海洋安全保障情報旬報 2023年3月1日-3月10日
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3月1日「フィリピンと日本は防衛関係の強化を目指しているが、誰もが熱心というわけではない―フィリピン専門家論説」(South China Morning Post, March 1, 2023)
3月1日付の香港日刊英字紙電子版South China Morning Postは、Polytechnic University of the PhilippinesのRichard Javad Heydarianの〝As the Philippines and Japan look to upgrade defence ties, not everyone is enthusiastic about it″と題する論説を掲載し、ここでRichard Javad Heydarianはフィリピンと日本の防衛関係強化の動きに関して、フィリピン国内の反対勢力や日本の憲法改正問題に対する公明党の姿勢が課題となるほか、中国の報復行動等について考慮する必要があるとして、要旨以下のように述べている。
(1) 戦後のフィリピンと日本は、貿易、投資そして最近の防衛分野での協力によって、安定した友好関係を築いてきたが、新たな軍事協定を結ぶには、フィリピンの親中派と日本の平和主義憲法と戦わなければならない。
(2) 2017年、フィリピンの前大統領Rodrigo Duterteは、日本の安倍晋三首相(当時)との会談で、「我々の友情は特別であり、その価値は計り知れない」と宣言した。西側諸国との関係が不安定で、中国やロシアに接近しようとしたにもかわらず、Rodrigo Duterte前大統領は常に日本を特別に尊重していた。安倍首相はDuterte政権の2017年初めにマニラを訪問した最初の外国人指導者であった。Rodrigo Duterteに限らず、日本は最近のフィリピンの指導者たちから高い評価を得てきた。Benigno Aquino元大統領は、在任中に6回も日本を訪れ、戦略的協力関係を拡大した。また、現大統領のFerdinand Marcos Jr.は、2国間の関係の深さを考えると、今回の訪日は「必要不可欠なもの」としている。
(3) 過去10年間、着実に深化してきた戦略的協力関係を背景に、フィリピンと日本は新たな段階に立とうとしている。特に日本は、東南アジアにおける提携国であるフィリピンに多くの部隊を派遣し、総合的な2国間軍事演習を実施するため、新たな防衛協定を結ぼうとしている。しかし、こうした計画はフィリピンでは、特に中国に近い指導層、進歩的な市民社会グループ、国粋主義的な議員の間で、激しい抵抗に遭う可能性がある。また、日本は平和主義を掲げる憲法を改正しておらず、軍事力の攻撃的な行使を明確に禁じている。
(4) フィリピンと日本との関係は、歴史的に見てもジェットコースターのように激変した。第2次世界大戦後、日本は2国間関係の回復に成功し、1960年代半ばにはアジア開発銀行の主人役としてフィリピンを支援した。その後数十年の間に、日本はフィリピンの主要な貿易・投資提携国としての地位を確固たるものにした。2000年代半ばには、日比経済連携協定を締結した。この協定は、フィリピンと他の主要経済国との間で結ばれた唯一の2国間自由貿易協定である。その後、南シナ海での海洋紛争が深刻化する中、Benigno Aquino大統領が日本との軍事関係の緊密化を支持したことで、2国間関係は新たな方向へと進んだ。
(5) 2022年、日本、フィリピン両国の国防相と外相による初の「2プラス2」対話が行われた。同盟国との防衛関係を急速に拡大したMarcos Jr.の下で、日本は、軍事作戦能力を高める相互アクセス協定と大規模な2国間軍事演習や高度な装備品の移転を促進する訪問軍地位協定(以下、VFAと言う)を追求している。
(6) 2国間の防衛関係を大きく進めることは、3つの面で抵抗に直面することになる。まず、米国との防衛関係を拡大するという Marcos Jr.の決定には、中国との緊張激化や外国勢力への過度の依存を懸念するフィリピン国内の中国寄りの勢力や進歩的な勢力を激昂させている。フィリピンと同盟条約を結んでいない日本とのVFA形式の協定は、より強い反対に遭うに違いない。
(7) さらに日本は、今日に至るまで第2次世界大戦中のいわゆる慰安婦に十分な謝罪と相応の補償をしていない。したがって、市民社会グループや進歩的な議員たちは、フィリピンと日本の大規模な軍事協定には間違いなく反対するであろう。Rodrigo Duterte前大統領の支持者や多くの地方政府指導者を含むフィリピンの中国寄りのグループもまた、これに追随するであろう。拡大する日本とフィリピンの軍事協力は、中国に対抗する米国、フィリピン、日本のより広範な三者同盟の一部となる。したがって、中国が報復として、特にフィリピンの領海での軍事力の展開を拡大し、東南アジア諸国への投資の約束を撤回する危険性があるのは明らかである。
(8) 最後に、日本は国内でも課題に直面している。特に憲法第9条は、日本が海外に軍事力を展開する能力を制限している。憲法改正を支持する世論の変化にもかかわらず、日本の現指導部がこの重要な問題をめぐり、自民党内や公明党との分裂を回避できるかどうか不明である。つまり、フィリピンの指導者が日本との関係を「必要不可欠」と考えていることは間違いないが、それでも2国間の軍事協力の拡大計画が順風満帆に進むとは限らない。
記事参照:As the Philippines and Japan look to upgrade defence ties, not everyone is enthusiastic about it
(1) 戦後のフィリピンと日本は、貿易、投資そして最近の防衛分野での協力によって、安定した友好関係を築いてきたが、新たな軍事協定を結ぶには、フィリピンの親中派と日本の平和主義憲法と戦わなければならない。
(2) 2017年、フィリピンの前大統領Rodrigo Duterteは、日本の安倍晋三首相(当時)との会談で、「我々の友情は特別であり、その価値は計り知れない」と宣言した。西側諸国との関係が不安定で、中国やロシアに接近しようとしたにもかわらず、Rodrigo Duterte前大統領は常に日本を特別に尊重していた。安倍首相はDuterte政権の2017年初めにマニラを訪問した最初の外国人指導者であった。Rodrigo Duterteに限らず、日本は最近のフィリピンの指導者たちから高い評価を得てきた。Benigno Aquino元大統領は、在任中に6回も日本を訪れ、戦略的協力関係を拡大した。また、現大統領のFerdinand Marcos Jr.は、2国間の関係の深さを考えると、今回の訪日は「必要不可欠なもの」としている。
(3) 過去10年間、着実に深化してきた戦略的協力関係を背景に、フィリピンと日本は新たな段階に立とうとしている。特に日本は、東南アジアにおける提携国であるフィリピンに多くの部隊を派遣し、総合的な2国間軍事演習を実施するため、新たな防衛協定を結ぼうとしている。しかし、こうした計画はフィリピンでは、特に中国に近い指導層、進歩的な市民社会グループ、国粋主義的な議員の間で、激しい抵抗に遭う可能性がある。また、日本は平和主義を掲げる憲法を改正しておらず、軍事力の攻撃的な行使を明確に禁じている。
(4) フィリピンと日本との関係は、歴史的に見てもジェットコースターのように激変した。第2次世界大戦後、日本は2国間関係の回復に成功し、1960年代半ばにはアジア開発銀行の主人役としてフィリピンを支援した。その後数十年の間に、日本はフィリピンの主要な貿易・投資提携国としての地位を確固たるものにした。2000年代半ばには、日比経済連携協定を締結した。この協定は、フィリピンと他の主要経済国との間で結ばれた唯一の2国間自由貿易協定である。その後、南シナ海での海洋紛争が深刻化する中、Benigno Aquino大統領が日本との軍事関係の緊密化を支持したことで、2国間関係は新たな方向へと進んだ。
(5) 2022年、日本、フィリピン両国の国防相と外相による初の「2プラス2」対話が行われた。同盟国との防衛関係を急速に拡大したMarcos Jr.の下で、日本は、軍事作戦能力を高める相互アクセス協定と大規模な2国間軍事演習や高度な装備品の移転を促進する訪問軍地位協定(以下、VFAと言う)を追求している。
(6) 2国間の防衛関係を大きく進めることは、3つの面で抵抗に直面することになる。まず、米国との防衛関係を拡大するという Marcos Jr.の決定には、中国との緊張激化や外国勢力への過度の依存を懸念するフィリピン国内の中国寄りの勢力や進歩的な勢力を激昂させている。フィリピンと同盟条約を結んでいない日本とのVFA形式の協定は、より強い反対に遭うに違いない。
(7) さらに日本は、今日に至るまで第2次世界大戦中のいわゆる慰安婦に十分な謝罪と相応の補償をしていない。したがって、市民社会グループや進歩的な議員たちは、フィリピンと日本の大規模な軍事協定には間違いなく反対するであろう。Rodrigo Duterte前大統領の支持者や多くの地方政府指導者を含むフィリピンの中国寄りのグループもまた、これに追随するであろう。拡大する日本とフィリピンの軍事協力は、中国に対抗する米国、フィリピン、日本のより広範な三者同盟の一部となる。したがって、中国が報復として、特にフィリピンの領海での軍事力の展開を拡大し、東南アジア諸国への投資の約束を撤回する危険性があるのは明らかである。
(8) 最後に、日本は国内でも課題に直面している。特に憲法第9条は、日本が海外に軍事力を展開する能力を制限している。憲法改正を支持する世論の変化にもかかわらず、日本の現指導部がこの重要な問題をめぐり、自民党内や公明党との分裂を回避できるかどうか不明である。つまり、フィリピンの指導者が日本との関係を「必要不可欠」と考えていることは間違いないが、それでも2国間の軍事協力の拡大計画が順風満帆に進むとは限らない。
記事参照:As the Philippines and Japan look to upgrade defence ties, not everyone is enthusiastic about it
3月2日「中国に関する前提を再考する―米専門家論説」(Real Clear Defense, March 2, 2023)
3月2日付の米国防関係ウエブサイトReal Clear Defenseは、National Institute for Deterrence Studies上席研究員Robert Petersの” Rethinking Assumptions About China”と題する論説を掲載し、ここでRobert Petersは米中間の紛争、特に核兵器の使用を伴う紛争が発生した場合の利害関係を考えると、中国に関する前提の検証を始めなければならないとして、要旨以下のように述べている。
(1) 米国にとってのウクライナ戦争の教訓は、大国が抱く自国の軍事力への期待や前提が古くなったため、戦場で思いがけず敗北を喫したことであろう。米中関係は、将来の戦場で革新的な中国が歴史的に優れた米国を凌駕し、多くの仮定を打ち砕くという局面にあるのかもしれない。米国が広く抱いている仮定に、中国指導部は紛争を嫌い、米国との戦争を恐れているという考えがある。しかし、最近の軍事演習や習近平の発言からすると、そのような仮定はもはや通用しない。さらにもう1つ、米国とその同盟国が西太平洋で圧倒的な通常戦力の優位性を享受しているという仮定は、最近の中国の軍事力増強を考えれば、真実とは言い難い。
(2) 中国は、毛沢東の時代から核兵器の先制不使用を公言しているが、最近の中国の軍備増強は、これが信頼に足るかどうかという問題を提起している。これまで中国政府は、その誕生以来、最小限の抑止力を維持し、都市やその他の価値の高い目標を攻撃するための小さな核戦力を必要としてきた。近年、中国は核戦力を拡大・近代化し、戦域にわたる実用性を備えるようになった。DF-21、DF-26および空中発射弾道ミサイルは、戦域レベルの任務のため設計されている。米国はアジアにおいて航空発射巡航ミサイルを除いて、戦域レベルの核兵器を保有していないことから、太平洋における戦域レベルでの核支配は中国にある。
(3) 中国が望む核戦力の最終的な規模や形は不明である。しかし、中国政府が米国と同等かそれを上回る核戦力を求めていることは明らかで、ここには戦域核が含まれる可能性がある。米国の国防政策立案者は、中国の現在の核兵器増強が、中国が今後介入する紛争に核の影響力を示そうとする可能性を考慮すべきである。このような増強は、危機や紛争が発生した際の米国の意思決定を複雑にする。軍事衝突の中で、中国の指導者は、優れた核兵器を持つ敵対者に対して核兵器を使用することは合理的な選択と認識するはずである。特に軍事目標に対して使用すれば、報復的な核攻撃の可能性が低くなると考える可能性が高い。中国の発言、戦略・通常戦力の拡大、台湾領空への侵入などを踏まえると、中国が核兵器を使用しないと仮定し続けることはできない。
(4) 中国は核兵器の先制不使用政策をとっているという仮定が有効でないとすれば、我々が考慮すべきは以下のいずれかである。
a.中国は、中国政府が米国との戦争を恐れることよりも、米政府が中国との戦争を恐れていると考えている。
b.中国は米国との対立を望んでいないが、対立を恐れていない。
c.中国政府は、米国が主導する台湾防衛のための連合は脆く、西太平洋全域に広がる紛争への恐怖を利用することで容易に分断できると考えている。
d.中国は、米国の市民社会は台湾をめぐって大規模な戦争をする気はなく、台湾への支援を制限するよう大統領に政治的圧力をかけると考えている。
(5) 実際の紛争がない限り、これらの仮定を検証することは不可能である。しかし、戦時にそれぞれの側がどのように振る舞うかを理解するために、もっともらしいシナリオを仮定することは可能である。たとえば、人民解放軍が台湾への侵攻を開始し、その間に米国をはじめとする自由主義諸国が台湾に大量の軍事援助を行うというシナリオを想定してみる。
a.本格的な侵攻が始まると、米国、日本、オーストラリアは、武力による侵攻に反対と公言する。このシナリオでは、中国が米国及びその連合の意志と力を誤算している。中国共産党は、台湾に大量の地上軍を上陸させるという最初の試みに失敗する。中国国内では、どんな犠牲を払っても紛争に早く勝利し、終結させなければならないという内的圧力が強まる。このような事態に陥った場合、中国は、核兵器を使用することが、勝利を奪い取る最善の方法であると考える。
b.中国は、米国が、非対称的で自国から遠く離れた場所で、限定的な核攻撃を行うことを躊躇していると考えている。さらに中国政府は、限定的な核戦争が一般的な相互核攻撃に拡大することを米政府が恐れることで、最初の核兵器使用後に大統領が戦いを続けることを抑止できると考えているようだ。戦域核システムにおける中国の優位性を考えると、これは必ずしも正しいとは言えないが、妥当な仮定である。
