海洋安全保障情報旬報 2018年10月1日-10月10日

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101日「アジアの武器バザー:増大する米中のマーケット-シンガポール専門家論説」(RSIS Commentaries, October 1, 2018

 シンガポールのS.ラジャラトナム国際関係学院(RSIS)客員上級研究員Richard A. Bitzingerは、10月1日付 RSIS Commentariesに"Asia's Arms Bazaar: Growing Market for China, US"と題する論説を寄稿、要旨以下のとおり述べている。

(1)世界最大の武器購入地域はアジアである。ストックホルム国際平和研究所(The Stockholm International Peace Research Institute (SIPRI))の調査によれば、2013年から2017年までの5年間における武器輸入トップ10の中に、アジアからインド、中国、インドネシア、オーストラリアそしてパキスタンの5カ国が入っている。トップ15に広げると、そこにベトナム、韓国と台湾が加わる。インドについては、2008年から2012年の間の5年間に比して実に24%増大している。アジア地域全体でも武器購入額は上昇傾向を続けている。

 利益を得ているのは米国と中国である。SIPRIのデータによれば、2013年から2017年の間の米国の武器輸出総額は全世界の武器輸出総額の34%を占め、2位のロシアの22%に大差をつけている。米国の武器輸出総額は2008年から2012年までの5年間に比べると25%の増加を見せている。2013年からの5年間における米国の武器輸出先の1/3はアジアであった。米国はこれまでアジアへの武器輸出大国であったロシアを凌ぐ勢いを見せている。2013年から2017年までのインドへの武器輸出総額の35%はロシアであったが、米国は急増を見せている。2008年から2012年に比べると、米国からインドへの武器輸出総額は実に557%も増加している。

(2)新たな武器提供者として中国が台頭している。中国の主要武器輸出額は2008年からの5年間に比べ2013年から2017年の5年間では38%の伸びを見せた。全世界の武器輸出の5.7%を占めており、米国、ロシア、フランスそしてドイツに次いでいる。

 中国製武器の最大の顧客はアジアである。中国のお得意様はパキスタンとバングラディッシュであり、この2カ国で中国武器輸出のほぼ半分を占めている。一方で中国は武器輸入を縮小し国産に力を入れている。そのことは多分、ロシアにとっては悪いニュースであろう。

(3)次の5年間はどうなるのか?おそらく、次の5年間も同じ傾向を留めているであろう。インド洋、南シナ海、台湾海峡、朝鮮半島を巡る安全保障環境は変わらず、防衛費が削減されることはないであろう。アジアには、最新鋭の戦闘機、防空システム、海軍艦艇が集まることになる。アジア諸国は「持たなければならない」との意識に駆られ、それが武器輸出国を一層鼓舞することになる。武器業者はその利益の多くを輸出に託しており、アジアの顧客の要求に応えるべく武器を製造し続けるだろう。

記事参照:Asia's Arms Bazaar: Growing Market for China, US

102日「南太平洋でオーストラリアに挑戦する中国――豪ジャーナリスト論評」(The Strategist, October 2, 2018

 オーストラリアのシンクタンクAustralian Strategic Policy Institute(ASPI)研究員のジャーナリストGraeme Dobellは、同シンクタンクのウェブサイトThe Strategistに、10月2日付で "China challenges Australia in the South Pacific"と題する論説を寄稿し、近年南太平洋における中国の動きがオーストラリアにとって重大な戦略的脅威を提起しているとして、要旨以下のとおり述べた。

(1)21世紀に入ってから、中国は南太平洋におけるプレゼンスと影響力を拡大し続けており、それは同地域にとって巨大な経済的・外交的現実となっていた。中国の目的は台湾の封じ込めである。2008年から2016年に台湾総統が馬英九であった時期において、中国のいわゆる「小切手外交」は鳴りを潜めていたが、いずれにしても最近までの南太平洋における中国の膨張傾向は、中台関係の文脈において理解することができていた。つまり中国は南太平洋における秩序の修正を望んでいたのではなく、その限りにおいて中国の同地域における動きはオーストラリアにとって大きな脅威ではなかった。

(2)しかし近年、南太平洋における中国の動きには台湾打倒以上の意味があり、オーストラリアは中国の動きに対する評価を改めつつある。それはオーストラリア外交政策白書(2017年11月)において、オーストラリアや南太平洋において長らく支配的な立場にあったアメリカに、現在中国が挑戦していると記載されたことに表れている。オーストラリアは今日、南太平洋の重要性を認識し、島嶼諸国との経済および安全保障面での統合と関与の強化を模索している。このことは、パプアニューギニアおよびソロモン諸島との海底ケーブル敷設に関して中国企業の関わりを禁止する決定などに端的に表明されている。

(3)中国に対するオーストラリアの見方が硬化していることを理解するためには、こう問うてみればよい。オーストラリアが今日、2015年のときのように中国によるダーウィン港の獲得を認めることがあるだろうか、と(抄訳者注:オーストラリアのノーザンテリトリー政府は21015年、中国企業とダーウィン港の99年間リース契約を結んだ)。バヌアツやパプアニューギニア(PNG)の港を中国が獲得する見通しに対し、オーストラリアがどう反応したかを考えれば、その答えが「ノー」であることは明らかである。

(4)近年、中国がPNGのウェワクやキコリ、ヴァニモなどに港湾を開発する見通しがあり、オーストラリアはそうした動きを重大な戦略的脅威と認識するようになった。オーストラリアはマヌス島に豪・PNG共同海軍基地建設を持ちかけたのである。太平洋戦争終結後、マヌス島をアメリカ海軍が管理すべきかどうかという議論があったとき、オーストラリアはこれを認めなかったという歴史もある。今日、オーストラリアは中国がマヌス島の港を管理するような事態を望んでいない。マヌスをめぐるオーストラリアの動きは、南太平洋における中国の行動の質的変化と、それに対するオーストラリアの認識の変化を示したものである。

記事参照:China challenges Australia in the South Pacific

102日「米国の海事産業衰退と中国の一帯一路の現状―CSISでの議論」(USNI News, October 2, 2018

 Navy Timesの元編集長であるJohn Gradyは、10月2日付のUSNI NewsのWebサイトに"Panel: Chinese Investments to Boost Trade Come as U.S. Commercial Shipping in Decline"と題する論説を寄稿し、米国の海事産業の衰退と中国の一帯一路について議論された米シンクタンク戦略国際問題研究所(CSIS)の公開討論会の内容について、要旨以下のように伝えている。

(1)中国は、進行中の「一帯一路構想」を通じて、「ビジネス環境や海洋のいたる所を自由に移動できる」米国の能力にますます挑戦していると、米国のトップ貿易グループであるNational Transportation Association代表で退役海軍少将のAndy Brown は述べた。彼は、「時間がたつにつれて、(米国船籍で海事ビジネスを行う)我々の能力は非常に損なわれている」と警告した。Brownは、米国の商船は、彼が現役であった時の101隻から81隻へと滑り落ちたと述べた。そして、「5隻未満の・・・わずか一握りのそれらのタンカーで」、戦時において「どのようにして我々は軍隊に燃料を供給するつもりなのか?」と、彼は修辞的に尋ねた。Brownは、これと比較して「中国に関して言えば、我々は自由市場の主導権に取り組んではいない」と付け加えた。その政府がこれらの企業の多くを所有し、銀行を統制しているからである。

(2)全体として、5年前に始まった一帯一路構想は、アジアのインフラ開発プロジェクトを超えて、その範囲と領域を拡大していると、CSISのReconnecting Asia ProjectのディレクターであるJonathan Hillmanはこのイベントで述べた。この構想は、海上貿易と防衛を非常に重視することにより、中国が経済的及び安全保障上の目標を結合させることを現在助けている。アフリカの角にあるジブチは、アジアや南シナ海をはるかに超えて、その影響力を拡大するために、中国による一帯一路の海洋及び安全保障の活用の代表的な例を示している。CSISのアフリカプログラムのディレクターであるJudd Devermontは、北京は、ジブチへのその初期港湾投資を、本格的な海軍基地にアップグレードすることを考えていると述べた。ジブチ大統領Ismail Omar Guellehの言葉を引用し、ジブチに「投資する唯一の存在が中国人」であり、「長期的なパートナーシップ」に関心があるとDevermontは述べた。

