海洋情報旬報 2015年5月21日~31日

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5月22日「南沙諸島における中国の行動、商業航行の脅威ではない4つの理由―豪専門家論評」(The Diplomat, May 22, 2015)

アメリカのシンクタンク、East West Instituteの研究員で、オーストラリアのUniversity of New South Walesの特任教授、Greg Austinは、5月23日付のWeb誌、The Diplomatに、“4 Reasons Why China Is No Threat to South China Sea Commerce”と題する論説を寄稿し、中国の南沙諸島での行動が南シナ海の商業航行に対する脅威になっていないとして、4つの理由を挙げ、要旨以下のように述べている。

(1) 中国による南沙諸島での行動が「南シナ海における商業航行 (commercial shipping in the South China Sea)」に対する脅威になるという見方が、中国国外で高まってきている(原著者注:この種の議論では、“sea lines of communication” (SLOC) という用語が、しばしば “commercial shipping” の意味で用いられている。しかし、2つの用語は完全な同義語ではない)。「シーレーンに対する中国の脅威 (the “China SLOC threat”)」論の嚆矢は定かではないが、本稿では、この脅威論を以下の4点から再考する。

(2) 第1に、中国は、南シナ海における北航通商 (north-bound shipping) に脅威を及ぼすために、南沙諸島を必要とはしてない。中国がそうすることを望むとしても、そのために係争島嶼や岩礁を制圧する必要はない。南シナ海を挟んでフィリピンと向き合う海南島に司令部を置く中国海軍南海艦隊は、この半閉鎖海を北方の出口から見渡している。また、中国本土の広東省は4,300キロに及ぶ海岸線を有し、ここからも見渡すことができる。広東省沿岸とフィリピン沿岸までの距離は800キロしかなく、この海域は中国の海洋戦力にとって容易にアクセスできる。一方、南沙諸島の小さな島嶼や、環礁などの「低潮高地」は、海南島から800キロ以上離れた海域にある。中国軍の指導者が、商業航行阻止作戦の拠点として、このような遠隔の小さな島嶼を利用しようと考えているなら、それは馬鹿げた考えといわざるを得ない。通商阻止のために持続的な攻撃を企図する如何なる国も、安全な補給網を維持できない、潜水艦などの海洋プラットフォームや、遠隔の「低潮高地」の環礁に造成された滑走路などに依存するより、安全な補給網に支えられた陸上配備の航空戦力を使用するであろう。

(3) 第2に、中国は、日本と同じように、あるいはそれ以上に、原油の大半を南シナ海経由で輸入している。BP社の調査によれば、2013年の中国の原油輸入量は2億8,200万トンで、同時期の日本の輸入量は1億7,800万トンであった。中国の全原油輸入量の内、南シナ海経由がどれだけかは不明であるが、いずれにせよ、日中両国は共に、この半閉鎖海における航行の安全に同じような利害を持っているのである。しかも、中国経済は、日中間あるいは米中間の貿易のように、海運への依存度が高く、また沿岸域の雇用の多くも海運関係のものである。

(4) 第3に、1900年以降、公海における商業航行に対する阻止作戦の歴史的先例は、極めて少ない。第2次世界大戦において、ドイツが海上貿易の遮断やイギリスへの海軍部隊のアクセス阻止作戦で多くの潜水艦を失って以来、こうした事例は全くない。実際、多くの海軍専門家が指摘するように、現代的な民間船舶に対する航行阻止作戦は、(南沙諸島周辺海域のような)公海ではなく、港湾から出港したり、目的港に近づいたり、あるいは狭隘な海峡を通航したりしている時が、より効果的であろう。この好例が、イラン・イラク戦争(1980年~1988年)でのペルシャ湾における航行船舶に対する攻撃であった。南シナ海は、ペルシャ湾の約14倍の広さがあり、350万平方キロにも及ぶ。中国の戦闘艦の行動に対する人工衛星や艦艇による監視活動が常態化している状況下では、潜水艦にしろ、あるいは水上戦闘艦にしろ、中国の軍艦が商業航行に多大の損害を与える前に、アメリカやその同盟国からピンポイントで反撃されるだけである。しかも、第2次世界大戦当時に比して、現在の商業航行はその隻数においても、トン数においても何倍にも膨れ上がっている。現代の潜水艦がその性能を飛躍的に強化しているとしても、対潜能力もまた強化されてきているのである。

(5) 第4に、マラッカ海峡を経由する南シナ海は、インド洋から日本に向かう航路として極めて利便性が高く、かつコストが低い。もし南シナ海で脅威が高まれば、全ての船舶航行は、マラッカ海峡経由を避け、ジャワ島の南に向かい、スンダ海峡かロンボク海峡を通過し、ジャワ海に入り、フィリピンの東側を抜けることで、南シナ海に入らない航路を選択することができる。航行距離と時間が伸びコスト高となるが、南沙諸島周辺海域で航行阻止作戦が実施された場合でも、この航路は安全であろう。また、この航路はVLCCの航行にも問題はない。

