海洋安全保障情報旬報 2018年8月1日-8月10日

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83日「ASEAN・中国海洋演習―RSIS専門家論評」(RSIS Commentaries, August 3, 2018

 シンガポールの南洋工科大学S.ラジャラトナム国際関係学院(RSIS)の研究員であるKoh Swee Lean Collinは、8月3日付のRSIS Commentariesに"Inaugural ASEAN-China Maritime Exercise: What To Expect"と題する論説を寄稿し、初開催のASEAN・中国海洋演習は、南シナ海における紛争の進行にもかかわらず、信頼醸成と海洋安全のための実践的な措置を推進する前向きな第一歩となるとして、要旨以下のように述べている。

(1)今週、シンガポールは、2018年8月2日から3日にかけて行われた初のASEAN・中国海洋演習の机上演習(TTX)を開催した。この演習は、各国国防相が2018年にASEAN・中国海洋演習を行うことに合意した、今年2月のASEAN・中国国防相非公式会合のフォローアップである。

(2)ASEANと中国は、捜索救助(SAR)及び医療救助処置を含む海洋事件に対応するための計画を策定するための基盤として、2014年4月に西太平洋海軍シンポジウムで初めて公表された、「洋上で不慮の遭遇をした場合の行動基準」(CUES)を使用する。

(3)そのような演習は、一般に陸上と海上のフェイズで構成されており、このTTXは、今年後半の実動演習(FTX)につながる。このアイデアは2016年5月のASEAN・中国国防相会合で提案されたが、南シナ海に関する常設仲裁裁判所の裁定の発表のわずか1ヵ月前で、最も緊張が高まっていたため、当時は初期段階だった。2016年7月12日の仲裁裁判所の重大な発表後、ASEANと中国の双方は、緊張を和らげるために大慌てで取り組んだ。同年9月にビエンチャンで開催された第19回中国・ASEANサミットでは、11ヵ国が、"Guidelines for Hotline Communications among Senior Officials of the Ministries of Foreign Affairs of China and ASEAN Member States in Response to Maritime Emergencies"を合同で検討し承認した。この文書の「海洋緊急事態」は、2002年11月に署名された南シナ海における行動宣言(DOC)に言及し、「DOCの完全かつ効果的な実施に関する政策レベルの介入を直ちに必要とする南シナ海における事件」と定義されていたことは注目に値する。

(4)さらに、同会合では、「南シナ海における洋上で不慮の遭遇をした場合の行動基準の適用に関する共同声明」も採択された。確かに、CUESはすでに、2014年以来、様々な二国間又はより広範なフォーマットに組み込まれ、日常業務において実践されている。このように、共同声明は、海軍間の不慮の遭遇時の衝突防止又は緩和におけるこのメカニズムの有用性を強化する。さらに、この初開催のASEAN・中国演習へのその組み込みは、地域の海洋の安定性を促進する、その重要性の再強調である。

(5)伝統的形態の協力的海軍外交としての多国間海洋演習は、この地域の新しいことではない。特にASEANと中国の間ではそうである。このような演習は、各ASEAN海軍とそれらの中国のカウンターパート間の二国間のものを含め、様々な形式のものが以前から行われている。しかし、これらは、捜索救助(SAR)や船舶間無線交信など、あまり複雑ではなく、あまり議論を引き起こさない種類の演習リストを対象にする傾向がある。注目すべき例は、ASEAN 10ヵ国すべてが参加した2016年5月の"ADMM-Plus Maritime Security and Counter-Terrorism Exercise"である。また、2017年10月、中国と一部のASEAN加盟国は、湛江の沖で"Human Life Rescue and Win-Win Cooperation-themed"捜索援助演習を実施した。

(6)懐疑論者は、この出来事を新たな「展示品」として片付けるかもしれないが、支持者は、共同でこの海域の平和と安定を推進するASEANと中国の能力の新たな輝かしい例として、この演習を歓迎するだろう。当然のことながら、紛争解決のための道はまだまだ長い。ASEANのある程度の楽観にもかかわらず、提案された行動規範(COC)は、実現には時間がかかる。COCの最終的な公布は、せいぜい不確実な見通しであると見なすことが無難である。しかし、海軍が南シナ海の海域を徘徊し続けることも明らかである。いかなる海洋緊急事態も迅速な集団行動を必要とし、それがCUESのような既存の信頼醸成措置が一層重要になる点である。地政学的観点よりも人道主義から見れば、この初開催のCUESを基礎にしたASEANと中国の海洋演習は、ASEANと中国の海軍が南シナ海で信頼を構築し、海洋の安全を促進するために導入することができる新たな実践的措置を始動させる。

記事参照:Inaugural ASEAN-China Maritime Exercise: What To Expect

84日「南シナ海における事態の進展、冷静な評価の必要性――シンガポール海洋安全保障専門家論評」(Channel News Asia.com, August 4, 2018

 シンガポールの南洋工科大学S.ラジャラトナム国際関係学院(RSIS)で研究員を務めるKoh Swee Lean Collinは、8月4日付のChannel News Asia .comに、"Commentary: A sober assessment of the recent 'breakthrough' on the South China Sea"と題する論説を寄稿し、8月2日のASEAN・中国外相会議における「南シナ海に関する行動規範」(COC)をめぐる合意について、交渉の前進を一定程度評価しながらもなお楽観視できないとして、要旨以下のとおり述べた。

(1)ここ最近COCに関する前向きな展開が見られた。2017年8月にはCOCに関する枠組み草案が採択された。今年の8月2日には、中国とASEAN諸国との間で、「これからのCOC交渉のたたき台」としてCOC草案の一本化について合意した。シンガポールのVivian Blakirishnanはこの動きを「さらなるマイルストーン」と表現した。

(2)この1年間で確かに状況は大きく前進したように見えるが、現実を注意深く検討する必要がある。確かに昨年8月以降、空および海上においてインシデントが報告されることはなかった。しかしそのことは関係各国があらゆる行動を自制していることを意味しない。たとえば中国は、南沙諸島への長距離ミサイルの配備、西沙諸島への戦略爆撃機の配備、係争水域における電子ジャミング装置の試験などを行い、南シナ海における軍事的プレゼンスを強化しようとしてきた。

(3)中国を取り巻く外交環境には厳しいものがある。今年、中国海軍はハワイで開催された環太平洋海軍合同演習に招待されなかった。またアメリカとの貿易戦争が続き、さらには一帯一路政策における「債務の罠」について批判を受けている。そうした状況において中国は、そうした批判を和らげ、さらに軍事的プレゼンスの強化をとおして南シナ海で獲得したものを保持するために、南シナ海をめぐる外交について前向きな進展を望んでいるのである。

(4)ASEAN諸国についても、南シナ海をめぐる現状はまったく楽観的なものではなく、COC交渉の前進のためにCOC草案を求める強い動機があった。ただしASEAN諸国もそれぞれに異なる立場にあり、必ずしも見解が一致していたわけではない。例えばベトナムは、文書草案の議論に際して中国の行動に対して最も強く抵抗した。他方、昨年議長国として枠組み草案の取りまとめに尽力し、今年8月2日以降ASEAN・中国間関係におけるASEAN側コーディネーターになったフィリピンは、独自にこの問題解決を進める動機を有していた。それはフィリピンのRodrigo Duterte大統領に対する国民の不信感である。今年7月に実施されたSocial Weather Stationの調査によれば、フィリピン国民の約8割が南シナ海問題についてDuterte政権は無為無策であると不満を持っているという。Duterte政権はこうした不満の声への対応として、この問題を前進させねばならない。

