海洋安全保障情報旬報 2017年10月1日-10月31日

Contents

102日「海洋に蘇る古の『シルクロード』―英専門家論評」(The Conversation.com, October 2, 2017

 英ケンブリッジ大教授で海洋歴史家のDavid Abulafiaは、102日付の豪紙The Conversationに、"How China's first 'silk road' slowly came to life - on the water"と題する論説を寄稿し、中国の「一帯一路構想」(BRI)に関連して、古の「シルクロード」が海洋ルートとして蘇りつつあるとして、要旨以下のように述べている。

1)ユーラシアの広闊な空間を西から東へ、またその逆に、砂漠を横切ってとぼとぼ歩むフタコブ・ラクダの隊列以外に、シルクロードの歴史的イメージはほとんど残っていない。中国がこの「シルクロード」を現代に蘇らせようとしている時に、この古の道が実際にはどのようにしてできたのかを思い出して見ることは価値がある。これらの陸上交易ルートが中世初期から中期にかけて存在し、砂漠を横切る隊列が東から西に物産を運搬し、反対に西から東に重大な文化的影響を伝搬したことは疑いがない。しかしながら、シルクロードの歴史は、古のそれも、現代中国のBRIも、砂漠のルートとともに、海洋ルートも存在するのである。陸路は、香辛料や宝石、そしてシルクの反物や絹織物などのかさばらない品物を運んだ。それらはまた、イスラム教と仏教の思想と装飾品を東アジアに持ち込んだ。

2)しかし、この陸路は、グローバリゼーションの前史と見なすとこはできない。少量の高価な品物が西ヨーロッパの経済に与えた影響はわずかなものであった。アジアを横断するルートは政治状況が良好な場合にのみ繁栄し、11世紀と12世紀はそれほどでもなかった。しかしながら、モンゴルの台頭に伴い、新しい政治秩序がロシアから中国に至る地域に平和をもたらし、長距離旅行を容易にした。その顕著な事例は、ジェノヴァ人とヴェネツィア人が黒海沿岸の交易センター、特にクリミア半島のカッファ(現代のフェオドシヤ)とアゾフ海のタナに拠点を置いたことである。中世時代の中国を訪問した最初のヨーロッパ人はマルコ・ポーロではない。それ以前に、中国沿岸の泉州にまで航海し、そこに住み、死んだジェノヴァ人やヴェネツィア人がいた。彼らが西ヨーロッパにもたらしたものがシルクの反物であり、神聖ローマ帝国皇帝の儀式用の正装の1つは中国のシルク製であった。

3)中国とはるかに西方の地域を結ぶ海洋ルートは何世紀もの間中断なく続いていたが、14世紀にモンゴル帝国が崩壊したことから、海洋ルートの優位性は一層明らかになった。実際、海上ルートは、エジプトからのギリシア商人がベンガル湾に到達し、ローマの外港、オスティアに大量のコショウがもたらされたローマ帝国時代に、既にある程度整備されてはいた。しかし、ローマ帝国時代には、中国との海洋による繋がりはごくわずかなものであり、更に当時の中華帝国も、自国の豊かな資源の開発(とそれによる税収)に関心を集中し、海から目を離す傾向にあった。現代のマレーシアとインドネシアとして知られる地域が海洋交易に門戸を開いた、7世紀から大きな変化が起こった。1100年頃に中国南部に拠点を置いた宋時代に、中国商人たちはこの海域を越え始めた。東インド諸島からの樟脳の交易は2つの方角、即ち、1つは中国沿岸に向かって北上し、もう1つはインド洋に向かって西進した。スマトラのシュリーヴィジャヤ王国の保護下で、中国の交易商人と、マレーとインドの交易商人を結ぶ、東インド諸島の交易ネットワークが発展した。ここに、「海洋のシルクルート」の名に相応しい交易ルートが登場した。

4)この海洋ルートに沿って、西に向かう香辛料の量が増加した。それらは、インド洋を通り、紅海を遡ってエジプトのアレクサンドリアに至り、そこでジェノヴァ、ヴェネツィア、バルセロナそしてその他の西方の港から来た商人に引き取られた。それらの一部は、そこから陸路で、あるいは海路でイベリア半島まで運ばれ、リューベック(ドイツ)、リガ(ラトビア)そしてタリン(エストニア)といったハンザ同盟都市の住民のケーキの材料になった。このルートの舶載品では、イスラム世界の需要が旺盛だった中国製磁器が大量に運ばれたが、南シナ海やその周辺海域で難破することが多かった。最終的には、中国商人は15世紀の初めにマラッカに拠点を置いて、インド洋の東端に根拠地を確保した。これは、明の皇帝が鄭和提督指揮下の大規模な艦隊をインド洋沿岸域にまで派遣した、1420年頃の短期間の精力的な海洋活動の成果であった。東と西を結ぶこれらのルートは、1500年以降に世界の交易を変えた、ポルトガル人、スペイン人そしてオランダ人の到来より、先行していた。そして、(陸路よりもむしろ)この海洋のシルクのルートこそが、グローバリゼーション前史ともいえる先行事例であった。興味深いことに、この海洋ルートは現在のBRIにほぼ当てはまる。BRIの下で、アジアを横断する列車で運ばれる物資の量は、復活した中国の商船が海洋経由で運ぶことができるコンテナに積載された物品の膨大な量に対抗することは全く期待できないのである。

記事参照:How China's first 'silk road' slowly came to life - on the water

【関連記事】

「『中国の夢』への習近平のロードマップ」(Asia Time.com, October 21, 2018

 WebAsia Timesは、1021日付で "Xi's road map to the Chinese Dream" と題する論説を掲載し、要旨以下のように述べている。

1)中国の習近平主席は、第19回党大会でのスピーチで、近い将来における中国の目標を、①2020年までに「小康社会」を実現すること、②2035年までに近代化が基本的に実現された国家を建設すること、そして③2050年までに豊かな社会主義強国を築くことであると設定した。習近平自身が2013年以来、一連のプロセスを「中国の夢」というスローガンに包含してきたが、この夢はたかだか30年余程度で実現されなければならない。習近平は、「中国人民の夢と、世界の人民の夢は密接に連関している。平和的な国際環境と安定した国際秩序なしに、中国の夢は実現できないだろう」と強調した。

2)「一帯一路構想」(BRI)として知られる新シルクロードについて、習近平は、これまで2018年初めのダボス会議など、あらゆる主要な国際会議においてBRIの野心と桁外れなスケールを喧伝してきたが、今回のスピーチでは「国家の総合的発展に有利な環境を醸成した」と軽く触れるに止まった。それでも、BRIは、習近平が「人類の運命共同体」と定義付けたものに至るための究極的なツールであることが示されていた。BRIは、地政学的、地理経済学的なゲームチェンジャーであり、実際に習近平と中国の外交政策構想を体系付け、2050年に向けての推進力となっている。

3)もともと「シルクロード経済ベルト」と「21世紀海上シルクロード」として知られた構想は、201311月の中国共産党第18期中央委員会第3回全体大会で承認されたものである。「シルクロード経済ベルトと21世紀海上シルクロードの共同建設推進のビジョンと行動」と題する公文書が20153月に公表された後、一連のプロジェクトは最終的にBRIと銘打たれた。中国の公式スケジュールによれば、現在はフェーズ2の初期段階にあるに過ぎない。2013年から2016年のフェーズ1は、「動員」段階であった。2016年から2021年に、なんとか「企画立案」段階に入る(現在実施されている大規模プロジェクトが少ない理由である)。「実施」段階は、習近平の新任期が切れる1年前の2021年に開始されることになっており、そのまま2049年まで続く。かくして習近平の「豊かな社会主義強国」という夢と時期が重なるBRIは、2050年までをカバーしている。世界市場を見渡してみても、これほど総合的で、包括的で、遠大で、財政の裏付けがある発展計画は絶対に見つからない。インドの「アジア・アフリカ成長回廊」はその比ではない。

4BRIの主要プロジェクトには以下のようなものがある。①新疆からロシア西方に至るユーラシア・ランドブリッジ(中国とカザフスタンは、活発にコルガス共同経済特区を推進している)。②中国・モンゴル・ロシア経済回廊。③中央アジアの「スタン」諸国と、イランやトルコといった西アジアとの連結。③イスラマバードが「経済革命」を期待する、新疆とアラビア海のグワダル港を結ぶ中国パキスタン経済回廊(CPEC)。④昆明とシンガポールを結ぶ中国インドシナ回廊。⑤バングラデシュ・中国・インド・ミャンマー経済(BCIM)回廊(インドがボイコットしないと見込んでいる)。⑥中国南東部沿岸と地中海、ピレウス港(ギリシア)からヴェネツィアを結ぶ海上シルクロード。他方、義鳥・ロンドン間の貨物列車や、上海・テヘラン間の貨物列車、そしてトルクメニスタンから新疆までのガスパイプラインは、既に実現している。この先、高速鉄道網や発電所、ソーラーファーム、高速道路、橋、港、パイプラインなどのインフラ建設やそれらの連接ツールは、アジアインフラ投資銀行(AIIB)の資金と密接に関連付けられるであろう。また、上海からロッテルダムに至る新ユーラシアの建設には上海協力機構(SCO)を通じた安全保障、経済協力が必須となろう。

5)習近平は、机上に中国のカードと工程表を並べて見せた。「中国の夢」に関する限り、その目標は今や明確である。即ち、BRIを受けいれて、共に旅をしようというのである。

記事参照:Xi's road map to the Chinese Dream

104日「アメリカの本気度を測る指標としての対台湾政策―米専門家論評」(PacNet, Pacific Forum, CSIS, October 4, 2017

 米ジョージ・ワシントン大教授Robert Sutterは、105日付のPacNetに、"US China policy review - thoroughly consider Taiwan"と題する論説を寄稿し、アメリカの対台湾はアメリカの本気度を測る指標であるとして、要旨以下のように述べている。