c.米国は台湾に核の傘を張っていないため、中国は、米国の報復核攻撃という高い危険を負うことなく、台湾国内で核兵器を使用することができると考えている。さらに、中国政府は中国本土が聖域であり、中国が太平洋の標的を核攻撃した場合、米国は中国本土をあえて攻撃することはないと考えている。
d.中国が戦闘中の日本の艦船に核兵器を使用した場合、米国の政治体制の中で、それに対応すべきかどうかが激しく議論されることは間違いない。議論の強度と長さはかなりのものになると思われ、それゆえ同盟国や提携国の認識にも影響を与えるだろう。議論そのものが、中国共産党に主導権を取り戻し、目的を達成するための余地を与えるかもしれない。
e.中国が核兵器を使用することには、作戦上、戦略上の利点がある。中国指導部が、台湾をめぐる戦争は失うことのできない重要な国益であると信じている可能性がある。そうでなければ、中国共産党は政権の安定が危うくなることを恐れている。また、米国が中国に敗れるというシナリオを歓迎している可能性もある。特に、その敗因が核使用で、米政府がそれに応じない場合である。太平洋における中国の優位性を示す、これ以上目に見える合図はない。
f.このシナリオでは、中国政府は米国に敗北するよりも核兵器の使用の方が危険性は低いとみなすかもしれない。
(6) 上記の仮定とシナリオはいずれも推測の域を出ないが、中国の思考に関する現在の知見からすれば、現実離れしているわけではない。米国がウクライナ戦争に集中している今、中国を注視し、起きるかもしれない戦争に備えることが重要である。米中間の紛争、特に核兵器の使用を伴う紛争が発生した場合の利害関係を考えると、私たちは今、そうした仮定からなる前提の検証を始めなければならない。そうなってからでは遅すぎるのである。
記事参照:Rethinking Assumptions About China
(1) 米国にとってのウクライナ戦争の教訓は、大国が抱く自国の軍事力への期待や前提が古くなったため、戦場で思いがけず敗北を喫したことであろう。米中関係は、将来の戦場で革新的な中国が歴史的に優れた米国を凌駕し、多くの仮定を打ち砕くという局面にあるのかもしれない。米国が広く抱いている仮定に、中国指導部は紛争を嫌い、米国との戦争を恐れているという考えがある。しかし、最近の軍事演習や習近平の発言からすると、そのような仮定はもはや通用しない。さらにもう1つ、米国とその同盟国が西太平洋で圧倒的な通常戦力の優位性を享受しているという仮定は、最近の中国の軍事力増強を考えれば、真実とは言い難い。
(2) 中国は、毛沢東の時代から核兵器の先制不使用を公言しているが、最近の中国の軍備増強は、これが信頼に足るかどうかという問題を提起している。これまで中国政府は、その誕生以来、最小限の抑止力を維持し、都市やその他の価値の高い目標を攻撃するための小さな核戦力を必要としてきた。近年、中国は核戦力を拡大・近代化し、戦域にわたる実用性を備えるようになった。DF-21、DF-26および空中発射弾道ミサイルは、戦域レベルの任務のため設計されている。米国はアジアにおいて航空発射巡航ミサイルを除いて、戦域レベルの核兵器を保有していないことから、太平洋における戦域レベルでの核支配は中国にある。
(3) 中国が望む核戦力の最終的な規模や形は不明である。しかし、中国政府が米国と同等かそれを上回る核戦力を求めていることは明らかで、ここには戦域核が含まれる可能性がある。米国の国防政策立案者は、中国の現在の核兵器増強が、中国が今後介入する紛争に核の影響力を示そうとする可能性を考慮すべきである。このような増強は、危機や紛争が発生した際の米国の意思決定を複雑にする。軍事衝突の中で、中国の指導者は、優れた核兵器を持つ敵対者に対して核兵器を使用することは合理的な選択と認識するはずである。特に軍事目標に対して使用すれば、報復的な核攻撃の可能性が低くなると考える可能性が高い。中国の発言、戦略・通常戦力の拡大、台湾領空への侵入などを踏まえると、中国が核兵器を使用しないと仮定し続けることはできない。
(4) 中国は核兵器の先制不使用政策をとっているという仮定が有効でないとすれば、我々が考慮すべきは以下のいずれかである。
a.中国は、中国政府が米国との戦争を恐れることよりも、米政府が中国との戦争を恐れていると考えている。
b.中国は米国との対立を望んでいないが、対立を恐れていない。
c.中国政府は、米国が主導する台湾防衛のための連合は脆く、西太平洋全域に広がる紛争への恐怖を利用することで容易に分断できると考えている。
d.中国は、米国の市民社会は台湾をめぐって大規模な戦争をする気はなく、台湾への支援を制限するよう大統領に政治的圧力をかけると考えている。
(5) 実際の紛争がない限り、これらの仮定を検証することは不可能である。しかし、戦時にそれぞれの側がどのように振る舞うかを理解するために、もっともらしいシナリオを仮定することは可能である。たとえば、人民解放軍が台湾への侵攻を開始し、その間に米国をはじめとする自由主義諸国が台湾に大量の軍事援助を行うというシナリオを想定してみる。
a.本格的な侵攻が始まると、米国、日本、オーストラリアは、武力による侵攻に反対と公言する。このシナリオでは、中国が米国及びその連合の意志と力を誤算している。中国共産党は、台湾に大量の地上軍を上陸させるという最初の試みに失敗する。中国国内では、どんな犠牲を払っても紛争に早く勝利し、終結させなければならないという内的圧力が強まる。このような事態に陥った場合、中国は、核兵器を使用することが、勝利を奪い取る最善の方法であると考える。
b.中国は、米国が、非対称的で自国から遠く離れた場所で、限定的な核攻撃を行うことを躊躇していると考えている。さらに中国政府は、限定的な核戦争が一般的な相互核攻撃に拡大することを米政府が恐れることで、最初の核兵器使用後に大統領が戦いを続けることを抑止できると考えているようだ。戦域核システムにおける中国の優位性を考えると、これは必ずしも正しいとは言えないが、妥当な仮定である。
c.米国は台湾に核の傘を張っていないため、中国は、米国の報復核攻撃という高い危険を負うことなく、台湾国内で核兵器を使用することができると考えている。さらに、中国政府は中国本土が聖域であり、中国が太平洋の標的を核攻撃した場合、米国は中国本土をあえて攻撃することはないと考えている。
d.中国が戦闘中の日本の艦船に核兵器を使用した場合、米国の政治体制の中で、それに対応すべきかどうかが激しく議論されることは間違いない。議論の強度と長さはかなりのものになると思われ、それゆえ同盟国や提携国の認識にも影響を与えるだろう。議論そのものが、中国共産党に主導権を取り戻し、目的を達成するための余地を与えるかもしれない。
e.中国が核兵器を使用することには、作戦上、戦略上の利点がある。中国指導部が、台湾をめぐる戦争は失うことのできない重要な国益であると信じている可能性がある。そうでなければ、中国共産党は政権の安定が危うくなることを恐れている。また、米国が中国に敗れるというシナリオを歓迎している可能性もある。特に、その敗因が核使用で、米政府がそれに応じない場合である。太平洋における中国の優位性を示す、これ以上目に見える合図はない。
f.このシナリオでは、中国政府は米国に敗北するよりも核兵器の使用の方が危険性は低いとみなすかもしれない。
(6) 上記の仮定とシナリオはいずれも推測の域を出ないが、中国の思考に関する現在の知見からすれば、現実離れしているわけではない。米国がウクライナ戦争に集中している今、中国を注視し、起きるかもしれない戦争に備えることが重要である。米中間の紛争、特に核兵器の使用を伴う紛争が発生した場合の利害関係を考えると、私たちは今、そうした仮定からなる前提の検証を始めなければならない。そうなってからでは遅すぎるのである。
記事参照:Rethinking Assumptions About China
3月3日「南シナ海での発火点が増えるなか中国はどう動くか―中国海洋問題専門家論説」(South China Morning Post, December 16, 2023)
3月3日付の香港日刊英字紙South China Morning Post電子版は、海南華陽海洋合作与治理研究中心の非常勤上席研究員Mark J. Valenciaの“As South China Sea trigger points grow even beyond US control, what will China do?”と題する論説を掲載し、そこでMark J. Valenciaは南シナ海での米中間の事件が日常化しつつある中で、発火点の増加により米中間の軍事衝突が起こる可能性が高まっているとして、要旨以下のように述べている。
(1) 2月末、中国戦闘機と米哨戒機が接近するという事件が起きた。こうした事件はメディアでは大々的に捉えられるが、2001年の事件以降は実際にはそこまで重要視されず、新たな日常の一部になりつつある。
(2) 2001年の事件では中国軍機と米軍機が衝突、中国軍機が墜落しパイロットが死亡した。米軍機は海南島に緊急着陸したが、24人の乗組員は11日間拘束された。米中関係は最悪とも言える状態になったが、事態は沈静化した。
(3) 現在こうした事件は日常茶飯事となっているが、発火点となり得るところが増えているのは懸念材料である。現在の米中関係は相当悪化しており、また南シナ海の主権を中国と争うフィリピン、インドネシア、マレーシア、ベトナムの権利主張国4ヵ国も中国との対決姿勢を強めつつあり、そのために米国との協力の強化を模索している。これら権利主張国にとって中国の行動は行き過ぎであり、もしそれにしかるべく対応しないのであれば自国の石油開発計画が脅かされ、指導者の信頼も損なわれるのである。
(4) フィリピンは最近米国と協定を結び、フィリピンの飛行場や港を米軍が利用できるようにした。また米国は繰り返し、フィリピン軍が南シナ海で攻撃を受けた場合には米比相互防衛条約を発動すると明言している。また両国は南シナ海での共同哨戒を強化しているが、これは米中間の軍事紛争につながる危険性をはらんでいる。中国側も、海警船によるPhilippine Coast Guardへの妨害行為を増やしている。最近ではPhilippine Coast Guardの巡視船に対するレーザー照射という事件が発生している。またフィリピン政府は米石油掘削企業Forum Energy社にリード堆での石油開発計画実施を承認した。これらのことは米中間の紛争への発展につながる可能性がある。
(5) 米軍はインドネシアとマレーシアに対しても、中国船による妨害行為に対して艦艇を派遣するなどの支援を実施してきた。インドネシアは2021年から、中国も主権を主張するツナ・ブロックでの資源掘削活動を進めている。それに対して中国側も妨害行動や哨戒を実施している。インドネシアとしては、それに対抗することで、「インドネシア主権の主張」を行うことになると考えている。また米国との軍事協力の強化や、1,250億ドルを新兵器開発へ投資するなどの対抗措置を進めている。マレーシアは、中国との対立をあまり望んではいないが、2020年4月に中国海警船と調査船が、マレーシア政府が承認したウェスト・カペラ油田での掘削作業を妨害した時、米国・オーストラリアの艦艇が派遣された。2021年5月には、サラワクの北西60海里近辺を中国軍用機が飛行したとき、厳重な抗議を行っている。
(6) ベトナムは、南シナ海の主権論争において最も中国に敵対的であるが、孤立状態にある。米国、ASEANなどが、中国の侵略行為などに対しベトナムを支援する可能性は低い。したがって中国はベトナムに対する攻勢を強める可能性が高い。
(7) 紛争の発火点は米国の制御を越えて増え続けている。ボールは中国側にある。衝突が起きるまで攻め続けるのか、戦略を再考するのかどちらであろうか。
記事参照:As South China Sea trigger points grow even beyond US control, what will China do?
(1) 2月末、中国戦闘機と米哨戒機が接近するという事件が起きた。こうした事件はメディアでは大々的に捉えられるが、2001年の事件以降は実際にはそこまで重要視されず、新たな日常の一部になりつつある。
(2) 2001年の事件では中国軍機と米軍機が衝突、中国軍機が墜落しパイロットが死亡した。米軍機は海南島に緊急着陸したが、24人の乗組員は11日間拘束された。米中関係は最悪とも言える状態になったが、事態は沈静化した。
(3) 現在こうした事件は日常茶飯事となっているが、発火点となり得るところが増えているのは懸念材料である。現在の米中関係は相当悪化しており、また南シナ海の主権を中国と争うフィリピン、インドネシア、マレーシア、ベトナムの権利主張国4ヵ国も中国との対決姿勢を強めつつあり、そのために米国との協力の強化を模索している。これら権利主張国にとって中国の行動は行き過ぎであり、もしそれにしかるべく対応しないのであれば自国の石油開発計画が脅かされ、指導者の信頼も損なわれるのである。
(4) フィリピンは最近米国と協定を結び、フィリピンの飛行場や港を米軍が利用できるようにした。また米国は繰り返し、フィリピン軍が南シナ海で攻撃を受けた場合には米比相互防衛条約を発動すると明言している。また両国は南シナ海での共同哨戒を強化しているが、これは米中間の軍事紛争につながる危険性をはらんでいる。中国側も、海警船によるPhilippine Coast Guardへの妨害行為を増やしている。最近ではPhilippine Coast Guardの巡視船に対するレーザー照射という事件が発生している。またフィリピン政府は米石油掘削企業Forum Energy社にリード堆での石油開発計画実施を承認した。これらのことは米中間の紛争への発展につながる可能性がある。
(5) 米軍はインドネシアとマレーシアに対しても、中国船による妨害行為に対して艦艇を派遣するなどの支援を実施してきた。インドネシアは2021年から、中国も主権を主張するツナ・ブロックでの資源掘削活動を進めている。それに対して中国側も妨害行動や哨戒を実施している。インドネシアとしては、それに対抗することで、「インドネシア主権の主張」を行うことになると考えている。また米国との軍事協力の強化や、1,250億ドルを新兵器開発へ投資するなどの対抗措置を進めている。マレーシアは、中国との対立をあまり望んではいないが、2020年4月に中国海警船と調査船が、マレーシア政府が承認したウェスト・カペラ油田での掘削作業を妨害した時、米国・オーストラリアの艦艇が派遣された。2021年5月には、サラワクの北西60海里近辺を中国軍用機が飛行したとき、厳重な抗議を行っている。
(6) ベトナムは、南シナ海の主権論争において最も中国に敵対的であるが、孤立状態にある。米国、ASEANなどが、中国の侵略行為などに対しベトナムを支援する可能性は低い。したがって中国はベトナムに対する攻勢を強める可能性が高い。
(7) 紛争の発火点は米国の制御を越えて増え続けている。ボールは中国側にある。衝突が起きるまで攻め続けるのか、戦略を再考するのかどちらであろうか。
記事参照:As South China Sea trigger points grow even beyond US control, what will China do?
