海洋安全保障情報旬報 2019年12月21日-12月31日

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12月21日「中国による南シナ海の環境保護に対するアプローチ―香港紙報道」(South China Morning Post.com, December 21, 2019)

 12月21日付の香港日刊英字紙South China Morning Post電子版は、“Can Beijing bring the South China Sea’s ravaged coral reefs back to life?”と題する記事を掲載し、南シナ海の紛争区域における環境問題の状況と、それに対する中国の姿勢について要旨以下のように報じている。
(1)中国は、人工島の構築や紛争海域における漁業が海洋生物を壊滅させたという批判の中、南シナ海の荒廃した海洋生物を蘇らせる10年にわたる計画に着手し、12月に海南省で農業農村部傘下のサンゴ礁を保護するための組織を作った。
(2)中国の専門家たちは、中国は、この区域の生態系へのさらなる被害を防ぐために努力しているが、これらの取り組みは漁業やこの海域に対する領有権主張の複雑さにより妨げられる可能性があると述べている。農業農村部が1​​月に発表した10年計画によれば、中国は主要な岩礁でサンゴの浸食を封じ込め、2030年までにサンゴの90%を保護する保護地区を作る必要があるという。中国科学院が行動計画とともに発表した報告書は、サンゴはこの海域全体で減少しているが、南沙諸島は中国でもサンゴ礁種の最大の多様性を有していると述べた。この報告書は「近年、人間活動と気候変動の二重の影響を受けて、様々な地域のサンゴ礁の範囲が減少している」と述べている。1月、自然資源部は、中国が、南沙諸島の中国の7つの人工島の中で最も大きい3つの島であるファイアリークロス礁、スビ礁及びミスチーフ礁でサンゴの成長を保護し、蘇らせるための施設を設置したと述べた。
(3)中国は慎重に扱うべき海域の生態系の崩壊を認識しているが、北京とその近隣諸国間の長年にわたる激しい領土紛争がこの問題への取り組みに影を落としている。カナダのUniversity of British Columbiaの研究者たちによる研究では、南シナ海の海洋資源は無規制の漁業のため1950年基準の5~30%の間にまで減少したとされている。2016年、フィリピンが提訴した問題において、国際仲裁裁判所は中国による埋め立て活動と人工島構築が「サンゴ礁環境に深刻な害をもたらした」と裁定した。この法廷はまた、中国の違法漁業がサンゴの生態系に損害をもたらしていることを知っており、そのような活動を止めることができなかったと判定した。University of Hong Kongの海洋科学准教授David Bakerは、中国は夏に始まる禁漁その他の措置により、南シナ海の生態学的保護に対し「トップダウン」のアプローチを取っていたと述べている。「南シナ海に対する中国の主権の主張と一致するものの1つは環境への責務である。本当に心配なのは人工島の構築も起きているということである」、「(南シナ海での保護活動の)多くは社会政治的な背景と利益集団、特に強力な漁業により蝕まれている」とBakerは述べている。
(4)また、中国によるこうした環境保全活動は、ライバルの権利主張国に北京がこれらの海域を支配しようとする動きと見なされるかもしれない。1月、フィリピンの国会議員Gary Alejanoは、サンゴの復興は「中国の占領を正当化する多くの方法の1つに過ぎない可能性がある」と述べた。マニラのDe La Salle Universityの政治学者Richard Heydarianも、「中国の立場は『我々は今すぐ環境協力を進めることができる』というものに見えるが、より小さな権利主張国は、中国の広大な(領土)主張を強化するために用いられる可能性を当然のように恐れている」、「しかし、問題は、信管の鋭敏な環境という名の時限爆弾(rapid environment time bomb)がカタツムリのペースで進む主権と境界に関する交渉を追い越しているということである」と述べている。
(5)北京大学South China Sea Strategic Situation Probing Initiative think tank所長で、「南海戦略態勢感知計画」の責任者である胡波は、中国とASEAN加盟国の間で交渉されている南シナ海行動規範に環境保護に関する条項を含めるべきだと述べた。胡所長は、中国による隣国を巻き込んだ保全の取り組みは困難であるが、北京は南シナ海の紛争区域外での国際協力から始めるべきだと述べた。
記事参照:Can Beijing bring the South China Sea’s ravaged coral reefs back to life?

12月23日「ルールベースの国際秩序という幻想-印専門家論説」(The STRATEGIST, December 23, 2019)

