海洋安全保障情報旬報 2018年5月11日-5月20日

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511日「ベトナム軍の戦略・戦術思想と南シナ海―RANDアナリスト論評」Asia Maritime Transparency Initiative, CSIS, May 11, 2018

 米RAND Corporation上級アナリストのDerek Grossmanは、カリフォルニア大学サンディエゴ校大学院生のNguyen Nat Anhと共に、米シンクタンクCSISのThe Asia Maritime Transparency Initiative に5月11日付で、"Deciphering Vietnam's Evolving Military Doctrine in the South China Sea"と題する論説を寄稿し、ベトナム軍の戦略思想やその背景について、要旨以下のように報じている。

(1)中国は南シナ海の係争地域で軍事プレゼンスを拡大中であるが、ベトナムは巧みな国防外交と合理的な軍の近代化の組み合わせによって、北京の活動に対抗しようとしてきた。専門家は、特に近年のベトナム人民軍(VPA)による軍事調達や、具体的な兵器システムの独自開発を評価することに力を注いできた。しかしながら、一連の新たな能力獲得の背後にある思考過程や、将来的な南シナ海を巡る紛争において、軍を効果的に指揮する軍事ドクトリン、あるいは作戦構想の有無について書かれてきたものは比較的少ない。これは、軍事全般に関するベトナムの非常に秘密主義的な性質を鑑みれば驚くべきことではない。ベトナム国防省(MND)が正式な国防白書を発表したり(ベトナムで国防白書が出されたのは1998年、2004年、直近では2009年である)、軍事計画に関して公に言及したりすることは稀である。そもそも我々は、ベトナムが空海の戦闘に関する、西側で言うところの「軍事ドクトリン」を有しているか否かを知らない。もっとも、我々はVPAのあらゆる軍事計画に影響を及ぼしている2大原則が存在すると確信している。

a. 第1の原則:ベトナムは軍事作戦において防衛―中国の構想から言葉を借りて、より正確に言うなら「積極防御」―を攻撃に優先させている。その際、対上陸作戦が主要な焦点であることは間違いない。例えば、Institute for Military Strategyによると、ベトナム人民海軍(VPN)は「敵の上陸作戦に対抗するために、海や島嶼部など遠方から戦うことを重視」しなければならない。その理由は、VPNがこれらの任務を成功裏に実行するための「ミサイル艇や潜水艦、海軍航空機、地上配備型の対艦ミサイル、長距離砲、精鋭部隊、島嶼部防衛部隊、その他部隊等の組織や装備が一定水準に到達した」からである。VPAの専門家は、南シナ海の係争地物に対する中国の戦略的な空挺作戦にも懸念を示している。ベトナム国防大学当局者は、「敵が地上、島嶼部の基地あるいは空母から航空機に搭乗するタイミング」で攻撃を行う重要性を強調した。こうした状況においてVPAは、「有利な戦闘状況を作り出すため」に「搭乗地点で敵を攻撃すべく、ベトナム人民空軍(VAD-AF)や海軍、長距離ミサイル、長距離砲、特殊部隊」を投入すると強調している。

b. 第2の原則:全人口を国防に動員することを意味する「全人民戦争」である。「全人民戦争」の中心となる教義は、敵に対して非対称戦を行う能力である。この戦法は弱い軍隊の兵力を活用して、強い軍隊の弱みに乗じることを必要とする。「全人民戦争」の考え方は、少なくともベトナムの伝説的英雄Tran Hung Daoが非対称戦術を駆使して、兵力と兵器に優るKublai Khan率いるモンゴル軍に勝利を収めた13世紀を想起させる。こうした構想は、ベトナムが20世紀にフランス、アメリカ、中国の部隊を自国から成功裏に撃退していく中で強化されていった。もっとも、中国と戦うことになる現代の軍事作戦は、南シナ海の空と海で行われるだろう。ある関係者は、ベトナムが「海の人民戦争」に備えていると本稿の筆者ら(Derek Grossman、Nguyen Nat Anh)に明かした。

 VPNは、「海の人民戦争」の遂行に関して「我が国の地理、特に洞窟や島嶼部を利用して艦艇を停泊、隠蔽すると同時に、作戦を兵站面で支援する必要がある」としている。ベトナムの著名な軍事評論家Le Ngoc Thongによると、小型で静粛性、機動力に優れる潜水艦は非対称戦に最適である。「海の人民戦争」を遂行することは、ベトナム人民の力―何十年にも渡ってソ連や中国の軍事機関で多くのベトナム人が吸収してきた共産主義イデオロギーの特質―を活用することも意味する。そのようなものとしてベトナムは、2014年4月に文民が運営するものの軽武装を備えるベトナム漁業監視隊(VFSF)を発足させた。VFSFは、ベトナム沿岸警備隊(VCG)の艦艇を補完するものである。あるベトナムの推定によると、今やVFSF は8,000隻の船舶を擁し、VPN、VCG、国境警備隊及び主権の侵害を監視・報告する漁師と密接に協力している。その目的は、2014年5月の中国との厄介な石油リグを巡る争いを繰り返さないことにある。VAD-AFの航空作戦構想に関しては、ほとんど情報がない。いずれにせよその目的が、守勢にある海軍等の支援にあることは明白である。

(2)ベトナムが、多くの有用な兵器システムを調達してきたことは、いずれは南シナ海での交戦に関する指導原則を確立するためであることは明白である。しかしながら、ベトナムの進化しつつある軍事ドクトリンは、VPAが海空での戦闘に不慣れなことから試練に晒されることだろう。長大な距離や予想不可能な天候は、VPAが南シナ海で新たに対処を迫られるだろう多くの問題のほんの一部に過ぎない。歴史的に陸軍中心の軍隊であるVPAは、未来の紛争が起こる可能性が最も高いこれらの領域において、いっそう定期的かつ現実的に訓練を行うことを真剣に検討すべきだろう。

