海洋安全保障情報旬報 2018年5月21日-5月30日

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522日「中国は南シナ海にジャングルの掟を用いるのか?英研究者論説」(Asia Times.com, May 22, 2018

 英国を拠点に研究活動をするXuan Loc Doan博士は、5月22日付けAsia Times電子版に"Is Beijing using 'law of the jungle' in South China Sea?"と題する記事を投稿、要旨以下のとおり述べている。

(1)昨年、中国の習主席は国際会議の席上で「弱肉強食のジャングルの掟は排除されるべきである」と述べている。しかし南シナ海における係争島嶼への爆撃機の着陸などの行為は何と理解すべきであろうか。中国の国際会議等における発言を聞いていれば、聴衆は中国こそ人類のために衡平で共に利益を共有することに務める国家だと考えるかもしれない。習主席はウエストファリア条約の衡平と主権の原則や国連憲章の目的等を持ち出し、「これらは人類社会に平等なコミュニティーを作り出す指針である」と述べている。習主席は「主権平等こそが国家間関係の極めて重要な原則である」とも述べている。主権平等とは国家の大小や強弱に関わらず尊重されるべき国家の主権と尊厳である。習主席は"兵法"についても言及、「古来、中国では国家において最も重要なものとして兵法がある。戦争は生死に関わるものであるが故に慎重でなければならず、兵法は戦争を避けるための策でなければならないと考えられてきた」と紹介している。習主席は「中国はいかに経済発展しても決して覇権を求めることはない」と常々述べている。

 しかし、共産党支配の中国が、とりわけ習主席が政権をとった2012年以降、南シナ海でとった振る舞いは言葉とは裏腹なものである。

(2)中国による強権的な南シナ海へのアプローチに対して、フィリピンが仲裁裁判に訴える行動をとった。2016年7月に5人の裁判官は中国の主張や行動が国際法に反するとの裁定を下した。それにも拘わらず中国は南シナ海での主張と行動を止めることはなく、経済力と軍事力を背景に裁定を無視し続けている。

 仲裁裁定の直後には行動規範の策定に積極姿勢を示すなど宥和的な面もあったが、ここ数か月の間にまた高圧的姿勢が見え始めている。先週、中国は係争海域の島嶼に初めて核爆弾搭載可能な長距離爆撃機を着陸させている。国営メディアは人民解放空軍の「本演習はあらゆる脅威への戦闘能力を磨くものである」との説明を報じていた。中国国営メディアは爆撃機の着陸地を明確にしなかったが、戦略国際問題研究所はウッディー島であったことを確認している。これに対して、これまで中国寄りと見られていたフィリピンのRodrigo Duterte大統領も警戒感を露わにし、主権を守るために必要な外交的措置をとると述べている。ベトナムは更に強い反応を見せた。ベトナムの外務省報道官は「ベトナムの主権への深刻な脅威である」「緊張を増大させるものであり、東海を不安定化させる」とし、「ベトナムは中国がこのような行動を止め、西沙海域の軍事化を止め、ベトナムの主権を尊重すべきである」と述べている。

(3)フィリピンやベトナムに限らず、地域諸国は最近の中国の強硬な行動を資源が豊富で戦略的に重要な海域を武力で支配しようとする意図の表れであることに警戒をするであろう。中国はその言葉に反して「ジャングルの掟」に従わせようとしていることは明らかである。

記事参照:"Is Beijing using 'law of the jungle' in South China Sea?"

522日「東南アジアで米国は力があり、それを活かすべき-米専門家論説」(East Asia Forum, May 22, 2018

 ジョージワシントン大学のDavid Shambaugh教授は"Can America meet the China challenge in Southeast Asia?"と題する記事を5月22日付のEast Asia Forumに寄稿し、東南アジアでは米国は中国との比較において総合的に見てかなりの強さがあり、これを活かして地域の国々から信頼されるパートナーとなる努力が必要であるとして、要旨以下のように述べている。

(1)米国が尻込みしているらしい間に中国が様々な動きをしており、東南アジアにおける戦略的砂原は動きつつある。これは地域で支配的な認識である。北京から見れば、地域の各国は経済建設という現実的な選択をしつつあり、中国は援助するためにそこにある。ワシントンの認識は、Trump政権の国家安全保障戦略にあるように「中国はインド太平洋地域から米国を排除し、国家主導の経済モデルの範囲を拡大し、地域を中国の望む形に再構築しようとしている。」ということである。

 明らかに過去2年以上、微妙だが顕著な中国に向かって作用する引力が明らかにある。第1の疑問はこれが一時的で戦術的なものなのか、あるいはより長期にわたる永続的な傾向なのか。さらに、全てのASEAN加盟国が同じように中国に引き寄せられているのか?明らかに北京と「時流に乗る」ことは、外部勢力に依存することを避ける東南アジアの誇示されているリスク回避戦略についてなにを提起するのか?中国がこれらの国々をその勢力範囲に引き込むのであれば、何が彼らを押しやるのか?中国は自らの影響力を伸ばしすぎ、過大に評価しているのではないか?米国は戦略対立を効果的に争うことができるのか?両大国は対立に当たってどのような強点と弱点があるのか?

