海洋安全保障情報旬報 2018年1月1日-1月31日

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11日「中国、『海上シルクロード』に水中監視ネットワークを設置へ」(South China Morning Post.com, January 1, 2018

 香港紙South China Morning Post(電子版)は、11日付の記事で、中国軍が水中監視ネットワークを「海上シルクロード」に展開することを計画しているとして、要旨以下のように報じている。

1)新たな水中監視ネットワークは、朝鮮半島からアフリカ東岸に至る「海上シルクロード」における国益を守るとともに、中国潜水艦の目標探知能力向上に役立つことが期待されている。この既に稼働しているシステムは、海洋環境情報、特に海水温度や塩分濃度などの収集によって、中国海軍潜水艦の航法、測位能力の向上のみならず目標艦船のより正確な追尾も可能とする。このプロジェクトは中国科学院傘下の南海海洋研究所によって推進されており、全世界の海洋における米国に対する優越という中国政府の強い意志に基づいた前例のない軍備拡張計画の一環である。しかしながら、兪永強・中国科学院大気物理研究所研究員は、中国の水中監視グローバル・ネットワーク専門家委員の1人であるが、この計画が中国潜水艦の作戦能力向上をもたらすものであることは疑いないものの、米国が現在世界中に展開している同様のシステムには遠く及ばないと述べ、北京が自らの領域と見なしている南シナ海においてさえ、長年の観測データの蓄積から、米潜水艦艦長は、おそらく中国潜水艦艦長よりも海水温度や塩分濃度などの環境情報に詳しいだろう、と指摘している。同研究所のWebサイトによれば,中国の監視システムは、観測ブイや水上艦船、探査衛星及び水中グライダーなど複数のプラットフォームから構成されており、南シナ海、西太平洋及びインド洋などの海洋データを収集している。このような情報は、南シナ海の西沙諸島、広東省及び南アジアの統合施設の3カ所に設置された情報処理センターに送られ、評価解析が実施されている。

2)「一帯一路」構想(BRI)の一部を構成する「海上ルート」を潜水艦が哨戒する場合、このシステムは、単なる観測のみならず、何時如何なる海域の深度においても海水温度や塩分濃度を予報できるという点で極めて重要である。兪研究員によれば、潜水艦のソナーは他の艦船の探知、識別及び攻撃に使用されるが、水中における音波の進行方向、伝搬速度は海水温度や塩分濃度に大きく影響されるため、もし潜水艦の艦長が敵艦船の位置を演算する際にこうした要因を誤認すれば、全く的外れな目標を攻撃することになるという。また兪研究員は、新たな監視システムはターゲッティング能力の向上のみならず、潜水艦が複雑な海中環境下でより安全に航路を選択することも可能にすると述べている。塩分濃度と海水温度は海水密度に大きく影響するため、いずれの急激な変化も潜水艦が制御不能となる事態を招く可能性がある。このシステムは、そうした変化を事前に予測することによって潜水艦艦長がトラブルに見舞われるのを回避することができるのである。南海海洋研究所は、201711月の最新のブリーフィングで、この新たな監視システムは、数年間に及ぶ構築と試験を経て現在は海軍が運用しており、「良好な成果を得ている」と報告している。

3)中国のBRIによる投資は60カ国以上に及ぶが、これまで中国軍の海外活動実績がほとんどない中で、これらの投資と利益を如何にして保護するのかという点が中国政府にとって喫緊の課題となっている。「海上シルクロード」の防衛に責任を持つ中国海軍にとって、このルート沿いの海域には多くの敵対勢力がいる。冷戦期以来、米国は西太平洋海域を列島線に沿って堅固に防衛しており、南シナ海は多くの非友好的な小規模国家に囲まれる紛争海域であって、更にインドは地域における中国の影響力拡大を懸念してインド洋における支配を強めようとしている。新たな監視システムに関係する研究員は、「我々のシステムはこれらの地域におけるバランス・オブ・パワーを中国に有利な方向に転換させるのに貢献できる」と述べている。中国の研究者達は、監視ネットワークのみならず、潜水艦用の強力な艦上海洋環境予報システムも開発した。これは、潜水艦センサーがごく限られたデータしか収集できない場合でも、海洋環境予測の演算を実施するため用いられるもので、潜水艦が長期間の隠密行動を要求される場合や、衛星や地上基地からのデータを受信するための浮上ができない場合を想定したシステムである。新アメリカ安全保障センター(CNAS)と国際戦略研究所(IISS)の研究によれば、中国は、2030年までに米国の199隻に対して、260隻の水上戦闘艦と潜水艦を整備するとされているが、海洋における戦いが過熱するのに伴い、この水中監視システム・ネットワークのようなツールが勝敗を決することになるのかもしれない。

記事参照:China's underwater surveillance network puts targets in focus along maritime Silk Road

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「中国の新しい海洋データ収集網」(The diplomat.com, January 2, 2018

 前掲の香港紙South China Morning Post(電子版)の報道に関連して、在ニューヨークの東アジア安全保障問題専門家Steven Stashwickは、12日付けのWeb誌、The Diplomatに寄稿した、"New Chinese Ocean Network Collecting Data to Target Submarines" と論説で、要旨以下のように述べている。

1)米国は、海中における熟達した作戦能力を、中国のような主要大国に対する重要な戦略的強点と見なしている。ハリス米太平洋軍司令官は、潜在的な中国の脅威に対抗するためには、米潜水艦隊の「非対称的な優位」が重要であると議会で証言している。より広範な戦略的優位は、1つには潜在的な敵潜水艦を探知し、追尾する潜水艦、航空機及び艦艇に「非対称的な戦闘における優位」を付与する、広範囲にわたる海軍海洋情報ネットワークによって達成される。水中聴音機器やパッシブ・ソナー・システムは、艦艇や潜水艦が放出する音を聞くことで、それらを探知し、追尾する。音は海中を伝搬してくるので、システムの精度を高めるためには、運用者は、海中の温度、圧力そして塩分濃度などの諸要素の変化が音にどのように影響するかを理解している必要がある。海洋を正確にモデル化し、音がどのように伝搬するかを予測することは、正確な海中(特に海底)地形図と当該海域の海洋特性を理解し、その特性が時間によってどのように変化するかを予測するための膨大な海洋データが必要となる。

2)中国の新しい海洋ネットワークと、最近頻繁に行われている海洋観測は、直接潜水艦を探知するためではなく、そのようなデータを収集するために計画されているようである。 中国は、海底地形図作成のために、特に戦略的に重要なフィリピン周辺海域で最近何回かの海洋調査を実施した。中国の調査船は、2017年初めにルソン海峡、スリガオ海峡近傍で行動中であるのを発見されている。米国との衝突の可能性に備えて、これらの海峡を中国が支配することは、中国潜水艦が西太平洋に出撃し、帰還することを可能にし、ハリス司令官が懸念する、ある種の不測事態に対応するために米海軍艦艇や潜水艦が南シナ海に進入することを阻止する上で重要である。更に、中国は最近、世界で最も深いマリアナ海溝での音響測定を実施した。測定海域はグアムから170カイリ以内にあり、米国のEEZ水域内である。中国の科学者は、水深9,000メートル以上の深海における音波伝搬の実験のために無人探査装置を使用した。この種の調査は厳密には軍事目的ではないが、深海における音波伝搬を理解することは潜水艦通信に適用でき、他の潜水艦を探知し、追尾することを目的とした海洋モデルを改善することができる。また、2017年夏に、中国の海洋調査船は、カロリン群島近傍海域の一部の海図作成を行った。この活動は米海軍偵察機によって監視された。この計画のリーダーは、この調査は中国軍が西太平洋の縦深において作戦し、日本からマリアナ諸島の米国領に伸びる第2列島線を突破することを可能にするより大きな戦略的努力の一環である、と述べている。

3)香港近傍の造船所で建造中の新しい双胴型海洋調査船の画像が2018年初めに公開された。同船は米海軍の音響測定艦USNS Impeccableに酷似している。米国は長年、音響測定艦部隊を西太平洋で運用してきたが、これには中国が執拗に反対し、時には2009年のUSNS Impeccable事案のように、公然と妨害したこともあった。音響測定艦自体は武装しておらず、紛争時には、水上艦艇、航空機及び潜水艦などが、これら艦船が収集した情報を使用して敵潜水艦と戦うよう指示される。中国は、似たような艦船を建造することによって、米潜水艦の優位を覆す能力を開発しようとしているのかもしれない。中国が建造中と見られる潜水艦を追尾する艦船がその任務を遂行するためには、詳細な海洋モデルとそれを戦術的に適用する能力とが必要である。それは、米海軍が何十年にもわたって経験を通じて築き上げてきたものである。新しい対潜能力を運用するに当たって中国軍がどのような障害に直面しようとも、中国の海洋学者達は、西太平洋の深海についての情報を収集するという彼らの領分を営々と遂行し続けていくであろう。

記事参照:New Chinese Ocean Network Collecting Data to Target Submarines

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「中国、衛星監視システムで南シナ海を常続的監視へ」(Janes' Defense Weekly, January 4, 2018

 14日付の Janes' Defense Weekly 誌(電子版)が報じるところによれば、中国軍が南シナ海における常続監視を可能とする衛星コンステレーションプロジェクトを開始したとして、要旨以下のように報じている。

中国人民解放軍Webサイトで公表された報告によれば、中国は20171214日に、「南シナ海の完全な中断のない観測」を可能にする海南省南部の衛星コンステレーション(抄訳者注:複数の衛星を群として運用するシステム)プロジェクトの始動を公式に発表した。このプロジェクトは海南衛星コンステレーションと呼ばれ、中国科学院傘下のリモートセンシング・数値地球研究所(RADI)の一部である海南省の三亜研究センターによって開始された。このプロジェクトは、10個のリモートセンシング衛星の開発と打ち上げを目指している。最初の衛星は2019年に軌道投入される予定であり、残りの衛星は今後45年以内に打ち上げられる予定である。

記事参照:China initiates satellite project to enable 'uninterrupted observations of South China Sea'

14日「日本の日本の海洋安全保障支援、現状維持プラスアルファ―米専門家論評」(Maritime Awareness Project, January 4, 2018

 在ホノルルのシンクタンク、The Daniel K. Inouye Asia-Pacific Center for Security StudiesAPCSS)教授Kerry Lynn Nankivellは、1月4日付のWebサイトMaritime Awareness ProjectMAP)に、"Japanese Maritime Assistance: A Status Quo Plus" と題する論説を寄稿し,東南アジア諸国に対する日本の海洋安全保障支援は、既存の政策を劇的に転換するものではなく現状維持プラスアルファ程度のものであるとして,要旨以下のように述べている。

