海洋安全保障情報旬報 2018年2月1日-2月28日

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21日「『地位』への渇望、アジアにおける軍事紛争の要因ランド研究所専門家論評」(Asia Maritime Transparency Initiative, CSIS, February 1, 2018

米The RAND Corporation上席研究員Timothy Heathは、2月1日付のCSISのAsia Maritime Transparency Initiativeに、"The Competition for Status Could Increase the Risk of a Military Clash in Asia" と題する論説を寄稿し、アジアにおける中国とそのライバル国との間で地位を巡る競争の激化が軍事紛争の要因になりかねないとして、要旨以下のように述べている。

1)今日、領土獲得を目指す紛争の可能性は低下しているかもしれないが、一方で、紛争の潜在的な要因として地位(status)の重要性が高まってきているといえるかもしれない。地位とは曖昧で定義しにくい概念だが、根本的には、地位とは、1つの同等グループの階層における国家の序列をいう。地位は、当該国の評判はもちろん、その影響力と威信を推し量ることで間接的に評価できる。高位の国は、他の国よりも大きな敬意を払われ、そのグループ内のより低い地位の国よりも、はるかに低コストで、はるかに大きな利用可能な資源のシェアを確保することができる。しかしながら、地位は、競争を通じてのみ獲得することができ、序列を巡る競争は本質的にゼロサムであり、ある国の地位の上昇は常にその競争相手国の下降を意味する。

2)こうした高い地位に付随する莫大な利益と、地位確保を目指す競争は、歴史的に地位への願望が多くの国家間紛争を引き起こしてきた要因であったことを説明してくれる。歴史を見れば、多くの国が不安定な地位から抜け出すために、あるいは自らの地位を高めるために、労を厭わず、また時には深手を負ってきた。例えば、1956年のスエズ危機では、英国は、中東におけるその衰退しつつある地位に対するエジプトの挑戦を阻止するために、不必要で無意味な軍事攻撃を行った。1960年代には、最大のライバルであるソ連との地位を巡る米国の不安は、KennedyJohnson両政権による泥沼のベトナム戦争を招いた。ソ連も1980年代にアフガニスタンで、同じような大失敗を犯した。反対に、1904年から1905年の日露戦争における日本の勝利はその地位を高め、日本はその後アジアにその支配を拡大した。同様に、米西戦争での米国の勝利は、中南米の大国としてのスペインの失墜を招き、米国はその後、アメリカ大陸における覇権国としての地位を固め、その影響力を拡大してきた。

3)これらの歴史が示唆しているように、米国の世界的優越によって支えられた冷戦後の「一極」時代のほぼ平和で安定した一時期に見られたように、同等の国家間で相対的な序列に関してコンセンサスがある場合には、地位を巡る競争は収まる傾向にある。しかしながら、不安定な時期には、地位を巡る競争は激化する傾向がある。今日、先進諸国における持続的な景気の低迷と発展途上国の台頭により、既存の序列が不安定になり、多くの大国の地位の序列を巡って新たな不安を引き起こしている。これらの懸念は特にアジアにおいて深刻であり、中国とその主要なライバルである米国、日本そしてインドとの間で、地位と影響力を巡る戦略的抗争が見られる。

4)中国にとって、大国として復興するためには、地位がますます重要になっている。中国は、「一帯一路」構想(BRI)を通じてアジアの統合を、そして上海協力機構などの中国主導の地域機構によって規定される地域安全保障体系の構築を、それぞれ目指している。中国は、相応しい地位が得られれば、潜在的な紛争要因を管理し、その安全保障を強化し、そして資源や市場への有利なアクセスを確保するために必要な、地域諸国から敬意と協力を得ることができるであろう。中国の指導者たちは、地位の重要性を認識して、域内における中国の指導的立場を強化するために一層の努力を傾けてきた。中国は現在、その影響力を強め、その地位を高めるために、持続的な軍事力の近代化、大々的な経済外交攻勢、統一戦線戦術そして飴と鞭の外交政策といった、押し付けがましいが平和的な措置に頼っている。一部の専門家は、中国の意向を慮るフィリピンや韓国における中国の影響力の増大を指摘するが、漸進的で平和的な方法による効果は、それが知覚しにくいために、立証が困難である。更に、平和的で漸進的な取り組みは、対抗策に脆弱である。既に、ますます多くの国々が、中国による経済的威嚇と影響力の増大に懸念を強め始めてきている。

5)米国とその同盟国、パートナー諸国は当然ながら、中国との協力を維持しながら、それぞれの立場を強化することによって、自国の利益を守ろうとしている。こうした戦略は成功するかもしれない。その核心には、中国が第2次大戦後に米国とその同盟国によって確立された国際秩序を引き続き受容していくならば、最大限の安定が得られるという前提があるからである。自国の安全保障がこの(米国主導)秩序の変革にかかっているとの中国の確信は、すぐには解決されそうにもない、深刻な構造的矛盾を引き起こす。したがって、北京は、アジアのリーダーとして米国に取って代わることを目指して、平和的な方法を継続していくと見られる。しかしながら、もし北京がある時点で、米国とその同盟国が自国の野心を首尾よく妨害してきたと結論づければ、中国は、その地位を主張するためによりリスクの高い方法をとろうとするかもしれない。中国は、東シナ海や南シナ海で軍艦や軍用機による瀬戸際政策的行動を展開することが予想される。既に、中国の軍事専門家は、戦略的成果を得るために軍事的危機を巧妙に利用することを提言している。

6)当然ながら、瀬戸際政策はそれ自体にリスクを内包している。誤算は、望まない戦争につながる可能性がある。同様に、その戦略的な効果も、厳しい状況を招来する可能性がある。米国、日本そしてインドなどの競争相手は、中国の安全保障環境を悪化させることになる、自らの軍事態勢を強化することで、強い警告を発するであろう。更に、威圧された近隣諸国が中国から離れ、日本やインドによる投資を歓迎するようになれば、瀬戸際政策による対立は、「一帯一路」構想(BRI)という中国の壮大な野心を危険にさらす可能性がある。中国は、近隣諸国に対する軍事的挑発を検討することは決してないと見る、多くの好ましい理由もある。しかし、また北京には、自国の地位を高め、米国とその同盟国の地位を低下させようとする、抗し難い理由も持っている。中国共産党の支配の正当性が国家の地位の向上にあることを考えれば、中国の指導部は、その目的を達成するためにあらゆる利用可能な選択肢をとろうとするはずである。

記事参照:The Competition for Status Could Increase the Risk of a Military Clash in Asia

21日「米の『航行の自由』作戦、南シナ海における緊張激化の前兆か―シンガポール専門家論評」(China US Focus.com, February 1, 2018

 シンガポールの東南アジア研究所(ISEAS Yusof Ishak Institute)上席研究員Ian Storey は、WebサイトChina-US Focus21日付で、"US FONOP at Scarborough Shoal a Harbinger of Increased Tensions in the South China Sea?" と題する論説を寄稿し、フィリピンEEZ内のスカボロー礁周辺海域での117日の「航行の自由作戦」は中国に利用され、結果的に南シナ海における緊張を高めることになるかもしれないとして、要旨以下のように述べている。

1)米海軍ミサイル駆逐艦USS Hopper117日、スカボロー礁周辺12カイリ以内の海域を航行する「航行の自由」(FON)作戦を実施した。フィリピンのルソン島西方約120カイリに位置するこの環礁はフィリピンのEEZ内にあるが、北京もマニラも領有権を主張している。この環礁を巡って中比両国の巡視船が2012年春に2カ月余りも対峙して以降、中国はこの環礁を実効支配し、フィリピン漁民はこの豊かな漁場へのアクセスを阻止されていたが、ドゥテルテ大統領の北京訪問後の2016年後半から、この封鎖は一部解除されていた。

2USS Hopperの「無害通航」は、2015年以降、南シナ海で実施された9回目のFON作戦となった。オバマ前政権時には4回実施されており、Trump政権になってからは5回目であるが、それまでの8回はいずれも中国が実効支配する西沙諸島、南沙諸島海域で実施されていた。米国防省はFON作戦については喧伝しない方針をとっており、今回のスカボロー礁周辺海域におけるFON作戦も、公表も確認もされていない。国防省報道官は、米軍は国際法に従って世界の海域でFON作戦を実施してきていると述べただけであった。一方、中国の反応も何時もと同じで、外交部と国防部はともに、USS Hopperの航行を中国の主権を侵害し、海上の安全を危うくし、平和と安定を損なうものであると非難した。また国防部は、中国軍艦が警告を発して米艦を「追い払った」とも主張しているが、この「事実」は確認されていない。

