海洋安全保障情報旬報 2018年8月11日-8月20日

Contents

814日「ASEANの「中心性」は何処へ向かうのか?-シンガポール専門家論評」RSIS Commentaries, August 14, 2018

 シンガポール南洋工科大学・ラジャラトナム国際問題研究所(RSIS)地域安全保障アーキテクチャープログラム客員研究員のHenrick Z. TsjengとShawn Hoは、8月14日付のRSIS Commentariesに" Whither ASEAN Centrality?"と題する論説を寄稿し、8月上旬シンガポールで開催されたASEAN外相会議(AMM)及び関連会議において南シナ海問題の一定の進展が見られたことは、ASEANの「中心性」を実証するものであるとして、要旨以下のように述べている。

(1)7月30日から8月4日まで、シンガポールにおいて開催された第51回AMM及び関連会議は一般的には成功とみなされている。問題の困難性から共同コミュニケ発表が遅れるなどしていた従来とは異なり、中ASEAN外相会議(PMC)において南シナ海行動規範(COC)の交渉草案が合意されるなど、南シナ海問題についての一定の進展が見られたからである。この草案は今後の行動規範交渉の基礎となる物ではあるが、こうした一見ポジティブな進展も、ASEANが直面する多くの障害が解消されたことを意味するものではない。本件についても、ASEANが引き続き中心的役割を果たすことができるか否かは疑問である。

 世界の激しい地政学的変化の中でもASEANは東南アジアの支柱であり続けるだろう。ASEANの中心性(抄訳者注:アジア太平洋の多国間協力枠組みにおいて、ASEAN が中心的役割を果たすこと)と一体性は、弾力性のある革新的なASEANを構築し、域外パートナー諸国との関係を改善する鍵でもある。その意味では南シナ海問題はASEANの中心性と一体性のリトマス試験紙と言えよう。ASEANは決して完璧な存在ではないが、しかしASEANが存在しない東南アジアでは更に状況が悪化するに違いない。

 シンガポールのVivian Balakrishnan外務大臣は、中ASEAN- PMCの冒頭で行動規範交渉草案の合意について発表、これを「COCプロセスにおける一つのマイルストーン」と表現した。ただしBalakrishnanも、これは交渉の終わりを意味するものではないとし、行動規範は元より「紛争の解決を企図するものではなく、(領土問題は)解決されていない」と警告している。

(2)懸念事項の一つは米中貿易摩擦など、主要国のパワーポリティクスの結果として、急速に変わりつつある地政学的な問題である。

 Mike Pompeo米国務長官がアジア訪問前に発表したように、 米国は「インド太平洋地域全体の安全保障協力強化に3億ドルの資金を提供」する計画である。にもかかわらず、米国の地域秩序構築へのコミットメントには疑問があり、特にDonald Trump大統領の保護主義的姿勢が米国との同盟の有用性に疑問を投げかけていることも考慮すれば、ASEANの存在はこの問題の鍵を握っていると言える。

 ASEANの中心性については効果を疑問視する声もある。南シナ海紛争とミャンマーのラカイン州の問題(ロヒンギャ問題)などについては、ASEANが明らかに一体性を欠いており、特に後者に対処出来ないことでASEANの能力に対する疑念も生じている。しかし、AMMの結果が示しているとおり、これは全てが失われたということではなく、多少の問題が残っていたとしても、ASEANは良好な状態を維持している。


(3)ASEANの地域的なアンカーとしての役割は今後ますます重要になるだろう。ASEANは米国のコミットメント縮小の可能性と中国の持続的な影響力にかかわらず、域内における中心性を確実に維持していく必要がある。

 中でも南シナ海問題は、ASEAN内のグループを分断させる可能性があり特に重要な意味を持つ。南シナ海問題におけるASEANの役割は非常に限定的であるという指摘もあるが、加盟国中の4ケ国が領有権主張国である事実にも鑑みれば、ASEANにとっては南シナ海問題が大規模な紛争に発展しないようにすることが最大の目的なのである。

 AMMはこの問題に継続的に取り組んできたが、意見の相違から共同コミュニケの発表が出来なかった2012年など、これまで問題がなかったわけではない。 しかし、翌年には南シナ海問題を含めた共同コミュニケが発表されており、以来、本件は共同コミュニケの注目点となっている。そして最新のコミュニケでは行動規範交渉草案の合意が強調されている。

(4)にもかかわらず、南シナ海における埋立や軍事化は継続しており、ASEANはこの問題を遅滞なく解決する必要がある。地政学的状況からすればASEANの領有権主張国は、軍事面、経済面で最大の領有権主張国である中国との良好な関係維持を望んでいるであろう。

 行動規範交渉草案の発行にもかかわらず、行動規範が具現化されるまでの交渉タイムラインは公表されておらず、未知のままである。 したがってASEANは南シナ海問題を的確にマネージし、緊張を激化させないため努力し続ける必要がある。

(5)この地域における地政学的な流動性に鑑みれば、ASEANは今後ますます地域枠組みにおけるアンカーの役割を強めていくであろう。シンガポールにおけるAMM及び関連会議の結果はASEANが東南アジアを超えて、より広い地域で果たすべき重要な役割を反映している。ASEANの努力がなければ主要大国は南シナ海のような問題で容易に地域を分断するであろうし、今後、ASEANは中心性の確保に積極的に取り組むとともに、ASEANがその運転席に座ることについて域外国が価値を見出せるようにしていかなければならない。

 ASEANには弱点も限界もあるが、各加盟国及びコミュニティは地域枠組みの中心であることを確実にすべく緊密に協力していくことが必要である。

記事参照:Whither ASEAN Centrality?

815日「『行動規範』草案で合意した中国とASEAN、南シナ海秩序の行方豪専門家評論」The Strategist, August 15, 2018

 オーストラリア戦略政策研究所(ASPI)シニアアナリストHuong Le Thuは、豪Web誌、The Strategistに 8月15日付で、"A step toward clearer waters ? China, ASEAN and the South China Sea"と題する論説を寄稿し、中国とASEANは「行動規範」草案に合意したが、今後両者はさらにセンシティブな問題に取り組まなければならないと指摘した上で、要旨以下のように述べている。

(1)今月初めのASEANと中国が長年に亘る南シナ海を巡る交渉の果てに、「行動規範」草案に合意したとの発表は、画期的な出来事として歓迎された。合意に至ったことは双方の善意を裏付けるものだが、それは協力に対する挑発が高まる中でいかに交渉を続けるのかという、地域で繰り返されるジレンマを浮き彫りにしている。交渉ペースを勘案すれば、「ゼロ草案」に至ったことは大きな成果に思えるだろう。しかしながら、交渉に向けてはさらにセンシティブな幅広い要素がその他係争事項とともに存在する。具体的には、地理的範囲や紛争解決メカニズム、協力義務、国連海洋法条約への言及、第三国の役割、軍事拠点化を明示するか否か、法的拘束力を持たせるか否か等の内容に関するものである。