記事参照:Deciphering Vietnam's Evolving Military Doctrine in the South China Sea

511日「米海軍とのギャップを埋めるための中国海軍の取り組みー米シンクタンク報告」(Stratfor World, May 11, 2018

 5月11日付の米シンクタンクStrategic ForecastingのWEBサイトStratfor Worldは "China's Navy Prepares to Close the Gap on the U.S."と題する記事を掲載し、中国海軍は2030年までに更なる増強を続けるであろうが、米海軍は依然として世界の海洋の支配者であり続けるとして、要旨以下のとおり報じている。

(1)中国は間もなく2隻目の空母(初の国産型)を試験航海させる見込みであるが、これは中国海軍の着実な能力向上を示す重要なマイルストーンである。北京は、おそらくは今後10年程度で少なくとも東アジア海域においては米海軍の優越に挑戦を試みる程度の能力向上を目指すであろう。本誌は2018年の予測で、中国は外洋展開に対する諸外国からの圧力に警戒を強めていると指摘した。 現在、北京は海軍の大幅増強に乗り出す態勢を整えており、中国は地域的な支配権力としての立場を固めようとしている。

(2)今日の中国海軍の実力は30年前とは比較にならない。 1990年代に入ってもそれは事実上、米国に挑戦する能力など望むべくもない沿岸海軍に過ぎなかった。しかし今日、北京は艦船建造に際し船体や装備武器に革命的ではないが斬新的に新設計を導入してきた結果、その能力は急速に向上している。北京は今世紀に入り新型艦の建造に着手したが、 051C型駆逐艦などの初期設計の多くは主要装備にロシアなど海外の技術に大きく依存していた。 同時に中国はソヴレメンヌイ級駆逐艦やキロ級潜水艦などのロシア艦を新型艦設計の失敗に対するリスクヘッジとして購入し続けて来た。

(3)中国は今世紀初頭の10年間、各軍艦のタイプを小さな区分別に建造すること自体に制限を加え、各タイプ別の包括的なテストを経て徐々に改善された設計に移行して来た。この10年間の慎重な試みにより中国海軍は信頼できるモデルの生産に自信を得た。中国の艦船建造所は 054A型フリゲート、 039A型潜水艦、 052D型駆逐艦及び 056型コルベットを急速建造し、この4タイプを海上戦力の柱とした。しかし、こうした艦船の建造は艦隊の規模を必ずしも増強させた訳ではなく、20世紀以来、軍籍に残っていた老朽艦の代替更新に充てられた。中国海軍当局がこの近代化推進を次の2年間で完了すれば、中国はその能力強化を大幅に拡大するだろう。中国の海上訓練のペースは既に前例のないレベルに達しており、このテンポは今後も続くだろう。老朽艦除籍は艦船の能力のみならず量的な改善の機会も提供する。現在の建造ペースを維持していけば、2020年から2030年にかけ毎年3隻の駆逐艦が建造されることになるだろう。

(4)しかし、こうした駆逐艦、フリゲート、コルベット及びディーゼル電気潜水艦の増強も中国海軍の成長の一面に過ぎない。 今後10年間で中国は次世代原子力潜水艦、カタパルト装備の新型空母を建造するほか、 075型強襲揚陸艦の導入により両用戦部隊も拡充の予定である。更にこのハードウェア増強を補完するものとして、海上及び海中での長期展開行動に必要なロジスティック能力、世界各地の補給支援拠点確保といった外洋海軍として必要な施策にも焦点を当てている。

(5)今後10年間の中国海軍の増強は、既に世界で2番目に強力な存在となった中国海軍と米海軍のギャップを大幅に縮小はしても、それを解消するものではない。中国がグローバルな海上戦力として米国に近づいたとしても、引き続き様々な面で米国の優位は揺るがない。米国本土は大部分が安全圏であり自国水域における挑戦は基本的には想定されておらず、伝統的に外洋海軍の建設に注力することが出来た。ワシントンは長い間、空母群と大規模な水上戦闘艦艇部隊及び世界各地においてプレゼンスとパワーを発揮できる大規模なロジスティックス能力を整備してきた。中国はこれと同じく海軍艦艇の整備と外洋展開能力獲得に努めるであろうが、特に南シナ海及び東シナ海の潜在的パワーを自国有利にすることに焦点を当てるであろう。その結果、中国は自国領域周辺の沿岸海域環境下での戦闘に理想的な小型艦艇と通常型潜水艦から成る、大規模な艦隊を維持することになるだろう。

(6)また、進歩的な指揮命令システム、良好な訓練環境、地上配備航空部隊及びミサイル部隊との連携、地理的チョークポイントの存在など他の要因も、中国周辺に分散配置された米軍部隊によって優位に作用するだろう。中国は2030年までに、黄海、東シナ海及び南シナ海を取り巻く、日本からインドネシアを結ぶ列島線及びグアムやパラオなどの島嶼の内側で支配的な海軍力となる可能性が高いが、それでも世界の海洋では依然として米海軍が支配的な立場であろう。2030年以降の中国の潜在的な海軍力を予測することは不可能であるが、それでも太平洋海域では米国の海洋支配に挑戦しようとし続けるであろう。今後10年間、中国海軍は更に増強を続け、大洋の支配者にはならないかもしれないが、自国周辺の海域におけるマスターにはなるであろう。

記事参照:China's Navy Prepares to Close the Gap on the U.S.

