海洋安全保障情報旬報 2018年4月1日-4月10日

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41日「フィリピンと中国による共同海洋資源開発―比専門家論評」(South China Morning Post.com, April 1, 2018

 マニラを拠点としている研究者であるRichard Heydarianは、41日付のSouth China Morning Post.comに"Could a China-Philippine joint development deal be the way forward in the South China Sea?"と題する論説を寄稿し、フィリピンと中国による沖合いの石油・ガス調査に関する合意は、係争中の航路全域におけるより大きな協力への道を開く可能性があるとして、要旨以下のように述べている。

(1)フィリピンと中国は、紛争よりもむしろ共通の利益を確保し、彼らの関係の全体的な特性を定義することを固く決意した。最近の北京訪問中、フィリピンのAlan Peter Cayetano外相は、中国との共同開発協定(JDA)の可能性を提起した。もし成功すれば、フィリピンと中国のJDAは、南シナ海海盆全域のより広い一連の協力協定のための道を開く可能性がある。

(2)危機的状況にあるのは、もし永続的ではなく、ただ解決したというだけならば、21世紀において最も困難で重大な海洋紛争の一つであるものに対する、効果的で平和的な管理である。しかし一方で、フィリピンと中国は、彼らの「ウィン・ウィン」の解決策を模索する上で、重要な法的・政治的なハードルを克服する必要がある。昨年以来、フィリピンのRodrigo Duterte大統領は、南シナ海で数十年にわたる問題の解決を促進するために、北京との資源共有協定という彼の希望を繰り返し表明している。現在、下院副議長を勤め、新しい憲法案の下で将来的に首相になる可能性があると見られる、かつて中国との関係改善を行ったGloria Macapagal Arroyo元大統領は、北京とのJDAを完全に支持している。

(3)重要なのは、フィリピンが、ベトナムとともに、南シナ海におけるJoint Maritime Seismic Undertaking(JMSU)を交渉し、署名したことである。この協定において、中国のエネルギー産業の巨人である中国海洋石油集団有限公司(CNOOC)は、主張が重複する区域における地震調査を課された。一方で、フィリピン国営石油会社エネルギー開発公社(PNOC)とペトロ・ベトナムは、データの解釈と処理を担当した。しかし、Arroyoによる中国との短命の「黄金時代」は、一連の腐敗事件によって損なわれ、それは、最終的に中国の投資とJMSUの両方を頓挫させた。しかし、今度は、Duterteと中国は、それをしっかりと行いたいと考えている。

(4)しかし、実際のJDAは、両国が、重複する権利主張の範囲内で資源を分けることによって、一見不可能な法的及び政治的ハードルを克服しなければならない。フィリピンの憲法は、フィリピンの排他的経済水域(EEZ)内において、マニラの権利主張を認めない別の主権実体との共同調査及び開発を禁じている。国連海洋法条約に基づいて制定されたハーグの常設仲裁裁判所での2016年の仲裁裁定では、中国による九段線の主張が無効になったため、マニラと北京の間で重複しているEEZと権利主張の区域がなくなった。Antonio Carpio最高裁判所長官代理は、係争中の水域におけるそのような協定を違憲として公然と反対している。彼は、それは、仲裁裁定に違反する上に、大統領に対する弾劾の根拠となる可能性もあるとすら警告した。関係が改善している二国間関係にもかかわらず、フィリピン国民と国防関係者の多くは、中国との資源共有協定に疑問を抱き続けている。

(5)この二国にとってより可能性が高い選択肢は、シェブロンとシェルが先導する海外投資者であるCamago-Malampayaプロジェクトにおけるものと類似の協定を模索することである。たとえば、マニラは、フィリピンの排他的経済水域のすぐ外側だが、北京の九段線の主張の区域内ではない場所で、エネルギー資源を調査し、開発するために、中国の企業に下請けに出すこともあり得る。そうすれば、双方は、どのような資源共有協定に関する法的障害だけでなく、主権問題も超えることができる。事実、現在、中国のCNOOCとパートナーシップを結び、そして、フィリピンのEEZの外にあり、九段線を越えて位置するパラワン島沖のカラミアン・プロジェクトにおいて資源を調査し、開発するためにCNOOCに下請けをさせるという提案がある。もう一つの選択肢は、二つの隣国が、争いが起こっているスカボロー礁及び主張が重複する他の区域に、海洋生態学的聖域を設定することである。このような信頼醸成措置は、南シナ海におけるより重大で繊細な協力的措置のために、推進力だけでなく必要とされる信頼を生み出す可能性がある。

記事参照:Could a China-Philippine joint development deal be the way forward in the South China Sea?

42日「中国による海上シルクロードに関するCSISレポート『序文』―マイケル・グリーンによる要約」(CSIS, April 2, 2018

 米シンクタンク戦略国際問題研究所(CSIS)のSenior Vice President for Asia and Japan ChairであるMichael J. Greenは、4月2日付のCSISのサイトに"China's Maritime Silk Road: Strategic and Economic Implications for the Indo-Pacific Region"と題するCSISのレポートの要約をその序文として掲載し、要旨以下のように述べている。

(1)中国は、東南アジア、オセアニア、インド洋及び東アフリカのインフラの接続性を高めるための開発戦略として、2013年に21世紀海上シルクロード(MSR)構想を発表した。 MSRは、中央アジア全域のインフラ開発に焦点を当てたシルクロード経済ベルトの海上補完物である。総合して、これらの構想は、アジア全域の中国の影響力を強化するための一帯一路(OBOR)構想を形作っている。

(2)インド・アジア・太平洋地域の途上国のニーズを満たすインフラ投資が不足しており、ほとんどの国が中国による資金調達を入札する機会を歓迎している。同時に、中国の提案の背後にある経済的実行可能性と地政学的意図についての疑問が増えている。これまでのところ、MSR構想は、主にインド太平洋地域の沿岸諸国、特に、これらの投資が、実際は、経済的なのか軍事的なのかについて疑問を投げかけており、特に港湾開発プロジェクトに集中している。これらの大規模な投資はまた、重債務被援助国のその国内外の政策に対する影響力を中国が行使する可能性について疑問をもたらすやり方で計画されている。

