海洋安全保障情報旬報 2018年9月11日-9月20日

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911日「インド太平洋と日本の憲法改正問題米専門家論評」(The Diplomat.com, September 11, 2018

 米国ケンタッキー大学Patterson School of Diplomacy and International Commerceの上級講師であるRobert Farleyは、9月11日付のウェブ誌The Diplomatに"The Key to Securing the Indo-Pacific: Japanese Constitutional Reform?"と題する論説を寄稿し、日本の憲法改正はインド太平洋地域に強い影響を及ぼすとして、要旨以下のように述べている。

(1)日本の武力の行使を統制する法的構造は、ゆっくりだが進化し続けている。増々広範囲にわたる日本の軍事的権限の範囲は、地域の戦略的環境の変化の反映であり、そして、潜在的に、将来のそれらの変化の推進力という両方である。

(2)直接的な憲法改正は延期されているが、立法的及び解釈的転換は、政府が、軍隊を展開させるその権限に関する考え方に同様に影響を与えている。たとえば、黒崎将広(防衛省防衛大学校准教授)が示しているように、日本の軍事利用の制約は残っている。例えば、日本は、存立に関わる脅威に対してのみ武力を行使することができ、その目標を達成するために最小限の武力を使用しなければならず、他の国の領土内に軍隊を展開することはできない。またその一方で、航空、海洋、サイバー及び宇宙空間のようなコモンズ(commons)の積極的な防衛を引き受けることが可能である。これらはそれぞれが大きな制約のように思えるが、それぞれがかなりの自由度を認められている。たとえば、「存立危機」は、日本人の繁栄と生活に対する脅威を示す程度まで定義することができ、明らかに大きな融通を認めている。

(3)これらの変化ですら、地域におけるコアリション・パートナーとしてのより積極的な行動を日本に可能にしている。このような転換の理由は、中国の高まるパワー、そして米国の過去20年間に見られたようなその戦略の不確実性の両方にある。これは、日本が、武力の行使に関するその憲法上の禁止を再解釈(又は改正)するための措置を講じるべきであるという決定的な論拠を示すものではない。この地域の他の人々は、ある種の投票権を持ち、より積極的になる東京には十分に反応しないだろう。しかし、1945年以降、平和主義の日本を支えてきた構造的及び外交的条件は、大きく変化しているように見える。

(4)インド太平洋の新しい安全保障アーキテクチャの一角を担うために、日本は、軍事力を行使するその能力のより積極的な理解を身につける必要がある。もちろん、これは、日本がそのような理解を実践すべきであることを示唆することとはかなり異なっている。つまり、この全体的な転換を拒否するための倫理的および文化的理由がある。しかし、日本の決定は、インド太平洋地域の政治に幅広く深い影響を及ぼすだろう。

記事参照:The Key to Securing the Indo-Pacific: Japanese Constitutional Reform?

911日「軍政一致で軍事プレゼンスを増す中国、揺れ動くアジアの軍事バランス米専門家論説」The Washington Free Beacon, September 11, 2018

 米web誌、The Washington Free Beaconの編集主幹Bill Gertzは、9月11日付の同紙に"PLA Expanding Power through Belt and Road Initiative"と題する論説を寄稿し、中国軍が「一帯一路構想」(BRI)の重要なプレイヤーであり、中国のグローバルなパワーの増大に重要な役割を果たしていると指摘した上で、要旨以下のように述べている。

(1)米国防省のアジア担当高官は中国軍が、北京の総合的な力を世界的に拡大させるべく世界中で活用されている「一帯一路構想」(BRI)において重要なプレイヤーであると述べている。これとは別に米国防省アジア太平洋安全保障担当次官補Randall G.Schriverは、中国のミサイルと空母の脅威が高まる中で、米国防省が台湾当局と連携して台湾の防空能力増強に取り組んでいると強調した。

(2)Schriverはインタビューにおいて北京の世界的なBRIインフラ開発構想の重要な特色が世界中の中国軍基地と外国の港湾に対するアクセスの拡大であると解説する。彼はThe Washington Free Beaconに対して「中国軍は包括的な戦略を支援しており、いろいろな点で最前線は略奪的な経済にある」と指摘した上で、中国の軍事的、商業的な拡大が「互いを支援し、補完し合っている。中国が経済的なツールを用いる場所では、彼らはしばしばアクセスと潜在的な基地の確保を目的としている」と述べている。中国はアフリカの角に位置するジブチに海外基地を有しており、さらなる基地を南アジアやパキスタンのグワダル港を含む中東で獲得しようとしている。また、中国は既に世界中で大規模な商業港設備を運営している。中国の海外基地システムが進展していると国防省が見ているか否かを問われたSchriverは「米国は中国のインフラプロジェクトの一部、特に彼らが港湾や港湾周辺のインフラに注目する場所で多くの場合に、アクセスに向けた交渉も行っていると考えている」と返答した。アクセス合意は中国の部隊や航空機、艦艇が基地や整備を利用することを可能にするだろう。

(3)Schriverは8月に公表された米国防省による中国の軍事力に関する米議会への年次報告書について発言した。Schriverは人民解放軍が長年に亘る国防費増加によって装備、戦略の両面において質的・量的発展を果たしたと指摘する。これに関して彼は「疑いようのない着実な進展が見て取れる。これこそ中国が公式な予算で毎年、年率8パーセントから10パーセント――もっとも米国は中国がより多くの予算を投じていることを知っているが――を投じ続けた結果である」とコメントした。

(4)BRIに関して年次報告書は中国の指導層が同構想を融資やインフラプロジェクト向けの、その他の援助を受け入れる発展途上国を支配する手段として利用していると指摘する。報告書はBRI参加国が北京に経済的に依存して、然る後に圧力を受けることになり得ると言及しながら「(BRIが)諸国と強固な経済的紐帯を築き、中国の利益とこれらの諸国の利益を合致させて、中国のセンシティブな問題に対するアプローチに対立や批判が加えられないよう抑止することを意図している」と指摘する。8月には米上院の超党派グループがTrump政権に、略奪的な中国の融資の犠牲となった国々のIMFによる救済阻止を要望した。例えば、2017年7月にスリランカは中国国営企業とハンバントタ港の99年間の貸し出しで合意した。同様の取引はギリシャのピレウス港とオーストラリアのダーウィンでも行われた。Schriverは「問題となった国が条件を満たせずに負債を返済できない場合、主権の犠牲と中国への支配権の譲渡を伴う。したがって、これは米国にとっての大きな懸念材料である」と述べた。

(5)台湾に関してSchriverは米国防省が台北当局と台湾の防空に必要なものを協議し、新たな武器売却を検討していると述べた。台湾は、台湾を射程に収める1500基以上の中短距離ミサイルを配備する中国に戦力面で圧倒的な劣勢に置かれている。4月には中国軍が台湾の正式な独立宣言の抑止を意図した威嚇行動として、台湾近傍で大規模な軍事演習を行った。米国防省の報告書は2016年から2017年の間に中国が攻撃機と爆撃機の数を130機増加させ、爆撃機に関しては昨年の400機から今年は530機に増加させたと指摘している。Schriverは新たな攻撃機の全てが重爆撃機ではなく、その多くが「近隣国における不測の事態に備えて設計された攻撃機である」とした上で、「台湾はPLAにとって中心的な組織化原理であり続ける」と述べた。