1)日本が防衛政策の革命ないしは進化を目指しているのか否かについて、地域の専門家の間で活発な議論が行われている。しかしながら、2012年以降の安倍政権の行動は、制度的な制約の故に、確立された規範からの急激な離脱というよりも、「現状維持プラスアルファ」(a "status quo plus")のアプローチとして理解するのが最も適切である。より具体的にいえば、日本の海洋安全保障協力は、主として多国間ないしは多組織間による協力方式によって継続実施されていくであろうということである。安部首相のレトリック新たな防衛力の強化を強調しているが、子細に見れば、少なくとも東南アジア地域において日本の活動を拡大する場合、安倍政権や専門家が予測するよりも微妙な空気があるのが現実である。

2)日本政府は、2013年の「国家安全保障戦略」の下、新たなパートナー諸国に対し「安全保障関連分野でのシームレスな支援」を実施してきた。更に、 2014年の「防衛計画の大綱」(以下、26大綱)では、自衛隊の役割として新たなパートナー諸国軍隊に対する人的能力構築支援、技術援助を規定している。これらの指針は、これまで軍隊間での直接的な援助の歴史がなかった、戦後日本の地域安全保障に対する取り組みにおける重要なブレークスルーを示している。しかし、こうした新たな方針も、多国間協調を主体とするプログラムにより実行されており、結果的には1960年代からの日本の政策に沿ったものとなっている。26大綱に基づく2014-18年の「中期防衛力整備計画」(26中期防)と、日ASEAN ビエンチャン・ビジョン(日ASEAN防衛協力イニシアティブ)はいずれも、日本が東南アジアのパートナー諸国に対し2国間関係のみならず多国間においても防衛協力を行うことを確認している。安倍政権の政策変更は、こうした確立された枠組みに自衛隊が取って変わるのではなく、この枠組みの中で自衛隊のための小規模で明確に定義された役割を見出すことを企図しているのである。26大綱は、防衛省は既存の政府開発援助(ODA)政策の中で緊密に協調するよう記述している。海洋分野における既存のプログラムは、概ねJICAによって企画調整され、海上保安庁によって実行されている。このことは、外務省とJICAが大きな役割を果たし、海上保安庁や自衛隊という運用部門による改変の余地がほとんどない、既存の省庁間協力の枠組みにおいて、防衛省・自衛隊が新たなプログラムを構築する必要があることを示唆している。

3)日本の東南アジア諸国に対する海洋安全保障支援は、常にJICAが主導し、海上保安庁が実施を担ってきた。このアプローチは今後、日本政府がより多くの資金と政治的な支援を提供するようになっても継続されるであろう。地域安全保障における日本の役割を「普通の国」並みにするという安倍首相の願望にもかかわらず、日本政府の東南アジア諸国に対する海洋安全保障パートナーシップへの歴史的なアプローチは、制度的モメンタムと国民の支持を得ている。 こうした要素は、日本の海洋安全保障協力を短期間で軍事的なものにするといった急激な変化を抑制するであろう。しかしながら、海上保安庁が活動する戦略環境は、過去数十年とは全く異なったものになってきている。東南アジアにおける海上保安庁の目標は変わらないとしても、その達成のために必要とされる手段は、劇的に変化した。1969年に策定された現在の海上保安プログラムは、東南アジア諸国が国境を越えた脅威から海洋管轄権を守り、海洋の安全と通商の自由を維持することを目標としている。しかし、こうした脅威の性質と、地域のカウンターパート国における運用上の所要は、急速に増大してきている。こうした現実を踏まえ、海上保安庁は、長年の目標追求手段を変更せざるを得なくなった。海上保安庁による東南アジア諸国との定期的な合同訓練も、今日の治安情勢の下では、例えば、危険海域において合同訓練が実施されるようになれば、実際には合同警備行動との区別がつかなくなるであろう。そうした事例として海上保安庁は過去2年間、フィリピンとの合同訓練を海賊が活動するスールー海で実施している。

42016年、安倍政権は、広義には軍事協力という視点でも解釈され得る支援を実施した。これに、東南アジアの3カ国向けの90メートル級ヘリコプター搭載型巡視船とフィリピン沿岸警備隊向けの小型の新造巡視船10隻が含まれている。純粋に軍事的な視点から見れば、小型の新造巡視船10隻の提供は、日本の戦後の政策における劇的な転換のようにも見える。しかし、東南アジア諸国における海上保安庁の長年に亘る能力構築支援プログラムという観点からすれば、巡視船の提供は数十年に亘って徐々に発展させて来た海洋安全保障協力における論理的ステップなのである。そして重要ではあるが余り言及されていない点は、これらの巡視船の提供が防衛省ではなくJICAによって管理され、また、海上自衛隊による訓練ではなく、既存の海上保安訓練プログラムによって実施されているということである。今日においても、防衛省・自衛隊はこれまで同様、こうした協力の取り組みにおいて直接的、企画的な役割は果たしていないのである。

5)今日、自由で開かれた海上輸送路は、海賊、テロリスト、更には抗争国同士が展開する武装船舶にも対処し得る、海上法令執行機関を必要としている。2016年の「海上保安白書」によれば、安倍首相は2015年に海上保安庁幹部に対し、「日本は同じ海域に面するパートナー諸国との間で知識経験を共有する使命がある」と強調した。中国の増大する圧力に直接言及していないにせよ、この発言は、限られた手段で圧倒的な課題に直面している東南アジア諸国の海上法令法執行機関にとって歓迎すべきメッセージであった。地域安全保障への貢献を発展させるに際し、日本政府は、拡張的な変化を遂げたが、長年の制度的パラメターは維持したままである。その結果は、地域の海洋における「現状維持プラスアルファ」支援というアプローチであって、これは海上法令執行能力の強化によって自由で開かれた海洋を維持するという日本の長年の目標にも叶うものである。海洋安全保障の能力構築に関していえば、海洋における戦略的現実が防衛省・自衛隊に新たな所要を迫っているとしても、日本の制度的及び政治的な文脈は、単独行動主義や軍国主義に対して否定的に作用するであろう。日本の未来は、従来とは大きく異なるものになることが疑いない。しかし、それは、あくまで戦後日本によるアジアの海洋問題への関与の確立された制度的パターンを反映するものであって、決してそこから逸脱しようとしているものではないであろう。

記事参照:Japanese Maritime Assistance: A Status Quo Plus

15日「中国、新大型空母の建造開始」(The Diplomat.com, January 5, 2018

 Web誌、The Diplomat共同編集長Franz-Stefan Gadyは、15日付の同誌に、"China Kicks Off Construction of New Supercarrier"と題する論説を寄稿し、中国が3隻目となる空母の建造を開始したと報じられたことについて、要旨以下のように述べている。

1)香港紙の報道によれば、中国軍に近い筋の情報として、中国は2017年に3隻目となる空母の建造を開始したという。それによれば、上海済南造船所グループは20173月に新しい大型空母の建造開始の命令を受けた。「造船所はまだ、空母の船体工事を実施中で、約完成までに2年間を要すると見られる。新空母の建造は、これまでの2隻よりも複雑で、挑戦的なものである」と情報源の1つは語った。中国国内で設計された2隻目(全体としては3隻目)の空母、Type 002CV18)は排水量が85,000トンから10万トンで、その工事着手は、正確な日付について矛盾した報告があるが、20162月には開始されていたといわれる。

2)中国が初めて国内で設計し、開発した空母、Type 001ACV-17)「山東」は、20174月に遼寧省大連造船所で進水した。同艦は、2018年末までに就役すると見られる。「山東」は、海軍が運用する排水量6万トンの空母、Type 001「遼寧」の改良型である。「遼寧」は、旧ソ連のAdmiral Kuznetsov級多目的空母を再艤装したものである。別の情報源によれば、「中国は、Varyag(旧艦名)を再艤装し、『遼寧』として就役させると決定した2000年の早い時期以来、強力で専門性の高い空母建造チームを編成するとともに、技術指導者として多くのウクライナ人専門家を雇用した。」

3)新空母、Type 002は、通常推進型で、カタパルトで航空機を発艦させ、甲板後部のアレスティング・システムを用いて航空機を着艦させるシステム(CATOBAR)を装備したものとなりそうである。カタパルト・システムは、米海軍の電磁航空機発艦システム(抄訳者注:従来の高圧蒸気を利用したカタパルトではなく、リニア・モーター・カーと同じ原理によるカタパルトを利用した発艦システム)に類似したものとなるであろう。ある報告によれば、Type 002の建造は、CATOBARの試験のために遅れたといわれる。何故なら、航空機発艦システムに関する決定は、空母の設計に影響を及ぼすからである。本稿の筆者(Franz-Stefan Gady)が以前書いたように、「電磁航空機発艦システムを装備した空母は、中国海軍の空母部隊の戦闘力を飛躍的に向上させる。CATOBARシステムは、航空機の機体に対する負荷を軽減し、長い目で見れば保守整備費用を削減できる。また空母搭載機により多くの武器を搭載できる。更に、CATOBAシステムは、より迅速な発着艦作業により空母搭載航空部隊の出撃率を向上させる。」

4)情報源によれば、新空母は、大型のJ-15戦闘機を搭載、格納するために、『遼寧』やその姉妹艦よりも小さな艦橋構造物を装備することになろう。瀋陽J-15多目的戦闘機は、第4世代のスホーイSu-33制空戦闘機の派生型である。「このことは、中国が英空母、HMS Queen Elizabethに関心を向けていた理由を示唆している。同艦は、滑走路と航空機により広い空間を提供するために、2個の小型艦橋構造物を装備している。しかし、最終決定はまだである」と、この情報源は語っている。Type 002の進水は2020年と推測されており、中国海軍初の超大型空母は2023年に就役するであろう。

記事参照:China Kicks Off Construction of New Supercarrier

15日「中国、パキスタンに基地建設か―香港紙報道」(South China Morning Post.com, January 5, 2018

 香港紙、South China Morning Post(電子版)が15日付で報じるところによれば、中国は、ジブチでの基地開設に次いで、パキスタンに基地建設を検討しているとして、要旨以下のように報じている。

1)北京は、2017年にジブチに開設した最初の海外基地に次いで、戦略的に重要な位置にあるパキスタンの港湾近くに2番目の海軍基地の開設を検討している。在北京の軍事専門家は、アラビア海に面したグワダル港の近くに計画されている基地は海軍艦艇の停泊や補修、更にはその他の兵站支援を提供することになろうとし、「グワダル港が民間港であるために、中国は、その近くに海軍艦艇用の基地を開設する必要がある」と語っている。更に「軍艦と商業船泊は運用形態が違っているために、それぞれ別の施設を持つのが一般的な慣行である。商業船舶は倉庫やコンテナ収容などのために大きなスペースを必要とし、一方、軍艦は全面的な補修と兵站支援が可能な施設を必要とする」と指摘した。中国海軍に近い別の消息筋も、海軍がグワダル港近くにジブチと同様の施設を開設することになろうとし、「グワダル港は軍艦に特定の支援を提供することができず、また治安状況も良くない。従って、軍事的後方支援を提供するのに適した場所ではない」と語っている。パキスタン軍によれば、北京はグワダルに近く、イラン国境に近接したジワニ(Jiwani)半島に軍事基地に建設することになろうという。米陸軍予備役大佐Lawrence SellinがワシントンのWebサイトで明らかにしたところによれば、基地建設計画は海軍基地と既存の飛行場の拡張を含むもので、建設に伴って安全地帯が設定され、また長年居住してきた住民が強制移転させられるという。