(3)これらのテーマのいくつかを明らかにするために、CSISは、MSRにおけるインド太平洋地域全域の中国によるインフラ整備の経済的及び地政学的示唆の詳細な分析を、7名の専門家に依頼した。彼らの研究は、このレポートで示している。この試みは、四つのインフラ事業の分析から始まる。

a. チャウピュー:Greg Polingは、ミャンマー最西部ラカイン州のベンガル湾沿岸の町であるチャウピューについて説明している。中国は最近、チャウピューに喫水の深い船舶が出入港できる港湾と、近くの特別経済区(SEZ)における工業地域を開発する契約を獲得した。チャウピューはまた、中国南西部の雲南省の首都である昆明へと走っている石油パイプラインと、それと平行した天然ガスパイプラインの終点でもある。これらのプロジェクトは、マラッカ海峡を通る石油とガスの輸入依存を減らすための北京による戦略的な取り組みを反映しており、チャウピューの港湾は、中国がその内陸の省の開発を促進するのに同様に役立つかもしれない。Polingは、現時点でミャンマー内の最も重大な懸念は、負債による資金調達を通じた中国の潜在的な経済的影響であると結論づけている。

b. ハンバントタ: Jonathan Hillmanは、スリランカにおけるハンバントタ港の中国の開発を調査し、コロンボ港での既存の能力と拡張計画を考慮して、このプロジェクトの経済的根拠に疑問を呈し、ハンバントタが中国の海軍施設になる可能性に対して懸念を高めている。Hillmanは、ハンバントタのケースでは、債務水準をより良くモニタリングするために、インフラ事業をより大規模の開発戦略と結びつける被援助国の必要性、そして、中国によるインフラ融資の代替案を広げる国際社会の必要性を明らかにしている。

c. グワダル:Gurmeet Kanwalは、より大規模な中国-パキスタン経済回廊(CPEC)構想における重要な要素として、グワダル港の発展を強調している。中国とパキスタンとの強力な二国間の絆の象徴と位置づけられているが、その労働者の安全についての中国の懸念、そして、プロジェクトの結果として生じる負債の増加についてのパキスタンにおける懸念を含め、両国はこのプロジェクトに不安を抱いているとKanwalは主張している。これは緊張を高めるかもしれない。そして、インド太平洋への出入り口としてのグワダルへの中国の潜在的な海軍のアクセスによる安全保障上の意味合いについても言及している。

d. チャーバハール:Harsh Pantは、中国は、インフラ投資を通じてグレート・ゲームを行っている唯一の国ではないと述べている。イランのチャーバハール港の開発を支援するインドの取り組みは、インフラ開発と、特にアフガニスタンとの改善された地域的な接続性の推進力としてのデリー自身の野心を反映している。チャーバハールのプロジェクトは、中国が支援するパキスタンの港であるグワダルの近くに位置し、中国が、一帯一路構想とMSRを通じて獲得し、及ぼそうとしているその影響力を制限する戦略的な駆け引きとも見なされている。

4)これら四つのインフラの事例研究の後には、中国のMSR構想の広範な経済的および軍事的影響に関する二つの論考が続く。

a. 経済的示唆:Matthew FunaioleとJonathan Hillmanは、世界で最も利用の多い10のコンテナ港が太平洋又はインド洋の海岸沿いにあること、そして、インド洋だけで、世界の石油貿易の半分が通過していることを例として挙げて、インド太平洋地域のより大きな経済的意義を表現することで、この章を始めている。中国のインフラ投資が経済的または戦略的目的(あるいはその両方)に役立つかどうかに取り組むことから始めるために、著者たちは、インフラ開発プロジェクトの経済的実行可能性を評価するための三つの基準を導入している。それは、航路との近接性、既存の港湾との近接性、そして、内陸地域との接続性又は港湾プロジェクトが内陸部のより大きな開発戦略に結びついている度合いである。

b. 軍事的示唆:Zack Cooperは、インド太平洋における中国の増大する軍事的プレゼンスは驚くべきことではないと断定している。中国経済は、特にエネルギー供給のための重要な通路としての役割を果たすインド洋を通過する貿易ルートに強く依存しており、したがって、中国政府が、これらの海上交通路に沿ってその利益を保護しようとするのは当然のことである。平時において、これらの取り組みは、おそらく海軍艦艇に燃料補給や補給を行うための港湾施設へのアクセスを通じて、そして、対海賊作戦及び他の地域の軍隊を理解するという点から、この地域の中国の影響力を確かに拡大させるであろう。しかし同時に、中国のインド洋のプレゼンスは、特に戦時において、貿易ルート、拠点及び船舶を保護するという観点から、機会と同様に多くの脆弱性を生み出す可能性が高い。それにもかかわらず、北京の政治的、経済的、軍事的影響力は、将来的に拡大する可能性が高い。

5)このシリーズは、米国、日本、インド及びオーストラリアの海洋民主主義国家が、新たに再構成された「四ヵ国間枠組み」を通じて、MSRによってもたらされた不確実性にどのように反応するかを検討することで終了する。Jesse Barker GaleとAndrew Shearerは、「四ヵ国間枠組み」の歴史を振り返る。また、彼らは、自由で開かれたインド太平洋地域を確保するための広範な戦略を調整する必要性に関して、四つの海洋民主主義国家の間で意見の合致が高まるにつれて、「四ヵ国間枠組み2.0」は、中国の戦略をより無害な方向に形作る可能性を秘めているが、 依然として十分に活用されていないし、運用されていないと主張する。

(6)全体的な結論は混在している。中国のMSRプロジェクトは、純粋に軍事的なものでも純粋に商業的なものでもない。さらに、中国の全体的なアプローチは、おそらく進化している。米国や志を同じくする国が、必要に応じてヘッジング又は抑止を行うだけでなく、北京によるより透明性が高く、経済的に実行可能なアプローチを促すように取り組み、MSRへの彼ら独自の対応を洗練させることに、この研究が役立つことが我々の望むことである。

記事参照:China's Maritime Silk Road: Strategic and Economic Implications for the Indo-Pacific Region

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43日「北極におけるロシアの新港プロジェクト―米専門家論評」Eurasia Daily Monitor, The Jamestown Foundation, April 3, 2018

 ユーラシア問題の専門家Paul Globeは、4月3日付のWeb誌、Eurasia Daily Monitorに、"Moscow Plans New Arctic Port to Bypass Baltics and Ukraine"と題する論説を寄稿し、バルト3国やウクライナの対ロ経済依存度の引き下げこそが、ロシアに対抗する鍵だと指摘した上で、要旨以下のように述べている。

(1)ロシアのMaksim Sokolov運輸大臣は、コラ半島における新たな不凍港の建設に関する声明を発表した際に、同港の建設に伴いロシアは、2020年代の早い時期にも石炭輸送にバルト諸国の港を使用せずにすむだろう、と述べた。新たな港が開港した暁には、モスクワは、バルト3国のみならずウクライナの港も使用せずに、年1,800万トンの石炭を輸出できるようになる。このような変化は、バルト3国に経済的なダメージを与えるのみならず、ロシアによる更なる圧力を招来することになるだろう(Rebaltic.ru,3月30日)。ロシアの声明は、以下の3つの疑問―