(3)中国が南アジアについて考える場合、国際貿易のための「接続性へのバンドワゴン」になる可能性がある、スリランカやバングラデシュのような国々での機会として見ていると、Center for Naval Analysis(CNA)の中国とインド太平洋安全保障に関するアナリストであるNilanthi Samaranayakeは、このイベントで述べた。インドを明確な例外として、これらの国々は、彼らの国際貿易を拡大させる現地の経済成長及び施設のための国内インフラを発展させる、「その他多くの国の中の1つのパートナーとして中国」を見ているけれども、彼らは、ローンの返済が不履行になり、南スリランカにおける大規模な港湾を北京が獲得した後、より用心深くなっている。その買収と、マレーシアでの230億ドル相当の開発プロジェクトの中止、中断により、中国は一帯一路の下でどのように事業を行うのか再検討することになった。「債務の罠外交」と呼ばれることも多いそれらの契約は、高金利、現地労働者の雇用機会の少なさ、民間企業と政府系企業両方に対する中国企業への大量の前金支払い、そして、政府職員をリベートで囲む腐敗を組み合わせていた。その結果として、中国は、融資の再交渉を行うこと、そして、マネージャーとしてではないが、現地のより多くの労働者たちの雇用を含めるために、多くの事業慣行を変更している。

(4)中国人にとって、海峡においてそのエネルギー供給を封じ込める「マラッカジレンマ」があり、したがって、別の船舶輸送オプションを作り、そのリスクを課題から取り除くためにパキスタン及びバングラデシュ、そしておそらくタイにおける港湾開発への彼らの投資がある。これらの東南アジア諸国は、米国が港湾、高速道路、鉄道線路及び空港を建設することに期待していないかもしれないが、彼らは、航行の自由の確保と、目に見えるプレゼンスをもつことに従事する米国を望んでいるとCSISのSoutheast Asia ProgramのディレクターであるAmy Searightは述べた。

記事参照:Panel: Chinese Investments to Boost Trade Come as U.S. Commercial Shipping in Decline

102日「米中貿易戦争が武力衝突に発展する可能性比専門家論説」Asia Times.com, October 2, 2018

 マニラを拠点としている研究者であるRichard Heydarianは、10月2日付のWeb誌Asia Timesに"US, China thrusting towards a new Cold War"と題する論説を寄稿し、経済面や政治面そして戦略面における米中の報復の応酬は、超大国間の本格的な紛争にエスカレートする恐れがあると指摘した上で、要旨以下のように述べている。

(1)米国は貿易戦争をエスカレートさせることで中国に経済的な圧力を掛けながら、同時に南シナ海の係争海域で北京がこのところ得てきた戦略的利益に挑むべく軍事的努力を強化している。経済面と戦略面における懲罰的な応酬は、一部の専門家が米中の新冷戦と見なす争いの号砲を事実上鳴らすこととなった。

(2)Trump大統領は今年すでに中国からの輸入品に課した500億ドルの関税に加えて、この程2,000億ドル相当の中国製品に新たな関税を課すことで北京との貿易戦争を激化させた。中国は明らかに目下の貿易戦争をワシントンが南シナ海で強化する軍事的手段による広範な封じ込め戦略の一環だと見なし、米国との混乱した関係を自国の存亡を賭けた戦いだと考えている。

(3)9月30日、スプラトリー諸島の係争地であるガベン礁とジョンソン礁の近海で「航行の自由作戦(FONOP)」を行っていた米駆逐艦に中国海軍艦艇が異常接近した。ここ数か月に北京は南シナ海で領有権を主張する数か所の地物を軍事拠点化して、重要な水路に防空識別圏(ADIZ)を設定しようとしているのではないかという懸念を高めている。また、米国は中国が「挑発的」だとする、南シナ海における「継続的な爆撃機のプレゼンス」(continuous bomber presence)の一環として、このほどB-52爆撃機を展開し、中国の拡張的な主張に対抗している。同時にワシントンは日本やオーストラリア、英国など地域のパートナー諸国と防衛協力を強化している。

(4)Trump政権は台湾に対する13億ドル規模の武器売却を許可した。台北に対する増強された軍事援助は、中国による台湾との強制的な「再統一」に向けた加速する試みへの直接的な挑戦である。

(5)米インド太平洋軍司令官Philip Davidson海軍大将は先週のマニラ訪問の際に、海洋安全保障分野を含む米比合同軍事演習の回数を年間261回から281回へと大幅に拡大させる新防衛協定に調印した。フィリピン軍のGalvez参謀総長は、米比の深化した安全保障協力を歓迎して「比米両国は合同軍事演習を毎年行ってきたが、学ぶべきことは未だ数多く残されている」と述べた。おそらくは静かなる米比防衛協力の復活は、南シナ海でフィリピンが領有権を主張する海域で北京のプレゼンスが徐々に広まることに対するマニラの懸念の高まりを示している。

(6)米比とは全く対照的に中米の戦略的関係は両国の外交チャンネルにひびが入り、亀裂が生じるにつれて対決の危険な段階に差し掛かっている。10月に北京で予定されていた米国防長官のJim Mattisと魏鳳和中国国防部長の会談は、高まる両国間の緊張を受けてキャンセルされた。Trump大統領が中国を米中間選挙に干渉していると非難する中で、米中両国の緊張の高まりは米政治の深奥に入り込んでいる。王毅外交部長は中国は「いかなる国家の内政にも干渉しない。中国に対するいわれのない不当な非難を拒絶する」と繰り返し述べて、Trumpの非難を断固否定した。

(7)駐中国米大使のTerry Branstadは、アイオワ州の「デモイン・レジスター」紙に寄稿し、北京がおそらく「米国の報道の自由を利用してプロパガンダ広告を掲載し、(米国の有権者に対して)いやがらせを強化している」と非難した。ワシントンは特に貿易戦争のあおりを受けて対中輸出が低迷する地方の農村地域における重要選挙区で、中国がTrump政権の信用を落とそうと組織的な活動を行っていると非難している。

(8)2超大国間で高まる緊張に対して何ら手が打たれなければ、地域的な貿易結合をひどく分断する上に、南シナ海あるいはそれを越えた地域で武力衝突が生じるリスクを高めてしまう。

記事参照:US, China thrusting towards a new Cold War

103日「アーミテージ・ナイ報告書、『21世紀における日米同盟の更新』公表」CSIS, October 3, 2018

 米シンクタンク、Center for Strategic and International Studies(CSIS)は10月3日、アーミテージ元国務副長官やナイ元国防次官補ら研究グループによる日米関係のあり方に関する提言をまとめた報告書、"More Important than Ever: Renewing the U.S.-Japan Alliance for the 21st Century"を公表した。報告書は、題名が示す通り、今日日米同盟はこれまで以上に重要になっているとして、戦略的効果、政治的持続可能性そして資源の効率的活用という3つの視点から、21世紀において内外の課題に対応し得る日米同盟に更新するために、4分野10項目の具体的な方策を提言している。以下は、4分野10項目の具体的な方策の概要である。(なお、「アーミテージ・ナイ報告書」と通称される同報告書の公表は、2000年、2007年、2012年に次いで今回が続き4回目である。)

