海洋安全保障情報旬報 2022年3月21日-3月31日

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3月21日「ロシアのウクライナ侵攻で北極評議会が凍結、中国の氷上シルクロードはどうなる―香港紙報道」(South China Morning Post, March 21, 2022)

 3月21日付の香港日刊英字紙South China Morning Post電子版は、” What next for China’s Polar Silk Road as Russian invasion of Ukraine sparks Arctic freeze?”と題する記事を掲載し、北極評議会は議長国ロシアへのボイコットで、その活動が凍結される中、今後の北極の開発における中国とロシアの関係について、要旨以下のように報じている。
(1) Arctic Council(北極評議会)8ヵ国のうち、現在の議長国ロシアを除く米国、カナダ、フィンランド、デンマーク、アイスランド、ノルウェー、スウェーデンの7ヵ国は、3月3日の共同声明により、主権と領土の一体性という評議会の基本原則に対するロシアの明白な違反を理由に、今後ロシアで開かれる会合も含めてボイコットを表明した。1996年に設立された北極評議会は、資源管理、保全、汚染、気候変動による極地の氷の融解の影響など、北極圏に影響を及ぼす諸問題について協力、連携、交流を促進するものである。中国は北極圏に属さないが、他の12ヵ国とともにオブザーバーとして参加している。近年、中国は戦略的な提携国ロシアとこの地域での協力を強化しており、氷の融解により新しい航路が開かれることから、中国はこれを「氷上シルクロード」と名付けている。
(2) ノルウェーのUniversity of Tromso准教授Marc Lanteigneによれば、議長国ロシアは単独で会議を進めるとしているが、北極圏では、気温の上昇、永久凍土の減少、高緯度での森林火災など、環境危機が深刻化しており、このような問題に対処するための主要な組織として、北極評議会が存在していたのであって、ボイコットは北極圏と非北極圏の政府間の地域協力に影を落とすとされている。
(3) 北極圏は、ロシアと西側諸国間の大陸間弾道ミサイルや核兵器搭載の長距離爆撃機の最短飛行経路となっており、安全保障上大きな意味を持っているため、ロシアと西側諸国の外交的断絶が引き金となって、軍事力の展開が増大するのではないかとの懸念が高まっている。3月14日、NATOはフィンランドとスウェーデンを含む27ヵ国、約3万人の兵士が、ノルウェー主導で年2回行われる極寒演習「コールドレスポンス2022」へ参加することを明らかにした。例年とは異なり、ロシアはオブザーバー派遣を拒否している。同日、カナダと米国は、北米の脅威となる航空機と巡航ミサイルの両方への対処能力を検証するため、カナダ北極圏で防空作戦を開始すると発表した。どちらの演習もロシアによるウクライナ侵攻とは無関係であるが、現在の地政学的情勢の中で、大きな意味を持つものとなっている。これについて、Lanteigneは「北極圏がバルカン半島化すれば、国家レベルの安全保障が損なわれるだけでなく、環境、開発、先住民問題、コロナ後の健康問題、通信・輸送計画など、地域の関心事が脇に追いやられる」と警告している。
(4) 2021年、アイスランドから2年間の北極評議会議長国を引き継いだロシアは、極地における西側諸国との安全保障協力の復活も視野に入れていた。それには、2014年にロシアがクリミアを併合して以来、停止、もしくはロシア抜きで開催されている北極圏国防大臣会議や北極圏安全保障部隊の会議が含まれる。しかし、中国政府系機関の上海国際問題研究所上席研究員趙隆によれば、ロシアは北極海沿岸の半分以上を支配し、北極圏に住む人の約半数にあたる200万人がこの地域に住んでいることから、気候変動、環境保護、土地問題から経済開発まで、さまざまな課題を進めるのに、ロシア抜きで北極評議会を運営することは難しいと述べている。
(5) 他の多くの非北極圏諸国と同様に、中国も北極評議会を通じた北極圏ガバナンス活動においてより大きな役割を求めており、4年前に「近北極国家」であると宣言している。世界第2位の経済大国である中国は、気候変動に伴う資源の豊富なこの地域での経済発展の機会も狙っている。2018年に初めて公式な北極白書で紹介された中国の「氷上シルクロード構想」は、北極圏を通じて東アジア、西ヨーロッパ、北米を結ぶ新たな貨物輸送路を作るというもので、科学、環境、資源採掘の取り組みも対象となる。これは一帯一路構想の一部でもある。
(6) 2022年2月、習近平国家主席が北京でロシアのPutin大統領と会談した際に発表された共同声明では、「北極における持続可能で実際的な協力」を深めることで合意し、各国が北極航路の開発で協力するよう求めている。これについてLanteigneは、次のように指摘した。
a.ロシアと欧米の緊張が高まるにつれ、北極圏諸国が戦略的優位性と資源を争うようになり、中国や他の非北極圏諸国がこの地域から押し出される可能性がある.
b.氷上シルクロードは、北極圏がより開放的になることを前提に案出されたもので、北極圏がロシアと欧米の間で分断されれば、中国は北極外交においてより保守的な取り組みを採らざるを得ない。
(7) 一方で中国科学院大学の徐慶超准教授は、次のように述べている。
a.北極評議会の一時的な活動凍結は中国の北極圏戦略には影響しないだろう。
b.オブザーバーである中国は、評議会の意思決定プロセスにおいて実質的な役割を担っていないし、8ヵ国間の関係は、中国の北極圏への関与に直接的な影響を与えない。
c.ロシアと協力しなくても、他の北極圏諸国は独自の北極圏ガバナンスを継続する。
d.ロシア抜きで北極の議論が進められることはない。
(8) ロシアFar Eastern Federal UniversityのArtyom Lukin准教授は、北極評議会は経済や困難な安全保障問題とはあまり関係がなく、ロシアと中国が北極問題を含む戦略的な提携関係の中で優先させるものだと述べた。
(9) 山東大学政治学与公共管理学院のSerafettin Yilmaz(中国名:姚仕帆)准教授は、中国は北極圏において従来の控えめだが積極的な政策を継続する一方で、北極評議会の崩壊などさらなる状況に備える可能性があると指摘した。
(10) 趙隆は、さらに次のように述べている。
a.ウクライナへの侵略者としてモスクワを孤立させるという西側諸国の前例のない制裁を考慮し、北極圏における中国のロシアへの協力は厳しく監視されるだろう。
b.科学的共同研究計画は延期されるかもしれないし、中国が約30%所有するロシア北部のヤマルLNGプラント計画は、利害関係者のフランス、日本、韓国が米国主導の対モスクワ制裁に加わったため、中断されるかもしれない。
c. 中国の事業者が氷上シルクロードの北海航路で運ぶ貨物のほとんどは、ヨーロッパに向かっているので、中国企業は、起こりうる巻き添え被害や政治的危険を回避する方法を真剣に検討する必要がある。
d.中国がロシアとの北極圏協力を推進し続ければ、ロシアによるウクライナにおける軍事作戦や北極圏の軍事化に対する支持者というレッテルを貼られる危険性もある。
e.ウクライナ紛争による政治的・経済的危険を回避しながら、いかにして正常な協力関係を維持するか、これは中国が考えなければならない問題である。
(11) 一方でLukinは、次のように述べている。
a.ウクライナの戦争は北極圏におけるロシアと中国の協力関係を強化することになる。
b.欧米の資本や技術からほぼ完全に切り離されたロシア政府が、大規模な北極圏開発計画を進めるには、輸送、資源採掘、統治インフラに巨額の投資を必要とするため、中国以外に頼れる国はいない。
c.ロシアは中国にとって、理想的な提携国であることに変わりはない。
d.カナダ、米国、ノルウェーなどの西側北極圏諸国は、中国の意図をさらに疑うようになる。
e.ロシアは、中国に対する地政学的依存度が高まり、北極圏における中国の存在を歓迎するようになる。
(12) Yilmazは、急増する世界的なインフレを緩和する圧力も、北極航路、特にロシアの海岸線に沿った北極海航路を、中国とその貿易相手国の双方にとって「より望ましい選択肢」にする可能性があると指摘している。
記事参照:What next for China’s Polar Silk Road as Russian invasion of Ukraine sparks Arctic freeze?

