海洋安全保障情報旬報 2017年11月1日-11月30日

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111日「インドネシアのブルーエコノミー構想―RSIS専門家論評」(RSIS Commentary, November 1, 2017

 シンガポールのS.ラジャラトナム国際関係学院(RSIS)研究員Dedi Dinartoは、111日付のRSIS Commentariesに、 "Indonesia's Blue Economy Initiative: Rethinking Maritime Security Challenges " と題する論説を寄稿し、インドネシアはブルーエコノミー構想の推進に熱心だが、IUU(違法、無報告、無規制)漁業、海賊、海洋のプラスチックごみなど、解決すべき数多くの非伝統的海洋安全保障課題があり、その実現には海洋安全保障ガバナンスが重要な役割を果たすとして、要旨以下のように述べている。

1)ジョコ・ウィドド(ジョコウィ)大統領の「グローバルな海洋の要」(Global Maritime Fulcrum)ビジョンにおける海洋資源計画の主要優先課題の1つとして、ブルーエコノミー構想沿岸域や海洋生態系の活用を重視する持続可能な開発モデルが大きな注目を集めてきた。ジョコウィ大統領は、インドネシアの海洋アイデンティティーを再活性化し、海洋資源を管理し、海洋防衛能力を強化し、海洋外交を推進し、そして群島内の各島嶼間の連結性を高めることを公約してきた。

2)最近公表された「国家海洋政策2017」は、海洋ビジョンを実現させるための包括的ロードマップと政策ガイドラインを規定し、ブルーエコノミーを政権の重要政治課題の1つに盛り込んでいる。インドネシアの継続的な取り組みは、環インド洋地域協力連合(IORA)などの地域フォーラムに対する国際的関与によっても示されている。2017年の第2IORAブルーエコノミー閣僚会議を主催する機会を得たインドネシアは、IORA加盟国に対してブルーエコノミーを巡る意見交換に止まらず、多数のブルーエコノミー構想、具体的には、漁業や養殖漁業、港湾間協力、関税協力、海洋観光及び海洋プラスチックごみなどの分野で協力し合うよう要請した。

3)インドネシアは、ブルーエコノミーの一層の推進を決意しているが、依然、違法・無報告・無規制(IUU)漁業問題に悩まされている。インドネシアの調査報道誌、Tempoによれば、インドネシアは2013年以降、蔓延するIUU漁業活動によって年間30億ドルもの損失を被ってきた。シンガポールの東南アジア研究所(ISEAS-Yusof Ishak Institute)が2009年に行った調査では、アラフラ海がIUU漁業に最も脆弱な海域の1つであった。また、ジャワ海とボルネオ島近海の領海もIUU漁業に悩まされている。スシ海洋水産相は、IUU漁業に対して強硬な対抗手段をとってきた。同相の手法は、拿捕した違法船舶を沈めることであった。インドネシアは20176月、IUU漁業に関わった船舶81隻を沈めた。スシ大臣の手法は、国内的には喝采を浴びたものの、国際的には過酷だとの批判を浴びた。違法船舶を沈めることはインドネシア領海への違法漁船の侵入を防ぐ効果的な手法だとしているが、その一方でインドネシアは、違法漁船だと疑われる船舶の追跡と監視をサポートする豪衛星データ会社Spire Global と協力しながら、予防的手法や監視手法も追求している。有効なデータや実用的な情報は、インドネシア海軍と海上保安機関が違法船舶を調査し、拿捕することに役立つであろう。 

4)またインドネシアは、依然として海賊行為や武装強盗事案にも直面している。シーレーンの安全確保は、ブルーエコノミーの重要な要素である。IMBのデータによれば、これら事案は2011年に46件、2015年に108件を記録しており、134%という急激な増加となっている。インドネシアにおける海賊行為や武装強盗事案のほとんどは、公海や領海ではなく、港湾付近で発生している。港湾におけるこれら事案の割合は2012年に全体の65%であったが、その割合は間断なく増加し、2015年には82%に達している。一方で、領海や公海における事案は減少している。更に、海洋環境に被害を及ぼし、海産物を汚染する海洋プラスチックごみも、インドネシアのブルーエコノミーの課題となっている。シティ環境林業相は、インドネシアはこの問題対処に相当な努力を払っている一握りの国家群の1つに過ぎないと指摘した。とはいえ、インドネシアは、リサイクル体制や廃棄物管理体制の不備により、年間約130万トンものごみを生み出してもいる。海洋観光の観点からすれば、大量の海洋プラスチックごみは、インドネシアの未熟な海洋観光産業の着実な発展を阻害しかねないものである。

5)ジョコウィ政権の取り組みを促進する上で、海洋指向の統合経済発展計画を策定するに当たっては、経済と安全保障の連結という難問を考慮に入れなければならない。インドネシアは、IUU漁業抑止策として違法船舶を沈めることに加えて、良好な海洋安全保障ガバナンスを執行することで、ブルーエコノミーを更に発展させる道を切り開かなければならない。良好な海洋安全保障ガバナンスとは、海洋安全保障の指針となるもので、機能と役割を明確に分離し、情報共有を統合し、海上保安機関同士の頻繁かつ良く調整された海上哨戒を実施することで、起こり得る脅威を明確にすることである。

記事参照:Indonesia's Blue Economy Initiative: Rethinking Maritime Security Challenges

111日「日比安全保障パートナーシップの意義フィリピンの視点」(PacNet, Pacific Forum, CSIS, November 1, 2017

 比The Ateneo de Manila University講師Lucio Blanco Pitlo IIIThe National Defense College of the PhilippinesNDCP)研究員Mico A. Galangは、Pacific Forum Web誌、PacNet 111日付で、"The Philippines-Japan security partnership in a changing regional security environment"と題する論説を寄稿し、フィリピンの視点から、変化する安全保障環境下における日比安全保障パートナーシップの意義について、要旨以下のように述べている。

1)日本は、米主導の地域安全保障体制の中で最も強力な防衛力を有し、トランプ政権の慫慂の下、防衛力に劣る東南アジア諸国の安全保障パートナーとして、より大きな役割が期待されている。日本は安倍首相の下で、フィリピンとの安全保障問題に関する関係強化に強い関心を持ってきた。日比両国ともアメリカとの長い同盟関係を維持する島国であり、海洋安全保障に共通の利害を有する。現在のところ、日比両国の安全保障関係は比較的限定的で、非伝統的安全保障問題に限定されている。日本の対比援助は、ソフトとハードの両面における能力構築支援で、主としてフィリピンの警察と沿岸警備隊を対象としている。

2)日本は、フィリピンを含む地域安全保障関与を強めているが、幾つかの要因によって制約されている。

a.第1に、憲法上の制約であり、海外における軍事活動の拡大に対する国内の反対勢力である。

b.第2に、日比パートナーシップの更なる制度化には、フィリピン側に大きな制約がある。現在のところ、フィリピンが訪問部隊協定(VFA)を結んでいる国はアメリカ(1999年)とオーストラリア(2007年)の2国のみだが、これらの協定は激しい国内論議と反対を経て実現したものである。

c.第3に、域内における経済的存在を益々高めている、北京の反応に対する懸念である。2017年に、中国は、日本を追い越して、フィリピンにとって最大の貿易相手国となり、中国からの観光客や投資が益々増大している。このため、海洋権限主張が競合していることから、マニラは、西フィリピン海の自国のEEZ内においてアメリカや日本、その他の国との合同哨戒活動を実施しないと決定することになるかもしれない。大国間の抗争から距離をおくというのが、ドゥテルテ大統領の外交政策である。

d.第4に、日本に対する戦争の記憶である。マニラは、「東のワルシャワ」といわれるほどに、戦争中大きな被害を受けた。

3)こうした制約要因にもかかわらず、日比安全保障協力は両国にとって大きな機会となっている。

a.第1に、日本は、米比間に生じるかもしれない対立の架け橋になり得る。

b.第2に、日本は、もし域内の同盟諸国に対するアメリカの安全保障支援が低下するようなことになれば、それを補完し、更にはギャップを埋めることさえできる。東京は、『国家安全保障戦略』で示された「平和への積極的な寄与」政策の下、防衛力を強化するとともに、日米同盟と域内パートナー諸国との安全保障協力とを強化することによって、アジア太平洋地域における安全保障の改善を目指している。このため、日本は、国家安全保障会議を新設し、安全保障法制を成立させた。

c.第3に、日本は、ReCAAPなどを通じて、海賊対処などの非伝統的安全保障脅威対処のための地域安全保障協力に積極的に関与している。

d.第4に、域内における日本の安全保障役割の増大に対するフィリピンの支援は、東京のイニシアチブに対する外交的な追い風となっている。例えば、日本が安全保障法制を成立させた時、フィリピンは直ちに支持を表明した。ドゥテルテ政権は、この支持を継承しており、自国領海内での東京との合同哨戒演習の実施にも積極的である。また、マニラは、VFAの必要性についても言及している。

e.第5に、日比安全保障パートナーシップは有事における相互防衛を約束するものではないが、フィリピンは、最小限の信頼できる防衛力を構築するために、海空能力の構築に対する日本の継続的な支援を期待している。

f.最後に、東南アジア諸国は台頭する中国の海洋における野心に対する対抗勢力として域外大国の関与を望んでおり、選挙を通じて政権基盤を固めた安倍政権は今後、これら諸国との安全保障協力を拡大して行くであろう。

記事参照:The Philippines-Japan security partnership in a changing regional security environment

112日「米越戦略的海洋パートナーシップの意義ベトナムの視点」(Asia Maritime Transparancy Initiative, CSIS, November 2, 2017

 ベトナムのThe University of Social Sciences and Humanities国際問題研究所所長Truong-Minh Vuは、米シンクタンク、CSISAsia Maritime Transparency Initiativeのサイトに112日付で、"Toward a U.S.-Vietnam Maritime Partnership"と題する論説を寄稿し、米越間の軍事協力が1995年の国交正常化以降、最高点にあるとして、要旨以下のように述べている。

1)現在の米越軍事関係は、1995年の外交関係の正常化以来、最も良好な状態にあるといえる。しかしながら、米越間の戦略的、軍事的和解は、トランプ政権下のアメリカがアジア太平洋地域への関与を低下させることを懸念する、ベトナム国民からはほとんど注目されなかった。ベトナムを含む多くのアジア諸国にとって、法と規範に基づく戦後システムは、空前絶後の繁栄と安定の時代をもたらし、このシステムを護るために協同してきた。高圧的で強大な(軍事、経済両面での)中国の台頭は、トランプ政権の「アメリカ第一」主義と相まって、現在の地域構造を浸食し、アメリカの域内の同盟国やパートナー諸国を含む、中小国家の利益を脅かしかねないものとなっている。2つの超大国の狭間で慎重にバランスを取るというベトナムの戦略は近年、ASEAN諸国の一部が中国主導の貿易圏や紛争解決メカニズムに積極的に加わるようになるにつれ、次第にその余波を避けることが困難になってきた。東南アジアにおける勢力均衡は水面下で徐々に中国優位へと変化しつつあり、ベトナム以上にそれを実感している国は恐らくないであろう。こうした多難な状況の中にあるにも関わらず、ベトナム国民は、米越間の軍事的パートナーシップの増大する重要性を忘れてもっと正確にいえば見落としているように思われる。

2)米太平洋軍は、対越武器禁輸が解除される以前から、ベトナムの安全保障における重要協力分野を提示していた。20119月に締結された2国間防衛協力の推進に関する了解覚書(MOU)には、安全保障援助と米越両軍間の教育交流も含まれていた。当然のことながら、順天分野は能力構築支援であった。2つの分野の支援が際立っている。即ち、1つはベトナム沿岸警備隊(VCG)の能力強化であり、もう1つはベトナムの国際平和維持活動の参加態勢を改善することであった。駐越アメリカ大使は522日、VCGに対して正式に45フィートのMetal Shark級哨戒艇6隻を引き渡した。その4日後、ベトナムのグエン・スアン・フック首相がワシントンを公式訪問する直前に、アメリカ沿岸警備隊(USCG)は、ホノルルでVCGに航続距離の長い巡視船を引き渡した。以前のHamilton級巡視船、Morgenthauは、CBS-8020と命名され、VCGの現行装備で最大の巡視船となった。将来的により多くの同型船がVCGに供与されるとの話もある。USCGが主催する訓練プログラムも開始され、VCGの捜索救助任務や操船手順能力などの改善と強化が図られている。平和維持活動については、平和維持活動訓練センターが828日、米政府からベトナム国防省に引き渡された。このセンターに加えて、米政府は、ベトナムが初めての野戦病院を設置する支援も提供した。その後間もなく、ベトナム平和維持部隊は、南スーダン派遣前の準備態勢の一環として野戦病院の運用演習を実施した。

