海洋安全保障情報旬報 2018年10月11日-10月20日

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10月11日「インド洋におけるルールベースの国際秩序を訴えるスリランカ首相―スリランカメディア報道」(Colombo Page.com, October 11, 2018)

 スリランカのインターネット新聞Colombo Page.comは、10月11日付で "Sri Lanka Premier emphasizes the need to maintain freedom of navigation in Indian Ocean sea lanes" と題する記事を掲載し、スリランカ首相Ranil Wickremesingheによる将来あるべきインド洋の構想について、要旨以下のとおり報じた。

(1)スリランカ首相Ranil Wickremesingheは、10月11日にスリランカ首相官邸Temple Treeで開催されたIndian Ocean: Defining Our Future Conferenceの基調演説で、インド洋沿海諸国は、インド洋地域における共通のルールに基づく秩序の強化に取り組むべきであると主張した。その要点は関連する2つの点にある。

(2)第一に、インド洋シーレーンにおける航行の自由の維持である。スリランカ首相は、それが国際貿易にとって重要であるばかりでなく、海底ケーブルの保護にとっても重要だと主張した。東西を結ぶ海底ケーブルの多くはスリランカの近くを通っているため、この問題におけるスリランカの役割は大きい。彼は、コロンボに海底ケーブルの安全性に関する国際重要拠点が設立される期待を表明し、国連薬物・犯罪事務所のグローバル海上犯罪対策プログラム(Global Maritime Crime Programme)との緊密な協力を提案した。

(3)第二に、スリランカ首相は海底資源の持続可能な管理と利用について述べた。インド洋沿岸諸国の多くは、その海洋天然資源の探査や利用するための技術などを持たないため、それぞれの協力関係においてそうした能力を高めていく必要がある。

記事参照:Sri Lanka Premier emphasizes the need to maintain freedom of navigation in Indian Ocean sea lanes

10月11日「自国海域の適切な管理に乗り出すインドネシア―米専門家論説」(Asia Maritime Transparency Initiative, CSIS, October 11, 2018)

 米ランド研究所の上級政策アナリストLyle J. Morrisは、10月11日付のCSISのAsia Maritime Transparency Initiativeのサイトに、"Assessing Recent Developments in Indonesian Maritime Security"と題する論説を寄稿し、近年、インドネシアが自国海域の適切な利用と保全のために様々な政策的手段を総動員していると指摘した上で、要旨以下のように述べている。

(1)インドネシア共和国は世界で最大かつ最も人口過密な島礁国家である。インドネシアの海洋地理に関する厳然たる事実は機会と課題の双方をもたらすものである。こうした海洋地形は一方で、Joko大統領が2014年に「世界の海洋の要(Global Maritime Fulcrum: GMF)」構想で打ち出したように、政策決定者がインドネシアの海洋経済を力づけ、活用する戦略ガイドラインを規定するよう促してきた。GMFは何よりもインドネシアを海洋領域――具体的には貿易、漁業及び石油・天然ガスなどの天然資源――から繁栄を得て、依存する国家に作り替えることを目指すものである。

(2)同時にインドネシアは開発が必要な資源に対する投資と、自国が利用できる豊富な生物、非生物海洋資源の保護に関して対応が遅れてきた。例えば2016年、世界銀行発表の「物流パフォーマンス」は、インドネシアの港湾インフラを東南アジア最低の1つに位置付けた。こうした島嶼間における接続性の欠如がインドネシアの総合開発を阻害してきた。だが、インドネシアは恐らくそれよりも大きな問題に直面している。同国の主権が及ぶ領域の3分の2を構成する海域は、外国船による違法漁業や海賊行為、密輸、不法入国など違法活動が蔓延する統治の及ばない広大な空間を作り出している。例えば、一部の報告書は「違法・無報告・無規制」(IUU)漁業がインドネシアの収入に年間30億ドル以上の損失を与えている、と見積もっている。

(3)インドネシアはほとんどの場合、十分にパトロールを行って、自国の海洋空間を警護するべく努めてきた。しかしながら、過去数十年間に亘ってインドネシアの海洋法執行機関(MLE)及び海軍は一連の懸念海域をパトロールして、違法行為を撲滅する十分なリソースを欠いてきた。筆者(Lyle J. Morris)が共同執筆したランド研究所の報告書はインドネシア当局が近年、自国の海域で発生する多種多様な脅威に対処すべく具体的な取り組みを行ってきたことを明らかにした。これには多面的なアプローチが伴っている。

a. 行政機関は、インドネシアが海洋安全保障と貿易に対して重点を再設定する論理的根拠を説明するGMFなど、一連の政策文書を公表してきた。

b. インドネシアは様々な調整官庁やMLE機関に加え、インドネシア海上保安機構(BAKAMLA)などの特別タスクフォースや、海洋問題に対処すべく特に編成された違法漁業取締大統領直轄タスクフォース(SATGAS115)を創設ないし強化した。

c. インドネシアは2017年以降にインフラ開発や、海洋における脅威と能力の制約に対処すべく追加の海洋安全保障能力の獲得に向けて投資を始めた。

(4)Joko大統領は就任直後に海洋問題の執行調整機関、海洋担当調整省(Kementerian Koordinator Bidang Kemaritiman)を創設した。同組織の主な機能はインドネシア政府内の省庁横断で様々な海洋プログラムを監督し、政策を同期させることである。法執行機関側では、2つの新行政機関がインドネシアにおける海洋安全保障のガバナンス改善のために創設された。その内の1つは2015年に漁業犯罪と戦うべく創設されたSATGAS115である。もう1つの機関は、2014年12月に様々なMLE機関横断の法執行に相乗効果をもたらすべく創設されたBAKAMLAである。SATGAS115とBAKAMLAは、今後数年に亘ってBAKAMLAの人員と艦艇数を増やす計画など海洋安全保障上の脅威と一層積極的に戦うべく、拡大した規制と法的権限を用いてきた。海洋水産省(KKP)のSusi大臣は就任以降、漁業部門改革を目的とした様々な方策の導入へと素早く動いた。同大臣は2014年に肥大化して野放図となっていた漁業産業を抑制すべく、30トン以上の船舶に対する漁業免許の6か月間の発行停止を宣言した。最終的にSusiは、大々的に報道された違法外国漁船を沈めるプログラムを始めた。インドネシア政府の統計によると、一連の政策の結果として2013年から2017年の間にインドネシア海域の漁業資源は2倍以上増えた。

(5)インドネシアはようやくインフラギャップに対処すべく、既存5港の拡張を含む24港の新設からなる総額約58億ドルに及ぶ投資を計画している。インドネシアは海洋状況把握を改善すべく、第三者の情報共有技術や衛星能力の利用も試みている。

