海洋安全保障情報旬報 2022年3月11日-3月20日

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3月11日「インド洋地域の安全保障網への歩み―インド専門家論説」(Observer Research Foundation, March 11, 2022)

 3月11日付のインドシンクタンクObserver Research Foundationのウエブサイトは、同Foundation特別研究員Sathiya Moorthyの”Inching towards an IOR security net”と題する論説を掲載し、ここでMoorthyは地政学的な情勢が刻々と変化する中で、無力であるインド洋地域の小国に対してコロンボ安全保障会議(Colombo Security Conclave)の試みが失敗に終わらないよう、牽引者たるインドが広い心で見守る必要があるとして、要旨以下のように述べている。
(1) モルディブの首都マレで開催されたColombo Security Conclave(コロンボ安全保障会議:以下、CSCと言う)の第5回国家安全保障担当補佐官会議は、モーリシャスが正式に加盟国として加入し、バングラデシュとセイシェルがオブザーバーの地位を継続し、順次加入することが注目されている。2011年の開始以来、多国籍の地域協定が発展し、2020年の前回の会合では、「海上安全保障協定」から「海上及び安全保障協定」に名称変更されたことは、将来の可能性を示している。このCSC以前は、地域の複雑さを考慮すれば、インドは近隣の「インド洋地域(Indian Ocean Region)」(以下、IORと言う)において必然的に地方分権的な勢力として戦略・安全保障関係を2国間で維持してきた。南アジア地域協力連合(SAARC)が2国間問題を排除できなかったことから、インド政府は南アジアを中心とする多国間枠組みに警戒心を抱いていたが、冷戦後の地政学的、地戦略的な現実はそうでないことを決定づけた。
(2) 1988年、モルディブのMaumoon Abdul Gayoom大統領に対する傭兵主導のクーデターにインドが軍事介入して鎮圧したサボテン作戦の教訓からインドとモルディブが始めた、2年ごとのドスティー沿岸警備隊演習がCSCのきっかけであった。本来の目的とは異なり、この演習は人道支援や海洋汚染といった非伝統的な安全保障問題を扱ったものであった。スリランカで民族紛争が続いたため、CSCは非伝統的安全保障の範囲を拡大したが、地域防衛協力協定のような従来の安全保障問題や協力とは距離を置いている。
(3) スリランカでは、2005年の大統領選挙を前に現職の首相Mahinda Rajapaksaと前首相Ranil Wickremesingheの2人の候補者が安全保障上の優先事項を示したことがCSCの始まりだった。そして、Rajapaksa政権は、安全保障上の提携国はインドしかないと主張したが、当時インドは聞く耳を持たなかった。インドの懸念は、スリランカが南部のハンバントタ港の開発で中国の資金を選択したことにあった。インドは、この港の開発は不経済な計画と考えていたが、スリランカはその歴史と遺産に由来する情熱により強行したのである。スリランカのCSCへの参加はインドが強制したものではなく、スリランカがモルディブを巻き込んだ2国間の合意から発展したのである。2004年のモルディブとスリランカの津波被害に対する救援と復興支援に、インドは自国の損失よりも優先して介入し、さらにその後、インド軍を速やかに撤退させた。これは、インドへの信頼を築き、インド平和維持軍(IPKF)のような恒久的軍事拠点を目指しているのではないかとの疑念も払拭させた。
(4) インドは、周期的に発生する嵐や、地震で壊滅的な被害を受けるバングラデシュに援助をしているが、それらはすべて2国間の枠組みであった。これに対して、2019年のイースター連続爆破事件についてインドがスリランカと情報共有をしたことは、2国間事業なのかCSC主導なのか、明確になっていない。
(5) インドとCSCへの関わりは、インドのExternal Affairs Ministry(外務省)が独立したIOR課を創設し、接近するモルディブとスリランカに焦点を当て、その後モーリシャスとセイシェルを加えたことに始まる。2019年には、モーリシャス、セイシェルとともに、インド洋の「口」を形成するコモロ、マダガスカル、フランス領レユニオン島も加えられた。しかし、コモロやマダガスカルがCSCに加盟するという話はない。アンダマン海やラクシャドウィープ海に広がるインドの領土を両脇に控え、中央に友好的な米国のディエゴガルシア基地があることから、これらによってインドの「池」を守る安全保障網は、形づくられている。しかし、このような構想には限界がある。領土外の権力を巻き込むことは、CSCの構想そのものを阻害する可能性があるからである。
(6) 米国主導の日米豪印4ヵ国安全保障対話QUADや豪米英安全保障枠組みであるAUKUSとは異なり、CSCは地域の利益のためものであり続け、その範囲と目標は共通の憲章と手順表によって定義される限定的なものとなる。もし、加盟国や議題の拡大が必要であれば、主権国家が参加する合意形成の過程を通じて達成される。最大勢力であるインドを始めとする加盟国は、その限界を十分に認識しており、また、加盟国の一部、または多くが固定された議題の範囲から外れた場合、全面的に崩壊する可能性もある。
(7) 冷戦後の地政学的な情勢が刻々と変化する中で、共通の悩みを抱える以外にも、IORやその他の地域の小国は、自国の資源に対する需要に対応することができず、無力であることに気付いている。モルディブはその典型例である。2022年3月9日に開催されたマレ・セッションで、主催者であるモルディブのMariya Didi国防相が開会の辞で、「海洋はモルディブ領土の97.5パーセントを形成する」と述べている。国防相は言及しなかったが、空にも開かれたこの広大な海域を確保するためには、財源だけでなく人材さえも不足している。人口45万人のうち4割を占める人口密度の高い首都マレでは、出生率が低下しているため、外部からの援助が不可欠となっている。モルディブにとって安全保障に大きな利害関係を持つインドの関与が、Abdulla Yameen前大統領と同一視される政治的野党によって誤って解釈され、インド軍の存在に言及して「インド排除」キャンペーンが展開されている。Mariya Didi大臣とその政府は、この根拠のないキャンペーンを真っ向から否定している。
(8) CSC試みが将来失敗しないよう、牽引者たるインドが広い心で見守る必要がある。これは、CSCの取り決めにおいて大きな試練でもある。2国間および制度的機構を通じて、国内の短期的な変化を克服することは、CSCを長く存続し、成功につながる。
記事参照:Inching towards an IOR security net

3月12日「ウクライナでの戦闘から中国と台湾が得られる教訓―香港紙報道」(South China Morning Post, March 12, 2022)