512日「インド洋における中国海軍の動向とインドの懸念―印専門家論評」(East Asia Forum, May 12, 2018

 インドのニューデリーにあるシンクタンクObserver Research Foundationの上級研究員Abhijit Singhは、5月12日付のEast Asia Forumのサイトに"India needs a better PLAN in the Indian Ocean"と題する論説を寄稿し、インド洋における中国海軍の動向がインドの懸念を引き起こしているとして、要旨以下のように述べている。

(1)最近のニューデリーでの記者会見で、インドのNirmala Sitharaman国防相は、「インド洋においてインド海軍と中国海軍の間には緊張がない」と見なしていると述べて、記者たちを驚かせた。インドの安全保障サークルの誰もが大臣の評価に同意するわけではない。ここ数年、インド洋において中国による急速に拡大している海軍のプレゼンスは、インドの戦略コミュニティにおいて懸念を引き起こしている。

(2)中国が海洋南アジアにおけるインドの伝統的な影響圏へ侵入することだけではなく、北京が地域の国々とのパートナーシップを推進すること、そして「優しい中国」という物語を推進することによって、地政学的な発展のために、その海軍の対海賊のための展開も利用している。さらに重要なことに、北京は、インド洋におけるその戦略的関与の度合いを高めている。中国の海賊対処派遣部隊は、現在、対海賊任務よりも影響力の大きい"プレゼンス作戦"により適しているミサイル搭載フリゲート、先進的な駆逐艦及び特殊作戦部隊で構成されていることは奇妙である。ジブチでの中国初の海外での軍事施設の開設以来、中国海軍のインド洋の重要な沿岸における戦略的アクセスのための試みは十分に明らかである。

(3)近年、中国の海賊対処派遣部隊は、常に中国海軍の潜水艦を伴っている。海賊対処活動の名において、中国の潜水艦は、インド洋の作戦活動環境についての重要な情報を集め、南アジアの海を徹底的に調査するのに度を越えた長い時間を費やしてきている。中国海軍は、この試みにおいてパキスタン海軍に支援されており、インド洋において発展している中国・パキスタンの軸に関するインドでの懸念をさらに高めている。ドクラム高原でのインド陸軍と中国陸軍の間で起きた1ヵ月間にわたる膠着状態の真っただ中、2017年7月に報道された中国による潜水艦の展開は、インド海軍の指導部が「任務即応」(mission-ready)軍艦によってインド洋の重要な海上交通路及びチョークポイントの常時監視を命じざるを得ないほどニューデリーを動揺させた。

(4)インド洋での海軍力の好ましいバランスを維持しようとするその試みにおいて、ニューデリーは、ワシントンと東京に近づいている。三ヵ国間印米日マラバール演習は、より戦闘的な訓練とともに範囲と複雑性を増したが、ニューデリーは、オーストラリア海軍を受け入れるためにこのテントを拡大することを妙に渋っている。インドは、インド洋の大規模な海軍コアリションに同意する前に、(もしかするとフランスやオーストラリアとの)他の三国間の取り決めを検討する可能性がある。

(5)ニューデリーの名誉のために言うと、それは、インド太平洋地域における中国の投資及びインフラ構想の中心である西インド洋のそのゲームを強化している。オマーンやフランスとの兵站に関する協定を署名した後、インドは、モーリシャス、セイシェル、モザンビーク及びマダガスカルとの海洋についての関係を強化している。

(6)一方、北京は、一帯一路構想について、それほど単純ではなかったかもしれないとする兆候がある。その発展的な詳細な計画は、本質的に「デュアルユース」の性質をもっている。中国の建設された商業施設は、軍事利用のために構造的にアップグレード可能なものが多く、そして、港湾運営のための合意の条件は、ほとんどの場合、中国の国営企業に有利に歪曲されている。

(7)北京は、その軍艦がインド洋でのインドの利益を脅かさないことを保証している。中国海軍の艦艇は、インドの領海内のその主権に挑戦せず、アンダマン・ニコバル諸島から安全な距離を置いている。中国は、北京の経済的および軍事的援助の恩恵を受けることを切望している一帯一路構想のパートナー諸国へのその投機を制限している。

(8)しかし、海でのインドと中国の競争状態を管理するために、一部のアナリストたちは、1972年の米ソの"INCSEA"(海上事故防止協定)と同様の目的で「海上事故」協定を提案している。インド海軍は、インドと中国の小競り合いの可能性が等しくある西太平洋でも適用されるならば、「行動規範」に喜んで署名するだろう。しかしそれは、おそらく中国にとって受け入れられるものではないだろう。

(9)現状では、インド海軍は、インド洋での卓越した地位を強調することに専念している。それでも、南アジアの海を常にパトロールするという任務は、海軍の前線におけるアセットに重い負担を課している。

記事参照:India needs a better PLAN in the Indian Ocean

514日「南シナ海に対する中国の軍事的、言語学的攻勢に対し、米国以下は決意に欠け、無策―米専門家論評」(Asia Times, May 14, 2018

 元在韓米空軍の語学/分析/報告担当者のRobert E. Mccoyは、5月14日付 Asia Timesに' Do China's Missiles in the South China Sea Mean War ?'と題する記事を寄稿し、中国が南シナ海にミサイルの配備等を進めるだけでなく、言葉の上でも攻勢を強めているのに対し、米国をはじめ、地域の国々は何もしていないとして、要旨以下のように述べている。

(1)南シナ海は紛争の大釜になる可能性があり、中国が火を掻き立てつつある。南シナ海のほぼ90パーセントの権利を主張することで、北京は地域の他の国々の権利を踏みにじり、それらの国々の排他的経済水域と国際海域を侵犯している。

 中国は人工島に滑走路を建設し、輸送機が最近、常駐を支援する装備、後方支援資材を搬入した。多くはこの開発に不意を打たれたようであるが、ミサイルと関連するレーダーは地域における中国の主張を支援する戦闘機に論理的に加えられたものである。

(2)今年初め、指名されていた次期太平洋艦隊司令官は、中国が南シナ海を支配していると公表していた。彼は状況を大げさに述べたのではない。米国とこれによって影響を受ける世界の他の国、特にブルネイ、インドネシア、マレーシア、フィリピン、ベトナムは控えめな行動を採り、非難する以外何もしなかった。ワシントンとオーストラリアはいわゆる「航行の自由作戦」を行っているが、中国を留めるのには極めて効果が少ない。