(6)Trump政権は数十億ドル規模の台湾に対する武器売却の履行を取りやめるべく動いている。その代わりに米国防省は対外有償軍事援助プログラムの下で他の同盟国に用いられているものと同様に、必要とされる防御的兵器をSchriverが言うところの「通常」ベースで売却するだろう。武器売却案の代わりに米国政府は台湾の武器売却要求に「要求が行われれば、台湾を通常のFMSパートナーのように扱う」形で応じるだろうというのがSchriverの見立てである。台湾は垂直離陸・着陸ができる米国の高性能なF-35戦闘機の購入を望んでいる。SchriverはF-35売却に関してはいかなる議論も行われていないが「防空装備に関する議論は確実に行われている。台湾側は公に高性能なF-35に関する議論を行っているし、それは解決策の一部なのかもしれない。しかしながら、米国は具体的なプラットフォームよりも作戦に必要なものを検討している」と述べている。また、彼は米国政府が米国防企業に海洋の脅威に対する防衛を支援するための潜水艦建造に関して、台湾を支援する商談を許可したとも強調した。

(7)米国防省が中国による特定の兵器開発を懸念しているか否かを問われたSchriverは、長距離精密誘導兵器の増大が懸念材料であると認めた。これに関して彼は「長距離精密兵器は明らかに米軍の前方展開戦力に幾分、複雑な要因をもたらすものである。これは全く新しい要因ではないが、中国によるこれらの能力強化は米国が自国の優位性と強みを維持すべく適応する必要があることを意味する」と述べた。

(8)中国の核戦力増強に関してSchriverは同国が核戦力の3本柱―H-6爆撃機、長距離ミサイル及び弾道ミサイル搭載潜水艦―のすべてを更新していると指摘する。これについて彼は「特に弾頭数などの問題は未だに不透明な分野の1つである」と強調した。中国は少なくとも260発の戦略核弾頭と不明な数のより小さな戦術核弾頭を保有していると考えられている。しかしながら、その実態はより多いこともあり得る。

記事参照:PLA Expanding Power through Belt and Road Initiative

912日「ASEANと多極的世界シンガポール専門家論評」(East Asia Forum, September 12, 2018

 シンガポール国立大学の准教授Ja Ian Chongは、9月12日付のEast Asia Forumのサイトに"ASEAN and the challenge of a multipolar world"と題する論説を寄稿し、ASEANは多極的な競争のある状況で機能するとして、要旨以下のように述べている。

(1)冷戦以来、効果的で機能的なASEANへの大きな要求はなかった。しかし、今日のASEANは、その加盟国が最もそれを必要としている時に、十分にその約束を果たすことができないようである。より競争の激しい世界では、この集団は、自分の立場を守ることを可能にするわずかな手段の1つである。米国、中国、インド及びヨーロッパの軌道に関する新たな不確実性は、ASEAN加盟国が慣れ親しんだ条件を期待することがもはや理に適っていないことを意味する。

(2)東南アジアは大国の権益の断層線に立っている。米国は依然としてこの地域で抑制的だが、明確な優位性を発揮することができる一方で、交錯する米国と中国の懸念は、東南アジア諸国にとってはそれほどストレス・ポイントにはならないかもしれない。しばらくの間、米国と中国の利益に重大な重複があり、東南アジア諸国の政府は、陣営を選択しないという装いとASEANへの曖昧なコミットメントの下で、完全に異なる個々の利益の追求を隠すことを可能にした。しかし、ASEAN加盟国は、もはや大国の調和という贅沢を推測することはできない。つまり、ワシントンは世界的なコミットメントを再考し、北京は現行の秩序に挑戦するための準備がより整っている。

(3)効果的なASEANは、多極間競争の局面でいくつかの重要な機能を果たすことができる。ASEANは、米国、中国、インド又はヨーロッパのような国々に対処する時、加盟国が個別に享受するより大きな影響力を、彼らにもたらすことを可能にする集団的な交渉のためのプラットフォームになることができる。共通の問題をよりよく調整できるASEANは、加盟国の自立をより一層保つことができる。内部的には、秩序だったASEANは、東南アジアでの不本意な介入の機会を与えることがより少ない。これらの条件は、加盟国の自由を守り、南シナ海の紛争のような継続的な問題又は一帯一路構想に関連するリスクの管理において、より多くの意見を述べることを可能にする。

(4)ASEANの80年代の成功のピークは、まさに当時の加盟国が全体として調整する能力に基づいていた。差異を棚上げし、共通の立場を保つことにより、ASEAN加盟国は外部のアクターによる勧誘、脅し又は約束によって、不和の原因をつくる、又は加盟国を乖離させる機会をほとんど与えなかった。ASEANは、目的、相互信頼及び効率的な調整の統一を通して、集団行動の問題を克服することもできた。

(5)静止状態、内部分裂及び構想の不足は、今日のASEANを彩るものである。たとえもしASEANが地域内の緊張を緩和する役割をもち続けても、加盟国は、確立されている米国と、売り出し中だが満足している中国との間の大きな共通点に向けて単純に努力することに、もはや賭けることができない。ASEAN諸国は、この集団自身の制度的能力を更新するために慢性的に投資することを怠っている。必要に応じて効果的に協調して共に行動するASEANの能力は、どのようなインフラの接続性、FTA又はスマートシティであっても代用できないものである。

(6)迅速で成功した再起動の欠落は、複数の強力なアクターの、より激しい競争の世界が、ASEANを余白へと追いやり、それにより、加盟国が利益を追求し、大国間の対立状態を和らげるための領域となる。

記事参照:ASEAN and the challenge of a multipolar world

913日「中国保有船腹量が世界第二位へ:その現状と含意――英海運業アナリスト論評」(HELLENIC SHIPPING NEWS, September 13, 2018

 海運業アナリストのRichard Scottは、9月13日付のHELLENIC SHIPPING NEWS に、"China-owned fleet becomes world's second largest"と題する記事を寄稿し、中国の保有船腹量が日本を抜いて第二位になったことを受けて、その現状と含意について要旨以下のとおり述べている。

(1)近年、中国がその保有船腹量において急激な成長を見せている。今年に入ってついに、保有船腹量で日本を抜いて世界第2位になった。1位ギリシャとの差は依然として大きいが、今後も中国の勢いは続くと見られ、その差は縮まっていくであろう。以下では、中国における船腹量増大の実態、新造船の注文・建造状況、そして中国における船腹量の増大が示唆することについてまとめる。

(2)2015年1月から2018年8月にかけて、中国の保有船腹量は34%増加した(2015年に6.5%、16年に7.5%、17年に9.4%、18年8月までで7.1%。18年8月時点での総トン数は1億7000万)。同期間のギリシャの伸び率は23%、日本のそれはわずか2%で、特に日本と比べると中国の増加率の大きさは顕著である。