(5)諸々の事情があるにせよ、ASEAN諸国は一本化されたCOC草案の完成に合意するであろう。しかし、11の国々が合意するためには、その草案における言葉遣いやトーンなどが問題となるであろう。交渉が継続するさなか、重大なインシデントは起きないかもしれないが、それぞれ領土主権を主張する国々、とりわけ中国は、「防衛的準備」という曖昧で論争的な概念のもと、これまでどおりの行動を継続するであろう。インシデントが絶対に起きないというわけでもない。現場における計算違いがエスカレーションし、COC交渉を頓挫させる可能性もある。

(6)そのため、COCの詳細を詰めることに時間がかかるかもしれないが、その間、これまで同様に信頼醸成措置を勧めていく必要もある。これに関しては中国とASEAN合同の海上演習が今年末に予定されている(図上演習は8月の1週目に実施された)。こうした行動は、2014年に青島で開催された西太平洋海軍シンポジウムで採択された「洋上での不慮の遭遇をした場合の行動基準」(CUES)に基づいている。CUESは今度も関係諸国間のインシデントを防ぐ防波堤の役割を果たすであろう。さらに今後はCUESをより包括的なものにしていく――参加国の増大、空や海中の領域への拡大など――ことが重要である。それによって南シナ海における平和と安定の保障をより確かなものにしていく必要がある。

記事参照:Commentary: A sober assessment of the recent 'breakthrough' on the South China Sea

85日「南シナ海で軍事プレゼンスを示すフランス、軍事力を通じた対中メッセージ―英専門家評論」South China Morning Post.com, August 5, 2018

 ロンドンに拠点を置くシンクタンク、欧州外交評議会(ECFR)上級政策研究員Mathieu Duchâtelは、8月5日付のSouth China Morning Postに、"How the French military's 'political messengers' are countering Beijing in the South China Sea"と題する論説を寄稿し、南シナ海におけるフランス空・海軍のプレゼンスは、共通のルールと規範に基づく海洋安全保障を支持するものであると指摘した上で、要旨以下のように述べている。

(1)フランス空軍は7月27日以降、3機のラファールB戦闘機、1機のA400M兵員輸送機そして1機のC135空中給油機をオーストラリアのノーザンテリトリーに展開させている。これは、多国間合同演習「ピッチブラック」の一環である。また、8月にはフランス空軍の部隊がインドネシア、マレーシア、シンガポールおよびインドを訪問する「Mission Pegase」が行われるだろう。フランス国防省は、同ミッションを「フランスの主要パートナー諸国との関係を深化させ」、「世界中でフランス空軍が展開できる稼働状態を維持し、フランスの戦力投射能力と国防航空機産業を宣伝する」一助だと説明している。「Mission Pegase」の際にフランス空軍の部隊は南シナ海南端を通過するだろうが、これによってフランスは自国が国連海洋法条約における「航行の自由」と「上空通過の自由」と考えるものを主張する新たな機会を得ることになる。

(2)フランスは空軍力を示すことに加えて、南シナ海で定期的な海軍の展開を行っている。海軍士官候補生の運用教育を行うフランス海軍の年次訓練ミッション「ジャンヌ・ダルク」では、2015年以降、春に南シナ海を定期的に航行している。それに加えて、2014年、2015年そして本年にはフリゲート艦「ヴァンデミエール」が、2017年にはポリネシアを母港とするフリゲート艦「プレリアル」が、2016年には対潜FREMMフリゲート艦「プロヴァンス」が、2018年には同型艦の「オーヴェルニュ」が係争海域に展開した。

(3)艦艇を定期的に南シナ海に展開するというフランスの決断は、素直に受け取られるべきである。すなわち、演習はメッセージを伝えるものである。他のあらゆる同様な作戦と同じように、重要なことは確実にメッセージが受け手に正確に理解され、その行動に影響を与えることである。

a. 第1のメッセージは中国に向けられており、一言で要約すれば「威嚇に対抗する」ということである。中国が軍事力を用いて、南シナ海において既成事実を作り出すという状況下で、フランス軍が中国の干渉を受けることなく、国際法が認める空間で活動することを北京に伝えることは重要だと考えられている。これこそが10月に人民解放軍海軍が海上の覇権を狙う南シナ海に、FREMM級フリゲート艦「オーヴェルニュ」が初めて配備され、対潜機器試験を行う理由である。

b. 第2のメッセージは国際社会に向けられたものであり、国際法に基づく海洋秩序に対するフランスの支持に関係している。米国海軍と同じくフランス海軍は、無害航行の際に何が許されるのか、あらゆる排他的経済水域で海軍のプレゼンスを維持する権利という、特に議論を呼ぶ2点に関して、国連海洋法条約の解釈を擁護する組織文化を有している。中国が特に南シナ海のスプラトリー諸島に関して、領海と排他的経済水域を巡る主張を未だに明確化していないため、フランスにとっての重要要素は「南シナ海で争われていることは、ルールに基づく国際秩序の未来」という原則である。

c. 第3のメッセージは、とりわけ英国とEUといったヨーロッパにおけるフランスの主要パートナーを対象にしている。2010年の英仏ランカスター・ハウス条約の履行と両軍の合同遠征部隊の創設は、フランスの対英関係の土台であり、ブレグジット下では特段の重要性を帯びる。2017年と2018年の「ジャンヌ・ダルク」ミッションに参加したイギリス海兵隊ヘリコプター部隊に対するフランスの暖かな歓迎ぶりは、東アジアにおける安全保障の潮流に関する評価という点で、イギリスが全ての欧州諸国の中でフランスの考え方に最も近いことを示している。EUに対するフランスの意図は、軍事力を真剣に捉え、ヨーロッパ周辺というよりもグローバルに活動する、共通の外交・安全保障政策を支持する連合を創設することにある。

d. 第4のメッセージは、Macron現政権の下で徐々に現在の形に移行してきた。すなわち、米中対立を希釈する観念として作り出された「自由で開かれたインド太平洋」という用語を明確に是認し、中国の増大する影響力を抑え込む有志連合にインドを加えるということである。「自由で開かれたインド太平洋」は、フランスの専門家集団を引き付けてやまない。なぜならば、この用語はフランスの世界的な安全保障上の影響力にさらなる正当性を付与し、普遍的なルールと規範に基づく秩序を強調するからである。

(5)対中関係のコストを管理するということは、フランスにとって重要な検討事項であり続けてきた。ドイツが率直で、南シナ海にまで及ぶ密室協議を好むのに対して、フランスは衆目を集めることでより多くのリスクを取ってきた。しかしながら、そうしたフランスの姿勢は中仏関係にさしたる影響を与えていない。中仏両国は南シナ海を巡る根本的な相違が、両国関係のほかの領域に影響しないように問題を慎重に管理してきた。

(6)将来を見据えると、フランス海軍が南シナ海でプレゼンスを強化したとしても驚くべきことではない。これまでのところ、ルールに基づく海洋秩序に対するフランスの真剣かつ長期的な関与は、北京においてさえ理解されているように見える。フランスの一連の部隊展開が、中国の南シナ海に対する計算を劇的に変化させるという根拠はほとんどないが、それは問題の本質ではない。重要なことはメッセージを伝えるための演習が、共通のルールと規範に基づく海洋安全保障秩序を支持する他の行動と合わせて受け取られることである。

記事参照:How the French military's 'political messengers' are countering Beijing in the South China Sea

86日「アメリカ合衆国のインド太平洋戦略における対インフラ投資政策の見通し――シンガポール国際・東南アジア経済専門家論評」(RSIS Commentaries, August 6, 2018