 今、それは遅すぎるのかもしれない。北京が新たに創設した南シナ海ほぼ全域に対する主張を擁護するための前哨基地から撤退すると想像することは、不可能である。対空ミサイル、対艦/対地巡航ミサイル、弾道ミサイルと、それに関連する監視レーダーと射撃管制レーダーは装備されている。これらの人工島を攻撃することは、今や軍事的挑戦である。

(3)この問題で中国はその他の正面を開きつつある。中国の立場を支持するよう組み立てられた言葉である。先月、北京は大手航空会社及び米国のホスピタリティ企業が香港、マカオ、台湾、チベットを「国」と表記したとして非難した。中国はこれらが中国の領域であり、世界はそのように表記しなければならないと主張している。中国の主張への支持を得るための他の努力において、言語学的な策略を使いつつある。中華帝国の感情を害し、その大きな市場を失う危険を負わないため中国が選択した言葉を世界の他の国々が使用するよう謀ることができれば、なおさら好都合である。中国は名称に力があることを知っている。

 北京は南シナ海で同じことをしようとしている。「見よ。我々は何年もここにいる。そしてこれについて誰も真剣に挑戦してこなかった。この島々、そして周辺海域は明らかに我々のものだ。したがって、南シナ海でのばかげたことの全てを止めよ。なんと言っても南シナ海は我々にちなんで名付けられている。」。諺にあるように、現に所有していることは九分の理である。

(4)専門家は南シナ海における北京の動きについて、様々なコメントをしている。しかし、見て見ぬふりをされた問題に対応した者は誰もいない。ワシントンと地域の他の国々が行動しなかったため、世界の海上交通の三分の一が通る海上交通路を中国が支配する結果となった。仲裁裁判所の裁定に中国を従わせる唯一の方法は強制であるという、常に明らかな事実を直視する者は誰もいなかった。中国は国連安全保障理事会の常任理事国であり、それを開始するのは難しい努力であろう。偽りの主張である島から中国を駆逐するための国際的な遠征を承認するいかなる決議も失敗する運命にあるだろう。

 そのことが日米豪印4ヶ国、正式には4ヶ国安全保障対話にいやな仕事を任せている。しかし「何を?」、多くの疑問が提起される。

 米国、今はオーストラリアがなぜ「航行の自由作戦」を通常の航行とだけ主張して重要視しないのか?中国の国際法に対する公然たる反抗は言葉だけなのか、あるいは北京が「血塗られた戦争」に臨む心の準備をしているのか?米国、4ヶ国安全保障対話参加国、ASEAN加盟国は南シナ海の自由のため、中国に侵犯された地域の排他的経済水域のために戦う意思はあるのか?それら全ての国は、軍事的衝突を恐れるあまり、何も行動しないことによって海域全てを中国に認めるのか?

 仲裁裁判所の裁定を拒否することによる中国の国際条約あるいは国際法の無視や地域の他国を脅すことは十分に危険な挑発であった。しかし、南シナ海の軍事化された島々によって、中国は挑発してきており、効果的に軍の招集を行っている。米国とその同盟国は、どのように答えるのか?あるいは答えるのだろうか?

記事参照:Do China's Missiles in the South China Sea Mean War ?

515日「中国に対する米海軍の遠距離封鎖は可能か?―米専門家論評」(The Diplomat.com, May 15, 2018

 米国のケンタッキー大学にあるPatterson School of Diplomacy and International Commerceの准教授Robert Farleyは、5月15日付のWeb誌The Diplomatに、'Could the US Navy Blockade China in Wartime?'と題する論説を寄稿し、中国本土を封鎖することは、米国の様々な戦略上の失敗を引き起こすとして、要旨以下のように述べている。

(1)米国は、戦時中に中国の石油を封鎖することが可能か?米国が中国の厄介な接近阻止・領域拒否(A2 / AD)システムに我慢する必要はなく、この紛争の交渉による解決を強制することができる可能性があるため、この考え方は、魅力的である。しかし、Gabriel Collinsは、Naval War College Reviewの新しい論文で、中国に対する遠距離石油封鎖(distant oil blockade)の見通しを評価しており、それほど楽観的ではない。

(2)この地域の他の多くの国々が中国と同じ海上交通路に依存していることを考えると、石油の海上輸送を妨げることは難しいだろう。米海軍は、南シナ海だけでなく、インド洋のターミナルを妨害する必要がある。米国の軍艦は、政治的な重要性を招くある種の行動である、中立のタンカーを沈没させる、又は拿捕する必要があるかもしれない。しかし、Collinsは主に、封鎖がもたらす戦略的及び政治的問題に注意を向けている。彼は、グローバルな経済に対する深刻な混乱、そして戦争を終結させ、現状を回復するための米国に対する非常に強い圧力を含む、多くのマイナス面を挙げている。さらに、中国は、国内の石油生産量を増加すること、石油を代替燃料に置き換えること、ロシアからより多くの石油を輸入しパイプラインの能力を拡大すること、そして、民間経済における重要度の低い部門から分配し流用することを含む、影響を軽減するための様々な措置を講じる可能性がある。

(3)最後に、中国のA2 / ADシステムの鋭い歯と争わないという決断は、少なくとも当面の間は、この戦争に関するどんなアセットをも中国のコントロールの支配下のままにして放置するという可能性が高いことは、注目する価値がある。そして、Collinsは、太平洋戦争が終わりに近づいた日々において日本が直面した状況に、中国が耐える可能性は極めて低いことを指摘している。戦争の最後の1年間に、日本は、その残りの航空及び海軍のアセットを軍事活動として配備するための十分な燃料が不足していた。しかし、中国は、軍事機器の燃料が決して枯渇してしまうことのないように、石油を十分に生産し、十分に代用することができ、そして、十分な輸入を行うことができる。

(4)これらの主張はまた、米国と中国の間の戦争がしばらくの間継続する可能性があるというJosh Rovnerが提案する状況の中で考える価値がある。Collinsのポイントは明らかである。遠距離封鎖は失敗する可能性が高く、それを中心にして我々は計画を立てるべきではない。中国のエネルギー供給の脆弱性にもかかわらず、米国はこの戦争に勝つために封鎖だけに頼ることはできない。

記事参照:Could the US Navy Blockade China in Wartime?

