報告書・出版物

- 1 -- 2 -開催によせて我が国は、石油の一大輸入・消費国であり、戦後の目覚ましい経済発展も石油を抜きにしては語れません。しかしその反面、常に油汚染発生の危険にさらされてきたことも事実であると申せましょう。日本財団では環境保全と災害救援に係る取り組みの一環として、従来から海上災害防止センター、シップ・アンド・オーシャン財団、日本海難防止協会等の活動に対する支援を通じ、流出油防除対策や油防除資機材の研究開発を推進してまいりました。9 府県の海岸線800 キロにわたって油の漂着をみた、先のナホトカ号油流出事故に際しても、被災地における地元住民やボランティアによる漂着油の除去作業等に対し、いち早く積極的な支援を行ったところであります。ナホトカ号事故は、今日世界の海に約2,500 隻にのぼる大型タンカーが日々航行しており、悪天侯や湾岸戦争に代表される政治的混乱により、油流出事故が発生する可能性が常に伏在している事実に改めて私どもの注意を促す結果となりました。将来同様の油流出事故が発生した場合、我が国のみならず各国の関係者の参考となる情報を整備することは、私ども NGO の重要な使命であり、同時に NGO であればこそよくする使命でもあると確信する次第です。以上の観点から、今般シップ・アンド・オーシャン財団ではナホトカ号事故の記憶も新たな時期に、荒天時に油流出事故が発生した場合の対処方策等につき、大規模油流出事故に直接関与した経験をもつ内外専門家の参加のもと、シンポジウムを開催することとなりました。本シンポジウムが、今後も起こりかねない油流出事故の効果的な対応の実現に資することを期待致します。日本財団会長曽野綾子- 3 -- 4 -ごあいさつ1997 年の日本はナホトカ号からの油流出の事故で明けたといって良いでしょう。連日にわたり流れ出た油の行方、日本海の海象や海上保安庁など関係者の奮闘が詳しく報じ続けられました。この事故を契機に我々日本人は改めて油流出の問題を極めて身近に、そして真剣に考えることになりました。私どものシップ・アンド・オーシャン財団においてはすでに、1991 年以来筑波研究所の専用水槽を用いて、海面における流出油群の挙動に関する詳細な実験的研究が続けられ、ようやくそれがまとめられつつある時期でもありました。こういった状況を踏まえて、このシンポジウムが企画されました。時期的にも石油連盟などがこの問題についての国際的な会議を企画されていましたので、私どもは海象状態の極めて悪いシチュエーションと、尋常な方法では対処できないスケール、すなわち万トン級の油流出にテーマを限定しました。そして、理論や研究施設レベルでの研究などの報告ではなく、実際にこういったケースを経験し、現場で指揮をとった方々が見て、感じて、悟った所をお話しいただき、参加者は当然この種の話を聞くにふさわしい立場の方々に限定したクローズドの会議を企画しました。この方針の下、北海の荒い海象中で、日夜オイルリグ周りの油洩れに対処しているノルウェーからと、エクソン・バルディーズ号、シー・エンプレス号の大事故をそれぞれ経験された米国と英国からの方と、日本のナホトカ号事故に対応した方をお招きすることと致しました。お陰様で、シンポジウムでは経験者ならではの極めて密度の高い講演と議論が行われたことは、このプロシーディンクに示されるとおりです。私どもの望んだ以上の成果が上がったように思います。現在、政府や関係機関による油汚染の施策も一段と進んでいるようです。その中にこのシンポジウムの成果が反映されることを望んでおります。最後に、このシンポジウムの意義を良くご理解いただき、援助を賜りました日本財団並びに同財団の曽野綾子会長と、笹川陽平理事長に対して厚くお礼申し上げます。また、このシンポジウムの開催に伴う諸般の煩雑な事務を次々と処理して短時日の開催を実現して下さいました、グレイトブリテン・ササカワ財団の仙石節子所長にも心からお礼申し上げます。財団法人シップ・アンド・オーシャン財団会長今市憲作- 5 -ナホトカ号油流出事故ロシア・タンカー「ナホトカ号(NAKHODKA)」は、中国の上海から重油19,000kL を満載し、ロシアのぺトロパブロフスクヘ航行中に 1 月 2 日午前 2 時 51 分頃島根県隠岐島沖北北東106km 付近で、船体を折損し船尾部は沈没、船首部は漂流しました。折損した船体から約6,200kL の重油が流出しました。当時の気象・海象は北西の風 20m/s、波浪 6m、うねり 4m以上と推定されます。同日午後 13 時、船長を除く 31 人全員が救出(船長は後に遺体で発見)されました。海上に流出した油は、船首部と共に、海流と強い北よりの季節風によって日本海沿岸に接近し、1月 7日船首部と共に油が福井県三国町に漂着しました。その後、拡散漂流した油は北上し、油による汚染範囲は島根県から秋田県に至る 1 府8 県に及びました。官民一体による懸命な回収作業の結果、4 月 30 日に福井県が油回収作業の終息を宣言するなど、全域における回収作業もほぼ終了しました。- 6 -流出油漂流漂着状況- 7 -講演者- 8 -懇親会- 9 -議長副議長- 1 0 -会議風景- 1 1 -現場視察PhotobyH.OishiandM.Okawa- 1 2 -- 1 3 -- 1 4 -- 1 5 -議長紹介元良誠三現職(財)シップ・アンド・オーシャン財団理事東京大学名誉教授学歴東京帝国大学第二工学部船舶工学科卒、工学博士日本造船学会終身名誉会員アメリカ造船造機学会終身名誉会員中国造船学会終身名誉会員職歴及び専門分野1) 船舶および海洋構造物の復原性と安全性IMO の区画復原性漁船小委員会及び設計設備小委員会、に 25年間出席1992・1993 年、IMOの MEPC(海洋環境保護委員会)参加2) 海洋石油備蓄システムの安全性評価(上五島 4,500,000kL、白島 6,400,000kL)3) 超電導電磁推進船の開発4) 大阪湾浮体空港のフィージビリティスタディおよび試設計5) タンカーからの大量の原油流出による影響評価6) 1994 年 OPRC 東京会議(原油流出に対する準備対策、協力会議)と中国大連で開催された1995年会議にて基調講演7) 中間デッキ・タンカーからの原油流出に関する評価- 1 6 -副議長紹介武藤郁夫学 歴 1945 東京帝国大学第二工学部船舶工学科卒、日本造船学会・関西造船協会会員1975-78 日本造船研究協会海洋油濁防止装置に関する委員会委員(RR-1O)1983 運輸技術審議会専門委員(運輸省)1970 、 89 海洋開発審議会専門委員(科学技術庁)1985 氷海における油濁防除技術委員会職歴及び専門分野1949 三井造船(株)入社玉野造船所で設計技師として勤める1969 造船設計部長1970 三井海洋開発(株)取締役、技術部長、研究開発部長1983 三井海洋開発(株)代表取締役専務取締役(株)モバックス社長1988-97 (株)モバックス取締役研究開発 :1973 傾斜方式油回収船「 MIPOS 」の発明・開発1974 潮流に強いオイルフェンス「 MOBAX 」の発明・開発、オイルフェンスの揚収洗浄装置の開発大学講師(海洋工学と特殊船) :1976-91 長崎総合科学大学 / 1978-80 大阪大学 / 1979-82 東京大学大学院 / 1985-87横浜国立大学 / 1986-89 日本文理大学- 1 7 -目次開催によせてごあいさつナホトカ号油流出事故グラビアタイムスケジュール会議概要議長紹介副議長紹介会議録講演 1 工藤栄介ナホトカ号事故の概要と教訓講演 2 鈴木淑夫ナホトカ号重油流出事故における油回収処理と使用資機材講演 3 R.E.