(6)「シーレーン脅威論 (the “SLOC threat thesis”)」が登場した1つの理由は、中国海軍自身がこの問題に対する関心を高めたことにある。シーレーン防衛任務というテーマは10年前に比べ中国の公式文書でも度々取り上げられているが、これは、1つには中国が海上貿易の遮断に対して、以前よりもはるかに脆弱になってきているためである。もう1つの理由は、人民解放軍幹部が、西側諸国の軍のように、この問題を国防予算の増額を勝ち取る口実として利用しているということである。同時に、他方では、中国の指導者は、今日の世界では如何なる国といえども、海上貿易の保護は1国だけではなし得ないということを理解している。この問題は、国際的な責任を共有すべき問題である。この認識は2013年の中国の公式ドクトリンにも見られ、中国政府内での共通認識と考えられる。南沙諸島における中国の行動は、そこにある砂州、岩礁あるいは環礁が中国の領域内にあるという認識の下に行われている。中国の指導者は、南沙諸島の制圧が、世界最大の海軍力を有する国家とその多くの同盟国との間で船舶航行の安全を巡って対立することにもなりかねず、従ってそれが自国の戦力投射能力を強化することになるとは期待もしていないし、思ってもいない。中国は、南沙諸島における頑迷な軍事的行動が、例えそれが南沙諸島全域に対する領有権主張を強固にするものであっても、自国の国益に資するものでは全くないということを、やっと学び始めたところである。アメリカによる外交攻勢は上手く機能しており、商業航行などに対する誇張された軍事的脅威論は現実的ではない。

記事参照:
4 Reasons Why China Is No Threat to South China Sea Commerce

5月23日「南シナ海の緊張緩和に向けて中国に必要な3つの措置―マカオ大専門家論評」(The Diplomat, May 23, 2015)

マカオ大学准教授、Dingding Chenは、5月23日付のWeb誌、The Diplomatに、“3 Things China Can Do to Reduce South China Sea Tensions”と題する論説を寄稿し、中国は南シナ海における緊張緩和に向けて3つの措置を取ることが必要であるとして、要旨以下のように述べている。

(1) 米海軍のP-8A対潜哨戒機が南シナ海で進められている中国の埋め立て活動に対する警戒監視飛行を行ってから、中国がこれに対して次にどんな行動をとってくるか、そして状況が米中対立を危険な水域にまでエスカレートさせるかどうかに、あらゆる関心が集中することになった。米当局者も認めているように、この埋め立て活動が国際法に違反していないにもかかわらず、アメリカによるこの挑発的な行動は、ワシントンが南シナ海で進められている中国による埋め立て活動を容認するつもりはないということを明確に示している。南シナ海における中国の拡張主義的な行動に歯止めをかけるべく何らかの行動が必要だということで、ワシントンの政策決定サークルの中でコンセンサスができたようである。中国をアメリカ主導の自由主義的秩序に加え、信頼できるステークホルダーになることを期待するという、かつての「中国コンセンサス」は姿を消した。

(2) 重要な問題は、では、我々はどこに向かうのかということである。攻撃的現実主義者(offensive realist) の戦争不可避論を信奉しない限り、米中両国が戦争を回避し、協力関係の強化を望むのであれば、両国にとって話し合いの余地は多く残されている。アメリカには、中国の脅威を煽り、中国がアジアにおけるアメリカの覇権に取って代わろうとしているとして、反中国機運が高まっている。他方、中国には、アメリカのあらゆる行動を、中国の不可避的な台頭を封じ込めようとする証拠と見なす、反米意識がある。両国の分別のある人々は、この両国の現状を憂い、お互いにその考え方を改めるべきだということで一致している。現在の微妙な状況下では、相互に批判を抑え、緊張を高めないことが極めて重要である。米中両国が緊張緩和に責任を有している。米海大のLyle Goldstein*教授が提唱するアプローチ、即ち、米中両国は、「緊張激化への急激な下方スパイラル (a ‘rapid downward spiral of tensions’)」に代えて、「協力のスパイラル (‘cooperation spiral’)」を指向すべきである。

(3) 中国は、協力の意思を示すために、次の3点について考える必要がある。

a.第1に、中国は、アメリカを安心させるべく、今以上の努力をする必要があるということである。ジョンズホプキンス大のDavid Lampton**教授が正しく指摘しているように、アメリカは、グローバル化の時代において、‘primacy’(優越あるいは首座)が意味することについて再考する必要があり、一方、中国は自らの強さと能力について現実的でなければならない。何より、中国がアジアにおけるアメリカの覇権に挑戦するという見方は、大いなる神話に過ぎない。「アジアからアメリカを排除する(pushing the U.S. out of Asia)」といった類いの議論をする者は、現実を知らないか、あるいは他に意図があって論じているかのいずれかである。当然ながら、中国が強くなるにつれて、中国の地域への影響力も増大しよう。しかし、このことは、AIIB(アジアインフラ投資銀行)の設立に見るように、アメリカにとって必ずしも悪いことばかりではない。アジアは平和と安定を維持するためにアメリカも中国も共に必要としているというのが、明快な真実である。習近平国家主席は、9月の訪米を、中国はアジアにおけるアメリカのリーダーシップを尊重しているという重要なポイントを再確認する機会として利用すべきである。