(3)2017年末時点で、中国の船主による新造船の注文は総トン数にして2550万トンにのぼり、その時点での中国保有船腹量の約17%に相当した。そのひとつの特徴が、多くがばら積み貨物船(bulk carrier)やタンカー、コンテナ船などの大型船だという点である。ばら積み貨物船として最大規模のValemax(40万積載重量トン(DWT))の注文が30隻にのぼり、そのうち19隻が2018年中に納品予定である(うち11隻は現時点ですでに納品済み)。また、1万9000~2万1000 TEU(20フィートコンテナ換算の積載量)級の超巨大コンテナ船に関しては11隻が今年納品予定で、またタンカーではVLCC(very large crude carrier、20-31万DWT)が、これも11隻が今年納品予定である。

(4)2019年および2020年以降も中国向けに巨大船舶が納品予定となっている。今後中国に納品が予定されている船舶の総トン数は、2018年9月から12月で480万トン、2019年が990万トン、2020年およびそれ以降が610万トンである。やはり2019年以降に関しても大型船舶の注文が目立っている。たとえばValemaxは2019年から2020年にかけて12隻、VLCCタンカーについても2019年から2021年にかけて8隻が納品予定となっている。

(5)その新造船は何に利用されるのだろうか。その多くは中国を始点あるいは終点とする貿易に用いられることになろう。それ以外にもクロス・トレード(抄訳者注:自国の船舶が外国の複数の港を行き来する運送業務)に利用されるケースもある。たとえば上述した30隻のValemaxについて、ブラジルの資源開発企業Valeが27年間の用船契約を結んだ。したがって、これらValemaxは、主として鉄鉱石を積んでブラジル-中国を行き来することが想定される。しかしこれを含む中国の新造船の動向は、中国がよりグローバルな貿易に関わっている兆候も示した。たとえばあるValemaxやブラジルで荷積みし、日本やマレーシアの港で荷降ろしをしたという記録がある。また新造の中国籍VLCCタンカーが、ペルシャ湾で石油を荷積みしてからロッテルダムへ向かったという記録もあった。

(5)中国における新造船の増加とそのグローバルな海運事業への関わりの深まりは、もうひとつ重要なことを意味する。それはつまり物資の輸送量と船舶需要との関係である。たとえば中国の鉄鉱石輸入は世界の3分の2以上を占めており、輸入量も増加を続けているが、その増加率に関しては緩やかになってきた。こうした傾向のなか、中国の大型運搬船がこれまでより大規模に鉄鉱石輸送に携わることによって、外国籍の船舶がこの業務に関わる余地が減少する可能性がある。

(6)中国所有の船腹量が増加傾向にあることははっきりとしているが、それが何によって刺激されているかを明らかにするのは困難である。検討すべき要因としては、国際的な中古船の市場の動向や、船舶リサイクル市場の動向などがあろう。これらの動向について予測するためには運賃の傾向や予測など諸々の要因についても考慮する必要があり、その予測は非常に困難である。ただし、いずれにしても、中国所有船舶の拡大傾向は今後も続くことは明らかであろう。

記事参照:China-owned fleet becomes world's second largest

913日「米印2プラス2:インド太平洋をめぐる意味と課題――印研究者論評」(PacNet, Pacific Forum, CSIS, September 13, 2018

 インド・パキスタン関係および中印関係の専門家で、ニューデリーにあるシンクタンクVIFの研究員Prateek Joshiは、米シンクタンクCenter for Strategic International Studies(CSIS)のWebサイトPacNetに、9月13日付で"THE US-INDIA 2+2 DIALOGUE: IMPLICATIONS AND CHALLENGES FOR THE INDO-PACIFIC"と題する論説を寄稿し、つい最近行われた米印2プラス2対話について分析し、今後の米印関係およびインド太平洋地域の展開と課題について、要旨以下のとおり述べた。

(1)米印の間で初めて2プラス2閣僚対話が行われた。この結果は米国とインドの防衛協力体制を強固にするものであり、米国が「自由で開かれたインド太平洋」戦略に強くコミットしていることを証明するものであった。後述するように課題はあるが、今後数年で米印はより重要な安全保障上のパートナーとなっていくであろう。

(2)この対話の最大の結果は、通信互換性保護協定(COMCASA)および通信の相互運用保護に関する合意覚書(CISMOA)の締結である。これによって、米印軍の間でのシームレスな情報共有が可能になった。つまり、インド軍で運用されている米国製兵器(C-17 Globemaster、C-130J Super Hercules、P-8I Poseidonなど)は米軍と同じ暗号化された通信システムを利用することが可能になり、またインド海軍は米国の戦闘部隊によって用いられている情報交換システムを利用可能になる。このことはインドの防衛能力を飛躍的に向上させるであろう。ある海軍士官が述べるところによれば、「インドの艦船は米国のプラットフォームとリアルタイムでデータのやりとりができるようになる。それによってインドは、インド洋地域における中国の動きを監視することができる」のである。米国はインド太平洋地域において共通の情報共有網の構築を目指しており、米印間でのこうした動きはその一環である。

(3)あまり注目されてはいないが、この会合の重要な成果のひとつに、「米中央海軍司令部(NAVCENT)とインド海軍との間での交流を開始する」という決定がある。これが意味するのは、米国の視点がインド太平洋地域全体に向いているということであり、「インド太平洋地域」というとき、米国の関心が東アジアに限定されているのだというしばしば言われてきたことが誤っているということである。米国はインド太平洋について全体的なアプローチを指向しているのである。

(4)しかし米印協力にもいくつかの限界や課題がある。そのひとつの証明が、COMCASAの合意に至るまでに長い時間がかかったという事実である。たとえば米印の間で2002年にGeneral Security of Military Information Agreementが結ばれてから16年も経過している。また今回行われた2プラス2対話に関しても、2度も延期がなされた。2016年に米国がインドを「主要防衛パートナー」と位置づけるなど、インドの重要性についての姿勢を明確にしてきたにもかかわらず、インドは慎重で曖昧な姿勢を維持し続けたのである。それはインドの伝統的な対外政策立案過程に由来するものでもあるが、以下に述べるインドの全体としての対外政策、安全保障政策と深い関係があろう。

(5)米国にとって問題であるのが、インドがこれまで、米国と敵対的な国々、すなわちロシアや中国、イランなどと緊密な関係を持ってきたことである。たとえば米国はインドへの原油輸出を拡大すると同時に、インドに対してイランからの石油輸入(2017-18年は全体の10.4%を占めた)を止めるよう求めているが、インドがそれを受け入れるかどうかはわからない。また、米国が2017年に「敵対者に対する制裁措置法」(CAATSA)を成立させたことは、たとえばロシアからS-400ミサイル防衛システムの購入を計画したインドにとっては不安材料であった。これらの点について米国がインドに強硬な行動をとることは考えにくいが、今回の対話で米国は、インドの不安を和らげるような言質を与えることはなかった。

