米国と中国の直接的な戦略的競争の場にしているかというものに、次第に変わっている。

(3)さらに、中国は、中国のEEZ内で活動する外国軍隊の活動を規制する国際法上の権利を保有しているかどうかについて、特に米国との間での論争に関与している。この論争は、2001年以来の国際海域及び空域における中国と米国の船舶及び航空機間の複数の事件の中心にあるように思われ、中国のEEZだけでなく、世界的にEEZにおける米海軍の活動に潜在的な影響を及ぼす。

(4)米議会にとって重要な問題は、米国が南シナ海と東シナ海における中国の行動、そして南シナ海における中国の地位を強化する行動に、どのように対応すべきか、ということにある。議会が見落としている重要な問題は、Trump政権が、南シナ海におけるその地位を徐々に強化するための中国の「サラミスライシング」戦略又はグレイゾーン作戦に対抗し、南シナ海と東シナ海におけるその行動に対して中国にコストを強制し、この地域における米国の利益を守り、促進するための、適切な戦略を持っているかどうかである。

記事参照:China's Actions in South and East China Seas: Implications for U.S. Interests--Background and Issues for Congress

721日「中国の海洋進出を止める時が来た-英専門家論説」(The National Interest, July 21, 2018

 台北を拠点とするジャーナリストであり、英ノッティンガム大学中国政策研究所上級研究員、前カナダ安全情報局のアナリストのJ. Michael Coleは、7月21日付でThe National Interestに"It's Time to Stop China's Seaward Expansion"と題する論説を寄稿し、東シナ海において中国に南シナ海と同様の対応を取らせないよう種々の措置を講ずる必要があるとして、要旨以下のように述べている。

(1)北京の南シナ海進出を阻止するには既に時機を失している。Barack Obama政権下では、アジア太平洋における米国主導の有志連合が南シナ海の不法占拠や軍事化に対応し、対抗することも出来たであろう。多くのing to many security experts, the window for such action has now closed, and 安全保障専門家は今やこうした行動の窓口は閉鎖され、北京は不可逆的な既成事実を達成したと評価している。それが事実なら「航行の自由作戦(FONOPs)」その他の対抗手段も効果が小さく、また遅すぎる。中国は既に南シナ海の「現状維持」を確立しており、より大きな中国の野望に対抗する努力は今後、むしろ他の地域に焦点を当てるべきであろう。

 過去10年間に南シナ海で生起したことで最も驚くべきは、中国が一連の人工島を建設し、それらを内海として軍事化することに成功したことよりも、国際社会が現状を正しく認識していないことだろう。南シナ海における北京の意図は当初から明白であった。それが米国および他の関係国にとっての進入禁止区域となる結果を招いたのは、不注意による予測誤りに他ならない。

(2)民主主義諸国は、ワシントンに戻ってしまった彼らの安全保障の「保証人」である米国とともに新たなジレンマに直面している。今度こそ、不作為や不注意が多くの問題を引き起こすことを明らかにしておかなければならない。南シナ海における中国の活動は西太平洋とインド太平洋で米国に取って変わろうとする中国のより大きな野望に直接関係していることに気づき、そのような中国の拡張主義と共存することが出来るのか、域内各国の姿勢が問われているのである。

 この疑問について最初に確認すべき地域は、中国が海上における軍事的、准軍事的活動を拡大している東シナ海であり、東京、北京、台北がそれぞれ主権を主張している釣魚島/尖閣諸島周辺海域である。南シナ海と同じく北京の戦略はサラミスライシングであり、時間をかけ、少しづつ状況を自分たちにとって好ましいものに変えていこうとしているのであるI argued in an for the , Beijing has created an environment of "pe。筆者が本誌に寄稿したように、北京は南シナ海と東シナ海にそれぞれ「永続的紛争」の環境を作り出し、それぞれのエスカレーションを交互に実施しているのである。

 自衛隊の存在や日米安保条約などの様々な理由から、東シナ海における中国の活動は南シナ海よりも限定的であった。しかし、海警船舶や漁船による日本領海侵入の頻度などの尖閣諸島/釣魚島周辺海域の紛争や、中国人民解放軍海空軍による宮古海峡や台湾海峡を通過しての西太平洋への進出は近年驚くべきレベルに達している。

 南シナ海の原状回復はもはや困難であり、海洋権益を中国に明け渡すことを甘受しなければならないとすれば、重要なのは次に何をすべきかを決定することである。何の対応も取らなければ、中国が南シナ海で実施したことを東シナ海でも実行しようとするのを鼓舞することになるだろう。

(3)もう一つの選択肢として、民主主義諸国が連携出来るのであれば、人民解放軍海空軍が西太平洋への進出経路としている9カ所の海峡を含む東シナ海全体をチョークポイントとすることも考慮し得る。日米台間では、海上、陸上及び空中の各防衛システムの構築や、周囲108kmに及ぶ与那国島の強化など、中国軍にこの地域を自由に使用させない手段は確実に存在する(その意味で、太平洋諸国ではあるが戦略的に重要な位置に立地しているパラオと台湾の公式外交関係維持のために、あらゆる努力を払うべきであると筆者は主張している。)。

 こうした動きは間違いなくエスカレートするだろう。中国は違法な領海設定と軍事化を批判する2016年7月の国際仲裁裁判所判決の合法性を認めることを拒否しており、国際法に反する立場を取っている。

 このような行動は、中国が「責任ある利害関係者」として行動しなかったことを批判するアジア諸国の行動を促進することになるかもしれない。

 日米台、そしておそらく他の同盟諸国との調整も必要となるであろうこの措置の目的は、西太平洋への進出経路としての東シナ海の使用を拒絶し、中国には台湾とフィリピン間のバシー海峡のみを使用させるようにすることである。これは日本の貿易ルートと太平洋における米軍のプレゼンスを維持するとともに、中国潜水艦による米本土へのミサイル攻撃という直接的な脅威を抑制することにもなる。

(4)南シナ海で成功を収めて来た北京はチョークポイントを効果的に創出してきた。インド太平洋で今後生起するであろう複雑なゲームにおいては、民主主義諸国は次の動きとして自らチョークポイントを作り出すべきである。中国が南シナ海での成功体験を北の海域にも適用することを容認すべきではない。さらに、こうした戦略は日本にとっても台湾との安全保障関係を強化する一方、台湾海峡の「現状維持」の重要性を高めることも意味している。主権を有する存在としての台湾存続はこの戦略の重要な要素である。台湾が中国に併合されれば、インド太平洋における北京の目標に対する最も重要な障壁が無効化されることになる。具体的な行動を伴わなければ、米国の 「アジア回帰」と「リバランス」のレトリックも中身のないスローガンのままである。