 3月12日付の香港日刊英字紙South China Morning Post電子版は、“Both sides of Taiwan Strait look to Ukraine fight for guerilla warfare lessons”と題する記事を掲載し、ウクライナでの戦争は非対称的な戦闘を行っており、そこから中国と台湾が得られる教訓が多いとして、要旨以下のように報じている。
(1) 西側から提供された対戦車ミサイルと対空ミサイルを使用するウクライナ軍は、より大きな敵であるロシア軍に大きな損害を与えているため、ウクライナとロシアの戦闘に中国と台湾の両軍が注視している。中国政府は、台湾の再統一に武力を行使することを少しも放棄しておらず、攻撃することを決定した場合、ロシアやウクライナと比較して兵力の規模により大きな不均衡が存在する。この紛争から得られる非対称戦とゲリラ戦術の教訓は、双方にとって特に重要である。
(2) 米国とその同盟国は、ウクライナに1万7千以上の次世代軽対戦車兵器(Next Generation Light Anti-tank Weapon:NLAW)システム、数百のジャベリン対戦車ミサイル及びスティンガー対空ミサイルを提供したとも伝えられている。防衛専門家たちは、これらの軽量の肩撃ち式ミサイルがロシアの重装甲車両の動きを止める最も効果的な兵器であり、台湾が近年備蓄している兵器であるとしている。元中国軍教官である宋忠平は、「台湾政府はジャベリンやスティンガーミサイルを間違いなくより多く輸入するだろう。この種の装備は簡単に隠すことが可能であり、大きな目標を攻撃できるという利点がある。台湾本島に上陸した後に生起する都市の街路における戦闘では、間違いなく中国軍にとって最も困難な問題の1つとなるだろう」と述べている。台湾の海軍軍官学校の元教官である呂禮詩は、米国とその同盟国がこの地域において直接防衛支援を行うかどうかはまだ不明確であるが、一度台湾が攻撃されれば、米政府は様々なチャンネルを通じて台湾政府と情報を共有することが予測されるとして、「ウクライナの必死の抵抗は、外国の援軍を期待していなかった台湾人に、大陸との軍事衝突が起こった場合、台湾人だけが台湾を救えるということを教えている。非対称戦とゲリラ戦術こそが唯一の対抗策である」と呂は述べている。
(3) 北京の中国国際戦略研究基金会研究員のEagle Yinは、「ロシアとウクライナは独特で…ほとんどのロシア人家庭にはウクライナ人の親戚や友人がおり、それによってロシア軍は、初期の攻撃で破壊的な兵器を使用することを躊躇している。最新の動向は、ロシア政府がこの戦争でウクライナのいくつかの重要な都市を支配するために、より多くの時間を費やし、深刻な犠牲に苦しんでいることを示しており、それはロシア軍が敵と戦闘の複雑な問題を見くびっていたことを意味している」と述べている。ロシア軍による病院や学校、その他の民間施設への爆撃は、国内及び国際社会で反発を招き、人道的危機や国内の反戦運動につながるかもしれないとYinは述べた。宋は犠牲者を最小限に抑え、一般人に危害を加えないことが中国軍の「台湾統一作戦」の主要な関心事だろうと述べている。台湾国防部長邱国正は3月10日に、台湾をめぐる戦争で誰が勝ったとしても、結果は「悲惨な勝利」になると述べ、北京に攻撃の帰結を「十分に考える」よう呼びかけた。
(4) 呂は、ウクライナでの戦争はロシアの軍事的近代化が如何に無力であったか、また如何に相手のウクライナ人を過小評価していたかを露呈したと指摘し、「今回のウクライナでの戦闘から、全ての部隊が学んだ血染めの教訓は、かつてどれほど強力だったとしても、全ての軍種の部隊を近代化し、戦闘に即応し得る待機部隊にすることができなければ、大きな代償を払うことになるということである」と述べている。
記事参照:Both sides of Taiwan Strait look to Ukraine fight for guerilla warfare lessons

3月13日「中国が懸念するオーストラリアの新しい原子力潜水艦基地―香港紙報道」(South China Morning Post, March 13, 2022)

 3月13日付の香港日刊英字紙South China Morning Post電子版は、“Why China should worry about new Australian nuclear sub base under Aukus”と題する記事を掲載し、オーストラリアの新しい原子力潜水艦基地は中国に脅威をもたらすとして、要旨以下のように報じている。
(1) 中国が「極めて無責任」と激しく非難した米英とのインド太平洋安全保障条約に調印した数カ月後、オーストラリアがその東海岸沖に新しい原子力潜水艦基地を建設すると発表した。Scott Morrisonオーストラリア首相は3月7日にこの計画を発表し、基地は100億豪ドル(73億米ドル)以上かかり、特定された「望ましい場所は3つ」あると述べ、「インド太平洋における(オーストラリアの)国益に対する脅威を抑止する」必要性を強調した。オーストラリアは2021年9月に署名した米英との安全保障協定AUKUSを通した原子力潜水艦8隻を建造し、海軍力を強化することを決定した。Morrisonは当時、この潜水艦は南オーストラリア州のアデレードで建造されると発表した。
(2) AUKUSと新潜水艦基地に関するキャンベラの決定は、世界最大の海軍力を持ち、対応に注意を要する南シナ海で、いくつかの人工島を建設してそこに兵器を設置し、活動を活発化させている中国がもたらす脅威の増大と関係があると伝えられている。中国とオーストラリアの関係は、米国がコロナウイルスの起源に関する国際的な調査を中国に要求したことにオーストラリア政府が同調したと見られて以降、2020年初頭から緊迫している。オーストラリアはすでに西海岸に1ヵ所潜水艦基地を保有しており、そこは老朽化したコリンズ級潜水艦部隊の本拠地となっている。新施設の初期工事は、2023年末までに終了する予定である。
(3) 「近年、(2国間の)関係の悪化が続いていることが、オーストラリアに(原子力)潜水艦の建造を決断させた最も重要な理由の1つだと思う」と上海の軍事専門家倪楽雄は述べ、オーストラリアが他国との安全保障関係を深化させた理由もそこにあると付け加えている。倪楽雄は、中国が対抗措置を取る必要はないとしながらも、今回のオーストラリアの決断は、外交関係に対する中国政府の取り組みについて再考を促すはずだと語っており、「今は見込みがなさそうだが、いつかこの悪い関係が改善されるべきだ」と倪楽雄は述べている。
(4) しかし、香港の軍事専門家である宋忠平は、新しい潜水艦基地は中国に脅威を与えるであろうと語っており、「オーストラリアの潜水艦部隊は、AUKUS提携の下、この地域における米国の力を補完する重要なものと見なすことができ、当然ながら中国の影響力に対抗することになる」と宋は警告した。
記事参照:Why China should worry about new Australian nuclear sub base under Aukus

3月14日 「AUKUSは海洋安全保障にどのような影響を及ぼしうるか―パキスタン国際関係専門家論説」(Geopolitical Monitor, March 14, 2022)