ベニス米国の重大油汚染事故対応における公・民の協力、資機材計画及び準備態勢講演 4 R.R.レッサードエクソン・バルディーズ号油流出:今日への適用講演 5 R.ケインズフォード英国における海洋汚染管理講演 6 W.B.デイヴィス海上における浄化作業の経験―海上の油流出事故への対応における地域関係当局の役割- 1 8 -講演 7 P.W.シィーヴェ緊急防災計画の政策と油流出事故対応における法的権限講演 8 J.ネールランノルウェーで発生した油流出事故講演 9 西垣憲司石油連盟の大規模石油災害対応体制整備事業―貸し出し事例に沿って―講演 10 D.A.卜ーンショフ・ジュニアMSRC(海洋油流出事故対策株式会社):顧客需要に対応し変化する企業講演 11 J.O.ルーダールノルウェーにおける海上油流出緊急防災講演 12 T.ルネルジー・エンプレス号事故により発生した汚染への対応と海岸線復旧経過講演 13 A.J.ミアーンズ海岸線流出油浄化の効果と影響:エクソン・バルディーズ号の教訓と生物修復総合討論議長報告付録- 1 9 -海洋における油流出事故対策に関する国際専門家会議1997年 7月 16-17 日 東京会議録Session 1ナホトカ号事故の概要と教訓工藤栄介現職海上保安庁装備技術部部長(前第八管区海上保安本部本部長)学歴 1970 大阪大学大学院工学研究科卒業、造船学専攻(修士過程)ナホトカ号事故の際は、所轄官庁の長として事故発生から、陣頭指揮をとり、様々な問題の対処にあたった- 2 0 -はじめにトリー・キャニオン号、エクソン・バルディーズ号など多くのタンカー事故の教訓の上に、海洋汚染防止のための国際間の取決めや協力が図られてきた。原油のほぼ全量を海外に依存する我が国は、タンカーの主要造船国でもあり、かつ、なお多くの美しい海岸線を残す島国であることから、船舶による海洋汚染に対しては、とりわけ多くの関心と深い注意を払ってきたところである。しかるに、本年初頭に発生したナホトカ号海難は、本州日本海側のほぼ全県に及ぶ曾てない広域的な沿岸汚染災害をもたらした。今般の事故が、我々にどのような課題を提起しているのか、現場で防除対応を指揮した立場から、事故概要の報告の後に考えてみたい。1.海難・油汚染と対応の概要(1) ナホトカ号の概要ナホトカ号の要目を〔図1〕に示す。(2) 海難と油防除の経過全体の経過を概括して示すと〔図 2〕のようになる。以下にその詳細を順を追って述べる。① 海難の発生と初動対応海難の概要は〔図 3〕に示すとおりであり、上海からペトロパブロフスクに向けての航海の途上の事故であった。〔図4〕1 月2 日・ 0251 ナホトカ号(N 号)からの遭難信号受信。直ちに付近行動中の巡視船 2 隻に救助を指示。順次巡視船 4隻、航空機 2機を追加投入。・ 0820 船尾部沈没。・ 1000頃 漂流中の船首部を確認。・ 1300頃 船長を除く乗組員 31 名を全員救助〈気象・海象:NW20m/s、波浪 6m、うねり 4m 以上〉3 日・地方自治体に情報提供を開始。・ 推定流出量の把握〔図 5〕4 日・ 「八管区 N号海難・ 流出油災害対策本部」設置。5 日・船首部曳航を試みるが荒天により中止。・巡視船による油処理剤の散布を開始。- 2 1 -・海上災害防止センターが船主から油防除業務を受託。〈気象・海象:NW8m/s、波浪 1m、うねり3m〉6 日・船首部曳航を試みるが荒天により奏効せず。・海上自衛隊に災害派遣要請。・ 関係省庁連絡会議(於:東京、18省庁)〈気象・海象:WNW30m/s、波浪6m、うねり4m以上〉7 日・ 船首部の沿岸への漂着防止のため、巡視船 2 隻により索を展張するが、荒天により切断。・ 1430 船首部が福井県三国町に漂着。同町に油漂着。〈気象・海象:NW15m/s、波浪 6m、うねり 6m以上〉8 日・隣接の石川県に浮流油漂着。・ボランティアによる油回収作業開始。9 日・ 大型油回収船清龍丸(運輸省第 5港湾建設局所属)が浮流油回収作業を開始。10日・ 関係省庁による「 N 号海難・流出油災害対策本部」設置。② 浮流油・漂着油の防除流出油の沿岸地域への漂着を最小限にするため、船艇・航空機による浮流状態の調査、自治体等への情報提供をはじめ、次の対策を行った。(a) 沖合い浮流油の防除対策・ヘリコプター、船艇による油処理剤散布・油回収船及び回収装置搭載船艇による回収。・ 巡視船艇、自衛艦、漁船等による柄杓、ネット等を使用した回収。〔図 6〕(b) 沿岸浮流油の防除対策・原子力発電所等重要施設へのオイルフェンス展張。・回収装置搭載船艇による回収。・バキュームカー、ポンプ車等による陸岸からの回収。・柄杓、バケツ等を使用した人力による回収。(C) 浮流油漂流予測の公表(我が国初)浮流油は事故発生約 1ヶ月後の2 月10日頃には、ほぼ洋上から姿を消した。- 2 2 -一方、油の漂着は船首部が福井県三国町に到達した 1 月 7日より始まり、日時の経過と共に日本海側の 9 府県に及んだ。各地方自治体は海浜への油漂着に前後して、それぞれ対策本部を設置した。漂着油の回収は自治体が中心となり、国の関係機関やボランティアの協力のもとに、主として手作業により進められた。③ 船首部残存油の抜き取り漂着した船首部からの流出油等で、三国町沿岸一帯は黒い海と化した。荒天によって船体の破壊が進めば、沿岸部の被害は更に拡大するおそれがあることから、残存油の抜き取りが緊急の課題となり、一刻も早い処置に向け関係者あげての対策の検討が始まった。その結果、1 月 14 日には、クレーン台船とバージによる接舷回収(瀬取り)を主な方法とするものの、冬期日本海では荒天のため、長期にわたって本方法による回収作業が拒まれる恐れもあることから、船首部付近までアクセス道路を応急的に築造し、その道路上から陸上クレーンを使用して回収する方法を併せて採用することが決定された。回収作業が実施に移され、瀬取りはある程度進んだものの、やはり荒天による中断を余儀なくされ、最終的にはアクセス道路完成を待って 2月 25日にようやく回収を終えた。