  1. モスクワは、コラ半島の新たな港をスケジュール通りに開港できるのか

  2. バルト3国とウクライナを迂回する石炭の輸送は、これら諸国の一部識者が恐れて、モスクワが期待するほどのネガティブな影響をもたらすのか

  3. バルト3国やウクライナ、その友好国は、モスクワが彼らの収入源を取り上げることに成功した場合、経済的な繁栄を謳歌するために何ができるのだろうか―

を生じさせるものである。

a. ①について:モスクワが港を完成させることは、全くありそうになく、ましてや定刻どおりに港を使用する十分な船積み能力の保有に関してはなおさらである。就中、ロシアの僻地における沿岸インフラの開発実績は、新たな港が完成したとしても、利用可能となるまでには長い時間が必要なことを示唆している。加えて、1930年代から間欠的に建設が行われてきた北極地域の鉄道線は、2020年ないしその10年後までは整備が終わらないだろう(EDM,2月13日参照)。さらに、欧米の経済制裁が早期に解除されない限り、ロシアは、新たな建造施設を必要とする石炭輸送船団を建造できないものと思われる。つまり、Sokolovの声明は、西側諸国や中国が船舶の供与を行わない限り――対ロ制裁体制と、目下のところ米国がウクライナと東欧に対する主たる石炭輸出国となる関心を抱いていることを鑑みれば、西側諸国や中国もそんなことは決して望まないだろう(Energy.gov, 2017年7月31日)――真の脅威というよりもブラフである、ということである。

b. ②について:ロシアがバルト3国とウクライナを迂回する石炭の輸送ルートを確立できた場合、これら諸国は損失を被るであろうが、その損失は各国一律ではなく、経済的・政治的に致命的なものでもない。ウククイナやエストニア、リトアニアは、モスクワが計画を成功裏に実行できても、ちょっとした経済的な損失を被るに過ぎないだろう。しかしながら、実際に通行料収入の10パーセント前後を失うラトビアは、最も大きな損失を被ることになる(Atlas.media.mit.edu,4月3日アクセス)。昨今のリガの経済的な苦境を鑑みれば、ダメージは大きいだろう。

c. ③について:バルト3国とウクライナは、多くの代替的な選択肢を有していることから、ロシアの声明を奇貨として、その内の一つないしは複数に関して行動を起こすべきである。ウクライナは、ロシアと事実上の戦争状態にあるため、ロシアの経済「援助」を当てにするわけにはいかない。その結果として、ウクライナは、貿易や経済における対ロ依存度を引き下げようと努めてきた。バルト3国も1990年代にほぼ同じことを行っているが、鉄道問題(Railwaypro.com, 2014年4月23日)でモスクワや独立国家共同体(CIS)諸国と協力を継続している。

(2)さらに重大なことに、ロシアの声明は、北はフィンランドから南はポーランド、欧州へと至る南北鉄道リンクの開発が、バルト3国の通行依存度を最小限に抑えて、その経済能力を発展させるために如何に重要かを示している。欧州連合と米国は、全体としてこれら3つの分野において支援を行うことができる。欧米が支援を実施して、実際にバルト3国やウクライナがモスクワから真の独立を成し遂げ、更なるモスクワの影響力拡大を防ぐことを助ければ、モスクワのバルト3国とウクライナを「迂回する」という新たな脅しは裏目に出ることになるだろう。

記事参照:Moscow Plans New Arctic Port to Bypass Baltics and Ukraine

43日「日米印3カ国対話、半年ぶり開催へ」(The Indian Express.com, April 3, 2018

 インド紙The Indian Express(電子版)は4月3日、日米印3カ国対話が4月第1週にニューデリーで開催されるとして、要旨以下のように報じた。

 日米印3カ国対話が4月4日にニューデリーで開催される。4月17~18日のフロリダでの日米首脳会談に先立って行われるこの3カ国対話に、米国は、代表団の共同代表として、国務省から2人の高官、Alice Wells国務次官補第1代理(南・中央アジア問題担当)とSusan Thornton国務次官補代行(東アジア・太平洋問題担当)を派遣する。この3カ国対話は2011年12月に始めて開催されたが、当初の数回は次官補・局長レベルの会合であった。閣僚級レベルに格上げされたのは2015年で、国連総会の会期に合わせてニューヨークで開催された。前回の会議は、2017年9月にニューヨークで開催された。

記事参照:India-Japan-US trilateral in New Delhi ahead of Trump-Abe summit

44日「台頭が一様でないアジアの武器供給国―IISS専門家論評」(Military Balance Blog, April 4, 2018

 英国のシンクタンク国際戦略研究所(IISS)の研究員であるLucie Beraud-Sudreauは、4月4日付のIISSのMilitary Balance Blogに"Asian arms suppliers: the uneven rise"と題する論説を寄稿し、日本を含むアジアの武器輸出国の現状について、要旨以下のように述べている。

(1)2018年1月下旬に、オーストラリア国防省は、2028年までに世界のトップ10の武器輸出国にこの国を押し上げることを意図した「防衛輸出戦略」を発表した。世界の武器輸出国のトップテンに上ることは野心的な目標であり、オーストラリアがこの期間内にそれを達成することができる可能性は低い。

(2)実際、今日の大手武器供給国は、大規模な防衛技術・産業基盤(DTIBs)と同様に大きな国内市場に依存している。これは、世界最大の武器輸出国である中国、ロシア及び米国の場合である。フランスやイタリアのような西欧諸国の二番手の武器輸出国は、彼らとしては、とりわけ、長年にわたる研究開発を含む多額の投資によって可能になった数十年にわたる現地のDTIBの開発と維持に頼っている。

(3)新たなオーストラリアの輸出戦略は、各国が国内の武器産業を発展させ、次第にグローバルな武器市場に参入しているアジアにおいて、ますます明白な傾向を反映している。その一端として、中国と日本は、武器移転を通じて地域の影響力を獲得するために競争し始めており、2014年に日本の武器輸出に関する自主規制が緩和されてから加速する過程である。しかし、世界や地域の武器貿易に自分の地位を築き上げるための東京の苦労は、キャンベラに対する警告であるべきである。

a. 中国はマレーシアで建造される沿岸任務艦を供給することで合意したが、日本が退役したロッキード・マーティンのP-3オライオン洋上哨戒機を提供した(抄訳者注:現時点で提供はされていない)マレーシアでは、中国と日本の競争が見られる。その一方で、中国はフィリピンに3000丁のアサルトライフルを寄贈し、日本は、中古のビーチクラフトTC-90キングエア航空機と海上保安庁の船舶を既に供給しているほか、フィリピンのベルUH-1多用途ヘリコプターに部品を提供することに合意した。

b. タイでは、中国は長年にわたり、多連装ロケットシステムに関してその防衛技術研究所と協力してきた。さらに最近では、バンコクは28両のVT-4主力戦車を中国に発注し、2017年10月に第一陣が納入された。同年5月に中国には攻撃型潜水艦を発注した。しかし、日本は、タイとの防衛装備品移転と技術協定の交渉段階にあるだけである。

c. ベトナムでは、中国の影響力と競合していないが、日本は、2014年には6隻の中古の巡視船を提供し、2017年初めには6隻を追加した。また、東京は、2017年から2019年にわたり、ベトナムとフィリピンを含む東南アジア諸国に5億米ドルの海洋安全保障援助を約束した。さらに南方では、日本は、特に、US-2救難飛行艇の売却の可能性によって、インドネシア及びインドとの関係を強化することを目指している。しかし、中国は地域における武器輸出に関して日本よりも大幅に先行している。