(6)今後の展開も注視しなければならない。COMCASAはインド海軍が中国海軍の動きを追跡することを可能にするものであったために、そのことに対し、近年インドとの関係を緊密にしつつある―ここ最近両国の国防代表の訪問が増え、また、中国はインドからの米の輸入を許可した―中国がどう対応するかは注目である。中国だけでなく、パキスタンの動向にも注意を払う必要がある。今回の米印の合意はパキスタン政府を警戒させ、パキスタンが中国との防衛協力を促進する可能性も考えられるのである。

(7)2プラス2対話およびCOMCASAの締結に至るまでに長い時間が必要であり、なお課題は残されている。しかしいずれにしても今回の合意は米印の協力関係を大きく強化するものであったことは間違いない。それは、インドがインド太平洋地域における立場を強化しようと考えていること、米国が同地域でより深い協力関係を構築することに強くコミットしていることをはっきりと示したのである。

記事参照:THE US-INDIA 2+2 DIALOGUE: IMPLICATIONS AND CHALLENGES FOR THE INDO-PACIFIC

913日「北極の三つ葉のクローバー:ロシアの地域的軍事優越への努力米専門家論説」(Eurasia Daily Monitor, September 13, 2018

 Jamestown Foundationの研究員Sergey Sukhankin博士は、9月13日付のEurasia Daily Monitor に"The Arctic 'Trilistnik'--Russia's Bid for Regional Military Superiority"と題する論説を寄稿し、整備の進む「北極の三つ葉のクローバー」」基地はロシアの接近阻止/領域拒否戦略を実効性のあるものにするだろうとして、要旨以下のように述べている。

(1)Sergei Shoiguロシア国防相は8月末にロシア軍の主要な任務の1つは北極地域における国益を擁護することであると述べた。氷に閉ざされた極北には、「ある国々」の地域に対する決断によって「高い紛争の可能性」があるとShoigu国防相は強調した。ロシアは北極に戦略的関心権益を有しており、それには以下が含まれる。

-地形学的権益。北極地域は推定上、世界の炭化水素鉱床の四分の一を埋蔵しており、ロシアは2030年までに55パーセントを効果的に支配する計画である。

-地政学的権益。ロシアの戦略的目的の1つは、北極海航路を含むいわゆる北東航路の安定的支配を獲得し、維持することである。

―軍事戦略上の計算。北極はロシアから最短で米軍基地に到達できる道筋であり、気象的には厳しいが北ヨーロッパとアジアとを海上で結びつけている。モスクワはこれらの海上とその上空の回廊全体を支配することを熱望している。そうすれば地域全体を跨いで米国に挑戦することができるからである。

(2)この3つの任務全てに対応するため、ロシアはその極北の至る所に相互連接された軍事基地の建設に注力してきた。その最初の主要な施設は、コテリヌイ島(シベリアの沖合東シベリア海のアンジュー諸島の1つ)に2014年に建設された「北のクローバー」と呼ばれる3つ葉のように連接した軍事基地である。2016年から2017年にかけてロシアは北極地域における軍事能力を人員の面でも軍事機器、インフラの面でも拡大し続けた。そして、2017年12月末、Shoigu国防相は、モスクワは事実上北極地域における「計画した全ての軍事的インフラの工事を完了した」と述べた。

 国防相によれば、5年間でロシア領の北極地域のインフラ(主としてコテリヌイ島、アレクサンドラ島(バレンツ海にある島)、ウランゲリ島(東シベリア海とチュクチ海の間にある島)、サハリン最北端のシュミット半島)は425の様々な対象に及び、70万㎢に及ぶ。これら施設には恒久的な建物が準備され、千名の人員が勤務し、各種の特殊な武器と弾薬が備蓄されている。

(3)拡大するロシアの地域への野望の主たる柱の1つは、独特の「北極の三つ葉のクローバー」軍事基地である。相互に連接された3つの建屋からなり、苛酷な環境が要求する独特の建築技術を適用して建てられている。アレクサンドラ島に位置する軍事基地群は北極地域の軍事的支配を保証する上で緊要である。

 ロシア国防省は2018年3月10日に北極の三つ葉のクローバー、特に居住管理施設群の焦点を当てた仮想ツアー記事を投稿した。三つ葉のクローバーは少なくと180名の人員を外部からの補給無しで18ヶ月間収容することができる世界最大、かつ最も北にある建築物である。プロモーション・ビデオは施設群の基本的機能を明らかにした。

-ロシア領土に対するミサイル防衛

-平時及び北極地域で潜在的に軍事的緊張が高まった場合のいずれでも北東航路の防衛

-北極地域の海上船舶運航に対する全般的安全保障-事実、国際的な船舶運航はロシアの支配下にある北極を航過する

―気象調査、地球観測衛星を使用して行われる気象調査は情報に関連した目的でロシア軍によって使用される。

(4)そのような複雑なインフラを建設する能力がロシアにあるのであれば、同様の、あるいはさらに進んだ軍事施設が北極地域の各所に付け加えられるとメディアの報告は主張している。とりわけ、極北の(バレンツ海にある)フランツヨシフ諸島は主地域としてさらに基地インフラ(の整備)が促進されるとはっきりと述べられている。

 フランツヨシフ諸島のあるところは戦略的にロシアの北極に対する野望にとって死活的なところである。経済的には海底炭化水素埋蔵個所が近く、地理的にはバレンツ海とカラ海、北極海の結節点であり、スカンジナビア半島を見渡せる位置にある、軍事戦略の視点からは極北における前方展開の位置にある。さらに空の結節点であることも述べる必要がある。フランツヨシフ諸島はアルハンゲリスクとコラ半島から不可分である。重要なことは、ロシアはそこにもう1つの接近阻止・領域拒否帯を創出したいという野望を持っていることである。それは、既にあるカリーニングラード接近阻止・領域拒否圏と相互に連接し、かつ重複することになるだろう。

(5)より完全に北極地域を軍事化するというモスクワの計画は2014年に北海艦隊統合戦略司令部の編成で加速された。それ以降、国家装備計画(2018-2027)には新しいS-300長射程対空ミサイルとTor-M2短射程対空ミサイルの追加がロシアの北極装備の強化を援助するために含まれている。2014年から2018年の間にロシアは北極地域に以下の兵器を展開した。

―T-80BVM主力戦車

-BTR-82A装甲人員輸送車

-グヴォズジーカ(122mm)自走砲(射程:15Km以上)

-「北極」用Tor-M2DT対空ミサイル(射程:16Km、高度:10Km以上)発射基

―最初の「北極」用Mi-8ヘリコプター(-60°F以下でも運用可能)

―GAZ-3344-20全地形型水陸両用無限軌道輸送車(地上速力:時速60Km以上、水上速力3.8Km)

(6)厳しい気象条件を仮定すれば、北極地域におけるロシア軍は無条件の環境下で作戦するよう準備されている。装備が損傷、あるいは正常に機能しなくなれば機動や輸送はそり犬やトナカイの支援を得て行うことになるだろう。