515日「ASEANとソフトバランシング:平和圏としての南シナ海?-カナダ専門家論評」(RSIS Commentaries, May 15, 2018

 カナダのマギル大学教授でシンガポール南洋工科大学・ラジャラトナム国際問題研究所の客員教授であるThazha Varkey Paul博士は、5月15日のRSIS Commentariesに"ASEAN and Soft Balancing: South China Sea As Zone of Peace?"と題する記事を寄稿、要旨以下の通り述べている。

(1) ここ30年の間、ASEAN諸国はASEAN地域フォーラム(ARF)、東アジアサミット(EAS)、ASEAN拡大国防相会議(ADMM-Plus)等を通じて中国に対してソフトバランシング戦略を追求してきた。ハードバランシングが武力による威嚇を伴うものであるのに対し、ソフトバランシングは威嚇や制裁といった政治的行為を慎むことを意味する。しかし最近、ASEANの中国に対する結束に乱れが生じる中でその有効性に不安感が募っている。

 しかし将来、中国の高圧的行動を抑制する国際的メカニズムが構築される、或はアメリカが強硬な対中政策を採った場合にソフトバランシング戦略はどのようになるのであろうか?今こそ、国連の下に中国を抑制しアメリカに平和を尊重させ、信頼醸成と軍備管理を求めるべき時期ではないだろうか?

(2) ソフトバランシング戦略を続ける限り、ASEANは幾つかの問題に直面する。

 その第1は構造的制約である。アメリカ1強の時代が終わり、中国が台頭している。国際システムは再構築されつつある。軍事的には依然としてアメリカが影響力を行使しているが、南シナ海の人工島の軍事基地化や一帯一路構想の促進等によって、殊にインド太平洋地域において状況は変化しつつある。

 第2は制度的制約である。戦争や重大な危機を生じさせないための国際的制度作りが叫ばれたのは最初の20~30年の間であったが、今やその期待は小さくなってしまった。ASEANについて見れば、かつては制度作りが成功していたが、今は合意形成が難しい様相を呈している。

 第3は中国の戦略の影響である。新興国による台頭として、中国はドイツや日本などと異なり、様々な間接的戦略を用いてきた。中国は、"平和的台頭"、"平和的発展"などの表現を用いて警戒感を生じさせないように南シナ海の島嶼に人工物を建設し、インド洋に海軍活動範囲を広げてきた。それと同時に中国はASEANやインド、更には日本への経済的影響力を強め、拡張に対する批判の余地を封じてきた。

(3) 「一帯一路」構想は中国版東インド会社か?

 「一帯一路」構想は拡張のための間接戦略である。「一帯一路」は軍事力を用いない覇権の獲得構想であり、植民地支配のための東インド会社の中国版であると言える。巨額の投資を求めてアジアやアフリカの国々がこの構想に参画している。「一帯一路」が失敗すると中国を批判するだろうが、中国はハードバランシング戦略を採用しない諸国を恐れる必要はない。

 では、ASEANにどのような選択が残されているであろうか。制約はあるものの、ASEANにとってソフトバランシングを続けるべきであろう。但し、そこに国連の指示を得て「南シナ海平和圏構想」を加えなければならない。これは、1971年のASEAN外相会談で合意された、東南アジアを「平和・自由・中立圏(Zone of Peace, Freedom and Neutrality (ZOPAN))」とする宣言を拡大するものとなる。

記事参照;ASEAN and Soft Balancing: South China Sea As Zone of Peace?

516日「米印両国、インド洋における海洋インフラ開発イニシアチブの必要性―米専門家論評」(Asia Maritime Transparency Initiative, CSIS, May 16, 2018

 米シンクタンクCSIS上席顧問Raymond Vickery は、CSISのWebサイト、Asia Maritime Transparency Initiativeに5月15日付で、"The United States and India Need a Maritime Initiative"と題する論説を寄稿し、インド洋における海洋安全保障には、海空のアセットと陸上の重要なインフラとの統合が不可欠で、中国はこのことを認識しているが、米印両国は何れも中国に対抗する意志と手段を欠いているとして、要旨以下のように述べている。

(1)中国の「一帯一路構想」(BRI)における「海洋シルクロード」(MSR)は、現実には「ロード」ではなく、インド洋の戦略的なシーレーンに対する管制能力を、米印両国から中国に移管することを目指す戦略モデルである。MSRの根幹は、シーパワーの梃子となる港湾である。こうした港湾を開発し、管理するという中国の戦略は、BRIが嚆矢ではなく、それ以前の1990年代の、インド洋沿岸域における港湾建設を含む、「真珠数珠繋ぎ」戦略(a "string of pearls" strategy)にまで遡る。しかしながら、習近平主席の下、この当初の概念は、広範なインフラ建設計画と統合され、拡大されてきた。過去半世紀の間、米印両国は、インド洋における海洋安全保障を維持してきた。米海軍は、バーレーンとディエゴガルシア、そして最近ではジブチとシンガポールの基地施設から作戦行動を遂行してきた。インド海軍も戦力が拡充されるにつれ、インド本国とアンダマン諸島の基地施設は、インド洋の海洋安全保障における不可欠な存在となってきた。しかしながら、米印両国の海洋インフラは、中国のBRIのそれと比較すると、見劣りする。

