海洋安全保障情報旬報 2020年4月1日-4月10日
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4月1日「インド・太平洋への備えはどうなる-オーストラリア専門家論説」(9Dashline, April 1, 2022)
4月1日付のインド太平洋関連インターネットメディアThe 9Dashlineは、オーストラリアUniversity of Sydney国際関係学部非常勤講師Gabriele Abbondanza博士の“ PREPARING FOR A CROWDED INDO-PACIFIC: WHERE TO NEXT?”と題する論説を掲載し、そこでAbbondanzaはインド太平洋地域で各国がそれぞれ進める戦略の中に部分的な相乗効果が生まれ、これがこの地域の進化に影響を与えるので、政策の統合を徐々に進めることが最良であるとして、要旨以下のように述べている。
(1) 21世紀の国際関係や貿易において、インド太平洋が極めて重要な役割を担っていることに疑いの余地はない。この地域は急速に世界情勢の地政学的、地理経済的な中心となり、多極化とその結果生じる安全保障の不安定さの相関関係を象徴している。世界的感染拡大、気候変動、ロシアの修正主義、地域紛争の増加などの他の地域的、国境を越えた問題が国際社会の関心を引かないわけではないが、インド太平洋における摩擦と力関係の変化がもたらす課題は大きい。
(2) このような動きは、インド、日本、ロシアがこの地域の方程式における主要な変数であり、地域の大国やASEAN加盟国の多くが占める中流国家の数が増えていること、そして米中という2つの超大国が常に二次的な勢力に支援を求めているためである。この二次的な勢力に対しては、この地域の戦略的輪郭を描く際に考慮されなければならないにもかかわらず、十分な注意が払われていない。その二次的な勢力であるオーストラリア、韓国、インドネシアという3つの主要な中流国家のインド太平洋戦略は、欧州のインド太平洋地域への関心の変化と同様に新しい地政学的定数を示している。
(3) オーストラリアは、これまでの地政学的なあいまいさを装うことを止めた。それは中国政府からの経済的圧力がオーストラリア企業に影響を与えるようになったためで、2017年から外交政策を転換した。今やオーストラリアは、オーストラリア・ニュージーランド・アメリカ合衆国安全保障条約(ANZUS)、日米豪印4ヵ国安全保障対話(以下、QUADと言う)、QUADに韓国等を加えるQUAD Plusといった一連の同盟や特定の合意を通じてだけでなく、豪英米の安全保障枠組みAUKUSという強化された戦略的な提携により米国のインド太平洋戦略と密接に絡み合っている。米国とその提携国との連携は、この地域の多くの国々との経済的、戦略的、文化的な関与の増大とともに、オーストラリアのインド太平洋戦略の進化を象徴している。このため、オーストラリアの外交政策の自律性はさらに制限され、従来の「中流国家、良き国際市民」から「依存的同盟国」になってしまうという意見も多い。少数の知識人グループは、オーストラリア政府は米政府からしっかりと距離を置き、豪中関係を構築し直し、中国政府とより緊密な関係を育むべきだと主張している。しかし、全体としてみれば、安全保障と提携国の増加を伴う米国との同盟関係は、この国の外交・安全保障政策の決定的な方向性であり続けるであろう。
(4) 韓国は長年にわたり、インド太平洋の予測不可能な勢力であった。中国と北朝鮮に地理的に近接し、その戦略的状況が危険であること、そして中国との貿易関係が重要であることから韓国政府はしばしば典型的な米国の同盟国とは異なる行動を採ってきた。また、その戦略的なあいまいさゆえに、地域の安全保障に関して有意義な役割を果たすことができず、主に貿易政策に限定してきた。このため、韓国政府と地域の主要な同盟国や提携国との間に一定の距離ができているが、韓国政府の外交政策の方向性は深い不安感によって動かされていることを理解することが重要である。今の韓国においては、米国からの圧力、韓国の新南方政策、米国の目標との統合、韓国軍と米軍の相互運用性の向上、中国の行動に対する警戒心の高まりなど、外交政策の緩やかな転換が始まっている。最近、保守派の尹錫烈(ユン・ソクヨル)大統領が選出されたことで、米国やその同盟国とともに、よりあいまいでないインド太平洋外交政策をとる方向に変化する可能性がある。この潜在的な変化は、ASEANとのより積極的な関与と相まって、インド太平洋に対する韓国政府の新たな戦略を示している。韓国の産業と急速に成長する軍事力を考えると、この新しい展開はインド太平洋の力関係に影響を与えるに違いない。
(5) インドネシアは、インド太平洋における多極化とその限界の両方を象徴している。人口的にも経済的にも、また戦略的にも急速に台頭する大国インドネシアは、インド太平洋戦略機構の主要な歯車の一つである。また、ASEANの最大加盟国でもある。この地域の仮想的な第3極ASEANは、2019年にインド太平洋政策を打ち出した。インドネシアとASEANは多国間主義の潜在的意義を体現しているが、その優柔不断さと内部分裂が致命的な欠点である。2030年までにインドネシアが世界第5位の経済大国になるという予測があるが、これは楽観的過ぎる。ただし拡大傾向は明らかである。また、多くのASEAN加盟国を含む近隣諸国も、人口動態や経済面で同様の上昇基調を辿っている。これが生活水準の向上と相まって、やがて新たな戦略的投資が行われれば、この過密化する地域の戦略的均衡にさらに影響を与えるに違いない。
(6) これらのことから、今後数年間は、関係する主要な国家や組織が建設的に協調しない限り、異なる地域戦略が互いに弱体化し、インド太平洋はさらに混沌とした不安定なものになるであろう。この複雑な状況に加えて、欧州連合(以下、EUと言う)は、すでにこの地域に軸足を置きつつある。EUは最近、公式にインド太平洋戦略を発表した。EUは、この地域への関与のための7つの優先事項、すなわち、持続可能で包括的な繁栄、緑への移行(地球温暖化対策:訳者注)、海洋ガバナンス、デジタルガバナンスとパートナーシップ、接続性、安全保障と防衛、人間の安全保障を掲げている。EUはインド太平洋に対して、対立的ではなく、協力的な関与を追求しており、これまでの不明瞭な立場との違いは明らかである。
(7) EU内の国々も独自のインド太平洋戦略を追求し、また、非公式に同じ方向で動いている。英国とフランスは、この地域における長年の領土的存在に支えられ、長年にわたって積極的に活動してきたが、両者ともいくつかの方法でその関与を強めようとしている。最近では、ドイツとオランダが公式にインド太平洋戦略を打ち出し、それは新しいEU政策にうまく適合している。イタリアを筆頭にスペインやベルギーは公式なインド太平洋戦略がないにもかかわらず、インド太平洋の主要国とハイレベルの貿易取引、政治協定、提携を締結しており、近い将来、新しい展開につながる可能性を持っている。
(8) 我々が目の当たりにしているのは、ますます混み合ってきた地域で、関心を持つ国家や組織の多くの戦略が協調せず、互いに挫折している状況である。中国は様々な方法でその急成長する影響力を拡大しようとし、米国とその主要な同盟国は、安全保障志向で規範を重視したインド太平洋への関わりを進め、ASEANは規範の共有と経済的繁栄を重視し、欧州は国際法を守りながら協力的な関与を支持している。手段は明らかに異なるが、関係国の大半は、この地域の経済成長から利益を得たいという意図を共有し、不確実な未来を導くための規範的羅針盤として国際法の優位性を認識している。そのための手段も、米国とその同盟国は主にハードパワーに依存し、ASEANと欧州(およびインド)は経済、外交、文化的手段というソフトパワーを好むという補完的な関係にある。
(9) 両者がより具体的に協力することで、この重要な地域を取り巻く最も大きな懸念に光が当てられ、最終的に具体的な効果がもたらされる可能性がある。しかし、この目標を達成するためには、中国が国際法の優位性を認め、英国圏が狭い提携関係の視野を広げ、ASEANがこの地域の安全保障構造において重要な役割を担い、欧州が統一的な発言力を持つことが必要である。それは非常に困難であり、これらが同時に起こることはあり得ないが、インド太平洋地域で各国の進める異なる戦略の間に部分的な相乗効果が生まれることで、それがこの地域の進化に影響を与えることになるので、政策の統合を徐々に進めることが最良である。
記事参照:PREPARING FOR A CROWDED INDO-PACIFIC: WHERE TO NEXT?
(1) 21世紀の国際関係や貿易において、インド太平洋が極めて重要な役割を担っていることに疑いの余地はない。この地域は急速に世界情勢の地政学的、地理経済的な中心となり、多極化とその結果生じる安全保障の不安定さの相関関係を象徴している。世界的感染拡大、気候変動、ロシアの修正主義、地域紛争の増加などの他の地域的、国境を越えた問題が国際社会の関心を引かないわけではないが、インド太平洋における摩擦と力関係の変化がもたらす課題は大きい。
(2) このような動きは、インド、日本、ロシアがこの地域の方程式における主要な変数であり、地域の大国やASEAN加盟国の多くが占める中流国家の数が増えていること、そして米中という2つの超大国が常に二次的な勢力に支援を求めているためである。この二次的な勢力に対しては、この地域の戦略的輪郭を描く際に考慮されなければならないにもかかわらず、十分な注意が払われていない。その二次的な勢力であるオーストラリア、韓国、インドネシアという3つの主要な中流国家のインド太平洋戦略は、欧州のインド太平洋地域への関心の変化と同様に新しい地政学的定数を示している。
(3) オーストラリアは、これまでの地政学的なあいまいさを装うことを止めた。それは中国政府からの経済的圧力がオーストラリア企業に影響を与えるようになったためで、2017年から外交政策を転換した。今やオーストラリアは、オーストラリア・ニュージーランド・アメリカ合衆国安全保障条約(ANZUS)、日米豪印4ヵ国安全保障対話(以下、QUADと言う)、QUADに韓国等を加えるQUAD Plusといった一連の同盟や特定の合意を通じてだけでなく、豪英米の安全保障枠組みAUKUSという強化された戦略的な提携により米国のインド太平洋戦略と密接に絡み合っている。米国とその提携国との連携は、この地域の多くの国々との経済的、戦略的、文化的な関与の増大とともに、オーストラリアのインド太平洋戦略の進化を象徴している。このため、オーストラリアの外交政策の自律性はさらに制限され、従来の「中流国家、良き国際市民」から「依存的同盟国」になってしまうという意見も多い。少数の知識人グループは、オーストラリア政府は米政府からしっかりと距離を置き、豪中関係を構築し直し、中国政府とより緊密な関係を育むべきだと主張している。しかし、全体としてみれば、安全保障と提携国の増加を伴う米国との同盟関係は、この国の外交・安全保障政策の決定的な方向性であり続けるであろう。
(4) 韓国は長年にわたり、インド太平洋の予測不可能な勢力であった。中国と北朝鮮に地理的に近接し、その戦略的状況が危険であること、そして中国との貿易関係が重要であることから韓国政府はしばしば典型的な米国の同盟国とは異なる行動を採ってきた。また、その戦略的なあいまいさゆえに、地域の安全保障に関して有意義な役割を果たすことができず、主に貿易政策に限定してきた。このため、韓国政府と地域の主要な同盟国や提携国との間に一定の距離ができているが、韓国政府の外交政策の方向性は深い不安感によって動かされていることを理解することが重要である。今の韓国においては、米国からの圧力、韓国の新南方政策、米国の目標との統合、韓国軍と米軍の相互運用性の向上、中国の行動に対する警戒心の高まりなど、外交政策の緩やかな転換が始まっている。最近、保守派の尹錫烈(ユン・ソクヨル)大統領が選出されたことで、米国やその同盟国とともに、よりあいまいでないインド太平洋外交政策をとる方向に変化する可能性がある。この潜在的な変化は、ASEANとのより積極的な関与と相まって、インド太平洋に対する韓国政府の新たな戦略を示している。韓国の産業と急速に成長する軍事力を考えると、この新しい展開はインド太平洋の力関係に影響を与えるに違いない。
(5) インドネシアは、インド太平洋における多極化とその限界の両方を象徴している。人口的にも経済的にも、また戦略的にも急速に台頭する大国インドネシアは、インド太平洋戦略機構の主要な歯車の一つである。また、ASEANの最大加盟国でもある。この地域の仮想的な第3極ASEANは、2019年にインド太平洋政策を打ち出した。インドネシアとASEANは多国間主義の潜在的意義を体現しているが、その優柔不断さと内部分裂が致命的な欠点である。2030年までにインドネシアが世界第5位の経済大国になるという予測があるが、これは楽観的過ぎる。ただし拡大傾向は明らかである。また、多くのASEAN加盟国を含む近隣諸国も、人口動態や経済面で同様の上昇基調を辿っている。これが生活水準の向上と相まって、やがて新たな戦略的投資が行われれば、この過密化する地域の戦略的均衡にさらに影響を与えるに違いない。
(6) これらのことから、今後数年間は、関係する主要な国家や組織が建設的に協調しない限り、異なる地域戦略が互いに弱体化し、インド太平洋はさらに混沌とした不安定なものになるであろう。この複雑な状況に加えて、欧州連合(以下、EUと言う)は、すでにこの地域に軸足を置きつつある。EUは最近、公式にインド太平洋戦略を発表した。EUは、この地域への関与のための7つの優先事項、すなわち、持続可能で包括的な繁栄、緑への移行(地球温暖化対策:訳者注)、海洋ガバナンス、デジタルガバナンスとパートナーシップ、接続性、安全保障と防衛、人間の安全保障を掲げている。EUはインド太平洋に対して、対立的ではなく、協力的な関与を追求しており、これまでの不明瞭な立場との違いは明らかである。
(7) EU内の国々も独自のインド太平洋戦略を追求し、また、非公式に同じ方向で動いている。英国とフランスは、この地域における長年の領土的存在に支えられ、長年にわたって積極的に活動してきたが、両者ともいくつかの方法でその関与を強めようとしている。最近では、ドイツとオランダが公式にインド太平洋戦略を打ち出し、それは新しいEU政策にうまく適合している。イタリアを筆頭にスペインやベルギーは公式なインド太平洋戦略がないにもかかわらず、インド太平洋の主要国とハイレベルの貿易取引、政治協定、提携を締結しており、近い将来、新しい展開につながる可能性を持っている。
(8) 我々が目の当たりにしているのは、ますます混み合ってきた地域で、関心を持つ国家や組織の多くの戦略が協調せず、互いに挫折している状況である。中国は様々な方法でその急成長する影響力を拡大しようとし、米国とその主要な同盟国は、安全保障志向で規範を重視したインド太平洋への関わりを進め、ASEANは規範の共有と経済的繁栄を重視し、欧州は国際法を守りながら協力的な関与を支持している。手段は明らかに異なるが、関係国の大半は、この地域の経済成長から利益を得たいという意図を共有し、不確実な未来を導くための規範的羅針盤として国際法の優位性を認識している。そのための手段も、米国とその同盟国は主にハードパワーに依存し、ASEANと欧州(およびインド)は経済、外交、文化的手段というソフトパワーを好むという補完的な関係にある。
(9) 両者がより具体的に協力することで、この重要な地域を取り巻く最も大きな懸念に光が当てられ、最終的に具体的な効果がもたらされる可能性がある。しかし、この目標を達成するためには、中国が国際法の優位性を認め、英国圏が狭い提携関係の視野を広げ、ASEANがこの地域の安全保障構造において重要な役割を担い、欧州が統一的な発言力を持つことが必要である。それは非常に困難であり、これらが同時に起こることはあり得ないが、インド太平洋地域で各国の進める異なる戦略の間に部分的な相乗効果が生まれることで、それがこの地域の進化に影響を与えることになるので、政策の統合を徐々に進めることが最良である。
記事参照:PREPARING FOR A CROWDED INDO-PACIFIC: WHERE TO NEXT?