 12月23日付のAustralian Strategic Policy InstituteのウェブサイトThe Strategistは印Strategic Studies at the New Delhi-based Center for Policy Research教授Brahma Chellaneyの“The Illusion of a Rules-Based Global Order”を掲載し、ここでChellaneyは「ルールベースの国際秩序」という考え方は現実の国際政治において国際法を執行するメカニズムが存在していない以上、幻想に過ぎないとして、要旨以下のように述べている。
 (1)冷戦の終結時、多くの専門家は地経学が地政学を決定付ける新たな時代の到来を予期し、経済統合が進むにつれてルールベースの国際秩序が根付くと予測した。もはや、そのような楽観的見解はナイーブであったと言うべきであろう。国際法の制度は表面的にはより強固になっており、たとえば、国連の各種条約、2015年の気候変動に係るパリ協定、国際刑事裁判所などは世界的合意に支えられているが、それでも実態として力の支配は法の支配に勝っている。そして おそらくは中国ほどこの状況を利用している国はないであろう。
 (2)例えば、チベット高原からミャンマー、ラオス、タイ、カンボジア、ベトナムを経由し南シナ海へと流れるメコン川流域の中国によるダムプロジェクトについて考えてみよう。 この川は流域の11の巨大ダム建設により東南アジア地域に至る前に河川としてのシステムがひどく損われ、後退したデルタ地域への塩分流入など深刻な環境破壊が引き起こされた。今日、メコン川は100年ぶりの低水位となっており下流域では干ばつが激化している。このことによって中国は近隣諸国に強い影響力を発揮しているが、このようにメコン川を「武器」として用いることについて悪い影響は受けていない。
(3)南シナ海における中国の行動はさらに大胆と言えるかもしれない。インド洋と太平洋を結ぶ非常に戦略的な回廊における大規模な人工島造成は今月で開始から6周年を迎える。 人工島の造成と軍事化により、中国は一発も発砲することなく、また国際政治上のコストを負担することもなく、地政学的な地図を塗り換えたのである。2016年7月のハーグの常設仲裁裁判所(PCA)により実施された国際仲裁裁判では、南シナ海における中国の領有権の主張には国際法上の正当性がないと裁定された。しかし、中国の指導者はこの判決を無視し、「茶番」と呼んだ。こうした状況では米国が主張する「自由で開かれたインド太平洋」も絵に描いた餅に過ぎない。
(4)このような中国によるPCA裁定を軽視する態度は、2014年のベンガル湾におけるインドとバングラデシュの紛争裁定に際し、そこに重大な欠陥があったにも関わらずこれを受容したインドの態度とは好対照である。実際、2013年から2016年にかけてフィリピンが南シナ海における中国の主張に対抗する提訴を進めていた間に、インドはバングラデシュ、イタリア、パキスタンとの3つの異なる紛争においてPCAにより不利な裁定を受けたが、インドはその全てを遵守した。その含意は明白であり影響力を有する大国にとってルールベースの国際秩序は当然の選択なのである。しかるに中国は政治体制の特性からそのような意志を有していない。こうした背景においては、南シナ海のベトナムの排他的経済水域内での石油・ガス開発を妨害して来た中国に対し、ベトナムが採り得る法的措置は実効性あるものにはなりそうにない。ベトナムは中国がいかなる裁定も無視し、貿易などを梃子として弱い隣人を圧迫するであろうことを承知しているのである。
(5)国家間の紛争は常に発生するものであり、国際法の執行メカニズムが必要とされる理由もそこにある。平和はそれらを公正かつ効果的に解決するメカニズムを要求しているのである。しかし、そのようなメカニズムはすぐには実現しないだろう。中国とて国際法上の何らかの「免除」をもって国際法に違反しているわけではないが、国連憲章が国際の平和と安全の維持を委ねた国連安保理事常任理事国である米露英仏もまた同じようにしている。
(6)今日、国際法は無力な者に対して強力である一方で、強者に対しては無力である。 経済、地政学、環境の構造的変化にもかかわらず、これが現実である。最も強力な国家は国際法をもって弱い相手に意志を強制する一方で、しばしばルール自体を無視する。このような事実がある限り「ルールベースの国際秩序」という概念もまた国益追求のための方便に過ぎないのである。
記事参照:The Illusion of a Rules-Based Global Order

12月24日「中国のSLBM発射試験は平和への脅威、米海軍退役大佐の警告-米紙報道」(The Washington Times.com, December 24, 2019)