1)トランプ政権における対台湾政策の再検討が長く先延ばしになっているが、台湾は、対中政策の再評価において重要な位置を占めている。米台関係を弱体化させる機会を常に追い求めている中国指導者と接触する、トランプ大統領と政権幹部は、いわゆる台湾問題におけるアメリカの重要な安全保障上の、そして経済的、政治的利益を包括的に理解する必要がある。大胆かつ強引な指導者、習近平の下におけるアジアの大国としての地位への中国の台頭によって、これらの利益の重要性は高まってきている。中国の台頭に伴って、域内各国がアメリカの強さや弱さをどう認識するかを判断する重要な指標は、台湾問題に対処するアメリカの決意如何にかかっている。一方で、アジア太平洋諸国は、合理的な理由がなければ、中国との深刻な緊張を引き起こすアメリカの行動を支持しない。他方で、これら諸国は、ワシントンが中国の力と要求の増大に直面するこれら諸国をどのように支援してくれるかを判断する指標として、長年にわたるパートナーである台湾との関係に対するアメリカの対応を注意深く観察している。

2)オバマ前政権は、中国の挑戦と拡張主義に対処するに当たって、あまり効果的ではなかった。オバマ政権の「リバランス」政策は、中国を除いて広く歓迎されたが、北京の拡張主義に対処するに当たっては、決意の表明以上のものではなかった。台湾は、「リバランス」においてほとんど役割を果たさなかった。中国の行動に対するアメリカの批判は高まったが、それが台湾政策に影響を及ぶすようになることは決して許さなかった。アメリカは、中国を怒らせかねない行動を慎重に避け続けてきた。大方の批評家の見解では、台湾に対する中国の威嚇に対するアメリカの沈黙は、他の場所でもこうした中国の威嚇的行動に対するアメリカの躊躇を示唆する兆候と受け取られ、結果的に南シナ海における中国の漸進的支配をもたらすことになった。

3)トランプ大統領と政権幹部が対中政策における台湾の位置づけを再検討するなら、オバマ前政権以前にまで遡って再検討する必要がある。ニクソン以来のアメリカの歴代大統領は、北京との重大な論争のリスクを冒すより、大抵はむしろ台湾問題の繊細な側面について中国に配慮する道を選んできた。しかし、これまで2回のアメリカの対中政策に関する再検討は、台湾に対するアメリカのより強い堅固な支援を示す知恵が見られ、現行の政策再検討における参考に値すると思われる。アメリカが中国との関係改善のために対台湾関係を縮小した10年後の1982年から1983年にかけて、当時のシュルツ国務長官主導による対中政策の大幅な再検討が行われた。その結果、中国の増大する要求に対して、台湾とその他の諸問題に対するアメリカのスタンスはより強固なものになった。米政府は、中国との関係悪化も辞さない用意があった。中国は、1984年に当時のレーガン大統領の訪中を歓迎するために、関係を再調整し、強化することを余儀なくされた。中国は、台湾に対する武器売却が、それを縮小していくとした対中合意に甚だしく違反していると多くのアメリカが見なしていることを明らかに不問に付した。2回目の再検討は、ブッシュ(子)政権の発足時に行われた。中国が台湾に対する威嚇を強めており、クリントン政権がそれほど強い対応を示さなかったことを懸念して、シュルツ長官の下で対中政策の再評価に当たった何人かのベテランを抱えたブッシュ(子)政権は、中国の圧力を制止するより好ましい勢力均衡を作為するために、アメリカの防衛力と、同盟国やパートナー諸国との関係強化に注力した。オバマ前政権の「リバランス」政策とは異なり、ブッシュ(子)政権の「リバランス」政策は、台湾をアメリカのアプローチの中核に据えて、大規模な武器売却の提案に加えて、もし中国によって攻撃された場合には、アメリカが台湾を防衛するために「如何なる手段をもとる」との大統領特別声明を宣言した。こうしたアメリカの断固とした態度に対して、中国は、台湾に対するその平和的な意図をアメリカに保証することを選んだ。

4)要するに、もし台湾に影響を及ぼすトランプ政権の決定が、台湾との関係において危険に晒される可能性のある広範なアメリカの優先事項に対する徹底的な検討に基づいて行われるならば、それはアメリカにとって最良である。最近の歴代政権の政策に見られる惰性的な無気力、一方の側からもう一方の側への振幅、あるいは台湾を弱体化させようとする中国の指導者の意図に従って交渉することは、これらのアメリカの利益を損なうことになる。

記事参照:US China policy review - thoroughly consider Taiwan

1010日「米海軍、『航行の自由』作戦実施」(Reuters.com, October 11, 2017

 ロイター通信が1011日に報じるところによれば、米海軍の誘導ミサイル駆逐艦、USS Chafee1010日、南シナ海で中国が実効支配する西沙諸島周辺海域を航行した。3人の米海軍当局者がロイター通信に語ったところによれば、今回の航行は、中国による西沙諸島に対する「過剰な海洋権限の主張」に対抗するための通常の航行であるとしている。USS Chafeeは、中国が領海と主張する海洋自然地勢から12カイリ以内の海域には入らなかった。

 中国国防部は1011日、戦闘艦1隻、ジェット戦闘機2機及びヘリコプター1機が、中国の主権と安全を冒す「挑発的な」行為として、米艦に退去を求めたと語った。

記事参照: U.S. warship sails near islands Beijing claims in South China Sea - U.S. officials

【関連記事】

「マティス米国防長官、中国の主権侵害主張を拒否」(The Washington Free Beacon.com, October 13, 2017

 マティス米国防長官は1013日、マニラ訪問途次の機中で、10日の誘導ミサイル駆逐艦、USS Chafeeの航行は合法的で、中国の主権を侵害していないとして、中国の主張を拒否した。マティス長官は、「我々は、航行の自由を維持するために、世界のどの海域でも、国際法を厳密に遵守して、こうした航行を実施している」と語った。今回の航行は、トランプ政権下で4回目の「航行の自由」作戦で、マティス長官が進める、南シナ海における軍艦の航行の定常化計画の一環である。

記事参照:Mattis Rejects Chinese Claim U.S. Warship Violated Sovereignty

1010日「中国砕氷船『雪龍』、北極圏調査を終え、帰港」(China Daily.com, October 11, 2017

 中国極地研究所によれば、砕氷船「雪龍」は1010日、8度目の北極圏調査を終え、上海に帰港した。「雪龍」は620日に上海を出航し、83日間にわたって2万カイリ、その内、海氷面を1,995カイリ航行した。今回の航行では北西航路と北極海中央の極点ルートを航行し、2012年の北方航路に加えて、初めて北極海一周を完了した。調査隊の主任科学者は、「極点ルートを航行したのは、公海域での海洋調査が実施できるためである」と語った。同主任は、北西航路を航行し、カナダの3人の科学者と合同調査を実施したことで、北極海の科学調査におけるブランクの一部を埋めることができた、今回得た調査データは将来の商業航行に重要な情報を提供することになろう、と語った。また、同主任によれば、北極圏調査は通常2年に1回実施されてきたが、今後頻度を増やすという。現在、中国は局地調査のために初の国産調査砕氷船「雪龍2」を建造中で、2019年に完成する計画である。「雪龍2」は、現在の「雪龍」の1.1メートルの砕氷能力に対して、1.5メートルの砕氷能力を持つ。

記事参照:Science vessel returns from Arctic

1010日「北朝鮮抑止のため日韓は核武装すべき―シンガポール前外務次官」(The Washington Post.com, October 10, 2017

 シンガポール前外務次官Bilahari Kausikanは、1010日付の米紙、The Washington Post(電子版)に、"To deter North Korea, Japan and South Korea should go nuclear"と題する論説を寄稿し、北朝鮮を抑止するために日韓両国は核武装すべきとして、要旨以下のように述べている。

1)北朝鮮は既に、事実上核保有国となった。平壌は早晩、米本土を直接脅かす核弾頭搭載ICBMを保有するであろう。北朝鮮が米本土を直接脅かすことができるようになれば、アメリカは東京を助けるためにサンフランシスコを犠牲にできるか、という疑問が出てくる。もちろん、答えはノーである。北東アジアでは、中国も、核戦力を近代化しており、何れ信頼できる第2撃能力を持つことになろう。数十年前のヨーロッパで見られたように、北東アジアに対するアメリカの拡大抑止力は、次第に浸食されていくであろう。北東アジアは、1950年代のフランスや60年代の英国のような対応をすることになろう。日本は、独自の核抑止力を迅速に開発できる能力を持っており、今や、何時決断するかの問題になっている。東京は、数十年にわたって、アメリカの黙認と恐らく支援の下、この事態に備えてきた。日本が決断すれば、韓国も追随するはずである。日韓両国とも核保有国になることを熱望しているとは思わないし、ワシントンもそうである。しかし、日米韓3国にとって、核保有は少なくとも悪い選択肢ではない。フランスも英国もNATO内に留まっているように、核保有した日韓両国はアメリカ主導の北東アジア同盟体制内に留まるであろう。しかし最終的には、アメリカ、中国、ロシア、日本、韓国そして北朝鮮の6カ国の相互確証破壊能力による均衡態勢が北東アジアに構築されることになろう。

2)当然ながら、均衡態勢の構築に至る過程は、日本の核武装を含めて、極めて困難で、緊張したものとなろう。しかしながら、如何に困難であろうとも、一度6カ国の均衡態勢が構築されれば、安定をもたらすであろう。北朝鮮を含めて、6カ国は全て合理的で、政治が機能している。6カ国による北東アジアの均衡態勢は、現状凍結をもたらすであろう。このことは、中国の修正主義的野心に対する絶対的な障害となろう。少なくとも中国にその野心を現状レベルで止めさせることは、米中関係と日中関係をより安定させることになり、引いては東アジアを一層安定させることになろう。現状凍結はまた、朝鮮半島統一というキメラ(幻想)に終止符を打ち、より健全な南北関係をもたらすであろう。しかしながら、この新しい均衡態勢は、台湾に独自の核オプションの検討を促すことになりかねない。台北は1960年代に核への野心を抱いていたが、アメリカに廃棄させられた。台湾の独自の核オプションへの回帰は極めて危険なものとなろう。中国が対米戦争のリスクを覚悟しなければならない問題の1つが台湾であり、台湾の独立を許せば、中共政権は生き残れない。台湾はアメリカの黙認がなければ核能力を取得できず、従って、アメリカは、台湾の核武装を許容しないことを中国に再保証することが極めて重要である。