 3月14日付のカナダ情報誌 Geopolitical Monitorのウエブサイトは、パキスタンのシンクタンクCenter for International Strategic Studies Sindh研究部長Mohid IFTIKHARと同Center研究助手Muhammad Usama KHANの“AUKUS and Its Implications on Maritime Security”と題する論説を掲載し、そこで両名は今日の海洋安全保障は地政学的な展開と密接に関連していると指摘し、その上で2021年9月のAUKUS協定に言及し、それが海洋安全保障にどのような影響を及ぼしうるかについて、要旨以下のように述べている。
(1) 今日、「海洋安全保障」という言葉が指し示す範囲は広がってきているが、それは、地政学的な概念が海洋安全保障に大きな影響を与えていると考えられるようになってきたからである。Basil Germondが論じたように、国家の海洋安全保障戦略の立案は、地理によって大きく規定されている。しかし、麻薬密売や海賊、環境汚染など、伝統的な海洋安全保障に関する文献は豊富に存在するが、海洋安全保障を地政学的な観点から理解しようとする試みはまだ不十分である。
(2) 英米豪による協定、いわゆるAUKUSは海洋安全保障と強い関連を有する地政学的な展開である。AUKUSが提起した最も重要な課題は、地域における戦略的対立の展開である。こうした海における地政学的展開は海洋安全保障に密接に関わり、それゆえ、航行の自由、海洋貿易、そして海上交通路に影響を与えるはずである。AUKUSは英米豪の間で合意された安全保障上の提携であり、その3ヵ国にとって「インド太平洋の平和と安定に寄与する」ためのものである。これは、「アジア太平洋」という構想におけるその時代の規範の劇的変化を象徴するものでもある。
(3) 歴史を振り返ると、地政学が海洋安全保障にとってきわめて重要であることを理解できるだろう。また今日においても、米国と中国、あるいは米国とイランの緊張などが貿易や航行の自由を脅かしていることを見出すことができる。また、船舶保険価格の上昇からも、地政学的な出来事が海洋経済に影響を与えていることを理解できよう。S&P Globalによれば、湾岸地域に向かう船舶にかけられる保険の料率は2019年中頃に跳ね上がったが、それは、2019年5月から6月にかけてホルムズ海峡における石油タンカーへの攻撃が激増した結果であった。またWall Street Journalの報道によれば、米国の対イラン制裁によって、イランにおける船舶の運航は激減した。
(4) そうしたことを踏まえてAUKUSについて検討していきたい。この協定は、原子力潜水艦技術やAI、サイバーなどに関する最先端技術をオーストラリアに供与するものである。それはいくつかの問題を提起する。1つには、中国の王毅外交部長によれば、それは、核拡散や軍拡などを含む「5つの害」を地域にもたらすことである。また、それは一時的にではあるが、米仏および仏豪の関係にヒビを入れた。すなわちそれは、中国がAUKUSに対してどう対応するか、そして米国主導の同盟システムの結束がどうなっていくのかという問題を抱えている。
(5) 2021年12月には、米英豪3ヵ国がUS Department of Defenseで先端技術と原潜計画に関する会合をそれぞれ開催したが、それは、AUKUSが新たな地政学的対立の段階に入ろうとしていることを象徴するものである。AUKUSは確かに長期的な計画ではあるが、オーストラリアが原潜を獲得することになれば、アジア太平洋における海洋安全保障の力学は政治的危険性に直面するかもしれない。元豪外相Gareth Evansは、「一面で、日米豪印4ヵ国安全保障対話(QUAD)の発展と同じように、地域の主要な他の行為者の間にはより強力な防衛能力と協調を構築しようとする意図を中国が受け取ることは悪いことではない」と述べている。
(6) 海の経済への影響も重要な問題である。2020年に船積みされた貨物総計の41%がアジアの海洋貿易によって取り扱われている。重要な港の大半がアジアに存在する。このようにアジアにおいては海上交通路の安全と安定が決定的に重要である中、南シナ海での展開は地政学や貿易の専門家にとって関心の的である。最悪のシナリオが展開し、東南アジアの海峡が利用不可能になると、貿易船はオーストラリア南岸を迂回せざるをえなくなる。そうなった場合のアジア各国への悪影響は大きく、広範なものになるだろう。
(7) AUKUSで計画されているオーストラリアへのトマホーク巡航ミサイルの移転もまた、偶発的な戦争の危険性が高まり、ミサイル関連技術輸出規制レジームが弱体化するという危険を抱えている。またオーストラリアが自国でウラン濃縮に着手するのかどうかなど、核拡散の問題も検討されなければならない。
(8) AUKUSは、海洋安全保障と強い関連を有する地政学的展開である。それはまだ初期段階にあるが、将来にとって大きな含意を有しているのも事実である。研究者も政策立案者も、AUKUSを通じて展開する一連の出来事について、慎重かつ科学的に検証していかねばならない。
記事参照:AUKUS and Its Implications on Maritime Security

3月16日「『傾倒』または『転倒』:英国のインド太平洋政策の評価―英及びインドネシア専門家論説」(The Diplomat, March 16, 2022)

 3月16日付のデジタル誌The Diplomatは、英University of Bristol研究員Scott Edwards、同University国際関係論講師Rob Yates、インドネシアUniversitas Bakrie国際政治経済学講師Asmiati Malikの“‘Tilting’ or Toppling: Assessing the UK’s Indo-Pacific Policy One Year on”と題する論説を掲載し、3名が1年前に策定された英国のインド太平洋政策を評価してみると、地域の堅実な支持基盤のない「傾倒」は「転倒」する危険性があり、英国には防衛分野だけでなくより細かい地域との対話と関与が必要であるとして要旨以下のように述べている。
(1) 1年前の2021年3月16日、英国はBrexit後の世界との関わりに関する「包括的展望」を「競争時代のグローバル・ブリテン:安全保障、防衛、開発、外交政策の統合的見直し 」と題して公表した。その印象的な要素の1つは、インド太平洋へのいわゆる「傾倒」であった。英国と米国の最近の高級実務レベルの協議は、ウクライナを巡るロシアとの緊張の高まりに続き、大西洋に再び焦点を当てる可能性にもかかわらず、インド太平洋への継続的な誓約を提案している。
(2) 「統合的見直し(the Integrated Review)」では、インド太平洋は「競争時代(competitive
age)」が展開している重要な地域として規定されており、国際秩序を形成し「開かれた社会(open societies)」を支援するために英国の積極的な関与が必要であるとしている。安全保障面では、インド太平洋は環境や海洋の不安定化を含むより広範な問題の「るつぼ」として規定されている。また、地域の強靭性と秩序を発展させるために、主要な提携国や機関との外交上及び貿易上の関係の必要性も提示している。これに基づき、「統合見直し」は、英国のインド太平洋への取り組みが全般的である必要があることを明確にし、英国が「インド太平洋で最も広範かつ最も統合された展開を有する欧州の提携国」であることを野心的にも宣言している。
(3) 1年後の英国のインド太平洋の「傾倒」をどのように評価できるであろうか。全般的な関与の意図が表明されたにもかかわらず、これまでのところ、英国の重点の多くは比較的狭い防衛目標に置かれているように思われる。この地域に関する最大の関与は AUKUS 、つまりオーストラリアに原子力潜水艦を提供するという米国、英国、オーストラリア間の合意である。この合意の突然の発表に続いて、東南アジアの政策立案者からの熱狂的な反応は少なく、米中対立が拡大する中で、多くの人がこの地域の安定への影響について懸念を表明した。その懸念は、Scott Morrisonオーストラリア首相が、米国と英国の潜水艦はオーストラリアから出港できると発表したことでさらに高まる可能性が高い。英空母打撃群の配備や英海軍兵力の永続的な前方展開の発表など、他の防衛措置も大きな注目を集めている。それらはまた、航行の自由作戦に従事する域外の海軍によって引き起こされる潜在的な不安定な影響のあるこの地域の中において、既に存在している懸念に影響を与えるものである。
(4) これらの行動には、すべて 1 つの共通点がある。それは、地域から発せられたものというよりは、米国のインド太平洋に関する思考に沿った事前に決定された優先事項を反映した、より短期的な防衛活動ということである。1年後、他の分野ではほとんど進展がないまま、これらの防衛に焦点を当てた動きは、「統合見直し」のより広範な目標を損なう危険性もある。外交関係を中心とし、地域の強靭性を発展させるというより包括的な取り組みの実施には、優先事項の決定に関し、地域からの意見に対する開放性が必要である。特にASEAN対話パートナーの地位の達成の次に、何をすべきか明確な計画が立てられていない東南アジアでは、この分野での英国の努力は今までのところ精彩を欠いている。
(5) 英国が地域との関係発展のために全く何もしていないわけではない。マレーシア・英戦略対話委員会や U.K.-Indonesia Joint Economic and Trade Committee(英・インドネシア合同経済貿易委員会)などの協力のための会議を設置し、ASEAN諸国への早期の訪問にも取り組んでいる。しかし、これまでのところ、それらは他の大国の努力と比較して見劣りし、英国は追いついていない。英国は、オーストラリアのASEAN包括的戦略的パートナーシップのような具体的な協力の枠組みを確立するにはほど遠いし、将来の展望も示していない。海洋安全保障は英国が遅れを    とっている分野である。上記の展開に基づいて、英国はこの分野で特に活発に活動しているように思われる。しかし、海洋安全保障は海軍だけの問題ではない。英国は、海洋犯罪や新たな環境問題に重点を置き、海洋安全保障をはるかに広い意味で見ている。この点では、英国の「傾倒」は将来的な可能性を示している。英国は、アジア海賊対策協力協定(ReCAAP)や共同海上部隊など海洋犯罪に対処するための地域的措置に積極的に取り組んでいる。英哨戒艦「タマール」と「スペイ」のこの地域への配備も期待できるものである。両哨戒艦はトンガを援助し、ピトケアン諸島にワクチンを届け、海洋保護区での違法漁業に対しても哨戒を行っている。地域の大国が望む能力構築や知識交換を通じて、地域諸国とのより強固な提携を発展させるという目標を達成する点では、英国の活動はあまり効果を出していない。対照的に、EUは最近、フィリピンの海軍と沿岸警備隊との演習を実施し、EUの情報共有ツールIORISの利用を許可した。
(6) 英国の諸活動の実施に関する相手国とのこのような意識の溝は重要である。今のところ、英国はASEAN諸国を味方に付けてはいない。2022年の東南アジア諸国の政策立案者とオピニオンメーカーの調査では、自由貿易の擁護に関して最も信頼できるのは誰かと尋ねられたとき、回答者のわずか1.8%が英国に言及した。回答者のわずか3.4%が、ルールに基づく秩序と国際法を支持する指導者の観点から英国に言及した。これはオーストラリアとニュージーランドをわずかに上回っているが、米国、EU、日本、さらには中国にもはるかに及ばない。調査のさまざまな質問に対する回答は、英国のインド太平洋ビジョンで説明されているものよりも、中国と地域秩序に対してより微妙で複雑な取り組みが必要であることを明らかにしている。
(7) 英国が、地域関係よりも防衛目標を優先し続けるならば、地域が信頼できる友人を失いつつあることをすでに懸念している主要な提携国を遠ざける可能性が高い。実際に、新たに発足した英米インド太平洋に関する対話は、その恐れをさらに強める可能性がある。その対話は地域の国々との提携を前提としているが、第1回会合の宣言は、ASEANが台湾海峡、香港、太平洋諸島を含むより大きな懸念の長いリストの中で最後から2番目に言及されており、比較的低い優先順位にとどまっていることを示唆している。
(8) この地域の優先事項を無視することは、英国政策のこの地域への「傾倒」にとっては大きな失敗となるであろう。なぜならこれらの地域の国々との関係が最も重要な意味を持つからである。堅実な支持基盤のないいかなる「傾倒」も「転倒」に転じる危険がある。ASEANの中心性は、ミャンマーや南シナ海などの問題への対応が不十分であるため批判にさらされているが、英国はこの地域の支援なしに野心的な目標を達成することはできない。必要なのは、「傾倒」に関する成功がどのように見えるかを測定するより明確なパラメータである。これらのパラメータは、英国の国内政治や米英関係よりも地域との対話と関与を通じて作られる必要がある。英国が、2つの議会委員会が政策を精査し、インド太平洋地域に「傾倒」した政策の実施において生じている溝を綿密に検討しているという証拠がある。しかし、1年経った今でも、英国は大部分の事項が懐疑的なままとなっているこの地域に、どのようにして野心的な目標を達成し、共通の利益を提供する能力があるのかを突き止める必要がある。
記事参照:‘Tilting’ or Toppling: Assessing the UK’s Indo-Pacific Policy One Year on