2)グワダル港は、「一帯一路構想」(BRI)の中核プロジェクトの1つである「中国パキスタン経済回廊」(CPEC)の基点となっている。そして、前出のSellinは、ジワニ基地は「特にパキスタンとインド洋における中国の軍事進出の兆候」と見なし得ると指摘している。中国の軍事専門家は、グワダルは中国にとって戦略地政学的に、そして軍事的に非常に重要だが、中国はパキスタンを「軍事化する」意図はないとし、マラッカ海峡という制約要因を抱えているが故に、中国はインド洋へのより良いアクセスを求めている、と指摘している。CPECが完成すれば、グワダル港は海から陸上ルートへの通過ハブとなり、中国にとって、大いなるコスト削減に繋がる。前出の軍事専門家は、「アデン湾沖で活動している中国海軍の派遣部隊と、インド洋で中国の石油タンカーを護衛しているその他の軍艦は、パキスタンでは必要物資の多くを入手できないために、兵站補給と艦艇の維持管理のために海軍基地を必要としている」と語っている。

3)シンガポール国立大学南アジア研究所Rajeev Ranjan Chaturvedy研究員は、インドはパキスタンにおける中国の計画を承知しているとして、「中国は、特にテロ問題に関して、インドに対抗し、またインドの懸念を無視して、パキスタンを利用することに大きな有用性を見出している。このことは、北京とニューデリーの関係に大きな緊張を引き起こしている」「(しかし)インド洋におけるインド海軍の能力と経験は、パキスタンや中国よりも遙かに優れている」と指摘している。一方、インドのネール大学Swaran Singh教授は、グワダルもジワニのいずれも、インドが多大の投資をしたイランのチャーバハル港に近接しているために、海軍基地の建設地としては賢明な選択ではないであろうと語っている。ニューデリーは、パキスタンを迂回し、アフガニスタンと中央アジアとの通商を促進する基点として、チャーバハル港に、2本の埠頭の10年間租借を条件に、1億米ドル以上投資している。同教授は、「パキスタンとイランとの間、そしてパキスタンにおける中国とチャーバハル港におけるインドとの間における疎遠な関係から、グワダルもジワニも潜在的に脆弱な状況におかれる可能性がある」と見ている。

記事参照:First Djibouti ... now Pakistan port earmarked for a Chinese overseas naval base, sources say

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「中国、インド洋に拠点ネットワーク構築へ―豪専門家論評」(The Interpreter, January 30, 2018

 オーストラリア国立大学National Security College上席研究員Dr. David Brewsterは、Web誌、The Interpreter130日付で、"China's new network of Indian Ocean bases"と題する論説を寄稿し、中国によるインド洋地域における拠点ネットワークの構築について、要旨以下のよう述べている。

120177月、中国は、ジブチに初めて(そして現在まで唯一)の海外における軍事基地を開設した。ジブチ基地には海軍埠頭と大型ヘリ基地があり、1万人の要員を収容できる。西側の海外基地を批難してきた北京にとって、この基地の開設は重要な出来事であった。ジブチの基地は幾つかの理由から、中国にとって非常に意味がある。ジブチには、既に米、仏、日本の基地があり(間もなくサウジも開設する)、中国の基地開設はそれほど目立ったものではなかった。ジブチは、アラブ海における中国の海賊対処活動とアフリカにおける中国の国連平和維持活動を支援するための、利便性の高いハブとなっている。更には、緊急事態における民間人後送作戦のための都合の良い進発拠点となり、また何時の日か、中国がアフリカや中東地域において軍事介入作戦を実施する場合の支援拠点となろう。

2)中国が何れインド洋沿岸域において中国の拠点ネットワークを構築することになると見られるが、ジブチ基地はそのための第一歩に過ぎない。長年、多くのアナリストは、次の中国海軍基地はパキスタンのグワダルに開設されると想定してきた。この港湾都市は、中国の「一帯一路構想」(BRI)における主要な中継点となる位置にあり、しかも中国西部に至る新しい陸路のインド洋における基点になっている。グワダルに対する中国の計画は野心的なものである。グワダルに最大50万人の中国国民の居住施設を5年以内に建設する計画との報道があり、またそれに伴って大規模な中国海兵隊部隊が派遣される可能性がある。これは、グワダルの現在の人口約10万人を圧倒するものであり、事実上、クワルダルをインド洋における最初の中国植民地にすることになろう。

320181月の香港紙などの報道によれば、中国は、グワダルの西方60キロに位置するジワニ(Jiwani)に、新しい海軍基地と飛行場の建設を開始しようとしているという。この報道は北京によって確認されたわけではないが、ジワニは、基地に適した地理的位置にあり、またグワダルにおける通商海運業務から、中国海軍部隊を切り離すことになろう。ジワニには、既に拡大可能な小規模のパキスタン海軍基地があり、また中国空軍(そして現在大幅に増強中の海軍航空隊)の利用のために拡張可能な、第2次大戦当時からの飛行場がある。グワダルと比較して、ジワニは、ホルムズ海峡に近く、インドの飛行場からより遠隔の地にある。ジワニは主要な中国艦隊基地としてはあまりにも無防備かもしれないが、ここに前進作戦拠点を開設することは、ジブチの施設とカラチへのアクセスとともに、ペルシャ湾とその周辺地域における危機が生起した場合、北京に追加のオプションを提供することになろう。

4)ジブチに加えて、グワダルとジワニにおける中国の基地施設をもって、インド洋における中国の拡大する軍事プレゼンスの終焉とはならないであろう。中国はまた、アフリカ南端を回る西アフリカからの膨大なエネルギー資源の輸入ルートを守ることを目指して、東アフリカやその周辺地域に施設や拠点を求めることになろう。この地域は、世界で最も貧しい発展途上地域であり、中国にとって多くの好ましい候補地がある。多くのアナリストは、タンザニアが最適地と想定している。中国は、タンザニアとは長年緊密な関係を築いてきており、またダルエスサラームの北方50キロにあるバガモヨ(Bagamoyo)に新たに建設した港湾の管理運営権を最近取得している。更に、中国は、新しいインド洋拠点ネットワークの一環として、インド洋中部や東部で海軍施設を求める可能性がある。中国は最近、スリランカ南部のハンバントータ港の管理運用権を取得し、北京の意向について多くの推測を呼んだ。しかし、スリランカ政府は、中国が同港に海軍プレゼンスを維持することを拒絶しており、インドに対しても、その旨通告している。アナリスト達は、インドの南方に位置するモルディブを、中国基地の格好の場所と見ている。モルディブは伝統的にインドの戦略的影響下にあるが、最近の政情は不安定になっている。モルディブはまた、島々の多くが海面下に沈む危機にあり、我々はやがて、インド洋に中国の「魔術的な人工島造成船」('magical island-building ship')の勇姿を見ることになるかもしれない。

5)こうした目立った動きにもかかわらず、インド洋における中国の海軍力のプレゼンスの将来的な態勢とその狙いは、依然として明確ではない。中国海軍が少なくとも短期的には米海軍第5艦隊に対抗しようとしていると、単純に思い込むべきではない。中国は、インド洋において地理的に不利な立場にあることには変わりない。しかしながら、インド洋地域において海、空施設のネットワークを構築することは、少なくとも、中国の利益に影響を及ぼす様々な潜在的な危機に対応するに当たって、多くに選択肢を中国にもたらすことになろう。インド洋における中国の動きは、双方がより多くの陣地を取り合う「囲碁」に結びつけて見ることができる。終盤における勝敗は、最初の石の布石によって左右される。

記事参照:China's new network of Indian Ocean bases

110日「中国の南シナ海における挑戦、米は如何に対応すべきか―米専門家論評」(The Chicago Council on Global Affairs, January 10, 2018

 The Maureen and Mike Mansfield上席研究員Weston S. Konishiは、The Chicago Council on Global AffairsWebサイトに110日付で、"China's Maritime Challenge in the South China Sea: Options for US Responses"と題する長文の論説を寄稿し、中国の南シナ海における、あるいはそれを超えた海洋戦力による挑戦に、米国は同盟国とともに如何に対応すべきかについて、要旨以下のように述べている。

1)南シナ海における中国の海洋能力の強化と戦略的拠点の構築は、米国の政策決定者にユニークで複雑な課題を提起している。というのも、1つには、米中関係は、抗争的側面が強まっているとはいえ、明確な敵対関係(そうであれば既存の戦争計画が適用できる)ではないからである。問題は、問題は中国が多用するいわゆる「サラミスライス」―東シナ海と南シナ海における海洋自然地勢、水域及び空域に対する支配を(サラミをスライスするように)徐々に強化していく―戦術に対抗する、包括的な戦略を持っているのか、また持っているとすれば、その戦略が適切であるかどうかということである。

2)現在までのところ、こうした中国の動きに対抗する米国の主要な戦略は、中国が領有権を主張する海洋自然地形周辺海域における「航行の自由」(FON)作戦である。このアプローチは確かに北京の関心を引いたが、中国の人工島造成活動を阻止する上でどれほど効果的であったかは不明である。例えば、20178月に王穀外相は南シナ海における埋め立て活動は2年前に停止されたと発表したが、米シンクタンクが公表した画像では、西沙諸島では埋め立て活動の継続が確認されている。一部の専門家は、南シナ海と東シナ海における中国の高圧的な活動の強化に対する米国のアプローチは過度にリスク回避的であり、中国の不当な活動を抑制するためにはより強制的な措置が取られなければならない、と指摘している。トランプTrump政権の中国の海洋進出に対するアプローチは、オバマ前Obama政権時代よりもリスク回避的傾向が小さいようであり、FON作戦も23カ月間隔で定期的に実施されている。こうした定期的なFON作戦の実施は、「航行の自由」に対する米国の主張を強化するとともに、米国が地域及び海洋の現状維持に依然コミットしていることを同盟国に知らしめ、安心させる効果がある。また、米国は、FON作戦以外にも、中国の高圧的な主張に対して、米国の戦略的コミットメントを域内の同盟国に保障すべく、これら諸国と緊密に協力し、能力構築支援、情報共有及び合同演習及などに取り組んでいる。更に、米国は、ADMM プラス(拡大ASEAN国防相会議)などの、海洋安全保障を支える地域的多国間枠組みの強化を支援することもできる。これらの地域的多国間枠組みに対する米国のコミットメントの維持は、中国の軍事的、準軍事的活動による挑戦を受けている海洋秩序、法規範や慣行を支えるためにも不可欠である。