(2)隔たりは中国とASEANのみならず、ASEAN諸国間にもある。筆者(Huong Le Thu)を含む専門家は交渉の膠着状態を見て、「行動規範」が南シナ海における領有権主張国を撹乱し、ASEANの利益に弊害をもたらす、中国の戦略ツールになりかねないと結論付けた。しかしながら、「行動規範」草案は、疑問の余地が大きい「進展」の背後にいくばかの象徴的な価値が存在することを示唆している。中国の指導部は、紛争の平和的な解決能力を示したがっている。中国の融和姿勢は、北京が近隣諸国と問題を円滑に管理できると示すことで、「外部勢力」の干渉を防ぐことにも資するだろう。中国は初の中国・ASEAN海上演習の公表を含む、さらなる協力を申し出ている。11月のASEAN首脳会議前の10月にも予定される演習が、地域協力に向けた肯定的なサインであることは確かである。北京の善意は、東南アジア以外でも示されている。中国はスリランカに軍艦を供与し、今年後半にはフィジーに「監視、海洋観測」船を供与すると約束した。北京が何を「協力」できるのかを示すことが重要である。しかしながら、紛争の平和的解決に向けた交渉は、中国が南シナ海に建設した人工島の着実な軍事拠点化や係争海域の漸進的な支配とは切り離されているように思える。

(3)それでは、なぜASEAN諸国は中国に協力するのだろうか。一連の挑発と、東南アジア諸国が中国に対して抱える多くの懸念にも関わらず、どの国も中国との関係を断ち切ることはできない。フィリピン国民の大多数が自国の海洋領有権に対する主張を未だに強く支持する一方、Duterte政権は対中関係で危険な賭けを選択した。直近では、Alan Peter Cayetano外相が「領有権の主張を棚上げ」し、北京との共同開発を模索することが「原則に基づく現実主義の問題」だとマニラの意向を述べている。本年のASEAN議長国であるシンガポールは、職務遂行の圧力に曝されている。一例をあげると草案には、中国の「関係国に事前通報が行われ、それに対する反対がない場合を除いては、域外国と共同軍事演習を行わないものとする」との提案が含まれている。同条項が最終まで残れば、北京にASEAN諸国が南シナ海でどの国と演習を実施するかに関して、拒否権を与えることになろう。北京が自国を除く、南シナ海の領有権主張国に不利な条件を突きつけようとしていることは、驚くべきことではない。「行動規範草案」の真の価値は交渉の性質を「手札を公開」した状態に変え、透明性を強化することにある。

(4)ASEANの議長輪番制に鑑みれば、タイミングも重要な要因である。フィリピンは8月5日にASEAN・中国ダイアローグのコーディネーターとなり、2021年までその任に当たる予定である。フィリピン政府は対中交渉に関して、ASEAN全体の利益を代表する能力を未だほとんど示していない。

(5)「行動規範」がまとまる可能性は未だ極めて低いが、これからの数年で交渉の機運と性質が定まるだろう。次期ASEAN議長国は、南シナ海の非領有権主張国のタイであるため、交渉の中立性が高まるだろう。2020年には南シナ海領有権主張国のベトナムが議長国となり、拡大ASEAN国防相会議の議題深化など安全保障に強い焦点を置く意向を有しているところ、もっと興味深い進展があるだろう。

(6)ASEANの全加盟国は、南シナ海の領有権主張国もそうでない国も対中関与に関心を有しており、「行動規範」草案の交渉は進展のサインである。しかしながら、南シナ海の領有権主張国の眼前には、法的解決や違法行為が行われた際の調停オプションを含む国連海洋法条約を実際に裏付ける条項の交渉という試練の時が待っている。

記事参照:A step toward clearer waters ? China, ASEAN and the South China Sea

815日「ロシアはインド太平洋でアセットと海軍の活動領域を拡大している伊ジャーナリスト論評」(Asia Times.com, August 15, 2018

 イタリア人ジャーナリストであるEmanuele Scimiaは、8月15日付のAsia Timesのサイトに"Russia expands assets and naval horizons across Indo-Pacific"と題する論説を寄稿し、モスクワがソ連時代の能力の回復を求めているため、その太平洋部隊が装備をアップグレードすると同時に、この地域において中国との拡大した協力も起こり得る、として要旨以下のように述べている。

(1)7月29日、ロシアのVladimir Putin大統領は、ロシア海軍の日を記念するイベントで、本年末までに26隻の新しい軍艦と船舶がロシアの海軍に引き渡されると発表した。ただ太平洋だけでロシア軍部隊は、2024年までに37隻の新艦船を受け取る予定である。過去10年間でこの地域で受け取られた28隻の新造艦船と比較して大幅な増加である。これは、費用がかかり過ぎると判断されたプログラムを打ち切ったにもかかわらず、クレムリンが非常に野心的な海軍のアップグレードを進めていることを示している。

(2)その資金の準備は整っている。Carnegie Moscow Centerの経済プログラムの責任者Andrey Movchanによると、現在の原油価格(天然資源に対する税金や関税がロシアの予算の主要素である)が2018年から2021年の予算見通しで計画していたより30%高いとすれば、ロシアの国防予算は、持続不可能な水準に達しない。

(3)クレムリンは、米国と中国の軍事力に対抗することが最も重要だと考えている。それでも、まだ遠い。ワシントンの国防予算は10倍以上、北京はモスクワの5倍から6倍である。

(4)多額の支出とこの新しいアセットは、ロシアが、その軍事ドクトリンを、特に東方で、太平洋地域の沿岸防衛から公海上のより大きな活動に移行するという変更を行うかどうかという問題を提起する。Perth's Curtin UniversityのNational Security and Strategic Studiesの准教授であるAlexey Muravievはそう考えている。ロシア海軍のトップであるVladimir Korolev大将によると、ロシア軍艦は2017年に海上で17,100日間を過ごし、2016年から1,500日間の増加であった。これは、今日のロシア海軍が、ソ連時代の前身のものよりも小規模でも、冷戦時代の展開能力を回復していることを示唆している。