b.第2に、中国は、近隣のアジアの小国に対しても安心感を与える努力が必要である。「中国の夢」を実現するためには、平和で安定したアジアが必須の要件であることを、中国は心に留めておくことが重要である。中国と周辺諸国との間の領有権紛争は困難な問題ではあるが、平和的な解決が期待できる。まず、中国は、紛争当事国と2国間あるいは多国間の協議を始めるべきであり、他方、外部の非当事国は、公平な立場を維持し、一方に与するようなことがあってはならない。

c.第3に、中国がいずれ南シナ海を支配し、中国の内海にしてしまうのではないかという最大の懸念に対しては、中国は、南シナ海における行動の意図について、よりオープンで透明でなければならない。特に、埋め立てによる人工島の造成に関しては、中国は、これらは平和的かつ防衛目的のみに使用するということを確約すべきである。条件が整えば、中国は、これら人工島に海外の専門家やジャーナリストを招待すべきである。また、中国は、他国との合同で捜索救難活動や資源の共同開発をスタートさせることもできよう。

(4) 要するに、米中両国は、南シナ海の緊張状態をクールダウンさせるために、やるべきことがあるということである。今こそ、世界の2大経済大国が、真剣にその責任を考えるべき秋である。

記事参照:
3 Things China Can Do to Reduce South China Sea Tensions
備考*:Lyle Goldstein, Is It Time to Meet China Halfway?, The National Interest, May 12, 2015
(この論説は、同教授の近著、Meeting China Halfway (2015)からの抜粋)
備考**:David Lampton, A Tipping Point in U.S.-China Relations is Upon Us, US-China Perception Monitor, May 11, 2015

5月27日「中国国防白書、米紙論評」(The New York Times.com, May 27, 2015)

米紙、The New York Times(電子版)は、5月27日付の、“China, Updating Military Strategy, Puts Focus on Projecting Naval Power”と題する記事で、中国が5月26日に公表した国防白書について、要旨以下のように論評している。

(1) 中国国防部は5月26日、「中国の軍事戦略」と題する国防白書(中文:「中国的軍事戦略」白皮書)*を公表した。この白書は、この2年間で中国軍による最初の政策文書であり、南シナ海における中国の高圧的行動が強まっている時期に公表された。それによれば、中国は、単に自国の沿岸域を防衛するだけでなく、今後何年かの内に海軍力を外洋に投射することを意図している。南シナ海における人工島の造成やそこにおける建造物の構築によって、係争海域における領有権主張を強化しようとする中国の行動は、フィリピンとその同盟国であるアメリカのこの地域に対する意思を試すものとなっている。南沙諸島のFiery Cross Reef(永暑礁)では、この数カ月にわたって大々的な浚渫作業が行われているが、米海軍のP-8哨戒機は5月20日にCNNの取材チームを乗せ、この周辺海域を哨戒飛行した時、中国側は再三にわたり退避警告を繰り返した。以来、北京とワシントンの対立は激しくなった。中国外交部報道官は後に、この飛行は「無責任で危険である」と非難した。国防省は5月初め、アメリカが国際海域と主張する海域への艦艇と航空機の派遣を検討していると発表した。更に、中国の国営メディアは5月26日、南沙諸島において2カ所の灯台の建設を開始したと報じた。

(2) 白書は、海軍政策のみならず、中国軍全体の近代化計画に継続についても言及している。更に、「重大な安全保障上の脅威」としてサイバー戦についても記述している。しかし、西側の専門家は、白書が海軍力の強化と中国沿海域から遠く離れた海域への戦力の展開を重視していることについて、白書の最も印象的な部分であると指摘している。中国の軍事戦略家は以前から、1940年代以来支配的であった陸上戦力への依存を減らし、海軍力を強化していく意向を明らかにしてきた。近年、人民解放軍は、新型潜水艦に投資し、中国初の空母を就役させ、そしてその詳細は公表されていないが、軍全体の再編計画を発表している。米シンクタンク、The Center for Naval Analyses (CNA) のアジア専門家、Dennis J. Blaskoによれば、人民解放軍兵力230万人の内、約10%が海軍、約17%が空軍で、残りはほとんど陸軍である。専門家は、南シナ海での緊張が海空軍力を増強する北京の努力を加速させている要因の1つと指摘している。しかし、それ以外の地域における出来事も、中国の指導者が海外での軍事関与を規制してきた長年の政策を放棄しつつある要因となっている。例えば、アデン湾でのソマリア海賊事案が増大する中で、中国は2008年に、2隻の駆逐艦と1隻の補給艦をアデン湾に派遣したが、これは、太平洋を越えて即応態勢の戦闘艦を派遣した最初の事例となった。2015年4月には、3隻の艦船をイエメンに派遣し、内戦状態の同国から数百人の中国人と外国人を後方輸送した。