 12月24日付の米紙The Washington Times電子版は“China's test of sub-launched missile a threat to peace, retired captain warns”と題する解説記事を掲載し、米海軍退役大佐James E. Fanellの発言を引用しつつ、中国人民解放軍海軍のJL-3潜水艦発射弾道ミサイル(以下、SLBMと言う)の発射実験は中国の核戦略を政治的なシグナルとして発信するものであるとして要旨以下のように報じている。
 (1)米国防総省当局者によれば、中国は今週(12月23日からの週)、米本土を核弾頭で攻撃可能な新型SLBM、JL-3の発射試験を実施した。この試験は、早ければ12月25日水曜日にも実施されるかもしれない北朝鮮の長距離ミサイル発射という懸念が高まっている中で行われた。2人の当局者が匿名を条件に、発射試験は12月22日、中国北部沿岸の渤海で潜航した晋級弾道ミサイル潜水艦から行われ、米国の情報衛星その他のプラットフォームにより西方への飛行が観測されたと述べている。発射試験が成功したのか否かなど、詳細は明らかにされていない。北朝鮮はクリスマスや年末年始にかけ何らかの挑発的行動をとるかもしれないと発表しており、米当局者は北朝鮮が長距離ミサイル実験の一時停止を解除した場合、Trump政権は厳しい対応を取ると警告していた。このメッセージは北京におけるStephen E. Biegun米国北朝鮮担当特別代表と中国当局者との会談で伝えられたという。
 (2)JL-3は、複数弾頭化(抄訳者注:MIRV化)されたDF-41を含む新型の陸上発射弾道ミサイル、高性能の新型戦略爆撃機開発及び旧式核兵器のアップグレードを含む中国の戦略核部隊近代化の重要な一部を構成する新型SLBMである。12月22日のJL-3発射試験は過去2年間で4回目であり、中国の急激な兵器開発を示唆するものである。最初の発射試験は2018年12月に実施され、本年6月と10月にも実施されている。10月の試験時も今回と同じく渤海から発射され、ゴビ砂漠まで西方に飛翔した。晋級潜水艦からの試験発射は、この新型SLBM、JL-3が既に配備されている6隻の晋級潜水艦に搭載可能であることを示している。
 (3)JL-3は現行のJL-2の射程距離4,350マイルを上回る推定射程距離が5,600マイルの新型ミサイルである。米海軍退役大佐James E. Fanellは、クリスマス直前の発射試験について「単に人民解放軍海軍がSLBM技術の進歩を検証するというのみならず、米国を核の脅威の下に置くという戦略的な意図に基づく中国の世界に対する宣言である」と指摘している。そしてFanellは、「この発射試験は特に驚くべきことではなく、既に10月1日の軍事パレードで公開されている兵器の実験に過ぎない」としつつ 「中国は30年前にソ連が世界に示したのと同じ平和と安全に対する実存的な脅威を示している」と指摘している。
 (4) 中国政府系紙環球時報英語版Global Timesは2013年に、米国西部へのSLBM攻撃計画に関するレポートを掲載した。潜在的な被爆範囲を示すマップを使用したこのレポートによれば、JL-2はシカゴ東方へ放射線を拡散するシアトル、サンフランシスコ、ロサンゼルス地域を標的とするだろうと述べ、「核ミサイルがこれらの都市に着弾した後、20発の核弾頭により生成された放射性ダストが拡散、数千キロメートルの汚染地域を形成する」とされている。また、同レポートは 「中国のTNT火薬100万トン相当の小型核弾頭技術のレベルに基づけば、Type094原子力潜水艦1隻に搭載された12個のJL-2の核弾頭は500万から1200万人規模の破滅を引き起こし明確な抑止効果を発揮する」とも指摘している。すなわち、中国はミサイル発射試験によって政治的なシグナルを送っているのである。
 (5)米国防総省は中国軍に関する最新の年次報告書において、JL-3は2020年代初頭の建造が予想されるtype096次世代弾道ミサイル潜水艦に搭載されると予想している。現有の晋級潜水艦は、DF-31大陸間距離弾道ミサイルを潜水艦発射型に転用したJL-2を装備しており、JL-2は10月に北京で開催された軍事パレードに際し主要な戦略兵器システムの1つとして紹介されている。しかし晋級は水中雑音が大きく、米国の攻撃型潜水艦の追尾を逃れることは困難と言われている。一方、新型のJL-3は射程距離が長くフロリダから遠く離れた海域から標的を攻撃する能力があり、また、プラットフォームのType096潜水艦も静粛で追跡が困難であるとも予想されている。
 (6) 6月のJL-3発射試験時、中国国防省報道官の任国強は「中国が計画に基づき科学研究と試験を実施することは当然」として、「これらの試験は特定の国家や主体を対象としたものではなく、兵器の開発も中国の本質的に防衛的な政策、軍事戦略に基づき、中国の国家安全保障という基本的要求を満足するためのものである」と述べている。
記事参照:China's test of sub-launched missile a threat to peace, retired captain warns

12月26日「『4カ国安全保障対話』は南シナ海における中国の侵食を阻止できるか―印専門家論説」(Wio News.com, December 26, 2019)

 12月26日付の印有料テレビニュースウエブサイトWio Newsは、印陸軍退役少将S B Asthanaの “South China Sea standoff: Can Quad check China's encroachment?”と題する論説を掲載し、ここでS B Asthanaは南シナ海における中国の侵食を阻止するための「4カ国枠組み」の在り方について、要旨以下のように述べている。
