海洋安全保障情報旬報 2018年11月1日-11月10日

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10月31日「中国―アイスランド共同北極科学観測所はその研究対象を拡大―米フリージャーナリスト記事」(ARCTIC TODAY, October 31, 2018)

 10月31日付のARCTIC TODAYは、米ジャーナリストMelody Schreiberの“A new China-Iceland Arctic science observatory is already expanding its focus”と題する記事を掲載し、Melody Schreiberはアイスランド北部にある新科学観測所はほとんどが中国の投資によるもので、その狙いには中国と北極をより密接に繋ぐことが含まれるとして、要旨以下のように述べている。
(注)本記事は、10月31日付でARCTIC TODAYに掲載されたものであり、今旬の旬報の対象外であるが、アイスランドの対中国と対NATOの温度差を際立たせるもので、今旬に採り上げる11月2日付のARCTIC TODAYの“Iceland is key to NATO — but Iceland’s prime minister worries about militarization in the North Atlantic”と併せて掲載するものである。
(1)アイスランド北部アクレイリから1時間ほどのところにある施設はオーロラ観測所として始まった。しかし、その直後に野心的な北極研究施設となった。この施設は中国―アイスランド共同オーロラ観測所と呼ばれていたが、10月22日の週に中国―アイスランド共同北極科学観測所と改名された。施設はその焦点を気候変動、衛星遠隔探査、地球科学、海洋学、漁業などに拡大していると当局者は言う。
(2)「中国は北極の変化とその地球規模の結果に大きく関わっている」と中国極地研究センター主任の杨惠根は言う。彼はこの科学上の前哨基地を、宇宙だけでなく北極を取り巻く環境の全ての側面についてより多くを学ぶ機会と見ている。それは、ますます大きくなる中国の北極に対する関心と準備されている大きな投資を示すもう1つの兆候である。観測所の副所長Halldor Johannssonは、「彼らの協力無しにこのような施設を持つことはできなかっただろう。彼らは基本的にこの施設のほとんどの経費を支払った。」と述べている。Johannssonは、アイスランドは北極光で知られているが、アイスランドにはオーロラ研究を行う一握りの科学者しかいない。中国―アイスランド共同北極科学観測所はその全てを変えるだろうと設立者達は期待している。
(3)建物の建つ土地はオーロラ天文台と呼ばれたアイスランドの非営利団体に属している。
現在建てられている観測所と器材は依然、オーロラと宇宙気象を観測するのに最適なようになっている。しかし、杨惠根はセンターがその関心領域を北極科学に拡げることを支援する建物と設備を加えることを望んでいた。「我々は長期の総合的な北極の環境と気候を観測し始めている。観測所は中国の他の主要な科学施設に匹敵する国立センターになりつつある。観測所は中国の全ての研究者、そして世界の研究者に開放されている。」「その前に、我々は科学機材を設置しなければならない。」と杨は言う。
(4)駐アイスランド中国大使金智健は、観測所を中国とアイスランド間の「協力の長い旅路の終着駅」と呼んだ。「我々が共に働ければ、将来実現できるかもしれない多くの計画と夢がある。」と金智健大使は言う。かつて、批判する人々は北京がNATO空域を含む北極以外のものを監視するために観測所を使用するかもしれないと懸念した。
Halldor Johannsson副所長は、中国が科学目的以外に施設を使用するという懸念を否定した。アイスランド元大統領Ólafur Ragnar Grimssonは、施設が建設されている場所はアイスランドにとって公開されたところであり、民主的で透明性の高い場所である。そのこと自身が科学的な協力に対する中国のコミットメントに関するメッセージであるとArcticTodayに述べている。「北極の海氷及びグリーンランドの氷床の溶解は極端な気象パターン、海面上昇を含む恐ろしい結果を中国にもたらす。」、「したがって、北極は中国の将来に影響を及ぼす。」とGrimsson元大統領は言う。
(5)金智健大使は、観測所が対応する科学的問題点を強調した。しかし、大使は北極で起こっている多国間に跨がる他の問題で中国が役割を果たす扉を開けたままにしている。「気候変動で起こっていることのように、北極に関わる問題は北極圏国と北極地域の境界をはるかに超えている。」と金智健大使は言う。イタリア語で「チャオ」は「ハロー」を意味する。しかし、中国語(北京官話)では「橋」を意味する。そのことがこの施設を中国がどのように見ているかであり、科学と国民をつなぐ橋であり、また北京をより北極に近くつなぐ橋であると金智健大使は言う。
投資を熱望するアイスランドは、中国による北極への関心を歓迎している。「我々は、北極が宇宙を理解するうえで重要な場所になるとはよく理解していなかった。」と、Grimsson元大統領は開所式で述べた。しかし、北極の重要性は環境と同じように急速に変化しつつあり、この新しい施設は科学者も訪問者も同じようにこの変化を理解し始める一助となるだろう。
記事参照:A new China-Iceland Arctic science observatory is already expanding its focus

11月2日「NATOの鍵となるアイスランドが抱えるジレンマ:首相の考えと安全保障政策に乖離―デンマークジャーナリスト論説」(ARCTIC TODAY, November 2, 2018)

