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論考

No. 49
2020/2/13

【大統領選挙現地報告】
民主党主要候補集会の特質分析①
バイデン、ウォーレン

渡辺 将人
北海道大学大学院メディア・コミュニケーション研究院准教授
ハーバード大学国際問題研究所客員研究員

 これだけネットが発達した時代には、主要な海外の政治家の演説はYouTubeのどこかに存在している。それでも候補者の集会に参加することは、選挙観察上意義がある。

 筆者は必ず早めに現地入りしてスタッフと立ち話をしたり、彼らの仕事ぶりを観察したりする。集会の運営には組織のロジ力が透ける。そして参加者だ。早くから長蛇の列が出来ているか、動員をかけられたやる気のなさそうな参加者か、情熱的な参加者か。

 プレスの注目度はどうか(カメラの台数と同行記者の数)。演説中、候補者は原稿を用意しているか、プロンプターを使うか、アドリブか。候補者の声の張り、顔色、オーラはどうか。応援者の演説中の候補者の様子は。「こんな奴、俺は頼んでいない」とばかりに憮然としているか、そわそわしているか、寝ているか、演説中のハプニングにどう対処するか。質問を受けるか。受けるとすれば、どのような受け方をするか。やらせ質問か、ハプニングのリスクをとっているか。演説後の参加者との集い(写真撮影)にどれだけの時間を割くか。飽きてしまった途中退席者はどのくらいいるか。米メディアの食いつき度は。

 これらのことが、テレビやYouTubeの切り取られた演説ではまったくわからないのだ。だから現場での観察には意味があるし、テレビ画面や紙面では報道し尽くせない部分に醍醐味があると言える。

 2020年大統領選サイクルは、2019年初秋から筆者もアイオワ入りして観察を開始したが、代表的な集会について、アイオワ党員集会直前の主要候補を振り返り、備忘録的に記載しておこう。尚、本稿①で言及するバイデン元副大統領はアイオワでは4位、ニューハンプシャーでも捲土重来かなわず下位集団に埋没している。ウォーレン上院議員はアイオワでは3位を獲得したものの、ニューハンプシャーでは上位集団から転落した(本稿校了2月12日時点)。

ジョー・バイデン元副大統領

 党員集会数日前、アイオワ州シーダーラピッズ空港から車で30分ほどの新興住宅地ノース・リバティーの集会に参加した。開場30分前に行ったが客が数名しか来ていない。プレスも1クルーで閑散としていた。秋に事務所に訪問したときも感じたことだが、バイデン陣営はアイオワでの草の根組織作りを本気で行っていなかった。州外から来たスタッフが現場を仕切っており、地元出身者がバイデン陣営に不在のようだった。ただ、プレスの注目度はそれなりに高く、CNNが記者リポート撮影していた。この日の応援にはジョン・ケリー元国務長官も来ていた。大統領選の予備選の集会の参加者は支持者とは限らない。好きな候補を応援するためではなく、誰に投票するか決めるために演説を聞きに来る。バイデンの集会にはバイデンを支持するか決めかねている人が多かった。これは彼らが身につけているバッジやステッカーなどで分かる。バイデンのTシャツを着ているのは、動員がかけられた消防隊の組合員ぐらいだった。候補者の名前入りのグッズを身体中に貼付けている支持者で溢れかえるサンダースやブデジェッジの集会とは雲泥の差だった。

 筆者がジョー・バイデンを初めて見たのは1999年の上院外交委員会だった。当時下院事務所にいた私は、同委員会のサマリーのメモランダムを議員にあげろ、と首席補佐官に命じられ、バイデンの言葉を懸命に書き取った。バイデンは、共和党ジェシー・ヘルムズ委員長下で滞納していた国連分担金をアメリカに払わせる、と意気軒昂だった。2008年の大統領選中はアイオワの集会で単独会見の機会を得た。日本からの来訪者を喜び、「外交のバイデン」の底力を見せるとして、イラク3分割案の試案を持ち込んで配布していた。しかし、アイオワの労働者や農民の関心事とあまりにかけ離れていた。今回はそれに学んでか、政策案を現場で配布することは取りやめていた。