(1)南シナ海で中国が押し進めている「漸進的侵食戦略」(the ‘incremental encroachment strategy’)は、自国のEEZに対する管轄権を直接脅かされている諸国にとってのみならず、中国が南シナ海のシーレーンを占有しかねないことから世界の他の諸国にとっても、深刻な懸念となっている。影響を受ける諸国は、中国に立ち向かうために適切なパワーを持っておらず、従って、中国主導の「行動規範」(COC)のような一方的取決めに屈する以外に如何なる選択肢も持たないであろう。
(2)それ故に、中国の冒険主義は、グローバルな利害を有する他の有力な海洋パワーによって阻止される必要がある。オーストラリア、インド、日本そして米国で構成される「4カ国安全保障対話」(以下、the Quadと言う)は、しばしばインド太平洋地域における更なる中国の冒険主義を阻止するための潜在的な手段と見なされてきた。この地域における米海軍のプレゼンスにも関わらず、中国が南シナ海において軍事基地を構築できているという事実は、南シナ海を「中国の湖」(‘China’s lake’)にしないことを確実にするためには、世界的な非難を喚起するとともに、より強力な秩序維持努力が必要なことを示唆している。the Quadは現時点ではそれに必要なツールを持っていないかもしれないが、インド太平洋地域において共通の戦略的利害を持ち、志を同じくする海洋パワーの中で、これ以外にどのような選択肢もない。
(3)the Quadは、その役割、持続可能性そして将来性に関して、繰り返し様々に評価されてきた。その名前からして、the Quadは安全保障対話フォーラムであって、軍事同盟ではない。それ故に、the Quadに対する期待は今のところ限定されたものにならざるを得ない。当初、the Quadは4つの民主主義国家に限られた軍事的海洋取極めと見られた。the Quaを構成する4つの民主主義国は、「人、物、資本そして知識が自由に流通することが可能」な開かれた、透明性の高いネットワークの維持にコミットしてきた。それ故、the Quadはインド太平洋地域において中国の冒険主義を阻止する役割を持っていることを未だ認めるに至らず、したがってそのために軍事力を合同で運用することができないでいる。実際、the Quadはそれが特定の国に向けられたものではないとする外交的立場をとってきた。
(4)the Quadが対話フォーラムから抜け出すためには、インド太平洋地域に対する4カ国それぞれの定義の違いを早急に解消する必要がある。4カ国は、インド太平洋地域においてそれぞれ異なった脅威認識を持っている。このことは、インド太平洋地域におけるそれぞれの重点地域とともに、域内における課題に対処するに当たってのそれぞれの優先順位の在り方にも影響を及ぼしている。4カ国の海軍間における効果的な海洋安全保障協力にとっての1つの重要な問題は、オーストラリア、米国及び日本の3カ国の海軍が米国との同盟の枠組み内で行動するが、インドはこれら3国のうち2国と戦略的パートナーであるが、如何なる軍事同盟の一員でもないことである。3カ国間の安全保障対話は、インド抜きで2002年から続いている。4カ国の中でインドだけが、中国との間で不安定な陸上国境問題を抱えており、したがって、中国との取引において他の3国とは異なったアプローチをとることになろう。
(5)the Quadは、インド太平洋地域におけるASEANの中心性を強調してきた。したがって、the QuadにASEANを取り込むことは、ASEANに対する中国の影響力を考えれば、論議に値する問題である。南シナ海における中国の「9段線」主張に対する対応に関しては、ASEAN内に相違がある。その影響を受けるASEANの一部の国は、世界の強国が中国の冒険主義を阻止することを期待して、早くから中国の侵略に対し、か細いながら反対の声を上げてきた。総じてこれら諸国は一方に与していると見られないように、米中両国と友好的な関係維持に腐心してきた。このことは、かえって中国をして南シナ海における漸進的侵食を継続させることになった。
(6)the Quadの共通の関心事は、世界的なシーレーンにおける航行の自由を確保するための「法に基づく」合法的な枠組みに立った、「自由で開かれたインド太平洋」理念を実行することである。オーストラリア、インドそして日本は、国連海洋法条約(UNCLOS)に加盟しているが、米国は未だ加盟していない。「自由で開かれたインド太平洋」理念を実行するための道義的理由からも、米国の加盟が必要であろう。
(7)大方の見解が一致する国際戦略的シナリオに従えば、中国は米国やその他の国が中国に対して軍事力を行使することはないであろうとの合理的な判断に立っている。一方で、北京は、その海軍力を強化している。中国が海軍力を強化していることから、4カ国は、インド太平洋地域において航行の自由演習と海軍力の展開を継続していかなければならない。国際社会は、中国の侵食に対して非難し続けなければならない。the Quadは現形のままでは、中国の冒険主義を阻止するのに十分効果的でないかもしれないが、(中国の侵食による)影響を受けている国と国際社会が共通に懸念に対して団結するなら、この枠組みは、(中国の侵食を)阻止するための効果的なツールの1つになるに違いない。
記事参照:South China Sea standoff: Can Quad check China's encroachment?
 