なお、海象が安定的に静穏となった 4 月 20 日に船骸は洋上に吊り上げられ、その後瀬戸内海に移送され、事故原因調査を経て解体された。④ 原子力発電所の防除対応若狭湾は我が国の原子力発電所の約 3 分の 1(出力比)が集中立地している地域であり、これら施設への油流入阻止が危急の課題とされた。このため、(a) 浮流油が若狭湾に流入しはじめる 1 月 8 日頃より、各発電所に対し防除措置の強化を指示した。(b) 取水口周辺のオイルフェンスを高規格化、多重化すると共に、地元漁船等による回収作業を開始し、また、浮流油の夜間監視、チャーター機によるきめの細かい浮流状況確認、オイルフェンス内に侵入した油魂の陸上からの回収などを精力的に実施した。その結果、幸い、いずれの発電所においてもその出力を低下させることなく、公共性を維持できた。〔図7〕⑤ 洋上回収への投入勢力と回収量洋上の回収作業が一段落した 3月初め頃に、次のように仮集計されている。船艇(海上保安庁・自衛隊等)延べ約4,700 隻洋上回収された油水量(国関係)約5,700kL(3) 沈没船体と湧出油監視① 海難発生から 10日後の 1月 12 日に初めて沈没地点付近で浮流油を確認した。このため、同海域の監視を強化するとともに、油処理剤、航走攪絆による対応を開始した。- 2 3 -② 海上からの位置探査に引き続き、1 月末から 2 月下旬に亘って海洋科学技術センターの無人ロボットにより、水深約 2,500mの沈没船体の状況が詳細に潜水探査された。また、2 月中旬にはシップ・アンド・オーシャン財団の協力により H.Rye 博士(ノルウェー)による湧出点調査が実施された。③ 巡視船・航空機による湧出状況の観察や上記②の調査の結果から、3 月末、運輸省の委員会は沈没船体と残存油の湧出に関して次のように評価を行った。(a) 残存油量は 3,700~ 9,900kL(b) 湧出油量は 1日あたり 3~ 14kL。沿岸への漂着は考えにくい。(c) 湧出は当分続くが、船体の破損が急進して大量漏出するとは考えにくい。④ 事故発生後 5 ヶ月の 6月初めにおいてもなお、湧出油は日によって異なるが、直径約100m の範囲に約 5m の蓮の葉状になって湧出した後、いくつかの筋状となり、全体的には幅 100 ~ 200m、長さ数 km の帯の範囲を浮流しており、帯の末端あたりでは風浪により自然消滅している。〔図 8〕2. 日本海と海洋汚染(1) まず、我が国の周辺全海域における、船舶からの油による海洋汚染発生件数の推移は、〔図 9〕に示すように近年は大幅に低減している。これは関係者が安全航行規制をよく遵守していること、荷役管理が厳格に行われていること、海洋汚染についての対策が徹底しているためであると考えられている。〔図 10〕は海洋汚染の発生を海域ごとにみたものであるが、日本海側の沿岸では船舶が輻輳する太平洋側に比べ発生の頻度は低い。(2) 次に、日本海難防止協会の試算によると、日本海全域では実に年間 1 万隻近くのタンカーが航行しており、このうち、我が国に入港しないものが約半数を占めている。その航路は〔図 11〕及び〔図 12〕のように縦横にわたっている。これらの航路について注目すべきは、一つには、極東口シアへの中国や韓国からの安い重油を輸送する航路があり、運航費の安い老朽タンカーが使用されていることがあげられる。〔図 13〕二つ目は、石油消費が年々増加する韓国への輸入航路であり、最近では同国周辺での様々なタンカー事故が報告されている。さらには、サハリン等の石油開発などに伴い、今後ますます日本海におけるタンカーの往来は複雑かつ多量となることが考えられる。(3) 日本海の海象をみると、今回のナホトカ号の海難時がそうであったように〔図 14〕、冬期には異常に高い波が出現する。また、海流と北西の強い季節風がすべて日本列島に向かっている。(4) 以上のことから考察するに、今のところ日本海沿岸における海洋汚染の発生頻度は比較的低いものの、厳しい気象条件下での高船令タンカーの航行が次第に増加することを考えると、今後、日本海沖合での重大海難の発生と、それによる甚大な海洋汚染の蓋然性は、今以上に高まるものと考えざるを得ない。- 2 4 -3. 防除体制(1) 我が国では「海洋汚染及び海上災害の防止に関する法律」が制定されており、海洋環境等についての総合的な施策が講じられている。(2) 同法律においては、油防除体制の整備を図るため、・海上保安庁及び海上災害防止センターによる防除資機材の配備・地域ごとの官民連携による防除機関としての協議会の設置・油防除の原則として原因者が執るべき措置・緊急性が高い場合の海上保安庁による防除措置の実施と、海上災害防止センターへの防除指示・地方自治体固有の任務としての、海浜に漂着した油の防除措置などを規定している。(3) 防除資機材の配備については〔図 15〕、〔図 16〕に見られるように、前述の汚染発生の地域分布の状況を反映して、太平洋側の湾域、内海への比重が高いものとなっている。4. 教訓洋上における流出油回収・防除活動を指揮する過程で遭遇した困難、換言すれば、将来にはこうあって欲しいと願望した、幾つかの事項を次に掲げる。(1) 海難船舶とその積荷に関する正確で即時の情報外洋荒天時における油性の経時変化を考えると、出来るかぎり早期のうちに可能な対応策を決定することが必要で、そのためには関連情報の入手が不可欠である。今回は救助された船員から沈没時の積載状況を聴取でき、また、船主側からも比較的早い段階で図面等を入手できたが、予想される沿岸被害国の油防除体制の早期確立に役立つ情報が旗国、船主、運航者の義務として提供される国際的制度が望まれる。(2) 漂流追跡・予測手法の確立船体折損時の流出油は広範囲に拡散漂流し始めることになるが、その全体状況を事故直後から常時監視し続けることは実際上不可能であった。今後は人工衛星利用等による浮流油情報の入手、より精度の高い漂流予測手法の確立と、被害国に対する非営利べースの油漂流監視・予測の援助スキームが望まれる。(3) 外洋で使用できる資機材の開発〔図 17〕はシップ・アンド・オーシャン財団によって調査された世界における回収装置の- 2 5 -開発状況であるが、世界には有義波高 2m 以上で使用できる回収船・回収装置は未だ開発実用化されていない。海難後数日内に広範囲に分散漂流した今回の事例が教えるように、搭載型油回収装置の仕様を世界共通に何種類か標準ユニット化し、巡視船のみならず、艦艇、大型漁船、オーシャンタグなどで連携して使用することによって、防除するシステムの開発が望まれる。(4) 沿岸海域環境防災情報の整備広範囲に及ぶ洋上の浮流油に対し、限られた数の回収船等をどの海域に活動させるかは、沿岸の自然的、社会的状況によって大きく左右される。