 シンガポールの南洋工科大学S.ラジャラトナム国際関係学院(RSIS)のマルチラテラリズム研究センターで准教授兼副所長を務めるKaewkamol Pitakdumrongkitは、8月6日付のRSIS Commentaryに、"Indo-Pacific: US Role in Infrastructure"と題する論説を寄稿し、アメリカのインド太平洋戦略、そのとりわけインフラ開発へのコミットメントについて、8月3日のMike Pompeo国務長官声明を引き合いに出し、要旨以下のとおり述べた。

(1)2018年8月3日、シンガポールで開催されたアメリカ・ASEAN外相会議で、Mike Pompeo国務長官は、アメリカが1億1300万ドルを、インド太平洋地域のデジタル・エコノミー、エネルギー、インフラ開発プログラム支援プログラムのための「手付」として支出することを発表した。そのうち5000万ドルと1000万ドルがそれぞれ、Asia EDGE(Enhancing Development and Growth through Energy)と、US-ASEAN Connect Initiativeが実施する事業に分配されるであろう。

(2)Donald Trump政権におけるインド太平洋戦略の経済政策は以下の3つの分野にまたがるものである。

a. 貿易:「自由で公正、かつ互恵的な」貿易の促進

b. 投資:民間部門の関与の強化、投資によるインド太平洋地域の起業家精神とイノベーションの促進

c. 多角的金融機関(世界銀行、アジア開発銀行など)の支援、アメリカ国内の開発金融機関の改革

先のPompeo声明は、インド太平洋戦略における経済政策の具体的な一つである。

(3)アメリカの開発金融機関改革に関しては、今年超党派によるBUILD法(Better Utilization of Investments Leading to Development Act)が下院を通過し、現在上院で表決を待っているところである。もし同法が成立すれば、それに基づいてUS International Finance Corporation(IDFC)が設立される。それはアメリカの既存の開発金融関係当局を統合し、IDFCに「公正な投資を行う能力」を付与することで、アメリカ政府がインド太平洋地域におけるコネクティビティ(連結性)構築支援を行いやすくするであろう。

(4)1兆ドルに相当すると言われる中国の一帯一路政策と比較した場合、1億1300万ドルの資金提供の約束はあまりに小規模であるが、この動きを軽視してはならない。対インフラ融資において民間部門が重要な役割を果たすというアメリカ的モデルの特徴を理解する必要がある。アメリカ国内には現在、将来海外投資に投じられうる50兆ドルもの留保金がある。しかし、利益が確実でない事業が多いという理由から民間企業は海外投資に慎重であった。Marsh & McLennan Companies Studyによれば、インド太平洋地域におけるコネクティビティ関連事業の55-65%が、政府ないし多角的金融機関の支援なしでは利益が出ないというものであった。海外投資に関するアメリカの潜在能力は極めて大きい。

(5)アメリカがこの1億1300万ドルをうまく利用するかどうかは別にして、インド太平洋地域の諸国がそれを無条件で受け入れるとは限らない。スリランカのハンバントタ港開発、あるいはラオスにおける中国出資の鉄道開発計画などの事例は、持続不可能な開発のリスク、主権が交換条件となることのリスクを認識させた。そのため、インド太平洋地域諸国は開発計画における多様性を求めるようになっている。2017年、インドネシアのJokowi(Joko Widodo)政権が、同国の石油およびガス掘削区画の入札に日本を招待したのはその一つの例である。

(6)アメリカは正しい方向へ向かっているが、さらなる行動も必要である。それは一つには、アメリカ政府当局が.確実に利益が出る事業を確定し、アメリカを含めた多角的な合同事業への支援を強化し、開発事業への民間の参入を促すことである。また、インド太平洋諸国の政策立案者向けの能力開発訓練を実施することで、「ソフト面におけるインフラ」構築、つまり国境横断的なロジスティクスを促進する規則や規定の作成が容易になるであろう。

(7)1億1300万ドルという金額は、インド太平洋における対インフラ投資に対するアメリカのコミットメントのすべてを表した数字ではない。「真の投資」はアメリカの民間部門からもたらされる可能性があるからである。海外投資に関するそれらの極めて大きな潜在能力はこれまでに十分理解されてきている。インフラ投資はアメリカのインド太平洋戦略において極めて重要な役割を担っている。アメリカ政府は、そうした潜在能力をいかに効果的に発揮させるかについてより真剣に議論する必要がある。

記事参照:Indo-Pacific: US Role in Infrastructure

87日「中国がインド太平洋の4カ国枠組みを軽視する理由」(PacNet, Pacific Forum, CSIS, August 7, 2018

 国防大学中国軍事研究センター(the Center for the Study of Chinese Military Affairs at the National Defense University)のJoel Wuthnow研究員は、8月7日付のPacific ForumのWEB誌PacNetに、"Why China Discounts the Indo-Pacific Quad"と題する論説を投稿、要旨以下の通り述べている。

(1)アメリカがオーストラリア、インド、日本との4か国枠組みを復活させるかのようなインド太平洋戦略を表明した際、中国がこれを無視したことは驚きであった。そこには、中国との経済的関係から4か国協力には限界があるとの認識があるのだろう。そのような軽視は、過去の事例などを参考とした4か国の対応の過小評価から生まれている。アメリカとそのパートナー国に必要なことは、シンボリックな枠組みではなく行動である。インド太平洋戦略を、2017年のアメリカ「国家安全保障戦略」では同盟・パートナー国との強固な防衛ネットワークの発展形態であるとし、「国家防衛戦略」でも、同盟・パートナー国とのネットワーク化された抑止と安定化のための構造の構築であると言及している。

 そのようなインド太平洋戦略を形作る新たな4か国構想は、2017年11月のマニラでの作業部会会合で、そして2018年6月のシンガポールでの上級レベル会合で確認された。これに対し中国は公式には何も反応しなかった。この中国の対応は2006年から2007年に掛けての第1次政権で安倍首相が最初に4か国枠組みに触れたときのものと比べると驚くべきものがある。当時、中国は4カ国に対抗措置を講じ、それによってオーストラリアのRudd首相が北京との摩擦を避ける対応をとることになった。そのような中で、中国の戦略家達はアメリカがアジアにおけるNATOを創設し中国を封じ込めようとしていると論調を強めていった。

(2)今回の中国の4か国構想への無関心は、アメリカ以外の3カ国が過去10年間に多国間枠組みに関心を寄せなかったミニラテラリズムにある。過去10年の間、アメリカは日米同盟に特筆されるように2国間安全保障協力を重視してきた。中国はこれを強固な4か国防衛枠組みに発展することはないと分析したのである。そこには幾つかの理由がある。アメリカが主導するアジア諸国の多国間枠組みが新たな植民地主義と考えられた時期があったこと、日本と韓国が歴史問題で真の同盟国にはなれないこと、などである。加えて、これが最も大きな理由であるが、4か国ともに中国との経済的結びつきが強いことが挙げられる。

 しかし、地域諸国には、安全保障上の課題解決のためには経済が犠牲にされることもあってしかるべきとの考えも確かにある。中国の非難にも拘らず韓国がTHAADを配備するのもその例である。インドやオーストラリアも、中国軍事力の海外展開や経済進出、さらには情報収集活動を経済問題よりも重要と判断する傾向がある。中国は経済関係に自信過剰になり、地域諸国の対抗を過小評価している向きがある。