(1)2国間の経済的絆の強化

a.自由な貿易投資体制の再確認

(2)部隊の協調的運用態勢の強化

b.合同共用基地からの運用:現在、在日米軍、自衛隊はそれぞれ個別の基地から運用している。三沢空軍基地が日本で唯一の共用統合運用基地(原文:Only one base in Japan is both joint and combined)である。個別基地からの運用は戦闘能力を制約し、政治的負担を増す。同盟はもはやこうした贅沢を許されない。日本の港湾と飛行場の数が限られている環境下で、個別基地からの運用は同盟戦力の柔軟性を制約する。更に、個別基地の維持は、我々が求める戦闘能力の統合、合同方針を損ねるばかりでなく、基地施設の重複をもたらし、非効率である。そして最も重要なことは、個別基地の維持が基地問題という、同盟にとっての政治的脆弱性を生み出すことである。こうした理由から、同盟は、基地の共用化に努力すべきである。これは、同盟戦力の戦闘効率、政治的持続可能性そして資源の効率的活用を最大化するであろう。究極的には、全ての在日米軍は、日本国旗が掲揚された基地から運用されるべきである。こうした措置は、戦闘能力を最大にし、同盟の負担軽減問題に対処する一方で、基地受け入れ国の国民の負担を最小化する、同盟の努力の象徴となろう。

c.合同統合任務部隊の創設:日米が合同運用を重視するようになれば、同盟の既存の指揮機構は刷新される必要があろう。大規模紛争時には、現在の米国の同盟体制の指揮機構は、控えめに言っても、複雑すぎる。米国サイドで見れば、インド太平洋軍司令官は、戦闘指揮に加えて、ワシントンとの関係調整や同盟国軍との連絡など、多様な任務をこなさなければならない。これは、世界の人口と地球の表面積の半分強に担当責任を有する、インド太平洋軍司令官にとって大きすぎる負担である。もし日米が基地においてより効率的に合同運用を目指すなら、両国は、西太平洋戦域向けの合同統合任務部隊を創設すべきである。合同統合任務部隊は、台湾、南シナ海そして東シナ海における中国との起こり得る紛争事態に焦点を合わせることができよう。こうした合同統合任務部隊は常任スタッフを擁し、定期的な訓練、演習に責任を持つ。この地域はクロスドメインの作戦が求められることから、合同統合任務部隊指揮官は各軍種間の持ち回りとなろう。

d.日本の統合作戦司令部の創設:米国と同様に、日本も、指揮統制系統を刷新する必要がある。現在の日本の指揮機構は、戦闘指揮と防衛任務を兼ねる自衛隊の最高指揮官の負担が大きい。これらの任務の一部を下位の指揮官に委譲することで、特に大規模紛争時に、自衛隊の運用効率が高められるであろう。日本の自衛隊はより任務指向性が高く、従って、米軍の戦闘指揮機構は模倣すべきモデルではない。むしろ、オーストラリアの簡素化された指揮機構の方が日本に相応しい。オーストラリアは、統合作戦を指揮する三つ星の将官を司令官とする統合作戦司令部を設置している。統合作戦司令官は、全ての軍事作戦と、訓練及び即応態勢維持に責任を有する。日本は、オーストラリアを参考に、日本の組織的、法律的、歴史的そして文化的な特徴を取り込んだ、独自の統合作戦司令部を創設すべきである。

e.合同緊急事態計画の立案:もし日米両国が侵略行為に迅速に対処するのであれば、事前に計画された、対処計画と選択肢を持っていなければならない。合同作戦は、一層合同作戦計画の必要性を高める。中国は、我々の遅い意志決定サイクルに付け込んで、既成事実構築戦術を多用している。従って、我々の意志決定サイクルの迅速化は極めて重要である。指揮官は迅速に行動する必要があり、従って、ある種の作戦に関しては政治的指導者による事前の調整が不可欠である。さらに、このような事前の計画立案には、日米両軍のみならず、日本の沿岸警備隊を含む、各種の法執行機関との調整が必要である。さらに、合同計画の立案は、敵対行為の拡大が一層緊密な同盟国間の協調行動を誘発することを明示しておくことで、侵略意図を挫くことに役立つ。特に東シナ海において強まる挑戦に直面していることにかんがみ、合同計画の立案による新たな抑止効果は重要である。加えて、同盟諸国は、大規模紛争レベルを下回る侵略行為を含む、いわゆる「グレーゾーン」事態に米軍をより早い段階で巻き込むことを考慮すべきである。この措置は、こうした事態が日米安保条約第5条の下での武力攻撃の敷居を越える事態かどうかにかかわらず、如何なる侵略行為も一層緊密な同盟国間の協調態勢の引き金になることを誇示するものとなろう。従って、同盟諸国は、適切な法的規制に応じた、より体系化された合同作戦計画立案に関与すべきである。協力関係を強化するために、日本は、インド太平洋軍司令部の計画立案部門を含む、関係米軍部隊に自衛官を配置すべきである。

(3)合同技術開発の促進

f.防衛装備の共同開発

g.ハイテク技術協力の拡大

(4)域内パートナー諸国との協力の拡大

h.北朝鮮を視野に入れた日米韓3国安全保障協力の再活性化

i.中国の「一帯一路構想(BRI)」に対抗する地域インフラ整備基金の創設

j.広範な地域経済戦略の促進

 報告書は結論として、「米国は日本に勝る同盟国を持っておらず、しかも今日日米同盟はこれまで以上に重要になっている。日米同盟は、しばしば域内の平和と安全保障の要石と評されるが、ひびも見え始めている。今後数十年を見越して日米同盟を更新することは、厳しい決定と持続的な実行力を要するであろう」と指摘している。

報告書全文:More Important than Ever: Renewing the U.S.-Japan Alliance for the 21st Century

【解説】

倉持 一

 10月3日、CSISは、いわゆる「アーミテージ・ナイ報告書」の第4弾を公表した。タイトルのMore Important than Ever: Renewing the U.S.-Japan Alliance for the 21st Centuryが示すとおり、本レポートは、未来志向かつ現代の安全保障環境に適応した日米同盟の新たな展開を提示するものである。中国や北朝鮮を中心アクターとして、東アジアの安全保障環境が大きく変化してきている現在、我々は日米同盟を改めてどう理解し、どう深化させていけばよいのか。Renewという言葉に込められた意味は大きいだろう。

 本レポートの基礎は、日米同盟の重要性、安定性、貢献性、発展性に対する絶対的な信頼である。日米同盟の根幹をなす「日本国とアメリカ合衆国との間の相互協力及び安全保障条約」が結ばれて半世紀以上が経過したが、その存在の意義と役割は、依然として日本にとっても米国にとっても大きい。とはいえ、安全保障環境はいわば生き物であり変化し続ける。普遍性と可変性との相克が、日米同盟に課せられた宿命であるともいえる。

 東アジアの安全保障環境の変化に日米同盟をどうマッチさせていくのかを考察した本レポートに通底するテーマは、やや乱暴だが、端的に言えば「効率化」にあるように感じる。世界第一位の経済規模と軍事力を誇る米国であれ、経済的な事情を抜きに安全保障を考えることはできない。1980年代前半に経済学者のKrugmanが「双子の赤字」の問題を提起して以降、同問題は米国の政権運営にとって無視し得ない存在である。この問題をソフトランディング式に解消していくには、効率化が有効である。そして、米国の経済状況の改善を最重要視するTrump大統領が登場したことで、効率化は米国にとって大きなテーマへと浮上したように感じられる。持続的な経済成長と安定した軍事力を担保しながら、限られた予算をいかに効率よく安全保障分野に投入していくのか。単純な軍拡や軍縮よりも難しい課題である。

 効率化は何も米国だけの問題ではない。中国も人民解放軍の効率化を急いでいる。人民解放軍の効率化は鄧小平の時代から取組まれてきたが、習近平は従来の「軍の近代化」路線の先を行く「軍の現代化」路線を掲げ、大規模な人民解放軍改革を進めてきた。統合作戦の遂行に適した組織体制への再編や各種装備の充実化の全貌はまだ見えていないが、その実現にはかなりのリソースが必要であることは間違いない。しかし、習近平が2017年10月の党大会で宣言した「今世紀半ばごろまでに『世界一流の軍隊』を建設する」との目標は、すなわち必達の国家目標であり、中国は今後も安全保障分野を重視した政策を続けていくだろう。一方で年率10%前後という驚異的な勢いで経済成長を続けてきた中国でも、ここ最近は経済成長の鈍化が指摘されるようになってきた。もはや中国であっても、今後は効率化の波からは逃れられない。こうした背景事情を理解した上で、今回のレポートを読むと、その真意がより明確化してくる。ここからいくつかのポイントを取り上げ、その中身を確認してみよう。

