海洋安全保障情報旬報 2018年6月1日-6月10日

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61日「太平洋における統合太平洋海上任務部隊創設の時期-米研究者論説」(WAR ON THE ROCKS, June 1, 2018

 戦略・国際問題研究所のアジア安全保障に関わる非常勤研究員であるEric Sayersは、61日付けのWAR ON THE ROCKSに"Time to Launch a Combined Maritime Task Force for the Pacific"と題する記事を掲載、要旨以下の通り述べている。

(1)シャングリラ・ダイアローグへ向う途次、Jim Mattis国防長官は南シナ海で如何にして海軍演習と航行の自由作戦を続けていくべきかについて熱弁をふるった。アメリカが航行の自由作戦を継続する中で、中国は南シナ海での人工島建設を続け、近隣諸国に威圧的な行為を繰り返している。アメリカには別の手段が必要なのではないだろうか。

 私はかつて、1970年代から1980年代にNATOが組織した常設大西洋海軍部隊(Standing Naval Force Atlantic)をモデルとした統合太平洋海上任務部隊(Combined Maritime Task Force Pacific)の編成を提唱したことがある。中国が海洋力を増強させる中で、多くの国がアメリカの引き続きの関与を望んでいる。統合太平洋海上任務部隊の創設は、自由で開かれたインド太平洋へのアメリカのコミットメントを維持するものとなるはずである。

(2)常設大西洋海軍部隊は1968年に平時における世界初の恒久的な多国籍海軍部隊として創設された。部隊には6~10隻の艦艇がカナダ、ドイツ、オランダ、イギリス、アメリカ等から派出された。冷戦時のヨーロッパは現在のアジアとは異なる。それでも、アメリカのリーダーシップに依拠するところは大きい。常設大西洋海軍部隊の創設と経過の歴史は参考となるだろう。

 統合太平洋海上任務部隊は、その意義を理解し賛同する国々から派出される4~6隻の艦艇で行動するのが良いのではないか。アメリカは、次の日本とオーストラリアとの2+2会議で提唱してはどうだろう。インド、イギリスやフランスといった欧州諸国、マレーシア、ベトナム、インドネシア、フィリピン、シンガポールなどの東南アジア諸国にも声を掛けることができるだろう。任務部隊の任務は、インド洋、オセアニア、北東アジアの各国への寄港、演習の実施、既存の多国籍海軍演習への参加、大規模災害時の救助活動等々、広範多岐に亘るものとなる。アメリカ海軍は様々な地域に展開しており、これ以上は困難だとの批判があるかもしれない。しかし、"国家安全保障戦略"に示される海軍の目的に照らせば、更なる兵力の展開は検討の余地があるだろう。アメリカが既に計画中のシンガポールへの沿海域戦闘艦(Littoral Combat Ship)前方展開はハワイや日本から派出される第7艦隊部隊と共にアメリカの貢献の中核をなし得るものである。

(3)中国はこのような取組みを自国の封じ込めと非難するだろうが、統合太平洋海上任務部隊のような取組みは中国の高圧的な行動がなせるものであり、これまでの取組みより効果的なものであろう。それにも拘らず、任務部隊に参加が期待される諸国には中国の圧力によって消極的となる国もあるだろう。

 そのため、注意深く計画することが肝要である。まず第1に、任務部隊は永続的なものでかつインパクトのあるものとすべきである。第2に、これが対中包囲網と取られないよう、航行の自由、海洋環境の保護、紛争の平和的解決を理念とすることを訴えるべきである。第3として、任務部隊の最初の行動は北朝鮮への制裁の実効性確保のような作戦として実施すべきであろう。2004年のインド洋津波対応での日米豪印4カ国の連携はそれからの多国間取組みを地域諸国に歓迎させる契機となったことを参考とすべきである。そして第4として、任務部隊は戦闘のための編成ではなく共同を主としていると見做される必要があり、そのため、指揮統制は西太平洋の軍の指揮官からではなく、協力する他の場所から実施するほうが賢明である。

 インド太平洋の現代版の多国間共同作戦は災害救助から始まった。アメリカは、通常の軍としての関心事から離れ、現在あるいは将来における無視することのできない領域への貢献をすべきだろう。

記事参照:Time to Launch a Combined Maritime Task Force for the Pacific

62日「港湾が秘かに中国の海軍プレゼンスを拡大するジャーナリスト論評」(Asia Times.com, June 2, 2018

 ジャーナリストのGordon Wattsは、6月2日付のAsia Times電子版に"Ports in a storm 'stealthily' expand China's naval presence"と題する論説を寄稿し、「諸国家は、中国による一帯一路のインフラ投資が国家の安全保障上の利益によって推進されているかどうか疑問を呈している」という内容の報告書を紹介し、要旨以下のように述べている。

(1)迷路のように入り組んだ船舶輸送用の「高速道路」の背後で、インド洋から南シナ海、そして太平洋を越えて伸びているのが、港湾ネットワークである。具体的に言うと少なくとも15箇所が、戦略的に重要な地域に点在し、中国による壮大な8兆米ドルの一帯一路構想にとって重要である。2013年に習近平国家主席によって誇大宣伝で発表された、この大規模な建設計画は、北京の世界的野心の延長線上にあり、そして、その経済外交政策の目玉となっている。それは、過去2年間の債務問題や安全保障問題に対する懸念も高めている。これは、"Harbored Ambitions: How China's Port Investments Are Strategically Reshaping the Indo-Pacific."を含む、多数の学術的な報告書において強調されている。

(2)この68頁の文書は、この建設ブームの底流に流れる闇を捉えている。ワシントンの非営利シンクタンクであるCenter for Advanced Defense Studies (C4ADS)の報告書の著者であるDevin ThorneとBen Spevackは、「過去10年間で、中国は、特に国際的及び海洋インフラのような、世界的な投資を大幅に増やした」「しかし、一部の国々は、中国によるインフラ投資が戦略的利益によって推進されているかどうか疑問を呈している」と指摘した。「港湾投資を非公式に議論する中国のアナリストたちは、相互に有益な経済発展という目的よりも、中国の国家安全保障上の利益を日常的に優先し、それは、公式の政策文書の立場と矛盾している」。「公式」の言葉では、これらの新しい陸上と海上の「シルクロード」は、迷路のように入り組んだ数兆ドルのインフラ事業において、アジア、アフリカ、中東及びヨーロッパの68ヵ国と44億人を世界第2位の経済と結びつける。しかし、C4ADSの報告書が発表される以前に、Center for Global Developmentは、計画された「8兆ドルの輸送、エネルギー及び通信インフラストラクチャーのネットワーク」開発の背景に潜んでいる「公的債務リスク」に対する憂慮を主張していた。北京が資金を提供する15の港湾構想は、中国が軍事、特に海軍への支出を増加させるにつれて、このプログラムの国家安全保障面を強調し、これらの不安をただ強めている。