 今こそ、4カ国は軍事と戦略の連携を強め、その構造が無視できるものではないことを示すべきである。これまでのように外交問題を話し合い、今後の対話継続を確認するだけであってはならない。実行可能なメカニズムがなければインド太平洋戦略は紙に書いた構想に過ぎない。4カ国がなすべきことは多い。例えば、マラバール演習は4か国レベルに拡大することもできるだろうし、南シナ海での航行の自由のための共同パトロールもあるだろう。海洋空間における情報共有を成文化することもできるのではないか。あるいは、一帯一路構想とは別にインド太平洋におけるインフラ整備や財政援助で4か国が共同歩調をとることもできるだろう。4か国枠組みはNATOのような構造にまで高める必要はないだろうが、少なくとも今より具体性を持たせない限り、中国はこれを紙に書いた虎と見做し続けるだろう。

記事参照;Why China Discounts the Indo-Pacific Quad

87日「米国は南シナ海への影響力を放棄しない―伊ジャーナリスト論評」(South China Morning Post.com, August 7, 2018

 ローマを拠点とするジャーナリストEmanuele Scimiaは、8月7日付のSouth China Morning Post電子版に"South China Sea progress between China and ASEAN will run into choppy waters with the US"と題する論説を寄稿し、中国とASEANの間の南シナ海における行動規範という突破口にもかかわらず、米国はこの地域における影響を容易には譲らないとして、要旨以下のように述べている。

(1)中国とASEANは、北京との領土紛争において膠着状態にある、南シナ海における行動規範を協議するための一つの草案がある。8月2日木曜日に行われたASEAN・中国閣僚会議でもたらされたこの発表は、双方にとって画期的な出来事として歓迎された。しかし、関係当事国は、最終文書でコンセンサスに達するまでには程遠く、そして、米国はこの地域におけるその立場を弱める可能性のあるいかなる合意も妨害しようとする可能性が高い。

(2)新しい突破口は、外交的要因と経済的要因の収斂した結果になるかもしれない。北京は米国との貿易戦争に取り組んでおり、ワシントンとのその紛争の衝撃を吸収する方法を模索している。この点で、南シナ海の東南アジア諸国との緊張緩和は、北京の孤立のリスクを軽減する東アジア地域包括的経済連携(RCEP)の署名を促進する可能性がある。米国は、2017年にASEANの第3位の貿易相手国であった(中国とEUがこの順位を上回った)が、556億米ドルの貿易赤字を計上した。この不均衡を受けて、ASEAN諸国は、自然の成り行きでDonald Trump米大統領の貿易関税キャンペーンの潜在的なターゲットとなっている。そして、米国との商業的な小競り合いの場合に備えて、北京の支援が必要かもしれない。

(3)そうは言っても、行動規範に関するASEAN・中国の協議の混乱は、いつでも生じる可能性がある。北京とハノイは、中国の指導部が常に反対している条項である国際ルールの下で行動規範が法的に拘束力をもつという後者の要求に対して衝突する可能性が高い。Mike Pompeo米国務長官は、先月、米国とベトナムが、南シナ海における航行及び上空飛行の自由を守るために協力すると述べた。

(4)南シナ海の現在の地政学的状況は、中国が他の権利主張国、特に2016年に中国政府に対して仲裁裁判に勝利したフィリピンをなだめることに成功したにもかかわらず、むしろ流動的である。

a. 当時、フィリピンは、北京と権利主張が重複する南シナ海の区域の付近で米国と共同海軍演習を行った。また、フィリピンの海軍、そして、インドネシア、マレーシア及びシンガポールの3ヵ国の他のASEAN加盟国は、5月に中国の招待が取り消された米国主導の世界最大級の海軍演習RIMPACに参加した。

b. マニラの空軍、そして、インドネシア、マレーシア、シンガポール及びタイからの航空機は、アジア太平洋地域においてオーストラリアの企画で隔年で行われている、一流の多国間空軍演習であるピッチブラック(Pitch Black)に参加している。

c. ベトナム、フィリピン、インドネシア及びマレーシアはいずれも、沿岸警備隊の能力と活動を拡大し、この地域における北京の軍事的主張に対抗している。

d. ハノイとジャカルタはまた対艦ミサイル兵器を強化し、ベトナム海軍は、ロシア製の高速フリゲートとミサイル・コルベットでその艦隊を増強している。

(5)中国の王毅外交部長は、もし将来の交渉が「外部擾乱」(external disturbances)によって妨げられなければ、行動規範の早期締結が起こり得ると述べた。しかし、王の期待はかなわないだろう。

(6)先月、オーストラリア・米国年次閣僚級協議において、ワシントンとキャンベラは、南シナ海における行動規範が「第三国の利益又は国際法の下でのすべての国の権利」を害するべきではないと強調した。

(7)結論を言えば、米国は、紛争中の南沙諸島及び西沙諸島において中国が前哨基地を維持している現状を決して受け入れない。その場合には、ワシントンは、ASEANと北京の間の最終的な取引の進行を阻止するように取り組む可能性が高い。

記事参照:South China Sea progress between China and Asean will run into choppy waters with the US

88日「せめぎ合う米中の戦略構想、一帯一路を理解する3つの視座―米専門家評論」PacNet, Pacific Forum, CSIS, August 8, 2018

 米海兵隊退役軍人Karl Hendlerは、8月8日付のPacific Forumのweb誌PacNetに、"Reading the Belt and Road Tea Leaves: Aggression, Exploitation, or Prosperity"と題する論説を寄稿し、中国の一帯一路(BRI)を考察するに際しては3つの視点があり、同国の真意を推し量るには3つの視点を組み合わせる必要があると指摘した上で、要旨以下のように述べている。

(1)2017年5月に北京で行われた「一帯一路フォーラム」で習近平は、「一帯一路構想」(BRI)が世界の覇権を狙う構想ではなく、むしろアジアやアフリカそして欧州の繁栄を促進する責任ある計画だ、と世界に再度保証しようとした。

(2)米国務長官Mike Pompeoはこのところ、「自由で開かれたインド太平洋」に関する米国の構想を売り込むべく様々な機会を活用している。Pompeoは今月、シンガポールにおけるASEAN外相会議の際に同構想を説明し、同構想が国家主権の尊重や、外部の威圧からの自由、国際水域・空域に対するオープンなアクセスが伴うことを強調した。

(3)習とPompeoはアジア、インド太平洋の未来を巡る2つの異なる構想を提示している。両者は表向き同一の価値観と目標の多くを支持しているが、国家が主導的な役割を担うべきか否かという点に関しては正反対の見方に由来している。中国は既にアジアやアフリカに多大な投資を行っており、幸先の良いスタートを切っている。その一方で、米国はアジアのインフラ投資構想に1.13億ドルを拠出する旨を発表したにすぎない。BRIに関しては3つの視点が存在する。

a. 中国が膨大な投資と増大した軍事支出によって、地域の覇権を狙い、ライバルを孤立させ、アフリカや東南アジア諸国を朝貢国として従属させ、世界秩序を自らのイメージ通りに作り替えるというものである。

b. 中国の投資は略奪的な融資を貧しい国々に行うことと同義だということである。被援助国は管理権を中国に譲り渡すはめになり、中国が廉価な商品を輸入することができ、その急速な成長を維持するための輸出品と労働者を送り込む経済植民地を生み出すことになる。

c. 中国はあらゆる国家が望むものを望んでいる。すなわち、自国民の安全と繁栄である。我々は中国の行動を、持続可能な成長を確保し、米国や西欧と同等の繁栄と安全を謳歌する中間層を育成するために互恵的なパートナーシップを活用する、戦略の一環だと見なすことになるだろう。