 ロシアがこれらの目標を達成する余裕があるかという深刻な疑問が提起されているにもかかわらず、証拠に照らしてみるとロシアがより広い北極地域のあちこちに支配権の拡大を決定したことを示している。それにもかかわらず、ロシアの戦略は非対称性の原則を現実的に実践すること、そして冒険的な思考のうえに築かれている。それらはシリア内戦の経験に基づくロシアの軍事思想家によってますます強調されている。カリーニングラード州から北極地域に伸びるロシアの北西部全体を要塞化する代わりに、ロシアは選択した戦略的に重要な地域の軍事化に依拠し、接近阻止/領域拒否を追求している。このように、上記の2つの軍事基地、そしておそらく新しいもう1個所は近い将来、本物の接近阻止/領域拒否「圏」となるだろう。

記事参照:The Arctic 'Trilistnik'--Russia's Bid for Regional Military Superiority

914日「フランスとイギリスは南シナ海に留まるのか?」(The Diplomat.com, September 14, 2018

 オーストラリア・ニューサウスウエルス大学(the School of Humanities and Social Sciences)博士後期課程に在籍するTuan Anh Lucは、9月14日付けThe Diplomatに"Are France and the UK Here to Stay in the South China Sea?"と題する記事を掲載、要旨以下のとおり述べている。

(1)8月下旬、英海軍のAlbion級ドック型揚陸艦が南シナ海パラセル諸島近海で航行の自由のためのパトロールを実施した。本パトロールは米国が海洋における過剰な主張に対抗する所謂「公海における航行の自由」を訴えるデモンストレーションに意を同じくするものであろう。中国は事前の通報のない航行に厳しい反感を示した。英国は、ある匿名の情報筋の見解として、英海軍はパラセル諸島の12海里以内に入らずに中国の海洋における過剰な主張に抗議したのだとの報道を伝えている。当該Albion型揚陸艦はパラセル諸島付近航行の後にベトナムのホーチミンに入港した。英軍艦の行動は、東南アジア地域へのイギリスの強い関与の意図を示すものであり、それは米国にとっては喜ばしいものであったかもしれない。英国は空母Queen Elizabethを早ければ2020年に太平洋へ派遣する計画であり、オーストラリア海軍と共同行動する予定である。

(2)パラセル諸島について、中国は1996年に28基点を結ぶ直線基線を一方的に宣言し、その周囲12マイルの領海を主張している。中国がパラセル諸島に引いた直線基線は国連海洋法条約に沿っていないとの見解がある。直線基線はあくまで群島水域に適用されるものである。2016年6月の仲裁裁定では中国による悪名高い"9段線"内の歴史的権利は無効であるとの結論が出ている

 Albion級揚陸艦は、南シナ海の航路へのアクセスの権利と自由を示威行動によって示すものであった。6月に英国はフランスと共にスプラトリー諸島のミスチーフ、スービー及びファイアリークロス礁周辺で航行の自由を示す共同パトロールを実施している。英仏はインド太平洋での影響力と東南アジアのシーレーンの自由を守る意思を示したと言える。英仏両国は、東南アジア海域での海軍演習も回を重ね実施してきており、その中には豪海軍との共同演習もある。

(3)米国は、2015年以降に南シナ海で「航行の自由作戦」を11回実施したと公表している。しかし、米国の「航行の自由作戦」は効果がないとの指摘もある。Obama大統領による「ピボットアジア」や「アジアリバランス」表明も、中国による南シナ海での人工島建設や軍事基地建設を止まらせることはできなかった。問題は、中国が建設した人工島をどの程度軍事化するかだ。周辺国は、米国のアジア政策の曖昧性に懸念を抱いている。Pompeo国務長官の「自由で開かれたインド太平洋戦略」も米国のコミットメントを示すものとしては不十分である。Trump政権の政策は経済に傾き過ぎている。地域諸国は、Trump政権の政策に中国による南シナ海の既成事実化への対応を見て取れない状況にある。加えて、新たなインド太平洋観に基づく米国の金融政策は中国の「一帯一路構想」と比べるとあまりにも貧弱である。

 英仏による行動は、南シナ海紛争への域外国からの関与の増大を示すものである。そのような域外からの関与とASEANの地域主義が同じ土俵に上がり、相乗効果も期待できるのだが、しかし、ASEAN諸国には地域が再び大国の攻防の舞台となることを警戒もしている。

記事参照:Are France and the UK Here to Stay in the South China Sea?

914日「新時代の『制海権』-ギリシャ専門家論評」Center for International Maritime Security (CIMS),September14,2018

 ギリシャ国際関係研究所海事シーパワー分析グループ研究員Theodore Bazinisは、9月14日付でCenter for International Maritime Security (CIMS)のwebサイトに"Adjusting to New Conditions for Command of the Seas"と題する記事を寄稿し、現代では国際法の要素なども勘案した新たな「シーコントロール」の概念を考慮する必要があるとして、要旨以下のように述べている。

(1)2018年版の「米国家安全保障戦略(NSS)」は世界が大きな権力闘争の時代に戻ると主張している。世界史は覇権を巡る権力闘争であり、Alfred Thayer Mahanが著書「海上権力史論」で記したとおり、シーパワーを支配する者が海洋のルールを定めるのである。Mahanの言う「制海権」とは理想的な条件の下のものであって、現実にはこれを「シーコントロール」(抄訳者注:目標達成のための一時的な海洋の利用ないし利用拒否を意味する用語)と読み替えることも出来るが、どのような海上紛争であれ「シーコントロール」は将来に亘って成功の鍵である。重要なのは「シーコントロール」の原則を理解することであり、成功例、失敗例は豊富にある。

例えば米国は、第一次世界大戦に際し戦略目標の達成にはマハン主義の下における海軍の能力不足が明らかとなった。カリブ海における決定的勝利を得るため構築されたドクトリンは、ドイツの潜水艦が支配する大西洋での「シーコントロール」のため、新たに多くの戦闘単位の建造を要した。艦砲から潜水艦という技術革新を予見出来なかったことはマハン主義の不備ではあったが、米国はこの点をよく理解し、船舶護衛や敵潜水艦撃破などの新たな状況に対応する「シーコントロール」に適した駆逐艦など、新たな戦闘単位の導入を実現したのである。

(2)しかし、「シーコントロール」が能力の獲得に負うものと結論づけるのも適当ではない。そもそも適切な能力とは何か?能力とは戦略的な目的に叶い、作戦環境下の所要に適応し、あらゆる脅威に対応することを可能にする手段と定義される。第一次大戦のケースは技術革新が「シーコントロール」に及ぼす劇的な影響を示唆している。潜水艦、空母、海軍航空隊の登場は海上戦闘の領域を空中及び水中に拡大した。その結果、海軍が対応する脅威の質と量は大きく変化し、既存のドクトリンの変革、艦隊の新たな能力の獲得が求められたのである。

 シーパワーの適切な使用は今日ではドメイン全体に能力と戦術を分配する最良の方法とみなされるようになった。かつて戦時における「シーコントロール」とは、能力と戦術を作戦条件に合わせ迅速に調整することであった。しかし 現代では戦争の最中の戦術、装備改善は困難であり、したがって平時からの艦隊の整備計画が極めて重要である。