4月1日「南シナ海論争における法律戦の重要性―シンガポール海洋法専門家論説」(The Interpreter, April 1, 2022)
4月1日付のオーストラリアシンクタンクLowy InstituteのウエブサイトThe Interpreter は、海洋法などを専門とするNational University of Singapore 准教授Tara Davenportの““Lawfare” in the South China Sea disputes”と題する論説を掲載し、そこでDavenportは南シナ海論争における法的な争いの積み重ねは関係各国間の緊張を高めるかもしれないが、論争の最終的な解決に向けた重要な過程であるとして、要旨以下のとおり述べた。
(1)「法律戦(lawfare)」という言葉がある。これは、目標達成のために法律や法的機関を悪用するという、否定的な意味を持つと思われている。しかし、目標達成のために法的機関を活用することのすべてが有害というわけではなく、論争的な状況においては意味がある場合も多い。すなわち、法の仕組みは決定的ではないが、権利を主張する諸国にそれぞれの立場を精査させ、意思疎通を行わせる役割を持つのである。
(2) 南シナ海において、権利を主張する諸国や域外の行為者は、さまざまな法の仕組みを利用して目標達成を追求してきた。たとえばマレーシアとベトナムは共同で2009年と2019年にCommission on the Limits of the Continental Shelf(大陸棚限界委員会)に大陸棚延長の申請をし、また、フィリピンと中国の間の論争に関する2016年の仲裁裁判所裁定などが挙げられる。専門家には、こうした手続きの有効性を疑問視する者や、それが論争をさらに悪化させた可能性を指摘する者もいる。法律戦の費用対効果に関する分析をするにはかなりの紙幅が必要となるため、ここではいくつかの論点だけを挙げるに留めておきたい。
(3) 第1に、大陸棚延長をめぐる手続きや2016年の裁定は、権利を主張する国の主張を伝達するための重要な手段として機能し、南シナ海における各国の主張を明確化することにつながった。2009年までは、南シナ海の南沙諸島から伸びる排他的経済水域(以下、EEZと言う)や大陸棚に関して明確な主張をしてきた国はなかった。しかし2009年のCommission on the Limits of the Continental Shelfへの申請によって、マレーシアとベトナムは、南沙諸島のEEZと大陸棚については権利を主張していないことが明らかになったのである。
(4) 同じように重要なのは調停の手続きである。仲裁手続きにおいて、フィリピンは自国の主張の正当性を示すために膨大な証拠などを準備した。中国は手続きには参加してはいないが、立場表明書を準備し、自国の立場を整理していた。こうした手続きが進んでいくと、不可避的に、権利を主張する国同士の意思疎通が必要となってくる。それによって、南沙諸島の権利の主張が徐々に明確になっていくのである。こうした過程は、論争の解決にとって重要である。
(5) 第2に、2016年の仲裁裁判所の裁定は、EEZにおける歴史的権利や、人間が居住できない「岩」の定義など、これまで不明瞭であった問題に光を投げかけた。9年間の交渉の結果生まれた国連海洋法条約は法的原則と政治的妥協の産物であり、あいまいさを内包するものである。したがって、仲裁裁判の結果、これまであいまいにされてきた問題に明確さを与えたことの意味は大きい。さらにこの裁定は、国際法の規則を判定するための補助的な手段として、諸国家や他の国際裁判所に活用され得るものであり、実際に裁定に対する支持が着実に増しているようである。こうした法規範の明確化の重要性は無視してはならない。
(6) 南シナ海における「法律戦」は、権利を主張する諸国からの強い反応を引き出している。こうした反応は緊張を高めるかもしれないが、これは国際法における、主張と反論の繰り返しという過程の一部である。こうした過程によって南シナ海論争が完全に解決するわけではないだろうが、最終的な解決に向けた一歩を進めさせるものであることは間違いない。
記事参照:“Lawfare” in the South China Sea disputes
(1)「法律戦(lawfare)」という言葉がある。これは、目標達成のために法律や法的機関を悪用するという、否定的な意味を持つと思われている。しかし、目標達成のために法的機関を活用することのすべてが有害というわけではなく、論争的な状況においては意味がある場合も多い。すなわち、法の仕組みは決定的ではないが、権利を主張する諸国にそれぞれの立場を精査させ、意思疎通を行わせる役割を持つのである。
(2) 南シナ海において、権利を主張する諸国や域外の行為者は、さまざまな法の仕組みを利用して目標達成を追求してきた。たとえばマレーシアとベトナムは共同で2009年と2019年にCommission on the Limits of the Continental Shelf(大陸棚限界委員会)に大陸棚延長の申請をし、また、フィリピンと中国の間の論争に関する2016年の仲裁裁判所裁定などが挙げられる。専門家には、こうした手続きの有効性を疑問視する者や、それが論争をさらに悪化させた可能性を指摘する者もいる。法律戦の費用対効果に関する分析をするにはかなりの紙幅が必要となるため、ここではいくつかの論点だけを挙げるに留めておきたい。
(3) 第1に、大陸棚延長をめぐる手続きや2016年の裁定は、権利を主張する国の主張を伝達するための重要な手段として機能し、南シナ海における各国の主張を明確化することにつながった。2009年までは、南シナ海の南沙諸島から伸びる排他的経済水域(以下、EEZと言う)や大陸棚に関して明確な主張をしてきた国はなかった。しかし2009年のCommission on the Limits of the Continental Shelfへの申請によって、マレーシアとベトナムは、南沙諸島のEEZと大陸棚については権利を主張していないことが明らかになったのである。
(4) 同じように重要なのは調停の手続きである。仲裁手続きにおいて、フィリピンは自国の主張の正当性を示すために膨大な証拠などを準備した。中国は手続きには参加してはいないが、立場表明書を準備し、自国の立場を整理していた。こうした手続きが進んでいくと、不可避的に、権利を主張する国同士の意思疎通が必要となってくる。それによって、南沙諸島の権利の主張が徐々に明確になっていくのである。こうした過程は、論争の解決にとって重要である。
(5) 第2に、2016年の仲裁裁判所の裁定は、EEZにおける歴史的権利や、人間が居住できない「岩」の定義など、これまで不明瞭であった問題に光を投げかけた。9年間の交渉の結果生まれた国連海洋法条約は法的原則と政治的妥協の産物であり、あいまいさを内包するものである。したがって、仲裁裁判の結果、これまであいまいにされてきた問題に明確さを与えたことの意味は大きい。さらにこの裁定は、国際法の規則を判定するための補助的な手段として、諸国家や他の国際裁判所に活用され得るものであり、実際に裁定に対する支持が着実に増しているようである。こうした法規範の明確化の重要性は無視してはならない。
(6) 南シナ海における「法律戦」は、権利を主張する諸国からの強い反応を引き出している。こうした反応は緊張を高めるかもしれないが、これは国際法における、主張と反論の繰り返しという過程の一部である。こうした過程によって南シナ海論争が完全に解決するわけではないだろうが、最終的な解決に向けた一歩を進めさせるものであることは間違いない。
記事参照:“Lawfare” in the South China Sea disputes
4月4日「インドとの協調のためにAUKUSを活用せよ―インド太平洋安全保障問題専門家論説」(The Interpreter, April 4, 2022)
4月4日付のオーストラリアシンクタンクLowy InstituteのウエブサイトThe Interpreterは、Australian National University のNational Security Collegeに在籍するDavid Brewsterの“AUKUS can be a good platform for cooperation with India”と題する論説を掲載し、そこで Brewsterは英米などの西側諸国がインドとの協力を深めるに際し、AUKUSが有益な基盤になるとして、要旨以下のように述べている。
(1) 「歴史それ自体が繰り返すことはないが、それはしばしば韻を踏むことがある」と言われる。これは、英米豪の3ヵ国による防衛技術共有に関する合意AUKUSについて当てはまるだろう。これら3ヵ国の連合は初めてのことではなく、1962年のインドと中国の国境紛争の際に、3ヵ国は共同してインドを支援していた。
(2) ロシアによるウクライナ侵攻は、インドはどうすれば自国の安全を確保できるのかという議論を再び活性化させた。インドは、国際規範の維持を支持し、侵略に対して明確な態度を採るべきだろうか。しかし本当に西側の民主主義国家は、インドが危機に陥ったときに頼りになるのだろうか。それともインドは中立的な立場を維持するべきだろうか。
(3) 現在の論争では、1962年の中印国境紛争が忘れられている。中国とインドは国境に位置するヒマラヤをめぐって領土紛争を抱えていた。1962年10月、毛沢東は現在のインドのアルナーチャル・プラデシュ州への奇襲を決定した。これを受けてインドのNerhu首相は、従来の中立主義を覆し、米国への支援を公式に求めた。このときNerhuはKennedy大統領に、これは「単にインドの生存だけでなく、インド亜大陸ないしアジア全土における自由で独立した諸政府の生存」の問題であると訴えた。
(4) この要請を受け、Kennedy大統領は英国やオーストラリア、カナダなどを巻き込み、総額1.2億ドル(現在の価値で約11億ドル)にのぼる一括軍事支援を提供した。そして1962年12月初めから、アメリカ空軍は毎日160トンもの物資を空輸した。加えて空母「キティ・ホーク」を旗艦とする空母機動部隊も派遣した。数日後には中国は一方的に停戦を発表し、部隊を撤収した。
(5) 中国の撤収後も、米英豪加の連合はインドの防衛能力支援を継続し、さまざまな軍需物資を提供した。防空システムの支援も行い、また、1963年11月には合同軍事演習を行い、オーストラリアは爆撃機2機を派遣している。この連合は暫くの間続くのではないかと思われたが、中国の脅威が小さくなったことに加え、インド、英国、米国においてこの連合に対する反発が強まっていったために、永続的な協力のドアは閉じられていった。それから約60年、中国の脅威は再び強まり、英米豪によるインドへの支援も再開されていった。現行の支援は、インド洋、サイバー、宇宙空間などさまざまな領域にまたがっている。
(6) 2021年に発表されたAUKUSは、オーストラリアへの原潜技術の提供を軸にした協定である。しかし、それ以外の重要な分野における協力も含むものである。今後、インドがこれに関わる可能性は大きい。Biden政権のインド太平洋問題調整官Kurt Campbellが述べたように、AUKUSは「開かれた機構」であり、今後、別の地域の主要な提携国を包含する可能性があるのである。
(7) インド太平洋を志向している英国も、海洋安全保障におけるさまざまな防衛技術について提供を申し出ており、インドは2国間で協力を進める可能性がある。しかし、AUKUSという枠組みに加わることで、より構造化され、包括的な協力を模索することができるだろう。AUKUSの協力は原子力技術だけに留まるものではないため、インドはより関わり易くなるはずである。一部では躊躇する声もあるが、インドが人工知能や量子力学などの技術を利用するために貴重な道筋となるのではないだろうか。
記事参照:AUKUS can be a good platform for cooperation with India
(1) 「歴史それ自体が繰り返すことはないが、それはしばしば韻を踏むことがある」と言われる。これは、英米豪の3ヵ国による防衛技術共有に関する合意AUKUSについて当てはまるだろう。これら3ヵ国の連合は初めてのことではなく、1962年のインドと中国の国境紛争の際に、3ヵ国は共同してインドを支援していた。
(2) ロシアによるウクライナ侵攻は、インドはどうすれば自国の安全を確保できるのかという議論を再び活性化させた。インドは、国際規範の維持を支持し、侵略に対して明確な態度を採るべきだろうか。しかし本当に西側の民主主義国家は、インドが危機に陥ったときに頼りになるのだろうか。それともインドは中立的な立場を維持するべきだろうか。
(3) 現在の論争では、1962年の中印国境紛争が忘れられている。中国とインドは国境に位置するヒマラヤをめぐって領土紛争を抱えていた。1962年10月、毛沢東は現在のインドのアルナーチャル・プラデシュ州への奇襲を決定した。これを受けてインドのNerhu首相は、従来の中立主義を覆し、米国への支援を公式に求めた。このときNerhuはKennedy大統領に、これは「単にインドの生存だけでなく、インド亜大陸ないしアジア全土における自由で独立した諸政府の生存」の問題であると訴えた。
(4) この要請を受け、Kennedy大統領は英国やオーストラリア、カナダなどを巻き込み、総額1.2億ドル(現在の価値で約11億ドル)にのぼる一括軍事支援を提供した。そして1962年12月初めから、アメリカ空軍は毎日160トンもの物資を空輸した。加えて空母「キティ・ホーク」を旗艦とする空母機動部隊も派遣した。数日後には中国は一方的に停戦を発表し、部隊を撤収した。
(5) 中国の撤収後も、米英豪加の連合はインドの防衛能力支援を継続し、さまざまな軍需物資を提供した。防空システムの支援も行い、また、1963年11月には合同軍事演習を行い、オーストラリアは爆撃機2機を派遣している。この連合は暫くの間続くのではないかと思われたが、中国の脅威が小さくなったことに加え、インド、英国、米国においてこの連合に対する反発が強まっていったために、永続的な協力のドアは閉じられていった。それから約60年、中国の脅威は再び強まり、英米豪によるインドへの支援も再開されていった。現行の支援は、インド洋、サイバー、宇宙空間などさまざまな領域にまたがっている。
(6) 2021年に発表されたAUKUSは、オーストラリアへの原潜技術の提供を軸にした協定である。しかし、それ以外の重要な分野における協力も含むものである。今後、インドがこれに関わる可能性は大きい。Biden政権のインド太平洋問題調整官Kurt Campbellが述べたように、AUKUSは「開かれた機構」であり、今後、別の地域の主要な提携国を包含する可能性があるのである。