3)以前から、本稿の筆者(Truong-Minh Vu)らは、南シナ海における海軍力に関して中国との非対称状況が拡大しつつあることを踏まえ、VCGはベトナムの海洋戦略において重要な要素となった、と指摘してきた。VCGは、平時における海軍の負担を軽減する手段として創設されたものであるが、現在では、国連海洋法条約で認められた海洋主権や管轄権の日常的な執行活動にも活用されている。従って、ベトナムは、VCGをベトナム領海への侵入に対抗する手段として、中国のいう「白い船隊」の活用法を真似ようとしている。このようなVCGの活用によって、単なる事故が危機にエスカレートした場合における、直接対決の軍事的、政治的コストを最小限に抑えられる。またVCGは、漁民を装う中国の海上民兵組織からベトナム漁民を護ることにも役立つ。こうしたアプローチは、ベトナムが係争海域の効果的な管理を維持するとともに、中国の海上法令執行機関の圧力下で海上における不測事態に対処する上でも役立ってきた。

4)このように、米越間の軍事安全保障協力の大部分は、非伝統的安全保障領域に重点を置いてきた。ベトナムがVCGに対する投資を増大し、VCGを要とした統合海洋戦略策定の必要性が高まっている状況下で、アメリカは、決定的な支援を提供する用意がある。これまでのところ、2011年のMOUに従って、防衛協力が進められてきた。ベトナムの指導層は、2013年に締結された戦略的パートナーシップを通じて、より強固な2国間軍事協力の促進を支持している。ベトナム海軍や戦略の専門家は、ベトナムの海軍戦略、そしてより広範な海洋戦力間の協調戦略について、議論を続けている。しかしながら、こうした戦略が実現するためには、国民と文民の専門家の包括的かつ積極的な参画が必要である。

記事参照:Toward a U.S.-Vietnam Strategic Maritime Partnership

112日「米印日豪4カ国連携構想、中国との連携が狙いインド専門家論評」(South China Morning Post.com, November 2, 2017

 インドのシンクタンクThe Society for Policy Studies所長C. Uday Bhaskar(インド海軍退役准将)は、香港紙South China Morning Post(電子版)に112日付で、"Democratic alliance of the US, India, Japan and Australia wants to work with China - not contain it"と題する論説を寄稿し、米印日豪4カ国連携構想は海洋領域で中国を「封じ込める」真剣な試みではないとして、要旨以下のように述べている。

1)ティラーソン米国務長官が10月にワシントンで行った政策演説の中心テーマは「インド太平洋」概念で、長官は、インドと対比して、中国の「略奪的な」経済モデルと、責任を負わない大国としての中国の台頭にも言及した。「インド太平洋」概念において、アメリカとインドはグローバルな安定を両端から支える2つのブックエンドと位置づけられている。これは、北京に対する挑発なのか。

2)ティラーソン長官は10月末のデリー訪問中、海洋領域が世界最古の民主主義と最大の民主主義の間のより広範な2国間交流の焦点であるとの見解を繰り返し述べた。パートナーシップの基本原理としての民主主義が結束を促している。民主主義諸国間の協調と、インド洋と太平洋という2つの大洋の交わりという理念は、20078月に第1次政権当時の安倍晋三首相が、デリーのインド議会で演説した際に言及したものである。キャンベラを加えた四角形、4カ国による海軍間の連携が検討された。当時、北京は強い反発を示し、そのためこの構想は、インド、日本及びオーストラリア3カ国における政治的な支援とコミットメントが希薄化したために、休眠状態にある。今回のティラーソン長官のデリー訪問を通じて、志を同じくする民主主義諸国が「インド太平洋」地域における自由を維持するためのステークホルダー(利害関係国)になるという構想が再び蘇った。そして、北京と東京の反応は予想通りであった。日本の河野太郎外相は、4カ国による高官会合を提案した。在ワシントンの中国大使は、「排他的なクラブ」の形成を非難し、このような方法で「中国を封じ込める」ことはできないと警告した。では、海洋領域で中国を「封じ込める」真剣な試みがあるのか、そしてこのための排他的クラブが形成されつつあるのか。何れの質問に対しても、答えは「ノー」である。

3)アメリカと、日本や最近ではインドのようなその同盟国は、航行の自由の原則を尊重する必要性を重視しており、国連海洋法条約と関連国際法の順守を求めている。中国は航行の自由の原則の受け入れを渋っており、これが南シナ海紛争の要因の1つともなっている。アメリカとこれら諸国の目的は、第1のグローバル・コモンズである海洋領域(サイバーと宇宙空間が第2)の管理に関して、北京による相応の法令遵守を慫慂することである。従って、現在の目的は、中国を封じ込めではなく、むしろ合意に基づく利害関係国とすることである。「排他的クラブ」のレッテルも見当はずれである。この4カ国は全て、既に中国と極めて密接かつ包括的な貿易、経済関係を維持しており、如何なる形でも北京を排除ことなど考えてもいないからである。

4)中国の深刻な不安を煽っているのは、中国の当時の胡錦濤主席が2003年に言及した、「マラッカ・ジレンマ」である。これは、アメリカとそのパートナー諸国が、「インド太平洋」を通航する中国の貿易通商ルートの脆弱性に付け込むかもしれないという懸念である。その不安を和らげるために、北京は、ミャンマーとスリランカからグワダル(パキスタン)とジブチまでの、「真珠数珠つなぎ」戦略と称されるインド洋沿岸域における港湾ネットワークの建設整備に投資してきた。中国の現在の関心事は、アメリカによって主導される民主主義4カ国連携構想が、中国の夢の実現を阻む「ダイヤモンド・ネックレス」に決してならないようにすることである。真珠とダイヤモンドは、相互にせめぎ合う必要はない。

記事参照:Democratic alliance of the US, India, Japan and Australia wants to work with China - not contain it

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「民主主義国は中国の覇権からインド太平洋地域を護るために連携すべしインド専門家論評」(Hindustan Times.com, November 17, 2017

 インドの地政学者Brahma Chellaneyは、1117日付のインド紙Hindustan Times(電子版)に、"Democratic forces must join hands to protect Indo-Pacific from China's hegemony" と題する論説を寄稿し、日米豪印4カ国連携構想はインド太平洋地域の安定と繁栄に有益であるとして、要旨以下のように述べている。

1)もし日米豪印4カ国連携構想(The Australia-India-Japan-US quad)がインド太平洋を護ることができなければ、中国の狭量な覇権秩序が出現するであろう。そのような国際秩序の下で生きていくことは、誰もが望まないであろう。世界で最もダイナミックな地域、インド太平洋地域において、パワーバランスを不安定化させる妖怪が次第に大きくなりつつある環境下で、かつて安倍晋三首相が「民主主義の安全保障ダイヤモンド」と呼んだ構想の実現という今日的要請は、日米豪印各国をして、民主主義勢力の戦略的な連携に向けての努力を再開させることになった。主要民主主義勢力の緊密な戦略的協調は、インド太平洋地域における力の安定と均衡を促進する。日米豪印による戦略的4カ国連携構想は、潜在的な民主主義国間連携の核心となるものである。

2)まず、明確にしておくべきは、自由で、包括的で、ルールに基づく国際秩序に取って代わるのは、中国固有の偏狭な覇権秩序であるであるということである。このような国際秩序の下で生きていくことは誰も望んではいない。しかし、こうした事態は、域内各国がルールに基づく国際秩序に対する挑戦に対抗しようとしなければ、まさにインド太平洋地域が直面するかもしれない事態なのである。中国は、現在の秩序の下で繁栄した。しかし、中国は、経済力と軍事力を強めてきたことで、領土、海洋及び通商問題に関する確立された規則や規範を無視することを含め、今や現在の国際秩序に挑戦しているのである。

3)ティラーソン米国務長官は1018日、初めてアジア太平洋地域政策に言及した講演で、民主主義勢力の協調を主張した。このような努力を成功させるには、10年前の4カ国連携構想の試みを持続させることに失敗した教訓を含め、幾つかの現実を直視しなければならない。20075月に4カ国連携構想の初会合が開催された時、北京は、早速そこに「NATOアジア版」の幻影を見、激しい外交的、経済的圧力によって4カ国連携構想の解体を求め、最終的にはそれに成功した。4カ国連携構想の解体は、中国の行動を望ましい方向に変えたか。むしろ中国の行動は悪い方向に変化した。もし4カ国連携構想が中国の圧力に立ち向かっていれば、中国は、南シナ海の現状を戦略的に変更する余裕はなかったであろう。中国は、南シナ海に7つの人工島を造成し、それらを軍事化して支配権を拡大するのに成功したばかりでなく、ヒマラヤ山脈から東シナ海に至る地域でその侵略的な野心を大胆に膨らませてきたのである。

4)この失われた10年は、民主主義勢力にとって再び失敗することが許されないことを意味している。民主主義勢力は、いずれも単独では中国による領土や海洋への漸進的侵出を阻止し、あるいは益々強権的になるアプローチを制御することができなかったことから、実効的な協調と協力を通じて合同で取り組んでいく必要がある。とはいえ、民主主義勢力の連携は、正式な同盟体制を形成することにはなりそうもない。緩やかな民主主義勢力の連携は、「民主主義による平和」の概念に強みを見出すことができる。しかしながら、民主主義勢力は、不必要に会合やその意図を喧伝することなく、漸進的かつ着実に連携を強めていかなければならない。

5)日印両国は、中国の直接的な軍事圧力に直面しており、従って、地理的に遠い米豪両国よりも民主主義勢力間の協調体制の形成に大きな関心を持っている。オーストラリアは、最初の4カ国連携構想の試みが頓挫した原因となったが、再構築された4カ国連携構想においても依然脆弱な連環点である。一方、再構築された4カ国連携構想の成功の要は、アメリカの完全な参加である。安倍外交の成果である4カ国連携構想の再開は、この4カ国間の安全保障対話を推進するとともに、拡大しつつある民主主義勢力間の緊密なパートナーシップを相互に連関させる試行的な枠組みの役割を果たすことを企図している。対称的な政治的価値観がインド太平洋の主たる地政学的分断線となったことを考慮すれば、価値共同体を構築することは、地域の平和と安定を支える上で有益となり得る。こうした価値共同体はまた、中国の挑発的な一国主義がもはや対価を強要されずに済むものではない、ということを確かなものにしよう。明白な事実は、インド太平洋地域の民主主義勢力は自然な同盟関係にあるということである。日米豪印の戦略的な四角形は、インド太平洋地域における自由、繁栄そして安定を築く努力をリードし、リベラリズムが反リベラリズムに勝ることを確かなものにする、最良のものである。

記事参照:Democratic forces must join hands to protect Indo-Pacific from China's hegemony

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「インドと4カ国連携構想の復活インド専門家論評」(The Institute of South Asian Studies (ISAS), November 17, 2017

 インドのシンクタンク、カーネギー国際平和基金インド所長、兼シンガポール国立大学南アジア研究所(ISAS)訪問教授C Raja Mohanは、1117日付のISASブリーフィングに、"India and the Resurrection of the Quad " と題する長文の論説を寄稿し、日米豪印の4カ国連携構想の復活はインド政府にとって中国政府に対する交渉力強化の第一歩であるとして、要旨以下のように述べている。