(3)今後はブルーウォーター(外洋)よりもグリーン/ブラウンウォーター(沿海域)が海上紛争において決定的に重要な領域となるだろう。機雷、陸上配備ミサイル、ディーゼル潜水艦、特殊部隊や電子戦、更には宇宙やサイバー戦の領域なども含めたアンチアクセス戦略が在り得るかもしれない。こうした高度な技術が拡散するに連れて、沿海域の伝統的に弱小であった国家も従来にはなかった方法で「シーコントロール」やアンチアクセスを追求することが出来るようになるだろう。あるいは軍事的な非対称性を埋め合わせるべく、テロ組織や犯罪集団を利用することも予想される。彼らはまた、防御側からの攻撃抑止が困難な高度な技術(スマート機雷やサイバー攻撃)と簡易な戦術(自爆攻撃、旧式の誘導兵器など)を活用したハイブリッド戦術を試みるかもしれない。沿海域や島嶼部あるいは群島水域などの複雑な地理的環境下では同様の事態が生ずる可能性がある。

(4)これら全ての脅威と国際環境を考慮すれば適切な能力を備えた艦隊を整備しておく必要がある。しかし、効果的な「シーコントロール」を確立するためにはそうしたハードパワーのみならず、特定の戦略環境においてこれらの軍事活動が好ましいものとして受け入れられるようにする考慮も必要である。戦略レベルでは軍事的活動を正当化する国際法の遵守という主張を情報戦の一環として実施していくべきである。

 大国は「制海権」という文脈における世界秩序には疑問を抱いているかもしれない。海上においては「航行の自由」の否定やアンチアクセスといった政治的な目的を達成するために実施される小規模な危機に際し、この問題がより明らかになるだろう。特に一般商船が輻輳する海域においては、国際法は交戦規則や戦闘行為について歴史上の他のどの時期よりも重大な影響を与える可能性があり、結果的に指揮官の「行動の自由」を束縛することにもなる。したがって、軍事行動の実施に際しては、その正当性を主張するために常に国際法を考慮しなければならない。

 部隊運用のレベルでは、戦争や危機に際して軍事行動の合法性を確保する法的な戦いを実行することも重要である。例えば、 海上民兵や非戦闘員の識別などの特定の状況に際しては、これらの考慮が指揮官の意思決定を制限、あるいは影響を与える可能性もある。武力の行使に係る法的な混乱は民間人の被害を招き、法的外交的にも望ましくない結果を招くことになるだろう。

(5)結論として、「シーコントロール」は海上における戦略目標を達成するため達成すべき究極の基準である。確かに「シーコントロール」は軍事的な問題ではあるが、それを軍事的観点からのみで捉え、法律や世論の領域を無視するのは誤りである。対抗者による新たな脅威、環境、行動方針には新たな対応と能力が必要である。これらの新たな脅威への対応は、海軍の組織的な計画として迅速に調整されなければならない。

記事参照:Adjusting to New Conditions for Command of the Seas

914日「北京のコントロールが効かず変容する一帯一路米専門家論説」Nikkei Asian Review, September 14, 2018

 米戦略国際問題研究所Reconnecting Asia Projectディレクター、Jonathan E. Hillmanは、9月14日付のNikkei Asian Reviewに"China's Belt and Roller Coaster"と題する論説を寄稿し、北京は無秩序に広まる「一帯一路構想(BRI)」へのコントロールを失う危機を冒していると指摘した上で、要旨以下のように述べている。

(1)5年前に習近平は中国が大国の地位を占める道を開くべく考案された大規模な投資計画「一帯一路構想(BRI)」を発表した。その代わりに、今やBRIは北京もコントロールに苦労するジェットコースターとなった。

(2)BRIは初期に成功したが、それは主に外交的でシンボリックなものであった。BRIの旗の下に謳われた、大規模でしばしば非現実的な金額の中国の投資は80余国を惹きつけた。一部の国々は自国の開発戦略をBRIとリンクさせる意思を表明した。投資に対する需要とBRIへの支持を結びつけた中国当局者は、BRIがグローバリゼーションの新しく、改善された形だと主張さえもした。

(3)BRIの成功していない点は最近のことでかつ根深いものであり、安全保障と主権の問題に関係している。持続不可能な債務や公表されない戦略的な動機、汚職、中国企業に対するえこひいき、環境的・社会的な負の影響に関する懸念が高まっている。西側当局者の間では、多くの不可知論者が懐疑論者となり、多くの懐疑論者が反対論者に転じた。こうした非難はBRIパートナー諸国間においてさえも高まっている。これらの反応を中国当局がどの程度真剣に捉えているのかを窺うことは困難である。他方で、中国当局はBRIが困難に直面していることを認め始めている。先週、ある中国高官は「我が国は不断に仕事の仕方を改善させなければならない」と吐露した。しかしながら、BRI拡大に対する中国の熱意こそがその最大の敵であり続けてきた。

(4)さらに根本的な疑問は中国当局が実際のところ、どの程度のコントロールをBRIに及ぼしているのかという点である。我々の研究は中国がBRIに対するコントロールを失っているだろうことを示唆している。中国当局者によると、BRIは物や人、データがユーラシア大陸を横断する6つの経済回廊を擁している。習近平は2017年のBRIフォーラムで「BRIの下で6つの経済回廊を建設する目標が定められた。中国はその達成に努力しなければならない」と述べたが、我々の研究は中国の投資が6つの経済回廊の内、5つの外側で行われている公算が大きいことを示している。中国パキスタン経済回廊(CPEC)は、その法則の例外である。CPECはBRIの旗艦回廊だと見なされており、我々のデータもCPECが非経済回廊地域に比して多くのプロジェクトが行われている唯一の回廊だということを示している。CPECを除く経済回廊における中国の活動が精彩を欠いていることは、中国内外の利益集団による習の署名した外交政策構想の歪曲を示唆している。中国国内では、地域や地方、企業レベルの利益集団がBRIを支援するという名目で既存の仕事を衣替えすることに駆り立てられ、同じ旗印の下で新たな活動を行おうとしている。あらゆる省や地域は今や中国共産党規約に明記されたBRIの進展に伴う経済的、政治的な利権を得ようとしている。

(5)BRIブランドはファッションショーや美術展、マラソン、国内航空にまで拡大されている。ロシア国営メディアはBRIの進展に伴うロ中の「超国家的」融合を喧伝している。その意味するところは、BRIの最も熱心な支持者の一部がその中心的な機能とほとんど関係ないことを物語っている。

(6)5年前に開始されたBRIは、現在のBRIと同じものではない。過去5年間の政策綱領はBRIを北極海やサイバー空間、宇宙空間にまで広まるものとした。BRIはあらゆる人々にあらゆるものを約束している。しかしながら、BRIの拡大に伴い、その意味も薄れることになる。