(7) インド太平洋を志向している英国も、海洋安全保障におけるさまざまな防衛技術について提供を申し出ており、インドは2国間で協力を進める可能性がある。しかし、AUKUSという枠組みに加わることで、より構造化され、包括的な協力を模索することができるだろう。AUKUSの協力は原子力技術だけに留まるものではないため、インドはより関わり易くなるはずである。一部では躊躇する声もあるが、インドが人工知能や量子力学などの技術を利用するために貴重な道筋となるのではないだろうか。
記事参照:AUKUS can be a good platform for cooperation with India
4月4日「インド太平洋の安全にとって適切な機構はどのようなものか―シンガポール東南アジア問題専門家論説」(The Interpreter, April 4, 2022)
4月4日付のオーストラリアシンクタンクLowy InstituteのウエブサイトThe Interpreter は、シンガポールのシンクタンクISEAS-Yusof Ishak Institute のContemporary Southeast Asia 上席研究員Ian Storeyの“Cause and effect: The right security architecture for the Indo-Pacific”と題する論説を掲載し、そこでStoreyはインド太平洋の安全保障にとって近年、少数国間の構想が重要性を増しているとして、要旨以下のように述べている。
(1) インド太平洋の安全保障に関する秩序は、国際条約、多国間の外交フォーラム、そして、少数国間の安全保障枠組みによって成立している。近年、前二者は海における中国の攻勢によって圧力を受けており、それによって少数国間枠組みの結成が促進されている。
(2) 海の秩序を守る最も基本的な条約は1982年に制定された国連海洋法条約(以下、UNCLOSと言う)である。それは冷戦の産物であり、かつ先進国と発展途上国の間の合意でもあることから、あいまいさと不完全さを内包している。そして近年、UNCLOSはインド太平洋における中国の主権拡大の主張、すなわち「9段線」の主張によって脅威を突きつけられている。2013年にフィリピンが9段線の主張に反駁し、2016年7月に国際仲裁裁判所は、中国の主張はUNCLOSによって支持されないと結論づけた。しかし中国はそれを無視し、東南アジア諸国の排他的経済水域(EEZ)内で不法行為を続けている。
(3) 米国はこうした不法行為について中国を批判してきたが、UNCLOSを批准しているわけではないし、今後も批准することはありそうにない。また、UNCLOSが修正され、そのあいまいさが改善されたり、気候変動など新たな課題が考慮に入れられたりするようなことはありそうにない。
(4) 現在、ASEAN諸国と中国は南シナ海における行動規範(以下、COCと言う)について交渉を続けている。表面的に、議論に参加している11ヵ国が合意できているところは多い。しかし中国は、自国の主張を補強するために、いくつか問題のある条項を挿入しようとしている。これに対して、COC交渉では南シナ海論争における権利を主張している5ヵ国が団結することが必要である。ASEAN自体も、何十年も海洋安全保障の重要性を強調していた。しかし、Asean Regional Forumや、East Asia Summitなど、ASEAN主導の多国間フォーラムは、あまり成果を出せなかった。
(5) こうした国際条約および多国間外交フォーラムの限界ゆえに、関係各国は少数国間の安全保障枠組みを結成してきた。たとえばマラッカ海峡やスールー・セレベス海域などの哨戒や、タイ、ラオス、中国によるメコン川の共同哨戒などである。こうした活動は現在のところあまり論争的ではない。
(6) それに対して日米豪印4ヵ国安全保障対話(以下、QUADと言う)やAUKUSは論争をはらんでいる。QUADはまだ非公式の組織だし、AUKUSも技術共有に関する合意にすぎないが、別のものに発展する可能性がある。他の国々の関与が増す可能性もある。東南アジア諸国がそれに積極的に参加するということはありそうにないが、中国に対する懸念ゆえにそれに反対するということもなさそうだ。
(6) ASEANに限界があるとはいえ、東南アジア諸国にできることがないわけではない。ドローンやレーダー、巡視艇などを準備することで、海洋状況把握を改善し、それによって中国の不法行為に注視することもできる。関係各国の海軍や沿岸警備隊などの共同演習の実施も意義のあることだろう。それに加えて、オーストラリアや英国の大学は、UNCLOSの重要性を東南アジア諸国の政治家や研究者らに対して理解を浸透させる作業部会などを開催することができるだろう。
記事参照:Cause and effect: The right security architecture for the Indo-Pacific
(1) インド太平洋の安全保障に関する秩序は、国際条約、多国間の外交フォーラム、そして、少数国間の安全保障枠組みによって成立している。近年、前二者は海における中国の攻勢によって圧力を受けており、それによって少数国間枠組みの結成が促進されている。
(2) 海の秩序を守る最も基本的な条約は1982年に制定された国連海洋法条約(以下、UNCLOSと言う)である。それは冷戦の産物であり、かつ先進国と発展途上国の間の合意でもあることから、あいまいさと不完全さを内包している。そして近年、UNCLOSはインド太平洋における中国の主権拡大の主張、すなわち「9段線」の主張によって脅威を突きつけられている。2013年にフィリピンが9段線の主張に反駁し、2016年7月に国際仲裁裁判所は、中国の主張はUNCLOSによって支持されないと結論づけた。しかし中国はそれを無視し、東南アジア諸国の排他的経済水域(EEZ)内で不法行為を続けている。
(3) 米国はこうした不法行為について中国を批判してきたが、UNCLOSを批准しているわけではないし、今後も批准することはありそうにない。また、UNCLOSが修正され、そのあいまいさが改善されたり、気候変動など新たな課題が考慮に入れられたりするようなことはありそうにない。
(4) 現在、ASEAN諸国と中国は南シナ海における行動規範(以下、COCと言う)について交渉を続けている。表面的に、議論に参加している11ヵ国が合意できているところは多い。しかし中国は、自国の主張を補強するために、いくつか問題のある条項を挿入しようとしている。これに対して、COC交渉では南シナ海論争における権利を主張している5ヵ国が団結することが必要である。ASEAN自体も、何十年も海洋安全保障の重要性を強調していた。しかし、Asean Regional Forumや、East Asia Summitなど、ASEAN主導の多国間フォーラムは、あまり成果を出せなかった。
(5) こうした国際条約および多国間外交フォーラムの限界ゆえに、関係各国は少数国間の安全保障枠組みを結成してきた。たとえばマラッカ海峡やスールー・セレベス海域などの哨戒や、タイ、ラオス、中国によるメコン川の共同哨戒などである。こうした活動は現在のところあまり論争的ではない。
(6) それに対して日米豪印4ヵ国安全保障対話(以下、QUADと言う)やAUKUSは論争をはらんでいる。QUADはまだ非公式の組織だし、AUKUSも技術共有に関する合意にすぎないが、別のものに発展する可能性がある。他の国々の関与が増す可能性もある。東南アジア諸国がそれに積極的に参加するということはありそうにないが、中国に対する懸念ゆえにそれに反対するということもなさそうだ。
(6) ASEANに限界があるとはいえ、東南アジア諸国にできることがないわけではない。ドローンやレーダー、巡視艇などを準備することで、海洋状況把握を改善し、それによって中国の不法行為に注視することもできる。関係各国の海軍や沿岸警備隊などの共同演習の実施も意義のあることだろう。それに加えて、オーストラリアや英国の大学は、UNCLOSの重要性を東南アジア諸国の政治家や研究者らに対して理解を浸透させる作業部会などを開催することができるだろう。
記事参照:Cause and effect: The right security architecture for the Indo-Pacific
4月5日「中国による台湾侵攻の時期は予測不可能―香港紙報道」(South China Morning Post, April 5, 2022)
4月5日付の香港日刊英字紙South China Morning Post電子版は、共同通信社配信の“Window for possible PLA attack on Taiwan ‘highly unpredictable’, US admiral says”と題する記事を掲載し、中国が台湾を侵攻する時期は予測不可能であるとして、要旨以下のように報じている。
(1) U.S. Pacific Fleet司令官Samuel Paparo海軍大将は4月4日、中国政府はロシアのウクラ
イナ侵攻から学んでいるようだと述べ、中国本土が台湾を武力で奪おうと試みる可能性のある時期は予測不可能として、「絶え間ない警戒心」の重要性を強調した。このPaparo司令官の発言は、2021年、当時のU.S. Indo-Pacific Command司令官Philip Davidsonが「今後6年以内に」中国政府が台湾を侵略する可能性があると議会証言をした判断を軽視しようとするものと思われる。「私は、可能性のある武力による統一の時期は、極めて予測不可能なことだと思う」とPaparo司令官はワシントンで記者団に語り、Davidsonがいう時期というものは、中国の指導者たちが行った「公開情報の話に基づいている」ことを指摘した。ウクライナ危機の検証を含め、自治を行っている民主主義の島を武力で統一しようとする中国政府の決断には「多くの複雑な要因」があることを指摘し、Paparo司令官は「『自由で開かれたインド太平洋』への誓約について、我々が一息ついたり、寛大になったり、手を緩めたりできるとなぜか信じている人がいるとしたら、私はそれを支持しないだろう。なぜならば、この世界は予測不可能だからだ」と述べている。
(2) 地域の安全保障に取り組む日米間の協力に関して、中国が増々主張を強めるインド太平
洋地域における、可能性のある侵略に対する抑止力を追求する米国のこの地域の戦略の実現について、同盟内で「これほどの意見の収斂を見たことはなかった」とPaparo司令官は述べている。
記事参照:Window for possible PLA attack on Taiwan ‘highly unpredictable’, US admiral says
(1) U.S. Pacific Fleet司令官Samuel Paparo海軍大将は4月4日、中国政府はロシアのウクラ
イナ侵攻から学んでいるようだと述べ、中国本土が台湾を武力で奪おうと試みる可能性のある時期は予測不可能として、「絶え間ない警戒心」の重要性を強調した。このPaparo司令官の発言は、2021年、当時のU.S. Indo-Pacific Command司令官Philip Davidsonが「今後6年以内に」中国政府が台湾を侵略する可能性があると議会証言をした判断を軽視しようとするものと思われる。「私は、可能性のある武力による統一の時期は、極めて予測不可能なことだと思う」とPaparo司令官はワシントンで記者団に語り、Davidsonがいう時期というものは、中国の指導者たちが行った「公開情報の話に基づいている」ことを指摘した。ウクライナ危機の検証を含め、自治を行っている民主主義の島を武力で統一しようとする中国政府の決断には「多くの複雑な要因」があることを指摘し、Paparo司令官は「『自由で開かれたインド太平洋』への誓約について、我々が一息ついたり、寛大になったり、手を緩めたりできるとなぜか信じている人がいるとしたら、私はそれを支持しないだろう。なぜならば、この世界は予測不可能だからだ」と述べている。
(2) 地域の安全保障に取り組む日米間の協力に関して、中国が増々主張を強めるインド太平
洋地域における、可能性のある侵略に対する抑止力を追求する米国のこの地域の戦略の実現について、同盟内で「これほどの意見の収斂を見たことはなかった」とPaparo司令官は述べている。
記事参照:Window for possible PLA attack on Taiwan ‘highly unpredictable’, US admiral says
4月6日「SLCM-Nをめぐる米国議会での議論―米国防誌報道」(Defense News, April 6, 2022)
4月6日付の米国防関連誌Defense Newsのウエブサイトは、“US Strategic Command chief: Sea missile cancellation opens ‘deterrence and assurance gap’”と題する記事を掲載し、海上発射核弾頭装備巡航ミサイル(Sea Launched Cruise Missile-Nuclear:以下、SLCM-Nと言う)に関する米国内での議論について、要旨以下のように報じている。
(1)Joe Biden米大統領がSLCM-N開発計画を中止する計画を発表したことを受け、米核戦
力を統括するU.S. Strategic Command(米戦略軍:以下、USSTRATCOMと言う)司令官Charles Richard海軍大将は4月4日、議員への書簡の中で「USSTRATCOMの優先事項が適切に対処されていることには満足しているが、現在のウクライナ情勢と中国の核戦力の足跡が、抑止力と保証の溝が存在していると私に確信させている。この溝に対処するためには、敵対者を抑止し、同盟国を保証し、柔軟なオプションを提供し、既存の能力を補完するために、持続的で生存可能な地域的能力を提供するため、抑止と明らかな破壊力を伴わない低出力で、弾道型でない能力が必要である」と述べている。
(2)軍の指導者たちは、彼らの希望リストや予算案で財源が確保されていない優先事項を議
会に提出することが法律で義務付けられているが、Richardの書簡には、特定のプログラムや資金額についての要望はなかった。Bidenの国防予算8,134億ドルには、核兵器の予算509億ドルが含まれており、2022年の要求から77億ドル増額されている。
(3)4月5日に行われた下院軍事委員会の公聴会で、Lloyd Austin米国防長官はU.S.