111月中旬のマニラでの一連のASEAN会議に併せて開催されたインドと日米豪4カ国の局長級協議は国際的に大きな関心を集めたが、一方でインドの外交政策コミュニティ内でかなりの不安を生み出した。ニューデリーの支配的な意見は、モディ首相に対して、アメリカとの望まない同盟に組み込まれてしまう危険性を警告するものであった。こうした不安は、アメリカに対する強い不信感と、インドが伝統的な非同盟政策を放棄することへの根深い懸念を反映したものである。こうした論議は、インドの外交政策コミュニティにおける保守派の当然予想された反応でもあった。保守派は、この四半世紀、時の政府による外交的革新については、如何なる問題についても一貫して反対する傾向にあった。このような厄介な否定論者は、これまでの多くの政権を悩ませて来たかもしれないが、モディ政権には影響を与えていないようだ。アメリカとの協力に関する長年に亘るニューデリーのねじれ現象は、非同盟政策の永続的な遺産の一部でもある。

22006年末に第1次政権時の安倍晋三首相が初めてシン首相に提案した、4カ国連携構想は、種々の理由から短命現象に終わった。しかし、2012年末に安部政権が復活し、4カ国連携構想に新たな息吹が吹き込まれた。安部首相は201212月、「自由で開かれたインド太平洋」を構築する努力の一環として、4カ国連携構想の再生を求める論説を発表し、最終的にはこの枠組みと欧州の主要海洋国である英仏との連携を提案した。シン前政権下のインドは、この構想を推進することには消極的であったようだが、2011年に発足した日米との3カ国枠組みには十分満足していた。4カ国連携構想への抵抗は、20145月に発足したモディ政権でも続いていた。それ故に、4カ国連携構想を推進するという、今回のニューデリーの決定は、重要な政策転換といえる。モディ首相は、4カ国連携構想を支持するが、独自の外交路線を放棄するつもりはなく、むしろ4カ国連携構想が域内におけるインドの全般的な地位を強化することになる、と確信している。そのためには、今後、主要国に対するインドのより幅広いアプローチの中に、この体制を位置付けていかなければならない。モディは就任時、非同盟政策の厳格な解釈に拘束されることを拒否し、インドをその周辺の戦略環境を形成することが可能な「指導的大国」と見、主要大国に対して大胆な政策をとる用意があった。

3)中国に対して、モディ首相は、経済協力の拡大、国境紛争の鎮静化そして国際協力の強化に根ざした新たな枠組みを、北京との間で構築することに自信を持っていた。しかしながら、頻繁な国境地帯の緊張、インドの原子力供給国グループ加盟に対する中国政府の反対、更にはパキスタンが国境を越えたテロの温床になっていることについてのインドの懸念に対する無関心などによって、中国との関係は徐々に悪化したが、モディは挫けることはなかった。それどころか、モディは、中国への関与政策を堅持しつつも、ドクラム高地の軍事的現状を変更しようとする中国政府の試みに対しては強固な姿勢をとった。核心的な問題に対する強固な姿勢と、関係拡大の意志との組み合わせたアプローチは、この何十年も知られてきたインドの対中アプローチとは大きく異なるものであった。

4)アメリカに対しては、モディ首相は、対米関係におけるインドの「歴史的な躊躇」("historic hesitations")を終わらせ、核の信頼性を巡る長年の係争を解決し、原子力協力協定の履行を完了した。またモディは、アメリカとの10年間の防衛協力枠組みを更新し、兵站支援に関する覚書に調印して、米軍部隊との相互運用態勢強化に前進した。モディは、2015年のインド共和国記念日に米大統領を初めて招待し、オバマ大統領との間で、アジアとインド洋地域に関する共同ビジョン声明に署名した。

5)モディ首相はまた、日本を、彼の大国ヒエラルキーにおける極めて特殊な地位に位置づけた。日本は、南アジア以外で彼が訪問した最初の国であった。モディは、日本がインド経済改革に大きな役割を果たすことができることを認識していた。モディは、日本を普通の国にするという安倍首相の願望に理解を示し、国際政治の場において彼に全面的に力を貸す意思があった。しかし、モディには、4カ国連携構想を復活させようとする安倍の願いをすぐに受け入れる用意はできていなかった。もしモディがそれを受け入れる適切な瞬間を待っていたとすれば、2017年のアメリカのトランプ政権の誕生はその機会を提供したようだ。パキスタンにおけるテロの温床に対する戦いを重視し、アジアあるいは「インド太平洋」における勢力均衡システムにおけるインドの特別な役割を認め、そして中国の「一帯一路構想」(BRI)に対するインドの反対を支持するという、トランプ大統領の意志表示は、日米両国との戦略的な相互作用を質的に向上させる用意がニューデリーにあることを示す良い契機となったと思われる。インド外務省報道官は201710月の声明で、志を同じくする国々と「協調する用意」があるが、「自国に関連する課題」についてだけであると述べた。インド政府はまた、現在のインド外交ではミニラテラリズム(比較的小規模の多国間主義)が普通になってきており、4カ国連携構想に特別な意義付けをする必要はないと指摘した。

6)明らかに、ニューデリーは、4カ国連携構想に関して日米両国の後塵を拝するつもりはなかった。インドは、多くのインド国民が恐れる、アメリカの「ジュニアパートナー」になることは望んでいない。モディ首相は、4カ国連携構想の復活に関与する条件を交渉できると確信しているようであり、その根底には以下の3つの重要な要因がある。

a.第1に、モディと彼の上級外交政策顧問の驚くべき自信である。モディ政権は、インドの交渉力の限界を試す用意がある。

b.第2に、アメリカへの接近は実際には中国との交渉においてインドの行動の余地を広げる、という一般常識に反した想定である。過去のインドの外交政策立案者は、中国の不満を恐れて、アメリカに対する政策オプションを自制する傾向にあった。モディは、自らの条件で対中関係を前進させる意志を表明することによって、4カ国連携構想の再開に繋げたいようである。このアプローチが成功するという保証はない。しかしながら、それは、インドの対中国政策における新たな発想の扉を開いたものといえよう。

c.最後に、モディは、中国の台頭とその政治的主張、北京の一国主義に対する域内の懸念の増大、そして長期に亘って優位を維持しようとするアメリカの努力が、インドの地域的立場を向上させるまたとない戦略的好機を生み出したことを鋭く認識している。同時に、ニューデリーは、中国とのそれぞれの個別取引をこの構想から切り離そうとする米豪日3カ国の試みが本物であることも、以前の4カ国連携構想の経験から学んだ。それ故に、モディは、4カ国連携構想を慎重に時間をかけて発展させるとともに、その課題設定においてインドの大きな発言力を確保したいと望んでいるのである。そうすることによって、モディは、インドは「インド太平洋」における厳しい地政学的環境下で積極的に振る舞うことに何の不安も感じてない、ということを知らしめようとしているのである。

記事参照:India and the Resurrection of the Quad

113日「中国の大型浚渫船、進水」(South China Sea Morning Post.com, November 3, 2017

 香港紙South China Sea Morning Post(電子版)が11月3日付で報じるところによれば、中国は11月3日、新たに建造した世界の最先端を行く大型国産ポンプ浚渫船「天鯤号」の進水式典を江蘇省啓東で実施した。「天鯤号」は、全長140メートル、全幅27.8メートル、最大掘削深度35メートルで、標準浚渫能力は毎時最大6,000立米に達し、海底の岩石や土砂を吸い上げ、パイプラインで埋め立て地に投入できる。同船は、最新の測位システムと自動コントロールシステムを装備している。一部の中国メディアは「アジア最大の人工島造成船」と評している。中国は、過去10年間に浚渫船建造に重点的に投資してきており、2006年以来、推定200隻が建造された。今や、中国は世界最大の浚渫船建造国の1つであり、毎時最大4,500立米の浚渫能力を持つ、浚渫船「天鯨号」が南シナ海での人工島造成に威力を発揮してきた。

記事参照:Launch of Beijing's new dredger may spark concerns of renewed island building in South China Sea

画像:「天鯤号」

118日「ASEAN、意志決定システム変更の時比専門家論評」(RSIS Commentaries, November 8, 2017

 在マニラのコラムニストRichard Javad Heydarianは、シンガポールのS.ラジャラトナム国際関係学院(RSIS)の118日付のRSIS Commentaryに、"Time For ASEAN Minilateralism"と題する論説を寄稿し、ASEANの現行のコンセンサス方式による意思決定は、21世紀の新たな課題、特に中国の台頭とその高圧的な姿勢に対応するには不十分であるとして、要旨以下のように述べている。

1ASEAN方式の限界:コンセンサスと協議によって意思決定する「ASEAN方式」は、もはやその役割を果たし得ない。この地域機構の全会一致による意思決定の仕組みは、外部の力の影響の下にある弱小加盟国に無意識の内に事実上の拒否権を持たせてきた。今後、この機構は、政治や安全保障の問題に対して、「ASEANマイナスX」("ASEAN Minus X")方式か、「特定多数決」(Qualified Majority)方式を採用することで、その制度構成を変更するか、それともその存在意義を失うか、のいずれかであろう。このことは、南シナ海紛争に対する対応の過程で顕著になった。全面的な制度的革新が受け入れられない場合、残された唯一の方法は、域内の志を同じくする影響力のある国々が南シナ海紛争に対して相互の外交的、戦略的な調整を行う建設的な形式としての、「ASEAN少数国主義」('ASEAN minilateralism')である。

2ASEAN諸国首脳は、2016年のオバマ米大統領とのサニーランド・サミットでは、少なくとも表面上は団結を誇示した。双方は共同声明で、武力による威嚇やその行使に訴えることなく、普遍的に認められた国際法の諸原則や1982年の国連海洋法条約(UNCLOS)に従った、紛争の平和的解決を求めるとのコミットメントを共有した。双方は、UNCLOSに基づく紛争解決を求めただけでなく、仲裁裁判に訴えたフィリピンの決定に対する暗黙の支援と解釈し得る、「法的手続」について言及することにも合意した。更に双方は、西沙諸島の係争中の島嶼や、南沙諸島に新たに造成した人工島に建設した施設に、地対空ミサイル(SAM)システム、高周波レーダー、そしてジェット戦闘機を配備するという中国の憂慮すべき行為を視野に、係争海域における「非軍事化と自制」の必要性を強調した。しかしながら、フィリピンが提訴した仲裁裁判の裁定が明らかになると、ASEANは突然、勢いを失い始めた。このことは、昆明で開催されたASEANと中国の特別外相会議で顕在化した。この会議では、共同声明を発表することができなかった。

3)特に仲裁裁判の裁定後、一部のASEAN加盟国が南シナ海紛争におけるASEANの中核的役割に期待しなくなるのに、長くはかからなかった。カンボジアのフンセン首相は、フィリピンの提訴を公然と批判し、「法律には関係のない」挑発的行為としたばかりか、「一部の国と裁判所による政治的陰謀」であるとさえ断じた。更に残念なことに、仲裁裁判所の裁定においてフィリピンが明快な勝利を得たことが明らかになった時、多くのASEAN諸国は、拘束力ある裁定の遵守を求めるより、即座に忍耐と冷静さを求めたことであった。フィリピンのドゥテルテ政権までも、裁定について控え目な姿勢に終始している。皮肉なことに、2017年のASEAN議長国、フィリピンは、中国に対して以前の共同声明よりもあまり批判的ではない共同声明を出す羽目になった。結局、ASEANは今後、南シナ海紛争に対して強固な声明を出すことはないであろう。

4)法的拘束力を持つ「行動規範」(COC)の枠組みの概要を見ると、「目標」の項では、「南シナ海における当事国の行動を導き、海洋協力を促進する一連の規範('norms')を含む、法に基づく枠組みを確立すること」と述べられている。「規範」とは、法的拘束力がないことを意味する。このことは「原則」の項において明快である。この項では、最終的なCOCは「領有権紛争や海洋境界画定問題を解決するための法律文書」とはならないであろうと明記されている。それでも、フィリピン、ベトナム、シンガポール、マレーシア及びインドネシアのASEAN主要国は、2国間ベースや個別ベースで、この地域における中国の行動に不満の意を伝え、南シナ海におけるこれら諸国の「小数国間」('minilateral')協力を強化する意向を伝えることはできる。また、ASEANの領有権主張国は、国際法に基づく海洋境界画定の枠組みとして機能し、埋め立て活動、軍事施設の建設、軍事アセットの配備、そして違法操業の即時凍結を求める、法的拘束力のあるCOCを並行して交渉することもできる。さもなければ、ASEANは、21世紀において潜在的に最も可燃性の高い紛争の管理に対して、全く不適切な機構になる危険がある。