 11月2日付のARCTIC TODAYはデンマークのジャーナリストMartin Breumの“Iceland is key to NATO — but Iceland’s prime minister worries about militarization in the North Atlantic”と題する論説を掲載した。Martin Breumは、左翼首班で交渉の末に独立を勝ち取ったアイスランドの歴史を踏まえ、対話と平和的解決を重視し、アイスランドのNATOからの脱退を主張するKatrín Jakobsdótti現首相の考えとNATOの一員であることを議会が承認した安全保障政策の間のジレンマにアイスランドは直面しているとして、要旨以下のように述べている。
(1)アイスランド首相Katrín Jakobsdóttirは、彼女の時代には珍しい真の左翼政府首班である。最新の特徴はいくつかの現在のジレンマを示している。彼女の執務室に訪問した時、そこから数百メートル離れたレイキャビク旧港にカナダのフリゲートが2隻停泊していた。さらにレイキャビク工業港には他のカナダ艦艇と英フリゲート、米強襲揚陸艦Iwo Jimaが入港していた。NATOのトライデント・ジャンクチュアー演習が焦点を当てているのはノルウェーであるが、アイスランドと北大西洋も包含している。北大西洋は2014年にロシアがクリミアを併合して以来、米国とNATOが焦点を当てている。
2016年から、米海軍のP-8哨戒機はしばしばケフラヴィクに進出している。アイスランドは北大西洋の中央に位置しており、そのことがNATOの計画者にとってアイスランドを魅力的なものとしている。2016年に、大西洋評議会の分析者Magnus Nordenmanはアイスランドを「太平洋の中央にある不沈空母」と的確に表現している。
(2)Jakobsdóttir首相は彼女自身の見解と連立与党の見解との間のかなりの乖離をつながなければならない。首相は「我が党の立ち位置はアイスランドがNATOの加盟国であることに反対である。」と述べている。また、「しかし、そのような立場を採るのは議会で我々だけである。そして、アイスランドには2016年に議会を通過した国家安全保障政策がある。我々は、グリーンレフトとしてアイスランドがNATO加盟国であることを支持する多数派がいることを認識している。しかし、我々はアイスランドに軍が恒久的に駐留することを望まない。」とも述べている。
(3)私はロシアとNATOの関係が悪化している今、北大西洋により強力なNATOの海軍力が展開するのを支持するかと尋ねたのに対し、Jakobsdóttir首相は再度、自身の立場と彼女の政府の立場を提起した。「国家安全保障政策に基づく我が政府の立場は、NATO加盟国に留まるというものです。私の個人的な立場は、我々はNATOを脱退しなければならないとしています。したがって、私は北大西洋をますます軍事化することに批判的です。しかし、我が政府は我々が合意した安全保障政策を堅持するでしょう。そして、その一部は北大西洋周辺を行動するNATOを含めた我々のNATO加盟です。」
(4)アイスランドのジレンマの1つは、ロシアの北海艦隊がロシア領の北極圏にあるムルマンスク近傍のコラ半島に所在していることである。NATOの研究者達は現在、危機の時にロシアの水中無人機が米国と欧州をつなぐ北大西洋に敷設された死活的なデータ・ケーブルに損害を与えることができることを懸念している。NATOが恐れていることは第2次大戦中のそれと全く同じである。すなわち、危機に際して敵が米国と欧州の間の補給と支援を支える補給線を遮断することである。基本的な狙いは、今も昔もG-I-UKギャップのNATOの優位を決して譲ってはならないことであり、アイスランドはそのど真ん中にある。
(5)Jakobsdóttir首相は、北大西洋のさらなる軍事化が問題を解決するとは考えないと応じた。338,000人のアイスランド人は独自の軍を保有していない。レイキャビクの政府はアイスランドの空域をNATOが航空哨戒することを政治的に、また後方面で支援しているが、同国には独自の部隊、戦闘機、艦艇もなく、取得の計画もない。「我々は平和的解決を望んでおり、ますますの軍事化が解決とは考えていない。今日世界には極めて多くの紛争がある。国際社会は政治的、平和的解決を見いだせなかった。これが私のように一層の軍事化を望まない人々が懸念していることなのだ。一層の軍事化はこのような状況の助けとなるだろうか。私はそうは思えない。我々は外交的、政治的関係を強化する必要があると私は考えている。今日、世界のこれら問題の場所で続く苦しみではなく、平和的解決に向けた国家間の生産的な対話の強化が必要である。」とJakobsdóttir首相は言う。
(6)私は、ロシアと西側の関係が悪化していることを指摘し、Jakobsdótti首相の考えを察した。「我々はNATO内でもNATOの外でも同じことを言っている。我々は常に外交的関係の重要性を強調していく。我々の周辺で問題があったとしてもその立場を放棄することはない。この立場に留まることが以前よりも重要になっている。」と首相は言う。もしNATOの他の加盟国が(ロシアを)北大西洋に押し込めると決定すれば、アイスランドがその流れをせき止めるのは難しいであろうと、レイキャビク港に停泊する戦闘艦艇は思わせる。しかし、首相は現在の状況を改善できるとの考えを維持している。「私は各国が状況を改善できると考えている。アイスランドは男女同権の問題で既に問題を解決してきた。気候変動では我々は野心的な目標を設定しつつある。・・・世界中のこの領域の問題で伝達する重要なメッセージを我々は持っていると考えている。」
(7)アイスランドは2018年にデンマークからの独立100年を祝った。その独立は何十年にもわたる厳しい、しかし平和的な交渉の末に達成された。「そのことが国家としての我々のアイデンティティを形成した。最初はノルウェーの、次に1262年から1918年の間、デンマークの支配下にあったことは我々の存在の大部分が他国の支配下に合ったことを意味し、我々の共通のアイデンティティはそれによって形成された。我々の独立と主権についてアイスランドとデンマークが合意した事実は我々を平和的解決のケーススタディとした。我々が合意したこと、そして両国が依然友好国であることは我々に多くのことを意味している。アイスランドにおける独立の戦いは平和的であった。それが我々が軍備を持たない国であり、我々が依然、対話と平和的解決を信じる理由の一部であると考えている。」とJakobsdótti首相は言う。
記事参照:Iceland is key to NATO — but Iceland’s prime minister worries about militarization in the North Atlantic

11月3日「インドネシアは海洋権益の主張を強めるが、中国との全体的な対立は望まない―比専門家論評」(South China Morning Post.com, November 3, 2018)

 フィリピンにあるADR-Stratbase Institute の研究員であるRichard Heydarianは、11月3日付の香港紙South China Morning PostのWEBサイトに“How Indonesia keeps maritime tensions from defining its relationship with China”と題する論説を寄稿し、インドネシアは近年大国として海洋権益への主張を強めているが、それがもたらす中国との緊張が、その2国間関係全体に及ばないようにしているとして、要旨以下のように述べている。
(1)インドネシアは、その地政学的重要性に見合った利益を強く主張し始めるにつれて、新興の海軍、特に中国と争っていることに間もなく気付くかもしれない。しかし、現時点では、インドネシアのデフォルト政策は、競争する大国間においてバランスを取る勢力として、その役割を強化することである。非同盟へのこの頑固な強い動機は、最近の第2回Jakarta Geopolitical Forumにおいて、十分に示された。この国の高官たちや専門家たちからの発言は、対立よりも関与、少数国間主義(minilateralism)よりも多国間主義(multilateralism)、そして、海外への海軍力の投射よりもむしろ控え目な地域発展的な役割を意固地に優先するジャカルタの傾向を反映している。
(2)概して、インドネシアは、相対的に内向きのおおらかな大国である。これは、アチェ州からパプア州まで4,700kmにわたって広がる17,000の島々で構成されている、その圧倒されるような地理にも一部起因している。過去1世紀、インドネシアの指導者たちの多くはは、全く異なるものから構成される国を統合することに重点的に取り組んできた。
(3)しかし、10年以上の安定した民主化と堅実な経済成長は、この国をより自意識の強い大国にしている。2014年の大統領選挙期間中、Jokowiとしても知られているインドネシアのJoko Widodo大統領は、グローバルな海洋の中心、増々統合が進むインド太平洋のエクメーネ(訳者注:ecumene、地理学において人類が居住している地域を指す用語)における重要な結節点へと、この国が変化することを強く標榜した。彼の言葉によれば、インドネシアは、特に南シナ海において、地域の海洋紛争に対して増々声高な立場を取っている。
(4)インドネシアが増々積極的な海洋政策を推進する要因は2つある。
a. 元地方の町長であったJokowiにとって、最重要な関心事の1つは、インドネシアの240万強の漁業コミュニティの生活を守ることである。この危機に対処するため、Jokowi は、活発なSusi Pudjiastutiを海洋水産大臣に任命した。彼女は、反対があるにもかかわらず、悪名高い“Sink the Vessels”政策を採用し、違法漁業によって拿捕した多数の船舶を爆破した。彼女の厳しい政策の結果、漁獲量は2倍以上になる一方で、中国やベトナムを中心とした1万隻の外国違法漁船の多くが姿を消した。
b. より広く見れば、インドネシアは、中国による境界線が曖昧な九段線の主張の南端が、ナトゥナ諸島のエネルギーの豊富な海域と重複する可能性について懸念している。これに対応して昨年7月、インドネシアは、ナトゥナ諸島沖の海域を北ナトゥナ海と改称し、この区域のリアウ諸島における軍事プレゼンスを強化し、全体の国防予算を急激に増加した。2013年以来、インドネシアはその区域におけるその主張の明確な範囲と法的妥当性を明確にするために、より公的に中国に圧力をかけている。
(5)中国に対する防衛策として、インドネシアは、この紛争中の区域付近における米国との共同海軍演習をひそかに強化している。また、今年3月、シドニーで開催されたオーストラリア・ASEAN首脳会談でJokowiは、南シナ海での共同パトロールすら呼びかけている。
(6)しかし、これまでのところ、インドネシアは、海洋における緊張が、資本と投資の主要な源泉である中国との全体的な関係を悪化させないことに、必死になっている。非同盟の外交政策の伝統に忠実であるインドネシアは、自身を安定し繁栄したインド太平洋秩序の創造において重要な利害関係者であると見なしており、北京に対する明白な地域同盟を避けている。
記事参照:How Indonesia keeps maritime tensions from defining its relationship with China