(6)最後に、壮絶な一連の海洋問題にも関わらずインドネシアは、海洋安全保障ガバナンスに新たな力点を置いた。インドネシアはGMFの提案や新規制の発令、自国の広大な海洋空間の良好な管理を可能とする海洋政策のための行政組織再編や法律改正、海洋空間を監視するためのインフラへの新規投資など、新政策綱領を打ち出すことで海洋安全保障ガバナンスを向上させた。実施されている一連のプログラムが実を結ぶには何十年も要すると思われるところ、インドネシアは総合的な経済発展の鍵となる水路とインフラ確保への道を歩んでいる。

記事参照:Assessing Recent Developments in Indonesian Maritime Security

10月11日「南シナ海で高まる米中間の緊張―シンガポール専門家論評」(ISEAS-Yusof Ishak Institute, 11 October 2018)

 シンガポールのシンクタンクISEAS-Yusof Ishak Instituteの上級研究員であるIan Storey は、1011日付の同シンクタンクのWEBサイトに"US-China Tensions Spill over into South China Sea"と題する論説を寄稿し、南沙諸島における米国による「航行の自由作戦(FONOP)」への中国のより強固な反応は、海洋東南アジアの中心部で米中の競争激化がますます強まっていることを明確に示しているとして、要旨以下のように述べている。

(1)ここ数ヵ月間、Donald Trump米大統領は、経済、政治及び戦略上の様々な問題について、中国に断固たる態度で臨むことを継続すると決めたことが明らかになった。10月4日に、未来の歴史家たちが、米中の論争の新しい時代の火蓋を切る明白な一斉射撃と見なす可能性がある画期的な演説において、米副大統領Mike Pensは、中国の政策を強烈に非難した。Pensは、中国は、米国の国内政治を妨害し、明らかに米国の知的財産を盗み、一帯一路構想を通じて「債務外交」を追求し、西太平洋から米国を追い出そうとしていると糾弾した。

(2)9月30日には南シナ海で事象はすでに悪化していた。同日、米海軍は、Trumpが就任して以来、この争いのある海域で8回目の航行の自由作戦を実施した。10時間の作戦中、米海軍駆逐艦Decaturは、南沙諸島にある中国の2つの人工島ガベン礁とジョンソン礁の12海里内で航海した。両方の海洋地勢とも、12海里の領海の権利を与える高潮高地(high-tide elevation)(編集注:2016年の常設仲裁裁判所裁定では、いずれも領海基点とはならないとされている。)である。これらの領海の中を航行する際、Decaturは無害通航権(編集注:米海軍は同海域の主権を認めることになるため、「航行の自由作戦」を無害通航とは主張していない。)を行使していた。これまでの「航行の自由作戦」では、中国海軍は単に米軍艦の後をつけ、その地域を離れるように、それらに対して口頭で警告を出しただけである。しかし、今回は中国の反応は遥かに好戦的だった。ガベン礁の付近では、中国の駆逐艦蘭州がDecaturの艦首を横切ろうとし、米軍艦は衝突を避けるために、即座にコースを変更することを余儀なくされた。

(3)この事件は、米国とソ連の軍艦が定期的に危険な作戦行動に従事した冷戦期を連想させるものだった。このような行動は、1972年にワシントンとモスクワが、危険な作戦行動を終了し、両国の海軍が衝突や危機のエスカレーションのリスクを軽減することで合意した海上衝突防止協定(Incident at Sea Agreement)にサインした際、事実上終わった。米国と中国は他の19ヵ国とともに、2014年10月、「洋上で不慮の遭遇をした場合の行動基準」(CUES)を発布した際、同じような成果を達成することを望んでいた。しかしこの事件は、自発的なものであるCUESの有用性に疑問を呈している。

(4)彼の演説で、Pensは、米国は「国際法が許し、国益が求める場合はどこでも飛行し、航行し、軍事活動を行う」と宣言した。もしDecatur事件が、北京が東南アジアと東アジアの米軍を押しのけるために、より好戦的な戦術を使用するようその軍隊に命令した兆候である場合、南シナ海における深刻で潜在的に危険な対立が間近に存在する可能性がある。

記事参照:"US-China Tensions Spill over into South China Sea"

10月11日「日豪海洋安全保障の連携強化に向けた日本の期待―豪メディア報道」(ABC news, October 11, 2018)

 オーストラリアの放送局ABC newsは、10月11日付で "Japan offers to help build Australia's future submarine fleet if French deal falls through"と題する記事をWEBサイトに掲載し、オーストラリアを訪問中であった河野太郎外務大臣のインタビューをもとに、日豪海洋安全保障の連携強化に向けた日本の意向について、要旨以下のとおり報じた。

(1)河野太郎外務大臣が10月10日から11日にかけてオーストラリアを訪問した。ABCは河野外相にインタビューを行い、今後の日豪の海洋安全保障のあり方について話を聞いた。重要な論点は以下の3つである。

a. オーストラリアの潜水艦更新計画への再提案

b. 最新の「そうりゅう」型潜水艦「おうりゅう」の進水

c. 南シナ海における日豪共同の海上哨戒行動の意図

(2)2016年、オーストラリアのTurnbull政権は、老朽化したコリンズ型潜水艦の更新に関する契約を日本ではなくフランス企業のNaval Group(DCNS)と締結した。しかし現在、500億ドル規模にのぼるこの契約に関して、交渉が難航し、年内に戦略的パートナーシップの合意に達することができない可能性について懸念が持たれている。河野外相は、もしフランスとの交渉が決裂した場合には、オーストラリア政府の決定次第であるが、日本が再びこの問題にかかわる準備があることを示唆した

(3)Lowy InstituteのEuan Graham上席研究員によれば、2016年当時の日本側の提案は、豪国防省が求めた技術水準を満たすものではなかった。しかし日本は、10月4日に最新の「そうりゅう」型潜水艦「おうりゅう」(リチウムイオンバッテリーを搭載した世界初の潜水艦)を進水したばかりである。このことは、フランスとの交渉が決裂した場合に、原子力潜水艦というオプションの再考を含め、計画を最初からやり直さざるをえないオーストラリアにとって、日本との協力に舵を切る誘因となるかもしれない。

(4)河野外相は、「自由で開かれたインド太平洋戦略」の一環として、南シナ海における日豪共同での海上哨戒行動の実施を期待している。日本の海上自衛隊はASEAN諸国において「戦略的寄港」(strategic port calls)の取り組みを強化しており、南シナ海に対する関心を高めている。また、河野外相はオーストラリアとの地位協定の締結が近いと述べた。この協定によって、共同訓練などの実施のために軍事要員が両国を行き来することが可能になるであろう。

記事参照:Japan offers to help build Australia's future submarine fleet if French deal falls through