このため今後は油処理剤使用の可否を含めた白治体、漁業者との環境保全マップの作成が急がれる。また、国外及びボランタリーべースを含めた災害時支援情報の一元化が望まれるところである。この意味で現在進められている NOWPAP(北西太平洋地域海行動計画)に期待するところは大きい。〔図 18〕- 2 6 -討論ミアーンズ: 鳥、哺乳類、魚等の海洋生物に対する損傷、被害はどのくらいだったのでしょうか。工藤 : 2 月中旬、即ち 1 ヵ月半の間に我々が保護した鳥は 1,269 羽で、どのくらい死んだ鳥がいるか、全体は把握しておりません。シィーヴェ: 先程将来は衛星を使った漂流油についての情報収集システムがほしいとおっしゃいましたが、ナホトカ号の場合はどうやって漂流油が観察されたのでしょうか。工藤: もちろんある短い期間、人工衛星でも観察をしましたが、殆どは我々が保有しているヘリコプター、あるいは海上自衛隊の P3C 等によって上空から昼間に観察したものを前日夕方までにまとめて、どの辺に漂流分布するかの予測を立てました。カナダのレーダーサット等により映像が撮られているのは知っておりました。ただ、漂流分布が非常に広範囲なので予算の問題もあり、人工衛星を常時は使用しませんでした。レッサード: スライドを拝見して、特に波浪が高いときには分散処理剤を船からはなかなか散布しにくいということが見て取れましたが、飛行機を使って散布をするといったような態勢の強化は考えていらっしゃいますか。工藤: ヘリコプターにより、沿岸のあまり近くないところで数日間、分散処理剤を散布しましたが、今回の油の性質を見ると、あまりこれが効果がないだろうということが分かりましたし、やはりヘリコプターで散布するのは限度があるので、途中から殆どヘリコプターによる分散処理剤の散布は行っておりません。湧出地点で大量の流出が確認されたときに、若干の分散処理剤を撒きました。元良: 日本でも分散処理剤の事前承認を取るような制度を設けるべきだということは、我々も真剣に考えなくてはいけませんが、ナホトカ号事件のときに、わりに早い段階で分散処理剤を使用しましたが、どの様にしてそれが使えるようになったのでしょうか。工藤 : 今回は外洋で船体が折損したので、油が漂着するまでにだいぷ時間がありました。具体的には 5日以上の時間があったのです。この期間、事故後 2日目になりますが、1月 3日に各白治体の担当の課を通じて、それぞれの漁業協同組合に了解を得て、分散処理剤の散布ができるという承諾を得ておりました。実質、今回のナホトカ号については非常に早い段階で自治体の了解が得られました。元良: 東京湾のダイヤモンド・グレース号の際に、非常に早い段階で分散処理剤が使われて、そのせいもあって殆ど海岸に油汚染が起きませんでしたが、これもどうして散布できたのでしょうか。工藤: 私は東京湾の事故については責任を持って回答できませんが、情報によると、最近の漁業関係者の方は油の性状を一般的によく承知していて、原油に関しては初期にかなり分散処理剤が有効だということを理解していらっしゃいます。了解を得て、最初の 3 日ぐらいで殆ど遅れなく処理をすることができました。ただ、3 日、4 日たってからの使用については、やはりあまり散布しないでほしいという要望があったそうです。- 2 7 -元良: 今のような話を伺うと、日本でも事前承認を取るという可能性があるのでしょうか。工藤: 東京湾の場合と、第八管区では相違がありますし、それぞれの県によっていろいろな意見が出てくると思います。今のところ簡単に取れるというような見通しはまだ立てておりません。- 2 8 -Session 2ナホトカ号重油流出事故における油回収処理と使用資機材鈴木淑夫現職海上災害防止センター防災部長学歴 1959 海上保安大学校卒業 機関専攻日本航海学会会員 海技免状 3級海技士(機関)ナホトカ号事故の際は、流出油の防除現場にて、防除の実務にあたった- 2 9 -1. ナホトカ号事故における初期対応1997 年 1 月 2 日午前 2 時 50 分頃日本海で発生したタンカー“ナホトカ"(13,175 総 t)の船体折損による大規模油流出事故は、翌 1 月 3日折損した船首部分及び海上に大量の油の漂流が海上保安庁の航空機、巡視船により確認された。船舶所有者からの要請を受けたサルベージ船は、1 月 4 日 2130 現場海域に到着し、巡視船の支援を受けながら漂流中の船首部分の曳航を試みたが、船底を上にして海面上僅かに露出した状態で漂流しており、また海上荒天のため曳索をとることができなかった。船首部分とともに漂流する油は、1 月 5 日午前中には三国沖約 40mil の沖合にあって、北寄りの風によって圧流され、沿岸に接近する可能性が生じてきた。巡視船等は、船首部分の曳航作業に併行して漂流油塊の防除作業を実施し、初期においては、回収ネットによる回収、油処理剤の散布、また 1 月 5日にはヘリコプターによる油処理剤空中散布をテストした。2. 油の漂流・漂着状況ナホトカ号に搭載されていた C 重油約 19,000kL のうち、船体折損により切断部分に搭載されていた約 3,700kL が瞬間に流出したと推定された。(その後の調査により、流出量は、6,240kLと推定された。)海上に流出した油は、波浪によって一部は分断されたが、多くは厚い油層となって船首部とともに海流と強い北寄りの季節風に圧流され本州沿岸に接近してきた。その後も日本海の荒天は続き、1 月 7 日午前 11 時頃漂流していた船首部分が福井県三国町安島岬の沖合に漂着し、船首部分からの新たな油の流出が確認され、これらの油が近くの海岸に漂着した。1 月 8 日になってすでに流出し、拡散漂流した油も次々に福井県・石川県の海岸に漂着した。また、能登半島に沿って北上した漂流油は、1 月 20 日能登半島の北側を越え新潟県佐渡島にも漂着、その後新潟県の本州側にも漂着した。その結果油による汚染範囲は、島根県から秋田県に至る1 府8県に及んだ。3. 油回収処理油の回収作業は、海上漂流油の回収、海岸線付近の漂流油の回収及び岩場や砂浜に打ち上げられた漂着油の回収に大別される。(1) 海上漂流油の回収流出油は、島根県から秋田県の広い範囲に漂着したが、一方では漂流油は若狭湾沖合から福井県、石川県沖合を沿岸に沿って北上し、1 月 20 日には能登半島北端から富山県、新潟県沖合に達し、海上の油の拡散範囲も広範囲になった。- 3 0 -1 月 2 日の事故発生から 1 週間以上を経過し、その間波浪により攪拌された流出油は、水分を多量に取り込んだムース化油となった。上海で搭載した油の性状は、動粘度が、50℃ 137,46cSt(10 ℃換算約 6,000cSt)流動点-17 ℃等であったが、1 月 5 日採取した漂流油の粘度は、約 1,232,000cSt(12℃)に達していた。