(3)「インド太平洋にわたる中国資金の商業港湾の特徴、そして中国企業の行動は、これらの投資は、北京が主張しているような、『ウィン・ウィン』の開発という概念によって主に推進されているわけではないことを示している」とC4ADS報告書は述べている。「むしろ、これらの投資は政治的影響力を生み出し、中国の軍事的プレゼンスを密かに拡大し、この地域における有利な戦略的環境を生み出すようだ」と付け加えた。この沿岸開発の推進力の中心は、マラッカ海峡の重要な船舶輸送の動脈と、「主要水路」を確保するための北京の動きである。2016年、中国が輸入した原油のほぼ80%が、インド洋とマラッカ海峡を通って南シナ海に入ると、C4ADS報告書は確認した。北京は、「自分たちが、重要なエネルギー供給ラインの外国の阻止に対して脆弱である」と依然として考えている。報告書によると、中国の国際関係大学が運営するジャーナルの2015年の記事では、「最初の民間人、後の軍隊」という考えが記述されている。「このパラダイムの下で、商業港は、『海洋流通ルートの安全保障を守ることや主要な水路の保持において中国を支援する』ことが可能な『戦略的支援ポイント』にゆっくりと発展させるという目的で建設されるだろう」。これらの主張は、「新しいシルクロード」が経済発展に根ざしていると主張し、一帯一路プロジェクトに関与する国に利益をもたらすとして、北京によって日常的に退けられている。

(4)それでも、否定できないのは、迫る「債務のリスク」である。"Examining the Debt Implications of the Belt and Road Initiative from a Policy Perspective"と題する報告書において、Center for Global Developmentは、「債務破綻状態」に陥りやすい23ヵ国を選定した。スリランカが、12月に、中国の国営企業である招商局港口控股有限公司(China Merchants Port Holdings)に、融資によって資金調達されているハンバントタ港の支配権を譲渡すると発表したときに、これは詳しく解明された。中国との99年契約は、この国の主権を脅かすとして、スリランカ政府に対する批判を増大させたが、この国は「グループ23」に入っている。Center for Global Developmentの研究は、「一帯一路構想」が、「新しいシルクロード」を通じて「体系的な債務問題を引き起こす可能性は低い」と認識している一方、それは、多くの国において、公的債務不履行のリスクを大幅に高めている。インフラとエネルギーのプロジェクトにおいて、中国が約500億ドルの資金を融資していると見積っており、パキスタンが「リスクが高い圧倒的に大きい国」と、この報告書は主張した。

(5)かつて2015年に、当時のパキスタン国立銀行総裁Ashraf Mahmoodは、忘れられない声明を発表した。この国に流れ込んでいる中国の投資によって当惑し、「私は、4600億ドルのうち、どれ程が債務で、どれ程が自己資本で、どれ程が現物支給なのかが分からない」と彼は告白した。C4ADSの報告書が明確にしたように、この「制限された透明性は、研究者を妨げるだけでなく、被援助国の政策立案者たちの目をくらませる」。そうはいっても、グワダル港やその他のインフラ・プロジェクトの開発は、「パキスタンの内部安全保障環境への北京の関与の拡大」を助長したと著者のThorne と Spevackは述べた。「インド太平洋における港湾への中国の投資は、この地域の発展を奨励するというその主張された望みよりも、北京の国家安全保障上の利益によって推進される可能性があるということは、いくつかの中国の港湾プロジェクトの現実、又は、投影された不採算性によって最も明確に示される」「確かに、収益性に基づく中国の港湾プロジェクトの正確な比較は難しい。これは、これらのプロジェクトが様々な開発段階にある、または、既存の国際港湾の拡張のためである」とThorne とSpevackは述べた。

記事参照:Ports in a storm 'stealthily' expand China's naval presence

62日「シャングリ・ダイアローグ:インドと米国の戦略観の違い比学者論評」(AsiaTimes.com, June 2, 2018

 フィリピンのDe La Salle University の准教授Richard Javad Heydarian は、6月2日付のAsia Timesのサイトに"At Shangri-La summit, two views of a new Indo-Pacific order"と題する論説を寄稿し、シャングリラ・ダイアローグにおいて、インドの首相Narendora Modiは中堅諸国を中心的なプレイヤーとする、インド太平洋におけるポスト・アメリカンの秩序を導くよう試みたが、米国防長官James Mattisは中国の修正主義の野望に対する、唯一信頼できる阻止者として米国を表現したとして、要旨以下のように述べている。

(1)シンガポールで開催された年次安全保障サミットである、今年のシャングリラ・ダイアローグは、「インド太平洋シアター」の正式な時代の到来と、それに伴う新しい地域安全保障アーキテクチャの新しい柱としてのインドの登場を示した。インドのNarendra Modi首相は、今年度の基調講演を行った。彼は、東アジアと太平洋を新たな戦略的領域として見なす、新しい大国の出現を監督する、グローバルな政治家として自分自身を紹介した。彼はまた、インドの戦略的自立を強調し、非同盟の伝統に対する忠誠を継続した。このようにして、彼は、超大国間の亀裂と高まる競争を楽に通り抜け、インドを世界的な中心的国家として描写した。重大なことに、彼は、繰り返し「ルールに基づいた」だけでなく「自由で開かれた」ということの必要性を強調した。したがって、Modiは、小規模の近隣諸国の海洋安全保障に対する中国の修正主義の挑戦だけでなく、米国の貿易保護主義の両方を暗黙のうちに批判して見せた。等しくバランスの取れた戦略的姿勢(equi-balancing strategic posture)を維持することに注意し、彼は、ニューデリーと北京との関係を導く「成熟と知恵」を称賛し、ワシントンとの関係による「類まれな広がり」を激賞し、モスクワとの「特別で特権的」な関係に言及した。Modiは、昨年のオーストラリアのMalcolm Turnbull首相による昨年の基調講演を踏まえ、ASEANを含む中堅国の重要性を、新しいインド太平洋秩序の基軸として強調した。Modiが、米国のリーダーシップに負担がかかっており、国際的ルールに基づいた秩序への中国によるコミットメントが問題になっている新しい時代を受け入れているため、彼は、譲歩しない超大国よりむしろ中堅国が、安定と繁栄の頼みの綱として役に立つビジョンを実際に支持した。