10月15日「中国、インド洋に潜水艦及び潜水艦救難艦を展開―印紙報道」(Indian Today, October 15, 2018)

 インドのニュース誌Indian Todayは10月15日付で"China positions submarine and rescue vehicle in Indian Ocean"と題する記事を掲載し、中国が8回目のインド洋への潜水艦を派遣すると同時に、初めて潜水艦救難艦を派遣したとして、その狙いとともに要旨以下のように報じている。

(1)中国は1年以上の空白期間の後、インド洋に潜水艦を展開した。国防省の上級当局者は元級通常型潜水艦が潜水艦救難艦を伴って10月にインド洋に入ったとIndia Todayに述べた。これは、中国が海賊対処と称するインド洋への潜水艦派遣の8回目となる。最後のインド洋地域への潜水艦の派遣は2017年6月であり、この時も元級潜水艦と支援艦であった。中国の潜水艦の派遣の再開は印海軍の関心を引いた。潜水艦救難艦「海洋島」と潜水艦は印海軍の哨戒機に探知、追尾された。

 10月4日に潜水艦救難艦はコロンボに入港したが、元級潜水艦は洋上に留まった。2014年にインドの抗議後、コロンボは中国潜水艦への係留許可を取り下げている。当局者は「これまでの展開では、中国潜水艦には潜水艦母艦が随伴していた。潜水艦救難艦が派遣されたのはこれが初めてだ。10月7日に救難艦「海洋島」と潜水艦はアデン湾に向けて出港した」と述べた。

(2)興味深いことに、印海軍は10月13日に同海軍は潜水艦救難艦を取得したと発表した。印海軍報道官によれば、初の深海救難艇と関連する空輸器材の導入によって事故潜水艦の位置を特定し、救難する能力を保有する選ばれた国に仲間入りした。

 国防当局は人民解放軍海軍の潜水艦救難艦の展開に偶然以上のものを読み取っていた。当局者は「人民解放軍海軍は明らかに、インド洋地域で人民解放軍海軍もまた正真正銘の潜水艦救難を提供できるものであることを示したかった」と述べている。

 中国は、2013年に潜水艦の展開を開始して以来、インド洋地域へ兵力を投射しようとしている。インド洋への展開は2013年に習近平が4兆ドルを超えると見積もられている中国を中心とした貿易網である一帯一路構想を発表したことを受けて行われている。インド洋地域は中国が海洋シルクロードと呼ぶものの鍵となる地域である。

(3)印海軍が元級潜水艦を注視するにはいくつかの理由がある。インド洋に展開した元級潜水艦は2015年及び2016年にカラチを親善訪問し、パキスタンは50億ドルと思われる額で元級潜水艦8隻を中国から購入すると公表した。最初の4隻は中国で建造され、2023年までにパキスタンに引き渡されると考えられている

記事参照:China positions submarine and rescue vehicle in Indian Ocean

10月16日「米中の緊張が高まる南シナ海、求められる新たな公式―豪専門家論説」(The Diplomat, October 16, 2018)

 豪ニューサウスウェールズ大学の博士候補者Tuan Anh Lucは、10月16日付のWEB誌The Diplomatに、"From a Slow Slimmer to a Boil: Managing Tensions in a Heating South China Sea"と題する論説を寄稿し、昨今の南シナ海情勢は関係各国に重大な政策上の懸念を与えていると指摘した上で要旨以下のように述べている。

(1)シンガポールのS.ラジャラトナム国際関係学院(RSIS)の地域専門家Collin Koh Swee Leanは、昨年8月に南シナ海を「沸点が低いスープ鍋」と比喩した。2018年9月と10月初旬に起きた出来事は、鍋の表面上の緊張がすぐに沸騰することを示した。南シナ海における最近のダイナミクスは、地域安全保障のあらゆる利害関係者に重大な政策上の影響を突きつけている。

(2)米海軍は9月下旬に南シナ海において、公表された中では12回目の「航行の自由作戦(FONOP)」を実施した。FONOPに従事していた米駆逐艦Decaturに対抗すべく、中国は旅洋型駆逐艦を派遣した。中国の駆逐艦はDecatur前方の45ヤード以内まで接近した。ワシントンは本件を「危険かつプロらしからぬ行動」だと形容した。Decaturの作戦行動に対する中国の反応は前例のないものであった。Carlyle Thayerが分析しているように本件では初めて中国の行動が、FONOPに従事している米海軍艦艇との間で事故を生じる現実のリスクを引き起こした。Bonnie Glaserは、習近平が率いる中国の中央軍事委員会が交戦規定を変更したと主張している。

(3)ThayerとGlaserは今次作戦に対する中国の反応が、米国の対中輸入関税や最近の台湾への武器売却に代表される米中間の経済的、外交的緊張という大きな文脈で捉えられるべきだ、という点で意見の一致をみている。Decatur事案と、それに続くワシントンと北京間の激しい言葉の応酬の後に、南シナ海で次に何が起こるのかを東南アジア諸国は固唾を飲んで見守っていることだろう。こうしたことは興味深い複数の問題を提議する。すなわち、米国が南シナ海で好戦性を増す中国に対して如何に対応するのか。南シナ海で増大した海洋プレゼンスを用いて、その他の主要国がどう動くのか。しばらく噂されていたように中国が南シナ海で防空識別圏(ADIZ)を設定するのか。地域の平和と安全に貢献するためにASEANとその加盟国は何をすべきか、といったことである。

(4)ワシントンは南シナ海における軍事プレゼンスを強化し続けている。米国は初めて、11月に南シナ海と台湾海峡で軍事演習を行う計画を事前公表した。米国はインドやオーストラリア、日本及び数か国と南シナ海で共同作戦を行うよう説得を試みたが、不首尾に終わった。しかしながら、第17回アジア安全保障会議(シャングリア・ダイアローグ)後、数か月間の英国やフランス、カナダ、オーストラリア関与の増大を考慮すると、こうした状況は変わるかもしれない。ワシントンがオーストラリアやその他の同盟国に十分な誘因を与えれば、将来的に多国間共同作戦が行われることになるだろう。

(5)2013年に中国は、日本と主権を争う尖閣(釣魚)諸島が位置する東シナ海上空にADIZを設定した。米太平洋軍(本年5月下旬にインド太平洋軍に改称)元司令官のHarry Harris元海軍大将は、2016年2月に南シナ海で中国がADIZを設定する可能性に懸念を表明した。米国は東シナ海で中国がADIZを設定した時と同様に、南シナ海におけるADIZを認めないと何度も断言してきた。ASEAN構成国政府の情報源は、筆者(Tuan Anh Luc)との私的な会話の中で昨今の情勢を考えると「中国がADIZをすぐに設定する可能性が高くなっているかもしれない」と述べた。

