海洋安全保障情報旬報 2019年12月1日-12月10日

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12月5日「チャゴス諸島の主権問題に関するオーストラリアの立場―豪専門家論説」(December 5, 2019, The Interpreter)

 12月5日付の豪シンクタンクLowy InstituteのウエブサイトThe Interpreterは、Australian National University研究員兼大学院生Samuel Bashfieldの “Diego Garcia: The costs of defending an Indian Ocean outpost”と題する論説を掲載し、koSamuel Bashfieldは米軍基地ディエゴ・ガルシアがあるチャゴス諸島の主権をめぐる問題に関して、英国を支持するオーストラリアは国際的なルールなどの価値よりも安全保障上の利益を優先しているとして要旨以下のように述べている。
(1)6カ月以内に無条件に植民地行政をチャゴス諸島から撤退させるよう要求した5月の国連安保理決議73/295に英国は従わなかったが、オーストラリアは決議に反対する6つの国家の1つだった。11月22日の締め切りを守らなかった英国はモーリシャス首相Pravind Jugnauthによって違法な植民地占領者という焼き印を押されている。
(2)英国はモーリシャスによる主権主張を無視することについて、かなりの国際的批判を招いた。英国による係争中の主権主張に対するオーストラリアの支持は、オーストラリアが国際法に基づく交渉を通じて相違点の解決を求めている南シナ海政策を国際法違反にする危険性がある。なぜオーストラリアは、英国による主権の主張を支持することをいとわないのだろうか?
(3)広大なインド洋の中心に位置するチャゴス諸島の環礁の1つには、米海軍支援施設であるディエゴ・ガルシアが存在する。ディエゴ・ガルシアは、インド洋、アフリカ及び中東地域への米国の戦力投射を可能にする上で重要である。名目上は米軍基地だが、ディエゴ・ガルシアはオーストラリアを含む同盟国軍隊によっても使用されている。オーストラリアにとってディエゴ・ガルシアはインド洋及びそれ以遠での軍事作戦に利用可能な戦略的資産である。ココス諸島に加えて、ディエゴ・ガルシアはインド洋におけるオーストラリアのプレゼンスを支え、この広大な地域で友好的な港を提供しているのである。米国の同盟国として、オーストラリアはディエゴ・ガルシアに配置されている能力の恩恵を受けており、オーストラリアの利益を支援する海上、航​​空作戦のための同基地を使用しているのである。
(4)中国がインド洋への軍事展開を拡大するにつれて、米国の軍事使用のためのディエゴ・ガルシアの維持は増々必要となる。インド洋が大国間の競争が激化する地域になるにつれて、ディエゴ・ガルシアは米国及び同盟国の軍隊にとって貴重な資産であり続けるだろう。
(5)ディエゴ・ガルシアの基地が、モーリシャスの主権の下でも現在の態様で活動し続けることが可能かどうかは不明である。国連総会でJugnauthは、モーリシャスが「(ディエゴ・ガルシアでの)防衛施設の制限のない運用を可能にする長期的な協定を結ぶ準備ができている」と述べたが、国連決議73/295が可決されて以来、英国と米国が何もしないことは、この解決策が受け入れられるものではないということを示している。英国の欧州・米国担当大臣Alan Duncan卿はディエゴ・ガルシアが遂行する任務の多くは「英国の主権の下でのみ可能である」と声明書で述べた。米国と英国はモーリシャスと交渉を行うことを渋っている。現状からの脱却には、米国と英国の妥協を必要とする。
(6)国際的に不評だが、チャゴス諸島に対する英国の主権に対するオーストラリアの支持は、今日のディエゴ・ガルシアの戦略的重要性を示している。モーリシャスの主権主張とチャゴス諸島の共同体による祖国へ復帰する権利をめぐる争いをはねつけることにより、この事例では、オーストラリアは、国際的なルール、規範及び価値観よりも安全保障と防衛の利益を優先しているのである。
(7)交渉される解決策はモーリシャス、英国及び米国からの妥協を必要とするだろう。一方、同盟の義務及び安全保障上の利益と国際的なルール、規範及び価値観の支持とのバランスをとるためには中級国としてのオーストラリアの支持も必要である。
記事参照:Diego Garcia: The costs of defending an Indian Ocean outpost

12月5日「印海軍、潜水艦用国産AIPを断念―デジタル誌編集委員論説」(The Diplomat, December 05, 2019)