3月21日「台湾はインド太平洋のウクライナではない、ベトナムを注視せよ―米専門家論説」(Nikkei Asia, March 21, 2022)

 3月21日付の日経英文メディアNIKKEI Asia電子版は、米シンクタンクRAND Corporation上席防衛アナリストDerek Grossmanの “ Taiwan Isn't the Ukraine of the Indo-Pacific. Try Vietnam Instead”と題する論説を掲載し、Derek Grossmanはインド太平洋のウクライナは台湾ではなく、むしろベトナムを注視すべしとして、要旨以下のように述べている。
(1) 東欧におけるロシアの戦争は、インド太平洋の安全保障ウォッチャーに、ウクライナの苦境と中国に対峙する台湾のそれとを類推するよう促した。確かに、ウクライナと台湾はともに修正主義的で権威主義的な隣国と対峙する民主主義国家であるが、ロシアのプーチン大統領はウクライナを主権国家とは見ておらず、中国の習近平主席も台湾を単なる反逆の省と見、「再統一」すべきと主張している。しかしながら、これらの顕著な類似点を除けば、ウクライナと台湾は全く環境が異なる。より適切な類推としては、ベトナムが挙げられるであろう。
(2) ベトナムは、特に南シナ海における領有権主張の重複を巡って、中国からの高まる圧力に晒されている。中越両国間では、海洋における時に熾烈な小競り合いが起きている。海洋での衝突がここ何十年も平穏であった両国国境に飛び火する可能性は、考えられないことではない。むしろ、このような筋書きは、台湾侵略よりも緊迫性が高い。ベトナムは、いかなる大国や同盟網とも安全保障同盟を結んでいない。冷戦終結以来のベトナム政府の非同盟外交政策は、中国がより強い国からの報復を恐れることなく対越攻撃に踏み切る可能性があることを示唆している。近年の米越関係は隆盛だが、米政府とベトナム政府の「包括的」提携は、ベトナムの位置付けでは最も低次の提携である。ソ連崩壊後、ベトナムは、ロシアとは安全保障同盟関係でさえない。こうした環境から、ベトナムは、南シナ海紛争で真に自立した立場に置かれている。台湾も米国や他の大国と同盟関係にあるわけではないが、1979年の台北との外交関係断絶以来、米国の歴代政権は、台湾関係法の下で台湾に対して防衛に必要な武器を供与してきた。更に、2021年10月には、Biden大統領は、中国が台湾に対して軍事攻撃を仕掛けた場合、米国は台湾を防衛する用意があると、2度も発言した。ベトナムはそのような期待を抱くことはできない。
(3) ベトナムも、ウクライナと同様に、これまでより大きな隣国から攻撃を受けてきた。中国は、1974年に(当時の)南ベトナムから西沙諸島の一部を奪取し、ベトナムが共産主義の下で再統一された後も、返還を拒否してきた。更に、1979年には、中国軍は中国が支援するクメール・ルージュに対抗してカンボジアに介入したベトナムに対して、「教訓を与える」ためと称して侵攻してきた。ベトナムのソーシャルメディアは、ウクライナ戦争が始まってから、1979年との類似点を強調して賑わった。ある最近の論評によれば、ベトナムを中国の完全侵略から救った唯一の理由は、当時の核保有国、ソ連との今は亡き同盟であった。中国政府は、ベトナムに対して軍事的選択肢を行使し続けてきた。この10年間、中国は、南沙諸島の人工島に軍事基地を建設し、西沙諸島に軍隊を配備してきた。中国は今日、世界最大の海軍と、この地域最大の海警総隊と海上民兵を保有しており、現在、係争海域を定期的に哨戒し、紛争相手国の部隊を退去させている。3月上旬、中国軍は恐らく墜落した戦闘機を回収するための作戦を、ハノイの許可なくベトナムのEEZ内で実施した。一方、中越陸上国境では、2021年にミサイルとヘリコプター基地と見られる、少なくとも1ヵ所、おそらく2ヵ所の基地が設置された。2021年に可決された中国の新しい陸上国境法は、中国国境周辺での武力による積極防衛を奨励しており、これらの基地から出動する中国軍部隊が、ベトナムに対してさらなる圧力をかける権限を付与されている可能性がある。
(4) 他方、台湾もまた増大する脅威に直面しており、特に中国軍戦闘機が台湾の防空識別圏の周辺飛行や侵入を繰り返している。しかしながら、中国は、国民党政府が台湾に逃れた1949年以降、台湾に対して直接的な軍事行動を取ってこなかった。両岸関係が平穏だったわけではないが、それでも、中国政府は台湾島自体に対する軍事行動については自制してきた。しかし、ベトナムについては、同じことは言えない。中国は恐らく、通常戦力による紛争では、ベトナムを容易に打ち負かすことができると期待しているであろう。中国は、弾道ミサイルや巡航ミサイル、爆撃機、戦闘機、潜水艦、水上戦闘艦艇、およびその他の分野で、ベトナムに対して圧倒的な軍事的優位を維持している。3月初めに発表された中国の国防予算は対前年比7.1%増の約2,300億ドルで、ハノイの推定70億ドルのそれと比較して、少なくとも32倍の規模である。さらに、中国は軍の専門化、特に各軍種間の連携を強化し、習近平主席の指導に従って人民解放軍を最終的に「世界クラス」の軍隊にするために継続して投資してきた。ベトナムは、あらゆる尺度から見て中国に大きく遅れをとっている。
(5) 対照的に、台湾は中国政府の征服意図を困難にする、安価な非対称的防衛能力の調達や開発に多額の投資を行ってきている。台湾は、地対空ミサイルや対艦巡航ミサイルも保有している。台湾はまた、2021年に66機のF-16V戦闘機を購入するなど、米国から高度な兵器システムを調達するための数十年にわたる支援の恩恵を受けている。台湾は、全軍種の連携と、海空領域での戦闘遂行能力を強化することを最優先している。しかし、ベトナムはそうではない。したがって、統合作戦能力が損なわれている。地理的にも、台湾を征服することは、恐らくロシアによる陸続きのウクライナ侵略よりもはるかに困難であろう。中国は、台湾に対する水陸両用上陸作戦を成功裏に実施しなければならず、台湾海峡を通過する際には揚陸部隊は脆弱になる可能性がある。他方、ベトナムと中国との陸上国境はウクライナと同様、特に厳しい地形上の課題を提示していない。
(6) 完璧な類推はあり得ないが、ロシアのウクライナ侵略から中国の台湾侵攻を類推するのは、大きな欠陥がある。むしろ、南シナ海での事案が陸上でのより大きな紛争に拡大する、中国とベトナムの紛争の筋書きの方がより適切であるように思われる。
記事参照:Taiwan Isn't the Ukraine of the Indo-Pacific. Try Vietnam Instead