イ. ガット船このように高粘度となった油の回収には、回収装置による回収よりガット船やグラブ船による掴み取り回収が効果的と判断されたので、これらの船舶を手配し、海上での漂流油の回収作業を実施した。冬期日本海は荒天が続き、海上における作業は困難なため、日本海側の作業船は、冬の期間は殆ど太平洋側に移動しており、日本海側で回収作業に当てる作業船は、配船されていなかったため、グラブ船等は、瀬戸内海から5 隻を用船し、回収作業に当てた。回収作業は、ガイドフェンスを 1 船が曳航し、集められた油をガット船が回収する 2船によるスィーピング方式を計画したが、荒天のため連携がとれないためガット船の単船回収とした。回収油水量は約1,000kL、そのうち油量は約850kLと推定される。ロ. 回収船・回収装置油回収船は、福井港に福井石油備蓄(株)の「あすわ」が在籍しており、同船は、荒天が一時収まった 1月 9日から海上での油回収作業に従事した。これより先 1 月4 日海上保安庁から運輸省港湾局(名古屋)の浚渫兼油回収船「清龍丸」の出動を要請し、1 月9日現場海域に到着、回収作業に着手した。その他油回収船は、むつ小川原石油備蓄(株)「第 3 たかほこ丸」、白島石油備蓄(株)「はくりゅう」の出動を得て回収作業に従事した。また、シンガポールの EARL から RO-SKIM システム、ロシアからオイルフェンス、オイルトロール、DESMI250、フォックステイル等の回収システムを搭載した油回収船の協力があった。油回収船、油回収装置の回収は、油が高粘度のため効率が悪く、油回収船の回収油水量は約 1,100kL、油量は約 100kL と推定され、また油回収装置は、R0-SKIM システムは回収できず、ロシア派遣船の装置では、油水量約430kL、油分量約 200kL の回収であった。ハ. その他小型漁船の回収作業には、2 隻を 1 チームとして回収ネットを曳航して実施し、その他ヒシャク等が使用された。これらの船舶等により、若狭湾、福井県三国町沖合から石川県の加賀、金沢、能登半島沖合さらに富山県、新潟県の沖合にかけて広い範囲に拡散漂流する油の回収作業を実施した。特に、若狭湾の敦賀周辺及び石川県志賀町に所在する原子力発電所の冷却水取水口への油の接近するのを防止する対応がとられた。(2) 海岸付近の漂流油の回収- 3 1 -1 月 7 日船首部が座礁した三国町雄島周辺の沿岸は、船首部から流出する油と漂流していた油が海岸線に漂着・浮流し、岸線付近の油は雄島橋をくぐり抜け、東尋坊の方向へ南下を続けたため、雄島橋に沿ってオイルフェンスを展張し油の拡散を防止するとともに回収器等により回収作業を実施した。イ. 回収器石油連盟が所有する 2種の堰式(ウェヤタイプ)、回転円盤式(ディスクタイプ)及びビーチクリーナーが使用された。回収器は、海岸線の水深が浅く波が寄せること、油が高粘度の塊になっている等のため、汀線からドラム缶・ファスタンクヘ送油するポンプとして使用した。ロ. バキュウム・カー、ポンプ車等バキュウム・カーは、海岸線から直接油を吸い取る、又は間接的にドラム缶等から吸い取る場合に活用された。コンクリートポンプ車は、バキュウム・カーに比べ吸引力は弱いが、吸入配管が長い特徴があり荒天時にも遠隔操作が可能であるため、安全に回収作業が実施できた。(3) 海岸漂着油の回収海岸に漂着した油は、主として多数の人の作業によって回収が行われたが、砂浜に漂着した油は、ブルドーザー、バックホウ等の重機により漂着油を集積する方法がとられた。集められた砂混じりの油はその後油と砂を篩い分けした。また固形化した油は、一旦放水により砂混じりの油を水面に流し、水面から油を回収する方法がとられた。以上のように、海上、海岸全般にわたり、漂流・漂着した油の回収作業が実施され、船舶による海上作業は 2 月 20 日に一応終結し、海岸漂着油の回収作業は、ほぼ 4 月末に終了したが、引き続き海岸清掃及び海上からまた陸上から隔離され接近できない場所あるいはテトラポット内に侵入した油の除去作業が継続的に 6月まで実施された。4. 使用資機材漂流・漂着油の回収作業に使用した各種資機材は、次の通りである。イ. 海上作業- 3 2 -その他巡視船艇、自衛艦、漁業取締船等が回収作業に従事した。海上での池水回収量は、約 8,700kLロ. 海岸作業海岸の汀線付近の海上での回収及び海岸上での回収に使用した資機材は、次の通りである。その他ファスタンク、ドラム缶等回収油の受け皿として使用した。回収機器による池水回収量は、約 6,600kL であり、その他ボランティア等の手作業による回収が実施され、最終的に処理施設へ搬入された油水回収量は、合計で約 47,000kL である。- 3 3 -ハ. 回収油一時貯留ピットの作成海上漂流油及び海岸漂着油が膨大となり、それに伴って回収油も増加することが予測されたため、従来から回収油の一時貯留として使用しているドラム缶では十分対応できないと判断されたため、回収油水量の多い福井、敦賀、珠洲地区に一時貯留ピットを仮設した。5. 教訓(1) 日本海側海域の防除能力冬期日本海は、強風が連吹し海上工事は実質上不可能な状況にある。そのため、海上作業に従事する作業船はその殆とが太平洋側に移動し、瀬戸内海等の海上作業に従事しており日本海側では緊急時に用船できる作業船は限定される。また、日本海側は太平洋側に比し、船舶の出入する港も少なく、さらに荒天の中を航行する船舶やタンカーの隻数も少ない。このように、太平洋側と対照的な日本海においては特に冬期は油汚染事故に対応する作業船が不足しており、海上での防除能力も低下する。(2) 外洋域における回収資機材国内の回収資機材の配備は、タンカーの入港する港、東京湾、伊勢湾、大阪湾、瀬戸内海等の船舶の輻輳する海域及び石油コンビナート地区の主として港湾を中心とした閉鎖された比較的平穏な海域であるため、配備される資機材も平穏な気象・海象を想定したものとなっている。従って今回の事故に出動した油回収船を除いては殆とが港内を対象としたものであり、気象・海象条件の厳しい外洋に対応できる体制になっていない。(3) 民間防除組織国、地方自治体の責務として実施する各機関、また官民組織として、法律に基づいて組織される排出油防除協議会のほか民間組織としては、石油事業所で構成される石油連盟傘下の海水油濁処理協力機構、海上災害防止センターを中核とし、センターの実働勢力となる各港湾のタグ業者、港運業者等の契約防除措置実施者組織がある。民間勢力の通常活動範囲は、港湾を主体としており、サルベージ業者を除き外洋での対応能力を有していない。従って今後の外洋事故の対応に当たっては、サルベージ業者を中心とした民間防除組織の再構築(ハード・ソフト両面の強化)を図る必要がある。