記事参照:Time For ASEAN Minilateralism

118日「アメリカは目的を持った南シナ海戦略を追求すべし米専門家論評」(PacNet, Pacific Forum, CSIS, November 8, 2017

 米スタンフォード大学Walter H. Shorenstein Asia-Pacific Research Center Southeast Asia ProgramリーダーDonald K. Emmersonは、118日付のPacific ForumWebPacNetに、"Matching power with purpose in the South China Sea: a proposal"と題する論説を寄稿し、アメリカは単独の国家による排他的なコントロールから自由な南シナ海を維持することを戦略目標とすべしとして、要旨以下のように述べている。

1)トランプ米大統領は113日から14日までの東アジア5カ国歴訪の最初の地、日本の横田米軍基地で、「最高の装備」「最高の人々」「世界の歴史の中で最も恐ろしい戦闘力」を「我々が持っている」ので、アメリカは空、海、陸そして宇宙を「支配する」("dominates")と語った。トランプにとって重要なのは、アメリカの兵器と戦士であり、アメリカの論理や目的ではない。トランプは、アメリカの軍事力の全能性を称えるあまり、何故という目的を忘れてしまった。このことは、より確かな保証を求めていたアジアの政策立案者やアナリストを失望させた可能性が高い。東南アジアについて見れば、この賞賛されるべき武勇と、それによって達成される保証との乖離は、トランプ政権より以前から存在する。例えば、2015年のオーストラリアの国防相との会談後の会見で、当時のカーター国防長官は、「誤解しないでもらいたいが、アメリカは、国際法の許す限り、世界のどの地域でも飛行し、航行し、作戦行動を行う。南シナ海もその例外ではない」と言明した。その後、米当局は、南シナ海での米海軍による「航行の自由作戦」(FONOP)を正当化するために、この言葉を繰り返しってきた。

2)「国際法が許す限りどこでも飛行し、航行し、作戦活動を行う」("fly, sail, and operate, wherever international law allows")という誓約、即ちFSOPは、「支配」("domination")という荒々しい響きを欠いている。しかし、南シナ海における中国の行動を懸念する東南アジアの人々の側から見れば、この大言壮語ともいえない誓約は、必ずしも安心させる言葉ではない。何故か。

a.FSOPはグローバルである:東南アジア諸国の指導者は、世界的規模の海洋安全保障よりも、もっと身近な問題即ち、何時の日か、南シナ海で操業したり、海底資源を掘削したり、あるいは単に通航したりするだけでも、中国の許可を得なければならなくなるかもしれないことを懸念しているのである。

b.FSOPは法律第一主義である:北京の海洋侵出の成功は、国際法を含むモラル政治よりも、現実政治のルールに基づいたサラミスライシング戦術を正当化した。国連海洋法条約(UNCLOS)に根拠とする威力は低下した。中国は、2016年の南シナ海仲裁裁判所の裁定を何の咎めもなく拒否し続けている。「原告」であるマニラも、その履行を北京に強く要求しないことを選択した。

c.FSOPは疑わしい:アメリカは、UNCLOSに未加盟であるにもかかわらず、他の多くの国家よりも、海洋法を誠実に支持しているように見える。しかし、未加盟では、アメリカのUNCLOSに対する支持が良くて条件付き、最悪の場合には偽善的であるという疑念を拭い去ることはできない。

d.FSOPは自己言及的である:東南アジア諸国はいずれも、「国際法が許す」世界のどこでもはもちろんのこと、南シナ海においてすら「飛行し、航行し、作戦行動を行う」アメリカの能力に匹敵し、あるいはそれに近づくことすらできない。FSOPは、我々ができることをあなた方はできない、という者の自慢以上に、東南アジア諸国を支援する歓迎される誓約ではない。

e.FSOPは役に立たない:FONOPFSOPも、南シナ海における「中国化」への初期段階人工島造成、軍事化そして初歩的なコントロールを阻止できなかったし、あるいは遅らせてきたともいえない。北京にとって、FONOPFSOPは、既に事実上「中国の湖」となっている南シナ海に対してその権威を執行する上で、ほとんどあるいは全く阻止効果を持たない、単なる迷惑行為以外の何物でもないことを実証してきた。

3FONOPFSOPも中止すべきではないが、現実的な目標を付与すべきである。即ち、現実的な目標とは、アメリカ自身を含めた、いずれの単一の国家による排他的なコントロールからも自由な南シナ海を維持するために、東南アジアやアジア太平洋地域のパートナー諸国と協調した、アメリカによるより広範囲な取り組みを実施することである。こうした目標を追求することで、パワーに適切な目的が付与される。そのことは、アメリカと東南アジア諸国が共有する利益に基づく、アメリカの現実的な南シナ海戦略を確かなものにするであろう。

記事参照:Matching power with purpose in the South China Sea: a proposal

【関連記事3

「前掲論説を巡る議論」(PacNet, Pacific Forum, CSIS, November 21, 2017

 前掲のDonald Emmersonの論説に対して、ハーバード大学The International Security Program at the Belfer Center研究員Andrew Tafferが反応し、Emmersonとの間で議論があった。以下は、1121日付のPacNetに掲載された2人の論議の要旨である。

1Tafferによる批評

1Donald Emmersonは前掲論説で、アメリカの軍事力を政治目的に合わせることを求めた。Emmersonが正しく主張しているように、米軍の武勇を誇るだけでは、アジア太平洋地域において、ワシントンを舵のない状態あるいはもっと悪い状態にすることは確かである。特に、彼は、「国際法が許す限りどこでも飛行し、航行し、作戦活動を行う」("fly, sail, and operate, wherever international law allows")という誓約、即ちFSOPはパワーが目的から切り離された政策であり、この政策は東南アジア諸国を安心させるには不適切である、という誤った主張をしている。彼の主張とは反対に、この政策は、目的と原則を鼓吹するものであり、もしそれに伴う戦略が適切に修正され、実施されていけば、効果的に保証を提供することができよう。FSOPは、国際秩序の最も基本的な規範や法的原則に基づいて、国際的な水域やその上空における航行の自由を護るためのアメリカのコミットメントを誇示することを意図している。しかも、航行の自由は、すべての国家主体に等しく付与され、誰も制限できない権利である。この点で、彼がFSOPは目的を欠いているというのは不可解だが、この政策の目的が、彼のいう「アメリカ自身を含めた、いずれの単一の国家による排他的なコントロールからも自由な南シナ海を維持する」という「現実的な目標」と、本質的な違いがないことを考えれば、特にそう思われる。

2Emmersonは、FSOPが域内諸国を安心させるには不適切な理由を幾つか挙げている。彼は、戦略は未だ同盟国やパートナー諸国を十分に安心させるものではないため、政策は大幅に修正されるべきと述べて、政策と戦略を融合しているように思われる。しかしながら、政策としてのFSOPは、完全に適切と思われる。

a.第1に、彼は、「FSOPはグローバル」であり、地域的ではないという。彼は正しいが、これを地域的な不都合と見なすことは困難である。航行の自由は、アメリカの外交政策における核心的でかつ長年にわたる原則であり、アメリカのそれに対するコミットメントが地域毎に異なるわけがないからである。

b.第2に、彼は「FSOPは法律第一主義である」という。航行の自由の原則は国際法にしっかりと根ざしたものであり、従ってFSOPは法的合法だが、この政策はまた、アメリカの利益にも直接合致し、合衆国建国当初から維持されてきたものである。そうであるが故に、ワシントンは、それを護るために必要なコストとリスクを一層意欲的に受け入れなければならない。そうしなければ、アメリカのパワーと目的の両方が犠牲になるであろう。

c.第3に、彼は「FSOPは疑わしい」という。アメリカと国連海洋法条約(UNCLOS)の関係が不安定であるという点では正しいが、UNCLOSに未加盟でも、ワシントンは、これを厳格に遵守している。しかも、航行の自由は、とりわけ慣習国際法のような、他の淵源にも由来する合法的なものである。

d.第4に、彼は「FSOPは自己言及的である」という。これは奇妙な批判である。東南アジア諸国とアメリカとの能力の不均衡こそが、前者が保証を求める理由の1つではないのか。他者の利益を保護するに十分な能力を持つことが、効果的な保証を与えるに必要な前提ではないのか。

e.第5に、彼は「FSOPは役に立たない」という。「北京の海洋侵出」を阻止するアメリカの努力はあまり効果でなかったという点については、彼は正しいが、その原因を、航行の自由を護ることを目的としている政策である、FSOPに求めることは間違いである。修正されるべきは戦略であって、政策ではない。このため、アメリカは、南シナ海における中国の威圧的行動から同盟国やパートナー諸国を護るために、より頻繁に、そしてより大規模な航行の自由作戦を実施するとともに、一層より堅固な種々の措置をとるべきである。

3Emmersonは、目的をパワーに合わせることの重要性を思い起こさせてくれたが、FSOPは、アメリカの利益を護り、同盟国とパートナー諸国に安心を提供するのに適した、明確かつ原理的な目的をもっている。問題は、アメリカの外交政策の基本的な原則と目的を修正することではなく、それらを効果的に護り、推進していく戦略を策定することである。

2EmmersonによるTafferの批評への返答

1Tafferと私(Emmerson、以下同じ)は、同意できない部分より、同意できる部分の方がはるかに多い。最も重要なことは、我々は、アメリカは南シナ海戦略を欠いており、それを必要とするということに同意していることである。私は、「航行の自由作戦」(FONOP)が中国の海洋侵出を抑止することに失敗したと指摘したが、「FONOPFSOPも中止すべきではない」と述べた。Tafferと私は、それらは継続し、強化されるべきであるということに同意している。

2)長期目標を達成するための計画としての「戦略」と、それを達成するための手段としての「政策」を定義してみよう。FSOPは戦略ではなく、政策である。この政策は、アメリカの軍事的「力」を、世界的規模で、そして合法的に行使することである。しかし、世界注で飛行し、航行し、そして作戦活動を行う、実際の「目的」は何か。より具体的にいえば、中国の威嚇的、拡張主義的行動に直面して、南シナ海において何をしなければならないか。FSOPそれ自体は、この問題に対する答えにならない。要するにFSOPは手段であって、目的ではない。確かに、東南アジア諸国は、アメリカができるという理由だけで、世界中で飛行し、航行し、そして作戦活動を行うという政策を、それ自体が目的であると考えるかもしれない。何故FSOPがそれ自体目的ではなく、あるいはまた覇権的行動の偽装でもないことを東南アジア諸国に説明することは良いことだが、その際、もしアメリカに南シナ海に対する明確な戦略があれば、役立つであろう。しかし、それはない。

3FSOPのマントラは、「国際法の許す限り何処でも」に限定されることである。FSOPの目的は、国際法を世界中に広めることか。合意され、遵守されてきたルールに基づくグローバル秩序の必要性を満たすという戦略的目的をFSOPに課すことによって、FSOP政策をアップグレードすることは称賛に値することである。しかしながら、南シナ海沿岸域の東南アジア諸国から見れば、それは良くいえば非現実的であり、悪くいえば奇想天外なことであるように思われる。南シナ海で現在進行中の北京による一方的かつ継続的な占拠とその軍事化とは異なり、法に基づく世界秩序は、価値があるが、非常に長期的に見れば高尚な抽象概念である。従って、前掲論説における私の提案は、FSOPFONOPを放棄するのではなく、「アメリカ自身を含めた、いずれの単一の国家による排他的なコントロールからも自由な南シナ海を維持する」ことを提示した目的とする戦略の中に、FSOPを明確に組み込むことである。Tafferは、私の提案に同意しておらず、それは不必要だとしている。彼の見解では、FSOPは既に「目的を持った」政策である。実際、彼にとって、FSOPの目的は、私が提言するものとは「本質的な違いはない」のである。もし政策自体が既に戦略的で、目的に適ったものであるとすれば、それが既に持っている特性によってそれを強化するという提案を行う理由は何か。もし私が彼の言葉を引用してもよいなら、Tafferは「政策と戦略を融合しているように思われる。」

