海洋安全保障情報旬報 2018年6月21日-6月30日

Contents

622日「『自由で開かれたインド太平洋』、欧州も関与すべき米専門家論評」(East Asia Forum, May 23, 2018

 米シンクタンクThe Carnegie Endowment for International Peace 研究員Matthew Lillehaugenは、Webサイト、The Asia Dialogueに6月22日付で、"The 'Free and Open' Indo-Pacific: A Call for European Partnership"と題する論説を寄稿し、米国の「インド太平洋」戦略は未だ発展途上であり、欧州諸国はその方向性に影響を及ぶすために関与すべきであるとして、要旨以下のように述べている。

(1)「インド太平洋」概念は、それを「自由で」「開かれた」状態で維持する試みとともに、6月初めのシンガポールでの「2018年シャングリラ・ダイアローグ」の中心的な主題となった。講演したどの演者も、自国の戦略が特定の国に向けられたものではないことを強調することを忘れなかったが、そこには明らかに、「一帯一路構想」(BRI)を通じた中国の投資に対する懸念と、南シナ海における海洋紛争に対する北京の高圧的なアプローチへの怒りが見られた。「ダイアローグ」での発言や声明には、インド太平洋全域を通じて、中国の行動に見られる厄介な特質に対するコンセンサスの高まりを反映しているように思われた。

(2)米Trump政権が熱心に主導してきた「自由で開かれたインド太平洋」は、単純な反中概念であるより、むしろ中国との協力に向けた明白な目的と機会を提供するものである。米国の努力の重点は、「航行と上空通過の自由、法による支配、主権、弾圧からの自由、そして私企業と開放された市場」にある。換言すれば、この文脈における「自由」とは、国内におけるより、むしろ国際政治における自由を意味する。同様に、この戦略が求める「開かれた」とは、外部からの他国の参入を閉ざす、排他的な影響圏の形成とは反対の枠組を意味する。Trump政権にとって民主主義や個人的人権などは二義的な考慮事項で、「インド太平洋」概念に対する米国のアプローチの核心は、各国が弾圧からの自由を維持し、国際公共財への全ての国のアクセスが保証される、持続的なシステムを維持することを優先することである。

(3)中国の行動が提起する課題は、欧州にとっても無縁ではない。欧州諸国は中国から投資に対して一層綿密な調査を検討しており、また、欧州連合加盟各国大使が中国に対して、BRIを遂行するに当たっての北京の手法をほとんど満場一致で公然と非難したという、報道もある。ギリシア、ハンガリー及びチェコなどの加盟国には、中国の役割に対する懸念が大きい。これら諸国の懸念は、中国が「16+1プラットフォーム」*などを通じて中東欧諸国に対する投資の拡大を続けていることから、重要な意味を持つ。こうした懸念に対処する欧州諸国の主たる方法は外交的関与であるべきで、7月に開催されるEU中国サミットはそのための格好の機会となろう。更に、10月のアジア欧州首脳会議(ASEM)は、欧州が統一的態度を打ち出す機会として重要となろう。しかしながら、そのための準備は今から始めるべきで、その際、まず欧州で、そして次にインド太平洋全域で、こうした会合に先立って、国際秩序に対するコンセンサスを確立しておくための努力が肝要であろう。

(4)また、欧州は、米国が放棄した主導権を発揮すべきである。米国のアプローチは、気候変動を極めて過少に評価している。しかし、インド太平洋地域の多くの国にとって、気候変動が自国の漁業に及ぼすリスクは最大の懸念の1つである。更に、欧州が関与すべき他の分野は、米国が関心を払わない個人の権利と自由に関する分野であろう。そして恐らく最も注目すべき分野として、欧州は貿易に関して主導権を発揮すべきである。最近締結された、EU日本自由貿易協定は、その好例である。米国が離脱した、「環太平洋パートナーシップに関する包括的及び先進的な協定」(CPTPP)も、米国に対して復帰のドアを開いたままにしておきながら、米国の関与なしでもインド太平洋地域が必要とするアーキテクチャに発展することができるかもしれない。また、英仏両国は、南シナ海における航行の自由の原則の強化に対する関与を強めながら、一方で、6月のシャングリラ・ダイアローグでは、多国主義と地域全体に対するコミットメントを確認するという、積極的な姿勢を見せた。域外国の関与は英仏に限定されることなく、ドイツ、デンマーク、ノルウェーそしてオランダも域外活動に関与する能力を保有しており、これら諸国の関与は、法に基づく国際秩序に対する一致したコミットメントを誇示する上で、非常に象徴的である。

(5)EUが念頭に置くべきおそらく最も重要なことは、米国の「インド太平洋」戦略は、最近数カ月の一連の力強いに声明にもかかわらず、未だ発展途上であるということである。今の時点でこの発展のプロセスに関与することで、欧州諸国は、この戦略遂行の方向性を形成する機会を得るであろう。このことは、米国の選挙民の気まぐれからこの戦略がぶれることを防止するために、この戦略の建設的な特徴を制度化することで、この戦略が持つ不確実な側面を解消する一助となろう。

記事参照:The 'Free and Open' Indo-Pacific: A Call for European Partnership

備考*:「16+1プラットフォーム」とは、2012年に設立された、中国と中東欧16カ国との協力関係を促進する多国間プラットフォームである。

622日「中国海軍、着実に戦闘能力を向上-香港デジタル紙報道」(Asia Times.com, June 22, 2018

 香港のデジタル紙Asia Timesは6月22日付で"Chinese Navy slowly upgrades combat capabilities"と題する記事を掲載し、中国海軍の戦闘能力向上について概観し、要旨以下のように報じた。

(1)現実主義と忍耐が過去20年以上にわたって中国海軍が堅実に台頭してきた背景の戦略を特徴づけている。

(2)中国海軍は長い間、艦艇や武器の開発に「物まね」を取り入れてきた。海軍は、短期の手早い手段を採ってきた。暫定的なあるいは「手早く仕上げる模倣」による艦艇の設計と技術の開発を通じて段階的な革新を試みてきた。