3月16日「ロシア商船拿捕事件で問われる公海の自由―米専門家論説」(Lawfare Blog, March 16, 2022)

 3月16日付のオーストラリアLawfare Instituteのブログは、US Naval War College海上作戦担当副部長であり、同CollegeのStockton Center for International Lawの国際法教授Michael Petta U.S. CoastGuard中佐の” The Seizure of a Russian Merchant Vessel Raises Questions About High Seas Freedoms“と題する論説を掲載し、ここでPettaはフランス海軍によるロシア籍船「バルティック・リーダー」の拿捕は、EUの制裁とは別にロシアの公海上の自由と旗国の排他的管轄権を侵害する何らかの法的根拠が必要であるとして、要旨以下のように述べている。
(1) この記事は、2月25日にフランス海軍によるロシア籍船「バルティック・リーダー」の拿捕について分析する2本の記事のうちの2本目である。この船は、英仏海峡で自動車を搭載して航行中、フランス北部のブローニュ・シュール・メール港に回航、抑留された。1本目の記事では、この船舶の抑留を中立法のレンズを通して検討し、国際的な武力紛争で期待される不参加と公平性の義務を満たしていなかった可能性を示唆した。本稿では、中立法から海洋法に目を向け、制裁に基づく拿捕が公海上の航行の自由および旗国の排他的管轄権にどのように関連しているかを論じる。
(2) 「バルティック・リーダー」はロシア船籍のロールオン/ロールオフ貨物船である。2月25日午前9時45分頃、ノルマンディーのセーヌ川を約60海里遡ったルーアン港を出港した。そして、セーヌ川を湾口まで下り、北に針路を変えてイギリス海峡に入った。船舶自動識別装置(以下、AISと言う)のデータによると、ルーアンからフランス領海を出るまでの7時間の航行中、フランス海軍の艦艇は「バルティック・リーダー」に接触していない。
(3) フランス領海を出た後、約3時間北寄りの針路を維持し、ドーバー海峡の分離通航方式(以下、TSSと言う)適用海域に入るまで北東の針路で航行した。TSS内で、「バルティック・リーダー」に、フランス国家憲兵隊の法執行船3隻が航路の前方から接近し、午後11時頃、フランス沿岸から約25海里の地点で同船を拿捕した。そして、翌日午前2時頃にブローニュ・シュール・メール港に抑留した。「バルティック・リーダー」は、ロシアの抗議にもかかわらず、今日もブローニュに抑留されている。
(4) フランスは、ロシアのウクライナ侵攻による欧州連合(以下、EUという)の対ロシア制裁に基づき、この船の差し押さえを行った。海上では、国連安全保障理事会の決議がない限り、制裁の執行は国際法の下での既存の義務に制約される。一方的な制裁は、海洋法に規定される公海の自由や旗国の専属管轄権と整合的でなければならない。
(5) 公海上の航行の自由は、国連海洋法条約(以下、UNCLOSと言う)に示されている。フランスとEUはこの条約の締約国である。UNCLOSは、公海上において、すべての国が自国の旗を掲げた船舶を自由に航行させる基本的権利を認めている(第87条、第90条)。公海の自由は排他的経済水域に適用されるため(58条および86条)、この自由の享受は一般に沿岸国の基線から12海里の地点から始まる。公海の自由の本質的な基盤は、旗国専属管轄権の原則であり、公海上の船舶はその旗国(船舶の旗を掲げる国)のみの管轄下にあると規定している(第91条、92条)。
(6) 領海の外では、一般に国家は他国の船舶に乗り込んだり、押収したりすることはできない。この原則には例外があり、国連安全保障理事会は国連憲章第7章に基づき、差し押さえを許可することができる。また、旗国の同意や事前の合意があれば、領海外の船舶を差し押さえることも可能である。UNCLOSはさらに、第110条に記載されているように、無国籍船や海賊行為、奴隷行為、無許可放送に従事する船舶を阻止する権利も認めている。また、入港の条件として(第25条)、あるいは合法的な追跡の後に(第111条)、船舶を拘束し乗り込む権利も示されている。最後に、第33条と第73条に規定されているように、沿岸国の関税、財政、出入国、衛生に関する法律に違反した疑いがある場合、外国船舶を接続水域で、また排他的経済水域では生物資源法を執行するために、差し押さえることができる。
(7) AISデータによると、フランスの法執行船3隻は、領海を大きく外れ、出港から何時間も経ったフランスの海岸から約25海里の地点で「バルティック・リーダー」を取り囲んでいる。現在入手可能な公開情報からは、公海上の取り締まりを支持する法的根拠は何も明らかではない。これは、無国籍、海賊、奴隷、無許可放送、入港、緊急越境追跡などの事例ではない。さらに、排他的経済水域の生物資源に対する沿岸国の管轄権や、接続水域での取締り権に関わるものでもない。ロシアの反論は、条約、2国間協定、同意が適用されないことを示唆している。さらに、国連安全保障理事会が旗国の同意なしに制裁を執行することを認める第7章決議はなされていない。
(8) フランスは「バルティック・リーダー」の拘束について、追加情報を提供する可能性がある。フランスは、AISデータにもかかわらず、実際の押収は当該船舶がフランス領海に入った後に行われたと主張する可能性がある。あるいは、EUの制裁はフランスの関税、財政、移民、衛生に関する法律に成文化されており、押収はそうした法律への侵害を防ぐために24海里内の接続水域で行われたと主張するかもしれない。いずれ、これらの理論や他の理論が提示され、分析されるかもしれない。今のところ重要なのは、EUの制裁とは別に、ロシアの公海上の自由と旗国の排他的管轄権を侵害する何らかの法的根拠が必要ということである。国連以外の制裁体制は、その理由がいかに立派なものであっても、国際法を上回るものであってはならない。
記事参照:The Seizure of a Russian Merchant Vessel Raises Questions About High Seas Freedoms