12月26日「東シナ海において中国は長期的視野に立って戦いを続けている―米軍事専門家論説」(Asia Times, December 26, 2019)

 12月26日付の香港のデジタル紙Asia Timesは、 元米海兵隊将校で日本戦略研究フォーラム客員上席研究員のGrant Newshamの“In East China Sea, Beijing plays long game”と題する論説を掲載し、ここでNewshamは東シナ海において中国は長期的視野に立って軍事力増強などにより戦略的目標を達成しようとしているとして要旨以下のように述べている。
(1)中国は広大な太平洋へのアクセスが地理的に阻害されているため、海軍を強化し出入りを容易にすることを戦略目標としている。中国は「九段線」に沿って勢力を拡大しており、米国とその同盟国の力が相対的に後退したため南シナ海が世界的に注目を集めている。しかし、はるかに強力な軍事力である米軍が北東アジアの東シナ海とその周辺に存在している。中国の観点からすると東シナ海は「湖」に似ている。中国軍は「湖」の西側を支配しているが、太平洋への重要なアクセスルートを含む他の海域は支配していない。そこでは中国軍の敵は太平洋への戦略的な出入り口を監視したり閉じたりするのに適した位置にいる。中国と米国及びその同盟国との対立が発生した場合、「第一列島線」を突破することは中国の戦略家にとって長年の目標である。戦争は今のところ差し迫ったものではないが、中国軍は2020年もこの大きな地理的な問題に苦しむであろう。
(2)台湾を奪取すれば、円滑に太平洋にアクセスでき、北東アジアと東南アジアの間の米国の防衛線を真二つにし、同時に中国の軍事作戦に対する脅威を排除できる。蔡英文総統が2020年1月に再選された場合、中国海空軍の脅威が高まることが予想される。中国軍は台湾軍に対してますます一方的な優位を獲得するだろうが、しかし近い将来に侵攻する可能性はないであろう。中国軍は上陸することはできるが多大な対価が必要となり、その対価には政治的に中国が民主主義世界から切り離されることも含まれる。中国は、戦わずして台湾に勝つことを望んでいる。
(3)台湾の北方で、中国は日本とも争いを続けている。中国は尖閣諸島において日本と主権を争っている。中国の戦略は日本の自衛隊が対処できないほど多くの場所で、多くの回数、多くの艦船航空機で徐々に圧力をかけていき、最終的には尖閣諸島に侵攻することである。2019年の中国艦船による尖閣諸島への領海侵犯件数は過去最も多かったにもかかわらず、尖閣諸島への侵攻は2020年には起こらないであろう。2019年12月23日に安倍首相は北京で習近平国家主席と会談し、2020年4月に東京で彼を国賓として招待する予定であることを伝えた。そのため最近の尖閣諸島では緊張は起きていない。しかし中国の尖閣諸島に対する主権の主張は依然根強く、自衛隊は「間隙を埋める」ことを目的とした装備で島嶼の防衛を強化している。最近の報道によれば日本は米軍基地を鹿児島県馬毛島に作ることに大筋で合意した。しかし、今のところ少なくとも10年は馬毛島の米軍基地は完成しないだろう。中国は日本の自衛隊が強力であることを知っている。特に海上自衛隊は、潜水艦及び対潜水艦能力に優れている。自衛隊は、F-35戦闘機、イージズアショア、F-35用の空母などの含む高価な装備に投資している。しかし、自衛隊には一貫性のある計画がなく、陸海空ともに能力が限られており、新規の隊員募集も十分ではない。日本は引き続き防衛面で米国に依存せざるを得ない状態にある。中国の日本への侵略を抑止しているのは究極的には中国の米軍に対する恐怖である。海上自衛隊と米海軍は協力して東シナ海で中国軍と戦う準備ができている。沖縄に基地を持つ米海兵隊も日本のカウンターパートである陸上自衛隊との共同訓練を増加させている。2020年にはインド太平洋地域全体での海上自衛隊艦艇による各国港湾への訪問と各国海軍との共同演習により、自衛隊の地域への関与がさらに増えるであろう。これは中国のこの地域での支配に日本が挑戦している証拠である。
(4)韓国は、依然としてすべての人にとって頭痛の種である。米国は、日本と韓国が友好的となることを切望している。しかし、日本人は韓国人の中の最悪なものに注意を向けている。米国と韓国は深刻で重要な防衛関係を持っている。韓国は、戦時中に在韓米軍司令官から作戦統制権を引き継ぐ準備をしているため、莫大な費用を高価な兵器に費やしている。韓国はまた平沢の巨大な新しい米国基地の代金を支払った。その政治的意義は、(韓国の)北朝鮮のロケット(攻撃)に対する脆弱性と調和している。したがって、多くの米国の同盟国とは異なり、韓国は防衛に資金を費やしている。韓国は中国に対して慎重であるが、韓国市民の抗議にもかかわらず建設された済州島の海軍基地は北朝鮮よりも中国に対して間違いなく有効である。韓国は今後、中国寄りの姿勢をとっていくのであろうか?最近の中韓両国当局者間の防衛に関して協力していく口頭での約束は、顰蹙を買った。一部の韓国人は米軍のプレゼンスに問題があると考えているが、大多数の韓国人は米軍のプレゼンスを支持している。2019年12月の世論調査によると支持は92%である。北朝鮮は、米軍が韓国に駐留していることを韓国市民に思い起こさせ、米国への反対運動を支援するかもしれない。
(5)北朝鮮に関しては、2020年は、北朝鮮の指導者である金正恩の米韓接近の前の2018年の状態に戻るであろう。北朝鮮の軍事的脅威、ミサイルの発射実験、経済制裁への違反を考えてみるべきである。北朝鮮が経済制裁を守っていないことは中国とロシアによって支持されている。北朝鮮は非核化せず、武器とミサイルシステムを徐々に改良していくであろう。北朝鮮海軍の潜水艦発射ミサイルは特に注意するべきである。しかし、米国の観点から見ると、北朝鮮には1つの有益なことがある。それは、中国とともに北朝鮮が日本の防衛意識を高めていることである。これがなければ、日本の政治家や役人の間での防衛への関心は極めて小さいものとなっているであろう。
(6)ロシアも地域のプレーヤーの一員である。ロシアと中国の軍事的な協力は、米国と日本を苛立たせている。しかし、ロシアは潜水艦と先進兵器をベトナムに売っている。ベトナムは中国に偏らない東南アジアの一国である。また、ロシアのPutin大統領は、中国の深圳の先端技術がロシア極東での産業再生につながると考えている。極東ロシアという広大な人口密度の低い土地の近傍には、ロシア人よりもはるかに多くの中国人が住んでいる。中国はそもそも清の時代にロシア皇帝が中国の領土を盗んだと考えている。
(7)中国が「第一列島線」を突破する見込みは薄いが、たゆまず、忍耐強く取り組んでいる。中国は2019年12月に国産初の航空母艦を就役させ、高性能の艦艇と航空機を迅速に建造・製造している。艦艇建造の速度は、過去10年間で米海軍を4対1の比率で上回っている。この地域では、おそらく米海軍第7艦隊の10倍以上の艦艇が利用可能である。また、中国の海警、法執行機関の船舶、いわゆる海上民兵、武装化された漁船隊も忘れてはいけない。将来的に全体の兵力数を考えるべきである。米国は、より多くの艦船を迅速に建造するか、地域の同盟国軍隊をより良く組織し武装させるかをするべきである。理想的には、両方同時並行して行うべきである。中国は遠い将来に視野に目を向けている。ミクロネシア、マーシャル諸島、キリバス、パラオなどの太平洋諸国、さらには北マリアナ諸島、グアムの米国領の経済、社会、政治的指導者たちに、30年もかけて援助をほのめかし続けている。近年は、南太平洋での取り組みも強化している。中国はまだ軍事的侵略を行っていない。しかし、それらは後で必ず起こる。現在、中国はフィリピンに圧力をかけている。台湾を圧倒するために南シナ海での活動を強化している。しかし、今後の趨勢は不明である。2020年も中国は台湾、日本、韓国としのぎを削っていくであろう。中国のその努力は長期間にわたっており、ある日何かが起こるであろう。2020年にそれは起こらないであろうが、2030年には東シナ海の戦略的なチェス盤の情勢が大きく変わる可能性がある。
記事参照:In East China Sea, Beijing plays long game

12月28日「行動規範交渉のさなか、態度を硬化させつつあるASEAN諸国―香港紙報道」(South China Morning Post.com, December 28, 2019)