「人の行動を手本として最初の試行を行い、中国独自の模倣の能力と初期に発生する問題への取り組みを見習うことを融合し、次いで迅速に大量適用、大量生産するようなものであり、同様の手法が中国を世界の工場にしてきた」と兵器開発について解放軍報社説は述べている。

(3)21世紀初めのType 051C(旅州級:1番艦は2004年に進水、2006年就役)、Type 052B(旅洋Ⅰ級:1番艦は2002年進水、2004年就役)駆逐艦の進水は、海軍に明らかに欠けていたステルス技術と防空能力を埋める明白な努力であった。それ以降、海軍は現実的で、しかし堅実な道を歩み、Type 052C(旅洋Ⅱ級)、Type 052D(旅洋Ⅲ級)を含む先進的な艦艇を就役させ、経験と資質の蓄積を高めていった。

(4)2018年後半に海軍は、Type 055駆逐艦を導入する予定である。Type 055駆逐艦は防空能力、対地攻撃能力、ミサイル防御能力、対水上戦能力、対潜戦能力を誇っている。

 旧ソ連で建造途中であった空母「遼寧」の改修では、中国の技術者と海軍将兵は空母に7年間、労を惜しまず作業に当たった。最初の空母の改修工事で海軍が示した忍耐は2番艦の完工までの早さと完全に対照をなしている。2番艦は2013年末に起工し、2018年5月に最初の公試が行われた。

 新空母の初航海が5月に完了したので、人民解放軍は「遼寧」打撃群の戦闘即応体制が完了したことを発表した。

 その間に艦載型J-15戦闘機の復座型が4月に初飛行を実施し、最新の空母に搭載されると考えられている。

 北京は、最先端の電磁カタパルトの研究開発に同様の手法を現在取り入れている。地上に設置された電磁カタパルトからJ-15戦闘機や他の航空機が何万回となく発艦に成功していると報告されている。電磁カタパルトシステムは国産2隻目となる空母に装備される予定である。新しい固定翼早期警戒機及び空中給油機も開発中であり、新しい発艦装置を使用して運用されることは確かである

記事参照:Chinese Navy slowly upgrades combat capabilities

623日「アンダマン・ニコバル諸島の不沈空母下の方がインドにとって優位-豪専門家論説」(The Interpreter, June 23, 2018

(1)Paul Keating元豪首相は一度、米空母が主要な戦闘で立てる騒音について米国の提督に語ったことがある。Keatingの言葉は大型空母の脆弱性と経費(及び建造、維持、防護の機会費用)について多くの分析者が持つ疑念を表している。

 疑念が正しいのであれば、空母が持つのと同じような効果を得るためにより安く、よりリスクが少ない方法は何なのか?1つの代替案は島の基地を利用することである。島の基地は動くことはできないが、空母よりもはるかに安くすみそうであり、少なくとも沈むことはない。

 この疑問は新しいものではない。1960年代初め、英国防省ではインド洋において陸上基地の航空戦力を投射するための「不沈」の陸上基地か「移動可能だが沈むこともある」空母かの論争が行われた。

(2)デリーは中国の台頭に対応する能力を建設するため、同じような歴史的疑問を考えなければならない。インド洋において中国の海軍力に対応する予算的、かつ軍事的に最善の方策は何か?

 インド海軍は1961年から空母を運用している。したがって、空母はインドの戦略的思考の重要な部分を構成している。

 排水量6,5000トンの空母Vishalは2025年頃に進水予定であり、単に大型化しただけでなく、最新の電磁カタパルトを含む技術的付加機能が装備されるだろう。

 計画は初期段階にあるにもかかわらず、空母Vishalはきわめて高価なものであることは明らかである。インドは空母建造(運用費を加えて)に使用した50億ドルから航空機及び護衛艦艇の任務群に必要な経費は残していないようである。

 空母Vishalは主要な大国としての地位と中国との競争に留まるというインドの希望の重要な象徴である。中国はおそらく太平洋及びインド洋を巡航する4空母群の建設を計画しており、平凡な型にはまった考え方によれば、インドは少なくともできる限り中国と同じ過程を追わなければならない。

(2)しかし、インドにとって最良の道なのか?一部の分析者は、空母Vishalはより良い使途があるかもしれない予算の大きな浪費ではないのかという疑問を持ち始めている。空母Vishalの建造を延期することは他のところで使用できる巨額の資金を解放することになる。インドが地位の象徴に対する願望を克服することができるのであれば、インド洋における同国の能力を強化するための費用対効果の良い対案がある。

 インドのアンダマン諸島とニコバル諸島で使用される金銭は特に良い投資である。何十年にもわたってインドの戦略家達は太平洋とインド洋の間にあるチョークポイント、マラッカ海峡のいわゆる「瓶の蓋」として両諸島の価値を認識してきた。

(3)インドは、歴史的にパキスタンに対するため西を向いていた態勢を中国に対するため東に海軍の焦点を再調整しており、マラッカ海峡にこれまで以上に焦点を当てつつある。

 何十年にもわたって多くのレトリックがあったが、アンダマン・ニコバルにおけるインドの能力は基礎的なものに留まっている。島嶼は今、海上監視の有用な基地である。しかし、航空作戦、海軍作戦を持続的に支援することができない。インド海軍及び空軍は重要な部隊を本土に留めたままである。

 空母Vishalから自由になった資金はアンダマン・ニコバルにおいて多くの能力を買うことになろう。自由になった資金でインドはカモルタ島、大ニコバル島のような場所で海空軍施設を建設し、あるいは現存の施設を相当程度改善できる。

 アンダマン・ニコバル諸島におけるインドの能力強化はベンガル湾を安全保障上の防衛区域として維持するというインドの願望を認識するうえで大きな一歩となるだろう。諸島はまた、東南アジア及び南シナ海に兵力を投射するためにきわめて価値のある地点である。

 政治的に困難な場合、空母Vishalの建造を延期し、アンダマン・ニコバル諸島(そして、例えばヒマラヤ、アラビア海、インド洋のラッカディブ諸島のようにどこであれ)の資源を使用することは地位に非常に高い優先度を置く国にとって賢明である。しかし、中印間の国防予算の不均衡によって、インドが潜在的な軍事的脅威に対応するため非対称的な方策を見出すことが急務である。インドは浮かぶ地位の象徴からより、あまり輝かしくはないが不沈の施設から支出に見合うはるかに大きな価値を手に入れるだろう。