4)もちろん、アメリカは、国際法が許す限り、何処でも遠慮なくFSOPを行うべきだし、遠慮なくそうすると言うべきである。しかし、それ自体では、FSOPは戦略ではないし、南シナ海が単一の国にコントロールされないようにするという、アメリカのコミットメントを保証しない。それは、明言された目的を持たない政策である。FSOPは、この戦略的目標にリンクさせる必要がある。トランプ大統領は、FSOPを頻繁に実施し、そしてそれを南シナ海に対する独占排除の戦略にリンクさせることができたはずである。しかし、トランプはそうしなかった。トランプは、東アジア諸国歴訪で、南シナ海においてUNCLOSが認める権利主張や行動と、認めないものに対する、トランプ政権の理解を示す地図を明示することができたはずだが(このような地図は、「9段線」主張を無効とした南シナ海仲裁裁判所の裁定を明示したものになったであろう)、そうしなかった。その代わり、トランプは、ベトナム訪問時に、南シナ海を巡る中国とのベトナムの紛争を「仲介あるいは仲裁する」ことを申し出た。ベトナムのチャン・ダイ・クアン主席はこの申し出を丁重に断った。FSOPFONOPに関係なく、南シナ海に対する独占排除をコミットする、アメリカの南シナ海戦略はもはや時機を失した。

記事参照:Response to PacNet #81 "Matching power with purpose in the South China Sea: a proposal"

119日「米海軍イージス弾道ミサイル防衛計画議会調査報告書」(USNI News, November 9, 2017

 米議会調査局は、119日、"Navy Aegis Ballistic Missile Defense Program: Background and Issues for Congress"と題する報告書を公表した。以下は、そのSummaryを訳出したものである。

1)米国防省ミサイル防衛庁(MDA)と海軍が進める、イージス弾道ミサイル防衛(BMD)計画は、イージス巡洋艦とイージス駆逐艦にミサイル防衛能力を付与する計画である。2018年度予算案では、BMD能力を持つイージス艦の隻数は2018年度末に36隻、2022年度末に51隻が計画されている。その内、日本を母港としていた2隻のBMD能力を有するイージス駆逐艦、USS FitzgeraldDDG-62)とUSS John S. McCainDDG-56)は20176月と8月に日本近海とシンガポールでそれぞれ商船と衝突し、重大な損害を受けた。修理が完了するまでに恐らく1年かあるいはそれ以上かかると見られている。これら2隻のBMD能力を持つイージス艦の一時的な喪失に対して、一部の専門家は、BMD能力を持つイージス艦の所要隻数と運用可能数、特に西太平洋においてBMD任務を遂行できるイージス艦の隻数の減少を懸念している。

2)イージスBMD計画は、その財源の多くがMDAの予算に含まれている。海軍予算は、BMD関連計画に追加の財源を提供している。MDA2018年度予算案は、イージスBMDの取得、研究、開発の財源として217,350万ドルである。この予算案には、イージスBMD計画の運用、保守整備、及び軍事建設費が含まれる。イージスBMD計画に対し、議会が審議に当たって重視すべき諸点には、以下が含まれる。

a.BMD能力を持つイージス艦の所要隻数と運用可能隻数

b.2017年度予算のSM-3 BlockⅠB 及びSM-3 BlockⅡAミサイルの計画数と比較して、2018年度予算の取得計画数の削減提案

c.ハワイのイージス試験施設を、ハワイと米西岸を防衛するために実働の地上型イージス基地に転換するか否か

d.負担の分担―欧州のBMD能力とその運用に対する、欧州諸国海軍の貢献と、米海軍の貢献とをどう分担するか

e.将来、海軍の終末段階のBMDの運用に寄与し得る、艦艇搭載レーザー、電磁レールガン及び超高速飛翔体の実現可能性と、それが艦艇搭載BMD迎撃ミサイルの要求基数に及ぼす影響

f.イージスBMD計画の技術的リスク、試験、評価の問題

g.中国のDF-21対艦弾道ミサイルの大気圏内飛翔段階(終末最終段階)の飛行プロファイルを模擬したターゲットの不足

記事参照:Navy Aegis Ballistic Missile Defense Program: Background and Issues for Congress

https://news.usni.org/2017/11/21/report-congress-navy-aegis-ballistic-missile-defense

Full Report

Navy Aegis Ballistic Missile Defense (BMD) Program: Background and Issues for Congress

https://fas.org/sgp/crs/weapons/RL33745.pdf

Congressional Research Service, November 9, 2017

Ronald O'Rourke, Specialist in Naval Affairs

1114日「『インド太平洋』概念が目指す方向インド専門家論評」(The Washington Post.com, November 14, 2017

 インドのシンクタンク、The National Maritime FoundationNMF)会長で海洋戦略家のGurpreet S. Khuranaは、1114日付の米紙The Washington Post(電子版)に、"Trump's new Cold War alliance in Asia is dangerous" と題する論説を寄稿し、「インド太平洋」という概念は本来敵対的な性格のものではなく、将来的に中国も包含していくような形で共通の繁栄を目指すべきものであるとして、要旨以下のように述べている。(Gurpreet S. Khurana10年前に、"Indo-Pacific" という用語を初めて使用した。)

1)トランプ米大統領は11月のアジア諸国歴訪で、わずかながらも彼の地政学的戦略なるものに初めて言及した。ベトナムでのAPEC首脳会議と、これに先立つ日本での安倍晋三首相との首脳会談において、トランプは、前政権が頻繁に使用した「アジア太平洋」(the "Asia-Pacific")に替えて「インド太平洋」(the "Indo-Pacific")という用語を口にした。この新しい用語は、冷戦終の結以来、そして1980年代に中国が「改革開放」政策に踏み出して以来、定着してきた心象風景を書き換えるものである。「アジア太平洋」という用語は、アメリカと東アジアを結びつける利益共同体というイメージを生んだ。トランプの言う「インド太平洋」という用語は、アメリカとインドが、他のアジアの主要民主主義諸国、特に日本とオーストラリアとともに、新たな冷戦という環境下で、増大する中国の影響力を封じ込めるために協同するという、新たな形態を意味している。既に、ティラーソン米国務長官は1018日の講演で、「インド太平洋インド洋全域、西太平洋そしてそれらの地域諸国を含むは、21世紀の世界において最も重要な地域になろう」と言明している。

2)本稿の筆者(Khurana)は、2007年に書いた論考で「インド太平洋」の用語を最初に提唱したインド海軍退役大佐として、また海洋戦略家として、この概念は本来の意味と意図から大きくかけ離れ、ねじ曲げられていると感じている。筆者の意図は、アジア諸国がインド洋から太平洋に至るまでどのように相互に結びついているかを改めて概念化することであり、その上で、経済的、戦略的な海洋協力を通じてグローバルかつ地域的な安定を維持するという遠大な目標を強調したいと望んでいた。従って、筆者の意図は、これとは対極の、アジア地域を敵と味方に区分する地政学的な枠組みを意味するものではなかった。

3「インド太平洋」とは何を意味するか:「インド太平洋」という用語の背景にある論理は、東アフリカ沿岸地域から北東アジアに至るアジアの海洋全域を網羅する地域における、経済的及び安全保障上の動向から生じたものである。「インド太平洋」という用語は、21世紀に入ってからのインドの台頭に負うところ大である。2009年のシャングリラ・ダイアローグで、当時のインド海軍司令官は、「私はインド人として『アジア太平洋』という言葉を聞く度に、これが北東アジア、東南アジアそして太平洋諸島を含み、マラッカ海峡を終点としていると思われるが故に、疎外感を感じる。しかし、マラッカ海峡の西には全世界がある」と述べて、「アジア太平洋」という用語が持つ概念上の矛盾を指摘した。「インド太平洋」という用語は、インド洋をアジアの海洋問題に組み込むことによって、この概念上の疎外感を克服するのに役立った。インド洋は西太平洋沿岸諸国の経済的繁栄の原動力である石油、天然ガスの重要な輸送路となっており、従って、このリンケージは、そのエネルギー輸入量の約80がマラッカ海峡を経由していることから、北京に戦略的脆弱性を強い、北京の高圧的姿勢を抑止する機会をもたらす。中国の戦略的脆弱性については、200311月に当時の胡錦濤主席が「マラッカ・ジレンマ」に言及しているが、中国の指導者にとって、太平洋とインド洋の2つの異なる領域の相互連結はその意味するところが非常に明確であった。

4「インド太平洋」概念の由来:2000年代半ば頃から、日本とインドの戦略アナリスト達は、戦略的な海洋協力に関する議論を高めてきた。日印両国にとって、この地域における中国の弱点が近隣諸国に対する高圧的姿勢を抑制する梃子となり得るということは、明白であった。中国と同様に、日本もその原油輸入量の約90%は西アジアからのもので、東京は、インドとの協力を通じて海上安全保障における役割の強化に務めてきた。「インド太平洋」の概念は勢いを増し始めた。本稿の筆者が2007年に初めてこの用語を使用してから数カ月後に、第一次政権時の安倍首相は、インド議会における「二つの海の交わり」という演説で、「拡大アジア」における「自由の海、繁栄の海のダイナミックな結合」について語った。アメリカ政府も2010年までにこの用語を使い始めた。当時のクリントン米国務長官は、「インド太平洋地域が世界の貿易と経済にとってどれほど重要かを理解しているが故に、我々はインド海軍との協力を拡大している」と述べた。この用語は2013年までにオーストラリアにまで広がった。2013年の国防白書で、キャンベラは、「インド太平洋への経済的、戦略的及び軍事的なシフトが進行している」と強調した。当然ながら、この新たな戦略的方向性に対する中国の反応は予想に違わなかった。例えば、上海国際問題研究院の専門家は201411月に、「インド太平洋」概念についてインドに警告する論考を発表し、「アジア太平洋地域とインド洋地域において増大する中国の影響力に対抗し、更にはこれを封じ込めるために」、アメリカとその同盟国によって立案されたものだと主張した。

5新しい冷戦か:将来、この概念がどうなっていくかは今のところ不明である。中国の「一帯一路構想」(BRI)とインドの「アクト・イースト」政策は、インド洋地域と西太平洋との経済統合に大きく貢献することができよう。同時に、域内全般が経済的に繁栄すれば、海洋支配への関心が高まることになろう。更に、BRIの推進に伴って、(インド洋と太平洋の2つの海洋への自由なアクセスを確保する)「ツー・オーシャン戦略」("two-ocean strategy")を完全に実現するために、中国は海軍の展開能力を強化していくであろう。従って、インド洋における中国海軍のプレゼンスの強化は、緊張を高めることになろう。また、中国海軍がインド洋沿岸諸国の海域において活動を活発化させれば、既に展開している他の大国の海軍部隊との意図しない衝突を招く可能性もある。このようなシナリオにおいては、地域の動向を管理するとともに、21世紀にその戦略的重要性が高まっている海域において、確立された行動規範に中国を組み入れるためにも、「インド太平洋」概念は不可欠である。実際、全体として1つの統合された地域としての「インド太平洋」という概念は、主要大国間における断層を埋めるための最も有効な概念的枠組みとなる。その目的は、この連結された地域における共通の繁栄を実現することでなければならない。そうでなければ、この地域は、台頭する新興勢力がその支配を確立するために戦う、「トゥキディデスの罠」の新たな舞台となるであろう。

