海洋安全保障情報旬報 2023年04月01日-04月10日

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4月3日「インドと欧州の利益が収れんし、重要度を増すベンガル湾―インド博士課程院生論説」(Observer Research Foundation, April 3, 2023)

 4月3日付のインドのシンクタンクObserver Research Foundationのウエブサイトは、インドSouth Asian Universityの博士課程院生Sayantan Haldarの“India, Europe, and the Bay of Bengal: Converging maritime security interests”と題する論説を掲載し、Sayantan Haldarはヨーロッパ諸国のインド太平洋への関与が拡大するにつれ、これまでヨーロッパ諸国の関与が限定的であったベンガル湾における海洋安全保障が焦点の1つとして浮上し、インドとヨーロッパ諸国の利益が収れんする領域として、重要性を増しつつあるとして、要旨以下のように述べている。
(1) 近年、フランス、英国、ドイツ、イタリアなどヨーロッパの主要国のいくつかは、インド太平洋の文脈でインドとの関係を固めている。インド洋の海洋地理学では、ヨーロッパの志を同じくする提携国とのインドの関与が拡大しているが、インド政府の安全保障と戦略的計算にとって重要なベンガル湾地域は、インドとヨーロッパの関与が限定的な空間であり続けている。ここでは、インド太平洋地域における貿易と連結性への注目が高まり、ヨーロッパ諸国とベンガル湾沿岸国との間の関与が拡大する中、海上安全保障はベンガル湾におけるインドとヨーロッパの間の利益が収れんの重要な領域として浮上する可能性が高いと論じられている。
(2) ベンガル湾地域は、インド太平洋地域で進化する地政学を形作る上で重要な舞台としてますます浮上している。ベンガル湾は、インド太平洋地域における経済的・戦略的競争の重要な分野として急速に浮上している。QUADでの提携国との湾岸におけるインドの主要な海軍の関与は、より広いインド太平洋の文脈におけるこの地域の重要性を示している。これとは対照的に、ベンガル湾地域は、インド太平洋に対する関与を拡大するヨーロッパ諸国の関与が限定的な地域であり続けている。
(3) ヨーロッパの大国のベンガル湾への進出は、この地域を世界市場と結びつけてきた。最近では、インド太平洋という概念により、この地域に対するヨーロッパの関心は貿易、連結性、ひいては海上安全保障といった領域にますます向けられている。フランスはその戦略的計算を地域の地理的広がりに合致させている。したがって、インド太平洋の前途を確かなものにするインドとベンガル湾におけるヨーロッパの提携国との間の利益の収れんにおいて決定的に重要である可能性が高い範囲と分野を特定することが重要である。これにより、ヨーロッパの国々はさらに地域の海上安全保障に焦点を当てる必要があり、その結果、インドとの利益が収れんすることになる。
(4) インドがインド太平洋の見通しを固めるにつれ、ベンガル湾の重要性は多様化している。重要なことは、インドのインド太平洋の見通しにおいてASEANに与えられた中心性は、歴史的な文化的つながり、そして最近ではインド政府によって確立された戦略的補完性のために、ベンガル湾を東南アジアに関与する上で重要な戦略的海域と見なされることを不可欠なものとしたことである。さらに、インド太平洋の文脈では、インドとヨーロッパが戦略的収れんに向けて行動を共にし、取り組んできた。欧州の焦点がこの地域に移るにつれて、海洋領域における安全保障の必要性は、ヨーロッパの大国の間で重要な政策となってきている。ベンガル湾がヨーロッパの貿易とアジアとの接続性を促進する重要な海域として浮かび上がってきたため、インドがベンガル湾の安全確保に懸命であることとも相まって、ヨーロッパの国々の関与がより大きくなるだろう。
(5) インドにとって、地理的に果たさなければならないことはベンガル湾への関与の柱であることである。インドの海上国境の東側は、海上貿易の増加の鍵となっている。さらに重要なことは、インド洋におけるインドと中国の間の戦略的対立が激化するにつれて、ベンガル湾はインドにとって重要な海域となる可能性があり、海洋安全保障はインドにとって喫緊の優先事項となっている。インド政府が志を同じくする提携国との海上での演習の場としてベンガル湾に焦点を移し、海を介して隣接する地域との関係を拡大する重要な手段として海軍外交を推進していることは、ベンガル湾の安全確保にインドが焦点を当て、強い関心を有していることを示している。
(6) ヨーロッパにとって、インド太平洋の経済的潜在力はインド太平洋地域への関与の中心的な柱である。間違いなく、ヨーロッパは現在、長期にわたるロシアとウクライナの紛争で危機の時期を経験している。ヨーロッパは、特に貿易や食料・エネルギー安全保障などの重要な分野で、関与を多様化する必要がある。EUは、インド太平洋地域を「経済的、人口統計学的、政治的重みが増大する」ため、「不可欠」と定義している。しかし、ベンガル湾地域の戦略的に重要な地域は、ヨーロッパのインド太平洋の見通しから欠落したままである。しかし、欧州がベンガル湾沿岸国との関与を深め、拡大し、インド太平洋の見通しを推進するにつれて、これに対処する必要がある。
(7) インド太平洋地域に関与する欧州の主要な国々の中で、フランスはベンガル湾という戦略的海域に参入した唯一の国であり、インドはインド太平洋においてフランスと最大の協働を行っている。2021年、フランス主導のラペルーズ演習がベンガル湾で実施され、インドの初参加によってQUAD構成国全てが集まり、切れ目のない海上作戦のための計画、調整、情報共有を可能にする緊密な連携を開発する機会を提供し、対空戦、対潜戦等複雑で高度な海軍作戦を実施し、高度な調整と相互運用性を示ことでベンガル湾の海上安全保障の分野におけるインドとフランスの協働を実証した。さらに、2023年、ベンガル湾でのラペルーズ演習には英国が参加している。
(8) 本分析では、インド太平洋におけるヨーロッパの主要3ヵ国、フランス、英国、イタリアに焦点を当てる。これらの国々とインドとの間におけるいくつかの潜在的な領域での収れんがあるかもしれない。
a.フランスはインド太平洋地域におけるインドの主要な提携国である。インド政府が海軍外交に重点を置いていることを考えると、インドとフランスの海軍関係は何年にもわたって進歩してきた。2021年以来、インドとフランスは、ベンガル湾地域の海上安全保障の分野で協力してきており、インド太平洋での協力を示しことで、地域の安全保障機構へ新しい国が参入することをさらに促進することができる。ベンガル湾とこの地域に顕在する気候危機と海上テロと海賊行為といった独特の海洋安全保障上の課題から生じる非伝統的な海洋安全保障の課題にさらに焦点を当てることは、インドとヨーロッパ、およびベンガル湾における他のQUAD参加国との間の利益の収れんの範囲を広げるのに役立つだろう。
b.英国の戦略文書はインド太平洋への関与については、概説しているがベンガル湾については言及していない。英国がインドやASEANとの協力を深めていることから、ベンガル湾へ焦点が写る可能性がある。英国は、ベンガル湾地域の国々との関わりを大幅に強化し、ASEANとの関係を高めている。さらに、インドと英国は関係強化に向け、2021年にロードマップ2030とともに「包括的な戦略的パートナーシップ」に合意している。英国は2023年の展望に関する文書で、安全保障と防衛上の提携の強化、技術に関する協力の進展、インドのインド太平洋構想の柱としての海洋安全保障に関する協力など、インドと利益が収れんすることが期待できる主要分野を挙げている。この目的のために、英政府がベンガル湾の主要な国々との関与を拡大するにつれて、地域の安定と安全は英国の優先事項として進化する可能性が高いことに注目する必要ある。
c.イタリアは、インド太平洋地域に欧州で新たに参入した国である。2023年3月にGiorgia Meloni首相がインドを訪問したことは、インド太平洋地域における進化する地政学とそれに続く同地域の経済的可能性を見て回ることに対するイタリア政府の強い関心を示している。イタリアはまだインド太平洋における構想と想定する役割を明確に発表していないが、イタリアのアジアに対する経済的関与は、インド太平洋の見通しを導く可能性が高い。インドにとって、イタリアはEU加盟国の中で3番目に高い貿易相手国である。しかし、強固なインドとイタリアの関係の重要な側面は、2021年に開始されたインド、イタリア、日本の3国間関係である。日本はベンガル湾海域に復帰し、インドと日本はベンガル湾地域を重点とした主要な戦略的パートナーであり、ベンガル湾岸地域はインド太平洋における日印の関与の中核をなしている。イタリアと日本も、両国関係を「戦略的パートナーシップ」に引き上げることで、2国間関係を進展させてきた。同様に、インド・イタリア・日本の3国間関係は、イタリアがインド太平洋における役割を強化するための戦略的核心となる可能性が高い。ベンガル湾の貿易と接続性の側面への注目が高まるにつれ、この地域の海上安全保障を優先することが続く可能性がある。
(9) ベンガル湾地域におけるヨーロッパ諸国の展開は、依然、限られた範囲のままである。しかし、インド太平洋への焦点が強化され、インドや他のベンガル湾沿岸国との協力が拡大していることを考えると、ベンガル湾はヨーロッパの諸国にとって優先分野として浮上する可能性がある。インドにとって、ベンガル湾の海上安全保障は引き続き最優先事項であるが、ヨーロッパにとって、ベンガル湾はインド太平洋への関与と並行して徐々に重要になる可能性がある。したがって、ベンガル湾の戦略的環境は、インドとヨーロッパ諸国にさまざまな種類の懸念をもたらすが、地域を確保し、より広いインド太平洋の平和と安定を確保する必要性は、この海域における各国の戦略的見通しの中心となっている。しかし、歴史的な過去と、かつての植民地拡大中にヨーロッパの大国が果たした役割、およびインド洋の地政学を変える上での長期的な影響を考えると、ヨーロッパの政策立案者がこの地域での役割を作り上げ、インドとのより緊密な関係を模索するに当たって注意を払うことが役立つ。さらに、インドとヨーロッパの政策立案者は、中国の習近平主席とロシアのPutin大統領との最近の会談と、新たな中ロ枢軸の可能性を注視する必要がある。それにもかかわらず、ヨーロッパがインド太平洋に戦略的焦点を当て、地域の国々との協力を深める中、ベンガル湾の海上安全保障は確かにヨーロッパの国々とインドの間の利益の収れんの基盤を提供するであろう。
記事参照:India, Europe, and the Bay of Bengal: Converging maritime security interests