(2)米国は、地域中に広範で永続性のある安全保障の紐帯、外交関係、商業上の影響力を持っている。その軍事的援助計画、安全保障協力は及ぶものがない。北京はこの面で争うことはできない。米国の文化交流は堅調であり、ソフトパワーの強さを示している。中国はここでも弱いままである。米-ASEANの貿易総額は中国の3倍以上である。

 米国の地域に対する直接投資総額は、中国、日本、EUの合計よりも多い。ワシントンは様々な地域支援計画に貢献している。

(3)その点で、中国の強点は、地理的に近いことと大量の貨幣量である。北京の人権とガバナンスに対する批判の欠如も東南アジア諸国から良く思われている。中国は、より定期的な外交的存在感、非常に大きな貿易、急速に成長する海外直接投資、地理的な近さから利益を得ている。中国経済の足跡は一帯一路構想の文脈の中で大きく、急速に成長している。

 中国の対ASEAN投資もまた急増しつつある。中国は既にカンボジア、ラオス、マレーシア、ミャンマーで最大の、シンガポールとベトナムで第2位の海外投資国である。中国はまた、軍事援助計画と対市民外交の範囲を増大させ始めている。

 他方、皮肉なことに中国の弱点は地理的な近さ(近すぎ、威圧的である)、南シナ海に対する主張と軍事化、そして時に行われる外交的なASEANの操作である。中国には地域に対し安全保障あるいは防衛を提供する実際の能力はない。そして、中国は東南アジアのいくつかの社会で人種的中国人組織を「第5列」として使用しているという歴史的な疑いが残っている

(4)このように全てを考慮して、中国の地域的な関与を米国のものと比較すると、私は東南アジアにおいて米国は中国に対して総合的なかなりの強さを持っているという普通の人には信じられない結論に達した。米国は真に多面的行為者であり、中国は一面での大国に留まっている。

 これを考慮して、米国はその強点を活かし、地域において中国と効果的に争う包括的な計画を策定し、何を米国が提供しなければならないかについて、東南アジア諸国を教化するより大きな対市民外交努力を引き受ける必要がある。

 1つの重要な問題は、蔓延している「米国は自身が一時的に関与して、信頼できないことを繰り返し証明してきたという認識を正すこと」である。ワシントンはアジアそして全世界に向けた対外政策における戦略的優先事項として東南アジアを採り上げなければならない。東南アジアは、非常に重要な地域なので中国に譲ることはできない。多くの東南アジア諸国は域外のバランサーとして米国を見ており、これは米国が果たすことができ、同時に果たさなければならない役割である。この役割は安全保障面に限られるべきではなく、総合的な範囲に向けられなければならない。それには、外交の全領域、文化的、対市民外交、経済的手段が含まれる。

 中国が地域において欺瞞的であり、非常に独断的になってきている時、米国は物理的に地域に存在し、東南アジアにとって信頼できるパートナーであると認識される必要がある。

記事参照:Can America meet the China challenge in Southeast Asia?

522日「ロシア、ボレイ級SSBNの性能向上型を断念-米専門家論説」(The Diplomat, May 22, 2018

 Web誌The Diplomatの上級編集長Franz-Stefanは、5月22日付の同誌に"Russia Drops Plans For Upgraded Borei-Class Ballistic Missile Sub"と題する記事を寄稿し、ロシアが費用対効果の観点からボレイ級SSBNの性能向上型を断念したとして、要旨以下のように述べている。

(1)ロシアの国防工業の情報筋によれば、ロシア政府は費用対効果の分析からProject 955A ボレイⅡ級弾道ミサイル搭載原子力潜水艦(SSBN)の能力向上型をキャンセルした。

 いわゆBorei BSSBNは新型ウォータージェット推進装置、新しい雑音低減技術などが適用されると考えられていたが、ロシアの2018-2027装備計画に最早載せられることはない。