(7)BRIを安定軌道に乗せるために、北京はどのプロジェクトを適格とするか基準を設ける必要がある。習はBRIが中国中心の政治グループである「中国クラブ」にはならないと明言した。したがって中国は諸国に加入圧力を加えることを止め、個々のプロジェクトに対するハードルを上げることに専念すべきである。BRI加盟問題からプロジェクトのパフォーマンスに重点を移すことは、BRIが中国の地政学的課題よりも世界の発展促進に真剣であることをBRI懐疑論者に対して納得させることに資するだろう。米当局者を含む懐疑論者も選択的な関与のオプションを検討すべきである。中国の開発銀行は外国の貸し手と組むことで、中国が後援するプロジェクトの質を改善したいと意思表示してきた。ワシントンは世界銀行やアジア開発銀行、欧州復興開発銀行の参加によって、その願いを聞き届けるべきである。反対から選択的な関与に立場を変えることは、懐疑論者が自らBRIを再定義することに資するであろう。

記事参照:China's Belt and Roller Coaster

917日「中国がロシアとの軍事演習で招待されていない監視艦を派遣米海軍協会報道」(USNI News, September 17, 2018

 USNI Newsは、9月17日付で"China Sent Uninvited Spy Ship to Russian Vostok 2018 Exercise Alongside Troops, Tanks"と題する記事を掲載し、ロシアのボストーク2018軍事演習に中国が監視艦を1隻派遣したことや中露軍事協力の背景について、要旨以下のように報道している。

(1)モスクワの招きによって、北京は、最近行われた最大規模のボストーク演習シリーズの2018年版に、中国軍の兵士、ヘリコプター、戦車、そして、招かれざる中国の監視艦を派遣した。中国海軍の東調級情報収集艦(AGI)は、一部の海上演習中にロシア海軍の参加艦艇の後をつけていたと米当局者はUSNI Newsに認めた。中国海軍が、ロシアとの演習に軍艦を派遣するように頼まれたかどうかは不明だった。

(2)「これに参加するのは、約30万人の兵士、1,000機以上の航空機、ヘリコプター及び無人機、最大で80隻の戦闘艦及び支援艦、最大で36,000両の戦車、装甲兵員輸送車及びその他の車両の予定である」とロシアの国防大臣Sergei Shoiguは、国営メディアに述べた。「(ボストーク2018の)主な政治的意義は、米国による国際システムの継続的な支配からロシアと中国が感じる脅威に対抗することを目的とした、可能性のある戦略的パートナーシップの出現についての両国によるシグナルに由来する」と先週のワシントン・ポストにDmitry Gorenburgは書いた。

(3)また、協力のための実践的な軍事技術的理由もあると、戦略・予算評価センターの海軍アナリストBryan Clarkは、USNI Newsに語った。中国は、そのミサイル、レーダー、ジェットエンジン及び電子戦技術の高度化の点において、依然としてロシアと西側にリードされている。同時にロシアは、中国が優れた分野である、現代の無人航空機技術の開発に問題を抱えているとClarkは述べている。これらの技術における取引は、北京とモスクワの間の新しい軍事協力を規定するために大いに役立った。しかし、Clark曰く、技術的により洗練された「現実にレーダー運用と電子戦を非常に得意としている」ロシア海軍の軍事活動から教訓を得る機会は、中国海軍にとって見逃せない機会である。

(4)敵対者であればともかく、その演習で、一緒にいる仲間と訓練している間にその仲間を監視することは、滅多にない行為である。しかし、中国は過去において、正式に招かれた2014年のRIMPAC演習でも、招待されていない東調級情報収集艦を1隻派遣している。

記事参照:China Sent Uninvited Spy Ship to Russian Vostok 2018 Exercise Alongside Troops, Tanks

919日「インド太平洋地域における米印両国海軍の戦略的協力の必要性印専門家論評」(South Asia Analysis Group, August 26, 2018

 印Jadavpur University国際関係(戦略研究)前教授Dr. Jyotirmoy Banerjeeは、米シンクタンクCenter for International Maritime Security(CIMS)のWebサイトに9月19日付で、"India-U.S. Strategic Convergence in the Indo-Pacific Region"と題する長文の論説を寄稿し、インド太平洋地域における米印両国海軍の戦略的協力の必要性について、要旨以下のように述べている。

(1)既に2010年に当時のClinton米国務長官は、世界貿易におけるインド太平洋海域の重要性に鑑み、米海軍とインド海軍の協同の必要性を強調していた。戦後、太平洋は「アメリカの湖」となっていたが、Obama米大統領は、2011年に「アジアへの軸足移動」(a "pivot")としてアジア太平洋における「再均衡化」という新しい戦略を打ち出した。その背景には、多くのインド太平洋諸国も実感していたように、中国の経済力と軍事力における劇的な台頭があった。2012年に公表された米国防省の戦略指針は、インドを名指しして、米国が「インド洋全域における地域経済の要として、そして地域安全保障の提供者としての役割を遂行するインドの能力を支援するために、インドとの長期的な戦略的パートナーシップを強化しつつある」と述べている。後継のTrump政権のMattis 国防長官は、インドを「主要防衛パートナー」(a "Major Defense Partner")と位置づけ、2018年5月30日には、インド太平洋を米国の「優先的な戦域」とし、ハワイの「米太平洋軍」(PACOM)を「インド太平洋軍」(INDOPACOM )と改称した。

(2)しかしながら、インドの Modi 首相は、恐らく米主導の「対中」戦略に公然と引き込まれるのを避けるため、厳しい中国批難を自制してきた。しかしMattis国防長官は、6月のシンガポールでのシャングリラ・ダイアローグで、「インド太平洋」地域を米国にとって「死活的」な地域と位置づけ、「インド、ASEANそして米国の条約同盟国や他のパートナー諸国」に対して、米国と協力して「自由で開かれたインド太平洋」を下支えすることを求めた。その上で、Mattis長官は、躊躇うことなくインドに対して中国に対抗することを公然と求め、「米国は、域内及び世界の安全保障においてインドが果たし得る役割を高く評価するとともに、我々は、米印関係を、戦略的利益、共通の価値観そして法に基づく国際秩序の尊重という一致した基盤に立つ、世界の2大の民主主義国家の間の自然なパートナーシップと見なしている」と主張した。

(3)この間、中国は、自国の管制下にある水域への、米国の如何なる介入にも対抗するために、「積極防衛戦略」("active defense strategy")と「接近阻止/領域拒否(A2/AD)戦略」を追求してきた。中国がインド洋を通って東アフリカにまで至る東シナ海と南シナ海における海上交通路(SLOC)周辺海域の支配を固める理由は、明白である。北京のエネルギー資源を渇望する輸出主導型の経済は、域内のSLOCに対する北京の支配の強化を求める。しかし、同時に域内のSLOCは、他のアジア太平洋諸国の生存にとっても不可欠である。インド太平洋における軍事的、あるいは経済的優越を巡る問題は、より大きな課題―すなわち、米中双方にとって受け入れ可能な、米中間の力の均衡を見出すという課題の一部に過ぎない。1997年の当時のClinton米大統領と中国の江沢民主席との首脳会談以来、多くの米中首脳レベルの会談が行われてきたが、米中関係は依然として、現状維持国家(米国)が台頭する新興国(中国)を懸念する、いわゆる「トゥキュディデスの罠」("Thucydidean trap")によって特徴付けられる側面を内包している。その結果として生じる戦略的緊張は、米中両国にとっても、またこの地域にとっても好ましくない予兆である。