(4)この発展中の日中の競争以外に、他のアジアの武器輸出国が、世界的および地域的な武器市場で台頭している。これは、2017年の武器輸出額が32億ドルで、2016年の売上高から25%増加した韓国の場合に顕著である。インドネシアは、武器輸出政策の発展の初期段階に依然としてあるが、地域間および地域を越えた武器販売の拡大を目指している。これらの例は、ある国の政治的リーダーシップが防衛産業の優先順位を決めれば、大きな成果を達成することができることを示している。しかし、最近の日本による世界の武器貿易へ進出するという試みは、技術的に進んだDTIBだけでは不十分であることを示している。

記事参照:Asian arms suppliers: the uneven rise

45日「インド海軍、アジア太平洋にも積極的な展開が必要―インド専門家論評」(Observer Research Foundation, April 5, 2018

 インドのシンクタンクObserver Research Foundation(ORP)上席研究員Abhijit Singh(インド海軍退役将校)は、ORPのサイトに4月5日付で、"India's 'mission ready' naval posture in the Indian Ocean isn't sustainable"と題する論説を寄稿し、中国海軍のインド洋展開に対抗するために、インド海軍はアジア太平洋に積極的な展開を維持すべきとして、要旨以下のように述べている。

(1)インド海軍高官は、インド洋の全てのチョークポイントを常時監視態勢に置く、「任務即応展開」("mission-ready deployments")計画に言及して、「我々はインド洋全域をカバーできるようになった」と語った。インド海軍が艦隊の任務態勢を見直してから10カ月後に、計画が実行に移されたようだ。最近の報告によれば、最新の駆逐艦、フリゲート、コルベット及び大型哨戒艦を含む、全部で15隻の戦闘艦が、インドのEEZ以遠のインド周辺の7つの海域を哨戒し、インド洋に出入りする全てのルートを常時監視している。これらの海域には、ペルシャ湾とアデン湾からマラッカ海峡とスンダ海峡までの、重要な海上交通路(SLOC)とインド洋のチョークポイントが含まれる。インド海軍の誇らしげな主張によれば、哨戒任務の戦闘艦は「365日24時間態勢」で任務を遂行しており、毎日出動のPoseidon P-8I 洋上哨戒機と海軍の人工衛星 Rukmini (GSAT -7)によって支援されている。

(2)インド海軍の運用計画立案者は、インド海軍戦闘艦や哨戒機での積極的な哨戒活動は、パートナー諸国海軍との定期的な合同演習と相まって、中国海軍艦艇と潜水艦によるインド近海への頻繁な侵入を抑止することになろう、と期待している。彼ら立案者は、インド海軍とパートナー諸国海軍の活発な哨戒活動が中国海軍のインド洋沿岸域への侵入を拒否することになろう、と確信しているようである。しかしながら、インドの海軍力が中国海軍艦艇や潜水艦のインド近海へのアクセスを阻止できるという考えは、本質的に欠陥がある。

a.まず、この計画は、海軍の戦闘アセットと訓練された要員を確実に疲弊させる。それだけではなく、洋上における事故や不慮の遭遇事案が増えるであろう。

b.その上、チョークポイントに対する「常続監視」という考えは、重大な誤解を招く。通商国家は、海洋を全ての利用国が機会均等の権利を有するグローバルな公共財と見なしている。(南シナ海のように)管轄権の主張が重複する海域や、あるいは(ペルシャ湾のように)地政学的な係争海域における係争地でない限り、戦時を例外として、これまで如何なる沿岸国も、他国による公海の利用を公然と拒否しようとはしていない。平時に行動中の海上部隊は、例え沿岸国が事前通報を求めているとしても、当該沿岸国の領海を通航することを認められている。

(3)インド洋におけるインドの対中海洋戦力の態勢は、北京のインフラ建設と投資が域内諸国によって歓迎されてきた南アジアでは、多くの支援を得られそうにもない。インド洋沿岸域の多くの国は、中国の「一帯一路構想」(BRI)を公然と受け入れてきた。ニューデリーにとって理想的な方向は、政治的成果を得るためにアジア太平洋において海軍活動を梃子にすることによって、北京の海洋における遣り口を手本とすることであろう。近年、中国海軍は、インド近海における常続的な海軍力のプレゼンスを通して、インド洋における影響力の投射に努めてきた。中国海軍は、インド洋をインドの裏庭として受け入れることを拒否することで、インドの地政学的影響圏に侵出してきた。従って、インドの対応は、長年中国の勢力圏下にあると見られてきた、南シナ海における対抗的な戦力投射戦略によるものでなければならない。そのプロセスは、最近のインドの東方へ海軍戦力の頻繁な展開に見られるように、既に進行中であるといえる。インドのSitharaman 国防相は、2017年の海軍司令官会同で、インドの海軍の「高い運用テンポ」を通じて、インド太平洋海域を跨ぐ海洋プレゼンスが生み出されていることを認めた。実際、ニューデリーの「アクト・イースト」に基づく海軍力の進出は、2017年に2隻の駆逐艦、INS Satpura とINS Kadmatt が3カ月間にわたって東アジアと東南アジアに展開したことからも明白である。2018年初めにニューデリーを訪問した、ASEAN加盟10カ国首脳は、特に南シナ海におけるインドの積極的な役割に対して期待感を表明した。しかしながら、懸念されるのは、太平洋におけるインド海軍の展開が、積極的な海軍戦力投射戦略との強い連携を誇示していないことである。南アジアにおける(益々対潜作戦を重視した)インド海軍の積極的な運用態勢とは異なり、東南アジアに対するインド海軍の派遣は、運用目的を友好、警備目的に自制してきた。東南アジア諸国とのインド海軍の相互交流は、他のインド太平洋の大国との合同海軍演習に比較して、非常に低いレベルに留まっている。

(4)とはいえ、西太平洋におけるインド海軍力のプレゼンスは、インド洋における中国海軍の展開がインドの戦略的な選択肢を規制している以上に、北京にとって厄介な問題となっている。中国は、南シナ海におけるその政治的、領土的野心のために、非友好的な国による海軍力の進出に対して極めて敏感であり、従って、東南アジアにおけるインド海軍の活動はインドのアナリスト達の期待以上に効果的であろう。