(5)エスカレーションのリスクはあるが、同時に不作為や場当たり的な対応を継続することは今後数年間で同盟が上手く機能しなくなる未来を創造するレシピでもある。7月初め、中国海警局が党中央軍事委員会(CMC)、習近平主席の直接的な指揮下に移管されたことが発表されたが、このことはこうした相殺措置の緊急性をより明確にしたと言える。多くの専門家は、この動きは態勢を整えた習近平によるタカ派勢力への譲歩と言うよりは、制度設計上の結果と考えている。しかし理由が何であれ、海警が人民解放軍の一部として行動することは、交戦規定その他の様々な不確実性を生み出し、間違いなく米国の同盟諸国にとっての問題解決をテストすることになるだろう。このサラミスライシング戦略に適切に対応しなければ海上における新たな既成事実が生まれ、さらに法秩序そのものが不安定になり他国が北京を模倣して自国の海上法執行機関を軍事化する可能性もある。また、If indeed putting the Coast Guard under C海警局をCMCの指揮下に置くことが制度設計どおりであるのならば、海警部隊は東シナ海と南シナ海のいずれの領土問題においてもより積極的に対応することも予想される。

(6)第一列島線を越えて拡大する中国の野心と、東シナ海及び南シナ海における不作為は、アジア太平洋における米軍の役割を維持する能力のみならず、台湾及び日本の安全保障を脅かすことになる。ある時点でこの地域の民主主義諸国は中国の拡張主義とのより大きな調整か戦略的報復のいずれかを選択する必要があるだろう。

 南シナ海を失ってしまった今、ゲームに本気で参加することは同盟諸国に義務として課されている。そしてそのためには、米海軍によるFONOPsや定期的な台湾海峡の航行を超えるエスカレートも考慮する必要がある。東シナ海は間違いなく日米台の主要関心事項であり、第一列島線のチョークポイントである。したがって、中国が国際法を遵守し他国の権益を尊重する意思を示すまで、東シナ海を西太平洋への進出路として使用させることは否定すべきである

記事参照:https://nationalinterest.org/feature/its-time-stop-chinas-seaward-expansion-26346

724日「北極海でのプラスチックゴミ削減への取り組み強化-米専門誌報道」(The Maritime Executive, 2018-07-24

 米海洋問題専門誌The Maritime Executive電子版は7月24日付"Arctic Cruise Operators Target Plastic Use"と題する記事を掲載し、北極探検クルーズ運航会社協会の北極海におけるプラスチックゴミ削減の取り組みを要旨以下のように報じた。

(1)2018年夏、北極探検クルーズ運航会社協会(AECO)は運航会社ともに探検クルーズ産業が船内で使用する投棄可能はプラスチックをどのように劇的に減らすことができるか見出すため作業しつつある。

 環境調査員Sarah Auffretは、海洋プラスチック汚染と戦う協会の努力を牽引するためAECOに雇用された。彼女は分析し、後にプラスチックの消費を削減する最良の方策を共有するため、スヴァールバルを航行する16の探検クルーズを訪問した。多くの船舶では使い捨ての製品の削減に向け、既にある程度の段階を実施している。それには再利用可能な飲み物容器の提供、水飲器の設置、プラスチックストローや個々の包装製品のより地球に優しい代替品への取り替えが含まれる。運航会社は商品納入業者により地球に優しい梱包で商品を納めるよう求めている。

(2)船のプラスチックの痕跡の削減に加え、AECO加盟社は上陸した際の北極海岸の清掃努力を続けている。スヴァールバルでは、探検船は毎夏、数トンの海岸のゴミを収集している。AECOは7月初め、新しい清掃ガイドラインを開始し、Auffretは北極の自然の不思議に接し、乗客は船内における教育的なプログラムに対して、より理解が進んでいると述べている。

 「遠く離れた北極の海岸を訪れ、海流によってそこに運ばれてきたゴミを拾う手伝いをすると、なぜ使い捨て製品を減らす必要があるのかを理解するのがより一層容易になる。我々の加盟会社で旅行した乗客が航海から戻った時、より地球に優しい選択をするよう啓発されており、世界中で清掃に関わり続けることが我々の希望です」とAuffretは言う。

 毎日1分ごとに世界の海に15トンのプラスチックが流れ込んでいる。この傾向が続けば、この数字は次の10年には2倍になっているだろう。これは、2050年までに海の魚よりプラスチックが多くなることを意味している。

(3)AECOは国連環境計画とともにスヴァールバル環境保護基金及びノルウェー気候・環境省の資金で綺麗な海キャンペーンの一環として海洋プラスチック汚染と戦っている。AECOの綺麗な海構想は、健全な地球のためともに働く企業、非営利団体、個人の世界的ネットワークである1% for the Planetからの寄付も受けている。

記事参照:Arctic Cruise Operators Target Plastic Use

726日「サウジアラビアがバブ・エル・マンデブ海峡を通過する原油の輸送を一時中止」(Al Arabiya, 26 July, 2018

 サウジアラビアのニューステレビ放送Al Arabiyaの7月26日付の電子版に"Saudi Arabia suspends crude oil shipments through Bab El-Mandeb"と題する記事が掲載され、サウジアラビアは、航海が安全になるまで、マンデブ海峡を通過する原油のすべての船積み輸送を一時中止するとして、要旨以下のように述べている。

(1)イエメンのAlliance for the Support of Legitimacyの公式スポークスマンの話に基づき、サウジアラビアのエネルギー産業鉱物資源大臣Khalid al-Falihは、Saudi National Shipping Companyに属する、それぞれ200万バレルの原油を運ぶ2隻の巨大なタンカーが、バブ・エル・マンデブの海峡を越えた後、水曜日の朝に紅海でフーシ派民兵によって攻撃されたと、木曜日に述べた。

(2)この攻撃の結果、この2隻の運送船のうちの1隻が小規模の被害を受けた。死傷者又は環境災害につながる原油の海上流出はなかった。Falihは、この王国は、バブ・エル・マンデブを通過する原油のすべての船積み輸送を一時的かつ即時に中止するとしており、フーシ派民兵による原油運送船に対する脅威が、バブ・エル・マンデブ海峡と紅海における国際貿易及び海洋航行の自由に影響を与えていることを強調した。エネルギーと化学物質の分野における世界有数の統合会社であるサウジアラムコも、この海峡を通過する航行が安全になるまで、すべての原油の船積み輸送を一時中止すると述べた。

記事参照:Saudi Arabia suspends crude oil shipments through Bab El-Mandeb

726日「イギリスとASEAN、ブレグジット後の関係強化―英外交官声明―」(RSIS Commentaries, July 26, 2018

 イギリスの駐シンガポール高等弁務官のScott Wightmanは、シンガポールのS.ラジャトナム国際関係学院(RSIS)が発行するRSIS Commentariesに、7月26日付で"Britain and ASEAN: Strengthening Ties Post-Brexit"と題する論評を寄稿し、イギリスが東南アジアの安全と繁栄に大きく貢献していること、それがASEANの強化につながり、さらには「ルールに基づく国際システム」(RBIS)の構築に寄与するとして、要旨以下のとおり述べた。

(1)イギリスは東南アジアに関して長い歴史を有している。イギリスが東南アジア、とりわけシンガポールにやってきたのは主に自国の利益のためであり、新たな通商路の獲得、既存の通商路を防護した。2世紀が経過した今、イギリスの利益に関する考え方はより幅広くなり、実効性のあるRBISこそがイギリスの利益にも大きく資すると考えるようになった。