 12月28日付の香港日刊英字紙South China Morning Post電子版は、“Asean members up the ante on South China Sea amid code of conduct talks”と題する記事を掲載し、COCの合意期日が迫るなか、ASEAN諸国が態度を硬化させつつあることについて、要旨以下のとおり報じている。
(1)南シナ海における行動規範(Code of Conduct:COC)について、2021年までに合意達成が目指されているなか、ASEAN諸国は南シナ海におけるその領土主権の主張を強めている。一例として、マレーシアが12月12日、国連大陸棚委員会に200海里ラインを超えたところに自国の大陸棚の限界線を設定すると提案した。中国はそれを非難し、マレーシアが中国の主権を侵害し、国際法に違反していると主張した。
(2)南シナ海は年間5兆ドルもの製品がそこを通行する重要海域であり、天然資源も抱負である。そこでは中国と東南アジア諸国との間で領土的論争が長引いており、さらに中国とアメリカの敵対関係によってその問題は複雑化されてきた。中国はこれまで係争海域に人工島や軍事施設を建造してきたが、12月になって国産初の航空母艦「山東」を就役させたが、それは領土的主張を争う国々を脅かすものであった。
(3)中国のこうした動向に対し、東南アジア諸国の権利主張国は「予防的」戦術を採用するかもしれないと述べたのは、広州にある曁南大学の東南アジア問題専門家の張明亮である。彼によればそうした戦術は、国家の利益を守るための方法であると同時に国内の政治的圧力を和らげるためのものでもあるという。
(4)たとえばベトナムは、最近までバンガード堆をめぐって中国との間で揉めていたが、それが落ち着いた後に国防白書を10年ぶりに発表、南シナ海における「新たな展開」への懸念を示した。フィリピンもまた、Duterte政権において中国に対して融和的なアプローチがとられてきたものの、沿岸警備隊の増強を予告した。報道によれば、2025年までに2万5千人の増強を目指しているという。これは明らかに中国海警局や漁船(民兵)らによって、南シナ海におけるフィリピンの活動が妨害されてきたことに対する対抗措置である。
(5)ASEAN諸国は、中国に対抗するこうした動きを、COCの合意の前に「できる限り」結集する可能性があると、シンガポールのNanyang Technological University,S. Rajaratnam School of International Studiesの研究員Collin Kohは述べた。前述したように2021年中にCOCの合意が目指されており、そのために関係各国はその行動を自制するかもしれないが、他方で、COCの交渉を有利に進めるために自国の主張を強硬にし、単独ではなく協力して中国に対抗する可能性もあるだろう。
記事参照:Asean members up the ante on South China Sea amid code of conduct talks

12月30日「AOIPに対する中国の反応―シンガポール専門家論説」(RSIS Commentary, December 30, 2019)

 12月30日付のシンガポールThe S. Rajaratnam School of International Studies(RSIS)のウエブサイトRSIS Commentaryは、同所研究員Benjamin Tze Ern Hoの“How China Sees the Indo-Pacific: What Next After AOIP?”と題する論説を掲載し、ここでHoはASEANの独自のインド太平洋構想である“ASEAN Outlook on the Indo-Pacific”(AOIP)の発表以来、中国の専門家たちが北京と東南アジアの関係にとってAOIPが何を意味するのかについて分析しているとして要旨以下のように述べている。
(1)2019年6月、バンコクで開催された第34回ASEAN閣僚会議に際し、ASEANの外相たちはASEAN独自のインド太平洋構想(以下、AOIPと言う)と呼ばれる文書に合意した。この構想は地政学的対立において一方を支持しないことを保証すると同時に、インド太平洋におけるASEANの立ち位置を効果的に述べている。それまでインド太平洋戦略に関心を持つ中国の専門家の多くは、4カ国安全保障対話(以下、the Quadと言う)の日米豪印各国とインド太平洋という概念が、この4カ国の地政学的計算をどのように反映しているのかに焦点を当てていた。AOIPが公表されて以降、中国はその評価に比較的慎重であり、この文書に対する支持あるいは懸念といった公式の立場を述べることを控えてきた。
(2)AOIPは、外部勢力に押しつけられた言葉に不本意ながら同意しなければならなかったというものではなく、ASEAN独自の条件で地域安全保障の発展を求めるというASEAN加盟国の構想を自身の言葉で示しているものという暗黙の了解が、中国の研究者、政策立案者の間にあった。示されたAOIPの表現の多くは地域的及び国際的な秩序に対する中国の嗜好と概ね一致しているという事実は、北京が不満をほとんど述べないことを意味している。
(3)AOIP はASEANが大国に関与するために考える機会を与えることに成功したにもかかわらず、筆者の中国における調査、中国研究者へのインタビューからいくつかの課題が見出された。
a. 第1に、現在進行中の米中の緊張を考えると、AOIPが米国独自のインド太平洋構想に不可避的に組み込まれる可能性があり、ASEANの立場と大局観が弱くなるという懸念があった。
b.第2に、ASEANが地域協力において中心的役割を果たすことに成功したのは、その地域に関与する大国が、それぞれの地域メカニズムに対する他の大国による満場一致の支持と同意を得ることができないためであると見られていた。そのため、何もないよりもましなため、ASEANが地域協力の試みを促進することを外部勢力が喜んで許可した。
c.AOIPは、新しいメカニズムを生み出すことや既存のメカニズムの置き換えを目的としていないことを考えると、現在の多国間協定の弱点と制限を被りやすい可能性もあることが注目された。これらには、ASEAN主導のフォーラム(編集注:ASEAN地域フォーラム(ARF))は「おしゃべりの場」に過ぎず、紛争を解決する、または地域の問題に実用的な解決策を提供することもできないという批判が含まれている。
d.さらに、現在のASEAN主導の東アジアサミット(以下、EASと言う)は経済問題に焦点を当てているが、インド太平洋戦略は主に安全保障の問題であることを考慮すると、インド太平洋を構成するEASの権限の拡大を検討する必要があることが強調された。ただし、拡大されたEASは(関与が増大するため)効果が低下する可能性があり、協力を難しくする。
e. 最後に、ASEAN加盟国の国内の意見には不一致があり、それぞれの外部勢力との関係も大きく異なっていたことも浮き彫りになった。さらに、AOIPの目的達成はASEAN自体では行えない可能性があり、外部勢力の支援と参加が必要であるため、大国間競争の複雑さも考慮する必要がある。
(4)これらの検討事項を念頭に置いて、現時点で中国はAOIPに対する政治的支持を表明することを約束する可能性は低いと結論づけられる。代わりに、北京がより関心をもっているのは、これがASEAN諸国と自身との間のより大きな実際の協力にどのように転換されるかである。今後、中国は、関連する利害関係者とASEANの利害関係者との関係をより制度化するように要求したいと考える可能性がある。
(5)そのような構想は中国に特権を与え、ASEAN加盟国を中国中心の多国間協定に導く可能性があるという懸念もある。北京は、その地域外交において強制的と見なされないよう、ASEANに言い寄ることにおいて慎重に歩まなければならない。同時に、ASEANにとって、この地域の安全保障構造における中心性と一体性を維持するために、その言葉だけでなく、その行動が北京や他の大国の双方によって綿密に精査される。
記事参照:How China Sees the Indo-Pacific: What Next After AOIP?