記事参照:India's 'mission ready' naval posture in the Indian Ocean isn't sustainable

46日「米中の空母、南シナ海へ」Asia Times, April 6, 2018

 4月6日デジタル新聞Asia Timesは、' China's Liaoning dovish as USS Theodore Roosevelt sails in'と題する記事を掲載し、「遼寧」の行動について、ほぼ同時期に南シナ海に入った米空母への対応を視野にその狙いを要旨以下のように報じている。

(1)中国唯一の現役空母「遼寧」は現在、6日間の訓練のため南シナ海にある。

 ロイター通信によれば、遼寧打撃群は衛星画像に見られるように40隻の他の艦艇、潜水艦を両側に置いて海南省近傍の海域を航行した。北京が艦隊間の相互運用性を磨くために異なる海軍区の各種艦艇が「遼寧」と行動することを望んでいるので、専門家は、これらが人民解放軍海軍の主要な3個艦隊から派出された艦艇と考えている。

(2)また、中国の空母は領有権をめぐって係争中の海域でその能力を誇示する意図はないようである。この演習は、就役以来明らかになった多くの欠点、欠陥を解決するためのものであると中国メディアは報じている。環球時報はまた、真の外洋海軍の力量を達成するため人民解放軍の海上部隊はしなければならないことが多くあると報じている。1つの側面は、公海におけるより多くの任務行動に対処するため各種艦艇を結集し空母を中軸とする戦闘形式へ発展させることである。

 米空母Theodore Rooseveltが予定された親善訪問と乗組員の休養のため今週にシンガポールに入港し、南シナ海の中心部へ向かう途中で同盟国の艦艇と合同した時、北京は穏健な論調を採用した。 

(米中空母間の)能力の明らかな差を考えると、南シナ海における米中空母の直接対決はほとんど考えられない。

 人民解放軍の将軍や水兵達が急速に学んでいるとはいえ、中国海軍が洋上を行動する近代的な打撃群を指揮した経験がないこと、「遼寧」は設計、再艤装に起因する欠陥を有する訓練用空母であることから、象徴的な抑止力と言うよりは、むしろ「大きな玩具」に近いというのが、意見が一致するところのようである。

 しかしながら、木曜日(4月5日)の「解放軍報」の異なる報告は、最近の訓練は「新しい航海及び通信システムと新型艦載機」の試験を意味するとしている。しかし、詳細は報じられていない。

記事参照:China's Liaoning dovish as USS Theodore Roosevelt sails in

4月6日「南シナ海における開発の戦略的意義-インド専門家論評」(China US Focus.com, April 6, 2018

 インド・ニューデリーの政策研究センター戦略論教授のBrahma Chellaneyは、4月8日付で香港のNGO、China US Focus.comのサイトに"Strategic Implications of Developments in the South China Sea"と題する論評を寄稿し、南シナ海においては新たな戦略的均衡を構築することが重要であるとして、要旨以下のように述べている。

(1)インド太平洋地域の安全保障環境がどれほど急激に変化しているかは、中国が南シナ海における人工島建設により国境線を国際水域へと押し広げ始めたのがわずか5年前であったことからも明らかである。今日では、新たに埋め立てられた拠点の軍事化のみならず、何ら国際的コストを負担することなく、世界に向けて既成事実が発信されている。

 南シナ海における開発はインド太平洋地域及び国際的な海洋秩序に広範な戦略的影響を及ぼす。このことはまた、海洋の平和と安全に対する最大の脅威は、国際的な規範や制度に反して領土や海域の現状変更を図ろうとする単独行動主義であることを如実に示している。

 最近、米空母Carl Vinsonがベトナムのダナンに寄港した際は、これが1975年の米軍撤退以来、初めての大規模部隊のベトナム訪問であったことから国際的な注目を集めた。しかし、この象徴的な寄港をもってしても、米国が中国の人口島建設計画に対し一貫した戦略を持っていなかった事実を曖昧にすることは出来ない。

 中国による人工島の軍事化はBarack Obama政権期であったが、後継者のDonald Trumpは北朝鮮と貿易問題に焦点を当てており、南シナ海問題は彼のレーダーには映っていない。その結果、中国は外交的、経済的、軍事的な影響力の拡大をもってして、徐々に地域におけるその意思の強要を始めている。例えば、USS Carl Vinsonの寄港直後、中国はベトナムに南シナ海の大規模石油掘削プロジェクトを中断するよう強要した。ベトナムの南東岸沖で展開されていたこのプロジェクトはスペインのエネルギー会社Repsolが主導し、既にパートナーとともに約2億ドルが投資されていた。

(2)中国の人工島造成に対応し、米国は当該人工島の周辺海域で軍艦を航行させる「航行の自由作戦」(FONOPs)を繰り返し実施してきた。しかし、こうしたオペレーションも南シナ海における米国の首尾一貫した戦略の欠如を補うものではなく、中国を抑止するものでも米国の地域における同盟を再保証するものでもない。結局、「航行の自由作戦」は中国の人工島建設戦略によって引き起こされた地域的な急激な変化には対応出来ていない。

 中国政府は新たに埋め立てられた島々に最新の武器を配備するなど、南シナ海の支配を強化している。そしてそれにより推定埋蔵量190兆立方フィートの天然ガスと110億バレルの原油などの資源の事実上の管理権を得ることとなる。中国は、南シナ海を思い通りにすれば今度はインド洋と西太平洋に注目するだろうと何人かの専門家が指摘してきたが、これはまさに今起こっていることなのである。

 こうした開発行為は本質的に南シナ海における中国の対価を払わない現状変更であり、他のアジア諸国、特に日本、フィリピンからベトナム、インドへ至る地域諸国が対価を払うということを意味している。中国の常習的な不法行為に直面している諸国は、特に中国政府がその意思を明らかにしたような場合には難しい選択を強いられてきた。日本は過去10年間の防衛費削減傾向を逆転させ、またインドは中断していた海軍近代化の構想を復活させたが、より小さな国は中国に反論すらできない。その代わり、例えばフィリピンは南シナ海における中国との共同石油・ガス探査を提案しているのである。

(3)南シナ海における中国の人工島造成は、これまでどおり米国を困惑させつつ継続している。中国は現在、その設計者が「魔法の島造成機」と命名した超大型浚渫船を使用しており、アジア海洋透明性イニシアティヴ(AMTI)によれば、中国はそのフリーパスの使用によって昨年1年間だけで29万平方メートルの新たな埋立地を造成し恒久施設を建設したとされている。中国の拡大しつつある人工島は、今やインド洋と西太平洋まで効力を及ぼす言わば天然の航空母艦のような軍事基地としての役割を兼ねている。このような背景から、インド太平洋において急激に変化しつつある海洋力学は大きな戦略的不確実性を生み出し、地政学的なリスクを増大させている。今日、この地域の国際秩序の基本的な選択枝は、ルールベースの自由主義か、狭量な覇権主義か、ということなのである。  