3月7日「インド太平洋の抑止力強化の鍵となる机上演習―オーストラリア専門家論説」(Australian Strategic Policy Institute (ASPI), March 7, 2023)
3月7日付のAustralian Strategic Policy InstituteのウエブサイトThe Strategistは、同所研究実習生Marcus Schultzの” Wargaming will be a key to strengthening deterrence in the Indo-Pacific”と題する論説を掲載し、ここでMarcus Schultzは、オーストラリアは連合軍の作戦を指揮する準備を整えるため、米陸軍が主導する机上演習「プロジェクト・コンバージェンス」への関与はより重要になると、要旨以下のように述べている。
(1) 中国の進化する接近阻止・領域拒否網とロシアのハイブリッド戦争と呼ばれるウクライナ侵攻への取り組みは、21世紀において米国と同盟国に大きな問題を提示している。これらに対する潜在的な対抗策は、U.S. National Defense Strategy Commission(米国家防衛戦略委員会)が2018年に「米国の軍事的優位性を低下させる問題についての報告書」で明らかにした。同Commissionは、戦力投射、航空・ミサイル防衛、サイバー・宇宙戦、対水上・対潜水艦戦、長距離陸上攻撃、電子戦といった主要な戦力分野における相対的優位性を拡大するために、米国が新たな作戦構想を開発することを提言した。
(2) 議会はその後、中国との戦争に勝つために必要なものを米軍に提供するよう努力してきた。2020年に、西太平洋全域の訓練域網の構築など、優先度の高い必要な支出を新たに行うことを目的とした「太平洋抑止構想」が設立された。この下での予算配分は、U.S. Department of Defenseと米軍が計画するさまざまな演習、訓練、実験、革新的計画に対して項目化されている。しかし、このための予算は2021年に10億米ドル削減され、2027年にはさらに25%、44億米ドルが削減されると予想されている。訓練を実施するための資金不足は、米軍のインド太平洋での競争力を妨げ、抑止力強化の取り組みを台無しにする。大規模な多国間演習を本国の遠方で実施することで、緊急に必要とされる机上演習が行われる機会が減らされ、さらに深刻になっている。危機を予期して共同戦力の方針確立を支援し、検証するためには、革新的な机上演習が必要である。
(3) 机上演習は、戦略、作戦、戦術レベルでの戦争の側面を模擬する分析的な実験で、戦いの大方針を検討し、シナリオを探求し、戦力計画や態勢の選択が作戦結果にどのように影響するかを評価するために使用される。机上演習は、批判的思考と革新性を育み、指揮官や専門家が将来の課題に備えるのに役立つように設計されている。
(4) U.S. Armyの「プロジェクト・コンバージェンス」は、自律型システムやネットワークに特化した技術を含む、何十もの新しい武器システムや改良された他の技術を評価するために設計された教育的な演習とされている。兵士、兵器システム、指揮統制、情報、地形という5つの中核要素を支援した第1回目の演習は、接近戦に焦点を当て、戦術的ネットワークがより迅速な意思決定を促進できるように、新しい技術を現場の作戦段階で統合した。第2回目は、実戦的なイベントと、人工知能、機械学習、自律性、ロボット工学、共通のデータ標準を、複数の作戦領域にわたる意思決定過程に取り入れる方法に焦点を当てた。机上演習というと、将来の紛争を模擬する机上演習を連想するが、この演習では、海空軍および海兵隊などの他の軍種や同盟国軍との共同協同作戦の実践的要素を検証するための包括的な活動を取り入れた。
(5) 2022年、米軍は「オール・サービス・イベント」と称し、現実的な作戦状況の中で自国の能力をオーストラリアや英国の軍隊と統合させる検証を実施し、ここに約110名の Australian Defence Forceからの110名とBritish Armed Forceからの450名の兵士が、米軍と一緒に参加した。太平洋の沿岸部での争いを想定したこの3国間協力では、情報共有による共通作戦画面の提供やセンサー・トゥ・シューター(ターゲットをセンサーにより捜索・探知・識別し、その情報をミサイルなどの発射装置へ送る一連の情報の流れ:訳者注)の接続が促進された。数週間にわたる実験では、約300の技術や新しい作戦方針が試され、米国、英国、オーストラリアは、技術的に優れた相手に対して、どのように連合軍として戦うかを示すことができた。
(6) 2024年実施予定のプロジェクト・コンバージェンスの次回演習では、戦術レベルを超えて、戦域レベルでの検証に焦点を当てる。一部では、「キル・ウェブ」の実現に近づいているかどうかが検証される。「キル・ウェブ」とは、センサーからシューターへの情報の流れを数分や数時間ではなく、数秒以内に可能とするような革命的な過程である。この演習は、米陸軍の現在の任務指揮能力と開発中の新技術を統合することで、U.S. Department of Defenseが推進する全領域統合指揮統制joint all-domain command and control(以下、JADC2と言う)の取り組みを基礎とし、全軍のセンサーを1つのネットワークに接続する。この計画は、Australian Defence Forceの近代化と、米国との相互運用性から互換性へと移行するための完璧な構築基盤を提供する。
(7) 統合抑止の観点から、Australian Defence Forceの能力を米国と緊密に統合すべきかどうかは、JADC2構想や軍事的互換性に関する幅広い議論の中で未解決のままである。オーストラリアNational Security College上席研究員William Lebenが指摘するように、ネットワークの速度や帯域幅の違い、過剰なデータ共有の制限、規模や資源の違いは、新技術によって可能になる戦術的応用を活用する機会を奪うものである。こうした注意点を踏まえると、オーストラリア政府は、防衛戦略見直しへの対応において、Australian Defence Forceが JADC2 をそのまま導入すべきかどうかを検討することが賢明であろう。
(8) オーストラリアと地域のためになると判断されれば、オーストラリアは連合軍の作戦を指揮する準備を整えるため、プロジェクト・コンバージェンスへの関与はより重要になる。統合抑止の文脈においてこの計画は、AUKUS 協定の第2の柱の下でオンライン化される高度な能力の重要な試験機材として機能する可能性がある。
(9) インド太平洋では、相互運用性、さらには統合性を高める大規模な多国間共同演習が今後も継続的に実施されることは間違いない。ウクライナ戦争は、技術と戦術が紛争の性格と速さを変えたことを強く印象づけるものである。米国の研究者は、中国政府が台湾攻略作戦を検討している場合、中国軍がウクライナ戦争から得る教訓として、地上軍の役割を見直すこと、作戦の初期段階で戦略的欺瞞をより重視すること、予想以上に多くの米国の同盟国が参加する中、台湾での強固な抵抗を前提に長引く戦いに備えること、などが挙げられると指摘している。インド太平洋の有事が発生した際に、Australian Defence Forceがどのように適応能力を管理するかが、序盤の決め手となる。
記事参照:Wargaming will be a key to strengthening deterrence in the Indo-Pacific
(1) 中国の進化する接近阻止・領域拒否網とロシアのハイブリッド戦争と呼ばれるウクライナ侵攻への取り組みは、21世紀において米国と同盟国に大きな問題を提示している。これらに対する潜在的な対抗策は、U.S. National Defense Strategy Commission(米国家防衛戦略委員会)が2018年に「米国の軍事的優位性を低下させる問題についての報告書」で明らかにした。同Commissionは、戦力投射、航空・ミサイル防衛、サイバー・宇宙戦、対水上・対潜水艦戦、長距離陸上攻撃、電子戦といった主要な戦力分野における相対的優位性を拡大するために、米国が新たな作戦構想を開発することを提言した。
(2) 議会はその後、中国との戦争に勝つために必要なものを米軍に提供するよう努力してきた。2020年に、西太平洋全域の訓練域網の構築など、優先度の高い必要な支出を新たに行うことを目的とした「太平洋抑止構想」が設立された。この下での予算配分は、U.S. Department of Defenseと米軍が計画するさまざまな演習、訓練、実験、革新的計画に対して項目化されている。しかし、このための予算は2021年に10億米ドル削減され、2027年にはさらに25%、44億米ドルが削減されると予想されている。訓練を実施するための資金不足は、米軍のインド太平洋での競争力を妨げ、抑止力強化の取り組みを台無しにする。大規模な多国間演習を本国の遠方で実施することで、緊急に必要とされる机上演習が行われる機会が減らされ、さらに深刻になっている。危機を予期して共同戦力の方針確立を支援し、検証するためには、革新的な机上演習が必要である。
(3) 机上演習は、戦略、作戦、戦術レベルでの戦争の側面を模擬する分析的な実験で、戦いの大方針を検討し、シナリオを探求し、戦力計画や態勢の選択が作戦結果にどのように影響するかを評価するために使用される。机上演習は、批判的思考と革新性を育み、指揮官や専門家が将来の課題に備えるのに役立つように設計されている。
(4) U.S. Armyの「プロジェクト・コンバージェンス」は、自律型システムやネットワークに特化した技術を含む、何十もの新しい武器システムや改良された他の技術を評価するために設計された教育的な演習とされている。兵士、兵器システム、指揮統制、情報、地形という5つの中核要素を支援した第1回目の演習は、接近戦に焦点を当て、戦術的ネットワークがより迅速な意思決定を促進できるように、新しい技術を現場の作戦段階で統合した。第2回目は、実戦的なイベントと、人工知能、機械学習、自律性、ロボット工学、共通のデータ標準を、複数の作戦領域にわたる意思決定過程に取り入れる方法に焦点を当てた。机上演習というと、将来の紛争を模擬する机上演習を連想するが、この演習では、海空軍および海兵隊などの他の軍種や同盟国軍との共同協同作戦の実践的要素を検証するための包括的な活動を取り入れた。
(5) 2022年、米軍は「オール・サービス・イベント」と称し、現実的な作戦状況の中で自国の能力をオーストラリアや英国の軍隊と統合させる検証を実施し、ここに約110名の Australian Defence Forceからの110名とBritish Armed Forceからの450名の兵士が、米軍と一緒に参加した。太平洋の沿岸部での争いを想定したこの3国間協力では、情報共有による共通作戦画面の提供やセンサー・トゥ・シューター(ターゲットをセンサーにより捜索・探知・識別し、その情報をミサイルなどの発射装置へ送る一連の情報の流れ:訳者注)の接続が促進された。数週間にわたる実験では、約300の技術や新しい作戦方針が試され、米国、英国、オーストラリアは、技術的に優れた相手に対して、どのように連合軍として戦うかを示すことができた。
(6) 2024年実施予定のプロジェクト・コンバージェンスの次回演習では、戦術レベルを超えて、戦域レベルでの検証に焦点を当てる。一部では、「キル・ウェブ」の実現に近づいているかどうかが検証される。「キル・ウェブ」とは、センサーからシューターへの情報の流れを数分や数時間ではなく、数秒以内に可能とするような革命的な過程である。この演習は、米陸軍の現在の任務指揮能力と開発中の新技術を統合することで、U.S. Department of Defenseが推進する全領域統合指揮統制joint all-domain command and control(以下、JADC2と言う)の取り組みを基礎とし、全軍のセンサーを1つのネットワークに接続する。この計画は、Australian Defence Forceの近代化と、米国との相互運用性から互換性へと移行するための完璧な構築基盤を提供する。
(7) 統合抑止の観点から、Australian Defence Forceの能力を米国と緊密に統合すべきかどうかは、JADC2構想や軍事的互換性に関する幅広い議論の中で未解決のままである。オーストラリアNational Security College上席研究員William Lebenが指摘するように、ネットワークの速度や帯域幅の違い、過剰なデータ共有の制限、規模や資源の違いは、新技術によって可能になる戦術的応用を活用する機会を奪うものである。こうした注意点を踏まえると、オーストラリア政府は、防衛戦略見直しへの対応において、Australian Defence Forceが JADC2 をそのまま導入すべきかどうかを検討することが賢明であろう。
(8) オーストラリアと地域のためになると判断されれば、オーストラリアは連合軍の作戦を指揮する準備を整えるため、プロジェクト・コンバージェンスへの関与はより重要になる。統合抑止の文脈においてこの計画は、AUKUS 協定の第2の柱の下でオンライン化される高度な能力の重要な試験機材として機能する可能性がある。
(9) インド太平洋では、相互運用性、さらには統合性を高める大規模な多国間共同演習が今後も継続的に実施されることは間違いない。ウクライナ戦争は、技術と戦術が紛争の性格と速さを変えたことを強く印象づけるものである。米国の研究者は、中国政府が台湾攻略作戦を検討している場合、中国軍がウクライナ戦争から得る教訓として、地上軍の役割を見直すこと、作戦の初期段階で戦略的欺瞞をより重視すること、予想以上に多くの米国の同盟国が参加する中、台湾での強固な抵抗を前提に長引く戦いに備えること、などが挙げられると指摘している。インド太平洋の有事が発生した際に、Australian Defence Forceがどのように適応能力を管理するかが、序盤の決め手となる。
記事参照:Wargaming will be a key to strengthening deterrence in the Indo-Pacific
3月7日「南シナ海での中国の攻撃性を行動規範の交渉によって抑制する可能性―インドネシア外交官論説」(South China Morning Post, March 7, 2023)
3月7日付の香港日刊英字紙South China Morning Post電子版は、インドネシアの上席外交官Simon Hutagalungの“China must not derail revived South China Sea code of conduct talks”と題する論説を掲載し、Simon Hutagalungは行動規範を実現するためには、中国は強制と交渉が同時に成立しないことを理解する必要があるとして、要旨以下のように述べている。
(1) 2月6日、フィリピンは「軍用レーザー」を使用した中国によって、係争中の南沙諸島にあるセカンド・トーマス礁でフィリピン軍への補給任務についていたPhilippine Coast Guardの巡視船を撤退させられるという事態に直面した。フィリピンはその排他的経済水域(以下、EEZと言う)内で合法的な活動を行う権利を保持しているが、中国の攻撃的な行動は、他の南シナ海諸国と同様に、フィリピンの海洋の権利をしばしば脅かしている。さらに、中国はEEZの境界設定をめぐる最近のベトナムとインドネシアの取り極めを南シナ海における自国の海洋の権利に対する脅威と見なす可能性がある。
(2) 2023年のASEAN議長国であるインドネシアは、中国が長年要求してきた南シナ海の行動規範に関する協議の復活に向けた動きを見せている。ベトナム、フィリピン、マレーシア、ブルネイおよび台湾が中国政府からの領有権放棄の要求を拒否する中、中国からの軍事的圧力の高まりにより、伝統的に非同盟だった東南アジア諸国が協力と支援を求めて団結している。
(3) ASEANの閣僚たちは、行動規範に関する協議を復活させることに同意したが、彼らは中国の方式に従ってはいない。中国政府が南シナ海の紛争に国際法は適用されないという考えに固執する一方で、ASEANの閣僚たちはこの地域の安定と法の支配を確保するための協力、利益の一致、開かれた地域主義を引き続き強調している。インドネシアのRetno Marsudi外相によると、ASEANの閣僚は行動規範交渉をできるだけ早く締結する意向だが、数回の交渉が必要になる。最初のラウンドは3月末に行われる予定である。
(4) 同時に、中国は対立する権利主張国に対して強圧的な行動をとり続け、緊張を高めるばかりで、この地域の雰囲気を協力と相互の信頼に向かわせることはない。中国は基本原則を確立することに真剣なのか?または、南シナ海での自己主張を強めるためのハッタリに過ぎないのか?中国が、東南アジア諸国がこの地域で航行したいのであれば、中国の主張を受け入れ、それを実施することを望んでいることは明らかである。しかし、東南アジア諸国は、航行の自由と自由主義的な国際秩序を守るために、UNCLOSの規範を実施することを決意している。インドネシアはASEANの議長国として、南シナ海における海洋行動の規範を確立することを目指しているが、利害やイデオロギーの対立を考えると、交渉は1年の任期を超える可能性がある。重要なのは、ASEANの指導者が交代しても交渉が継続されることである。
(5) 最も妥当な行動指針は、海洋での行動を管理するいくつかの基本原則から始めることである。これにより、交渉が行われている間、中国が他国に対する攻撃的・強制的な行動を停止することが保証される。これは、東南アジア諸国間の相互信頼を築くのに役立ち、また、行動規範が具体化された後は、そのことへの敬意を深め、遵守を保証することになる。中国は、強制と交渉が同時に行うことはできないことを理解する必要がある。