(2)著しく対照的に、米国のJames Mattis国防長官は、彼の講演において激しい調子で、アジアでのルールに基づいた秩序を保持することに対する自国の重要性を繰り返し述べた。彼の演説は、この地域においてインドの台頭する安全保障上の役割を示す、「米太平洋軍司令部」を「インド太平洋軍司令部」に改称した数日後に行われた。「間違いなく、米国はインド太平洋に留まる。ここは我々の最重要のシアターである」。彼は中国に関してこの地域安全保障アーキテクチャの第一の脅威として設定し、自由で開かれたインド太平洋秩序に不可欠な要素として米国を表現した。Modiは、より抽象的な言葉で海洋安全保障について議論し、テロや海賊行為などの非伝統的な安全保障の懸念に地域の国々が取り組むことを支援するインドの役割の拡大を強調したが、Mattisは南シナ海の紛争にはっきりと焦点を当てた。「南シナ海での中国の政策は、我々の戦略が推進している開放性とは著しく対照的である。それは中国のより広範な目標に対して疑問を投げ掛けている」とMattisは主張し、中国の海洋に関する自己主張を安全保障会議の議題の矢面に立たせた。同時に、彼はこのアジアの強国に和議を申し立て、「もし、彼らがこのダイナミックな地域のすべてのために長期的な平和と繁栄を促進するならば、中国の選択を支える」ための米国の準備があることを繰り返し述べた。しかしMattisは、現代の国際法と反する中国の九段線の主張を無効とした、2016年のハーグの裁判におけるフィリピンの仲裁裁定に間接的に言及し、「国際法廷」との「根本的な断絶」という苦しみとして、南シナ海における中国の全面的な権利主張を言い表すことをすぐに続けた。また、この米国防長官は、「すべての国の航行の自由」を確保するという国際公共財として、その航行の自由作戦を本格的に支持した。彼は、中国の継続的な海洋の権利主張は小規模の近隣諸国との不和を引き起こすだけであり、アジアにおけるリーダーシップのための北京の取り組みを損なうと警告した。また、台湾の安全保障と事実上の独立への米国のコミットメントを強調し、「現状」を変え、北京が反逆している省と見なしているこの島国を孤立化させようとする中国による「一方的な取り組み」を批判した。最後にMattisは、朝鮮半島の完全で検証可能で不可逆的な非核化を求め、米国がその伝統的な同盟国を見捨てず、平壌との外交交渉において決意を貫くことを明確にした。

記事参照:At Shangri-La summit, two views of a new Indo-Pacific order

62日「人民解放軍は本当に水陸両用戦部隊を見落としてきたのか?-米専門家論評」(The Interpreter, LOWY INSTITUTE, 02 Jun 2018

 日本戦略研究フォーラムの上級研究員で元米海兵隊大佐であるGrant Newshamは、6月2日付のThe Interpreterに"Has the PLA really overlooked its amphibious force?"と題する記事を寄稿し、 5月23日付のThe Interpreterに掲載されたSam Roggeveenの"Why China isn't planning to storm Taiwan's beaches"に反論し、中国は米海軍と同じように、時にはそれ以上に水陸両用戦部隊の重要性を理解しているとして、要旨以下のように述べている。

(1)人民解放軍が水陸両用戦能力に関して自らを不当に扱ってきたと知れば驚くだろう。Sam Roggeveenは、The Interpreter"Why China isn't planning to storm Taiwan's beaches"と題する記事を寄稿し「中国海軍は過去20年以上にわたって劇的に成長してきた。しかし、驚くべき例外を除いて。それは水陸両用戦部隊である」と述べている。

 最新鋭の水陸両用艦艇に関して、事実、大型のType 071ドック型揚陸艦を4隻しか保有していない。2隻が建造中である。しかし、最も重要なことは、水陸両用戦艦艇は最新型である必要はない、あるいは米国が考えるように10億ドルをかける必要もない。人民解放軍海軍は既に、約50隻の旧式の水陸両用戦艦艇を保有している。これらは台湾海峡を渡り、人民解放軍の海軍陸戦隊を上陸させる所要を上回るものである。2030年までに総数70隻以上となるだろう。

(2)加えて、RORO船、バージを含むその他の一時的な両用戦船舶の総積載量を保有している。そして、人民解放軍海軍は演習において民間船舶との共同経験を持っている。

 人民解放軍海軍は若干のもっとも近代的な水陸両用戦艦艇しか保有していないので台湾の海岸に十分な兵員と装備を揚陸する力はないと提言することは、おそらくより大きな絵を見逃している。天気と海上模様が良く、適切な航空援護があれば、中国は数万の兵員を1日で台湾の海岸に揚陸することができる。

(3)人民解放軍海軍陸戦隊は2万名から10万名に増員されることが予定されている。中国の場合、専門家が予測したよりも通常短い期間となるが、それでも増員には相当程度の期間が必要であろう。また、しばしば見落とされているが、人民解放軍は5~6万人規模の水陸両用戦訓練を受けた機械化歩兵を有している。この陸軍の「海兵隊員」は橋頭堡を確保した後、後続部隊として投入されることが意図されている。同様に重要なことは、中国は水陸両用作戦を習得するために必要な訓練と計画を行いつつある。

(4)考えるべきもう1つの点は、台湾に対する水陸両用強襲は多面的な努力の一部に過ぎないことである。多面的努力にはミサイル攻撃や特殊作戦を含み、空挺強襲、(社会の機能を麻痺させる)サイバー攻撃、通信及び衛星とのリンクの遮断の試みも含まれる可能性がある。

 人民解放軍空軍は、大挙して襲いかかり、ついには台湾空軍を撃滅し、加えて台湾の軍事、民間の目標を粉砕するだろう。

 人民解放軍海軍の潜水艦と水上艦部隊はまた、大挙出撃し、台湾海峡を支配し、台湾本島東側にも展開するだろう。この環境下に水陸両用強襲部隊を潜り込ませることは可能であると私は考える。

(5)台湾は防衛力を改善するよう提言されており、自身を侵攻されにくいものにするだろう。しかし、そのためには今日見られるよりもより一層の米国の支援が必要であり、それには政治的、経済的、心理的、軍事的支援が含まれる。

 もちろん、台湾が屈服するまで経済的、政治的に押さえつけ、脅す事を中国は好むだろう。しかし、もしそうでないなら、純粋に軍事的意味において水陸両用戦強襲は可能であり、その時はそれによって中国が被る経済的、政治的ダメージも日米の部隊が介入してくる可能性も考慮されない。

(6)中国が成功裏に水陸両用強襲を台湾に対して実施できるか否かに焦点を当てていると、同じように重要なことを見落とすことがある。数年内に、米海軍―海兵隊の水陸両用即応群と同等の中国の部隊がインド洋を含めアジアを巡航しているだろうということである。

 台湾への攻撃は全てを賭けて行われ、厳しい対応を引き起こすだろう。しかし、水陸両用戦部隊が出歩くこと、すなわち2国間あるいは多国間枠組みの訓練を実施し、ショー・ザ・フラッグの親善訪問を行うことは中国の軍事的プレゼンスと影響力を大きく拡大する。中国が断固としてアジアを支配し、米国の影を薄くし、追い出すという考えに役立つ。アジアの諸国に対するメッセージは中国の当然の支配を提示するものである。

 6、7年前、「空母は素晴らしい。しかし、本当に有用なものは水陸両用戦艦艇である」と現実に述べている中国の定期刊行物の記事を読んだ。西側の人間は通常、中国を過小評価している。しかし、元海兵隊将校として言えば、北京は水陸両用戦部隊の重要性を米海軍と同じように理解しており、時には(米海軍よりも)良く「理解している」。

記事参照:Has the PLA really overlooked its amphibious force?