 この日の集会では、バイデンの斜め後ろ3メートル付近で演説を聞いた。率直に言って、年相応にやつれ、痩せたという印象だった。他方、声の張りやドスの利いた演説力は相変わらずではあった。また、主要候補の中で唯一、原稿を持ち込んで読み上げていた候補だった。小規模の公民館の集会では、演台の裏側も支持者やプレスに丸見えになる。台本を持ち込むのは印象が悪い。また、演説が長かった。後続のケリー元国務長官も長かったので、まるで授業を聞いているような雰囲気になり、観衆はうつむき加減だった。

 演説はトランプ批判に終始したが、コロナウイルスなどにタイムリーに触れ、トランプで混乱した外交を立て直すには就任初日からフル稼働できる経験がある自分しかない、という定番演説だった。むしろ聴衆の注目を引きつけたのはケリー元国務長官の応援演説だ。混乱状態にある世界をアメリカが率いていく必要がある、という「アメリカの役割」肯定論で、「習近平とプーチンが世界を席巻している」「これからは中国の世紀、ロシアやアジアの世紀になり、アメリカは衰退すると言われている」と危機感を煽った上で、「経験と、世界の指導者との関係がある者が必要」とバイデンを売り込んだ。しかし、経験の売り込みは諸刃の剣だ。環境問題にバイデンは1980年代から取り組んでいるし、核の合意も実現したと唱えたが、いずれもトランプ政権でひっくり返されており、実績を売り込めば売り込むほど、トランプ政権誕生後の民主党の無力さがより浮き彫りにされるという反作用がある。

 バイデン集会ではハプニングがあった。若い男性が演説前に「自分は最近妻に離婚されてしまった。取り戻すにはどうすればいいですか」と起立してバイデンに訴え、続いて演説の半ばに最前列にいた男性が突然立ち上がり、捨て台詞を残して去った。これは実は、選挙イベントに乱入して悪ふざけをするのをネタにしているコメディアンの2人組「ザ・グッド・ライアーズ」だった。バイデンも聴衆もそれが「どっきり」のコメディであることに気がつかず、共和党が妨害のためのスパイを送り込んだのだ、と現場は騒然とした。この2人組は2016年選挙の頃から両党の集会に乱入しているが、彼らがまだ無名であることで成立している悪ふざけではある。アイオワやニューハンプシャーなどセキリュリティの甘い初期の集会をターゲットにしているあたり「通」である。通常、バイデンは本人が直接質問者を指すという大胆な方法で質問を受けることもあるが、この日、バイデンは質疑を受け付けなかった。

エリザベス・ウォーレン上院議員

 やはり党員集会数日前、州東部アイオワシティのウェストハイスクールでウォーレンの集会が行われた。バイデン集会との決定的な違いは、参加者の長蛇の列だった。開場前から人の波が途切れず、高校の体育館は900人規模のすし詰めの立ち見状態になった。

 この手の集会は応援者が演説を行う。通常は候補者の前だ。この人選が難しい。聴衆を引きつけるだけの知名度が必要だが、候補者を食ってしまうほどインパクトのある応援演説をされると困る。ウォーレンは地元マサチューセッツ州選出の初の黒人連邦下院議員のアイアナ・プレスリーを応援団に選んだが、これは裏目に出た。プレスリーは演説の名手で、まるで候補者本人のような演説で聴衆を沸かせたからだ。一般的に白人州の住民は黒人政治家に慣れておらず、彼らの生演説の迫力に弱い。ゴスペルでリズムをとるような黒人教会の牧師の説教を彷彿とさせる、大袈裟な間や抑揚を用いたダイナミックな演説に、アイオワシティの白人リベラルは心奪われ、ウォーレンの存在感が薄くなった。