3)こうした外交努力の一方、中国の海洋における挑戦に対処する当たって、戦争以外に、米国が取り得る強力な措置も数多くある。何よりも重要なことは、中国の海軍力増強に台頭するために、海軍艦艇を着実に取得していくことであろう。中国海軍との艦対艦における一定の均衡を維持することによって、中国の海洋支配を目指す侵略的行動を抑止できるということについては、専門家の間ではほぼ一致した見解である。しかしながら、一部の専門家は、艦対艦における均衡において、米国は既に遅れを取っていると見ている。中国海軍は2030年頃までに、水上戦闘艦と潜水艦の合計が500隻規模に近づくとの予測もあり、米海軍が海洋における戦闘で勝利し得る信頼できる抑止力を維持するには、質的にも量的にも改善された350隻態勢を確実に実現しなければならない。なお、一部の専門家は、米海軍が中国海軍に対し質的にも量的にも優位を保っている分野は潜水艦であると見ている。日本などの同盟国の潜水艦を考慮に入れれば、これは事実かも知れないが、他の専門家は、米海軍の潜水艦の能力は中国海軍のそれよりも優れているが、規模的には現在の課題に対応するには不十分であると見ている。米海軍は、米海軍は太平洋地域に55隻の攻撃型原潜(SSN)を保有しているが、定期的な維持整備、乗員の休養も考慮すると、常時展開可能な隻数は約22隻に過ぎず、南シナ海、東シナ海そして西太平洋の広大さを考慮すれば、戦時には全くぎりぎりの配備隻数であろう。しかし海軍艦艇の増勢は解決策の1つに過ぎない。陸、海、空における接近阻止能力を含む、中国の軍事力増強に全面的に対抗していくためには、米国は、艦艇以外に、空、陸兵器システムにも投資しなければならない。中国の戦略ロケット軍が示唆するように、今日では航空部隊と陸上部隊も海洋安全保障の重要な部分を占めているからである。中国の沿岸域配備の兵器に対抗するために、米国は、現有システムより長射程のミサイルシステムを開発し、配備する必要がある。

4)新しく開発される陸上配備ミサイルシステムは、中国の「接近阻止/領域拒否(A2/AD)」戦略に対抗することに加えて、中国の南シナ海における(海洋自然地形を漁船、政府公船そして海軍艦艇で多層的に取り巻き、当該地形を実効支配する)「キャベツ」戦術や、その他のグレーゾーンにおける活動に対抗するための、米国と同盟国の対応手段の1つとなる可能性もある。こうした陸上ミサイルを同盟国に配置することで、米国と同盟国は、紛争海域に対する中国の侵略を抑止するための陸上火力を確保することができる。このことは、南シナ海や東シナ海における中国の拡張主義的行動から同盟国を守る米国のコミットメントとして、同盟国を保障することになり、また「キャベツ」戦術に対抗する新たな米国の戦略の基礎ともなり得る。他方で、これらの措置は南シナ海の係争海域への中国のアクセスを否定することも可能で、北京との間で緊張を高める可能性もある。

5)こうした対立的なアプローチ以外にも、米国とその同盟国は、南シナ海の海洋の現状変更を追求する中国に対してその代価を強要するために、様々な政治的、経済的手段を取ることもできる。中国が政治的な目的を達成するために経済的手段を活用することはよく知られているが、米国も、同様のアプローチを用いて、中国に対する経済制裁や、中国の国際的な通商活動に制約を課すことで、北京に対して海洋における確立された法規範の遵守を強要することもできる。また、米国は、インド太平洋における戦略的な国である、インドとの防衛協力を一層促進することもできる。一方、海洋分野における中国とのより幅広い協力の可能性も見逃してはならない。米国と中国の間で海洋への関心が重なる分野もあり、より大きな協力の機会を創出する可能性もあることを想起すべきである。中国海軍とどの分野で協力できるかを特定することによって、競合する領域を限定することも可能であり、そうすることによって、海洋において利害が対立する分野における偶発的な事案にも備えることができよう。

7)以上のとおり、米国とそのパートナー諸国は、南シナ海において海軍力と影響力を拡大する中国に対抗するために、多面的な戦略を採用しなければならない。この広範な課題に対処するためには、唯一にして十分なアプローチはない。それには、軍事技術、艦船建造そして訓練といった分野への投資を増加する必要がある。また、海洋戦略と抑止の概念を、特にグレーゾーンに適用できるように、修整することが必要である。更に、域内の同盟諸国やパートナー諸国との関係を強化するための外交的関与も必要となる。そして最後に、南シナ海を超えて行動できる益々洗練され、能力を強化した中国の海洋戦力による大きな挑戦に、米国が確実に対処していくためには、強力なリーダーシップと地域へのコミットメントが不可欠である。

記事参照:China's Maritime Challenge in the South China Sea: Options for US Responses

113日「中国、2020年までに極超音速ミサイルの取得を目指す―米専門家論評」(The National Interest, blog, January 13, 2018

 米軍事専門家Robert Farleyは、米誌The National Interestのブログに、113日付で、"By 2020, China Could Have Hypersonic Missiles to Sink U.S. Aircraft Carriers"と題する論説を寄稿し、中国は2020年までに米空母を撃沈可能な極超音速ミサイルを取得すると見、要旨以下のように述べている。

1)中国は201711月、世界初の極超音速兵器になるかもしれない飛翔体の実験を行った。DF-17弾道ミサイルの第1回の実験は2017111日に、第2回は1115日に実施された。極超音速滑空体(a hypersonic glide vehicle: HGV)は、大気圏再突入段階でミサイル本体から分離され、目標に向かって約1,400キロ飛翔した。DF-17はロケット軍のミサイルの改良型のようであり、ロケット軍は保有する他の射程のより長いミサイルを既に極超音速滑空体を搭載できるように改良しているかもしれない。HGVは、戦略的所要あるいは作戦所要に従って、核弾頭や通常弾頭を搭載できることはほぼ確実である。米国の分析者はHGV2020年までに実戦配備されるとは考えていないが、この時点までには、ロケット軍は、HGVを配備し、投射できる手段を大幅に増やしているかもしれない。より射程の長いミサイルは、中国の戦略投射範囲を太平洋のより遠くまで延伸するだけでなく、中国国内の縦深に基地を置くことが可能になることで、米国が発射地点を攻撃することがより困難になろう。

2)極超音速巡航ミサイルが存在するが、新しい中国のHGVは、弾道ミサイルから分離され、伝統的な弾道ミサイルとは大きく異なり、予測し難い飛行軌跡を描き目標に向け滑空する。滑空軌跡は、一般的に伝統的な巡航ミサイルよりも高く、早いが、通常の弾道ミサイルの弾頭よりも低く、低速である。HGVは、終末段階では機動性能を有しているようであり、これにより空母のような移動目標を攻撃することができる。初期の発射上昇段階では、HGVは、核兵器搭載の弾道ミサイルと酷似しており、緊迫した戦略状況を一層複雑にする。

3HGVが実戦配備されれば、現在の弾道ミサイル防衛システムを弱体化させることになる。ミサイル防衛に依存している、韓国、日本そして米国にとっては、HGVによってそれぞれの防衛計画を攪乱されよう。HGVの飛翔特性から、弾道ミサイル防衛システムであれ、伝統的な地対空ミサイルシステムであれ、突入してくる目標の撃破は困難になろう。専門家が指摘するように、HGVは直接、米国あるいは同盟国のミサイル防衛システムを攻撃することもでき、全体の防衛ネットワークシステムを脆弱化し得る。HGVが中国のその他の接近阻止/領域拒否システムと連動して運用される可能性を考えれば、中国は、米国にとって対処困難な重層的なシステムを構築しつつあるといえる。

3)中国がHGVに関して重要な進展を遂げていることは驚くことではない。中国は、米国の先進的な防衛システムに合わせて、あるいはそれを上回ることを目指して兵器開発に精を出している。HGVは、中国の接近阻止システムの新たなツールといえる。事実、それらのシステムによって、中国は、米空母やこれまで考えられていたよりもはるか後方にある基地を攻撃できる能力を有することになる。もちろん、米国は独自のシステムを持って反撃することができるが、全体を俯瞰的に見れば、米軍はアクセスを求め、一方で中国はアクセスを拒否することで勝利を目指している。

記事参照:By 2020, China Could Have Hypersonic Missiles to Sink U.S. Aircraft Carriers

119日「米国防省、トランプ政権初の『国家防衛戦略』公表」(US DOD, January 19, 2018

 米国防省は119日、トランプ政権初の「2018年版米国家防衛戦略」の公表版を発表した。「国家防衛戦略」が発表されたのは、2008年以来10年ぶりである。マティス国防長官は同日、ワシントンでの講演で「国家防衛戦略」について説明した。以下、公表版の主な内容を紹介する。

1.戦略環境

1)アメリカの繁栄と安全保障における核心的な課題は、修正主義大国による長期的な戦略的抗争の再現である。中国とロシアは、彼らの全体主義的モデルに合致した世界を形成しようとしていることは、益々明らかになってきている。

2)中国:中国は、インド太平洋地域を自らに都合の良いように再編することを狙いとして、軍事力の近代化、影響力の拡大作戦そして略奪的な経済を梃子に近隣諸国を威嚇している。中国は、挙国一致の長期的戦略を通じてパワーを誇示するために経済的、軍事的台頭を続けており、近い将来におけるインド太平洋地域の覇権を追求し、将来的にはグローバルな卓越の座を獲得することを目指してアメリカに取って代わるために、引き続き軍事近代化計画を推進していくであろう。アメリカの国防戦略の最も遠大な目的は、米中両国の軍事関係を、透明で非侵略的な道に導くことである。

2)ロシア:ロシアは、NATOを解体し、欧州と中東における安全保障と経済の構図を自国に有利になるように変えていくことを目指して、周辺諸国の政治、経済そして外交上の決定を拒否する権力を追求している。ジョージア、クリミア及びウクライナ東部における民主的プロセスを貶め、転覆するために最新の技術を使うことは大きな懸念であり、これらの技術が核戦力の増強や近代化と結びつけば、その脅威は一層明らとなる。

3)北朝鮮やイランのような「ならず者国家」は、核兵器の追求やテロを支援することで、地域の不安定要因となっている。北朝鮮は、政権の生き残りの保証を求め、韓国、日本そしてアメリカに対する威嚇的影響力を獲得するために、核、生物、化学、通常及び非通常兵器と、弾道ミサイル能力の増強を追求することで、力を強化してきた。中東では、イランが地域派遣を目指して近隣諸国と抗争している。