 昨年12月公表の米国国家安全保障戦略報告書が指摘するように、「国際秩序における自由主義的なビジョンと抑圧主義的なビジョンの地政学的な競争関係がインド 太平洋地域で生起しつつある。」ということである。非民主的で覇権主義的な国際秩序を望む者は少ない。しかしこれは、域内諸国が協調しなければ、まさにインド太平洋地域が直面する問題である。

(4)中国以外の域内主要諸国間ではルールベースの開かれたインド太平洋を目指すというコンセンサスがある。国際規範の順守は平和と安定の基本であるが、この地域の安定と力の均衡を進展させる広範な協力体制の構築は、暫定的であり遅々として進まなかった。

 例えば、日米豪印によるQuad(4ケ国協調体制)もまだ離陸はしていない。この点で英仏を含むQuadプラス2の考え方も現段階では野心的に過ぎるように思われる。もちろんQuadが具体的な形になれば、インド太平洋地域に重要な海軍力アセットを有する英仏が参加することは可能である。最近のEmmanuel Macron仏大統領のニューデリー訪問に際し、印仏両国はそれぞれの海軍施設への相互アクセスに合意した。これは米印間の兵站相互支援合意(LEMOA)と同様の意味を持つものである。

(5)Quadの構成国が統一的な地域戦略を策定し、域外主要諸国とも幅広い協調関係を構築するようなアプローチを取らなければ、インド太平洋地域の安全保障には大きなストレスがかかる可能性がある。こうした状況下で、もし6億人の人口を擁する東南アジア地域が中国の覇権に組み入れられることを強要されるような事態になれば、それはインド太平洋地域を越えて連鎖的な地政学的影響を生ずるだろう。したがって、戦略的な協力関係にある民主主義国家間の枠組みはインド太平洋における力の安定にとって極めて重要であり、南シナ海においても新たな戦略的均衡を構築することが重要である

記事参照:https://www.chinausfocus.com/peace-security/strategic-implications-of-developments-in-the-south-china-sea

47日「中国による静かな戦争遂行能力の増強」(South China Morning Post, 07 April, 2018

 シンガポール南洋工科大学RSIS国際研究学院のKoh Swee Lean Collin研究員は、4月7日付のSouth China Morning Post紙に"How China is quietly increasing its ability to wage war at sea"との記事を投稿、要旨以下の通り述べている。

(1)中国人民解放軍海軍は3月に西太平洋にまで進出しての海空および水陸両用強襲部隊による各種演習を成功裏に実施した。特筆すべきは40隻から成る部隊に空母「遼寧」が含まれていたことである。写真で見るところ、空母「遼寧」の背後に小型の戦闘艦と潜水艦それに3機編隊の2個航空部隊が随伴していた。今回の演習について、プロパガンダ以外の何物でもないと見る者がいる一方で、人民解放軍海軍の平時における臨戦態勢が強化されてきていると警戒する見方がある。通常、例えば昨年7月のマラバール演習での3隻の米海軍空母とインド海軍それに海上自衛隊の艦艇の上空に戦闘機編隊が飛行する写真など、広報用の写真はよく見かける。しかし、中国が写真を撮るためだけに高額の燃料を消費してまで多くの艦船をはるばる展開させたのであろうか?

(2)中国については、海警や海上民兵の活動に目が行きがちであるが、人民解放軍海軍もまた漸次その戦闘能力を増強させている。特に目新しい革新的な兵器を備えたものはないが、人民解放軍海軍は間断なく新しい艦艇の整備を続けている。過去2年間を見ただけでも、40隻以上の新造艦が進水あるいは就役している。しかし、その戦闘能力は新式のハードウエア―に頼ったものではない。人民解放軍海軍が、戦闘能力は訓練によって高まる即応態勢によって育まれるものであると考えていることは明らかである。新造艦は、古い艦艇に比べると整備に要する時間を考えただけでも即応態勢を高めることは確かである。人民解放軍海軍は新造艦による訓練に多くの時間を費やしており、兵器システムの強点と弱点とを十分に把握している。人民解放軍海軍は、在来艦の修理が追い着かない状況の中で新造艦の建造を進めている。問題となるのは艦隊間の相互運用性であろう。人民解放軍はこれまで、南海、東海そして北海艦隊がそれぞれ別個に訓練してきた。それが近年は各艦隊合同しての大規模な演習が実施されるようになり、そのような中で、各艦隊の連携は新造艦の相互運用性によって確保されている。人民解放軍海軍は海警や海上民兵との相互運用性も求め続けている。

(3)このような動向は南シナ海と東南アジアの平和と安定に2つの意味をもたらす可能性がある。1つは、能力を増強した人民解放軍海軍が地域の防衛や外交面で貢献を果たすことであり、もう1つは、自信過剰による更なる強硬姿勢を示すツールとなることである。海軍というものは、外交面における柔軟な対応に貢献することのできるツールでもある。いずれにせよ、人民解放軍海軍の増強を無視し行動の方向性を見誤ることがあってはならない。

記事参照:"How China is quietly increasing its ability to wage war at sea"

4月7日「米政府、台湾潜水艦国産計画への米企業参加を許可」(Focus Taiwan, April 7, 2018

 台湾の中央通訊社が運営するニュースサイトFocus Taiwanは4月7日付の記事で、米国は台湾潜水艦国産計画への米企業の参加を許可したとして、要旨以下のように報じている。

(1)4月7日、国防部スポークスマンの陳中吉はインタビューの中で、米国務省が同国企業による台湾の潜水艦国産建造に資する技術売却に必要なマーケティングライセンスを承認したと発表した。その後、総統府報道官の林鶴明も、米国務省から駐米代表処に国産潜水艦建造技術の提供を承認する通知があったと発表し、この決定は台湾の防衛力を強化するとともに地域の安全、安定に資するものとなるだろうと述べた。

(2)総統府と国防部は、台湾関係法と「六つの保証」に係る米国のコミットメントに謝意を表し、国防部は「この措置によって台湾は更に軍事的に自立することになるだろう。」と付言した。

記事参照:http://focustaiwan.tw/news/aipl/201804070011.aspx

48日「北極圏利用の諸課題と中国の動向―米専門家論評」USNI News, April 8, 2018

 米紙Navy Times元編集長のJohn Gradyは、4月8日付の米紙、USNI News (電子版)に、"Panel: China Making Aggressive Moves in the Arctic"と題する論説を寄稿し、中国の北極圏を巡る動きに関する、米フォーラムにおける3人の専門家の発言を紹介しながら、要旨以下のように述べている。

(1)北京は、経済的・政治的な影響力を「一帯一路構想」を通じて、アジアからアフリカそして今やカリブ海までに拡大させている。米Army-Navy Clubと米シンクタンクCenter for International Maritime Securityが主催した特別フォーラムで講演した、米沿岸警備隊長官顧問団のKatie Burkhartは、「一連の動きには、アフリカの角に位置するジブチにおける中国初の海外基地設置や、将来的には北極圏が含まれることになる」と述べた。