3月16日「ロシア船への制裁、漁業協力への重荷―ノルウェー紙報道」(High North News, March 16, 2022)

 3月16日付のノルウェー国立NORD UniversityのHIGH NORTH CENTERが発行するHIGH NORTH NEWSの電子版は、北極圏問題を専門とするジャーナリストHilde-Gunn Byeの“Sanctions Against Russian Vessels May Become Burden for Fisheries Cooperation, Says Researcher”と題する記事を掲載し、ノルウェーにおいて議論されるロシア船に対する制裁は直ちにノルウェー-ロシア間の漁業協力態勢に影響を及ぼさないにしても、今後の漁獲量割り当てやスバルバルド魚種保護区の交渉などを難しくするとして、要旨以下のように報じている。
(1) ロシア船のノルウェーの港への入港禁止措置の結果について政治的論議はより明確しなければならないとノルウェー環境・海洋問題等関連研究所Fridtjof Nansen Institute上席研究員Andreas Østhagenは主張する。中道政党ノルウェー自由党は、EUと同じようにノルウェーもまた、ロシア船がノルウェーの港湾に停泊することを阻止する制裁を考えている。としている。極左正統赤色党は、ノルウェーはPutinとその取り巻きであるオリガルヒに対して、戦争の責任者としてノルウェー独自の懲罰的措置は必要であるが、ロシアの漁船団に対しては別個の評価が必要であるとして、「赤色党はオリガルヒに対しより厳しく対することを求めている。しかし、漁船団は我々独自の評価をしなければならず、別個の政策を持つ理由である」と赤色党のMarie Sneve Martinussenはノルウェーのオンラインビジネス紙E24に述べている。最近のノルウェーNRK放送の政治番組で、ノルウェー自由党Ola Elvestuen議員はノルウェーはロシアに対する制裁を強化すべきとして、「我々は兵器、装備でウクライナを支援しなければならない。我々はまた、できる限りの制裁を強化しなければならない。次の段階はロシアの商船、公船に対してノルウェーの港湾を閉鎖することだろう。」と述べている。
(2) ノルウェーの漁業・海洋政策相Bjørnar Skjæranは同じラジオ番組で、Ministry of Trade, Industry and Fisheriesは港湾閉鎖について懸命に作業していると述べており、政府がなぜ、水産業を制裁から保護してきたのかという質問に対して、「我々にはある地理的条件があり、我々はそれを理解している。我々はバレンツ海をロシアと共有している。豊富な漁業資源を管理するに当たって、他の国が管理に参画してこなければ管理する術はない。この協調を守ることはノルウェーにとって重要である」とBjørnar Skjæran漁業・海洋政策相は答えている。
(3) 一方に、港湾閉鎖の決定によってもたらされる経済的結果がある。制限はノルウェーの港湾に入港した船舶に補給を行う海運産業にとりわけ打撃を与えるだろうが、漁業にとって重大とは認識されないだろうとノルウェー食品・水産企業Norges RåfisklagのCEO Svein Ove Hauglandは言う。ノルウェーにおけるロシアからの天然資源の総売上高は13億ノルウェー・クローネに達しており、これは生産業の総売上高の10%未満であるとSvein Ove Hauglandは説明する。「ここに陸揚げされるロシアからの原材料のほとんどは、加工されることなくノルウェーから再輸出される。ここでの荷揚げの停止はほとんど意味がない」とSvein Ove Hauglandは指摘している。
(4) ロシアとの間で確立された漁業協力と長期の安全保障政策の問題点が関連する側面が明らかにされていないとして、「もし、ノルウェー当局がロシアの船舶によるノルウェーの港湾の利用を拒否したとしても、それが直ちにロシアとの漁業協力が破棄されることを意味しない。重要なことは、時間の経過とともに漁業資源管理に対する協力を危うくする一連の影響につながることである。ロシア当局とバレンツ海での漁獲総割り当て量について打ち合わせながら、同時にノルウェーの港湾をロシア船が利用することを禁止するというのは私には想像できない。他の機構を通じて総割り当て量の打ち合わせは可能かもしれないが、漁業協力にとって重荷となるだろう」とFridtjof Nansen Institute上席研究員Andreas Østhagenは主張している。
(5) さらに漁業管理についての疑念がある。Østhagenは、提案された対策には付け加えるべき側面があるとして、ロシア船に対する制裁はスバルバルド周辺海域の魚種保護海域における潜在的な不一致に対処する条件をより難しいものにするかもしれないと説明する。そして「スバルバル周辺海域は、我々が長い間意見の相違があることを受け入れてきた。ロシアはスバルバル海域をノルウェーのものではなく、公海と認識しているが、そのことは実際問題として影響はない。ロシアとの協力は、全体的な漁獲量割り当てやその他に規制に関する限り、この海域での漁業に対して開かれている」と述べている。
(6) しかし、この海域には紛争となる状況が存在する。ØsthagenはノルウェーCoast Guardとロシア漁船が関係するいくつかの事例について説明している。そこでは、ロシア漁船がノルウェーCoast Guardによって、立ち入り検査され、拿捕されている。しかし、ロシア側はスバルバルド周辺におけるノルウェーが権限を行使する権利を認めておらず、ノルウェー当局を拒否している。「漁業交渉を通じ、規制と漁獲量割り当てについて合意し、地方での協力は緊張と拿捕・連行する必要性の多くを除去してきた。依然として、立ち入り検査は行われている。しかし、そこには枠組みがあり、この枠組みを通して洋上で罰金を支払うことで拿捕、回航の問題は解決されている。Coast Guard自身、この枠組みは事態を拡大させない上で重要であると指摘している。しかし、枠組みはまた両国間の信頼関係を求めている」とØsthagenは述べている。
(7) 実施されるかもしれないロシア船のノルウェー港湾での停泊禁止はかならずしも即事の結果につながるわけではない。Østhagenは、ノルウェーが全体的な安全保障政策の状況を踏まえて可能性のある制裁を検討すべきであると強調し、「紛争の事態は起こるかもしれない。必ずしも、ロシア当局はそれを望んでいるわけではないが、漁民及び漁船所有者がスバルバルド海域におけるノルウェーの取り組みに抵抗するからである。最近の状況を考えれば、ロシアが国として介入すれば、ノルウェーにとってより重大な危機となるだろう」と述べている。
記事参照:Sanctions Against Russian Vessels May Become Burden for Fisheries Cooperation, Says Researcher