(5)NATOとの対峙において、ロシアは、地中海、黒海、バルト海及び北海での海洋作戦を重視している。しかし、モスクワの近代化の動きはまた、太平洋艦隊を同様に再建している。Muravievによると、2008年から2018年中頃にかけて、ロシア太平洋艦隊は、主に補助及び支援のためのアセットである、28隻の新造艦船を受け取った。太平洋の部隊は少なくとも30隻の新しい軍艦(11隻の新型潜水艦と19隻の新型戦水上戦闘艦)と7隻の新しい主要補助艦を手に入れる予定であるとMuravievは述べた。インド太平洋戦略海洋シアターの展開には、西太平洋、東シナ海、南シナ海、インド洋、ペルシャ湾、さらに最近では太平洋の南西区域及び北極海の軍事活動が含まれていると彼は指摘している。

(6)そして、複数の地理及び区域にわたり米中と米露の緊張が高まっている時に、中露海軍の協力のために重要な分野がある。「ロシアと中国の海軍協力の面では、戦術及び作戦レベルでの相互運用性を高める、多くの海洋シアターにおける、共同演習や作戦活動をより重視して強化を続けることを、私は予想している」とMuravievは述べた。

(7)海軍造船の二国間協力も同様に強化されるかもしれない。「中国の企業は、既に、ウクライナとドイツとの防衛協力の停止による不足分を緩和するために、限られた量の船舶用エンジンをロシア海軍に供給している」と彼は述べた。中国が造船産業で過剰生産能力を増大した時に、中国の造船所がロシア向けの船舶全体を建造することは、理にかなっている。「中国の造船会社が、ロシア海軍のいくつかの海軍建造プログラムに関与する可能性がある」と、Muravievは述べた。

記事参照:Russia expands assets and naval horizons across Indo-Pacific

815日「米高官が語る東南アジア軍事協力政策マレーシア国防問題アナリスト論評」(USNI News, August 15, 2018

 フリーのジャーナリストで国防問題のアナリストでもあるマレーシアのDzirhan Mahadzirは、8月15日付でUSNI Newsに"Pentagon Asia Policy Chief Talks South East Asia Military Cooperation, U.S. South China Sea Operations"と題する記事を寄稿し、Randall Schriverアジア太平洋安全保障問題担当国防次官補の言葉を引きつつ、アメリカの対東南アジア安全保障政策の近況について要旨以下のとおり述べた。

(1)アメリカ政府は現在、以下の2点について東南アジア諸国とそれぞれ協議している。ひとつは、現在進行中の海洋安全保障イニシアチブ(MSI)に関連して、どのようなプログラムを支援すべきかについてである。もうひとつは、8月4日、シンガポールで開催されたASEAN地域フォーラムにおいてMike Pompeo国務長官が宣言した、インド太平洋地域向けの2億9050万ドルの対外軍事援助金(FMF)の分配についてである。FMFは、海洋安全保障の強化、人道支援および災害救援、平和維持機能の強化を目的とするものである。

(2)Randall Schriverアジア太平洋安全保障問題担当国防次官補は8月8日、MSIに関連してアメリカが支援するべきプログラムに関しては、個々の国々と個別に、それぞれが何を必要としているかという実態に即してケースバイケースで判断することになると述べた。そうした考慮において、インドネシアやマレーシア、フィリピン、タイ、ヴェトナムが優先国家としてリストアップされている。Schriverはそうしたプログラムの詳細について明言しなかったが、アメリカが支援するプログラムは、東南アジア諸国それぞれの「全体としての防衛計画にうまく適合する」ものであると述べた。そのうえで彼は、MSI下にある国々が強く関心を抱いているのが、海洋状況把握(MDA)能力の強化と、隣国との情報共有・コネクティビティであると論じた。

(3)南シナ海において実施されている「航行の自由作戦」(FONOPs)について、Schriverはそれが全世界的なプログラムの一部であることを指摘し、同地域に限定されるものではないと強調した。Schriverは、アメリカは、南シナ海における中国の行動に対するアメリカの対応のひとつとして、FONOPsを継続するであろうと述べた。。そしてそれは、アメリカ単独の行動ではなく「(抄訳者注:中国が主張する)領海内での行動を起こすつもりはないが、南シナ海におけるプレゼンスを維持する意図を持つ国々」を引き込むものであろう。Schriverはそうした行動が、国務省を通じた外交的な行動を含めた、軍事的なもの以外にも拡大していくだろうと述べた。

(4)アメリカとマレーシアとの間でこれらの問題に関する具体的な動きが見られている。8月14日にSchriverはクアラルンプールを訪問し、Liew Chin Tong国防副大臣と、そして海軍トップのAhmad Kamarulzaman提督と会談し、両国間の国防協力について非公式に議論した。2018年5月の選挙後にマレーシアで政権交代が起きてから(抄訳者注:野党連合のパカタン・ハラパンが勝利し、Mahathir Mohamadが首相に就任した)、米政府高官がマレーシアを訪問したのはこれが初めてであった。

(5)今秋、米・マレーシア戦略協議の開催が予定されており、両国間の軍事協力や軍事的活動の範囲について話し合われることになるであろう。マレーシア政府がそうした協力や活動を拡大するのか縮小するのか、あるいは現状を維持するのかについてどう考えているのかは、はっきりしていない。前政権から引き継がれた財政的困難によって、国防関係支出そのものが削減されることは、ありえそうなことである。

(6)その一方で、現在、両国合同で行われている活動や訓練は通常通り進められている。マレーシア軍とアメリカ海軍は現在、マレーシア東部のコタキナバル周辺で、協力海上即応訓練を実施している。これは8月の第2週に開始し、アメリカからは遠征用高速輸送艦USNS Millinocket(T-EPF-3)が参加し、第3海兵隊師団の分遣隊もマレーシア軍との共同訓練を実施している。今後、P-8A哨戒機がマレーシア海軍とともに10件前後の海上訓練を行う予定である。また強襲揚陸艦USS Essex(LHD-2)も訓練に参加している。この訓練に責任を持つマレーシアの統合軍司令本部によれば、Essexから発進した海兵隊のF-35Bが、マレーシア東部のコタブルーにある航空兵器試射場で航空攻撃を実施したというが、アメリカはEssexの訓練への参加をアピールしているわけではない。

記事参照:Pentagon Asia Policy Chief Talks South East Asia Military Cooperation, U.S. South China Sea Operations

816日「東シナ海における領域紛争の静かな解決策」(PacNet, Pacific Forum, CSIS, August 16, 2018

 ミズーリー州立大学のDennis V. Hickey教授と国境問題専門家であるジョン・ホプキンス大学国際研究学院のEric Huangは、8月16日付パシフィックフォーラムCSISのPacNetに"A Quiet Solution for the East China Sea Territorial Dispute"と題する論説を発表、要旨以下の通り述べている。