3)しかしながら、米当局者がリークした最初の7回のFON作戦とは異なり、最近の2回のFON作戦は中国によって公表された。以下の2つの理由から、FON作戦は南シナ海における中国の政策に利用されている。第1に、北京は、南シナ海紛争を軍事化しているのは、中国ではなく米国であると主張することができる。第2に、このことは、南沙諸島で造成した7つの人工島における軍事施設建設を正当化する口実を中国に与えることになる。実際、中国国防部は、今回のUSS HopperFON作戦を奇貨として、「中国の主権と安全を守るために空、海の哨戒活動を強化する」と発表した。北京は、南シナ海の人工島の施設は本質的に防衛的なものであり、航行安全の確保に資する公共財などを提供することを目的としているというが、現実には、3カ所の長距離滑走路、レーダー、兵舎、火砲の設置などの軍事インフラが建設され、海洋東南アジアの中心部における海空戦力展開の拠点となっている。

4)今回のUSS HopperFON作戦は、タイミングという点でも重要である。Trump政権の南シナ海におけるFON作戦は当初68週間ごとに予定されていたが、今回は3カ月の期間を空けて実施された。ワシントンは、北朝鮮の核兵器計画を断念させるための圧力強化について中国を説得する努力の一環として、一定期間の中断を考えていたのかもしれない。他方で、FON作戦の再開は、北朝鮮に対する更なる圧力強化の必要性を、北京に伝えるシグナルであったかもしれない。更に重要なことは、今回のFON作戦が2018年版の「国家防衛戦略」(NDS)公表の2日前に実施されたということであろう。NDSは、201712月の「国家安全保障戦略」と同様に、中国を「戦略的な競争相手」と位置付け、インド太平洋における覇権を、そして最終的には世界的優位を達成すべく、米国に取って代わろうとしている、と述べている。またNDSは、中国が「南シナ海の人工島の軍事化を進めるとともに、略奪的な経済進出によって近隣諸国を脅かしている」と非難し、このような中国の挑戦に対する一連の対抗策を明記している。

5)米国が南シナ海におけるFON作戦の頻度を高めれば、北京は、これまで警告してきたように、人工島を拠点に、戦闘機を含む軍用機や軍艦を常続的に展開させることになるかもしれない。また中国は、一層アグレッシブに米海軍戦闘艦を追尾することになるかもしれない。そうなれば、過去18カ月以上の平穏な期間が終わり、南シナ海で再び緊張が激化するする可能性が高い。

 記事参照:US FONOP at Scarborough Shoal a Harbinger of Increased Tensions in the South China Sea?

211日「中国海軍の東インド洋展開とモルディブ危機―米専門家論評」(The Diplomat, February11, 2018

 Web誌、The Diplomat編集長、Ankit Pandaは、211日付の同誌に、"What's a Recent Chinese Naval Deployment to the Eastern Indian Ocean About? " と題する論説を寄稿し、最近の中国海軍の東インド洋展開とモルディブ危機との関係について、要旨以下のように述べている。

1)モルディブの危機が続いている。この危機は必然的に、インドと中国の大いなる関心を引きつけることになった。インド洋における中印両国の戦略的プレゼンスを巡る抗争 の渦中にあって、中国海軍は最近、東インド洋に展開し、特にインドのメディアの注意を引いた。Type 071揚陸輸送艦と、駆逐艦、補給艦を含む水上艦4隻からなる部隊は、定期的に実施されている演習、Navy Blue 2018Aのために東インド洋に入った。奇妙なことに、この東インド洋への展開は、中国メディアの『新浪』だけが艦艇の動きを示す地図を含め詳細を報じた。通常であれば、演習や海軍の動きを報じる『解放軍報』を含む中国国営メディアは、まだこの展開について報じていない。『新浪』によれば、水上艦部隊は、補給と後方訓練のためにインド洋に入った。

2)一方、インド紙Times of Indiaによれは、インド防衛当局者は、モルディブから3,500キロも離れているので、この展開の重要性を軽視しているようである。インド海軍高官とみられる他の当局者は、「中国海軍の艦艇はスンダ海峡を通って東インド洋に入り、ロンボック海峡を通って南シナ海に出た」とインド紙The Hindustan Timesに語っている。しかしながら、一部のインドの戦略家は、別の見方、即ち、この展開は事前に計画された演習のためではなく、モルディブ危機への対応のためであると見ている。彼らは、インドのメディアに、モルディブ危機への対応と見る理由について、以下のように述べている。「まず展開のタイミングについて見れば、モルディブのヤーミン大統領が非常事態を宣言したのは、反対勢力が恐らくインドの支援を受けて彼を排斥しようとしているとの同大統領の認識に基づく可能性が高い。この場合、ヤーミン大統領は、今後の行動方針について北京に相談しているであろう。一方、北京は、もしインドがモルディブに介入するならば、中国はモルディブからインド軍を追い落とす力があることをインドに誇示しなければならなかったであろう。」メッセージの発信は慎重を要する仕事で、どのようなメッセージがニューデリーの意思決定者に届くかを明確に判断するのは難しい。インドの指導層は、中国がインド洋において定期的に行動するという野望を持っていることを以前から承知している。インド洋はその名前に反してインドだけの海ではないというのは、北京の戦略家達が好む表現である。従って、インド洋における中印両国の抗争はニュースではない。

3)奇妙なことに、権威のある中国国営放送局は今回の水上艦部隊の展開についてきわめて控えめに述べているが、新華社と人民日報は部隊の展開について何も伝えていない。もし今回の展開がインドに対するメッセージであるとしても、これは、特に2017年夏のドクラム高地での中印対峙の際の北京のアプローチとはかなり異なっている(この場合、考慮すべき違いの1つは、モルディブの非常事態宣言の直後に中国が正月休暇に入ったことかもしれない)。今回の演習に対するインドの公式の反応は、少なくともインドのメディア報道から見る限り、成り行きを見守るという賢明なアプローチである。広大なインド洋に入った中国海軍水上艦部隊に過剰に反応することは、インドの利益にとって逆効果となるであろう。その背景には、モルディブから数千カイリも離れた海域への中国海軍の展開に対して、ニューデリーが明らかに過剰な反応を示せば、危機の最中にあるインド洋地域で北京がかえって強気に出る決意を強めるかもしれない、との認識がある。

4)要するに、今回の東インドへの展開は、長年にわたる中国海軍の慣行と野望に沿った定期的に計画された演習であり、モルディブ危機に不必要な緊張をもたらすことを避けるために、中国の公式メディアの報道が故意に抑制されたと見られる。他方、インドはモルディブへの軍事介入前夜の状況にあるわけではないが、インド洋への中国海軍の水上艦部隊の展開もインドの政策決定者の意志を左右する上で決定的なものになることもなさそうである。インド洋における中国のプレゼンスと、重要な海上交通路に戦力を投射するその能力は、以前からこのことを真剣に考えてきた、インドの戦略家達にとって少しも驚きではない。 しかしながら、他方で、モルディブ危機の展開に伴って、インドの観察者達は、インド洋地域における中国の動きに鋭い関心を向けていることは間違いない。それは、危機以前からもそうであったし、ヤーミン大統領の運命が決定した後も同じであろう。

 記事参照:What's a Recent Chinese Naval Deployment to the Eastern Indian Ocean About?

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「モルディブ危機とインドの選択―印専門家論評」(Project-Syndicate, February 19, 2018

在ニューデリーのシンクタンク、The Center for Policy Research 教授Brahma Chellaneyは、219日付のProject-Syndicateのサイトに、"India's Choice in the Maldives"と題する論説を寄稿し、モルディブ危機に対するインドの選択肢について、要旨以下のように述べている。

1)モルディブは、その国土がインド洋の重要な海上交通路に跨っているため、この地域における安全保障にとって重要な存在である。そのため、モルディブの最近の政治情勢の悪化は、益々国際社会の注目を集めている。インド洋における自らの利益を追求している中国は腐敗したヤーミン現政権を擁護しているが、一方で、米国からインドまでの民主主義国家は国連に対して介入を求めている。

2)現在、中国とモルディブの関係が益々緊密になってきており、インドがモルディブの主要な地域パートナーであった時とは大きく変わっている。近年において、中国は、インド洋における中国の影響力拡大を狙いとした、一連の軍事施設の建設や経済プロジェクトの一環として、モルディブにおけるインドの影響力を浸食してきている。中国が最近、99年の賃貸期間でスリランカのハンバントタ港を手に入れたように、大きな負債を抱えるモルディブにおいて投資目的のために17の島嶼を秘かに手に入れたといわれる。しかし、中国はまた、モルディブに軍艦を寄港させることで、その戦略的目標を明らかにした。ヒマラヤ国境に沿ってインドに軍事的圧力を強めている中国が、もしモルディブ群島の1つを海軍基地に変えるならば、それは、インドに対する効果的な海洋戦線を構築することになり、インドに対する中国による戦略的包囲網における画期的出来事となろう。

