2009年
事業
事業実施者 | 日本中国アジア経済戦略フォーラム(日本) | 年数 | 2年継続事業の1年目(1/2) |
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形態 | 自主助成委託その他 | 事業費 | 10,000,000円 |
2008年5月12日、中国四川省西北部にM7.8の大地震が発生し、8万人を超える犠牲者を出す大災害となりました。
中国政府と現地関係者が懸命な救援と復興活動を続ける一方、国際社会からの援助・復興活動も、大規模に繰り広げられました。日本の政府、民間団体、企業および個人による支援もその重要な一部分をなしていました。
笹川日中友好基金も、日本財団、東京財団などの関連団体とともに、被災者を助けるための義捐金募金活動に参加したり、震災救助に関する資料を緊急に現地の災害救助本部に提供したりしました。また独自に、中国赤十字総会を通して、被災者へ義捐金を寄付しました。
さらに、笹川日中友好基金は、日中間の最大規模の民間基金として、被災者だけでなく広く中国国民になにができるか、運営委員、スタッフ一同で考えました。
その際、メディアを介しての情報だけに頼るのではなく、なにより被災地に出向き、現地の状況とニーズについて調査してくることが重要だと感じました。
そこで、日中基金のスタッフは日本財団のボランティア支援事業の担当者と調査チームを作り、地震発生1ヶ月後の6月に、四川省で現地調査を行いました。
現地調査では、震災で破壊された住宅や学校、病院などを視察して回りました。また、さまざまな人々にインタビューもしました。たとえば、避難キャンプに住む被災者、救助活動に参加した医師、解放軍兵士、ボランティア支援者、専門家などです。
それらをふまえ、現地や中央の政府関係者とも意見交換をおこないました。
現地調査を通じて分かったのは、中央と地方政府による災害救助と復興支援活動がきちんと軌道にのっているということでした。国内や海外からの支援物資も末端の被災者までいきわたり、ボランティア活動も組織的で効率よく行われていました。
このような現地の状況を受けて、日本財団は、被災地の身障者たちの心のケアを行うボランティア団体の活動を支援したり、PTSDの専門家を現地に派遣することにしました。日中基金は、活動分野の制約から施設や物資の支援はできないため、人材のトレーニングや、災害救助や防災のノウハウを伝える部分に的を絞って、協力の可能性を探ることにしました。
日中基金がすべき事業を模索しはじめたとき、思い出されたのは、かつて成都市人民政府の行政官にインタビュー調査したときのことでした。
そのときインタビューにでた話では、県レベルの行政機関では、災害発生時の応急マニュアルがほとんど整備されていないし、行政官たちの防災意識も希薄だ、ということでした。そして、その点、日本はそもそも自然災害が多く、いわば「防災大国」であり、災害応急マニュアルを作るノウハウをもっている、ということでした。
たしかに、日本の地方行政レベルに蓄えられた防災ノウハウを、中国の地方行政官たちに伝授することは、四川の行政官たちの資質の向上と災害復興に貢献できるのみならず、中国の他の地域に広げることによって、さらにおおきな波及効果が期待できます。
なお、わたしたちがそのような検討を始めていたころ、日本政府も同様の取り組みを始めていました。それは、中国の県長クラスの地方行政官を日本に招へいして「視察」をおこなう、というものでした。
日本政府は、中国共産党中央組織部との協力に基づき、08年7月末、最初の四川省災害復旧日本視察団一行44名を7日の日程で日本に招へいしました。このときの視察団は、県長クラスの地方行政官が中心で、震災復興を担当する関連省庁の関係者及びマスコミ関係者も参加しました。
そして、外務大臣、国交大臣、自民党総務会長、新潟県、兵庫県知事および各都市の市長を表敬訪問したほか、新潟県と兵庫県に二日ずつ滞在し、震災の概況と復旧計画の説明を聞き、復興現場を視察しました。