(2)中国の港湾開発プロジェクトは、米印両国の海軍施設とは異なり、独立した個別のプロジェクトではなく、統合された安全保障・経済モデルの一環で、これらは陸上の輸送インフラに連結している。従って、これらは、中国の戦略目標を促進する政治的、経済的基盤となっている。BRIの統合戦略の格好の事例がパキスタンのグワダル港で、ここでのプロジェクトは港湾開発だけでなく、この港湾は「中国パキスタン経済回廊」(CPEC)に直結している。グワダル港は、中国海軍がインド洋で作戦展開するにつれ、不可欠の支援施設になるであろう。インドの東側では、中国は数年前から、港湾建設を伴うインフラ建設プロジェクトとして、「バングラデシュ・中国・インド・ミャンマー経済回廊」(BCIM)を提唱してきた。中国政府はBCIMをBRIの重要な一環と見なしているが、インドとバングラデシュが中国の戦略的意図に懐疑的であることから、BCIMプロジェクトの内、中国とミャンマー関連部分が現実的となっている。中国は既に、石油と天然ガスをミャンマーのチャウッピュー港で荷揚げし中国の雲南省昆明まで輸送するパイプラインを建設済みで、現在、数十億ドルの経費でチャウッピューに新たに深喫水港の建設を計画している。インドの南側では、中国は、スリランカの港湾インフラ計画に深く関与している。就中、ハンバントータの新港は最も国際的に注目されたが、コロンボやその他の地域でもインフラ開発を進めている。スリランカの海運荷役量のほぼ4分の3がインドへの積み替え貨物で、従って、中国は、スリランカだけでなく、インドの海運に対しても潜在的な影響力を持っている。ハンバントータ港は最近、中国国営招商局港口控股有限公司に99年期限でリースされた。

(3)中国のBRIに対して、米印両国は何れも、港湾建設戦略によって中国に対抗しようとはしてこなかった。米国は、BRIに対する懸念の表明や、既存の海軍施設の活用と米日印3カ国海軍合同演習マラバールなどを通じて、インド洋における安全保障利益が適切に守られていると考えていることは明白である。しかし、このアプローチは明らかに不適当である。インド洋沿岸域諸国が益々中国の港湾インフラ開発計画に依存するにつれ、インド洋における米国の戦力投射能力は、漸減して行くであろう。この点では、インドの方が努力している。インドは、スエズ以東で最大といわれるアラビア海に面した海軍基地、カルワル基地の新設に加えて、海洋利益を支える陸上インフラ建設で著しい進展を成し遂げつつある。インドはまた、イランのチャーバハル港のインフラ開発計画にも参画している。

(4)中国のBRIに対しては、インドも米国も、曖昧な姿勢をとってきた。両国は、BRIが中国の言うように平和的目的であることを担保するに十分なレベルにまで自ら関与する意志もなければ、また自らの海洋インフラ開発計画を推進する意志もなかった。港湾インフラが十分ではないインド洋地域において、中国の港湾開発イニシアチブに対して懸念を表明したり、それへの参加を拒否したりするだけでは、不十分である。インドと米国は、日本とオーストラリアなどの志を同じくする民主主義国家と連携して、自らのイニシアチブを推進していく必要がある。それには、中国の「海洋シルクロード」が唯一の選択肢ではないことを保証するのに十分なインフラ開発計画を伴うものでなければならない。

記事参照:The United States and India Need a Maritime Initiative

517日「多方面で増大する中国の脅威が迫る米の戦略転換―米Web紙報道」The Washington Free Beacon, May 17, 2018

 米web紙、The Washington Free Beaconの編集主幹Bill Gertzは、5月17日の同紙に、"China 'Dream' is Global Hegemony"と題する論説を寄稿し、軍事、経済、政治面で増大する中国の脅威について、下院情報問題常設特別調査委員会の公聴会における3人の米国人専門家の見解を紹介しながら、要旨以下のように述べている。

(1)専門家らは5月17日に行われた下院情報問題常設特別調査委員会の公聴会において、中国による核、通常兵器の増強や、南シナ海諸島の軍事拠点化、他国の支配を目的とした世界的なインフラ投資は、北京が米国の安全保障に対する最大の挑戦国として台頭した証左であると証言した。元米海軍太平洋艦隊情報部長Jim Fanell退役海軍大佐は、「中国共産党は地域的、世界的な覇権を懸けた全面的かつ長期的な戦いを行っている。覇権は『中国の夢』の要である。中国の覇権を懸けた戦いの術には、経済戦、情報戦、政戦及び軍事が含まれる」と強調した。

(2)中国軍事の専門家Risk Fisherは、中国のアジアと世界における軍事、経済及び政治活動が米国の安全保障に「重大な挑戦」を突き付けており、米国がその脅威に対処する際に残された時間は「約10年」であると警鐘を鳴らした。Fisherは、「台湾海峡で中国を阻止する戦いが始まっている」とも強調した。中国は、将来的に台湾を核ミサイルや空母、海軍の基地として使用することで、地域の民主国家に北京の意思を強要して、米国との同盟を終わらせようとしている。

(3)下院情報問題常設特別調査委員会委員長のDevin Nunes(共和党、カリフォルニア州選出)は、公聴会が安全保障、経済面における中国の脅威に関する特別調査委員会の活動の一環であると同時に、米国のインテリジェンスと政策を検討するものであると述べた。Nunesは、「これまでの米中関係を改善するための対中融和策は悉く失敗した。現に中国は図に乗るばかりで、もはや米国の安全保障、経済及び価値観にとって突出した脅威となっている」と指摘した。