 「ボレイB級SSBN建造の提案書の分析後、同級潜水艦の建造計画は費用対効果の基準に合わないため破棄される決定がなされた。その代わりに2027年までの装備計画の最終版にはボレイⅡ級潜水艦が含まれている」と情報筋はTASS通信に語った。

 上位の国防工業当局が繰り返しルビン中央設計局のボレイB級設計作業に対して不満を述べていたことから、SSBNの性能向上型を採用しないという決定がなされたことは驚くことではない。統一造船会社社長Alexey Rakhmanovは3月に「ボレイB研究開発は昨年終了していた。概念設計は経済的可能性を満足しなかった。我々はこの問題に戻ってくるだろう」と述べている。

(2)ロシア国防省はさらに6隻のボレイⅡ級SSBNを建造する計画があり、5隻は既に発注されている。これによってボレイ級SSBNは14隻に増強される。

 「Sevmash造船所で2023年以降にProject 955A潜水艦の新しい艦型の建造が始まるだろう。全体として、ボレイA潜水艦6隻を建造する計画があり、これらは北海艦隊と太平洋艦隊で運用されるだろう。この6隻が就役すれば、露海軍は14隻の新しいSSBNを運用することになる。すなわちボレイA(ボレイⅡ)級11隻と3隻のボレイ級である。」とその筋は付け加えている。

(3)ボレイ級SSBNと比較して、ボレイSSBNは多くの技術的改良と並んで、ミサイル発射筒4基を追加し、船体、セイルをより小型化し、音響特性を改良し、より低い雑音レベルとなっている。

 ボレイ級及びボレイ級潜水艦はBulava潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)(抄訳者注:原文ではintercontinental ballistic missiles (ICBMs)としているが、ICBMは地上配備型の大陸間弾道ミサイルであり、SLBMとは異なる。)を搭載するだろう。ボレイ級SSBNBulava SLBM16基を搭載可能であり、改良型のボレイSSBNBulava SLBM20基を搭載可能である。

 ボレイ級SSBNの改良型は、1弾頭当たり100~150キロトンの極超音速個別機動弾頭96~2000発を発射できる。露海軍は、3隻のボレイ級SSBNを運用している。Yuri Dolgorukyは北海艦隊に、Alexander Nevsky Vladimir Monomakhは太平洋艦隊に配備されている。

記事参照:Russia Drops Plans For Upgraded Borei-Class Ballistic Missile Sub

523日「『インド太平洋』、それぞれの見方豪専門家論評」(East Asia Forum, May 23, 2018

 豪シンクタンクThe Australian Institute of International Affairs 会長Allan Gyngellは、Webサイト、East Asia Forumに5月23日付で、"To each their own 'Indo-Pacific'"と題する論説を寄稿し、「『インド太平洋』とはこれだ」といった特定の概念ではなく、国によってそれぞれ見方が異なるとして、要旨以下のように述べている。

(1)「太平洋アジア」や「アジア」といった概念と同様に、「インド太平洋」概念も、関係各国政府が特定の環境における自らの政策目標に適合する国際環境を表現する手段に過ぎない。「インド太平洋」概念の使用頻度が高まっているのは、中国の台頭がもたらすインパクトと、そしてより全般的に見れば、日本から中国に、中国沿岸域から内陸部に、そしてその外縁のインドまでに至る、アジア内部におけるパワーの西進状況を反映しているためである。このことは、ユーラシア大陸部を跨ぐパワーの移行に対する海洋部からの対応(一部の見方では、対抗)と見れば、よく理解できる。海洋部からの対応は、中東、西アジア及び東アジアを結ぶ、国家と非国家主体の両方におけるエネルギー供給、生産チェーン、インフラそして安全保障面における連結、更には、太平洋を跨いで米国の安全保障と経済との連結にまで及ぶものである。「インド太平洋」概念は、地理的実態ではなく、政策枠組であり、その提唱者は、自らのそれぞれ異なった利害に合わせてこの概念を具体化している。要するに、各国がそれぞれ独自の「インド太平洋」概念を持っているのである。