6月6日「南シナ海における中国の行動を抑制するための米国の選択肢豪研究者論説」(The Conversation.com, June 6, 2018

 オーストラリア国立大学戦略防衛研究センター研究員のAdam Niは、6月6日付でWEB誌The Conversationに"Despite strong words, the US has few options left to reverse China's gains in the South China Sea"と題する論説を寄稿し、シャングリラ・ダイアローグにおけるMattis米国防長官の発言を引用しつつ、中国の南シナ海における軍事拠点化などの行動を抑制するには米国はじめ関係諸国の具体的な行動が必要であるとして要旨以下のように述べている。                 

(1) 6月2日(土)のシャングリラ・ダイアローグにおいて、James Mattis米国防長官は南シナ海の係争海域における最近の中国の軍事化の動きは、周辺諸国を脅かし、その意思の強要を意図していると述べた。Mattisは中国の行動は「米国の戦略の開放性とは対照的」であると述べ、中国が現在のアプローチを継続すれば「より重大な結果」を招くだろうと警告した。その「初期対応」として中国海軍は2018年のリムパック演習への参加を取り消された。

(2)近年、中国は南シナ海における支配権を強化しようとしており、ベトナム、フィリピンなど多くのクレイマント国(台湾を含む。)が中国と領有権を争っているが、現在の緊張の状況と中米間の戦略的な利害関係を理解することは重要である。緊張の高まりや国際的な抗議にもかかわらず、中国の動きは継続している。最近、中国は係争地であるパラセル諸島に初めて長距離重爆撃機を離着陸させ 、また、スプラトリー諸島の前進基地には対艦、対空ミサイルシステムを配備した。中国空軍もまた南シナ海上空のパトロールを継続している。中国は南シナ海の紛争海域の軍事化を進めている唯一のクレイマント国ではないが、そうした動きの意思、規模、スピードにおいて追随出来る国は存在しない。

(3)南シナ海における中国の戦略的な目標は"control"という言葉に要約できる。中国はこれを達成するために人工島の建設、軍民のインフラ整備、艦艇及び軍用機の展開を含む地域的な支配力強化のための長期的な努力を行っている。米国、フィリピン、オーストラリアなど各国の政治家は中国の行動に対し激しい抗議を唱えているが、北京は南シナ海における物理的、地勢的な力関係を積極的に変えることに集中している。実際、新編された米インド太平洋軍司令官のPhilip Davidson大将は、「中国は戦争に至らない全ての局面において南シナ海の"control"に成功している。」と述べている。

(4)中国の動きは南シナ海の"control"強化のための漸進的なアプローチを採用しているため、対応が難しい。戦争に発展する可能性のある米国の軍事的対応を個別に正当化する措置は存在しない。いずれにせよ、そのような紛争の人的及び経済的負担は膨大なものとなる。そして、こうした中国の動きに効果的に対応することができないこと自体、この地域における米国の信頼性を低下させ、アジアにおける米国のプレゼンスの不在という物語を作り出す事になる。中国に真剣に対抗するのであればMattisの言説には行動が伴わなければならない。

(5)米国はまず、南シナ海では受け入れられない種類の活動について、中国及び他の関係国に対し明確なレッドラインを示すべきである。そして、そのようなレッドラインを実行する覚悟と同時に、そのリスクを忘れないことが重要である。第二に、域内同盟国と協力して能力構築を実施し、中国の挑戦に対抗するためのコミットメントを示す努力を新たにする必要がある。そして第三に、米国は、南シナ海の軍事拠点化によって中国が得た軍事的利点を削減する先進的なミサイルシステムの配備など、インド太平洋地域における軍事能力強化の必要がある。

(6)中国による南シナ海の支配は多くの関係国が憂慮している。多くの人々にとって南シナ海を航行する航路は経済の血流である。それ以上にパワーバランスのシフトは域内の領土紛争を中国有利とする。中国は疑う余地なく、弱い隣人を犠牲にしてでも、新たに獲得したパワーを現状変更のために喜んで利用するだろう。中国は南シナ海を支配することにより北東アジア、西太平洋、オセアニアの各地域の軍事力をより効果的に予測することができる。これは例えば、台湾を含むシナリオにおいて米国とその同盟国が中国に対し何らかの措置を取るには、より多くのコストがかかるという事を意味している。

(7)より高いレベルで言えば、南シナ海への中国の積極的アプローチは北京の自信が高まり、自分たちの国際規範を示そうという意欲が高まっていることを示している。今や中国がアジアにおける新たな支配的権力になっていることは疑いがない。そのこと自体は地域の何百万人にも恩恵をもたらすものであり歓迎すべきであろう。しかし、軍事的、経済的な威嚇や強制という手法を採るのであれば、領土紛争などに対する北京の取り組みに我々は注意を払っておかなければならない。

(8)「大きな魚が小魚を食べたり脅したりしない世界 」を望むのであれば、中国を含む関係国は国際規範を尊重し、不一致を解決しなければならない。南シナ海で潮目を変えて中国の台頭を抑制するにはもう遅過ぎるかもしれない。誰もそのようなリスクを冒すことはない。

 しかし、南シナ海での行動で地域をさらに不安定化させる中国に罰則を科すのは遅過ぎることではない。問題はそれをどうやって実行するのか、それを実行するためにどんなリスクを望むのかということである。

記事参照:https://theconversation.com/despite-strong-words-the-us-has-few-options-left-to-reverse-chinas-gains-in-the-south-china-sea-97089

67日「こう着する南シナ海情勢、今後の展望と処方箋シンガポール専門家評論」Channel News Asia.com, June 7, 2018

 シンガポールの南洋工科大学特別研究員Collin Kohは、6月7日付の同国のChannel News Asia.comに、"How heated exchanges on the South China Sea between US, China can spiral into peace"と題する論説を寄稿し、南シナ海における米中対立がこう着状態にあり、何らかのルールを策定する重要性を指摘した上で、要旨以下のように述べている。

(1)昨年までと同様に、今年のシャングリラ・ダイアローグにおいても期待通りに南シナ海問題を巡る活発なやり取りが交わされた。長年に亘る対話の参加者やウォッチャーにとって、まさに――米国防長官が南シナ海における中国の強まる自己主張や、「脅迫と抑圧」戦術に言及する一方で、中国が南シナ海における自国の活動に対する批難を受け流す――といったやり取りのダイナミクスは馴染みあるものである。