Department of Defenseの核兵器近代化予算344億ドルについて「非常に重要である」と擁護した。彼は、ロシアが核搭載の弾道ミサイル潜水艦を保有していることは認識しているが、SLCM-Nの有用性は軽視した。文民と軍服のリーダーとの間に隔たりがあることを示すように、委員会の前の週において、U.S. European Command司令官Tod Wolters米空軍大将は、議員たちに対して彼がSLCM-Nを支持すると述べており、4月5日、統合参謀本部議長のMark Milley米陸軍大将は、SLCM-Nに対する過去の支持に変わりはないと述べている。しかし、下院Seapower Subcommittee(シーパワー小委員会)のJoe Courtney委員長(コネチカット州選出の民主党議員)は、バージニア級攻撃型潜水艦に低出力核弾頭搭載のミサイルを搭載すれば、通常兵器の搭載スペースが少なくなると主張して政権を擁護し、「攻撃型潜水艦を本来の任務に集中させるという意味で、政権は正しい選択をしたと思う」と述べており、下院軍事委員会のAdam Smith委員長(ワシントン州選出の民主党議員)は、核兵器の追加は攻撃型潜水艦の任務を複雑にするというCourtneyの意見に同調した。Courtneyは、核の3本柱のうち、同様の能力を持つ航空兵器である「長距離打ち放し型兵器(long-range standoff weapon)」を開発する計画が進行中であることを指摘した。Smithにさらにその見解に関する説明を求められたMilleyは、「SLCM-Nを製造するかしないかの決定で、敵が我々の能力を過小評価することはないだろう。我々の核戦力は、それよりもはるかに大きい」として米国の核戦力は十分であると軸足を移す前に、米海軍には攻撃型潜水艦は約50隻あり、一部の艦がSLCM-Nを搭載し、その他が通常の任務を継続する可能性もあると述べている。
記事参照:US Strategic Command chief: Sea missile cancellation opens ‘deterrence and assurance gap’
(1)Joe Biden米大統領がSLCM-N開発計画を中止する計画を発表したことを受け、米核戦
力を統括するU.S. Strategic Command(米戦略軍:以下、USSTRATCOMと言う)司令官Charles Richard海軍大将は4月4日、議員への書簡の中で「USSTRATCOMの優先事項が適切に対処されていることには満足しているが、現在のウクライナ情勢と中国の核戦力の足跡が、抑止力と保証の溝が存在していると私に確信させている。この溝に対処するためには、敵対者を抑止し、同盟国を保証し、柔軟なオプションを提供し、既存の能力を補完するために、持続的で生存可能な地域的能力を提供するため、抑止と明らかな破壊力を伴わない低出力で、弾道型でない能力が必要である」と述べている。
(2)軍の指導者たちは、彼らの希望リストや予算案で財源が確保されていない優先事項を議
会に提出することが法律で義務付けられているが、Richardの書簡には、特定のプログラムや資金額についての要望はなかった。Bidenの国防予算8,134億ドルには、核兵器の予算509億ドルが含まれており、2022年の要求から77億ドル増額されている。
(3)4月5日に行われた下院軍事委員会の公聴会で、Lloyd Austin米国防長官はU.S.
Department of Defenseの核兵器近代化予算344億ドルについて「非常に重要である」と擁護した。彼は、ロシアが核搭載の弾道ミサイル潜水艦を保有していることは認識しているが、SLCM-Nの有用性は軽視した。文民と軍服のリーダーとの間に隔たりがあることを示すように、委員会の前の週において、U.S. European Command司令官Tod Wolters米空軍大将は、議員たちに対して彼がSLCM-Nを支持すると述べており、4月5日、統合参謀本部議長のMark Milley米陸軍大将は、SLCM-Nに対する過去の支持に変わりはないと述べている。しかし、下院Seapower Subcommittee(シーパワー小委員会)のJoe Courtney委員長(コネチカット州選出の民主党議員)は、バージニア級攻撃型潜水艦に低出力核弾頭搭載のミサイルを搭載すれば、通常兵器の搭載スペースが少なくなると主張して政権を擁護し、「攻撃型潜水艦を本来の任務に集中させるという意味で、政権は正しい選択をしたと思う」と述べており、下院軍事委員会のAdam Smith委員長(ワシントン州選出の民主党議員)は、核兵器の追加は攻撃型潜水艦の任務を複雑にするというCourtneyの意見に同調した。Courtneyは、核の3本柱のうち、同様の能力を持つ航空兵器である「長距離打ち放し型兵器(long-range standoff weapon)」を開発する計画が進行中であることを指摘した。Smithにさらにその見解に関する説明を求められたMilleyは、「SLCM-Nを製造するかしないかの決定で、敵が我々の能力を過小評価することはないだろう。我々の核戦力は、それよりもはるかに大きい」として米国の核戦力は十分であると軸足を移す前に、米海軍には攻撃型潜水艦は約50隻あり、一部の艦がSLCM-Nを搭載し、その他が通常の任務を継続する可能性もあると述べている。
記事参照:US Strategic Command chief: Sea missile cancellation opens ‘deterrence and assurance gap’
4月6日「南シナ海における海洋法とグレーゾーン作戦-オーストラリア専門家論説」(IDSS Paper, RSIS, April 6, 2022)
4月6日付のシンガポールThe S. Rajaratnam School of International Studies(RSIS)のウエブサイトIDSS Paperは、オーストラリアUniversity of Wollongong海洋資源・安全保障センターの法学部名誉教授Rob McLaughlinの” The Law of the Sea and Grey Zone Operations in the South China Sea”と題する論説を掲載し、そこでMcLaughlinは南シナ海における中国のグレーゾーン作戦は、国際法秩序の普遍性と実行可能性を断片的に損なうことであり、中国を含め誰の利益にもならないとして、要旨以下のように述べている。
(1) 1945年以降の国際法は、国連憲章以前の国際法を特徴づけていた国家間競争に関する二面的な考え方を継続する傾向にある。それは、国家間の紛争状況が武力紛争でない限り、平時の規定によって管理され、平和的な紛争解決と紛争の縮小を優先させるというもので、そこに平和と武力紛争の間に位置するグレーゾーンに適用される異なる規則や、中間の混合状態、または第3の視点は存在しない。
(2) この古典的ともいえる二元性は、国際法上、グレーゾーンの利用が皆無であることを意味するものではない。それは、クリミアでの「緑の小人」と呼ばれたロシア軍の武器と装備品を持つが徽章を付けていない兵士、南シナ海と東シナ海での中国の海上民兵活動、ウクライナ東部での反乱軍の利用、元軍人を民間軍事・警備会社を通じてシリアで武器を使用させるなどのグレーゾーン作戦が示している。
(3) 南シナ海における中国のグレーゾーン作戦は、海洋法(以下、LOSCと言う)の継ぎ目や分断点を狙う、あるいは生み出そうとする傾向があり、それには2つの手段がある。
a. 1つは、LOSC体制の定説に一致しない、あるいは疑念を抱かせるような用語の使用や権利の主張である。LOSCは、国際法の他の構成要素と同様にあいまいさに満ちているが、海の憲法には体系全体、あるいは体制の段階に関わる要素があり、それらの適用において明らかに決定され、唯一ものとなっているものがいくつか存在する。つまり、この問題については、どこから見ても確立された正統性があり、代りの法体制や並立する法体制を主張することは造反と見なされる。この点で、中国が最近、明らかに拒絶された九段線の主張の後継として、南シナ海の東沙諸島、西沙諸島、南沙諸島、中沙諸島の「四沙」と称される4つの島嶼群の直線基線から求められた海洋権益を主張しているのはその一例である。この新しい手段は、南シナ海でよりLOSC的な響きを持つ主張を行うために、群島国家から生じる概念と権利を活用しようとしている。中国は、国連海洋法条約(以下、UNCLOSと言う)の用語を採用することによって、LOSCをよりよく形成でき、逆に損ねることもできる。修正主義の台頭国である中国は、既存のルールを自国の利益に合うように再解釈することに関心を持っている。国際的な法律家や政府の間で直線基線を支持得ることは、9段線の主張に対する支持を得るよりも簡単かもしれない。
b. もう1つは、海上における法執行権が事実上適用されない状況において、他の状況では確立された合意の適用性を主張することである。1つの事例として、中国がいかなる合理的な法的解釈によっても、その海域に管轄権がないため違法とされる場所で、他の正当なLOSCに基づく執行権や行動の正当性を違法に行使していることが挙げられる。2016年の南シナ海仲裁裁定では、スカボロー礁の主権に関係なく、沿岸国の多くがスカボロー礁の形成する領海部分でのLOSCが承認した歴史的漁業権を持っていると判断されたのに対し、中国がその地域と関連漁業権の権利を主張し、その主張を通すため法執行権を用いている。
(4) 南シナ海における中国のグレーゾーン作戦に関連する明確な事例が2つある。
a. 第1は、LOSC 1982の第298条1項(b)が紛争解決の採るべき方策から国家が軍事行動を除外することを認めていることである。2016年の南シナ海仲裁裁定では、中国とフィリピンの艦船の相互作用は軍事活動であり、したがって管轄権を超えていると結論付けられた。しかし、2019年のケルチ海峡事件におけるLOSC国際法廷(ITLOS)は、ウクライナ海軍の艦艇とロシアの沿岸警備・保安に当たる船舶との相互作用を軍事活動ではないと認めており、これはその判断が180度異なる。
b. 第2の例は、LOSCの下での海上民兵船舶の地位に関する不確実性である。明らかに主権を持つ人民解放軍海軍とは対照的に、漁業にも従事する海上民兵の船舶による嫌がらせ行為が、民間なのか、国家に帰属するのかという不確実性である。このことは、対応策を策定する際にどのような法的根拠を適用すべきかに重大な影響を及ぼす。それは、海上での私的な犯罪行為なのか、それとも国家の責任に関する法律に照らす必要があるのかということである。さらに国家に対する対抗措置は可能か。それとも、加害者とされる人物への捜査・検察の利用権を得るために、同じ国家に相互法的支援を要請することが対応の選択肢にあるのか等である。
(5) 法的不確実性を煽り、利用するグレーゾーン作戦の影響を減らす方法の一つは、地位と事件の特徴の問題に関して、明確で先取権を主張できる法的立場を取ることである。法的な用語や概念の不確実性を利用する範囲が狭まれば、造反や事態拡大の危険をある程度、グレーゾーン作戦の実行者に跳ね返すことができる。たとえば、ある国家が海上民兵による行為を国家の指示および国家の責任と見なすと明確に伝えれば、加害国側は強硬かつ対象とする範囲を拡大した対応を受けると予測できるであろう。これは事実上、米海軍が最近、海上での武力紛争の場合、海上民兵の船は商船ではなく、一応の標的となりうる補助艦船とみなすと宣言したことと同じである。
(6) 南シナ海における中国のグレーゾーン作戦は、単に政治的・戦略的な課題であるだけでなく、法的にも憂慮すべき事態を引き起こしている。長期にわたる法律戦の運用が継続されることに対して、法的批判や糾弾がなされない状態が続くことで、最終的には、海洋憲法という均衡の取れた幅広い安定性を損ねることになる。このような国際法秩序の基本的かつ普遍性と実行可能性を損なうことは、中国を含め、誰の利益にもならない。
記事参照:The Law of the Sea and Grey Zone Operations in the South China Sea
(1) 1945年以降の国際法は、国連憲章以前の国際法を特徴づけていた国家間競争に関する二面的な考え方を継続する傾向にある。それは、国家間の紛争状況が武力紛争でない限り、平時の規定によって管理され、平和的な紛争解決と紛争の縮小を優先させるというもので、そこに平和と武力紛争の間に位置するグレーゾーンに適用される異なる規則や、中間の混合状態、または第3の視点は存在しない。
(2) この古典的ともいえる二元性は、国際法上、グレーゾーンの利用が皆無であることを意味するものではない。それは、クリミアでの「緑の小人」と呼ばれたロシア軍の武器と装備品を持つが徽章を付けていない兵士、南シナ海と東シナ海での中国の海上民兵活動、ウクライナ東部での反乱軍の利用、元軍人を民間軍事・警備会社を通じてシリアで武器を使用させるなどのグレーゾーン作戦が示している。
(3) 南シナ海における中国のグレーゾーン作戦は、海洋法(以下、LOSCと言う)の継ぎ目や分断点を狙う、あるいは生み出そうとする傾向があり、それには2つの手段がある。
a. 1つは、LOSC体制の定説に一致しない、あるいは疑念を抱かせるような用語の使用や権利の主張である。LOSCは、国際法の他の構成要素と同様にあいまいさに満ちているが、海の憲法には体系全体、あるいは体制の段階に関わる要素があり、それらの適用において明らかに決定され、唯一ものとなっているものがいくつか存在する。つまり、この問題については、どこから見ても確立された正統性があり、代りの法体制や並立する法体制を主張することは造反と見なされる。この点で、中国が最近、明らかに拒絶された九段線の主張の後継として、南シナ海の東沙諸島、西沙諸島、南沙諸島、中沙諸島の「四沙」と称される4つの島嶼群の直線基線から求められた海洋権益を主張しているのはその一例である。この新しい手段は、南シナ海でよりLOSC的な響きを持つ主張を行うために、群島国家から生じる概念と権利を活用しようとしている。中国は、国連海洋法条約(以下、UNCLOSと言う)の用語を採用することによって、LOSCをよりよく形成でき、逆に損ねることもできる。修正主義の台頭国である中国は、既存のルールを自国の利益に合うように再解釈することに関心を持っている。国際的な法律家や政府の間で直線基線を支持得ることは、9段線の主張に対する支持を得るよりも簡単かもしれない。
b. もう1つは、海上における法執行権が事実上適用されない状況において、他の状況では確立された合意の適用性を主張することである。1つの事例として、中国がいかなる合理的な法的解釈によっても、その海域に管轄権がないため違法とされる場所で、他の正当なLOSCに基づく執行権や行動の正当性を違法に行使していることが挙げられる。2016年の南シナ海仲裁裁定では、スカボロー礁の主権に関係なく、沿岸国の多くがスカボロー礁の形成する領海部分でのLOSCが承認した歴史的漁業権を持っていると判断されたのに対し、中国がその地域と関連漁業権の権利を主張し、その主張を通すため法執行権を用いている。
(4) 南シナ海における中国のグレーゾーン作戦に関連する明確な事例が2つある。
a. 第1は、LOSC 1982の第298条1項(b)が紛争解決の採るべき方策から国家が軍事行動を除外することを認めていることである。2016年の南シナ海仲裁裁定では、中国とフィリピンの艦船の相互作用は軍事活動であり、したがって管轄権を超えていると結論付けられた。しかし、2019年のケルチ海峡事件におけるLOSC国際法廷(ITLOS)は、ウクライナ海軍の艦艇とロシアの沿岸警備・保安に当たる船舶との相互作用を軍事活動ではないと認めており、これはその判断が180度異なる。