(2)オーストラリアにとって、「インド太平洋」概念は好ましいものである。この概念は、オーストラリア大陸を囲む両洋(インド洋、太平洋)と、両洋を繋ぐ要としての役割を果たす東南アジアを含むものである。他国の指導者がこの概念を使用する前から、この言葉はオーストラリアのGillard、Rudd、AbbottそしてTurnbullの歴代政権の公文書で使われてきた。「アジア太平洋」概念は、戦後に米国と東アジア諸国を安全保障と経済面で結びつける概念として流布された。これに対して、「インド太平洋」概念は、オーストラリアの歴史に根付く世界観を反映している。オーストラリア人は、19世紀から20世紀前半まで、西洋と同じ視点で自らの戦略環境を考えてきた。オーストラリアの安全保障、貿易そして通信は全て、インド洋を越えて、大英帝国の港湾都市の繋がり―シンガポール、コロンボ、ボンベイ、アデンそしてスエズ運河を経由して、英国に繋がっていた。

(3)「インド太平洋」概念に対するインドの見方は、東南アジアにおける「ルック・イースト」政策の延長であり、そして自国の海洋周辺における排他的利益の防衛である。日本の安倍首相にとって、この概念は、より一層中国を視野に入れたものである。安倍首相は、アジアからアフリカに至るインフラ・ネットワークが中国とその仕様基準によって独占されないようにすることを望んでいる。「インド太平洋」概念に対するインドネシアの姿勢には、ためらいが見られる。インドネシアは、この概念における自国の中心性を自覚しているが、同時にそれが機構としてのASEANに及ぼす潜在的影響を懸念しており、更に中国との分断を強めることを恐れている。フランスの「インド太平洋」概念は、インド洋と太平洋地域における自国の海外領土を通じて、グローバルパワーとしての地位を改めて主張するものである。中国は、その「一帯一路構想」(BRI)の一環としての「海洋シルクロード」構想を自らの「インド太平洋」概念としている。米国は、この概念におけるレイトカマーである。安倍首相の提唱に応えて、Trump米大統領は2017年11月にハワイで、「自由で開かれたインド太平洋」に言及した。米国の姿勢は翌12月の「国家安全保障戦略」で明らかにされ、そこでは、「インド太平洋地域で起きている世界秩序に対する自由なビジョンと抑圧的なビジョンとの間における地政学的抗争」と説明されている。

(4)「インド太平洋」と「アジア太平洋」という2つの文脈において、「自由で開かれた」という言葉の使用について考えてみることは有益である。「アジア太平洋」という文脈では、この言葉は明らかに経済に力点がおかれている。APECの基本理念は「協調的自主的な行動」と「開かれた地域協力」である。ワシントンと東京にとって、「インド太平洋」は、政治体制に関わるものであり、民主主義体制を暗黙の共通の基準としている。オーストラリア政府の外交白書は、「インド太平洋」における繁栄と安定を直接関連付け、 オーストラリアは「米国と中国に対して、相互間の経済的緊張が戦略的抗争を誘発したり、多国間貿易システムを阻害したりすることのないように、慫慂していく」と述べている。しかしながら不幸なことに、これまでのところ、オーストラリアによる米中に対する慫慂が大いなる効果を発揮している兆候はほとんどない。同白書はまた、オーストラリア政府が「自国の利益に好ましい地域バランスを促進するために、インド太平洋の主要民主主義国と連携していく」と述べている。これが「4カ国安全保障対話」(the Quadrilateral Security Dialogue)の理念であるが、「4カ国」はそれぞれ異なった利害を有しており、このことが政策論議を越えて実効的措置を目指す上での足枷となっている。しかし、「4カ国枠組」は、「インド太平洋」地域が直面する経済、安全保障、環境そして社会における多くの課題に対処するために必要な、多様で柔軟な国家関係の連携や連合の1つの形態となるであろう。この形態は、ハブ&スポークスの同盟システムやAPECなどの「アジア太平洋」における制度化された諸機構とは全く異なる。

(5)「インド太平洋」における各種の機構は、(東アジアサミットのように)協調を目指すものであったり、また(「一帯一路構想」に対抗するインフラ建設計画のように)競争を目指すものであったりするであろう。あるいは、(アジアインフラ投資銀行のように)中国が主導したり、そして(地域包括的経済パートナーシップのように)ASEANが主導したりするものもあろう。更には、こうした国家間のグループ化は隣国の不信を掻き立てたり、疎遠にしたりするであろう。とはいえ、こうした多様な戦略的、経済的エコシステムだけが、「インド太平洋」が持つ多様な側面に適合できるのである。

記事参照:To each their own 'Indo-Pacific'

523日「中国が水陸両用戦部隊を重視してこなかった意味-豪専門家論説」(The Interpreter, The Lowy Institute, May 23, 2018