11月6日「極地防衛に関心を高めるイギリス――英軍事専門家論評」(Military Balance Blog, IISS, November 6, 2018)

 ロンドンやワシントンに拠点を置くシンクタンクInternational Institute for Strategic Studiesの上席研究員Ben Barryは、同シンクタンクのブロクMilitary Balance Blogに、11月6日付で“No cold feet: the UK’s new Arctic defence strategy”と題する記事を寄稿し、2018年9月30日のイギリス国防相Gavin Williamsonが発表したノルウェーとの寒冷地訓練の強化が含意するところについて、要旨以下のとおり述べた。
(1)2018年9月30日、イギリス国防相Gavin Williamsonは、イギリス海兵隊がノルウェーにおける寒冷地訓練を強化し、「極地防衛戦略」を打ち出すことになるという声明を発した。これはイギリスが北極圏に焦点を当てていることを示している。この含意について理解するために、3つの要因について検討する。
(2)ひとつは気候変動が新たな局面をもたらしたということである。近年北極圏の氷が減少しているという事実は、いわゆる「北極航路」の利便性を増大させるとともに、極地における資源開発およびその利用を可能にしている。ロシアや中国が北極圏に進出していることからもわかるように、同地域の経済的重要性が高まっている。このことは同地域の平和や安全保障、あるいは航路の利用や資源開発をめぐる国際規範がこれまでよりも重要なものになったことを意味している。
(3)第二に、北極圏の経済的重要性の高まりは、周辺地域の安全保障環境を変化させた。とりわけロシアによる当該地域における軍事力増強は顕著であり、それに対してノルウェーは懸念を抱いている。ノルウェーはロシアの脅威に対して自国が脆弱であると認識しており、その防衛戦略はNATO、とりわけアメリカおよびイギリスによる防衛力の増強に大部分を依存している。NATOやイギリスもロシアの脅威を十分に理解し、それに応じてきた。たとえばNATOは新司令部をアメリカ・ヴァージニア州ノーフォークに新設し(抄訳者注:ドイツ南部のウルムにも新司令部が設置された)、また現在、大規模合同軍事演習トライデント・ジャンクチャー2018を実施中である(10月25日から11月7日まで実施)。イギリスもまた、フィンランドやスウェーデンを含む、合同遠征部隊(JEF: Joint Expeditionary Force)軍事パートナーシップを主導するなど、同地域の安全保障への関心を示している。
(4)第三に、こうした状況におけるイギリスの防衛戦略が持つ意味を考えたい。イギリスは極地国家ではないが、ノルウェーがイギリスを頼りにしているように、イギリスの軍事政策、防衛戦略は極地地域の安全保障にとって大きな重要性を有している。たとえばイギリス海軍が保有する2隻の揚陸艦が削減されるかもしれないとリークされたとき、ノルウェー政府はそれに敏感に反応した。
(5)イギリス軍にとって、極地防衛政策の重要性がにわかに増大したことは困難を提示するものであった。なぜなら冷戦終結以降、極地におけるイギリス軍の訓練や演習のレベルが大幅に下がったからである。たとえば今年のIce Exercise 2108にイギリス海軍は潜水艦Trenchantを配備したが、これはイギリスにとって10年ぶりに行われた海氷下の潜水艦作戦であった。今回のWilliamson声明に見られたノルウェーでの寒冷地訓練の強化は、これまでの穴を埋めようとする努力のひとつである。
(6)イギリスは2019年、アイスランドにEurofighter Typhoon戦闘機の配備を計画し、またイギリス主導のJEFがノーザン・グループ(イギリスをはじめとして、ドイツ、バルト海諸国、オランダ、北欧諸国、ポーランドを含む。)の防衛を標榜するなど、北極圏により関与を深めるという意図を示し続けてきた。当該地域諸国にとって重要なことは、こうしたイギリスの関心が長期にわたる持続的なものへと安定しうるのか、ということである。
記事参照:No cold feet: the UK’s new Arctic defence strategy

11月7日「中国漁船団がオーストラリアにもたらす安全保障問題―豪専門家論評」(The Interpreter, November 7, 2018)