(3) 白書は、「陸重視の伝統的な思考様式は放棄されなければならない、そして海洋を管制するとともに、海洋権益を護ることに重点を置かなければならない」とし、その上で、「中国は、国家安全保障と拡大する国益に見合った近代的な海上戦力を建設する必要がある」と指摘している。徐光裕元少将(現中国軍控与裁軍協会(軍備管理軍縮協会)理事)は、「開かれた海を護る」ことに力点を置くことは中国の海外における経済的、外交的足跡が拡大していることの証左である、と指摘している。そして、徐元少将は、「中国は強大になるにつれ、地球上に護らなければならない多くの利益を有するようになってきている。こうした利益には、投資、貿易、エネルギー、輸入そして海外在留の中国市民が含まれる」と述べている。(抄訳者注:徐光裕元少将は、国家には地理的国境とは別に総合国力に応じて伸張できる戦略的国境があると提起したことで知られる。)更に、徐元少将は、白書は外国の侵略を抑止し、他国によって始められた戦争に勝利する北京の決意を強調しているとして、「中国は、軍事力と抑止力を積極的に建設していくであろう。それはまさに如何なる国も中国にあえて戦争を仕掛けてこないようにするためである。アメリカは、圧力をかければ中国は後退すると期待してはならない。中国を追い詰めれば、その結果はどのようにものになるのか分からないことを知る必要がある」と強調している。

(4) アメリカは、南シナ海における領有権紛争については、いずれにも与しない方針をとっており、外交による紛争解決を主張している。しかし一方で、オバマ政権は、領有権を主張している如何なる国も南シナ海における国際航行を阻害してはならない、と強調している。また、最近では、国防省当局者は、係争島嶼周辺海域に対する監視飛行を中止する意図はないことを明らかにした。米国防大学のBernard D. Cole教授は、白書は中国が石油、天然ガス及び漁業資源に恵まれた南シナ海における領土的野心を放棄することはないことを示唆していると見、「中国は事態を推し進めるにつれて、かなり自信を深めてきており、アメリカが対応行動を起こす敷居の高さを見極めようとしている、と思われる。我々は、今がその限界点にあるのかもしれない。しかし、中国が人工島造成活動を中止しようとする証拠は全くない」と述べている。

記事参照:
China, Updating Military Strategy, Puts Focus on Projecting Naval Power
備考*:白書英文;http://www.chinadaily.com.cn/china/2015-05/26/content_20820628.htm
中文;http://www.81.cn/dblj/2015-05/26/content_6507373.htm

5月28日「アメリカのパワーの限界、豪専門家論評」(The Strategist, May 28, 2015)

Australian Strategic Policy Institute (ASPI) の上席アナリスト、Andrew Davisは、ASPIの公式ブログ、The Strategistに、“The limits of [American] power”と題する論説を寄稿し、アメリカのパワーの行使がもたらす結果の見極めに用心が必要であるとして、要旨以下のように述べている。

(1) 最近、米オバマ政権への保守派の批判が強まっている。例えば、保守系豪紙、The Australiaの外交担当論説委員、Greg Sheridanは、5月23日付の論説*で、次のように述べている。「オバマは、アメリカの影響力の低下を招いている。彼は、あらゆるところで弱気な、弱体政権を率いている。この弱体政権は、必ずしも長期的なアメリカの衰退を象徴しているわけではなく、この政権だけの弱さである。アメリカの敵と、一般的に暴力的で無秩序な勢力が至る所で勢いづいている。東ヨーロッパでのアメリカの立場は弱まっており、オバマがシリアで明快なレッドラインを引いた上で、しかもそれを実行しないと決定したことから、プーチンは、ウクライナで攻勢を強化した。オバマは、中東全域と、アフガニスタンや中央アジアでも影響力を失いつつある。」世界がアメリカ(そしてオーストラリア)の利益に不利な方向に向かっているわけではないとは言えないかもしれないが、オバマ大統領に批判の全てを押し付けることが正しいかどうかはまったく確信がもてない。むしろ本稿の筆者は、パワーの有用性がしばしば過大に評価されていると思う。そして、パワーの行使に失敗した場合、ベトナム戦争を遂行した米政権がそうだったように、パワーを行使した人間を不当に「タカ派」呼ばわりするのである。