(2)中国は、北極評議会のメンバー国に指名されるべく働きかけを行ってきたが、メンバー国は、北極圏と隣接する諸国に限定されている。そのため、北京は、北極評議会のオブザーバー資格を有するに止まっている。米国防産業協会のHeather Havensは、「中国は、ロシアと共同で液化天然ガスを、北極の海域を通る北極海航路で輸出すると同時に、国際的な科学的調査に門戸を開いているノルウェー領スヴァールバル諸島において、極北の海洋学的な状況のモニタリングを強化してきた」と発言した。これに関連してBurkhartは、中国が「初の国産砕氷船である『雪龍2号』の建造を終えたばかりである」とコメントした。

(3)北極圏が、中国や北極圏に隣接する諸国にとって一層魅力的となった理由は、海氷の減少である、とHavensは指摘する。その結果として、すぐさま何が起こるかというと、狩猟や漁業様式の大きな変化である。Burkhartは、「狩猟や漁業の時期が早まる上に、終期が遅くなる」と指摘した上で、沿岸警備隊に総合的な北極戦略を改訂するよう促した。

(4)エネルギー価格が相当低い水準に止まったとしても、石油・天然ガス探査や鉱物採掘の将来的な関心は高くあり続ける。そうした中で中国は、グリーンランドの鉱物採掘の契約を締結している。

(5)国連海洋法条約で認められた排他的経済水域は、中国の東シナ海や南シナ海に対する領有権の主張が、太平洋地域の国家間関係を混沌とさせてきたのと同様に、誰が・どこで・何を・できるかを巡る国際的な緊張を生む可能性をもたらしている。新アメリカ安全保障センターのJerry Hendrix退役米海軍大佐は、ロシアが北極海の海底に国旗を立てたことを「法外な主張」の典型例であると指摘した。

(6)3人の専門家はいずれも、米国とカナダが北極圏における国際水域の構成や領海の範囲を巡って未解決の問題を抱えていると言及した。これに関してHendrixは、米加間に横たわる未解決の問題は、特に南シナ海における中国との兼ね合いもあるため、「外交官は(徹頭徹尾)慎重になっている」と述べた。

(7)北極圏は、少なくとも年数週間は北西航路を通じて航行可能となるため、米クルーズ業界に利益をもたらす。Burkhartは、「これら一連の人的な活動は、クルーズ船やオイルリグが突発事故に遭った場合、どの程度効果的な捜索救難活動ができるのかといったことや、原油の海洋流出に伴う浄化作業を、3フィート級の荒波が日常茶飯事である海域や、大量の原油が海岸線にしみ込んだ島々において、いかに実施するのかといった問題を提議するものである」と指摘している。

(8)Trump政権が沿岸警備隊の新型極地砕氷船の先進設計作業の継続に、7億5,000万ドルの予算を付けたとはいえ、米国は、新造フリゲート艦の一部が北極での任務に耐え得る耐氷性能を有していることを除いて、極北における具体的な海上プレゼンスを欠いている。さらにBurkhartは、縮小する海氷が潜水艦を守る海上の盾を消滅させている上に、北極海域が全体的に浅いことから、潜水艦の隠密性が損なわれて脆弱性が増している、と述べている。

(9)Burkhartが指摘するように、現状では、3つの主要な北極圏航路は、国際ビジネスで求められる「ジャスト・イン・タイムの要求に適さない」ものである。その理由として、彼女は、これらの航路が年に数週間のみ利用できるものである上に、大型コンテナ船の喫水は深いものである点を指摘した。

記事参照:Panel: China Making Aggressive Moves in the Arctic

49日「緊張高まる台湾海峡」(The Washington Post.com, April 9, 2018

 ワシントンポスト紙は4月9日付のWeb版に"Tensions rise over Taiwan Strait as U.S. and China harden positions"と題する記事を掲載し、米国の台湾旅行法に絡む台湾の思惑を要旨以下のように報じている。

(1)Trump大統領は中国との貿易をめぐって争っており、ワシントンにおけるムードは北京に向かっている。その結果、台湾は結局苦しんでしまうのではないかおそれが広がっている。

 与党民進党の議員は「2頭の象が踊っているときは、踏みつぶされないよう気をつけなければならない。今日、互いに叫び合っていても、明日には握手しているかもしれない。我々はバーゲニング・チップにならないようにしなければならない。」と言う。

(2)米中の貿易戦争は輸出指向型の台湾経済に深刻な損害を与えるだろう。しかし、国際政治の構造プレートもまた、台湾を通じて衝撃波を送るように動いている。

 蔡英文が総統に選出されて以来、北京は台湾を国際的に孤立させるよう運動を強化してきた。現在、表だった紛争は無いままである。しかし、狭い台湾海峡はアジアで最も危険な潜在的フラッシュ・ポイントに再びなってきている。

(3)先月、Trump大統領は台湾旅行法に署名した。同法は、全てのレベルの政府関係者を台湾に送り、台湾当局の高官がワシントンで相応する人を訪ねることを許可することは米国の政策であると宣言している。Trump大統領が台湾旅行法に署名後、中国政府は両国関係の基礎を著しく損なうおそれがあるとして「厳しく」異議を申し立てた。

 環球時報は本土を訪問する米政府の当局者で台北を訪問した者を要注意人物として一覧表に載せ、台湾海峡での「軍事的直接衝突」に備えをすることで反撃すべきだと提言した。

 「北京が南シナ海において折れて出ることを拒否するならば、沖縄の海兵隊の一部を台湾に再展開したり、完全な外交上の承認を台湾に与えたりするなど、ワシントンは中国に対して「台湾カード」を切るべきである」とJohn Boltonは言う。

 シートンホール大学法律学院教授で、最近台湾で仕事をしていたMargaret Lewisは「台湾は米国の強力な支援を必要としている。しかし、これが敵対的な方向に向かうことのないよう慎重にすべきである。特に米政府の関心が急にそちらに向けられてしまうフラッシュ・ポイントが世界中に多くあり、懸念は米国が台湾に対し遠慮のない態度を取り、急にその傾向を弱めるかもしれないことであり、それは台湾を一層脆弱な立場に取り残すことになるかもしれない」と言う。

(4)Trump大統領もまた、予測できない人物である。蔡英文総統と先月電話会談し、14億ドルの武器売却を承認したが、北京とのより広範な戦いでは潜在的なバーゲニング・チップとして台湾について語っている。彼は習近平と仲良くすることと貿易について北京を攻撃することの間で急激に方針を変えてきた。

 習近平は、中国共産党が政権を取ってから100周年になる2049年までに「中国の偉大な復興」を達成するための中国共産党の目的の重要な部分として「本土への平和的再統一」を推進すると厳粛、かつ正式に約束している

 しかし、中国はそれ以前にこの問題を強引に推し進めようとするだろうか?