(2)シャングリラ・ダイアローグに先駆けて北京は、係争地であるスプラトリー諸島にミサイルシステムを配備したほか、パラセル諸島のウッディー島に戦略爆撃機を着陸させたと報じられている。これに対して米海軍は、パラセル諸島沖で2隻の艦船による「航行の自由」作戦を行った。加えて、米国防省は7月実施予定の環太平洋合同演習(Rim of the Pacific Exercise)に中国人民解放軍海軍を招待しなかった。

(3)シャングリラ・ダイアローグでMattisが中国の南シナ海における軍事拠点化を批難したことを受けて、中国代表団団長の何雷中将は中国の活動が適法かつ防御的な性質のものであり、Mattisの発言を無責任だと断じた。この種のやり取りは目新しいものではない。米中両国は長年に亘って絶え間なく争い、非友好的で強引な行動を取っていると互いを非難し合ってきた。米中双方が南シナ海の緊張の高まりに一定の責を負っているように思われるため、実際のところ米中のどちらが南シナ海を軍事拠点化しているのかは断定できない。しかしながら、北京は明らかに年初以降、南シナ海での活動を活発化させてきた。

(4)習近平主席は、第19回党大会後の政治的上昇気流に乗って、強軍の建設や主権の防衛、国際的な場における中国の役割の主張といった、約束の追求に熱心であるように思える。したがって、北京や中国共産党、そして習近平の体面がかかる中国による相次ぐ軍事活動が縮小されることはないだろう。なぜならば、米国主導と見なされている圧力と封じ込め政策の矢面に立つ中で、軍事活動を縮小することは弱さを示すことになるからである。そのようなことは、北京の政治エリートにとって受け入れがたい展開である。それと同様に米国も、南シナ海における中国の活動に対して強い姿勢を取ることを止められるとは思えない。なぜならば、増大する中国の経済力と軍事的な主張を受ける中で、長期的な地域安全保障の関与への信頼性がかかっているからである。米国が南シナ海で「航行の自由」作戦を通じたプレゼンスを示して、中国の活動を非難するという姿勢を続けたとしても、そうした行動では中国が南シナ海諸島において漸進的な行動によって閾値を試し、領有権を主張することを思い止まることはないだろう。

(5)ASEANの平和と安定の維持に対する希望も中国有利に働く。北京との「南シナ海行動規範」を巡る交渉は8月―初のASEAN・中国海上合同演習の開催も予定される―に開始される予定である。ASEANは中国と事を荒立てるつもりは全くない。

(6)いずれにせよ、米国の抑止力にはオーストラリアやフランス、インド、日本、イギリスなど様々な利害関係国の強化された海軍のプレゼンスも加わる。これら諸国の継続的なプレゼンスは南シナ海問題の国際的な性質や、南シナ海における海峡の国際海運に対する重要性を強化するものである。しかし、これは北京の外部勢力の干渉を排除するという望みの真逆を行くものでもある。こうした要因はある意味で、中国や関係国が暴力につながる行動を取り、紛争へのレッドラインを越えることに対する重要な防波堤の役割を果たしている。

(7)それでは、南シナ海における米中のこう着状態は何をもたらすのだろうか。

a.第1のシナリオ:通俗的なものである。すなわち、両国が作用反作用の力に導かれて対決に至るというものである。こうした見通しは、南シナ海における米中の兵力間の緊張が制御不能となった際の、不用意な力の行使によって引き起こされる公算が大きい。現場でそうした事態が起きることは深刻な懸念である。なぜならば、そうした事態は別のレベルの懸念を引き起こしかねないからである。それはすなわち、両国が事態の更なる悪化を避けて、緊張緩和を探るか否かという点である。まさにこうした選択に影響を及ぼすのが、共通の戦略的な関心や相互依存である。

b.第2のシナリオ:作用反作用のスパイラルは、やがて片方ないし双方が繰り返し起こる空中・海上の衝突によって、更なる武力を伴う本格的な紛争へと発展するリスクがあると判断する局面に至ることになる。北京とワシントンはある種の予防的で双方が受け入れ可能な合意を通じ、南シナ海に対するアプローチに関して戦略的なコンセンサスを結ぶことで、そうした結果を未然に防ごうとするだろう。これまでの海上や空中における衝突は米中双方が信頼醸成措置を見直し、強化することにつながった。例えば、南シナ海で相次ぐ航空機の接触を受けて、米中は軍用機の行動に関する新たなルールに合意した。また、2013年に中国の輸送艦が危うく米海軍のミサイル巡洋艦Cowpensと衝突しそうになった事態は、翌年の地域海軍による「CUES:洋上で不慮の遭遇をした場合の行動基準」の採択につながった。

(8)今までの係争海域における事態の推移は、地域広範のために一層強固で包括的な信頼醸成への取り組みを正当化する。「南シナ海行動規範」の実現には時間を要するだろうが、CUESを空中や深海の部隊にも適応する可能性を真剣に検討する必要がある。もっとも、米中双方とも海上の法執行機関向けにそうしたメカニズムを導入していないし、カスタマイズも行っていない。

記事参照:How heated exchanges on the South China Sea between US, China can spiral into peace

67日「南シナ海を巡り衝突する米中の主張、再考されるべき米国の戦略研究者評論」South China Morning Post.com, June 7, 2018

 中国南海研究院非常勤上席研究員Mark J. Valenciaは、6月7日付South China Morning Postに、"South China Sea tensions: does the US have an endgame, beyond war?"と題する論説を寄稿し、南シナ海における米国の中国に対する対決的な姿勢は思い違いと不誠実な考え方に基づいており、北京が譲歩しなければ紛争になり得ると指摘した上で、要旨以下のように述べている。

(1)6月初旬のシャングリラ・ダイアローグでMattis米国防長官は、中国の南シナ海における占領地の「軍事拠点化」が「脅迫と威圧を目的としたもの」だと強調した。実際のところ、米国は南シナ海において中国に対する圧力を強める決断を下したように見える。しかしながら、この政策変更は、一部容易に紛争につながりかねない思い違いに基づいている。

(2)米国の新たな対中強硬路線は、2017年12月の国家安全保障戦略が、中国を既存の国際秩序に対する「戦略的競争国」、「修正主義国」と断じたことで公式に示された。米国防省は、5月23日に世界最大の多国間軍事演習である「2018環太平洋合同演習」(RIMPAC)への中国の招待を取り消したと発表した。同省はその理由を、「南シナ海における中国の姿勢は、RIMPACの原則や目的とは相容れないもの」だと説明した。Mattisは、5月29日に招待の取り消しは「比較的小さな報いに過ぎない」とした上で、「将来はもっと大きな報いを招くだろう」と警告した。Harry Harris海軍大将は、5月30日に「米国や同盟国、パートナー諸国の集中的な関与がなければ、中国はアジアで覇権を確立するという夢を実現するだろう」と述べた。