3)北朝鮮の非核化は夢物語だが、アメリカは、北朝鮮との平和条約締結の見返りに、そのミサイルと核能力を規制し、核拡散活動を止めさせることは、困難だが、不可能ではないであろう。2つの困難があるが、何れも克服できないわけではない。

a.第1に、平壌が検証可能な凍結に合意しても十分に安全と感じる核能力レベルはどの程度のレベルか、そしてそうした取引がワシントン、東京そしてソウルで政治的に受け容れられるであろうか。交渉が実際に始まってみなければ分からない、というのがこれに対する答えである。

b.第2に、平和条約には、新たな収入源として平壌に対する継続的な経済援助の提供が含まれなければならない。北朝鮮は、金目当てに核ミサイル技術を中東諸国に輸出してきた。悪行に褒賞を与えると批判する人もいよう。実際、その通りである。北朝鮮の唯一の願望は、生き残りである。事実上の核保有国との平和条約は、世界で最も経済的に活発な地域、北東アジアにおける安定に対する高くない代価である。

記事参照:To deter North Korea, Japan and South Korea should go nuclear

【関連記事1

「日本は核保有を望んでいるのか―RSIS専門家論評」(RSIS Commentary, October 17, 2017

 シンガポールのS.ラジャラトナム国際関係学院(RSIS)上席研究員Richard A. Bitzingerは、1017日付のRSIS Commentariesに、"Does Japan Really Want To Go Nuclear?" と題する論説を寄稿し、前掲論説に対して、日本の核武装は現実的ではないとして、要旨以下のように述べている。

1)最近、日本の核武装は地域の安全保障にとって効果があるかもしれない、とする論説が見られる。例えば、米ハドソン研究所のWalter Russell Meadは、アジアに対する安全保障コミットメントが不明確に揺らぐトランプ政権の「太平洋からのアメリカの撤退」により、日本は自らの「核武装」が最善の選択という結論に至るかも知れないと論じている*。また、シンガポール前外務次官Bilahari Kausikanは、日本と韓国は核軍備すべきであり、問題は持つか持たないかではなく、何時になるかであると論じている(前掲論説)。実際、もしアメリカが「核の傘」による安全保障を日本から引き上げるとすれば、東京は、核保有国になることを真剣に検討するかもしれない。更に言えば、日本には原子爆弾を比較的短期間、月単位、最大でも数年以内に開発する技術的能力があると一般的に考えられている。しかし、問題の核心は、日本は本当に核保有国になることを望むのかということである。

2)そもそも日本が核保有国になるのは、多くの者が考えるよりも遙かに難しい。それは単に原子爆弾を製造するだけの問題ではない。もし日本が核兵器を製造し、実験をした場合、アジア全体及び世界各国から大きな反響が起こるであろう。しかも、日本が信頼に足りる核抑止態勢を構築するには非常に多くのことが必要になる。

a.第1に、日本は、核能力を繰り返しテストする必要がある。確かに、スーパーコンピューターで核爆発の幾つかの特徴を模擬実験できるが、信頼に足りる核戦力を構築するためには、恐らく数年の間に何度かの核実験を実施しなければならないであろう。

b.第2に、核兵器をどのように配備するのか。航空機か、しかし日本には核搭載能力を有する航空機や爆撃機もない。航空自衛隊は恐らく核兵器も運搬可能なF-15などの米国製戦闘機を運用しているが、これらの航空機を核兵器搭載可能にするには、「ブラックボックス」(電子機器とソースコード)を開くためにアメリカの許可が必要となるが、それは実現困難である。核兵器をミサイルに搭載することも可能であるが、そのためにはミサイルに搭載可能なように核弾頭を小型化する必要があり、ミサイル自体の開発も必要である。日本は活発な宇宙ロケット産業を有しているが、それは核兵器用のロケットとは異なっている。核搭載用に特化した固体燃料式ミサイルは、ほとんど最初から開発する必要があろう。

c.第3に、では何処に配備するのか。日本は、これらのミサイルを地震の影響を受け易いサイロか、あるいは移動式発射装置に搭載するのか。日本は国土面積が小さい上に人口の多い国であり、特に敵の先制攻撃にとって絶好の高価値目標となるこれらの兵器を、国内のどの地域が受け容れるのか。

d.第4に、日本はこれらのミサイルを潜水艦に搭載することも可能だが、水中発射用の特殊な潜水艦発射用ミサイルが必要となる。また、恐らく原子力推進の新たな潜水艦(SSBN)の建造が必要となるが、このためには、小型で極めて安全な原子炉の開発という克服すべきもう1つの技術的なハードルがある。これらは全て安価ではない。英国は、VanguardSSBN 4隻からなる艦隊を編成するために150億ポンドの費用をかけ、アメリカからTridentⅡ潜水艦発射弾道ミサイルを購入した(ワシントンは恐らく、東京に対しては同じようにはしないであろう)。

e.第5に、日本は、核兵器のための総合的な支援インフラを構築しなければならないであろう。核兵器の保全のために、航空基地、海軍の拠点には特に厳重な保管施設を整備する必要がある。核技術者は、これらの爆弾、弾頭を適切に維持整備し、取り扱うよう訓練されなければならない。

f.第6に、日本は、核兵器の運用のための特殊で高度な指揮統制システムとともに、核攻撃の兆候を察知する早期警戒システム(衛星やレーダー)を開発しなければならないであろう。加えて、無許可の作動状態化や暴発を防止するために、許可制核弾頭安全装置解除機構(PALs)と呼ばれる安全装置を弾頭毎に装備する必要があり、PALsはそれ自体がハッキングされることを防止するために高度に暗号化されなければならない。

g.更に、東京は、核兵器を作動状態にして使用するための手順書も作成する必要がある。恐らく、総理大臣が発射コードを含む「核のフットボール」を管理するとともに、実際に核兵器使用の最終的な権限を持つことになろう。しかしながら、潜水艦発射の核戦力については、「2人ルール」をもってしても、論理的にはSSBNの艦長には自らの権限で発射する裁量があり得る。このような細部の問題も解決されなければならない。

3)しかし、何よりも重要なことは、日本は、核保有に伴うこうした全ての課題に自ら取り組まなければならないということである。アメリカが援助することは絶対にない。信頼に足りる核戦力を保有するには何兆円もの費用がかかり、しかも完成までには何十年もかかるであろう。その間、何が起こるか。日本国民は、巨大で高額な核兵器プログラムに賛同するであろうか。核兵器に関する限り、日本には、核兵器による攻撃を受けた唯一の被爆国としての特別な感情がある。こうした感情は、「核武装化」への道において克服し難いものである。日本の核武装は想像できないことではないが、同時にそれは、大規模な政治的混乱を引き起こすことなく、安価に手早く実現できるようなことではないのである。

記事参照:Does Japan Really Want To Go Nuclear?

備考*Does Trump Want a Nuclear Japan?

【関連記事2

「核武装化した北東アジア、何故日韓を含めても抑止が機能するのか―RSIS専門家論評」(RSIS Commentary, October 23, 2017

 シンガポールのS.ラジャラトナム国際関係学院(RSIS)のGraham Ong-WebbNah Liang Tuang両研究員は、1023日付のRSIS Commentaryに、"Nuclearised Northeast Asia: Why Including Japan, South Korea May Work" と題する論説を掲載し、前掲のシンガポール前外務次官の論説に関して、日韓の核保有という考え方は核抑止理論上合理的なものであるとして、要旨以下のように述べている。

1)シンガポールの前外務次官Bilahari Kausikanは「北朝鮮抑止のために、日韓は核武装すべき」と題する示唆的な論説を米紙に寄稿している(前掲論説)。このタイトルはKausikanの提言の核心を完全に反映している。実際、彼の分析は、実にしっかりした知的基盤に立脚しており、Hans MorgenthauKenneth Waltzらの国際政治の理論家によって説明される核抑止理論のみならず、核兵器がもたらした変革の意義に対する彼の理解を示している。しかしながら、彼の論説は、モラルの放棄という観点から、世界の世論の多くから騒動を引き起こす可能性が極めて高い。核不拡散に対する強固な国際的支持が示すとおり、核兵器については、日本人や韓国人も含め忌まわしいものと見なされており、Kausikan自身も「日韓が核保有国になることを熱望しているとは思わない」と述べている。また、核抑止のメカニズムについて知識にない人々から、彼の提言―より多くの核保有国による安定化の概念―が誤解されてしまうという懸念もある。

2)核兵器の登場は、戦争の本質、そして恐らく国際関係そのものにも根本的な変化をもたらした。核抑止の専門家が述べるとおり、過去の通常兵器による戦争の目的は戦って勝利することであったが、幾つかの国が核兵器を保有した以降においては、戦争の主目的はそのような衝突を絶対に避けることになった。単純に言えば、ある国家が核兵器保有を選択する唯一の理由は、他の核兵器保有国がそれを使用するのを止めさせることにある。Waltz1981年に発表した、"The Spread of Nuclear Weapons: More May Be Better" と題する論文で、核兵器がもたらした革命の意義を論じている。Waltzは、まず第1に「核兵器は戦争のコストを驚くほど高くし、それ故に、そのような兵器の使用につながるかもしれない、あらゆる戦争の開始を国家に躊躇させるようになった」と主張した。そして第2に、「核兵器は、大国間の平和の維持に役立ってきたし、また他の少数の核保有国も軍事的冒険に乗り出すようなことがなくなった」と指摘した。実際、核の瀬戸際政策を踏み越えて、緊張関係にある核兵器保有国同士が核戦争を始めたことは一度もなかった。