4月3日「北極に関し、かろうじて維持されるロシアとの対話の経路―米アラスカ専門ニュースメディア報道」(Alaska Beacon, April 3, 2023)

 4月3日付のアラスカ州に関するニュースを中心に報道するAlaska Beaconのウエブサイトは、“Despite Russia’s post-invasion isolation, some narrow openings for Arctic cooperation remain”と題する記事を掲載し、そこで3月末に開催された北極圏シンポジウムに言及し、ロシアとの外交関係がほぼ途絶するなかでも、北極圏の利益を保護するためには何らかの意思疎通の経路を維持する必要があるとして、要旨以下のように報じている。
(1) 3月末に北極圏エンカウンター・シンポジウムが3日間開催された。その出席者が言うには、ベーリング海峡を跨いだ関係はかつて生産的ではあったが、現在は停滞気味である。しかし、ある程度の意思の疎通は継続しているとのことだ。
(2) ロシアは北極圏の半分を包含する国である。そのため、ロシアとのコミュニケーションなしに、北極圏の資源や利害を保護することはできない。ロシアが外交的に孤立している今、この問題がシンポジウムでの主題であった。そのシンポジウムには約25ヵ国から1000人が参加したが、ロシアの参加者はいなかった。
(3) Lisa Murkowski上院議員によると、ベーリング海峡を跨ぐ重要な共同研究などがロシアのウクライナ侵攻によって停止した。そうした協調の停滞は問題ではあるが、仕方のないことでもあるとLisa Murkowski上院議員は言う。
(4) Biden政権高官が指摘するには、ロシアを除く北極圏の7ヵ国は北極評議会を通じて活動を継続している。また同評議会には、6つの先住民集団が常任参加国となっており、そのうち1つはロシア系先住民のみで構成され、3つにはロシア系の構成員がいる。3月末のシンポジウムに出席したアラスカ先住民の代表団は、こうした国際的な先住民機関が、ロシアの先住民組織との意思疎通継続の機会を提示していると述べている。彼らは、先住民問題はうまくいっていると公的には言われるが、実際にはそうでもないと指摘する。意思疎通の継続は、ベーリング海を跨ぐ先住民たちの安全策として機能するだろう。
(5) U.S. Coast Guard 17District司令官Nathan Mooreによれば、海峡周辺の住民は天然資源の保護に関しては、ロシアとの意思疎通は維持されているという。ロシアは素晴らしい友人ではないが、隣人として対話を続けなければならないと彼は述べる。しかし2023年夏実施予定の石油流出事故を想定した演習は、ロシアのウクライナ進行前には米ロの共同開催が計画されていたが、それは中止となり、米国だけで実施されることになるという。
記事参照:Despite Russia’s post-invasion isolation, some narrow openings for Arctic cooperation remain

4月4日「ロシアは中国とトルコに北極海航路の支配権を渡してしまう危険がある―ユーラシア問題専門家論説」(Eurasia Daily Monitor, The Jamestown Foundation, April 4, 2023)