4)アメリカの軍事的優位に対する挑戦も、グローバルな安全保障環境におけるもう1つの変化である。アメリカは、何十年にも亘って、あらゆる軍事的運用面において、他に並ぶものなき優位を享受してきた。アメリカは、自ら望む時に米軍を展開し、望む場所に集結させ、そして望む方法で軍を運用することができた。今日、アメリカは、あらゆる側面―空、陸、海、宇宙そしてサイバースペースにおいて競争している。安全保障環境はまた、急速な技術的進歩と、戦争の性格の変化によっても影響を受けている。最早、米本土は聖域ではない。アメリカは、テロリスト、サイバー攻撃、あるいは政治的、情報的攪乱の標的となっている。

2.国防省の目標

1)中国、ロシアとの長期的な戦略的抗争は国防省の最優先課題であり、これらがアメリカの今日の安全保障と繁栄に対する大きな脅威であり、将来的にこれらの脅威が増大する可能性があることから、持続的な投資の増大が必要である。同時に、国防省は、北朝鮮やイランの「ならず者」国家を抑止し、対抗し、アメリカに対するテロの脅威を打ち負かし、そしてイラクとアフガニスタンにおける成果を確かなものにするための努力を持続する。

2)国防省の目標には、以下が含まれる。

①国土を攻撃から護る。

②統合戦力の軍事的優位性を、全世界と重要な地域において持続する。

③アメリカの死活的に重要な国益に対する敵の侵害を抑止する。

④アメリカの影響力と国益を増進する国防省関係他省庁による努力を支援する。

⑤インド太平洋、欧州、中東、及び西半球における地域的な力の均衡を有利に維持する。

⑥同盟国を軍事的侵略から護り、威嚇に対してパートナー諸国を支援し、共通の防衛のための責任を公平に担う。

⑦敵性国家や非国家組織が大量破壊兵器を獲得し、拡散し、使用することを思い止まらせ、予防し、抑止する。

⑧テロリストが米本土、海外の米市民、同盟国及びパートナー諸国に対して外部から作戦を指示したり、支援したりすることを予防する。

⑨自由で開かれた共通のドメイン(領域)を維持する。

⑩国防省の思考方法、文化、管理システムを継続的に改良し、適正なコストとスピード感をもった業務遂行能力を維持していく。

⑪国防省の運営を効果的に支え、安全保障と財政基盤を維持する、21世紀の国家安全保障イノベーション基盤(National Security Innovation Base)を確立する。

3.同盟体制の強化と新たなパートナー国の誘引

1)互恵的な同盟やパートナーシップは、アメリカの戦略にとって不可欠なものであり、抗争相手やライバルが追随できない、持続する非対称な戦略的利点を提供する。我々は、同盟国とパートナー諸国を、現代の共有する課題に対処するために、抑止し、決定的に行動できる拡大されたネットワークに組み込み、強化していく。我々の同盟と連携関係は、自由な意志と責任の共有に基づいて構築されている。我々はコミットメントを維持するが、他方で、我々は、同盟国とパートナー諸国に対して、自らの防衛力に対する効果的な投資を含む、互恵的な集団的安全保障に公平な負担によって貢献することを期待している。

2)インド太平洋地域の同盟関係とパートナーシップの拡大:自由で開かれたインド太平洋地域は、関係国全てに繁栄と安全を提供している。我々は、インド太平洋地域の同盟関係とパートナーシップを、侵略を抑止し、安定を維持し、そして共通のドメインに対する自由なアクセスを保証することができる、ネットワーク化された安全保障構図として強化していく。我々は、域内の主要国とともに、自由で開かれた国際システムを維持するために、2国間と多国間の安全保障関係を維持していく。

記事参照:Summary of the 2018 National Defense Strategy of The United States of America, Sharpening the American Military's Competitive Edge

117日「米海軍駆逐艦、スカボロー礁周辺海域を航行」(Reuters.com, January 20, 2018

 米当局者によれは、米海軍ミサイル駆逐艦USS Hopper117日夜、南シナ海のスカボロー礁(黄岩島)周辺海域を航行した。中国外交部報道官は120日の声明で、中国が領有を主張する南シナ海のスカボロー礁から12カイリ内の海域に、米海軍ミサイル駆逐艦USS Hopper117日夜、中国政府の許可を得ずに進入したと批難し、中国は今後主権を守るために「必要な措置」をとると言明した。2人の米当局者は、USS Hopperがスカボロー礁の12カイリ以内の海域を航行したことを確認した。米当局者は匿名を条件に、USS Hopperの航行は国際法に従って実施された「無害通航」であった、と語った。スカボロー礁は、フィリピンのEEZ内にあるが、中国は海警局の巡視船が恒常的に配備し、2012年以来4年以上にわたって事実上封鎖してきたが、ドゥテルテ比大統領の求めで201610月に解除された。

記事参照:China says U.S. warship violated its South China Sea sovereignty

【関連記事1

「中国、南シナ海で対決を望んでいる―米専門家論評」(The National Interest, January 24, 2018

 The Coming Collapse of Chinaの著者Gordon G. Changは、124日付のThe National Interest(電子版)に、"China Wants Confrontation in the South China Sea"と題する論説を寄稿し、中国は南シナ海の支配を巡って対決を望んでいるとして、要旨以下のように述べている。

1)米海軍ミサイル駆逐艦USS Hopper117日に南シナ海のスカボロー礁(黄岩島)から12カイリ以内の海域を航行する、「航行の自由」(FON)作戦を実施した。しかし、この事実は、北京が公表した。このことから、中国は対決を望んでいると結論づけざるを得ない。2012年春のスカボロー礁を巡ってフィリピンと中国が対峙した際、ワシントンは双方の撤退協定を仲介した。しかし、撤退したのはフィリピンだけで、中国は居座り、以後同礁を実効支配している。残念ながら、ワシントンは、中国との対立を回避できるとの考えから、協定履行を強要しなかった。しかしながら、ホワイトハウスの不作為は問題をより大きくし、北京の強硬派を勇気づけることになった。更に、米国の同盟国がワシントンのリーダーシップに疑問を抱くようになった。今になって、米国の政策立案者達は、ドゥテルテ比大統領が北京に擦り寄っていると不満をいう。米国の優柔不断な政策は、この群島国家の防衛を約束している唯一の国である米国よりも、今や中国の方がマニラに対してより大きな影響力を及ぼすという状況を招来している。

2)中国の高まる自信と高圧的態度を考えれば、USS HopperFON作戦に対する中国の厳しい反応は、驚くべきことではない。ワシントンの反応は何時もの通りで、「全ての軍事活動は、国際法に従って行われ、そして国際法が許す限り、米国は何処でも飛行し、航行し、そして軍事活動を行う」というものであり、個別のFON作戦には言及しなかった。米当局者は、この通航は「無害通航」でFON作戦ではないと述べた。しかしながら、マニラがスカボロー礁の唯一の支配者であれば、USS Hopper 12カイリ以内を決して通航しなかったであろう。当然ながら、通航を動機付けた要因は中国である。南シナ海に対する支配を拡大するという中国の目標から見れば、「無害通航」は逆効果的な対応である。米海軍大学のHolmes教授は、筆者(Chang)に対する電子メールで、「我々は、『自滅的行動』をとっているとして、指導者たちを常に非難している」とコメントした。同教授は、「匿名の当局者がUSS Hopper の通航は『無害通航』だったと述べたというが、彼は罪を犯している」「無害通航とは、特定国家の主権下にある領域から12カイリ以内の海域を艦艇が通航することである」「従って、もしUSS Hopper の通航を無害航行と表現するならば、我々は、中国がスカボロー礁に対する合法的な主権国であり、同礁が周辺12カイリに領海を有していることを明確に認めたことになる」と指摘した。しかしながら、スカボロー礁は完全にフィリピンのEEZ内にある。更に、20167月のハーグの南シナ海仲裁裁判所の裁定は、同礁が12カイリの領海を有しないとしている。同教授は、「スカボロー礁周辺海域の通航は、無害通航ではないことを誇示しなければならない」「我々は、通航によって、ハーグ裁定を無視する中国の非合法な主張にお灸を据えたことを、世界に示さなければならない。それが、我々が自滅することを避ける方法である」と述べている。

3)米当局者は長年、北京を怒らせないことを望んで、中国が実効支配する海洋自然地勢周辺海域におけるFON作戦を、「無害通航」としてきた。残念ながら、この戦略は、願望とは反対の結果を生み出してきた。しかしながら、トランプ政権は、中国に対する40年に及ぶ米国のソフトなアプローチを変えつつある。その「軸足移動」は、201712月の「国家安全保障戦略」と、119日の「国家防衛戦略」に明らかである。これらの文書は、中国を本質的に敵対国と見なしている。しかし、政策の歴史的変化が実現するには何年もかかる。元太平洋艦隊情報将校Fanellは、「私の考えでは、宥和政策の悪影響を元に戻すためには、まだ長い道のりを要する」とし、「我々には、中国の拡張主義的行動に公然と挑むよりも、『刺激しない』あるいは『気分を害さない』ことに同調するように教え込まれた、何世代にもわたる政府職員がいる。北京の乱暴な拡張主義に挑むことを明確に意図している、『国家安全保障戦略』と『国家防衛戦略』という2つの新しい政策文書にもかかわらず、これが現実である」と指摘しているが、これは間違いないことである。米国の政策立案者達は、米国に対する北京の公然たる敵意に戸惑っている。明らかに、中国当局はUSS Hopper の通航を無視することもできたはずだが、それを問題視した彼らの選択は、彼らが喧嘩を仕掛けることを決意したことを示唆している。

記事参照:China Wants Confrontation in the South China Sea

【関連記事2

「中国は南シナ海で対決を望んでいない―米海大教授論評」(The National Interest, January 29, 2018

 米海軍大学教授James Holmesは、129日付のThe National Interest(電子版)に、"No, China Doesn't Want Confrontation in the South China Sea"と題する論説を寄稿し、前掲の Changの論説に反論する形で、中国は南シナ海で対決を望んでいないとして、要旨以下のように述べている。

1)前掲論説で、Changは「中国は南シナ海で対決を望んでいる」と主張している。キーワードは「望んでいる」(wants)ということである。対決に備えるのは全ての戦略的指導者の仕事ではあるが、対決を「渇望する」(crave)良識的な指導者はほとんどいない。これには、中国の指導者も含まれる。中国共産党の指導者達は、南シナ海で自滅的な政策や戦略を追求しているのかもしれない。彼らは、対決の方向に身を委ねたのかもしれない。しかも、ご都合主義は彼らのモットーであり、彼らは、外交的、戦略的に優位な状況で対決事態になれば、その方向に突き進むことは間違いないであろう。しかし、戦いを「望む」ことは全く別のことである。事態の認識を間違えれば、過剰対応、過小対応あるいは誤った対応を引き起こしがちである。プロイセンの軍事思想家クラウゼヴィッツはいう。「侵略者は常に平和を愛好する(ナポレオンすら、このように自称していた)、防御者の国家に穏便に侵入することは、侵略者の最も望むところなのである。しかし侵略者にかかる行為を許すことができないからこそ、防御者は戦争を欲せざるを得ないし、従ってまた戦争の準備を整えていなければならないのである。換言すれば、侵略者の奇襲を予期して常に武装しているのは弱者、即ち防御を事とする者の側である。戦争術とはこのようなものなのである。」(翻訳は篠田英雄訳『戦争論(下)』から引用)もし我々が侵略者の要求に屈したり、あるいは巧みな外交が常に勝利するといった薄っぺらな錯覚に陥ったりすると、我々はクラウゼヴィッツ的苦境に陥りがちである。