 国家主席の任期が撤廃されたことで、専門家は習近平がその遺産の一部として「再統一」をできるだけ平和的に考えていると見ている。

 Ian Eastonは、「台湾は、幾分かは近づきがたい島の地理的条件もあって、可能性のある侵略を防ぐ強い立場に留まっている。しかし、この結論はいつまでも続かないかもしれない。特に台湾の国防支出の成長が止まっている間に、中国の国防支出が年8パーセント伸びているからである。」。

 「中国の軍の近代化の目的は何か?彼らの第1の戦争シナリオは、1993年以来の彼らの戦略指針である台湾への侵攻と占拠である。台湾人は危機意識を持っておらず、平和が当然のこととしている」とIan Eastonは言う。

 台湾政府は、ワシントンからの強力で安定した支援を望んでいる。これにはより多くの訪問、より定期的な武器売却、国際機関から排除されることを防ぐより堅固な後押し、そして究極的には米国との自由貿易協定が含まれる。中国の武力攻撃を招くようなワシントンの動きをここ台湾では誰も望んでいない。

 Trump大統領も習近平も台湾をめぐる紛争を望んでいない。両者とも対応しなければならないより喫緊の問題、とりわけ北朝鮮の核兵器の問題を抱えている。しかし、両首脳ともイエスマンに囲まれていれば、誤算の危険は高まる。

 「習近平はますます独裁者になってきており、彼に挑戦する者はいない。そして、全てのことについて反対の意見を彼が得ることは非常に困難だろう。ある日、将軍達に『台湾侵攻の準備はいいかね』と質問すれば、将軍達は『イエス』と言うだろう。誰があえて『ノー』と言うだろうか。」とIan Eastonは言う。

記事参照:Tensions rise over Taiwan Strait as U.S. and China harden positions

410日「南沙諸島に電子妨害施設」(The Diplomat, April 10, 2018

 The Diplomatの編集長Ankit Panda は、4月10日付のWeb誌The Dipomatに' South China Sea: China Deploys Jamming Equipment'と題する記事を寄稿し、今回の中国の電子妨害装置は単体では大きな影響はないものの、他の装備と統合されたとき中国に大きな利益をもたらすとして、要旨以下のように述べている。

(1)米軍当局者によれば、中国は南シナ海のフェアリー・クロス礁に通信妨害及びレーダー妨害の装備を設置した。装備の設置は南シナ海における中国軍にとって重要な能力の向上を表すものである。フェアリー・クロス礁は、南沙諸島における中国の7つの人口島の1つである。

 他の情報形式あるいは画像方式単体によって米国の評価が裏付けられるかどうかは明らかではない。民間画像の解析は装備の本質を最終的に立証するには不十分である。しかし、米軍は設置されると考えられている装備の種類を示す一部を拡大した画像を加えていた。

(2)南沙諸島への電子戦装備の設置は、南シナ海における中国の行動の傾向と一致しているだろう。中国はゆっくりと着実にOTHレーダー基地から近接火器システムや将来の戦闘機の配備に備えた格納庫まで全てのものを加え7つの人口島を軍事化してきている。2014年から2016年後半にかけて、中国は潜在的な軍事的用途についてある程度もっともらしい否認をしつつ軍民共用の基幹設備をこれらの人口島に整備してきた。しかし、2016年後半以降、北京は軍用目的のみの装備を展開してきており、新しい妨害装置はこの流れに沿うものである。

 電子戦装備は将来の中国と南シナ海で権利を主張する他の国や米国との紛争において重要な役割を果たすだろう。フェアリー・クロス礁の施設単独では中国に決定的な優位をもたらさないが、複数のそのような施設の集合体は北京にとってこれら施設の利益を増幅させるだろう。

記事参照:South China Sea: China Deploys Jamming Equipment

【補遺】

旬報で抄訳紹介しなかった主な論調、シンクタンク報告書

1 Security Implications of China's Military Presence in the Indian Ocean(CSIS Briefs)

https://www.csis.org/analysis/security-implications-chinas-military-presence-indian-ocean

米国戦略国際問題研究所Zack Cooper研究員によるインド洋における中国の軍事プレゼンスの安全保障上のインプリケーションに係るレポート

2 The Quadrilateral Security Dialogue and the Maritime Silk Road Initiative(CSIS Briefs)

https://www.csis.org/analysis/quadrilateral-security-dialogue-and-maritime-silk-road-initiative

米国戦略国際問題研究所Andrew Shearerアジア太平洋担当上級顧問、Jesse Barker Gale研究員による日米豪印の四か国協調と中国の海上シルクロード構想に係るレポート

3 Stronger together: Safeguarding Australia's security interests through closer Pacific ties

(Lowy Institute)

https://www.lowyinstitute.org/publications/stronger-together-safeguarding-australia-s-security-interests-through-closer-pacific-0

オーストラリアLowy研究所Greg Colton研究員によるオーストラリアと太平洋島嶼諸国との安全保障上の関係強化を訴えるレポート

4 China Welcomes Its Newest Armed Force: The Coast Guard(War on theRocks.com)

https://warontherocks.com/2018/04/china-welcomes-its-newest-armed-force-the-coast-guard/

米国RAND研究所のRyle J. Morris上級政策アナリストによる中国海警の「軍事化」に係るレポート

5 Blinding the Enemy: How the PRC Prepares for Radar Countermeasures(Jamestown Foundation China Brief)

https://jamestown.org/program/blinding-the-enemy-how-the-prc-prepares-for-radar-countermeasures/

シンガポールのS.ラジャラトナム国際関係学院(RSIS)Zi Yang上席アナリストによる中国軍の電子戦能力の現状に係るレポート

6 The Coast Guard Needs Six New Icebreakers to Protect U.S. Interests in the Arctic and Antarctic

(Issue Brief, The Heritage Foundation, April 9, 2018)

https://www.heritage.org/sites/default/files/2018-04/IB4834_0.pdf

米ヘリテージ財団James Di Pane研究助手による米沿岸警備隊の北極圏警備のための砕氷型巡視船の必要性を訴えるレポート

7 The Nautical Dimension of India's "Act East" Policy(RSIS)

http://www.rsis.edu.sg/rsis-publication/idss/the-nautical-dimension-of-indias-act-east-policy/?utm

インドのオブザーバー研究財団Abhijit Singh海洋政策研究主任による「アクト・イースト」政策に係るレポート

8 On the ground in Vanuatu, monuments to China's growing influence are everywhere(The Sydney Morning Herald)

https://www.smh.com.au/politics/federal/on-the-ground-in-vanuatu-monuments-to-china-s-growing-influence-are-everywhere-20180410-p4z8t0.html

中国のバヌアツ進出に係るオーストラリア、シドニーモーニングヘラルドの解説記事