記事参照:China must not derail revived South China Sea code of conduct talks
(1) 2月6日、フィリピンは「軍用レーザー」を使用した中国によって、係争中の南沙諸島にあるセカンド・トーマス礁でフィリピン軍への補給任務についていたPhilippine Coast Guardの巡視船を撤退させられるという事態に直面した。フィリピンはその排他的経済水域(以下、EEZと言う)内で合法的な活動を行う権利を保持しているが、中国の攻撃的な行動は、他の南シナ海諸国と同様に、フィリピンの海洋の権利をしばしば脅かしている。さらに、中国はEEZの境界設定をめぐる最近のベトナムとインドネシアの取り極めを南シナ海における自国の海洋の権利に対する脅威と見なす可能性がある。
(2) 2023年のASEAN議長国であるインドネシアは、中国が長年要求してきた南シナ海の行動規範に関する協議の復活に向けた動きを見せている。ベトナム、フィリピン、マレーシア、ブルネイおよび台湾が中国政府からの領有権放棄の要求を拒否する中、中国からの軍事的圧力の高まりにより、伝統的に非同盟だった東南アジア諸国が協力と支援を求めて団結している。
(3) ASEANの閣僚たちは、行動規範に関する協議を復活させることに同意したが、彼らは中国の方式に従ってはいない。中国政府が南シナ海の紛争に国際法は適用されないという考えに固執する一方で、ASEANの閣僚たちはこの地域の安定と法の支配を確保するための協力、利益の一致、開かれた地域主義を引き続き強調している。インドネシアのRetno Marsudi外相によると、ASEANの閣僚は行動規範交渉をできるだけ早く締結する意向だが、数回の交渉が必要になる。最初のラウンドは3月末に行われる予定である。
(4) 同時に、中国は対立する権利主張国に対して強圧的な行動をとり続け、緊張を高めるばかりで、この地域の雰囲気を協力と相互の信頼に向かわせることはない。中国は基本原則を確立することに真剣なのか?または、南シナ海での自己主張を強めるためのハッタリに過ぎないのか?中国が、東南アジア諸国がこの地域で航行したいのであれば、中国の主張を受け入れ、それを実施することを望んでいることは明らかである。しかし、東南アジア諸国は、航行の自由と自由主義的な国際秩序を守るために、UNCLOSの規範を実施することを決意している。インドネシアはASEANの議長国として、南シナ海における海洋行動の規範を確立することを目指しているが、利害やイデオロギーの対立を考えると、交渉は1年の任期を超える可能性がある。重要なのは、ASEANの指導者が交代しても交渉が継続されることである。
(5) 最も妥当な行動指針は、海洋での行動を管理するいくつかの基本原則から始めることである。これにより、交渉が行われている間、中国が他国に対する攻撃的・強制的な行動を停止することが保証される。これは、東南アジア諸国間の相互信頼を築くのに役立ち、また、行動規範が具体化された後は、そのことへの敬意を深め、遵守を保証することになる。中国は、強制と交渉が同時に行うことはできないことを理解する必要がある。
記事参照:China must not derail revived South China Sea code of conduct talks
3月8日「ほぼすべての関係各国が九段線の内側での資源開発を進める予定―米海洋問題専門シンクタンク報告」(Asia Maritime Transparency Initiative, CSIS, March, 2023)
3月8日付のCenter for Starategic and International StudiesのウエブサイトAsia Maritime Transparency Initiative は、“(ALMOST) EVERYONE IS DRILLING INSIDE THE NINE-DASH LINE”と題する報告記事を掲載し、南シナ海の係争海域における海洋資源開発の現況と今後の動向について詳述し、2023年に関係各国による資源開発が進むことで論争が激化する可能性があるとして、要旨以下のように報じている。
(1) 2018年から2021年のあいだは、南シナ海の主権に関して中国が主張する「九段線」の内側での石油・ガス開発をめぐり、中国と東南アジア諸国の行き詰まりが頻発した。2022年は相対的にその数は少なかったが、2023年にいくつかの南シナ海論争における権利主張国が新たな海洋開発計画を前進させようとしており、それは南シナ海論争の新たな発火点となる可能性がある。以下では各権利主張国による開発計画について記述する。
(2) 中国は海南島南部で複数のガス田開発を始めている。中国海洋石油集団は2022年9月に東方1-1と楽東22-1のガス田を稼働させたと発表し、また今年1月には霊水25-1の掘削を開始したという。霊水25-1の近くには、2021年6月から産出を始めた霊水17-2がある。楽東22-1、霊水17-2と、おそらく霊水25-1は、ベトナムと中国の双方が主張する大陸棚に位置している。両国の中央線の中国側には位置しているが、境界線は確定しておらず、論争含みである。
(3) インドネシアは2023年1月、ツナ・ガス田開発のために30億ドルの計画を承認し、世界の耳目を引いた。そこはインドネシアが主権を主張する海域の北端に位置し、中国の九段線の南端に位置する。中国はそこでの掘削を2021年末から何ヵ月も妨害してきた。インドネシア政府は、それは英Harbour Energy社の下請けによって運営されるもので、その計画の承認はインドネシアの主権の主張の再確認を意味し、インドネシア海軍によって計画は保護されるであろう。その少し後に、中国最大の海警船が目撃されている。
(4) Harbour Energy社は、ヴァンガード堆にあるベトナムのNam Con Son事業とパイプラインを繋ぎ、ツナ・ガス田から算出されるガスをベトナムに売却する計画である。この
両者に関わるのがロシア国営のZarubezhneftである。同社はNam Con Sonのブロック06-1を運営しているが、それは、2019年の中国の妨害の後にロシアのRosneftから売却されたものである。ヴァンガード堆では2020年半ばからほぼ毎日、中国海警船がパトロールを実施している。
(5) Nam Con Sonの北では、日本の出光興産が事業者となっているガス田が操業を開始した。Sao Vang-Dai Nguyetガス・コンデンセート開発計画である。2020年11月にSao Vangで最初のガスが生産され、Dai Nguyetでは2022年にそれが期待されていた。ベトナムの石油・ガス開発における今1つの主要外国事業者は米ExxonMobil社である。同社はPetro Vietnamの提携社になり、「ブルーホエール」と呼ばれるCa Voi Xanhガス田と南シナ海北部の付属パイプラインの開発を進めている。この計画の場所は九段線の内側ではないが、中国はそこが自国の大陸棚の上にあると主張する可能性はある。Ca Voi Xanh開発は数年の遅れがあるものの、これまででベトナム最大のガス開発計画である。
(6) インドのONGC Videsh Ltd.もベトナムへの投資を維持している。同社は2022年8月に、ブロック128の開発契約について2023年6月15日までの延長を発表した。7度目の契約延長である。2006年から続けられた開発で目に見えた成果がないことを踏まえ、これはベトナムにおけるインドの立場を維持するための戦略的な動きだと見なされている。
(7) Nam Con SonやCa Voi Xanhの現在の動きは、ベトナムの海洋開発計画の転機となるかもしれない。この10年間で、RosneftやスペインのRepsolなど多くの外国企業がこの海域での計画から手を引いていたのである。
(8) マレーシアもまた、最近の中国海警との事件にもかかわらず、海洋開発計画を進めている。2022年秋から数えると、サラワク沖の開発ブロックにおいて、3つの新たな発見があった。ブロックSK320におけるガスの産出と、ブロックSK306とSK410Bでのハイドロカーボンの発見である。特に後者は2020年に中国海警とマレーシア海軍が衝突した場所だ。また、Kasawariガス田における生産の開始が2023年に見込まれている。そこもまた、2021年に中国海警による妨害行為を受けた場所である。
(9) フィリピンは2014年以来、南シナ海の係争海域での石油・ガス開発計画をほぼ停止している。2022年春に一時的にリード堆での調査を許可したが、中国海警の異議申し立てによりすぐに撤回した。フィリピンの事業者はCadlao油田に目を向けているが、埋蔵量は500万バレル程度と見込まれており、リード堆の推定50億バレルの石油と55兆立法フィートのガスとは比べ物にならない。したがって、中国の九段線の内側で海洋資源開発を行っていないのは、フィリピンだけということになる。
記事参照:(ALMOST) EVERYONE IS DRILLING INSIDE THE NINE-DASH LINE
(1) 2018年から2021年のあいだは、南シナ海の主権に関して中国が主張する「九段線」の内側での石油・ガス開発をめぐり、中国と東南アジア諸国の行き詰まりが頻発した。2022年は相対的にその数は少なかったが、2023年にいくつかの南シナ海論争における権利主張国が新たな海洋開発計画を前進させようとしており、それは南シナ海論争の新たな発火点となる可能性がある。以下では各権利主張国による開発計画について記述する。
(2) 中国は海南島南部で複数のガス田開発を始めている。中国海洋石油集団は2022年9月に東方1-1と楽東22-1のガス田を稼働させたと発表し、また今年1月には霊水25-1の掘削を開始したという。霊水25-1の近くには、2021年6月から産出を始めた霊水17-2がある。楽東22-1、霊水17-2と、おそらく霊水25-1は、ベトナムと中国の双方が主張する大陸棚に位置している。両国の中央線の中国側には位置しているが、境界線は確定しておらず、論争含みである。
(3) インドネシアは2023年1月、ツナ・ガス田開発のために30億ドルの計画を承認し、世界の耳目を引いた。そこはインドネシアが主権を主張する海域の北端に位置し、中国の九段線の南端に位置する。中国はそこでの掘削を2021年末から何ヵ月も妨害してきた。インドネシア政府は、それは英Harbour Energy社の下請けによって運営されるもので、その計画の承認はインドネシアの主権の主張の再確認を意味し、インドネシア海軍によって計画は保護されるであろう。その少し後に、中国最大の海警船が目撃されている。
(4) Harbour Energy社は、ヴァンガード堆にあるベトナムのNam Con Son事業とパイプラインを繋ぎ、ツナ・ガス田から算出されるガスをベトナムに売却する計画である。この
両者に関わるのがロシア国営のZarubezhneftである。同社はNam Con Sonのブロック06-1を運営しているが、それは、2019年の中国の妨害の後にロシアのRosneftから売却されたものである。ヴァンガード堆では2020年半ばからほぼ毎日、中国海警船がパトロールを実施している。
(5) Nam Con Sonの北では、日本の出光興産が事業者となっているガス田が操業を開始した。Sao Vang-Dai Nguyetガス・コンデンセート開発計画である。2020年11月にSao Vangで最初のガスが生産され、Dai Nguyetでは2022年にそれが期待されていた。ベトナムの石油・ガス開発における今1つの主要外国事業者は米ExxonMobil社である。同社はPetro Vietnamの提携社になり、「ブルーホエール」と呼ばれるCa Voi Xanhガス田と南シナ海北部の付属パイプラインの開発を進めている。この計画の場所は九段線の内側ではないが、中国はそこが自国の大陸棚の上にあると主張する可能性はある。Ca Voi Xanh開発は数年の遅れがあるものの、これまででベトナム最大のガス開発計画である。
(6) インドのONGC Videsh Ltd.もベトナムへの投資を維持している。同社は2022年8月に、ブロック128の開発契約について2023年6月15日までの延長を発表した。7度目の契約延長である。2006年から続けられた開発で目に見えた成果がないことを踏まえ、これはベトナムにおけるインドの立場を維持するための戦略的な動きだと見なされている。
(7) Nam Con SonやCa Voi Xanhの現在の動きは、ベトナムの海洋開発計画の転機となるかもしれない。この10年間で、RosneftやスペインのRepsolなど多くの外国企業がこの海域での計画から手を引いていたのである。
(8) マレーシアもまた、最近の中国海警との事件にもかかわらず、海洋開発計画を進めている。2022年秋から数えると、サラワク沖の開発ブロックにおいて、3つの新たな発見があった。ブロックSK320におけるガスの産出と、ブロックSK306とSK410Bでのハイドロカーボンの発見である。特に後者は2020年に中国海警とマレーシア海軍が衝突した場所だ。また、Kasawariガス田における生産の開始が2023年に見込まれている。そこもまた、2021年に中国海警による妨害行為を受けた場所である。
(9) フィリピンは2014年以来、南シナ海の係争海域での石油・ガス開発計画をほぼ停止している。2022年春に一時的にリード堆での調査を許可したが、中国海警の異議申し立てによりすぐに撤回した。フィリピンの事業者はCadlao油田に目を向けているが、埋蔵量は500万バレル程度と見込まれており、リード堆の推定50億バレルの石油と55兆立法フィートのガスとは比べ物にならない。したがって、中国の九段線の内側で海洋資源開発を行っていないのは、フィリピンだけということになる。
記事参照:(ALMOST) EVERYONE IS DRILLING INSIDE THE NINE-DASH LINE
3月8日「中国の対外方針はなお『闘争』に焦点を当てる―The Diplomat編集長論説」(The Diplomat, March 8, 2023)
3月8日付のデジタル誌The Diplomatは、同誌編集長Shannon Tiezziの“In Xi’s ‘New Era,’ China’s Foreign Policy Centers on ‘Struggle’”と題する論説を掲載し、そこでShannon Tiezziは中国の新外交部長に秦剛が就任したことで中国の外交姿勢が軟化するのではないかという観測があることに対し、それは正しい認識ではないとして、要旨以下のように述べている。
(1) 中国政府関係者は、その外交姿勢について「戦狼外交」という言葉を使われるのを嫌うが、そう呼ばれうる現象が起きているのは事実である。新たに中国外交部部長に就任した秦剛は、全人代が実施されているなかで、初めての長い記者会見を実施した。それは、秦剛の外交部部長就任が中国外交方針の転換の兆しだという認識を修正した。
(2) 記者会見で秦は、今後の外交方針が穏当になるのかどうかを問われると、「中国の外交において親善と思いやりを欠くことはないが、ジャッカルや狼に対面するとき、中国はそれを即座に退治し、自分たちの母国を守る以外の選択肢を持たない」と返した。こうした発言に見られるように、中国は今後もこれまでのような攻撃的な外交取り組みを続けるであろう。
(3) 秦の発言の全体的な語調は、「敢于斗争(あえて戦う)」を強調した公式見解と一致している。これは、戦狼外交と外国の観察者が定義したものを、中国が自分たちの好みに言い換えたもので、かつての鄧小平による「韜光養晦(能力を隠し、チャンスを待つ)」に代わる標語として象徴的に利用されている。習近平はある演説で、国内外の問題に対処するために人民が団結し、「敢于斗争、善于斗争(あえて戦い、戦いに熟達する)」によって偉大な勝利を獲得できると論じた。この標語は、第20回共産党大会における習近平の活動報告にも登場しており、中国の外交方針指導的原則となっていると思われる。
(4) さらにこの標語は国内向けの課題への対応に際しても用いられる。実際のところこの標語が最初に登場したのは、2020年9月、中国の反パンデミック闘争を記念した式典でのことであった。基本的な原則は対外的であれ国内的であれ同じで、「闘争」が強調された。つまり中国人民は団結し、戦うことを恐れてはならないということを意味し、その実践を通じて、さらに闘争に熟達していかねばならない。
(5) こうした姿勢は、対外的にはもちろん米国に向けてのものである。中国政府は、自国が直面する難題の大部分の責任は米国にあると考えている。秦剛は、米国が「あらゆる点において中国を包囲し、抑圧している」と述べ、また、Biden政権が米中対立を調整するための「防護柵の構築」の呼びかけを、不誠実なものとして一蹴した。米国によるそうした提案は、中国にしてみれば「中国が中傷されたり、攻撃されたりしても、言葉や行動で対応してはならないということを意味している」として「そんなことありえるはずがない」秦剛は述べている。
(6) 鄧小平の韜光養晦が捨て去られてからもうしばらく経つ。いま中国は、自分たちが「国内外における深遠かつ複雑な変化」のなかで、国家の存亡にかかわる戦いに巻き込まれているという認識のなかで、「闘争」を打ち出す「敢于斗争」という標語を掲げているのである。中国外交の変化を期待する人びとは、そこに気づくべきである。
記事参照:In Xi’s ‘New Era,’ China’s Foreign Policy Centers on ‘Struggle’
(1) 中国政府関係者は、その外交姿勢について「戦狼外交」という言葉を使われるのを嫌うが、そう呼ばれうる現象が起きているのは事実である。新たに中国外交部部長に就任した秦剛は、全人代が実施されているなかで、初めての長い記者会見を実施した。それは、秦剛の外交部部長就任が中国外交方針の転換の兆しだという認識を修正した。