(4)Fanellは、米国の情報機関が長年に亘って、中国の増大する脅威を正確に評価し損なってきたと証言した。米情報機関の分析官は、中国を誤って無害な新興国だと見なす「集団思考」に陥ってきた。案に相違して、中国は今や自国のマルクスレーニン主義システムを世界に広めようとしている。米中経済交流が1980年代に始まって以降、米国の対中政策は、中国が脅威ではないとの初期の主張に引きずられてきた。米歴代政権は、共産主義体制がやがて変革することを期待して、対中貿易・投資の強化を主張してきた。そうした中でTrump大統領は、北京を米国の安全保障と経済的な利益を脅かす「現状変更」勢力だと断じる対中政策の大転換を指示した。アメリカン・エンタープライズ研究所の中国専門家Dan Blumenthalは、これまで多くの中国専門家が中国の台頭に関して誤っていたと証言した。Blumenthalは、「中国は絶えずわが国に政戦や情報キャンペーン、プロパガンダを仕掛けてくる。我々が彼らを野に放ったのだ」とした上で、中国国民には共産党の行いに関するもっと健全な情報が与えられるべきだと訴えた。

(5)Blumenthalは、「米国は、14カ国と地上国境線を接する大陸帝国の海上進出を極めて困難にできる。第1列島線周辺で日本やフィリピン、台湾等の同盟国や友好国を築くということは、自ずから海上包囲網が構築されることを意味する」と指摘した。Blumenthalは、中国共産党が単に権力維持を図るだけではない「海洋に進出する大陸帝国を治めるレーニン主義者の政党なのである」と評価する。

(6)Fanellは、中国の海軍増強が「中国が追求する世界覇権の穂先である」と強調した。中国は目下、330隻の水上艦艇、66隻の潜水艦を保有しており、その上で更なる艦艇を建造している。Fanellは、「中国海軍は、2030年までに450隻の水上艦艇と99隻の潜水艦を擁し、およそ550隻の規模に達すると見られている」と指摘した。また彼は、「仮に軍事衝突が何らかの意図しない出来事によって2020年―習近平が人民解放軍に台湾進攻に備える期限として提示した―までに引き起こされなかったとしても、それ以降に中国が台湾を攻撃することが見込まれる」と警鐘を鳴らした。中国は、台湾海峡で最近大規模な攻撃演習を行って、爆撃機や攻撃機に台湾を周回させるなど、台湾包囲網を狭め始めている。

(7)Fanellは、増大する軍事力に加えて、中国が「友人と団結して、敵に楔を打ち込む」と表されるドクトリンの下、政戦の能力も用いているとした上で、「広範に政戦を展開する世論を巡る戦いは、中国の第2の戦場となるだろう」と指摘した。また、情報戦では中国の世論を統制して、敵味方の政策に影響を与えることを目的に、事象や行動、政策のストーリーを宣伝する戦略的な心理作戦が展開されることになる。こうした作戦は、無害なソフトパワーの行使に思えるかもしれないが、世界的な認識を操作する強制的な説得を伴う可能性がある。

(8)中国の対外展開は、東アフリカにあるジブチの基地一つという状態から、カンボジアやインドネシア、マレーシア、ブルネイ、ミャンマー、バングラデシュ、スリランカ、パキスタン、タンザニア、モーリシャス、ナミビア、ギリシャなどの諸国における基地や軍民共有港のネットワークへと発展を遂げるだろう。

(9)米国際評価戦略センター上級研究員のFisherは、中国軍が月の基地利用を含む宇宙戦の能力開発を行っていると指摘する。また中国が北朝鮮に長距離ミサイルの移動装置として使用された車両を輸出し、米国の安全保障を損なったとも述べている。これについてFisherは、「つい昨年まで中国は、北朝鮮にICBM運搬用の16-18車軸のトラックを輸出していた。北朝鮮のICBMは、中国のトラックで発射地点まで運ばれない限りは、米国の都市を狙うことができない。過去の2政権は、この取引に関わった企業を制裁できなかった」と語った。

(10)Fisherは、非軍事面でも中国が、「一帯一路構想」において財力を利用しようとしていると述べた。これによって新興国が「債務の罠」に陥り、中国の戦略的目的と合致するような行動を強要され得る。Fisherは、中国が1兆から3兆ドルを投じて、「中国が世界中で軍事的なアクセスを得る新戦略を固めたことは明らかである。その新戦略とは、軍事的なアクセスにつながる所有権や手段を得るために、自国に対する負債を利用することである」と強調した。

(11)米国は、中国の脅威に対抗するための包括的な長期戦略を必要としている。Fisherは、「そうした戦略は、軍事、経済、同盟国の重点、外交的・政治的・情報的重点を内包していなければならない」と指摘する。Fanellは、米国が対中姿勢の抜本的な転換を行い、北京を米国の安全保障に対する主要な脅威と見なすべきだと説く。その上で彼は、中国の情報戦に対抗すべく、米国の戦略的情報発信(strategic communications)を大幅に増強して、台湾に接近すべきだとする。

(12)アジアへの更なる兵力展開と対中インテリジェンスの強化に加えて、中国の戦略原潜を追跡するために、攻撃型潜水艦によるさらなる作戦行動が必要とされている。Fanellは、「ソ連崩壊後に非常におざなりにされてきたことだが、少なくとも米国は、強い同盟国の軍事的な支援に支えられた海洋国家に戻らなければならない。我々はもう失敗してしまった。これ以上、過ちを重ねれば立ち直ることができないだろう」と述べた。

記事参照:China 'Dream' is Global Hegemony

518日「かつての潜水艦基地に北極圏の積み替えハブを建設」(The Barents Observer.com, May 18, 2018

 ニュースサイトであるThe Barents Observerは、5月18日付で'New Arctic transshipment hub is built in former submarine base'と題する記事を掲載し、北極圏でのロシアの天然ガス会社の新しいLNGターミナルについて、要旨以下のように報じている。