 オーストラリア国立大学(ANU)のNational Security Collegeの研究者であるDavid Brewster博士は、オーストラリアのシンクタンクであるローウィ研究所のWEBサイトThe Interpreterに“Chinese fishing fleet a security issue for Australia”と題する論説を寄稿し、中国の漁船団は南シナ海の紛争の最前線にあり、中国の船団の南太平洋及びインド洋への拡張は、オーストラリアにとって新たな安全保障上の懸念を生じさせる可能性があるとして、要旨以下のように述べている。
(1)2013年、中国のタンパク質需要の増加による中国海域における魚資源の減少が、習近平を彼の国の漁業者たちに「より大きな船を造り、より遠くの海へ進出し、より大きな魚を捕まえろ」と駆り立てるように仕向けた。およそ2,500隻の遠洋漁船とともに、中国の巨額の補助金を受けた水産業は世界最大のものであり、より一層遠く離れた海域に進出している。世界銀行は、2030年までに中国が他の国の何倍にもなる世界漁獲量の約37%を占めると見積もっている。
(2)中国は遠く離れた漁場を利用する、又は違法漁業に携わる最初の国ではないが、このような規模で起こったことはない。現在世界中で中国漁船団の出現が、アルゼンチンから西アフリカ、そしてソマリアからキリバスまでの魚資源の持続可能性において重要な要素となっている。漁業が中国に関わる紛争や事件の重要な場となる可能性は十分にある。減少する漁獲量を追いかける漁船団の規模が大きくなると、漁業はこれまで以上に争われる活動となる可能性が高いように思われる。中国と地元の漁師、そして地元の執行当局との間には、ますます紛争が起こる可能性が高くなる。紛争はまた、地方自治体と協力して、ガボン、タンザニア及び東ティモールで中国の漁業者を拿捕するシー・シェパードのような非政府組織を次第に巻き込む可能性がある。中国海軍及び他の海洋機関のより大きな関与も、中国の漁業者の支援において予想される。
(3)他の要因も、中国の漁師たちとの紛争を困難にする、又は強める可能性がある。1つはすでにインド洋で見られる、増加する民間軍事会社の利用である。もう1つは中国海軍による漁船に偽装した情報収集船「シー・ファントム(Sea Phantom)」の使用である。これらが、2017年に報告されている公式の情報収集船に加えて、オーストラリアの海域内又はその付近で活動する可能性がある。地元の法執行機関がこれらの船に対して介入した場合、何が起こるか?
(4)より大きな懸念事項は魚資源の崩壊の影響である。国連食糧農業機関(FAO)は、中国漁船団が追跡している商業用魚資源の90%は乱獲されている、又はすっかり捕らえられていると推定している。それは、世界で最も商業的に生産性が高い10種を含んでいる。
(5)水産資源の問題は気候変動によって輪をかけて悪化する可能性がある。最近のフランスによるインド洋での魚資源の研究は、2つの「死んだ区域」の発見を実証しており、1つがアラビア海で、もう1つがベンガル湾である。それらの海域は貧酸素化が進み生物の多くが減少した。
(6)米国の国家情報会議の報告書は、インド洋と南シナ海の漁業の持続可能性への脅威は、米国の利益に「慢性的かつ広範な挑戦」をもたらす可能性があると主張している。オーストラリアはより一層の直接的な利益をもっている。
(7)地域の漁場の喪失は、沿岸地域社会に深刻な影響を及ぼす可能性があり、それはさまざまな安全保障上の脅威を引き起こす。違法漁業者によるソマリアの漁場の破壊は貧困に瀕している地元の漁師が海賊行為を始める重要な要因だった。
(8)我々の地域の多くの国々は食糧として、また収入源として魚に大きく依存している。たとえば、インドネシアでは魚は総タンパク質摂取量の50%以上を占め、水産業は約1,200万人を雇用している。そのような国々にとって漁業の喪失は暴力的過激主義、政治的不安定性及び潜在的には一層大規模な集団移動の原因の1つとなる可能性がある。
(9)重要なことは、環境問題と同じように漁業の持続可能性を安全保障問題として取り組む必要性である。つまり、オーストラリアは、東南アジア、南太平洋及びインド洋に効果的な多国間漁業管理システムを構築するために、さらに多くの努力をする必要がある。オーストラリアはまた、国の司法権を執行するために地域沿岸警備隊の能力を構築する重要な役割がある。
記事参照:Chinese fishing fleet a security issue for Australia

11月7日「米中貿易戦争、南シナ海紛争へのインパクト―豪研究者論評」(The Diplomat.com, November 7, 2018)

 豪メルボルン大学修士課程に在籍するTrinh Leは、Web誌、The Diplomatに11月7日付で、“How the US-China Trade War Could Impact the South China Sea” と題する論説を寄稿し、米中貿易戦争が南シナ海に及ぼすインパクトについて、要旨以下のように述べている。
(1)交易と海洋は、世界的な優越を巡る抗争において何時の時代にも不可欠の要素であった。英国の冒険家Raleigh卿はかつて、「海洋を制する者は交易を制し、世界の交易を制する者は世界の富を制し、ついには世界そのものを制する。」と喝破した。このことは、19世紀の「英国による平和」(the Pax Britannica)と、20世紀の「米国による平和」(the Pax Americana)において真実であったし、そしてもし中国が21世紀において「中国の平和」(a Pax Cinica)を目指すなら、中国についても言えるであろう。従って、中国が世界最大の通商国家として米国を凌駕した時とほぼ同時に、北京が南シナ海で人工島を造成し始めたことは、偶然の一致ではない。一方、Pence米副大統領の10月初めの異例の対中非難演説は、中国の不公正な貿易慣行と南シナ海の軍事化が主たる対象であった。激化する2つの大国間の貿易戦争は、「平和共存から新たな形の抗争」(from a “peaceful coexistence to a new form of confrontation”) へとシフトした。この観点から米中貿易戦争を理解することは必然的に、それが南シナ海の紛争にどのような影響を及ぼすかという疑問を提起することになる。
(2)主たる影響は経済から来るであろう。中国のような独裁体制は、体制の正当性を主として社会経済状況に依拠している。国家が経済的苦難に喘ぐ時、(例えば、アルゼンチンが1982年にフォークランド戦争を始めた時のように)中南海の指導者は、大衆の不満を逸らすためにナショナリズムを煽り立てようとするであろう。米中貿易戦争は始まったばかりで、その前途は不透明である。しかしながら、中国経済は既に苦境に立っている。2018年第3四半期のGDP成長率は6.5%で、この10年間で最も低かった。もしこうした状況が継続するなら、例え北京が南シナ海紛争で一層攻撃的な姿勢をとることによってナショナリズムを鼓舞することを決心したとしても、驚くには当たらないであろう。中国がそうする能力を持っているが故に、これは誘惑的な選択である。
(3)北京は、その軍事能力、特に海軍力を強化するために多大な投資をしてきた。米国防省の中国の軍事力に関する2018年の報告書によれば、米海軍が2018年8月の時点で282隻の展開可能戦闘艦艇を有しているのに対して、中国海軍はインド太平洋地域で最大の「300隻以上の水上戦闘艦艇、潜水艦、両用戦艦艇、哨戒艇及び各種特殊艦船」を有している。米ハーバード大学のRoss教授は、もし米中間の海軍戦闘が10年前に生起していたら、米海軍は簡単に勝利したであろうが、今現在なら、戦闘は長引き、双方に甚大な被害をもたらすであろう、と指摘している。このことは、中国が何故、米中貿易戦争が始まってから、南シナ海において高圧的な姿勢を大胆に推し進めてきたのか、その理由を説明している。また、10月には、中国の人工島周辺海域で「航行の自由」(FON)作戦を遂行中の米海軍駆逐艦に中国の駆逐艦が異常接近する事案もあった。Trump政権は中国の高圧的姿勢に直接挑戦することを躊躇していないことから、対立のリスクはエスカレートしている。Pompeo 国務長官は、至る所で中国に対抗すると強調している。近年、米国は、FON作戦を通じて、南シナ海でも軍事的プレゼンスを強化してきた。最近では、FON作戦の範囲を上空飛行にまで拡大しており、さらには、英仏両国に対しても、南シナ海でのFON作戦を慫慂している。
(4)Trump政権のインド太平洋戦略は中国の「一帯一路構想」(BRI)に対抗する措置と見なし得るし、またワシントンは、北京の海洋における野心を牽制するために、日豪印との「4カ国枠組」に関与している。ベトナムは、以前は米国の敵国であったが今や戦略的パートナーであり、2016年に米国の武器禁輸措置が解除されたことから、米国から武器を購入することができる。ベトナムは、中国との南シナ海紛争で最も強固な領有権主張国である。中国との抗争に対するワシントンの強固な主張に根付く、Trump政権のタカ派的スタンスは、貿易戦争が激化していることから、弱まることはなさそうである。中国の習近平主席も引き下がることはないであろう。習近平は、国内で弱い指導者と見られることを望んでおらず、最近では、南シナ海と台湾での「戦争準備」に言及している。戦争の可能性は極めて小さいが、全くないとは言い切れない。
(5)ベトナムやフィリピンなどの他の南シナ海領有権主張国にとって、この複雑に絡み合った超大国間の抗争は、多様な含意を持つ。東南アジア諸国にとっては、米中間の貿易戦争は、これら諸国の製品の多くが中国製と競合することから、経済的側面から見れば、事実上裨益し得るものとなろう。しかしながら、エスカレートしつつある海洋紛争の視点からすれば、米中抗争は全てに犠牲を強いる。東南アジア諸国は、南シナ海における予測可能な法に基づく秩序を望んでおり、軍事化による情勢の悪化を望んでいるわけではない。これら諸国は自らの利益のために、この地域における米国の積極的な関与が、アジア全域を煮える大釜にしかねない中国の侵略的ナショナリズムを煽り立てるより、むしろ北京の行動を牽制するとともに、中国を責任ある大国にすることを狙いとすべきであることを願っている。中国が軍事的、経済的に圧倒的な存在であるが故に、東南アジアの領有権主張国は、より対決的な状況下で北京と競争する余裕などない。米中貿易戦争の経済的影響によって、愛国主義的になり、損失を受けた中国は、南シナ海紛争に危険な存在となろう。
記事参照:How the US-China Trade War Could Impact the South China Sea