記事参照:Glug, glug, glug: India's interest in unsinkable aircraft carriers

625日「インドとセーシェルの関係の進展」(The Times of India.com, June 25, 2018

 6月25日付のThe Times of India電子版は、"India, Seychelles agree to work on naval base project, respect mutual concerns"と題する記事を掲載し、最近のインドとセーシェルの関係の進展について、要旨以下のように述べている。

(1)インドは、両国が互いの利益を念頭に置いて行き詰ったアサンプション島プロジェクトに取り組むことで合意したことを受けて、6月25日にセーシェルへの融資限度を1億ドルに拡大した。二国間関係の戦略的性質を見据えて、インドはドルニエ航空機1機をセーシェルに寄贈した。「インドとセーシェルは主要な戦略的パートナーである。我々は、民主主義の本質的価値を尊重し、インド洋の平和、安全保障及び安定を維持するための地政学的ビジョンを共有する」とインドのNarendra Modi首相は述べた。セーシェル大統領Danny Faureは、「アサンプション島プロジェクトが議論された。我々は同等に関与し、お互いの利益を担って協力し合う」と同意した。

(2)インドは、麻薬取引から海賊行為までの伝統的及び非伝統的な脅威と戦うために、115の島嶼から成るセーシェルと協力することを約束するとModiは述べた。インドはまた、セーシェルの民間事業に無償で資金を供与する予定である。とりわけ、これには政府庁舎、警察本部及び検事総長室の建設が含まれる。インドとセーシェルは6月25日に、政府との小規模の開発プロジェクト、商船航行に関する情報共有改善のための協定(white shipping agreement)、パナジとビクトリアの間での姉妹都市協定、サイバー・セキュリティ、Foreign Service Instituteとセーシェルの外交機関の交流、そして、文化交流の6つの協定を締結した。インドはまた、成功したITEC(Indian Technical & Economic Cooperation Program)プログラムにおいて、セーシェルのためにより多くの枠を加える予定である。

(3)Faureは以前、インドでは、アサンプション島プロジェクトについて議論しないと述べていたが、公式の彼らの議論の最中に両者の間でこの事柄が取り上げられた。インドの海洋における願望に打撃を与える、5億ドルのアサンプション島協定を、彼の政府が議会の批准のために提示しないと述べた数日後に、Faureの訪問があった。同協定は通俗的な厳しい批判にさらされており、野党はこれに関して政府を支持することを拒否している。しかし、インドは、このインド洋の国とのその関わりを深め、多様化することを決定した。彼らの議論の中で、インドの指導部は、セーシェル代表団に、アサンプション島プロジェクトは2つの主権国間の協定のままだが、プロジェクトの経過はセーシェルにとって快適なペースであると述べた。

記事参照:India, Seychelles agree to work on naval base project, respect mutual concerns

625日「インド太平洋戦略を実行へ移す時―AEI研究員論評」(AEI Blog, June 25, 2018

 アメリカン・エンタープライズ公共政策研究所(AEI)の研究員であるZack Cooperは、6月25日付のAEIのブログに"Implementing the Indo-Pacific strategy"と題する論説を寄稿し、インド太平洋戦略を言葉ではなく行動として実行に移す必要があるとして、要旨以下のように述べている。

(1)Obama政権に対する批判者たちは、アジアへのリバランスの不十分な実行のために、しばしばそれを責めた。評論家たちは、リバランスはうまく構想されていたが、準備が不十分で実行に一貫性がないと主張した。Trump政権は現在類似の批判に直面している。アジアの評論家たちは、米国が分裂し、混乱し、そして、信用を落としているように見えることを適切に心配している。行動がなければ、地域の同盟諸国やパートナーたちは、互いの関係を再構築し始めるだろう。したがって、Trump政権が対話から行動に転換し、そのインド太平洋戦略を実行する時が来た。

(2)すべての政権が内部での相違に直面するが、Trump政権の分裂は、最近の前任者たちのそれらより深く、より公になっている。いくつかの分野において、Trump大統領自身の見解は、彼の主要な助言者たちとのものとは異なるように見える。これは、同盟諸国や敵対諸国に対する政権のアプローチにおいて特に顕著である。国家安全保障戦略は、中国とロシアが「米国の安全と繁栄を蝕む」と結論づけた。米国家防衛戦略は、「中国とロシアとの長期的戦略競争は主要優先事項である」と述べた。しかし、専門家たちは、Trump大統領がこれらの見解を共有しているかどうかについて疑問をもっている。国家安全保障戦略と国家防衛戦略の主要な執筆者たちが政府を去り(前者の場合はNadia Schadlow、後者の場合はBridge Colby)、これらの文書が依然として米国の戦略を統制しているのか、もはや明らかではない。また、この政権は、米中経済関係又は米国の同盟諸国やパートナー諸国との貿易赤字において、構造問題に関する優先順位に関して依然として相違が存在する、経済面でも同じことが実際にある。この政権がアジアへの一貫したアプローチを追求するならば、公の場での演説や声明の一貫性ではなくて、具体的な政策の変化を実行して実証する必要がある。

(3)米国の指導者たちは、より小さい懸念によって取り乱すよりも、長期的な優先事項に集中し続けなければならない。国家安全保障戦略と国家防衛戦略が強く主張するように、中国及びロシアが米国にとって最大の懸念であるならば、米国の指導者たちはこれらの課題に対する集中力を保持しなければならない。これは、まだアジアに十分に職員が配置されていない政権にとって大きな試練である。そして、北朝鮮との長引く交渉が、数カ月間又は数年間にわたり、米国の注目をそらす危険が増している。中国やロシアからの挑戦に取り組むというこの政権のコミットメントにより、外国政府は励まされた。しかし、彼らは言葉から行動への政権の転換を見たい。