(3)それでは2017年のフォーラムにおける習の言葉を真剣に受け取れば、BRIはどう見えるだろう。

a. 第1の視点に立つと、2000年代中盤に初めて世に出た「真珠の首飾り戦略」は現実のものとなっている。中国は自国の補給線を護り、米国と同盟国を抑止すべく、一連の港湾と基地を建設し、中東やアフリカにまで軍事力の拡大を図っている。中国の南シナ海係争地における軍事拠点化は、この戦略を裏付けるものである。「首飾り」の輪は、ジブチの中国海軍基地まで伸びている。中国は「首飾り」の両端の合間において、同国が借り受けるスリランカのハンバントタ港やパキスタンのグワダル港に部隊と艦艇を駐留させることで、自らの軍事プレゼンスを固めることができる。米国の同盟国の間では、中国軍が脅威であるとの懸念が高まっている。

b. 第2の視点に立つと、アフリカとアジアにおける中国のインフラ投資を、融資対象国が返済できないことを知りながら、BRIプロジェクトのために新興国へ数十億ドルの資金を融資する「債務の罠外交」だと見なす。増大する債務に直面した被融資国は、北京に対して略奪的な経済上の譲歩を強いられている。その根拠は、スリランカからケニア、アンゴラにみられる。

 BRIの一環であるハンバントタ港建設で過重債務に陥ったスリランカは、既存のコロンボ港の存在もあり、同港完成後も十分な収益を確保できていない。それ以降スリランカは債務負担を緩和すべく、同港を中国に99年間貸与した。アンゴラは250億ドルの対中債務を原油で返済している。ケニアでは対外債務の72パーセントが対中債務であり、新ナイロビ―モンバサ鉄道も中国の融資で建設された。同鉄道は未だに中国人労働者が運営している。中国の融資は、世界銀行やアジア開発銀行といった国際的な貸し手が課す条件を要しないため、新興国には一層魅力的に見える。これらの国々は、利益のほとんどを生み出す完成したBRIプロジェクトの主導権を中国に譲り渡すことを強いられる。

c. 第3の視点に立つと、中国は軍事支配や略奪的な融資を企てる侵略国ではなく、持続可能かつ互恵的な成長を目指す計画にコミットする国家である。中国の輸出主導の成長は永遠に続くものではない。中国は力強い国内消費型の経済を発展させなければならないと認識しており、共生的な国際貿易関係を構築している。中国の融資を受ける新興国は対中輸出によって自国を工業化し、経済成長を遂げることができる。その一方で、中国は生産を外注することで消費者価格を下げ、サービス部門を拡大することができる。係争地の存在は必ずしも侵略の予兆ではない。どのような国家にとっても、歴史的な記憶と国家の誇りは対立から引き下がることを困難にする。

(4)中国の真意は1つの視点だけでなく、3つの視点の組み合わせたところにあるのだろう。グワダルとハンバントタの開発が軍事的な色彩を帯びれば、それは中国が南シナ海で示す好戦性を越える、更に攻撃的な姿勢を取るというサインであろう。アフリカの債務国に対する中国の扱いはもう1つの指標である。債務免除や協調融資は持続可能で責任ある成長に向けた計画を示すものであるが、過酷さを増す取引は搾取の証左である。いずれにせよ、中国専門家Thomas Christensenのアドバイスは計画を始めるに相応しい出発点である。すなわち、信用力に裏付けられた対中協力強化である。このアプローチは表だった中国の侵略を抑止すると同時に、同国に責任ある行動を促すだろう。しかしながら、現在のところ、米国と同盟国及び、その他の地域諸国は単に中国のBRIに反抗しているに過ぎない。先を見越した戦略なしには、上述したことが起きる可能性は残ったままである。

記事参照:Reading the Belt and Road Tea Leaves: Aggression, Exploitation, or Prosperity

88日「米戦略における『インド太平洋』重視とインドの選択肢―印専門家論評」(South Asia Analysis Group, August 8, 2018

 印シンクタンクSouth Asia Analysis Group研究員Dr Subhash Kapilaは、同シンクタンクのサイトに8月8日付で、"Indo-Pacific's Centrality in US National Strategy and Indian Position"と題する論説を寄稿し、米戦略における「インド太平洋」重視とインドの選択肢について、米国と組む以外にインドに選択肢はないとして、要旨以下のように述べている。

(1)「インド太平洋」における安全と安定は、Trump政権の「米国家安全保障戦略」における核心をなす課題である。そこでは、米国は、インドがこの目的に向けて中枢的役割を果たすことを期待している。「インド太平洋」という文脈における地政学的環境はインドが積極的な役割を果たすことを運命付けているが、問題は、インドがこうした役割を果たす用意があるかどうかである。インドは、米印戦略的パートナーシップを、インド太平洋地域をかき乱そうと決意している国に対する通常抑止力となり得る実質的なパートナーシップに発展させることについて、どの国あるいはどの国々が望んでいないかを熟考する必要がある。

(2)Pompeo 米国務長官が7月31日にワシントンで行った講演*は米中貿易戦争が主体であったが、インド太平洋の安全と安定に対する米国の意図は強固で持続的なものであることを、インドの「疑り深い人々」に保証するものでもあった。以下は、米国務長官の講演からインドの選択肢に関連する要点を列挙したものである。

a. 米国は インド太平洋に対する支配的立場を求めないし、また、そうした立場を追求する如何なる国に対しても反対するであろう。

b. 米国は、インド太平洋地域が「自由で開かれた」状況であり続けることを主張する。

c. 米国は、インド太平洋地域における「戦略的パートナー」であって、「戦略的支配国」('Strategic Dominance')ではない。

d. 米国は、「戦略的パートナー」であって、「戦略的従属関係」('Strategic dependency')を求めない。

e. Pompeo長官は、「我々は、何れの国も他国による威嚇から自らの主権を守ることができることを望んでいる」と述べた。

f. 「開かれた海と開かれた空」の重要性を強調して、長官は、「我々がインド太平洋地域で『開かれた』と言うとき、我々は、全ての国があらゆる海域と空路に自由にアクセスできることを望んでいる。我々は、全ての領土紛争と海洋境界を巡る紛争の平和的解決を望んでいる」と述べた。

(3)Pompeo長官の講演の背景には、中国の侵略的な行動による脅威が念頭にあることは明白である。西太平洋とインド洋に跨がるインド太平洋地域に対する中国の脅威は、現に存在する脅威である。インドに対する中国の脅威は、インドの政治、安全保障計画担当者にとって、決して軽視したり、過小に評価したりすべきものではない。こうした脅威認識から、中国の脅威を無力化したり、あるいは軽減したりする、インドにとっての選択肢が生まれてくるのである。インドは、南アジアの地政学的環境下における中国のインドに対する敵意と戦略的な妨害行為によって、米印戦略的パートナーシップを選択した。今や、このパートナーシップが実質的かつ重要なものになりつつあり、中国は、米印戦略的パートナーシップからインドを引き離すことを望んでいる。インドの政策立案者は、インドの現在の重要な地位がロシアや中国の存在に由来するものではなく、米印戦略的パートナーシップの発展による「副産物」であることを認めなければならない。インドの日本、イスラエル及び韓国とのパートナーシップは、今世紀初めのインドによる「対米関係のリセット」から付随的に派生したものである。