記事参照:Trump's new Cold War alliance in Asia is dangerous

【関連記事4

「『インド太平洋』概念―5人の専門家の見方」(South China Morning Post.com, November 12, 2017

 香港紙、South China Morning Post(電子版)は、1112日付で"'Indo-Pacific': containment ploy or new label for region beyond China's backyard?"と題する記事を掲載し、トランプ政権がこれまで慣習的に使用されていた用語、「アジア太平洋」から「インド太平洋」という用語を使用し始めたことについて、5カ国の5人の専門家にインタヴューし、要旨以下のように報じている。

1Liu Zongyisenior fellow at the Institute for International Strategic Studies at the Shanghai Institutes for International Studies, Shanghai, China

 オバマ前政権は、インド太平洋地域における政策の「柱」としてインドを重視した、「インド太平洋」概念を提起した。しかし、オバマ前政権の地域政策は、アジア太平洋の「リバランス」として認識されていた。現在、トランプ政権が「インド太平洋」という用語を使用しているが、これには3つの意味がある。第1に、オバマ前政権の政策からのトランプ政権の政策の差別化を反映している。 2に、この政策は、日本や他の国からの要請に対する対応である。日本は、特に中国共産党大会後、「自由で開かれたインド太平洋」の実現を積極的に進めてきた。第3に、インドをして中国パワーを牽制させるとともに、アフガニスタンでの戦争を支援させるために、アメリカの地域政策におけるインドの重要性を一層強調することである。もしアメリカが、中国の政治的、経済的、軍事的影響力に対抗する海洋同盟を形成することで、中国を封じ込めることを目指すならば、このインド太平洋政策は、域内により多くの紛争と混乱をもたらすであろう。現在のところ、アメリカのインド太平洋政策は曖昧糢糊としている。アメリカはこの政策にどの程度、力を入れていくのか。インドの将来的な発展はどうか。何れの問題も、この政策に決定的なインパクトを及ぼすであろう。

2Satu Limayedirector of the East-West Center, Washington, United States

 「インド・アジア太平洋」という用語は、近年、米太平洋軍隷下の司令官らによって公に言及されてきた。この用語は、アラビア海、アフリカ東岸から太平洋まで拡がる海洋空間を強調している。オバマ前政権も、「インド太平洋」という用語を使用した。従って、この用語の使用には、一定の連続性がある。また、この用語によって、この広範な地域とアメリカとの関係の中に、より包括的な方法でインドを含めることができる。この用語の意味するところは、第1に、2つの海洋に焦点を当てることは、海洋を重視するとともに、全体的な地域政策におけるインドのより重要な役割を示唆する。そして第2に、日本との問題意識の共有を強調している。アメリカは、全体として4カ国連携枠組みを受け入れており、米日豪、米日印及び日印豪など、4カ国連携枠組を下支えするこうした3国関係を歓迎している。このことは、インド太平洋概念の目的ではなく、インド太平洋における協力の要素である。米中関係は、重要で複雑な関係であり、従って、この戦略地政学的用語の使用によって、形作られたり、あるいは根本的に変更されたりするものではない。しかしながら、南シナ海や東シナ海を含む、海洋空間における中国のあからさまな高圧的姿勢は、日本、インドそしてアメリカに、更にはオーストラリアにさえ、この用語に対する理解と、空間を超えて共同しようとする努力を促してきた。

3Rajeswari Pillai Rajagopalanhead of the Nuclear and Space Policy Initiative at the Observer Research Foundation, New Delhi, India

 明らかに、アメリカは「アジア太平洋」にインドを引き込むことに関心があり、従って、インドのより大きな役割を示唆するには、「インド太平洋」に勝る用語はない。この用語はまた、中国パワーの伸長が今や、中国の周辺の近隣諸国よりも、むしろより広い地域に影響を及ぼしていることを示唆するものでもある。アメリカの戦略が単なるレトリックからより実質的なものに変わりつつあるかどうかは、今後を待たなければならない。しかし、この用語は明らかに、アメリカが、アジア地域を、東アジアと南アジアに分けるのではなく、1つの全体として見ることに関心を持っていることを示唆している。インドは、この用語がアメリカを含むより緊密な地域同盟を暗示しているが故に、この用語に幾分懐疑的である。しかし、時の経過につれて、インドはこの用語に次第に馴染むようになってきた。インドがこの用語を使用し続けるかどうかは、中国の行動如何によるであろう。もし中国が引き続き高圧的であれば、インドはこの用語をより完全に受け入れる可能性が高いが、もし中国がより融和的なパワーになれば、「インド太平洋」概念はそのモメンタムを失うかもしれない。

4)寺田 貴(同志社大学教授、シンガポール国立大訪問研究員)

 トランプ大統領の2国間主義に対する強い好みと、その「アメリカ第1主義」政策への拘泥故に、域内におけるアメリカのコミットメントに対する懸念が高まっている中で、アメリカは、自らの政策に対するトランプの拘りと、その地域政策の実態との間にある、深刻な政策に対する知的ギャップに悩まされてきた。こうした背景が、「インド太平洋」概念を最初に発展させてきた安倍晋三首相とのトランプの非常に親密な関係と相まって、ホワイトハウスに、自らの地域戦略として「インド太平洋」概念を受け入れ、促進させることを促してきたのである。第1に、この概念は、ルールに基づく地域経済秩序を促進するために、日本、オーストラリア及びインドと協力して、アジアの多国間主義におけるアメリカの位置を明確にした。第2に、この概念を取り入れたことは、これら各国とのパートナーシップに対するアメリカの意図に幾分疑念を抱いていた日本を安心させた。最後に、この概念は、域内の他の諸国に対する再保証としても有益である。何故なら、これら諸国は、この地域への中国の経済的関与を歓迎するものの、他方でこの地域との経済的繋がりを自らの戦略的利益を達成するために利用しようとする、中国の意図を警戒しているからである。既存の経済ルールや規範を書き直しかねない、中国の経済的影響力の拡大は、4カ国を接近させる重要な誘因となっている。自由、開放性、透明性及び公平性に基づく、「インド太平洋」概念が、それとは異なった一連の経済的ルールに基づく中国の「一帯一路構想」(BRI)に対抗する、均衡メカニズムとして発展していくとすれば、中国は、不快感を覚え、地域経済覇権を巡るより激しい抗争を招来することになろう。そして、「インド太平洋」概念は、4カ国間の軍事、防衛協力を強化することによって、より戦略的な要素を強めながら急速に発展しいく可能性がある。

5Rory Medcalfhead of the National Security College at the Australian National University, Canberra, Australia

 私は、アジアにおける変化する地域力学を理解する現実的な方法であるという認識から、米政権がこの用語を採用したと考えている。例え「海洋シルクロード」と称しているとはいえ、中国自身が既に「インド太平洋」戦略といえるものを採用している、というのが実態である。日本の努力は一定の影響力を及ぼしてきたといえる。実際、日本、インド及びオーストラリアは挙って、ワシントンにたいして、今まで以上に「インド太平洋」という視点を持つよう要請してきた。そのロジックは、全ての地域の主要国家が利害を有し、インドが域内大国として存在するインド洋にまで、中国が拡大進出しているということである。従って、中国の台頭を管理するという課題は、単に東アジアに止まらず、この広い地域的視野でこそ見なければないのである。アメリカは今や、インドとの関係に益々戦略的重点を置くとともに、日本、オーストラリア及びその他の地域諸国との防衛関係を、インド洋地域次元にまで昇華させようとしていると見られる。アメリカはまた、影響力を巡る中国との抗争において、日本とインドを支援することに前向きであるといえよう。しかし、一方で、アメリカはいずれ、この広いインド太平洋全域において、中国と協力する方法を見出す必要性をも認識することになるであろう。オーストラリアは2013年いらい、その防衛政策の枠組として、「インド太平洋」概念を公式に採用してきた。この概念は、中国との関係を、より広い地域秩序の中に組み込むための枠組である、というのがオーストラリアの見解である。オーストラリアは、中国を排除することはしないが、中国がこの広大な地域を支配することにならないようにすることを目指している。「インド太平洋」概念は、オーストラリアと中国の間の相互に尊重された関係に対する障害となってはならない。なんと言っても、中国は、紛れもなくインド太平洋国家である。要するに、この新しい「インド太平洋」概念という枠組をもたらしたのは、インド洋にまで伸張する中国の利害と影響力なのである。この概念の今後の発展は、中国が「インド太平洋」概念を中国に対抗する企みとしてではなく、むしろオーストラリア自身が(インド洋と太平洋の)2つの大洋に面しているという地理的環境の自然な反映であると認識するかどうかに、その多くがかかっていよう。

記事参照:'Indo-Pacific': containment ploy or new label for region beyond China's backyard?

1114日「台頭する中国に立ちはだかる5つの課題米専門家論評」(The National Interest, November 14, 2017

 中国、インド及びインド太平洋に関するコンサルト業務を主とするThe Atlas Organizationの創立者Dr. Jonathan Wardは、米海軍将校Reed Simmonsと連名で、1213日付で米誌、The National Interest(電子版)に、"These 5 Things Could Challenge China's Rise"と題する論説を寄稿し、台頭する中国の前に立ちはだかる5つの課題について、要旨以下のように述べている。

110月の第19回共産党大会において中国の習近平主席は、「中国の平和的台頭」が「中華民族の偉大な復興」に道を開き、今や中国が「(世界の)センターステージに躍り上がりつつある」と言明した。今日、中国の対外的自信の表れは、例えば、南シナ海から(ジブチの)初めての海外軍事基地まで、あるいはアジア開発投資銀行から「一帯一路構想」(BRI)まで、数多く見られる。それにも関わらず、中国最高指導部を悩ます課題が依然多く存在する。本稿では、最高指導部を悩ます課題として、地理的条件、アメリカ、その他の大国の台頭と復興、「分離主義」、そして経済的安定の5つである。

2)地理的条件:中国の対外的拡張と高圧的姿勢を動機づけているのは何か。これについては、これまであまり言及されてこなかったが、中国に不利な戦略的地理がある。中国は現在、世界最大の貿易国であり、その継続する繁栄は開かれた海上交通路に依存している。とはいえ、中国にとって海洋への開かれたアクセスは非常に限定されている。東から来る船舶は、潜在的な敵対的勢力である日本と台湾の間の海峡を通航しなければならない。西から来て南シナ海にアクセスするためには、マラッカ海峡、スンダ海峡及びロンボック海峡によって制約される。この戦略的脆弱性しばしば「マラッカ・ジレンマ」と呼ばれるに対処する上で、大規模な海軍力の建設、南シナ海における人工島の造成そして「一帯一路構想」(BRI)は一体化した政策と見なすべきである。エネルギーについて見れば、中国は2016年の総需要の約64%に依存しており、2035年までに80%にまで増大するとの見方もあり、BRIの旗艦計画である「中国パキスタン経済回廊」(CPEC)がグワダル港から新疆地区に至るエネルギー・インフラ建設をその中核に据えているのは偶然ではない。そして中国が投資した所には、軍が後に続く。中国軍は最近、ジブチに初めての海外基地を開設した。基地自体は戦略的チョークポイントから離れた位置にあり、これは海軍のインド洋への展開と海賊対処活動に資するための動きである。中国のグローバルな対外的拡張はしばしば発展する力の表徴と見なされるが、それはまた、拡大するグローバルな利益に伴う増大する不安の表れとも見なされるべきである。習近平の「中国の夢」の成功が幾つかの海洋チョークポイントの通航に大きく左右されているということは、間違いなく中国最高指導部にとって頭痛の種である。