3)したがって、モルディブ危機はインドにとって決定的な意味を持つ。インドは、モルディブの野党指導者の求めに応じて軍事介入するのか、それとも、ヤーミン大統領の下で中国がこの地域における戦略目的を追求するのを容認するのか。モルディブに対するインドの軍事介入には、幾つかの先例がある。しかしながら、現在では、インドの軍事介入は危険な賭になりかねない。モルディブにはインドに部隊派遣を要請する合法的な権威は存在せず、また、例えインド空挺部隊が数時間で首都マレを制圧したとしても、何を以て介入の終了とするのか。今日、モルディブの経済と政治を支配する少数の強力な一族の間で、イスラム教の影響力が高まり、政治的な忠誠心が変わりつつある中で、民主的自由にコミットし、それを守ることができる、信頼できる見方を見つけることは困難である。更に、例えヤーミンが追放され、民主的選挙が実施されたとしても、中国の影響力が抑制される可能性は低い。バングラデシュ、ミャンマー、ネパール及びスリランカの経験が示すように、民主的に選出された政府に対しても、中国は、インドを外交的に圧倒している。モルディブの対中負債は増え続けており、中国は有利な切り札を保持し続けるであろう。インドは、モルディブとの親密な歴史的関係を持っており、強い手札を持っているように見えるかもしれないが、軍事介入は、失うものが多いであろう。

4)故に、インドの最良の選択肢は、他の民主主義国家とともに、モルディブのエリート層の間にあるヤーミンへの支援を断ち切るために、経済制裁を課しながら、軍事行動への脅威を及ぼし続けることである。

 記事参照:India's Choice in the Maldives

215日「『太平洋・島サミット』、太平洋島嶼諸国における日本の課題―南太平洋大教授論評」(East Asia Forum, February 15, 2018

フィジーの南太平洋大学行政・開発・国際関係学部長Sandra Tarteは、215日付のWeb誌、East Asia Forumに、"Putting the 'Pacific' into Japan's Indo-Pacific strategy"と題する論説を寄稿し、「太平洋・島サミット」を主催する日本の太平洋島嶼諸国における課題について、要旨以下のように述べている。

1)「自由で開かれたインド太平洋戦略」の包括的な目標は、通信インフラを構築し、自由貿易協定を結び、特にインドやアメリカ、オーストラリア、ニュージーランド、東南アジア諸国と、いわゆる「戦略的連携」を育むことにある。これまでのところ、同戦略で言及がないのは太平洋諸島である。

2)日本と太平洋諸島との「戦略的連携」の手段は既に存在している。それらの中で重要なものは、1997年以後、3年毎に日本で開催されている「太平洋・島サミット」(PALM)である。PALMでは、日本の首相と14の太平洋島嶼諸国首脳、オーストラリアとニュージーランドの閣僚級代表が一堂に会する。現在のPALMでは、2010年に導入された会期間外相会合や国連総会時の2国間首脳会談も行われている。これらは、日本が1989年以降毎年参加してきた太平洋諸島フォーラム(PIF)域外国対話を補完している。日本が現状の政治、経済協力を越え、一連の関係を「戦略的連携」に転換するのであれば、太平洋島嶼国の新たな主張を受け入れる必要があろう。全般的に太平洋島嶼地域は、ルールに基づく国際秩序を受け入れてはいるが、広大な海洋管理や気候変動といった課題に対処するルールを形成するために多大なる努力を払っている。また、太平洋島嶼諸国は、過去に支援国や大国の「不当な影響」下にあった、太平洋地域の固有の問題に対しても更なる政治的コントロールを主張している。こうした新たな自己主張の背景には、1つには国内開発や外交的パートナーシップの構築に新たな選択肢を与えた、この地域における中国や非西側諸国の影響力の増大がある。とはいえ、最も大きな変化は、如何に地域やグローバルな外交に関与すべきかを重視する、「パラダイムシフト」ともいうべき方向に、太平洋島嶼諸国首脳の態度が変わったことである。今や太平洋島嶼諸国は、自国の外交上、開発上の願望を促進するために、地域やグローバルな討議過程に積極的かつ独自の立場で参加することの重要性を認識している。

320185月にも予定される次期PALMサミットは、日本に太平洋島嶼諸国との関係を再調整し、強化する重要な機会を与えるものである。最近のPALMサミットは、包含と排除の論理の駆け引きによって影が薄くなっている。日本は、2012年のPALMサミットに当初フィジーを招かず、土壇場でフィジー外相に招待状を発行(その後、同外相は招待を辞退した)したことで深刻な亀裂を引き起こした。当時、フィジーは、総選挙を実施できず、民主制に復帰しなかったことから、PIFから一時資格停止を受けていた。この決定は、フィジーが積極的に中国やロシア、インド、インドネシア及び一部アラブ諸国等の非伝統的友好国に接近していた(接近されてもいた)時期に、日本とフィジーとの関係を著しく悪化させた。現在ではフィジーとの関係は修復され、201712月に日本とフィジー間の直通便の再開が発表された。これは、貿易と観光の結びつきを加速させる両国関係の深化を示している。

42018年のPALM開催に至る過程で、日本は新たな難問に取り組んでいる。それは、2016年にPIFの正式加盟国となったフランスの海外領土、仏領ポリネシアとニューカレドニアを招待するか否かである。この決定は、これらの仏海外領土とPIFとの長年にわたる関係を正式化したものだが、フランスの海外領土の受入れは、地域の意思決定に対するフランスの影響力を「拡大」させている。何故なら、フランスは、(今のところは)これら地域の国防や外交、司法、金融政策に影響力を維持しているからである。日本は、PALMが日本とPIF間の会合なのか、それとも日本と太平洋島嶼諸国首脳間の会合なのかに白黒をつける必要がある。加えて、PIFの首脳らが加盟国を拡大しているように思われる中、PALM加盟国拡大に関して柔軟かつ包含的であることが、日本の利益に合致するのかを見定めることも要する。ここしばらくの出来事から学ぶべきことがあるならば、太平洋で発展する地域秩序が日本にとっていかなる意味合いを有するかに留意することの重要性である。どのような決定が下されるにせよ、日本は今度こそ土壇場まで発表を放置するようなことをしてはならない。

 記事参照:Putting the 'Pacific' into Japan's Indo-Pacific strategy

219日「東南アジアにおける海洋能力構築支援にインドも積極的に参加すべき―シンガポール専門家論評」(Live Mint.com, February 19, 2018

 シンガポールの南洋工科大学研究員Swee Lean Collin Kohは、219日付のインドのWebLive Mintに、"Building maritime capacity in South-East Asia"と題する論説を寄稿し、東南アジア諸国に対する海上安全保障能力構築支援にインドもより積極的に参加すべきであるとして、要旨以下のように述べている。

1)テロリズムやその他の非伝統的安全保障問題、域内における大国間の抗争そして南シナ海紛争といった多様な課題は、地域の安全保障体系におけるドライバーの立場を維持しようとする、ASEANにとって決して薔薇色の構図ではない。しかしながら、オールASEANと域外の主要プレーヤーを巻き込む、包括性という概念は、ASEANにとって変わることのない有益な規範である。この規範は、東南アジアにおける海洋安全保障能力構築支援に関してはうまく機能している。海洋公共財を保護し、航行の自由を守るという、良好な海洋秩序を維持することは、沿岸域諸国と海洋利用国双方の責務である。マラッカ海峡の哨戒活動や、最近のスールー・セレベス海におけるフィリピン、マレーシア及びインドネシア3国間協力に見られるように、ASEAN諸国は、関係海域の警備を、沿岸国としての第一義的責任と見なしている。域外の利用国は、財政、技術及び訓練面での支援提供が期待されている。

2)米国は、長年にわたってこの地域の主要プレーヤーであり、最近では南シナ海における「航行の自由」作戦を実施することでその役割を強化している。米海軍は今後とも、この感謝されないが非常に重要な任務に継続的に取り組んでいくとしている。一方で、他の域外主要国にも、東南アジア諸国の海洋安全保障能力構築支援のために実行できる多くのことがある。日本は、「ビエンチャン・ビジョン」(日ASEAN防衛協力イニシアチブ)によって、米国に続いている。オーストラリアは、ASEAN諸国との間の長年にわたる海洋安全保障パートナーシップにもかかわらず、こうしたプログラムを持っていない。インドには、海洋安全保障能力構築支援の面で、関与を深める余地がある。

