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論考

2019/10/31

恋する民主党

中山 俊宏 (慶應義塾大学総合政策学部教授)

 民主党の大統領候補選びは、候補の乱立で混戦の様相を呈しているものの、討論会も4回を数え、おぼろげながら大まかな構図が浮かび上がってきた。予備選挙が正式にはじまるまであと3ヶ月強。今回は大票田のカリフォルニア州が前倒しでスーパーチューズデー(3月3日)に予備選挙を実施するため、3月上旬には候補者がほぼ確定している可能性がある。

 これまで一貫して筆頭候補と目されてきた穏健派のジョー・バイデン候補は、勢いには乗り切れていないものの、その支持率は全体としては30%前後で安定している。5月にはRCP平均で40%に達していたことを思えば失速気味ではあるものの、依然として対トランプで考えた時に、一番有利に戦える候補だとみなされているのがバイデンの強みだ。

 民主党は大統領候補と「恋に落ちる」としばしば評される。しかし、いまの民主党がバイデンと恋に落ちているかといえば、そういう状態とはほど遠いのが現状だ。過去に民主党が「恋に落ちた」典型例としては、カーター、ビル・クリントン、オバマの例が挙げられる。いずれも大統領選挙で勝った候補だ。対して、モンデール、ゴア、ケリー、ヒラリー・クリントンは、民主党が「安全な候補」を選んだ結果であり、いずれも敗北している。

 ではいま民主党は誰に恋をしているか。有権者の気持ちはそれこそ秋空のように移り気ではあるが、現時点ではウォーレンがその気持ちを受け止めている。ウォーレンは主要候補の中では最初に名乗りをあげたが、当初は伸び悩み、バイデンやサンダースにかなり遅れをとっていた。しかし、第1回目の討論会の頃から一貫して右肩上がりで、いまはサンダースをも抜き、バイデンとほぼ肩を並べている。

 感覚的にいえばバイデンは若干失速気味で、ウォーレンは上昇気流に乗っているので、明らかにウォーレンの方が勢いがあるように感じられる。そのことを証明するかのように、4回目の討論会では、バイデンではなくウォーレンが他の候補の標的になった。

 ウォーレンは、サンダースと並んで左派系の候補だ。民主的社会主義者を自称するサンダースの掲げる政策とウォーレンの政策は大分重なる。しかも、上院議員になる前はハーバード大学教授。トランプ支持者たちが一番嫌悪しそうなタイプだともいえる。

 さらに、2020年に民主党が勝つためには、2016年にトランプ支持に流れたブルーカラーの労働者たちをもう一度民主党の方に呼び戻す必要があると言われるなか、元大学教授のリベラル派でいいのかという疑問も自ずと湧き上がってくる。

 しかし、ウォーレンの選挙イベントを眺めていると、そうした一般的なウォーレン像とは異なる姿が浮かび上がってくる。真っ先に気づくのはウォーレンの「オクラホマ・トヮング」だ。「オクラホマ・トヮング」はオクラホマ訛りの英語で、「オーキー・アクセント」とも呼ばれる。「オーキー」といえば、ダストボウル(砂嵐)によって故郷を追われるジョード家(ジョン・スタインベック『怒りの葡萄』:The Grapes of Wrath)の面々が思い浮かぶ。

 ウォーレンのオクラホマ訛りは、かすかにその響きが感じられる程度で、あからさまなものではない。しかし、それはともすると「大学教授だ」、「リベラルだ」と敬遠されがちなウォーレンにある種の親しみやすさを与える効果を発揮している。さらにウォーレンの選挙イベントの名物になっているのが、「セルフィー・ライン」だ。もはやこれがメイン・イベントになっていると言っても過言ではない。集会が終わった後、たとえ列がどんなに長くとも、ウォーレンは支持者とセルフィーを撮ることにしている。9月中旬にニューヨークで行われた集会では4時間に渡って、4,000枚ものセルフィーを撮ったと伝えられている。