そしてさらに、09年1月にも、被災地行政官訪日視察団第二陣80名が来日しました。
ただ、いずれも訪日の内容は、まさに「視察」が中心でした。日本のノウハウを中国の被災地で有効に活用しようとするには、もう一歩踏み込んだアプローチを考える必要があるように思えました。
そこで、「視察」よりさらに一歩踏み込んだ「研修」ベースの事業を作ることが必要なのだということが、わかり始めてきました。
臨時の執務室で、被災地の行政官から復興計画について説明を受けた
仮設住宅の内部
さて、事業の内容が形をとってくると、つぎにわたしたちにとって課題となるのが、どこと連携するか、というパートナー探しの部分です。
兵庫県神戸市は、阪神・淡路大地震を経験し、災害復興と防災・減災事業における国際協力に関して豊かな経験を持っています。この地域に、四川省の行政官たちの研修を受入れてくれるパートナーが見つかれば一番理想的です。
この協力先を探す際にも、過去の事業で築かれたネットワークが活きてきました。
神戸には、非営利法人で「日本中国アジア経済戦略フォーラム」という団体があります。ここは、かつて日中基金が中国の地方行政官を日本に招いて研修したときにも協力していただいたことのある組織で、その周到かつ念入りな仕事ぶりから、信頼も期待もできるパートナーとなっていました。
そこの片山啓理事にご相談したところ、そのような意義ある仕事なら、ぜひとも協力したいと賛意を示していただけました。そのときの、片山理事のお言葉がたいへん心に残りました。
「神戸も四川も震災で甚大な被害を受け、大きな犠牲を払いました。神戸はその犠牲を無駄にしませんでした。防災や減災の経験を積み、いまは日本でもっとも進んだノウハウをもち、関連分野の国際協力のセンターに生まれ変わりました。四川省のみなさんも震災で莫大な犠牲を払いました。ぜひこの犠牲を無駄にせず、中国における防災・減災のモデル省になっていただきたい」
まさに、最高のパートナーを探しあてた気がしました。
日本側のパートナーが決まり、つぎに、では、中国側のパートナーはどこにすればいいのかという問題になりました。
このことを考えたとき、わたしたちが重視したのは、被災地の行政官の研修事業だけでは効果が限定的であり、研修の成果をそのほかの地域まで広げるためには、影響力ある中国の団体・組織との協力・連携が必要だろうということでした。
その点、中国人民大学がもっとも適任でした。
党や政府の幹部を育成する名門校で、現職の行政官の研修プログラムも数多く実施しています。
また、四川大地震に際しては、救援と復旧活動でも活躍しました。もっとも有名な話は、地震発生後、同大学の四川省出身の大学院生5人がいち早く諸外国の災害救助と復興支援の情報を集め、その情報分析に基づいて、中央政府に提言書を提出し、温家宝総理から高く評価されたことです。
そこで、人民大学の各学部のなかでも、行政官の研修に一番深く関わっている公共管理学院の董院長に打診しました。
すると、董院長は、日中基金の事業方針に大いに賛同してくださり、第一に、一部中国国内費用の負担も含め、全面的にこの研修事業に参加すること、第二に、公共管理学院の公共政策と公共安全研究所の専門家を推薦すること、第三に、学院の専門家を被災地に派遣し、具体的ニーズや参加者の人選などに関する調査を自費で実施すること、を約束してくれました。
董院長が約束してくれた専門家による予備調査は、さっそく、2008年10月に実施されました。その調査報告書によれば、やはり、災害応急マニュアルの作成と活用をめぐる研修が、もっとも優先順位が高いものにあげられていました。
このように、被災地政府と日中両国のパートナーなどと協力関係を結んだうえで、災害応急マニュアルの作成を中心テーマとした2年継続の研修プログラムが作成されました。
そのときの、わたしたちの合い言葉は、「四川大地震の犠牲を無駄にしない」。
結局、事業内容は以下のように決まりました。
第一段階:2009年度の訪日研修
第二段階:2010年中国人民大学における国内研修
この事業は2009年と2010年度に実施された事業で、以下の関連ページがございます。