b. 第2の例は、LOSCの下での海上民兵船舶の地位に関する不確実性である。明らかに主権を持つ人民解放軍海軍とは対照的に、漁業にも従事する海上民兵の船舶による嫌がらせ行為が、民間なのか、国家に帰属するのかという不確実性である。このことは、対応策を策定する際にどのような法的根拠を適用すべきかに重大な影響を及ぼす。それは、海上での私的な犯罪行為なのか、それとも国家の責任に関する法律に照らす必要があるのかということである。さらに国家に対する対抗措置は可能か。それとも、加害者とされる人物への捜査・検察の利用権を得るために、同じ国家に相互法的支援を要請することが対応の選択肢にあるのか等である。
(5) 法的不確実性を煽り、利用するグレーゾーン作戦の影響を減らす方法の一つは、地位と事件の特徴の問題に関して、明確で先取権を主張できる法的立場を取ることである。法的な用語や概念の不確実性を利用する範囲が狭まれば、造反や事態拡大の危険をある程度、グレーゾーン作戦の実行者に跳ね返すことができる。たとえば、ある国家が海上民兵による行為を国家の指示および国家の責任と見なすと明確に伝えれば、加害国側は強硬かつ対象とする範囲を拡大した対応を受けると予測できるであろう。これは事実上、米海軍が最近、海上での武力紛争の場合、海上民兵の船は商船ではなく、一応の標的となりうる補助艦船とみなすと宣言したことと同じである。
(6) 南シナ海における中国のグレーゾーン作戦は、単に政治的・戦略的な課題であるだけでなく、法的にも憂慮すべき事態を引き起こしている。長期にわたる法律戦の運用が継続されることに対して、法的批判や糾弾がなされない状態が続くことで、最終的には、海洋憲法という均衡の取れた幅広い安定性を損ねることになる。このような国際法秩序の基本的かつ普遍性と実行可能性を損なうことは、中国を含め、誰の利益にもならない。
記事参照:The Law of the Sea and Grey Zone Operations in the South China Sea
4月8日「Putinのウクライナ戦争が黒海の海運を混乱に陥れている―ユーラシア専門家論説」(The Diplomat, March 16, 2022)
4月8日付の米シンクタンクThe Jamestown Fondationが発行するEurasia Daily Monitorのウエブサイトは、The Jamestown Foundationのユーラシア外交・防衛政策専門家でワシントンDC中央アジア・コーカサス研究所研究員John C. K. Daly 博士の “Putin’s War on Ukraine Throws Black Sea Commercial Shipping Into Turmoil”と題する論説を掲載し、Putinのウクライナ侵攻は、すべての黒海沿岸諸国を巻き込み、黒海の海上貿易を麻痺させており、トルコから北アフリカまでの「欧州の穀倉地帯」の穀物輸出に依存している国々にとっては紛争は早く終結すればするほど良いとして、要旨以下のように述べている。
(1) ロシアのPutin大統領は、2022年2月24日早朝のテレビ演説において、ウクライナに対する「特別軍事作戦」を開始すると述べた。作戦開始から1ヵ月以上経った今、ウクライナに甚大な苦しみと損害を与える以外に、ウクライナ軍を撃破することからVolodymyr Zelenskyy大統領の政権を消滅させることまで、ウクライナにおいてPutinの当初の目的はほとんど達成されていない。ロシア連邦は正式な宣戦布告をしなかったが、黒海の北部での攻撃的な作戦は、その地域を事実上の戦争地帯に変え、数十隻の外国商船をそこに閉じ込め、外国人の乗組員を危険にさらしている。
(2) Putinの「特別軍事作戦」は、ロシア自身の黒海貿易に影響を与えている。Association of Russian Seaports(ロシア港湾協会)の報告によると、2021年のロシアの港湾における荷物積み替えは8億3,520万トンであり、アゾフ海・黒海関係は全体の30%にあたる2億5,680万トンを占めている。最大の積み替え港であるノヴォロシースクは1億4,280万トンを扱っている。しかし、Institute for Agricultural Market Studies(農業市場研究所)のDmitri Rylko所長によると、紛争は黒海に入る商船の保険料を2倍にし、穀物の売れ残りを大量に出す可能性が高い。船主は、リスクの高い海域に入港する際には、年間の戦争リスク保険と船舶の価値に応じて計算された追加の7日間の「違反」保険料を支払わなければならない。保険のない船は入港できず、航行することは難しい。
(3) 敵対行為はまた、NATO加盟国のルーマニアとブルガリアからのエネルギーの輸入を混乱させている。ルーマニアとブルガリアは、沿岸のターミナルを通じて日量約20万バレルの原油を受け取っている。これらの石油は、ロシアとカザフスタンが輸出したものは主に黒海東部のノヴォロシースク港から、アゼルバイジャン産の石油はグルジアのスプサから黒海を横断してそれぞれの国のターミナル港に到着する。一部は地中海からボスポラス、ダーダネルス海峡を経由して輸送されるものによって補完されている。
(4) Putinはウクライナに対するいわれのない軍事攻撃を正式に宣戦布告する代わりに、故意に「特別軍事作戦」と呼称することで、黒海の海上貿易は、たとえば保険金請求の履行について疑問が生じるなど国際法の下で宣戦布告された地域での作戦という点で不確実な状態になっている。ロシア政府は、ウクライナ沿岸の正式な海上封鎖をまだ宣言していないが、その行動は外国船による海運を直接脅かしている。英Ministry of Defenseは、ロシアのBlack Sea Fleetがウクライナの海岸線を効果的に封鎖し、ウクライナの小麦輸出を停止し、ウクライナ海域で100隻近い商船を孤立させ、人道支援の海上輸送を妨げていると結論付けている。United Nations International Maritime Organization(国連国際海事機関、以下IMOと言う)は、2,000人の外国の船員が潜在的に影響を受けたと推定しているが、一部は本国に送還された可能性もある。
(5) NATOのShipping Center(海運センター)は、「黒海の北西部における民間海運への付随的損害もしくは直接攻撃の危険性は非常に高いと考えられている」と警告し、オデーサ湾周辺の敵意の高まりに特に懸念を表明した。IMOとInternational Chamber of Shipping国際海運会議所は、海運業者が戦争地帯から出られるようにするための「海の安全な回廊」(blue safe maritime corridors)の設立を強く求めている。
(6) 黒海の不運な船員たちも、係維具が壊れたように見せかけた浮遊機雷という新たな脅威に直面している。機雷の脅威の高まりにより、各国はすぐにその使用に関する法的制限に同意し、それは1907年のハーグ条約第8条(自由浮遊機雷の使用禁止)に具体化された。2022年3月19日、Federal Security Service of the Russian Federation(ロシア連邦保安庁)は、オデーサ等防衛のためウクライナ海軍が敷設したとされる約420の古い係維機雷を含む機雷原が嵐によって大きな被害を受け、係維器を離れた機雷缶がボスポラス海峡に向けて南に漂流している可能性があると主張する報道発表資料を発表した。ウクライナMaritime Administration(海事局)のViktor Vishnov副局長は、ロシアの主張を断固として退け、「これはロシア側からの完全な偽情報である。これはいわゆる『機雷の危険』の下で黒海のこれらの海域の閉鎖を正当化するために行われた」と述べている。いずれにせよ、トルコ当局は、この地域の同盟国であるルーマニアとブルガリアと協力して、過去数週間にボスポラス海峡内またはその周辺でいくつかの浮遊する機雷を発見し、処分した。ロシア側は明らかに、そのような浮遊機雷についてトルコに通報することに協力的ではない。機雷の危険の現実が何であれ、それは以前に繁栄していた海上貿易をほとんど麻痺させ、黒海の穀物輸出を混乱させることによって、さらなる潜在的な世界的な影響をもたらした紛争に複雑さの別の要素を追加している。
(7) 黒海北西の他の沿岸国の将来については、紛争はモルドバの海上およびウクライナの陸路の回廊を経由する通常の輸入ルートを切断し、ロシア、ベラルーシ、ウクライナへの輸出を破滅させた。これにより各国はより高価な代替ルートと代替供給元を利用することを余儀なくされており、各国の経済状況は価格の上昇とエネルギー高騰によって悪化している。
(8) 現在の敵対行為の影響をほとんど受けていない数少ない航路の1つは、カスピ海と黒海を結ぶロシアの全長63マイルのヴォルガ・ドン運河である。しかし、所々に水深12フィートという浅い水域があり、より大きな船舶の通過を妨げている。
(9) これまでのところ、最悪の事態を免れたのはジョージアである。2022年1月31日、ジョージアは、9,300万ドルを費やしたPace GroupとUS International Development Finance Corporation(米国際開発金融公社)の新しい合弁事業であるPoti Seaportの開設を発表し、西側志向の外交政策をとっていることを強調した。ジョージアは、この合弁事業が200人を雇用し、最終的に年間5,000万トンの貨物を処理すると予想している。そしてどうやら、外国船のジョージアの港湾利用による利益が、現在のロシア・ウクライナ戦争の開始以来、約2.5倍に増加したらしい。
(10) 1日か2日でキエフを占領するというロシア政府の希望は、瞬く間に長期にわたる消耗戦となった。ロシアとウクライナという2つも交戦国以外にも、紛争は、他のすべて黒海沿岸諸国の海上貿易を巻き込み、しばしば海運を麻痺させている。トルコから北アフリカまでの「欧州の穀倉地帯」の穀物輸出に依存している国々にとって、紛争は早く終結すればするほど良いのである。
記事参照:Putin’s War on Ukraine Throws Black Sea Commercial Shipping Into Turmoil
(1) ロシアのPutin大統領は、2022年2月24日早朝のテレビ演説において、ウクライナに対する「特別軍事作戦」を開始すると述べた。作戦開始から1ヵ月以上経った今、ウクライナに甚大な苦しみと損害を与える以外に、ウクライナ軍を撃破することからVolodymyr Zelenskyy大統領の政権を消滅させることまで、ウクライナにおいてPutinの当初の目的はほとんど達成されていない。ロシア連邦は正式な宣戦布告をしなかったが、黒海の北部での攻撃的な作戦は、その地域を事実上の戦争地帯に変え、数十隻の外国商船をそこに閉じ込め、外国人の乗組員を危険にさらしている。
(2) Putinの「特別軍事作戦」は、ロシア自身の黒海貿易に影響を与えている。Association of Russian Seaports(ロシア港湾協会)の報告によると、2021年のロシアの港湾における荷物積み替えは8億3,520万トンであり、アゾフ海・黒海関係は全体の30%にあたる2億5,680万トンを占めている。最大の積み替え港であるノヴォロシースクは1億4,280万トンを扱っている。しかし、Institute for Agricultural Market Studies(農業市場研究所)のDmitri Rylko所長によると、紛争は黒海に入る商船の保険料を2倍にし、穀物の売れ残りを大量に出す可能性が高い。船主は、リスクの高い海域に入港する際には、年間の戦争リスク保険と船舶の価値に応じて計算された追加の7日間の「違反」保険料を支払わなければならない。保険のない船は入港できず、航行することは難しい。
(3) 敵対行為はまた、NATO加盟国のルーマニアとブルガリアからのエネルギーの輸入を混乱させている。ルーマニアとブルガリアは、沿岸のターミナルを通じて日量約20万バレルの原油を受け取っている。これらの石油は、ロシアとカザフスタンが輸出したものは主に黒海東部のノヴォロシースク港から、アゼルバイジャン産の石油はグルジアのスプサから黒海を横断してそれぞれの国のターミナル港に到着する。一部は地中海からボスポラス、ダーダネルス海峡を経由して輸送されるものによって補完されている。
(4) Putinはウクライナに対するいわれのない軍事攻撃を正式に宣戦布告する代わりに、故意に「特別軍事作戦」と呼称することで、黒海の海上貿易は、たとえば保険金請求の履行について疑問が生じるなど国際法の下で宣戦布告された地域での作戦という点で不確実な状態になっている。ロシア政府は、ウクライナ沿岸の正式な海上封鎖をまだ宣言していないが、その行動は外国船による海運を直接脅かしている。英Ministry of Defenseは、ロシアのBlack Sea Fleetがウクライナの海岸線を効果的に封鎖し、ウクライナの小麦輸出を停止し、ウクライナ海域で100隻近い商船を孤立させ、人道支援の海上輸送を妨げていると結論付けている。United Nations International Maritime Organization(国連国際海事機関、以下IMOと言う)は、2,000人の外国の船員が潜在的に影響を受けたと推定しているが、一部は本国に送還された可能性もある。
(5) NATOのShipping Center(海運センター)は、「黒海の北西部における民間海運への付随的損害もしくは直接攻撃の危険性は非常に高いと考えられている」と警告し、オデーサ湾周辺の敵意の高まりに特に懸念を表明した。IMOとInternational Chamber of Shipping国際海運会議所は、海運業者が戦争地帯から出られるようにするための「海の安全な回廊」(blue safe maritime corridors)の設立を強く求めている。
(6) 黒海の不運な船員たちも、係維具が壊れたように見せかけた浮遊機雷という新たな脅威に直面している。機雷の脅威の高まりにより、各国はすぐにその使用に関する法的制限に同意し、それは1907年のハーグ条約第8条(自由浮遊機雷の使用禁止)に具体化された。2022年3月19日、Federal Security Service of the Russian Federation(ロシア連邦保安庁)は、オデーサ等防衛のためウクライナ海軍が敷設したとされる約420の古い係維機雷を含む機雷原が嵐によって大きな被害を受け、係維器を離れた機雷缶がボスポラス海峡に向けて南に漂流している可能性があると主張する報道発表資料を発表した。ウクライナMaritime Administration(海事局)のViktor Vishnov副局長は、ロシアの主張を断固として退け、「これはロシア側からの完全な偽情報である。これはいわゆる『機雷の危険』の下で黒海のこれらの海域の閉鎖を正当化するために行われた」と述べている。いずれにせよ、トルコ当局は、この地域の同盟国であるルーマニアとブルガリアと協力して、過去数週間にボスポラス海峡内またはその周辺でいくつかの浮遊する機雷を発見し、処分した。ロシア側は明らかに、そのような浮遊機雷についてトルコに通報することに協力的ではない。機雷の危険の現実が何であれ、それは以前に繁栄していた海上貿易をほとんど麻痺させ、黒海の穀物輸出を混乱させることによって、さらなる潜在的な世界的な影響をもたらした紛争に複雑さの別の要素を追加している。
(7) 黒海北西の他の沿岸国の将来については、紛争はモルドバの海上およびウクライナの陸路の回廊を経由する通常の輸入ルートを切断し、ロシア、ベラルーシ、ウクライナへの輸出を破滅させた。これにより各国はより高価な代替ルートと代替供給元を利用することを余儀なくされており、各国の経済状況は価格の上昇とエネルギー高騰によって悪化している。
(8) 現在の敵対行為の影響をほとんど受けていない数少ない航路の1つは、カスピ海と黒海を結ぶロシアの全長63マイルのヴォルガ・ドン運河である。しかし、所々に水深12フィートという浅い水域があり、より大きな船舶の通過を妨げている。