(1)冷戦後の時代を通じて、東アジアの安全保障を不安定化させる3つの発火点が指摘されてきた。それらは朝鮮半島、台湾海峡及び南シナ海であった。近年、これらに日本、台湾及び中華人民共和国(中国)が絡む東シナ海における尖閣諸島(日本における呼称)・釣魚台列嶼(台湾における呼称)・釣魚群島(中国における呼称)紛争が加わった(以下、本抄訳では尖閣諸島と統一して表記する)。 

 日本は1895年、当時無主地であった尖閣諸島を実効支配し領有したと主張しており、日清戦争の終結時の下関条約に基づく領有権の移行ではないとしている。日本はまた、台湾も中国も尖閣諸島の領有を主張し始めたのは、1968年に付近の海底に油田があるとの調査結果が出た後であるとも主張している。台湾はカイロ宣言およびポツダム宣言によって尖閣諸島が台湾に帰属することになったと主張している。中国は、尖閣諸島は日本が奪ったものであり台湾を含む中国のものであると主張している。

 アメリカの統治下にあった尖閣諸島は1971年に日本に施政権が返還されたが、領域主権に関しては触れられなかった。1971年以降、台湾と中国は主権を主張し続けている。

(2)2012年9月11日に日本が尖閣諸島を国有化すると、紛争は収拾がつかない状況を呈することとなった。「現状維持が瓦解した」との分析もあった。9月25日には台湾の沿岸警備隊に護衛される形で漁船団が尖閣領海に進入し、日本の巡視船は放水砲による対応に迫られた。中国は多数の巡視船を尖閣諸島の12マイル以内に送り込み始めた。中国はまた、11月23日には東シナ海に防空識別圏(ADIZ)を設定すると宣言した。このような状況に鑑み、2014年4月にObama大統領が尖閣諸島には日米安全保障条約が適用されると述べることになった。

 尖閣諸島を巡る日本と台湾との対立は2013年に日本が台湾に対して追加的漁業操業海域を提供したことから、改善の様相をみせるようになった。日本と中国の間では、2014年に対話を通じて危機管理メカニズムを構築することを含む合意が結ばれ、2015年にホットラインなどによる危機管理メカニズム構築のための代表団の交流が始まった。尖閣諸島を巡る武力紛争生起の事態を回避できるものとして期待されたが、2018年1月26日に日本が新たに国立の領土・主権展示館を会館し、更に2018年7月17日に文部科学省が国家領域に関する教育を促進するとの計画を示すと、台湾と中国は怒りを爆発させることになる。

(3)台湾は馬総統政権下の2012年8月に、紛争当事国が主張を抑制し、争点を棚上げし、国際法を尊重して平和的対話で取り組む「東シナ海平和構想」を提唱したことがある。馬総統は、主権を分割することはできないが資源は共有できると論じ、日本、台湾と中国は、東シナ海の資源開発で共同すべきであると論じた。東シナ海には重要なシーレーンと航空路が通っており、そこにおける紛争の平和的解決はそれぞれの紛争当事国にとっても国益に適うものである。

 Obama大統領は尖閣諸島を含む日本の施政下にある領域を防衛することを確認し、Trump政権もこれに異を唱えてはいない。静かな外交をもって、アメリカは日本に対し、アメリカの日本の防衛に対するコミットメントは確かなものであることを示し、日本は尖閣諸島の主権を巡る問題が存在することを認め、紛争収拾のための時機であることを認識すべきである。台湾の馬政権が示した思慮あるアプローチ策が考察されるべきである。この方策こそ、発火点の顕在する海を鎮めるための唯一の方策のように思われる。

記事参照;A Quiet Solution for the East China Sea Territorial Dispute

818日「核の運搬手段を拡充し、長距離爆撃能力を向上させる中国米専門家評論」Military Times.com, August 18, 2018

 米Military Times国防省編集局長Tara Coppは、8月18日付のweb紙、Military Timesに、"China, close to establishing its own 'nuclear triad,' has practiced targeting US"と題する論説を寄稿し、中国は長距離爆撃能力の整備により、陸海空横断の"トライアド"な核運搬手段をそろえ、米軍との戦力差を埋めつつあると指摘した上で、要旨以下のように述べている。

(1)米国防省は、ここしばらく太平洋地域の指揮官が用心深く見てきたことを初めて公表した。即ち、中国による米国の標的に対する長距離爆撃航程の演習である。

(2)米国防省は、中国の陸・海・空軍の急速な能力拡大に関する年次報告を出しているが、2018年の報告書は米国領土に対する直接的な脅威を初めて認めた。報告書は、中国によるTu-16戦略爆撃機の派生型H6-Kを巡る最近の開発の進展が同機に「6発の地上攻撃型巡航ミサイルの搭載能力を付与し、グアムを射程に収めることができる長距離スタンドオフ精密攻撃能力を人民解放軍に与えている」と指摘する。

(3)昨年10月の米太平洋軍(現:米インド太平洋軍)訪問に際して、国防当局者はMilitary Timesに、グアムの防空圏を試す中国の頻繁な領空侵犯が太平洋地域で懸念を生じる、中国の行動に起きた多くの変化の1つであると説明した。

(4)7,160億ドルの2019年度国防予算は、主として米国が再び大国間戦争に備えることに力点を置き、新たな戦闘機や爆撃機、艦艇に対して中国に比肩し、それを凌駕する投資を行うものである。

(5)2018年の報告書は「人民解放軍は、中国本土から可能な限り離れた場所で戦闘を行うべく攻撃能力を発展させてきた。過去3年間に亘って人民解放軍は急速に海上爆撃作戦地域を拡大しており、重要な海洋地域での経験を蓄積し、米国や同盟国の標的に対する攻撃訓練であるように思われる」と見ている。さらに厄介なことに同報告書は「核搭載型爆撃機の配備と統合によって、中国に初めて陸海空横断の"トライアド"な核運搬手段がそろった」と指摘する。

(6)中国軍と安全保障の発展に関する議会への年次報告書の公開版は8月16日に公開され、機密版も米議会向けに用意された。報告書は、米国防省が将来的な中国との大国間戦争に備えるべく、自国の国防戦略と投資優先事項を監視し、再調整するとともに、「米国防省の目指すところは、米中両国間に透明性と不可侵に向けた軍事関係を築くことである」と強調している。

(7)長年に亘って米国は、米中の能力は近づいてきているとしてきた。中国の空軍力は、2018年に合計で2,700機以上に達している上に、その内の2,000機は戦闘機である。報告書は中国の戦闘機の内、600機以上が第4世代戦闘機であり、同国が急速に第5世代のJ-20やFC-31等を配備していると強調する