3Waltz自身は、その安定化の効果にも関わらず、「相互確証破壊」(MAD)を「異常」と見なす世論の批判にさらされた。Waltzは、「抑止とは、文字通り威嚇によって誰かが何かをすることを止めさせることを意味する」のであれば、「核兵器による抑止戦略は、国家が安全保障を確実にするために戦うことを不要にし、戦争の大きな要因を除去する」と主張した。Waltzは、核保有国の増加が核兵器の脅威を相殺する効果を作り出すと示唆している。このことは、正にKausikan前外務次官が前掲論説で、北朝鮮、韓国そして日本の地域的対立を安定化させるために、「6カ国による相互確証破壊の均衡態勢の構築プロセスが如何に困難であっても、一度これが確立されれば安定するであろう」として、提言していることである。戦略文化の違い、特にもしある国が好戦的な歴史を持つ国として知られている場合はどうであろうか。英ロンドン・スクール・オブ・エコノミクス教授Barry Buzanは、核兵器の巨大な破壊力は「文化や価値観の違いを超越するほど十分に大きい」と指摘している。Buzanは、1980年代の著作で、「戦争の人的、物的コストに敏感と考えられていた西側のソフトな文化と、ソ連あるいは中国などこれらの問題には鈍感と考えられていたハードな文化との相違は、社会全体がたちまち蒸発するような脅威がある場合には消え去るであろう」と述べている。

4)技術的には、太平洋国家であるアメリカを別にして、中国、日本、北朝鮮、韓国及びロシアからなる核武装化した北東アジアは、相対的に堅固な地域的「核抑止による安定」を生み出す可能性が高い。今後の課題は、技術的なものではく社会的、政治的な問題である。 核武装化した北東アジアが受け容れられるには、現在の相互認識を改めるとともに、地政学的、制度的取り決めを調整するなど、地域自体の変革が必要であろう。更に、現状維持を永続化させるためには、平壌に対して、国境を越えた核拡散は決して容認されないということを明快に了知させておく必要がある。同様に重要なことは、北朝鮮の現有核戦力は軍事的な冒険主義や国家支援テロを遂行する後ろ盾として容認されるものではなく、これらの行動はいずれも相互確証破壊に至る(対北朝鮮)軍事行動を正当化する「レッドライン」となるであろう。このことを金正恩政権に確信させることは、(根気のいる)知覚的で政治的な課題となろう。

5)結局のところ、国際社会は、核兵器による変革を元に戻すことはできない。核武装化した北東アジアが実現するとすれば、それは、非核保有国である日本と韓国に対する現在の核攻撃の脅威よりはましな結果である。核武装化した北東アジアは、間違いなく慎重な対処を要する態勢だが、グローバルな影響を及ぶす地域的な大災厄を回避する1つの選択肢ではある。

記事参照:Nuclearised Northeast Asia: Why Including Japan, South Korea May Work

1013日「パキスタンの海洋配備核戦力のリスク」(The Diplomat.com, October 13, 2017

 Web誌、The Diplomat編集長Ankit Pandaは、1013日付けの同誌に、"The Risks of Pakistan's Sea-Based Nuclear Weapons" と題する論説を寄稿し、パキスタンの海洋配備核戦力のリスクについて、要旨以下のように述べている。

1)パキスタンは201719日、核弾頭装備が可能なBabur 3潜水艦発射巡航ミサイル(SLCM)の発射試験を初めて実施した。このSLCMは、地上発射巡航ミサイル、Babur 3の派性型で、パキスタンとって初めての海洋配備核抑止力となろう。恐らく、このSLCMは当初、Agosta 90B潜水艦とAgosta 70潜水艦に搭載されることになろうが、最終的には、中国から購入する予定のType 041「元」級潜水艦に搭載されることになろう。(抄訳者注:Agosta 70潜水艦は、1970年代にフランスで開発された通常型潜水艦で、2隻保有する。Agosta 90B潜水艦は、1990年代に開発されたAgosta 70潜水艦の改良型で、AIPを搭載し、やや大型化された。パキスタンは3隻保有している。)

2)パキスタンは、核戦力の増強ペースで主敵であるインドを凌駕していることは既によく知られている。地上配備のNasr戦術弾道ミサイルのような、低威力の核システムは核使用の敷居を低くするとの懸念を高めてきた。核抑止力の海洋への展開は、全般的な戦略的安定にある程度貢献する。実際、海洋配備の抑止力の残存性は、パキスタンの地上配備核戦力に纏わる、いわゆる「使用するか、さもなければ無力化されるか」というプレッシャーを軽減することになろう。しかしながら、他方で、海洋配備核戦力は、インド・パキスタン関係の危機における安定性を悪化させる可能性がある。しかも、海洋配備核兵器は平時から非常に高い即応態勢で維持される必要があることから、パキスタンは海洋配備核兵器に特有の指揮統制上の問題に対処しなければならない。パキスタンはこれまで、核の指揮統制は高度に中央集権化されていると長く主張してきたが、このことが戦時あるいは危機に際して核装備可能な潜水艦部隊についても真実かどうかは疑問である。(潜水艦部隊に対する)核使用権限の事前委任の誘惑は相当大きいかもしれない。

3)指揮統制問題とは別に、海洋配備核兵器は危機における安定性を著しく悪化させる可能性―つまり、危機の始めに、インドが先制攻撃を行う誘惑に駆られること―がある。パキスタンの潜水艦部隊は海洋に広く展開するより、一定の聖域に留まらざるを得ないであろう。その意味するところは、平時の潜水艦の位置が知られているということであり、従って、インドの通常兵器による攻撃に対して脆弱であろう。他方で、インドにとっても、危機において探知したパキスタンの潜水艦が核兵器かそれとも通常兵器を搭載しているのかを識別できず、Babur 3を搭載した核戦力と推定せざるを得ないであろう。言い換えれば、このことは、パキスタンの潜水艦部隊が危機の初期におけるインド軍の主要な目標となるだけでなく、パキスタンに対しても、地上配備の核ミサイルに纏わる使用するか、無力化されるかのプレッシャーを高めよう。例え、インドが意図しないエスカレーションを回避するために、パキスタンの潜水艦部隊を攻撃しないとしても、インドは少なくとも、パキスタンの最高指揮権限者が危機において海洋配備核抑止力と通信できるよう201611月にカラチに建設された、超長波(VLF)送信所を目標とする価値があろう。もっともこの場合、ニューデリーは、パキスタンが潜水艦部隊に核使用権限を事前委任しておらず、イスラマバードの海洋配備核戦力が最高指揮権限者からの使用権限コードの送信を必要としているということに、ある程度確信が持てなければならないであろう。

4Babur 3の導入は、パキスタンにとって海上配備核抑止力に特有の古典的なジレンマをもたらしている。パキスタンは、第2撃能力の全面的な保全を重視するか、それともそれを戦時に使用可能な戦力とするかを選択しなければならない。様々な理由から、パキスタンは、後者を選択すると見られる。この場合、パキスタンは、現在の不安定な国内の政情から見て、海洋配備核戦力が盗難や無許可使用のリスクに晒されるという、核の安全性のリスクを甘受せざるを得ないであろう。従って、全体的に見て、パキスタンの海洋配備核戦力という3本目の柱は、パキスタンの安全保障全体から見てマイナス効果になるであろう。

記事参照:The Risks of Pakistan's Sea-Based Nuclear Weapons

1025日「『一帯一路構想』、実現には『ユーラア経済連合』加盟国との協力が極めて重要―中国専門家論評」(East Asia Forum, October 25, 2017

 北京師範大学教授胡必亮は、同大学博士研究員らと共に、1025日付のWeb誌、East Asia Forumに、"Adding'5+1'to China's Belt and Road Initiative" と題する論説を寄稿し、「一帯一路構想」(BRI)の実現には、「ユーラア経済連合」(EEU)加盟国との協力が極めて重要であると指摘し、要旨以下のように述べている。

1)「一帯一路構想」(BRI)は現在の中国にとって最も重要なプロジェクトだが、効果的な「5+1」枠組の構築がBRI成功の鍵である。「5+1」枠組とは、「ユーラア経済連合」(EEU)加盟国であるロシア、ベラルーシ、カザフスタン、キルギスタン及びアルメニアの5カ国と、中国との協力枠組である。EEU201511日に発足し、2025年までに物品、役務、資本及び労働の自由な移動という中期目標を実現し、最終的には統合を目指している。「5+1」枠組は、以下の3つの理由からBRI成功の鍵といえる。

a.第1に、EEU加盟国のユーニークな地理的位置である。EEUは、ユーラシア大陸の内陸地域に位置し、東アジアとヨーロッパの貿易と交通を結ぶハブとしての機能を有している。従って、中国がシルクロード経済ベルトを建設するには、ロシアや、中央アジア諸国、西アジア諸国と手を携える必要がある。それ故に、EEU加盟5カ国は、シルクロード経済ベルトを西方と北方に延ばすための要となっている。BRI6本の経済回廊から成っており、その内の3本がEEU加盟国と直接繋がっている。即ち、「中国・モンゴル・ロシア経済回廊」、カザフスタンとロシアを通過する「新ユーラシア・ランドブリッジ経済回廊」、新疆ウイグル自治区からカザフスタン、キルギスタンへと延びる「中国・中央アジア・西アジア経済回廊」である。これら3本の経済回廊は、BRIを促進し、成功裏に実現させるための基盤である。

b.第2に、EEU加盟諸国が貴重な天然資源に恵まれていることである。世界銀行の2015年版データによると、(中国を除外した)BRI沿線諸国は4,050万平方キロメートルの陸地から成り、その中でEEU加盟諸国の割合は48%を占めている。また、2015年におけるBRI沿線諸国のGDP総計は約12兆米ドルであり、その中でEEU加盟諸国は1.7兆ドルを占める。しかしながら、EEU加盟諸国の人口はBRI沿線諸国全体の5.6%に過ぎない。換言すれば、EEU加盟諸国は、BRI沿線諸国全体の6%以下の人口で、(中国を除いた)BRI沿線諸国全体のGDP15%を占めていることになる。EEU加盟諸国は水資源も豊富で、2014年の時点で、EEU加盟諸国はBRI沿線諸国の水資源の36%を占めている。また、2015年版の世界エネルギー統計年鑑のデータによれば、BRI沿線諸国の化石燃料エネルギー消費量の内、28.93%EEU加盟5カ国によって賄われている。以上のデータが示すように、EEU加盟諸国は豊富な資源を融資、一方で中国が巨大な国内市場と資金供給力を有していることから、両者にはBRIの枠組の下で協力を進める大きな潜在力がある。

c.第3に、中ロ2国間関係がBRI促進の鍵であり、両国関係が「5+1」枠組の下で一層強化され得ることにある。既に両国は、協力の重要性を強調している。例えば、両国は201558日、EEUとシルクロード経済ベルトの建設を一体化する共同声明に署名している。中ロパートナーシップは、中ロ両国の利益を重視しつつも、EEUASEANそして上海協力機構(SCO)の加盟国を段階的に受け入れるべきである。「5+1」枠組による協力は、地域間を跨ぐ経済貿易協力の促進にも寄与する。グローバル化の中で、世界中の国々は、経済的結びつきや社会的連結性を大いに深めている。地域の経済統合は、地域の競争力を向上させる効果的な制度的インフラをもたらす。中国はEEU加盟諸国と密接な関係を築くべく努めており、こうした関係を前進させる最重要領域の1つが経済貿易協力となろう。