 まずレポートが提案しているのは、協調的運用による効率化である。現在、防衛省の資料によれば、在日米軍が使用する施設・区域は国内に130箇所ある[1]。本レポートは、三沢空軍基地が日本で唯一の共用統合運用基地(原文:Only one base in Japan is both joint and combined)だと指摘し、在日米軍と自衛隊とが別個に基地を運用していることの非効率性を訴える。日米同盟が深化している現在、在日米軍と自衛隊との共同訓練は何ら目新しいものではなく日常的に取組まれているものであり、また、有事の際の両組織の緊密な連携と運用は必然なものである。国土的・地理的な制約がある日本の事情をよく理解した指摘である。「究極的には、全ての在日米軍は、日本国旗が掲揚された基地から運用されるべきである」との提案は挑戦的であるが、効率性の追求という観点に立てば、極めて自然な発想である。もちろん、在日米軍や自衛隊の施設を抱える地方自治体や周辺住民の考えは様々であり、この提案を実現していくには相当程度の調整が必要であろうが、日米両国の負担軽減という意味では十分検討するに値するものである。

 レポートが次に提案するのは、日米の合同統合任務部隊や自衛隊の統合司令部の創設といった組織面の問題である。2018年5月30日に前任のHarris海軍大将からDavidson海軍大将に司令官が交代されると同時に、米太平洋軍(United States Pacific Command、略称:USPACOM)は、米インド太平洋軍(United States Indo-Pacific Command、略称:USINDOPACOM)へと名称が変更された。Mattis国防長官は、司令官交代式の演説で、太平洋からインド洋における同盟国・友好国との関係は、同地域の安定を維持する上で極めて重要であり、インド洋と太平洋の連結性が高まっていることから、今回インド太平洋軍に改名することとなった、などと説明した。同司令官ポストは、米国西海岸沖からインド西方までという広大な管轄区域と米軍の全勢力の約20%に相当する兵力を指揮する重要なポストである。確かに、有事の際に、大統領や国防総省などとの綿密な連携が求められる中、米インド太平洋軍司令官が日米同盟に基づく統合運用の細かな面にまで駆り出されるというのは現実的ではない。

 同種の問題は日本側にも存在する。自衛隊には、陸海空自衛隊を一体的に運用することを目的とする統合幕僚監部が、防衛省の特別の機関として設けられている。統合幕僚監部は、2006年3月に前身の統合幕僚会議および同事務局を廃して創設されており、すでに10年以上が経過している。その意味では、自衛隊も統合運用の経験を積んでいる。しかし、統合幕僚監部は内閣総理大臣や防衛大臣に対する最高位の軍事補佐機関としてのスタッフ機能と、内閣総理大臣や防衛大臣の命令を着実に実行する最高位の指揮機関としてのライン機能の両方を併せ持つ組織である。有事の際に、統合幕僚監部がどれだけスタッフ機能を果たしながら、ライン機能として陸海空自衛隊を有効に統合運用できるのかは未知数である。このように、日米両国が抱える問題は一部で共通しており、東アジアに焦点を絞った新たな部隊を日米が協力して創設する、また、自衛隊に日米連携をさらに高めるべく統合司令部を創設する、といった提案は、極めて現実的である。

 そして、次に合同緊急事態計画の立案が取り上げられている。これまでの提案に比べて実現のハードルは若干下がる内容だろう。有事に備えるという意味では、基地・部隊の運用、装備、指揮命令系統の見直し、検討だけでなく、こうした計画面の検討なども、日米同盟にとって同等に重要である。レポートが指摘するように、計画は日米両国にとって行動指針となるだけでなく、その概要や立案プロセスを通じて、両国がいかなる意図を持って事態対処に当たろうとしているのかという意思表示にもつながる。特に、今回のレポートは、計画立案に必要な事前調整にこそ、日米同盟深化のポイントがあると示唆する。すなわち、21世紀の新たな安全保障環境に対応していくためには日米同盟をさらに緻密なものにしていく必要があり、そのためには、日常的な同盟関係に基づく活動だけでは気づきにくい、あるいは、気づいていても正式な課題として取り上げられていないポイントを、議論の俎上に乗せることが必要である。ハーバード大学のClayton Christensen教授は、安定した大企業こそ、目先の改良ばかりに目を奪われ、本当に検討が必要な課題を見落としがちだという「イノベーションのジレンマ」を主張した。日米同盟が所与のものとして位置づけられる現代において、日米同盟もこのジレンマに陥ってしまうのではないか。レポートが有する危機感を表現すれば、こういうことではないか。

 いずれにせよ、レポートが目指すのは現行の日米同盟というハードローを基盤として、新たな安全保障上の脅威に対して、いかに効果的に、かつ、効率よく備え対処していくかである。提案されている事項の実現に向けたハードルの高さはそれぞれ異なるが、まずは日米両国が危機意識を共有し、出来ることからすぐに手を付けることが重要ではないか。こうした提案が米国側から出てくるということは、それだけ彼らが、中国や北朝鮮を主要なアクターとする東アジアの安全保障に緊迫感を持っているということだろう。レポートから全体的に伝わる切迫感を鑑みれば、検討を行うために予め検討を行うような時間的猶予はそれほど残されていないのではないか。本レポートの警鐘は、日本にとっても十分に検討に値するものである。

103日「台湾、潜水艦設計のコンサル企業を指名香港紙報道」(SOUTH CHINA MORNING POST, 03 October, 2018

 South China Morning Post電子版は、10月3日付で"Taiwan appoints defence consultancy to oversee submarine design"と題する記事を掲載し、台湾がジブラルタルを拠点とする防衛コンサル企業Gavrond社と国産潜水艦の予備設計を監督するため16億米ドルで契約したとして要旨以下のように報じた。

(1)台湾国際造船股份有限公司で実施予定の潜水艦設計を監督するためGavrond社と契約したと、台湾海軍は10月2日に発表した。国産潜水艦建造計画は台湾海峡を跨ぐ緊張に備えた蔡英文総統の国防政策の鍵となるものである。北京は台湾を必要であれば軍事力を行使してでも再統一されるべき反逆の州と見做している。大陸中国は台湾周辺での軍事的哨戒と演習を強化している。

(2)計画ではプロトタイプの設計は3月までに完了し、2020年前に建造が開始され、2025年までに1番艦が完工すると海軍は述べている。

(3)入札過程で可能性のある違法行為について台湾の議員が懸念を表明した後、台湾海軍は潜水艦の計画から距離を置こうとしている。計画は台湾国際造船股份有限公司と関心を持つ入札企業とが行っており、設計作業の監督に関して海軍がしなければならないことは何もなかったと、海軍は声明で述べている。また海軍は、2018年初めの25億台湾ドルの設計契約を建造業者が得た後、彼らは計画過程に直接関わってこなかったと付け加えている。

(4)地方メディアは今、契約者は設計が潜水艦建造に適切であるか否かを進言することが主たる任務であるような重要な契約が米国のロッキード・マーチンのような大企業ではなく、Gavronのような小規模のコンサル企業が受注したことに疑問を持っている。議員の江啟臣、馬文君も立法院で問題を提起していた。台湾の軍事専門家はGavron社の成功の鍵は輸出許可であり、同社の任務は設計作業が要求された基準に適合させることを確実にすることで、入札手続を疑いの目で見るべきではないと述べている。

(5)台湾国際造船股份有限公司董事長鄭文隆は、「当社は潜水艦の主要構造物を設計、建造するのに問題も無い。当社は370名以上の設計者を抱えている。これは台湾全土のこの分野の技能者の約70パーセントに当たる。船体は台湾の専門家が建造し、外国の供給者は装備等を手配する必要があるだろう」と述べた。

記事参照:Taiwan appoints defence consultancy to oversee submarine design

104日「ペンス米副大統領、トランプ政権の中国政策について演説」(Hudson Institute, October 4, 2018

 Pence米副大統領は10月4日、ワシントンのシンクタンク、Hudson InstituteでTrump政権の中国政策に関して演説した。この演説は、米中貿易戦争の最中にあって、Trump政権の中国政策につて包括的に言及した注目すべき重要演説であった。以下は、この演説の主要部分の要旨である。