3月17日「IUU漁業に対して世界的な対処の必要性―米ジャーナリスト論説」(9dashline, March 17, 2022)

 3月17日付のインド太平洋関連インターネットメディア9dashlineは、米ジャーナリストJoseph Hammondの“CHINA'S IUU FISHING FLEET A GROWING THREAT TO GLOBAL FOOD SECURITY”と題する論説を掲載し、そこでHammondは海産物の需要がますます高まっている中で、違法・無報告・無規制漁業に対する世界的な対処が必要であり、とりわけ遠洋漁業に対する助成金が大きな問題であるとして、要旨以下のように述べている。
(1) COVID-19の世界的感染拡大は、世界的な食料の流通網に大きな影響を及ぼした。その結果、違法・無報告・無規制(以下、IUUと言う)漁業の問題への対処はこれまでよりも重要になる。世界規模で見ると、海産物への需要と消費は増大し続けており、少なくとも30億人が海産物を主要タンパク源としているという。IUU漁業はまた、アフリカでは海賊やその他テロなどと関連し、アジアにおいては、あまり議論されることはないが、海の境界をめぐる論争の増加にも関わっている。
(2) 元米海軍大将で元NATO欧州連合軍最高司令官James Stavridisは、2017年に中国がIUU漁業に携わる船舶の助成に何億ドルも投じていることを警告していた。そして2021年末に米政府は、中国のIUU漁業が何らかの紛争の端緒になる可能性があるという警告を発している。実際にそうした事件が起きている。2020年3月には日本の護衛艦「しまかぜ」が中国漁船との衝突によって船体に損傷を受けるという事件があった。2019年にはアルゼンチンの沿岸警備隊が、同国の排他的経済水域(以下、EEZと言う)内で違法操業していた中国漁船を撃沈するということがあった。
(3) 中国だけがIUU漁業を実施しているのではなく、ベトナムなどもそれを「民兵」として活用しているとして非難されている。それでもやはり大部分が中国によるものではある。中国は2002年以降、世界最大の海産物の輸出国である。中国は20年もかからずに3,000隻もの深海漁船群を建造し、海産物産業の支配的地位を占めた。しかしこうした数字でさえ、中国の漁業における影響力を捉え損ねている。Environmental Justice Foundationのある報告書が明らかにしたところでは、ガーナのトロール漁船団の90%がガーナ企業名で登録されているものの、実際は中国の所有者とつながっているという。
(4) 最近は中国政府もこうした問題を認め、規制の強化などを行っている。また、中国の方針のもとで、他国のEEZから3海里以内で操業する中国船舶はないことになっている。しかし、こうした中国の規制の厳格さがあらゆるところで適用されているわけではない。中国漁業実態に関する専門家Tabitha Grace Malloryによれば、渤海や黄海など、中国が明確な司法権を有している海域においては、中国はIUU漁業を深刻に捉えているが、他の海域ではそうではないという。たとえば中国の毎年の行われる休漁期の範囲は北緯12度までであり、南沙諸島を含む北緯12度以南おける漁業はほぼ自由だという。そして「中国はその海域で操業する漁船団に多額の助成金を支払っている」と言う。
(5) 遠洋漁業への助成金は中国だけの問題ではない。EUもまた遠洋漁業への助成を再開した。国連のSDGsは、食料安全保障のために、こうした助成制度を速やかに停止するよう要求している。アジアだけでなく世界全体でこの問題への対処がなされなければ、そのうち食料品棚が空っぽになってしまうだろう。最も必要なことは、アフリカから南太平洋に至るまで、IUU漁業問題が深刻な関係各国の取り締まりと海軍の能力強化にもっと力を注ぐことである。
記事参照:CHINA'S IUU FISHING FLEET A GROWING THREAT TO GLOBAL FOOD SECURITY

3月17日「北朝鮮・南浦港で怪しげな荷動き―韓国・北朝鮮問題専門家論説」(Asia Maritime Transparency Initiative, CSIS, March 17, 2022)

 3月17日付けのCSISのウエブサイトAsia Maritime Transparency Initiativeは、北朝鮮の制裁逃れについて調査を続けているLeo Byrneの“SUSPICIOUS CARGO AT NAMPHO: NORTH KOREAN SMUGGLING GOES DOMESTIC”と題する論説を掲載し、そこでByrneは2020年末から2021年の衛星写真を利用し、北朝鮮がミサイルを運搬している可能性や、自国船を利用した制裁逃れ活動を続けている可能性があるとして、要旨以下のように述べている。
(1) 2020年末、北朝鮮最大の港湾である南浦で撮影された衛星写真に、小型貨物船の上にミサイルのような物体が搭載されていることが確認された。それが本当にミサイルなのかどうかは、高解像度のより高い画像でなければわからない。それ以外の可能性として、北朝鮮が制裁対象の工業設備や機械を、小型で未登録の、追跡困難な船舶で輸入しているとも考えられる。
(2) 貨物船上で確認された対象物は、上甲板上の大型構造物の一部あるいはシステムの一部とは思われないにもかかわらず、甲板余積のかなりの部分を占めている。もし、対象物がミサイルであれば、当該貨物船はミサイルを輸送中なのか否かというさらなる疑問が提起される。あるいはミサイルシステムが貨物船に装着されているのであれば、北朝鮮は最近、鉄道からのミサイル発射にかなり強い関心を示していることを考えれば、不可能ではないが、有りそうもない筋書きである。ただし、同じ船を後日撮影したと思われる、より高解像の写真には、ミサイルらしき円筒状の物体は写っていない。このことは、ミサイル(らしき物体)がただ船で運ばれていただけの可能性を示唆している。
(3) 高解像度の写真でないと断定は難しいが、対象搭載品がミサイルではなく、制裁対象の物品を運搬していた可能性もある。実際のところ、写真が撮影された2020年末、北朝鮮は、未登録のはしけを使って制裁対象の品々を密輸していた。また以前には石炭の輸出のためにそうした船舶を利用していた。そうした船舶に関する特徴や情報がほとんどないため、その活動を追跡するのが困難なのが実情である。同時期に撮影された別の衛星写真は、おそらくそうしたはしけが制裁対象品を運搬しているところを写している。
(4) ミサイルらしき物体を運んでいた小型貨物船は、そうしたはしけと伝統的な貨物船の双方の特徴を備えている。つまりある程度外洋に適した尖った船首や屋根付きの船倉を備えつつ、救命ボートなどがないのである。単なるはしけを利用するよりは、重要な積荷を運搬するのに安全ではあろう。ただし、この小型貨物船は北朝鮮の船ではない可能性が高い。
(5) 北朝鮮によるこうした制裁逃れの手法はうまくいっていたと言ってよいだろう。しかし国連のPanel of Expertsの報告によれば、未登録船舶を利用するという手法は2021年には劇的に減ったということであるが、その報告は、外国のはしけについてのみ言及しているのかどうかをはっきりさせていない。また、外国籍のタンカーが北朝鮮の港に直接寄港することがなく、西海閘門の外側で待機するようになったという報告もある。
(6 ) 2021年前半に撮影された衛星写真は、西海閘門の内側に小型船が存在していることを示している。そして、その後に撮影された写真はそれらの船の船尾に何らかの覆いがつけられるなどの改修が施されている様子を写している。これらは、北朝鮮が制裁対象商品を運搬するのに自国船を改造して活用していることを示している。
記事参照:SUSPICIOUS CARGO AT NAMPHO: NORTH KOREAN SMUGGLING GOES DOMESTIC