記事参照:China, close to establishing its own 'nuclear triad,' has practiced targeting US

818日「中国が台湾侵攻の能力を準備米国防総省報告書」(Eurasia Review.com, August 18, 2018

 米国のラジオ放送局ラジオ・フリー・アジアは、8月18日付のEurasia Reviewのサイトに"Pentagon Report Says China 'Preparing Military Capability' To Invade Taiwan"と題する記事を提供し、ワシントンの国防総省が発表した軍事分析によると、中国の人民解放軍は台湾に対する侵攻のために徐々に準備しているとして、要旨以下のように報道している。

(1)権力の座にある中国共産党下の軍隊は、「台湾を抑圧し、中国の決意を伝え、侵攻するための能力を徐々に向上させることを意図しており、ますます高度になる軍事能力の開発と展開を継続した」と、米国防総省は、中国の軍事能力に関する年次報告書で述べた。この報告書は、台湾の軍事安全保障は、台湾軍の技術的優位性及び米国が紛争に介入する可能性はもちろん、中国軍が100カイリの台湾海峡を横断して決定的な戦力投射を行う力がないことに大きく依存していると述べた。しかし、台湾を今まで支配したことのない共産党は、「台湾の諸問題に対する外国の内政干渉」とそれが呼ぶものにますます寛容でなくなっていると、同放送局は述べた。この報告書によると、「中国軍の軍隊と支援部隊は、台湾での不測の事態に対する訓練の改善と新しい能力の獲得を継続している」。しかし、差し迫った侵略の準備の兆候はない。台湾の国防省は、現在のその沿岸防衛と攻撃抑止の戦略が「国家安全保障を効果的に確保する」と述べた。

(2)報告書は、その軍事防衛と準備を強化するために、台湾の軍事予算の最近の増加を指摘した。最近の世論調査は、大多数の有権者が中国人ではなく台湾人と認識している台湾における自治への広範な政治的支持があることを示している。しかし、北京は、この島を中国の一部とみなし、台湾が正式な独立を求めるならば侵攻すると脅している。北京は、「一つの中国」政策の下で、その外交的パートナーが台北との関係を断ち切るべきだと主張することによって、台湾を外交的に隔離することに成功している。時代力量所属の議員徐永明は、中国本土は現在、台湾の潜在的な侵攻を長期的に準備しており、そのスパイはこの島で非常に活発であると述べた。

(3)北京では、北京大学の国際学の専門家梁雲祥が、中国は、実際にその軍事力を発展させていると述べた。「中国は米国に挑戦するつもりはない、と繰り返し主張している。なぜワシントンはそれを信じていないのか?」「実際には、軍事的なハードウェアを増強するだけでなく、外交ルートを使って、双方が最新の注意を払っているため・・・衝突は不可避ではない」「対話があれば、相手側が実際に何をしているのか把握することが可能だ」と梁は述べた。

(4)しかし、台湾の軍事アナリストであるErich Shihは、蔡英文の下での台湾の与党民進党の政策は、政治的緊張の高まりをもたらしたと述べた。「一つの中国」政策に関して、1992年に北京と締結した合意への署名に対する蔡の拒否は、平和的な「統一」への可能性が消滅したと共産党が考えることに基づく敵対心を引き起こす可能性があると彼は述べた。「厳密に言えば、台湾軍は本土に効果的に抵抗できる」「これは10日間、又は2週間は問題ではないだろうが、1年半の間、彼らを退けるということは非現実的である」と、Shihは述べた。彼によると、中国軍には、封鎖や出入港禁止を含む、台湾に対する軍事力の使用のための多くの選択肢がある。台湾の経済は、外国の航空及び海上輸送の結び付きに依存しており、わずか2週間封鎖されれば深刻な問題を抱える可能性がある、と彼は述べた。

(5)ワシントンの報告書によると、台湾は、戦略的重要性をもつため、中国軍の指導部が特定する地理的区域の1つであり、依然としてその主な「戦略的方向性」のままである。中国は、大規模な軍事キャンペーン中に「断念させる、抑止する、又はもし命じられれば、第三国の介入を打倒する」能力を開発し続けていると付け加えられている。

記事参照:Pentagon Report Says China 'Preparing Military Capability' To Invade Taiwan

820日「マハティール・ドクトリンを読み解くマレーシア国際関係専門家・マレーシア国防副大臣論評」(The Interpreter, August 20, 2018

 The National University of Malaysia准教授のCheng-Chwee Kuilと、現在マレーシアの国防副大臣を務めるChin Tong Liewは、8月20日付でThe Interpreterに、"Decoding the Mahathir Doctrine"と題する論説を寄稿し、ここ最近で徐々にその輪郭がはっきりしてきたように見えるMahathirドクトリンについて、要旨以下のとおり述べた。

(1)マレーシアで2018年5月に行われた選挙において政権交代が実現し、93歳になるMahathir Mohamadが首相に就任、復帰した。彼は、トランプ・習近平時代とも呼べる現在の世界における、小国の視点を反映させた一連の発言を行った。それには南シナ海論争に関する強硬な姿勢、マレーシアとアジア諸国との関係、多国間の協調的な貿易協定などに関するものが含まれていた。そのなかでも、「軍艦は別の軍艦を呼び込む」という発言は、マレーシアの対外政策において「Mahathirドクトリン」と呼びうるものが顕在化しつつあるのかどうか、外交関係者の間で論議を呼んだ。

(2)Mahathirの最近の発言、および彼が最初に首相を務めた1981年から2003年(Mahathir 1.0)の間の政策から判断すると、顕在化しつつある「Mahathirドクトリン」の中心的な要素として以下の3点を挙げることができよう。

a.南シナ海は衝突の場ではなく、協調やコネクティビティ、共同体構築(community building)の場である。

b.東アジアに限らず、国家間紛争を解決するカギとなるのは、軍事的威嚇ではなく外交的協議である。

c.大小問わずあらゆる国々が、巨大市場の統合および創設などを通じて、東アジアにおける共同体構築において建設的な役割を果たすことを歓迎する。ただしそうした構造において、小国の利益は尊重され、保護されねばならない。

 いずれも、大国同士の敵対関係が深まることのリスクに対する小国の敏感さを示していると言えよう。

(3)Mahathir 1.0のもと、マレーシアは小国でありながらも東南アジア全域にまたがる諸々の構想を提案していった。たとえばそれには、1989年の東アジア経済グループ(EAEG)構想や、アジア金融危機におけるASEAN+3(ASEANおよび日中韓)協力の実践、シンガポール・昆明鉄道(SKRL)構想のための作業部会の発足などが挙げられる。端的に言えば、それらは、中国のような以前の敵をもその枠組みに取り込むような包括的な試みであった。