(1)Trump大統領は、政権当初から中国や習近平国家主席との関係を重視してきた。しかしながら、米国国民が知っておくべきことは、北京は、政治、経済、軍事的手段とプロパガンダを駆使して、米国内に対する影響力を高めようとしていることである。2017年12月に発表した「国家安全保障戦略」で、Trump大統領は、「大国間の抗争」という新たな時代に言及し、他の大国は「地域的、世界的にその影響力を再び主張」し、「米国の地政学的優位に異議を唱え、国際秩序を彼らに有利に変えようとしている」と述べ、米国は中国に対して新たな対外姿勢を取ることを明らかにした。

(2)ソ連の崩壊後、我々は中国の自由化が避けられないものと想定し、これまでの政権は中国に対して各種の便宜を図ってきたが、その期待は達成されなかった。過去17年間、中国のGDPは9倍に成長し、世界で2番目に大きな経済力となった。この成功の大部分は、米国の対中投資によってもたらされたのである。Trump大統領の言葉を借りれば、過去25年間にわたって「我々は中国を再建した」というわけである。現在、中国共産党は「中国製造2025 」計画を通じて、ロボット工学、バイオテクノロジー、人工知能など世界の最先端産業の90%を支配することを目指し、官僚や企業に対し、米国の経済的リーダーシップの基礎である知的財産をあらゆる必要な手段を用いて取得するよう指示してきた。最悪なことに、中国の安全保障機関が最先端の軍事計画を含む米国技術の大規模な窃盗の黒幕であり、中国共産党は盗んだ技術を使って大規模に民間技術を軍事技術に転用している。中国は現在、アジアの他の諸国を合わせた軍事費とほぼ同額の資金を軍事に投じ、米国の陸、海、空及び宇宙における軍事的優位を脅かす能力の取得を第一の目標としている。中国は、米国を西太平洋から追い出し、米国が同盟国支援に駆けつけることを阻止しようとしている。

(3)北京はまた、かつてないほどその力を行使しつつある。中国の公船は、日本の施政下にある尖閣諸島周辺を定期的に遊弋している。更に、中国の指導者は2015年にホワイトハウスでの記者会見で、中国は南シナ海を「軍事化する意図は全くない」と言明したが、それにもかかわらず、北京は現在、造成した一連の人工島に建設された軍事基地に最新の対艦ミサイルと対空ミサイルを配備している。10月初めに南シナ海で「航行の自由」作戦を遂行中であった、米海軍イージス駆逐艦USS Decaturに対して約41メートル余の距離までに中国海軍戦闘艦が異常接近するという、中国の攻撃的な行動があり、米艦は衝突回避行動を強いられる事態となった。米海軍は、このような無謀な妨害行動に屈することなく、国際法が許容する範囲内で、また米国の国益が要求するところであれば世界のどの海域でも、上空を飛行し、航行し、作戦行動を続けていくであろう。我々は、威嚇されたり、撤退したりするつもりはない。

(4)中国は、その影響力を拡大するために、いわゆる「債務の罠外交」("debt diplomacy")を展開している。今日、中国は、アジアからアフリカ、ヨーロッパ、更には中南米に至る各国政府に対して、インフラ建設借款として数千億ドルもの資金を投入している。しかしながら、これらの融資条件は良くても不透明であり、常にその利益は中国に圧倒的に流れるようになっている。スリランカの例を見てみよう。スリランカは、商業的価値があるかどうか疑問の余地のある港(ハンバントータ港)を建設するために、中国国営企業から巨額の負債を抱え込むことになった。2年前に、スリランカにはもはや返済の余裕がなくなったために、北京は、スリランカに対して、新しい港を中国の手に直接引き渡すよう圧力をかけた。同港はやがて、中国の拡大しつつある外洋海軍にとっての前方軍事基地になる可能性がある。西半球でも、北京は影響力を拡大している。中国共産党はこの1年間、中南米3カ国が台湾との外交関係を断ち、北京を承認するよう仕向けてきた。こうした行動は台湾海峡の安定を脅かすものであり、米国はこれを非難する。米国政府は、3つの米中共同声明や台湾関係法に基づき、「一つの中国政策」を尊重し続けるが、一方で、台湾の民主主義に対する米国の支持は、全中国人にとってより良い道であると常に信じている。これらは、中国が世界中で戦略的利益を推進しようとしている手法のほんの一部に過ぎず、その勢いと洗練度は高まってきている。しかし、米国の歴代政権は中国の行動をほとんど無視してきたし、しかも多くの場合、それは中国に有利に作用してきた。しかしながら、もはやそうした日々は終わった。

(5)Trump大統領のリーダーシップの下、米国は新たに増強しつつある力で我々の国益を守ってきた。我々は、世界史上最強の軍隊を一層強化しつつある。Trump大統領は2018年年初に、レーガン政権以来最大の増額となる7,160億ドルの国防法案に署名し、米軍の全ての領域を拡充していく。我々は、核兵器の近代化を進め、新たに最先端の戦闘機や爆撃機を配備し、開発し、新世代の空母と軍艦を建造中である。我々はかつてないほど軍に投資しており、これには宇宙における米国の優位性を維持するために米宇宙軍を設立するためのプロセスを開始することも含まれている。また、敵に対する抑止力を構築するために、サイバー領域における能力を向上させるための措置も講じている。私は大統領の代理として、11月にシンガポールとパプアニューギニアで開催されるASEANとAPECの会議に出席する。我々はこれらの会議で、「自由で開かれたインド太平洋」を支援するための新たな措置とプログラムを発表する。そして私は、インド太平洋地域に対する米国のコミットメントがかつてないほどに強力であるとのメッセージを伝えるつもりである。

(6)米国全土で、米国民は、中国に対する警戒心を強めており、中国との経済的、戦略的関係をリセットし、「アメリカファースト」を掲げる大統領を強く支持している。Trump大統領のリーダーシップの下、米国は最後までやり遂げると断言する。中国は、米国民と米政府の決意を知るべきである。とはいえ、「国家安全保障戦略」が言及するように、「抗争は必ずしも敵意を意味するものではない」ということを忘れてはならない。Trump大統領も、我々の繁栄と安全が共に成長する中国との建設的な関係を望んでいることを明確にしているのである。

記事参照:Vice President Mike Pence's Remarks on the Administration's Policy Towards China

106日「中国、スリランカ港湾を軍事基地に米副大統領対中政策演説」(Asian Tribune.com, October 6, 2018

 Spence米副大統領は10月4日、ワシントンのシンクタンク、The Hudson Instituteで外交、国際問題専門家を前に、Trump政権の対中政策に関する包括的な演説*を行った。タイのWeb紙Asian Tribuneは10月6日付の "U.S. Vice President Declares: Sri Lanka southern port a military base for China"と題するワシントン特派員記事で、副大統領が演説の中で、影響力拡大手段としての中国の「債務の罠外交」を取り上げ、中国が特にスリランカのハンバントータ港を軍事基地にすることを意図していると述べたとして、要旨以下のように報じている。

(1)Spence米副大統領は演説で、中国は影響力を拡大するために「債務の罠外交」("debt-trap diplomacy")を利用していると述べた。副大統領演説の最優先のメッセージは、米国は強力かつ決然としており、中国は重大な脅威であり、そして各国は米国と共にあるべきである、ということであった。