(2)イギリスはアジア太平洋地域において軍事的プレゼンスを維持している。ブルネイにはイギリス軍が駐留し(British Forces Brunei)、ASEAN加盟諸国とともに防衛関連行動に従事している。また東南アジアの集団安全保障に関する協定としては5カ国防衛取極(FPDA:英、豪、ニュージーランド、マレーシア、シンガポール)が存在する。イギリスはマレーシアのFPDA統合地域防衛司令部に人員を派遣、さらには兵器を配備し、FPDA諸国と訓練を行っている。2017年にはユーロファイター・タイフーンの飛行中隊を東南アジア・北東アジアに配備し、2018年には揚陸艦アルビオンと23型フリゲート艦サザーランドがシンガポールに派遣された。当該地域の軍人の教育・交流も盛んで、この5年間でASEANから招かれた約100名の将校がイギリスの防衛機関で学んだ。

(3)テロリズムやサイバー・セキュリティ、組織犯罪など新たな脅威への対応力強化にもイギリスは一役買っている。インドネシアはイギリスと対テロ作戦の訓練を行い、その経験を活かしてこの数年で数百人の容疑者を逮捕した。イギリスはシンガポールにおけるSGSecure(テロ対策に係る一般市民の啓発プログラム:編集注)運動にも、テロ事件への対応や配備などに関する経験と情報を共有することで貢献している。シンガポールとイギリスは「対即席爆破装置(Counter Improvised Explosive Device)」問題についても、イラク軍の訓練などを共同で行った。サイバー・セキュリティについても、イギリスとシンガポールは、今後2年間コモンウェルス諸国とASEAN諸国において、サイバー・セキュリティに関する能力開発について協同するという二国間合意に署名した。地域紛争の予防のためにもイギリスは活動しており、フィリピン政府とモロ・イスラム解放戦線(MILF)の和平交渉推進に貢献し、カンボジア特別法廷に対しても1200万ポンドの資金提供を行った。

(4)イギリスとASEAN加盟諸国の経済的紐帯も強い。シンガポールでは4000を超えるイギリス企業が活動しており、シンガポールにおけるイギリスの投資は600億シンガポールドルにのぼる。東南アジア全体で見るとイギリスの直接投資は1000億シンガポールドルにおよび、イギリスは同地域について4番目に大きな投資国である。イギリスの対ASEAN諸国輸出総額は対インドの2倍以上であり、さらに「包括的および先進的な環太平洋パートナーシップ協定」(CPTPP)への接近など、さらなる貿易の拡大を模索している。イギリスとASEAN加盟諸国との経済的つながりは貿易だけでなく、ASEANの持続可能な成長のための計画も実践されてきた。それを通して、ラオスやビルマ、カンボジア、タイ、ヴェトナムなどの国々は、2015年および16年に開催された気候変動枠組条約(UNFCCC)締約国会議に向けて目標を設定することができた。

(5)東南アジア諸国の国家としての水準を引き上げる努力も行われている。それには経済改革を促進させるもの、すなわち政府とビジネス界の透明性やコンプライアンスを改善し、金融市場の拡大や金融包摂(金融サービス提供の幅を広げ、従来サービスを受けられなかった人びとも金融サービスにアクセスできるようにすること:訳者注)を促進するものから、低炭素エネルギーへの移行やエネルギーの安全の改善を進めるものが含まれる。科学、イノベーションの分野においても協力関係が進められ、シンガポールの研究者たちは医学研修からフォトニクスに至るあらゆる分野においてイギリスの科学者と連携している。こうした協力関係や様々な基金をとおして東南アジア全域に拡大している。

(6)教育におけるつながりも重要である。たとえばシンガポール政府の閣僚の半数以上がイギリスのトップレベルの大学の卒業生である。毎年7000人以上のシンガポール人、16000人以上のマレーシア人がイギリスで学んでおり、東南アジア諸国の閣僚にイギリスの大学出身者は数多い。またブリティッシュ・カウンシルはラオス政府と連携し、ラオスにおける英語教育のフレームワーク開発に従事している。

(7)イギリスが東南アジアにやってきてから200年が経過した。それによってもたらされたものは様々あるが、21世紀においてイギリスは、東南アジア諸国の経済成長のための支援を行い、彼らの自律的な行動を促進させる努力をしている。それは東南アジア諸国の国益にかなりの影響を及ぼしているであろう。そしてこうしたイギリスの役割は今後も増大するであろう。

記事参照:Britain and ASEAN: Strengthening Ties Post-Brexit

727日「中・ASEANCOC草案の『たたき台』に同意―豪専門家論評」(The Diplomat.com, July 27, 2018

 豪の東南アジア問題専門家、Carl Thayerは、Web誌、The Diplomatに7月27日付で、 "ASEAN and China Set to Agree on Single Draft South China Sea Code of Conduct"と題する論説を寄稿し、中国とASEANは「南シナ海行動規範」草案の「たたき台」に合意してとして、要旨以下のように述べている。

(1)The Diplomatが入手した、8月初めにシンガポールで開催される51回目のASEAN外相会議で公表される共同声明の注釈付き草案によれば、加盟国外相は、「・・・ASEAN加盟国と中国は、2018年6月27日に中国の長沙で開催された、『南シナ海行動宣言の履行に関する第15回ASEAN中国高官会議』(SOM-DOC)において、『南シナ海行動規範』(COC)草案のたたき台(the Single Draft COC Negotiating Text)に合意したことに満足の意を表明」した。また、The Diplomatが入手した、第15回SOM-DOCに関するASEANの内部報告では、高官会議は、以下の4点に合意した。

a.第1に、「全ての関係者は、『行動規範(COC)草案のたたき台』(以下、「たたき台」)について、COC 交渉の全過程を通じて厳に極秘とすべきこと。」

b.第2に、「たたき台」は、「COC交渉の基礎となるが、確定文書ではない。全ての関係国は、当該自国の関係機関と協議し、修正案を提示する権利を留保すること。」

c.第3に、「たたき台」は、8月2~3日にシンガポールで開催される、ASEAN中国関係閣僚会議に提出される。ASEANと中国の「たたき台」に対する合意と発表は、「ASEAN中国関係閣僚会議まで留保される。」

d.第4に、高官会議は、「南シナ海行動宣言の履行に関するASEAN中国合同作業部会(JWG-DOC)によって、『たたき台』に関する少なくとも3回の読会が開催される」ことに合意した。読会終了後、「たたき台」は「SOM-DOC に提出」される。第1読会が9月1~2日にカンボジアで開催される第25回JWG-DOCで、第2読会は10月23~26日にマニラで開催される第16回SOM-DOC中に行われる第26回JWG-DOCで実施されるとみられる。

(2)ASEANと中国が初めてCOCに関する協議を始めたのは、中国が1995年にMischief Reef(美済礁)を占拠した後であった。双方は2000年3月に、それぞれのCOC草案を交換し、合同草案を作成することに合意した。しかしながら、双方は以下の4点―即ち、①(西沙諸島を含む)地理的範囲、②占拠、非占拠を問わず、海洋自然地形における建設活動の規制、③南沙諸島隣接水域における軍事活動、④係争水域で操業中の漁民に対する拘留あるいは逮捕の是非―について合意に至らなかった。その結果、ASEANと中国は2002年11月に、法的拘束力がない政治声明、DOCに関する交渉で合意に達した。DOC は、「各関係当事国は、COCの実現がこの地域における一層の平和と安定を促進し、DOCがこの最終目的に向けての合意の基盤となることに合意したことを再確認する」と宣言している。