(4) 船主との契約による防除作業の限界海上災害防止センターが実施する船主からの委託に基づく防除作業は、契約により船主及び P&I 保険の委任を受けたサーベイヤーの指示を受け、または了解のもとで実施するため、広範囲に漂流・漂着し各所に作業現場が拡大した場合にその都度サーベイヤーの了解を取り付けるのは時間的な遅れを生じ、またその必要性について判断の相違が生じることにもなり、スムーズな作業が阻害される結果となる。現場作業においては、各機関の連携のもとで統一的な指揮・運用を図る必要がある。- 3 4 -(5) 回収油の処分回収した油性廃棄物は、約 47,000kL に上り、これらの廃棄物は、国内法制度のもとで産業廃棄物として処理施設においてすべて処分されたが、通常時の産業廃棄物の処理手続きに基づいて実施されたため、回収された油性廃棄物の処分がスムーズに実施されなかった。1/Geographical dispersion of drifting spilled oil2/Locationofshipwreck3/Sakai4/Maizuru5/Tsuruga6/Mikuni7/Bow8/Kanazawa9/Nanao10/Toyama11/Naoetsu12/Niigata13/Hegura Jima14/Sado- 3 5 -討論ゲインズフォード: 仮設道路の目的について教えていただけますでしょうか。鈴木 : 当時、船首部に残っている油は約 2,800kL ぐらいという状況でした。漂流している間に多少抜けているので、残りは 2,000kL ぐらいであったろうと思います。漂着後、海上からのサルベージ作業としての油の抜き取り、それから、陸上から仮設道路をつくって油の抜き取りと 2 本立てにしましたのは、まず海上の状況が非常に厳しく波浪が高く、風も強いので、平穏な状態の日が少なかったためです。連続して 2日ないし 3日の平穏な日が続かないと、海上からの回収作業も可能にならない。平穏な日が 1 日程度では、作業準備だけで半日、1 日かかってしまい不充分です。実質、海上からの回収作業ができないということが懸念されましたので、海上と、陸上の両面で油の抜き取り作業を進めるためでした。ゲインズフォード: IOPC 基金ではこの資金提供に対しては前向きなのでしょうか。仮設道路をつくったコストや、海上での油の抜き取りに関しての資金を IOPC 基金で出すことに対して前向きなのでしょうか。鈴木: それは残念ながらかなり否定的な考え方があります。しかし、当面、全体の作業として、IOPC 基金には、費用請求を提出する予定にしております。後は IOPC 基金の理事会なり総会の判断を待つというのが我々の姿勢です。デイヴィス: 全体の回収コストはどのくらいだと見積もっているのでしょうか。基金に対して請求したのでしょうか。そして、今まで基金から支払いがなされたのでしょうか。鈴木: 今回の事故での費用請求の機関は、一つは、海上保安庁、それから、運輸省、自衛隊、これが国の機関です。そして、汚染被害を受けた各県、実際に資材を出し、人を出した地方自治体、それから、民間勢力として海上災害防止センターを窓口にした費用請求となります。我々の費用請求については、まだ完全に集計されておりません。今述べた、1 月から 3 月までの作業について費用を現在集計中です。神戸に IOPC 基金がこのナホトカ号事故の補償取扱い事務所を設置しているので、そこにまず提出する段階です。したがって、IOPC基金からの支払いは、一部緊急に必要な約 5 億 4,000 万円の支払いは受けておりますが、それ以外はまだ受けておりません。シィーヴェ: やはり経済的な面と同じように重要な問題の作業員、そして、人の安全ということについて伺いたいと思います。かなりの人が防除作業にかかわったと思うのですが、人員の安全ということに関してどの様な配慮をされたのでしょうか。作業人員への安全ということに関して、話していただけないでしょうか。鈴木: 作業員の安全については、海上作業では船を単位にした問題なので、天候等を勘案しながら、当然回収作業その他の作業の効率化にも関連するわけですが、天候の状況が悪いときには待機状態にし、回収作業等は中断する、無理な船の運行は実施しないという点が一つあります。それから、海岸からの作業については、直接海岸で回収作業をする場合、波等に足がさらわれないように、安全対策については監視態勢を十分取りながら作業を進めました。ルネル: 回収した油水量の 4万 7,000kLのうち、油分はどのくらいだったのでしょうか。- 3 6 -鈴木: これは確定しておりません。ドラム缶に収容したのが約11万本です。それから、海上で回収した油をそのまま、グラブ船に収容して、それをそのまま処理施設へ持っていったものもあります。フレキシブルコンテナに収容したものがあります。そのうち、油回収船で回収したものについては、約 1,100kL ぐらいになります。実際の油分は 200kLくらいであろうと推定をしていますが、油分がどのくらいの量になったかという確定はまだ出ておりません。ルネル: 全体で 5ないし 10%が海上で回収されたようですが、その油分は回収油の 40%なのか、80%なのか、概算で油分の割合はどのくらいでしょうか。鈴木: 海上で回収した油分は、トータルにするとおよそ 30%から 40%ぐらいの油分であろうと思います。ただ、海岸作業については、かなりゴミ等々に付着したものも含めているので、これらの概算は非常に難しい面があります。ディヴィス: 油まみれの砕片等の固体の廃棄物を処分する方法としてはどういったものをお使いだったのでしょうか。鈴木: 固形物は全て廃油の処理施設へ搬入して、そこで焼却処理をしております。焼却炉での焼却ということです。- 3 7 -Session 3米国の重大油汚染事故対策における公・民の協力、資機材計画及び準備態勢R.E.ベニス現職アメリカ合衆国沿岸警備隊防除対策局主任学歴ロードアイランド大学卒業(資源開発学専攻)ハーバード大学修士(エネルギーおよび環境政策)エクソン・バルディーズ号事故の際、アラスカ、バルディーズに派遣された- 3 8 -米国における最近の重大油汚染事故は、1989 年のエクソン・バルディーズ号の油流出事故以来、米国の海洋油汚染対応組織がいかに改善されてきたかを明確に実証するものである。以前は、対応者、責任当事者及び影響を受ける海運業界の間には明らかに団結と組織体制が欠如しており、対応現場には若干分裂的な雰囲気があるように思われた。エクソン・バルディーズ号の事故の教訓から十分学んだ我々は、機能的で、柔軟性もあり、非常に有効なシステムとして実証された油汚染対応手法を確立することができた。連邦政府の規制上の見地から、OPA90 として知られる 1990 年米国油濁法は、立法活動にはずみをつけ、油汚染対応に関して、財政上の責務、損害/損失の補償、船舶及び施設の運用要件、訓練要件、資機材の備蓄から、汚染対応の計画策定及び準備態勢に至るまで、多くの議案が提出された。