(3)中国は、増大する脅威と見なす米国の政策変更に対応してきた。中国空軍の報道官は、ウッディー島における戦略爆撃機の離発着が「南シナ海の戦闘」に備えるとともに、「全領域に到達し、任意の時間に全方位に攻撃する」能力を高める訓練の一環であったと強調した。

(4)シャングリラ・ダイアローグで何雷中将は、Mattisの発言を「無責任」だと批判した。また、中国外交部報道官の華春瑩は、Harrisの言動に「覇権を握ることに夢中になっている者は、他人が自身の覇権を狙っていると考える傾向にある」と反論した。

(5)しかしながら、米国の新たな政策は思い違いや偽善、不誠実さ、出口戦略の欠如に満ちている。スピーチ後の質問にMattisは、「米国は国家同士が如何に良好に付き合うかにおいて、非威圧的な面を固く信じている」と答えている。国際関係において、自国の主張を通すために脅迫と力を使ってきた国がこうした主張を展開することは、顰蹙を買うだろう。Mattisは「我々は、どの国にも米中のいずれかを選択するように問うているわけではない」とも述べたが、オーストラリアやフィリピン、ASEAN諸国が米国の要請を額面通りに受け取ったか尋ねてみればよい。

(6)Mattisは、米国は「あらゆる国家のための」考え方を擁護しており、あらゆる国が「係争海域を自らの繁栄のために」通過できると明言することで、中国が航行の自由を脅かしていると示唆した。しかし、中国は商業上の航行の自由を脅かしておらず、平時にそうするとも考え難い。問題は、米国が商業上の航行の自由と軍事上の優先事項―軍事インテリジェンスや監視、偵察活動のための航行の自由―を一緒くたにし、批准さえしていない国連海洋法条約に頻繁に言及していることにある。実際のところ中国は、米国が「航行の自由」や「脅迫と威圧」を乱用して、自国の考え方を中国に押し付けることに反対している。

(7)「軍事拠点化」が意味するものも米国と中国では異なる。中国にとって「防御的」兵器の配備は、自衛権の行使をしていることにほかならない。北京からすれば、明らかに米国は防衛部隊の「リバランス」で強化された、前方展開部隊や装備、哨戒によって地域を軍事拠点化してきた。華春瑩は、「南シナ海の米国の軍事的なプレゼンスは、当該海域における中国と周辺諸国の軍事力を全て併せたものよりも大きい」と強調した。

(8)Mattisは、スプラトリー諸島の軍事拠点化は、2015年以降の習主席による公の発言と矛盾するとも述べているが、これは習の声明を虫のいいように解釈しているに過ぎない。加えて、それ以降に中国政府の報道官は米国がインテリジェンスや監視、偵察活動、「航行の自由」作戦を継続して、南シナ海における中国の主張に挑戦するのであれば、中国は自らを守る用意があると示唆している。米国が一連の作戦を継続する上に、それらの強化まですると言うならば、中国がこのように反応したとしても驚くべきことではないだろう。

(9)南シナ海における米国の政策にとって一層深刻な問題は、米国が戦争以外に出口戦略を持たないことである。これまでのところ、米国の対応は効果的なものではない。中国は米国の警告にも関わらず、自国の「近傍海域」における主張と行動を貫徹してきた。米国が対立を激化させた際に、中国が膝を屈せず引かなければどうなるだろう。米国は「航行の自由」に対する仮定の脅威や、地球の反対側の海域における些細な事柄や、資源を巡る中国のライバルに対する行動のために、本当に戦争をする覚悟があるのだろうか。そこでは米国の核心的な安全保障上の利益が危機にさらされているわけではない。

記事参照:South China Sea tensions: does the US have an endgame, beyond war?

68日「『自由で開かれたインド太平洋』、上手くいくために熟慮すべき7つの課題比専門家論評」(Asia Maritime Transparency Initiative, CSIS, June 8, 2018

 比 Ateneo de Manila University講師Lucio Blanco Pitlo IIIは、米シンクタンクCSISのAsia Maritime Transparency Initiative のWEBサイトに6月8日付で、"Making a 'Free and Open Indo-Pacific' Appealing to Southeast Asia"と題する論説を寄稿し、東南アジア諸国にとって、「自由で開かれたインド太平洋」概念が中国との関係において二律背反的性格を持っており、この概念が上手くいくためには幾つかの課題を克服しなければならないとして、要旨以下のように述べている。

(1)戦略的要衝、速い経済成長、若年層中心の人口構成、そして安定した政治的環境―こうした要素が東南アジアを重要な地域としている。当然ながら、大国は、自らの国益を促進するとともに、互恵的関係を構築するために、東南アジア地域に引き寄せられている。その過程で、大国にとって、確固たる戦略が必要であり、そして巧みなメッセージが重要となる。Trump米大統領は、2017年11月にベトナムで開催されたAPECでの演説で、「自由で開かれたインド太平洋」(以後、FOIP と表記)概念を、「多様な文化と多くの異なった夢を持つ主権独立国家が、ともに手を携えて、自由と平和の下で繁栄ができる場」と描写し、支持を表明した。そして、2017年12月の「国家安全保障戦略」(NSS)は、FOIP は域内全ての国に繁栄と安全を提供し、一方米国は「侵略を阻止し、安定を維持し、そして共通の領域に対する自由なアクセスを保証することができる、ネットワーク化された安全保障アーキテクチャ」を構築するために、域内の同盟国やパートナー諸国との関係を強化する、と強調している。FOIPは域内諸国が求めてきたアジア戦略に対するTrump大統領の回答と言えるが、この戦略が上手くいくためには、以下の7つの重要な課題を熟慮しなければならない。

(2)第1に、米国とそのパートナー諸国は、FOIP が中国を封じ込めたり、それと抗争したりするためのツールである、との認識を払拭しなければならない。このことは、前述のNSSの後を受けて公表された、「2018年国家防衛戦略」が米国の安全保障の優先課題として大国間抗争を挙げているが故に、改めて重要性を増している。米国は、東南アジア諸国にとって中国が極めて複雑な存在であることを認識しなければならない。域内諸国は、FOIP を、海空防衛能力を構築し、中国の拡張主義的主張と活動に対抗するための機会として歓迎しているが、同時に一方で、中国は、域内最大の貿易相手国、訪問観光客の国であり、また主要な投資国、援助国そしてインフラ建設パートナーでもある。従って、FOIP は、如何なる意味でも、東南アジア諸国に、米国か中国かの選択を迫るものであってはならない。東南アジア諸国の究極の願望は、大国抗争の戦場にならないことである。更に、FOIP の要となる、「民主主義4カ国」(the "democratic Quad")の連携が、中国に対抗する意図を明確にするならば、それは、社会主義国や軍事政権から民主主義国家まで多様な国家を含むこの地域の共鳴を得ることにはならないであろう。