(2) オバマ政権がイラクの安定に対するアメリカのパワーの効果を過小評価したために、今日のイラクは安定とは正反対の状況となっている。この手の失敗は、当該政権を弱く見せる。米軍撤退という大統領選挙公約の実行がこうした結果を招いたことは疑いない。「イスラム国」による最初の攻勢に抵抗する場所に米軍部隊が留まっていたならば、結果として生じた流血と混乱は恐らく回避できた。そして現在では、彼らを打倒するのは一層困難でコストもかかるであろう。しかしながら、イラクでのオバマの誤りは、2003年のイラク侵攻後の国作りに対するアメリカのパワーの能力を過大に評価した、ブッシュ政権が犯した誤りを悪化させただけである。要するに、この10年間の「ネオコン」に突き動かされた過大介入が導いた結果は、現在のアメリカがパワーの行使を控えることによって起こる結果と、少なくとも同じように酷いものであった。しかし、この2つの事例は、ハードパワーの行使が実際にどのような結果をもたらすかを見極めることが、如何に厄介なものであるかを示している。Sheridanが指摘するウクライナの事例については、少なくとも本稿の筆者には、プーチンのウクライナ領土強奪に対する正しい対応政策は明確には思い浮かばない。クリミアにおけるロシアの国益は、アメリカのそれよりはるかに直接的で大きなものである。従って、ロシアには、国益相応により高いリスクを冒す意志があった。アメリカは、ウクライナを巡ってロシアとの戦争のリスクを冒すべきであったのか。南シナ海における問題も、これと同じである。中国は、南シナ海を最重要な戦略的利益と見なし、そこにおける自らの行動に対する国際的な非難に向き合う覚悟ができており、それ故に非常に好ましい成果を上げつつある。ウクライナと同様に、南シナ海においても、アメリカの南シナ海における国益に相応しい、しかも潜在的な成果を上回るリスクを冒すことがないような方法で、アメリカのパワーを南シナ海問題において如何に行使するかについて、本稿の筆者には、明確な考えが浮かばない。

(3) ウクライナと南シナ海の2つのケースは、最も強力な国家ですら、自国の中核的国益の周辺が少しずつ削り取られていく戦術に対して脆弱であることを示している。ロシアと中国の国益は、それぞれの地域においてアメリカよりも深く関わっており、不利なリスクが潜在的な成果を上回るところまでアメリカによる介入のリスクを高めていくだけの十分なパワーを、両国ともに持っている。パワーには利用価値がないと言っているわけではない。敵対国が強い得るコストを上回る成果が得られるという正しい状況下では、パワーを成功裏に使用することができる。例えば、1990 年代のコソボ紛争では、セルビアは、本気でNATOに抵抗することができなかった。セルビアのパトロンであったロシアは大して役に立つ立場にはなく、従って西側同盟の賭け金は低く抑えられた。それ故、アメリカと欧州のパワーは、戦闘を終結させるために使用された。もし賭け金が十分に高額であったならば、第2次世界大戦がその好例であるように、正しい結果を得るまでには、深刻な損失を被ることになったであろう。ベトナム戦争は、これら事例の間のどこかに位置していた。局地的な抵抗が高まるにつれて、アメリカは、成果とコストのバランスが受け入れられないようになるまで、次第に大量のハードパワーを投入するようになった(もっとも、冷戦期のアメリカの全戦力よりも遥かに少ないが)。それ以降、今日見られるように、他国がより以上に関わっているという単純な事実を、パワーは相殺することができなかった。それがどのように変化していくかを予想することは難しい。

記事参照:
The limits of [American] power
備考*:Greg Sheridan, “US President Barack Obama’s pivotal absence in Asia,”The Australian, May 23, 2015

5月28日「中国の『一帯一路』構想—アメリカにとっての含意」(YaleGlobal Online, May 28, 2015)

ジュネーブのシンクタンク、The International Centre for Trade and Sustainable Developmentの中国事務所長、Shuaihua Wallace Chengは、5月28日付のWeb誌、YaleGlobal Onlineに、“China’s New Silk Road: Implications for the US”と題する論説を寄稿し、中国の「一帯一路」構想はアメリカの「アジアへの軸足移動」に対する対応であり、その狙いはアジアにおける中国の影響力を拡大することであるとして、「一帯一路」構想が持つアメリカへの含意について、要旨以下のように論じている。

(1) 「一帯一路」構想は、「シルクロード経済ベルト」と「21世海洋シルクロード」の2つからなる。2013年に習近平国家主席がこの構想を公表してから18カ月間に、中国は、ユーラシア大陸とその周辺の60以上の国からこの構想への支持を取り付け、包括的な計画案を作成してきた。提案されたネットワークは、地理的に広範なものである。陸上ベルトは、北側では中国、中央アジア、ロシアそしてヨーロッパを結び、南側では中央アジアとインド洋を経由してペルシャ湾と地中海を中国に連結させる、アジア、ヨーロッパ及びアフリカ大陸に跨がって延びるルートである。海上ルートは、中国沿岸から南シナ海とインド洋を経由してヨーロッパに向かうルートと、南太平洋に向かうルートがある。これらの地域の経済規模は、人口が全世界の63%に当たる44億人、そしてGDPは全世界の29%を占める2兆1,000億ドルに達する。中国のビジョンは、地理的範囲に劣らず印象的で、貿易、インフラ、投資、資本及び人という5つの分野における結び付きを強化するとともに、「利益、運命そして責任を共有する」共同体を創出するというものである。「一帯一路」構想は、アメリカの領土とは重ならない大規模な「中華圏 (The China Circle)」を形成するものである。「中華圏」は、1つにはアメリカの「アジアへの軸足移動」戦略あるいは「再均衡化」戦略への中国の対応である。この戦略には2つの主要な安全保障面と経済面における狙いがあり、安全保障面では2020年までに米空軍戦力と海軍戦力の60%をアジアへ再配置することで、経済面では中国を排除した、アメリカと同盟国間の環太平洋連携協定 (TPP) 交渉である。この戦略は、中国の東と南への影響力拡大を阻止する事実上の封じ込め効果を狙っている。