 豪The Lowy Institute 上級研究員Sam Roggeveenは、5月23日付のThe Lowy InstituteのWeb誌The Interpreterに"Why China isn't planning to storm Taiwan's beaches"と題する記事を寄稿し、中国は人命、資源両面で高くつく軍事力による台湾解放よりむしろ、対艦攻撃能力を高めて、来援する米海軍を阻止し、台湾を孤立させる方を選択したとして、要旨以下のように述べている。

(1)過去20年以上にわたって中国海軍は劇的に増強されてきた。しかし、1つの驚くべき例外を除いて。それは水陸両用戦部隊である。

 オーストラリア国立大学の"China's New Navy: A Short Guide for Australian Policy-Makers"と題された報告は、中国が成し遂げてきた広範囲な能力の躍進について述べている。しかし、同じことが実際には兵員と装備を海上から陸上に揚陸する中国の能力の真実ではない。ここでは、なぜ人民解放軍海軍がその能力開発に溝を残してしまったのかについて提言したい。

(2)この溝がそれほど不可解な理由は、台湾の解放が中国共産党の独自性の重要な一部であり、人民解放軍の中核となる任務であることである。ある分析者は、台湾は人民解放海軍が邪魔立てされることなく太平洋に出入りできるようにすることから、中国の広範な海軍の野望の鍵であると主張している。したがって、大規模な近代化が進められている中で、もし下令されれば台湾を征服する部隊をなぜ建設しないのか?

 中国に造船能力が欠落していると言うほどではない。艦艇が問題なわけでもない。中国はまた、台湾に侵攻するような任務を遂行するのに必要な海兵隊を建設してこなかった。

 中国がより大型の水陸両用戦艦艇を建造し、オーストラリアのキャンベラ級に似たヘリコプター空母を建造しつつあるというのは事実である。Type 071級と議論されているType 075級は台湾シナリオで必要とされているものより大きい。したがって、おそらくより遠方への展開、例えば南シナ海への展開を想定している。

(3)中国は、台湾再奪取に貢献する水陸両用戦部隊を建設しないという意図的な選択を行ったようである。なぜ?

 私の考えでは、人民解放軍はたとえ大規模な水陸両用戦部隊をもってしても軍事力を使用した台湾の再奪取は人命、資源の両方で信じられないほど高くつくと決定した。代わりに中国は過去20年以上にわたって対艦攻撃能力の全ての分野を改善する努力を行ってきた。対艦攻撃能力は米国及びその同盟国が中国沿岸近傍で作戦することを困難にするためである。もちろん、他国も同じ戦略を採ることができる。台湾は中国軍部隊が許容できるコストで台湾海峡をわたることを難しくすることができるだろう。

 そのような高く付く任務を実施する部隊を建設するよりむしろ、中国は対艦攻撃力に焦点を当てることを選択した。中国は実際に敵艦艇を攻撃することに熟達してきた。そして、敵艦船攻撃で台湾を牽制する1つの目的は米海軍部隊の台湾への来援を阻止し、孤立させることである。

 中国はまた、強力な弾道ミサイル部隊と、保有機数では台湾を凌駕し、性能面では匹敵する空軍を有する。これら能力は、物理的な侵攻よりもむしろ、中国の要求に従うように台湾を強制するのに使用されるだろう。

 もちろん、台湾がそのような強制に抵抗し、中国が長期化する作戦に追い込まれるリスクがある。しかし、それは侵攻シナリオにおいてもあるリスクである。

 現代の海軍の戦闘においては攻勢よりも防勢のほうが容易であり、安くてすむ。中国はこれを有利に使用してきた。しかし、中国がもし台湾を征服したいのであれば、この方式の反対側に立つだろう。

 中国が水陸両用侵攻部隊を建設しないことを選択したという事実は、この教訓を学んだことを示している。

記事参照:Why China isn't planning to storm Taiwan's beaches

526日「RIMPACからの中国排除は当然-米専門家論説」(The Diplomat, May 26, 2018

 米ブライアント大学政治学准教授のNicole L. Freiner はWeb誌The Diplomatに5月26日付で"What China's RIMPAC Exclusion Means for US Allies"と題する論説を寄稿し、2018年のRIMPACに中国を招待しなかったのは、南シナ海における中国の行動と米国のアジアの同盟国への考慮から予想出来たことであるとして、要旨以下のように述べている。

(1)中国は2018年のRIMPAC演習に招かれなかった。本件は国防総省スポークスマンから発表されたが、理由として南シナ海の人工島建設と軍事化の継続が挙げられた。同声明は「中国が南シナ海の軍事化を続けることへの最初の対応として、2018年のRIMPAC演習に中国人民解放海軍を招待しなかった。 中国の行動はRIMPACの原則と目的に合致しない。」として、対艦ミサイル、地対空ミサイル、電子妨害装置などが配備されている南シナ海の二つの地域、スプラトリー諸島とパラセル諸島のウッディー島を例示した。