 4月4日付の米シンクタンクThe Jamestown Foundationが発行するEurasia Daily Monitorのウエブサイトは、ユーラシアの民族宗教問題についての長年の専門家であるPaul Gobleの“Russia Risks Losing Its Dominance Over Arctic Sea Route to China and Turkey ”と題する論説を掲載し、ここでPaul Gobleはロシアが北極圏航路を支配するのに必要な巨大砕氷艦を自国で建造する能力を失っている一方で、中国とトルコがその能力を持ち、砕氷艦の建造を推進しているため、北極圏航路支配の実体はロシアから中国とトルコに移行するとして、要旨以下のように述べている。
(1) 道路や鉄道でロシアの中心部とつながっていない遠く離れた北極圏地域に対するロシアの支配と北極圏における国際貿易の両方において、大きな結果を出そうとしてロシアは努力している。しかし実情は、ロシアは北極海航路(以下、NSRと言う)についての歴史的に維持してきた支配を中国とトルコによって急速に失いつつある。事実、Vladimir Putin大統領のウクライナとの戦争、汚職、その他のロシアの造船業界における問題に起因する予算不足のために、ロシア政府は新しい砕氷船の建造計画を延期もしくは中止しなければならなかった。その一方で、中国とトルコは現在、記録的な速度で砕氷船を建造している。さらに、ロシアの造船業界はNSRを開くことよりも、そして北極圏全体とモスクワとの連接を確保することのできる砕氷船の建造よりも、ロシア海軍の新しい空母を建造するべきだと言う要求によって身動きが取れなくなっている。
(2) 北極圏の氷を減少させた気候の変化が、NSR支配の重要な要素としての砕氷船の重要性を低下させたという考え方がでてきたが、その考え方は気候変動の性質についての誤解に基づいている。気候変動は、どこでも同じ進度で同じ方向に進むわけではない。その結果、地球の大部分が温暖化している間、少なくとも当面の間いくつかの場所は寒くなっている。したがって、NSRの多くの場所では近年氷がなくなったが、その一部は現在、氷が少なくなるのではなく、逆に氷が多くなっている。このことは、天然資源の最も豊富な重要な場所の多くが所在するNSRの東半分にあてはまっており、ロシアはそれに対処するために必要な砕氷船や耐氷性のある船舶を保有していない。
(3) 2020年、この問題に対処することを期待して、クレムリンは、現在稼働中の砕氷船では航行不可能な、最大4mの厚さの氷を突破できる超大型の砕氷船3隻を建設するという新しい砕氷船建造計画を発表した。巨大な砕氷船の完成は、ロシアが北極圏航路を完全に支配できるということを想像させた。しかし、ロシアにそのような砕氷船を直ちに建造する余裕がないことはすぐに明らかになった。この点について、ロシアには予算がないだけでなく、そのような巨大砕氷船を建造できる造船所が不足している。その結果、3隻のうち2隻の建造計画は中止され、3隻目の竣工予定日は2027年から2030年代のどこかに延期された。遅延の理由の1つはロシアにとって皮肉な自傷行為である。ロシア軍は砕氷船の部品が作られていたウクライナの工場を破壊したのである。現在、一部のロシアの専門家は、その砕氷船の建造はできないであろうと考えている。
(4) このようなロシアの砕氷船に関する諸問題は、大規模な造船産業を持つ2つの国である中国とトルコが大型の砕氷船を建造するための新しい競争に参加し、NSRを支配する道を開いた。ロシアには先に述べたさまざまな不利な点があり、大型砕氷船建造競争で中国やトルコに追いつくことは当分不可能であろう。その結果、ロシアは、NSRの使用に協力することを期待しつつ、中国とトルコに何らかの譲歩しなければならないことはほぼ確実である。西側諸国の制裁の影響のため、中国もトルコもここ数か月、NSRに船舶を送っていないと仮定すると、これらの2ヵ国はすでにNSRに関して特に大きな影響力を持っていることは明らかである。
(5) 習近平とPutinの間の最近のモスクワ首脳会談が示したように、中国はロシアに圧力をかける準備が完全にできている。そして、ロシアではなく中国が、ほぼ即座にNSRの東半分で、最終的にはNSR全体で、支配的な行為者になろうと考えている。さらに、中国はロシアの北極圏にあるムルマンスク、サベッタ、アルハンゲリスク、ティクシ、ウズデンの最も重要な5港でのドックの建設とこの地域での鉄道路線に関与してきている。
(6) 当然のことながら、ロシアの一部の人々は、中国がNSRの支配的な力になるだけでなく、ロシアの領土の大部分で支配的な力になりつつあるという予測に対して警戒している。彼らは、ロシアがニンジン(資源へのアクセス)と棍棒(北極圏でのより壮大な中国の計画への反対)の組み合わせによって、中国を抑制することを望んでいる。しかし、現在、中国が優位に立ち、ロシアは中国と良好な関係を持っているように見える。その理由は、Putinがヨーロッパからアジアに軸を移し替えており、ロシアの当局者は中国と良好な関係を保つこと以外の効果的な代替案を見つけていないからである。
(7) 中国の動きが注目を集めているが、トルコの行動とロシアの支援はあまり注目を集めてはいない。しかし、トルコの造船所は中国の造船所よりも多くの、より小さな砕氷船を建造できるため、注目に値する。ロシアのNSR担当機関の副長官であるMaksim Kulinkoは、トルコは中国と同様に、NSR用の通常型の小型砕氷船を建造すると述べている。彼の言葉を報道するにあたり、ロシアの通信社レックスは、ロシアは必要な砕氷船を自国で建造できないため、トルコと中国の企業と協力するしか選択肢はないと述べている。しかし同時に、通信社レックスは、ロシアはこれら2つの国の政治的野心を抑えることができるようにしなければならないとも付け加えている。NSRについてもロシア北部についても、問題が1つではなく中国とトルコという2つの方向から来ているため、この2つの国の政治的野心を抑えることは簡単な作業ではないであろう。
記事参照:Russia Risks Losing Its Dominance Over Arctic Sea Route to China and Turkey

4月4日「統合抑止、米主導の対中『封じ込め』戦略を巡る論議―フィリピン専門家論説」(China US Focus.com, April 4, 2023)