3月24日「大陸国家に戻るべきか、海洋国家としてさらに進むべきか:中国のロシアジレンマ―米専門家論説」(South China Morning Post, March 24, 2024)

 3月24日付の香港日刊英字紙South China Morning Post電子版は、US Naval War College歴史学教授Bruce Ellemanの“China’s Russia dilemma is also a land vs sea power predicament”と題する論説を掲載し、Bruce Ellemanはロシアのウクライナ侵攻という事態に中国がどのように対処するのか、ロシアを支援してこれまでの大陸国家に戻るのか、海洋国家として国際社会との協調を深めるのかを中国は決定しなければならないとして、要旨以下のように述べている。
(1) 中国は今まさに重要な決断に直面している。すなわち、ロシアを支援するか、否かである。ウクライナを支配しつつあるPutin大統領を支援することは、中国の大陸国家としての利益であり、世界経済の最も重要な国になることを含め、新たな世界の海洋国家に中国が移行していくことを阻害するだろう。もし、習近平がPutinを後押しすれば、中国の近い将来に西側の制裁、関税、商業上の封鎖さえも待ち受けているかもしれない。
(2) 中国は長く世界最大の大陸国家と考えられてきた。戦闘は主に陸上戦闘に限られてきた。孫子の兵法は、川の流れが戦略にいかに影響するかを述べているが、洋上における戦闘について言及していない。天安門事件、ベルリンの壁崩壊、1991年のソ連の崩壊後、米中関係は一層、緊張するようになってきた。ロシアは素早く介入し、中国にソブレメンヌイ級ミサイル駆逐艦、キロ級潜水艦を中国に売り込んでいった。中国は、ソ連時代の技術の基づく艦艇を建造している。
(3) 近年、中国は大陸国家から海洋国家への移行を加速してきている。近代化努力の結果、中国海軍はその活動の地理的範囲、特に西太平洋に合致するよう装備されてきている。中国は伝統的に大陸国家であったかもしれないが、南シナ海、そしていたるとこでの中国の攻撃的な海洋政策は海洋に面する近隣諸国が中国との釣り合いを図るために日米豪印4ヵ国安全保障対話、いわゆるQUADとの協調を増やしてきている。
(4) 一方、米軍のアフガニスタンからの撤退、中央アジア全域でのロシアに対する制裁の連鎖反応によって、中国西部国境での圧力が高まり、中国政府が海洋国家から離れ、大陸国家に戻らせるかもしれない。
(5) 大英帝国の全盛期から今日まで海洋国家が世界秩序を確立し、大陸国家がこれに異議を申し立ててきた。この力学は間違いなく継続されている。Putinのウクライナへの攻撃は世界秩序に異議を申し立てる大陸国家の行動と見ることができ、ほぼ世界的な反感をもって迎えられている。中国政府は大陸国家の取り組みとしてPutinを後援するか、海洋国家として国際的な法的規範を支持する多国間枠組みの組織により多く加入することを通じ自由貿易、航行の自由、国際法の尊重を称揚する世界秩序により深く組み込まれるかを決定しなければならない。中国が「海洋国家」の枠組みに移行することは、国際システムを大幅に強化し、そうすることによってロシア政府の態度を変えるために海洋においてポジティブ・サムの取り組みを支持する国々の名簿が急速に増えていく状態を改善するだろう。
(6) 世界の注目がロシアのウクライナ侵攻に集中している中、潜在的に最も重要で、最も危険な将来の「太平洋の時代」において台頭する海洋力として中国が不気味に立ち現れている。一部の評論家は、米中間の戦争は避けがたいとさえ主張し、その他の者はこれに同意していない。
(7) 100年前の大日本帝国は今日の中国と同じ立場に立っていた。世界が平和裏に日本を国際的政治秩序に組み入れることに失敗した結果は悲惨なものであった。急速に台頭する中国と建設的で、永続する政治関係を構築することは、今日、米国が直面する最も重要な安全保障上の問題の1つである。
記事参照:China’s Russia dilemma is also a land vs sea power predicament

3月24日「北極圏における環境の変化について―米Congressional Research Service報告」(Congressional Research Service, March 18, 2022)

 3月24日付の米Congressional Research Serviceのウエブサイトは、“Changes in the Arctic: Background and Issues for Congress”と題する報告書要旨を掲載し、北極圏における環境の変化がもたらす影響について、以下のように報じている。
(1) 北極における氷の減少は、北極圏における人間活動の増加と、その地域の将来に対する関心の高まりをもたらしている。北極圏国家のひとつである米国は、その地域に並々ならぬ関心を抱いている。
(2) 1984年の北極圏研究・政策法は、北極圏の研究とそれに関する包括的政策を規定する。米National Science Foundationは、北極圏の調査・政策を遂行する主要な連邦政府機関である。1996年にはArctic Council(北極評議会)が設立されたが、北極圏に関わる問題に対処する主要な国際的討議の場である。国連海洋法条約は世界中の海における法と秩序の制度を定めたものだが、米国は批准していない。
(3) 北極圏における気候変動の影響は現在はっきりと観測されており、今後さらに温暖化などが進展すると考えられている。2019年の北極評議会のモニタリング・レポートが結論づけるには、「現在、北極圏の生物物理学的システムは明らかに20世紀の状況から遠く離れ、前例のない変化の時代に突入していることを示している。そしてそれは北極圏内外に影響を及ぼす」のである。
(4) 冷戦終結後、北極圏国家は北極圏における平和と安定のために協調をしてきたが、近年、米国・ロシア・中国の大国間対立ゆえに北極圏もまた地政学的競合の舞台となった。直近のウクライナ侵攻は、北極圏における米国やカナダ、北欧諸国とロシアの関係に大きな影響を及ぼした。
(5) US Department of DefenseとUS Coast Guardは北極圏に対する関心を増大させ続けてきた。両者が北極圏における米国の利益を擁護するための活動を十分に行っているかどうか、議会は監視する必要がある。2021会計年度において、US Coast Guardは現在計画されている3隻の砕氷船のうち2隻を調達するための予算を与えられた。
(6) 北極圏の氷の減少によって、北極海航路と北西航路の商業的利用が増えるだろう。しかし、報道されているほど劇的に増えるということはなさそうである。また、今後北極圏における石油やガス資源などの開発に関する調査が増えるかもしれない。ただし、これは環境汚染という問題を伴いうる。
(7) 北極圏における漁業について、米国は他国と共同で漁獲量調整を実施している。北極圏における環境の変化によって漁業資源が移動し、保護種に影響を及ぼす可能性がある。
記事参照:Changes in the Arctic: Background and Issues for Congress

3月25日「ロシアのウクライナ侵攻が東南アジアにもたらした副産物―フィリピン専門家論説」(Asia Maritime Transparency Initiative, CSIS, March 25, 2022)