(9) これまでのところ、最悪の事態を免れたのはジョージアである。2022年1月31日、ジョージアは、9,300万ドルを費やしたPace GroupとUS International Development Finance Corporation(米国際開発金融公社)の新しい合弁事業であるPoti Seaportの開設を発表し、西側志向の外交政策をとっていることを強調した。ジョージアは、この合弁事業が200人を雇用し、最終的に年間5,000万トンの貨物を処理すると予想している。そしてどうやら、外国船のジョージアの港湾利用による利益が、現在のロシア・ウクライナ戦争の開始以来、約2.5倍に増加したらしい。
(10) 1日か2日でキエフを占領するというロシア政府の希望は、瞬く間に長期にわたる消耗戦となった。ロシアとウクライナという2つも交戦国以外にも、紛争は、他のすべて黒海沿岸諸国の海上貿易を巻き込み、しばしば海運を麻痺させている。トルコから北アフリカまでの「欧州の穀倉地帯」の穀物輸出に依存している国々にとって、紛争は早く終結すればするほど良いのである。
記事参照:Putin’s War on Ukraine Throws Black Sea Commercial Shipping Into Turmoil
4月8日「インド太平洋における米英協議、制度化への期待―シンガポール及び英国専門家論説」(IDSS Paper, RSIS, April 8, 2022)
4月8日付けのシンガポールのThe S. Rajaratnam School of International Studies(RSIS)のウエブサイトIDSS Paperは、RSIS上席研究員John F. Bradfordと英Royal Institute of International Affairs(通称Chatham House)客員研究員Philip Shetler-Jones連名の“US-UK Consultations on the Indo-Pacific: An Unexpected Development for Southeast Asia”と題する論説を掲載し、ここで両名は3月のインド太平洋に関する米英協議を受けた、この2国間協議の制度化は将来の有望な基盤となるだろうとして、要旨以下のように述べている。
(1) 米英両国代表団は3月7~8日、ロンドンで会合し、この数十年で初めて、インド太平洋に関する高官級協議を行った。米Biden政権は2月にインド太平洋戦略(以下、IPSと言う)を公表した。IPSは、Obama政権の「(アジアへの)軸足移動(“pivot”)」に触発され、「繁栄、強靱性、及び各国が圧制や暴力からの自由を選択する権利を有するという原則、といった公共財を保持していくための理念と構想」を促進することで、Trump大統領のより戦闘的な「インド太平洋戦略」とは一線を画している。米国がこれまでに主催したり、出席したりした各種会議から見て、Biden政権は、地域の中核であるASEAN加盟国よりも、QUAD諸国(オーストラリア、インド及び日本)や欧州諸国を優先していると思われる。
(2) ロンドン会議は、IPS政策の履行に当たって、「統合レビュー(“Integrated Review”)」として知られる英国の「競争の時代におけるグローバルブリテン―安全保障、防衛、開発及び外交政策の統合レビュー(the “Integrated Review of Security, Defence, Development and Foreign Policy: Global Britain in a Competitive Age”)」で明確にされた英国のインド太平洋地域への「傾斜(“tilt”)」と調整できる分野を特定しようとする狙いがあった。伝統的に緊密な米英関係とインド太平洋における権益の幅広い一致にもかかわらず、米英連携によって生まれる機会については、ワシントンではほとんど注目されていない。より正確に言えば、インド太平洋方面の米海軍指導部と海洋関係者が英海軍を熱烈に歓迎しているが、こうした空気は米国の戦略の検討・策定に関わる集団全体には広がっていない。2021年の英「クイーン・エリザベス」空母打撃群(CSG21)のインド太平洋地域への展開と、それに続く2隻のリバー級外洋哨戒艦のこの地域への恒久的配備によって、英国海軍の能力と持続可能性に対する懐疑的見方は幾分弱まったかもしれないが、依然として米国の期待を抑制し続けている。
(3) ロンドン会議は、トップ記事になるほどではなかったが、重要な長期的趨勢への手掛かりを提供している。まず、これまでの英国の「(インド太平洋地域への)傾斜」に対する米国の関心は低く、IPSでは英国についてAUKUS協定への2回の言及を含め3回しか言及していないことを考えれば、今回の会議に対する米国の優先的扱いは検討に値する。この会議はIPSの公表に続く、インド太平洋に関する最初の高官級協議であり、Campbellインド太平洋調整官の最初の海外訪問でもある。またロシアのウクライナ侵略の事態が拡大する只中で開催された。共同声明で真っ先にウクライナが取り上げられたことは、ウクライナ防衛支援だけでなく、ロシアの侵略に対する世界規模の有志連合を主導していくという米英の誓約を反映している。共同声明は、「大西洋と太平洋の同盟諸国及び提携諸国間の協調の高まり」を歓迎するとともに、「インド太平洋諸国からの前例のない誓約」を列挙することで、同盟政治の顕著な焦点として浮上しつつある、インド太平洋と欧州大西洋の安全保障の連結性に関する見解の高まりを反映している。
(4) 共同声明は、いくつかの新しい協力分野にも言及している。1つは太平洋諸島で、英海軍外洋哨戒艦「スペイ」が3月初め、ヘンダーソン島が1937年に最後に海図に描かれた場所から1カイリ南に位置することを発見した程、米英両国政府によってあまりにも長い間無視されてきた地域である。とは言え、太平洋諸島は、英国のインド太平洋地域への「傾斜」が最近実を結んだ地域でもある。「スペイ」 は、1月の火山噴火と津波に襲われたトンガに重要な援助を提供するとともに、3月19日には海洋安全保障に関する新たな英国・フィジー覚書の調印の場所ともなった。また、「インドとの関係を強化する」という誓約も注目されるものであり、インドのメディアで広く報道された。インドは地理的近接性を重視し、大西洋とインド太平洋の安全保障の連結性については否定的だが、共同声明における関係強化への言及は、「傾斜」とIPSの両方で優先事項とされたインドとの関係を拡大することに両国が大きな価値を置いていることを強調したものとして理解すべきである。
(5) 英国はアジアにおける軍事的展開を強化したが、その部隊は米国が北東アジアの同盟諸国と実施している主要演習には未だ参加していない。英軍は、インド太平洋軍隷下の米軍とは部隊レベルの相互運用性を示してきたが、蓋然性の高い海洋戦闘シナリオにおける態勢を演練する、米軍が実施する大規模な2国間、多国間合同演習に参加できる態勢にあることを未だ実証していない。これまで以上に米軍の司令部機構や指揮所演習に英国が参加することは、相互の戦略的誓約の重要な指標となるであろう。
(6) 注目すべきもう1つの分野は、2023年にオマーンの「英国統合兵站支援基地(UK Joint Logistics Support Base)」に「英国沿海域対応群(南部)(UK Littoral Response Group (South))」が配備されることである。英軍が東アジアと東南アジアでどの程度の時間を費やすか、あるいは依然としてヨーロッパに近い地域に留まるかは、極めて重要となろう。英国はType 31 フリゲート「インスピレーション」をインド太平洋に前方展開させる計画を明らかにしているが、域内における受入国は未だ決まっていない。
(7) AUKUSは米英関係にとって荷の重いものとなろう。最初の発表が及ぼした外交的衝撃にも関わらず、将来に向かって円滑な航海が保証されているわけではない。オーストラリアの潜水艦購入計画には(日本及びフランスとの間で)挫折した前歴があり、今回は、米国と英国の技術と生産能力に関して厳しい選択が待ち受けている。英政府と米政府の政策の検討・策定に関わる集団における現在の期待は両立せず、自国の重要な有権者を失望させる危険性が高い。新しい米英協議機構が、前途に横たわる障害を乗り越えられるか、それともそれらに揺さぶられるかは、時が経てば分かるであろう。
記事参照:US-UK Consultations on the Indo-Pacific: An Unexpected Development for Southeast Asia
(1) 米英両国代表団は3月7~8日、ロンドンで会合し、この数十年で初めて、インド太平洋に関する高官級協議を行った。米Biden政権は2月にインド太平洋戦略(以下、IPSと言う)を公表した。IPSは、Obama政権の「(アジアへの)軸足移動(“pivot”)」に触発され、「繁栄、強靱性、及び各国が圧制や暴力からの自由を選択する権利を有するという原則、といった公共財を保持していくための理念と構想」を促進することで、Trump大統領のより戦闘的な「インド太平洋戦略」とは一線を画している。米国がこれまでに主催したり、出席したりした各種会議から見て、Biden政権は、地域の中核であるASEAN加盟国よりも、QUAD諸国(オーストラリア、インド及び日本)や欧州諸国を優先していると思われる。
(2) ロンドン会議は、IPS政策の履行に当たって、「統合レビュー(“Integrated Review”)」として知られる英国の「競争の時代におけるグローバルブリテン―安全保障、防衛、開発及び外交政策の統合レビュー(the “Integrated Review of Security, Defence, Development and Foreign Policy: Global Britain in a Competitive Age”)」で明確にされた英国のインド太平洋地域への「傾斜(“tilt”)」と調整できる分野を特定しようとする狙いがあった。伝統的に緊密な米英関係とインド太平洋における権益の幅広い一致にもかかわらず、米英連携によって生まれる機会については、ワシントンではほとんど注目されていない。より正確に言えば、インド太平洋方面の米海軍指導部と海洋関係者が英海軍を熱烈に歓迎しているが、こうした空気は米国の戦略の検討・策定に関わる集団全体には広がっていない。2021年の英「クイーン・エリザベス」空母打撃群(CSG21)のインド太平洋地域への展開と、それに続く2隻のリバー級外洋哨戒艦のこの地域への恒久的配備によって、英国海軍の能力と持続可能性に対する懐疑的見方は幾分弱まったかもしれないが、依然として米国の期待を抑制し続けている。
(3) ロンドン会議は、トップ記事になるほどではなかったが、重要な長期的趨勢への手掛かりを提供している。まず、これまでの英国の「(インド太平洋地域への)傾斜」に対する米国の関心は低く、IPSでは英国についてAUKUS協定への2回の言及を含め3回しか言及していないことを考えれば、今回の会議に対する米国の優先的扱いは検討に値する。この会議はIPSの公表に続く、インド太平洋に関する最初の高官級協議であり、Campbellインド太平洋調整官の最初の海外訪問でもある。またロシアのウクライナ侵略の事態が拡大する只中で開催された。共同声明で真っ先にウクライナが取り上げられたことは、ウクライナ防衛支援だけでなく、ロシアの侵略に対する世界規模の有志連合を主導していくという米英の誓約を反映している。共同声明は、「大西洋と太平洋の同盟諸国及び提携諸国間の協調の高まり」を歓迎するとともに、「インド太平洋諸国からの前例のない誓約」を列挙することで、同盟政治の顕著な焦点として浮上しつつある、インド太平洋と欧州大西洋の安全保障の連結性に関する見解の高まりを反映している。
(4) 共同声明は、いくつかの新しい協力分野にも言及している。1つは太平洋諸島で、英海軍外洋哨戒艦「スペイ」が3月初め、ヘンダーソン島が1937年に最後に海図に描かれた場所から1カイリ南に位置することを発見した程、米英両国政府によってあまりにも長い間無視されてきた地域である。とは言え、太平洋諸島は、英国のインド太平洋地域への「傾斜」が最近実を結んだ地域でもある。「スペイ」 は、1月の火山噴火と津波に襲われたトンガに重要な援助を提供するとともに、3月19日には海洋安全保障に関する新たな英国・フィジー覚書の調印の場所ともなった。また、「インドとの関係を強化する」という誓約も注目されるものであり、インドのメディアで広く報道された。インドは地理的近接性を重視し、大西洋とインド太平洋の安全保障の連結性については否定的だが、共同声明における関係強化への言及は、「傾斜」とIPSの両方で優先事項とされたインドとの関係を拡大することに両国が大きな価値を置いていることを強調したものとして理解すべきである。
(5) 英国はアジアにおける軍事的展開を強化したが、その部隊は米国が北東アジアの同盟諸国と実施している主要演習には未だ参加していない。英軍は、インド太平洋軍隷下の米軍とは部隊レベルの相互運用性を示してきたが、蓋然性の高い海洋戦闘シナリオにおける態勢を演練する、米軍が実施する大規模な2国間、多国間合同演習に参加できる態勢にあることを未だ実証していない。これまで以上に米軍の司令部機構や指揮所演習に英国が参加することは、相互の戦略的誓約の重要な指標となるであろう。
(6) 注目すべきもう1つの分野は、2023年にオマーンの「英国統合兵站支援基地(UK Joint Logistics Support Base)」に「英国沿海域対応群(南部)(UK Littoral Response Group (South))」が配備されることである。英軍が東アジアと東南アジアでどの程度の時間を費やすか、あるいは依然としてヨーロッパに近い地域に留まるかは、極めて重要となろう。英国はType 31 フリゲート「インスピレーション」をインド太平洋に前方展開させる計画を明らかにしているが、域内における受入国は未だ決まっていない。
(7) AUKUSは米英関係にとって荷の重いものとなろう。最初の発表が及ぼした外交的衝撃にも関わらず、将来に向かって円滑な航海が保証されているわけではない。オーストラリアの潜水艦購入計画には(日本及びフランスとの間で)挫折した前歴があり、今回は、米国と英国の技術と生産能力に関して厳しい選択が待ち受けている。英政府と米政府の政策の検討・策定に関わる集団における現在の期待は両立せず、自国の重要な有権者を失望させる危険性が高い。新しい米英協議機構が、前途に横たわる障害を乗り越えられるか、それともそれらに揺さぶられるかは、時が経てば分かるであろう。
記事参照:US-UK Consultations on the Indo-Pacific: An Unexpected Development for Southeast Asia
4月9日「中国が学ぶべきウクライナの教訓と人民武装警察の活用―香港紙報道」(South China Morning Post, April 9, 2022)
4月9日付の香港日刊英字紙South China Morning Post電子版は、“PLA could learn from Ukraine war and use paramilitary in Taiwan, article says”と題する記事を掲載し、ウクライナにおけるロシアの苦戦が、中国による台湾侵攻が起きた場合の教訓になるとして、とりわけ中国人民武装警察部隊という治安維持を担う準軍事組織がどのように活用され得るか、さまざまな意見があるとして、要旨以下のように報じている。
(1) もし中国が台湾を武力によって占領しようということになった場合、市街地での戦闘や社会秩序の維持に関していかに準軍事組織を活用すべきかについて、ロシアのウクライナ侵攻から学ぶことができるだろう。その教訓の1つは、ロシアが市街地戦をうまく展開できなかったことである。市街地ではミサイルや砲撃、攻撃車両の有効性が制限される。