(3)従って、まず、2002年のDOC の完全かつ効果的な履行が、COC実現の前提条件であることを指摘しておかなければならない。DOC は、以下の5分野―即ち、①海洋環境の保護、②海洋科学調査、③海洋における航行と通信の安全、④捜索救難活動、⑤違法薬物の輸送、海賊行為や船舶に対する武装強盗及び武器の密輸を含む、国境を越えた犯罪対処―における協力を求めている。第15回SOM-DOCに関するASEANの内部報告は、DOCの履行に関して進展があったことを指摘している。SOMは、DOCの履行に関する作業計画(2016年~2018年)を支持し、6月25日の第24回JWG-DOC開催時に、2つの特別技術会合を開催した。この会合では、海洋環境の保護と航行の安全が討議された。ここでも進展が見られたようである。前出のASEANの内部報告は、「一部の関係当事国は、DOC履行のための実際的な協力を強化するために特別技術会合の召集を要請した」と述べている。また、内部報告は、南シナ海情勢の討議で、「一部の関係当事国は、自制と非軍事化、そして南シナ海における緊張を激化させる行動の抑制の重要性を繰り返し強調した」と指摘している。これら2つの記述項目の文言から、コンセンサスが未だ実現しておらず、更なる努力が必要であることがうかがわれる。

(4)冒頭で言及した、51回目のASEAN外相会議で公表される共同声明の注釈付き草案では、南シナ海に言及しているのは、わずか2つのパラグラフに過ぎない。南シナ海に言及した最初のパラグラフは、「南シナ海における平和、安全、安定、保全及び航行と上空飛行の自由の重要性、そして南シナ海を平和、安定そして繁栄の海とすることによる利益を認識することの重要性」を再確認した上で、DOCの「全項目」の「完全かつ効果的な履行」を求めている。また、冒頭で紹介したように、「たたき台」に合意したことに満足の意を表明している。南シナ海に言及した2つ目のパラグラフでは、「南シナ海での埋め立て地の造成と諸活動に対して、一部の関係当事国から、信頼醸成を損ない、緊張を激化させ、域内の平和、安全そして安定を危うくするとの懸念が表明されたことに留意した」となっている。

(5)いずれにしても、ASEAN議長国として、そしてASEANの対中調整国としてのシンガポールの外交的リーダーシップの下、COC実現の前提条件である、2002年のDOCに規定された協調的活動を進展させる上で、前進が見られたようである。同時に、シンガポールは、少なくとも3回の読会を含む相互に合意された工程表に従って「たたき台」を完成させることに、ASEAN加盟国と中国の関心を集めることに成功した。

記事参照:ASEAN and China Set to Agree on Single Draft South China Sea Code of Conduct

抄訳者注:2018年8月2日の第51回ASEAN外相会議の共同声明については以下のURLを参照

http://asean.org/storage/2018/08/51st-AMM-Joint-Communique-Final.pdf

727日「東シナ海、尖閣諸島で中国と対峙する日本、問われる米国のコミットメント―米専門家評論」Japan Forward, July 27, 2018

 日本戦略研究フォーラム上級研究員Grant Newshamは、7月27日付のweb誌Japan Forwardに、"Japan, China Headed for showdown 'Down South'"と題する論説を寄稿し、中国が東シナ海や尖閣諸島で攻勢に出ており、大きな衝突の危険性が高まっていると指摘した上で、要旨以下のように述べている。

(1)北朝鮮が衆目を集める昨今、東シナ海では大きな衝突が迫っている。東シナ海では、中国がアジアにおける同国の支配への脅威として、日本に屈辱を与え、排除しようとしている。日本の尖閣諸島に対する中国の領有権主張は、中国が戦いを仕掛ける格好の口実である。過去20年に亘る中国の急速な軍備増強の目的の1つは、東シナ海そして尖閣諸島の支配権を得ることにある。

(2)中国はこうしたことを「浸透」―当該地域に対して非常に多くの航空機と艦艇(中国海警と漁船を含む)を日本側が対応しきれないほど頻繁に投入する―によって行うことを好む。このシナリオにおいて、東京は取引に同意することになる。中国は無人の尖閣諸島に「文民」、つまりは海警職員を「漁民の航行を支援し、救助する」という名目で上陸させる決定を下し、日本側が何らかの対応を取るようにけしかけるかもしれない。最近の傾向から日本の自衛隊は、中国が彼らを数年内に、あるいは今日にでも「殺到させる」ことができるだろうと認識している。

(3)中国は近年、中国海警と人民解放軍海軍の支援を受けた、数百隻の漁船を尖閣諸島と小笠原諸島に派遣してきた。その目的は、中国が任意のタイミングで決断すると何が起こるのかを日本に経験させることにある。日本は政治的、軍事的な対応に四苦八苦してきており、この状況は容易に改善しないだろう。「浸透」がうまくいかない場合、人民解放軍(党の指示に基づいて)は日本を懲らしめ、尖閣諸島、あるいは別の日本領の一部を占拠すべく「短期でシャープな戦争」に備えている。中国の戦争に向けた備えは不十分だが、その準備も数年で整うだろう。

(4)尖閣諸島は一部の専門家がしばしば主張するような「幾つかの岩」以上の存在である。中国が尖閣諸島と東シナ海を支配するようなことになれば、日本のシーレーンそしてひいては東南アジア貿易、さらにはその先の中東、欧州貿易が絶たれることになる。これは日本の存続に関わる脅威である。

(5)それでは、こうした事態は交渉によって解決できないのだろうか。それは一方が他方よりも劣位にあることを認める必要があるため、心理的に困難である。では、日本は戦うだろうか。そうかもしれない。日本世論の大部分は中国に対して好感を抱いていないように思われる。日本政府が自らの正しさを証明したいのであれば、世論は中国の侵略に対抗する強硬な軍事的措置を支持するだろう。今でさえ南西諸島における自衛隊の強化されている取り組みは世論の支持を得ているように思われる。

(6)もちろん、東シナ海と尖閣諸島に対する中国の主張は、シニカルで機会主義的なものである。中国が尖閣諸島を問題にし始めたのは2009年頃からにすぎない。しかしながら、それはさして重要ではないことである。でっち上げられた領有権の主張を巡って攻撃を加えることは世論の支持を集め、国内問題から目をそらそうとする独裁体制の典型的な策略である。

(7)東シナ海での出来事は、信頼の置ける積年の同盟国に対する米国のコミットメントも試すことになる。日米安全保障条約に基づいて米国は、日本防衛のコミットメントを順守するのだろうか、あるいはしないのだろうか。米国がそうせず、同盟国が強大な敵に対して独力で対峙することを強いられるのであれば、世界中で米国の条約に対するコミットメントに疑問が生じるだろう。

(8)中国が東シナ海で並ぶ者のない支配権を掌中に収めれば、米国と日本による非常に困難な取り組みなしでは台湾の命脈は尽きるだろう。台湾が「陥落」すれば、その「戦略的地理」の喪失によってアジア全域での米国の立場が崩壊するだろう。重要なことに台湾は中国共産党にとって、もはや存続に関わるような脅威ではない。