(2) 記者会見で秦は、今後の外交方針が穏当になるのかどうかを問われると、「中国の外交において親善と思いやりを欠くことはないが、ジャッカルや狼に対面するとき、中国はそれを即座に退治し、自分たちの母国を守る以外の選択肢を持たない」と返した。こうした発言に見られるように、中国は今後もこれまでのような攻撃的な外交取り組みを続けるであろう。
(3) 秦の発言の全体的な語調は、「敢于斗争(あえて戦う)」を強調した公式見解と一致している。これは、戦狼外交と外国の観察者が定義したものを、中国が自分たちの好みに言い換えたもので、かつての鄧小平による「韜光養晦(能力を隠し、チャンスを待つ)」に代わる標語として象徴的に利用されている。習近平はある演説で、国内外の問題に対処するために人民が団結し、「敢于斗争、善于斗争(あえて戦い、戦いに熟達する)」によって偉大な勝利を獲得できると論じた。この標語は、第20回共産党大会における習近平の活動報告にも登場しており、中国の外交方針指導的原則となっていると思われる。
(4) さらにこの標語は国内向けの課題への対応に際しても用いられる。実際のところこの標語が最初に登場したのは、2020年9月、中国の反パンデミック闘争を記念した式典でのことであった。基本的な原則は対外的であれ国内的であれ同じで、「闘争」が強調された。つまり中国人民は団結し、戦うことを恐れてはならないということを意味し、その実践を通じて、さらに闘争に熟達していかねばならない。
(5) こうした姿勢は、対外的にはもちろん米国に向けてのものである。中国政府は、自国が直面する難題の大部分の責任は米国にあると考えている。秦剛は、米国が「あらゆる点において中国を包囲し、抑圧している」と述べ、また、Biden政権が米中対立を調整するための「防護柵の構築」の呼びかけを、不誠実なものとして一蹴した。米国によるそうした提案は、中国にしてみれば「中国が中傷されたり、攻撃されたりしても、言葉や行動で対応してはならないということを意味している」として「そんなことありえるはずがない」秦剛は述べている。
(6) 鄧小平の韜光養晦が捨て去られてからもうしばらく経つ。いま中国は、自分たちが「国内外における深遠かつ複雑な変化」のなかで、国家の存亡にかかわる戦いに巻き込まれているという認識のなかで、「闘争」を打ち出す「敢于斗争」という標語を掲げているのである。中国外交の変化を期待する人びとは、そこに気づくべきである。
記事参照:In Xi’s ‘New Era,’ China’s Foreign Policy Centers on ‘Struggle’
3月9日「AUKUSによるオーストラリアへの原子力潜水艦供給の現状―英紙報道」(The Guardian, March 9, 2023)
3月9日付の英日刊紙The Guardian電子版は、“Aukus submarine deal: Australia expected to choose UK design, sources say”と題する記事を掲載し、AUKUSに基づいた、米英によるオーストラリアへの原子力潜水艦供給の現状について、要旨以下のように報じている。
(1) 英首相Rishi Sunakは、3月の第3週にサンディエゴに赴いて、米国と共にAUKUS条約の一環としてオーストラリアに原子力潜水艦を供給する契約を発表する際に、前向きな結果を予期するよう閣僚に伝えている。複数の情報筋によると、英国が英国設計の原子力潜水艦(以下、SSNと言う)をオーストラリアに売却することに成功し、バロー=イン=ファーネスの造船所の長期的な将来を守る取引になったと彼らは考えていると述べている。この交渉は18ヵ月にわたって行われたが、ある大臣によれば、それによりオーストラリアは、既存の英アスチュート級SSNまたは米バージニア級SSNを基にして英国設計か米国設計のどちらかを選択することになったが、Sunakは同僚にその結果を喜んだことを話したという。会談を知る政府外のもう1人の情報筋によれば、3月13日に発表される契約では、最終的に完成する潜水艦には、米国の技術も多用されることになるが、英国の設計が成功することを予期するように言われているとのことである。Sunakは3月13日、Joe Biden米大統領、Anthony Albaneseオーストラリア首相との3ヵ国首脳会談のために米国の西海岸を訪れる予定であり、またその場で、ウクライナ戦争を踏まえた英国の防衛・外交政策の統合レビューの刷新版を発表する予定である。
(2) ある情報筋によれば、オーストラリアは英国と共同で、既存のアスチュート級SSNの設計を発展させた次世代潜水艦の設計に取り組むことになる。しかし、作業が複雑であるため、それは2040年代まで航行できない可能性があるということである。さらに3月8日の報道では、オーストラリアが3者間協定の一環として米国からバージニア級SSNを最大5隻購入することで、短期的なオーストラリアの潜水艦部隊の空白を埋める可能性があることが示唆された。
(3) オーストラリアは、濃縮ウラン原子炉を利用した原子力潜水艦を保有する7番目の国となり、潜水艦の推進技術は同国のディーゼル電気推進によっている海軍を中国と技術的に同等にすることになる。しかし、核保有国でないオーストラリアに原子炉を供給する必要があり、中国政府はこの動きを核拡散防止条約違反だと主張している。新型SSNは核兵器を搭載することはない。しかし、Carnegie Endowment for International Peaceの核問題専門家James Actonは推進用原子炉から発生する核廃棄物がどのように処理されるのか、まだ明確になっていないと述べている。
(4) 防衛の専門家達は、新型潜水艦の建造に時間がかかるため、短期的に関連した動きがあるかもしれないと述べている。米国は、中国との海軍力の均衡を保つため、オーストラリアに原子力潜水艦の根拠地を築き、南太平洋を哨戒し易くすることを熱望している。
記事参照:Aukus submarine deal: Australia expected to choose UK design, sources say
(1) 英首相Rishi Sunakは、3月の第3週にサンディエゴに赴いて、米国と共にAUKUS条約の一環としてオーストラリアに原子力潜水艦を供給する契約を発表する際に、前向きな結果を予期するよう閣僚に伝えている。複数の情報筋によると、英国が英国設計の原子力潜水艦(以下、SSNと言う)をオーストラリアに売却することに成功し、バロー=イン=ファーネスの造船所の長期的な将来を守る取引になったと彼らは考えていると述べている。この交渉は18ヵ月にわたって行われたが、ある大臣によれば、それによりオーストラリアは、既存の英アスチュート級SSNまたは米バージニア級SSNを基にして英国設計か米国設計のどちらかを選択することになったが、Sunakは同僚にその結果を喜んだことを話したという。会談を知る政府外のもう1人の情報筋によれば、3月13日に発表される契約では、最終的に完成する潜水艦には、米国の技術も多用されることになるが、英国の設計が成功することを予期するように言われているとのことである。Sunakは3月13日、Joe Biden米大統領、Anthony Albaneseオーストラリア首相との3ヵ国首脳会談のために米国の西海岸を訪れる予定であり、またその場で、ウクライナ戦争を踏まえた英国の防衛・外交政策の統合レビューの刷新版を発表する予定である。
(2) ある情報筋によれば、オーストラリアは英国と共同で、既存のアスチュート級SSNの設計を発展させた次世代潜水艦の設計に取り組むことになる。しかし、作業が複雑であるため、それは2040年代まで航行できない可能性があるということである。さらに3月8日の報道では、オーストラリアが3者間協定の一環として米国からバージニア級SSNを最大5隻購入することで、短期的なオーストラリアの潜水艦部隊の空白を埋める可能性があることが示唆された。
(3) オーストラリアは、濃縮ウラン原子炉を利用した原子力潜水艦を保有する7番目の国となり、潜水艦の推進技術は同国のディーゼル電気推進によっている海軍を中国と技術的に同等にすることになる。しかし、核保有国でないオーストラリアに原子炉を供給する必要があり、中国政府はこの動きを核拡散防止条約違反だと主張している。新型SSNは核兵器を搭載することはない。しかし、Carnegie Endowment for International Peaceの核問題専門家James Actonは推進用原子炉から発生する核廃棄物がどのように処理されるのか、まだ明確になっていないと述べている。
(4) 防衛の専門家達は、新型潜水艦の建造に時間がかかるため、短期的に関連した動きがあるかもしれないと述べている。米国は、中国との海軍力の均衡を保つため、オーストラリアに原子力潜水艦の根拠地を築き、南太平洋を哨戒し易くすることを熱望している。
記事参照:Aukus submarine deal: Australia expected to choose UK design, sources say
3月9日「フィリピン、台湾有事における米軍支援により積極的に―フィリピン専門家論説」(Brookings Institution, March 9, 2023)
3月9日付の米シンクタンクBrookings Institutionのウエブサイトは、フィリピンDe La Salle University教授Renato Cruz De Castroの “The Philippines’ evolving view on Taiwan: From passivity to active involvement”と題する論説を掲載し、Renato Cruz De CastroはMarcos Jr.政権下で、フィリピンが台湾有事における米軍支援により積極的になりつつあるとして、要旨以下のように述べている。
(1) 比米同盟において台湾海峡問題が初めて懸念の対象となったのは1996年3月であった。この時、中国は、非武装の弾道ミサイル数発を発射し、台湾沿岸からそれほど遠くない海域に弾着した。これに対して米国は、台湾近海に2個空母戦闘群を展開させ、台北侵略を容認しないことを中国政府に示威した。この事案後、米政府はフィリピン政府との安全保障関係を改善する必要を痛感し、北東アジアで危機が生起した場合に米軍の迅速な展開を可能にするために、ルソン島の空海軍基地施設の米軍による利用拡大を期待した。比米両国は、1992年後半にフィリピンから米軍が撤退した後、同盟復活のために必須とされた、訪問部隊地位協定(以下、VFAと言う)について1996年から1998年にかけて交渉し、協定を締結した。しかしながら、その後、比米両国が対テロ戦争と西フィリピン海への中国の海洋侵出を重視するにつれ、VFA締結の論拠の1つであった台湾海峡の安定に対する懸念は、Duterte前大統領の任期の最後の数カ月前までは忘れられていた。ロシアのウクライナ侵攻は、中国に台湾海峡で追随するように仕向け、それによって南シナ海と東シナ海、そしてより広く域内全域に巻き添え被害が及ぼす可能性に対して、多くの東南アジア諸国が抱く恐怖を白日のものとした。こうした状況下で、駐米Jose Manuel Romualdezフィリピン大使は2022年3月10日、Duterte前政権が米軍に対して国内基地を開放する用意があることを明らかにした。
(2) 2022年6月のMarcos Jr.新大統領の就任後、米比両国は2023年2月2日の国防長官・国防相会談で、米軍に対してフィリピン国内の4ヵ所の基地施設の新たな利用を認めると発表した。これによって、2014年の防衛協力強化協定(以下、EDCAと言う)によって認められた、米軍が利用可能な基地施設は5ヵ所から9ヵ所に増える。米国はEDCAの合意に従って、これらの基地施設を訓練、装備の事前配備、および滑走路やその他の施設の建設にために利用できる。フィリピンはEDCAに基づいて、相当数の米軍がフィリピンの軍事施設に輪番で展開することを認めた。米軍は、これらの基地施設内で、倉庫、居住区、共用施設、およびフィリピン憲法で禁止されている核兵器を除く戦闘資材の保管施設の建設を計画していた。しかしながら、Duterte政権の6年間は、これらEDCA施設の建設は限定的なものでしかなかった。それでも、米国は、当初の5ヵ所のEDCA基地施設の基幹施設整備の投資に8,200万ドル余を割り当てた。共用基地施設を増やす決定は2022年10月に実現したが、米国はこの時、台湾からルソン海峡を隔てて160海里の位置にあるルソン島中北部地域を中心に、新たに5ヵ所の基地施設の利用を求めた。
(3) この決定と同時に、米比両国軍はフィリピンの西に位置する南シナ海での、そしてルソン地域の北に位置する台湾海峡での将来の緊急作戦に備えた共同戦闘訓練、災害対応訓練を拡大した。2022年には、新編の米3rd Marine Littoral Regiment(第3海兵隊沿海域連隊:以下、MLRと言う)は、ルソン海峡に面した州に所在するPhilippine Marine Corps Coastal Defense Regiment(フィリピン海兵隊沿岸防衛連隊)との間で幾つかの戦闘コンセプトを開発した。ルソン島北東部の共用基地施設にMLRの装備を事前集積することで、U.S. Marine Corpsは、台湾有事により迅速に対応できるとともに、ルソン海峡と南シナ海への米軍の戦力投射を支援することができる。具体的には、これらのEDCA基地施設は、米軍に次の利点を提供し得る。
a. EDCA施設の利用で、U.S, Air ForceとU.S. Marine Corps Aviation(米海兵隊航空隊)は、米本土所在の戦術航空部隊を東南アジアに派遣し、外国の戦闘環境下での経験を積むことができる。
b. EDCA施設は、U.S. NavyとU.S. Marine Corpsの艦船にとって補給および整備・修理のための前方展開施設として利用できる。
c. 南シナ海や台湾において武力衝突が生起した場合、EDCA施設は、米軍にとって迅速な戦闘展開の拠点として機能する。
(4) 米軍が(アクセス協定や東南アジア諸国との共同軍事演習を通じて)日本から東南アジア海域に至る第1列島線に沿って、部隊を前方展開させようとしていることから、米政府にとってのフィリピンの地政学的重要性が高まってきている。フィリピンは厳格な1つの中国政策を遵守してきたが、Marcos Jr.新政権は、隣接する台湾における戦略的緊急事態の可能性に関してワ米政府と協力する必要性を公然と表明し、米国との安全保障関係を強化する必要を痛感している。フィリピン政府は、台湾海峡を巡る中国と台湾間の武力紛争が生起し、激化した場合、大量の難民の流入、台湾で働くフィリピン人労働者の迅速な帰国、さらにはルソン海峡やルソン島北部への紛争の波及といった悪影響から、フィリピンが無縁でいられる可能性はほとんどないことを認識している。
(5) 現在も駐米大使である前出のJose Manuel Romualdez大使は、中台間の緊張激化を阻止するために、条約上の同盟国というだけでなく、大規模な紛争への拡大を防ぐという理由からもフィリピンは米国と軍事的に協力することを認めたが、「我々の安全保障にとって重要である場合」にのみ、台湾有事において米軍に国内軍事基地の使用が認められるであろうと付言している。Marcos Jr.大統領は、台湾を巡る米中紛争がフィリピンを大規模な武力紛争に巻き込む可能性に対する懸念から、台湾有事における米国支援に関して明確にしていない。大統領はインタビューで、「アフリカでは、象同士が闘えば、負けるのは草だけと言われるが、我々もこの状況下での草であり、踏みにじられたくない」と語っている。それにもかかわらず、EDCA実施の加速、共用施設の5ヵ所から9ヵ所への拡大、そして比米両国海軍による南シナ海での共同哨戒の再開という大統領の決断は、この問題に関する大統領の考え方が変化しつつあることを反映している。より最近のインタビューでは、大統領は、「特に台湾海峡有事の場合、地理的な場所だけを考えても、フィリピンが何らかの形で関与しないシナリオを想像するのは非常に難しい」と述べ、中国の侵略から台湾を防衛する米国の努力への支援の可能性を仄めかしている。
記事参照:The Philippines’ evolving view on Taiwan: From passivity to active involvement
(1) 比米同盟において台湾海峡問題が初めて懸念の対象となったのは1996年3月であった。この時、中国は、非武装の弾道ミサイル数発を発射し、台湾沿岸からそれほど遠くない海域に弾着した。これに対して米国は、台湾近海に2個空母戦闘群を展開させ、台北侵略を容認しないことを中国政府に示威した。この事案後、米政府はフィリピン政府との安全保障関係を改善する必要を痛感し、北東アジアで危機が生起した場合に米軍の迅速な展開を可能にするために、ルソン島の空海軍基地施設の米軍による利用拡大を期待した。比米両国は、1992年後半にフィリピンから米軍が撤退した後、同盟復活のために必須とされた、訪問部隊地位協定(以下、VFAと言う)について1996年から1998年にかけて交渉し、協定を締結した。しかしながら、その後、比米両国が対テロ戦争と西フィリピン海への中国の海洋侵出を重視するにつれ、VFA締結の論拠の1つであった台湾海峡の安定に対する懸念は、Duterte前大統領の任期の最後の数カ月前までは忘れられていた。ロシアのウクライナ侵攻は、中国に台湾海峡で追随するように仕向け、それによって南シナ海と東シナ海、そしてより広く域内全域に巻き添え被害が及ぼす可能性に対して、多くの東南アジア諸国が抱く恐怖を白日のものとした。こうした状況下で、駐米Jose Manuel Romualdezフィリピン大使は2022年3月10日、Duterte前政権が米軍に対して国内基地を開放する用意があることを明らかにした。