(6)2018年6月以降の出来事は、主要国間に海洋への自由アクセスと利用を巡る大きな隔たりがあることを示している。西側諸国は南シナ海が事実上、「北京の湖」になる可能性を非常に懸念している。西側の反応はもはや威力のない外交上の抗議にとどまらず、主要国による共同作戦の可能性を含む、確固とした軍事行動上の主張にまで及ぶだろう。そうした変化は南シナ海の不安定さ―全ての東南アジア諸国が望まないシナリオ―を引き起こすだろう。開かれて、安定した平和な南シナ海は経済的な繁栄に向けたASEANの夢に通じている。ASEAN諸国は、今から主要国が南シナ海における受け入れ可能な振る舞いに折り合いをつけるまでの、主要国間のダイナミクスを注意深く観察しなければならない。おそらく今はASEANが地域安全保障問題で中心的な役割を示す最も重要な時だろう。その重要な任務は、新たなインド太平洋戦略地政学構想が登場する中で思慮深い公式を導きだすことにある。インド太平洋構想に関してインドネシアがASEAN共通のスタンスを打ち出そうと努めていることは、同国のASEAN内の自然なリーダーシップを示す動きとして歓迎すべきである。とは言え、そうした公式の考案に際しては最大限の注意が払われるべきである。なぜならばThayerが警告するように、Trumpが最近のPence副大統領による発言を支持した場合、南シナ海の緊張はさらに増大し得るからである。

(7)中国と米国及びその他諸国は南シナ海を巡る見解の隔たりへの対処に際して冷静さを保たねばならない。数10年に亘る蓄積を経た中国の経済力と軍事力を考えれば、同国は国際政治でより多くの役割を果たすに値する。しかしながら中国の影響力は、長きに亘り国際法に深く根付いた他国の正当な権利を犠牲にするものであってはならない。Trump政権は、南シナ海であらゆる関係国が国際法に則って行動するよう効果的な戦略を編み出して、導入することが必要不可欠である。

記事参照:From a Slow Slimmer to a Boil: Managing Tensions in a Heating South China Sea

10月17日「グリーンランドに対する米中の戦略的関心-デンマークジャーナリスト論説」(ARCTICTODAY, October 17, 2018)

 デンマークのジャーナリストMartin Breumは10月17日付の北極問題関連のWEBサイトARCTICTODAYに"China and the US both have strategic designs for Greenland but neither is being especially open about them."と題する論説記事を寄稿し、グリーランドを巡る最近の二つの事案に係る論説を取り上げ、同国に対する米中及び同国を自治領とするデンマークにとっての戦略的関心について、要旨以下のように述べている。

(1)その第一は北グリーンランド西部のチューレ米空軍基地に係るものである。米空軍が1950年代から運用する同基地はロシア、北朝鮮、中国の核ミサイルから米国本土を防衛する早期警戒衛星情報を収集、それを米国に転送するアンテナアレイ等を擁する重要施設である。9月16日、駐コペンハーゲン米大使館がFacebookで、政策担当国防次官John Roodが同基地軍民両用化に向けたインフラ投資強化の覚書に署名したと報じ、これは「米国が北極の重要性を認識」しているメッセージでもあると明らかにした。このプロジェクトは軍民双方に利益をもたらすものであり、北大西洋地域における米国とNATOとの関係強化にも資するものである。しかし本件は不透明なメッセージでもあり、米国はチューレに戦闘機や爆撃機を展開させるための新たな航空基地を建設しようとしているのか?また、米国はグリーンランドへの中国の関与を本当に容認しないと考えているのか?などの疑問を生じさせる。

(2)John Roodの覚書署名は非常に敏感な時期に公表された。デンマークとグリーンランドの間では新空港を巡る論争が生じている。ヌーク自治政府のNaalakkersuisut(行政府)は首都ヌークの空港を拡大し、主要観光地であるイルリサットにも新しい空港を建設したいと考えているが、中国の通信会社China Communications Construction Companyがこの建設のため資格を与えられた5社中の1社となっている。デンマークは中国の本件への関与がグリーンランドを「債務の罠」に陥らせ安全保障を損なう可能性があると懸念している。Lars Løkke Rasmussenデンマーク首相は中国の関与を阻止すべく、グリーンランドの財政負担を軽減し、中国の資金を使用しなくてよいようにするための1億ドル規模の低金利の融資枠確保を約束したが、この提案はグリーンランドへのデンマークの影響力強化の懸念からヌーク与党連合の崩壊を招いた。John Roodの覚書の署名はまさにこのような最中に実施されたため、多くのメディアは本件をデンマークとグリーンランドの間の問題に関連付けて報じた。

(3)デンマークの著名安全保障アナリストの1人であるコペンハーゲン大学軍事研究センターの責任者、Henrik Breitenbauchは、John Roodのメッセージをより学術的に解釈するよう提案している。彼はデンマーク紙Weekendavisenへの寄稿中で、中国の関与への警戒感は米国と共有するにせよ、チューレ基地の問題はデンマーク・グリーンランド間の問題とは余り関係がないとし、本件はむしろ米国の軍事的な優先事項における非常に現実的な変化の反映と理解すべきと指摘する。Breitenbauchはこのような変化は米国が「北アフリカや中東におけるテロとの戦いから大西洋と太平洋に焦点を移している。」とし、デンマーク領域(特にグリーンランド北部)が世界的な安全保障の観点から再び重要性を増していくだろうと説明、2011年に廃止された米海軍第2艦隊の最近の復活などを、その証左として例示している。Breitenbauchは米軍が北大西洋におけるロシア潜水艦監視とチューレ基地の強化を強く望んでいるとして、それがJohn Roodのメッセージを正しく理解する方法であると主張する。そしてそれは「米軍の大規模な増強、特にグリーンランドにおける空軍力の向上」につながる可能性があり、それらは冷戦期以来の大規模な水準になるだろうと指摘している。

(4)John Roodのメッセージの数日後、ニュージーランドのカンタベリー大学教授であり、ウッドロー・ウィルソン・センター研究員で著名な中国研究者のAnne Marie Bradyはデンマークを訪問、コペンハーゲンでの講演で、中国は極地を海洋や宇宙と同じく世界の将来と世界の優位を決定づける戦略的なフロンティアと見ていると指摘した。かつてJohn F. Kennedyが宇宙空間での大国の支配について述べたごとく、中国は極地とサイバー領域をまだ誰も占有していない戦略領域と認識しているとBradyは強調する。彼女はまた、中国が外国向けに英語で公表した声明や文書は良い面のみを強調しており、その真意や戦略、優先順位などは明らかにされていないとして、デンマークやグリーンランドなどが的確な対中国政策を望むなら中国語の原文に注目する必要があると指摘する。彼女はその著書中で中国の三つの重点事項、すなわち、経済と軍事安全保障を含む国家安全保障、 中国の持続的な成長と安定に必要な天然資源の確保、 中国が世界をリードする力になるために必要な科学技術について解説している。そして中国が両極地で科学調査を推進する背景には、気候その他の自然科学研究のみならず、資源確保に備えての軍事能力向上の意図があると指摘する。