 4月4日付の香港のChina-United States Exchange FoundationのウエブサイトChina US Focusは、The Polytechnic University of the PhilippinesのRichard J. Heydarianの “Integrated Deterrence: AUKUS, JAPHUS, and U.S.-Led ‘Constrainment’ Strategy Against China”と題する論説を掲載し、ここでRichard J. Heydarianは米国のインド太平洋地域における統合抑止態勢が日豪比3国を束ねる米主導の対中「封じ込め」戦略として具体化しつつあるが、これを巡る論議も多いとして、要旨以下のように述べている。
(1) Biden米大統領は3月13日、Albanese豪首相およびSunak英首相と並んで立ち、「オーストラリア、米国および英国の提携―AUKUSを具体化する上で次の重要な一歩を踏み出す」ことを宣言した。この日、英語圏の同盟国3ヵ国は、「オーストラリアが通常兵装の攻撃型原子力潜水艦(以下、SSNと言う)を取得することを支援する歴史的な3国間決定」を行った。この決定に基づき、オーストラリアは、総額3,680億豪ドルで、近い将来、数隻のバージニア級SSNを取得し、20年以内に主として英国の技術に基づく次世代原潜を建造することになる。英誌Economistが指摘しているように、この決定は「太平洋への米英の関与を強化するとともに、2040年代およびそれ以降、前例のない方法で3つの同盟国を結びつけることになる」。同時に、米国は、AUKUSと並行する形で、日本・フィリピン・米国による3国間同盟(以下、JAPHUSと言う)も具体化させつつある。JAPHUSは、特に台湾とより広く沖縄からベトナム東岸に至る第1列島線に焦点を当てている。
(2) 中国は冷戦期のように「封じ込める(“contained”)」には大き過ぎ、しかも世界経済にとって不可欠の存在であるため、米国は主として、同盟国と提携して、アジアの超大国の台頭を「抑え込む」ことに関心がある。AUKUS とJAPHUSという2つの3国間同盟は、米国防総省の中国に対する「統合抑止(‘integrated deterrence’)」戦略の一環であるが、いずれも当該国内外で物議を醸している。即ち、AUKUSの決定はとりわけ「新たな軍拡競争と核拡散の危険」、「危険な道を進む」さらには「国際社会の懸念を無視している」として、アジア全域で常に批判に晒されてきた。一方、提案されたJAPHUSは、望ましくない地政学的な事態の拡大をもたらす、そして(あるいは)好戦的な軍事化の恐れがあるとして、フィリピンと日本の両方で激しい抵抗に直面することが予想される。
(3) AUKUSについては、その目的と実現までの長い軌跡を正しく理解することが重要である。1つには、AUKUSはASEANが隣接する海域、特に南シナ海における中国の拡大する戦略的展開を抑制できないことに対する西側の高まる不満への対応である。さらには、AUKUSは半世紀以上にわたるワシントンへの戦略的依存の後、フランスなどの大陸欧州諸国がより自立的な防衛を提唱するなどのNATO同盟内の分裂が高まる中にあって、ますます高まる地政学的緊急性に対応するものである。一方、ロシアのウクライナ侵攻は、特に南アジアの大国、インドがエネルギーと軍の装備品の主要供給源でもあるロシアに対する制裁に強く反対しているため、QUADにおける大きな断層を露呈させることになった。
(4) このような背景から、AUKUSはインド太平洋における米国の対中「統合抑止」戦略の主要な手段となった。結局のところ、英国とオーストラリアはいずれも、優勢な中国に対する脅威認識を含め、この地域に対する米国の構想をほぼ共有している。しかしながら、問題は、AUKUSがその誕生から非常に物議を醸してきたということである。フランスは、「裏切られた」思いから、オーストラリアに正式な謝罪を要求するとともに、オーストラリアと米国との外交関係を一時的に格下げした。それに続く外交的危機は進行中であったEU・オーストラリア貿易協定交渉を停滞させ、またEUはTrump前大統領並みの単独行動主義と大西洋同盟諸国への侮蔑に対して、Biden大統領を公然と非難した。さらに、中国の台頭に対してより巧妙な取り組みを好む、インドやニュージーランドなどのインド太平洋地域の主要諸国も、AUKUSを公然と支持することを拒んだ。一方、日本は、歴史的な防衛力強化を進めている。
(5) AUKUSとJAPHUSは、米国の「統合抑止」ドクトリンに直接結びついているが、議論の余地がないわけではない。オーストラリアでは、AUKUSに伴う財政負担と戦略的危険性に対する懸念が高まっており、たとえば、労働党のKeating元首相は将来、本格的な紛争が生起した場合に、数隻のオーストラリアのSSNが「中国に対して象徴的な軍事的効果を超える打撃を与え得る」かどうかを疑問視し、「米国が中国を封じ込めるために構築してきた長い鎖の最後の留め金をはめ込む」手段であるとして、現労働党政権下でのSSNの取得計画を非難している。ASEAN主要国も懐疑的で、マレーシアは4月初め、AUKUS原潜計画に懸念を表明し、域内の全ての大国に対して「軍拡競争を引き起こしたり、地域の平和と安全に影響を与えたりしかねない挑発を控える」よう求めた。またインドネシアMinistry of Foreign Affairsは、この問題を「注視している」と述べ、「地域の平和と安定の維持は域内全ての国の責任である」と主張した。一方、フィリピンでは、Duterte前大統領と現大統領の姉で上院議員の “Imee” Marcosは、台湾を巡って望ましくない紛争に巻き込まれる可能性があるとして、米国との防衛関係を拡大するという現政権の決定を公に非難した。日本では、憲法が攻撃的な軍事同盟構築を禁止しており、隣国フィリピンとの防衛関係強化の計画を複雑にしている。言うまでもなく、日本の軍国主義の過去は、近い将来の大規模な軍事力増強に対する懸念を引き起こすに違いない。
(6) いずれにしても、米国は明らかに、台頭する中国を抑え込むために、同盟国と有志諸国を囲い込むことを決意している。とは言え、特にアジアの超大国中国のインド太平洋地域における経済的、外交的影響力の高まりを考えれば、この戦略が今後数十年間も持続可能で効果的であるかどうかは、定かではない。
記事参照:Integrated Deterrence: AUKUS, JAPHUS, and U.S.-Led ‘Constrainment’ Strategy Against China

4月4日「米軍は政治的構想より戦闘能力に集中すべし―米専門家論説」(The Heritage Foundation, April 4, 2023)

 4月4日付けの米シンクタンクThe Heritage Foundationのウエブサイトは、米下院議員のMichael Waltzと同シンクタンク所長Kevin Robertsの“Our Military Is in a Dangerous Decline and This Is the Reason Why”と題する論説を掲載し、両名は米軍がDEI(Diversity(多様性)、Equity(公平性)、Inclusion(包括性))のような政治的な構想よりも、戦闘即応能力に集中すべきであるとして、要旨以下のように述べている。
(1) The Heritage Foundationによる「軍務と即応性に関する国家独立委員会の報告書(Report of the National Independent Panel on Military Service and Readiness)」と題された新しい報告書によると、任務を行うための米軍将兵の能力は、戦闘即応能力よりも、差別問題、人権問題を意識した政治的教育(woke indoctrination)や党派政治に関心のある文民指導者によって損なわれている。同報告書は、U.S. Department of Defenseに忍び寄る政治化と、それが米国の国防を蝕む影響についての緊急警告である。
(2) 報告書にまとめられた最重要の統計は衝撃的である。2022年、陸軍は採用目標を25%下回った。2023年はさらに悪くなると予想されている。海軍、空軍、海兵隊は、10月から新しい会計年度を開始したが、通常の採用数を50%下回っている。軍隊に対する国民の信頼は急激に低下している。
(3) なぜ、このような減退が起きたのだろうか?11月の世論調査によると、最も多い説明には、「軍の指導部が過度に政治化されている」「いわゆる‘woke’と呼ばれる差別問題、人権問題を意識した慣習が軍の有効性を損なっている」が含まれていた。別の調査では、現役軍人の65%が、差別問題、人権問題を意識した政治的な訓練計画や公平性を重視した体力基準の引き下げを含む、政治化を懸念していることがわかった。部隊保持率(troop retention rates)も低下しているが、これも同じ理由である。同報告書は、「戦闘任務とは関係しない任務に気が散っている軍上層部は、経験豊富で、特殊技能をもち、知識のある戦闘員を遠ざけ、早期退職を促す可能性がある」と指摘している。
(4) Diversity(多様性)、Equity(公平性)、Inclusion(包括性)の頭文字からDEIと呼ばれるような政治化的な構想(以下、DEIと言う)は、常に巨大な官僚組織を生み出し、平社員を実際の仕事から遠ざける。軍も例外ではない。
(5) Biden政権下のU.S. Department of Defenseは、戦闘訓練や敵を撃破する能力よりも、保守主義と自由主義の価値観をめぐる対立である文化戦争に関心があるように見えることがある。
(6) 2023年度の予算では、Bidenが「過激派」と呼ぶ「保守派」として政治活動を行う将兵に対する魔女狩りを行うために3,420万ドルを要求した。U.S. Department of Defenseが独自に行った調査では、200万人の現役軍人のうち、過激派の活動に関係しているのは0.005%未満であった。
(7) BidenのU.S. Department of Defenseは、架空の脅威に焦点を当て続けているため、議会は軍の戦士としての気風と戦闘即応能力を回復するために介入しなければならない。
(8)「軍務と即応性に関する報告書」は、いくつかの緊急の改革を提案している。DEIをU.S. Department of Defenseから切り離し、政治的な構想を戦闘即応性に振り向け直すべきである。体力基準は、人口的な割合に合わせるためではなく、米国民を守るために計画されるべきである。
(9) 軍事的即応性は、戦争に勝つだけでなく、戦争を抑止する。米国民は、立ち上がり、競争相手に立ち向かい、我々の国と価値を守る愛国者を必要としている。
記事参照:Our Military Is in a Dangerous Decline and This Is the Reason Why

4月5日「中国は南シナ海からの核抑止を強化している―ロシア専門家論説」(Asia Times, April 5, 2023)