 3月25日付のCSISのウエブサイトAsia Maritime Transparency Initiativeは、フィリピンPolytechnic University 研究者Richard Javad Heydarianの“FALLOUT: UKRAINE CRISIS UPENDS RUSSIA’S ROLE IN THE SOUTH CHINA SEA”と題する論説を掲載し、そこでHeydarianはロシアによるウクライナ侵攻の副産物として、同国が東南アジアに築いてきた戦略的足がかりを喪失する可能性が高いとして、要旨以下のように述べている。
(1) この20年間、ロシアは南シナ海において、目立たないが重要な役割を演じ続けてきた。ロシアは中国と親密であるにもかかわらず、東南アジアにおける中国のライバルであるベトナムやマレーシアに兵器を輸出し、フィリピンやインドネシアとの防衛関係の強化を模索してきた。それに加えて、西側の企業が中国との対立を恐れて南シナ海の係争海域における投資を縮小してきた一方で、ロシアはそれを拡大させてきたのである。東南アジアは本能的に大国間の競合において戦略的な釣り合いを取る傾向があるが、米中対立という環境においてロシアは、自国を「第三勢力」として売り込んできたのである。
(2) そうしたロシアの動きを、中国は概して黙認してきた。米中対立が高まるなかでロシアを自陣営に留め置きたかったためである。しかし、ロシアによるウクライナ侵攻はこうした状況を劇的に変えるかもしれない。すなわち、西側諸国の強力な制裁によってロシアは防衛やエネルギーに関する協定を今後結ぶことが困難になるであろう。それは中国への依存度を深め、それによってロシアは南シナ海への関与の縮小を余儀なくされるかもしれない。このことは、東南アジアにおける中国の勢力拡大につながるであろう。
(3) オバマ政権の「アジア重視政策」や中国の一帯一路政策については非常に多くの分析がなされてきた。他方で、ロシアの東(アジア)に軸足を置くことについてはこれまでほとんど見過ごされてきた。しかし、前二者のそれに比べて規模は小さかったが、ロシアによるアジアへの戦略的方向転換の重要性は大きなものであった。2012年のウラジオストクへの210億ドルの投資に始まり、ロシア国営ガス会社Gazpromと中国石油天然気集団との4,000億ドルにのぼる契約が、ロシアのアジア重視政策を華々しく飾ることとなった。
(4) ロシアはアジアとの貿易も拡大させてきた。2001年時点ではロシアとアジア諸国との貿易は380億ドルであり、ヨーロッパとの貿易の3分の1程度にすぎなかったが、2019年には、対アジア貿易は2,730億ドルと、対ヨーロッパ貿易の3,220億ドルに匹敵するまでに拡大した。それに加えて、クリミア併合を契機として、ロシアは東南アジアとの戦略的紐帯を深めていく。伝統的な同盟国のひとつであるベトナムは、この20年間でロシア製の兵器を74億ドル分も購入している。また、東南アジアの主要国であるフィリピンとインドネシアとの防衛関係も強め、ロシアはフィリピンに史上初めて駐在武官を派遣するに至った。エネルギー開発に関する関与も深め、ベトナムやインドネシアの開発を支援した。こうして、ロシアは、東南アジアにおいて中国と海の主権を争う国々を支援してきたのである。
(5) ロシアは、幅広い地域で共同軍事演習を実施するなどして、中国との関係にも気を使い、うまく釣り合いを取ってきた。しかし、ウクライナ侵攻という決断によって、ロシアはこれまで築いてきた東南アジアでの戦略的な足がかりを失い、南シナ海において重要な役割を演じることができなくなるかもしれない。東南アジア諸国はロシアの行動を恐れ、国連総会における対ロシア非難決議を支持した。また、西側によるロシアへの強力な制裁ゆえに、ロシアが東南アジア諸国との貿易や投資を維持するのは困難になるであろう。米国による制裁の可能性があるという段階ですでに、インドネシアとロシアの数十億ドル規模の兵器関連の契約がご破算になっている。実際に、こうした兵器取引が米国の制裁対象にならないという可能性はあまり考えられない。さらに、ロシアに対するさらなる制裁が、東南アジアにおけるエネルギー関連投資を困難にするであろう。
(6) こうした状況ゆえに、ロシアは今後中国に対する依存をますます深めていくだろう。実際、Anton Siluanov財務大臣を含むロシア政府高官らは、中国が最後の頼みの綱になると公言している。中国への依存が深まることで、中国は東南アジアにおけるライバルに対する兵器供与やエネルギー開発投資をやめさせるよう圧力をかけるようになるのではないか。ウクライナに世界の注目が集まるなか、中国がベトナムの排他的経済水域や大陸棚を含むトンキン湾の大部分を封鎖し、軍事演習を実施したことは何ら不思議なことではない。ロシアによるウクライナ侵攻は、こうして、東南アジアにおけるロシアの戦略的役割を減じ、対照的に中国の影響力拡大につながるであろう。
記事参照:FALLOUT: UKRAINE CRISIS UPENDS RUSSIA’S ROLE IN THE SOUTH CHINA SEA

3月27日「フィリピン沖で挑発的な行動を継続する中国漁船―フィリピンニュースサイト報道」(Inquirer Net, March 27, 2022)

 3月27日付のフィリピンニュースウェブサイトINQUIRER.NETは、“Aggressive acts by Chinese fishing boats continue in South China Sea”と題する記事を掲載し、200隻以上の中国漁船がフィリピン沖に集まってから1年経ったが、今でも中国漁船がそこで挑発的な行動を繰り返しているとして、要旨以下のように報じている。
(1) 東南アジアの外交筋によると、南シナ海のフィリピンの排他的経済水域(以下、EEZと言う)には、今も中国漁船が断続的に出入りしているとのことである。これらの問題になっている漁船は、実際の漁業活動を行っていないようである。フィリピン政府は2021年3月20日、南シナ海のフィリピンのEEZ内にあるパラワン島沖で、中国漁船約220隻が集結しているのを発見したと発表した。その後、これらの漁船には中国の退役軍人を中心とする「海上民兵」が乗船していると主張し、「フィリピンの主権領土を侵害している」と断じたのである。マニラは、外交ルートを通じて北京に繰り返し抗議している。しかし、中国側は、一向にEEZ内への侵入をやめる気配がない。ASEANと中国は、南シナ海での紛争を防ぐための行動規範を策定しているが、現時点では、ASEANと中国は行動規範をどこまで適用するかについて合意に至っておらず、行動規範がいつ完成するかはわからない。中国は、南シナ海での攻撃的な行動を拡大させている。
(2) フィリピンのAlbert del Rosario元外相は3月8日の声明で、「ロシアのウクライナ侵攻が成功すれば、中国は同様にフィリピンから西フィリピン海を武力で奪取することをさらに煽ることになるだろう」と述べている。元外務次官のLauro Bajaも同様に、「ウクライナで起きたことは、台湾で同じことをする機会や可能性などを与えるだろう」と強調し、南シナ海で類似の軍事活動が行われる可能性にも注意を促した。
(3) 5月に予定されているフィリピン大統領選挙では、前上院議員のFerdinand Marcos Jr.が最も高い支持率を得ているが、かつての独裁者Ferdinand Marcosの息子は中国に近いと広く考えられている。彼は、ハーグの仲裁裁判所が2016年に出した、南シナ海における中国の一方的な主権の主張を全面的に否定する裁定を真に受けないという考えを述べている。
記事参照:Aggressive acts by Chinese fishing boats continue in South China Sea

3月30日「中国、オーストラリアの裏庭に足場を獲得か―英公共放送局報道」(BBC News, March 30, 2022)