11月8日「南シナ海における米中『チキンレース』――米紙報道」(The New York Times.com, November 8, 2018)

 米紙The New York Timesは、11月8日付で“U.S. and China Are Playing ‘Game of Chicken’ in South China Sea”と題する記事をWEBサイトに掲載し、2018年9月30日に起きた米中艦艇のニアミスに見られる米中「チキンレース」の背景、およびそれがはらむ危機について、要旨以下のとおり述べた。
(1)2018年9月30日、南シナ海海上で、アメリカ軍艦と中国軍艦が45ヤードの距離まで接近するという事件が起きた。もし衝突が起きていたら、それによって両国が国際的危機の状態へと突入したかもしれないと言われている。この事件に象徴されるように、現在アメリカと中国の間で展開されている対立は、さながら「チキンレース」の様相を呈している。オーストラリア国立大学の南シナ海専門家Brendan Taylorが、「衝突が起きるのは時間の問題」と言うほど、両国間の緊張は高まっている。
(2)11月9日に中国国防相Wei Fangheとアメリカ国防長官Jim Mattisがワシントンで会談した。この会談に、米中の緊張緩和の試みが期待された。しかし近年の貿易戦争や、先月のMike Pompeo副大統領の演説(アメリカが中国に対して強硬な態度で臨むことを表明)は、米中双方が南シナ海における緊張を緩和する動機を与えるものではない。「チキンレース」がはらむリスクにもかかわらず、どちらも譲歩する気配は見られない。
(3)昨年、Trump政権はアメリカ海軍が中国の領土要求に対抗するような行動を起こすことを求め、アメリカ海軍は中国が建造し、要塞化を進める南シナ海周辺に軍艦を派遣するようになった。9月30日の事件の当事者である駆逐艦Decaturも、このコンテクストで南シナ海のガベン礁付近に派遣されたのである。こうしたアメリカの行動に対して中国がひるんだ様子は見られない。中国の南海研究院所長Wu Shicunは、アメリカの「挑発行為」に対して「必要な措置」を中国がとるべきだと主張する。「そうでなければこうした挑発的国家の行動は、より頻繁に、節操のないものになっていくだけだ。」
(4)こうしたお互いの姿勢が、9月30日のニアミスを含む、太平洋地域の空および海上におけるインシデントの頻発につながっている(アメリカ側の主張では2016年以降18度も生起)。ここで問題なのは、米ソ冷戦時代の米ソ間に存在した一定の秩序、ゲームのルールのようなものがほとんど存在しないことである。冷戦時代は、たとえば海上事故防止協定(Incidents at Sea Agreement)などの存在のうえで、お互いがお互いの利益を追求していた。しかし現在の米中関係では、中国の領土要求に対してアメリカが異議を唱え、その対立を緩和ないし回避するような妥協がありえそうにない状況である。2014年に調印された「洋上で不慮の遭遇をした場合の行動基準(CUES)」は、ある研究者によれば「紳士協定のようなもの」であり、あまり機能していないという。
(5)対立が強まっている背景には、太平洋におけるアメリカ海軍の相対的な影響力の低下に対するアメリカの懸念がある。たとえば今年5月、米インド太平洋軍司令官のPhilip Davidson大将は、中国が南シナ海を「戦争のないあらゆる場面において」支配していると議会で証言したし、実際にアメリカ海軍と中国海軍は、たとえば保有する軍艦の数においては中国のほうが勝っている(2017年に中国海軍が317隻なのに対し、アメリカ海軍は283隻)国防総省の見通しでは、中国の軍事力はさらに増大すると考えられている。
(6)中国海軍の近代化に対するアメリカ側の懸念は、「我々はいかにして太平洋大戦に敗北したか」(“How We Lost the Great Pacific War”)という、ある海軍関係雑誌に掲載されたフィクションにも反映されている。この物語において、海軍作戦部長に就任したある提督は、もし全面的な海戦が行われたら、アメリカの勝利は確実ではあるが非常にギリギリなものと予測していた。しかし著者は、その後数年間でそのギリギリの勝利は「相手方」のものになると書くのである。この物語でその「相手方」が明示されることはないが、中国を指していることは明らかなのである。
記事参照:U.S. and China Are Playing ‘Game of Chicken’ in South China Sea

11月8日「北極圏に暖冬が訪れる―独立メディア報道」(Arctic Today.com, November 8, 2018)