2)「5+1」協力を一層強化し、中国のBRI推進に資する、主要政策の協調手段は数多く存在する。

a.資金面に関して、中国の金融機関は、EEU加盟5カ国に対して、中国の民間企業がこれら諸国の金融分野への進出を慫慂することで、更なる支援を行うべきである。また、BRIが中国政府基金のみに依存していては十分とはいえず、「5+1」諸国は、投資機会を求めている民間資本の多くをBRIの特別ファンドに組み入れる必要がある。

b.投資政策の協調は、もう1つの協力深化の手段である。EEU加盟諸国、特にカザフスタンは、中国とより緊密な投資パートナーシップを結ぶことに関心を示している。カザフスタンと中国は、投資政策の協調に関して2016年に22の投資協力協定を締結するなどしてきたが、この分野で両国が協力を拡大する余地は大いにある。

c.「5+1」関係は、貿易政策の協調を強化することによっても深めることができる。既に中国とロシアは、「5+1」協力を最高指導者レベルで促進する協定に調印しているが、これに歩調を合わせ「5+1」自由貿易協定を成立させるべきである。こうした自由貿易協定は、BRIを促進するのみならず、EEU加盟諸国の貿易発展と経済成長の原動力にもなるだろう。

d.最後に、「5+1」諸国は、産業政策の協調も深化させることができる。EEU加盟諸国は、農業やエネルギー、鉱物分野で産業優位性を有するが、製造業が未発展の上、工業化も遅れている。産業政策の更なる協調は、中国とEEU加盟諸国における関連産業の補完的発展に直接寄与でき、地域の経済的繁栄も促進できるであろう。

記事参照:Adding '5 + 1' to China's Belt and Road Initiative

1027日「ロシアの『東への軸足移動』、短い中国との蜜月―RSIS専門家論評」(RSIS Commentary, October 27, 2017

 シンガポールのS.ラジャラトナム国際関係学院(RSIS)上級研究員のChris Cheangは、1027日付のRSIS Commentaryに、"Russia's 'Pivot' to the East: Short-lived with China?" と題する論説を寄稿し、ロシアは西側とヨーロッパ世界と不可分に結びついており、文化的、歴史的そして地理的理由から、ロシアの中国への「軸足移動」は短命におわるとして、要旨以下のように述べている。

11917年~1991年のソ連時代においても、ロシアでは、西欧の文化的影響力が全面的に排除されていたわけではなかった。全体として、1917年の革命によって、ロシアのヨーロッパや西側との文化的絆が断絶されたわけではなかった。クリミア問題とウクライナ問題を巡る西側の制裁によって、ロシアが中国との関係強化を「余儀なくされ」、やがて中国との緩やかな同盟の中で従属的パートナーに甘んじることになるのではないかと、しばしば指摘されてきた。中国は如何なる同盟関係にも加入する意思がないと公言しているし、またロシアも従属的パートナーにならないとの意思を有していることに加えて、文化的、歴史的、伝統的そして地政学的現実は、ロシアの中国への「軸足移動」("pivot")が短命に終わることを暗示している。

2)大まかに言って、文化的要因は過少評価されるべきではない。一般的に、ロシア人は、その階級や政治信条を問わず、北京、東京あるいはソウルなどよりも、ローマ、パリ、ロンドンあるいはニューヨークで休暇を過ごすことを好む。これは地理的にアジアに近いシベリアや極東に住むロシア人も同じである。ロシア人は、自身をヨーロッパ人とはいわないが、ヨーロッパの歴史、そして伝統や風習に親しみと心地よさを覚える。プーチン大統領は、中国への「軸足移動」を提唱し、推進しているにも関わらず、ロシアがヨーロッパ国家であると常日頃から公言して憚らない。ソチで20171014日から22日まで行われた世界青年学生祭典において、プーチンは、ロシアは「ユーラシアの空間」に位置するが、その「文化や言語グループ、そして歴史」は「ヨーロッパ文化に属する人々が住むヨーロッパの空間にあることは明白である」と強調した。エリツィン政権期のロシアは、公然と「文明化された世界」(the "civilised world")に回帰しようとした。「文明化された世界」という言葉は、今日でもロシアの指導者や有識者によってしばしば言及される。1990年代から21世紀初頭にかけてロシアは、G8に加わり、OECDへの加盟意思を表明し、欧州議員会議に加盟し、さらにNATO加盟さえもプーチンは否定しなかった(BBC20003月に行ったインタビューにおける発言)。しかしながら、こうした「文明化された世界に参加する」という願いは全て徒労に終わった。ロシアの「クラブ」参加への「申請」を却下したことについては、西側もある程度の責任を負わなければない。ヨーロッパ人とアメリカ人の精神には、大国ロシアへの恐怖が深く根付いている。波乱に富んだ歴史も理由の1つではあるが、ロシアは長きにわたり「アジア的」勢力だと見なされてきた。正当であるか否かはともかく、ヨーロッパ人とアメリカ人のロシアに対する認識にはそうした色眼鏡が介在しているのである。

3)歴史的背景も関連している。ロシアの歴史は、ヨーロッパ史と不可分に結びついてきたし、今もそうである。ロシア国家の勃興から、キリスト教の受容、モンゴル/タタールの軛、対チュートン騎士団戦、対ポーランド戦やスウェーデン戦、ナポレオン戦争期のヨーロッパ協調における役割、イギリスとフランスを敵にしたクリミア戦争、1870年代と1880年代のバルカン半島を巡る対トルコ戦、第1次・第2次世界大戦、そして1945年から1991年の戦後期といった、こうした出来事の全ては、ロシアをヨーロッパに結び付けている。

4)最後に、地理は不変である。ロシアはユーラシア大陸を横断する広大な領土を有しており、地理的にはその大部分がウラル山脈の東側に位置するが、国民の多くはウラルの西側に居住している。従って、ロシアの課題は、人口が希薄で衰退していくシベリアと極東地域を発展させることにある。ロシアの指導者は、当初からこの途方もない課題を達成する必要性に気付いていたが、国民の多くが発展し、経済的に安定したヨーロッパ・ロシアに住みたがるということには変わりがなかった。

5)以上のような文化的、歴史的そして地理的理由から、中国への「軸足移動」は、必然的に、さして長続きしないものとなるであろう。長続きするかどうかは、特にロシア指導者の性格や気質、世界観、就中、西側への認識次第であるが、最近の出来事や過去の歴史から判断すれば、ロシアの指導者がヨーロッパに先祖返りすることは疑いがない。中国と世界最長の陸上国境を接する唯一のヨーロッパ国家であるという事実は、どんなヨーロッパ国家にとっても不安である。ましてや、中ソ対立後の緊張した敵対関係は言うまでもなく、帝国としての中国の歴史や救世主的な政治的・経済的イデオロギーに加えて、超大国としての地位を目指す中国であれば、なおさら不安が高まるであろう。

6)米中関係の状況次第が、東南アジアと太平洋地域の安全保障や経済、政治構造を規定し、左右し続けていくであろう。ロシアは、この地域への関与が未だ限定的であることから、アメリカや中国ほどにはこの地域への独自の影響力を発揮することができない。東南アジア諸国は、ロシアの「軸足移動」が持続し得るものなるのであれば、否定的に捉えるべきではない。ロシアの「軸足移動」が安定した予見可能なロ中関係につながり、その結果としてこの地域に経済的波及効果が及び、東南アジア諸国との均衡のとれた関係が生まれるのであれば、東南アジア諸国は、ロシアの「軸足移動」政策を歓迎し、その進捗を注意深く監視していくべきである。

記事参照:Russia's "Pivot" to the East: Short-lived with China?

1028日「何故トルコは『一帯一路構想』に熱心なのか―豪専門家論評」(East Asia Forum, October 28, 2017

 オーストラリア国立大学研究員Nicol Brodieは、1028日付のWeb誌、East Asia Forumに、"Why is Turkey so eager to be led down the Belt and Road?"と題する論説を寄稿し、トルコがなぜ、中国の「一帯一路構想」(BRI)に熱意を示しているのかについて、要旨以下のように述べている。

1)アンカラと北京は急速に接近している。一方で、トルコのNATOやドイツ(最大の輸出相手国)との以前の強固な関係は冷え込んでいる。こうした状況下で、トルコの外相は8月、国内の反中国メディア報道の一掃を約束し、「我々は、中国の安全保障を我々の安全保障として見なす」と述べた。エルドアン大統領は、5月に北京で開催された「一帯一路構想」(BRI)フォーラムに参加している。

2)この新しく登場した関係は、中国とトルコの共通の利益と、西洋に代わる相手を探している国を絡め取る北京の手口の巧妙さを明らかにしている。中国は、アジアからトルコを通ってヨーロッパに入る歴史的なシルクロードに沿った一連の経済プロジェクトとして、BRIを売り込んでいる。BRIは、指導者が世界第2の経済大国によって裏書きされたプロジェクトに対して自国の「自由化」よりも関心を示す、資金不足の中央アジア諸国に巨大な機会を提供するものである。就中、アジアとの連携強化によって、NATOEUといった西側機構への依存を減らすことに熱心なのは、エルドアン大統領とその「ユーラシア指向」官僚である。冷戦終結以来、トルコは、中央アジアにおける地歩を固めることに努力してきた。アンカラは、地域プレゼンスを拡大できるとともに、西洋との悪化する関係に対してヘッジとなり得る外交枠組みを必要としている。