(9)東シナ海は日本そして米国にとって大きな試練である。日本は防衛費を大幅に増大させる必要がある。しかしながら、それまでの間、彼らは現有の相当大きなリソースをより良い形で用いることができる。そうした目的に向けて、日本は南西諸島や東シナ海における日本領防衛のために常設の統合任務部隊(JTF)を創設したほうがいいだろう。そのためには、3自衛隊が最終的に現在の限られた能力を超えて互いに協力する必要がある。日本も中国による侵略の矢面に立ち追いつめられることになるだろうが、それゆえに日米の部隊は東シナ海と南西諸島防衛のため、完全に統合される必要がある。日米の部隊統合は一連のパトロールや演習、共同作戦、そして南西諸島あるいは周辺地域における基地使用などから始められるべきである。軍事的な取り組みと併せてワシントンは密かに北京に対して、日本への侵略あるいは継続的な「浸透」戦略でさえも米国の介入を招くと伝達すべきである。

(10)かくして金正恩がヘッドラインを独占する一方で、より大きな問題が東シナ海に近づいてきているのである。日米はこの構図を忘却してはならず、これ以上の時間を浪費するわけにはいかない。いくらかの努力と少しばかりの運があれば、日米は辛うじて中国に手を引くよう説き伏せられるかもしれない。

記事参照:Japan, China Headed for showdown 'Down South'

727日「中国はただ海洋法を『選り好み』することはできない―米海軍大佐論評」(EAST ASIA FORUM, 27 July 2018

 米海軍大佐であるTuan N Phamは、7月27日付のEAST ASIA FORUMのサイトに"China can't just 'pick and choose' from the Law of the Sea"と題する論説を寄稿し、海洋法を選り好みにして利用する中国の行動は逆効果であるとして、要旨以下のように述べている。

(1)本年5月、ワシントンは、南シナ海における中国の行動が自由で開かれた海の追求に反するとの理由で、2018年RIMPAC海軍演習への北京の招待を取り消した。 RIMPAC 2014及び2016のように、中国は、世界最大の国際海軍演習を監視するために、米国の排他的経済水域(EEZ)に情報収集艦を派遣した。そして、過去2回のこの演習のように、ワシントンは中国艦船のプレゼンスに反対しなかった。これは、米国や他の海軍が中国の(主張する)EEZで同様の活動を行った場合の北京から受ける反応とは異なる。それどころか、中国は、しばしばその主張している領土主権を侵害している違法国家と警告し、時には彼ら自身がその軍隊に嫌がらせをすることさえある。北京は自国の海洋の権利を明確に理解しているが、必ずしも他国の同じ権利を容認し、受け入れるわけではない。

(2)南シナ海における軍事活動に対する(非)許容性に関する中国の主張は、沿岸諸国が彼ら自身のEEZにおいてUNCLOSの下で経済活動を規制する権利を有するが、そこでの外国の軍事活動を規制する権利はないという米国の見解に反している。北京は、公海及びEEZにおける軍事活動は、UNCLOSの立法精神、そして、公海の使用は平和目的のためだけであるというUNCLOSの要求に基づいて違法であると強く主張している。しかし、中国を除く全ての国連安全保障理事会常任理事国を含む100を超える国々がワシントンの立場を支持している。

(3)それはそれとして、追加の背景に言及する価値のある別の観点がある。そのEEZにいる船舶に退去するように指示する場合、他国がその国内法に従うことを中国が都合良く要求するのとまったく同じように、中国がそれらの国々のEEZにおいて監視を行う際は、中国は、他国の国内法に従っているだけである。確かに、ほとんどの他国の法律が寛大である一方で、この点において中国の法律は偏狭であるけれども、守られている原則はほぼ間違いなく同じであるかもしれない。

(4)それにも関わらず、北京は、他国へのその要求とその自国の行動の間の不一致に最終的に取り組まざるを得ないかもしれない。それは、その固定されたアプローチを調整するか、そのEEZにおける軍事活動を規制するためのその擁護できない根拠を引き続き主張する可能性がある。後者は、自国の海洋主権の主張の法的効力、国際的な信頼性及び世界的立場の観点から、より多くのリスク(ひいてはコスト)を負う。

(5)地域的には、「私が言うようにやれ、そして私がやるようにはやるな」と続けることは、中国の「親切な」台頭について神経質な近隣諸国の間の増大する懸念を悪化させる。世界的には、中国の国際的なイメージを傷つけ、そして、その地政学的な影響を海外で推進し、欧米主導の世界秩序を支配的な米国の影響なしに取って代わるという戦略的目標を損なう。

(6)北京は現在、中国のEEZそれ自体において、情報収集活動や軍事演習に必ずしも反対しないように見える。正しくは、彼らは、これらの活動の範囲、規模及び頻度に反対する。彼らはまた、国際法の下でこれらの行為は、本質的に違法な行為とはもはや考えていないというよりも、中国の平和と安全保障を脅かすだけでなく、地域を不安定化していると考えているように思える。

(7)こうした努力にも関わらず、結局北京は、都合良くUNCLOSを無視し、そして、自国の国益を支援し、その戦略的な物語を補完する国際規範を受け入れた。国際法を支持する誠実で信頼できる国際社会のコミットメントが北京にっとても必要であるならば、これは逆効果である。

記事参照:China can't just 'pick and choose' from the Law of the Sea

728日「南シナ海における信頼醸成措置を超えて―比研究者論評」(EAST ASIA FORUM, July 28, 2018

 フィリピン大学ディルマン校教授のAileen S. P. Bavieraは、7月28日付のEast Asia Forumに "Building confidence in the South China Sea"と題する論評を寄稿し、南シナ海においてASEANがより積極的なアクターとなるためには従来の信頼醸成措置では不十分だとして、要旨以下のとおり論じた。

(1)近年ASEANは中国との間に、南シナ海における緊張緩和に向けて合意を重ねてきた。それはたとえば、各国外相間のホットライン構築や「洋上で不慮の遭遇をした場合の行動基準」(CUES)や「行動規範」(COC)などに関する合意である。しかしCOCに関する議論を見ると、その前途は多難のように見える。COCについては最初にその必要性が表明されてから25年もかかり、それが法的拘束力を持つものになるかどうかなど、なおはっきりしていない。こうした不明確さは、パワーが非対称な勢力の間で、検証や執行のためのメカニズム構築が困難であることを示している。

(2)COCが完成したとしても、それが中国とASEANだけを交渉の主体として限定しているという欠点がある。南シナ海問題は当初こそ中国とASEANの領土・海域問題とされていたが、いまやそれは中国とアメリカの間の地政学的争点になっている。アメリカのDonald Trump大統領は、南シナ海に限らず論争的な地域における行動の自由を強めようとしており、また、台湾が米中関係の火種となる可能性が強まっている。そのような中で中国がCOCの完成に前向きなのは、アメリカの関与を弱めようという意図があるかもしれない。

(3)ASEANはこうした状況を理解しており、多国間協調の枠組みにおいて多くの建設的な提案がなされている。

a.2017年、CUESに拡大ASEAN国防相会議(ADMM+)の参加国すべて(ASEAN加盟国、オーストラリア、中国、インド、日本、ニュージーランド、韓国、ロシア、アメリカ)が参加することになった。

b.シンガポールのNg Eng Hen国防大臣はCUESの合意を拡大し、空における軍事インシデントの回避も視野に入れている。

c.ASEANと中国は、捜索救助や災害復旧を想定した海上演習を計画しており、フィリピンやマレーシア、インドネシア、タイ、シンガポールなどはすでに中国と意見交換ないし演習を実施している。