 3月30日付の英公共放送局BBCのウエブサイトは、“China gains a foothold in Australia's backyard”と題する記事を掲載し、中国とソロモン諸島の間で安全保障協定の締結に向けた議論が進んでいることについて言及し、安全保障協定が締結された場合の戦略的な影響について、要旨以下のとおり述べた。
(1) 中国と太平洋の島嶼国の1つ、ソロモン諸島との間で安全保障協定に関する議論が進められており、その協定の草案が先週末明らかになった(4月19日、この協定は正式に締結されたと発表された:訳者注)。それはとりわけ、ソロモン諸島の南に位置するオーストラリアの警戒を強めた。
(2) 漏らされた協定の草案は、中国がソロモン諸島に部隊を派遣し、海軍基地を建設できることを示唆している。内容の詳細ははっきりしないが、いかに小さなものだとしても中国が軍事基地を建設できるとなれば、それによって中国は太平洋において初めての足場を築くことになる。
(3) ソロモン諸島とオーストラリアの関係は長く、深い。オーストラリアはソロモン諸島にとって最大の経済支援提供者であり、唯一の安全保障の提携国である。ソロモン諸島に中国が経済的投資を通じて関与を深めていることに対して、オーストラリアが警戒していなかったわけではない。オーストラリアは「ステップアップ」政策によって、太平洋諸国への支援を強化し、中国の勢いを押し返そうとしてきたのである。しかし、中国がオーストラリアと同様の安全保障パートナーに格上げされるという事実は、Australian Institute of International AffairsのAlan Gyngell教授が述べるように、そうしたオーストラリアの政策が失敗に終わったことを意味する。
(4) ソロモン諸島のManasseh Sogavare首相は、中国と安全保障協定を結ぶ権限が自国にあることを強調した。草案の内容はかなり幅広いもので、それが各国の懸念を強めた。たとえば安全保障協定草案には、中国の艦船がソロモン諸島のどこに滞在できるかや、同国に滞在する中国人や中国の計画を保護するために部隊を派遣できる、などが書かれている。2021年、ソロモン諸島で起きた暴動を抑えるためにオーストラリアなどの兵士が派遣されたが、同様のことを中国が実施できる可能性を安全保障協定は示唆している。さらに、中国との協定は、これまでで唯一のオーストラリアとの安全保障協定よりも、幅広いものである。
(5) 中国とソロモン諸島の安全保障協定は、太平洋における勢力の均衡を変える可能性がある。オーストラリアはこの協定が「地域の安全と安定を損なう」可能性があるとし、ニュージーランドはより明確に「地域の軍事化の可能性」に反対した。
(6) 専門家によれば、オーストラリアの裏庭における中国の存在がもたらす脅威は、将来的な侵略というよりは、中国が情報収集や監視活動を強化できるようになるなど、より短期的なものである。中国の存在による問題は、それによって他国の出入りが拒否される可能性が高まることである。これまでオーストラリアや太平洋島嶼諸国は、安定した環境のなかで移動の自由を享受してきたが、今回の安全保障協定によってそれが失われる可能性がある。
記事参照:China gains a foothold in Australia's backyard

3月30日「中国とウクライナ戦争:中国は困難な立場を切り抜けるか―米専門家論説」(China US Focus, March 30, 2022)

 3月30日付の香港のChina-United States Exchange FoundationのウエブサイトであるChina US Focusは、アジア研究の教授であり米George Washington University 中国政策プログラム責任者David Shambaughの“China and the Ukraine War: Navigating a Difficult Position”と題する論説を掲載し、David Shambaughは中国のロシアに対する暗黙の支持が米国、欧州、NATOにとって深刻な懸念の源となっているが、中国の国民はウクライナがロシア軍に対して行っている抵抗については言論統制下にある国営メディアのため知らされていない状態であり、中国の国際的な信頼と評判は既に大きく損なわれており、これからも悪化するであろうとして、要旨以下のように述べている。
(1) ロシアとプーチン大統領による主権国家であるウクライナに対する侵略戦争は、中国を一連の非常に微妙で困難な立場に置いた。中国政府と習近平主席は、ロシア政府とプーチン、欧州/NATO/西側諸国、米国、ウクライナ、そして中国国内、それぞれに対して、一連の異なる利害関係を巧みに操り、うまく切り抜けなければならない。これらの利害関係はどれも中国政府にとって容易ではない。それぞれについて順番に調べてみる。
(2) プーチンとロシアに関して、習近平が冬季五輪開会前夜2022年2月4日に北京でプーチンと会談した際、プーチンが習近平に彼の戦争計画について語ったかどうかについて正確に知られることは決してないだろう。しかし、プーチンがそれについていくつかの兆候を示したと推測することは妥当である。もしそうしなければ、習近平がプーチンと構築したと主張する「堅固な」中ロ関係や、「最高の親友」という個人的関係と合致しないことになる。両首脳は2022年2月4日、北京で会談した際、5,000語を超える異例の共同声明に署名した。
(3) この長い声明は多くの専門家を驚かせた。声明は「友情」に「制限」がなく、「協力」に「禁止された領域」はないことを示している。全体として、共同声明は西側諸国、米国及び中ロが共同で「不当な(unjust)」世界秩序であると認識しているものに対する両国政府の不平不満の広範なリストが提供されている。中国側は、プーチンのNATOと冷戦後の中欧におけるNATOの東方への拡大に対する批判を支持しており、ロシア側は「台湾のあらゆる形態の独立」への反対を確認した。一部の専門家によって、欧米に対する多面的な攻撃のマニフェストと解釈されたこの共同声明は、ソ連崩壊以来、30年にわたって発展してきた中ロ関係の集大成である。それは本質的には、米国と世界中の民主主義的同盟諸国に対抗するための中ロのイデオロギー的な青写真である。
(4) 習近平とプーチンが北京で会談した際、彼らは中国がロシアから1,175億ドルの石油と天然ガスを購入する契約にも署名した。それは2015年の640億ドルから2021年には1,469億ドルに倍増しており、中ロ2国間貿易における過去最高額となった。しかし、プーチンのウクライナに対する厚かましく残忍な軍事侵略は、習近平と中国をロシアの提携国として非常に困難な立場に置いた。侵略が始まってからの1ヵ月、中国政府はまだロシアの侵略を公然と非難していない。具体的に非難しないことは、中国政府がロシアと共謀し、ロシアを支援し、ロシアの侵略を認めていることの明確な兆候と見なされている。それどころか、様々な中国政府当局者や報道官が、敵対行為の停止と人道的救済の提供を呼びかけ、中国自身は長年にわたり、大切にしてきた平和共存の五原則への忠実さを主張するこじつけの言葉を連ねて口先で180度異なる姿勢を示しているが、プーチンの戦争を全面的に非難する意思がない。侵略を非難しないことは、侵略を支持することであるという見解が世界中に広がっている。3月2日に開かれた国連総会で、ロシアのウクライナ侵攻を非難決議が国連加盟193ヵ国中、141ヵ国の賛成で採択されたが、5ヵ国が反対し、中国はロシア棄権した35ヵ国の1つであった。2022年3月16日、国際司法裁判所がウクライナに対する「軍事行動の即時停止」の暫定命令を出すに当たって、15名の裁判官の内ロシアと中国の裁判官が反対票を投じている。
(5) ロシアに対する中国の暗黙の支持は、米国、欧州、NATOや、欧米全般にとって、深刻な懸念の源となっている。さらに悪いことに、米国の諜報機関は、ロシアが中国に軍事支援と財政的救済の両方を要望したという信頼できる兆候を見出している。米政府とBiden大統領個人は、習近平と中国にロシアへの支援は「深刻な結果」を招くと警告している。
(6) ウクライナ危機の結果がどうであれ、米国と欧州、カナダとアジア全域の同盟国の間で中国の信頼と評判は、既にひどく傷ついている。米中関係は、戦争が勃発する前もひどく緊張していたが、今はさらに悪化している。欧州の中国に対する集団的取り組みもここ数カ月で硬化しつつあったが、今や欧州も中国に対してより警戒を強めている。NATOは、ロシアの侵略の結果として大幅に強化されており、中国に対する米欧政策の緊密な連携も永続的な副産物となるだろう。中国はこれまでのところ状況を悪くしており、中国政府は今後さらなる困難に直面すると考えられる。具体的な結果の一つは1年以上もの間、手詰まり状態にあったが、中国政府がEUの国会議員や市民社会関係者を制裁したことで既に瀕死の状態になっているEUと中国の投資包括的協定(CAI)の消滅の可能性である。
(7) 世界的な地政学的影響とは別に、ウクライナにおける中国の利益も戦争によって損なわれた。2022年3月4日、ハリコフの大学寮で少なくとも4人の中国人学生が殺害され、さらに数百人の中国人市民が国内で脆弱な立場に置かれている。中国は2019年にウクライナの最大の貿易相手国となり、2021年には推定200億ドルの双方向の貿易を行った。中国はウクライナでさまざまな大規模な投資計画を行っており、その多くは一帯一路構想(に関連している。中国は、紛争によって経済的にかなり多くのものを失うであろう。しかし、紛争後の復興事業により得るものも多いかもしれないと考えられている。しかし、それは完全に、戦争の結果とウクライナ政府の紛争後の中国政府に対する態度による。
(8) 最後に、中国政府の様々な締め付けは自国国民にも影響を与えている。今日まで中国政府の支配下にあるメディアは、ロシアの国家プロパガンダをオウム返しにしており、ウクライナの本当の状況を知っている中国人はほとんどいない。中国国民はウクライナがロシア軍に対して行っている相当な量の抵抗について知らず、ロシア軍が遭遇した軍事的な困難と死を知らず、ウクライナの都市や民間を標的にするロシアの恐ろしい焦土爆撃を知らない。そして中国国民は、中国政府がロシアにどの程度の支援を提供しているかを知らない。こうしたすべての無知が、中国国内の親ロシア的で反欧米的な語りを強化してきた。これらは中国政府にとって全く良いことではない。中国は、戦争によって付随的に大きな損害を被る可能性がある。中国の評判はすでに大きく損なわれている。問題は、まだ決まってはいないが、習近平の中国がプーチン政権との「新時代のための調整の包括的戦略的パートナーシップ」によって、これからさらにどれだけの損害を被るかということである。
記事参照:China and the Ukraine War: Navigating a Difficult Position