 4月5日付の香港のデジタル紙Asia Timesは、Friendship University of Russiaの助教授兼博士課程学生Gabriel Joel Honradaの” China intensifies nuclear strike threat in South China Sea”と題する論説を掲載し、ここでGabriel Joel Honradaは中国のSSBNがJL-3弾道ミサイルを搭載することで南シナ海から出ることなく米国との相互確証破壊による抑止力となる一方で、南シナ海に留まることで探知されやすくなると、要旨以下のように述べている。
(1) 4月3日、ロイター通信は中国が現在少なくとも1隻の弾道ミサイル搭載原子力潜水艦(以下、SSBNと言う)を常に海上で待機させており、これにより、米国とその同盟国が脅威に対抗するための新しい能力の開発を迫られる可能性があると報じた。そして、中国が保有するType094SSBNは6隻で、海南から南シナ海までほぼ常続的に哨戒を行っており、新型の潜水艦発射弾道ミサイル(以下、SLBMと言う)JL-3を搭載していると伝え、さらに、このミサイルは1万kmの射程を持ち、中国は南シナ海の安全な拠点から米国本土を攻撃できると報道している。
(2) 1世代前のJL-2弾道ミサイルを搭載した場合、Type094は(ハワイを射程内に収めるためには)西太平洋に進出する必要があり、米国本土を攻撃するためにはハワイの東側まで進出する必要があった。そのため、宮古海峡、バシー海峡、スールー海などのチョークポイントを通過せざるを得ないため、米国やその同盟国の海軍に対してSSBNは脆弱となっていた。ロイター通信は、この新たな展開は中国が海上核抑止力を維持するために、兵站、指揮統制、兵器において急速に向上していることに言及している。また、中国は米国、英国、フランス、ロシアのような核保有国の戦略と同様のSSBNの配備をし始めているとしている。これにより、米国の攻撃型原子力潜水艦(以下、SSNと言う)が中国のSSBNを秘密裏に追跡する必要が生じ、限られた潜水艦の保有数は造船能力を刺激し、核による事態の拡大の危険性を冒すことになるという。
(3) Asia Times紙の記事は2022年11月、中国のSSBNは第2撃力として不可欠であり、SSBN部隊の能力向上によって中国は「先制不使用」という核政策に自信を持つことができると指摘している。SSBNは、敵の先制攻撃に耐え、戦略目標に対して報復することを目的として設計されているからである。Forbes誌2020年4月の記事では、台湾で武力衝突が起きれば、米国のSSNが南シナ海に移動して中国のSSBN掃討に従事し、破滅的な核報復を誘発する可能性があると指摘している。
(4) JL-3の導入により、中国のSSBNは南シナ海に留まることができ、SLBM発射のために西太平洋に出撃する必要がなくなる。そして、中国は南シナ海を陸上ミサイル、航空機、海軍力、要塞化された島や地形で守られたSSBNの聖域として利用することになる。南シナ海は半閉鎖的な形状をしており、籠城するには理想的である。後方支援の観点からは、中国にとって、比較的近くに指揮統制施設があるため、外洋よりも容易に哨戒を維持できる。さらに、南シナ海は海上交通路に跨がっているため、水中の雑音環境は中国SSBNの被探知を困難にする。
(5) SSBNの能力開発は、中国が現在進めている核兵器の増強と関連している。Asia Times紙は3月、中国は核兵器を現在の約400発から2035年までに1,500発に拡大する計画であると指摘した。より大規模で多様な核兵器は、中国の第2撃力を高め、核兵器の使用を脅かすのに有利な立場になる。中国が第2撃力を維持するには、700発の核弾頭で十分であり、限定的な戦域レベルの核攻撃も可能とされている。さらに、より大規模で多様な核兵器は、中国が危険にさらすことができる目標の数と種類を増加させ、核攻撃の目標として米国の空母打撃群やハワイやグアムなど太平洋に散在する島嶼基地も含まれる可能性がある。しかし、中国のSSBNが24時間体制で南シナ海を哨戒できても、海中の聴音機や上空からの捜索に探知されないとは言えない。
(6) The National Interest誌2020年11月の記事では、米海軍のフィッシュフック(Fish Hook、釣り針の意)海底防衛線について触れている。これは、中国北部の海岸から始まり、台湾、フィリピン、インドネシアまで続く、ハイドロフォン(潜水艦あるいは艦船の発する音を水中で聴知するためのマイクロフォン)、センサー、戦略的に配置された艦艇、航空機の探知網である。この存在により、中国のSSBNは探知されずに南シナ海を離れることができなくなり、SSBNが隠密性を維持するために海が与えてくれる空間と距離の優位性が取り除かれると報じている。
(7) 中国のSSBNは、ミサイルを発射して米国本土を脅かすために南シナ海から出る必要はないが、南シナ海という海域に閉じ込められているため、容易に追跡できるかもしれない。Asia Times紙は3月、米国とその同盟国が中国の潜水艦を追跡するために、オーストラリアが計画している衛星メッシュの利用を指摘した。メッシュとは、高解像度の衛星画像や合成開口レーダーなどのセンサー技術の進歩を特徴とし、水中音響の監視や公開された情報と組み合わせることで、2050年までに海洋を「透明化」し、潜水艦が現在持つ隠密性の利点を否定するというものである。
記事参照:China intensifies nuclear strike threat in South China Sea.

4月5日「中国抑止とウクライナ支援―米ジャーナリスト論説」(Asia Times, April 5, 2023)

 4月5日付の香港のデジタル紙Asia Times は、元ウォール・ストリート・ジャーナル紙のアジア特派員で、現在は農業や気候を専門とする雑誌DTN/The Progressive Farmerの名誉編集員Urban C. Lehnerの“America’s will in Taiwan is at stake in Ukraine”と題する論説を掲載し、そこでUrban C. Lehnerは中国による台湾侵攻の抑止のために、米国は従来の戦略的曖昧さを維持しつつ、ウクライナへの支援も継続し、侵略を許さない意思を示し続けるべきだとして、要旨以下のように述べている。
(1) 最近、米国によるウクライナへの兵器支援を批判する人びとがいる。彼らは米国にとって中国の方が懸念すべき敵対相手であり、軍事力による台湾奪取をさせないために、台湾に兵器供与すべきだと訴える。彼らは、半分は正しい。中国による台湾の軍事侵攻は止めなければならないが、ウクライナを見捨てることでその効果は半減してしまう。むしろ台湾が今欲しているのは、民主主義を一貫して守るという米国の強い意思の表明である。
(2) 米国は、40年前に中国と外交関係を樹立してから、中国による台湾の平和的再統一は認めるが、軍事支配は許容しないという立場を示してきた。他方、1979年の台湾関係法の下で米国は台湾に防衛兵器を供与してきた。米国の台湾政策は、戦略的曖昧さと呼ばれるもので、台湾が攻撃された場合に米国が防衛に乗り出すかどうかを明言せず、中国に推測を委ねるというものであった。習近平が国家主席に就任するまで、それはうまく機能していた。
(3) しかし、習近平体制下の中国では我慢強さが失われていき、軍事的侵攻が選択肢に加えられた。その結果、米国の対外政策関係者のなかに、米国が戦略的曖昧さを放棄し、介入を約束すべきだと主張する者が出てきた。そしてBiden大統領は、台湾防衛に関する関与を幾度も表明してきた。ただしホワイトハウスは、米国の台湾政策に変更はないという声明を何度も発している。
(4) ウクライナへの支援によって、米国は、自分たちは必要されていることを行う意思を持っているという合図を中国に送っている。しかし民主主義国家の世論は、容易に戦争反対へと転換しうるので、意思を持ち続けることが困難になる。ベトナム戦争において北ベトナムが勝利できたのはそうした意思を持続できたからであり、米国はそうではなかった。
(5) ウクライナ戦争においてロシアは、ウクライナ支援の意思を弱めることを狙っている。米国国民は、この戦争は一方の国がもう一方の国家の存続する権利を否定している戦争だと理解しなければならない。中国や、アジアの米国の同盟国は事態を注視している。もし米国がウクライナを見捨てれば、同盟国の中には中国につくことや、自前の核兵器を保有することを選択する国も出てこよう。それは米国の利益にならない。
(6) 米国がなすべきこととして、外交的には、一つの中国という方針を受け入れ、台湾が独立を宣言することで中国を挑発しないようにすることがある。他方軍事的には、米国は台湾を徹底的に武装すべきである。米国が戦略的曖昧さを放棄することで得られるものはほとんどない。中国も米国も、約束とは言葉にすぎないことを理解している。
(7) 中国は、長い目でこの問題を考えることが必要であるが、米国としてはそれを期待できない。したがって抑止力が必要になる。行動は言葉よりも大きな効果を持つ。ウクライナへの支援は、戦略的曖昧さの放棄よりも大きな抑止効果を持つであろう。中国の軍事的な台湾支配を回避するためにわれわれがとりうる最良の方法は、ロシアによるウクライナの軍事的支配を食い止めることである。
記事参照:America’s will in Taiwan is at stake in Ukraine