(2) 中国はロシアのウクライナ侵攻、とりわけ市街地での戦闘の行方を注意深く観察している。軍事評論家の晨楓は、もし台湾有事になった場合、中国人民解放軍(以下、PLAと言う)は野戦に焦点をおくべきだとして、市街地戦では人民武装警察部隊(以下、PAPと言う)が活用されるべきだと主張する。晨楓によれば、「PAPは市街地戦を専門としており、占領地域における掃討戦や安全確保の任務は彼らが担うべき」と言う。
(3) PLAとPAPの任務は、前者が戦闘、後者が対テロ作戦や抗議デモの鎮圧などの市街地での活動とはっきりと分かれている。2017年、中国共産党の中央軍事委員会は、150万人を擁するPAPを直轄化においた。台湾の海軍軍官学校の元教官呂禮詩は、これが中国による台湾有事への準備の一部であると見ても良いと述べた。
(4) ただし呂によれば、台湾有事が起きた場合、PAPはあくまで最後の予備部隊として活用されるとのことで、その最優先事項は、戦争中に本土の社会秩序を支配することにあるという。仮にPAPが台湾に配備されたとしても、ウクライナ侵攻の教訓と228事件の痛ましい記憶から、その目的は双方の経済的損失と犠牲者を減らすことになるであろう。228事件とは、1947年2月28日に台湾で起きた国民党軍による暴動鎮圧事件で、少なくとも2万8,000人が命を奪われた。
(5) 中国のあるシンクタンクの研究員は、台湾有事の際のPAPの活動目的は本土の社会秩序の維持のみに限定されるかもしれないと述べる。同研究員は、いずれにしても武力による台湾占領の可能性はかなり小さいだろうと言う。
記事参照:PLA could learn from Ukraine war and use paramilitary in Taiwan, article says
(1) もし中国が台湾を武力によって占領しようということになった場合、市街地での戦闘や社会秩序の維持に関していかに準軍事組織を活用すべきかについて、ロシアのウクライナ侵攻から学ぶことができるだろう。その教訓の1つは、ロシアが市街地戦をうまく展開できなかったことである。市街地ではミサイルや砲撃、攻撃車両の有効性が制限される。
(2) 中国はロシアのウクライナ侵攻、とりわけ市街地での戦闘の行方を注意深く観察している。軍事評論家の晨楓は、もし台湾有事になった場合、中国人民解放軍(以下、PLAと言う)は野戦に焦点をおくべきだとして、市街地戦では人民武装警察部隊(以下、PAPと言う)が活用されるべきだと主張する。晨楓によれば、「PAPは市街地戦を専門としており、占領地域における掃討戦や安全確保の任務は彼らが担うべき」と言う。
(3) PLAとPAPの任務は、前者が戦闘、後者が対テロ作戦や抗議デモの鎮圧などの市街地での活動とはっきりと分かれている。2017年、中国共産党の中央軍事委員会は、150万人を擁するPAPを直轄化においた。台湾の海軍軍官学校の元教官呂禮詩は、これが中国による台湾有事への準備の一部であると見ても良いと述べた。
(4) ただし呂によれば、台湾有事が起きた場合、PAPはあくまで最後の予備部隊として活用されるとのことで、その最優先事項は、戦争中に本土の社会秩序を支配することにあるという。仮にPAPが台湾に配備されたとしても、ウクライナ侵攻の教訓と228事件の痛ましい記憶から、その目的は双方の経済的損失と犠牲者を減らすことになるであろう。228事件とは、1947年2月28日に台湾で起きた国民党軍による暴動鎮圧事件で、少なくとも2万8,000人が命を奪われた。
(5) 中国のあるシンクタンクの研究員は、台湾有事の際のPAPの活動目的は本土の社会秩序の維持のみに限定されるかもしれないと述べる。同研究員は、いずれにしても武力による台湾占領の可能性はかなり小さいだろうと言う。
記事参照:PLA could learn from Ukraine war and use paramilitary in Taiwan, article says
4月10日「中国が台湾のエネルギー供給を遮断すれば、何が?―香港紙報道」(South China Morning Post, April 10, 2022)
What would happen if mainland China cut off Taiwan’s energy supplies?
https://www.scmp.com/news/china/military/article/3173747/what-would-happen-if-mainland-china-cut-taiwans-energy-supplies
South China Morning Post, April 10, 2022
4月10日付の香港日刊英字紙South China Morning Post電子版は、“What would happen if mainland China cut off Taiwan’s energy supplies?”と題する記事を掲載し、中国は台湾再統一のために米国との軍事衝突の危険性の低い封鎖という方策を採る可能性があり、その場合、台湾の統一に向けた協議に応じざるを得ない立場に追い込む一方、中国自身も経済的打撃を被らざるを得ないとして、要旨以下のように報じている。
(1) 4月5日、US Department of Defenseは台湾向けペトリオット防空システムの装備と要員訓練のために9,500万ドルの契約を台湾と締結することを承認した。
(2) 専門家は中国政府が台湾をその支配下に納めるために危険性がより少ない、間接的手段を行使するだろうと言う。それはエネルギーの封鎖である。封鎖は台湾の全ての人々の生存、価格の上昇に影響を及ぼし、中国との統一に向けた協議が現実的な選択肢の範囲というところに台湾を追い詰めるだろうと専門家は述べている。
(3) 2021年、台湾国防部長は封鎖の可能性について警告し、台湾国防報告2021年版は人民解放軍は主要港湾、空港を封鎖し、主要な海空路を遮断することができると述べている。US Department of Defenseの中国の軍事力に関する議会報告2021年版も封鎖は台湾を台湾への死活的に重要な輸入を遮断し、台湾を急速に降伏に追いやるだろうと報じている。
(4) 台湾は天然ガスのほとんどを輸入しており、主要港湾の効果的な封鎖は生鮮食料品を遮断するだろう。淡江大学准教授黄介正は、台湾には戦略備蓄として液化天然ガス2週間分、原油90日分しかないと指摘し、「もし、液化ガスが2週間分しかないとすれば、これは戦略的とは呼ぶことができない」と述べている。
(5) 黄介正は、中国が南シナ海での埋め立てと人工島の軍事化を考慮すれば、台湾海軍はエネルギー海上輸送を護衛するために遠く南シナ海にまで進出しないだろうと言う。その結果、台湾は海洋国家の支援を必要とする。National University of SingaporeのLee Kuan Yew School of Public Policy客員上席研究員Drew Thompsonによれば、封鎖を実施するために、人民解放軍は台湾最大の港湾都市、南の高雄、北の基隆の沖合に艦艇を配置するだけで商業海運を破壊することができる。「中国は、台湾周囲に巨大な艦艇による封鎖網を構築する必要はない。中国の場合、軍事的手段によって封鎖を補強する必要もないだろう。(封鎖するという)宣言だけで十分に破壊的である」と指摘し、価格の上昇や台湾からの大規模な資本の流出に加え、脅威というだけで保険契約の戦争条項が適用され、商船が台湾へ寄港することを阻止し、南シナ海全域に波及効果を及ぼすだろうとThompsonは言う。
(6) しかし、封鎖を設定したり、封鎖すると脅したりすることは中国にも跳ね返ってくる。封鎖は中国の所要港湾を閉鎖する交戦海域の宣言につながり、上海港にとって船積費、危険性、戦争保険の料率が上昇するとして、「これは中国の主要な経済中心にとっても、国際海運にとってもいささか大事であり、中国が気軽に実施できることではないと考える。中国はまた、封鎖を実施すれば、国際的な経済制裁を受けることを考えなければならない。中国を含む政界経済は、今我々が見ているインフレ率の上昇や経済の混乱に苦しむことになる」とThompsonは言う。黄介正は、封鎖を補強するためある海域における航空優性維持に必要な追加の支出が有ると言う。
(7) 上海を拠点とする軍事専門家倪楽雄は、封鎖は中国にとって台湾、米国両海軍と直接対決するよりも危険の少ない作戦であると言う。封鎖は中国政府と台湾政府を協議に導くだろう。協議では中国政府は「一国両制」を台湾に同意させようとするだろうが、台湾の与党、野党ともにこれには反対している。中国政府の主要な問題点の1つは、人民解放軍の主要装備、備品、補給品がロシアから輸入されたものであり、ウクライナにおけるロシア軍の予想を下回る戦績は中国が保有する兵器が米国から輸入した台湾の兵器に抵抗できるのかという疑問を引き起こしているとして、「米国は、中国の航空機に匹敵しない航空機を台湾に提供していない。米国は中国の航空機を分析し、その性能を明確に把握している」と倪楽雄は言う。
(8) 台湾海軍と米国とでどのような役割、機能あるいは能力を両国は持つべきかについて絶えず議論されている。もち論、海軍が全ての能力を持ち、大型艦を保有し、シージス・システムを装備したい。そうすれば、台湾の海運路を保護するために遠く離れた海域にまで進出し、独立した作戦を直接に実施できる。台湾は遠距離作戦を遂行できる海軍力が必要であり、台湾の保護を約束している海洋国家1ヵ国にだけ頼ることはできないとして、台湾は海洋国家との外交関係を有しておらず、条約上の同盟国もないと黄介正は述べている。「たとえあなた方が善意から台湾に対する我々の保証は変わることなく強固で、信頼できるものだと言われても、防衛計画の担当者として『心配するな、助けるから』という口約束の上に計画を構築することはできない。台湾は、誰も助けてはくれないということの上に国防政策を計画していく必要がある」と黄介正は言う。
記事参照:What would happen if mainland China cut off Taiwan’s energy supplies?
https://www.scmp.com/news/china/military/article/3173747/what-would-happen-if-mainland-china-cut-taiwans-energy-supplies
South China Morning Post, April 10, 2022
4月10日付の香港日刊英字紙South China Morning Post電子版は、“What would happen if mainland China cut off Taiwan’s energy supplies?”と題する記事を掲載し、中国は台湾再統一のために米国との軍事衝突の危険性の低い封鎖という方策を採る可能性があり、その場合、台湾の統一に向けた協議に応じざるを得ない立場に追い込む一方、中国自身も経済的打撃を被らざるを得ないとして、要旨以下のように報じている。
(1) 4月5日、US Department of Defenseは台湾向けペトリオット防空システムの装備と要員訓練のために9,500万ドルの契約を台湾と締結することを承認した。
(2) 専門家は中国政府が台湾をその支配下に納めるために危険性がより少ない、間接的手段を行使するだろうと言う。それはエネルギーの封鎖である。封鎖は台湾の全ての人々の生存、価格の上昇に影響を及ぼし、中国との統一に向けた協議が現実的な選択肢の範囲というところに台湾を追い詰めるだろうと専門家は述べている。
(3) 2021年、台湾国防部長は封鎖の可能性について警告し、台湾国防報告2021年版は人民解放軍は主要港湾、空港を封鎖し、主要な海空路を遮断することができると述べている。US Department of Defenseの中国の軍事力に関する議会報告2021年版も封鎖は台湾を台湾への死活的に重要な輸入を遮断し、台湾を急速に降伏に追いやるだろうと報じている。
(4) 台湾は天然ガスのほとんどを輸入しており、主要港湾の効果的な封鎖は生鮮食料品を遮断するだろう。淡江大学准教授黄介正は、台湾には戦略備蓄として液化天然ガス2週間分、原油90日分しかないと指摘し、「もし、液化ガスが2週間分しかないとすれば、これは戦略的とは呼ぶことができない」と述べている。
(5) 黄介正は、中国が南シナ海での埋め立てと人工島の軍事化を考慮すれば、台湾海軍はエネルギー海上輸送を護衛するために遠く南シナ海にまで進出しないだろうと言う。その結果、台湾は海洋国家の支援を必要とする。National University of SingaporeのLee Kuan Yew School of Public Policy客員上席研究員Drew Thompsonによれば、封鎖を実施するために、人民解放軍は台湾最大の港湾都市、南の高雄、北の基隆の沖合に艦艇を配置するだけで商業海運を破壊することができる。「中国は、台湾周囲に巨大な艦艇による封鎖網を構築する必要はない。中国の場合、軍事的手段によって封鎖を補強する必要もないだろう。(封鎖するという)宣言だけで十分に破壊的である」と指摘し、価格の上昇や台湾からの大規模な資本の流出に加え、脅威というだけで保険契約の戦争条項が適用され、商船が台湾へ寄港することを阻止し、南シナ海全域に波及効果を及ぼすだろうとThompsonは言う。
(6) しかし、封鎖を設定したり、封鎖すると脅したりすることは中国にも跳ね返ってくる。封鎖は中国の所要港湾を閉鎖する交戦海域の宣言につながり、上海港にとって船積費、危険性、戦争保険の料率が上昇するとして、「これは中国の主要な経済中心にとっても、国際海運にとってもいささか大事であり、中国が気軽に実施できることではないと考える。中国はまた、封鎖を実施すれば、国際的な経済制裁を受けることを考えなければならない。中国を含む政界経済は、今我々が見ているインフレ率の上昇や経済の混乱に苦しむことになる」とThompsonは言う。黄介正は、封鎖を補強するためある海域における航空優性維持に必要な追加の支出が有ると言う。
(7) 上海を拠点とする軍事専門家倪楽雄は、封鎖は中国にとって台湾、米国両海軍と直接対決するよりも危険の少ない作戦であると言う。封鎖は中国政府と台湾政府を協議に導くだろう。協議では中国政府は「一国両制」を台湾に同意させようとするだろうが、台湾の与党、野党ともにこれには反対している。中国政府の主要な問題点の1つは、人民解放軍の主要装備、備品、補給品がロシアから輸入されたものであり、ウクライナにおけるロシア軍の予想を下回る戦績は中国が保有する兵器が米国から輸入した台湾の兵器に抵抗できるのかという疑問を引き起こしているとして、「米国は、中国の航空機に匹敵しない航空機を台湾に提供していない。米国は中国の航空機を分析し、その性能を明確に把握している」と倪楽雄は言う。
(8) 台湾海軍と米国とでどのような役割、機能あるいは能力を両国は持つべきかについて絶えず議論されている。もち論、海軍が全ての能力を持ち、大型艦を保有し、シージス・システムを装備したい。そうすれば、台湾の海運路を保護するために遠く離れた海域にまで進出し、独立した作戦を直接に実施できる。台湾は遠距離作戦を遂行できる海軍力が必要であり、台湾の保護を約束している海洋国家1ヵ国にだけ頼ることはできないとして、台湾は海洋国家との外交関係を有しておらず、条約上の同盟国もないと黄介正は述べている。「たとえあなた方が善意から台湾に対する我々の保証は変わることなく強固で、信頼できるものだと言われても、防衛計画の担当者として『心配するな、助けるから』という口約束の上に計画を構築することはできない。台湾は、誰も助けてはくれないということの上に国防政策を計画していく必要がある」と黄介正は言う。
記事参照:What would happen if mainland China cut off Taiwan’s energy supplies?