米国モデルの油流出事故対応の成功の基礎は、汚染者又は有責の当事者が汚染浄化の責任を負うという考えを前提とすることにある。その対応は連邦政府の指示に基づいて行われる。更に、連邦政府代表者(海上事故に対しては米国沿岸警備隊、大部分の内陸部の油流出事故に対しては米国環境保護局)が、汚染浄化の完全な遂行を確認する責任を負っているとは言え、対応の成果を上げるためには利害関係者を包含することが極めて重要である。これらの利害関係者には、州及び地方自治体政府代表、自然保護管理者、歴史遺産保存の代表者及び環境関係者等を含むが、これらに限定されるものではない。これらの関係者を対応計画の策定及びその実施に参加させることによってエクソン・バルディーズ号の事故以前よりも有効で能率的な対応を実現することができる。上記の利害関係者と汚染事故により影響を受ける可能性のある全ての人々との間の関係は、0PA90 によって制定されて、全てを包括する米国の国家緊急防災計画(NCP)により制約を受けることとなり、これによって現行の対応作業に対し法的効力が与えられる。我々の計画は更に、国家緊急防災計画、地域緊急防災計画に、最終的には地区緊急防災計画に展開しあらゆるレベルの官民に及んでいる。経験上、地域又は地区の緊急防災計画が最も重要であることが明確に認識された。環境影響度解析に基づいて浄化作業の優先度が事前に確認されるのはこれらの計画においてである。更に、状況緊急度又は規模の拡大に応じて、地域内で入手可能な対応要員資機材及び他の地域からの要員資機材の大量回送を確認するのもこれらの計画である。対応組織を以下に示すが、これには全ての地区の代表者、連絡先、対応作業における地位/任務が記載されている。この計画は地区委員会により作成されるものであり、委員会においては地区の利害関係者が、汚染事故の起こった場合地区における最も重要な問題は何かということについて関心事項を検討し合意を図る。環境は常に最も重要な関心事であるが、影響を受けた地域社会の繁栄にとって重大な、例えば、経済的影響等も又非常に重要である。地区の漁民、海運関係者、レクリエーション企業、科学関係者及びその他の海事地域社会の構成員が、地域の緊急防災計画の作成に参加して、対応の優先度について主張する機会が与えられる。計画作業における一つの重要な要件は単純なもので、それは単に最終的に同意に達しなければならないということである。教訓から学習する間中絶えず考え方の絆としたことは、汚染事故により影響を受ける全ての人々と綿密な計画を作成し、協力体制を確立しネットワークを構築することが、実際の対応作業中の異論を排除し、エクソン・バルディーズ号の苦痛に満ちた経験から得たものを改善するのに大いに役立つであろうということである。地区の緊急防災計画の作成過程は、その過程において政府機関の間の合意を醸成するものであるが、何ヶ月もにわたる計画作成作業を円滑に遂行するための重要な要素は、一人の- 3 9 -担当者を指名することである。この担当者は連邦現場調整者(FOSC)と呼ばれるが、公衆衛生や公共の福祉に脅威を与えるどんな油流出事故にも、その対応を指揮する権限が法律で委任されている。公共の福祉を拡大解釈すると、FOSC は殆どの中規模及び大規模な油流出事故において指揮を取ることになる。その他の油流出事故において、有責当事者が判明し、その者によって適切な方法で対応が行われている場合には、FOSC は浄化作業の進捗状況を監視する。FOSC は適用すべき緊急防災計画に基づき浄化が完全に遂行されたことを確認する最終的な責任を常に有している。この一人の担当者を指名するのは、異議が生じた場合に誰が最終的な調停者となるのかという問題を明確にし、極めて有効な方法であることが立証されている。このような緊急防災計画策定過程の自然な結果として、計画は、ねらい通り論理的で、一般に知られ、かつ受け入れられる対応組織になって行く。浄化作業の管理は FOSC の指示に基づき、FOSC、州(又は複数の州)の 0SC 及び油流出側の浄化管理者又は有責当事者で構成される統一命令機構を通して行われる。この三者機構が対応作業の戦略を決定する。しかし、不幸にして合意に達することが困難な場合には、FOSCは対抗する意見を抑えて、問題の最善の解決について決定を下す法的な強制権を有している。上記の三者機構に基づくこの事故対策命令システム(ICS)は更に主要な四部門に分かれている。これは計画、補給、運営及び財政の四部門である。これらの部門のスタッフは、対応計画作成過程に加わりこれを事前に決定する。想定されるあらゆる関連の対応管理分野はこのシステムによって調整される。従来の計画策定手法において無視されることが多かった分野がこれにより扱われることになった(即ち、ボランティアの調整及び訓練、高官の訪問、式典、マスコミ関係等)。このシステムは内部的には極めて柔軟性があり、特定の要求や事故の規模に適合するように拡大、縮小することができる。国家的な重要性を有する事故と称される事故の対応にも間もなく適用する予定である。これは従来の油汚染対応の範囲を超え、その他の事故の対応分野に構想を拡大するものである。上記の計画作成、準備及び訓練過程と同時に、FOSC はその他の全ての政府機関により支援される。これは NCP の要件であり、FOSC は油流出の対処においてこれらの機関の支援及び特別の機能を登録することができる。これらの機関の中には FOSC に対し莫大な人員配置及び補給支援を展開できる国防総省が含まれている。国の対応チーム(NRT)及びより地域に限定した地域対応チーム(RRT)は、これらの各連邦政府機関の日勤職員により構成され、RRT レベルの州代表を含んでいる。これらの人員は、通常では非能率な官僚的決定を促進することで FOSC を支援するために待機している。又、これらのチームは、分散処理剤の使用及び現場での燃焼等の異なる対応手法について最終的な事前承認の決定において指導的な役割を果たす。OPA90 は、潜在的な油流出当事者に責任を求め、汚染事故の当事者自身が対応措置を講ずることを要求している。油の流出源がタンカー又はタンク艀の場合には、これらの運航業者は”最悪の排出状態”の汚染を浄化するために指定された流出油除去組織(0SR0)との事前契約を締結していなければならない。最悪の排出状態とは簡単に言えば、天候が悪ければ全ての積荷が失われるだろうことを意味する。現在これらの各船舶は汚染事故に対応するための資金的責任能力を証明することが要求されている。これらの船舶は、実際、汚染対応に備えて船舶固有の緊急防災計画である承認済みの船舶油濁防止計画書を備えなければならない。0PA90 に定める計画作成、協調体制の確立及び多くの各種訓練の実施によってあらゆる不測事態に対応できる環境が整えられてきた。