(2) 2022年6月のMarcos Jr.新大統領の就任後、米比両国は2023年2月2日の国防長官・国防相会談で、米軍に対してフィリピン国内の4ヵ所の基地施設の新たな利用を認めると発表した。これによって、2014年の防衛協力強化協定(以下、EDCAと言う)によって認められた、米軍が利用可能な基地施設は5ヵ所から9ヵ所に増える。米国はEDCAの合意に従って、これらの基地施設を訓練、装備の事前配備、および滑走路やその他の施設の建設にために利用できる。フィリピンはEDCAに基づいて、相当数の米軍がフィリピンの軍事施設に輪番で展開することを認めた。米軍は、これらの基地施設内で、倉庫、居住区、共用施設、およびフィリピン憲法で禁止されている核兵器を除く戦闘資材の保管施設の建設を計画していた。しかしながら、Duterte政権の6年間は、これらEDCA施設の建設は限定的なものでしかなかった。それでも、米国は、当初の5ヵ所のEDCA基地施設の基幹施設整備の投資に8,200万ドル余を割り当てた。共用基地施設を増やす決定は2022年10月に実現したが、米国はこの時、台湾からルソン海峡を隔てて160海里の位置にあるルソン島中北部地域を中心に、新たに5ヵ所の基地施設の利用を求めた。
(3) この決定と同時に、米比両国軍はフィリピンの西に位置する南シナ海での、そしてルソン地域の北に位置する台湾海峡での将来の緊急作戦に備えた共同戦闘訓練、災害対応訓練を拡大した。2022年には、新編の米3rd Marine Littoral Regiment(第3海兵隊沿海域連隊:以下、MLRと言う)は、ルソン海峡に面した州に所在するPhilippine Marine Corps Coastal Defense Regiment(フィリピン海兵隊沿岸防衛連隊)との間で幾つかの戦闘コンセプトを開発した。ルソン島北東部の共用基地施設にMLRの装備を事前集積することで、U.S. Marine Corpsは、台湾有事により迅速に対応できるとともに、ルソン海峡と南シナ海への米軍の戦力投射を支援することができる。具体的には、これらのEDCA基地施設は、米軍に次の利点を提供し得る。
a. EDCA施設の利用で、U.S, Air ForceとU.S. Marine Corps Aviation(米海兵隊航空隊)は、米本土所在の戦術航空部隊を東南アジアに派遣し、外国の戦闘環境下での経験を積むことができる。
b. EDCA施設は、U.S. NavyとU.S. Marine Corpsの艦船にとって補給および整備・修理のための前方展開施設として利用できる。
c. 南シナ海や台湾において武力衝突が生起した場合、EDCA施設は、米軍にとって迅速な戦闘展開の拠点として機能する。
(4) 米軍が(アクセス協定や東南アジア諸国との共同軍事演習を通じて)日本から東南アジア海域に至る第1列島線に沿って、部隊を前方展開させようとしていることから、米政府にとってのフィリピンの地政学的重要性が高まってきている。フィリピンは厳格な1つの中国政策を遵守してきたが、Marcos Jr.新政権は、隣接する台湾における戦略的緊急事態の可能性に関してワ米政府と協力する必要性を公然と表明し、米国との安全保障関係を強化する必要を痛感している。フィリピン政府は、台湾海峡を巡る中国と台湾間の武力紛争が生起し、激化した場合、大量の難民の流入、台湾で働くフィリピン人労働者の迅速な帰国、さらにはルソン海峡やルソン島北部への紛争の波及といった悪影響から、フィリピンが無縁でいられる可能性はほとんどないことを認識している。
(5) 現在も駐米大使である前出のJose Manuel Romualdez大使は、中台間の緊張激化を阻止するために、条約上の同盟国というだけでなく、大規模な紛争への拡大を防ぐという理由からもフィリピンは米国と軍事的に協力することを認めたが、「我々の安全保障にとって重要である場合」にのみ、台湾有事において米軍に国内軍事基地の使用が認められるであろうと付言している。Marcos Jr.大統領は、台湾を巡る米中紛争がフィリピンを大規模な武力紛争に巻き込む可能性に対する懸念から、台湾有事における米国支援に関して明確にしていない。大統領はインタビューで、「アフリカでは、象同士が闘えば、負けるのは草だけと言われるが、我々もこの状況下での草であり、踏みにじられたくない」と語っている。それにもかかわらず、EDCA実施の加速、共用施設の5ヵ所から9ヵ所への拡大、そして比米両国海軍による南シナ海での共同哨戒の再開という大統領の決断は、この問題に関する大統領の考え方が変化しつつあることを反映している。より最近のインタビューでは、大統領は、「特に台湾海峡有事の場合、地理的な場所だけを考えても、フィリピンが何らかの形で関与しないシナリオを想像するのは非常に難しい」と述べ、中国の侵略から台湾を防衛する米国の努力への支援の可能性を仄めかしている。
記事参照:The Philippines’ evolving view on Taiwan: From passivity to active involvement
3月9日「ロシアの海洋戦略と太平洋―英海上安全保障専門家論説」(IIDS Paper, RSIS, March 9, 2023)
3月9日付のシンガポールのThe S. Rajaratnam School of International Studies(RSIS)が発行するIIDS Paperは、King's College Londonの海洋防衛学の名誉教授でRSIS海上安全保障問題顧問であるGeoffrey Tillの“RUSSIA MARITIME STRATEGY AND THE PACIFIC”と題する論説を掲載し、ここでGeoffrey Tillは2022年7月Putin大統領によって承認された「ロシア連邦海洋戦略」は、ロシアの戦略的優先事項が東ではなく西であることを暗黙のうちに述べるとともに、ロシアにとって海洋安全保障とは海洋における脅威のあらゆる側面を包摂する不可分な全体として考えられる必要があることを強調した非常に重要な文書であるとして、要旨以下のように述べている。
(1) 2022年に発表されたロシアの海洋戦略ドクトリンは、海洋安全保障については全般的かつ繋がりのある方法で考えることの重要性を示している。Geoffrey Tillは、さまざまな海洋の戦域の議論において、この文書もウクライナでのロシアの戦争を支援する上での太平洋地域の重要性を強調していると主張している。
(2) ウクライナ戦争から5ヵ月後の2022年7月、Vladimir Putin大統領は「ロシア連邦海洋戦略(The Maritime Strategy of the Russian Federation)」を承認した。数年にわたって作成と変更がなされたこの文書は、海洋安全保障の分野の全般にわたるロシア政府の考え方を表している。本文書は、他のほとんどの国の海洋ドクトリンと同様に、ロシアが経済的利益のために海洋の可能性を利用し、必要に応じて、環境破壊から犯罪活動、敵対国からの侵略に至るまでの脅威からロシアの利益を保護することを可能にする、国家の海洋能力を全面的にさらに発展させる必要があることを強調している。
(3) 海洋安全保障への中程度のレベルの脅威への対処の方法は広範であり、本文書のほぼ半分を占めている。その中で、本文書には、1970年代に現れたSergei Gorshkov提督の『国家の海上権力(Sea Power of the State)』という思想が強く反映されている。本文書の最も特徴的な側面の1つは、少なくとも理論上では、ロシアの海洋思想がいかに統合され、全体論的(holistic)であるかを示していることである。
(4) 強い願望を現実に変えるには、徹底的に統合された国家全体の取り組みが必要である。本文書には「ロシア連邦は、世界の海洋における国益を実行し、保護するために政治、外交、経済、情報、軍事その他すべての分野の国家政策手段を使用している」と書かれている。最後に、ウクライナでの残虐な戦争の最中に作成された本文書は、他の2つの理由でも興味深いものである。その第1の理由は、本文書がロシアの海洋政策全体を織りなす非常に重要な事項を網羅していることである。第2の理由は、世界の海洋における国益が決定的に危機に瀕しているロシアにとっての各地域の相対的な重要性について議論がなされていることである。海軍についての議論が、主に大西洋地域において、より一般的には世界の海全体で、明確な脅威の認識に基づいて語られている。
(5) 米国とその同盟国は地域的行動だけでなく、世界規模でのグローバルな行動が可能であり、陸、海の大国であるロシアの地位を封じ込め、弱体化させようとしている。NATOがロシアの国境にまで拡大してくることは、ロシアを領土に封じ込め、弱体化させることを目的としている。 そして、西側の現在の海軍の優位は明らかに海洋においてロシアを封じ込め、弱体させることを狙っている。ロシアの経済は、輸出貿易に依存している。そのため、海上通商路が安全で妨げられることなく使用できることが不可欠である。世界の海の利用は、米国とその同盟国の海上の優位によって日々脅かされており、海洋の可能性を開発するロシアの能力は重大な危険にさらされており、ロシアには、敵対的で不安定な世界に投資し、保護し、防衛する必要がある。本文書は、「現代のロシア連邦は強力な海軍なしでは存在できない陸と海の偉大な力」であることを強調している。
(6) 世界の海域に関して、北極圏は当然のことながら「ロシア連邦の国家安全保障に不可欠であると特定された唯一の地域、そして国家の存在そのもの」であり、北極海航路と並んで、北極圏は「戦略的資源」地域と見なされている。対照的に大西洋地域については、悪意のある「NATOの存在」が、ロシアの緊要な防衛の必要性の対象となっている。一方、太平洋地域の扱いについては、オホーツク海と千島列島の海峡の重要性と戦略的安定を維持する必要性への言及を除いて、そのような脅威の感覚はない。極東ロシアの「巨大な」資源は、その地理的孤立を克服し、その経済的及び産業的可能性を開発するため巨額の投資を行うことを正当化している。投資には、「海軍の近代的な空母」を含む大型艦船を建造するためのハイテク造船所を建設することが含まれている。
(7) では、この理論は現在の実践とどのように比較されるのか?ロシアは、常に帝国であり、東と西の両方を見ている。その優先順位は状況によって異なる。現在、北極圏と太平洋地域が西で行われている主な取り組みを支援している。本文書で東と西の両方での国の長期的な資源基盤の構築と防御に重点が置かれていることは、西での長期的な闘争の可能性に対する危険性の回避でもある。
(8) 極東ロシアは、西でのこのおそらく存在を賭けた戦いのために、戦略的縦深と人的および物的資源をより迅速に提供している。極東ロシアは、ヨーロッパロシアから転身した戦略爆撃機の一部の聖域になっており、東部軍管区の多くの諸兵科連合軍から16,000目の兵員がウクライナ戦域に増派され、ロシア太平洋艦隊はまた、水陸両用戦艦と海軍歩兵のエリート旅団を黒海に展開している。時には中国海軍と共同で北東太平洋での哨戒を実施して海軍力の誇示し、主要な敵である米海軍が西へ集中することからそらすのに役立っている。ロシアは長期的に中国と北朝鮮の成長ために両国を支援する必要があるが、実際に政治的および物資的な支援の潜在的な供給源と見ている。
(9) 「ロシア連邦の海洋ドクトリン」は、ロシアの戦略的優先事項を暗黙のうちに述べている非常に重要な文書である。ロシアの海上安全保障を海上脅威のあらゆる側面を包摂する不可分な全体として考える必要があることを強調している。本文書は、ウクライナ戦争の最中に、ロシアの成功さらには存続に不可欠と見なされている太平洋とその他のすべての世界の海について論じている。
記事参照:RUSSIA MARITIME STRATEGY AND THE PACIFIC
(1) 2022年に発表されたロシアの海洋戦略ドクトリンは、海洋安全保障については全般的かつ繋がりのある方法で考えることの重要性を示している。Geoffrey Tillは、さまざまな海洋の戦域の議論において、この文書もウクライナでのロシアの戦争を支援する上での太平洋地域の重要性を強調していると主張している。
(2) ウクライナ戦争から5ヵ月後の2022年7月、Vladimir Putin大統領は「ロシア連邦海洋戦略(The Maritime Strategy of the Russian Federation)」を承認した。数年にわたって作成と変更がなされたこの文書は、海洋安全保障の分野の全般にわたるロシア政府の考え方を表している。本文書は、他のほとんどの国の海洋ドクトリンと同様に、ロシアが経済的利益のために海洋の可能性を利用し、必要に応じて、環境破壊から犯罪活動、敵対国からの侵略に至るまでの脅威からロシアの利益を保護することを可能にする、国家の海洋能力を全面的にさらに発展させる必要があることを強調している。
(3) 海洋安全保障への中程度のレベルの脅威への対処の方法は広範であり、本文書のほぼ半分を占めている。その中で、本文書には、1970年代に現れたSergei Gorshkov提督の『国家の海上権力(Sea Power of the State)』という思想が強く反映されている。本文書の最も特徴的な側面の1つは、少なくとも理論上では、ロシアの海洋思想がいかに統合され、全体論的(holistic)であるかを示していることである。
(4) 強い願望を現実に変えるには、徹底的に統合された国家全体の取り組みが必要である。本文書には「ロシア連邦は、世界の海洋における国益を実行し、保護するために政治、外交、経済、情報、軍事その他すべての分野の国家政策手段を使用している」と書かれている。最後に、ウクライナでの残虐な戦争の最中に作成された本文書は、他の2つの理由でも興味深いものである。その第1の理由は、本文書がロシアの海洋政策全体を織りなす非常に重要な事項を網羅していることである。第2の理由は、世界の海洋における国益が決定的に危機に瀕しているロシアにとっての各地域の相対的な重要性について議論がなされていることである。海軍についての議論が、主に大西洋地域において、より一般的には世界の海全体で、明確な脅威の認識に基づいて語られている。
(5) 米国とその同盟国は地域的行動だけでなく、世界規模でのグローバルな行動が可能であり、陸、海の大国であるロシアの地位を封じ込め、弱体化させようとしている。NATOがロシアの国境にまで拡大してくることは、ロシアを領土に封じ込め、弱体化させることを目的としている。 そして、西側の現在の海軍の優位は明らかに海洋においてロシアを封じ込め、弱体させることを狙っている。ロシアの経済は、輸出貿易に依存している。そのため、海上通商路が安全で妨げられることなく使用できることが不可欠である。世界の海の利用は、米国とその同盟国の海上の優位によって日々脅かされており、海洋の可能性を開発するロシアの能力は重大な危険にさらされており、ロシアには、敵対的で不安定な世界に投資し、保護し、防衛する必要がある。本文書は、「現代のロシア連邦は強力な海軍なしでは存在できない陸と海の偉大な力」であることを強調している。
(6) 世界の海域に関して、北極圏は当然のことながら「ロシア連邦の国家安全保障に不可欠であると特定された唯一の地域、そして国家の存在そのもの」であり、北極海航路と並んで、北極圏は「戦略的資源」地域と見なされている。対照的に大西洋地域については、悪意のある「NATOの存在」が、ロシアの緊要な防衛の必要性の対象となっている。一方、太平洋地域の扱いについては、オホーツク海と千島列島の海峡の重要性と戦略的安定を維持する必要性への言及を除いて、そのような脅威の感覚はない。極東ロシアの「巨大な」資源は、その地理的孤立を克服し、その経済的及び産業的可能性を開発するため巨額の投資を行うことを正当化している。投資には、「海軍の近代的な空母」を含む大型艦船を建造するためのハイテク造船所を建設することが含まれている。
(7) では、この理論は現在の実践とどのように比較されるのか?ロシアは、常に帝国であり、東と西の両方を見ている。その優先順位は状況によって異なる。現在、北極圏と太平洋地域が西で行われている主な取り組みを支援している。本文書で東と西の両方での国の長期的な資源基盤の構築と防御に重点が置かれていることは、西での長期的な闘争の可能性に対する危険性の回避でもある。
(8) 極東ロシアは、西でのこのおそらく存在を賭けた戦いのために、戦略的縦深と人的および物的資源をより迅速に提供している。極東ロシアは、ヨーロッパロシアから転身した戦略爆撃機の一部の聖域になっており、東部軍管区の多くの諸兵科連合軍から16,000目の兵員がウクライナ戦域に増派され、ロシア太平洋艦隊はまた、水陸両用戦艦と海軍歩兵のエリート旅団を黒海に展開している。時には中国海軍と共同で北東太平洋での哨戒を実施して海軍力の誇示し、主要な敵である米海軍が西へ集中することからそらすのに役立っている。ロシアは長期的に中国と北朝鮮の成長ために両国を支援する必要があるが、実際に政治的および物資的な支援の潜在的な供給源と見ている。
(9) 「ロシア連邦の海洋ドクトリン」は、ロシアの戦略的優先事項を暗黙のうちに述べている非常に重要な文書である。ロシアの海上安全保障を海上脅威のあらゆる側面を包摂する不可分な全体として考える必要があることを強調している。本文書は、ウクライナ戦争の最中に、ロシアの成功さらには存続に不可欠と見なされている太平洋とその他のすべての世界の海について論じている。
記事参照:RUSSIA MARITIME STRATEGY AND THE PACIFIC
【補遺】
旬報で抄訳紹介しなかった主な論調、シンクタンク報告書
(1) The World After Taiwan’s Fall – PART ONE
https://pacforum.org/publication/pacnet-16-the-world-after-taiwans-fall-part-one
PacNet, Pacific Forum, CSIC, February 28, 2023
By David SANTORO is President of the Pacific Forum.