(4)しかしASEANはなお難題に直面している。この地域の主要アクターとして中国が台頭し、南シナ海周辺の公共財(海洋安全保障など)の提供者としての立場を確立しようとしている。それ自体は南シナ海に面する長い沿岸部を有する国家として妥当であろう。しかしASEANの中国に対する不信感が、中国のそうした主張を受け入れる蓋然性を小さくしている。この不信感は2016年の南シナ海仲裁裁判裁定を中国が受け入れなかったことで悪化した。こうした中国の動きに対しては、域外の国々が、たとえば日米豪印戦略対話(Quad)の再開やアメリカのインド太平洋戦略の構想など、中国の影響力や軍事力をバランスさせる試みを実施している。

(5)ASEANが南シナ海における領土・海域をめぐる緊張を緩和しようとするのであれば、安全保障に関する多国間協調主義というASEANの根本的な方針が、南シナ海が大国間政治の舞台となりつつある中で、実現可能なアプローチであり続けることを説得的に示さねばならないであろう。そのためにはもはや、信頼醸成措置(Confidence-building measures)では不十分である。ASEANは、信頼醸成措置とは別の方法で、より高い目標を達成するときであろう。現在のところ、前述したADMM+がそうした目的のための最も包括的かつ生産的なプラットフォームである。

(6)強力なADMM+の確立のためには、ASEAN自体が自律的で結合力あるブロックへと発展する必要がある。そのやり方には、ADMMを通じての、あるいは「マイナスX」方式(コンセンサスではなく、準備ができた国から合意を履行していくというやり方:訳者注)による調整などがあろう。それによってASEANは、地域的な海洋の安全保障問題における中心的なアクターへとならねばならない。

記事参照:Building confidence in the South China Sea

729日「中国、南沙諸島に捜索救難船を初恒久配備-日本メディア報道」(The Japan Times, Jul 29, 2018

 日本の英字新聞The Japan Times電子版は、7月29日付で"In first, China permanently stations search-and-rescue vessel in South China Sea's Spratly chain"と題する記事を掲載し、中国がスビ礁に捜索救難船を初めて恒久的に配備し、この動きは南シナ海、スビ礁等に対する中国の主張を強化する懸念があるとして、要旨以下のとおり報じた。

(1)中国は、係争中の南沙諸島にある人工島の1つに恒久的に配備するため捜索救難船を派遣したと国営メディアが報じた。

 新華社は7月28日(土)に南海救115がスビ礁に到着次第任務を開始すると報じた。新華社によれば、中型救難ヘリコプターを運用可能な南海救115は7月30日(月)頃にスビ礁に到着すると見られている。新華社は2013年にスビ礁での大規模な浚渫が開始されて以降、南沙諸島に救難船が配備されるのは初めてであるとしている。

(2)交通運輸部救助サルベージ局長の王振亮は、中国は国際法に基づく海洋における救難任務と義務によりよく合致するため南沙諸島及び周辺海域における捜索救難活動を改善すると新華社に述べた。 救助サルベージ局の杜海は、中国は航続距離が長く、最新の装備と技術を搭載したより大型の救難船を建造すると新華社に語った。加えてより高性能で高速の救難ヘリコプターを展開すると付け加えた。

(3)北京は一連の前哨基地を南シナ海に建設しており、そこには毎年約3兆ドルの世界的通商が通る海上交通路ある。フィリピン、ベトナム、マレーシア、台湾、ブルネイの主張と競合している。

 一部専門家の発言として、これは南シナ海、スビ礁、ファイアリークロス礁、ミスチーフ礁の北京の3つの人工島に対する実質的支配を強固にする一致した努力である。スビ礁には軍用の滑走路がある。最近の報告ではこれら人工島にはミサイルの配備、広大な倉庫群、衛星、外国の軍事行動及び通信を追尾できる装備がある。

 中国は、施設は防衛目的であり、島自体は民用であり、近傍を航行する船舶に公海上のサービスを提供すると言っている。しかし、一部専門家はこれらの動きは島礁に対する中国の主張を加速することになると懸念を表明している。

記事参照:In first, China permanently stations search-and-rescue vessel in South China Sea's Spratly chain

731日「中国がスリランカとフィリピンに軍艦を贈与―香港紙報道」(South China Morning Post.com, July 31, 2018

 香港紙South China Morning Post電子版は、7月31日付で"China donates warships to Sri Lanka and Philippines in drive to expand regional influence"と題する記事を掲載し、北京がインド太平洋地域でフットプリントを拡大しようとする中、軍事援助パッケージの一部として中国の軍艦がスリランカとフィリピンに譲渡されているとして、要旨以下のように述べている。

(1)中国は、インド太平洋地域におけるその軍事的影響力を強化するための最新の取り組みにおいて、スリランカとフィリピンに軍艦を贈与する予定である。スリランカへの1隻のフリゲートの贈与は先週、コロンボにある中国大使館の武官Xu Jianwei上級大佐によって発表された。一方で、フィリピン海軍スポークスマンのJonathan Zata中佐は、7月29日日曜日に北京からの4隻の新しい哨戒艇の贈与を確認した。コロンボ・ガゼットの報道によると、中国軍はまた、スリランカ軍に「様々な訓練」を提供し、SLMA(Sri Lanka Military Academy)で講堂を建設すると、Xuは7月20日月曜日のイベントで述べた。フィリピン・デイリー​・インクワイアラー​の報道によると、Zataは7月29日、中国はフィリピンに200基のRPGランチャーと弾薬を譲渡すると述べた。

(2)この地域における軍事プレゼンスを拡大しようとする中国の取り組みは、昨年、中国企業に支配権を与えた利権契約がこれを禁止しているにも関わらず、それが、スリランカのハンバントタ港を軍事目的で使用する可能性があることを危惧すると、インドで懸念を生じさせた。インドもまた、スリランカへの軍艦など、南アジア諸国に多くの兵器を贈与している。

(3)スリランカに与えられたフリゲートについての詳細は発表されていないが、中国の軍事アナリストたちは、それがC28A型又はC13B型のコルベット、又は新しく退役した053型フリゲートですらある可能性が高いと考えている。この3つのクラスは、アルジェリア、バングラデシュ及びパキスタンを含む買い手とともに、他国に輸出されている最も一般的な中国軍艦である。

(4)Zhouは、「中国は(スリランカに)さらに1、2隻贈与する可能性がある」「この艦船は、南アジアの現在の地域軍事バランスに大きな違いをもたらさず、それは海賊対処の目的で主に使用される」と述べた。Zhouはまた、その海軍の拡大と艦隊の性能を向上させることにより、世界的な不況の後で中国がその造船業界を支援してきたと主張した。Zhouは、これらの艦船は建造するのは比較的安価であり、他国に与えられた艦船は、修理とメンテナンスによって、長期的には中国にとって有益となる可能性があると付け加えた。

記事参照:China donates warships to Sri Lanka and Philippines in drive to expand regional influence

731日「南シナ海で行われる中国のフィリピンに対する挑発、中比の新たな火種―香港紙報道」South China Morning Post, July 31, 2018