(5)米国のGPSに相当するBeidouシステムはその一例であるが、既にノルウェーやスウェーデンの北極圏にはそれらの関連施設が受け入れられている。また、中国とアイスランドは10月22日にアイスランド北部に共同研究拠点を開設予定であり、この他にもグリーンランド中部への地上受信局設置やグリーンランドの他の機関との大規模共同研究拠点の設置なども計画されている。Bradyが著書で解説しているとおり、中国はこれらを気象科学の研究のみならず、Beidouシステムのように艦船、航空機、潜水艦を極地で運航するために役立てようとしているのである。米ロ両国はいずれも中国を対象とした核ミサイルを保有しており、最悪のシナリオではこれらの多くが北極を横断して中国に向かうため、中国は衛星による監視追尾能力の強化を図っている。その意味でも北極圏に所在するグリーンランドは戦略的資源であり、中国にとって極めて重要で興味深い存在であるが、それは他の超大国にとっても同様である。

(6)グリーンランドの地上ではまだ中国の存在感はそれほど顕著ではない。中国の投資家を誘致しようとするグリーンランドの長年の努力は現在までのところ、たとえ中国が将来的な何らかの思惑を有しているとしても、まだほんの僅かでしかない。それが地元の行政府にJohn Roodのメッセージが歓迎を与えられた理由の一部あるのだろう。グリーンランド教育文化・教会外務大臣のVivian Motzfeldtは「我々は米国声明を歓迎し、グリーンランドへの空港事業投資の詳細についての議論を楽しみにしている。グリーンランド政府は相互利益を確保する対話に重点を置いている。」と述べている。すなわち、グリーンランドはNATO同盟における確固たる地位を確認し、新たな米国の活動から利益を得ることを確実にしたいと考えており、デンマーク政府もRoodの声明の背後にあるものを支持することを明確にしている。デンマーク国防長官のClaus Hjort Frederiksenは「北極における民生・軍事活動の拡大には、プレゼンスと警戒監視の拡大が求められる。デンマーク政府の防衛協定は2023年まで継続しており、我々は北極におけるプレゼンスの強化を継続する予定である。 北極圏問題に関する米国との緊密な協力に感謝する。」と述べている。

記事参照:China and the US both have strategic designs for Greenland

10月17日「フィリピンにおけるイスラム国の現状―比専門家論評」(VERA Files, October 17, 2018)

 フィリピンのシンクタンクPhilippine Institute for Peaceの会長であるRommel C. Banlaoiは、10月17日付のVera Filesのサイトに"One year after the liberation of Marawi, Islamic State PH still alive"と題する論説を投稿し、現在もフィリピンにおけるイスラム国と関係するいくつかの勢力が存在することと、イスラム国の外国人テロ戦闘員(FTFs)のフィリピンへの継続的な侵入について、要旨以下のように述べている。

(1)イスラム国が「東アジアのカリファテの兵士(Soldiers of the Caliphate in East Asia)」と呼んでいるものから、2017年10月17日にマラウイ市が解放されてから1年経ったが、フィリピンは依然として敵意に満ちたテロリズムの脅威に直面している。イスラム国には、今なお、2017年5月23日のマラウイ市の包囲攻撃と関係する武装集団によって代表されるフィリピンにおけるかなりの数の現地の追随者が存在する。

(2)フィリピンのイスラム国は弱まったが死んではいない。Islamic State East Asia Provinceという、ミンダナオに拠点を置く、別名イスラム国東アジア(Islamic State East Asia:ISEA)として知られているものの追随者たちは、マラウイ市の包囲攻撃の後制圧されたが、バシラン州、南ラナオ州、マギンダナオ州、サランガニ州及びスールー州の5つの地方支部は現在も存続している。

a. バシラン州のアブ・サヤフ・グループ(Abu Sayyaf Group:ASG)は、Furuji IndamaとRadzmil Jannatulという2人の地方指揮官(Commander)の指揮下にあるこの州のイスラム国の活動を代表している。これら2名の指揮官は、バシラン州のASGの元アミール(軍事的な指導者)で、マラウイ市包囲攻撃を担当したDaula Islamiya Wilayatul Mashriq(Islamic State Province in East Asia:DIWM)のアミールとして知られているIsnilon Hapilonの副指揮官だった。フィリピンの軍隊がDaula Islamiya-Indama Group(DI-Indama Group)と呼ぶことがあるThe Indama Groupは、バシラン州におけるDIWNの残党によって構成されている。このグループには、イスラム国を代表して戦闘を行ったバシラン州のASGと関係している50から70人の武装した追随者たちが存在する。モロッコ人とマレーシア人の外国人テロ戦闘員の支援により、このグループは、2018年7月のバシラン州での自爆テロ攻撃を立案した。

b. 南ラナオ州においてイスラム国を代表し、アブ・ダル・グループ(Abu Dar Group:ADG)が活動している。ADGは、Humam Abdul Romato Najid/Owayda Marohombsar、別名Abu Darが現在率いるマウテ・グループの残党全体を指す。ADGは、Daula Islamiya Fi Ranao、又は、南ラナオ州と北ラナオ州で構成されるラナオのイスラム国を名乗っている。軍の筋によると、Daula Islamiya Maguid Group(DI-Maguid Group)とも呼ばれるこのグループは、ラナオで活動しているマウテ・グループの残党全体と合わせると90人以上の武装した追随者がいる。このグループは、2018年6月18日に南ラナオ州のタブランでの軍隊との激しい武力衝突を含む、当該州の一連の爆弾攻撃の実行犯だった。ADGは、マラウイ市、イリガン市、ダバオ市及びカガヤン・デ・オロ市で爆弾活動を行う意図と能力をもっている。