(4)ただし、そうした試みのすべてが成功したわけではない。たとえばEAEG構想は実現に至らず、EAEGが希釈されたような性格の1993年の東アジア経済コーカス(EAEC)でさえそうであった。またMahathirは、その反西洋的・反ユダヤ的発言について批判を受けることも多かったし、彼の事業には投資に見合うだけの成果を出せなかったものもある。しかし、すべてがうまくいったわけではないものの、なお彼は、ムスリムや発展途上国の多くの人々から第三世界の勇敢な指導者と認識されてきた。

(5)2018年8月現在、Mahathir政権第二期(Mahathir 2.0)は、Mahathir 1.0の時代とは国内的にも対外的にも大きく異なった時代に直面している。対外的には、アメリカがなお世界最強国として君臨し続けてはいるが、Donald Trump政権の方針は予測が困難である。他方中国が習近平政権のもとでますます強大かつ強引になっていき、南シナ海などで海洋の新たな局面をつくりあげている。米中関係周辺の不安定化が進むにつれ、日本やインド、オーストラリアなど周辺地域の国々がそれぞれの「インド太平洋」戦略を推し進めている。こうした状況は、マレーシアのような小国にとって、新たな機会を提供するものでもあり、かつ困難を提供するものでもある。国内的には、2018年5月の選挙後の予想外の政権交代が、新たなエネルギーや希望を示したように見える一方で、新生マレーシアは、新たに、あるいは引き続き多くの困難に直面することになった。それは政府の負債および財政赤字、アイデンティティ・ポリティクスに至るまで多岐にわたるものである。

(6)「Mahathirドクトリン」は、上記の対外的・国内的要因によって動機づけられ、かつ制約されるものであるが、その性格は以下の3つの政策領域においてとりわけはっきりしているように思われる。

a.南シナ海における小国の利益の確保である。Mohamad Sabu国防大臣は、米中の軍艦がマレーシアの領海にとどまるべきではないと主張し、Saifuddin Abdullah外務大臣はASEANに対し、南シナ海における状況の調整のために指導的かつ積極的役割を果たすよう呼びかけている。

b.マレーシアが大国間の緊張関係の高まりを和らげる役割を果たす。マレーシアが中立を維持し、外交的協議の重要性を強調し、アジアの多国間協調主義の幅を広げることで、そうした役割を果たすことができよう。

c.小国や発展途上国が先進国とも競合できるような貿易システムの構築に力点を置く。

(7)Mahathir 2.0のもとでのマレーシアの対外政策は、安定的で平和的、かつ建設的な外的環境の確保を目的としており、それによって国内成長と地域的弾力性の強化が期待できる。その目的に向けてマレーシア政府はその交渉能力の強化を目指している。その点において、マレーシアは自国の地理的環境(インド洋と太平洋の間に位置するユーラシア大陸の南端)からある程度の強みを有している。またマレーシアが、戦略的中立という立場を採用することに加え、多国間協調体制のプラットフォーム構築(拡大版EAEC構想や、マレーシア半島縦断高速鉄道に関する協議もそれに含まれるだろう)に前向きであるという姿勢を表明していることは、同様にその交渉能力の強化に資するものであろう。

(8)「Mahathirドクトリン」は、その本質において、再調整された等距離外交である。マレーシアはいかなる国家にも与しないと強調する点において、それは等距離外交である。他方、小国であるマレーシアが東南アジアに位置し続けるなかで、現在、東アジアおよびそれ以外の地域との商業的、文明的コネクティビティのつながりを利用することで、増大する国内の必要性や外部の不安定化に対処するために、よりバランスのとれた連合関係の模索を意図しているという点において、それは再調整されたものと言えるのである。

記事参照:Decoding the Mahathir Doctrine

820日「中国『海上民兵』の実態、『中国軍事力2018』で言及米海大教授論評」(The National Interest, August 20, 2018

 米国防省は8月16日、中国の軍事力の動向に関する年次報告書、"Congress on Military and Security Developments Involving the People's Republic of China"*(以下、「中国軍事力2018」と表記)を公表した。米海軍大学教授で、中国の「海上民兵」に詳しい、Andrew Ericksonは、米誌The National Interest(電子版)に8月20日付けで、"Exposed: Pentagon Report Spotlights China's Maritime Militia"と題する論説を寄稿し、米国防省が2017年版(56頁、15行)に続いて、「中国軍事力2018」(72頁)ではより多くの行数(25行)を費やして「海上民兵」(People's Armed Forces Maritime Militia: PAFMM)に言及していることについて、米政府が公式の報告書で、余り知られていない中国の第3の海洋戦力である、「海上民兵」に光を当てたことを高く評価し、「中国軍事力2018」の関連記述を引用しながら、「海上民兵」の実態について、要旨以下のように述べている。

(1)北京は、南シナ海と東シナ海における係争中の領有権主張を推し進めるために、「海上民兵」を活用している。中国の第3の海洋戦力である「海上民兵」は、第1戦力である海軍と第2戦力である沿岸警備隊(海警局)としばしば連携して行動する。最近の行動事例について、「中国軍事力2018」は、「中国は、その国益を追求し、他の国々の反対を抑え込むために、威嚇的措置を講じることを躊躇わない。2017年8月に、中国は、海軍、沿岸警備隊そして『海上民兵』が連携して、南沙諸島のThitu Island(比支配、中業島)周辺海域に展開し、Subi Reef (渚碧礁、中国支配の滑走路を有する人工島)とThitu Islandから12カイリ以内に位置する砂洲、Sandy Cay(比支配、鉄線礁)に国旗を打ち立てた。この行為は、フィリピンがThitu Islandの滑走路の補強を計画しているとの報道に対する対抗措置とみられる」と述べている(以下、「」付き記述は「中国軍事力2018」からの引用)。