2USS Hopper の通航について、考えてみよう。「航行の自由」―あるいはより正確にいえば、「海洋の自由」―という用語は、我々が海洋での紛争を求める、あるいは回避しようとする中国の意図をどのように表現するかということと、同じほど重要な問題である。匿名の米当局者が、USS Hopper の通航を「航行の自由」の誇示と同じであるとのメッセージを送りながら、これをスカボロー礁周辺海域における「無害通航」と分類した。そうではない。国連海洋法条約(UNCLOS)では、「無害通航」とは、主権国に属する領域の領海を通航する船舶に関する用語である。同条約の規制では、他国の領海を通航する軍艦に対して、軍事調査活動や航空作戦などの沿岸国の安全保障を侵害する活動の停止を義務付けている。言い換えれば、軍艦は他国の領海を航行できるが、こうした活動が禁止されているということである。従って、もしUSS Hopper が実際にスカボロー礁周辺海域を「無害通航」し、そしてもし国防省がそれを認めるのであれば、この通航は、中国の近隣沿岸国のEEZの奥深くにある海洋自然地勢に対して中国の主権が及ぶことを認めたことになる。

3)要するに、自らの行動を誤って特徴づけることは、結局、戦略家がいうところの自滅的な行動、あるいは門外漢の表現では自ら墓穴を掘るということになる。しかも、それは、そもそもUNCLOSの規定に従えば、スカボロー礁が如何なる海洋権限も有しないという事実さえ、考慮していない。従って、どの国の船舶も、漁業活動や海底の天然資源の抽出以外は、当該海域で合法的にほとんど全ての活動ができるし、またそうすべきである。中国は、その強力な海軍力と沿岸警備隊を背景に、スカボロー礁を無主の海洋自然地勢と主張するが、フィリピンは、同礁周辺海域の天然資源を採取する独占的権利を有している。何故なら、スカボロー礁自体は如何なる海洋権限も有しないが、同礁はフィリピン沿岸から200カイリの同国のEEZ内に位置するからである。繰り返すが、USS Hopper の通航を「無害通航」として性格付けることは、「海洋の自由」の擁護者に抗議することを求めるようなものである。船乗りは、故意であれ、無意識であれ、非合法な領有権主張を承認することは何もすべきではない。

記事参照:No, China Doesn't Want Confrontation in the South China Sea

124日「『インド太平洋』の真のドライバーは米国ではなく日本―RSIS専門家論評」(RSIS Commentaries, January 24, 2018

 シンガポールのS.ラジャラトナム国際関係学院(RSIS)上級アナリスト、Harry H Sa は、124日付のRSIS Commentariesに、"Japan: Real Driver Behind the Indo-Pacific"と題する論説を寄稿し、トランプ政権で「インド太平洋」は市民権を得た用語となったが、その推進役は米国ではなく、日本だと指摘し、要旨以下のように述べている。

1)トランプ大統領は、アジア太平洋地域歴訪の中で「アジア太平洋」という言葉を用いず、「インド太平洋」という新たな用語を用いた。これは、米国がアジア太平洋地域に関与するという意思表示のみならず、その関与をインド洋にまで広げるという、明確なメッセージであった。「インド太平洋」構想を真に理解するには、米国ではなく、日本に注意を向けなければならない。

2)「インド太平洋」という概念は、学界やシンクタンクの研究者、政策立案者などの玄人集団の中で議論されてきた。そのルーツは、長年の同盟国である米国、日本そしてオーストラリアが一連の高官級会合、「3カ国安全保障対話」(the Trilateral Security Dialogue)を始めた、2002年に遡る。その5年後の2007年に、3カ国は、戦略対話にインドを公式に招請し、地理的領域をインド洋にまで拡大した。「4カ国安全保障対話」(the Quadrilateral Security Dialogue)なる平凡な名称を冠するこの対話は、2つの海洋に跨がる地域に平和と安定を保障する民主主義国家の弧を創設しようとする試みであった。4カ国の試みは、実際のところ軌道に乗ったわけではなかった。中国は、「4カ国安全保障対話」を、自国の成長を阻むことを狙いとした冷戦型の封じ込め戦略だと見なした。北京は、4カ国に抗議し、特にオーストラリアに圧力をかけた。ラッド政権下のキャンベラは、中国の圧力に屈し、安全保障対話から離脱した。以後、「インド太平洋」を巡る状況は、進展と停滞の狭間で常に揺れ続けてきた。実際、トランプ大統領の2017年末のアジア歴訪まで、いかなる実質的あるいは具体的な進展もなかった。

3)トランプ大統領のアジア歴訪から1カ月後に公表された、「国家安全保障戦略」(NSS)では、「アジア太平洋」の文言はなく、「インド太平洋」という地理概念が強調され、NSSの地域戦略の記述で、「インド太平洋」地域が最初に取り上げられた。NSSが米国の一般的戦略方向の説明を目的としていることを考慮に入れても、インド洋との関連性に関するNSSの記述は、台頭するパワーとしてのインドに関するわずかな言及を除いて、あまりに漠とし過ぎたものであった。それにもかかわらず、トランプ政権は、重要とはいえないまでも、象徴的な外交文書の中で、呼称の変更を適切だと見なした。しかし、NSSには真の戦略が欠けている。その理由は単純である。即ち、「インド太平洋」は米国の戦略ではなく、日本の戦略だからである。

42007年に日本の安倍首相の強い主張を受けて、「3カ国安全保障対話」にインドが加えられた。この年、安倍首相は、インド国会で「二つの海の交わり」と題する演説を行い、自身の構想を始めて公表した。その約10年後の2016年に、日本で開催された「第6回アフリカ開発国際会議」において安倍首相は、「インド太平洋」をアフリカに対する開発戦略の中心概念と位置づけた。最終的にこの開発戦略は、20173月のアフリカ開発銀行総会で正式に打ち出された、「アジア・アフリカ成長回廊」(the Asia-Africa Growth Corridor)へと発展した。「アジア・アフリカ成長回廊」が東南アジア、インド洋そしてアフリカにおける協力や開発、海洋安全保障を念頭に置いていることを考えると、これは、明らかに日本版「一帯一路」構想(BRI)といえるものである。日本は中国の足元に手袋を投げつけたことになったが、今のところ挑戦者は日本のみである。

5)米国は、北朝鮮の核問題や中国の不公正な貿易慣行に気を取られるあまり、日本の先導にただ従っているだけで、後方から日本を支援する立場に甘んじているように思われる。トランプ大統領がアジア歴訪で日本を訪問した際、日米両国は、「インド太平洋」諸国に対して中国のBRIよりもよく管理され、一層高品質なインフラ整備を約束する、多くの合意に調印した。しかしながら、それでもまだ、米国は漂流している。その意味するところは、アジア諸国にとって残念なことに、米国の「アジア太平洋」地域に対するアプローチは、未だアドホックで、部分的であり、包括的な地域戦略が待たれる状況にあるということである。米国が再び主導しないのであれば、更なる発展のために地域諸国が期待するのは、日本ということになろう。

記事参照:Japan: Real Driver Behind the Indo-Pacific

125日「現実味を帯びる大規模紛争―英誌エコノミスト論評」(The Economist.com, January 25, 2018

 英誌、The Economist(電子版)は、125日付で、"The next war: The growing danger of great-power conflict"と題する論説を掲載し、様々な要因から米国の軍事面での優位性が薄れた結果、大規模紛争が現実味を帯びてきていると指摘し、要旨以下のように述べている。

1)差し迫った危機は朝鮮半島の戦争で、ことによると2018年中に起こるかもしれない。トランプ米大統領は、北朝鮮の金正恩が核弾頭を搭載した弾道ミサイルで、米国を攻撃できる能力を獲得するような事態を防ぐと明言した。最近の実験は、金正恩がそうした能力を既にではないにせよ、数カ月以内に獲得し得ることを示している。米国防省は、多くの緊急事態対処計画の中で、北朝鮮の核施設を無力化する先制攻撃の検討を行っている。こうした攻撃が成功する公算は小さいが、大統領の命令が下された暁には実行する準備がなされているに違いない。例え限定攻撃であっても、全面戦争を引き起こしかねない。何万人もの人が死ぬであろうし、核兵器が使用されれば死者数は跳ね上がる。トランプ大統領と補佐官らは、核武装した北朝鮮はあまりに無謀な国家と化し、核の拡散を引き起こす可能性が非常に高い、従って、将来米国の都市に核攻撃が行われる前に、現在の朝鮮半島で戦争のリスクを取ったほうがよい、と結論づけるかもしれないが故に、戦争の可能性は現実味を帯びているのである。

2)中国が第2次朝鮮戦争に介入しなかったとしても、中国とロシアは、西側との新たな大国間抗争を再開している。両国の野心への対処は、北朝鮮への対処よりも厄介なものとなろう。30年に及ぶ空前の経済成長は中国に軍を変革する富と、その指導部に中国の時代が到来したとの現状認識をもたらした。逆説的に、長期的な衰退傾向にあるロシアは、自己主張を強める必要に迫られている。ロシア指導部は、自国のハードパワーを再建すべく巨費を投じ、ロシアが尊厳と相応の地位を得るに値することを示すべく、進んでリスクを冒す用意がある。中ロ両国は、米国がほとんど単独で打ち立て、保障してきた秩序から恩恵を受けてきた。しかし、両国は、その秩序の根幹である普遍的な人権や民主主義、法の支配を、外国に干渉の口実を与え、自らの正統性を損なう押しつけだと捉えている。今や、中ロ両国は現状の変更を望み、自国周辺地域を支配すべき勢力圏と見なす修正主義国家である。中国にとっての勢力圏は東アジアであり、ロシアにとっての勢力圏は東ヨーロッパと中央アジアである。中国もロシアも、勝てる見込みがない米国との直接的軍事対立を望んではいないが、特に西側との軍事的対立を起こす敷居よりも若干下の「グレーゾーン」を突くために、ロシアはウクライナで、そして中国は南シナ海の係争海域で、自国の増大するハードパワーを新たな方法で利用してきた。