3月20日「インド洋における日本の課題―インド専門家論説」(SITUATION REPORTS,
Geopolitical Monitor, March 20, 2022)

 3月20日付のカナダ情報誌Geopolitical Monitorのウエブサイトは、インドのシンクタンクThe National Maritime Foundation研究員Jay Maniyarの “Japan’s Indian Ocean Dilemma”と題する論説を掲載し、Jay Maniyarは日本がインド洋で直面している課題について、要旨以下のように述べている。
(1) 日本は、安全保障領域において地域的そして世界的に重要な行為者であり、アジア大陸の沿岸域において予想以上に大きな影響力のある役割を果たしてきた。日本のインド洋戦略については、広大なインド洋地域全域よりも、インド洋沿岸諸国に対するより焦点を絞った対応が望まれる。たとえば、インドは精製石油やその他の再生不可能エネルギー商品を日本に輸出している。このことは、日本の増大するエネルギー需要を賄うために、原油輸入の90%近い供給源である遠隔の中東地域ばかりではなく、比較的近い南アジアにも目を向けさせるという点で、日本政府にとって独特なエネルギー状況を作り出している。日本は、南アジアとモーリシャスやモルディブなどのインド洋に所在する島嶼国家という限定された地理的視点から、海洋面積世界第3位のインド洋を見るべきである。
(2) 日本は、インド洋における包括的な存在の重要性と、日本のより穏健な構想のいくつかに安全保障の要素を加えるべき必要性とを引き続き強く認識している。日本の資金提供によるベンガル湾における港湾ネットワークとそれらの連結性の整備、インド領のアンダマン・ニコバル諸島における開発支援、そして四面環海のスリランカにおける日印共同事業などは、インド洋における日本政府の経済面における存在の基盤を成している。さらに、インド洋は、石油が豊富なアラビア湾岸地域からの日本へのエネルギー輸送を担う重要な海上交通路が通っている。この海上交通路がどの程度まで安全かは依然、重大な問題であり、日本の政策立案者にその代償を強いてきたものである。インド付近の海域は、1999年に発生した日本の船主が運航するパナマ籍船MV Alondra Rainbow 号のハイジャック事案のような海上テロや密輸、人身売買などの他の非伝統的な安全保障上の脅威に対して脆弱である。
(3) このように、インド洋は、日本がその海洋資源を集約し、迅速に足場を築くには容易な場所ではないかもしれない。中国は今後、ますます海軍力を強化し、外洋海軍を実現し、そしてその海洋能力をインド洋に投射しようとするであろう。中国政府は既に、ベンガル湾における展開を確立するために、相当な時間と資源を投資してきている。このことは、日本のインド洋における長期展開が呼び水となった可能性がある。これは、日本が新たに見出したインド洋における地政学的利益、特に安全保障に関連する利益に対する中国政府の理解に基づくものであろう。したがって、日本は地域の安全保障責任を担うという日本の長年の願望がより負担の大きい、遅々たるものにさせられかねないという、独特なジレンマに直面している。
(4) ジブチにおける日本の本格的な海軍基地のようなインド洋における日本の本格的な海軍力の展開が実現すれば、それ自体が非常に憂慮すべき古典的な安全保障のジレンマを引き起こすことになろう。インド洋東部は日本と中国に近いため、この海域に対する両国の取り組みは、インド洋西部地域とは大きく異なったものになる可能性が高い。したがって、インド洋は日本や中国などの世界の主要国がそれぞれの存在の範囲と内容を拡充しようと努めるにつれ、息詰まるような長期にわたる抗争地域となっていく可能性がある。中国を視野に入れた少国間主義は、インド太平洋を主眼とする4カ国安全保障対話(以下、QUADと言う)を構成する米国、日本、インド及びオーストラリアの海軍力によって牽引されている。QUADは、構成4カ国がインド政府の影響力の及び海域内で非公式なMALABAR演習を実施しているように、インド洋も重視している。日本政府にとって、インド洋戦略は差し迫ったものではないが、厄介な安全保障のジレンマにつきまとわれており、しかも多くの戦略的課題が立ちはだかっている。結局、これらの解決には、日本の指導部による賢明な政策決定が不可欠であろう。
記事参照:Japan’s Indian Ocean Dilemma

3月20日「コロンボ安全保障会議の成功のために何をすべきか―シンガポール情報専門家論説」(The Diplomat, March 20, 2022)

 3月20日付のデジタル誌The Diplomatは、シンガポール企業の情報調査員Balachander Palanisamyの“How the Colombo Security Conclave Can Avoid SAARC’s Fate”と題する論説を掲載し、そこでPalanisamyは2022年3月初めに開催されたコロンボ安全保障会議に言及し、同会議が近年存在感を増しつつあるとしながら、さらなる成功のためにはそれが対中国包囲網のような存在になるべきではないとして、要旨以下のように述べている。
(1) 2022年3月初め、コロンボ安全保障会議(The Colombo Security Conclave:以下、CSCと言う)がモルディブで開催され、インド洋における海洋安全保障などに関する協力について前進することで合意された。元々の構成国はインド、スリランカ、モルディブであったが、今回モーリシャスが正式メンバーとして参加することになり、さらに次回には今回オブザーバー参加であったバングラデシュが正式メンバーになると予測されている。この傾向は、CSCが制度化されつつあることを示している。
(2) 制度化されたCSCが成功する可能性はあるが、他方で、インドがそれを中国に対抗するために利用するのであれば、南アジア地域協力連合(SAARC)と同じ失敗の運命をたどることになろう。SAARCが失敗した理由の1つは、インドとパキスタンという2国間の関係の悪さゆえであった。CSCの場合、インドと中国の2国間関係が影響を与える可能性がある。インドは、中国との間に領土係争を抱える一方で、他のインド洋諸国は中国と比較的良好な関係を築いている。2021年8月に中国共産党系メディアのGlobal Timesのオピニオン欄は、CSCの拡大に慎重になるようにインド洋諸国に警告している。
(3) 2021年に開催されたCSCは中国から強い批判を招いたが、今回の会合はそうではなかった。なぜなら会合の焦点が地域の安全保障強化のための協力、具体的には海洋安全保障やテロへの対抗、密輸や組織犯罪への対抗、サイバーセキュリティなどに当てられたためである。
(4) CSCが成功しているかどうかはまだはっきりしないが、存在感を増しつつあるようには見える。2021年11月には、インド、モルディブ、スリランカの海洋安全保障機関による合同での活動が実施された。CSCがさらに成功するためにインドがすべきことは、隣国への支援を提供できるだけの行動能力を強化することである。インドは人道支援の分野では功績を残しているし、最近ではモルディブ大統領Ibrahim Solihがワクチン提供や財政支援について感謝の意を表明した。こうした非伝統的な安全保障分野に焦点を当てれば、さらなる地域協力につながるであろう。
(5) インドはまた、隣国とのいざこざを避けるために、インド洋が「国際公共財」に発展しつつあることを認めるべきである。インドはインド洋を自国の勢力圏と認識し、他国の展開には、インドの安全保障を弱体化させるものだとして批判的であった。実際に、中国がインド洋において存在感を増しつつある。特に中国とスリランカ、そしてモルディブとの間では経済的、軍事的な協力が進められているし、ジブチには初めての海外基地を有している。インドはいまや、インド洋をとりまく環境が変容していることを理解し、より柔軟で寛大な取り組みを採用するほうが良い。
(6) インド洋において、安全保障の問題や不確定要素が増大していることを考慮すれば、周辺諸国との間の協力は必要なことである。CSCは、それがもし中国の影響力拡大に対抗しようとするものでなければ、成功する可能性は大きくなるであろう。中国とインドの間で釣り合いを取るようなスリランカやモルディブなどの国は、CSCが対中国同盟になるような危険を犯さないだろう。
記事参照:How the Colombo Security Conclave Can Avoid SAARC’s Fate