(4)最後に、米国の指導者たちは、米国が後退し、中国が上昇するという物語に反論しなければならない。近年中国がより強大になったことは間違いないが、将来の道のりは決して保証されていない。中国は、厳しい政治的、経済的、技術的、環境的、社会的及び文化的課題に直面している。さらに、北京の指導者たちは、国際的なリーダーシップの責任を主張することに迅速であるが、中国は米国に取って代わるための立場としては不十分である。習近平は「国際秩序の管理人」であると約束するかもしれないが、アジアにおいてでさえも、その安全保障アーキテクチャは米国の同盟に深く根ざしたままである。内外からの米国のリーダーシップへの挑戦にもかかわらず、米国の企業、投資家、大学及び文化は、引き続き世界で最も魅力的である。また、米軍は、特にそれと融合した同盟諸国が含まれる際、他の競合国よりも遥かに依然として優れている。

(5)この政権がそのインド太平洋戦略をどのように実行するかについてのアイデアが尽きることはない。確かに、ほとんどの地域諸国は、より深い米国の経済と安全保障への関与を望んでいる。Trump政権の当局者たちは、自分自身の批判の犠牲者にならないようにするために、インド太平洋戦略を実行することに着手しなければならない。

記事参照:Implementing the Indo-Pacific strategy

626日「台頭中国のインド洋への野心」(Center for International Maritime Security, June 26, 2018

 インドの原油・エネルギー研究大学のAswani Dravid助教授は、6月26日、国際海洋研究センターに"China's Rise and Indian Ocean Ambitions"と題する論文を提出、要旨以下のとおり述べている。

(1)かつてインド洋は、長く西欧による植民地支配を受けてきた。1968年、イギリスがスエズ以東からの撤退を表明し、150年に及ぶインド洋支配が終わりを告げた。脱植民地化は、一方でインド洋に力の真空地帯を生むことになった。冷戦の時代、アメリカとソ連が新たな参入者となったが、双方ともにインド洋の真空地帯を埋めるだけの力を投入することはなかった。冷戦後の時代を経て、今、インド洋地域にはインドと中国が大きな影響力を及ぼしつつある。

 インド太平洋地域は、目覚ましい発展を遂げ、世界の政治、経済、安全保障のすべてに大きな影響を及ぼしている。中国は1978年に改革開放路線を始め、およそ30年にわたって年率10%の経済成長を遂げてきた。その結果、中国は、アジア経済をけん引してきた日本を追い越しアメリカに次ぐ世界第2の経済大国となった。その中国は、1949年の建国以来、30年近く人民解放軍海軍の活動を沿岸域にとどめてきたが、1980年代になってその活動範囲を広げるようになった。中国への海上交通路はそのほとんどがインド洋を通っており、その安全の確保が安全保障上の大きな懸案となっている。古代海上シルクロードの復活としての「一帯一路構想」は、超大国として台頭するための中国の夢である。その「一帯一路構想」は一方においてインドに警戒心を持たせている。いかなる国も、自国の支配空間における影響力を強めると共に、他国が介入を可能とする補給機能等を増強させることを阻止するものである。中国は、シーレーンの確保と港湾整備によってインド洋への介入能力を強めようとしている。加えて、中国は海軍力も着実に増強しており、インド洋への展開もその一環である。

(2)中国は経済進出によってインド洋のバランスを崩そうとしている。ハンバントタ港への投資、ベンガル湾での情報収集器材の設置等々は中国のインド洋への関心の表れである。中国は周辺国との間で海洋紛争を抱えているが、インド洋では海洋紛争を抱えておらず、そのためパートナーとなる国を作りやすい状況にある。パキスタンとのグワダルからカシュガルまでのハイウエー建設はその代表的な例である。そのようなインド洋地域の開発への参入によって、中国は安全保障上脆弱なインド洋シーレーンのチョークポイントでの危険を回避し、資源・エネルギーの安定供給を可能とすることができる。

 エネルギー資源への依存を高めるインドにとって、そのような中国の進出は安全保障環境の激変と映るであろう。インド洋を平和で信頼性ある海域とすることは、地域沿岸諸国の責務である。かつて西欧からの支配を克服したインド洋地域諸国は、今、地域全体で取り組むべき課題に直面している。

記事参照:China's Rise and Indian Ocean Ambitions

626日「スリランカのハンバントタ港引き渡しから垣間見える中国の戦略、米調査報道に基づいて印メディア報道」Firstpost.com, June 26, 2018

 6月26日付の印ニュースサイト、Firstpost.comは、"China's acquisition of Sri Lankan Hambantota port highlights 'debt trap' to gain influence around world, says report "と題する記事を掲載し、要旨以下のように報じている。

(1)2017年12月に米ニューヨーク・タイムズ紙が報じた、中国に対するスリランカのハンバントタ港引き渡しに関する詳細な記事は、中国がいかに友邦の苦境を自国の戦略的な利益に変えたのかを明らかにしている。記事によると、実行可能性調査がハンバントタ港は然るべく機能しないだろうと明らかにしたことから、スリランカのRajapaksa大統領の任期中に開発されたハンバントタ港に対して、インドなどの「常連の貸手」は融資や援助の提供を拒否した。記事は「だが、Rajapaksaが野心的な港湾プロジェクト向けの融資と援助を中国の友人に頼ると、答えは毎回イエスであった」と指摘する。しかしながら、記事によると、数万隻の船舶が世界で最も混雑する海路の一つに沿って付近を通過する中で、ハンバントタ港は2012年に34隻の船舶を引き付けることしかできなかった。

(2)Rajapaksaが2015年に退陣を迫られると、新スリランカ政府はRajapaksaがハンバントタ港開発に引き受けた債務の返済に四苦八苦した。ニューヨーク・タイムズの記事は「強い圧力と何カ月にも及ぶ中国との交渉の果てに、スリランカ政府は昨年12月にハンバントタ港とその周辺の15,000エーカーに及ぶ土地を99年間中国に引き渡した。かくして中国はライバル国インドの沿岸からわずか数百マイル地点の領域支配権、そして極めて重要な商業・軍事航路沿いの戦略的な橋頭保を掌中に収めることになった」と報じている。