 ウォーレンは演説が決して上手ではない。固定の演壇がある場や、テレビのフレームのサイズが限られていると分からないのだが、動きやジェスチャーが苦手である。屋外演説が巧い政治家は、ステージで動き回る「歩き」「マイクの持ち替え」「腕まくり」「指差し」「頷き」などジェスチャーに独自の風格やリズムを工夫する。トレーニングで身に付く部分もあるが、基本は天性のもので、ダンスや歌の上手下手など音感や運動神経に近い。ウォーレンはその手のことに向いていない。話に夢中になると動きが停止したかと思えば、話の区切りで突然ぴょんと跳ねてみたり不自然な動きをする。

 法律家で大学教授のウォーレンは、あくまで「政策の鬼」であり、その点を評価している人、女性大統領が諦められない50代以上の女性、サンダースを阻止したい民主党員に強い支持を受ける。アイオワの地元政治家が壇上で「今こそ女性を大統領にしよう」と合唱した。ちなみに、ウォーレンは原稿を必要としない。これは評価できることだ。大学教授なので自分のテーマなら何時間でも話していられるのだ。人を感動させる話は苦手だが、政策の説明ならいくらでもできる。だが、集会の常連には同じ政策の話は飽きられる。そこでウォーレンはこの日、珍しく生い立ちに時間を割いた。生まれてからロースクールに行って法律家になるまでの道のりを語った。ウォーレンのことをある程度知っている人なら目新しい話ではないが、この手の集会で政策以外のことを長々と話すこと自体が珍しいと、筆者の隣の席にいたデラウェア大学のレドロスク教授は指摘した。同じ演説を州内でし過ぎてネタ切れが原因のようだった。

 ウォーレンの集会は質疑応答に特質がある。事前に陣営のスタッフが聴衆から質問をしたい人を募り、くじ引きを引かせる。演説前に数名の当選番号が発表され、当選した人はマイク付近に集合して1列に並んでおくのだ。陣営は何について質問するか誘導しない。リスクのあるやり方だ。だが、一般的にウォーレンの集会は候補者をいじめてやろうというムードは薄く、ソフトクエスチョンしか出ない。この日も「教育をどうしますか」「なぜ大統領になろうと思ったのですか」などウォーレンの得意分野や簡単な質問しか出なかった。「子どもの頃の夢は公立学校の教師でした」「私が大統領になったら教育長官は公立学校の教師を登用する」と教師団体票、公立学校に通学する子どもを持つ親へのアピールに余念がなかった。ウォーレンは質問に直接的には答えない。ある意味で教室や学会で慣れている手口なのかもしれないが、「良い質問です」として冒頭だけ関連したことを言い、そのあと自分の定番の政策アピールになってしまうのだ。そして二度と質問には回答しない。ウォーレン陣営が質問を誘導しないのは、候補者がどんな質問も上手にかわす自信があるからだろう。これはテレビ討論でも縷々批判されてきた、財源の税負担について明言を避ける姿勢にも共通したものでもある。

 通常はスマホでツーショットに気前よく応じるウォーレンだが、この日は夫のブルース・マン氏と愛犬のベイリーを壇上に上げた。希望者はウォーレンの犬とツーショットが撮れるという奇妙なサービスに切り替えた。犬と写真を撮るためだけに、長い列に支持者が並んだ。ウォーレンは演説上手ではないが、人懐こい素顔を見せることがある。私が参加した集会の1つ前の隣町の別の集会に「ザ・グッド・ライアーズ」が乱入し、壇上に近寄りウォーレンに「私の大統領候補になってくれますか?」と「求婚」をした際、ウォーレンは「いいわよ!」とハグしたのだ。ジョークだと分からぬまま、どこの馬の骨とも知れぬ男性の「政治求婚」に応じたウォーレンは、「アイオワはエキサイティングね」と意味不明なまとめ方をした。この不器用さをチャーミングだと感じる者は立派なウォーレン支持者と言えるかもしれない。

(サンダース、ブデジェッジについては、次の論考に続く)。

(了)

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