 12月5日付のデジタル誌The Diplomatは、同誌上席編集委員Franz-Stefan Gadyの“India’s New Attack Subs to Be Fitted With Imported Air Independent Propulsion System”と題する論説を掲載し、ここでGadyは印海軍がProject-75 Iに基づいて建造される潜水艦への国産AIPの搭載を断念し、海外から導入するAIPを搭載する模様であるとして要旨以下にように述べている。
(1)印地方紙の報道によれば、印海軍のProject-75 Iに基づく第2世代通常型潜水艦は国産非大気依存型推進装置(以下、AIPと言う)を搭載しないようだ。代わりに、印海軍は既存のAIP技術を海外企業から購入するようである。
(2)印Defense Research and Development Organizationは、多年にわたりLarsen & Toubro 等の提携企業とともにNaval Materials Research Laboratoryにおいて国産AIP開発業務を実施してきた。国産AIPは2024年までに開発を完了し、艦艇への装備を準備する構想で、Scorpene級潜水艦6隻に装備される予定であった。6隻のScorpene級潜水艦は就役から約6、7年を経過した最初のオーバーホール時にAIPが後日装備される計画である。1番艦は2017年に就役しており、2番艦は2019年9月に就役している。
(3)印国防省の装備調達の中核的組織であるDefense Acquisition Councilは1月にProject-75 I潜水艦6隻の調達を承認した。この承認は、2007年に国防省が最初に承認し、10年以上にわたって進められてきたProject 75-I調達計画が受けた最初の動きである。Project 75-I潜水艦計画の総額は56億ドルと見積もられている。この計画は国防調達手順2016の枠組みに基づき国防省の戦略的提携モデルの下で推進されている。新しい調達モデルの下で、外国造船企業、原装備品製作会社(以下、OEMと言う)は戦略的提携企業として指定され、印国内造船所と提携しなければならない。「OEM協力する提携企業は、潜水艦建造のための専用の装備品製造ラインを印国内に設置し、潜水艦設計、インドを潜水艦設計、建造の国際的なハブにすることが命じられている」と2019年6月の声明で印国防省は述べている。
 (4)外国製AIPの選択はどのタイプの潜水艦を選択するかにかかっている。現時点では、Naval GroupがOEMの先頭を走っていると考えられている。
記事参照:India’s New Attack Subs to Be Fitted With Imported Air Independent Propulsion System
 

12月5日「排他的経済水域内の外国船の行動に対するインドの二枚舌―印国際政治専門家論説」(The Wire, December 5, 2019)

 12月5日付の印インターネットメディアのThe Wireは、印シンクタンクObserver Research Foundationの名誉フェローであるManoj Joshiによる“India ‘Chased’ a Chinese Ship from its EEZ but US Intrusions Go Unchallenged”と題する論説を掲載し、そこでManoj Joshiは、最近インドが排他的経済水域内で活動した中国調査船を「追い払った」出来事を引き合いに出し、それが意味するインドの「二枚舌」の姿勢について要旨以下のとおり述べている。

(1)メディア報道によれば、インドはアンダマン海から中国船を「追い払い」、インドの排他的経済水域(以下、EEZと言う)における外国船の活動の統制に成功したとされている。しかし、この出来事をめぐる真実は複雑でもあり単純なものでもある。
(2)インドや中国は、自国のEEZ内における軍事的活動に対する統制を国内法で定めた国のひとつである。その国内法とはインドのEEZ内で軍事活動を実施する予定の外国船に事前通告を求めるものである。今回のケースは調査船による活動であったが軍事活動であったことには疑いなく、インドは自国の法律に基づいて行動をした結果、中国が引き下がったというものである。
(3)自国EEZ内における外国船の軍事活動を制限する権利は必ずしも国連海洋法条約(以下、UNCLOSと言う)によって定められたような普遍的権利ではない。それはあくまで、UNCLOSを批准した国々が個々に宣言するたぐいのものである。たとえばインドは1995年にそれを批准したが、同時にその条約が「EEZや大陸棚における軍事演習や作戦行動、とりわけ兵器や爆発物の使用を含む行動の実施を、沿岸国の同意なしに外国に認める」ものではないという理解に基づいて同条約を批准すると宣言したのである。このようにUNCLOSは、沿岸諸国に外国船の通行を制限する権利を認めていない。
(4)中国は過去にもインドのEEZ内でデータ収集を実行した経験があり、このときも退去要求に抵抗することもできたであろう。しかしそうしなかったのは、仮に船舶がインドに拿捕されるようなことがあれば、その船の秘密が暴かれる可能性を考慮してのことだったのであろう。
(5)UNCLOSの解釈について最も強硬な立場をとっているのは米国であり米国はそれを批准すらしていない。米国の姿勢はインドと対立するものであり国防総省が2017年に発表した22の「航行の自由作戦(FONOPS)」実施国リストのなかにインドが含まれている。米国は恒常的にインドのEEZ内で調査活動を行なっており印政府はしばしばそれに抗議してきたが、印政府は概ねそれに対して沈黙を守ってきた。それが印政府の姿勢とはっきりと対立するにもかかわらずである。
(6)つまりインドは相手によって(この場合、中国と米国で)態度を変えているということである。もし印政府が従来の立場を維持するなら米国にUNCLOSを批准するよう要求すべきであろう。そのとき、EEZ内の通行に制限をかけるという点において、むしろ中国とインドの姿勢が似ていることを考慮すれば両国が一緒になって米国に圧力をかけることもできるはずだ。
(7)ただし、中国のUNCLOSに対するアプローチに問題がないわけではない。九段線の主張や南シナ海における岩礁・環礁周辺の埋め立てやその軍事化など、さまざまな問題がある。インド洋においても中国船の恒常的なプレゼンスがある。現在のところ、グローバルに活動できる海軍力を持っているのは米国だけだが、中国人民解放軍海軍の増強を考慮すれば、それに対する柔軟な対応が必要になってくるだろう。その中にはUNCLOSの明確化や、必要であればその修正も含まれるであろう。
記事参照:India ‘Chased’ a Chinese Ship from its EEZ but US Intrusions Go Unchallenged