3)一部のASEAN諸国は長年、インドを中国の対抗勢力と見なしてきた。ニューデリーが東南アジアにおいてやろうとしていることは、北京がこの10年間にインド洋で始めて、未だ達成されていないことでもある。即ち、それは、インド海軍が何十年にもわたってマラッカ海峡の東方海域に定期的に展開することで蓄積してきた同海域への慣熟ということに加えて、東南アジア諸国との一連の2国間の海洋安全保障、海軍協力である。例えば、海軍と沿岸警備隊を含む、シンガポール・インド2国間海上合同訓練(SIMBEX)に倣った、より制度化された合同訓練・演習パターンの実施などである。あるいは、最近のSambandh演習と移動訓練チーム計画は、インド洋地域における中国のプレゼンス増大への対応の一環として、インド洋地域の小国を対象としたものだが、これらを東南アジアに広げることも効果的かもしれない。更には、ベトナムの新たな巡視船取得のための借款供与も注目に値するが、オーストラリアの太平洋諸国への巡視船供与計画に倣った、南アジアと東南アジア諸国に対する同種の計画も可能であろう。また、ニューデリーは、自国の宇宙技術の強みを活かして、特にリモートセンシング機能などを海洋状況把握(MDA)分野に活用することもできよう。

4)しかしながら、東南アジア諸国の海洋安全保障能力構築支援のための各国独自のアプローチに替わる包括的な連携枠組みが存在しない現状に鑑み、各国の努力の重複を避けるためにも、これらの域外主要国が相互に協力し合うということが重要である。「4カ国枠組」は、こうした努力の調整のための格好のプラットフォームとして役立つであろう。インドの「アクト・イースト」政策は、こうした枠組の中で、議論を主導できるかもしれない。

 記事参照:Building maritime capacity in South-East Asia

220日「海中の支配を巡る米中の抗争」(The diplomat, February20, 2018

 在ニューヨークのフリーランサー、Steven Stashwickは、220日付のWeb誌、The Diplomatに"Chinese Oceanography Echoes the Contest for Undersea Dominance Against the US"と題する論説を寄稿し、米軍指導者は中国の挑戦に対応するに当たって、潜水艦の優位性を重要な要素と考えており、従って、米中間の抗争を激化させる最も重要な領域の1つは、まったく目立たないが、海中の支配を巡る海洋研究機関、海洋調査そして海洋観測船の活動であるとして、要旨以下のように述べている。

1)米国は、約50隻の先進的で隠密性の高い攻撃型原子力潜水艦隊を展開している。米国防省によれば、中国は、最近5隻の攻撃型原子力潜水艦と54隻の通常型潜水艦を保有し、2020年までに80隻近くにまで増強される可能性もある。米国は、中国の潜水艦隊の増強による挑戦を承知しているが、自国の潜水艦隊を維持するという問題にも直面している。米海軍は、最新の戦力組成評価によれば、66隻の攻撃型原潜を必要とし、そのためには現在の保有数のほぼ40%に当たる隻数が更に必要となる。しかし現実には、米潜水艦隊は次の10年間に勢力減になる可能性がある。造船所が限られ、しかも潜水艦建造に必要な熟達した作業員を急速に増員するという問題によって、恐らく今後除籍しなければならない隻数に対応した建艦ペースを維持できず、従って、潜水艦隊の目標隻数まで増強することはできないであろう。

2)しかしながら、西太平洋における水面下の支配を巡る抗争は、米国の最大の保有隻数よりはるかに多い隻数の、しかも現有の最も先進的な潜水艦と同等の能力の潜水艦を必要としよう。水面下の領域では、米中両国は、水上艦艇や潜水艦が放射する固有の音を聞くパッシブであれ、音波を発信し、それが目標からはね返ってくるのを聴くアクティブであれ、相手の艦艇の音を聞いている。水温、水圧、塩分濃度の変化は、音が海水中をどのように伝搬するかに影響を及ぼす。従って、敵を探知し追尾することも、反対に敵から探知されないようにすることも、水深、音響、及び海底地形について詳細を理解していることが必要である。米国では、専門のセンターは、対潜部隊に作戦上の優位を提供するために海洋科学を利用している。これらのセンターに海洋データを提供するため、米国は、軍が運用する研究・調査船隊を維持し、軍以外の公的な科学、海洋学に関わる機関や民間の研究所と提携している。例え米国が今後の潜水艦隊を維持あるいは増強する上で問題に直面しているとしても、海洋データは不可欠であり、冷戦期の潜水艦を聴音探知するハイドロフォン・ネットワークの更新、新世代無人水中機(UUV)など、対潜能力を質的に向上させる最新の構想を実現させることが重要である。海洋データを収集する上で不可欠なのが文民によって運航される5隻の音響測定艦で、最新の戦力組成評価では、更に2隻の建造を提起している。

3)対照的に、米国防省は、2017年の中国の軍事力の進展に関する報告書の中で、中国は強力な対潜戦能力に依然欠けていると評価しているものの、進展しつつあるとも述べている。中国の水上戦闘艦隊で急速に増強されている艦種の1つが対潜戦に最適化されたコルベットであり、米国の音響測定艦に酷似した新型の遠距離潜水艦追尾艦である。この艦は2017年に建造中であることが確認されたが、現在では運用されていると見られる。中国は最近、最新の調査船を進水させたが、この調査船は今後10年間に10隻の建造予定の内の1隻である。中国は、民間の調査船を使って、フィリピン政府から必要な許可を受けることなく、南シナ海へのアクセス・ポイントを支配する戦略的水路の調査を行った。中国は、海洋データ収集のために、南シナ海と東シナ海の海底に設置したセンサー、ブイ、無人機、潜水艇、及び調査船などの、各種の海洋データ収集網を計画し、あるいは実施している。

4)米中の軍事バランスは、どちらが海洋の深さを最大限に活用できるかに大きくかかっている。そしてそのバランス如何が、将来の衝突がより深刻な紛争にエスカレートすることを抑止できるかどうかを左右することになるかもしれない。米中間の水面下の抗争においいては、科学者は、潜水艦と同じように極めて重要である。201612月に中国が南シナ海で米海軍の海洋観測無人機を奪取した事案は、米中の水中調査を巡る抗争が将来の紛争の種になるかもしれないことを示している。2017年夏、米海軍の偵察機は、カロリン群島近傍における中国の行動を接近して入念に観察した。中国の調査行動は西太平洋の奥深くにまで拡がっているので、中国は米国の水域にこれまで以上に接近しており、このことが米中間の戦略的抗争の新たな種になりそうである。

 記事参照:Chinese Oceanography Echoes the Contest for Undersea Dominance Against the US

220日「空母、アジア太平洋地域で増える見込み―RSIS専門家論評」(RSIS Commentaries, February 20, 2018

 シンガポールのS.ラジャラトナム国際関係学院(RSIS)上席研究員Richard A. Bitzingerは、220日付のRSIS Commentariesに、"The Aircraft Carrier: An Idea That Refuses to Die"と題する論説を掲載し、一部の専門家が、空母を時代遅れで「巡航ミサイル・マグネット」などとして、その有用性を否定するが、アジア太平洋地域では、今後数十年にわたって、空母保有国とその隻数が増える趨勢にあるとして、要旨以下のように述べている。

1)空母の死亡記事はこれまで繰り返し書かれてきたが、しかし今だに存命中だし、かえってその隻数が増えている。特にアジア諸国が空母の潜在的価値を評価している。現在、アジアでは、中国とインドが固定翼機搭載空母を運用しているが、間もなく日本と韓国が、そして恐らくその他の国も、空母運用国に加わることになるかもしれない。

2)中国は最近、最初の完全国産空母、Type-001Aを進水させた。この空母は、満載排水量7万トンで、最大48機の固定翼機を搭載できる。インドは、最近まで英国やロシア製の中古空母を50年以上も運用してきたが、現在は、2004年にロシアから購入し、改修した、45,000トンのINS Vikramadityaを運用している。その上、インドは、国産空母、INS Vikrantを建造し、現在海上公試中で、2020年までに就役すると見られる。また、タイは、12,000トンの小型空母、Chakri Nareubet を運用しており、この空母にはAV-8S Harrier垂直離着機が搭載可能だが、現在運航不能で、ヘリが搭載されているのみである。