3)アメリカ:「何時の日か、アメリカは、世界の他の地域を手放したのと同じように、間違いなく西太平洋を離れ、米本土に撤退するであろう」と述べたのは、毛沢東であった。 アメリカの政策策定者が好むと好まざるとに関わらず、中共中央のビジョンには、アジアにおいてアメリカに取って代わることが見込まれている。毛沢東時代から変わったのは、中国が今やアジアの大国というだけではなく、主要な世界大国になったということである。前述したように、中国が必要とする資源は国内だけで賄うことはできない。中国の軍事力の台頭は、中国の貿易量の増大と軌を一にしたものであり、最終的にはグローバルな展開能力を必要とすることになろう。しかしながら、中国は、支配的な超大国、アメリカの影の下で、中国の台頭に災厄をもたらすような(アメリカの)対応を引き起こすことなく、その経済力と軍事力の建設を進めていかなければならない。中国最高指導部は、パックス・アメリカーナの影の下で台頭するためには用心深く振る舞わなければならない。最高指導部は、中国の台頭が妨害されることのない、「戦略的機会の時期」(a "period of strategic opportunity")を見極めてきた。中国は、南シナ海での人工島の造成からBRIに至る構想に見られるように、大胆かつ「高圧的」だが、これらは、中国の手に負えない程にアメリカを挑発することなく中国の野心を推し進めることを狙った、計算されたリスクである。

4)その他の主要大国の台頭と復興:中国は、他の強国や台頭する国家に囲まれた環境下で大国となった。即ち、中国の台頭は、力の真空の中で起こったのではない。中国は、アメリカだけでなく、他の主要国とも張り合わなければならず、しかもこれら諸国の多くは、中国の経済的、軍事的野心に対する懸念から、中国と均衡を保つため団結し始めているのである。更に、これら諸国のそれぞれの地理的位置は中国に対して相対的に有利な位置にあり、このことが中国の地政学的ジレンマを一層複雑にしている。即ち、

a.中国が貿易とエネルギー資源を依存するインド洋地域は、台頭するインドの裏庭である。インドは、アメリカ、オーストラリア、日本、そして民主主義諸国などの利害共有国とともに、経済力、軍事力を発揮していくであろう。日本は、台頭する国ではないかもしれないが、強力な国であり、日米同盟に関係なく、中国と張り合う上で間違いなく引けを取ることはないであろう。インドネシアは、台頭する国であり、海軍力を増強しつつあり、しかも海洋紛争の当事者であることはインドネシアを中国との均衡を維持しようとする側に押しやることになるかもしれない。ロシアは、依然軍事強国である。中ロの軍事的、経済的協力関係は現在のところ強固だが、ロシアが長期にわたって中国との連携を維持していくかどうかは不明確である。

b.アメリカ主導による対中「囲い込み」や「封じ込め」への恐怖は、中華人民共和国建国の以来、中共中央政治局で共有されてきた。今日、実力のある国は、中国の経済力や軍事力に対して自らの地位を強化するために、独自の方法で行動しつつある。アメリカが他のアジア諸国との協力することに対して、中国人はしばしば「冷戦思考」と攻撃するが、実際には、中国自身の行動や領有権主張が中国に対抗する世論や集団的行動の引き金になっていることを見落としているようである。他の主要な諸国によるこうした協調行動が中共中央を煩わせる中核的課題の1つであることは間違いない。

5)分離主義:中国は外の世界に目を向けることが増えたとはいえ、新疆からチベット、香港そして台湾に至る、地方の分裂に対する中国の恐怖は根強いものがある。何故か。政治的に、「国家の復興」は完全な統一なしには達成できない。このことはまた、戦略的にも真実である。台湾は、第1列島線の要の位置にあり、台湾を制することによって中国は近海を支配することになろう。中国の軍事マニュアルによれば、「台湾が大陸中国に再統一されるやいなや、日本の海上交通路は中国の戦闘機及び爆撃機の攻撃圏内に完全に入る。」ここに、政治的、戦略的誘因がある。同様に、新疆は国内外の安全保障とリンクしている。中国がインド洋地域とエネルギー資源地域にアクセスする主要な陸路である、「中国パキスタン経済回廊」(CPEC)の成否は、国内が不安定なパキスタンだけでなく、この中国の北西省に対する支配の継続如何にかかっている。

6)経済的安定:中国経済の発展は減速している。中共中央は、経済学者達が言うところの経済構造のバランスの回復に取り組んでいる最中である。その意味することは、経済の原動力を輸出主導から消費主導へ転換することである。加えて、中国は、国営企業に集中する巨額で増え続ける債務負担に直面している。経済的安定は、今後何年もの間、中共中央の頭脳集団を悩ます難問となろう。

7)結論:中国の台頭は世界の勢力均衡に歴史的な転換を画したが、全体的な勢力均衡は、益々多くの国が習近平の「中国の夢」の真意を理解し始めるにつれ、何れ反中国に向かうと見られる。本稿では、中国最高指導部を悩ます課題を取り上げた。もう1つ、中国が恐れなければならないことがある。即ち、それは、世界の益々多くの国が中国の野心の本質を見極めて厳しい決意をし始め、中国の「包括的国力」に支配される世界を阻止しようとする選択肢を模索し始めたことである。中共中央が恐れなければならないことは、「戦略的機会の時期」は過ぎ去り、そして世界が目覚めたことである。

記事参照:These 5 Things Could Challenge China's Rise

1120日「米中は冷戦中なのか米専門家論評」(Survival, December 2017-Juanuary 2018, November 20, 2017

 米ジョンズホプキンス大SAIS教授John L. Harperは、英誌SurvivalDecember 2017-Juanuary 2018)に寄稿した、"Cold War in East Asia?" と題する論考で、米中は冷戦中なのかと問い、要旨以下のように述べている。

1)レイモン・アロンの有名な定義に従えば、「冷戦」とは、戦争全面戦争は起こりそうにもないが、平和もあり得ない、覇権を巡る抗争である。全面戦争が起こりそうにないのは、誰もが勝者になり得ない核戦争になるかもしれないからである。アロンの定義の後半部分、正常な関係(あるいは平和)もあり得ないのは、基本的な体制の違いがあったからである。米ソ両陣営とも、相手陣営を、自己の政治、経済システムと価値に対する重大な脅威と見なしてきた。そして冷戦の最も危険な側面は、特定の地域を巡る抗争であった。これらは、両陣営にとって利害調整がほとんど不可能な地図上の地点即ち、トルコ海峡、ベルリン、キューバそして台湾であった。冷戦は、幾つかの制約核兵器の存在や、危機の時に妥協を図ろうとする両陣営における現実主義者の存在の中で戦われてきた。冷戦期を通じて、米ソは外交、通商関係を維持し、国連加盟国でもあった。

2)では、この定義に従えば、米中は冷戦中なのか。将来の衝突を予測している専門家もいるが、1950年代初めや1980年代初めの米ソ関係のように、相手側からの攻撃を極度に恐れるということは全くないし、少なくともアメリカにおいてはそうである。米ソがそうであったように、米中間にもその体制に大きな相違があるが、米中いずれも、相手側の体制を打倒しなければならないという信念に突き動かされているわけではない。中国は、「中国の夢」を実現し、世界第1の大国になろうとしている。しかしながら、中国は、この目標を達成するために、アメリカを打ち負かし、天下という古い帝国思想によって世界を従わせなければならないと考えているのであろうか。本稿の筆者(Harperはそうは思わない。「一帯一路構想」(BRI)は、それが意図するように、中国にとって新たな政治的影響力を創出するであろうが、それは基本的には減速する経済成長を維持するための戦略である。

3)しかしながら、米中間には、冷戦との憂慮すべき幾つかの類似点がある。事実、この類似点は、本来の冷戦における未解決の事案即ち、中国に隣り合わせの領域の支配を巡る抗争に由来する。台湾が焦点であることは、依然として不変である。加えて、最近の焦点は東シナ海と南シナ海である。そして我々は、軍事力を政治的影響力に転化しようとする現在進行中の抗争を目撃している。中国にとっての利害には、領土の完全な防衛と、中国経済にとって死活的な海上交通路に対する抗争相手の支配を許さないことが含まれる。アメリカにとっての利害は、より象徴的ではあるが、死活的と定義されるもの即ち、航行の自由を含む法に基づく国際秩序の保護、そして同盟国やパートナー諸国の視点から見たアメリカの信頼性の維持である。重要な問題は、この抗争において、何れの側が自らの利害をより大きいと見ているか、そしてそのためにより高い代価を払う用意があるか、ということである。歴史家バーバラ・タックマンによれば、例え全体として弱者ではあっても、自己の利害をより大きいものと見なし、そのためにより高い代価を払う用意がある側が、恐らく最終的には勝つであろう。1つ確かなことは、もし現在の中国の地位にあるような大国が自らの近隣地域でそれに相応しい行動をしなかったとすれば、その方が驚きである。要するに、最良のアナロジーは冷戦にあるのではなく、アメリカそのものにあるのである。アメリカは、モンロー・ドクトリンを振りかざし、1890年から1914年にかけてカリブ海域でその力を誇示してきた。

4)もし冷戦とある種の類似性があるとすれば、冷戦が我々に遺した幾つかの教訓が参考になろう。

a.第1に、米中両国が世界的なイデオロギー抗争を繰り広げてはいないとしても、理念とドクトリンは重要である。スターリン死後のソ連の指導者が資本主義国との戦争を不可避とするドクトリンを改め、アメリカも予防戦争論を排し、両国が平和的抗争に転じたことが重要であった。戦争を不可避とするドクトリンや、「トゥキュディデスの罠」などの人を誤った方に導く歴史的アナロジーは自己実現的予言になりかねない。一度、戦争は不可避と自らを信じ込ませてしまうと、遅くなる前に戦争を始めようとする誘惑にかられるであろう。

b.第2の教訓は、係争地点での武力衝突を回避する方法、即ち妥協である。米ソは、ベルリンとキューバで妥協した。中国が忍耐強いとすれば、中国は何れ、政治的圧力と経済的誘因とを餌に、アメリカの同盟国やパートナー諸国の一部を取り込む冷戦期の言葉を借りれば、「フィンランド化」('Finlandise'あるいは「分断」('de-couple'ことができるようになるかもしれない。中国は既に、フィリピンに対して働き掛けており、更に、中国本土から第1列島線の間の海域における中国海軍の優位をアメリカに認めさせようとさえしている。しかしながら、こうしたことは直ぐに起こるわけではなく、その過程で、戦争を回避する方法は妥協である。アメリカは、キューバが共産化し、そして最近ではクリミアがロシアに併合されたことを受け入れたように、南シナ海の一部が中国によって要塞化されることを受け入れなければならないであろう。一方、中国は、南シナ海が他国海軍も行動する国際水域であることを受け入れなければならないであろう。何れの側も満足させることではないが、死よりは増しな不満足であろう。

c.冷戦の3つ目の教訓は、1つの大国が1つのシステムによって支配するには、世界はあまりに大きく、多様性に満ちているということである。冷戦の終結は、真の1極体制をもたらしたわけではない。例え中国が世界第1の大国に、あるいは少なくともアジア第1の大国になったとしても、アメリカ、EU、インド、ロシア、そして日本(この場合、日本は恐らく独自の核武装国)を含むその他の中心となる国が存在する余地は十分にあろう。

5)長い目で見れば、アメリカがアジアにおいて何時までも現在の地位を維持していると考えるのは、非現実的であり、歴史的に無知であるように思われる。地理は中国の味方である。「大陸(アメリカ)が島(英国)によって永遠に支配されると考えるのは不自然である」とは、トーマス・ペインの1776年の米英関係についての言及である(抄訳者注:政治パンフレット『コモン・センス』)。今日、地球の反対側の大国が中国の玄関先の地域を永遠に支配すると考えるのは不自然なものがある。アジアにとって、それが意味するところはまたは別の問題である。しかし、アメリカにとって、太平洋において1898年(抄訳者注:米西戦争によってフィリピンを取得し、アジアに進出した年)以前の地位により近い地位に戻ったとしたら、それはアメリカにとって悲劇であろうか。何が起ころうと、世界は依然大きな空間である。

記事参照:Cold War in East Asia?