12月30日「中国の海洋主張は2020年に厳しい審判に直面する-台湾研究者論説」(Asia Times, December 30, 2019)

 12月30日付の香港のデジタル紙Asia Timesは、台湾國立政治大學の研究員Richard Heydarianの“China’s sea claims to face stiff test in 2020”と題する記事を掲載し、ここで Heydarianは中国が香港での抗議行動、台湾の蔡英文総統再選、東南アジア諸国の権利主張の強化、米中貿易摩擦、さらに「航行の自由作戦」の常態化を含む米国の軍事的関与の強化等に直面し、2020年は中国の海洋における権利主張は厳しさに直面するとして要旨以下のように述べている。
(1)米国の力強い関与を背景に、東南アジアのいくつかの国々が中国に対抗して南シナ海における自国の権利の主張を強めている。習主席は南シナ海に国産空母を就役させ、軍事的優位による紛争収拾を図ろうとしてきた。しかし、中国の力の誇示は、米国の支援を得た東南アジア諸国の権利の主張を逆に強めることにつながっている。ベトナムやマレーシアなどが南シナ海における中国の主張に国際法の立場から公然と挑戦している。12月12日、マレーシアは排他的経済水域を超える拡張大陸棚申請を国連に提出した。マレーシアの申請は中国が主張する九段線における中国の権利と管轄権を否定するものともなる。中国は2016年の仲裁裁定の否定と同様に、直ちにこの申請を拒否する姿勢を示した。この1年、東南アジア諸国は中国の一帯一路事業による「債務の罠」に対抗する姿勢を醸成してきており、マレーシアにおけるMahathir首相の返り咲きは国民の反中感情の表れでもある。
(2)今、習主席は香港における民主化のための抗議行動という深刻な問題に取り組んでいる。台湾では香港問題を背景に蔡総統が再選された。中国は香港や台湾との関係に加え、東南アジア諸国の挑戦、そして米中貿易戦争に直面している。Trump大統領は、中国の軍事力を背景として拡大する海洋の主張に対して、国防総省に行動の自律性を与え予算を配分している。過去2年間、米海軍は中国が占拠する島嶼の12マイル以内を含む海域に対する「航行の自由作戦」を常態化させてきた。米国政府はこの「航行の自由作戦」をフィリピンが領有を主張するスカボロー礁にまで拡大しており、中国はこの地域に防空識別圏を設定する必要に迫られている。米国はまた、フィリピンの船舶、人員、航空機が中国の民兵による武装漁船等から攻撃を受けた場合には救済することを明らかにした。米国防総省は、グレーゾーン事態における中国の行動を警戒し、将来的には中国の準軍事力に対応できる法整備を進めると宣言している。米沿岸警備隊は「航行の自由作戦」に参加しており、東南アジア諸国のパートナーとの合同演習を実施するなど、作戦海域を拡大している。2020年、ベトナムが東南アジア諸国連合の議長国となる。ベトナムは海上における中国の軍事的脅威に対峙するための東南アジア諸国連合のコンセンサス形成を試みるだろう。そして、Trump政権も選挙戦に向かう中で、有権者に対して中国への強硬姿勢を示す政策をとっていくであろう。
記事参照:China’s sea claims to face stiff test in 2020

12月31日「ロシアによる北極海航路開発計画の承認―ノルウェー・メディア報道」(The Barents Observer.com, December 31, 2019)