(2)中国は、スリランカ南部でハンバントータ港を建設した。副大統領は演説で、ハンバントータ港が何れ南アジアにおける軍事基地として中国の手に落ちるだろうと述べた。スリランカ周辺のどのアジア諸国も、以下の副大統領の警告を無視することはできないであろう。副大統領は演説で、「中国は、影響力を拡大するために、いわゆる『債務の罠外交』を利用している。今日、中国は、アジアからアフリカ、ヨーロッパまで、さらには中南米までの多くの政府に数千億ドルのインフラ建設投資を行っている。しかし、これらの借款供与の条件は不透明であり、しかもそこから得られる利益のほとんどは例外なく北京に流れている」「スリランカについて見れば、同国は、商業的価値が疑問視される港湾建設のために、中国国営企業に対して多大の負債を抱え込んだ。スリランカは2年前に負債返済が不可能になり、北京は、新港を直接中国の手に渡すようスリランカに圧力をかけた。同港はいずれ、外洋海軍に成長しつつある中国海軍の前進軍事基地になるかもしれない」と述べた。このスリランカに関する副大統領の警告は、米政府情報機関からの情報に基づくとみられることから、極めて重要である。

(3)その上で、副大統領は、米国は軍を再建しつつあり、インド太平洋地域における米国の利益を主張していくとして、「11月に、シンガポールとパプアニューギニアでASEAN首脳会談とAPECが開催されるが、私は米国を代表してこれら会議に出席する。これらの会議で、我々は、『自由で開かれたインド太平洋』を推進する新たな措置と計画を提示することになろう。そして大統領の代理として、私は、インド太平洋に対する米国のコミットメントはかつてないほど強力であるとのメッセージを伝えることになろう」と述べた。

記事参照:U.S. Vice President Declares: Sri Lanka southern port a military base for China

備考*:Vice President Mike Pence's Remarks on the Administration's Policy Towards China

106日「南シナ海で米中は完全な武力衝突には陥らない―RSIS専門家論評」(South China Morning Post.com, October 6, 2018

 シンガポールの南洋工科大学S.ラジャラトナム国際関係学院(RSIS)の研究員であるCollin Kohは、10月6日付のSouth China Morning Post電子版に"US-China tensions: is war the endgame in the South China Sea?"と題する論説を寄稿し、南シナ海は、完全な武力衝突には陥らないという枠内で、米中の力の誇示や報復措置の手段として使用されるとして、要旨以下のように述べている。

(1)中国の駆逐艦と米海軍ミサイル駆逐艦Decaturの近接遭遇は、どちらの側も準備が整っていない、完全な武力衝突に陥る緊張を避けるための北京の試みだった可能性がある。Decaturによる最近の航行の自由作戦と、互いに41m以内に近づいた南シナ海の中国の駆逐艦との近接遭遇は、米国と中国の間の緊張を高めた。そして、それらの緊張は、最近の様々な米中間の事象によりすでに高まっていた。このような進展は、特に進行中の現在の米中貿易摩擦に関する、両大国間のますます刺々しい関係という幅広い文脈から考えることができる。しかし、南シナ海問題が懸念される中で、米中の相違や政治的・軍事的摩擦は、この貿易の不協和音に遥かに先行していた。

(2)南シナ海でのこの最近の中国の行動は、不快感を表明するための北京の報復を意味していたかもしれないが、完全な武力衝突に対してどちらの大国も準備ができていない。その政治的かつ経済的影響は、あまりに巨大すぎて、受け入れることを考えることすらできない。1つには、南シナ海は依然として、グローバルなコミュニティが海や空の通過を一般的に享受する国際媒体である。今までに、民間人の通過を妨げるいかなる当事者による試みもなかった。推定で世界の3分の1の船舶輸送がこの海を通るため、これは結局、国際的な経済に対する攻撃的な行動を意味する。

(3)しかし、これは軍事的通過の場合は異なる。Decaturに対する挑発と同じように、北京は、その守備隊が置かれた南シナ海の地勢付近を飛行する外国の軍事航空機を挑発している。中国の場合、引き下がることは、その南シナ海に対するその権利主張、そしてこの紛争における外国の干渉に対する長期的な要求について譲歩することを意味する。これは、権力の座にある共産党や習近平の個人的な名声及び正当性に、想像がつかないほどの政治的コストを負担させることになる。米国にとっては、ここで引き下がることは、軍民双方の艦船のための航行の自由という、そのために戦っている価値を損なう。そして、より広範には、この地域への安全保障コミットメントに疑いを抱かせることになる。

(4)問題は、南シナ海をめぐる紛争が最終的にどうなるかである。南シナ海の闘争は、航行の自由と同じように道徳的な争いである。中国や米国、ASEANのいずれの権利主張国の誰もが、弾丸を撃つ最初の国になることや、地域の平和と安定を危うくするのけ者としてみなされる世界的な不名誉を得ることは望んでいない。中国と米国による「国力の誇示(show of flag)」や「武力の誇示(show of force)」の動き及び対抗措置は継続するが、完全な武力行使に到らない程度の境界を考慮する中で継続される。

(5)南シナ海におけるあらかじめ計画された武力紛争のリスクは、シンガポールで今月開催される拡大ASEAN国防相会議防衛大臣会合(ADMMプラス)のような、既存の地域安全保障プラットフォームによって改善することができる。持続的な戦略的信頼の欠如の中で、2014年に西太平洋海軍シンポジウムで21の海軍によって公布された「洋上で不慮の遭遇をした場合の行動基準(CUES)」のような、信頼構築メカニズムの使用により、航行の安全及び危機の安定化を推進することはまだ可能である。その行動基準をしっかりと実行するだけではなく、水中及び空中の次元へこのメカニズムを広げることが適切だろう。

(6)南シナ海の最終段階は、必ずしも紛争に発展する必要はなく、むしろその境界付近における、報復的軍事行動及び対抗措置の手段に悩まされることになるだろう。

記事参照:US-China tensions: is war the endgame in the South China Sea?

107日「中国による北極シルクロードの制度化の進展――オスロ大学大学院生論評」(The Diplomat.com, October 7, 2018

 ノルウェーのオスロ大学大学院に在籍するTrym Aleksander Eiterjordは、10月7日付のWeb誌The Diplomatに"The Growing Institutionalization of China's Polar Silk Road"と題する記事を寄稿し、近年中国が展開している「北極シルクロード」の制度化について、要旨以下のとおり述ている。

(1)中国の「北極シルクロード」の制度化が最近急速に進んでいる。まず産業・学術レベルにおいては、2018年7月、中国航海学会(China Institute of Navigation:CIN)がPolar Navigation and Equipment Committee(PNEC)を組織した。同委員会は9月に総会を開き、Polar Research Institute of China幹事のLiu Shanlinを議長に選定した。この委員会のメンバーにはCOSCO Shipping Specialized CarriersやJiangnan Shipyard Groupの他、いくつかの大学工学部が含まれている。この委員会の目的は、中国の極地科学・技術の発展および開発、極地の航行によって蓄積されたデータと知識を効果的に利用するためのプラットフォームの建設などと定義された。PNECの創設は、以下に述べる中国の北極シルクロード構想の制度化の文脈に位置づけられるものである。

(2)この総会の開催は、砕氷船・雲龍(Xue Long)1号が北極への調査航海から戻り、上海に帰港した直後のことであった。この調査の目的は、北極シーレーンの航行可能性の試験、無数の極地無人調査ステーションの配置と修理であった。特に後者は北極圏における中国の観測ネットトークの「プロフェッショナル化」あるいは「スタンダード化」と呼んだものである。中国メディアは中国の北極観測が「無人時代に突入した」として、この調査航海を賞賛した。さらに同じく9月末には、中露合同での北極調査航海が開始された。これは、北極シルクロードのビジョンを実現させる一助と位置づけられた。

(3)ハード面での展開を見ておこう。まず中国の極地向け艦船建設が急ピッチで進められている。今年9月、中国が初めて自主建造(フィンランドのAker Arcticとの共同製作)した砕氷船・雲龍2号が進水した。同じく9月初めにはCOSCO Shipping Specialized CarriersのTian Enが中国東部を出発し、北極圏を通過する北西航路経由でヨーロッパへと向かった。また7月に、中国初の原子力砕氷艦建造に関する正式発表があった。さらにロシア北部ヤマル半島におけるヤマルLNG(液化天然ガスプラント)計画にも中国は深く関わっている(計画に必要なハードウェアの80%を中国企業が準備し、またChinese Sinopecが同プラントの20%の株式を保有している)。これは中国の北極シルクロードが具体化されたものとして最大規模のものである。