4月6日「フィリピンにおける米中対立の地方化:カガヤン州の事例から―フィリピン専門家論説」(FULCRUM, April 6, 2023)

 4月6日付のシンガポールのシンクタンクThe ISEAS -Yusof Ishak Instituteが発行するウエブサイトFULCRUM は、University of the Philippines Diliman政治学教授Aries A. Arugaynの“The Curious Case of Cagayan: Localisation of U.S.-China Rivalry in the Philippines”と題す論説を掲載し、Aries A. Arugaynは2022年発表された防衛協力強化協定の拡大に言及し、地方分権的なフィリピンにおいては米中対立が今後地方化していくだろうとして、要旨以下のように述べている。
(1) フィリピンのMarcos Jr.政権は、防衛協力強化協定(EDCA)の復活や、西フィリピン海において中国に強硬な態度をとるなど、同国の外交政策を変化させている。こうした変化の背景には、超大国間の競合の舞台として、フィリピンの地方政府などが重要な役割を演じていることがある。
(2) 2022年11月、フィリピン軍は、EDCAの履行に関して米軍が利用可能な軍事施設を5ヵ所追加すると発表した。そのすべてはフィリピン北部に位置し、うち2ヵ所は台湾に近いカガヤン州に位置している。EDCAは2014年に締結され、フィリピンの軍事施設を米軍が利用するのを認めたものであったが、Duterte政権の間はほとんど無効状態にいあった。
(3) 新しく追加された5ヵ所に関する発表は、Department of Foreign Affairsの公式発表に先んじて行われた。Marcos Jr.政権は、本来、軍事施設がある地方政府関係者などとの事前協議を意図していたが、それは実施されなかったようだ。即座にカガヤン州知事のManuel Mambaはその提案を拒絶した。事前協議がなかったことを別にしても、彼はフィリピンが米軍による台湾防衛の足場になることを警告したのである。また、そもそも彼はEDCAの役割に懐疑的であった。現大統領の姉Imee Marcosも反EDCAの立場を打ち出した。彼女は、新たな軍事施設の追加が、現地当局の合意なしに米軍に押しつけられたものだと批判し、また、EDCAによってフィリピンが中国の「正当な標的」になることを警告した。
(4) Imee Marcosの主張は核心を突いていた。米国も中国もカガヤン州の地理戦略的重要性を理解しており、Duterte大統領はたとえば、西フィリピン海における米比の共同軍事演習は中国に対して挑発的にすぎると訴えていた。Mamba知事も同様であり、2021年と2022年に計画されたカガヤン州近辺での実弾演習は地元の反対もあって頓挫することになった。
(5) Mamba知事は中国を怒らせたくないという立場を採ったが、それは同地域における大国の影響力の大きさを示唆している。中国は、カガヤン州に対する最大の投資国ではないが、一帯一路政策による投資を進めており、たとえばチコ川灌漑用水汲み上げ計画は、同州において8,700ヘクタールの農場を潤すだろう。むしろ、カガヤン州に対する中国の投資は、インフラに対するものよりも、カガヤン経済特区を通じたPOGOとして知られるオンライン・カジノに対するものが有力である。これに関してフィリピン・メディアは、租税回避の問題やPOGOで活動する中国人の不法滞在の問題を取り上げている。いずれにしても、こうした事例が示唆するのは、同州における中国の存在感が強まっているということである。これに対してMarcos Jr.大統領はPOGOの再検討を提案している。
(6) しかし、EDCAに対するカガヤン州の反対はすぐに撤回されることになる。3月6日に選挙管理委員会が、2022年の選挙でMamba知事が法令違反を起こしたことで彼を罷免すべきだという裁定を覆したのである。その後知事は批判のトーンを弱め、EDCAに関する計画を受け入れたのだ。何らかの取引があったのだろう。
(7) カガヤン州の事例は、米中対立が現在、地方化しているという事実である。今後、米中対立の強まりは、国家と地方政治の力学という文脈において考慮されるであろう。超大国は地元への影響力を強めようとし、地方の政治指導層は、大国間競合を利用して自身の利益を追求するようになっていくだろう。
記事参照:The Curious Case of Cagayan: Localisation of U.S.-China Rivalry in the Philippines

4月8日「中国軍が台湾を包囲する軍事演習を実施―中国政府系メディア報道」(Global Times, April 8, 2023)

 4月8日付の中国政府系紙環球時報英語版Global Times電子版は、“PLA holds combat alert patrols, joint drills encircling Taiwan island after Tsai-McCarthy meeting”と題する記事を掲載し、台湾の蔡英文総統が米下院議長Kevin McCarthyと会談を行った後、中国軍が台湾を包囲する軍事演習を開始したことについて、要旨以下のように報じている。
(1) 中国東部戦区司令部は4月8日の朝、8日から10日まで予定されている、戦闘警戒哨戒と統合演習によって、台湾島に対する4方向からの包囲を開始したと発表した。専門家たちは、この動きは制裁に加えて、先日の台湾地域の指導者である蔡英文と米下院議長Kevin McCarthyとの会談に対する強力な反応を示していると述べている。この訓練は、蔡英文が現地時間の4月6日にカリフォルニアでMcCarthyと会談した後、7日に台湾島に戻ったわずか1日後に開始された。
(2) 中国本土の軍事評論家宋忠平によれば、この哨戒と訓練は台湾島を四方から包囲し、実質的に封鎖して孤立させ、外国の干渉する軍隊が入ることも台湾島の軍隊が出ることもできないようにするという。
(3) 中国軍の軍事活動は、戦闘警戒パ哨戒と統合演習の2つに分けられる。戦闘警戒哨戒は通常、部隊を重要な場所に配置し、異常がないかを警戒させるもので、統合演習は通常、複数の軍隊や軍事部門が戦闘のための演習をするものだと、匿名希望の中国本土の別の軍事専門家が4月8日に環球時報に語っている。この場合、軍艦と軍用機が台湾島を取り囲み、実戦的な訓練を行うことが予想され、国家主権と領土保全を守るための中国軍の確固たる意志と強力な能力を示すと、その専門家は述べている。
(4) 中国福建省海事局は4月7日に航行警報を出し、台湾海峡で分断された台湾島からわずか約130kmしか離れていない平潭の沖合の海域で、4月10日に実弾射撃訓練が実施されることを明らかにした。
(5) また、4月7日に出された同管理局による別の航行警報によると、平潭の北約90kmにある福州沖の海域で、4月8日、11日、13日、15日、17日、20日にも実弾射撃訓練が行われる予定だという。
(6) 台湾島の「防衛当局」と日本の防衛省統合幕僚監部の報道発表によると、中国海軍の「山東」空母打撃群は、4月5日までに台湾島の南東にある西太平洋海域に到着したと伝えられている。
記事参照:PLA holds combat alert patrols, joint drills encircling Taiwan island after Tsai-McCarthy meeting