 北極問題関連のWEBサイトArctic Todayは11月8日付で“A warm winter is coming to the Arctic”と題する記事を掲載し、北極圏の気温、海氷及び降水量について、要旨以下のように報道している。
(1)この冬の北極圏では、季節初期の間のこの地域の気温が通常値を上回ることが確実視されているため、例年よりも海氷の減少と降水量の増加が予想されると地域的展望の集大成を踏まえた国際的な気象学者が述べている。
(2)可能性が40%から50%の範囲で、カナダの北極圏東部とグリーンランドの氷冠の一部を除く11月から1月の気温予測の見通しでは、この地域の大部分で暖かい地表空気が発生する可能性を少なくとも50%と予報している。
(3)最近開催されたPan-Arctic Climate Outlook Forum(PARCOF)の見通しによれば、ハドソン湾、バフィン湾及びボーフォート海では通常より早く秋に氷結し、バレンツ海からチュクチ海までの北極圏東部のほとんどの地域では氷結が通常より遅いことが示唆されている。2019年3月の氷の規模については、ベーリング海では通常の氷の規模以下で、バレンツ海とオホーツク海では通常に近い氷の規模以下だと予想されている。
(4)PARCOFの一致した見通しによれば、不確定なモデルであるロシア東部、バフィン島及びハドソン湾を例外として、カナダとロシアの北極圏全体で通常の降水量を上回る可能性は40%を超えている。大西洋北部地域では通常の降水量以下の可能性が少なくとも40%の確率である。この区域は北大西洋の低温の地域に対応しており、この通常の降水量を上回る可能性は、この区域が通常の気温を下回ることが高確率であることと恐らく関連がある。10月30日に開催された第2回PARCOF会合では、多くが北極議会のメンバーである代表者及び科学者、そして先住民のグループ及び海運会社からの代表者が一堂に会した。
記事参照:A warm winter is coming to the Arctic

11月9日「ASEANとの関係構築を進める中国、変化する南シナ海の戦略バランス―シンガポール専門家論説」(China US Focus.com, November 9, 2018)

 シンガポール国立大学非常勤教授Sajjad Ashrafは、11月9日付のWeb誌、China US Focusに"China Engages ASEAN to Build Mutual Trust"と題する論説を寄稿し、中国がASEAN諸国との関係構築を進め、同地域における米国の関与が低下していると指摘した上で、要旨以下のように述べている。
(1)長年の紛争と疑念の果てに中国とASEANは、10月下旬に初の1週間にわたる画期的な海上演習を終えた。南シナ海における主権の主張を巡る中国と一部ASEAN諸国の不安定な関係が背景にあることに鑑みると、この演習は中国が安全保障問題でASEANとの関係強化を図りたいという意思を示している点で非常に重要なものである。人民解放軍南部戦区司令員の袁誉柏海軍中将は開幕式で、この演習が一度限りのものではなく「ASEANと中国間の理解を形成する現在進行中のプラットフォームである。」と述べた。海洋演習を実施するという構想は新しいものではない。しかしながら、演習が今年行われたということは、中国とASEANの関係に広範な変化が起きている証左である。多くの専門家はこれがASEAN諸国を徐々に引き付ける中国による戦略の奏功を示すと考えている。
(2)世界で最も危険な対立の1つが米中間で起ころうとしている南シナ海は関係する利害が極めて大きい。2大経済大国である米中が世界で最も人口が多い地域の覇権を争っている。米国は未だ軍事面で優位にあるが、中国は急成長する経済力に加えて強化された軍事力を示し始めており、第2次世界大戦後に米国が支配してきた枠組みを作り替えようとしている。あらゆるアジア諸国は今や米国よりも多く中国と貿易しており、戦後のアジアにおける米国主導の秩序を置き換えている。
(3)5月初旬、20年以上に亘る骨の折れる協議を経て中国とASEANは南シナ海行動規範(COC)の枠組みに合意した。COCは紛争解決メカニズムとして設計されたわけではないが、一度合意されれば紛争が解決されるまでの管理をするだろう。まだ単に1つの草案に合意したにすぎないが、中国は地域諸国にとって真剣な対話の相手となり、地域における米国の関与を低下させた。
(4)中国が地域の近隣諸国との関係を強化するにつれて、米国陣営は積極的にASEAN諸国に恐怖をかきたてることで中国の影響力を低下させようとしている。南シナ海におけるASEANの領有権主張国は中国と争うには武力を欠いているため、米国が世界の他地域と同様に「平和の守り手」としての役割を長年果たしてきた。しかしながら、米国と比較した中国の軍事力増大と同国の地理的優位性が相まって、中国による南シナ海支配の強制を抑止する米国の能力に疑問符が付くだろう。
(5)そのような中で米国はジレンマに直面している。中国が地域諸国と友好的な関係を打ち立てる中で早晩、米国が南シナ海における「航行の自由」を維持するために介入するべきと主張できる領有権主張国はなくなるだろう。今のところ米中は南シナ海の不安定な平和を妨げないよう暗黙の合意をしているように思える。米国は折に触れて南シナ海で「航行の自由」作戦を実施し、中国は米艦艇と軍事的に対立することなく抗議を続けるだろう。かくして南シナ海はASEANのコントロールがほとんど及ばない米中代理戦場となったのである。
(6)今後数年は中国にとって過去数年間にASEAN諸国間に生じた善意を掴み取る機会となる。中国が他の南シナ海領有権主張国の半数以上と主権問題を解決できれば、アジア太平洋におけるパワーバランスは今後数十年に亘って明確に中国優位となるだろう。
記事参照:China Engages ASEAN to Build Mutual Trust

11月9日「中国海洋シルクロードにおけるミッシングリンクとしてのタイ-タイ研究者論説」(Asia Times.com, November 9, 2018)