c. マギンダナオ州では、イスラム国を代表して戦っている主なグループは、Esmael Abdulmalik、別名Abu Turaipeが代表を務めているバンサモロ・イスラム自由戦士(Bangsamoro Islamic Freedom Fighters:BIFF)の勢力、Jamaah Mujahideen Wal Ansarである。彼の追随者たちは、Daula Islamiya Maguindanao(DIM)又はマギンダナオのイスラム国のメンバーを自称している。フィリピン軍は、このグループを、現在武装した約60名がいるDaula Islamiya Turaipe Group(DI-Turaipe Group)として説明している。サブリーダーのSulaiman Tudonによって、2018年7月3日に、マギンダナオ州のダトゥ・パグラスの包囲攻撃が開始された。フィリピンの警察は、イスラム国が主張している2018年8月28日及び同年9月3日のスルタン・クダラット州のイスランでの爆破事件と同様に、DI-Turaipe Groupが実行犯だと特定している。これら全ての爆破事件を画策したのは、その全体の作戦リーダーであるSalahuddin Hassanとされる。イスラム国の影響のため、Ismael Abu Bakar(別名Bungos 指揮官)とMohaiden Minimbang(別名Karialan指揮官)が率いるBIFFの他の2つの勢力は、2018年7月26日にフィリピン大統領が署名したバンサモロ基本法(BOL)が定めたバンサモロ政府の確立に反対する彼らの勢力を強化するために現在団結している。

d. サランガニ州では、Ansar Khalifa Philippines(AKP)の残存メンバーが、イスラム国を代表して継続して活動している。AKPメンバーは、Daula Islamiya Saranganiのメンバーであると自称している。しかし、フィリピン軍は、その創設者であるMohammad Jaafar Maguid、別名Tokboy指揮官によって率いられているとするこのグループをDaula Islamiya Maguid Group(DI-Maguid Group)と説明している。Jeoffrey Nilongという者、別名Momoy指揮官が、Tokboy指揮官の兄弟によって支援されているAKPの現在の指導者であると特定されている。

e. スールー州における、そこでのイスラム国の主要な指導者は、Radullan Sahiron指揮官の指導の下で取り組んでいるASGの副指揮官Hajan Sawadjaanである。Sawadjaanには、イスラム国のために戦う30人以上の武装した追随者がいる。彼のグループは、スールー州とタウイタウイ州における一連の爆弾攻撃と身代金目的の誘拐活動の実行犯だった。

(3)ミンダナオを除いて、イスラム国はまた、Suyuful Khilafa Fi Luzon(SKFL)又はルソンのカリフの兵士(Soldiers of the Caliphate)を通じて、マニラ首都圏(Metro Manila)において活動している。SKFLの多くのメンバーは、116人の乗客を殺し、他の300人を負傷させた2004年のSupper Ferry 14爆破テロを行ったムスリム転向者たちの過激派組織、ラジャ・ソレイマン・イスラム運動(Rajah Solaiman Islamic Movement:RSIM)出身である。マニラで活動しているマウテ・グループとASGの一部のメンバーと協力して、SKFLは、2017年11月のASEAN首脳会談、2016年11月のAPEC首脳会談及び2015年1月のローマ法王フランシスコのマニラ訪問の間、マニラ首都圏でのいくつかの爆弾脅迫と失敗した爆破活動の実行犯だった。

(4)イスラム国によるフィリピンにおけるテロリズムの脅威を悪化させるのは、継続的な外国人テロ戦闘員たちのこの国への入国である。マラウイ市の包囲攻撃の後、AFPは、イスラム国のために戦った32人の外国人の死体を特定した。これらの外国籍の人間の出身の多くは、中東とヨーロッパを除くと、インドネシア、マレーシアだった。マラウイ包囲攻撃におけるすべての死体を特定することは極めて難しいため、この包囲攻撃で死んだ外国人テロ戦闘員はより多数に及ぶ可能性が当然考えられる。マラウイ市の包囲攻撃の後、フィリピンへの外国人テロ戦闘員たちの入国は衰えずに続いている。2018年1月以降、入国管理局(BI)は、イスラム国のために働いていると考えられる様々な外国人を逮捕し、国外退去させている。これらの外国人はエジプト、フランス、イラク、スペイン、チュニジア及びイエメンなどのパスポートを持っていた。2018年9月22日、入国管理局は東南アジアにおけるイスラム国の活動に関与している疑惑のあるパキスタン人の入国を拒否した。軍情報部筋によると、外国人テロ戦闘員たちは裏口を利用して入り込むための2つの主要ルートを使用した。第1のルートは、インドネシアのメナドからダバオ市へ、第2のルートはマレーシアのサンダカンからタウイタウイへのものである。

記事参照:One year after the liberation of Marawi, Islamic State PH still alive

10月17日「米調査船の台湾寄港に神経質になる中国―香港紙報道」(South China Morning Post.com, October 17, 2018)

 10月17日付のSouth China Morning Post電子版は、"Beijing expresses 'solemn concerns' after US navy research ship docks in Taiwan"と題する記事を掲載し、米国の調査船による台湾での4日間の給油のための停泊は、米中間の貿易、安全保障及び戦略上の問題を悪化させているとして、要旨以下のように報じている。

(1)北京は、貿易戦争とインド太平洋における中国の軍事拡張をめぐる緊張が高まる中、台湾の南部の港湾都市高雄港に係留されていた米海軍の調査船をめぐって、ワシントンに対して「重大な懸念」を表明した。この調査船は、月曜日から補給と乗組員の交代のために高雄港に入港していた。

(2)調査船の訪問は、ワシントンに、台湾と外交・軍事関係を強化することに対して繰り返し警告している北京を怒らせた。米国は台湾とのすべての形態の公式のやりとり及び軍事的な交流は止めるべきとし、また、慎重にこの島に関する問題を扱うべきだと中国外交部の報道官は述べた。ワシントンは台湾との公式な関係はないが、法的にはこの島が自衛するための手段を保有することを保証する義務を負っている。

(3)この調査船トーマス・G・トンプソンは、4日間の給油を目的とした停泊のために月曜日に高雄港に入ったが、5月以来の、オーストラリアとフィリピンが関わる国際的な海洋研究プロジェクトの一環であり、今回は4回目だったと台湾の当局者は述べた。

(4) 台湾外交部長のJoseph Wuは水曜日に、「この船の訪問は軍とは何の関係もない」と述べた。しかし、報道されているように台湾海峡と南シナ海において11月に軍事力を誇示するという米国の計画に先立ち、巨大な米海軍の軍艦に適応する大きさが十分にあるかどうかを検証するために、この米国の船を高雄の港湾に停泊させたというメディアの憶測をWuは避けた。

記事参照:Beijing expresses 'solemn concerns' after US navy research ship docks in Taiwan

10月18日「インド洋におけるインドの台頭には強力な海軍力が不可欠―米専門家論説」(New Perspectives in Foreign Policy Issue 16, CSIS, October 18, 2018)

 米シンクタンク、戦略国際問題研究所(CSIS)のthe Wadhwani Chair in US-India Policy Studies助教のAman Thakkerは、10月18日付で同所のWebサイトNew Perspectives in Foreign Policy Issue 16に"A Rising India in the Indian Ocean Needs a Strong Navy"と題する論説を寄稿し、インド洋における中国の影響力拡大を阻止するため、インド政府は海軍力強化のための投資を惜しんではならないとして、要旨以下のように述べている。