3)こうしたアジアで運用されている空母は、米海軍の空母に比べれば、能力的に大幅に劣る。それでも、アジア諸国は、空母能力を拡充しようとしている。中国もインドも更なる空母の建造を計画しており、インドは少なくとも3隻、そして中国は最大6隻の空母を建造すると見られる。中国は既に、国産空母2番艦、Type-002を建造中で、恐らくカタパルト(米海軍のUSS Ford級に装備されたシステムと同じ最新技術の電磁カタパルトの可能性あり)を装備した、少なくとも8万トン程度の大型艦になるであろう。インドも、新たに建造する空母にカタパルトを装備することを検討している。

4)中印両国の空母能力の拡充とともに、注目されるのは、アジア太平洋地域で少なくとも2つの国、日本と韓国が空母の導入を検討していることである。両国とも、全通甲板の戦闘艦(日本の「いずも」級、韓国の「独島」級)を保有しており、少数の固定翼機搭載艦に改修できよう。実際、最近の報道によれば、両国とも、統合打撃戦闘機F-35の短距離離陸・垂直着陸型F-35Bの購入を検討しているといわれる。「いずも」級も「独島」級も、F-35Bを搭載可能な長さの甲板を有しているが、スキージャンプ甲板への改修や、あるいは新造も検討されているといわれる。その他の国、オーストラリアは、スペイン製空母、Juan Carlosを基本とする、2隻のCanberra級強襲揚陸艦を取得している。同艦には、Juan Carlosのスキージャンプ甲板が残されており、固定翼機の搭載が可能である。シンガポールも、F-35Bの購入を検討しているといわれ、建造中の新型全通甲板強襲揚陸艦に搭載可能である。

5)このように、アジア太平洋地域では、空母は増える趨勢にある。例えば、米国のF-35BやロシアのSu-33などの高性能の少数の固定翼機を搭載する空母でも、特に台湾海峡や南シナ海などでは、戦闘において決定的な役割を果たすとともに、当該海域でパワーバランスを有利に変えることもできよう。更に、空母が持つ象徴的なメッセージ効果は過小評価されるべきではないであろう。そして最後に、空母を中核とする空母打撃群(CSG)は遠隔地への戦力投射能力として最も強力な軍事手段の1つであり、中国海軍のCSGは、アジア太平洋地域におけるゲームチェンジャーになり得る。従って、今後10年あるいはそれ以上にわたって、アジア太平洋地域では、空母の隻数とそれを運用する国が増えていくであろう。

 記事参照:The Aircraft Carrier: An Idea That Refuses to Die

221日「『4カ国枠組』の潜在的可能性―ランド研究所専門家論評」(Asia Maritime Transparency Initiative, CSIS, February 21, 2018

The RAND Corporation研究員Jeffrey W. Hornungは、221日付のCSISAsia Maritime Transparency Initiativeのサイトに、"The Potential of the Quadrilateral"と題する論説を寄稿し、米日豪印で構成される「4カ国枠組」は、海洋問題に取り組む有益なプラットフォームとなる可能性があるとして、要旨以下のように述べている。

1Trump政権初の「国家安全保障戦略」(NSS)では、日本、オーストラリア及びインドとの協力強化の重要性が指摘されている。この「4カ国枠組」のアイディアは2006年に日本の安倍首相によって最初に提唱されたが、この時は中国が声高に反対したことで失敗に終わった。もし「4カ国枠組」が復活したとすれば、これら4カ国の協力は、現在の戦略環境においてどのような目的に役立つのか。当初の「4カ国枠組」の趣旨は、ほぼ民主的価値観だけに重点を置いていた。しかし、価値観の共有だけでは、政策や戦略を作り上げる堅固な基盤が確立されない。価値観の共有に加えて、関係国の能力とともに、国益の共有も考慮しなければならない。中国を除いて、米国、オーストラリア、インド及び日本は、この地域で最も能力の高い軍隊を有しており、インド太平洋地域におけるルールに基づいた秩序を維持することに根本的な利益を共有している。その秩序に対する幅広い挑戦に対応することがこれら諸国にとって重要なのは、これら諸国が民主主義国家であるからというよりも、こうした脅威がこれら諸国の共通の戦略的利益に影響を及ぼすからである。

2)しかし、「4カ国枠組」における4カ国の協力は、実際にどのようなものになるのか。「4カ国枠組」を取り巻く論議は、これらの国家が海洋領域で何ができるかを中心に展開されてきた。このことは、この枠組の重点が海洋安全保障にあることを示している。この面で、以下の3つの分野が潜在的な協力分野として注目される。

 a.第1は、この地域の海洋状況把握(MSA)を強化することである。海洋における動向をより効率的に監視するためには、地域的に調整されたMSA能力が不可欠である。「4カ国枠組」のメンバーは既に個別にこれらの機能を遂行しているが、「4カ国枠組」は、これらの機能をより協調的方法で強化するための、主たるプラットフォームとして有益であろう。

 b.第2の協力分野は、EEZを守ることである。特に中国の漁船は、他国のEEZ内における「違法、無通告、無規制」(IUU)漁業の最悪の犯罪者であるといえる。「4カ国枠組」のメンバーは自国の管轄海域の海洋哨戒活動を強化するとともに、他の小国の海上法執行を支援することで、これらのEEZ内の違反行為を取り締まる公的な有志連合として有益であろう。

 c.3つ目の分野は、法の支配を主導することである。最近の中国公船や漁船の他国の管轄海域への違法進入の増大や、グレイ・ゾーンの活動に対する力の行使の事例の増大は、中国が海洋における規範や法に公然と違反していることを示している。「4カ国枠組」は、MSAの取り組みに加えて、他の領域においても集団で行動するためのプラットフォームになる可能性がある。外交的には、4カ国は、インド太平洋における中国の活動に対する警戒感を高める活動を調整し、国際法に対するより統一された解釈を提示することができよう。経済的には、4カ国は、域内諸国のインフラ構築計画への中国資本の流入に対抗する選択肢を提示するために、商業インフラへの投資政策を調整することができよう。このことは、中国の投資に対する過度の依存から、域内の小国を引き離すのに役立つであろう。

3)「4カ国枠組」がこうした分野で効果を挙げられるかどうかは、4カ国の国内政治にかかっている。米国と日本は、中国に対して益々強気な発言をするようになってきているが、インドとオーストラリアは歴史的にそうする意欲が小さい。もしニューデリーとキャンベラが海洋協調による利益よりも中国の反対が上回ると懸念する場合、特にそうである。しかし、オーストラリアとインドが彼らの思考を再修正していると見られる証拠がある。キャンベラの2016年の「国防白書」は、中国に対してその国防政策を「より透明」にすることを求め、東南アジアにおける海域と天然資源に対する領有権主張の重複が潜在的な緊張の源泉となっている、と明記している。またキャンベラは、2017年の「外交白書」で、オーストラリアと中国は「摩擦」を引き起こす「異なる利益、価値観、及び政治的、法的制度」を持っていることに言及している。同様に、インドは、海洋領域において中国に対して厳しい方針をとりつつある。20153月にセイシェルとモーリシャスを訪問した、インドのモディ首相は、インド洋沿岸域に対するインドのコミットメントを示す海洋関与の枠組みを明確にした。そしてインド海軍の海洋戦略は、より一層の海軍の関与と、平和と安定を確保するための地域協力ネットワークの必要性を強調している。

4)海洋領域は、既得権益国が行動しない限り、集団的な行動に欠ける領域である。「4カ国枠組」のメンバーは、この地域の4つの最も優れた海洋国家であり、中国による国際ルールや規範への挑戦に対しては当然ながら利害を共有している。この「4カ国枠組」は、今日の戦略的環境において協調を必要とする重要な海洋問題の多くに取り組むための有益なプラットフォームとなり得る。

 記事参照:The Potential of the Quadrilateral

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「『4カ国枠組』2.0の今後―RSIS専門家論評」RSIS Commentaries, February 28, 2018

シンガポールのS.ラジャラトナム国際関係学院(RSIS)連携研究員Tan Ming Huiと、調査アナリストNazia Hussainは、228日付のRSIS Commentariesに、"Quad 2.0: Facing China's Belt & Road?"と題する論説を寄稿し、新たに息を吹き返した米日豪印の「4カ国枠組」の今後について、要旨以下のように述べている。