【補遺】
旬報で抄訳紹介しなかった主な論調、シンクタンク報告書
(1)The KMT’s Defense Policy: Toward a Symmetric Posture
https://thediplomat.com/2022/04/the-kmts-defense-policy-toward-a-symmetric-posture/
The Diplomat, April 1, 2022
By Dee Wu is a Ph.D. student at the National Graduate Institute for Policy Studies (GRIPS:政策研究大学院大学) in Japan
4月1日、政策研究大学院大学の博士後期課程学生Dee Wuは、デジタル誌The Diplomatに、“The KMT’s Defense Policy: Toward a Symmetric Posture”と題する論説を寄稿した。その中で、①台湾の主要な野党である国民党の国防政策は、対称的な防衛態勢を支持する一方で、米国からの自立性を追求することを模索している。②国民党国際部長である黄介正は、Trump政権による「台湾要塞」(Fortress Taiwan)政策に対しかなり批判的であり、それは抑止力にはならず、中国からの侵攻を遅らせるだけだと主張し、中国軍によるグレーゾーンの脅威に対応する能力、海上交通路を守る能力を保有すべきだと主張した。③この立場は、台湾軍事組織の主流の意見を反映しており、国防部は2018年の「国防報告書」で、非対称戦を念頭に入れた「整體防衛構想」の抜本的な改革を提案し、三軍が沿岸部で決戦を行う必要性を強調した。④国民党による対称型の防衛の支持は、蔡英文政権が軍事体制を反対方向に移行させようとしている最中で起きた。⑤国民党は、米国による台湾の戦力計画への干渉からの自立を求めており、非対称防衛態勢の構築に対する国民党の懸念の根底には、中国が台湾を侵略した状況での米国の軍事介入に対する信頼性の低さがある。⑥国民党の国防政策の問題として、台湾がシー・コントロールを獲得するための能力、国産化計画が成熟する前に台湾軍が有事に備えることが可能かどうか、そして、国民党の対称型防衛の支持は中国との緊密な関係を維持するという政治目標を台無しにすること、がある。⑦ロシアのウクライナ侵攻の際、国民党の著名人たちは小国が大国の侵略を誘発することへの不安を表明し、「対米追従」よりも台湾海峡の平和を優先させるよう主張しており、中国との政治的・軍事的衝突に対する国民党の危険許容度の低さを考慮すると、政治・戦略の均衡を調整する必要がある、といった主張を述べている。
(2)What Could European Militaries Contribute to the Defense of Taiwan?
https://thediplomat.com/2022/04/what-could-european-militaries-contribute-to-the-defense-of-taiwan/
The Diplomat, April 1, 2022
By Franz-Stefan Gady, a Research Fellow at the International Institute for Strategic Studies (IISS)
2022年4月1日、英シンクタンクInternational Institute for Strategic Studies のFranz-Stefan Gady研究員は、デジタル誌The Diplomatに" What Could European Militaries Contribute to the Defense of Taiwan? "と題する論説を寄稿した。その中でGadyは、今般のロシアによるウクライナ侵攻が欧州各国の安全保障を大きく転換させるものとなったという前提認識を示した上で、欧州諸国は米国の台湾関係法のような正式な軍事誓約を台湾に対して持っていないにもかかわらず、中国と台湾との間で軍事衝突が起こった場合、同盟国および地域の提携国、特に米国から台湾の集団防衛に貢献するようかなりの圧力を受ける可能性があると指摘し、そのような貢献の主な負担は比較的少数の欧州の軍隊にかかると思われると述べている。その上でGadyは、台湾有事が発生した際には、米国が台湾を支援するため軍事力の大部分を提供することになると予想されるが、そうなると、ヨーロッパおよび他の世界の主要地域における米国の軍事力の展開が大幅に低下することになり、ヨーロッパの軍関係者にとってさらなる頭痛の種となる可能性があると指摘し、したがって、欧州の政策立案者らは台湾有事に必要な戦力を生み出すだけでなく、欧州自体の防衛に対する自国の貢献度を高めることに早急に取り組む必要があると主張している。
(3)COULD THE ARCTIC BE A WEDGE BETWEEN RUSSIA AND CHINA?
https://warontherocks.com/2022/04/could-the-arctic-be-a-wedge-between-russia-and-china/
War on the Rocks, April 4, 2022
By Jeremy Greenwood is a federal executive fellow with the Brookings Institution in Washington D.C. and a U.S. Coast Guard officer
Shuxian Luo is a post-doctoral research fellow in foreign policy at the Brookings Institution.
2022年4月1日、米シンクタンクBrookings Instituteの連邦総括研究員(federal executive fellow)を務めるUS Coast Guardの Jeremy Greenwoodと同研究所のポスドク研究員Shuxian Luoは、デジタル誌The Diplomatに" COULD THE ARCTIC BE A WEDGE BETWEEN RUSSIA AND CHINA? "と題する論説を寄稿した。その中でGreenwoodとLuoは、3月3日、ロシアを除く北極圏諸国は共同声明を発表し、北極評議会とその補助機関のすべての会議への参加を一時的に停止する意向を表明したが、これにより、地政学的緊張と無縁でありがちだった北極圏のガバナンスの最高峰の場が、戦争の進行により合意形成の場として機能しなくなったと指摘した上で、中国は他の北極圏諸国との関係を損なうことなく、ロシアとの協力を継続することを望んでいるのであろうが、戦争の影響が北方へ広がるにつれ、中国は北極圏の利益を追求する上でより制約を受けることになるかもしれないと述べている。そしてGreenwoodとLuoは、中国はロシアに自国の未来をすべて預けることはできないはずであり、欧米は中国をロシアから遠ざける機会として今回の状況を利用する可能性があるが、北極圏における中国のロシアへの依存度を下げるには、そもそも中国をロシアによるウクライナ侵攻への対処の場に巻き込み続ける必要があると主張している。
(1)The KMT’s Defense Policy: Toward a Symmetric Posture
https://thediplomat.com/2022/04/the-kmts-defense-policy-toward-a-symmetric-posture/
The Diplomat, April 1, 2022
By Dee Wu is a Ph.D. student at the National Graduate Institute for Policy Studies (GRIPS:政策研究大学院大学) in Japan
4月1日、政策研究大学院大学の博士後期課程学生Dee Wuは、デジタル誌The Diplomatに、“The KMT’s Defense Policy: Toward a Symmetric Posture”と題する論説を寄稿した。その中で、①台湾の主要な野党である国民党の国防政策は、対称的な防衛態勢を支持する一方で、米国からの自立性を追求することを模索している。②国民党国際部長である黄介正は、Trump政権による「台湾要塞」(Fortress Taiwan)政策に対しかなり批判的であり、それは抑止力にはならず、中国からの侵攻を遅らせるだけだと主張し、中国軍によるグレーゾーンの脅威に対応する能力、海上交通路を守る能力を保有すべきだと主張した。③この立場は、台湾軍事組織の主流の意見を反映しており、国防部は2018年の「国防報告書」で、非対称戦を念頭に入れた「整體防衛構想」の抜本的な改革を提案し、三軍が沿岸部で決戦を行う必要性を強調した。④国民党による対称型の防衛の支持は、蔡英文政権が軍事体制を反対方向に移行させようとしている最中で起きた。⑤国民党は、米国による台湾の戦力計画への干渉からの自立を求めており、非対称防衛態勢の構築に対する国民党の懸念の根底には、中国が台湾を侵略した状況での米国の軍事介入に対する信頼性の低さがある。⑥国民党の国防政策の問題として、台湾がシー・コントロールを獲得するための能力、国産化計画が成熟する前に台湾軍が有事に備えることが可能かどうか、そして、国民党の対称型防衛の支持は中国との緊密な関係を維持するという政治目標を台無しにすること、がある。⑦ロシアのウクライナ侵攻の際、国民党の著名人たちは小国が大国の侵略を誘発することへの不安を表明し、「対米追従」よりも台湾海峡の平和を優先させるよう主張しており、中国との政治的・軍事的衝突に対する国民党の危険許容度の低さを考慮すると、政治・戦略の均衡を調整する必要がある、といった主張を述べている。
(2)What Could European Militaries Contribute to the Defense of Taiwan?
https://thediplomat.com/2022/04/what-could-european-militaries-contribute-to-the-defense-of-taiwan/
The Diplomat, April 1, 2022
By Franz-Stefan Gady, a Research Fellow at the International Institute for Strategic Studies (IISS)
2022年4月1日、英シンクタンクInternational Institute for Strategic Studies のFranz-Stefan Gady研究員は、デジタル誌The Diplomatに" What Could European Militaries Contribute to the Defense of Taiwan? "と題する論説を寄稿した。その中でGadyは、今般のロシアによるウクライナ侵攻が欧州各国の安全保障を大きく転換させるものとなったという前提認識を示した上で、欧州諸国は米国の台湾関係法のような正式な軍事誓約を台湾に対して持っていないにもかかわらず、中国と台湾との間で軍事衝突が起こった場合、同盟国および地域の提携国、特に米国から台湾の集団防衛に貢献するようかなりの圧力を受ける可能性があると指摘し、そのような貢献の主な負担は比較的少数の欧州の軍隊にかかると思われると述べている。その上でGadyは、台湾有事が発生した際には、米国が台湾を支援するため軍事力の大部分を提供することになると予想されるが、そうなると、ヨーロッパおよび他の世界の主要地域における米国の軍事力の展開が大幅に低下することになり、ヨーロッパの軍関係者にとってさらなる頭痛の種となる可能性があると指摘し、したがって、欧州の政策立案者らは台湾有事に必要な戦力を生み出すだけでなく、欧州自体の防衛に対する自国の貢献度を高めることに早急に取り組む必要があると主張している。
(3)COULD THE ARCTIC BE A WEDGE BETWEEN RUSSIA AND CHINA?
https://warontherocks.com/2022/04/could-the-arctic-be-a-wedge-between-russia-and-china/
War on the Rocks, April 4, 2022
By Jeremy Greenwood is a federal executive fellow with the Brookings Institution in Washington D.C. and a U.S. Coast Guard officer
Shuxian Luo is a post-doctoral research fellow in foreign policy at the Brookings Institution.
2022年4月1日、米シンクタンクBrookings Instituteの連邦総括研究員(federal executive fellow)を務めるUS Coast Guardの Jeremy Greenwoodと同研究所のポスドク研究員Shuxian Luoは、デジタル誌The Diplomatに" COULD THE ARCTIC BE A WEDGE BETWEEN RUSSIA AND CHINA? "と題する論説を寄稿した。その中でGreenwoodとLuoは、3月3日、ロシアを除く北極圏諸国は共同声明を発表し、北極評議会とその補助機関のすべての会議への参加を一時的に停止する意向を表明したが、これにより、地政学的緊張と無縁でありがちだった北極圏のガバナンスの最高峰の場が、戦争の進行により合意形成の場として機能しなくなったと指摘した上で、中国は他の北極圏諸国との関係を損なうことなく、ロシアとの協力を継続することを望んでいるのであろうが、戦争の影響が北方へ広がるにつれ、中国は北極圏の利益を追求する上でより制約を受けることになるかもしれないと述べている。そしてGreenwoodとLuoは、中国はロシアに自国の未来をすべて預けることはできないはずであり、欧米は中国をロシアから遠ざける機会として今回の状況を利用する可能性があるが、北極圏における中国のロシアへの依存度を下げるには、そもそも中国をロシアによるウクライナ侵攻への対処の場に巻き込み続ける必要があると主張している。
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