(1)インド太平洋地域は、中国とインドの競争激化に直面し、戦略的な焦点となりつつある。中国は、経済的、戦略的な優位性を得るべく港湾へのアクセス確保を目指し、一方、米国は同地域における自由で開かれたシーレーンの確保を目指している中、インドが中国の影響力増大に対抗するには海軍力の強化が必要であり、そのための投資を増やすべきである。特に新型の空母や潜水艦建造などの近代化、MDA能力の向上などは、インド洋地域(IOR)における中国の影響力の増大に対応できる海軍の存在を保証するものとして重要である。

 IORは既にインドと中国の競争関係における中心的課題となっている。特に中国は軍事拠点や港湾へのアクセス確保による自国の戦略的利益の進展に積極的な動きを見せており、Rex Tillerson元米国務長官も、中国が地域の主要港湾にアクセスするために「不透明な契約、略奪的な借入金慣行、腐敗国の借金」を使っていると指摘している。

 スリランカが約11億ドルの借入金を支払うことができなかったため、中国企業がハンバントータ港の99年の賃貸借契約を結んだのが典型的な例である。さらに、IORの4カ国(ジブチ、ラオス、モルディブ、パキスタン)も、中国からの「借入に対して脆弱」であることがわかっている。モルディブ、パキスタン、スリランカに進出した中国がジブチに軍事基地を建設すれば、中国がインドの裏庭を包囲していることになる。インドは、中国のこうした動きを戦略的海軍拠点の「真珠の数珠繋ぎ」を作る試みと見ており、中国が南シナ海で使用したシナリオを複製してIORにおける航行及び商取引の自由、領域主権や国際規範に挑戦することを認めないという立場である。

(2)既にインドはIORにおける中国の活動増大を認識し中国に対抗する措置を講じつつある。インド海軍の広報担当者は同軍の海外展開について、中国を名指しこそしていないものの、 Straits Timesに「当初、インド海軍の海外進出は本格的な展開の準備のためであったが、今やダイナミクスの変化があり、地域的なパワーの存在が我々のプレゼンスを必要としている。」と述べている。実際、インドはいくつかのIOR沿岸諸国との間で海軍基地へのアクセスを確保する協定を交渉中であるが、例えば、インドネシアのサバン大水深港やオマーンのドゥクム港を含むこのような協定は、北京の「真珠の数珠繋ぎ」に対抗するニューデリーの地政学的立場を強化するものである。

 インドはまた、ディエゴ・ガルシアやレユニオン島のフランス港湾施設へのアクセスなど、物流協定などを通じて米仏両国との協力関係も深化させている。米国も豪日を含む非公式の四ケ国安全保障対話(Quad :Quadrilateral Security Dialogue)を通じてインドとの関わりを深め、同様にフランスもIORにおけるインドの影響力が強まっていることを念頭にインド太平洋地域における「パリ・ニューデリー・キャンベラ」の協調関係の創設を模索している。こうしたインドの取り組みは、当初は 米国海軍との二国間訓練としてスタートし、2015年からは海上自衛隊も参加するようになったマラバールなどの共同訓練の実施に象徴されている。2018年には、アンダマン・ニコバル諸島において16ケ国の海軍とミランと名付けられた共同訓練を実施したほか、RIMPACに参加する米豪日との同一行動も実施した。

(3)インド海軍はIORでの活動を継続しているが、海軍に割り当てられている予算は関係国あるいは対象国の海軍に比して余りに少ない。2011年度から2018年度実績では、インドの軍事費支出の15%が海軍に充てられているが、これはQuadの諸国に比べてはるかに低い。米国は30%を海軍に、 オーストラリアは25 %、日本は23%を支出しているのである。

 中国からの軍事費に係る正式な数字は入手困難であるが、おそらくはインドの3倍近くを費やしているであろう。このような支出の不足はインドが海軍の能力強化の必要性を認識した時に顕著になる。インド海軍参謀副長、P. Murugesan 中将は、現有艦艇は137隻であるが、2027年までに200隻態勢の海軍となることを目標としていると述べた。

 インドは既に1隻の空母Vikramadityaを運用中であるが、間もなく第二の空母Vikrantも就役させる予定であり、更にVikrantに続く新型空母を建造する野心的な計画を有している。

 また、57機の新型戦闘機の調達計画と、潜水艦を新型のArihant級攻撃型原潜で近代化する計画も明らかにしている。

(4)しかし、こうした野心的な計画と実際の支出との間には大きなギャップがある。2011年度から2018年度にかけインド海軍は計52億ドルを要求したが、実際は29億ドルしか配分されておらず、これはインド海軍の新たな装備調達、近代化が実現困難であることを示している。結果的に新型潜水艦やVikrant級空母の建造の遅れはインドが中国に後れを取ることを意味する。また、こうした資金不足はインドが戦略的にアンダマン・ニコバル諸島を活用出来ていないということも意味している。インドはマラッカ海峡付近における戦略的利益の保護を目的として三軍の戦域司令部を設置しているが、ここには限定的なアセットしか配備されていないため真に機能する三軍統合司令部ではなく、東アジア、東南アジア地域に展開する海軍部隊のための後方支援拠点となっているに過ぎない。これらを真に機能する統合コマンドとして開発するためには、P-8哨戒機プラットフォームの取得、無人機Sea Guardianの取得の成否などを踏まえつつ、警戒監視能力向上と海洋状況把握(MDA)能力の向上などを目指す必要がある。

 インド太平洋地域は地政学的競争関係の中心になりつつあり、中国は戦略的な展開基地を確保して当該地域における権益獲得のための略奪経済学的な動きをすでに見せている。インドは当該地域の国々との関係を強化しつつあるが、しかし、ハードパワーに必要な投資がなければ「安全で自由で開かれたインド太平洋」というビジョンは達成されない。インドは、IORにおける中国の影響力拡大を見越して海軍への投資を増やす努力する必要がある。

記事参照:A Rising India in the Indian Ocean Needs a Strong Navy

10月18日「日本の『質の高い』インフラ推進計画、中国の『一帯一路構想』に対抗―スウェーデンジャーナリスト論説」(Asia Times.com, October 18, 2018)

 アジア報道専門のスウェーデン人ジャーナリスト、Bertil Lintnerは、Web紙、Asia Timesに10月18日付で、 "Japan offers 'quality' alternative to China's BRI"と題する論説を寄稿し、中国の「一帯一路構想(BRI)」による「債務の罠外交」に代わる、日本が質の高い代替案を東南アジア諸国に提示し、中国に対抗するために、その金融力を再び発揮し始めたとして、要旨以下のように述べている。