14つの民主主義国家による短命に終わった「4カ国枠組」(Quad)は、米国と日本がともに力を入れていることもあって、息を吹き返しているようである。バージョン2.0ともいえる、新たに復活した「4カ国枠組」とは何か、そして何を達成しようとしているのか。以前と同様に、北京は、「4カ国枠組」が中国に対する封じ込め戦略の一環と見て、直ちに懸念を表明した。中国の専門家は、地域の地政学的現状を再編しかねない、こうした安全保障連合にたいして、北京は常に警戒を怠るべきではない、と主張している。「4カ国枠組」の復活は、どの声明においても中国を名指しすることを慎重に避けてはいるが、この地域における中国の高圧的姿勢と野心に対する高まる警戒心によって、動機付けられていることは間違いない。しかしながら、「4カ国枠組」2.0は、「アジア版NATO」への第1歩ではない。日本とオーストラリアはともに米国の同盟国だが、米国の「航行の自由」(FON)作戦に追随して、南シナ海の係争地である海洋自然地形の周辺海域12カイリ内に入る意志を示してはいない。更に、インドは、伝統的に非同盟主義であり、如何なる公式的な同盟にも加わる可能性はない。その上、日本には憲法上の制約があり、日本がインドの国境防衛を支援したり、またインドが東シナ海で日本を支援したりするようなことは、想像することすら難しい。オーストラリアも、地理的に遠く離れた紛争に巻き込まれたり、あるいは最大の貿易相手国である中国との関係を危険に晒しかねない同盟に参加したりすることは考えられない。

2)この「4カ国枠組」は、合同演習、情報の共有そして協議といった形でのより緊密な海軍協力を含む、緩やかで柔軟なパートナーシップに留まる可能性が高い。多くの既存の3カ国間の合意事項を4カ国間で一本化する方が効率的かもしれないが、このことは、NATOのような制度化された軍事同盟には決して繋がっていかないであろう。この「4カ国枠組」2.0は、中国と正面から対峙するのではなく、現状への如何なる挑戦に対しても連帯と警告を示す外交的なメッセージとして機能するものとなろう。更に、「一帯一路」構想(BRI)に対する選択肢という考え方は、ソフトなヘッジの構築に対する4カ国の好みを示唆するものである。

3)「4カ国枠組」2.0は、単なる声明の発出や、原則の再確認以上のことができれば、以前と同じ運命を辿ることはないであろう。そのためには、制度化される必要はないが、実行可能なアジェンダのためのロードマップを作成し、対テロ、サイバー・セキュリティそして災害救助における協力の強化などによって、具体的な成果を示す必要があろう。4カ国は、「4カ国枠組」の範囲と、これまでの2国間、3国間で未だ実現していないこと以上の何ができるかを定義すべきである。また、最初の「4カ国枠組」はオーストラリアが脱落して失敗に終わったが、このことは、「4カ国枠組」2.0への参加に当たって、恐らくインドを懐疑的にしていると思われる。オーストラリアが米国や日本とともに「マラバール」演習への参加に関心を示したが、インドが2018年の演習へのオーストラリアの参加を受け入れるかどうかは今後に待たなければならない。過去の失敗に鑑み、オーストラリアとインドが信頼関係の強化に一層の努力をするならば、「4カ国枠組」2.0にとって好ましいものとなろう。

4)「4カ国枠組」2.0が反中国の徒党呼ばわりされることを避けようとするなら、そのアジェンダを明確にし、一定の透明性を維持することは、中国の疑念をある程度晴らすのに役立つかもしれない。日本とオーストラリアはともに貿易の約22%を中国に依存しており、経済を危険に晒すことは避けようとするであろう。インドは、中国とのドクラム高地での危機のような新たな危機を望んでおらず、またインドが自国の勢力範囲と見なすインド洋での抗争の激化も望んでいないであろう。中国は、2017年時点で11,800億ドルに達する最大の米国債権の保有国である。その上、米国は、国内指向で、一層内向きになる可能性がある。同時に、「4カ国枠組」2.0は、過去において、中国に同調することが、この地域における中国の高圧的姿勢を和らげたり、近隣諸国の安全保障上の懸念に対する中国の配慮をもたらしたりする上で、ほとんど役に立たなかったことに留意すべきである。従って、特に北京が経済的影響力を梃子として活用するつもりならば、4カ国は、中国との経済関係に過度に依存することを避ける政策を追求すると見られる。全体的に、「4カ国枠組」2.0が継続するかどうかは、これら4カ国が、中国の圧力に坑して如何に自らの立場を堅持できるかに左右されよう。

 記事参照:Quad 2.0: Facing China's Belt & Road?

【関連記事2

「復活した『4カ国枠組』とASEAN―比専門家論評」(Asia Times.com, February 28, 2018)

 比De La Salle University准教授Richard Javad Heydarianは、228日付のWeb紙、Asia Timesに、"Revived 'Quad' alliance eggs on China's response"と題する論説を寄稿し、米国、インド、日本及びオーストラリアの「4カ国枠組」のパラダイムの復活と、ASEANとの関係について、要旨以下のように述べている。

1)中国の高圧的な領有権主張は、インド、日本、オーストラリア及び米国の主要海洋国家間で、長い間休眠状態にあった「4カ国枠組」による連携を急速に復活させることになった。中国の戦略的抗争相手国間におけるこうした動きは、1つには北京の地政学的野望の前に何もできない、集団としてのASEANに対する不満を反映したものである。ASEANの中心性に対する疑問とともに、古典的なパワーバランスに対する計算が、アジア太平洋の戦略的秩序の将来を左右し始めている。「4カ国枠組」の形成に伴う大きなリスクは、北京がこれを挑発的と見なすならば、特に南シナ海において、中国の海洋に対する高圧的な主張を抑制するどころか、むしろかえって挑発しかねないということである。

2)近年、これら4カ国は、国際海域における航行の自由と上空通過の自由を守ることを目的とした、注目度の高い様々な演習を主催する一方、4カ国相互間での合同海軍演習を強化している。また、4カ国は、南シナ海における北京の増大するプレゼンスを抑制するために、南シナ海での更なる協調的行動を検討している。ワシントンは、南シナ海における中国の過剰な海洋権利主張に直接的に挑戦する「航行の自由」(FON)作戦に、オーストラリアや他の主要同盟国が参加するよう要請している。ハリス米太平洋軍司令官は「インド太平洋」戦略の米側の主導者であるが、同司令官の戦略的見解は、志を同じくするアジア諸国の間での強化された協調を通じて、中国の海洋戦力に対してバランスを取ることを提唱した、安倍首相の「民主主義国家による安全保障ダイヤモンド」構想を土台としている。ここ数カ月、Trump大統領を始め米政権当局者は、「アジア太平洋」よりも「インド太平洋」という用語を多用するようになっており、安倍・ハリスの地政学的パラダイムを高いレベルで受け入れていることを示唆している。

3)もちろん、「4カ国枠組」を推進している原動力は中国だけではない。ワシントンとその主要な同盟国にとって残念なことに、ASEANは、南シナ海紛争などの域内の主要な問題に関して、益々北京の方針に追従するようになってきている。これまでは、域内の主要国間に、東南アジア諸国は強力な北の隣国に対して集団的に対応するであろう、とのある種の楽観的見方があった。対して、中国は、その信頼できる追従国であるカンボジアとラオスを通じて、ASEANを分裂、支配しようと画策してきた。その結果、最初は共産主義に対抗するために結成されたこの地域機構が、中国の抗争相手に対する事実上の防壁に変質した。この変質は、特にフィリピンのドゥテルテ大統領が議長国であった2017年のASEANに顕著で、ドゥテルテ大統領は、中国と小国の東南アジアの当事国間の2国間取引を優先して、米国とその他の主要国に対して、南シナ海紛争から手を引くよう求めたのである。シンガポールとインドネシアを含む、ASEANの主要加盟国は、この地域の情勢は全般的に「安定している」とする北京の主張に共鳴した。この地域に対する米国のコミットメントの不確実性に加えて、北京が差し出す巨大な経済的好餌に釣られて、ASEANは、北の隣国との協調の道を選んだようである。

4)しかしながら、そもそも4カ国自身にも、中国の野望を抑止するのに十分強力な対抗同盟を形成するという保証はない。2000年代初め以来、インド、日本、オーストラリア及び米国は、強固なコアリションを形成することについて一貫して話し合ってきたが、強固なビジョンとリーダーシップの欠如とともに、各国の国内の政情と、中国との経済的結び付きを弱めることへの恐れが、同盟形成への展望を萎ませてきた。オーストラリアは中国との強い経済関係を維持することを特に意図しており、インドは依然、米国に盲従しないと固く決意している。一方で、日本と米国は、それぞれの国内政情によって制約を受けてきた。それにもかかわらず、中国は、「4カ国枠組」を挑発的な封じ込め戦略として、公然と非難してきた。このことは、南シナ海の軍事的要塞化を推し進める格好の口実を北京に与えることになった。