12月6日「インドでの対テロ図上演習と4カ国安全保障対話のもつ意味―印専門家論説」(December 6, 2019, The Diplomat)

 12月6日付のデジタル誌The Diplomatは、印シンクタンクObserver Research Foundationの特別研究員Rajeswari Pillai Rajagopalanの“What Does the New Counterterrorism Exercise Mean for the Quad?”と題する論説を掲載し、ここでRajagopalanは日米豪印4カ国対話が着実に進歩してきている一方、11月にインドが主催した対テロ図上演習に見られるとおりインドの4カ国安全保障対話への姿勢には温度差があり、相互信頼構築も途上にあるとして要旨以下のように述べている。
(1)米国、日本、インド及びオーストラリアの間の4カ国安全保障対話(以下、Quadと言う)は、しばしばその目的と能力について疑問視されている。しかし、過去2年間で、Quadは徐々に堅調になり、各国間の交流レベルが向上し、北京がこの冒険的事業を批判することについても加盟国自身はあまり神経質ではなくなった。
(2)11月21から22日にかけて、インドはニューデリーにおいてQuad加盟国間で初めての対テロ図上演習を開催した。図上演習を主催した印National Investigation Agencyには、この演習は地域レベルと世界レベルで既存及び新興のテロリストの脅威への対テロメカニズムの評価及び検証を行うことを意図していると報告されている。インド自身の軍事的な対応能力が不十分なことはよく知られており、ニューデリーはこうした協力に対して門戸を開いている。この演習はまた、事態を沈静化させるための戦略、4カ国が1つとして行動するための戦略の発展と成功事例の共有、Quadの4カ国間協力を強化する分野を拡大することを目的としている。その観点から見ると、この演習は国の省庁間調整の問題を強調するのに役立ち、また、4カ国の治安機関と対テロ機関との間の複数機関の調整の強化にもなる。
(3)この演習はQuad の4カ国による最初の具体的な共同安全保障構想であったため、重要である。重要なことは、これは安全保障の演習ではあったが、中国を対象としていなかったことである。しかしそれでも同演習はQuadの4カ国の多く、特にインドが好む通常の人道支援・災害救助活動演習から一歩を踏み出している。Quadが外相会合へと格上げされたという事実は、4カ国の参加国がQuadにつながる意義に関する重要な指標でもある。
(4)とはいえ、この進展を誇張するべきではない。Quadの復活と演習の実施は、かつてQuadの停滞へとつながった当初の懸念が正しく、より深刻になっているという事実を再確認させるものでもある。Quad各国のコミットメントのレベルは信用されておらず、彼らの相互信頼は依然として進行中の取り組みである。
(5)インドも例外ではない。一方で、インドは同盟を結ばずにパートナーシップを築くことを可能にするいくつかのメカニズムの1つとしてQuadを受け入れており、インドに対する中国の行動と敵意がニューデリーをしてQuadに関してそれほど消極的ではない方向に押しやっている。しかし一方で、当面、インドがQuadに参加する意欲は可能性と限界を評価する対テロ図上演習のような非軍事同盟構想を試すものに限られている。
記事参照:What Does the New Counterterrorism Exercise Mean for the Quad?
 

12月6日「米中分断:現実か?望ましい形は?-米専門家論説」(China US Focus.com, December 6, 2019)

 12月6日付の香港China-United States Exchange FoundationのウエブサイトChina US Focus は、George Washington University のAsian Studies, Political Science & International Affairs教授Gaston Sigurの“U.S.-China Decoupling: How Feasible, How Desirable?”と題する論説を掲載し、ここでSigurは米中分断の動きは商業、技術の分野だけでなく、トラック1、トラック2の対話の縮小、学術交流の制限など様々な分野で進んでいるが、緊急事態においては米中双方の政治と社会の分野における再結合の場が必要であるとして要旨以下のように述べている。
(1) Trump大統領の元顧問Steve Bannon氏や現経済顧問のPeter Navarro氏は米中分断のロビー活動を行ってきたが、Pence副大統領は2019年10月24日のWoodrow Wilson Centerでの演説でこの考えを否定している。Trump政権の中では、対中関係について見解が分かれているのではないかとの疑問の声を聞くことが多い。しかし、米中分断は既に進行中であり、それは商業や技術に止まらず拡大していると見るべきである。中国では既に、国内における情報の流れと外国企業の活動を制限することで実質的に分断措置を講じている。米国としては、国家安全保障の観点からある程度の離反は望ましいのである。中国では、研究開発、商業や技術の分野で外国企業のアクセスを厳しく制限している。米中は防衛関連の研究開発では国家安全保障の面から壁を設けている。しかし、民間技術が軍事に適用されることは避けられない面がある。現に、習主席は「官民軍事融合」計画を進めている。そのような中、米国や他の外国企業は生産拠点を中国から東南アジアや南アジア、ラテンアメリカ、更には母国に移転し始めている。既存のサプライチェーンが再構築されつつあり、米中分断は部分的に進行しているのである。
(2) 米中分断はもっと大きな問題として捉えるべきであろう。外交関係の正常化以来40年間、米中は戦略的、外交的、軍事的、文化的、教育的など広範多岐に亘る分野で密接に交流してきた。2つの異なる社会と政府との間の交流であり、Carter 政権とReagan政権の外交前提でもあった。この米国による“エンゲージメント”戦略は“協力体質”を生み出した。しかし、この10年から15年の間に米中の結びつきは政治と社会の両面から萎縮してきた。依然として多くの中国人学生が米国に留学しているが、観光や文化交流においてはかなりの範囲で分断が進んでいる。かつては、国家安全保障に関わる官僚等が定期的に協議の場を持ち、共通の課題について対話していたが、今日、それら政府間対話はほんの少ししか残っていない。非政府組織による「トラック2」対話も同様に縮小している。米国における中国民間人によるスパイ活動が深刻な懸念となっていることから、学術交流は制限される傾向にある。部分的な米中分断は進行中あるいは既にかなり進んでしまっており、今や、米中交流の場は縮小し、相互にサポートし合う構造が失われている。米中の関係は悪化しているが、相互作用の存在は新たな冷戦時代の到来を制約する役目を果たすはずである。現状はともかくとして、緊急事態においては、米中双方の政治と社会における再結合の場が必要である。
記事参照:U.S.-China Decoupling: How Feasible, How Desirable?