(1)第10回日本・メコン地域諸国首脳会議が10月9日に東京で開催された。タイ、ミャンマー、ラオス、カンボジア及びベトナムの各国首脳が出席したこの会議で、安倍首相は、しばしば質が悪いと評される中国のインフラ計画に対抗して、「質の高い」インフラ建設の推進を打ち出した。これは、近年の中国による札束外交と膨大なインフラ投資によって浸食されてきた戦略的に重要な地域における、失われた勢いを取り戻すための日本の努力の一貫である。日本はこの地域では、中国より長い道路、橋及び空港建設支援の歴史がある。しかし、歴史認識問題もあって、東京は、北京の大胆で目立つ BRI とは異なり、比較的控えめなアプローチをとってきた。シンガポールのThe National Marketing Instituteの調査によれば、2000年代初期以降、東南アジアに対する日本のインフラ投資は、進行中及び完了したものを含め、2017年末までに累計約2,300億ドルに達している。一方、同期間における中国の全投資額は1,550億ドルであった。

(2)ミャンマーは、日本の新たな地域インフラ整備計画から恩恵を受けると見られる国の1つである。イスラム教徒ロヒンギャの国外追放問題もあって、同国に対する海外からの投資は激減し、2015~16年度の95億ドルから2016~17年度の66億ドルにまで減少し、2017~18年度では更なる減少が予想されている。西欧諸国は投資を控えているが、日本は、ミャンマーの国内問題に対しては中立的アプローチをとってきており、同国政府や軍部からは敵対的な国とは見られていない。一方、中国は、同国との貿易が2016~17年度に108億ドル、2017~18年度の最初の8カ月間(4月~11月)に74億2,000万ドルとなっており、同国にとって強力な経済的生命線となっている。北京はまた、ミャンマーを経由してインド洋南部地域を結ぶ通商「回廊」を構築することを目指して、各種のインフラ建設計画を推進している。ミャンマー国軍最高司令官で、同国の事実上の指導者、Min Aung Hlaing大将は、10月8日の国防大学での講演で、「ミャンマーは独立主権国家である。もしある国が他国からの影響や干渉を受け入れるなら、その国は主権国家とはいえないであろう」と述べ、中国への名指しを避けながらも、ミャンマーの対中依存の大きさに警鐘を鳴らした。ミャンマーは9月に、チャウピューにおける中国支援による大水深港の建設計画を、当初の73億ドルからおよそ13億ドルに縮小することを計画していると発表した。東京での会議にミャンマー代表として出席した、Aung San Suu Kyiと会談した安倍首相は、ヤンゴンでの交通渋滞緩和や、排水設備と下水道システムの改善プロジェクトに6億2,500万ドルを供与することを約束した。

(3)カンボジア、ラオス及びベトナムで進行中の道路ネットワーク建設、カンボジアのツメルシアヌークビル港拡張工事、そしてメコン川流域全5カ国の民間部門における人材育成プログラムにおいて、日本の「質の高い」支援プロジェクトが見られる。しかしながら、これらの支援プロジェクトが、メコン川流域のカンボジアとラオスといった、既に中国からの借款に大きく依存している国々における、中国の支配的影響力に対抗するに十分かどうかは、今のところ定かではない。一方、タイでは、日中両国は、互角に渡り合っている。北京は雲南省南部とタイ東海岸を連結し、最終的に更に南のマレーシアとシンガポールに至る、全長837キロの高速鉄道の建設を進めているが、このプロジェクトはタイの軍事政権の下で頓挫している。ラオス国内では鉄道建設が進んでいるが、タイと連結できなければ、シンガポールにまで至るBRIの目標は達成できないであろう。他方、日本は、タイの首都、バンコクから北部のチェンマイと南部の海岸リゾートのホアヒンに至る、戦略的にはそれ程重要ではない国内線の改良を支援している。

(4)日本は、中国の BRI のように地域全域を対象とするような単一のメガプロジェクトを発動したことはないが、今回の日本・メコン地域諸国首脳会議に見られたように、多くの支援プロジェクトを同時に進めようとしている。2016年に開始された日本・メコン地域諸国連結イニシアチブは、ベトナムのダナン港からラオスとタイを経由して最終的にミャンマー南東部の港湾都市ダウェイ(新たに工業団地計画中)に至る物流促進ルート、「東西経済回廊」の開発支援である。また、日本は、ベトナムのホーチミン市からカンボジアとラオス南部を経由してタイに、そして最終的にミャンマーのダウェイに至る、いわゆる「南部経済回廊」にも資金を提供している。

(5)この地域のインフラ開発の推進と連結性の強化を目指す戦略的価値は高い。そして、東南アジアにおける物流促進インフラ開発プロジェクトとして、日本の「質の高い」プロジェクトが中国の大規模なプロジェクトを凌駕することになるかどうかは、今後を待たなければならない。しかしながら、今般、東京に招待されたメコン地域5カ国だけでなく、東南アジア全域の将来を左右することになろう、力の抗争において、日本が再びその金融力を発動し始めたことだけは確かである。

記事参照:Japan offers 'quality' alternative to China's BRI

【補遺】

旬報で抄訳紹介しなかった主な論調、シンクタンク報告書

Between a Cold War Ally and an Indo-Pacific Partner: India's U.S.-Russia Balancing Act

https://warontherocks.com/2018/10/between-a-cold-war-ally-and-an-indo-pacific-partner-indias-u-s-russia-balancing-act/

War on the Rocks.com, October 16, 2018

Tanvi Madan is director of The India Project and a fellow in the Project on International Order and Strategy in the Foreign Policy program at the Brookings Institution.

 米シンクタンク、ブルッキングス研究所のTanvi Madanディレクターは、10月16日付のWeb誌、War on the Rocks.comに、"Between a Cold War Ally and an Indo-Pacific Partner: India's U.S.-Russia Balancing Act"と題する長文の論説を寄稿し、インドとロシアがロシア製地対空ミサイルシステム「S-400」の購入で合意したことを受け、印米関係、印中関係、印露関係のそれぞれについて、冷戦時期の安全保障環境との相違を念頭に、①インドはいかに米国との関係が良好であって、かつ、米国からの圧力があろうとも、国防の観点から大口の武器売却国であるロシアとの関係を重視する基本的な姿勢に変化はないこと、②他方、米国はインドの対パキスタン政策、対中国政策において重要な関係国であり、米国もインド太平洋戦略におけるインドの役割の大きさを認識していること、③BRICSに代表されるようにインド、ロシア、中国は経済発展のパートナーであり、連携していく必要があること、などを挙げ、今回のインドのロシア製武器購入を冷戦時代のような単純な構図で捉えることは誤りだと主張している。