(4)従って、こうした戦略環境から、インドにとって実行可能な選択肢は1つしかない―すなわち、インドは、「米国のインド太平洋安全保障の鋳型」(Indo Pacific Security templates of the United States)に、そして米印間に存在する広範な戦略的共有分野に自らを明確に位置づけることによって、自らの安全保障を確保すべきである。こうした政策指針は、インドがロシアとの古く有益な関係から恩恵を受けることを阻害することはないであろうし、また、中国に関しては、国境紛争を平和的に解決する上で有意義な方法となろう。インドの「非同盟時代」の残滓はインドの地政学的そして戦略的展望にとって何らの妥当性を持たず、こうした残滓は一掃されなければならない。本稿の筆者(Dr. Kapila)がこれまで指摘してきたように、インドは現在、「非同盟バージョン2」('Non-Alignment -2')あるいは「戦略的自立」('Strategic Autonomy')を主張したり、実行したりする手段も、能力も持っていないのである。従って、インドがその域に達するまでは、「力の均衡」政策指針を堅持するのが唯一の実行可能な選択肢なのである。

(4)ここから生ずる疑問は、ではインドがどの国と地政学的そして戦略的に均衡をとらなければならないのかということである。それは米国でもなければ、ロシアでもないことは明らかである。インドが均衡を作為しなければならないのは、これまで60年間敵対的姿勢をとってきた、中国である。本稿の筆者は、インドがインド太平洋地域の安全と安定のために米国と組むことを明確にすべきであると考えるし、以前にも、インドと日本が米国にとって「安全保障の2本柱」(the 'Twin Pillars of Security")であると述べた。何故、インドは躊躇するのか。結論を言えば、米印両国の政策担当者は、インド太平洋における現在の地政学的現実から、インド太平洋の安全と安定を維持する対等のパートナーとして両国が手を結ばざるを得ない強い運命にあることを理解する必要がある。他方、米国は、インドが数十年に及ぶ「非同盟」という麻痺症状から脱しようと努力しているとき、インドの戦略的苦境を思いやる最大限の配慮を示さなければならないことを認識する必要がある。

記事参照:Indo-Pacific's Centrality in US National Strategy and Indian Position

備考*:Remarks on "America's Indo-Pacific Economic Vision"

810日「中国による南シナ海の併合に対する日本の戦略―印専門家論評」(South Asia Analysis Group, August 10, 2018

 インドのシンクタンクSouth Asia Analysis Group のアナリストで元外交官のDr. Subhash Kapilaは、"South China Sea's Annexation By China and Japan's Strategic & Economic Security"と題する論説を寄稿し、日本が南シナ海における中国の軍事的冒険主義に対して、外交的、戦略的及び経済的戦略を用いているとして、要旨以下のように述べている

(1)中国との競争者としてのアジアの大国であり、そして、南シナ海を横切る海上交通路に戦略的かつ経済的な生存が決定的に依存している日本は、南シナ海における争いの特徴があるダイナミクスに論理的に引き込まれる。南シナ海を強制的に事実上併合し、それを支配する中国が、南シナ海を横切る日本のライフラインを窒息させる中国の能力による脅しによって、日本を政治的かつ戦略的に抑圧する立場にないことを確かにするという非常に困難な戦略的課題を、日本は現在抱えている。

(2)戦争を除いて、日本は、中国による南シナ海の広範な国際的な海洋権益の拡張によって自由で開かれた航行を妨げる、又は阻む、いかなる潜在的な軍事的冒険主義も弱めるための一連の外交的、戦略的及び経済的戦略を導入している。

(3)外交的領域では、

a. 過去10年において日本はベトナムとともに、中国がこの地域の複数の国々に南シナ海の紛争をもたらし、南シナ海をグローバルな火種に変えているという争いの輪郭を国際的意識に押し付けている。

b. 日本ともう一つのアジアの大国であり、同様に中国と争っているインドとの戦略的結び付きは、インド太平洋の安全保障に対する中国の脅威の可能性に対する日本とインドの戦略的収斂から直接的に生じている。中国による南シナ海での軍事的冒険主義は、中国がその周囲に発生させたすべての引火点の中でも重要な燃えやすいものの一つである。

c. ここで前後関係から指摘される必要がある重要な点は、中国が、その帝国主義的な本能に影響を与える両面戦略を開始したことである。地域面では、南シナ海を通る日本のライフラインを窒息させるダモクレスの剣によって、強い強制的な影響力を得ようと試みる。中国の戦略の第2の、そしてより重要な面は、インド太平洋における米国の地政学的優越に真っ向から挑むこと、そして、西太平洋及び日本で中軸として配備されている米軍の前方軍事プレゼンスの排除を促すことである。

d. したがって、その支配によって中国が南シナ海を「中国の内海」に変えることができないことを確かにするための共同の取り組みを補完し、統合し、同期させることは、米国と日本にとって避けられない不可欠なことである。この必然性は、概して、インド太平洋全体に加えて、米国を西太平洋に繋ぎ止め続けるための日本の外交的な推進力の大部分を占めている。

e. 日本は、南シナ海の国際的な広がりを自由かつ開放的に保つことに利害関係があると宣言するようフランスと英国を引き込むことに、外交的に成功している。フランスと英国は、南シナ海に海軍哨戒隊を派遣することを表明している。これは、南シナ海への絶対的な支配に対する日本の抵抗との連帯を歓迎する表現であり、紛争のある海洋拡張へ完全な主権を行使するという中国の主張に対する拒絶である。 

f. 東南アジアでは、南シナ海に関係する日本の外交戦略の重要な要素を構成する。ASEAN内では、沿海部が南シナ海の広範な範囲に実質的に影響を及ぼすベトナムに、日本は特に注目している。日本は、軍事分野と経済分野の両方でベトナムの能力構築に従事している。

(4)日本自身は戦略的に、アジアと南シナ海の中国の覇権主義的な本能を管理することができないことを日本は意識している。ここでは、1945年以降の何十年にもわたって米国が 最初は旧ソ連に、そして、現在は中国の軍事的冒険主義に対して抑止力の役割を果たしている。これは、中国が米国に対してより敵対的になるにつれて、今後数年間にわたりより大きく期待することが可能である。日本の米国に対する戦略的依存は、インドと米国の戦略的パートナーシップのように漠然としたものではない。日本と米国は、昔からの半世紀の歴史をもつ相互安全保障条約にしっかりと束縛されている。

(5)最新のヘリ空母と駆逐艦を持つ日本の海上自衛隊は、東南アジアとインド洋への親善のために南シナ海を航行している。これはまた、静かで繊細な方法で、日本が、南シナ海の米海軍のFONOPSパトロールを補完する、南シナ海の繊細な海軍プレゼンスに従事することを確実にする。中国は、このような海軍活動に対して日本を厳しく批判し警告した。その軍事的領域では、人々は、同様に南シナ海に重要な利害関係があると表明しているそのアクト・イースト政策の一環としてのインドの兆候もまた見出している。海上自衛隊の取り組みを補完し、インド海軍の小艦隊は、東アジア、そして、西太平洋での米海軍や海上自衛隊と行うRIMPACのような共同海軍演習への親善のために南シナ海を定期的に航行する。

(6)そのライフラインもまたこの海洋の広がりを横断するので、韓国は中国による南シナ海の事実上の併合によって同様に影響を受ける。しかし、この戦略的現実には無関心で、韓国は、外交的及び軍事的協調のための日本の努力を無視した。韓国は、その中国に対するあからさまな協調的姿勢が、韓国が中国によって窒息させられないことを確かにすると考えている。

(7)経済的領域において、何十年もの間、日本は、広く南米諸国やオーストラリアなどから原材料とエネルギー供給の代替源を検討し、南シナ海のライフライン単独の依存を減らしてきた。日本では、代替エネルギー源の新しい開発に多くの資金と努力が費やされている。南シナ海を通る日本のライフラインを中国が窒息させるという事態が起こった場合、中国は、ひょっとして、あらゆる国々によって南シナ海の妨げられない航行を確保し、中国の選択的な気まぐれに委ねないために、国際的な海軍による介入を招く可能性がある。