3)中国とロシアは、長距離精密誘導爆撃や電磁波攻撃など、米国が生み出した軍事技術を取り込んできた。その結果、中ロと対決するコストは劇的に跳ね上がった。中ロ両国は、「接近阻止/領域拒否」ネットワークを形成すべく、非対称戦戦略を活用してきた。中国は、二度と安全に東シナ海と南シナ海に戦力投射できない太平洋の彼方へ、米海軍を追いやろうとしている。ロシアは、北極海から黒海に至るまで自国が敵対国よりも強い火力を動員でき、そうすることを躊躇しないと、世界に知らしめたがっている。意図的にせよ、あるいは米国の政策が事態に対応できないほど機能不全に陥ったためにせよ、中国とロシアが地域で覇権を確立することを看過すれば、両国が自国の利益を力ずくで追求することを許すことになる。その最新の事例は第1次世界大戦であった。1945年以降の大国関係の安定をもたらしてきた核兵器も、危険要因になるかもしれない。核兵器の指揮統制システムは、新たなサイバー兵器によるハッキングや、システムが頼りとする人工衛星の「目つぶし」に対して脆弱となっている。そのような攻撃に晒された国家は、核兵器のコントロールを手放すか、核兵器を使用するかの選択を迫られる状況に陥りかねないからである。

4)では、米国はどうすべきか。ほとんど20年に及ぶ米国の戦略的漂流は、ロシアと中国の思うつぼであった。ブッシュ(子)の不首尾に終わった戦争は米国の注意を散漫にした上、米国のグローバルな役割に対する米国民の支持をなくした。オバマは縮小的な外交政策を進め、ハードパワーの価値に公然と疑義を呈した。現在のトランプ大統領は、米国を再び偉大にしたいと述べているが、全く誤った方法でそれを追求している。彼は、国際機関を嫌い、同盟を望まない負担として扱い、米国の敵対国の権威主義的な指導者を公然と称賛している。トランプ大統領は、あたかも米国が築いたシステムの防衛を放棄し、ロシアと中国のグループに新たな好戦的修正主義国家として参加することを望んでいるようだ。米国は、国際システムの主たる受益者であり、持続的な攻撃から自国を防衛する能力と資源を有する唯一の国家であることを受け入れる必要がある。忍耐と一貫した外交というソフトパワーは重要ではあるが、それには中国とロシアが一目置くハードパワーによって裏打ちされていなければならない。米国は依然この種のハードパワーを十分に有しているが、同盟国に信頼を与え、敵に恐怖を与える軍事技術分野で急速に優位を失っている。外交との釣り合いを図るためにも、米国は、ロボット工学や人工知能、ビックデータ、指向性エネルギー兵器などに基づいた新システムへ投資する必要がある。

5)世界平和の最良の保証人は強い米国である。幸運にも、米国は依然として優位を維持している。しかしながら、これらの優位はあまりにも簡単に覆され得る。米国の国際秩序への関与と、決然とした能力ある挑戦者から国際秩序を守る米国のハードパワーなしには、危機は拡大していくであろう。そうなれば、将来の戦争は、あなたが考えるよりも早く起こることになろう。

記事参照:The next war: The growing danger of great-power conflict

126日「中国、『北極政策白書』公表」(Xinhuanet.com, January 26, 2018

 中国の新華社によれば、中国国務院新聞弁公室は126日に中国初の「北極政策白書」を公表した。白書は、「中国は、責任ある主要国として、北極開発における歴史的好機を生かすとともに、北極地域の変化によってもたらされた課題に対処するために、全ての関係国と協力していく用意がある」と述べている。また白書は、「一帯一路構想」(BRI)の下に「北極シルクロード」(a "Polar Silk Road")を開発するために、関係国と協力していくとしている。中国企業は、「北極シルクロード」のインフラ整備に参画するとともに、定期的な商業航行に向けて、航行の安全を重視した試験航行を実施するよう促されている。また、中国は、先住民を含む北極圏住民の伝統と文化を尊重し、そして北極圏の自然環境を保全しながら、北極圏諸国と共同で、石油、天然ガスそして鉱物資源の開発や、観光事業などの開発を進めていくとしている。

記事参照:China publishes Arctic policy, eyeing vision of "Polar Silk Road"

Full text: China's Arctic Policy

http://www.xinhuanet.com/english/2018-01/26/c_136926498.htm

Xinhuanet.com, January 26, 2018

128日「『4カ国安全保障対話』における有言不実行―豪専門家論評」(East Asia Forum, January 28, 2018

 豪シドニー大学教授James Curranは、128日付のEast Asia Forumのサイトに。"All shot and no powder in the Quadrilateral Security Dialogue"と題する論説を寄稿し、米日印豪を結びつける「4カ国安全保障対話」の実際の機能に疑問を呈し、要旨以下のように述べている。

1)いわゆる(米国、日本、インド、オーストラリアを結びつける)「4カ国安全保障対話」('Quadrilateral Security Dialogue')に対するオーストラリアの支持者は、今や順風満帆の感を抱いているに違いない。2017年末、ターンブル政権の外交政策白書は、(「4カ国枠組」(the 'Quad')には直接言及していないが)オーストラリアは「多国間枠組」における取り組みに一層努力することを明らかにしたた。その後間もなく、トランプ米大統領の「国家安全保障戦略」は、米国が東京、ニューデリーそしてキャンベラとの「4カ国協力を拡大する」ことを確認した。米国防省の「国家防衛戦略」の公表版は、ワシントンによる「インド太平洋」における同盟とパートナーシップの拡大の意図を明確にした。米国による2つの新しい戦略文書の発表は、「4カ国枠組」に対する新たな期待を高めた、恐らく最も重要な要因であった。米国のアジアの同盟国は、これらの文書がより伝統的な米国のアジア政策を再確認したことで、トランプ政権当初の懸念がある程度和らげられた。

22007年にキャンベラが「4カ国枠組」から撤退したことによる失望と疑念を経て、民主主義の4カ国が再び結集したことは、注目に値する外交的発展であることは間違いない。この「4カ国枠組」は本質的に、その支持者が望んでいる役割―即ち、中国に対する警告を発信すること―を既に果たしている。一方で、「4カ国枠組」に伴う問題は、この枠組の提唱がどれほど重要か、あるいは象徴的かが問題なのではなく、遅かれ早かれその戦略的意図を満たす実質的な中身の欠如が明らかになるであろうことである。オーストラリアの指導者達にとって、「4カ国枠組」は、時にその名を語るのも憚れる程愛しいもののようである。 最近の東京における安倍首相との首脳会議で、ターンブル首相は、「4カ国枠組」について全く言及なかった。パイン国防産業担当大臣は、最近のニューデリー訪問で、「4カ国枠組」はこの地域の誰からも「中国の行動を制限する何らかの試み」として理解されていないが、「4カ国全てにとって有用な何か」に発展する可能性がある、と不鮮明な期待を語った。The Australian Financial Reviewとのインタビューで、安倍首相は、「4カ国枠組」が必然的に如何なる軍事活動も伴うものではないことを強調した。彼は、協力の重要性について「私たちの声を上げる」ことの重要性を強調し、航行の自由、海洋法令執行能力そしてインフラと港湾における国際水準の促進に関しては、特にそうだと述べた。合同軍事演習も協力分野の1つだが、東京とキャンベラは、米国に追随して、南シナ海における係争海域の12カイリ以内を航行することには、依然として気が進まないようである。

3)これは、「4カ国枠組」に付きまとって離れない問題を巧みにはぐらかす発言である。その提唱者達は、それがNATOアジア版を目指すこと、あるいはそれが「形成中の同盟」と見られることを、躍起になって否定する。彼らは、「4カ国枠組」が何であるかではなく、それが何かではないことを強調しがちである。4カ国は共通点と価値観を共有しているが、各国とも、それぞれの核心的国益に照らせば、特にそれが中国に関わる場合、多くの相違点があることを承知している。より組織化された「4カ国枠組」は幾つかの肯定的な成果をもたらす可能性があるかもしれないが、キャンベラの安全保障強硬派に愛されるものではない。何故なら、1つには、インドがそのような義務を決して受け入れることがないために、台湾を巡る米中紛争中において、オーストラリアがワシントン側に立って行動する義務から確実に解放されるからである。宣言政策の重要性以上に、「4カ国枠組」における真の戦略的バラストを見出すことは難い。

記事参照:All shot and no powder in the Quadrilateral Security Dialogue

【関連記事】

「『インド太平洋』概念に見る戦略的混乱―豪専門家論評」(East Asia Forum, January 29, 2018

 オーストラリア国立大学East Asia ForumEditorial Boardは、129日付のEast Asia Forumのサイトに、"Sorting out strategic confusion in the Indo-Pacific"と題する論説を掲載し、「インド太平洋」と「4カ国枠組」を通じた思考をめぐる混乱について、要旨以下のように述べている。

1)「インド太平洋」概念は軌道に乗っているように見えるが、その中身は未だ定かではない。既に具体化している、米国、オーストラリア及び日本との間の「アジア太平洋」安全保障協力に含まれていないのは、インドである。しかし、インドの「4カ国枠組」(the Quad)論者は別にして、ニューデリー政府は依然、これに慎重な姿勢を見せている。その理由は、1つには、ニューデリーは、現在以上に中国との2国間関係を複雑にしたくないと考えていることである。もう1つの理由は、米中抗争に巻き込まれたくないと考えているからである。インドにおける中国の増大する影響力に対する懸念の高まりと、モディ首相の活発な国際主義的活動にもかかわらず、インドの外交安全保障政策の心情は非同盟中立の伝統に深く根ざしており、直ちに新たな方向に旋回する可能性は低い。これはインドの国際政治におけるDNAともいうべきものであり、日本の憲法9条に対する心情と同じものである。特に「4カ国枠組」が域内と世界におけるインドの戦略的行動に多くの不確実な負担や制約を強いることになるが故に、インドの現在の政治状況は、中国とのパワーゲームにおいて米国の手先になるという考えを納得して受け入れるようなものではない。

2)もう1つの弱点は、インドとオーストラリアの関係である。この関係は、深い相互理解と親密さが欠けている。日本では、印豪関係を「4カ国枠組」における最も弱いリンクと見なされている。印豪関係には、オーストラリアが日米両国との間で享受しているような、相互理解と信頼醸成がない。印豪2国間軍事演習はごく最近の出来事であり、両国軍間の実務協力の歴史は(2004年のインド洋大地震と津波に対応した経験を除いて)極めて限られたものである。「4カ国枠組」における閣僚レベルの交流は将来的な議題であり、それが実現するまでには、数カ月ではなく数年を要するであろう。

3)日本の外交的発言は、「インド太平洋」を自由で繁栄する地域とすることを強調するが、「4カ国枠組」への言及を避けている。安倍首相は、「4カ国枠組」が必然的に如何なる軍事活動も伴うものではないことを強調している。安倍首相は、特に航行の自由、海洋法令執行能力そしてインフラと港湾における国際水準の促進における協力の重要性について言及している。合同軍事演習もその一環と思われるが、東京もキャンベラも依然として、米国に追随して、南シナ海の係争海域の12カイリ以内を航行する意志はないようである。