(4)政策レベルでの制度化も進められている。今年1月に中国政府は北極政策白書を発表し、北極シルクロードを一帯一路政策の一部として統合することを表明した。その後、組織の再編が実施され、これまで極地での活動に責任があった国土資源部と国家海洋局などが統合し、自然資源部が新設された。今年行われた北極調査はこの自然資源部の後援によるものであり、今後もそうなるであろう。

記事参照:The Growing Institutionalization of China's Polar Silk Road

107日「米中海軍艦艇の異常接近、高まる南シナ海の緊張香港ジャーナリスト論説」South China Morning Post.com, October 7, 2018

 South China Morning Post紙の王向偉(Wang Xiangwei)在北京編集アドバイザーは、10月7日付の同紙に、"Growing US presence in South China Sea threatens accident that sparks war"と題する論説を寄稿し、要旨以下のように述べている。

(1)米軍偵察機と中国軍戦闘機の空中衝突から17年後に起きた米中海軍艦艇の異常接近は、判断ミスがどれほど簡単に紛争を生じさせ得るのかを再認識させてくれた。その公算は大きくなるばかりである。

(2)米中両国はまたもや国際的な危機を起こしかけたと互いを非難した。米国側は中国の駆逐艦が、同国が領有権を主張する海域で航行する米艦船を遮ろうと「危険かつ職業意識に欠ける動き」をしたと非難した。中国国防部の報道官は、米国が南シナ海における中国の島々と岩礁近海に軍艦を派遣することは「中国の主権と安全を著しく脅かし、米中両軍関係をひどく傷つけ、地域の平和と安定を大いに損なっている」と糾弾した。

(3)荒れ狂う米中貿易戦争と他の米中間における緊張関係に加えて起きた激しい対峙と異常接近は、特に米中両軍間で悪化する関係が冷戦のみならず武力を伴う戦争にも繋がり得るとの懸念を高めた。

(4)本件はMattis米国防長官が訪中を中止し、中国政府が9月に米海軍艦艇の香港寄港を拒否し、訪米中の中国海軍司令官を本国に呼び戻したことに続いて起こった。反対に、一連の動きはワシントンがロシア製戦闘機とミサイルシステムの調達を巡って、中国軍調達部門と同部門担当責任者に制裁を科す決定を行ったことと密接に関連している。

(5)Trump大統領就任以降にワシントンは、中国がそのほとんどの領有権を主張する南シナ海において「航行の自由作戦」の名において海上、航空パトロールを強化してきた。ワシントンは英国やオーストラリア、フランス、日本などの同盟国にも同作戦に参加するよう促してきた。米国が係争海域を巡る領域の主張でいずれの国にも肩入れしないとする一方で、米軍の作戦はアジア太平洋における米国の影響力を維持し、同地域で影響力を拡大させようとする中国の試みを押し返すことに主眼を事実上置いている。突き詰めていくと南シナ海で起きていることは、支配的勢力と台頭する勢力の間で繰り返される権力闘争である。

(6)一部西側の専門家は、中国軍戦闘機が17年前に米軍偵察機の数メートル以内に接近したときと同様に、米中軍艦の異常接近は南シナ海における中国の攻撃性を増す姿勢を示したと評価した。確かに2つの事案は懸念を引き起こしたかもしれないが、実際のところ米国はそのほとんどが中国軍の妨害にあっているだろう中国沖における定期的な偵察活動を中止したことがない。ある意味では、2つの事案の間の17年という歳月は米中両国の高まる対抗意識にも関わらず、両軍の技量と抑制を示している。しかしながら、将来的には1つの事案が軍事紛争を生起させ得る可能性が高まっている。習主席は6月の北京におけるMattisとの会談で中国は祖先から受け継いだ領土を寸土たりとも渡さないという、普通ではありえない率直なメッセージを述べている。

(7)中国軍から見れば中国沖及び同国が領有権を主張する海域で絶えず行われる米軍の偵察と「航行の自由作戦」は、敵対的な意図をもって自国を包囲する国家以外の何者でもなく、論理的に考えて迎撃と対立につながるものである。それに加えて、中国の海空軍力は17年前の米偵察機の事案以降、大きな進展を遂げている。

(8)今や繰り返される問いは一部の西側の専門家が論じるように、米国が一連の岩礁と砂堆を巡って本当に中国と戦争をしたいのかということである。

記事参照:Growing US presence in South China Sea threatens accident that sparks war

108日「インド太平洋勢力としてのインドの台頭には米ロの関与が不可欠インド専門家論評」(South Asia Analysis Group, October 8, 2018)

 インドのシンクタンク、South Asia Analysis Group(SAAG)のSubhash Kapila博士は10月8日付で同グループのwebサイトに"India's Pivotal Indo-Pacific Power Build up needs US & Russian Inputs"と題する記事を掲載し、インドが重要なインド太平洋勢力としてのパワーを増大させていくには米国とロシアの関与が重要であるとして要旨以下のように述べている。

(1)インド太平洋の主要勢力としてインドが台頭していくには地政学的にも米露のコミットメントが不可欠であり、「責任ある利害関係者」としてのインドは米露双方の安全保障上の利益でもある。2001年以来の新しい冷戦(中国との関係)など、インド太平洋地域の変動する情勢下で、米国とロシアはともに冷戦思考と戦略的な不信感を取り除き、政策の再設定を余儀なくされるだろう。

(2)広大なインド太平洋の大陸と海洋空間の地政学的条件は、中国の脅威に対抗する形でのインドのパワー増大に寄与する米国のオープンアーキテクチャー、あるいはロシアの最先端軍事システム、例えばS400防空システム、原子力潜水艦の貸与、有人宇宙ミッションの打ち上げ援助などの支援を必要としている。こうした米露の動きは、中国の「封じ込め」は望まないものの対抗軸としてのインドの出現を認知するものでもある。インドは米露との紛争の歴史を持たず、双方から戦略的な信頼を得ることができる点で中国より有利であり、また、インド自身も米露との戦略的な同等性を追求する中国とは立場を異にしている。これまで米露間でスイング戦略を巧みに地用して来た中国とは異なり、インドはこれらの強力なグローバルパワーとの間で揺るぎない立場を示している。

(3)インドのパワー増大には、これまでのインド政府による軍事的な怠慢をカバーし、中国とパキスタンの軍事的脅威に対処するための支援を必要とする。したがって、今日のインドがインド太平洋の主要勢力となるべく主要国から支援を得るに当たっては、特に米露両国の注目を集める必要がある。

冷戦ピーク時のように、米国がインドを孤立させるべくパキスタンを支援したりしない限り、インドは米欧諸国及び日本の「自然な同盟国」である。印パ戦争直前の1965年当時、結果的にインドは軍用ハードウェアを旧ソ連に頼る以外に選択肢が無く、また、それ以前の主な武器取引相手国はフランスであった。そして今世紀、インドの武器のロシアへの依存度は約70%となっており、ロシア自身もソ連崩壊後は自らを「西側諸国の自然な同盟国」と述べている。

(4)2018年の注目点は、インドがその地政学的な特徴からインド太平洋の安全保障枠組みにおいて米日豪との関係を強化しつつあるということである。 米国はインドを同地域の主要勢力としてビルドアップさせるこのコミットメントを強く支持しており、ニューデリーで開催された米印2プラス 2サミット会合で締結された軍事協定はその表れでもある。

一方、ロシアの南アジア政策は、S400防空ミサイルのような先進的軍事システムの売却以外には何も見受けられないものの、本件売却により中国とパキスタンのインドへの抑止力が低下するということを暗示している。最終的に確認されるべきは、インドの勢力拡大はこれらの支援の動向に影響されるということであり、インドのパワー増大のための外部の支援が遅くなれば勢力拡大も遅くなるということであって、このためModi首相は「Make in India」による防衛国内生産を推進しているのである。