5)現在の趨勢が続くならば、復活した「4カ国枠組」と中国との対立抗争によって、この地域の安全保障構造を形成し、相対的な平和を維持するという、これまでのASEANの役割は急速に損なわれることになろう。東南アジア諸国は、この難局に上手く対処できるか、さもなければ、この地域でエスカレートする大国間抗争の単なる傍観者になりさがるか、いずれかであろう。

 記事参照:Revived 'Quad' alliance eggs on China's response

223日「中国の『海上シルクロード』、中国とASEANにとっての可能性―RSIS専門家論評」(RSIS Commentaries, February 23, 2018

 シンガポールのS.ラジャラトナム国際関係学院(RSIS)准教授、Kaewkamol Pitkdumrongkitは、223日付のRSIS Commentariesに、"China's Maritime Silk Road: Challenging Test for ASEAN"と題する論説を掲載し、「海上シルクロード」が中国とASEANとの経済関係を発展させる大きな可能性を有しているとして、要旨以下のように述べている。

1)習近平主席は、201310月のジャカルタ訪問の際、ASEAN中国関係を一層発展させるべく、「21世紀海上シルクロード」(MSR)構想を発表した。MSRは、「一帯一路構想」(BRI)の海洋部分を構成する。BRIの目標は、中国とBRI関係諸国間で、政策協調や連結性、貿易、金融統合、人的交流といった5分野の連携を促進することにある。MSRが実現した暁には、中国は、東南アジアやペルシャ湾、北アフリカと連結することになる。MSRは、様々な利益をASEAN諸国にもたらすことを約束している。例えば、2017516日、北京で発表された「一帯一路」国際協力サミットフォーラムの共同コミュニケが明らかにしたように、MSRは、ASEAN経済共同体2025AEC 2025)やASEAN連結性マスタープラン2025MPAC 2025)といった、ASEANの地域構想を支援することができよう。共同コミュニケは、中国がASEANの地域枠組への支援を望んでいることを示している。AEC 2025は、5つの目的―すなわち、(1)高度に統合され結合された経済、(2)競争力のある革新的でダイナミックなASEAN、(3)連結性の強化と分野別協力、(4)強靭で包括的、人間本位、人間中心のASEAN、(5)グローバルなASEAN―を達成することを目指している。

2)これらの構想を検討してみると、ASEANと中国が互いの利益が収斂すると考えているようである。その結果、東南アジア諸国は、MSRを地域経済統合の達成を促進するものとして歓迎しているようである。更に、MSRは、MPAC 2025による各種プロジェクトを資金面で支援できる。ASEAN諸国は、インフラ融資を早急に必要としている。アジア開発銀行によると、ASEANは、2016年から2030年までに2.3兆ドルから2.8兆ドルのインフラ投資を必要としている。これはつまり、年換算すると1,840億ドルから2,100億ドルになる。その一方で、ASEANインフラ基金(AIF)は、48,530万ドルの資産を保有するに過ぎない。AIFのポートフォリオは、2017年末までに7億ドルへと増加すると見込まれているが、それでもASEANの資金供給ギャップを満たすには不十分である。こうした資金不足によって、特定プログラムの執行が遅れている。MSRは、これらのプロジェクトに対して追加的な資金を供給できよう。

3)では、東南アジアのどの国がMSRの主たる受益国となるのであろうか。20182月の時点では、この地域の海洋諸国が当面の受益国となるであろう。一部のデータは、これら海洋諸国の港湾とその関連施設、そして工業団地の建設に中国資本が投入されることを示唆している。例えば、中国の国営、中国遠洋運輸集団(COSCO)は、シンガポールでCOSCO-PSAターミナルプロジェクトの株式49%を保有している。香港のBeibu Gulf Holding Co. Ltdは、マレーシアのクアンタン港の30年間の運営権を確保すべく38%の株式を取得した。加えて、中国とマレーシアは、マレーシアのクワンタンで、鋼鉄やアルミニウム、パーム油生産のための工業団地を共同開発している。北京とクアラルンプールは、両国の貿易を促進すべく港湾協力に関する覚書にも調印した。更に、中国資本は、インドネシアの天然資源へのアクセスを確保すべく、同国の高速鉄道や石炭発電所、その他インフラ開発に投資している。

4)しかしながら、物理的なインフラ建設のみでは、中国のMSR実現には貢献しないし、ASEAN諸国による地域統合目標の達成もできない。ソフト、つまり制度的インフラも必要とされている。MSRの恩恵を完全な形で手にするためには、東南アジア諸国と中国は、中国ASEAN自由貿易協定(ACFTA)やその他の構想を通じて共同し、非関税障壁や国内政策障壁を軽減ないし撤廃することで、貿易と資金の流れを促進しなければならない。そうすることで、ASEANと中国間の経済的結び付きを一層深めるに相応しいビジネス環境が醸成されるであろう。

5)一方で、北京と東南アジア諸国はともに、放置しておけば疑念と不信を生みかねない、地政学的緊張を緩和する方法を見出さなければならない。中国が2016年の南シナ海仲裁裁判所の裁定を黙殺したことも、中国による南シナ海の軍事拠点化も、東南アジアと中国との関係にとって好ましいことではない。こうした緊張は、2国間や多国間メカニズム、更にはその両方によって緩和されなければならない。さもなければ、紛争がエスカレートし、MSRASEAN地域統合プロジェクトの将来を危うくすることになろう。MSRは、ASEANと中国との経済関係を強化する大きな潜在力を秘めている。然るべく管理されれば、MSRは、互恵的な成果を生むことができるであろう。しかしながら、この構想は容易なものではない。この構想を成功させるには、双方が制度的なインフラを築き、地政学的紛争を管理すべく努めなければならない。

 記事参照:China's Maritime Silk Road: Challenging Test for ASEAN

228日「『インド太平洋』と『アジア太平洋』、競合するビジョンか―RSIS専門家論評」(RSIS Commentaries, February 28, 2018

 シンガポールのS. Rajaratnam国際関係学院(RSIS)准教授Alan Chongと研究員Wu Shang-Su PhDは、228日付のRSIS Commentariesに、"'Indo-Pacific' vs 'Asia-Pacific': Contending Visions?"と題する論説を寄稿し、「アジア太平洋」概念と「インド太平洋」概念が競合するのかと問い、要旨以下のように述べている。

1201711月のTrump米大統領のアジア歴訪は「インド太平洋」と「アジア太平洋」という外交枠組の競合関係を露わにしたが、「インド太平洋」概念は、これまで試練に耐えてきた「アジア太平洋」概念に比べ成熟していない。Trump・安倍主導の「インド太平洋」地域概念と、「アジア太平洋」地域概念との最近の競合関係がアジアの安全保障の将来に如何なる意味を持つかを分析することは有益である。

2)「アジア太平洋」概念は第2次大戦当時にまで遡るが、冷戦の始まりによって、アジアの脱植民地化した諸国は、自らの政治的アイデンティティと安全保障における連携関係を急速に明確化する必要に迫られた。そして、こうしたモーメンタムが今日我々の知る「アジア太平洋」概念の定義に繋がった。ワシントンは、共産主義を封じ込め戦略の必要性から、中央条約機構(CENTO)と東南アジア条約機構(SEATO)の結成を主導した。2つの機構にはパキスタン、米国及び英国が重複加盟しており、この2つの地域的枠組が「インド太平洋連携」に最も近い構図になっていた。しかし、こうした冷戦期のアジアの同盟機構は、「域外大国」と実際に地域内に所在する諸国との戦略的なビジョンの相違から、最終的には失敗した。「アジア太平洋」概念は、インドネシア、マレーシア、フィリピン、タイ及びシンガポールが1967年にASEANを設立して以降、徐々に形成されてきた。また、米国は、1951年の日米安保条約を初めとする、太平洋地域を跨ぐ「ハブ・アンド・スポーク」の安全保障体制を確立した。

3)アジア太平洋の地域安全保障機構の先駆けとなった、共産主義に対抗する日本、韓国、台湾、タイ及びフィリピンとの間の米国の2国間条約と、後続のASEANは、東アジアの主要諸国とオセアニア諸国との対話プロセスを主導した。そして今日では、ASEANと中国、韓国、日本及び米国との、そして南アジアのインドにまで拡大された対話、更には純粋に経済問題に特化したオーストラリアとニュージーランドとのASEANの対話が実現している。加えて、アジア太平洋経済協力(APEC)フォーラム、ASEANプラス3ASEAN地域フォーラム、ASEAN国防相会議プラス、そして東アジア首脳会議など、包括的な外交、経済及び安全保障に係る地域的枠組は、アジアにおける主要な外交舞台として、「アジア太平洋」の中心性を強固に根付かせている。中国の「一帯一路構想」(BRI)は、その初動プロジェクトの大部分が中国南部及び西部の隣接地域で展開されており、その「重心」が「アジア太平洋」地域に置かれているといえる。また、20181月の環太平洋パートナーシップ協定(TPP)の原加盟国から米国を除く11カ国が参加した新協定(CPTPP)合意の発表は「アジア太平洋」概念の最大の再確認ともいえるが、中国は現時点ではこれに参加していない。