我が米国モデルの素晴らしい成果は、緊急防災計画の合意に従い、一人の連邦政府の担当官即ち連邦政府現場調整官- 4 0 -の指揮の下で行われる公共部門と民間部門との共同対応作業が基本になっている。我々は、計画、準備及び油流出に対する管理技術の改善に加えて、浄化能力に対する新たな油流出事故対応技術の検討、評価及び追加に積極的に取り組んでいる。我々は民間の資金と人員による対応を主張しているが、最善の対応のための即応体制の能力と、更に必要ならば民間の資機材が対応の初期段階において時間的又は資材的に制約される場合に、最善の初動能力を保有しているのが現在の我々の義務である。専門技術の著しい向上及び我々 0SR0 の対応能力の改善により、沿岸警備隊の迅速な対応資機材である従来型の資機材(即ち、オイルフェンス及び回収装置)の必要性が低減しつつある。我々は分散処理剤の使用及び現場における燃焼の手法の分野に取り組むべく視野を広げており、その分野の専門技術及び対策は急速に進歩しているが、まだ全てに適用できる状態ではない。1990 年代の中頃になると、分散処理剤使用の事前承認に対する同意書の数が急増してきた。このような同意書が、以前の重大な対応のときに確保できていれば、小田原評定はしなくて済んだし、この時間が決め手である緩和手段を迅速に使用することが認められたであろう。我々は地域の対応チーム及び地区に対し、この事前承認を取得するように積極的に働きかけ、殆どの場合において、当該政府当局や資機材保管者による事前承認又は迅速な承認の手続きを得ることに成功した。この機能によって FOSC は可能な最善の対応整備に向けて新たな手段を手に入れることとなった。従来の回収及び除去方法は対応手法の選択肢として残されている。それでも対応責任者、利害関係者、保管者及び関係機関の間では、他の方法の利用(即ち、化学品及び現場での燃焼)が、大量の油の潮間帯への流入を防ぐためには必要であり、実際問題として望ましい方法であるとの認識が高まっている。要約すれば、エクソン・バルディーズ号以後の油汚染対応法は、我々が地域社会の協力者として、共に計画し、共に訓練し、共に対応するシステムであると認識している。我々の成功は共に分かつべき勝利であり、失敗は共に学ぶべき教訓である。油流出事故対応はもはや分裂的な作業と見られるべきものではなくて、共に立ち向かわなければならない挑戦である。- 4 1 -- 4 2 -討論工藤: FOSC はワシントンとは連絡を毎回しなくても良いのでしょうか。必要となるいろいろな費用や組織間の法律的な調整等も、緊急時には全て FOSC が判断できるようになっているのでしょうか。ベニス: FOSC については、「責任転嫁はしない」という言葉につきると思います。FOSCが全て意思決定を行う力を持っております。エクソン・バルディーズ号のような大規模な流出事故の場合には、より上級の者に当たらせます。例えばエクソン・バルディーズ号事故の場合には、一般大衆の耳目も集まり政治的な関心も大きいということで、より上級の海軍中将を当てました。しかし、その中将が新しい FOSCとして着任するまでは、資金についての裁断を下し、どういう対策を取るのかを決定する責任は前任者にあります。このような権限、責任力がなければ成功しません。軍の階級は問題ではありません。FOSC の監督者は、歴史的には提督ですが、許可、認可、決定に際して、いちいち監督者の所へ行く必要はありません。FOSCのスタッフにはアドバイザーとして法律の専門家もおります。また、石油流出事故責任信託基金の職員もメンバーに居て、手続き上の助言をします。しかし、対応を成功させるためには最終的な権限が FOSC に集中されなければいけません。ゲインズフォード: 二つ質問があるのですが、本部の中で海岸と海上のオペレーションを分けているのですか。それとも海岸と海上での対応する二つの本部を一本にまとめているのですか。また、地域当局あるいは州の当局は法律上、浄化と事故に備える緊急防災計画に対する責任を持っているのでしょうか。また、これはボランタリーに行われるものなのでしょうか。ベニス: 海上、近海、内海、河川、どれでも一つのものとして計画されております。海上の事故と海岸近くの事故を区別するものではありません。州としてはもちろん、地域の緊急防災計画や地域対応チームの会合に参加しなくてはなりません。米国の場合、三つの州、名前は述べませんが、その対応プログラムは非常に積極的なものがあります。名前は言わないと言いましたが、それはテキサス、カリフォルニア、フロリダだと思います。これらの州は、我々の対応に深く関わっていますが、歴史的に言って、我々の対応では関連する三者、すなわち、FOSC、責任を負うべき団体と州の代表者が統合された指令のもとで作業をします。したがって、連邦政府と州政府の間には競合はありません。全てが一つのチームの中で一緒に働きます。もちろん、幸いなことにより多くの資金や人材を持っている州の場合には、より積極的に参加いたします。そして我々は投入できる資金力、そして、人材を持っているところが参加してくれるのを歓迎しております。ゲインズフォード: 近海と言った場合には沿岸線も入るのでしょうか。ベニス: そうです。ゲインズフォード: 全てに対応するとセンターは非常に大きくなってしまうのではないでしょうか。べニス: 国家的な規模の場合、例えば、エクソン・バルディーズ号事故の場合にはそうなります。たしかあのときには四つのプライマリーセンターができました。一つのセンターが母船で、FOSC が常駐し、そこから三つの代表が他のセンターへ送られ、それぞれのセンターの指揮をし、定期的に報告を FOSC に送りました。地理的に、対応に関する限り- 4 3 -はサブユニットを設けます。ただ、主対応組織である FOSC がいる母船に報告はいたします。ゲインズフォード: 最後にもう一つ質問です。事故の前に緊急防災計画を立てるために、連邦から州に何か資金が出される場合があるのでしょうか。ベニス: 0PA-90 のもとで 0PA-90 の対応準備演習のために資金が設けられております。そして、それぞれの地域の対応チームに対しては予備的な演習、地域の緊急防災計画、企画、生産のための予算等も多少設けられております。その資金は油濁信託基金から来ます。これは信託基金に入っている資金で、税金ではありません。鈴木: 米国の補償制度は独自の制度として国内だけで運用されておられますが、FOSCは非常に大きな権限を持っておられるようです。防除作業に要した費用、あるいは損害等に対しても FOSCが最終的に決定するのでしょうか。べニス: 対応のレベル、対応に使われる金額に対する最終的な権限ということであれば-今のご質問に対する、私の理解が正しければ、答えはイエスと
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