3)中国とトルコとの友好関係は既に実質的に深化しており、北京は、トルコ政府がトルコ市民と政権の敵対者を見張るために利用しているといわれる、Turk Telekomの株式を購入した。高速鉄道、港湾などのインフラ計画も準備されている。また、BRIは、1990年代から中央アジアで操業してきたトルコの建設会社を支援することになろう。もしNATOが何もしなければ、北京は、ヨーロッパの境界に位置する友好国と、BRIに対する支援国を獲得することになる。もしNATO諸国が北京の進出に懸念を表明すれば、これはかえって、北京が中立的立場を維持できる一方で、「西側」がトルコを封じ込めようとしているとする、エルドアンの民族主義的主張を強めることになろう。BRIの魅力は、それがトルコや中国にもたらす経済的利益ではない。むしろ、それは、ドイツやアメリカといった経済的、戦略的パートナーに代わる選択肢を見出そうとするアンカラの必死さに付け込むとともに、自らの経済構造を構築しようとする中国の願望を支えていることにある。それはまた、アメリカからの直接的な反発を招くことなく両国が関係を強化することを可能にする。

4)トルコと中国の関係は北京の漸進主義や非ゼロサム的思考に合致しているが、問題がないわけではない。その1つは、中国北西部のウイグル分離主義者とトルコとのかつての連帯である。2009年に当時首相だったエルドアンは、漢民族とウイグル族がともに関わった中国の暴動事案に対して、中国が「大虐殺的行為」に関与していると主張した。しかしその後、エルドアンは発言を撤回し、そして最近ではトルコに住むウイグル族を弾圧し、アンからは、中国との関係を強化するための用意ができていることを示してきた。中国は最近、ウイグル族が新疆で行ったテロ事件が国外から扇動されたと主張しているが、北京はこれらの事件に関連してトルコを非難したことは一度もない。エルドアンやその関係者がトルコ国内での人気を得るために、汎イスラム主義レトリックに依存していることを考えれば、トルコと中国の関係は、将来このアイデンティティの不調和に取り組まなければならないであろう。

5)全体として、トルコにとって、将来のNATOによる戦略的な取り込みの枠外に居たいという願望を満たすとともに、アンカラとの論議が絶えないドイツなどのヨーロッパ諸国への経済的依存を最小限に抑えるという目標を達成するために、中国の投資と協力が必要である。一方、中国にとって、歴史的にNATO陣営内にいる国との新しい協力関係を誇示することは、願ってもない機会である。BRIを通じて、中国は、トルコのNATOと西側諸国との関係に疑問を投げかけるよりも、むしろそれを補完する関係を静かに構築しようとしている。

記事参照:Why is Turkey so eager to be led down the Belt and Road?

1030日「拡大ASEAN国防相会議、地域安全保障協力枠組みへの課題―RSIS専門家論評」(PacNet, Pacific Forum, CSIS, October 30, 2017

 シンガポールのS.ラジャラトナム国際関係学院(RSIS)教授See Seng Tanは、1030日付のPacNetに、"Can the ADMM-Plus Do "CUES" in the South China Sea?" と題する論説を寄稿し、ADMMプラス(拡大ASEAN国防相会議)が地域安全保障協力枠組みとして発展していくには南シナ海におけるCUES(洋上で不慮の遭遇をした場合の行動基準)推進のための合同海上訓練などの計画実施が第一歩となるとして、要旨以下のように述べている。

1)アジア太平洋地域における多国間安全保障への取り組みは、2010年に拡大ASEAN国防相会議が創設されて以来、急速に進展してきている。オーストラリア、中国、インド、日本、ニュージーランド、韓国、ロシア、アメリカ及びASEAN 10カ国が参加する拡大ASEAN国防相会議の活動を通じた多国間安全保障協力は、この地域がこれまで独自に経験してきた以上に進展し、深化している。こうした成果を踏まえれば、拡大ASEAN国防相会議は、その参加国が南シナ海におけるCUES(洋上で不慮の遭遇をした場合の行動基準)の適用をテストし、例証する多国間海上共同訓練を実施する地域的枠組みとして機能しないと考える理由はない。拡大ASEAN国防相会議参加国の多くは、2014年に青島で開催された西太平洋海軍シンポジウムにおけるCUES合意時の署名国である。また、中国とASEAN諸国は20169月に南シナ海におけるCUESを独自に策定した。そうした軍同士の協力の好事例を活用し、拡大ASEAN国防相会議はCUESの要素を組み込んだ海上安全保障合同訓練などを実施することでCUESを効果的に実行することができよう。

2201610月、北京で開催された香山フォーラムにシンガポールの国防担当国務相(当時)として参加したOng Ye Kungは、CUESは拡大ASEAN国防相会議の全参加国を対象に拡大される必要があると述べている。更に、シンガポール国防相のNg Eng Henは、CUESの対象として「一般船舶」も含むよう拡大する(現状のCUES合意は海軍艦艇や政府公船のみが対象)とともに、拡大ASEAN国防相会議参加国が地域の空域においてもCUESと類似の手順を採用することを提案している。拡大ASEAN国防相会議がCUESを正式に採用すれば、論理的に次のステップとして海上合同訓練を通じてこの規範が履行されることになろう。そうした提案は決して不自然なものではない。拡大ASEAN国防相会議参加国とその各防衛関係機関は、各種の活動を通じて、信頼できない相手国とも相互に信頼関係を築き、同時に高度な軍事的相互運用性のレベルを確立してきた。拡大ASEAN国防相会議の支援の下に、多国間海上合同訓練の頻度とテンポが高まってきており、参加各国は既に、暗黙の内とはいえ、相互にCUESに類似した活動に関わってきているのである。従って、既に拡大ASEAN国防相会議によって計画されている多国間海上合同訓練を南シナ海における正式なCUESに基づく合同訓練へと発展させるのに大きな労力は要しないであろう。

3)しかしながら、このような提案を実現可能性のあるものにするに当たっては、拡大ASEAN国防相会議が実現できることと、できないことについて、明確に理解しておく必要がある。実際、南シナ海を巡る国家間の緊張が継続し、悪化さえするかもしれない中で、台湾を唯一の例外として、全ての領有権主張国は拡大ASEAN国防相会議参加国であり、従って、これらの諸国が拡大ASEAN国防相会議への関与の度合いを再考するということもあり得ないことではない。結局のところ、拡大ASEAN国防相会議もまた、ASEAN地域フォーラムが悩まされて来た問題、即ち、少なくとも、戦略的抗争関係をASEANの多国間対話枠組みに持ち込もうとする大国の思惑からは逃れられるわけではない。例えば、201511月のクアラルンプールにおける閣僚会合では、参加国間の意見の相違から当初予定されていた南シナ海に関する共同声明(強制的な内容ではなかったが)を破棄することを余儀なくされた。更に、参加国は、拡大ASEAN国防相会議の合同訓練を、防衛装備品とその能力を「誇示する」ことによって一種の抑止効果を狙うこともできよう。例えば、20143月のマレーシア航空370便行方不明事案に際し、中国は18隻の軍艦と海警巡視船そして長距離軍用輸送機からなる部隊を捜索支援活動のために展開させた。CUESによるか否かを問わず、このような動機と行動は、むしろ他の方法によるよりも地域を不安定化させる可能性がある。

4)基本的に、南シナ海におけるCUES実行のために拡大ASEAN国防相会議の枠組みを活用することは、拡大ASEAN国防相会議の任務と権限を、非伝統的安全保障のメカニズムから従来の伝統的あるいは通常の安全保障上の課題を取り扱うメカニズムに、進化させていくという興味深い問題を提起する。ASEAN地域フォーラムの不幸な成果の一つは、台湾海峡、朝鮮半島あるいは南シナ海いずれかを問わず、従来の安全保障問題を「忌避した」ことにあった。拡大ASEAN国防相会議が同様の運命を辿るか否かはまだ不明である。しかしながら、そうした結果を避ける第一歩としては、拡大ASEAN国防相会議を南シナ海における多国間のCUES合同訓練実施の基本枠組みとして確立することであろう。 

記事参照:Can the ADMM-Plus Do "CUES" in the South China Sea?

1030日「中国の北極圏への進出、地域的規制基準の必要性を示唆―米専門家論評」(The Hill.com, October 30, 2017

 米シンクタンク、CNA Corp 副理事長Mark E. RosenHoover Institution研究員David Slaytonは、1030日付の米議会紙、The Hillに、"China is seizing the geopolitical opportunities of the melting Arctic"と題する論説を寄稿し、中国は北極圏に対する積極的な投資活動を行っているが、資源開発と投資に関する北極圏における統一的基準が必要であるとして、要旨以下のように述べている。

1)北極海の海氷の溶解が進むにつれ、石油、天然ガスそして様々な鉱物を含む天然資源開発の可能性や、海上輸送ルートとしての北極海へのアクセスの将来性に対して、様々な国、特にアジアの国からの関心が高まっている。北極圏の資源開発に当たっては、資源開発の加速による利益もリスクもともに受ける北極海沿岸6カ国―カナダ、アイスランド、グリーンランド、ノルウエー、ロシア及びアメリア―による、統一された、あるいは少なくとも協調された対応が必要である。短期的には、輸入するにも輸出するにも海を経由しなければならないため、北極海は共有海域であり、従って、もし問題が生起すれば、沿岸6カ国は、人道支援や災害救助などのコストを負担する必要がある。北極圏では既に大規模な資源開発が行われているが、北極圏から資源を運び出すための道路、鉄道そして港湾といったインフラ開発は、資金調達の課題に直面している。

2)問題は、どの国が、北極圏における資源開発とインフラの開発の資金を負担するのか。更に重要なことは、どのような方法で北極圏における開発の安全を確保するのか、そして北極圏の開発事業に固有のリスクにどのように対応していくかである。アメリカと他の5カ国は北極海沿岸域を共有しており、閉鎖海である北極海の何処かで事故が発生すれば、石油や天然ガスの開発現場の物理的境界をはるかに超えて悪影響を及ぼす可能性があることから、「どの国」が「何を」負担するかを問うことは重要である。不幸にも、北極圏における地域的な法的枠組みはほとんど空白状態であり、この種の国境を越えて影響を及ぼす事故に対処するための基準や法的プロセスは全くない。更にこの状況を複雑にしているのは、域外資本の投資である。