 12月31日付のノルウェーのオンライン紙The Barents Observerは、“Moscow Adopts 15-Year Grand Plan for Northern Sea Route”と題する記事を掲載し、ロシアが採択した大規模な北極海航路開発計画の内容について、要旨以下のとおり報じている。
(1)12月21日、ロシアのMedvedev首相は北極海航路に関わる15年がかりの大規模な開発計画を承認した。それは船舶の新造、空港や鉄道、港湾などのインフラ整備、そして北極海の天然資源開発を含む大掛かりなものである。2018年5月、Putin大統領は2024年までに北極海の年間交通量を8000万トンまで増やすという目標を発表しており、この計画は大統領が掲げた目標と軌を一にしている。
(2)この計画は15年がかりとはいえ、インフラ整備から衛星発射に至るまでさまざまな分野をカバーするものであり、非常に過密なスケジュールとなっている。この計画における最優先の課題である地質調査に関する決定は、2020年4月までに下されるであろう。同年6月までには、ヤマル半島北部に位置する港湾都市・液化天然ガスターミナルであるサベッタまでの鉄道開発についての決定も下されるであろう。天然資源開発も重要で、それにはロシアのさまざまな巨大企業が関わるであろう。たとえばNovatekやGazprom NeftやRosneftなどの石油会社やガス会社、NornickelやVostokCoalなどの鉱物開発会社などがそれである。
(3)北極海航路の開発とその利用のためには、船舶の新造も計画の重要な一部であり、2035年までに約40隻の新造が予定されている。そのうちのいくつかは原子力砕氷船で、3隻のLider級砕氷船を含んでいる。それは非常に強力な砕氷船であり、北極海航路の利用拡大を促進するであろう。それぞれ2027年、2030年、2032年の進水が予定されている。砕氷船の新造に加え、13隻の水路測量船の新造、既存の船舶のアップグレードも計画には含まれている。
(4)この計画はインフラ整備も含んでいる。そのひとつは、アルハンゲリスクからシクティフカル、ペルミを結ぶBelkomur鉄道路線であり、その計画を前進させるかどうかについては2022年までに決定が下されるであろう。また、アムデルマやペヴェク、チェルスキー、ケペルヴェエムなどの地方にある空港のアップグレードも計画されている(これら4つの空港はいずれもロシア北岸に近い場所に位置している)。また、オビ湾の浚渫工事が2021年12月までに完了予定であり、同じ頃、ムルマンスクに運輸ハブ施設が出来上がるであろう。
(5)北極海航路開発計画にはさまざまな企業が関わることになるが、企業の参加を促すインセンティブが必要であり、それについては現在立法作業が進められている。それは2020年第1四半期に成立するであろうが、北極海への投資について大幅な税制優遇措置を認めるものである。政府の試算では、それによって今後15年間で15兆ルーブル(2160億ユーロ)の新しい投資をもたらすという。Yuri Truhnev副首相によれば、この法律こそが、計画達成のための重要な解決策のひとつである。
記事参照:Moscow Adopts 15-Year Grand Plan for Northern Sea Route

【補遺】

旬報で抄訳紹介しなかった主な論調、シンクタンク報告書
(1) Can India Survive in a China-Centered Asia-Pacific?
https://thediplomat.com/2019/12/can-india-survive-in-a-china-centered-asia-pacific/
The Diplomat.com, December 21, 2019
Dr. Lakhvinder Singh, a Seoul-based geostrategist currently affiliated with The Asia Institute.
12月21日、The Asia InstituteのLakhvinder Singhは、デジタル誌The Diplomat に、" Can India Survive in a China-Centered Asia-Pacific? "と題する論説を発表した。ここでSinghは、経済的にも軍事的にもインド太平洋地域を支配してきた米国がこの地域から後退しつつある一方、軍事大国を目指す中国が域内のほとんどの国との最大の貿易相手国として台頭してきており米国の空白を埋めようとしているとの現状認識を示した上で、中国のインド太平洋地域での影響力拡大はソフトパワーにも及んでおり、「アメリカンドリーム」は徐々に「チャイニーズドリーム」に取って代わられようとしていると指摘している。そして彼は、孔子学院と中国系国際メディアの世界的なネットワークは、中国のソフトパワーの影響力を拡大する上で重要な役割を果たしており、一帯一路構想のビジョンが示すとおり、すべての道が文字通り北京につながるのは時間の問題だとの危機感を表した上、インドは現在のミクロ的な戦略をあらため、これまで以上に大局的な視点に立ち、アジア太平洋地域へのコミットメントを高めなければならないと論じている。
 
(2) Key parts of US defence spending bill, signed by Donald Trump, take aim at China
https://www.scmp.com/news/china/diplomacy/article/3043066/key-parts-us-defence-spending-bill-signed-donald-trump-take
South China Morning Post.com, December 21, 2019
12月21日、香港日刊英字紙South China Morning Post電子版は、“Key parts of US defence spending bill, signed by Donald Trump, take aim at China”と題する報道記事を掲載した。この記事では、①米議会の上下両院が法案を圧倒的多数で可決し、12月20日にTrump大統領が、中国を怒らせる可能性が高い国防授権法に署名した、②この法には、ワシントンと台湾との関係の強化と、ファーウェイへの制裁が過早に撤回されるのを制限する強制審査が含まれている、③明示的に言及されたファーウェイに加えて、他のいくつかの著名な中国企業は社名で言及されることなくこの法の対象となっている、④特に中国のサイバーハッキング、知的財産窃盗及び南シナ海での島の構築に対する米国の懸念を考慮して、その後の貿易及び国家安全保障法において、より厳しい制約が継続する可能性が高い、⑤米専門家曰く、誰が米大統領選挙に勝ったとしても、中国を標的にする可能性は高く、それが新しい常識になっている、⑥新しい国防権限法は、北極圏にも焦点が当てられており、北極圏における中国の投資及び軍事活動に関する報告を必要としている、⑦新しい法には、「協力的な防衛技術プログラム及び中国又はロシアへの技術移転のリスク」も含まれている、⑧この法は、中国の名前を明確に挙げずに、この国が太平洋で行うかもしれない軍事同盟の強化に大きな注意を呼びかけ、太平洋島嶼国における他国の軍隊の戦略的利益、既存の、または新興の非太平洋島嶼国とのパートナーシップまたは同盟、そして、この地域における他国の軍事訓練、演習及び作戦に関する報告を必要とする、といったことなどを報じている。