(3)第2に、FOIP の直接的な狙いに対する中国の疑念を打ち消すために、東南アジア諸国は、 FOIP が中国を除外するのではなく、中国を取り込む機会となることを歓迎するであろう。FOIP は、航行と上空飛行の自由、そして公正で互恵的な貿易規則の遵守の重要性を中国に印象づけるプラットホームとなり得る。しかしながら、米国と中国は、長い間、EEZ内における軍事活動が当該沿岸国の同意がなくても認められるかどうかを巡って対立してきた。FOIPに加わることがこの問題に対する米国の立場を不可避的に支持することになるという考えは、東南アジア諸国にとって苦痛の種となり得る。実際、「4カ国」の間でさえ、航行の自由に対するインドの見解は、米国よりもむしろ中国のそれに近い。

(4)第3に、米国は、東南アジア諸国との協力関係を重視すべきである。この地域は、協力関係の強化に向けての積極的な措置を歓迎する。FOIP は東南アジアの海洋と上空の安全、安定そして経済に重要な意義を持つが故に、東南アジア諸国が重要な決定に参画し得る適切な余地が認められるべきである。直接的な影響が及ぶ域内諸国の意向を無視することは、戦略を策定し、それを展開する大国としては無分別であろう。

(5)第4に、東南アジア諸国は、大国間交渉の取引材料になることを望んではいない。東南アジア諸国は、米中関係の改善を歓迎するが、それが域内の利害に悪影響を及ぼすようなものであれば、憂慮することになろう。例えば、中国が、南シナ海で北京にフリーハンドを認めることと引き換えに、北朝鮮問題に関して米国との協力を申し出るといったことは、域内諸国にとって受け入れ難いであろう。このような懸念を払拭する再保証が重要となる。

(6)第5に、FOIP は、この地域における既存の安全保障アーキテクチャを補強するものとなり得る。そのためには、米国は、条約上のコミットメントを遵守することにおいて、首尾一貫していなければならない。例えばフィリピンなどが米国の戦後の安全保障同盟国に対するコミットメントに疑義を呈している時に、FOIP がこれらの国を支援する米国の決意を明確に補強し得るものであるとすれば、それは有益なものとなろう。

(7)第6に、米国とそのパートナー諸国は、FOIP の長期的な持続可能性に対する懸念に対処すべきである。政治的潮流の変化によって、米国が撤退したり、後退したりするかもしれないという懸念は、パートナー諸国を中国から引き離すことになるかもしれない米国主導の戦略に対する域内諸国の熱意を鈍らせることになろう。

(8)最後に、東南アジア諸国は、包括的で、かつ安全保障指向だけではないFOIP を歓迎するであろう。域内諸国にアピールするためには、特に米国の軍事中心の軸足移動は(環太平洋経済連携協定のような、地域的に受け入れられる措置を含む)より包括的なリバランスに変容していかなければならない。東南アジアは、官民に開かれた魅力的な投資市場である。東南アジア諸国は、前出のNSSが「米国は、国内企業による発展途上国への投資を促すために、開発金融ツールを近代化する。米国政府は、発展途上世界でビジネス機会を求める米国企業の障害になってはならない」と述べていることを歓迎している。

(9)いずれにしても、FOIPの今後を予測するには時期尚早である。もしFOIPが大国間抗争のもう1つの側面ということになるだけであれば、米国は、地理的距離、経済力、そして政策の一貫性における中国の優位を克服しなければならないであろう。一方、もしFOIPが、大国、小国を問わず、全ての国に適用される合意された規範と原則を生み出す戦略として機能するのであれば、その場合には、それはより大きな支持を得ることができるかもしれない。どちらになるにせよ、以上の7つの課題を吟味しておくことが不可欠である。

記事参照:Making a "Free and Open Indo-Pacific" Appealing to Southeast Asia

68日「南シナ海において中国を追い払うためのより良い方法米退役軍人論評」(Asia Times.com, June 8, 2018

 米空軍を退役したアナリストRobert E. McCoyは、6月8日付のAsia Timesのサイトに"A better way to repel China in the South China Sea"と題する論説を寄稿し、米国とその同盟国が、中国の南シナ海を支配するという試みに関して、より断固とした措置のために効果のない航行の自由作戦を放棄する時が来たとして、要旨以下のように述べている。

(1)南シナ海を完全に支配するというその目標への中国の漸進的アプローチは、これまでのところ深刻な影響を回避している。米国とその同盟国が、戦略的かつ経済的に重要な水路に関して中国の支配を受け入れることを望んでいない限り、それは変わるべきである。確かに、ハーグの常設仲裁裁判所は、2016年に中国の九段線の権利主張に対してフィリピンに有利な判決を下した。そして、確かに、米国は、紛争中の区域を航行する、航行の自由作戦(FONOPS)を断続的に行い、意図的に北京によって人工的に作られた島から12カイリ以内を横切ってきた。しかし、中国は、依然としてそこに存在し、彼らの主張する防衛目的の主張と同じ程度に攻撃的役割を果たす対艦ミサイル(ASM)と地対空ミサイル(SAM)を最近設置した。外交的なおしゃべりとこの地域を通過するいくつかの米軍の軍艦を除いて、軍事的な潮流を逆転させるために何も行われていない。現在、南シナ海の約90%に対する北京の主張は、法的能力を有する国際機関によって無効であると宣言されているにもかかわらず、中国がその全面的に法的に無意味な主張を放棄することを確実にする執行力は存在しない。

(2)これまでの考え方は、広大な海でそれらのちっぽけな人工の土地を獲得しても紛争の十分な原因とはならないということである。しかし、この種の考え方は、それを取り除くための真剣な取り組みがない限り、北京が、2016年7月に伝えられた国際裁判所の判決に直接違反する中で、留まるためにそこにいることを暗黙のうちに受け入れている。将来の軍事的な前哨基地の準備が整っているため、中国は、他の権利主張国を、彼らの排他的経済水域で、天然資源を譲渡するように脅すことができる。

(3)外交、たとえ国際的な非難であっても、中国の野心を引き止めるようには働いていない。現在まで、米国によるFONOPは、すぐに英国とフランスのFONOPを含むことになるが、北京がその権利主張を行っている小さな島々で軍備を増強すること以外には大きな影響を及ぼさなかった。紛争を回避するという意味での効果的な反応の欠如は、中国がその地域で望む、どんなことでも行うのを容易にしているに過ぎない。FONOPの強化は、中国からのより一層大きな反応を刺激する可能性が高い。米国とその同盟国は、そのようなより多くの航行を通じて外交的、政治的なポイントを獲得するかもしれないが、北京と何らかの軍事対立の確率も高めている。中国が権利を主張している海域におけるすべてのさらなる共同の部隊は、ハーグ裁判所の裁定にもかかわらず、紛争のもう一つの機会である。