3月31日「ロシア・ウクライナ戦争が中国の両岸関係に与える影響―シンガポール専門家論説」(IDSS Paper, RSIS, March 31, 2022)

 3月31日付のシンガポールのThe S. Rajaratnam School of International Studies(RSIS)のウエブサイトは、RSISのInstitute of Defence and Strategic Studies中国プログラム助教授 Lee Jonghyukの”Simulating a War without Cost: the Implication of the Russo-Ukrainian War on the Cross-strait Relations in China”と題する論説を掲載し、ここでLee Jonghyukはウクライナ戦争が軍事作戦発生の不確実性を低減させ、今後中国が西側の影響力から一定の程度まで切り離された状態になったとき、世界はまた悲惨な時代に遭遇するとして、要旨以下のように述べている。
(1) 現在、ロシア・ウクライナ戦争は世界的な注目になっている。西側諸国はロシアの膨張に脅威を感じており、ロシアとの直接的な軍事衝突には消極的だが、多くの国や団体がウクライナを支援し、ロシアに制裁を科す決意を示している。NATOは侵攻直後、ウクライナ軍に武器・弾薬など軍需品を提供した。直接でなくとも、他の国や国際機関も、市民救援や人道的努力を進めた。同時に、ロシアに対して数々の制裁や規制が迅速に行われた。多くの国々による連携は、ロシアの輸出入に対する制裁や、ロシアの銀行をSociety for Worldwide Interbank Financial Telecommunication(国際銀行間通信協会)から追い出すなど組織化された。主権国家だけでなく、国際機関もロシアの代表を停止したり、退去させたりして、処罰に加わっている。さらに、多くの多国籍企業がロシアからビジネスを撤退させ、あるいは撤退させようとしている。
(2) 多くの専門家や政策立案者は、この戦争の一般的な経過は、中国が両岸関係において強硬手段を用いないことを確信させるはずだと指摘している。中国は世界的な民主主義国の連合に対して単独で戦う余裕はないと彼らは主張している。しかし、台湾はウクライナではない。台湾は国際機関によって主権国家として認められていない。中国は、両岸関係は国家間の紛争ではなく、内政問題であることを常に明言している。したがって、ウクライナ・ロシア戦争は両岸関係にはほとんど影響を与えないはずである。
(3) 制裁の激しさを考えれば、ロシアに圧力をかけようとする西側の努力の誠意を疑う人は少ないだろう。中国に対する同様の制裁の効果は、制裁がどの程度まとまり、組織化されているか、また、制裁によって中国がどの程度の影響を受けるかという2つの側面から評価するべきである。制裁が対象を十分に圧迫するかどうかは、制裁に参加しようとする国がどれだけ多いかにある。米国はNATOや太平洋地域の同盟国をうまく動員したが、低開発地域の漏れは多い。特に、欧米に近いとされるインドが割安なロシアの石油を購入したことは、国際的な集団行動がなかなか形成されないことを鮮明に示している。これで中国は、米国・NATOの勢力圏が予想以上に弱いことを知ることになった。
(4) 経済的自立という点では、中国はロシアよりはるかに良い状態にある。世界銀行によると、2012年以降、ロシアの貿易はGDPの約45%を占め、米国の約2倍である。また、ロシアは石油・ガス関連製品への依存度が高いため、国際的な制裁に対して比較的脆弱である。一方、中国は過去10年間、貿易依存度の低減と貿易相手国の多様化に努めてきた。その結果、中国の貿易の対GDP比は2012年の45%から2020年には31%に減少した。中国は先進国への依存度を下げ、アフリカや東南アジアなどの後発地域との協力を強化するため、「一帯一路構想」を立ち上げた。欧米主導のルートとは別に、新たな貿易相手を積極的に開拓することで、中国は欧米諸国への依存度を低下させることができた。中国の貿易の対GDP比は、米国の場合、2012年の5.7%から2020年には3.8%に、EUの場合、2012年の6.4%から2020年には4.4%に減少している。
(5) 台湾に対する武力行使の利点は、台湾にどれだけの価値があるか、台湾を取り戻すために平和的取り組みがどれだけの役に立つかによって決まる。西側メディアは、習近平にとっての台湾の重要性を過小評価する傾向がある。毛沢東以来の中国の指導者は皆、台湾の奪還に全力を挙げることを強調してきた。1970年代後半に中国が市場を開放した後、中国は台湾人を自発的に説得して大陸の一部とする平和的統一を実現するために、ゆっくりだが確実な方法を選んできた。
(6) 習近平は、中国共産党の歴史上、最も尊敬されている毛沢東や鄧小平と肩を並べたいという意思を表明しているが、一人は国を築き、もう一人は経済的繁栄をもたらしたという点で、はるかに及ばない。習近平は多くの演説や決議文を通じて、貧困をなくし、適度に豊かな社会を実現するとともに、腐敗を根絶し、不平等を減らすなど、自らの功績を誇示した。しかし、習近平が毛沢東や鄧小平に匹敵すると中国人が真に信じるには、その成果は具体的でも説得力のあるものでもない。議論の余地のない成果を挙げなければ、習近平が毛沢東や鄧小平のように長く政権を維持することには疑問符が付く。この正統性の危機を解決するために、習近平は、台湾の統一という極めて具体的な目標を掲げ、中国の隆盛と栄光を回復するための民族主義を主張したのである。
(7) 習近平が統一によって自らの正当性を高めようと急いでも、国際情勢は平和的統一の可能性を少なくしている。第1に、台湾では統一は極めて不人気である。台湾の若い世代には中国を拒否する人が増えている。さらに中国は、香港の統治に採用した「一国両制」の信憑性により信頼を失っている。 第2に、ロシア・ウクライナ戦争は自由民主主義国と権威主義国の対立をさらに加速させ、中国を新たな冷戦に追い込む可能性がある。ウクライナ戦争に対する懲罰としての対ロ制裁の発動は、非西側諸国に対して、西側経済への過度の依存を避け、西側経済に対する脆弱性を最小限に抑えるべきという教訓を与えてしまうかもしれない。中国は、これらの国々にとって代替的な経済的選択肢として浮上する可能性がある。
(8) 習近平が2049年の建国100周年までに達成しようとする「偉大なる復興」の前提条件として統一を推進したことで、台湾の統一は期限が定められた。習近平は平和的統一の基本原則を堅持すると宣言しているが、武力行使の可能性は高まっている。ウクライナ戦争は軍事作戦発生の不確実性を低減させた。今後、世界の分断が進めば、台湾は米中の対立を利用し、中国主導の統一を拒否する可能性が高まる。実際、中国は過去10年間、民主主義国と独裁国の衝突が避けられないことを想定して準備してきた。貿易依存度を下げ、代替金融システムを構築することで、中国は政権を外部勢力から相対的に独立させようとしてきた。西側諸国による現在の抑止戦略は、中国の侵攻を数年遅らせるだけかもしれない。中国が西側の影響力から一定程度まで切り離された状態になった時、世界はまた悲惨な時代に遭遇することになるだろう。
記事参照:Simulating a War without Cost: the Implication of the Russo-Ukrainian War on the Cross-strait Relations in China