3)北極圏における資源の分布は不均一であり、北極圏の開発や法的枠組みの整備に対する沿岸各国の政治的態度も同様である。CNAによる北極圏に対する域外資本の投資に関するによる調査は、北極圏への外国の直接投資が活発なペースで増加していることを示している。中国は、北極圏の特定の活動と北極諸国への主要な投資国である。2012年から2017年の7月までの間における、中国の北極圏の特別プロジェクトに対する投資は892億ドルを超えている。因みに、北極圏全体の経済規模は約4,500億ドルである。エネルギー、交通及びインフラ計画が最も多くの域外投資を集めた。この間、最も多くの域外投資を受け容れたのはロシアで、アメリカ、カナダが2番目と3番目であった。

4)これらの域外からの投資の経済的、政治的意味は重要である。例えば、グリーンランドに対する中国の投資は40億ドルで、額は少ないかもしれないが、グリーンランドのGDP185%強を占める。これは、他の北極圏諸国に対する中国の投資―カナダに対する投資は同国GDP3.8%、ロシア同2.1%、アメリカ同1.3%―に比して異常に高い。北極圏に対する域外国の直接投資の影響を真に理解するためには、各国独自の法的、経済的状況の視点からの検討が必要である。北極海沿岸6カ国における外国の直接投資に関する法的枠組みは、個々の投資(及びプロジェクト)が財政的に、または環境的にも健全で、かつ沿岸域を共有する他国の利益を保護する形を実施されることを保証するという点では、十分とはいえない。更に、最大の投資先の1つであるロシアは、依然として不透明である。ロシアは、法令を整備しているが、実際の規制実施は不透明で、全ての事業が公表通りに実施されているかについては、信頼度が低い。従って、ロシアの外国投資に対する規制は、ロシアの法令が規定する規制よりもはるかに弱い可能性がある。

5)ロシアのYamal LNG 輸出ターミナルやBelkomur鉄道に対する大規模な投資に加えて、カナダの石油天然ガス会社Nexenを総額151億ドルで取得したことや、ロシア、カナダ及びグリーンランドでの鉱物資源取得に数十億ドルを投資したことなど、中国の資源戦略は、幾つかの要因―即ち、天然資源へのアクセス、代替輸送路、主要市場におけるプレゼンスと収益の確保―によって推進されている。中国はまた、Northern Lights InstituteChina-Nordic Arctic Research Centerなどの研究構想を通じて、北極評議会などの政策フォーラムにおけるプレゼンスを強化している。外国資本と外国人労働者の大規模な導入は、受容国の政治的主権に影響を及ぼす可能性がある。これらの活動を通じた中国の着実かつ漸進的な進出は、気がつけば北極圏諸国が中国の鉱物資源開発や石油天然ガス開発業者に何時の間にか取り込まれている状況をもたらしかねない。

6)中国は北極圏への投資に完全な法的権利を有しており、差別的扱いの対象とすべきではないが、最も低い規制基準の国家が無節操な業者を引き付けることにならないように、外国の投資とその透明性に関する客観的な地域的基準が必要である。そうした基準を実現するためには、数十年かかるであろう。しかしながら、「北極圏開発銀行」(an Arctic Development Bank)の創設といった、資金調達メカニズムに資源開発基準を組み込むことは、関係各国がそれらの資源を開発し、必要な北極圏インフラを開発するために、自国の主権的権利を追求することを可能にするであろう。

記事参照:China is seizing the geopolitical opportunities of the melting Arctic

1030日「北極圏におけるロシアの課題―ノルウエー専門家論評」(Eurasia Daily Monitor, October 30, 2017

 ノルウエー・オスロの国際平和研究所上席研究員Dr. Pavel K. Baevは、1030日付のWeb誌、Eurasia Daily Monitorに、"Militarization and Nuclearization: The Key Features of the Russian Arctic"と題する論説を寄稿し、要旨以下のように述べている。

1)ロシアは北極圏に対する領有権を確保し、「征服する」欲望を増幅させているが、厳しい現実に直面している。1026日にスピッツベルゲンで8人が死亡したMi-8ヘリコプター事故はその典型例である。ノルウエーは30分以内に救助活動を発動したが、ロシアは情況がつかめず行動を躊躇し続け、救助隊が現場に駆け付けたのは1029日であった。厳しい気象の中で地下資源の豊富なスピッツベルゲンのピラミダまで飛行を強行する理由などなかったはずであるが、ロシア政府はノルウエー群島域へのプレゼンスの維持に執着している。ロシアのラブロフ外相は最近のバレンツ会議で、ノルウエーはスピッツベルゲンでのロシアによるヘリコプターの運航などを含む活動を規制している、と非難した。ロシアの国防相もまた、ノルウエーが北極圏でのロシアの利益、特にスピッツベルゲンにおける利益を脅かしていると咎めている。

2)ロシアは、自国の利益が外部から脅かされていると主張して、北極圏での自国の軍事力の増強を正当化している。ロシア北方艦隊は、一連のZapad 2017演習で、東シベリア海のコチェリヌイ島に新設した基地からバレンツ海のノヴァヤゼムリア島とフランツヨーゼフランド諸島に至るまでの地域で、ミサイル攻撃に支援された両用作戦などを実施した。2014年に創設されたロシアの北極コマンドは、北方航路(NSR)の防衛態勢の強化を目指しているが、最大の問題は老朽化したインフラである。ロシアの原子力砕氷船隊を保有する国営原子力企業「ロスアトム」は、NSRに対する管轄権の掌握を試みてきたが、連邦運輸省は省益を固持している。また、10月に実施された長距離爆撃機、ICBM及び戦略原潜(SSBN)の戦略核戦力3本柱を含む、ロシア戦略部隊の演習は、モスクワにとっての北極圏戦域の重要性を誇示するものであった。ロシアは、中国が北極圏にシンボリックなプレセンスを強め、北極海沿岸5カ国の独占状態を打ち破る機会を視野に入れて、調査や北極圏におけるインフラ計画への投資を進めつつあることを承知している。現在までのところ、北京の最大の成果はヤマル天然ガス計画への参画で、ここからの最初の天然ガスが11月に中国の輸送されることになっている。2016年の中国の投資は破産しかけていた同計画とって救いとなったが、中国は現在、配当金に対する課税の削減を求めている。ロシアは、軍事力を誇示することによって、中国の北極圏への漸進的進出に対処できると期待しているのかもしれない。

3)しかしながら、経済が停滞する中で、ロシアが今後、軍事力を背景とした政策に依存できるかどうかははなはだ疑問である。2018年~2020年度までの予算草案では、支出の大幅な削減が見込まれており、軍高官の激しいロビー活動にも関わらず、国防予算も削減されることになろう。大幅な予算増が見込まれる唯一の分野は、プーチン大統領の指示による計画のみである。これらには、サハリン島と本土を結ぶ橋の建設という巨大プロジェクトが含まれるかもしれない。一方で、1976年にサハリン島近くで墜落したTu-95爆撃機からの核爆弾の回収や、コラ半島における膨大な量の核廃棄物の処理などは、大統領の大きな関心事項ではないようである。

4)北極圏におけるあらゆる事業に伴う問題は、これらの事業は現在のところ採算がとれておらず、国家予算からの資金割り当てに依存しているということである。資金が不足しているにも関わらず、それに伴って政治的期待度が低められるどころか、軍事演習など示威行為を繰り返している。補給や補修といった分野が予算削減の主たる対象だが、前述のスピッツベルゲンでの悲劇がこうした分野の予算削減のリスクを示唆している。こうした予算削減のリスクはロシア軍に顕著であり、シリアやロシアのカルーガ地方の基地での戦闘機や爆撃機の墜落事故などはほとんど報道されていない。また、厳しい環境の北極圏において、未完成の軍事基地や、コラ半島に集中している核兵器、原子炉、核廃棄物などが危険に晒されている。プーチン大統領は北極圏の手つかずの自然に思い入れがあるかもしれないが、北極圏の超大国としてのロシアの地位を高めたいとする彼の願望は、多くの人命を危険に晒すことになろう。

記事参照:Militarization and Nuclearization: The Key Features of the Russian Arctic

1031日「インド、新型SSBN保有へ」The National Interest, October31, 2017

 米シンクタンク、The Policy Education Center研究員Zacyary Keckは、1031日付の米誌The National InterestBlogに、"Watch out China: The Indian Navy Has a New Nuclear Missile Submarine"題する論説を寄稿し、インドの新型弾道ミサイル搭載原潜(SSBN)について、要旨以下のように述べている。

1)インドの2隻目の国産原子力潜水艦、INS Aridhamanは間もなく進水し、2年間の海上公試を経て、インド海軍に引き渡される計画である。INS Aridhamanは、20168月にインド海軍に引き渡された、インド海軍初の国産弾道ミサイル搭載原潜(SSBN)、INS Arihantに続くSSBNである。INS Arihantの就役によって、インドは、SSBNを建造し、運用する国として、アメリカ、ロシア、英国、フランスそして中国に次ぐ6番目の国となった。このインド初のSSBNは、SagarikaK-15)潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM12基を搭載しており、その射程は700キロとみられる。インドの国防研究開発機構(DRDO)は、より射程の長いSLBMK-4を開発中で、K-4INS Arihant に搭載されるであろう。しかし、INS Arihant はより大型のK-4ミサイルを4基しか搭載できないであろう。同艦は、発射筒を4基装備しており、各発射筒にK-15ミサイル3基を装填している。同艦はまた、魚雷とBrahMos超音速巡航ミサイルを含む、潜水艦発射巡航ミサイルを搭載可能である。