(3)記事はスリランカ政府があまりに苦悩していたことから、中国政府がハンバントタ港のような資産を軍事用途で使用する見返りとして「債務救済をちらつかせる」ことができるのではないか、とインド当局者が懸念していたと報じている。しかしながら最終的なリース契約は、ハンバントタ港でスリランカの招待なしの軍事活動を禁じている。記事では、インドの元外相、国家安全保障問題担当顧問Shivshankar Menonの「ハンバントタ港に対する投資を正当化し得る唯一の手段は、彼らが人民解放軍を招き寄せかねないという国家安全保障上の見地である」との発言が引用されている。

(4)ニューヨーク・タイムズは同紙の調査が、中国政府とその影響下にある企業がいかに「融資を渇望する小国」で、自らの利益を確保したかを浮き彫りにしたとしている。ニューヨーク・タイムズの調査は、2015年のスリランカにおける選挙の際に、中国の港湾建設ファンドから多額の支払いが、Rajapaksa陣営の選挙運動員や選挙活動に直接流れていたことを解明した。さらに中国の当局者や専門家が、ハンバントタ港における中国の権益が純商業的なものであると主張してきた一方で、スリランカの当局者は当初から港の位置が伴うインテリジェンス上、戦略上の将来性が交渉の一部であったと証言している。

(5)記事は「合意によって、ハンバントタ港プロジェクトの債務の内、およそ10億ドルが帳消しにされた。しかしながら、他の融資が残存している上に、他の国際的な貸手に比して利率が著しく高止まりしていることもあり、目下スリランカはこれまでになく中国に債務を負っている」と報じている。当初からハンバントタ港の実現可能性は、スリランカの戦略的に重要なコロンボ港がより多くの荷捌きを行っていた上に、更なる拡張の余地を残していたことを鑑みても疑問視されていた。2012年にハンバントタ港に停泊した船舶は34隻に過ぎなかったが、同年コロンボ港には3,667隻の船舶が停泊した。

記事参照:China's acquisition of Sri Lankan Hambantota port highlights 'debt trap' to gain influence around world, says report

628日「台湾の『新南向戦略』が切り開く新たな地平、米台戦略が収斂する可能性米専門家評論」The Diplomat.com, June 28, 2018

 米シンクタンク、The Stimson Centerの研究員、Chen-Shen Hongは、同シンクタンクの同僚2名と共に、6月28日付のweb誌、The Diplomatに、"Taiwan's New Southbound Policy Meets the US Free and Open Indo-Pacific Strategy"と題する論説を寄稿し、台湾の「新南向政策」が米国の戦略と収斂し、国際社会における台湾の活動領域を広める可能性を有していると指摘した上で、要旨以下のように述べている。

(1)台湾外交部は、5月11日に「新南向政策」(NSP)の要素として「インド太平洋科」を開設した。同部門は台北が北京に対して比較優位を有する活動領域に立脚した、有意義な関係をインド太平洋諸国と構築することを目的としており、究極的には中国が拡張を続けると同時にますます好戦的な姿勢を見せる中で、台北に有利な地政学的関係を育み、維持することを目指している。台湾のNSPは、米国の「自由で開かれたインド太平洋戦略」(FOIP)と収斂する可能性がある。台湾は、FOIPと協調することで、自らの自治と領土主権の維持に資するだろう多国間、国際間の場で重要な位置を占める機会を得ることになる。しかしながら、これによって台湾は米国が中国に対抗するに当たっての交渉材料として機能するということにもなりかねない。

(2)習近平主席が3月に、中国は台湾に関して「寸土たりとも」譲らないと主張した上に、2016年5月の蔡英文総統就任以降、正式な両岸関係が保留状態にあることから、台湾の自決はますます脅かされてきた。それに加えて5月にドミニカ共和国とブルキナファソが台湾と断交したことから、台湾が国際的な支持を失い、中国がさらに台湾の未来を掌中に収めているように思える。

(3)中国の増大する攻撃に対抗する手段として米国は、北京のコンセンサス形成志向に対抗する地域ネットワークを強化する手法としてのFOIPをますます推進してきた。台湾がFOIPにおいて主要な役割を果たす中で、Trump政権発足後のワシントンは米台防衛協力を強化し、台湾の自主防衛力強化に直接資する立法上の方策を模索してきた。そのような中で昨年12月に駐米中国大使館公使の李克新は、「米国の軍艦が高雄に寄港する日は、わが国の人民解放軍が武力で台湾を統一する日である」と警告を発した。

(4)4月下旬に米国は、台湾関係法とレーガンの「6つの保証」の執行再確認と共に、「現存及び将来起こり得る脅威」から台湾を防衛するための弾力的で包括的な武器売却保証など、「台湾への関与」を含む「アジア再保証イニシアチブ法案」(Asia Reassurance Initiative Act)にサインした。水中戦や防空などの非対称戦能力を含む、台湾に対する武器売却を巡る米国の新たな関与は、高まっているとみられる中国の台湾に対する好戦性を拮抗させる一助とはなるだろう。しかしながら、ワシントンの台湾への関与は、米国の地政学的利益の保護により多くの重点が置かれており、台湾が政治関係を維持したり発展させるに際しては役に立たない。

(5)多くの台湾人専門家は、北京が自立した島国に対して全面的な戦争を挑んでくることはないだろうと考えている。それよりはむしろインターネットやラジオを混乱させて、技術インフラに影響を与える電磁パルス兵器を使用する「麻痺戦」を行うか、あるいは台湾の頭脳の深圳への流出を奨励したり、観光業に打撃を与えるべく旅行を制限するなど、台湾にもっと弊害をもたらす経済制裁を課すだろうと考えている。台湾の視点で見れば、中国による報復の脅威を極小化する方法の一つは、地域における友好国を多様化することである。蔡の外交政策における中心的な構想として、NSPは台湾が重要な友好関係を維持し、伝統的な同盟を協力的なソフトパワーに基づく関係に転換するには最適な手段なのかもしれない。それと同時にNSPは、台湾が大陸中国に明確な安全保障上の脅威をもたらすことなく、2国間関係や地域における関係の強化を追求することも可能にする。