4月10日「EDCA拡大は中国を刺激した―フィリピン紙報道」(The Manila Times, April 10, 2023)

 4月10日付のフィリピン紙The Manila Timesは、“ Has expanded EDCA provoked China to advance date of Taiwan invasion?”と題する記事を掲載し、中国は挑発行為に対して自国に有利になるよう行動した前例があることから、フィリピンがEDCA拡大により米国に認めた基地使用に対して、中国は大きく反応して自らが有利になるような行為に出るとして、要旨以下のように報じている。
(1) 米国とフィリピン間の防衛協力強化協定(以下、EDCAと言う)の下、フィリピンは2014年に5つの基地の使用を約束し、2023年2月に追加して4つの基地使用を米国に認めた。この2ヵ月後、中国人民解放軍は4月8日から3日間、台湾島周辺で軍事演習を行うと発表した。中国の国営メディアによると、この訓練は海軍と空軍による台湾島の包囲を伴うものとされている。欧米メディアは、台湾の蔡英文総統とKevin McCarthy米下院議長がカリフォルニアで会談したことへの反応として、「厳重な警告」と報じた。しかし、その会談は4月5日であり、そのわずか2日後に、長距離ロケット砲、海軍の駆逐艦・ミサイル艇、空軍の戦闘機・爆撃機・妨害機・補給機を含む軍事演習を命じることができるだろうか。
(2) これは中国が、米国による2月3日のEDCA拡大発表直後に、台湾侵攻を想定した演習を行うことを決定し、米軍関係者が予測する2027年という時間を早めたと考える方が合理的に思える。新しい演習場が特定される前から、フィリピンの将軍たちは、少なくとも2つはルソン島北部にあることを明らかにしていた。そして、4つの新拠点のうち3つがルソン島北部にあり、いずれも台湾に面していることから、米軍が中国の侵略を阻止するため、台湾を支援するための前方作戦基地として意図されていることが明らかになっていた。
(3) 先日、フィリピン大学で行われたメディア・フォーラムで、北京大学の胡亥教授は、EDCAで追加された4ヵ所の意味合いについて問われ、「フィリピンは行き過ぎたかもしれない」と答えている。胡亥教授は中国指導部の心情を代弁したのだろう。フィリピンが台湾に近い基地を米国に提供することは、明白な危険を意味する。中国人民解放軍の報道官は、この演習について「台湾独立を求める分離主義勢力と外部勢力が結託し、挑発的な活動を行うことに対する厳重な警告となる」と語っている。
(4) 2月3日にEDCAの新拠点が発表された際、中国外交部の報道官は、米軍が台湾に面したルソン島北部のフィリピン基地を使用することが挑発的であることを暗に示した上で、両岸の緊張を高めているのは中国側ではなく、台湾の「台湾独立」勢力とそれを支援する特定の国であって、誰が何のために台湾海峡の緊張を煽っているのか、地域諸国がはっきりと認識し、火中の栗を拾わないことを望むとも述べている。
(5) 中国は挑発に対して、最後には自らが有利になるように、大々的に対応してきた過去がある。
a. 2012年、当時のBenigno Aquinoフィリピン大統領は、米国が前年に供与した国内最大のフリゲート「グレゴリオ・デル・ピラール」をスカボロー(パナタグ)浅瀬に投入した。Philippine Navyの特殊作戦部隊は、礁湖に停泊中の中国漁船に乗り込み、海洋絶滅危惧種と称するものを押収し、漁師を逮捕した。しかし、中国漁民と公船2隻が駆けつけ、礁湖への入り口を封鎖した。中国もこの珊瑚礁の領有権を主張したが、この地域は中国、フィリピン、ベトナムの漁民に開放されているというのが数十年来の慣例であった。Aquino大統領は、Philippine Navyの艦艇がこの地域を軍事化し、中国に高い道徳的立場を与えていると指摘されたことから、すぐに艦艇を退去させ、公船3隻だけを残した。米国はKurt Campbell米国務次官補(アジア担当)を通じて、Aquino大統領とAlbert del Rosario外相を騙し、中国がこの地域を明け渡すことに合意したのでフィリピンの艦船も退去すべきだと告げた。しかし、中国はそのようなことに同意しておらず、フィリピン船が退去した後、浅瀬は実質的に中国に占領された。Aquino大統領は中国を挑発し、その結果、中国の反応がフィリピンにとって大失敗となるスカボロー諸島の喪失を招いたのである。
b. 2013年、Aquino大統領とRosario外相は、米国から後押しされ、最高裁判事Antonio Carpioの助言を信じて、2013年に中国を相手に仲裁訴訟を起こした。仲裁委員会に求められたのは、中国が占有していたパナタグと他の7つの岩礁の明け渡しで、その決定は、米国によってフィリピンの勝利として描かれているが、それは全く役に立たないものであった。仲裁委員会は、南シナ海における中国の主権主張については裁定を下さなかった。フィリピン側は、南シナ海の大半を囲む九段線は、1935年に初めて地図上に描かれたもので、国連海洋法条約に基づく根拠はないと主張した。しかし、南沙諸島における中国の主張は、この線に基づくものではなく、公式の地図や宣言、そして南沙諸島最大の島であるイトゥアバの場合は第2次世界大戦以前からの占領など、まったく独自の主張によるものであった。中国はこの訴訟に参加しなかったが、裏で巨大な報復を行った。南沙諸島の7つの岩礁を2014年から2015年にかけて埋め立て、軍事施設化できるような滑走路や港湾などの施設を備えた人工島へと変貌させた。米国は、この工事を無力に見守ることしかできなかった。この埋め立てにより、中国は南沙諸島で最も広い乾いた土地を所有し、最も発達した基幹施設を持つ領有者となった。中国は仲裁訴訟という挑発行為によって、結果的に南シナ海で圧倒的な地位を占めるようになったのである。
(6) このような前例から、中国がフィリピンの台湾向け基地使用許可に大きく反応することは間違いない。今後は、スカボロー諸島を人工島に変えること、次いで、フィリピンとの貿易を縮小していくことが考えられる。
記事参照:Has expanded EDCA provoked China to advance date of Taiwan invasion?

4月10日「深海資源をめぐる地政学的な難題―米国専門家論説」(Situation Report, Geopolitical Monitor, April 10, 2023)