 タイを拠点として活動している研究者のBenjamin Zawackiは、11月9日付でAsia TimesのWEBサイトに“Thailand the missing link in China’s Maritime Silk Road”と題する論説を寄稿し、クラ地峡(抄訳者注:マレー半島の最狭部であり、以下に記載のとおりアンダマン海とタイ湾を結ぶ運河建設の構想が存在)運河と中国の「一帯一路(BRI)」構想などとの関係について、要旨以下のように述べている。
(1)タイのPrayut首相は(クラ地峡の)運河計画を長期的な国家計画として検討するとしているが、中国は経済上及び安全保障上の理由からこれを渇望している。筆者(Zawacki)は昨年、中タイ関係に係る著書を出版したが、運河問題はまさにその焦点であり、中国はこれの実現に努力するであろうが、最終的に実現することはないと筆者は見ている。
(2)海上シルクロードを含むBRIは歴史的に見ても経済上の取り組みとみなされているが、もう一つの主題である安全保障政策上の役割についてはあまり議論されていない。海上シルクロードは、今世紀の南アジア及び東南アジアにおける中国の経済活動拡大に伴うパワープロジェクションを目的とした一種の地政学的プロジェクトと見ることができるが、開発、統合及び連結性など耳障りの好い説明(既に「債務の罠」という疑問も呈されているが)は、さらに安全保障上の観点からも精査されなければならない。この構想には、経済的な対価のみならず紛争時の中国人民解放軍(PLA)の能力という考慮要素も含まれており、それは運河の問題、すなわち、タイ湾とアンダマン海とを結ぶ運河が提供する時間とコストの節約より建設コストが大きくなるという指摘への反証ともなり得る。この15年、中国の開発協力は必ずしも大きな経済効果を挙げて来なかったが、それは主目的が中国の地政学的な領域拡大、すなわち、米日台の影響力を確認することにあったからで、それらの投資も政府系銀行等により実施されたため、経済的な損失を吸収することが出来た。
(3)しかし今日、もはや中国の経済も(政治と)「水密状態」にあるわけではなく、運河建設の投資機関も中国に限られるものではない。マラッカ海峡を擁するシンガポールは運河の影響を最も直接的に受けることになるが、タイ議会が何度か運河建設の提案を実施した際、多額の資金も動いたもののシンガポールは中国の影響力の下で入札競争には勝てなかった。何故ならば、どの国もマラッカ海峡に単純に依存しているわけではなく、中国による貿易とエネルギーの双方向的なシェアは世界的にも影響しているからである。
世界最大の人口を擁し、世界2の経済大国である中国はマラッカ海峡より西方では内陸部に所在する。そしてここに米第7艦隊が展開していることも考慮すれば、中国にとって同海峡への依存は脆弱性でもある。確かに狭い海峡における船舶交通量の急激な増大は関係国共通の課題であるが、一方、米海軍の存在は中国以外の国家には歓迎されてもいる。地域的覇権を求める中国にとって「マラッカ・ジレンマ」は以前からの懸案であり、その代替案としてのクラ地峡運河と海上シルクロードの関係をより広い視点で見ていかなければならないことは明白であろう。
(4)BRIが西方へと拡大する一方、中国にとって現時点での安全保障上の焦点は東シナ海と南シナ海であり、いずれも台湾を含み、最終的には台湾周辺で係争中の南シナ海の島嶼と「第一列島線」の問題である。北京は2049年までの台湾との完全かつ正式な統一を望んでおり、要すれば強制的な手段に訴えることも明言している。そしてその前提条件及び準備として、2012年にフィリピンのスカボロー礁で実施したのと同じように、短期間での巧みな手段をもって尖閣諸島に干渉して来るかもしれない。それには中国海警に支援された圧倒的多数の漁船が使用されるだろう。2014年にはベトナムの排他的経済水域内の石油リグで、また、2017年半ばにはフィリピンのスプラトリー諸島周辺で同じような事例が生じており、さらに昨年は「予行演習」的に尖閣諸島周辺において6隻の海警船舶に支援された約260隻の中国漁船が活動した。中国は世界最大級の漁船群を有しており、また、4ケ月前には海警局が人民解放軍の傘下に置かれている。
(5)南シナ海における中国とベトナム、フィリピンなど4ケ国との紛争は、中国の主張する「九段線」に起因しており、BRIの提唱と併せて同海域への人工島建設が開始された。2016年のハーグ仲裁裁判所判決で中国の主張は退けられたが、中国はこれを認めておらず人工島軍事化をさらに押し進めており、海上のみならず空域支配も推進しつつある。スプラトリー諸島のファイアリークロス礁、スビ礁及びミスチーフ礁に海軍の航空支援施設が建設されたほか、7箇所の人工島には戦闘機が離着陸可能な滑走路も建設されている。6カ月前には核攻撃能力を備えた中国爆撃機がパラセル諸島のウッディー島に初めて着陸した。これらは言わば「不沈空母」である。
(6)このような中国の動きは米国による「航行の自由作戦」など、対立を生じている。仮に中国が南シナ海に防空識別圏を設定するような事態になれば、対立は決定的になるだろう。そして南シナ海で紛争が生起すれば、それは中国にとって東シナ海の短期的な紛争よりも大きな負担を強いられることになるかもしれない。
 もしマラッカ海峡が米国及びその同盟国によって封鎖されたならば、中国は物資及びこれを運ぶ船舶を西方に展開させなければならないからである。北京は短期的で決定的な紛争処理を望むであろうが、その場合には、アンダマン海からアラビア海に至るインド洋はマラッカ海峡の東側の紛争海域に連接しており、海上シルクロードはこれらの連結海域と潜在的な支援の役割を果たすことが期待されている。すなわち、平時にはコンテナ船やタンカー、貨物機による輸送ルートとして、そして有事には潜水艦を含む艦船、航空機の経路としてということである。2017年に中国がジブチに開設した初の海外基地は、まさしくその暗黙のアンカーであると言えであろう。
(7)この地域における中国の軍事的プレゼンスはまだ明白ではないが、主に武器輸出や素材の販売を通じ、海上シルクロードへの投資と沿岸インフラの確保を促進しつつある。
中パキスタンの軍事関係は、歴史的に米国の同盟国であるインドとの関係とも相まって近年著しく進展しているが、特に大水深港を有する港湾都市グワダルは中国 - パキスタン経済回廊の主要拠点ともなっている。そしてパキスタンは多数の中国艦艇を導入しており、最近では8隻の潜水艦も購入、内4隻には中国人技術者が現地での建造に参画予定である。
バングラデシュでは同様にチッタゴン港湾の主要工業団地に多額の投資を行っており、また、2016年に中国製の誘導ミサイルフリゲート2隻と補給艦が就航しており、その乗員には訓練指導名目で中国人も乗艦予定である。さらにバングラディッシュ空軍も中国製練習機23機を調達した。
 この他、モルディブの空港拡張や、中国潜水艦が先般二度に亘って寄港したスリランカのコロンボ港整備などにも中国は投資している。そのスリランカは昨年、海上シルクロードのスキームの下での債務が返済出来なかったため、ハンバントタの港湾と空港の70%を中国に99年間リースすることとなった。
さらにミャンマーにおいてはBRIに先行する形で長大なパイプラインが整備されているが、これは「マラッカ・ジレンマ」への中国の20年来の対策である。中国は2016年以来、海上シルクロードの要として中ミャンマー経済回廊に投資しており、チャウピューの大水深港と陸上輸送のリンクをパイプラインで強化することを目指している。他の港湾と同じく、中国が軍事目的でチャウピュー港を使用することは政治的及び法的に制限が課されているが、しかし中国とミャンマーの軍軍関係は他の東南アジア諸国のどこよりも強い。したがってチャウピューはミャンマー、タイとマレーシア東方海域を繋ぐ重要な港湾施設となり得る。 
(8)しかし、例え中国がジブチからミャンマーまでの海上シルクロードを構築したとして、チャウピュー港とてもタイ湾以東へのアクセスを確保することは出来ない。すなわち、海上シルクロードは中国にとって「マラッカ・ジレンマ」を緩和はしても解消するものではないのである。そしてこのプロジェクトは、正確な位置付けは当初から不明確であるものの地理的にも不可避であるタイへも続いている。伝聞によれば、中タイを結ぶ共同高速鉄道プロジェクトの進展の遅れから、タイのPrayut首相は昨年の北京でのBRIフォーラムから除外された際、タイ憲法に基づく例外的権限を使用して中国人技術者に係る法的規制を無効にするよう強要したとされる。このように中国の経済進出に伴う不安感や腐敗が実際にあるか否かは不明であるが、いずれにせよ重大な懸念があるのは事実である。
(9)他の地域と同じく、タイの海上シルクロード構想における安全保障面での中国との係りは暗黙的だが見逃しにくいものでもあり、15年来の深い「軍対軍」の関係に負っている。そしてもう一つの懸念は2017年に予定されていた中国製潜水艦のタイ海軍への導入問題である。これがアンダマン海のパンガ基地やタイ湾のサタヒップ基地に係留されるか否かはバンコクのグローバルな権力闘争における不確実な立場に左右される。そのような中で最大の関心事はクラ地峡の運河構想であり、海上シルクロードのミッシングリンクを担うタイの能力と信頼性である。
(10)Prayut政権は最近、運河問題について有力な退役将軍や対中経済文化協会の重鎮の要請に応じたとされる。多くの中国投資家が本件プロジェクトを支援しており、南シナ海の人工島造成に関与した会社も関心を寄せていると伝えられている。そのこともあって、米国は同運河の構想について正式な立場を示していない。
 中国の「マラッカ・ジレンマ」を最終的に解決するアンダマン海とタイ湾を直接的に連結する本件構想は経済的利益と地政学的な野心を孕んでいる。BRIは商取引の利益と「連結性」を通じて大陸全体に経済的利益をもたらしているが、中国は辛抱強く、かつ執拗に今一つの目的を堅持しているのである。
記事参照:Thailand the missing link in China’s Maritime Silk Road