(6)NSPは、アジア太平洋諸国が北京に求めない解決策の促進や友好的な絆など、台湾が中国に比較優位を有する分野だけに的を絞った形で実際的に計画されている。これらの比較優位を推し進めることで台湾は、経済的な自給を維持し、結果的にFOIPの利益となる相対的な政治的自決を維持することになる。その一例は教育交流である。NSP諸国の人々は、ますます中国本土の代わりに台湾で学ぶことを選択するようになっている。具体的に言うと、2015年~2017年の期間にNSP諸国から台湾への留学生数が32パーセント増加する一方で、これら諸国から中国本土への留学生数は20パーセント減少している。実際のところ昨年、台湾で学ぶNSP諸国出身の学生数(28,700)は、初めて中国で学ぶNSP諸国出身の学生数(25,824)を超えた。

(7)台湾はNSPとFOIPの繋がりを発展させることで、地域の主要プレイヤーと強固な関係を構築できる上に、自国とワシントンに3つの明確な勝利をもたらす。

a. 台湾はハードパワーの圧力に頼ることなく、地域の政治的な展望の中で必要であり続け、関係し続けることができるだろう。

b. 台湾は中国の統一あるいは抑圧に向けた野望の阻止に資する、さらなる支援を利害関係国から得られるだろう。

c. NSPとFOIPという2つの戦略の収斂は、台湾が①将来の政治的・経済的連携に役立ち、②自らの自治と地域における米国の利益を守るさらなる助けとなる―関係に一層のアクセスを得ることを許すものである。

(8)台北が実際にFOIPとの収斂に動くならば、地域の覇権を懸けた米中の壮大な争いの駒になるリスクを負うことにもなる。将来的なFOIPとの収斂を確認することは、台湾が経済的な持続可能性や政治的自決を自らに与える重要な関係を形成する助けとなるだろう。しかしながら、台北は外交の重点を自らの比較優位を利用して、米国を越えて広がる広範な友好国と同盟国のネットワークを追求することに置くべきである。

記事参照:Taiwan's New Southbound Policy Meets the US Free and Open Indo-Pacific Strategy

628日「"沈まない"島は空母の代替にはなり得ない。-インド専門家論評」(The Interpreter, June 28, 2018

 インドのシンクタンク、オブザーバーリサーチ基金・海洋政策イニシアチブ長のAbhijit Singh主任研究員は、The Interpreter に6月28日付で"The "unsinkable" island is no substitute"と題する論説を寄稿し、インド洋の島嶼を基地化する「不沈空母」構想は空母を代替するものにはなり得ないとして、要旨以下のように述べている。

(1)6月23日付のThe Interpreterに掲載されたDavid Brewsterの論説"glug, glug: India's interest in unsinkable aircraft carriers"が指摘するように、インドの島嶼へのパワープロジェクションは空母よりも安価で安全なのだろうか?Brewsterが主張するようにアンダマン島とニコバル諸島を戦略的な中心と位置づけ、高価だが沈み得る空母を不沈の島嶼基地で代替し得るかは疑問である。

 Brewsterは空母の運用に疑問を呈し、空母3隻の体制は経費的にもインドにとって負担が大きいと指摘するが、海上における戦略的な防衛とは、敵が「行動の自由」を有しているため機動力によって担保されるというのが常識である。インドがアンダマン諸島に「海上拒否」のための軍事施設を設置したとしても、南アジア、さらにはそれを超えてのインド海軍のパワープロジェクションには資することのない「防衛的」な性質の物にならざるを得ないだろう。

(2)インドの政治的、戦略的なエリートの間ではアンダマン島とニコバル諸島をアジアへのパワープロジェクションの橋頭保に発展させるという問題について意見が分かれており、軍の立場で書かれた物は中国の脅威を指摘し先進的な警戒監視とパワープロジェクション能力の開発が不可欠と主張している。これは島嶼の戦略的な潜在力を利用すること自体は反対しないものの、穏やかな軍事大国というインドのイメージを傷つけるとして大規模な軍事化には反対する実務者たちの立場とは対照的である。

 しかし、ニューデリーがアンダマン諸島への軍事施設建設を決定したとしても、インド海軍はそれを空母とのスワップ交渉の一環とすることは望まないだろう。

(3)今日、より敵対的な作戦環境に直面しているにも関わらず、空母は依然として効果的な警戒監視と海上作戦指揮のために沿岸地域への包括的アクセスを提供する唯一のプラットフォームである。多くの海軍アナリストは空母が現代の海上作戦においても有用であると確信している。米海軍は第二次世界大戦中に10隻以上の艦隊型空母と護衛空母を喪失したにもかかわらず、空母作戦への依存度は時間の経過とともに増加している。冷戦期のソ連との対立に際しては第二次世界大戦当時と同等の危険に直面していた地中海、インド洋、北大西洋にも米国の空母機動部隊が展開されていた。

 そして2018年の今日でも米海軍のスーパーキャリアーは依然としてアジア太平洋地域における海上作戦の「先駆け」としての位置を占めている。おそらく、米国の空母は現時点でもそれほど変化の影響を受けてはいない。これは遠く離れた海上で敵の行動を抑制する米国の海上作戦を目に見える形で維持する唯一の方法であり、だからこそ、ワシントンは空母の展開を維持しているのである。

(4)海上作戦の変化という文脈においても空母の必要性は強力に支持される。敵対的な平和の時代において、大規模な海軍力は戦略的なシグナル伝達のため必要なプラットフォームなのである。敵対勢力のいずれの側も海上における対応を、報復を招くかもしれない閾値以下に保つことの重要性を認識しており、お互いの主要アセットをターゲットとするのは望まないだろう。これは空母が沈没しないことを示唆するものではないが、そうした艦船をターゲットとすることは敵にとっても簡単な選択ではない。相手国の空母をターゲットにしようとすれば複数の兵器システムによる同時打撃などの高度な作戦調整が必要である。それはまた、不十分な作戦は撃退され大規模な反撃を誘発する可能性があるということであり、それは回避する必要がある。また、その攻撃がうまく実行されたとして、大型空母を海底に横たえるまでには複数回のミサイル攻撃、爆撃が必要となる。それまでに双方はハルマゲドン状態となるだろう。