4)この地域における外交場裏は極めてトリッキーである。それは、封じ込め思考の中に中国を取り込むという問題だけではない。オーストラリアの最も近い隣国であり、この地域の民主的パートナーであるインドネシアは、「4カ国枠組」にどう適合するのか。また、韓国はどうか。この枠組による「戦略的利益」の追求は、米国と中国との間にあって微妙なバランスを維持することに腐心している、ASEANを含むその他の域内諸国と、オーストラリア、日本及び米国との間の距離を広げることになるのか。ASEAN諸国の多くは、如何なるミニラテラルなグループに参加することにも非常に慎重であり、多国間および2国間の枠組みを通じて外部の大国との協力関係の強化を意図的に推進している。この文脈において、日本は、非現実的な「コアリション」枠組を提案するよりも、むしろ2国間、多国間ベースでのASEAN諸国との地域防衛協力を徐々に拡大してきた。日本はまた、「4カ国枠組」のような固定されたグループ化よりも、より柔軟で問題ベースのアプローチを選択してきた。「4カ国枠組」に向けての躓きは、大国間抗争を改善するデリケートな地域戦略を根本的に不安定にしかねない。むしろ、「4カ国枠組」の下における地域秩序は、大国間抗争を一層悪化させることになるかもしれない。

5)「インド太平洋」と「4カ国枠組」における戦略思考を巡る混乱は、北京の外交安全保障政策アナリストを含む、誰の目にも明らかだが、ボールは中国のコートにあることも事実である。中国は、その多国間主義的意図を地域に保障するとともに、中国が望む共有された国際共同体の実現に向けて近隣諸国と協同する、強いインセンティブを持っている。日本とオーストラリアは、安倍首相が約束しているように、この地域における中国との関与に対して寛容であるべきである。現時点で中国が自制的で、公正かつ規律の取れた姿勢を示せば、それは、「4カ国枠組」が明確な成果を達成でなくとも、この枠組を支持する大半の人々が期待している以上に、この地域の大国間関係にとってより良い結果を確実に約束するであろう。

記事参照:Sorting out strategic confusion in the Indo-Pacific

130日「『北極近傍国家』を自称する中国の鉄面皮―米専門家論評」(Asia Times.com, January 30, 2018

 元米海兵隊大佐で日本戦略研究フォーラム(JFSS)上級研究員Grant Newshamは、130日付のWeb誌、Asia Timesに、"China as a 'near Arctic state'-chutzpah overcoming geography" と題する論説を寄稿し、「北極近傍国家」と自称する中国の鉄面皮ぶりについて、要旨以下のように述べている。

1)中国は、膨張する自国の国益を正当化するために、虚偽の地理的主張をしばしば用いてきた。過去数十年に及ぶ中国滞在歴を持つ匿名希望の西側の専門家は、「北極近傍国家」("near Arctic state")という定義は法的にも国際的にもなく、中国の造語であり、彼らはそれを他国に受け入れさせようと企てている。

2)「北極近傍」(the "near Arctic")なるフレーズ 56年前に初めて使われてから、中国が、国益追求のために、どのようにして概念、原則、語彙そしてその正当化のロジックを構築していくかを示す、古典的な事例の1つとなっている。

a.第1段階:ある用語が中国の無名学術誌に登場する。反応を評価し、そのプロセスが継続される。

b.第2段階:当該用語が中国の地方紙に登場する。反応を評価し、そのプロセスが継続される。

c.第3段階:当該用語が中国の全国会議やセミナーで使われる。反応を評価し、そのプロセスが継続される。

d.第4段階:当該用語が新華社や人民日報の記事で使われる。反応を評価し、そのプロセスが継続される。

e.第5段階:当該用語が中国で行われる国際会議や学術交流で使われる。反応を評価し、そのプロセスが継続される。

f.第6段階:中国が当該用語を頻繁に各国メディアに、そして国際会議で言及するようになる。当該用語の受容状況を評価し、そのプロセスが継続される。

g.第7段階:中国は、その立場、それが持つ権利、その権利の「防衛」を正当化する脅威を記載した政策白書を刊行する。

h.第8段階:米マイアミ大学のDreyer教授が新たに加えるこの段階では、中国は、この立場は「以前から」中国の政策であり、何ら変更されたわけではないと主張する(その意味するところは、「慣れろ、野蛮人ども」)。

3)前出の専門家が説明するところでは、この一連のプロセスは大抵、「古代」地図、提督の「航海日誌」、発掘された「埋蔵物」などから始まる。そしてDreyer教授は、半分皮肉を込めて、「中南海の奥深い何処かには、『新古文書部』('Department of New Ancient Documents')なる名称の部署があるに違いない。その部署内部では、どの王朝の主張も「再主張」できるよう、書道家が化学的に同一の用紙に、時代に合わせて忠実に再現された筆とインクで書筆している。従って、どんな決定的証拠も生産できるのだ」と強調している。しかしながら、前出の専門家は、中国の指導部が一連のプロセスを短縮できると見なしたことから、「北極近傍」は一連のプロセスを辿らなかったと指摘している。中国が過去数年で南シナ海における事実上の支配権の確立に成功したことを思えば、それは正しいのかもしれない。

4)前出の専門家は、中国が目下、アラスカで歴史的なプレゼンスを有してきたとする論拠を準備していると見ている。中国の「北極近傍」キャンペーンは、独自の目的を持ったものだが、米国の49番目の州とその先の地域に対する歴史的、文化的そして文明的「貢献」を主張する誘導路としての役目も果たしている。彼は、世界地図を眺めれば、如何に中国の主張が馬鹿らしいとまではいわなくとも、向こう見ずなものかが分かるはずだ、と主張する。中国の北端である漠河県は、北緯5329分に位置している。この基準に当てはめれば、アイルランドのダブリン、イギリスのリバプール、フランスのカレー、オランダのアムステルダム、ドイツのフランクフルト、チェコ共和国のプラハ、ポーランドのワルシャワ、そしてウクライナのキエフはいずれも北緯53度から12度の範囲内にあり、「北極近傍」都市ということになる。

5)この専門家は、中国が北極圏での活動を終えれば、今度は「南極近傍国家」(a "near-Antarctica state")を自称し始めるだろうと予想している。一方、前出のDreyer教授は、何時の日か鄭和提督がペンギンより先に南極に到達した「証拠」が見つかると予想し、「ことによると、パンダと似た配色のペンギンは、(中国から)今はなき陸路を通って南極にやってきたパンダが進化したものである」などと言い出しかねないと述べている。中国は、当然のごとく北極圏に入り込む一方で、米国に対しては自国から遥か遠くの南シナ海に干渉しないよう声高に警告しているのである。

6)少しばかりの偽善さえ気にしなければ、こうした主張や自国のものでない領土占有への確固たる努力は上手くいくかもしれない。しかしながら、それは、一連の主張が抵抗を受けなかった場合である。「真の」北極圏国家は、中国の振る舞いに懸念を持っているが、抗議を行うことはなさそうである。いずれにせよ、中国は、習近平主席の友人であるロシアのプーチン大統領の言葉以外、真剣に耳を傾けることはないであろう。しかし、プーチンは依然として、対中接近によって得られるものがまだあると考えている。従って、何時ものように、全ては米国の双肩にかかっているのである。

記事参照:China as a 'near Arctic state' - chutzpah overcoming geography

【補遺】

旬報で抄訳紹介しなかった主な論調、シンクタンク報告書

1. China's Ambitious New 'Port': Landlocked Kazakhstan

https://www.nytimes.com/2018/01/01/world/asia/china-kazakhstan-silk-road.html

The New York Times.com, January 1, 2018

2. China's Maritime Challenge in the South China Sea: Options for US Responses

https://www.thechicagocouncil.org/publication/chinas-maritime-challenge-south-china-sea-options-us-responses

The Chicago Council on Global Affairs, January 10, 2018

Weston S. Konishi, Senior Fellow, The Maureen and Mike Mansfield Foundation

3. The PLA Accelerates Modernization Plans

https://jamestown.org/program/pla-accelerates-modernization-plans/

China Brief, The Jamestown Foundation, January 12, 2018

By Kevin McCauley, Kevin McCauley has served as senior intelligence officer for the Soviet Union, Russia, China and Taiwan during 31 years in the federal government.

4. China's Evolving Nuclear Strategy: Will China Drop "No First Use?"

https://jamestown.org/program/chinas-evolving-nuclear-strategy-will-china-drop-no-first-use/

China Brief, The Jamestown Foundation, January 12, 2018

By Nan Li, a visiting senior fellow at the East Asian Institute of the National University of Singapore.

5. CPEC: "Iron Brothers," Unequal Partners

https://jamestown.org/program/cpec-iron-brothers-unequal-partners/

China Brief, The Jamestown Foundation, January 12, 2018

By Sudha Ramachandran, an independent researcher and journalist based in Bangalore, India.

6. Quick Takes: Work Continues on the Submersible Sea-launched Ballistic Missile Test Stand Barge at Nampo

http://www.38north.org/2018/01/nampo011618/

38 North, January 16, 2018

A 38 North exclusive with analysis by Joseph S. Bermudez Jr.

7. Full Report: The New Southbound Policy: Deepening Taiwan's Regional Integration

https://csis-prod.s3.amazonaws.com/s3fs-public/publication/180113_Glaser_NewSouthboundPolicy_Web.pdf

China Power Project, CSIS, January 19, 2018

Bonnie S. Glaser, Senior Adviser for Asia; Director, China Power Project

Scott Kennedy, Deputy Director, Freeman Chair in China Studies, and Director, Project on Chinese Business and Political Economy

Matthew P. Funaiole, Fellow, China Power Project

Derek Mitchell, Senior Adviser, Southeast Asia Program

8. Trump's Lucky Year

https://www.foreignaffairs.com/articles/2018-01-20/trumps-lucky-year?cid=nlc-emc-fa_paywall_free_eliotcohen_ma2018_prospects_a-20180120

Foreign Affairs.com, January 20, 2018

By Eliot A. Cohen, Robert E. Osgood Professor of Strategic Studies at Johns Hopkins University

9. Surveillance under the sea: how China is listening in near Guam

http://www.scmp.com/news/china/society/article/2130058/surveillance-under-sea-how-china-listening-near-guam

South China Mourning Post.com, January 22, 2018

10. Avoiding Nuclear Crises in Asia

http://www.rsis.edu.sg/wp-content/uploads/2018/01/CO18011.pdf

RSIS Commentaries, January 23, 2018

By Rajesh Basrur, Professor of International Relations at the S. Rajaratnam School of International Studies (RSIS), Nanyang Technological University, Singapore.

11. A man, a plan, a canal...Thailand?

http://www.atimes.com/article/man-plan-canal-thailand/

Asia Times.com, January 25, 2018