(2)RIMPACは世界最大の国際海上共同演習である。同演習は2年に1度開催され、ハワイ・ホノルルに司令部を置く米海軍太平洋艦隊が主導している。環太平洋諸国にとっては問題解決のために共に訓練し、協力するユニークな機会として認識されている。また、同演習は対立が激化しつつあるアジア海域で重要なシーレーンへのオープンアクセスを確保する手段とも見なされている。また、同演習は参加国が他の参加国の実力を理解出来るという意味での力の誇示でもあり、おそらくさらに積極的な行動を抑止する役割も果たしている。

(3)残念ながらRIMPACではこれまでにも国家間の問題を反映する事案があった。2016年の演習では中国人民解放海軍が海上自衛隊員の艦艇見学を拒絶した事例があったほか、艦上レセプションに海上自衛隊を招待せず、米国主導による公式な圧力があった後にしぶしぶ招待状を発出するという一幕もあった。中国は2014年にRIMPAC演習に初めて参加したが、当時この参加は賞賛され、協力への一歩と見なされていた。

(4)声明で言及されている島嶼周辺海域は世界で最も重要なシーレーンの一部であり、重要な港の大半は南シナ海周辺に位置している。ASEAN加盟国間の貿易量が増加する中、これらの海域の自由な航行の確保は域内各国にとって極めて重要である。中国の行動はアジアにおける重要なシーレーンの脆弱性を露呈させる。スプラトリー諸島とウッディー島は世界の年間商船通行量の約半分を占めるマラッカ海峡の先に位置しており、大半の商船はスプラトリー諸島周辺海域を経由してアジア各地の港に向かっている。この運航には原油及び液化天然ガス(LNG)も含まれ、台湾や韓国と並んで輸入エネルギーに依存している日本もこれらの多くを受け入れている。

(5)東シナ海の尖閣諸島/釣魚島と同じく、スプラトリー諸島にも石油と天然ガスの埋蔵が確認されているが、これらは深海底に埋もれており開発にコストがかかる。中国の軍事力増強とこの地域における露骨な敵対的態度は、大国としての野心と領土主権の拡大という野心に起因するものである。こうした中国の主張は、海軍国としての歴史を有し、海洋にアイデンティティを有する日本への直接的な挑戦である。また、こうした中国の南シナ海における行動は日本のみならずフィリピン、マレーシア、ベトナム、インドネシア、台湾などの東南アジア諸国に対する挑戦でもある。

(6)2018年のRIMPAC演習から中国を排除する決定は、中国周辺の米国同盟国の安全と主権への挑戦への対応という観点から予測されたことである。本稿執筆時点では日本は本件に直接的なコメントをしていないが、日本は米国が実施する「航行の自由作戦」の受益者であり、また、海上自衛隊は米海軍と共通の通信システムを保有してシームレスに連携することの出来るアジア全体の海洋問題に係る緊密なパートナーでもある。

 ちなみに昨年、米国はマラバール演習において、インド及び日本と一連の軍事演習を実施した。

(7)RIMPACに中国を招待しないという決定は外交的な動きに過ぎず、これまでは攻撃的な軍事行動は取られていないし、うまくいけばこれは必要ではないだろう。しかし、アジアウォッチャー達は、このような穏やかな動きがより困難な動きにつながると予測しており、今後、米国とアジアの同盟国はアジアの最も重要なシーレーンを防護するためにどれほど本気で取り組むべきか決定しなければならなくなると見ている。

記事参照:What China's RIMPAC Exclusion Means for US Allies

529日「共同海軍演習によって脚光を浴びる印越防衛関係印研究者論評」(Asia Times, May 29, 2018

 インドの研究者であるAbhishek Mohantyは、5月29日付の香港のニュースサイトであるAsia Timesに"India-Vietnam defense ties in spotlight with joint naval exercise"と題する論説を寄稿し、より強固になる印越の防衛協力について、要旨以下のように述べている。