 香港紙South China Morning Postは、7月31日付のWeb版に"Philippines raises concern over Chinese radio warnings to stay away from South China Sea islands"と題する記事を掲載し、南シナ海における中比の新たな対立の火種について、要旨以下のように報じている。

(1)フィリピン当局者が30日に明らかにしたところによれば、フィリピンは中比両国が領有権を主張する南シナ海の新たに要塞化された諸島やその他領域から離れるよう、フィリピンの航空機や船舶に警告する中国の無線メッセージが増加していることに懸念を示した。

(2)フィリピン政府の報告書は、昨年後半だけで同国の軍用機が、南シナ海のスプラトリー諸島で中国が埋め立てた人工島付近を哨戒中に、中国の無線による警告を少なくとも46回受けたことを明らかにした。報告書は、中国の無線メッセージが「西フィリピン海(南シナ海のフィリピン側の呼称)で、海上、空中監視を実施するわが国のパイロットに対する中国の戦術を強化する意図で行われた」と強調した。報告書によると、1月下旬に中国が占拠する諸島の付近を哨戒していたフィリピン空軍機が、特に攻撃的な無線メッセージを受信した。

(3)公に問題を議論する許可を受けていないため、匿名を条件に取材に応じた2名のフィリピン当局者によると、長きに亘り解決を見ないアジア諸国の領土紛争に焦点を当てた、マニラで今年すでに行われた中比協議などで、フィリピンは無線送信に関する懸念を2度にわたり表明してきた。これは中国がスプラトリー諸島で浚渫された土砂を用いて、7つの係争状態にある礁を島に変形させた後に浮上してきた新たな問題である。今回のメッセージはこの何年かの間、中国海警船が発してきたものである。しかしながら、米軍当局はそのメッセージが地対空ミサイルといった武器とともに、遥かに強力な通信、監視機材が導入された、北京が占拠する人工島からも送信されているのではないかと疑っている。

(4)米海軍第7艦隊広報官のClay Doss中佐は、中国のメッセージに関する我々の取材に「米国の艦船や航空機は、南シナ海の新たな地上設備から発せられていると思われる無線の増加を観測している。だが、これらの通信は我々の作戦に影響しない」とe-mailで回答を寄せた。米海軍艦艇と航空機は、中国海軍を含む地域の海軍と日常的に連絡を取っている。Dossは「こうした連絡の大部分は専門的なものである。そうでないときには、そうした問題は然るべき外交的、軍事的なチャンネルによって対処される」と述べた。在フィリピン中国大使館にコメントを求めたところ、すぐには応じることがなかった。しかし、北京の当局者は自らが主張する領土上で建設を行う権利を有し、主権をいかなる犠牲を払っても護る旨を繰り返し述べてきた。

(5)フィリピン空軍参謀長のGalileo Gerard Rio Kintanar Jnr中将は、フィリピン軍パイロットが中国の無線メッセージに対して冷静に対応し、計画通りに任務を遂行したと述べた。その上で、同中将は無線による挑発の報告件数が増大していることは、増強された哨戒によるフィリピン軍の領土権益の防護に対するコミットメントを示していると強調した。

(6)中国は2017年4月に、フィリピン側がパグアサ島と呼称する、フィリピンが占領する中業島に国防大臣と軍高官、治安当局高官及び約40名のジャーナリストを運ぶ2機のフィリピン軍機を無線で追い払おうとした。

記事参照:Philippines raises concern over Chinese radio warnings to stay away from South China Sea islands

731日「アメリカが外交失敗の南シナ海で失地回復を図る―中専門家論説」(The Diplomat.com, July 31, 2018

 中国国立南海研究院のMark J. Valencia招聘研究員は、7月31日付 The Diplomatに"US Makes Up Some Lost Diplomatic Ground Over South China Sea"と題する論考を寄稿、要旨以下のとおり述べている。

(1)遅ればせながら、米国は南シナ海問題に関わる外交上の失敗を修復させつつある。多くの政治家や評論家は、南シナ海や東南アジア地域での優越を競いアメリカと中国がソフトパワーとハードパワーを繰り広げているとの一致した見方を示している。しかし筆者は常々、中国は米国が長らくソフトパワーを及ぼした地域に自らもソフトパワーによって攻勢し、影響力を強め続けてきたと論じている。今、アメリカ政府は失地回復を図りつつある。

(2)ソフトパワーとは、経済や文化の影響力をもって他国に優越する力であり、ハードパワーは国際関係に高圧的姿勢で臨むことである。かつて、中国の周恩来首相は、クラウゼヴィッツの名言をもじって、「外交は他の手段を持ってする戦争の継続である」と述べたことがある。南シナ海や東南アジアの紛争は、ある特別な状況においては、ソフトパワーによって処理することができるのではないだろうか。アメリカは世界のミリタリーパワーであり、それを中国が優越を獲得しつつある南シナ海でも発揮しようとしてきた。対する中国は、地理的あるいは経済的な利点を生かしたソフトパワーを強めている。

(3)米国は同盟や友好国に対して、南シナ海における中国の野望は覇権を得ることであり、そのため軍事化を図り航行の自由を脅かしている、と呼びかけている。一方、中国は、領域保全のための行動をしているだけであり、商業航路を脅かしたことはないと主張し、アメリカは域外国であり、また国連海洋法条約にも加盟しておらず、「航行の自由作戦」のもとで軍事プレゼンスを図り情報収集するなど、地域の安全保障環境を不安定化させていると訴えている。中国のソフトパワーキャンペーンは、カンボジア、ラオス、ミャンマーなどASEAN諸国で功を奏しつつあり、それはフィリピンやタイ、マレーシアさらにはシンガポールにも及びつつある。

(4)一方、域外諸国は米国に戻りつつある。少なくとも「航行の自由作戦」には。これまで、アメリカの同盟国であるオーストラリア、フランス、日本、ニュージーランドと英国は米国の圧力を受けながらも南シナ海における「航行の自由作戦」への参加を拒んでいた。ところが、6月のシャングリラ会議で英仏が南シナ海での独自の航行の自由のための演習を実施すると宣言した。演習は実施されたが、米国による「航行の自由作戦」に倣って中国が占拠する島嶼の12マイル以内を航行したか否かは不明である。それでも、イギリスのGavin Williamson国防長官は「イギリスは最も強いシグナルを送った」と声明を出している。オーストラリアは、米国による「航行の自由作戦」に対してより明確な支持の姿勢を見せている。4月に南シナ海を航行中のオーストラリアの戦闘艦が中国から誰何を受けたとき、Malcolm Turnbull 首相はオーストラリア海軍の航行の権利を声高に主張している。ニュージーランドは、中国による南シナ海での行動が国際社会に脅威を与えていると公言している。「自由で開かれたインド太平洋」を唱える日本の安倍首相は、豪、印、米を巻き込んで"法の支配"(rule of law)を主張している。 南シナ海諸国はどうであろうか?マレーシアではNajib Razak前首相は中国寄りであったが、Mahathir Mohamad現首相は中国との距離をとっているように見受けられる。フィリピンではDuterte大統領が中国に対して対立姿勢からソフト対応に転換している。今年予定される初の中国とASEANの海上演習について、フィリピン海軍の高官は信頼醸成の良い機会となる旨の発言をしたが、最近は政府高官が疑問を呈しており、これは米国への配慮があるものと思われる。ベトナムはアメリカの関与を歓迎している。