12月7日「スリランカ新政権、ハンバントータ港貸与協定の見直しを希望するも、中国、関心を示さず―香港紙報道」(South China Morning Post.com, December 7, 2019)

 12月7日付の香港日刊英字紙紙South China Morning Post電子版は、 “Sri Lanka wants its ‘debt trap’ Hambantota port back. But will China listen?”と題する記事を掲載し、スリランカの新政権が対中債務のかたとして中国にハンバントータ港を99年間貸与した協定の見直しを希望しているが、中国はほとんど関心を示していない、として要旨以下のように報じている。
(1)スリランカの新大統領、Rajapaksa は、2年前に対中借款の見返りに中国にリースされたハンバントータ港を取り戻すことを望んでいるが、それが実現するチャンスはあまりないように思われる。スリランカ南部の航行船舶の多い海上ルートの中心に位置するハンバントータ港は、中国の「債務の罠外交」の最悪のシンボルとして批判されてきた。元大統領の弟、Rajapaksaは、同港に関する中国との協定を無効にすることを公約し、大統領に選ばれた。Cabraal首相は、「理想は元の状態への回帰である。我々は、当初の協定に従って債務を返済する」と語った。しかしながら、これまでのところ北京は再考の意向を示しておらず、むしろ同国の港湾開発計画の促進を示唆している。
(2)新大統領は中国の「一帯一路構想」(BRI)の一環として合意された協定を再交渉しようとしているが、南・東南アジアでは、こうした再交渉はスリランカだけではない。マレーシアはThe East Coast Rail Linkの建設契約の再交渉に成功したが、パキスタンやミャンマーなどの他の国はほとんど成功していない。シンガポール国立大学のエコノミスト、Palitは、「協定を再交渉しようとする国の能力は、その国の経済力、交渉術そして戦略的洞察力に左右されるであろう。この点ではマレーシアは優れていた。スリランカはこうした能力を持っていない。スリランカの経済は、内戦終了後10年経つが、未だに高度成長を達成しおらず、長期の民間投資を引き付ける魅力に欠けている」と指摘している。スリランカの債務総額は、現在GDPの78%に達しており、南・東南アジアでは最も比率の高い国の1つである。中国は、2010年~2015年の間、(始末に困る施設として多くの批判に晒された)マッタラ空港とハンバントータ港を含め、インフラ建設計画のために同国に約50億ドルを貸与した。IMFによれば、2018年までに同国への中国の貸与は80億ドルに達していた。マレーシア国立大学のJusohm教授は、スリランカが協定の見直しを望むなら中国に見返りを与える必要があると指摘し、「スリランカは、リース契約を無効にできるかもしれないが、同港を取り戻すためには中国企業に補償金を支払うリスクを負うことになる。更にこのことは中国との間に外交紛争を招来することになろう。いずれにしても、スリランカがそれに代わる協定を提示できるなら、中国に協定を見直しするよう説得できるかもしれない」と語った。
(3)ハンバントータ港の株式の85%は、2017年12月に中国の国営招商局港口控股有限公司に11億ドルで譲渡された。しかしながら、この協定は、自国の地政学的競争相手が同港を軍事目的に利用しかねないことを警戒するインドの懸念を惹起することになった。在ニューデリーの外交専門家、Singhはスリランカの新大統領は「国益を名分にBRIプロジェクトを再交渉しようとするであろう」が、同時に「国家建設に対する新政権の貢献を強調するプロジェクトに名を残すこと」を望んでいると指摘している。上海復旦大学の南アジア専門家、杜幼康教授は、Rajapaksa新大統領の協定見直し願望は経済的な関心よりも国内政治的動機の方が大きいとして、「協定がどのように見直されることになっても、中国に対するスリランカの外交戦術の方向性は変わらないであろう。何故なら、スリランカは中国の投資を必要としているからである」と述べている。
(4)Rajapaksa一族は、ハンバントータ港開発プロジェクトに長年に亘って関わってきており、このプロジェクトは20005年~2015年のMahindaの大統領在任期間の旗艦プロジェクトの1つであった。しかし、このプロジェクトは「21世紀最大の港湾プロジェクトになる」との期待に反して、経済的には大して効果的ではなかった。このプロジェクトの資金調達のためにスリランカは中国から6.3%の高利で3億100万ドルを借り受けた。これに比して、世界銀行とアジア開発銀行からの長期低利貸付の利率は、通常0.25%から3%の間に過ぎない。更にRajapaksa新大統領は否定しているが、港湾プロジェクトに伴う収賄疑惑もあった。Mahinda 元大統領は、2015年の大統領選挙で当選した、Sirisena政権から取り調べを受けた。米紙The New York Timesは2018年に、中国の国営港湾工程有限公司はMahindaの選挙運動に760万ドルを提供したと報じている。Mahindaの息子と彼の2人の兄弟を含め、 Rajapaksa一族の何人かは何十億ドルもの公金不正使用で取り調べを受けている。新大統領も、国防相在任当時の武器取引と軍用及び民間用航空機の購入に関して、不正行為の罪で告発されていた。しかし、この告発は 国家元首の起訴免除によって、大統領就任日に取り下げられた。
(5)Mahinda 政権時に、スリランカは中国から多額の借金をし、2014年には2隻の中国潜水艦のコロンボ港寄港を認め、西側諸国とインドを警戒させた。弟の新大統領は当選後すぐにインドを訪問するとともに中国からの招待も受け入れている。
記事参照:Sri Lanka wants its ‘debt trap’ Hambantota port back. But will China listen? 