(5)実際、平時において他国の海上勢力が空母を沈めてしまうという可能性はほとんどないだろう。確かに空母は高価であり、そして従前より脆弱である。しかし、少なくともこれが賢明に使用されている限り、それを打破し得る戦略的に有用なプラットフォームは他に存在しない。そしてインド海軍にとって空母はインド洋沿岸地域における心理的バランスを変え得る能力を有する存在であり、国家の誇りと力の強力な象徴なのである。飛行場の機能は島嶼の基地(沈まない船)や浮体式プラットフォームによっても置き換えることが出来るかもしれないが、示威的な影響力まで再現することは出来ない。空母はステータスシンボルにとどまるものではなく、海上作戦に不可欠な活力を供給するまさに戦闘艦隊にとっての「心臓」なのである。

記事参照:https://www.lowyinstitute.org/the-interpreter/unsinkable-island-no-substitute

629日「北極海圏への日本政府の対応」(The Asahi Shimbun, June 29, 2018

 朝日新聞英語版の電子版は、6月29日付で"Japan seeking to strengthen own claims in Arctic Ocean region"と題する記事を掲載し、北極海における主導権を握るためのロシアと中国の間の競争が激化している中で、日本は、同様に北極海地域におけるその利益を確保するという考え方へと準備し始めたとして、要旨以下のように述べている。

(1)5月の閣議で採択された海洋基本計画において、日本政府は、初めて北極海をその政策の主要目標と正確に位置づけた。そこでの、豊富な天然資源や東アジアとヨーロッパの間の航路を活用し、国際的ルール作りに積極的に関与するつもりである。

(2)世界の未確認の石油と天然ガス埋蔵量の4分の1が北極海にあると推定されている。また、早ければ2030年頃に地球温暖化により北極の海氷が消滅することが予想されているが、北極海の輸送ルートは、スエズ運河を通る東アジアとヨーロッパを結ぶものより40%短いと考えられている。

(3)しかし現在、北極海の平和利用に関するルールを定める法的枠組みは存在しない。このような状況を是正するために、国連海洋法条約に基づき、北極海の航行の自由を実現すること、そして、多国間対話の枠組みを通じたそこでの国益を確保することを目指して、政府はその目標を海洋基本計画に書いた。

(4)北極海の開発について議論する科学大臣の国際会議が、10月にベルリンで開催される予定である。日本政府は、当局者をこの会議に派遣することを検討している。同月、アイスランドでは、政府の指導者たちが参加して、北極海に関する別の国際会議が開催される予定であり、日本の河野太郎外相が出席する予定である。この動きの背景には北極海の状況が緊迫する可能性が存在し、特にそれに関連して、ロシアと中国の強い主張がある。

(5)ロシアの排他的経済水域(EEZ)や大陸棚で抽出された天然ガスなどの天然資源については、登録されたロシアの船舶のみに対して、最初の陸揚げ港にそれらを輸送することを許可する法律を適用することを、ロシアは決定した。ロシアはまた、2013年以降、北極海内とその周辺で545ヵ所の軍事施設を建設している。

(6)中国は、今年1月に北極海に関する政策について白書をまとめた。この白書は、「シルクロード経済ベルトと21世紀海上シルクロード」とも呼ばれる「一帯一路構想」と類似して、北極海を「氷上のシルクロード」と呼んだ。この構想は、陸路と海路を通じて、東アジアからヨーロッパに伸びる広大な経済圏を作り出すことを目指している。日本政府当局者は、「中国は潜水艦を配備して(北極海で)軍事的プレゼンスを強化する可能性がある」と述べた。

(7)北海道大学北極域研究センターの准教授である大西富士夫氏によると、米国は北極海における国際秩序を維持することには関心がない。「このような状況では、現状を変えたい国々は、自国のパワーを増強しようとしているため、宇宙空間やサイバースペースに加えて、北極海が政治的紛争地域になっている」「日本はそこでの政治的プレゼンスを強化する必要がある」と大西氏は述べた。

記事参照:Japan seeking to strengthen own claims in Arctic Ocean region

629日「南シナ海における中国への抵抗の強まり――米国家安全保障・国際関係専門家論評」East Asia Forum, June 29, 2018

 アジア太平洋研究所・横須賀カウンシルの執行部委員を務める元米海軍のTuan N. Phamは、6月29日付のEast Asia Forumに"The world is pushing back in the South China Sea"と題する論説を寄稿し、南シナ海における中国の行動に対する世界的な抵抗の姿勢が強まっているとして、要旨以下のとおり述べている。

(1)ここしばらくの間、南シナ海をめぐる規範について、道義政治に対する現実政治の優越や、米国のソフトパワーの急速な衰えが報告されていたが、現在の展開はむしろその逆の傾向を示唆している。同地域における米国の戦略的忍耐と希望的観測の日々は終わり、同国のより断固たる国家安全保障戦略および国防戦略が展開されている。

(2)米国以外にも多くの国々が南シナ海における中国の一方的な膨張傾向に強く反発している。

a. フィリピンのRodrigo Duterte大統領は南シナ海の資源をめぐって中国との戦争も辞さない覚悟を表明したと報道された

b. ある台湾のシンクタンクは、台湾が支配する太平島を米軍に租借すべきだと提案した。c. 今年のシャングリラ・ダイアローグにおいて、米国、インド、ヴェトナム、フランス、英国が、南シナ海における中国の強引かつ地域の不安定をもたらしかねない行動を強く批判した。