(8)日本を覆う可能性のあるもう一つの保証、そして、南シナ海におけるいかなる中国の強要に抵抗するための自信は、その世界的な優位性と関連した、南シナ海における米国の最重要の利害関係である。米海軍の艦隊の太平洋とインド洋の間の軍事行動の切り替えは、南シナ海を横切らなければならない。今までリスク回避政策に圧迫されていた米国は、必要とならば寛容ではなくなる可能性があり、米国は中国が南シナ海のシーレーンを封鎖したり妨害したりさせないことを確かにするために海軍力を用いる。このような事態において、中国は、自身が、米国がその戦略的パートナー及び同盟国とともに行う海上封鎖を受ける可能性がある。

(9)結論として、日本は、中国が軽蔑して侮ることができる、簡単に言いなりになる国ではないと強調する必要がある。日本は、中国による南シナ海の事実上の併合によって、日本を孤立させ、窒息させようと中国が試みる場合、独力で存在することはできないだろう。日本は、軍事能力を徐々に増強しており、そして、長く勇ましい伝統とともにアジアで最も強力な海軍力を擁している。中国は最終的には、その敵対的行動により、十分にその手の届く範囲にある核兵器化へと日本を駆り立てるかもしれない。

記事参照:South China Sea's Annexation By China and Japan's Strategic & Economic Security

810日「南シナ海における潜水艦の拡散-米研究者論説」(The Diplomat.com, August 10, 2018

 ニューヨーク大学の研究助手Tyler Headleyは8月10日付のWeb誌The Diplomatに"Submarines in the South China Sea Conflict"と題する論説を寄稿し、南シナ海で権利を主張する国々が潜水艦調達を進めており、緊張が高まればその傾向は続くとして要旨以下のように述べている。

(1)7月の第1週、オーストラリアは250億ドルで英国BAEシステム社に対潜フリゲートを発注したと発表した。

(2)1991年以来、南シナ海で権利を主張する7ヶ国のうち5ヶ国が、少なくとも1隻の攻撃型潜水艦を調達している。そして、南シナ海における航行の自由任務を開始している、あるいは発表している5ヶ国全てが潜水艦を保有している。南シナ海における潜水艦の危険が増大しており、オーストラリアのような国は潜水艦、あるいは対潜部隊にさらなる投資をすることで対応してきている。

(3)年間5兆ドルの世界の交易が、数億トンの原油がこの海域を通過し、そして、中国の潜水艦が太平洋に展開するのに容易な海域であるというその戦略的位置で南シナ海は有名である。1970年代以来、南シナ海には小さな領域をめぐる紛争はあったが、中国が急速に人工島を建設し始めたため、2010年頃から紛争の動きに注目が増してきている。

 この人工島建設の一部には楡淋東の潜水艦基地の建設が含まれていた。地域において潜水艦の展開を維持することは重要である。既に南シナ海の対立の中で、情報の収集、兵力の投射、急速な軍事的関与の抑止に潜水艦は運用されている。もし戦争が勃発すれば、その海域を行動中の潜水艦は紛争の結果が異なるものになることを証明するかもしれない。このため、潜水艦の拡散の範囲と程度を理解することが重要である。特に南シナ海の島嶼、領域について権利を主張する国々が保有する潜水艦についてそうである。

(4)南シナ海における潜水艦の拡散を分析する際の問題の1つは、潜水艦の調達について1個所に集められ、公開された記載がないことである。改善は定かではない。

 1991年以来権利を主張している国が1991年以来、潜水艦を取得してきたネットワークをプロットしてみると、3つの異なるネットワークがある。

 最も顕著なのは、ロシアが南シナ海をめぐって対立する中越両国に潜水艦を供給してきた。そして、The Diplomatが報じたように最近、フィリピンがロシアから潜水艦を取得しようとしているようだと話題になった。中国は(潜水艦の)国産能力を保有する一方、他の国は同じ開発者から調達することで似たような通常型潜水艦を保有している。

 第2次大戦以来、中国は潜水艦の最大の調達者であり、35隻以上を調達している。この数には国内建造分は含まれていない。中国の潜水艦部隊は48隻の作戦可能な通常型潜水艦と10隻から13隻の原子力潜水艦が含まれる。インドネシアも1960年代あるいは1970年代に比べるとはるかに小規模の潜水艦を運用しているが、大規模な潜水艦部隊に向けて(調達を)加速している。現在、インドネシアは5隻の潜水艦を保有しているが、2024年までに8隻に増強する計画が発表されている。

(5)(南シナ海で)権利を主張している国の潜水艦だけが行動しているのではない。米、日、豪、英、仏がすべて南シナ海における航行の自由作戦を開始すると発表している。この作戦は、中国の(南シナ海を軍事化する行動の)広がりを終わりにし、地域の同盟国への支援を強化することを目的としている。しかし、(南シナ海で行動する)国の数の多さは事故や挑発の機会を増大させている。中国が主張する排他的経済水域は中国政府及び軍当局者の怒りを引き出していた。2009年の中国潜水艦と米国のソナー・アレイの衝突のような事故も発生していた。

 南シナ海における潜水艦の拡散がもたらす破壊的な可能性は軍事専門家には明らかであり、したがって各国は準備をし始めている。日米は3月に対潜訓練を実施した。中国は他国の潜水艦の追尾を維持することを期待して聴音設備を水中に設置した。

(6)しかし、このような予防的措置とともにオーストラリアが対潜フリゲートを発注したことを含め、大型兵器の調達が続くようである。もし、緊張が高まればブルネイ、中国、台湾、マレーシア、インドネシア、フィリピン、そしてベトナムという(南シナ海で)権利を主張している国々の潜水艦調達が続くことを我々は見ることになる。

記事参照:Submarines in the South China Sea Conflict

20187-8月号「中国人民解放軍海軍の変革に備えるべき時」(South Asia Defense & Strategic Review.com, July-August, 2018

 インド国家海洋財団ディレクターのVijay Sakhujaは、South Asia Defense & Strategic Review2018年7-8月号に"Time to prepare for a Transformed PLA Navy"と題する論説を寄稿し、中国人民解放軍海軍のハイテク化による変革がインド洋におけるインド海軍の展開に影響を及ぼすかもしれないとして要旨以下のように述べている。

(1)2017年、インド海軍はインド洋周辺海域における警戒監視計画(MBD)を発表し、これに基づき概ね15隻の戦闘艦艇が約3ケ月のローテーションでペルシャ湾からマラッカ海峡、ベンガル北部湾から南インド洋、アフリカ東海岸まで展開している。

MALDEP:マラッカ海峡入口付近

NORDEP:ノーデップアンダマン北部とバングラデシュ、ミャンマー沿岸水域を中心とするベンガル湾

ANDEP:北部アンダマン海とニコバル諸島南部

GULFDEP:アラビア海北部、ホルムズ海峡及びペルシャ湾

POGDEP:アデン湾における海賊対処

CENDEP:モルディブからスリランカに至るインド南部海域

IODEP:モーリシャス、セイシェル、マダガスカルなど南インド洋

 これらの戦闘艦艇はP-8Iやドルニエなどの洋上哨戒機に支援されており、更に、約2,000平方マイルの監視範囲を有するインド海軍の静止衛星ルクミニにも連接され、通信、監視のネットワーキングやデータ転送などのサービスが提供されている。これらによりマラッカ海峡西方からホルムズ海峡に至る海域で約60隻の艦艇及び75機の航空機がシームレスにネットワーク化されており、インド海軍高官は「我々はインド洋を全てカバーしており、GULFDEPからMALDEPまで全ての中国船舶を監視出来る。」と述べている。