 アイオワだけを見るならば、ウォーレンの追い上げはより顕著だ。選挙事務所の数でもバイデン陣営の17に対し19と、若干ではあるが引き離している。しかし、もう一人アイオワで頑張っている候補がいる。新星ブティジェッジだ。ブティジェッジはアイオワに22の事務所を構え、支持率でもウォーレン、バイデン、サンダースに次いで4位につけている。しかもその支持率は上り調子だ。

 ブティジェッジはゲイのインディアナ州サウスベンド市長。自ら志願してアフガニスタンに派兵され、年齢はわずか37歳。討論会では、しばしば一番思慮深い発言をする。どうしたら、あの若さであのように老成してしまうのか、少し心配にさえなってしまう。外交に関しても、故ルーガー上院議員やハミルトン下院議員の流れを組む、インディアナ流の国際派であり、安定感がある。政策は基本的には穏健路線、バイデンや支持率が伸び悩んでいるクローブチャー上院議員などと重なる。

 しかし、バイデンやクローブチャーとブティジェッジが決定的に異なるのは、ブティジェッジの方が気持ちのレベルでの「引き」がはるかに強いということだ。黒人層には食い込めていないので、アーリー・ステーツの一つであるサウスカロライナ州では伸び悩んでいるが、アイオワではいいポジションにつけ、ニューハンプシャーでも善戦している。特にLGBTQコミュニティの間では熱い支持がある。ミレニアル世代やZ世代(ジェネレーションZ)からの期待も大きい。

 仮に今後バイデンが失速していった場合、ブティジェッジが穏健派の候補として浮上する可能性がないわけではない。まだバイデンに見切りをつけるのは早すぎるが、息子ハンター・バイデンが、2014年以来、ウクライナの天然ガス会社ブリスマの取締役を務め、高額の役員報酬をもらっていたことなど、不信感が積み重なり、すんなりとトップの座を固めるというのは難しそうだ。

 4回の討論会を終えた時点で、トップの二人がそれぞれ穏健派(バイデン)と左派(ウォーレン)、次いでもう一人左派(サンダース)が控え、その下に若干左寄りの穏健派が二人(ブティジェッジ、ハリス)という構図だ。ハリスは1回目の討論会で自ら仕掛けて作り出した上昇気流に乗りそびれ、なかなか回復は難しいポジションにいる。サンダースは、やはり2016年の「再放送」の感があり、固定ファンはいるものの健康不安(山岸「消え去らない老兵」参照)もあり、支持を大きく伸ばすことは難しいだろう。チャンスは繰り返し訪れるものではない。となると残るはバイデン、ウォーレン、ブティジェッジということになる。先の討論会では、ブティジェッジはウォーレンを果敢に攻撃した。それは、ウォーレンを蹴落とそうとする以上に、穏健派の筆頭候補として存在感を示そうとしていたようにも見えた。

 すでに言及したようにバイデンへの支持は数字の上では比較的安定している。それにもかかわらずバイデン支持は脆弱だ。ウォーレンが4回目の討論会における攻撃で(ハリスのように)沈まなかったことによって、民主党は穏健派路線でいくのか、左派路線でいくのか、早晩決定しなければならない状況に立たされている。さてこの後どうなるのか。

 トランプ大統領は、決して強い候補ではない。支持率は安定しているものの、それは共和党に限られ、勝利に不可欠な「支持政党なし層」はトランプとはかなり距離をおいている。民主党はトランプを拒否することに関しては強いコンセンサスがあり、一歩ずつ弾劾の方向に向かって足を踏み出している。しかし、選挙に向けた候補一本化の過程で、党内の士気を削ぐかたちで、分裂を加速させてしまう可能性もある。つまり現時点での、大雑把な構図は、「トランプは(自力では)勝てない、しかし民主党が(党内一本化に窮し)負ける可能性はある」といった感じのところだろうか。

(了)

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