(5)米国は、環太平洋海軍演習(RIMPAC)で中国を排除しASEANから6カ国を招き南シナ海諸国への"静かな支援"を示した。中国は南シナ海での外交での戦いで勝利し続けてきたが、今、米国が力を挽回しつつあると言える。

記事参照:US Makes Up Some Lost Diplomatic Ground Over South China Sea

【補遺】

旬報で抄訳紹介しなかった主な論調、シンクタンク報告書

1 Military capability and international status

https://www.iiss.org/blogs/military-balance/2018/07/military-capability-and-international-status

Military Balance Blog, IISS, July 3, 2018

Bastian Giegerich, Director of Defence and Military Analysis, IISS

Nick Childs, Senior Fellow for Naval Forces and Maritime Security, IISS

James Hackett, Editor, The Military Balance, Senior Fellow for Defence and Military Analysis, IISS

国際戦略研究所のBastian Giegerich、Nick Childs、James Hackettは、英国における国防の方向性に関する議論では軍事能力をいかに評価するかが重要であり、厳密な評価には多くの質的、量的変数を分析しなければならないとして、各国の軍事力を11の評価基準を使用し、世界規模の軍事力(global military powers)、遠征可能な軍事力(expeditionary powers)、地域的軍事力(regional military powers)に区分することを提起した。そして、評価のために以下のマトリックスを提示した。

その結果として英国は世界規模の軍事力であり、特に通常戦力では世界中に軍事力を展開し、継続でき、陸上、海上、航空での戦闘任務を維持できると評価した。

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2 What Will the Future Hold for Arctic Economics?

http://cimsec.org/what-will-the-future-hold-for-arctic-economics/37034

Center for International Maritime Security (SIMSEC), July 3, 2018

Rachael Gosnell, pursuing doctoral studies in International Security and Economic Policy at the University of Maryland, with a focus on maritime security in the Arctic

メリーランド大学で北極の海洋安全保障について研究中のRachael Gosnellは、北極の経済的潜在力は巨大であるが、その将来を分析する場合には地域の複雑さを考慮しなければならないとした上で、気候変動、人口の変化、海運、漁業、観光、投資等について分析し、北極は経済的可能性にあふれていると指摘する。人口増加は世界の水準に比べれば低いが、地域には豊富な天然資源があり、海上通商路としての可能性がある。北極へのアクセスが容易になることでこの地域は一層の成長を経験するだろう。しかし、北極圏国は環境、先住民、そして自国の戦略的利益を守るために成長を注意深く管理しなければならない。特に極北の国々、そしてこの地域に利害を有する国の間で経済発展の指針を示す条約と規範の開発と遵守を確実にするために相当の協調がさらに求められると主張している。

3 China to deepen legal cooperation with countries and regions under B&R Initiative

http://www.globaltimes.cn/content/1109246.shtml

グローバルタイムズは7月3日付で新華社通信の引用記事として、「『一帯一路』法治協力国際フォーラム」が7月2日に北京で開催されたことを伝えているが、この記事中で引用されている王穀国務委員兼外交部長の基調講演は「一帯一路」は「法治協力」に基づくものと強調しており、中国が同構想は「ルールベースの国際秩序に反するもの」との批判を強く意識していることも伺えるような内容となっている。以下、同基調講演の概要を記す。

新華社通信 2018年7月3日(中国語)

https://www.mfa.gov.cn/web/wjbzhd/t1573323.shtml

新華社記事に引用されている王穀外相の基調講演 2018年7月2日(中国語)

https://www.fmprc.gov.cn/web/wjbzhd/t1573308.shtml

 王穀部長は今日までに発展してきた「一帯一路」構想を以下のように評価した。

「一帯一路」が提起されてから5年間、中国は90余りの国及び国際組織と「一帯一路」をめぐる協力の覚書を結び、関係各国と共同で75箇所の海外経済貿易合作区を建設、「一帯一路」の沿線国家と貿易総額は30万億人民元に達し、中国による沿線国家に対する投資額は700億米ドルを超え、「一帯一路」は世界最大規模の国際協力プラットフォームとなった。 

王穀部長は「一帯一路」がこのような予期せぬ成果を上げることの出来た要因について、①平等互恵を原則とすること、②ウィンウィンの協力を目標とすること、③開放と容認を趣旨とすること、④ドッキングと発展を経路とすること、⑤規則と法治を基礎とすること、の五つの要素を挙げた。

 その上で、王穀部長は「一帯一路」の建設に法律と制度による保障を提供するため、法治における協力を強調し、法治協力の中身について三つの内容を表明した。第一は、ルールの接続と協調性のある連結である。これは、インフラ構築におけるハード面の協力だけでなく、ルール・規則・基準の国際レベルと国家レベルとの連携におけるソフト面の協力も図ることである。第二には、法治に基づく保障システムの整備である。これは、訴訟、仲裁、仲介のシステムを構築するということである。そして第三は、法治の交流と国際協力の深化である。これは、トラック1とトラック2レベルにおける法治をめぐる交流、司法及び法執行協力、法律に係る人材育成などの協力である。

 最後に、王穀部長は改革開放40周年を背景に中国が対外開放の国策を継続的に堅持していくことを表明し、「一帯一路」建設の更なる発展と人類運命共同体の構築を図るために、国際法治協力を含む各分野における協力を積極的に推進していくことを強調した。

4 India's Major Foreign Policy Concerns And Indo-US Strategic Partnership - Analysis

http://www.eurasiareview.com/05072018-indias-major-foreign-policy-concerns-and-indo-us-strategic-partnership-analysis/

Eurasia Review.com, July 5, 2018

Dr. Manoj Kumar Mishra, a Lecturer in Political Science, S.V.M. Autonomous College, Odisha, India

インドのS.V.M. Autonomous College講師Dr. Manoj Kumar Mishraは、インドが米国との戦略的紐帯を密接にすることを検討するに当たって対外政策の懸念は、①インドの主権の問題、②戦略的自立への願望、③多重的な各国との連携政策の三点であるとし、これについて分析しつつ、冷戦後の米印関係及び両国関係の突破口を概観している。

5 Pacific leaders sign on to Australian internet cabling scheme, shutting out China

https://www.channelnewsasia.com/news/technology/pacific-leaders-sign-on-to-australian-internet-cabling-scheme--shutting-out-china-10522252

Channel News Asia, 12 Jul 2018

シンガポールの24時間TVニュースChannel News Asiaは、パプア・ニューギニアとソロモン諸島の両国がオーストラリアの資金提供による海底インターネットケーブルの計画について署名したと報じた。これはソロモン諸島の首都ホニアラと島嶼部を繋ぐだけでなく、パプア・ニューギニア、ソロモン諸島両国とオーストラリア本土とも接続する計画である。この署名は中国の大手華為技術有限公司の計画の機先を制して行われ、その背景にはオーストラリアが裏庭と見做す地域へ中国が影響力を強めようとしていること、西側情報筋によれば華為技術有限公司は中国政府とのつながりがあり、その機器がスパイ活動に使用されていると懸念していることが指摘されている。