成果報告書「排他的経済水域における航行等の活動に関する研究」2013 年3 月31 日海洋政策研究財団本書は、海洋政策研究財団が2012 年度に実施した研究事業「排他的経済水域における航行等に関する研究」の概要と成果を報告するものである。目 次1 研究事業の趣旨等(1)研究事業の目的(2)研究実施の背景(3)計画と実施の概要2 2012 年度研究事業の実施概要(1)第1 回国際会議(2)海外の関連機関・研究所における意見交換・資料収集3 成果と今後の計画添付1:「排他的経済水域における航行および上空飛行に係わる指針」(現指針)添付2:「排他的経済水域における航行等の活動に関する指針(改定概案)」添付3:第1 回国際会議参加者作成資料綴り1 研究事業の趣旨等(1)研究事業の目的海洋政策研究財団が2005 年度に作成した「排他的経済水域における航行および上空飛行に係る指針」を時宜に照らして改定する。(2)研究事業の背景排他的経済水域(以降、EEZ と表記)における艦艇の行動や資源調査、水路測量等の活動については、国ごとに国連海洋法条約に規定される関連条項の解釈に相違があり、沿岸国と海洋利用国との間の対立を生み、それが、時として航行の自由を阻害し、更には海洋の安全保障環境を著しく不安定化させる要因となっている。2001 年に海南島沖の中国のEEZ 内で生じたアメリカの電子偵察機EP-3 と中国軍の戦闘機との衝突事件は、この問題を国際社会に強く印象付けるものとなった。日本のEEZ内においても、中国の海洋監視船が協定に定められた事前通報なしに調査活動を繰り返す事案が生じていた。海洋政策研究財団は、EEZ 内での他国の海軍艦艇を含む船舶の行動についての法的解釈に一定の国際合意が必要と判断し、2002 年度から2005 年度まで、研究事業「排他的経済水域の法的地位-課題と対応-」を主催し、「排他的経済水域における航行および上空飛行に係る指針」(以降、現指針と表記)を作成して国内および海外の関係機関等に紹介した。現指針は、海外の専門誌に紹介され、あるいはアメリカ海軍大学の国際法の講義における参考文献として活用されるなど、一定の評価を得た。現指針はその作成から2012 年度で7 年を経過した。その間も、2009 年に黄海の中国のEEZ 内でアメリカ海軍所属の海洋調査船「ビクトリアス」が、また海南島沖の中国のEEZ内でアメリカ海軍所属の音響観測船「インペッカブル」が中国の艦艇や漁業監視船、漁船等に妨害を受ける事件が発生するなど、事態はむしろ深刻化しており、EEZ における行動に係るレジーム構築の必要性が国際社会で認識されつつある。事態を深刻化させている要因として、以下の3 つを挙げることができる。その1 つは、東アジアの海域における海洋資源の開発権を巡る紛争の顕在化であり、2 つ目は、他国のEEZ 内における中国の海軍艦艇や海洋監視船等の法執行機関の船舶の行動の活発化、そして3 つ目は、そのような状況に直面してのEEZ における海軍艦艇等の行動に関する沿岸国の見解の変化である。海洋政策研究財団では、海洋に係る国際関係の変化を考慮すると共にEEZ の法的地位を再確認するなどして、現指針を時宜にかなったものに改定し、その改定された指針を国際社会に紹介し、海洋のより適切な管理と安全保障環境の安定化のためのレジーム構築に資することを要請することとした。改定された指針が国際社会の理解を得ることにより、EEZ における不測の事態を減少させることができる。海上交通路を生命線とする我が国にとって、海洋安全保障環境の安定化は不可欠であり、不測の事態を減少させることは、海上交通路の安定利用に直結する。内外の専門家からも、本研究事業に強い期待が寄せられている。(3)研究の実施計画内外の専門家を招聘しての会議や海外での意見交換・資料収集を通じ、現指針を改定する。研究は2012 年度から2013 年度までの2 ヵ年計画とし、以下により進捗させる。