(4)西側諸国は北京との戦いを選ぶべきではないが、中国との対立から引き下がるべきではない。普遍的な敵対行為、たとえば、2001年に国際海域で活動していた米軍の偵察機に対して中国の戦闘機は攻撃的な態度をとったが、そのようなことが起これば撃墜するべきである。戦闘機だけでなく、国際海域や空域において、ASMやSAMのような中国の兵器システムの射撃統制レーダーが味方の航空機に対して起動した場合は、それを破壊するべきである。このような問題を解決するために力を使うことを示唆することは無謀であると主張する者もいる。しかし、今は宥和の時期ではなく、北京はその水路に対する侵略者としての自身の評判を明確に確立している。さらに、中国が理解し、尊重している唯一のものは優位な力である。現代世界が発展させたルールに基づく秩序を無視することを、中国は示している。北京の感じ方では、それは、中国の目的に合わないからである。基本的な社会的品位をまだ学んでいない子供のように、北京は、米国とその同盟国がそれを止めるまで、南シナ海を支配するための軍事行動を継続する。

記事参照:A better way to repel China in the South China Sea

【補遺】

旬報で抄訳紹介しなかった主な論調、シンクタンク報告書

1 Panel: Chinese Navy, Maritime Militia Has Given Beijing De Facto Control of the South China Sea

https://news.usni.org/2018/06/01/panel-chinese-navy-maritime-militia-given-beijing-de-facto-control-south-china-sea

USNI News, June 1, 2018

 American Enterprise Institute forumにおけるパネルディスカッションでWallace "Chip" Gregson退役海兵隊中将、CANのRoger Cliff、米陸軍大学のNathan Freier、the American Enterprise Institute のThomas Donnellyらインド太平洋の専門家は、中国が海軍、海警、武装漁船、人工島の軍事基地ネットワークによって実質的に南シナ海を支配しており、その支配の軍事的、経済的、外交的な含意は米国及び地域の同盟国、協調国にとって広範囲に及ぶものであると指摘した。

2 Remarks by Secretary Mattis at Plenary Session of the 2018 Shangri-La Dialogue

https://www.defense.gov/News/Transcripts/Transcript-View/Article/1538599/remarks-by-secretary-mattis-at-plenary-session-of-the-2018-shangri-la-dialogue/

News Transcript, U.S. Department of Defense, June 2, 2018

By Secretary of Defense James N. Mattis

John Chipman, Director-General and Chief Executive, IISS

 米国防総省は6月2日に行われたシャングリラ・ダイアローグにおけるMattis米国防長官の演説と質疑応答を公開した。演説の骨子は次のとおりである。第1に米国家安全保障戦略、国防戦略は米国の継続する安定、安全、繁栄にとって決定的なものであり、米国はインド太平洋に留まり続けるとした。第2に同盟国、協調国との相互運用性の重要性を強調し、第3に法の支配、透明性のあるガバナンスの強化を主張した。第4に民間主導の経済発展について言及し、米国の関与を強調した。

 東アジアの安全保障環境について、朝鮮半島では完全に、検証可能で、不可逆的な半島の非核化が変わらない目標であると強調するとともに、21世紀の問題に対応するため決定的に重要な日韓両同盟国を近代化し、変革すると述べた。また、台湾関係法に則り、台湾が十分な自衛力を維持するのに必要な支援を行うとも述べ、一方的な現状変更に反対するとしている。中国について、中国が地域の全てにとって長期の平和と繁栄を促進するのであれば、米国は中国の選択を支援するとしながらも、中国の南シナ海の政策は全く対称的であり、中国のより広範な目的に疑問を提起させる。南シナ海の軍事化には対艦、対空ミサイル、電子妨害器の配備や最近の爆撃機のウッディー島への着陸は、中国の正反対の主張にもかかわらず、威嚇と強制の目的の軍事的使用に直結している。南沙諸島の軍事化は、2015年のホワイトハウスにおいて習近平が(南シナ海を軍事化しない)と公に確認したことに反する。と述べた。そして、それがRIMPAC2018に人民解放軍海軍を招待しない理由であり、中国の行動はRIMPACの原則と目的に合致しないと指摘した。

3 Taiwan's Future Depends on the Japan-America Security Alliance

http://nationalinterest.org/feature/taiwans-future-depends-the-japan-america-security-alliance-26167?page=show

The National Interest, June 7, 2018

Professor Kerry K. Gershaneck, a scholar at the Graduate Institute of East Asian Studies, National Chengchi University, ROC

 台湾の国立政治大学教授Kerry K. Gershaneckは、台湾は軍事的能力があり、米国との進歩した相互運用性を有する日本を必要として、次のような要旨を主張した論説である。現在の日米安保体制は中国の脅威に対応し、民主的な台湾を支援するための統合戦略に欠けている。日米安全保障条約は紙の上では良いように見受けられるが、日本の防衛体制には同盟を機能させるうえで重大な欠陥がある。あらゆる方面に政治戦を仕掛け、台湾の孤立化を図る中国に対して、強固に結束した自衛隊と米軍が台湾軍と共同すれば北京は台湾を強制したり、軍事力で脅威を及ぼしたりできないという強力なメッセージを発信できる。

4 Modi's address charts turbulent seas in the Indo-Pacific

http://www.eastasiaforum.org/2018/06/10/modis-address-charts-turbulent-seas-in-the-indo-pacific/

East Asia Forum, June 10, 2018

Sourabh Gupta, Senior Fellow at the Institute for China-America Studies in Washington DC.

 ICAS(中米関係研究所)研究員のSourabh GuptaはEast Asia ForumのWEBサイトに6月10日付で"Modi's address charts turbulent seas in the Indo-Pacific"と題する論評を寄稿し、シャングリラ・ダイアローグにおけるNarendora Modiインド首相の基調講演を紹介しつつ、以下のように述べている。

 Modi首相はインドの役割に言及しつつ、「ルールに基づいた」、「自由で開かれた」インド太平洋ということを強調し、関係国による協力の重要性を主張した。しかし、実際のインドの主たる関心事項はインド洋であって、マラッカ海峡の東側の問題については一定の距離を置いている。この問題についてはこれまでも安倍首相やObama前米大統領との間で様々な共同声明を発してきたが、南シナ海問題への直接的なコミットメントは共同訓練の実施を含め、慎重に避けて来ている。インドにとって真の焦点はジブチなどアフリカ東岸、パキスタンのグワダルやセーシェルなどのインド洋における「真珠の首飾り」である。