Ralph COSSA is President Emeritus and WSD-Handa Chair in Peace Studies.
2月28日付の米シンクタンクPacific Forum, Center for Strategic and International Studies会長David SANTOROと名誉会長Ralph COSSAは、同Forumが発行するPacNetのウエブサイトに“The World After Taiwan’s Fall – PART ONE”と題する研究成果要約を寄稿した。両名は2023年1月に公表された“The World After Taiwan’s Fall”の編者であり、この研究はPacific Forumが台湾問題に関し、米国が中国の台湾侵攻に対して介入しなかった場合、および介入したが中国の侵攻阻止に失敗した場合の影響について、米、オーストラリア、日本、韓国、インド、ヨーロッパの研究者によるそれぞれの地域について研究を進め、その成果、提言を取りまとめたもので、両名はその要約を第1部、第2部に分けて発表したものである。第1部で、両名は米国やその同盟国の介入の有無を含め、どのように起こるかに関係なく、台湾の崩壊が米国および地域内外の多くの国に壊滅的な結果をもたらし、インド太平洋のいくつかの地域において核拡散もその結果であるとした上で、さらに、台湾の崩壊の最終的な結果でありインド太平洋地域だけでなく世界的に同盟国や提携国に対する米国の信頼性と防衛の誓約が損なわれると警告している。そして、米国、オーストラリア、日本、韓国、インドおよび欧州から参加の研究者の研究成果として、①米国からは台湾の崩壊がどうようなものになるかに関係なく悲惨なものになるとの指摘がある一方、米国、その同盟国が中国と激しく戦った後の台湾の崩壊はそれほど悪いものとはならないだろうと予測し、米国は中国を抑えるための集団的抑止と防衛システムを構築する立場にある。と主張している。②オーストラリアからの研究者は、米国と同盟国が介入しなかった場合、中国は行動の自由を獲得し、影響力と軍事力の展開を拡大し、特に日本とオーストラリアに圧力をかけることが可能になるとし、介入しても失敗した場合には米国の衰退と認識が強まるか、戦争が長引くことでいずれにしてもオーストラリアにとって良くない影響であるとした上で、オーストラリアは、防衛政策、米国との同盟、および他の地域の提携国との戦略的関係を再調整し、根本的に再考する必要があると主張している。③日本からの研究者は、台湾が陥落した場合、政治的、軍事的、経済的、さらには価値観やイデオロギーの面でも、その結果は日本に深刻な影響を与えるだろうと指摘し、米国の介入の有無にかかわらず結果として日米同盟に深刻な問題が顕在化する可能性が高いと指摘している。④韓国からの研究者は、米国、同盟国の介入の有無にかかわらず、台湾が韓国に陥落した場合の予想される結果は、米国の安全保障上の誓約と独自の核抑止力獲得への関心に関する韓国の認識と感情の点で等しく悪いと強調し、米国への信頼を失う程度は韓国の政権政党、米韓同盟の状態、韓中関係の状態、北朝鮮の核能力と戦略的計算に大きく依存するとしながらも、決定的要因は習近平国家主席の世界観と中国の経済状況であるとし、「変わることのない結果」は北朝鮮を大胆に、より攻撃的にすることであると強調している。⑤インドからの研究者は、「印台2国間関係自体の観点から、インドにとって現場ではほとんど変わらないだろう」と主張し、インドは米国から距離を置くことによって、米国との関係を再考すると付け加えて、台湾の崩壊はインドに広範囲にわたる非常に否定的な影響を与えるだろうと強調している。⑥ヨーロッパからの研究者は、この問題に関する見解と認識が大きく異なるとした上で、台湾の陥落は経済的および戦略的影響はヨーロッパにとって問題になるだろうが、介入に失敗は「ヨーロッパへの被害は少ない」と主張する一方、台湾の陥落は「自らを守る立場にあるために迅速に行動しなければならないというヨーロッパへの警鐘」となり、いくつかのヨーロッパの国々は、インド太平洋において米国の同盟国との安全保障および防衛関係を強化しようとする可能性が高いと付け加えている。
(注:本記事は2月28日付で掲載されたもので、2月下旬の旬報に掲載されるべきものであるが、PART TWOとの連接を考慮し、3月上旬の旬報に掲載するものである。)
(2) The World After Taiwan’s Fall – PART TWO
https://pacforum.org/wp-content/uploads/2023/03/PacNet17.2023.03.02.pdf
PacNet, Pacific Forum, March 1, 2023
3月1日付の米シンクタンクPacific Forum, Center for Strategic and International Studies会長David SANTOROと名誉会長Ralph COSSAは、同Forumが発行するPacNetのウエブサイトに“The World After Taiwan’s Fall – PART TWO”と題する研究成果要約を寄稿した。両名は2023年1月に公表された“The World After Taiwan’s Fall”の編者であり、この研究はPacific Forumが台湾問題に関し、米国が中国の台湾侵攻に対して介入しなかった場合、および介入したが中国の侵攻阻止に失敗した場合の影響について、米、オーストラリア、日本、韓国、インド、ヨーロッパの研究者によるそれぞれの地域について研究を進め、その成果、提言を取りまとめたもので、両名はその要約を第1部、第2部に分けて発表したものである。第2部で、研究成果を項目毎に整理・要約し、それに対する提言をまとめた。
①最初に指摘されたのは、台湾陥落後に、米政府が次に何をするかにすべての目が向けられ、決定が「堅固に守られた米本国」に撤退であれば、米国への信頼は壊滅的になることから、米国は台湾陥落後の同盟国・提携国に関与する次の手を熟考すべきであり、その際、「堅固に守られた米本国」に撤退と言う選択肢は排除すべきである。②台湾陥落後の米国の次の手は状況に大きく影響され、不確実であるが、中国の冒険主義を防ぎ、最終的に台湾を奪還するために、NATOに相当するようなアジアにおける安全保障機構を構築する必要があるとの成果を受け、米国は同盟国と提携国を結集してさらなる冒険主義を阻止し、最終的には中国に対する反撃を開始する必要があると提言している。③中国が台湾侵攻に成功した場合、近隣諸国に対してより攻撃的になるだろうと分析されており、中国が台湾に勝利することに伴う対価と危険性に対する認識を高め、すべての地域の行為者にインド太平洋におけるより強力な集団的抑止と防衛機構の構築を支援するよう促す必要がある。④台湾は戦略的に重要な場所にあり、その軍事力と諜報能力は日本や他の東アジア諸国が中国の脅威を回避するのに役立っているが、台湾が陥落すれば中国はそれらを手中に収め、東アジアに展開する米軍を危険に陥れ、日本等へ侵略し、南シナ海、東南アジアの支配を強化すると考えられることから、台湾陥落の危険性をめぐって地域の国々を結集する際には、中国のこの地域支配の拡大と中国によって厳しく管理されている中国の勢力圏を強調するべきである。⑤地域諸国は台湾陥落の次に来る可能性があることを恐れており、日豪韓における核の拡散に関してはより微妙であるが、その他の国では核の拡散は避けられないと考えられており、台湾が陥落した場合、米国の拡大抑止力の強化は最優先事項である。⑥核拡散がアジアを超えて広がる可能性は低いと分析されており、米国は核拡散問題が主に地域の問題への対応であることに留意し、米国は同盟国や提携国への防衛上の誓約を強化することに加えて、不拡散体制の強化を目指すべきである。⑦台湾の陥落は、米国の同盟関係の一部を破綻させ、インド太平洋における戦略的関係を再形成する可能性が高く、特に中国とロシアが支配する「権威主義国家の枢軸」が出現し、核の強制あるいは核使用が地政学的な核心となるのに役立つという結論を導き出した場合に起こりうるため、米国は現在の同盟国との同盟と核の傘を強化することに加えて、他の国々への核の傘を提供することを検討するか、少なくとも、それらとより緊密な安全保障協力を進めていくことが必要である。⑧地域全体の核共有の取り決めが有益であるかどうかについては研究員の間で意見の相違があり、米国の研究員は米国の参画無しにはあり得ないと主張しているのに対し、他の研究員は米国を地域全体の核共有の取り決めに参画することを望んでいるが、米国の参画無しでの取り決めを排除していない。このため、米国はNATOの経験を活用しながらも、インド太平洋地域に合わせて調整し、そのような取り決めがもたらす潜在的な利益、対価、危険性を探求すべきである。⑨米国とその同盟国および提携国は、台湾陥落の影響を振り返り、インド太平洋における集団的抑止と防衛の決意を示し、強化する計画を優先事項とすべきであることから、米国は、脅威にさらされている同盟国や提携国、特に台湾に対する防衛協定と安全保障支援を倍増させ、防衛上の誓約をより明確にし、新しい能力を開発および展開するための措置を講じる必要がある。また、米国は核抑止を含む抑止力を強化し、「唯一の目的」または「先制不使用」の声明を拒否する必要がある。⑩米国が台湾を守るためにより明確に対応する決意と準備を明確にし、それを示す必要があり、中国は、米国が台湾の侵略に対応することを疑うべきではなく、台湾の崩壊に対する米国の最善の対応は、「アジア版NATO」ではなく、既存の同盟と新しい防衛協定の再活性化を通じて、中国のさらなる侵略を防ぐための志を同じくする米国の友人や同盟国との協調的な努力である。行動は、台湾が中国政府の支配下に置かれた場合に失うものも多くある同盟国や提携国と調整する必要がある。
(3) Going to War Over Taiwan: Who Decides?
https://thedispatch.com/article/going-to-war-over-taiwan-who-decides/
The Dispatch, March 9, 2023
By Gary J. Schmitt, Senior Fellow at American Enterprise Institute (AEI)
3月9日、米シンクタンクAmerican Enterprise Institute上席研究員Gary J. Schmittは、米オンライン政治誌The Dispatchに、“Going to War Over Taiwan: Who Decides?”と題する論説を寄稿した。その中で、①たとえBiden米大統領が議会の承認なしに米国の介入を正当化できたとしても、立法府で賛意を得ることは政治的に重要である。②強力な兵器を保有する中国との紛争に、米国を巻き込む法的または憲法上の権限は何なのだろうか?③歴代米大統領は、条約も議会の承認もなく、紛争地帯に米軍を派遣する権限を長きにわたり主張してきた。④しかし、核兵器の使用を含む大規模な軍事衝突に発展する可能性がある場合、「台湾関係法」だけで十分なのだろうか?⑤米政府は、主要かつ潜在的な軍事的関与のほとんどを、正式な条約や議会決議で根拠づけることが適切であると判断しており、朝鮮戦争以降、米軍が関与する大規模で持続的な紛争に関して、議会の承認がなかったものはない。⑥この点に関して、米国やその国民、またはその権利が攻撃されたり危険にさらされたりしていない場合、国家を平和状態から戦争状態に移行させる最終決定権は議会にある、という憲法上の通り道の範囲内に留まっている。⑦さらに困難なのは、中国が攻めてきた場合、大統領が台湾防衛を成功させようとするならば、議会の承認を待っている時間はないという事実である。⑧米大統領が台湾防衛を明言するだけでなく、できる限り早く米議会がそれを支持し、法律として施行すべきであるといった主張を述べている。
(4) Interview: the man behind Marcos’ swift shift to the US
https://asiatimes.com/2023/03/interview-the-man-behind-marcos-swift-shift-to-the-us/
Asia Ties, March 9, 2023
By Richard J. Heydarian, a Professorial Chairholder at the Polytechnic University of the Philippines
2023年3月9日、Jose Manuel Romualdez駐米フィリピン大使に対するフィリピン比Polytechnic University of the PhilippinesのRichard J. Heydarianのオンラインインタビュー記事が、香港のデジタル紙Asia Timesに" Interview: the man behind Marcos’ swift shift to the US "と題して掲載された。その中でRomualdez大使は、Heydarianの質問に答える形で、現在のFerdinand R. Marcos Jr.フィリピン大統領は、彼の実父であるFerdinand Edralin Marcos元大統領が米国と親密な関係を築いていたことが根底にあるが、大国との関係については非常に明晰で、彼は中国を潜在的な経済的提携国として見ているが、南シナ海問題に関しては、彼は憲法で領土保全を義務付けられており、すでに妥協しないことを表明していると述べ、フィリピンと米国との同盟関係についても、比米両国の利害は一致しており、米国は私たちの領土保全と主権を支持するという点で、私たちとともにあると述べている。そしてRomualdez大使は、こうしたMarcos Jr.大統領の姿勢は、Duterte前比大統領が、従来とは非常に異なる角度からフィリピンと米国との関係を捉え、彼独特の外交政策として、米国に対して「我々を当たり前の存在だと思わないでほしい。つまり、我々は友人であり、長年の同盟国であるが、我々を当たり前の存在だと思わないでほしい」という非常に明確なメッセージを送ろうとしたことも引き継いでいるとした上で、いずれにせよMarcos Jr.大統領は、国のために自分の役割を果たそうとする指導者であり、フィリピンを愛していると述べている。
(5) A Strategy of Denial for the Western Pacific
https://www.usni.org/magazines/proceedings/2023/march/strategy-denial-western-pacific
Proceedings, March 2023
By Elbridge Colby, a principal at the Marathon Initiative. As Deputy Assistant Secretary of Defense for Strategy and Force Development, he served as the lead official in the development of the 2018 National Defense Strategy.