(1)強大な太平洋艦隊の12隻の潜水艦を以前収容していた基地は、まもなくノヴァテクの北極圏 LNGのためのターミナルになる。このロシアの天然ガス会社は、この計画された積み替えハブが、カムチャツカで放棄された海軍施設があったBechevinkaに置かれることをたった今正式に発表した。

(2)ノヴァテクのAleksandr Fridman副会長によれば、これは、最大15億ドルの費用がかかり、最大年間2,000万トンのLNGを収容することができる。これは、ノヴァテクの北極で生産されるLNGの外部への船積み計画の重要な構成要素となる。昨年末にこのエネルギー会社は、ヤマルLNGプロジェクトで液化天然ガスの生産を開始し、さらにいくつかの北極圏のLNGプロジェクトを大規模に拡大することを目指している。液化ガスの主要なシェアは、アジア市場をターゲットにしており、ノヴァテクとパートナーは、北極海を自律航行できる砕氷能力を有する運搬船の大規模な船隊を構築している。

(3)インターファックスによると、新しいターミナルの建設の準備は既に進行中である。ノヴァテクのCEOのLeonid Mikhelsonは、このターミナルは、「我々の輸送物流を最適化し、北極圏からのLNGをより効率的に供給し、北方航路の開発を奨励し、アジア太平洋地域の国々の消費者へのLNG供給のハブを作ることを我々に可能にする」と強調した。

記事参照:New Arctic transshipment hub is built in former submarine base

【補遺】

旬報で抄訳紹介しなかった主な論調、シンクタンク報告書

1 China's Belt and Road Initiative: relieving landlocked Central Asia

https://www.timesca.com/index.php/news/26-opinion-head/19716-china-s-belt-and-road-initiative-relieving-landlocked-central-asia

The Times of Central Asia, 08May, 2018

Avinoam Idan, a geostrategist and a non-resident Senior Fellow with the Washington based Central Asia-Caucasus Institute & Silk Road Studies Program

The Central Asia-Caucasus Institute & Silk Road Studies ProgramのAvinoam Idanによる一帯一路は陸封され中央アジアに発展の機会をもたらしたとする論評。

2 Policy Roundtable: Are the United States and China in a New Cold War?

https://tnsr.org/roundtable/policy-roundtable-are-the-united-states-and-china-in-a-new-cold-war/

The Texas National Security Review, Roundtable, May 15, 2018

米Salve Regina University の国際関係論上級研究員Iskander Rehmanら7名の研究者による「冷戦」をキーワードにした米中対立の分析。

3 China's Global Naval Strategy and Expanding Force Structure: Pathway to Hegemony

https://intelligence.house.gov/uploadedfiles/james_e._fanell_hpsci_testimony_-_final_-_17may18.pdf

Testimony Before the House Permanent Select Committee on Intelligence, United States House of Representatives, 17 May 2018

By Captain James Fanell (USN, Ret.)

米下院における米海軍大佐(退役)James Fanellの証言で、26年にわたり中国情報に携わった経験から、中国海軍だけでなく、各軍種、中ロ関係、インド洋進出、アフリカ、欧州との関係まで幅広く見解を述べ、提言として①中国海軍は世界の海を支配するであろう戦略的潮流のため米国が中国を扱う「文化」の基本的な変革がなければならず、②米政府は米中関係が新たな対立の時代に入ったことを明確に宣言すべきであり、③新しい米中関係では「1つの中国政策」で何をすべきか、何をすべきでないかを再調整し、④政府は米軍、特に米海軍の前方展開のコミットメントを宣言すべきであり、⑤より強力で、より広範な海洋におけるにおける情報活動にもミットしなければならず、⑥海軍の核抑止作戦に回帰すべきであり、最後に⑦海軍を増強すべきであるとしている。

4 China's Global Military Power Projection Challenge to the United States

https://intelligence.house.gov/uploadedfiles/hpsci_fisher_testimony_5_17_18.pdf

Testimony Before the House Permanent Select Committee on Intelligence, United States House of Representatives, 17 May 2018

By Richard D. Fisher, Jr, Senior Fellow International Assessment and Strategy Center

The International Assessment and Strategy Centerの上級研究員Richard D. Fisher, Jrが下院において中国の覇権の追求、原子力艦のみの空母打撃群、水陸両用戦能力、将来の遠征空軍力などに焦点を当てた海空軍の機動兵力投射、軍のアクセスを得るための借款の利用、兵力投射任務の第1として台湾侵攻準備、兵力投射の支点としての台湾、南シナ海への兵力投射、インド洋及び南太平洋への投射、ラテンアメリカへの兵力投射について証言したものである。

5 Modi-Putin tete-a-tete in Sochi to mend ties

http://www.atimes.com/article/modi-putin-tete-a-tete-in-sochi-to-mend-ties/

Asia Times.com, May 19, 2018

M.K. Bhadrakumar, a career diplomat in the Indian Foreign Service for over 29 years, with postings including India's ambassador to Uzbekistan (1995-1998) and to Turkey (1998-2001)

元駐ウズベキスタン及び駐トルコインド大使であったM.K. Bhadrakumarが、習近平との武漢非公式会談の3週間後に行われたソチでのModi首相のPutin大統領との会談の分析でロシアの心の傷を癒やし、「時の試練を経て」荒廃した関係を修復したとして成功であったとする論評。

6 Island or Rock? Taiwan Defends Its Claim in South China Sea

https://www.nytimes.com/2018/05/20/world/asia/china-taiwan-island-south-sea.html?rref=collection%2Fsectioncollection%2Fasia&action=click&contentCollection=asia&region=stream&module=stream_unit&version=latest&contentPlacement=10&pgtype=sectionfront

The New York Times, May 20, 2018

Steven Lee Myers, a veteran diplomatic and national security correspondent, now based in the Beijing bureau

北京支局ベテラン特派員であるSteven Lee Myersの南沙諸島最大の太平島に関する報告。