(1)5月21日、インド海軍東部艦隊の東南アジア及び北西太平洋地域への恒久的な展開の枠組みの中で、インド海軍の3隻の艦艇が、多国間海軍演習であるマラバール、そしてRIMPACのためにグアムとハワイへ向かう途中で、インドにとってベトナムとの初の共同海軍演習のためにダナンのティエンサー港に寄港した。広い視野で見ると、これは、ベンガル湾で演習を行う中国とバングラデシュの海軍に似ている。このインド海軍の部隊は3隻の艦艇によって構成され、対潜水艦カモルタ級ステルス・コルベットであるカモルタとディーパク級補給艦シャクティはマラバール演習にのみ参加し、シヴァリク級ステルス多目的フリゲートのサヒャディはRIMPACに参加する予定である。

(2)ベトナムでのインド海軍艦艇の入港は新しい出来事ではないが、過去のそのような訪問はすべて、最近の訪問において達成された、際立った不可欠な力の誇示が欠けていた。最近の訪問のハイライトは、インドとベトナムによる史上初の共同海軍演習であり、これは、二国間関係だけでなく、インドのダイナミックなアクト・イースト政策においても新たな基準を設定している。

(3)この海軍演習は、南シナ海の紛争がある西沙諸島の近くで、中国の海軍とコーストガードによる史上初の合同パトロールと同時に行われた。サウスチャイナ・モーニング・ポスト紙によると、この中国の戦術的な動きは、最近の南シナ海におけるその関与を理由にした、ベトナムに対する警告だった。

(4)それにもかかわらず、ベトナムは、この地域における中国の覇権主義的利益に繰り返し反発している。ベトナムは、インドのように、インド太平洋地域における中国の強まる自己主張に対して用心深く、南シナ海のいくつかの島々と排他的経済水域をめぐり、北京と大きな不一致がある。

(5)インドとベトナムが、2016年のインドのNarendra Modi首相のベトナムへの公式訪問中に、包括的戦略パートナーシップのレベルまで彼らの防衛協力を強化したのは、まさしくこの理由による。それ以来、ベトナムは、ブラモス超音速巡航ミサイル及びアカシュ地対空ミサイル防衛システムの調達に関心を示している。ベトナムは、インドのアクト・イースト政策で非常に重要な役割を担っている。2016年にModiがハノイを公式訪問した際、インドは防衛装備品の取得を簡素化するため、ベトナムに対する5億ドルの信用限度額を承認した。インドはまた、ベトナムの戦闘機パイロットにSu-30戦闘機の飛行を訓練する支援をしており、ベトナムの元々ロシア起源であるキロ級潜水艦の運営を今まさに支援している。インドはまた、ベトナム空軍の100機以上のミグ戦闘機にサービスの提供とアップグレードを行い、高度化した航空電子機器およびレーダー技術を提供した。インド海軍は、ベトナム海軍と幅広く協力し、主に能力構築を目的とした訓練、修理、メンテナンス及びロジスティクスの提供を行ってきた。

(6)1月に、インドの共和国記念日、そしてASEAN・インド記念サミットのチーフ・ゲストの1人として、ベトナムのNguyen Xuan Phuc首相によるインド訪問、そして3月のTran Dai Quang大統領による公式訪問は、両国関係にとって注目に値する瞬間だった。両指導者は、インド太平洋地域におけるインドの適切な役割を繰り返し述べ、「自由で開かれたインド太平洋」戦略の支持を明言した。また、今回の共同海軍演習は、インド国防大臣Nirmala Sitharamanがハノイを訪問する予定の数週間前に行うよう仕向けられた。そして、インドとベトナムは、宗主国から独立して以来、繁栄を共有する仲間同士であった。

(7)最近の海洋演習の前に、両国の陸軍は、1月に、インドの主要な州であるマディヤ・プラデーシュ州のジャバルプルで彼らにとって最初の合同軍事演習を行った。さらに、3月にインドは、ベトナムを含むこの地域の有力な海洋国家と一緒に、アンダマン・ニコバル諸島において非常に大規模な海軍演習「ミラン」の舵取りを行った。

(8)インドの巧みな態度は、集団的な地域安全保障と全世界的な安定性を増幅する、協力的、包括的かつ周到な安全保障枠組みを掲げるということである。ベトナムとの多くの防衛活動は、今後数ヵ月において注目されることへの下準備であり、それは二国間関係の新たな基準を設定するだけでなく、インドのアクト・イースト政策をより重要な地位に引き上げるだろう。