(2)しかし、それでもなお、インド海軍は様々なハイテク技術で変革する人民解放軍海軍に備えなければならない。中国軍はレールガンやソリッドステートレーザー(SSL)、その他のシステム、センサーなどに投資しており、人工知能(AI)や機械学習(ML)を搭載した自律型の空中及び水中ドローンや無人小型艇などの技術も間もなく実用化されるだろう。また別のレベルでは従来型のプラットフォーム中心の戦闘からネットワーク中心の自律的な体系にも移行しつつある。更に言えば、人民解放軍海軍はAIやMLに基づく演習を開始し、スマートフォン、タブレットなど汎用通信機器をハイブッリッド化して海軍の作戦用に使用している可能性も高い。

 人民解放軍海軍は新たな挑戦を続けており、そういった意味ではインド海軍による中国海軍艦艇や潜水艦に対する警戒監視は「いつもの仕事」に過ぎない。インド海軍は第4次産業革命(4IR)によって生み出された新たな戦闘手段に対応すべく、革新的で調整された新たな戦略を必要としているのである。

(3)中でも中国人民解放軍海軍の以下三点の能力はインド海軍の計画担当者の関心を集めている。

 第1にはミサイルあるいは無人高速艇やドローンなどに対する艦船の防御能力を格段に向上させる電磁砲(EMRG)である。中国の072III級揚陸艦Haiyang Shanは現在EMRGを装備中である。また報道によれば、2020年から2025年頃にはType 055級駆逐艦の第2期計画で、重さ約10キロの弾頭を100海里の距離で約90秒以内に到達させる事の出来る出力32メガジュールのEMRGを搭載するとされている。EMRG射撃によるコストは概ね25,000〜50,000米ドルであるが、トマホーク巡航ミサイル発射に要する経費は1回当たり140万米ドルにも及ぶ。

 第2にはレーザー兵器である。2018年初め、ジブチで米空軍のC-130が中国により高出力の軍事用レーザーの照射を受ける事案が発生した。搭乗員は眼に軽傷を負ったが、中国は直ちにそのような攻撃を否定し、「中国は常に国際法と関係国の法を遵守しており、地域の安全と安定を維持することに尽力している」と声明を出した。この他にも太平洋上での活動中に中国によるレーザー照射を受けた事例が2017年9月以来20件に及ぶことも判明した。こうした攻撃は陸上あるいは漁船などの様々な場所から実施されているという。中国はBBG-905レーザー眩惑兵器、WJG-2002レーザーガン、PY132Aブラインドレーザー、PY131A高エネルギー戦略兵器システムや低出力レーザー銃など、様々なタイプのレーザー兵器の開発を行っている。これらは「至近距離で敵を眩惑させ、あるいは敵の暗視装置を無効化」するためのものである。

 第3に中国は商業用無人機産業のリーダーであり無人機システムにおいて優位である。それは、多数の無人機の運用など、米国に対して非対称的な能力を発揮するか、あるいは人民解放軍海軍部隊がインド洋のように沿岸から遠く離れた地域で活動する場合である。「地の利」を有する強大な敵に直面した場合、無人機は、相手がそれを予期していない間は安価で期待以上の利点を発揮するだろう。

(4)中国はこれまで多くの海外の顧客に対して何百もの無人機の実例を提示して来た。最近では中国企業Yunzhou Tech Corporationが56隻の小型無人艇の海上デモンストレーションのビデオを公開し、開発中のその能力をはっきりと示している。AI対応のプラットフォームであるこれらの無人艇は弾薬ないしは爆発物で武装可能であり、非対称的な戦闘上の利点を有する抑止力として有益である。中国の海軍アナリストは「無人小型艇は武装すれば、無人機と同様に多数の敵を攻撃することができる」と述べ、人民解放軍海軍は、南シナ海において無人攻撃艇を使用した台湾攻撃の訓練を実施した。

 また中国はUAV市場で米国と競合しており、中長期滞空型(MALE)の無人航空機(UAV)であるWing Loong IIは米国のプレデターに匹敵する価格と性能である。そしていくつかのインド洋沿岸諸国(サウジアラビア、アラブ首長国連邦、エジプト)にとっては、中国製UAVは容易に利用できることと、ミサイル関連技術輸出規制(MTCR)の制約を受けない点で有利である。報道によれば、Wing Loong IIの顧客にはパキスタンとミャンマーも含まれる可能性がある。

(5)結論として、上記のような中国の技術への投資は確かに変革的であり、中国人民解放軍海軍は将来、インド洋においてもインド海軍部隊を凌駕し、インド海軍はインド洋で享受して来た軍事的優位を失う事になるかもしれない。将来の人民解放軍海軍はインド洋沿岸の友好国施設から運用され、支援されるUAV /無人機群による演習を実施する可能性もあるだろう。こうした事は、既に宇宙とサイバー空間における中国優位からもたらされている様々な問題が更に追加されるという事を意味している。

 インド海軍の防衛計画担当者は、上記のような新技術も考慮した新たな戦略と艦隊運用のアーキテクチャを開発しなければならないかもしれない。それらは艦船の設計、予算、運用構想に確実に影響を与えるであろう。

記事参照:Time to prepare for a Transformed PLA Navy

【補遺】

旬報で抄訳紹介しなかった主な論調、シンクタンク報告書

1. China is Waging a Maritime Insurgency in the South China Sea. It's Time for the United States to Counter It.

https://nationalinterest.org/feature/china-waging-maritime-insurgency-south-china-sea-its-time-united-states-counter-it-28062

The National Interest, August 6, 2018

Dr. Patrick M. Cronin is senior director of the Asia-Pacific Security Program at the Center for a New American Security (CNAS) and the former director of the Institute for National Strategic Studies at the National Defense University.

Hunter Stires is a fellow at the John B. Hattendorf Center for Maritime Historical Research at the U.S. Naval War College and Adjunct Affiliate for Maritime Strategy at CNAS.

 Center for a New American Securityのアジア太平洋安全保障問題上級部長Patrick M. CroninとJohn B. Hattendorf米海大海洋史研究所研究員Hunter Stiresは、南シナ海問題の決定的要因は国際法の支配とこれに対する中国の修正主義の対立であるとして、本来は非国家主体に対して使用される「反乱分子」という用語を援用し、中国は国際社会レベルの「反乱分子」である規定した。米国、同盟国にとって真の脅威は現行の法体系を崩壊させ、独自の「法の支配」を船乗りやパイロットに適用する状況を作り出すべく、中国が海上において行う「反乱」行為である。南シナ海問題に対する米国の対応は戦略あるいは作戦と呼べるものではなく、米国は南シナ海において反乱を鎮圧するように考え、行動し、海域における民間船舶、航空機が絶え間なく持続して行動することを防護するよう、中国の「反乱」に対して影響力を行使しなければならないと主張している。

2. India not to join US-led counter to China's BRI

https://economictimes.indiatimes.com/news/politics-and-nation/india-not-to-join-us-led-counter-to-chinas-bri/articleshow/65300729.cms

The Economic Times.com, August 7, 2018

 インドのThe Economic Times電子版は、インドは中国の一帯一路構想に対抗してインド太平洋におけるインフラ整備に投資する日米豪の協同構想から一線を画しており、インド太平洋地域の多極構造と非同盟による安全保障体制を重視するインドの姿勢を維持するものであるとし、インド太平洋地域が開放的で特定の国と敵対しない政策をインドは維持していると報じた。