3月31日「新しいオーストラリア潜水艦基地が米艦艇を支援―米軍機関紙報道」(Stars & Stripes, March 31, 2022)

 3月31日付の米軍準機関紙Stars & Stripes電子版は、“New Australian submarine base could support US warships, experts say”と題する記事を掲載し、オーストラリアが原子力潜水艦の船隊を支援するために建設する75億ドルの海軍基地は、米海軍の軍艦を迎え入れることになるとして、要旨以下のように述べている。
(1) オーストラリア東部の施設の計画は、パース近郊の豪海軍の基地スターリングにあるオーストラリアFleet Base Westを補完するためであるとScott Morrisonオーストラリア首相が3月7日に発表した。Morrison首相は「オーストラリア政府は今後10年間で、防衛力強化のための2,800億米ドル以上を含めて、この国の国防軍に5,780億米ドルの投資を行う」とし、ブリスベン、ニューカッスル、またはポート・ケンブラのいずれかに建設される75億米ドルの新しい潜水艦基地は、オーストラリア、英国、米国の間で2021年締結されたAUKUSに基づいてオーストラリアが取得を予定している原子力潜水艦を支援するものであると述べている。首相は、ウクライナにおける戦争がインド太平洋に与える影響について言及しながら、この発表を行っており、「新しい独裁国家の弧は、彼らの概念で世界秩序に挑戦し、それを構築し直すために自然に連携している」とMorrison首相は述べている。
(2) 3月の最終週、中国とソロモン諸島の安全保障協定への反対者が、協定案の草案をネット上に流出させたため、オーストラリアとニュージーランドの指導者たちは警戒感を示した。当局者たちは、中国がオーストラリアの東海岸沖から1,200海里離れた場所に軍艦を配備することが可能になることを懸念している。
(3) オーストラリアの新しい東部の海軍基地は、最低8隻の原子力潜水艦の整備と配備に役立つだろうとオーストラリアシンクタンクLowy InstituteのInternational Security Programの責任者Sam Roggeveenは3月31日にStars & Stripesに語っており、米軍の潜水艦が新基地だけでなく、西部の既存施設も利用することを予想していると述べている。University of New South Walesの名誉教授でAustralian Defence Force Academy(オーストラリア国防軍士官学校)講師Carlyle Thayerは3月31日のStars & Stripesの電話取材に答えて、スターリング海軍基地はインド洋へのパトロールを継続し、新施設から出動する潜水艦は南シナ海や台湾周辺への哨戒が可能になるだろうと語っている。
(4) 元国防次官補Ross Babbageによれば、ケンブラは新しい基地の最有力候補のようである。ケンブラ港は、原子力潜水艦に対するオーストラリアの安全基準を満たし、十分な産業能力を持ち、住宅や学校も充実しているという。U. S. Marine Rotational Force Darwin(駐ダーウィン海兵ローテーション部隊)が毎年6カ月間駐留するダーウィンには、原子力潜水艦の一時的な寄港以上のことを支援する基幹施設がないとBabbageは述べている。
記事参照:New Australian submarine base could support US warships, experts say

3月31日「東南アジアにおける海洋秩序構築には何が必要か―英海洋問題専門家論説」(The Interpreter, March 31)

 3月31日付の豪シンクタンクLowy InstituteのウエブサイトThe Interpreter は、英King’s College London 名誉教授で海洋研究者Geoffrey Tillの“Order at sea: Southeast Asia’s maritime security”と題する論説を掲載し、そこでTillは地域の海洋における良き秩序構築が現在必要であり、そのためには国益への考慮を乗り越えた集合的な行動と、域外の国々による支援が必要不可欠であるとして、要旨以下のように述べている。
(1) 地域的な安定のためには、当該海域における良き秩序の維持とそのために必要な能力の構築は必要不可欠である。海洋における「良き秩序」が何を意味するにせよ、その将来を楽観視することはできない。現在、多くの著述者や環境機関が指摘するように、海洋は危機的状況にあり、その問題は世界的なものである。Halford Mackinderが第1次世界大戦前に指摘したように、海洋はつながっているためである。
(2) 世界全体で、海洋を警備するために活用できる資産の数や有効性は明らかに不十分なままであり、東南アジアにおいて、特にフィリピンやインドネシアなどの群島国家がこの種の難題に直面しているが、各国に共通した課題である。種々の海洋における犯罪に対処するための国内法制も十分ではない。
(3) COP26気候変動会議で明らかになったように、海洋における良き秩序を構築し、維持するための試みは伝統的な国益概念によって阻害される傾向にある。COVID-19世界的感染拡大に直面してもなお、われわれは集合的な行動が国益の考慮によって制約されているのを目にしているが、国益や国家主権といったものに諸国が敏感であるという事実は、とりわけ南シナ海においてはっきりと確認できる。数十年前、地球規模化した世界において国民国家の役割は失われていくだろうと予測されたが、それは誤っていたと言えよう。
(4) 東南アジアにおける海洋秩序構築については、こうした憂鬱な現実に相当程度当てはまる。良い兆候も間違いなくある。海洋秩序構築が重要だという認識はたしかに高まっており、たとえばシンガポールにInformation Fusion Centreが設立されるなど、疑わしい航行を確認し、阻止するといった活動が促進されている。各国の沿岸警備隊やたとえばインドネシアの海洋安全保障機関であるBAKAMLAなどの海洋法執行機関の設立と強化も目撃されている。「マラッカ海峡哨戒」などの多国間による行動も実施されるようになった。
(5) 東南アジアに限らず、海洋安全保障に関する諸問題と共同で対処しようとする時、優先順位の競合という問題が生じてくる。重要なことは、そうした問題について共同で議論することであろう。この場合、結果よりもそうした過程の方が重要であるように思われる。ASEANにとって、こうした試みを進めることは意義のあることだ。
(6) 域外の国々はどう関わるべきだろうか。彼らは、海洋における良き秩序を守るための能力構築の努力を支援できるはずであり、そうした提案を東南アジア諸国も歓迎するであろう。そこで最も重要なことは、能力開発の努力が現実的に維持されることである。世界的感染拡大による経済への影響や、何らかの資源を軍事力へと転用させたいという願望は、能力開発の努力を阻害する要因になりうる。また域外の国々は海洋状況把握にも貢献できよう。正体不明の船団の活動が活発化する現在、情報を収集し、加工し、共有することは極めて重要である。
(7) 積極的に関わろうとする域外国の海軍人員や艦艇、航空機等が永続的に展開されるのであれば、これら全てのことはより信頼度が増す。その意味で、英海軍の哨戒艦2隻の常続的配備、US Coast Guard、日本の海上保安庁の役割の強化、南太平洋におけるオーストラリアとニュージーランドの地域巡視船計画などは、物事が良き方向へ向かっていることを示している。ただし、域外のこうした支援はどこまで行われるべきかという問題もある。やり過ぎることによって、地域各国の選択の幅や主体性を狭めるおそれもある。そうした問題があるにせよ、域外の国々からの支援は、地域の海洋の良き秩序の構築と維持に間違いなく貢献するものであろう。
記事参照:Order at sea: Southeast Asia’s maritime security