4)「インド太平洋」という用語は、2011年と2012年に当時のクリント米国務長官が米国の国益にとってのインドの重要性を強調するために使用したとされるが、201711月のTrump米大統領のアジア歴訪で、改めて脚光を浴びた。更に、Trump政権が「インド太平洋」という枠組みを取り上げたことと、日米豪印の「4カ国安全保障対話」(Quadrilateral Security Dialogue)の復活とが結びついていることは、明白である。「4カ国枠組」は、中国とそのBRIに対して慎重な、あるいは相反する態度を示している諸国の連携である。4カ国の閣僚は、何度かの対話を通じて、海洋における航行の自由の尊重、国際法の遵守、そして包括的な経済協力支援に基づく、「自由で開かれたインド太平洋戦略」というビジョンを提示した。20182月中旬には、4カ国は、「インド太平洋」地域の、更にはインド洋沿岸のアフリカ諸国までインフラ建設を支援する構想を打ち出したが、日本は別としても、Trump政権の米国もモディ政権のインドも、中国に匹敵するだけの開発協力支援国としての用意がまだ十分ではない。

5)こうしたことから、「アジア太平洋」概念は頼りになる概念といえるが、「インド太平洋」概念はまだ一歩を踏み出したばかりである。中国のBRIの地理的広大さを考えれば、時間の経過とともに、「アジア太平洋」概念が、道路、鉄道そして海上交通の拡張など開発目標の中に「インド太平洋」を呑みこんでしまうかもしれない。2つの概念の競合の核心は、何れの概念がアジア全域の発展に裨益し得るかという、「信頼」を巡る競争である。

 記事参照:'Indo-Pacific' vs 'Asia-Pacific': Contending Visions?

228日「『冷戦Ⅱ』―CFR会長論評」(The Strategist, February 28, 2018

 米シンクタンク、外交問題評議会(CFR)会長Richard N. Haassは、228日付のThe Strategistに、"Cold War II"と題する論説を寄稿し、現在の米ロ関係を第2次冷戦と見る立場から、要旨以下のように述べている。

1)冷戦が終わってから四半世紀後、我々は、思いがけなく「冷戦Ⅱ」ともいうべき状況にある。以前と異なっているのは、ロシアがもはや超大国ではなく、その経済を石油と天然ガスの価格に依存し、世界を引きつける政治的イデオロギーを持たない約14,500万人の国だということである。しかし、ロシアは依然として、2大核保有国家の1つであり、国連安保理常任理事国であり、そして友好国を支援し、隣国や敵対国を弱体化させるために、その軍事力、エネルギー資源及びサイバー能力を使用する意志のある国である。この状況は決して不可避ではなかった。冷戦の終結によって、ロシアが米国及びヨーロッパと友好的な関係を持つ、新時代の到来が期待された。共産主義を捨てたロシアは経済と政治的発展に力を入れるであろう、と大方が想定した。しかし、そうした期待は長続きしなかった。一部の専門家は、経済不振に喘ぐロシアに経済支援を拡大しなかったこと、ロシアを潜在的敵対国と見なしてNATOを拡大し、そうすることでかえってロシアを敵対的な方向に向かわせたとして、歴代の米大統領を非難した。ロシアが1990年代に市場経済に向かう苦しい過渡期に、米国がロシアに対して寛容な姿勢をとることができたし、そうすべきであったことは、事実である。

2)とはいえ、「冷戦Ⅱ」の出現に対する最大の責任はロシア、就中、Putin大統領自身にある。Putinは、前任者達の多くと同様に、米国が支配している世界秩序を、自らの統治に対する、そして彼が今日の世界における自国の正当な地位と見なすものに対する脅威と考えた。近年、ロシアは、クリミアを占領し併合するために武力を使用し、そうすることで、武力によって国境の変更を認めない国際法の基本原則を犯した。Putinは、ウクライナ東部、ジョージア、及びバルカン半島の一部を不安定化するために、軍事的手段や隠密諜報手段を利用し続けている。そして、ロシアは、シリアの最悪のアサド政権を支えるために、同国で残忍な方法で軍隊を使用した。Putinのロシアはまた、モラー米特別検察官の言葉を借りれば、「2016年の大統領選を含む、米国の政治及び選挙プロセスに干渉する目的で不正行為や欺瞞行為」を実行した。

3)ロシアは、必要と判断するあらゆる手段を駆使して現状を覆すことに何の呵責も感じない、修正主義国となったが故に、ヨーロッパの防衛を支援し、ウクライナに重火器を提供することは、賢明な対応といえる。しかし、外国政府が米国の政治に影響を及ぼすことを阻止するために、投票機械の脆弱性を改善したりすること以上に、米国は何をすべきなのか。まず、米国は、防御だけでは十分ではないことを認識しなければならない。議会は追加の制裁を求める権利があり、Trump大統領が既に議会を通過した制裁措置の実施を拒否することは間違っている。米政府はまた、反対者を逮捕したり、ジャーナリストを殺害したりするようなロシアの政権を批判する必要がある。如何なる理由があれ、Trumpがロシアに寛容な姿勢を続けるのであれば、議会、メディア、シンクタンク、そして学者は、Putin支配を特徴付ける不正行為を白日の下に晒すべきである。このような情報を広めることは、Putinに対する国内の反対者を増やし、米国とヨーロッパの政治に対する更なる干渉を控えるよう彼を促し、そして時間の経過とともに、ロシア国内でより信用できる勢力を増やすことになるかもしれない。

4)同時に、その目的は、既に以前の冷戦期の大部分の時期よりも悪化している、米ロ関係の残る数少ない好ましい要素までも終わらせることではない。可能な場合は何時でも、そして米国の利益に適うのであれば、外交的協力を求めるべきである。ロシアは、ウクライナ東部において、ロシア系住民が報復に直面しないと確信できるならば、ある程度の制裁緩和と引き換えに、そこでの干渉を止める十分な意志があるかもしれない。同様に、クレムリンは、シリアでの比較的少ない介入費用を増加させることになる、軍事的エスカレーションには如何なる利益も有しない。また、北朝鮮に対する制裁強化のためには、ロシアの支援が必要である。更に、軍備管理の取り決めを維持し、新たな核兵器競争を避けることは、米ロ両国の利益になるであろう。従って、定期的な外交的会合、文化的および学術的交流、そして議会派遣団のロシアへの訪問などは、単なる善意の現れとしてではなく、ロシアがより大きな節度をもって行動するのであれば、多くの米国人にとってロシアとのより正常な関係に向かう用意があることを明確にするための手段としてなら、意義のあることである。米国とそのパートナー諸国は、Putinが権力の座にある間のロシアに、そしてPutin後のPutin主義を排除したロシアに対しても、大いなる自制を求めることに大きな利害を有している。

 記事参照:Cold War II

【補遺】

旬報で抄訳紹介しなかった主な論調、シンクタンク報告書

1. South China Sea Photos Suggest a Military Building Spree by Beijing

https://www.nytimes.com/2018/02/08/world/asia/south-china-seas-photos.html

The New York Times.com, February 8, 2018

2. The Intermediate-Range Nuclear Forces Treaty and the Future of the Indo-Pacific Military Balance

https://warontherocks.com/2018/02/asia-inf/

War on the Rocks.com, February 13, 2018

Eric Sayers is an adjunct fellow for Asian security at the Center for Strategic and International Studies (CSIS).

3. Comparing Aerial and Satellite Images of China's Spratly Outposts

https://amti.csis.org/comparing-aerial-satellite-images-chinas-spratly-outposts/

Asia Maritime Transparency Initiative, CSIS, February 16, 2018

4. China's Arctic Dream

https://csis-prod.s3.amazonaws.com/s3fs-public/publication/180220_Conley_ChinasArcticDream_Web.pdf

CSIS, February 26, 2018

Heather A. Conley, Senior Vice President for Europe, Eurasia, and the Arctic; and Director, Europe Program

5. Cooperation and Competition: Russia and China in Central Asia, the Russian Far East, and the Arctic

http://carnegieendowment.org/2018/02/28/cooperation-and-competition-russia-and-china-in-central-asia-russian-far-east-and-arctic-pub-75673

Carnegie Endowment, February 28, 2018

Paul Stronski, Senior Fellow, Russia and Eurasia Program