12月7日「米中の「偶発的衝突」リスクは「熱戦」へと発展するか―中国ジャーナリスト論説」(South China Morning Post, December 7, 2019)

 12月7日付の香港日刊英字紙South China Morning Post電子版は、北京を拠点として活動するジャーナリストJun Maiの“Former Chinese officials warn tensions with US raise risk of ‘accidental conflict’”と題する論説を掲載し、ここでMaiはここ最近の米中関係の悪化を背景に、両国の「偶発的衝突」が大規模紛争へと発展する可能性が懸念されていることについて、要旨以下のとおり述べている。
(1)米国と中国の間の緊張が高まっているなか、両国の知識人や政府高官らが米中の「偶発的衝突」のリスクの高まりを警告している。たとえば元国務長官Henry Kissingerは、「比較的小規模の衝突」が、第一次世界大戦のような大規模紛争へと発展する可能性を指摘した。中国輸出入銀行の元総裁李若谷もまた「熱戦の可能性がある」と述べている。
(2)米中間の緊張の高まりの原因はいくつかある。その1つが貿易問題であり、それをめぐる対立が他分野にも飛び火する可能性が指摘されてきた。貿易問題をめぐって何らかの妥結に至る見通しは不透明であるし、もしそれがうまくいったとしても、両国間関係がすぐに修復されることはないと考えられている。中国側にしてみれば、貿易問題や、南シナ海問題、台湾問題をめぐる米国の動向は長期的な中国の封じ込めを狙ったものである。それに対して中国は、前財政部長の楼継偉によれば、あくまで「ボトム・ライン」を守る覚悟であるという。
(3)米中間の緊張をさらに高めたのは、11月27日のDonald Trump大統領による「香港人権・民主主義法案」への署名であった。さらに米下院が、新疆ウイグル自治区における人権侵害に関わった政府高官への制裁を定めた法案を通過させたこともそれに拍車をかけた。外交官の杨洁篪はMike Pompeo国務長官に電話でこの2つの法案成立について鋭く批判した。
(4)ただし悲観的な見方ばかりではない。米中関係全米委員会の委員長Steve Orlinsは、米中間の人的交流の深さを指摘しつつ、長期的な観点からは米中関係は楽観視しうると述べたし、前述の李も中国が以前約束した経済解放を実現させれば「両国間の相違は解決されうる」と主張した。中共中央党史研究室副主任である章百家は冷戦期の歴史に学ぶべきだと論じた。1960年代に米中は相互に恐怖を抱いていたが、米国はベトナム戦争に敗北し、中国は文化大革命によってその力を弱めた。それをお互いが理解したことで、米中関係の改善につながった。章は「したがって両国の信頼構築の基盤となる1つは、双方の能力の限界を認識することにあるのだ」と述べている。
記事参照:Former Chinese officials warn tensions with US raise risk of ‘accidental conflict’
 

12月9日「一帯一路は有効か?―印専門家論説」(Vivekananda International Foundation, December 9, 2019)