(2) 「中華圏」は、中国に多様な輸出市場を提供することになる。中国の伝統的な市場であるアメリカと西欧は、規模は大きいものの、低迷している。シルクロード沿いの発展途上国は、全く状況が異なる。中国商務部によれば、シルクロード沿いの国々と中国との2国間貿易は、2015年第1四半期だけで中国の全貿易量の26%を占める。中国は、これまで米軍によって抑えられてきた輸送ルートに対する依存度を低減させ、エネルギーと食品へのより良いアクセスを持つことになろう。これまで、中国の石油輸入量の約80%が、米軍のコントロール下に置かれていた、混雑するマラッカ海峡を経由してきた。パキスタンのグワダル深水港を利用すれば、マラッカ海峡経由も、中国とヨーロッパ、中東及びアフリカ間の距離が85%近く短縮される。グワダル港は中国とパイキスタンの経済回廊の一部であり、中国は、両国間を鉄道、道路、パイプライン及び光ケーブルで連接するために、460億ドルを投資する協定を締結している。この金額は、パキスタンの年間GDPの5分の1に相当し、パキスタンに対するアメリカの投資額の10倍になる。また、「中華圏」は、潜在的な人民元圏を形成する可能性がある。中国は、4兆ドルに及ぶ外貨を保有しており、その60%以上がアメリカ国債である。中国は、アメリカ政府に金を貸す代わりに、シルクロード沿いのインフラ整備と生産に投資することで、より多くの利益を獲得し、政治的な友好関係を築くことができる。中国は、2つの主要な国際機関に対する投資も行っている。AIIBの初期資本として1,000億ドルを、BRICS諸国が提案した新開発銀行 (New Development Bank) には500億ドルを拠出している。両機構は、北京と上海にそれぞれ本部を置いている。更に、中国は、シルクロード基金を設立した。中国は、米ドルへの依存を減らすことで、「より多くの資本の収束と通貨統合」を想定している。人民元は、モンゴル、ロシア、カザフスタン、ウズベキスタン、ベトナム、タイなどの国との貿易で広く使われている。2014年末までに、海外の人民元預金は1兆6,000億元に達し、海外からの人民元債は3,500億元に達した。

(3) 「中華圏」の台頭は、アメリカの政治家に3つの質問を突きつけている。

a.第1に、中国に対する封じ込めは機能しているか。恐らく「ノー」であろう。中国の製造能力、国内市場そして外貨準備は、独自の経済圏を形成するのに十分な大きさである。多くの国がアメリカのアドバイスを無視してAIIBに加入したことで明らかになったように、これら諸国は、アメリカの封じ込め政策を支持しないであろう。ほとんどの経済大国を含めた、57カ国が創立メンバーとしてAIIBに加盟した。

b.第2に、アメリカは、中国の台頭と姿を現しつつある「中華圏」を歓迎するか。アメリカの政治家にとって、真相を認めようとしないのは賢明ではない。新興国の台頭は避けられない。「インド圏 (Indian Circle)」や「ブラジル圏 (Brazil Circle)」とともに、「中華圏」の台頭は止められない。アメリカは、ルールを決めるのは中国ではなくアメリカだと主張するのではなく、世界的なリーダーシップを発揮して、中国が対等の立場からルールの更新に参加することを歓迎するとともに、中国の影響力の拡大が永続するかもしれないことを認めるべきである。中国の「一帯一路」構想が成功した場合、ユーラシア大陸全体におけるインフラ、経済発展そして政治制度における深刻なギャップを埋めることになるかもしれない。より開発された地域は、アメリカの企業や労働者を含め、あらゆる人々に対して、より大きな経済のパイをもたらすであろう。「一帯一路」構想の成功はまた、テロや過激派の活動を弱体化させる可能性もある。

c.第3に、中国の「一帯一路」構想は、核心的な普遍的価値と高い環境水準や労働基準と折り合いを付けられるか。これらは、アメリカがリーダーシップを発揮することができる重要な分野であり、21世紀の世界的な経済アーキテクチャーの要である。しかし、これらは、単独で対処できるものではなく、他国との協同でなし得るものである。

記事参照:
China’s New Silk Road: Implications for the US
Map: Circle of influence: China is working with 60 nations to construct a modern-day Silk Road – by land and sea

【補遺】
5月「アクセス阻止の『壁』を打破するための『兵器艦』の建造―米海軍退役大佐提唱」(Proceedings Magazine, U.S. Naval Institute, May 2015)