記事参照:India-Vietnam defense ties in spotlight with joint naval exercise

【補遺】

旬報で抄訳紹介しなかった主な論調、シンクタンク報告書

1. Xi Jinping and PLA Transformation through Reforms

http://www.rsis.edu.sg/wp-content/uploads/2018/05/WP313.pdf

RSIS, May 21, 2018

Dr You Ji, Professor of International Relations in the Department of Government and Public Administration at the University of Macau

the University of Macauの国際関係論教授You Jiによる人民解放軍改革の政治と軍組織、指揮系統等の再構築に関する分析。

2. Shield of the Pacific: Japan as a Giant Aegis Destroyer

https://csis-prod.s3.amazonaws.com/s3fs-public/publication/180523_Karako_ShieldofthePacific.pdf

CSIS Briefs, May 23, 2018

Thomas Karako, Senior Fellow, International Security Program and Director, Missile Defense Project, CSIS

CSISの上級研究員であり、ミサイル防衛プロジェクト部長のThomas Karakoによる日本のAegis Ashore 導入に伴うミサイル防衛の分析。

3. Japan's Pacific Island Push

https://thediplomat.com/2018/05/japans-pacific-island-push/

The Diplomat, May 24, 2018

By Daniel Hurst, a freelance journalist based in Tokyo

東京を拠点とするフリージャーナリストDaniel Hurstによる、福島で開催された「太平洋・島サミット」において、「法の支配」に基づく海洋秩序と持続可能な海洋などを採択し、地域の安定と繁栄により深くコミットすると表明した日本の姿勢への評価。

4. China-Australia friction intensifies deep in the South Pacific

https://asia.nikkei.com/Spotlight/Asia-Insight/China-Australia-friction-intensifies-deep-in-the-South-Pacific

Nikkei Asian Review, May 29, 2018

Nikkei Asian Reviewによる海底ケーブルをめぐる中豪の対立の報道。

5. Japan's plans to build a "Free and Open" Indian Ocean

https://www.lowyinstitute.org/the-interpreter/japan-plans-build-free-and-open-indian-ocean

The Interpreter, May 29, 2018

Dr David Brewster is with the National Security College at the Australian National University, where he specialises in South Asian and Indian Ocean strategic affairs. He is also a Distinguished Research Fellow with the Australia India Institute.

豪National Security CollegeのDavid Brewsterが、中国の一帯一路の対立軸としてインド洋地域に対する日本のインフラ投資を評価し、豪への含意を提示した論評。

6. Shared Vision of India-Indonesia Maritime Cooperation in the Indo-Pacific

http://mea.gov.in/bilateral-documents.htm?dtl/29933/Shared_Vision_of_IndiaIndonesia_Maritime_Cooperation_in_the_IndoPacific

Ministry of External Affairs, Government of India, May 30, 2018

印外務省が公表した5月29日、30日に行われたModi印首相のインドネシア訪問時の共同声明

①インドはインド-太平洋地域の中心的位置を占め、一方インドネシアはインド洋と太平洋を繋ぐ支点であり、インド洋と太平洋は世界の海上通商の最も重要な連接された地域であることを確認し、②平和と安定のために海洋における協調の強化とインド-太平洋地域に大きな経済的成長と繁栄をもたらすことを期待し、③インド-太平洋地域における海域の平和、安定、持続可能な経済的発展のために海洋の安全が必要であることを確認。

7. China's Evolving Naval Force Structure: Beyond Sino-US Rivalry

https://jamestown.org/program/chinas-evolving-naval-force-structure-beyond-sino-us-rivalry/

China Brief, the Jamestown Foundation, May 31, 2018

Dr. Christopher Yung is the Donald Bren Chair of Non-Western Strategic Thought and Director of East Asian Studies at the US Marine Corp University

米海兵隊大学東アジア研究部長Dr. Christopher Yungによる中国海軍増強の分析。米国は中国の艦艇取得過程、艦艇取得がどのように中国の海洋戦略、部隊の展開戦略、不測の事態対処計画を策定するかを再検討しなければならないとし、難しい問題であるが、避ける余裕のある問題ではないと警告する。

8. China's New Navy: A short guide for Australian policy-makers

http://sdsc.bellschool.anu.edu.au/experts-publications/publications/6176/chinas-new-navy-short-guide-australian-policy-makers

The Centre of Gravity Series, the Strategic and Defence Studies Centre, Australian National University, May 2018

Sam Roggeveen is a Senior Fellow at the Lowy Institute and a Visiting Fellow at the Strategic and Defence Studies Centre, Australian National University.

豪研究機関Lowy Instituteの上級研究員Sam Roggeveenは、オーストラリアが中国、特に中国海軍の台頭と相対的な米国の凋落という第2次大戦以来初めての海洋における安全保障上の問題に直面しており、豪軍は中国の教訓から導かれた兵力組成が必要であるとする提言。