【補遺】

旬報で抄訳紹介しなかった主な論調、シンクタンク報告書
(1)The war in Ukraine: Troubling lessons for Taiwan
https://globaltaiwan.org/2022/03/vol-7-issue-6/?mc_cid=d50e2cdae4&mc_eid=01d9597c77#MichaelMazza03232022
Global Taiwan Institute, March 23, 2022
By Michael Mazza, a senior non-resident fellow at the Global Taiwan Institute, a non-resident fellow with the American Enterprise Institute, and a non-resident fellow at the German Marshall Fund of the United States
 3月23日、米国のシンクタンクGlobal Taiwan Instituteの非常勤研究員Michael Mazzaは、同シンクタンクのサイトに、“The war in Ukraine: Troubling lessons for Taiwan”と題する論説を寄稿した。その中で、①ロシアのウクライナ侵攻は、台湾の人々にとって、台湾は孤独ではないという安心感を与えるものである。②台湾政府から見て、ヨーロッパで台湾への関心と懸念が深まっていることは好ましく、EUと台湾の貿易額は2010年から2020年の間に約45%増加した。③しかし、中国の経済規模はロシアの10倍以上であり、2021年、中国はEUの最大の貿易相手国であり、EUの貿易総額の16.1%を占め、ロシアは、EUの貿易総額に占める割合はわずか4.8%だった。④EUは、加盟国の経済が最も被害を受けるような措置をとることを躊躇している。⑤中国政府は、多くの人が想定しているほど孤独ではなく、台湾海峡の危機に今やモスクワが傍観することはないというのが確実な想定である。⑥ロシアは、中国がウクライナでできるよりも直接的に中国を支援するという選択肢を持っており、ロシアは日本海や北太平洋で軍事力を行使することができる。⑦台湾関係法は、他の国やウクライナにはない独特なもので、様々な方法で台湾を支援するという米国の誓約が記されているが、Biden米大統領が第3次世界大戦の勃発を伴うと考えた場合、台湾の防衛を行うか疑問である。⑧台北は将来可能性のある強力な中ロ枢軸の出現という問題に取り組んでいるため、中国が攻撃を行う場合に、ヨーロッパと米国がどこまで台湾を支援するのかを問題にしなければならないだろうといった主張を述べている。

(2)NEW HEIGHTS OF RUSSIAN HYPOCRISY AND “UNLAWFARE” IN THE BLACK SEA
https://cimsec.org/new-heights-of-russian-hypocrisy-and-unlawfare-in-the-black-sea/
Center for International Maritime Security, March 25, 2022
By Dr. Ian Ralby, a maritime lawyer and CEO of I.R. Consilium
Col. Leonid Zaliubovsky, the Head of the Legal Branch of the Ukrainian Navy Command
 2022年3月25日、米コンサルタント企業I.R. ConsiliumのCEOであるIan Ralbyとウクライナ海軍のLeonid Zaliubovsky大佐は、米シンクタンクCenter for International Maritime Securityのウエブサイトに" NEW HEIGHTS OF RUSSIAN HYPOCRISY AND “UNLAWFARE” IN THE BLACK SEA "と題する論説を寄稿した。その中でRalbyとZaliubovskyは、現在ロシアはウクライナに対して違法な軍事侵攻を行っているが、先日、Federal Security Service of the Russian Federation(ロシア語表記Федеральная служба безопасности Российской Федерации:ロシア連邦保安局)は黒海におけるウクライナの機雷について、ウクライナが1907年のハーグ条約の海底機雷に関する規定に違反したと主張しているが、興味深いことはロシアもウクライナも同条約の締約国ではないことであり、したがってこの声明はロシアが残忍な軍事侵攻を行う一方で、「法律戦(lawfare)」と呼ばれる法律や法的手続きを使って軍事的目的の達成を補助するという長年の作戦行動を続けていることを示唆していると指摘した上で、このようなロシアの行動は、根拠のない法的主張に基づく「違法戦(unlawfare)」と呼んだ方が良いだろうと皮肉を込めて述べている。その上で、ロシアの不合理な法的姿勢を浮き彫りにし、健全な法的分析を適用することによってのみ、この悪質な戦術に効果的に対抗することができ、ロシアが法の支配を弱め、低下させるために偽りに満ちた法的な正当化主張を用いることは許されないと主張している。

(3)“Guide to Nuclear Deterrence in the Age of Great-Power Competition”: What it actually says
https://thebulletin.org/2022/03/guide-to-nuclear-deterrence-in-the-age-of-great-power-competition-what-it-actually-says/
Bulletin of The Atomic Scientists, March 30, 2022
By Adam Lowther, Director of Multidomain Operations at the Army Management Staff College at Ft. Leavenworth, KS.
 2022年3月30日、米Army Management Staff CollegeのAdam Lowtherは、米学術誌Bulletin of The Atomic Scientistsのウエブサイトに" “Guide to Nuclear Deterrence in the Age of Great-Power Competition”: What it actually says "と題する論説を寄稿した。その中でLowtherは、2022年2月に同誌に掲載された “US defense to its workforce: Nuclear war can be won,”という記事を批判的に取り上げ、同記事は米ソ冷戦時代の核抑止力を基礎に論じられており、核抑止力に関しては当時、Reagan大統領とGorbachev書記長が置かれていた両国が戦争を行えば65,000発の核兵器が使用されるという状況を理解する必要があるし、ソ連と米国が核軍縮の合意に達することができなかった原因として、両者が宇宙ミサイル防衛システムを放棄することを頑なに拒否したという背景があることを見逃してはならないと指摘した上で、同記事を耳障りは良いが、読者にとって何も意味がない内容だと批判している。今日、私たちに必要なのは、核兵器と抑止力が国家安全保障に果たす役割について活発で、誠実な議論を行うことであると述べ、同誌が核抑止力に関する忌憚のない議論の場となることへの期待を表している。