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フィリピン・ダグパンにおける気候変動・海洋リスク脆弱性の研究

2023.07.27
海洋政策研究所は、2020 年からフィリピンのエコセンシア社(Ecosensya Solutions for Environmental Sustainability)との共同研究として、米・スティムソンセンターと連携し、海洋・気候変動リスク脆弱性指標(CORVI)を用いた調査研究をフィリピン・ダグパン市を対象に行った。報告書「CORVI: Measuring Multidimensional Climate Risks in Dagupan, Philippines」を完成・公開し、 現地でのワークショップの開催等を通じて研究成果の普及を行った。
 
同報告書の政策提言として、第一に、洪水リスクの軽減、経済成長の維持、人間の健康と安全の向上のための気候変動に強いプロジェクト計画と実施の制度化、が挙げられる。気候リスクに関連したインフラプロジェクトの計画・実施には長い時間がかかることを認識し、 市長室とダグパン市議会は協力して、持続可能なインフラや再生可能エネルギー事業を成文化・制度化する法律、条例、多年度の予算の成立を目指すべきである。インフラプロジェクトや条例には、自然由来と建設の両方があり、洪水緩和策の実施、SURE Global Waste to Worth Innovations(W2WI)廃棄物エネルギープロジェクトなどの循環経済イニシアチブ、固形廃棄物管理、廃水処理インフラ、マングローブの植林、再生エネルギー開発、グリーン建築基準の制定が考えられる。
 
第二に、脆弱なコミュニティにおける廃水処理と地下水涵養のための分散型の自然を活用したソリューションの実施、である。脆弱な人々や主要産業に対する気候関連リスクを軽減するためには、水質改善と安全な飲料水の供給への取り組みが必要である。下水処理場の展開に先立ち、地方のバランガイにおけるニーズに対応するために、下水処理に関する分散型の自然を活用した解決策を利用すべきである。ダグパン市は、地下水供給の減少に対処するための計画も策定し、実施すべきである。都市化、人口密度、海岸線開発の増加により、地下水の採取量が増加し、海面上昇により既存の地下水供給への塩水浸入の恐れがあるため、アルテシア井戸の乾燥が進んでいる。自然を利用したソリューションは、分散化されたスケールで自然素材を使用することにより地域の帯水層を涵養する、安価で効率的な方法と言える。
 
第三に、ブルーエコノミー産業の持続可能性と多様性を向上させることである。同市のブ ルーエコノミー産業(養殖業、漁業、観光業など)の持続可能性を向上させることは、気候 変動への耐性を確保する上で重要であり、地方自治体(LGU)、市農業局、水産資源局は、持続可能な漁業に関する地域の人々の教育、マングローブの植え替え、乱獲や過剰飼育に対する厳しい措置の実施、生け簀やケージ間の物理的距離の確保、魚の死滅を防ぐための違法生け簀の駆除などを行ってきた。これらの対策を引き続き改善し、実施する必要がある。さらに、沿岸観光産業の多様化が重要であり、例えば、リンガエン湾のビーチフロントで、持続可能な観光事業やエコツーリズム事業を展開する可能性が指摘される。これらの対策は、ダグパン市が経済成長を続け、人々の健康と安全を向上させ、気候変動の影響に対する回復力を強化する上で有効な対策となるであろう。

詳細は同報告書をご参照下さい。

報告書ページ(Stimson Centerサイト内):フィリピン・ダグパンにおける気候変動・海洋リスク脆弱性の研究

(文責:笹川平和財団海洋政策研究所 前川美湖)

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