 12月9日付の印Vivekananda International Foundation のウエブサイトは、同財団研究員Dr Teshu Singhの“The Belt and Road Initiative: Is it Viable?”と題する論説を掲載し、ここでSinghは中国の「一帯一路」(以下、BRIと言う)の要とみなされている中国パキスタン経済回廊(以下、CPECと言う)でさえ現実には様々な問題を抱えていることを指摘し、BRIの実行性に疑問があるとして要旨以下のように述べている。
(1)米外交官Alice Wellsは最近、ワシントンDCのウィルソンセンターで講演し、BRIを批判し、CPECの経済的実現可能性に疑問を呈した。彼女はCPECの透明性の欠如は、米国とパキスタンのビジネス開発パートナーシップとは異なり、パキスタンの債務危機を高める可能性があり汚職に繋がるものだと指摘した。この指摘は中国とパキスタンで波紋を呼び、BRIの実現可能性にも影響している。中国外交部報道官の耿爽は「これは新しい物ではなく、米国による中国、BRI、CPECに対する使い古された中傷の繰り返しである」と反論した。
(2)CPECは1990年に発案され、パキスタン北部のギルギット・バルティタン州の山岳地帯を通る2,700キロのルートを介して、バルティスタン州南西部のグワダル港を新疆ウイグル自治区まで接続するものである。グワダル港に関する協定は、2002年3月22日に「カラコルムからグワダルへの中パキスタン友情の旅」と呼ばれる式典で調印された。ペルシャ湾口のグワダル港は南アジア、中央アジア、西アジア間の戦略的位置に所在し、特にペルシャ湾へのアプローチを重視する中国にとって極めて重要である。2016年11月13日、グワダル港の開港式典に際し、Nawaz Sharifパキスタン首相はこの機会を「新しい時代の夜明け」と呼び「CPECは国全体を変革し解放する」と述べた。
(3) CPECは2017〜2025年の長期計画として想定されている。契約は2013年に締結され、条件は2015年に最終決定され、2016年にプロジェクトが開始された。CPECはシルクロード経済ベルトと21世紀海上シルクロードを結ぶリンクであり、4つの主要協力分野としてエネルギー、インフラ、産業協力、グワダル港が挙げられている。これらの推進のためCPEC長期計画(JCC)に関する閣僚レベル合同協力委員会が設置され、JCCには7つの共同作業グループが設けられている。
(4)しかしCPECはパキスタン内でいくつかの課題に直面している。協定調印後まもなく、カイバル・パクトゥンクワ州知事のPervez Khattakは西側のルートが確保されない場合、CPECが同州を通過することを許可しないと警告した。バルティスタン州でもプロジェクトに対する深刻な葛藤がある。ある意味では、CPECは2つの異なる政治システムの集まりとして見ることができるかもしれない。また、中国はパキスタンのメディアや政党にCPECを受け入れさせることにも苦慮している。実際、2人の中国人がパキスタン南西部で誘拐、殺害され、3人の過激派によるカラチの中国領事館襲撃事件も発生している。
(5) 中国とパキスタンは第2回一帯一路フォーラムの際、CPECの協定に署名した。これにはカラチ-ペシャワル鉄道のアップグレード、自由貿易協定の第2フェーズの開始、ドライポート(抄訳者注:内陸輸送のための積み替え拠点)設立が含まれていたが、その後、具体的な進展は見られなかった。2019年11月6日、CPECの第9回合同調整委員会で、パキスタンはペシャワルからカラチまでの鉄道網建設のため85億米ドルの支出を中国に要請した。2013年以来、鉄道建設の契約条件はまだ確定していない。
(6)2018年の債務対GDP比のIMF予測によれば、2014年から2017年にかけてパキスタンの負債比率は20パーセント近くまで増加している。また、グローバル開発センター(CGD)による最近の報告書では68のBRI諸国が持続可能性の尺度による債務危機のリスクにさらされており、 パキスタンは債務危機のリスクが最も高い8つの最も脆弱な国の1つである。CPECの推定値は620億米ドルであり、このうち330億米ドルはエネルギー関連プロジェクトに投資されるが中国はその金額の80%を融資する予定と伝えられる。一方、2017年末には3つの主要な道路プロジェクトを含む特定のプロジェクトが既にキャンセルされている。更にパキスタンの債務には中国の課す高金利という問題もある。一部の中国輸出入銀行の顧客に対する2〜2.5%の金利と異なり、パキスタンへの貸付は5%と高率であり、その結果、パキスタンの公的債務比率は70%になるとも言われている。 パキスタンはすでに過去6回、パリクラブ(抄訳者注:債権国の代表による緩やかな枠組みを指す)の救済を要求しており、中国からの巨額の債務により7回目の救済を余儀なくされる可能性もある。
(7)第2回一帯一路フォーラムの開会挨拶で習近平はBRIへの批判に触れ、「互恵関係」、「質の高いインフラ」、「債務の罠」などの問題への対応を強調したが、BRIの要とされるCPECについてさえ、中国がコミットした約束が十分果たされるか否か不明なのである。
記事参照:The Belt and Road Initiative: Is it Viable? 