(5)結論として、インドは米国またはロシアとの戦略的関係において中国のようなスイング戦略を採るべきではなく、また、米露もインドのパワー増大に関与すべきである。インドは中国とは違い、インド太平洋の平和と安定に寄与し得る「穏健な勢力」であり、今後もそうあり続けるだろう。米国は明確にそれを支持する方向に動いており、ロシアもまた地政学的によりインドにコミットする方向に動いていくだろう。

記事参照:India's Pivotal Indo-Pacific Power Build up needs US & Russian Inputs

109日「南シナ海の問題は航行の自由ではない豪専門家論評」(The Strategist, October 9, 2018

 オーストラリア国立大学(ANU)の非常勤教授James Goldrickは、10月9日付のオーストラリアのシンクタンクAustraian Strategic Policy Institute(ASPI)のWebサイトThe Strategistに"Freedom-of-navigation operations aren't all about the South China Sea"と題する論説を寄稿し、南シナ海の本当の問題は、航行の自由ではなく軍事支配であるとして、要旨以下のように述べている。

(1)最近の米海軍ミサイル駆逐艦Decaturと中国の旅洋 II型ミサイル駆逐艦蘭州との近接遭遇は、メディアで大きな注目を集めている。中国の軍艦が、「海上における衝突の予防のため国際規則に関する条約(COLREG条約)」と「洋上で不慮の遭遇をした場合の行動基準(CUES)」に違反して危険な状況を作り出したことは疑いがない。

(2)しかし、この事件をあまりにも大袈裟に扱い過ぎているということも考えられる。

a. 第1に、過去にソ連部隊との遥かに深刻な遭遇があり、ロシア艦船との危機一髪があった。1988年、ソ連海軍のフリゲート艦Bezzavetnyは、黒海で米海軍巡洋艦Yorktownに意図的に隣り合わせになって衝突した。Yorktownと一緒にいた駆逐艦Caronは、より小型のソ連海軍のMirka型フリゲート艦に押しのけられた。2隻の米軍艦は、2018年のDecaturと同じタイプの航行の自由作戦を実行し、事前通知なしに領海を通過する無害通航権を行使していた。

b. 第2に、現代の航行の自由作戦は、中国に関してだけではない。直近の米国防総省の年次報告書によると、米海軍は、2017年に22ヵ国に対してこのような軍事活動を行った。

(3)米国による航行の自由作戦は、南シナ海の島や岩に対する中国の権利主張(又は他の国の権利主張)の正当性に対する意見ではないが、それらは、人工島が領土の資格を生み出さないという(オーストラリアを含む多数の他の政府と共有している)米国の立場を確かに示している。米海軍の軍事活動は当初、軍艦は他国の領海で無害通航を実行する際、事前通知を行う必要がないという海洋法条約の解釈に焦点を当てていた。中国は、そのような通知が必要であると考えている。最近の南沙諸島における航行の自由作戦は、満潮時に「干上がって(dry)」いない海洋地勢の上に築かれた人工島は、「500mの安全水域だけで、12カイリの領海は生み出さない」という米国の見解の実演を組み込むために拡大された。

(4)しかし、航行の自由作戦は本当の懸念事項ではない。海上交通路についての多くのレトリックにもかかわらず、問題は商業船舶についてではない。この海を通過する「鉄の公道(iron highway)」は世界で最も重要な海運ルートの1つだが、南沙諸島からは十分に離れている。中国は、この地域を通る航路に最も依存している国の1つとして、その妨害に潜在的な利益はない。

(5)本当の問題はこの海の軍事支配である。西沙諸島におけるその他の作業、基地施設とセンサーの累進的な展開、そして、高まる海軍と空軍の活動のレベルとともに、中国の人工島の構築は、中国が南シナ海全体をコントロールすることを目的としていることを示唆している。これの動機付けには、弾道ミサイル潜水艦の要塞として、南沙諸島の北の深海の区域を使用する長期計画が含まれている可能性がある。

(6)どこまで中国が行おうとしているのかが今や重要な問題である。南シナ海における外国の軍隊のプレゼンスに対する北京の繰り返される抗議は、いかなる外部からのプレゼンスも禁止ししたいことを示している。中国は最近、その平和的な意向をASEANに保証する外交キャンペーンに着手している。これには、南シナ海の遅れに遅れた行動規範のための新たな熱意が含まれる。しかし、重要なことに、中国は、規範案において、もう一方の調印国の同意なしに、沿岸諸国が域外大国と海軍及び空軍演習を行うことを禁止する条項を提示した。この暗黙のメッセージは明確である。

(7)この対応に関しては、我々自身の利益、そして、共有空間を維持する南シナ海に対する我々のコミットメントを示す、オーストラリアや他の国の軍隊の継続したプレゼンスによってのみ可能である。

記事参照:Freedom-of-navigation operations aren't all about the South China Sea

1010日「溶け出した氷河に核実験からの放射性物質ノルウェージャーナリスト論評」ARCTICTODAY, October 10, 2018

 ノルウェーのジャーナリストThomas Nilsenは、10月10日付のARCTICTODAY電子版に"Melting glaciers at Novaya Zemlya contain radiation from nuclear bomb tests"と題する記事を投稿し、ノヴァヤゼムリャの氷河から高濃度の放射性物質が発見されたことについて要旨以下のように述べている。

(1)ノヴァヤゼムリャへの科学調査は氷中に「高濃縮な放射性物質」があることを発見し、氷河は記録的な速度で海へ溶け出していると結論づけた。ロシア研究者の主たる目標はカラ海で放射性廃棄物の数百個の容器から漏洩がないかを調査することであった。研究者は投棄された容器をモニターし続ける理由があると結論づけたが、予備的な結論では漏洩の兆候はなかった。しかし、特に水深400mで発見され、放射性廃棄物の容器が満載された1隻の艀は将来に向け特別な注意を払う必要がある。水中写真では、艀は壊れており、容器は艀からこぼれ落ち、海底に散在していることを示しているとTASSは述べている。

(2)さらに懸念されるのは、海にまで伸びる氷河で発見された放射線である。ノヴァヤゼムリャの大気圏で1957年から1962年にかけて86個の核爆弾の実験が行われた。大半の核爆弾はノヴァヤゼムリャをノーザン・アイランドとサザン・アイランドに分けている付近の北側上空で爆発しており、その時の風向きはほとんどが北向きであった。

これらの実験によるフォールアウトが今、海に溶け出している。ほとんどが北向きの風であったので汚染はノーザン・アイランドと北の氷床に蓄積された。ナリー氷河を調査し、同氷河に高濃度の放射性物質を発見したとして、「私はこの発見に関して正確な推定はしていないが、動いている氷河のこの部分ではノヴァヤゼムリャの基線レベルの2倍であった。」と海洋研究所副所長のMikhail Flintは述べた。

(3)ノーザン・アイランドの大半は氷に覆われており、氷河は東西両岸、すなわちバレンツ海とカラ海で終わる。カラ海は商業漁業がほとんど行われていないが、バレンツ海は生物生産物があり、漁業、特に鱈漁はノルウェー、ロシア双方にとって極めて重要である。

記事参照:Melting glaciers at Novaya Zemlya contain radiation from nuclear bomb tests

【補遺】

旬報で抄訳紹介しなかった主な論調、シンクタンク報告書

Will China's new laser satellite become the 'Death Star' for submarines?

https://www.scmp.com/news/china/science/article/2166413/will-chinas-new-laser-satellite-become-death-star-submarines

South China morning Post.com, October 1, 2018

 2018年10月1日、香港のSouth China morning Post電子版は、青島海洋科学技術試験国家研究所(青岛海洋科学与技术试点国家实验室)が5月にスタートさせたレーザー衛星による深海探査(潜水艦探知)プロジェクトに関し、水深500メートルを目標とする同プロジェクトには探査機器の水圧対策など多くの課題があり、中国国内からも実現不可能だとの声も出ているが、中国は近年特に対潜能力の向上を図っており、スーパーコンピュータを活用したネットワークを構築することで技術的な問題を補っているなどと報じた。



[1] 「在日米軍施設・区域(共同使用施設を含む)別一覧」

http://www.mod.go.jp/j/approach/zaibeigun/us_sisetsu/pdf/ichiran_h300331_2.pdf