米海軍退役大佐、Sam J. Tangredi は、Proceedings 5月号に、“Breaking the Anti-Access Wall”と題する長文の論説を寄稿し、アクセス阻止の「壁」を打破するための「兵器艦 (Arsenal Ship)」 の建造を提唱して、要旨以下のように述べている。(Tangredi大佐には、Anti-Access Warfare: Countering A2/AD Strategies (Naval Institute Press, 2013) と題する著書がある。)

(1) アクセス阻止戦略を打破するためには、3つの中核的能力を必要とする。

a.第1は、アクセス阻止戦力のセンサー類を無力化する能力(敵衛星の破壊能力を含む)である。

b.第2は、自らの戦力を護るために、電子戦及びサイバー戦防衛網を構成する強固な多層防衛網である。この能力には、もし通信能力が失われた場合に、予め計画された戦術部隊による自動的対応能力が含まれていなければならない。

c.第3は、敵の指揮統制 (C2)、通信ノード及び中長射程兵器システムに対して指向された、精確で持続的な攻撃力を提供する能力である。敵のシステムの一部が移動可能システムか、あるいは強力な抗堪性を持つシステムである場合、スマート兵器の特性である、「爆弾1個で1目標破壊」は不可能である。精確な目標照準能力とスマート兵器は不可欠だが、多角的で精確な飽和攻撃能力も、アクセス阻止能力を無力化し、制圧するためには不可欠である。

(2) 多くの文献がこれら3つの能力全てについて言及しているが、今日の米海軍の装備兵器に最も欠けていると思われるのは第3の能力、即ち、目標に対して迅速かつ繰り返し多様な兵器を投射する能力である。米艦隊が保有するミサイル・ランチャーは余りに少な過ぎるが、それらの大部分には、多層的防衛網を構成するために必要な、戦域弾道ミサイル防衛、対人工衛星、対・対艦弾道及び巡航ミサイル、そして対空用火器が装備されなければならない。アクセス阻止打破のシナリオでは、海軍は、大量の攻撃兵器用のランチャーを必要とする。このため、いつの間にか放棄されたが、かつての「兵器艦」構想の再考が必要である(抄訳者注:Arsenal Shipは構造的な実態としては「弾庫艦」に近いものと理解されるが、ここでは、Ordinanceを搭載する艦として「兵器艦」と訳する)。

(3) 「兵器艦」の現代的な概念は、故VADM Joseph Metcalf IIIが1988年1月のProceedings に寄稿した論文、“Revolutions at Sea” がその嚆矢となった。そこでは、「兵器艦」は、160~200基の垂直発射システム (VLS) を搭載することが想定されていた。1994年までに、「兵器艦」構想は、The Center for Strategic and Budgetary Assessments の所長、Andrew Krepinevich など、多くの擁護者によって支持された。この構想には、「より安価」な「兵器艦」が、艦隊の中核的攻撃力である「極めて脆弱な」空母の代用になるという考えがあった。言うまでもなく、例え1991年の湾岸戦争においてTomahawk巡航ミサイルがその真価を証明したという事実があったとしても、Tomahawk巡航ミサイルを空母に代えるという考えは、米海軍指導部の受け入れるところではなかった。「兵器艦」構想のもう1人の有力な擁護者は、1994~96年の間、海軍作戦部長であった、故ADM Jeremy M. Boordaで、1995年に国防省高等研究計画局と共にプロトタイプを開発するためのプロジェクトを立ち上げたが、1996年の彼の死後(自殺)、このプロジェクトは急速に立ち消えとなった。

(4) 「兵器艦」は多目的艦ではなく、従って他のどの艦種、特に空母の代用ではない。また、それは多様な戦闘領域(対空、対水上艦、対潜水艦及び対弾道ミサイル戦闘)で任務を遂行する駆逐艦や巡洋艦でもない。「兵器艦」は、対アクセス阻止能力において必要とされる戦力不足を補う、補完戦力であり、アクセス阻止戦略打破のために敵の目標に対して精確な大量の火力を投射する、前述の第3の能力以外を備えるべきではない。従って、「兵器艦」としての最適な設計は、VLSを水線下の船体に格納し、レーダー探知リスクを減らすために、艦の乾舷はできるだけ低く、大きな上部構造を持たず、露頂部が平らな氷山を連想させるようなものとする。単艦で運用されることはないが、移動と戦術的なランデブーのために、低速で独特の耐航性を持つ、「自走式兵器艀 (a self-propelled arsenal barge)」ともいうべきものとなろう。「兵器艦」の搭載兵器を攻撃目標に指向させるには、3つの方法とその組み合わせがある。即ち、リアルタイム衛星のダウンリンクあるいは艦隊のネットワークから常時更新された目標データを受けとること、地形マッピングやGPSによって予めプログラムされた目標に対してミサイルを発射すること、そして他の艦艇や空中管制機による管制、あるいは戦闘部隊指揮官によって指示された目標に兵器を発射することである(移動目標は、他の統合攻撃戦力による攻撃対象となろう。)いずれにしても、「兵器艦」が重大な損害を受けても、攻撃目標が予めプログラムされているので、艦が任務不能になる前に、全ての残存兵器は小刻みに発射されることになろう。「兵器艦」の乗組員は、定期的な保守点検だけを行うことになろう。致命的な損害を受けた場合、「兵器艦」の最小限に設定された、恐らく10人以下の乗組員は、救命ポッドで脱出することになろう。電子的に探知されることを防ぐために、「兵器艦」は、艦隊のネットワークリンクの完全な構成艦ではなく、受報艦となるべきである。「兵器艦」は、長距離センサーを持たず、何時、何処にミサイルを発射するか以外に、ネットに上げる何の情報も持たない。ミサイルは、一旦発射されれば、「兵器艦」の管制を受けることはない。これは「兵器艦」からの電磁波の発射を最小にし、それによって探知リスクを減らすためである。敵が射手を攻撃できないか、あるいは少なくとも矢筒が空になるまで攻撃できないようにするのが、「兵器艦」として理想的であろう。