12月9日「南シナ海における日本の選択肢:いくつかの逆転の発想により小国は大国を阻止することができるかもしれない―日専門家論評」(The Diplomat, December 9, 2019)

 12月9日付のデジタル誌The Diplomatは、元海上自衛隊自衛艦隊司令官、香田洋二の “Japan’s Options in the South China Sea. With some reverse thinking, smaller nations may be able to deter a major power.”と題する記事を掲載し、ここで香田は南シナ海の問題に関し、いくつかの方法により小国は大国を阻止することができるかもしれないとして要旨以下のように述べている。
 (1)中国海軍は南シナ海で圧倒的な軍事能力を保持している。日本を含むこの地域のどの国もその能力に匹敵することができないことは明らかである。南シナ海の沿岸国、特にベトナムとフィリピンでは、中国の強力な軍事能力と軍事化された人工島の存在が対中政策の策定にあたって暗雲を投げかけている。安全保障関連の問題に加えて、この地域のすべての国は中国と経済的関係を持っている。中国は経済力を通じて影響力を発揮する能力が向上している。しかし同時に、ほぼすべての地域の国々は米国のはっきりした対中政策と目に見える米国の軍事的プレゼンスを望んでいる。また、米国と良好な経済関係を維持したいと考えている。現在の状況下では、中国は米国よりも有利なようである。今日の南シナ海の行き詰まりは中国の対外行動、軍事行動に対するワシントンの政策と戦略を複雑にしている。しかし同時に、この停滞は中国の政治的及び軍事的作戦の範囲を制約している。そのため、米国、日本、その他の国が南シナ海での中国の問題に対応する余地はまだかなり残っている。この時点で、最適な選択肢を分析することを勧める。もちろん、できることはたくさんあるが、以下で説明する選択肢はおそらく最も高い優先順位を持つに値するであろう。
(2)中国の南シナ海における主要な人工島の軍事化強化は、南シナ海で活動しているすべての沿岸国、特にベトナムとフィリピンに深刻な脅威をもたらしている。2015年以来、中国海軍が人工島に軍事施設を配備しているという複数の報告があった。また、中国が飛行場の建設を完了したことは周知の事実である。大規模な施設の拡充と中国政府の支援を最大限に活用することにより、中国海軍はウッディー島に最新型のH-6K爆撃機とJ-11戦闘機を配備する能力を実証した。他の3つの飛行場を持った人工島への軍用機の配備は公式には発表されていないが、中国海軍がその能力を示すまでには時間がかかると考えられている。人民解放軍はさまざまな種類のレーダー、対空/対艦ミサイルを含む広範囲の近代的な軍事施設、砲、電子戦システム、その他の機器、兵舎、スポーツ施設、補給施設、弾薬庫などの支援施設などを配備していることもよく知られている。この点で中国の軍事化と南シナ海の強化はかなりの規模で進んでいる。しかし、中国の要塞化された島々は決して難攻不落ではなく、南シナ海で活動している人民解放軍はさまざまな理由で「スーパーマン」ではない。
(3)第二次世界大戦中に太平洋の遠方の島々を防衛した日本の経験は、戦時におけるそのような作戦の極めて難しい性格を明らかに示している。中国にとって、海と空の支配と敵軍に対する優位性を維持することは絶対に必要であるが、人民解放軍部隊がそれを達成するのは非常に困難である。島を守るもう1つの重要な条件は、中国本土と海南島からの補給線を維持することである。海南島は、中国の離島を保護するための部隊と作戦の前進基地である。しかし、中国の要塞化された離島は後方支援なしでは単なる無用の長物である。南シナ海における人民解放軍のこの問題への対抗措置として、米軍は主導的な役割を果たした。しかし、沿岸国も同様に追求すべき措置がある。特にベトナムとフィリピンの役割が重要になる可能性がある。
(4)2つの国の利点は、西沙諸島と南沙諸島に関し適切な地理的位置にあることである。ベトナムの海岸線は海南島とウッディー島を確認および制御するのに理想的な場所であり、フィリピンのパラワン島は南沙諸島のすべての人工島をカバーする最適な場所にある。多くの戦略的思想家は単に中国の人工島からミサイル射撃範囲の弧を描き、潜在的な危険を説明する。しかし、ベトナムとフィリピンが人工島に到達するのに十分な射程距離の対地攻撃ミサイルを適切に配備した場合、同様の逆の状況が現れるであろう。これが行われた場合、南シナ海で駆け引きを転換するものと見なされていた中国の島々は、「大きなヘビに直面している無力なカエルのグループ」となるであろう。また、ベトナムには検討すべき別の海軍戦略がある。つまり、ウッディー島に対する孤立化作戦である。ウッディー島は中国の南シナ海における「首都にあたる島」であり、南方への最初の足がかりである。ベトナムは、この目的のためにK級潜水艦6隻を配備する計画を策定する必要がある。そうすることで、南の島々を支援する中国の物流能力が大幅に低下する。最後になるが、両国はこれらの新しい軍事兵器を保護するために、独自の防空及び沿岸防衛能力を開発する必要がある。最近の南シナ海の状況は米中貿易戦争、北朝鮮との緊張及び香港での抗議を考えると、以前よりずっと穏やかに見える。しかし現実は異なる。中国は騒々しい問題の煙幕効果を利用して、南シナ海地域全体で軍事化の試みを静かに推進している。もちろん、日本と米国は中国の課題に対抗するために断固たる行動をとる必要があるが、これは他の国々も同様にやらなければならないことである。以上の措置は控えめかもしれないが、中国軍に影響を及ぼし、中国の経営資源を超える労力と費用を強いることになる。これは小国が大国を阻止するための戦略かもしれない。
記事参照: Japan’s Options in the South China Sea. With some reverse thinking, smaller nations may be able to deter a major power.