(3)これらの言葉は、以下のような行動によって示された。

a. 米国は2018年の環太平洋海軍合同演習への中国の招待を取り消した。南シナ海における中国の行動が、国際規範および自由で開かれた海洋の追求という原則に反しているという理由のためである。米国は「航行の自由作戦」(FONOPs)など南シナ海における既存の作戦を継続し、さらに強硬な計画を立案している。

b. 英国やフランスは、南シナ海をめぐっては米国の立場を支持し、中国に対抗してきた。両国とも南シナ海において海軍関係の作戦を実施し、中国による係争海域のさらなる軍事化に対して圧力を加えている。

c. ベトナムはラッド礁における建設作業など、南沙諸島における拠点の増強を進め、また中国のような海上民兵の採用も検討している。中国はこれまでこの海上民兵を用いて係争海域における自国のプレゼンスや作戦行動を強化してきた。

d. マレーシアもまた軍備増強に取り組み始めた。具体的には海軍近代化の一環として、海軍航空部隊の改善、艦載ヘリコプター購入計画などが発表された。

(4)このような南シナ海をめぐる一連の行動は、米国のFONOPsや情報・監視・偵察(ISR)作戦に対する中国側の対応の繰り返しでもあった。この問題に関するよりバランスのとれた理解のために、米国側の観点を確認する必要がある。

(5)米国のFONOPsは国際法の発現であると同時にそれによって承認されている。その目的と意図ははっきりとしている。すなわちそれは、南シナ海における行き過ぎた海上権利の主張に挑戦するものであり、特定の国家を差別するものではなく、本質的に慎重なものであって他国への挑発を目的とするものではなく、さらに、航行および領空通過の自由に対する一方的な制限に異議を唱えるものである。

(6)米国のISR作戦(それは諸外国の排他的経済水域(EEZs)内で遂行される)は、国際慣習法および国連海洋法条約(UNCLOS)第58条のもと、合法な行為である。

(7)EEZsにおける軍事活動の許容範囲について、中国と米国の主張は真っ向から衝突する。米国は、沿岸国はUNCLOSのもとで、EEZsにおける外国の経済活動を取り締まる権利を有するが、軍事活動を取り締まる権利はないと考えている。一方で中国は、ISRなどの公海上ないしEEZsにおける軍事活動はUNCLOSによれば非合法であり、公海は平和目的のためにのみ利用されねばならない―中国自身が正反対のことをしているにもかかわらず―と考えている。こうした中国側の解釈を支持するのはわずか27カ国であり、それに対し、中国以外の国連安保理常任理事国を含む100以上の国々は、この立場を支持しない。

(8)南シナ海における中国の行動が、中国自身もそこから利益を得ているはずの既存のグローバル秩序を深刻なまでに傷つけていると、世界は理解するようになった。諸国はより積極的に中国に働きかけ、ときには立ち向かい、中国が国際システムに積極的に貢献するような、より責任あるグローバルなステークホルダーになるような行動をとらねばならない。そうでなければ中国政府は今後ますます、係争海域の統制を拡大、強化し続けるであろう。

記事参照:The world is pushing back in the South China Sea

【補遺】

旬報で抄訳紹介しなかった主な論調、シンクタンク報告書

1 Caution in the High North: Geopolitical and Economic Challenges of the Arctic Maritime Environment

https://warontherocks.com/2018/06/caution-in-the-high-north-geopolitical-and-economic-challenges-of-the-arctic-maritime-environment/

War on The Rocks.com, Commentary, June 25, 2018

 米海軍の現役将校で海軍兵学校教官のRachael Gosnellによる、北極がその地理的戦略的重要性を増しつつあることについての解説記事。

 北極海航路の利用の活発化が沿岸国に新たな懸念をもたらしているとし、予測不可能な北極の気象、海氷状況と、世界の海運市場の要求との関係、すなわち「Just in Time」の必要性や経済効率とコスト削減の要求からの船舶大型化の関係などから、砕氷船による先導が必須となる中で、そのコストの問題などが指摘されている。さらに、重大事故発生の場合の影響についても指摘しており、北極圏国、関係する組織のみならず、非北極圏国も含む利害関係のある諸国間での協力の必要性を強く訴えている。

2 How China Got Sri Lanka to Cough Up a Port

https://www.nytimes.com/2018/06/25/world/asia/china-sri-lanka-port.html

The New York Times.com, June 25, 2018

 スリランカ大統領Mahinda Rajapaksaは、ハンバントタ港計画の借款と援助のために中国の同盟者に転じ、スリランカ政府はハンバントタ港とその周辺15,000エーカーの土地を中国が99年間租借することを認めたとするThe New York Times紙の解説記事。「国家を従属させるためには剣によるか借金による」というJohn Adamsの言葉から、中国は後者を選択したとするBrahma Chellaneyの言葉を引用して、中国がハンバントタを手にいれただけでなく、軍事利用をも承認させた軌跡をスリランカ、インド、中国、西側当局者へのインタビュー、記録の分析から解説したもの。

3 China won't concede an inch, Xi Jinping tells US defence chief Jim Mattis on South China Sea and Taiwan

http://www.scmp.com/news/china/diplomacy-defence/article/2152792/china-wont-concede-inch-xi-jinping-tells-us-defence

South China morning Post.com, June 27, 2018

 South China morning Post紙電子版における、周近平中国国家主席がMattis米国防長官との会談において南シナ海、台湾問題で一歩たりとも譲ることはないと発言したとの報道。

4 US puts off '2+2 dialogue' with India: 'unavoidable reasons'

https://indianexpress.com/article/india/us-postpones-22-dialogue-with-india-due-to-unavoidable-reasons-5236223/

The Indian Express, June 28, 2018

 インドのThe Indian Express紙電子版は米印の2+2会議が延期されたと報じ、その理由としてインドのロシア製S-400ミサイルシステムの導入、イラン制裁解除から離脱した米国のイラン石油の輸入停止要請があるとしている。

5 The Coming Crisis in the Taiwan Strait

https://www.the-american-interest.com/2018/06/28/the-coming-crisis-in-the-taiwan-strait/

The American Interest.com, June 28, 2018

Michael Mazza is research fellow, foreign & defense policy, at the American Enterprise Institute.

 The American Enterprise Instituteの研究員Michael Mazzaは、台湾海峡の危機は多くの人が認識しているよりも近づいているとして、民進党の「一つの中国」の原則に係る「92コンセンサス」の拒否、台湾社会の変容に対する北京のいらだち、習近平の「中国の偉大な夢」、台湾に対する政治的、経済的圧力とその説明の背景を分析し、今後来るかもしれない危機を想定し、米国の役割を提起している。