(5) アクセス阻止の「壁」を打破するための「兵器艦」に代わる選択肢としては、最も有力なのは4隻のOhio級弾道ミサイル原潜 (SSBN) を改装した、各158基のTomahawk巡航ミサイルを搭載する誘導ミサイル原潜 (SSGN) である。戦略兵器削減条約 (START II) の下で、更に2隻のSSBNをSSGNに改装できる。残念ながら、Ohio級SSGNには、2つの欠点がある。第1に、Ohio級SSGNは、水上戦闘艦や航空機が持つ外交的な警報として利用できる、戦争前段階での明示的抑止効果を期待できないということである。第2に、最も重要な考慮点として、Ohio級SSGNの改装費用が1隻当たり約8億9,000万ドルにもなり、必ずしも費用対効果に優れた手段とはいえないことである。運用経費も、水上戦闘艦よりかなり高価である。しかしながら、4隻(更に2隻追加される可能性がある)のSSGNと何隻かの水上「兵器艦」を組み合わせれば、アクセス阻止戦略に対抗する能力を提供する最高のオプションになるかもしれない。

(6) 「兵器艦」は、以下の3つの可能な方法で抑止効果を期待できる。

a.第1に、相応の数の「兵器艦」の示威的プレゼンスは、潜在敵をしてアクセス阻止戦略を断念させ、それによって不安を感じている隣国を安心させ、地域安全保障の強化に貢献できるかもしれない。

b.第2に、現在、脅威に晒されている地域に空母を派遣しているのと同じように、「兵器艦」の展開を、政治軍事的警報のシグナルとして利用できる。低コストの「兵器艦」は、空母が持つ多目的な多様性を備えているわけではないことを理解しておかなければならないが、当初の警報シグナルとしての代替性と機能を備えている。

c.第3に、他の戦闘艦と同様に、「兵器艦」を戦闘群に定常的に配備することで、戦闘群の攻撃能力と全体的な抑止効果の強化に貢献できる。(現在の海軍の戦力構成に対しては、大部分の戦力が戦闘群の自衛に使われていて、戦闘群が攻撃火力を欠いていると常に批判されてきた。)

厳しい予算環境の中で、新型軍艦の取得を提案することは、特に有益な努力とはいえないかもしれない。しかし、「兵器艦」構想は、非対称的な潜在敵の戦略に対抗するためには、現有戦力の隙間を埋める補完戦力として有益である。「兵器艦」の建造は、急がれるべきである。当該地域におけるアメリカの抑止力と影響力を低下させるとともに、域内諸国に対する支援を阻止するために、軍事力を強化しつつある高圧的な権威主義的国家によって、その近海域が支配されるのをアメリカが黙認しているという印象は、直ちに払拭されなければなければならない。

(7) 潜在敵のアクセス阻止戦略には、弾道ミサイル、巡航ミサイル、潜水艦、長距離攻撃機、水上戦闘艦、機雷、機動性のある高速艇、更には自爆テロといった、論理的には多様なプラットフォームによる攻撃が含まれよう。しかし、艦隊に対する攻撃には効果的な調整が必要で、移動する目標に対するリアルタイムの情報に依拠しなければならない。このこことは、アクセス阻止戦力にとって潜在的に大きな弱点となる。先端技術への依存は、この脆弱性を拡大する。何故なら、必要なC2能力と情報の収集・配布は、そのためのノードに対する攻撃によって拒否できるからである。この場合、「兵器艦」からの継続的な攻撃は、アクセス阻止の手段を減殺する主要な手段となる。アクセス阻止環境では、「兵器艦」は、潜在的な危機地域においてアメリカの海軍と統合軍による軍事的影響力の信憑性を維持するための、論理的に最も手っ取り早い手段である。アメリカの意思決定者がこのことを認識するならば、防衛装備品の取得システムと造船会社にとって次なる課題は、米艦隊が既に保有している他の非対称的な優位を補完する、強力だが低コストの「兵器艦」を建造することである。意志があれば、なし得ることである。

記事参照:
Breaking the Anti-Access Wall

編集責任者:秋元一峰
編集・抄訳:上野英詞
抄訳:飯田俊明・倉持一・黄洗姫・関根大助・山内敏秀・吉川祐子