2INS Arihantは主に訓練用として建造されたもので、4隻の建造が計画されているArihantSSBNの乗組員を訓練する。INS Aridhaman1番艦によりも多くの打撃力を搭載している。インドメディアによれば、INS Aridhaman8基の垂直発射筒を装備し、24基のK-15ミサイルか8基のK-4ミサイルを搭載できる。加えて、2番艦は、1番艦の83MW加圧式軽水炉より出力の大きい原子炉を搭載することになろう。原子炉は燃料としてウランを使用し、軽水は冷却材及び減速材として使用している。これによってINS Aridhamanは静粛に行動し、約2カ月の持続潜航が可能で、潜航時は24ノットで航行できる。ArihantSSBNは 技術的には国産艦だが、ロシアのAkula I級攻撃型原潜(SSN)の設計を基礎としている。インドは、過去にロシアからAkula ISSNの貸与を受けていた。とはいえ、訓練艦ではない最初の国産SSBNの進水は、インド海軍にとって重要な一里塚である。

3SSBNの運用によって、インドは完全な核の3本柱戦力を完成する。一面では、SSBNは、この地域の戦略的安定にとって望ましい進展と見なし得る。何故なら、外洋で潜航哨戒中のSSBNは、奇襲攻撃に対して、航空機や地上配備ミサイルに比べ、はるかに非脆弱な戦力だからである。インドのように、あまり多くない核戦力を有する国にとって、このことは特に重要である。同時に、核の3本柱におけるこの新しい柱は、インドの核運用手順に大きな変化をもたらすであろう。インドは、核の先制不使用宣言政策を採っている国として、核弾頭とミサイルは分離され、別個に保管されているようである。他の2本、航空機と地上配備ミサイルは、必要になれば、別個に保管されている航空機やミサイルと核弾頭を結合させれば良いが、これはSSBNでは不可能である。抑止効果を発揮するためには、ミサイルと弾頭はSSBN搭載時に結合されている必要があり、これは先制不使用政策と矛盾することになる。このことは、最近、核抑止任務のためのSSBNの哨戒を開始した、先制不使用政策を採るもう1つの国、中国が直面する問題でもある。ここから必然的に浮かぶ問題は、インド海軍の戦闘艦、特に最近、何件かの事故が発生している潜水艦部隊に核兵器を搭載することの安全性についての疑問である。

4)インドのSSBNの出現は、中国・インド・パキスタンのいわゆる核の三角地帯における拡大する技術的軍備競争の1例である。インドは2012年に、Agni-V中距離弾道ミサイルの初の試験を実施した。このミサイルは中国全土をその射程内に収める。前述のように、中国は2016年のある時期から、SSBNによる核抑止任務の哨戒を実施し始めた。中国はまた、MIRV化弾道ミサイルを配備し始めた。インドもMIRV化ミサイルを保有していないのであれば、何れインドも辿る道である。中印両国はまた、情報監視偵察の能力向上によって、そのターゲッティング能力の向上にも努めてきた。他方、パキスタンは、インドの通常戦力による攻撃を無効にするため大規模な戦術核戦力の建設に重点を置いている。

記事参照:Watch out China: The Indian Navy Has a New Nuclear Missile Submarine

1031「ロシア海軍の展開日数、過去5年間で3倍に」(The Barents Observer.com, October31, 2017

(1)ロシア海軍司令官、Vladimir Korolyovがロシア軍機関紙「赤星」とのインタビューで明らかにしたところによれば、ロシア海軍の展開日数は過去5年間で3倍になった。同司令官は、「水上艦艇についていえば、2013年の展開日数は5,900日であったが、2014年は約1万2,700日、2015年は1万4,200日、2016年は1万5,600日、そして2017年は既に1万7,100日になっている」と語った。ロシア海軍はまた、世界の海洋への展開も活発化させている。コラ半島に根拠地を置く、最大の艦隊、北方艦隊は2016年から2017年に、空母Admiral Kuznetsov と誘導ミサイル重巡Pyotr Velikiyをシリア沖に派遣し、Admiral Kuznetsovの艦載機はシリア反政府勢力に対して420回の攻撃を実施した。同司令官によれば、シリアの目標に対する戦艦と潜水艦からの最新の精密誘導兵器による攻撃の成果については現在分析中で、その結果は訓練計画や教育課程に反映される。またロシア海軍の戦術演習回数は、2012年には200回強であったが、2017年には約500回となった。

(2)同司令官は、北極圏を担当する北方コマンドについて、「北極圏におけるロシアの国益を護る効果的な組織」であると、その重要性を指摘した。中核となる北方艦隊には、海軍砕氷艦Ilya Murometsが2017年中に配備され、Admiral Gorshkov級フリゲートの1番艦も北方艦隊の主基地、セベロモルスクに間もなく配備されることになっている。また、海軍の最大艦、空母Admiral Kuznetsov と誘導ミサイル重巡Pyotr Velikiyは近代化されることになっている。誘導ミサイル原子力巡洋艦Admiral Nakhimovは現在、セヴェロドビンスク造船所で改修、近代化工事中である。また、同司令官によれば、同造船所で建造中の新型弾道ミサイル原潜Knyaz Vladimirが近い将来進水予定であるという。就役すれば、Bulava弾道ミサイル16基を搭載する。

記事参照:Russian navy triples deployment in five years

1031「中国洋上原子炉、完成間近」(Reuters.com, October 31, 2017

 ロイター通信は10月31日付けで、中国の洋上原子炉が完成間近であるとして、要旨以下のように報じている。

(1)中国初の洋上原子炉計画に関わっている、中国船舶重工業集団(CSIC)の技術者によれば、洋上原子炉は間もなく完成する。北京は、洋上原子炉が新たな市場を獲得するだけでなく、洋上の石油天然ガス掘削リグや南シナ海の人工島に対する安定した電力を提供することによって、「海洋強国」になるという国家的野心を促進できることを期待している。CSICの技術者は、時期は明言しなかったが、2020年以前には渤海湾の掘削リグに電力を提供できるようになるという。この洋上原子炉計画は、CSIC、中国海洋石油総公司(CNOOC)、及び2つの原子炉製造会社、中国核工業集団(CNNC)と中国広核集団(CGN)によって進められている。

(2)専門家は、洋上原子炉の安全性と安全確保などに懸念を示している。米シンクタンク、The Carnegie Endowment for International PeaceのMark Hibbs上席研究員は、「遠隔の洋上にある原子炉は、安全性、安全確保、経済性や補給などのあらゆる問題が懸念される。また、中国は洋上原子炉を護るために軍事プレゼンスを強化することで、南シナ海の紛争海域の軍事化が促進されることになろう。中国は、原子力エネルギーを、戦略的利益を促進する、優れて戦略的な技術と見なしている」と指摘している。

記事参照:China close to completing first offshore nuclear reactor

画像: An illustration shows China General Nuclear Power Corporation's ACPR50S reactor, which appears set to become the one of the world's first floating nuclear reactors.

【補遺】

旬報で抄訳紹介しなかった主な論調、シンクタンク報告書

1. Conflict with China Revisited

https://www.rand.org/content/dam/rand/pubs/perspectives/PE200/PE248/RAND_PE248.pdf

RAND, October, 2017

By James Dobbins (Senior Fellow), Andrew Scobell (Senior Political Scientist), Edmund J. Burke, David C. Gompert, Derek Grossman, Eric Heginbotham, Howard Shatz

2. Force Planning for the Era of Great Power Competition

http://csbaonline.org/uploads/documents/CSBA6302_%28Developing_the_Future_Force%29_PRINT.pdf

CSBA, October 2, 2017

Mark Gunzinger (Senior Fellow), Bryan Clark (Senior Fellow), David E. Johnson (Senior Fellow), Jesse Sloman (Analyst)

3. Force Planning for the Era of Great Power Competition

http://csbaonline.org/uploads/documents/CSBA6302_%28Developing_the_Future_Force%29_PRINT.pdf

CSBA, October 2, 2017

Mark Gunzinger (Senior Fellow), Bryan Clark (Senior Fellow), David E. Johnson (Senior Fellow), Jesse Sloman (Analyst)

4. China's Secret Military Plan: Invade Taiwan by 2020

http://freebeacon.com/national-security/chinas-secret-military-plan-invade-taiwan-2020/?utm

The Washington Free Beacon.com, October 3, 2017

By Bill Gertz, the senior editor of the Washington Free Beacon

5. Securing the Frontier: Challenges and Solutions for U.S. Polar Operations

http://csbaonline.org/uploads/documents/CSBA6303-Securing_the_Frontier_WEB.pdf

CSBA, October 5, 2017

Bryan Clark (Senior Fellow), Jesse Sloman (Analyst)

6. War & Weapons Analysis: US vs China

https://scout.com/military/warrior/Article/War-Weapons-Analysis-US-vs-China-108617594

Scout Warrior.com, October 8, 2017

7. Inside the USS Gerald R. Ford

https://www.marinelink.com/news/inside-gerald-ford430250

MarineLink.com, October 11, 2017

8. Chinese Power Projection Capabilities in the South China Sea

https://amti.csis.org/chinese-power-projection/

Asia Maritime Transparency Initiative, CSIS, October 13, 2017

9. Force Buildup in the South China Sea: The Myth of an Arms Race

https://amti.csis.org/force-buildup-scs-myth/

Asia Maritime Transparency Initiative, CSIS, October 16, 2017

Alexander L. Vuving is a professor at the Daniel K. Inouye Asia-Pacific Center for Security Studies.

10. Tracking Malaysia's Force Build-up in the South China Sea

https://amti.csis.org/tracking-malaysias-force-build-up/

Asia Maritime Transparency Initiative, CSIS, October 20, 2017

Alexander L. Vuving is a professor at the Daniel K. Inouye Asia-Pacific Center for Security Studies.

11. Taiwan: Issues for Congress

https://fas.org/sgp/crs/row/R44996.pdf

Congressional Research Service, October 30, 2017

Susan V. Lawrence, Specialist in Asian Affairs

Wayne M. Morrison, Specialist in Asian Trade and Finance

12. Autopilot: East Asia policy under Trump

https://www.lowyinstitute.org/publications/autopilot-east-asia-policy-under-trump

Lowy Institute, October 31, 2017

Aaron L Connelly is a Research Fellow in the East Asia Program at the Lowy Institute.