【補遺】

旬報で抄訳紹介しなかった主な論調、シンクタンク報告書
(1) How China's Defense Establishment Views China's Security Environment: A Comparison between the 2019 PRC Defense White Paper and Earlier Defense white Papers
https://www.prcleader.org/michael-swaine
China Leadership Monitor, December 1, 2019
Michael Swaine, a senior fellow at the Carnegie Endowment for International Peace and one of the most prominent American analysts in Chinese security studies.
 12月1日、Carnegie Endowment for International PeaceのシニアフェローであるMichael Swaineは、米Stanford University のHoover Instituteのウエブサイト China Leadership Monitorに、" How China's Defense Establishment Views China's Security Environment: A Comparison between the 2019 PRC Defense White Paper and Earlier Defense white Papers "と題する長文の論説記事を発表した。ここでSwaineは、今般公表された中国の2019年版国防白書は、中国の長年にわたる平和と発展路線を再確認し、アジアの多くの発展をより肯定的にとらえる一方で、グローバルな安全保障環境に関する多くの否定的認識を強調しているが、これは、中国の安全保障観と政策に未解決の内部矛盾があることを示唆していると指摘している。そして彼は、習近平政権下の人民解放軍は同白書内では防衛力を強化する中で、習近平が掲げる「人類運命共同体」構想を実現するために他国と協力しているように描かれているが、このようなプロパガンダは中国の実際の目標に対する多くの人々の疑念を強めるだけであり、中国はより現実的で強硬な見方を安全保障戦略に組み入れ、それに米国を関与させ、中米両国の相互配慮に基づく意味のある安定的な安全保障環境を実現させなければならないと述べている。
 
(2) Facing Up to China’s Military Interests in the Arctic
https://jamestown.org/program/facing-up-to-chinas-military-interests-in-the-arctic/
China Brief, December 10, 2019
Anne-Marie Brady, a China and polar politics expert at the University of Canterbury in Christchurch, New Zealand.
 12月1日、ニュージーランドのUniversity of Canterburyの中国専門家Anne-Marie Bradyは、米The Jamestown FoundationのウエブサイトChina Briefに" Facing Up to China’s Military Interests in the Arctic "と題する論説を発表した。ここでBradyは米国防総省が2019年に発表した中国の軍事力に関する年次報告書に初めて北極域における中国の軍事的利益と中国の潜水艦が北極海沿岸で活動する可能性が記載されたことを取り上げ、北極における中国の軍事的野心とロシアとの戦略的パートナーシップの拡大は、多くの国家に警鐘を鳴らしていると指摘している。そして彼女は、今後、もし中国の核搭載潜水艦が探知されることなく北極海にアクセスが可能になれば、中国は米国や欧州を容易にミサイル攻撃できるようになるだろうし、その能力はアジアにおける中国の軍事的支配を強化するだけでなく、世界的な軍事大国として台頭しつつある中国の地位を強化するため、米国、NATO加盟国とそのパートナー諸国、さらにはアジア太平洋地域全体にとって、安全保障環境を一変させることになると警鐘を鳴らしている。
 
(3) The US-China Naval Balance in East Asia
https://www.vifindia.org/article/2019/december/10/the-us-china-naval-balance-in-east-asia%20
Vivekananda International Foundation, December 10, 2019
Aayush Mohanty, Vivekananda International Foundation
 12月10日、印シンクタンクVivekananda International Foundationの研究員Aayush Mohantyは、同シンクタンクのサイトに“The US-China Naval Balance in East Asia”と題する論説を寄稿した。ここでMohantyは、①米国と中国は、貿易と技術の「戦略的競争」、中国の外交的呼びかけ及び軍事力強化の中で膠着状態にある、②中国は今後15年間で400隻以上の水上艦艇と100隻以上の潜水艦を保有することが予想されており、外洋海軍の構築と近海シーコントロールのために海軍の優位性を求めている、③米国が公海における優位性を再確立するための計画である「国家が必要とする海軍(Navy Nation Need)」の6つの柱は、軍事行動への即応性(Readiness)、能力(Capability)、規模(Capacity)、配員(Manning)、ネットワーク及び運用コンセプトである、④米議会は、中国海軍とロ海軍に対抗するために30年にわたる計画による355隻の艦船で十分か、そして、新たな兵力組成評価が必要かどうかという疑問をもっている、⑤米国は予算の制約とともに、艦艇建造に当たる造船所の改良、1番艦と2番艦以降の両方のコスト超過、その他の多くの問題がある、⑥これらの欠点に対処するための新しい戦略が「武器分散」(dispersed lethality)と呼ばれるものだが、これは(全ての水上艦艇に攻撃力を持たせ、状況に応じた最適の部隊を編成して)複数のターゲットへの異方向からの協調攻撃を企図したものであり、より多くの艦船が必要になる、⑦その海軍力の枯渇を考えると、米国は4カ国安全保障対話(以下、The Quadと言う)が活動的であることを望んでいるが、それは同盟とはほど遠く、まだ強力な協力的フォーラムに発展していない、⑧ワシントンは、The Quad間の相互運用性を検討する可能性があるが、最近の4カ国の外務大臣会合はこのグループの重要性が増していることを示している、などの主張を述べている。