(2)これら3つの海洋戦力は中国軍の海洋部門を構成する戦力で、「中国海軍、沿岸警備隊、『海上民兵』は何れも、インド太平洋地域で最大の戦力である。」まず、「海軍は、水上戦闘艦、潜水艦、両用戦艦、哨戒艦艇及び特殊艦船を300隻以上保有する、域内最大の戦力である。」しかも、これは、2018年8月17日の時点で、米海軍の展開可能戦闘艦艇282隻より多い、世界最大の艦艇隻数である。第2に、「2010年以降、沿岸警備隊の大型巡視船(排水量1,000トン以上)は約60隻から130隻以上に大幅増となっており」、「世界最大の沿岸警備隊戦力で、係争海域における同時多様な任務遂行能力を増強してきている。」第3に、北京は、明らかに世界最大で最強の「海上民兵」を有している。今日、「海上民兵」を保有している国はほとんどなく、しかも領有権紛争に関与しているのは事実上、中国の「海上民兵」だけである。北京による「海上民兵」の活用は、地域の現状維持を求める米国と国際社会の利益を脅かしている。「海上民兵」は、特に他の関係当事国による効果的な対応を難しくする、グレーゾーン領域で行動する。ある中国筋の表現を借りれば、これは、「海洋権益擁護のための低烈度闘争」への「海上民兵」の関与である。「中国軍事力2018」によれば、「海上民兵」と沿岸警備隊は「海洋紛争における低烈度威嚇作戦に使用される」、「中国は、紛争海域に対する効果的な支配を強化するとともに、他方で軍事紛争にエスカレートするのを回避する措置を、機を見て漸進的に強めていく」、特に「『海上民兵』は、領有権主張や海洋権益を推進するために、低烈度の威嚇活動に投入できる。」こうした「海上民兵」の活動はこれまで余り公になることはなかったが、幸いにも、米政府は、「海上民兵」の行動を認識しており、しっかりとモニターしている。

(3)中国の「海上民兵」は、習近平主席を最高指揮官とする軍事指揮系統の下にある。「中国軍事力2018」が指摘するように、「『海上民兵』は、動員可能な一般人の武装予備役戦力である中国民兵の下部組織である。民兵部隊は、町、村、都市そして企業毎に組織され、その組成も任務も多様である。」「海上民兵」の基準を満たす要員(と所有船舶)は、日常業務を遂行しながら、民兵として―多くの場合、中国海軍によって組織され、訓練され、必要に応じて動員される。「『海上民兵』の船舶の多くは、海軍や沿岸警備隊によって訓練され、そして海洋権益の擁護、監視・偵察、漁業資源の保護、後方支援や捜索救難といった任務で、海軍や沿岸警備隊を支援する。」更に、「政府は、通常の民間商業活動以外に、特別に『公務』を遂行するための民兵船舶を運用する、各種の地方商業組織に補助金を交付している。」中国は、2015年から西沙諸島の三沙市(永興島)で、新たにフルタイムの「海上民兵」―マストに放水銃を装備し、船体を強化した専用船の乗組員として、より専門化され、武装化された給与の高い要員からなる部隊を編成し始めた。「これまで、『海上民兵』は企業や個人から漁船を賃借してきたが、中国は、南シナ海における海洋戦力の一部として国有の漁船団を創設した」、「南シナ海に隣接する海南省政府は、強化された船体と弾薬庫を持つ84隻の大型『海上民兵』専用漁船の建造を命じ、『海上民兵』は2016年末までに、これら漁船を巨額の補助金とともに受領し、南沙諸島での頻繁な活動を慫慂された。」この「海上民兵」は、通常の漁労から解放され、平戦時における紛争事態向けに訓練された軽武装の専任部隊で、禁漁期間中でも頻繁に南シナ海に派遣される。米海軍情報部は2018年7月に、"The China's People's Liberation Army Navy (PLAN), Coast Guard, and Government Maritime Forces 2018 Recognition and Identification Guide"**と題する、中国海軍、沿岸警備隊及び「海上民兵」の保有艦船の識別図を公表した。それによれば、三沙市「海上民兵」が運用する「海上民兵」専用漁船には3つのタイプがある。

(4)「海上民兵」部隊は、多くの国際的な海上紛争事案に関与してきた。「『海上民兵』は、2009年の米調査船、USNS Impeccableに対する妨害事案、2012年のScarborough Reef(黄岩島)での対峙事案、2014年のベトナム沖での石油掘削リグ、Haiyang Shiyou(海洋石油)981設置を巡る中越対峙、及び2016年の尖閣諸島での紛争など、ここ数年の多くの威嚇的行動で重要な役割を果たしてきた。」特に、東シナ海における「海上民兵」の活動が公式の公開情報によって確認されたことは重要である。「海上民兵」が東シナ海でも挑発的行動を仕掛ける権限を与えられていることは明らかである。従って、外国船舶に対する接近妨害活動を含む、東シナ海での「海上民兵」の活動を否定しようとする北京の如何なる試みも、容易に論破できる。「中国軍事力2018」が指摘するように、「『海上民兵』 は、南シナ海でも、東シナ海でも活発に活動している。」「中国軍事力2018」が東シナ海における「海上民兵」の活動を公にしたことは、北京がこの第3の海洋戦力を日本管轄下の尖閣諸島に対して圧力をかけるためのツールとして行使し続けることが確かであるということを、東京とワシントンの政策決定者は留意しておくべきである。また、南シナ海でも、「戦争に至らない対決作戦が政治目的を達成する有効な手段になり得るとする、中国の包括的な軍事ドクトリンの一環として、戦わないで中国の政治的目標を達成するための威嚇的な行動において、『海上民兵』は重要な役割を果たしている。」

(5)結論として、国防省が公式の報告書である「中国軍事力2018」において、「海上民兵」の実態とその活動を白日の下に晒すために、その分析能力を傾注したことは賞賛に値する。今や、中国の「海上民兵」が国家によって組織され、整備され、そして中国国家が主導する活動を遂行する、軍の直接指揮系統下で行動する統制された戦力であることは、否定しようもない事実である。「海上民兵」の実態とその活動を暴くことは、その将来的な活用を抑止する重要な措置であるが、北京の第3の海洋戦力による有害な挑戦に対処するためには、より以上の努力が必要である。国防省の重要は報告書が強調するように、「中国は、東シナ海と南シナ海におけるその領有権主張を押し進めるために、低烈度の威嚇行動を続けている」からである。

記事参照:Exposed: Pentagon Report Spotlights China's Maritime Militia

備考*:Annual Report on Military and Security Developments Involving the People's Republic of China

備考**:The China's People's Liberation Army Navy (PLAN), Coast Guard, and Government Maritime Forces 2018 Recognition and Identification Guide

【参考記事】本件はCenter for a New American SecurityのPatrick M. Cronin博士ら5名の研究者が執筆し、2017年5月に出版された記事であるが、前掲記事の元になった米国防総省の議会報告Military and Security Developments Involving the People's Republic of China 2018を理解するうえで有意の資料と思われるため、参考として掲載する。

20175月「3つの海を越えて米研究者論説」(Center for a New American Security, May 2017

 米国のシンクタンクCenter for a New American SecurityのPatrick M. Cronin博士ら5名の研究者が外洋海軍を目指す人民解放軍海軍について分析し、同センターから出版されたBeyond the San Hai: The Challenge of China's Blue-Water Navyの中心的論点と提言である。