1122日「米海軍の戦力構成と建艦計画議会調査報告書」(Congressional Research Service, November 22, 2017

 米議会調査局は、1122日、"Navy Force Structure and Shipbuilding Plans: Background and Issues for Congress"を公表した。以下はそのSummaryの要旨である。

1355隻の戦力レベル目標は、海軍が2016年に実施した、戦力構成評価(a Force Structure Assessment: FSA)の結果である。海軍は、戦力構成目標を決めるために、数年毎にFSAを実施している。355隻戦力レベル目標は、2015年の戦力目標、308隻に替わるものである。最近数年間の海軍の実際の戦力レベルは270隻から290隻の間であった。355隻はトランプ大統領が選挙公約とした350隻に近いが、実際には2016年のオバマ政権当時の国家安全保障戦略と国家軍事戦略を反映した隻数である。

2308隻戦力目標に比して、355隻戦力目標は47隻、18%強の増強になるが、海軍が現有艦艇の就役年数を現行計画以上に延長し、そして最近退役した艦艇の再就役をしない限り、355隻態勢を実現し、維持するためには、海軍の建艦30年計画で47隻以上の艦艇を建造しなければならないであろう。議会調査局(CRS)は、30年後の2046年度に355隻態勢を達成し、維持するためには、海軍の2017年度30年建艦計画(2017年度~2046年度)で57隻から67隻の艦艇を建造する必要があると見積もっている。一方、議会予算局(CBO)は、30年後の2047年度に355隻態勢を達成し、更にその後10年間(2057年度まで)維持するためには、海軍の2018年度30年建艦計画(2018年度~2047年度)で73隻から77隻の艦艇を建造する必要があると見積もっている。CBOは、就役年数の延長や退役艦艇の再就役などによって、355隻態勢は最短で2035年度には達成できると見積もっている。

記事参照:Full Report

Navy Force Structure and Shipbuilding Plans: Background and Issues for Congress

https://fas.org/sgp/crs/weapons/RL32665.pdf

Congressional Research Service, November 22, 2017

Ronald O'Rourke, Specialist in Naval Affairs

1127日「オーストラリア外交白書ベイトマン解説」(RSIS Commentaries, November 27, 2017

 シンガポールのS.ラジャラトナム国際関係学院(RSIS)上席研究員Sam Batemanは、1127日付のRSIS Commentariesに、"Australia's Foreign Policy White Paper: Dealing with Uncertainty" と題と題する論説を掲載し、オーストラリアが新外交白書において、経済安全保障の利害を米中の狭間で均衡させるという課題設定をしたと指摘し、要旨以下のように述べている。

1)オーストラリア政府は、14年ぶりに外交白書を発表した。新白書は、中国の台頭と、インド洋・太平洋地域に対するアメリカの先行き不確実な関与がもたらす課題に焦点を置いている。更に、白書は、益々高圧的になる中国に対抗するために、アメリカとその他の有志地域諸国との協力を重視していくとしているが、明確に記述されているわけではないが、もはやアメリカをかつてのように信頼できないことを匂わせている。

2)今次白書には、オーストラリアの外交政策における5つの主要な施策が示されている。

a.第1に、インド洋・太平洋地域のパートナー諸国との間で、経済的機会を追求することである。

b.第2に、ルールに基づく制度に対するオーストラリアの利益とコミットメントとを共有する有志民主主義諸国ここでは、インド、日本、インドネシア及び韓国といったアジア諸国が挙げられていると協力し、地域秩序を方向付ける取り組みである。

c.第3に、地域における海洋安全保障能力を強化するために、オーストラリアの投資を増大させるコミットメントを含め、東南アジア諸国を最優先に扱うことである。

d.第4に、東南アジアに対する一層のコミットメントと南太平洋に対する同様の活動を調和させることである。

e.最後に、強靱性と自立が、今次白書を通じて強調されている新たな主題である。

3)白書は、オーストラリアは中国と強固で建設的な関係を築くと述べているが、他方で、特に南シナ海における中国の行動を厳しく批判し、同海域をこの地域における大きな「断層線」(a major 'fault line'と見なしている。白書は、中国が「法の支配に基づく国際秩序」に対する挑戦者になっていることを暗示している。白書のこの部分はやはり北京を激怒させたが、2国関係について妥当で客観的見解を示した論評もあった。域内の他の諸国と同様に、オーストラリアにとっても対中関係は外交政策における厄介な課題である。中国の特定の活動に潜む不安定化要因に懸念を示しつつも、外交政策は、良好な対中関係が基本的に重要であることを認識しなければならない。オーストラリアの対外貿易に占める中国の支配的地位を別としても、毎年100万人以上の中国人観光客がオーストラリアを訪問し、約16万人の中国人留学生がオーストラリア国内で学んでいる。今や中国は、オーストラリアへの観光客と留学生の主要供給源となった。その上、対豪投資も極めて多く、時には厄介な政治問題を招来している。

4)白書は、オーストラリアはアメリカのグローバルなリーダーシップを強く支持すると述べ、この地域にアメリカを引き続き関与させるために、積極的な働きかけを行うことを外交政策の目標に設定している。このことは、今後もワシントン主導の地域戦略がこの地域にとって最良だという、オーストラリアの確信を反映したものである。オーストラリアの安全保障は、長年に亘ってアメリカとの同盟と、アメリカの技術やインテリジェンスへの特権的アクセスに支えられてきた。アメリカがこの地域に関与し続けるための支援として、オーストラリアは、米軍に提供するアクセス拠点を増やすことを計画している。しかしながら、こうした動きは、地域の一部諸国から歓迎されないかもしれない。特にインドネシアは、オーストラリア北部地域における米軍のプレゼンスを以前から批判してきたこともあって、懸念を示すであろう。

5)白書は、不確実な未来に向けての計画立案が困難であることを承知している。白書は不確実性について多くを語っているが、この地域の将来方向は、既に周知のものであるといえるかもしれない。増大する中国の影響力とアメリカの影響力の減退という趨勢は既に定着しており、変わるとは思えない。白書は、トランプ後のアメリカがこの地域に回帰し、第2次世界大戦後の秩序維持を支援するであろう、との非現実的な期待を示しているが、最良のシナリオでもそうなるかは不確実である。更に、白書は、オーストラリアはワシントンか北京を選択する必要がない、という政治的虚構を持ち続けている。しかしながら、現実には、例えば、南シナ海における一層積極的な「航行の自由」作戦には参加しないが、アジアインフラ投資銀行(AIIB)には参加するなど、オーストラリアはしばしばいずれかの選択に迫られているのである。白書は、アメリカの力と影響力の再興に期待を込めて、過去の地域秩序を懐古的に振り返っている。白書は、アメリカ主導の地域秩序がもはや現実的ではないことを示唆する変化に、もっと鋭敏な感受性を示すべきであったろう。

記事参照:Australia's Foreign Policy White Paper: Dealing with Uncertainty

Full Report: 2017 Foreign Policy White Paper

https://www.fpwhitepaper.gov.au/foreign-policy-white-paper

Australian Government, November 24, 2017

1130日「シンガポール、インドとの海軍協定締結」(The Diplomat.com, November30, 2017

 Web誌、The Diplomat共同編集長Prashanth Parameswaranは、1130日の同誌に、"Why the New India-Singapore Naval Pact Matters" と題と題する論説を掲載し、シンガポールとインドとの間で締結された海軍協定について、要旨以下のように述べている。

1)シンガポールのNg Eng Hen国防相は1127日から29日の間、第2回国防相対話メカニズム出席などのためにインドを訪問し、この間、両国の海上安全保障協力を加速する、新たに海軍協定(The India-Singapore Bilateral Agreement for Navy Cooperation)が締結された。インドとシンガポールは、既に緊密な2国間関係にあり、この地域のパートナーである。両国の防衛協力は、この数年次第に強化されてきており、201511月には防衛協力協定(DCA)を締結し、20166月には最初のシンガポール・インド国防相対話が行われた。今回のNg Eng Hen国防相のインド訪問によって、今後両国の防衛関係の促進が期待される。

2)今回締結された新たな海軍協力協定は、両国のより広範な関係、特に海軍同士の関係強化にとって重要である。この協定によって、両国の全ての軍種間の協力協定が締結されたことになる。空軍同士は、2007年にThe Air Force Bilateral Agreementを締結し、20171月の第11回シンガポール・インド防衛政策対話の開催時に更新された。陸軍間の2国間合意The Army Bilateral Agreement2008年に締結され、2018年の更新される予定である。海軍協定の締結によって、シンガポール国軍は、現時点で全ての軍種間でインドとの2国間協定を締結した唯一の軍となった。

3)シンガポール・インド海軍協定は、特に海洋の領域で紐帯を深化させる。この協定は、海上安全保障における、合同訓練、双方の海軍施設への互訪問、相互後方支援を含む、幾つかの強力分野を規定している。この協定が今後どのように運用され、両国間の海洋安全保障の紐帯にどのような影響を及ぼしていくかが注目される。協定調印後のシンガポール・メディアの解説は、そのほとんどがインド海軍のチャンギ海軍基地(抄訳注:シンガポール東部のシンガポール海峡に面して最新の海軍基地で、空母が接岸可能な岸壁を有し、米海軍は同基地のアクセス権を有している)へより頻繁なアクセスを予想したもので、Ng Eng Hen国防相はインドでの共同記者会見で、シンガポールは寄港を歓迎すると述べた。また、マラッカ海峡のよりシンガポールに近い海域や、アンダマン海のよりインドに近接した海域でのより複雑な合同訓練も実施されることになろう。

4)この協定はまた、海洋安全保障の領域で東南アジア諸国との一層協力を求めるインドの努力を促進させることになろう。ニューデリーは、その数が増えつつあるASEANのパートナー国の1つで、東南アジア諸国との合同訓練の範囲を拡大し、より複雑な合同訓練への拡充を望んでいる。シンガポールは2018年のASEAN議長国として、インドと東南アジア諸国との海洋安全保障領域における協力の促進を手助けする立場にあり、このことは都市国家としてのシンガポール自身の利益となろう。

記事参照:Why the New India-Singapore Naval Pact Matters


【補遺】

旬報で抄訳紹介しなかった主な論調、シンクタンク報告書

1. ASIA's Energy Security and China's Belt and Road Initiative

http://www.nbr.org/publications/specialreport/pdf/free/010218/SR68_Asias_Energy_Security_November2017.pdf

The National Bureau of Asian Research, November, 2017

By Erica Downs, Mikkal E. Herberg, Michael Kugelman, Christopher Len, and Kaho Yu

2. 2017 ANNUAL REPORT

Chapter 3 SECTION 3: HOTSPOTS ALONG CHINA'S MARITIME PERIPHERY

https://www.uscc.gov/sites/default/files/Annual_Report/Chapters/Chapter%202%2C%20Section%203%20-%20Hotspots%20along%20China%27s%20Maritime%20Periphery.pdf

U.S.-CHINA ECONOMIC and SECURITY REVIEW COMMISSION, November 15, 2017

3. North Korea's Submarine Ballistic Missile Program Moves Ahead: Indications of Shipbuilding and Missile Ejection Testing

http://www.38north.org/2017/11/sinpo111617/?utm_source=Sailthru&utm_medium=email&utm_campaign=New%20Campaign&utm_term=%2ASituation%20Report

38 North, November 16, 2017

By A 38 North exclusive with analysis by Joseph S. Bermudez Jr.

4. Why Russia is sending robotic submarine to the Arctic

http://www.bbc.com/future/story/20171121-why-russia-is-sending-robotic-submarines-to-the-arctic

BBC News.com, November 21, 2017

5. AVOIDING WAR: CONTAINMENT, COMPETITION, AND COOPERATION IN US-CHINA RELATIONS A BROOKINGS INTERVIEW

https://www.brookings.edu/wp-content/uploads/2017/11/fp_20171121_china_interview.pdf

Brookings, November 21, 2017

6. Australia needs to engage China and hedge the risks of this relationship

https://www.lowyinstitute.org/publications/australia-needs-engage-china-and-hedge-risks-relationship

Lowy Institute, November 23, 2017

Alan Dupont, Non Residence Fellow of Lowy Institute

7. Territory and Conflict: Island Disputes vs. Continental Disputes

https://storage.googleapis.com/scstt/publications/Issue-Briefings-2017-17-Streich.pdf

South China Sea Think Tank, Issue Briefing 17, 2017

By Philip Streich, Specially Appointed Assistant Professor in the Human Sciences Program at Osaka

University.