【補遺】

旬報で抄訳紹介しなかった主な論調、シンクタンク報告書
(1)Three Critical Defense Reallocations for U.S. Strategic Competition with China
https://thestrategybridge.org/the-bridge/2022/3/15/three-critical-defense-reallocations-for-us-strategic-competition-with-china
The Strategy Bridge, March 15, 2022
By H. Brandon Morgan, a U.S. Army Officer and a non-resident fellow at the Modern War Institute
 3月15日、米陸軍将校で米シンクタンクModern War Instituteの非常勤研究員H. Brandon Morganは、戦略安全保障関連組織The Strategic Bridgeのウエブサイトに、“Three Critical Defense Reallocations for U.S. Strategic Competition with China”と題する記事を寄稿した。その中で、①米政府にとってユーラシア大陸で害悪を及ぼす覇権国の台頭を阻止することは中心的な防衛目標であり、米政府は中国が覇権を確立し得る戦略的課題として認識している。②米軍は、予算配分に適応性がないことを認識しており、連邦債務、COVID-19、気候変動及び競合する戦略的優先事項の課題により、予算は膨張する課題に対応するのに苦労さえしている。③中国の台頭という課題に対応するために、U.S. Department of Defenseは、第1に陸軍の現役兵力を削減し、中国海軍の増強に対応するために海軍の造船計画に資金を提供する。第2に、U.S. Department of Defenseは軍事・海軍の資源を中東からインド太平洋に転移させる。第 3 に、U.S. Department of Defenseは、見返りの疑わしい軍拡競争への傾向を再考し、中国との競争において、全ての軍事兵器と政治的権力を計画し、統合することができる機関に再投資するという3つの配分を実行すべきである。④U.S. Department of Defenseは、3 つの資金配分を統合された政府全体の取り組みの柱として機能させ、国力のすべての方策を活用し、軍事力の再配分の効果を有意義に適用しなければならない。⑤さらにU.S. Department of Defenseは、同盟国、提携国、多国間機関との協力に開かれたものでなければならず、U.S. Department of Stateや同盟国の努力に同期しない米軍は、必然的に自らにとってより犠牲の大きい取り組みを強いることになる、といった主張を行っている。

(2)Russo-Ukraine Conflict - View from the Black Sea and Eastern Mediterranean
https://www.vifindia.org/article/2022/march/17/russo-ukraine-conflict-view-from-the-black-sea-and-eastern-mediterranean
Vivekananda International Foundation, March 17, 2022
By Shashank Sharma, a Senior Fellow at the Vivekananda International Foundation
 2022年3月17日、インドのシンクタンクVivekananda International FoundationのShashank Sharma主任研究員は、同シンクタンクのウエブサイトに" Russo-Ukraine Conflict - View from the Black Sea and Eastern Mediterranean "と題する論説を寄稿した。その中でSharmaは、冒頭で2022年2月24日、Putin大統領がウクライナに対して、空港や軍司令部を攻撃する「特別軍事作戦」を開始したことに触れ、その中で、南方すなわちクリミアから開始された軍事作戦は、陸と空での作戦行動が中心で海軍の動きについてはあまり注目されていないが、実際には関連しており、ウクライナ南部戦線の推進は、戦略的に同国を海から切り離し、クリミア、ドネツク、ルハンスク、ドンバスなどとロシア本土との陸橋を提供することを目的としている、などと指摘している。その上でSharmaは、今回のロシアのウクライナ侵攻とそれに対するNATOの行動、その中でも特に海軍に関して、陸上ではロシアとNATOの陸軍は互いに物理的に離れており、ポーランドとの国境が最も近いものの、互いに攻撃する態勢にはないが、海上では海軍同士の誤判断、不慮の事故、誤解があれば、急速に事態が拡大する可能性があるため、地中海東部での海軍同士の対立の可能性が高くなると指摘し、NATOとロシアの強力な海軍部隊が地中海東部、北海、大西洋に展開しているため、海上での事態拡大の危険性は、おそらく陸上でのそれよりも重大な割合を占めており、海上の状況は、細心の注意と成熟した冷静さをもって対処しなければ、破壊的な結果を招きかねないと警鐘を鳴らしている。

(3)Lost at Sea: The Dangerous Decline of American Naval Power
https://www.foreignaffairs.com/reviews/review-essay/2022-02-22/lost-sea?utm_medium=newsletters&utm
Foreign Affairs.com, March 17, 2022, March/April 2022
By Kori Schake, a Senior Fellow and Director of Foreign and Defense Policy Studies at the American Enterprise Institute
 2022年3月17日、米シンクタンクThe American Enterprise InstituteのKori Schake主任研究員は、米Council on Foreign Relationsが発行する外交・国際政治専門の隔月発行誌Foreign Affairsのウエブサイトに" Lost at Sea: The Dangerous Decline of American Naval Power "と題する論説を寄稿した。その中でSchakeは、米国は長年、中国がより繁栄すれば、より民主的で、かつ政治的にリベラルになるだろうという宗教に近い信念にしがみついてきたが、北京の権威主義的な政権がこの理論を否定した今、ますます好戦的になる中国の迫り来る脅威に対処するため、多くの論者は認識していないことだが、中国と米国の間の争いは、次第に海軍力の争いになっていくだろうと指摘している。その上でSchakeは、米国が海の憲法とも言われる国連海洋法条約(UNCLOS)の重要性と遵守を叫びつつも自らはこれに加わろうとしない姿勢を批判的に取り上げ、さらに、米国内で海軍力への関心が薄れつつあることは、同盟国や提携国に誤ったメッセージを送ることになると指摘し、もし米国が国際秩序の規範を設定し、その規範を維持し続けたいのであれば、「海に背を向けてはならない(never turn your back on the ocean)」という古くからの忠告に耳を傾けるべきであると主張している。