 なお、ここで言う3つの海とは黄海、南シナ海、東シナ海を指す。

(1)重要な評価

a. 米国は何十年にもわたって外洋において挑戦されることのない優位を享受してきた。しかし、人民解放軍海軍の急速な出現はこの時代の終焉を告げている。「台頭する中国」ではなく「台頭した中国」に米国とその同盟国は備え始めなければならない。中国の拡大する海軍力は把握するのが困難な含意を持っており、さらに重要なことに無視することのできない影響の重大さがある。だからこそ、米国及びその同盟国の政策立案者は今そのことをますます考慮する必要がある。

b. 中国は2030年までに外洋海軍を保有する。中国は自国近海に焦点を当てた大陸国家から、2つの大洋に焦点を当てた海洋大国に急速に自己変革を遂げつつある。人民解放軍海軍は3つの海、すなわち黄海、南シナ海、東シナ海を越えて太平洋とインド洋に目を向けつつある。

c. 中国はインド洋地域での軍事的影響力を追求している。中国はインド洋地域を通るエネルギーと産品の流れに依存しており、地域の海上交易と政治的安定に大きな関心を持っている。中国はこの関心を外交と「一帯一路」として知られる大規模なインフラ開発を通して遂行してきた。しかし、中国は軍事的影響力も追求している。港湾の軍民両用計画、ジブチの軍事基地建設、増大する地域への部隊の展開は、2030年までに中国がインド洋地域での軍事大国になることを強く示唆している。

d. 世界規模の人民解放軍海軍は協調と対立をもたらす。米中は人道支援、災害救援、海賊対処などの任務について特にインド洋、中東において協調する新たな機会を得るだろう。協調がインド洋から中国近海に転移することは無さそうである。逆に、対立は中国近海からインド洋に拡散するかもしれない。

e. 中国の新たな能力は、同盟国が見捨てられるとの危惧を増大させる。中国の接近阻止/領域拒否能力は、すでに南シナ海、東シナ海、台湾海峡をめぐる近海での紛争で影響力を中国に与えている。これらが中国の増強される外洋兵力投射能力、水陸両用戦能力と結合したとき、中国は米国とその同盟国に対して近海での紛争において際だった優位を獲得するだろう。米国に方策がなければ、日本、韓国、台湾は見捨てられるのではないかとのおそれを増大させるだろう。これらの国は米国の利益に反する余分な投資、防衛戦略、さらには紛争の原因となっている。

f. 外洋における米中対立の将来の傾向は、米中が外洋をめぐって対立しているので、サイバー空間が重要な前線かもしれない。より世界的規模で展開しているため、サイバー空間の対立において中国よりも米国は脆弱である。

(2)鍵となる提言

a. 海洋における中国の挑戦を真剣に受け止める。中国の接近阻止/領域拒否能力は既に米国の東アジアにおける展開を危うくしており、その外洋作戦能力は海洋における対立の新たな領域を開くおそれがある。新政権は、これらの能力を真剣に受け止め、中国が国際政治を全く作り替え、米中の安全保障上の対立を世界中に拡大する可能性があり、世界規模となった人民解放軍海軍を扱うウォーゲームと戦略計画を修正することを理解しておかなければならない。

b. 中国の危険の均衡操作へ対応。中国の危険を受容しようとする行動は、危険を回避しようとする米国に対する際に、北京にある優位を与えている。この非対称を扱うに当たって、米国の展開が中国を誘発する原因とならないことを確実にするため、米国は航行の自由作戦の事前通告を止め、第1島嶼線内での空母の行動を継続し、南シナ海への恒久的な艦艇の展開をしなければならない。

c. 米国の海洋能力への投資。米国はその外洋海軍と統合軍の能力が中国の海軍拡張と争うのに十分な量と質であることを確実にしなければならない。2030年までに人民解放軍海軍は500隻に達することから、米海軍は最低350隻に向けて動かなければならない。海洋における統合部隊の任務に必要不可欠な海兵隊空軍、陸軍の能力は強化しなければならない。

d. アジアにおける米軍の前方展開を維持と、多様化。米国がアジアにおいて前方展開を引き受け約束することは同盟国を安心させ、中国を抑止し、重要な海上交通路に対する影響力を確実にする。この姿勢を強化するため、米国はグアム、韓国を母港とする艦艇を追加するだろう。米国はまた、ディエゴ・ガルシアの機能を向上させ、中でも豪印と新しい(インド洋への展開の)輪番制に関する合意を結ぶことで、インド洋地域に向けてその態勢を南方に指向した多様化を図るべきである。

e. 米国の同盟国、協調国を適応させ、進歩させる。同盟国の懸念に対応するため、米国は同盟国との定期的な協議を継続し、前方展開を強化し、同盟国が責任を分担するよう奨励しなければならない。同盟は、同盟国あるいは協調国とのより強固な結合性と相互運用性を促進することで強化できる。最後に、インド洋地域の協調国、特にインドとの協力と安全保障対話は、米国が中国の外洋における行動を方向付けるのに助けとなる。

f. 協調できる領域の発見。米国は世界規模で行動する人民解放軍海軍と人道支援、災害救援、海賊対処や類似の任務において協力する機会を模索すべきである。この機会の追求において、日印豪やアジア諸国を含めるよう努めなければならない。それ故、そのような構想は純粋に2国間のものではない。

g. 多国間枠組みの制度を統合、強化。中国のエネルギーを建設的な多国間枠組みの安全保障の協力に向けさせるため、米国は一帯一路のような中国の構想やインド洋地域、東アジアでの中国以外の国の構想を含む多国間枠組みの組織に関与すべきである。

記事参照:Beyond the San Hai: The Challenge of China's Blue-Water Navy

Full Report: Beyond the San Hai: The Challenge of China's Blue-Water Navy

https://s3.amazonaws.com/files.cnas.org/documents/CNASReport-BlueWaterNavy-Finalb.pdf

【補遺】

旬報で抄訳紹介しなかった主な論調、シンクタンク報告書

FACT SHEET: Military and Security Developments Involving the People's Republic of China 2018

https://media.defense.gov/2018/Aug/16/2001955283/-1/-1/1/2018-CMPR-FACT-SHEET.PDF

US DOD, August 16, 2018

 米国防総省は中国の軍事力に関する議会への報告書"2018 report to Congress on Military and Security Developments Involving the People's Republic of China"を公表し、同省ホームページのFACT SHEETに2017年の注目点を掲載した。その中でも、海外メディアは人民解放軍海軍陸戦隊の3万人への増強、人民解放軍空軍の核任務への復帰と核の3本柱の概成などを報じている。