 4月10日付カナダ情報誌Geopolitical Monitorのウエブサイトは、米国アリゾナ州フェニックスを拠点に活動する教育者で政治問題著述家Arman Sidhuの〝Troubled Waters: The Geopolitics of Deep-Sea Mining″と題する論説を掲載し、ここでArman Sidhuは深海の資源獲得を巡って各国がしのぎを削っており、International Seabed Authority(国際海底機構)による国際基準策定ができるかどうかで地政学上の対立がより深まる可能性があるとして、要旨以下のように述べている。
(1) International Seabed Authority(国際海底機構:以下、ISAと言う)は、2023年7月に深海鉱山の採掘申請を受け付けることを決定し、地政学的な競争の場として海底資源が新たな関心を集めている。科学的研究の不足や環境への影響についての懸念はあるものの、深海採掘の機運は、「バッテリーメタル」の世界的需要に端を発している。コバルト、ニッケル、マンガン、レアアースなどの有望な鉱床は、すべて深海採掘に関連しており、中国、ロシア、ノルウェーは、この新しい産業に最も熱心な国の一つである。
(2) 深海鉱業は、数百万年かけて海底に形成された団塊、地殻、その他の鉱床を採掘する。これらの鉱脈は数千mもの深さにあるため、多額の設備投資と特殊な技術設備が必要となる。他方、深海採掘による影響を懸念するグリーンピースなどのNGOや、フランス、ドイツ、チリ政府等は、採掘を一時停止するよう求めている。そのため、ISAは深海掘削の基準や規制の策定を段階的に進めることにした。しかし、規制策定の猶予はあと3ヵ月しかなく、既存の懸念が解決される可能性は低いと思われる。
(3) 環境への影響に加え、深海鉱業の地政学的な影響も懸念される。規制の枠組みの動きが遅いことから、この業界は、海底採掘に必要な資本、設備、技術的知識を有する一握りの国によって支配されている。特に海上国境と資源の権利に関する主張が競合する海域で、既存の地政学的緊張を悪化させる可能性がある。現在、深海鉱業はカナダ、中国、日本、韓国、ロシアが中心で、ノルウェーも重要な投資国として浮上している。
(4) ロシアが北極海に進出したことで、ロシアがこの海域の資源を支配するのではないかという懸念が広がっている。また、メキシコとハワイの間の太平洋に位置するクラリオン-クリッパートン地帯(以下、CCZと言う)も、特に懸念される地域である。CCZには210億トンの団塊が埋蔵されていると推定され、ロシア、中国、米国がその支配権を争っている。
(5) 深海採掘の拡大は、これらの国の海軍の意思決定や戦略に影響を与える。米国にとって深海鉱業は、重要鉱物の海外依存を減らし、国内のサプライチェーンの抗堪性を高めるものである。中国にとって深海鉱業は、「Made in China 2025」戦略に適合し、高度に専門化した技術分野における自国の技術革新を重視するもので、この分野における中国企業の経済的意思決定を主導すると期待されている。
(6) 国家の安全保障とサプライチェーンの所要が関連付けられることで、国有企業も民間の防衛関連企業も、深海鉱業への投資機会を評価するようになった。しかし、操業に必要な諸経費が膨大であることに加え、規制の枠組みがあいまいなことから、この業界からの撤退を余儀なくされた企業もある。
(7) 深海鉱業は、大国間競争への影響にとどまらず、従来、国際政治の周縁で活動してきた島嶼国の地政学的な影響力を高める可能性がある。パプアニューギニアやナウル等は、近隣諸国から採掘一時停止を支持する声が上がっているにもかかわらず、鉱物資源の活用を進めたいという意向を示している。7月までに国際基準が策定されない場合、島嶼国は、深海鉱業を推進しようとする強国や世界的な鉱山企業の外圧や影響にさらされる可能性がある。
(8) 深海鉱業が普及するにつれ、領土、資源権、環境規制等の問題をめぐって地政学的な対立が生じる可能性がある。ISAは合意に基づく規範作りで定評があるが、深海鉱業規範を策定するための予定線表を早める必要があり、さらに加盟国内部でも、また国際的にも、採掘への反対と意見の不一致を克服する必要がある。ISAが7月の期限までに妥協点を見いだせるかどうかは、地政学的に重要な意味を持ち、ISAにとってこれまでで最大の試練となる。
記事参照:Troubled Waters: The Geopolitics of Deep-Sea Mining

【補遺】

旬報で抄訳紹介しなかった主な論調、シンクタンク報告書

(1) China’s and India’s Relations with Russia after the War in Ukraine: A Dangerous Deviation?
https://www.fpri.org/article/2023/04/chinas-and-indias-relations-with-russia-after-the-war-in-ukraine-a-dangerous-deviation/
Foreign Policy Research Institute, April 5, 2023
By Felix K. Chang, a senior fellow at the Foreign Policy Research Institute
 2023年4月5日、米シンクタンクForeign Policy Research Institute上席研究員Felix K. Changは、同シンクタンクのウエブサイトに" China’s and India’s Relations with Russia after the War in Ukraine: A Dangerous Deviation? "と題する論説を寄稿した。その中でFelix K. Changは、中国とインドは現在も続くロシア・ウクライナ戦争において、ロシアに対して概ね同じ様な2国間の取り組みを採ってきたが、それは両国ともロシアへの非難を控え、ロシアとの貿易を継続し、欧米の強力な経済・外交的対抗策から距離を置くというものであると指摘した上で、こうした中印両国の取り組みは過去のロシアとの関係、米国との特別な関係、中国政府とインド政府間の力の釣り合いの変化に根ざしていると解説している。そしてFelix K. Changは、中印両国の対ロ関係がこれからどのように変化するかという点について、この問題は両国の今後の国際社会における力の均衡を規定してきた力学を変化させ、アジアにおける緊張を高めることにつながるだろうとし、今後インドは、対中関係を見据えて日米豪との関係強化を志向するのではないかと主張している。

(2) Are Americans Willing to Die for Taiwan?
https://www.theamericanconservative.com/are-americans-willing-to-die-for-taiwan/
The American Conservative, April 6, 2023
By Doug Bandow, a Senior Fellow at the Cato Institute
 4月6日、米シンクタンクCato Institute上席上級研究員Doug Bandowは、米誌The American Conservativeのウエブサイトに、“Are Americans Willing to Die for Taiwan?”と題する論説を寄稿した。その中で、①ワシントンでは、台湾をめぐって、米国の潜在的な競争相手である中国と戦争するリスクを冒すことに圧倒的な支持がある。②台湾では、中国に支配されたいと思っている人はほとんどいないが、台湾政府は軍事への本格的な投資を拒んでいる。③紛争がどのように終結しても、敵意、不安定さ、不和は、数年間は続き、中国が勝利した場合、その跡には広範な荒廃と恐怖が残るだろう。④中国が敗北すれば、さらに民族主義的で強硬な政権が誕生する可能性が高い。⑤米国も戦争を口にするが、その代償を計算することはない。⑥米国の同盟国が反中国連合に参加するという保証もない。⑦台湾を巻き込んだ机上演習のほとんどは、米国の敗北に終わっている。⑧外国の民主主義を守ることは、米国の民主主義とその国民を危険にさらす十分な理由にはならない。⑨対立の代償は計り知れず、台湾を破壊し、米国と中国の未来を破滅させ、世界中に大災害を広げるだろうといった主張を述べている。

(3) America Needs a “Cold War” Strategy for China
https://nationalinterest.org/feature/america-needs-%E2%80%9Ccold-war%E2%80%9D-strategy-china-206388
The National Interest, April 7, 2023
By Randy Schriver, Chairman of the China Economic & Strategy Initiative
Dan Blumenthal, Senior Fellow at the American Enterprise Institute, the Vice Chairman of the China Economic & Strategy Initiative
 2023年4月7日、米シンクタンクChina Economic & Strategy Initiative会長Randy Schriverと米The American Enterprise Institute上席研究員Dan Blumenthalは、米隔月刊誌The National Interest電子版に" America Needs a “Cold War” Strategy for China "と題する論説を寄稿した。その中で両名は、中国は何十年もの間、自由で開かれた国家共同体の一員として与えられてきた特権を自らの支配欲のために組織的に乱用してきたと厳しく断じた上で、率直に言って、米国はこの挑戦に立ち向かうのがあまりにも遅すぎたと指摘している。そして両名は、中国に勝利するために米国が持つ多くの政策手段を整理・調整する包括的な戦略は、特に経済分野ではまだ存在しないとし、中国からの脅威に立ち向かうことは困難であり、犠牲を必要とするが、しかし米国はすべての国のための自由で開かれた秩序を守るためにこれまで数十年にわたって投資してきた様々な手段や関係性を活用した正しい戦略によって、勝利することができると主張している。