11月10日「米軍に戦略的縦深性を与える戦略要衝マヌス島―米専門家論説」(The National Interest, November 10, 2018)

 米退役海軍大佐のJerry Hendrixは、11月10日付の米誌The National Interest(電子版)に"China Has Impressive A2/AD Capabilities, But Smart Positioning Can Let the Navy Avoid them"と題する論説を寄稿し、中国がA2/AD能力を拡大する中でパプアニューギニアのマヌス島の戦略的重要性が増していると指摘した上で、要旨以下のように述べている。
(1)マヌス島の地理は自ずから中国の接近阻止・接近拒否(A2/AD)への投資に対抗する優位性ある戦略となっている。米海軍作戦部長John Richardsonは最近のオーストラリア訪問の機会を捉えて、オーストラリアとパプアニューギニアが最近調印したマヌス島にあるロンブラム海軍基地の共同近代化及び開発の協力協定を高く評価した。今日、中国が米軍を韓国、南西日本及びグアムの前進基地や港湾から押し出すことを意図してA2/AD兵器システムに投資を行う中で、米国の戦略的縦深性を改善し、地域における空中給油や海上給油、艦艇の装備補充のための兵站オプションを多様化し、同盟国や米本土の海上防衛と防空を強化することで中国の戦略に挑む一連の重要な地域を明確にすることは重要である。
(2)パプアニューギニアのすぐ北に位置するマヌス島の近代的な港と航空拠点は、これらの重要な地域の1つになり得る。グアムから西にフィリピン、そして南に北部オーストラリア沿岸を結ぶ戦略的三角形の中心に位置するマヌス島は、地域の海空における燃料補給活動を支援するに最適な場所にある。グアムの死活的に重要な米国の港と飛行場が軍事既成事実を米国と同盟国に強いる中国の攻撃を受ければ、中国のA2/AD兵器の射程外にあるマヌス島の軍事施設は戦略的三角形内で許容できる行動範囲(パールハーバー、ハワイよりも中国に2,300マイル近く、オーストラリア北部よりも中国に1,300マイル近い)の向こうから空海作戦を継続する戦略的縦深性をもたらす。
(3)今日のロンブラム海軍基地は、小さな巡視船を支援できる長い埠頭と古めかしい建物が並んでいるに過ぎない。港はその近くにある比較的短い6,100フィートの滑走路と道路でつながっている。いくらかの浚渫とより長く、大きい新埠頭を設ければ、同港はより大型かつ近代的で喫水が深い艦艇を受け入れることができる。拡張された港と、空中給油機と長距離攻撃機を支援できるより大規模な軍民両用飛行場を有するマヌス島は、太平洋の地理と作戦上の要因を念頭に置くと、最も必要とされる空中給油機及び攻撃機の中核を形成することで戦略的な潜在性を最大限発揮できる。また、マヌス島はグアムや日本の港が失われた場合、早期に艦艇に武器弾薬を補充する場所にもなるだろう。
(4)ロンブラム海軍基地の拡張と近代化に向けた投資は、西太平洋で生起しつつある今日の安全保障環境下での同盟国とパートナー国の作戦における重要なハブを体現し得るものである。こうした共同基地はパプアニューギニア経済への大きな後押しを意味するだけでなく、西太平洋地域の米国と同盟国の前傾姿勢を根本的に強化し、中国の戦略的な計算を大いに複雑にする。米海空軍はロンブラム海軍基地周辺地域の地理的性質の調査を行って――如何なる改善策が必要なのか、そのコストがどの程度で、どうすれば最も効率的に進められるのか――を把握し、そのための投資を援助とインフラ面における貢献の両面からサポートすべく、同盟国のオーストラリアとパートナーのパプアニューギニアと早急に協議すべきである。
(5)マヌス島の地理は自ずから中国の接近阻止・接近拒否(A2/AD)への投資に対抗する優位性ある戦略となっている。オーストラリアとパプアニューギニアは然るべき第1歩を踏み出し、共通の利益を確認した。米国も両国に倣うべきである。
記事参照:China Has Impressive A2/AD Capabilities, But Smart Positioning Can Let the Navy Avoid them

【補遺】

Assessing the Military Balance in the Western Pacific with Dr. Toshi Yoshihara
http://cimsec.org/assessing-the-military-balance-in-the-western-pacific-with-dr-toshi-yoshihara/38707
Center for International Maritime Security (CIMS), November 5, 2018
Toshi Yoshihara is a senior fellow at the Center for Strategic and Budgetary Assessments (CSBA). Before joining CSBA, he held the John A. van Beuren Chair of Asia-Pacific Studies at the U.S. Naval War College where he taught strategy for over a decade.
Cris Lee is the Senior Producer of the Sea Control podcast. 
 2018年11月5日、国際海洋安全保障センター(Center for International Maritime Security)は、ウェブサイト上に、"Assessing the Military Balance in the Western Pacific with Dr. Toshi Yoshihara"と題する、前米海軍大学教授のトシ・ヨシハラ米国戦略予算評価センター上級研究員へのインタビュー記事を掲載した。
 その中で、同上級研究員は、米中両国の海軍力のバランスは、単純な艦船の数などでは比較できないことを指摘し、その根拠として、例えば人民解放軍が保有・配備するDF-21(東風21)やDF-26(東風26)といった弾道ミサイルの存在や、米国が東アジア海域に展開できる海軍力には制限がある一方で人民解放軍海軍は全力でそれに対処できるという非対称性の存在などを挙げている。