(4)変化する海洋戦略環境を受けて、米国は、インド太平洋における海軍力の展開と外交を見直し始めた。インドは、その長い海岸線と地理的位置から、重要な役割を果たし得る。世界の石油輸出の80%強、グローバルなコンテナ輸送の50%と海運貿易の33%が、インド洋そしてホルムズ海峡やマラッカ海峡といった戦略的要衝を通航する。アジア太平洋をインド太平洋と改称したことは、明らかに米国が中国に対抗する上でインドに期待していることを示唆している。

(5)一方、インドは、既に2015年1月の「アジア太平洋とインド洋地域に関する米印合同戦略ビジョン」("U.S.-India Joint Strategic Vision for the Asia-Pacific and Indian Ocean Region")と題する文書で、海洋安全保障を確保するとともに、域内全域、特に南シナ海における航行と上空通過の自由を維持することの重要性を強調している。更に、この文書は、「我々は、全ての関係国に対して、武力による威嚇や武力の行使を避けるとともに、あらゆる平和的手段を通じて、領土や海洋に関する紛争の解決を追求することを求める」と述べている。そしてインドは、この文書を肉付けする幾つかの措置をとった。2016年5月には、インド海軍部隊が南シナ海に展開し、日米とともに、Malabar-2016演習を実施するとともに、幾つかの沿岸諸国に寄港した。インド海軍は、この地域が「インドにとって死活的な戦略的重要性」を持つと宣言した。2017年に公表された米国のCenter for Naval Analysesの論考は、「インドの東南アジアと東アジアの海洋への関与と、これら諸国との諸活動は、米海軍とインド海軍の協力領域を大きく拡大しつつあ」り、「Modi政権下における米印両国海軍間の絆は強化されつつある」と述べている。

(6)2018年4月の米国の新たな通常兵器移転政策とドローン輸出政策を受けて、国務省は、米国が「インドに対する兵器移転の規制を撤去する」と宣言した。Modi 首相は、6月のシャングリラ・ダイアローグでは、中国の高圧的な姿勢には触れなかったが、インド海軍の活動と、米国を含む域内諸国海軍との協力を強調した。一方で、インドは、2017年に日本が呼びかけた、米国、インド及びオーストラリアとの「4カ国安全保障対話」には、直ちには応じなかった。この対話は、インドが中国とロシアに対する外交的な措置を済ませた後、2018年6月に実現した。ニューデリーはまた、米海軍とのMalabar演習と「4カ国対話」とを関連付けないように気を使った。インドは、そうすることが中国に対する敵意を示すものになると考えたからである。同時に、インドは、2018年4月にTrump政権がインドに対する武装ドローン、Guardianの輸出を解禁し、両国の戦略的絆を一層強化する措置をとったことを歓迎した。米国がNATO諸国以外に大型の武装ドローンを売却するのはインドが初めてとなった。米国にとってインドの重要性は、インド海軍が攻撃型原潜(SSN)1隻を含め、20隻を超える駆逐艦、フリゲート及び空母を有する、インド洋地域で最大の勢力であるということに起因する。2018年7月に、インド海軍は、「新しい任務ベースの展開」(a "new mission-based deployment")計画を取り入れた。この計画は、SLOCに沿って即応態勢の艦艇と航空機を配備することで、中国のいわゆる「真珠数珠繋ぎ」("string of pearls")戦略―すなわち、中国の言う「21世紀海洋シルクロード」によるインド洋沿岸域における海洋拠点の確保などによってもたらされた懸念に対する対応するものである。

(7)北京の野心的な動きは、中国をアジアとインド洋地域における新秩序の中核とする試みと見られる。それはまた、米国の「アジアへの軸足移動」に対抗するものでもある。中国の400億ドルに及ぶ、「シルクロード基金」と「アジアインフラ投資銀行」は、こうした北京の狙いを一層裏付けるものである。北京はまた、460億ドルの資金を投入して、政情不安な新彊からアラビア海に面するパキスタンのグワダル港まで3,000キロに及ぶ「中国パキスタン経済回廊」(CPEC)を建設する計画である。これに対して、インドは、余り力強くはないが "Look East Act East" 政策を打ち出した。米国がインド洋地域における中国の海洋攻勢に対抗するためにインドの協力を必要としているのと同じように、インドもまた米国を必要とするであろう。

記事参照:India-U.S. Strategic Convergence in the Indo-Pacific Region

【補遺】

旬報で抄訳紹介しなかった主な論調、シンクタンク報告書

1 China's Sea Control Is a Done Deal, 'Short of War With the U.S.'

https://www.nytimes.com/2018/09/20/world/asia/south-china-sea-navy.html

The New York Times.com, September 20, 2018

 The New York Timesは、2018年8月はじめに南シナ海ミスチーフ礁近傍での哨戒飛行を行った米海軍P-8哨戒機の同乗取材記事。同機とスービー礁にある中国軍の通信所との緊迫した交話を含めた動画、画像が掲載されており、中国はフィリピンの主島ルソン島を射程圏内に収め、一方米国はObama政権において南シナ海における中国の行動を押さえ込む機会を失ったと報じている。

2 Power Play Addressing China's Belt and Road Strategy

https://www.cnas.org/publications/reports/power-play

Center for a New American Security, September 20, 2018

Dr. Daniel M. Kliman is the Senior Fellow in the Asia-Pacific Security Program at the Center for a New American Security (CNAS).

Abigail Grace is a Research Associate in the Asia-Pacific Security Program at the Center for New American Security (CNAS).

 The Center for a New American Securityのアジア太平洋安全保障プログラムの上級研究員Daniel M. Klimanと調査員Abigail Graceは力押しの「一帯一路」戦略に対して、米国は以下のような力押しの対応策を採るべきであると主張した。

  1. 国際開発、貿易、投資について魅力的な米国の提案を推進、

  2. 中国の一帯一路に対抗する論理の展開、

  3. 米国の対応の全ての要素を調達、

  4. 戦略的インフラ投資を調整、

  5. インド洋における軍の態勢を防勢、攻勢の両面から強化、

  6. サプライ・チェーンの(上流と下流の)対話の開始、

  7. 米国のデジタル普及活動の拡大、

  8. 地域の連接計画を促進、

  9. 高品質のインフラに対する国際規格を整備、

  10. 一帯一路に対する幻滅の時を利用できるよう準備、

  11. 一帯一路の投資の対象とされている国々の政治的抗堪性を強化、

  12. 環インド洋地域及びユーラシアの国々の技術力を強化する。

Full Report

https://s3.amazonaws.com/files.cnas.org/documents/CNASReport-Power-Play-Addressing-Chinas-Belt-and-Road-Strategy.pdf?mtime=20180920093003