2023年3月、米シンクタンクthe Marathon Initiativeの共同代表Elbridge Colby元米国防次官補代理は、The U.S. Naval Instituteが発行する月刊誌Proceedingsのウエブサイトに" A Strategy of Denial for the Western Pacific "と題する論説を寄稿した。その中でElbridge Colbyは、中国はインド太平洋地域の支配を目指しているが、米国の核心的利益に対する第一の脅威は、中国がアジアを支配し、米国人の繁栄、自由、さらには安全保障を損なう可能性があることであり、これは単なる憶測の域を出ない恐怖であると指摘し、中国政府はアジア地域の覇権を追求しており、成功すれば、アメリカ人の生活に直接介入し、支配的な影響力を行使できるような世界規模の優位性を追求する可能性が非常に高いと述べている。そしてElbridge Colbyは、米国はアジア諸国と協力して、この地域における中国政府の支配を否定することに焦点を当てた反覇権的連合を組むことが必要であるが、この戦略における米軍の役割は中心的なものであると指摘し、その理由として、中国は経済やその他の非軍事的な影響力を膨大かつ拡大しているが、その影響力を利用して周辺国に実質的な朝貢関係を受け入れさせることは、日本、インド、台湾、オーストラリアとの関係で明らかなように困難であり、中国政府は軍事力に頼ることなくアジアを支配することはできないからだと主張している。
(1) The World After Taiwan’s Fall – PART ONE
https://pacforum.org/publication/pacnet-16-the-world-after-taiwans-fall-part-one
PacNet, Pacific Forum, CSIC, February 28, 2023
By David SANTORO is President of the Pacific Forum.
Ralph COSSA is President Emeritus and WSD-Handa Chair in Peace Studies.
2月28日付の米シンクタンクPacific Forum, Center for Strategic and International Studies会長David SANTOROと名誉会長Ralph COSSAは、同Forumが発行するPacNetのウエブサイトに“The World After Taiwan’s Fall – PART ONE”と題する研究成果要約を寄稿した。両名は2023年1月に公表された“The World After Taiwan’s Fall”の編者であり、この研究はPacific Forumが台湾問題に関し、米国が中国の台湾侵攻に対して介入しなかった場合、および介入したが中国の侵攻阻止に失敗した場合の影響について、米、オーストラリア、日本、韓国、インド、ヨーロッパの研究者によるそれぞれの地域について研究を進め、その成果、提言を取りまとめたもので、両名はその要約を第1部、第2部に分けて発表したものである。第1部で、両名は米国やその同盟国の介入の有無を含め、どのように起こるかに関係なく、台湾の崩壊が米国および地域内外の多くの国に壊滅的な結果をもたらし、インド太平洋のいくつかの地域において核拡散もその結果であるとした上で、さらに、台湾の崩壊の最終的な結果でありインド太平洋地域だけでなく世界的に同盟国や提携国に対する米国の信頼性と防衛の誓約が損なわれると警告している。そして、米国、オーストラリア、日本、韓国、インドおよび欧州から参加の研究者の研究成果として、①米国からは台湾の崩壊がどうようなものになるかに関係なく悲惨なものになるとの指摘がある一方、米国、その同盟国が中国と激しく戦った後の台湾の崩壊はそれほど悪いものとはならないだろうと予測し、米国は中国を抑えるための集団的抑止と防衛システムを構築する立場にある。と主張している。②オーストラリアからの研究者は、米国と同盟国が介入しなかった場合、中国は行動の自由を獲得し、影響力と軍事力の展開を拡大し、特に日本とオーストラリアに圧力をかけることが可能になるとし、介入しても失敗した場合には米国の衰退と認識が強まるか、戦争が長引くことでいずれにしてもオーストラリアにとって良くない影響であるとした上で、オーストラリアは、防衛政策、米国との同盟、および他の地域の提携国との戦略的関係を再調整し、根本的に再考する必要があると主張している。③日本からの研究者は、台湾が陥落した場合、政治的、軍事的、経済的、さらには価値観やイデオロギーの面でも、その結果は日本に深刻な影響を与えるだろうと指摘し、米国の介入の有無にかかわらず結果として日米同盟に深刻な問題が顕在化する可能性が高いと指摘している。④韓国からの研究者は、米国、同盟国の介入の有無にかかわらず、台湾が韓国に陥落した場合の予想される結果は、米国の安全保障上の誓約と独自の核抑止力獲得への関心に関する韓国の認識と感情の点で等しく悪いと強調し、米国への信頼を失う程度は韓国の政権政党、米韓同盟の状態、韓中関係の状態、北朝鮮の核能力と戦略的計算に大きく依存するとしながらも、決定的要因は習近平国家主席の世界観と中国の経済状況であるとし、「変わることのない結果」は北朝鮮を大胆に、より攻撃的にすることであると強調している。⑤インドからの研究者は、「印台2国間関係自体の観点から、インドにとって現場ではほとんど変わらないだろう」と主張し、インドは米国から距離を置くことによって、米国との関係を再考すると付け加えて、台湾の崩壊はインドに広範囲にわたる非常に否定的な影響を与えるだろうと強調している。⑥ヨーロッパからの研究者は、この問題に関する見解と認識が大きく異なるとした上で、台湾の陥落は経済的および戦略的影響はヨーロッパにとって問題になるだろうが、介入に失敗は「ヨーロッパへの被害は少ない」と主張する一方、台湾の陥落は「自らを守る立場にあるために迅速に行動しなければならないというヨーロッパへの警鐘」となり、いくつかのヨーロッパの国々は、インド太平洋において米国の同盟国との安全保障および防衛関係を強化しようとする可能性が高いと付け加えている。
(注:本記事は2月28日付で掲載されたもので、2月下旬の旬報に掲載されるべきものであるが、PART TWOとの連接を考慮し、3月上旬の旬報に掲載するものである。)
(2) The World After Taiwan’s Fall – PART TWO
https://pacforum.org/wp-content/uploads/2023/03/PacNet17.2023.03.02.pdf
PacNet, Pacific Forum, March 1, 2023
3月1日付の米シンクタンクPacific Forum, Center for Strategic and International Studies会長David SANTOROと名誉会長Ralph COSSAは、同Forumが発行するPacNetのウエブサイトに“The World After Taiwan’s Fall – PART TWO”と題する研究成果要約を寄稿した。両名は2023年1月に公表された“The World After Taiwan’s Fall”の編者であり、この研究はPacific Forumが台湾問題に関し、米国が中国の台湾侵攻に対して介入しなかった場合、および介入したが中国の侵攻阻止に失敗した場合の影響について、米、オーストラリア、日本、韓国、インド、ヨーロッパの研究者によるそれぞれの地域について研究を進め、その成果、提言を取りまとめたもので、両名はその要約を第1部、第2部に分けて発表したものである。第2部で、研究成果を項目毎に整理・要約し、それに対する提言をまとめた。
①最初に指摘されたのは、台湾陥落後に、米政府が次に何をするかにすべての目が向けられ、決定が「堅固に守られた米本国」に撤退であれば、米国への信頼は壊滅的になることから、米国は台湾陥落後の同盟国・提携国に関与する次の手を熟考すべきであり、その際、「堅固に守られた米本国」に撤退と言う選択肢は排除すべきである。②台湾陥落後の米国の次の手は状況に大きく影響され、不確実であるが、中国の冒険主義を防ぎ、最終的に台湾を奪還するために、NATOに相当するようなアジアにおける安全保障機構を構築する必要があるとの成果を受け、米国は同盟国と提携国を結集してさらなる冒険主義を阻止し、最終的には中国に対する反撃を開始する必要があると提言している。③中国が台湾侵攻に成功した場合、近隣諸国に対してより攻撃的になるだろうと分析されており、中国が台湾に勝利することに伴う対価と危険性に対する認識を高め、すべての地域の行為者にインド太平洋におけるより強力な集団的抑止と防衛機構の構築を支援するよう促す必要がある。④台湾は戦略的に重要な場所にあり、その軍事力と諜報能力は日本や他の東アジア諸国が中国の脅威を回避するのに役立っているが、台湾が陥落すれば中国はそれらを手中に収め、東アジアに展開する米軍を危険に陥れ、日本等へ侵略し、南シナ海、東南アジアの支配を強化すると考えられることから、台湾陥落の危険性をめぐって地域の国々を結集する際には、中国のこの地域支配の拡大と中国によって厳しく管理されている中国の勢力圏を強調するべきである。⑤地域諸国は台湾陥落の次に来る可能性があることを恐れており、日豪韓における核の拡散に関してはより微妙であるが、その他の国では核の拡散は避けられないと考えられており、台湾が陥落した場合、米国の拡大抑止力の強化は最優先事項である。⑥核拡散がアジアを超えて広がる可能性は低いと分析されており、米国は核拡散問題が主に地域の問題への対応であることに留意し、米国は同盟国や提携国への防衛上の誓約を強化することに加えて、不拡散体制の強化を目指すべきである。⑦台湾の陥落は、米国の同盟関係の一部を破綻させ、インド太平洋における戦略的関係を再形成する可能性が高く、特に中国とロシアが支配する「権威主義国家の枢軸」が出現し、核の強制あるいは核使用が地政学的な核心となるのに役立つという結論を導き出した場合に起こりうるため、米国は現在の同盟国との同盟と核の傘を強化することに加えて、他の国々への核の傘を提供することを検討するか、少なくとも、それらとより緊密な安全保障協力を進めていくことが必要である。⑧地域全体の核共有の取り決めが有益であるかどうかについては研究員の間で意見の相違があり、米国の研究員は米国の参画無しにはあり得ないと主張しているのに対し、他の研究員は米国を地域全体の核共有の取り決めに参画することを望んでいるが、米国の参画無しでの取り決めを排除していない。このため、米国はNATOの経験を活用しながらも、インド太平洋地域に合わせて調整し、そのような取り決めがもたらす潜在的な利益、対価、危険性を探求すべきである。⑨米国とその同盟国および提携国は、台湾陥落の影響を振り返り、インド太平洋における集団的抑止と防衛の決意を示し、強化する計画を優先事項とすべきであることから、米国は、脅威にさらされている同盟国や提携国、特に台湾に対する防衛協定と安全保障支援を倍増させ、防衛上の誓約をより明確にし、新しい能力を開発および展開するための措置を講じる必要がある。また、米国は核抑止を含む抑止力を強化し、「唯一の目的」または「先制不使用」の声明を拒否する必要がある。⑩米国が台湾を守るためにより明確に対応する決意と準備を明確にし、それを示す必要があり、中国は、米国が台湾の侵略に対応することを疑うべきではなく、台湾の崩壊に対する米国の最善の対応は、「アジア版NATO」ではなく、既存の同盟と新しい防衛協定の再活性化を通じて、中国のさらなる侵略を防ぐための志を同じくする米国の友人や同盟国との協調的な努力である。行動は、台湾が中国政府の支配下に置かれた場合に失うものも多くある同盟国や提携国と調整する必要がある。
(3) Going to War Over Taiwan: Who Decides?
https://thedispatch.com/article/going-to-war-over-taiwan-who-decides/
The Dispatch, March 9, 2023
By Gary J. Schmitt, Senior Fellow at American Enterprise Institute (AEI)
3月9日、米シンクタンクAmerican Enterprise Institute上席研究員Gary J. Schmittは、米オンライン政治誌The Dispatchに、“Going to War Over Taiwan: Who Decides?”と題する論説を寄稿した。その中で、①たとえBiden米大統領が議会の承認なしに米国の介入を正当化できたとしても、立法府で賛意を得ることは政治的に重要である。②強力な兵器を保有する中国との紛争に、米国を巻き込む法的または憲法上の権限は何なのだろうか?③歴代米大統領は、条約も議会の承認もなく、紛争地帯に米軍を派遣する権限を長きにわたり主張してきた。④しかし、核兵器の使用を含む大規模な軍事衝突に発展する可能性がある場合、「台湾関係法」だけで十分なのだろうか?⑤米政府は、主要かつ潜在的な軍事的関与のほとんどを、正式な条約や議会決議で根拠づけることが適切であると判断しており、朝鮮戦争以降、米軍が関与する大規模で持続的な紛争に関して、議会の承認がなかったものはない。⑥この点に関して、米国やその国民、またはその権利が攻撃されたり危険にさらされたりしていない場合、国家を平和状態から戦争状態に移行させる最終決定権は議会にある、という憲法上の通り道の範囲内に留まっている。⑦さらに困難なのは、中国が攻めてきた場合、大統領が台湾防衛を成功させようとするならば、議会の承認を待っている時間はないという事実である。⑧米大統領が台湾防衛を明言するだけでなく、できる限り早く米議会がそれを支持し、法律として施行すべきであるといった主張を述べている。
(4) Interview: the man behind Marcos’ swift shift to the US
https://asiatimes.com/2023/03/interview-the-man-behind-marcos-swift-shift-to-the-us/
Asia Ties, March 9, 2023
By Richard J. Heydarian, a Professorial Chairholder at the Polytechnic University of the Philippines
2023年3月9日、Jose Manuel Romualdez駐米フィリピン大使に対するフィリピン比Polytechnic University of the PhilippinesのRichard J. Heydarianのオンラインインタビュー記事が、香港のデジタル紙Asia Timesに" Interview: the man behind Marcos’ swift shift to the US "と題して掲載された。その中でRomualdez大使は、Heydarianの質問に答える形で、現在のFerdinand R. Marcos Jr.フィリピン大統領は、彼の実父であるFerdinand Edralin Marcos元大統領が米国と親密な関係を築いていたことが根底にあるが、大国との関係については非常に明晰で、彼は中国を潜在的な経済的提携国として見ているが、南シナ海問題に関しては、彼は憲法で領土保全を義務付けられており、すでに妥協しないことを表明していると述べ、フィリピンと米国との同盟関係についても、比米両国の利害は一致しており、米国は私たちの領土保全と主権を支持するという点で、私たちとともにあると述べている。そしてRomualdez大使は、こうしたMarcos Jr.大統領の姿勢は、Duterte前比大統領が、従来とは非常に異なる角度からフィリピンと米国との関係を捉え、彼独特の外交政策として、米国に対して「我々を当たり前の存在だと思わないでほしい。つまり、我々は友人であり、長年の同盟国であるが、我々を当たり前の存在だと思わないでほしい」という非常に明確なメッセージを送ろうとしたことも引き継いでいるとした上で、いずれにせよMarcos Jr.大統領は、国のために自分の役割を果たそうとする指導者であり、フィリピンを愛していると述べている。
(5) A Strategy of Denial for the Western Pacific
https://www.usni.org/magazines/proceedings/2023/march/strategy-denial-western-pacific
Proceedings, March 2023
By Elbridge Colby, a principal at the Marathon Initiative. As Deputy Assistant Secretary of Defense for Strategy and Force Development, he served as the lead official in the development of the 2018 National Defense Strategy.
2023年3月、米シンクタンクthe Marathon Initiativeの共同代表Elbridge Colby元米国防次官補代理は、The U.S. Naval Instituteが発行する月刊誌Proceedingsのウエブサイトに" A Strategy of Denial for the Western Pacific "と題する論説を寄稿した。その中でElbridge Colbyは、中国はインド太平洋地域の支配を目指しているが、米国の核心的利益に対する第一の脅威は、中国がアジアを支配し、米国人の繁栄、自由、さらには安全保障を損なう可能性があることであり、これは単なる憶測の域を出ない恐怖であると指摘し、中国政府はアジア地域の覇権を追求しており、成功すれば、アメリカ人の生活に直接介入し、支配的な影響力を行使できるような世界規模の優位性を追求する可能性が非常に高いと述べている。そしてElbridge Colbyは、米国はアジア諸国と協力して、この地域における中国政府の支配を否定することに焦点を当てた反覇権的連合を組むことが必要であるが、この戦略における米軍の役割は中心的なものであると指摘し、その理由として、中国は経済やその他の非軍事的な影響力を膨大かつ拡大しているが、その影響力を利用して周辺国に実質的な朝貢関係を受け入れさせることは、日本、インド、台湾、オーストラリアとの関係で明らかなように困難であり、中国政府は軍事力に頼ることなくアジアを支配することはできないからだと主張している。
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