2012 年度:少数のコアメンバー(ドラフティング・コミッティー)で構成する第1 回国際会議を開催して現指針を再検討し、改定すべき箇所等を洗い出して現指針の改定概案(以降、改定概案と表記)を作成すると共に、強い影響力を持つ海外の関係機関等を訪問して意見を聴取する。2013 年度:第2 回国際会議を開催し、2012 年度に作成した概案を審議して改定の成案を得る。改定した指針(以降、改定指針と表記)を国際海事機関等に説明し普及のための理解を得る。2 2012 年度研究事業の実施概要改定概案を作成するための専門家による第1 回国際会議と、海外の関連機関・研究所における意見交換を計画し実施した。(1)第1 回国際会議第1 回国際会議は以下の通り実施した。ア 国際会議のタイトル「排他的経済水域における航行等の活動に関する研究」第1回国際会議(Meeting of the Steering Committee for Reviewing the "Guidelines for Navigationand Overflight in the Exclusive Economic Zone" worked out by the OPRF in 2005)イ 日時・場所2012 年10 月17 日(水)・18 日(木)「箱根ハイランドホテル」ウ 行動概要10 月16 日(火)海外からの参加者来日ホテルセンチュリー・サザンタワー泊(新宿)10 月17 日(水)10:00 新宿発小田急ロマンスカー「S はこね13 号」乗車10:23 箱根湯本着13:00 国際会議開始10 月18 日(木)終日、国際会議10 月19 日(金)09:00 マイクロバスでホテル発、新宿駅を経由して成田空港へ海外からの参加者帰国(中国のノン・ホーン副所長は航空便の関係から20 日に帰国)エ アジェンダ10 月17 日(水)13:00-13:05 開会挨拶秋元一峰(海洋政策研究財団主任研究員)13:05-13:15 委員会実施要領説明サム・ベイトマン(ウーロンゴン大学教授)・会議議長13:15-14:45 セッション1「用語の定義に関する見直し」『指針』Ⅰ「定義」について、修文、追記、削除等を要する箇所について検討し、修正案を作成する。意見が分かれる場合は併記する。14:45-15:00 休憩15:00-19:00 セッション2「軍事的活動、情報収集活動に関する見直し」『指針』Ⅳ「監視活動」、Ⅴ「軍事活動」、Ⅵ「電子システムへの不干渉」について、修文、追記、削除等を要する箇所を検討し、修正案を作成する。意見が分かれる場合は併記する。19:30-21:00 夕食10 月18 日(木)08:00-09:30 セッション3「海賊その他違法行為抑止のための行動に関する見直し」『指針』Ⅶ「海賊その他の違法行為の抑止」について、修文、追記、削除等を要する箇所を検討し、修正案を作成する。意見が分かれる場合は併記する。09:30-09:45 休憩09:45-12:00 セッション4「科学調査・水路測量調査に関する見直し」『指針』Ⅷ「科学調査」、Ⅸ「水路測量調査」について、修文、追記、削除等を要する箇所を検討し、修正案を作成する。意見が分かれる場合は併記する。12:00-13:00 昼食13:00-14:30 セッション5 「沿岸国および他国の権利と義務に関する見直し」『指針』Ⅱ「沿岸国の権利と義務」、Ⅲ「他国の権利と義務」について、修文、追記、削除等を要する箇所を検討し、修正案を作成する。意見が分かれる場合は併記する。14:30-15:30 セッション6「前書き、序説の文章の見直し」『指針』の位置づけを検討し、「はじめに」「序説」の文章について、所要の修正を施す。意見が分かれる場合は併記する。15:30-15:45 休憩15:45-17:00 セッション7「海洋における軍の活動と信頼醸成・透明性」信頼醸成・透明性の促進の観点からの海洋における海軍艦艇等の行動、情報収集活動の是非について自由討論し、『指針』見直しの基礎資料を得る。17:00-18:30 セッション8「軍事活動と自然環境の保護」軍事活動が自然環境に負の影響を及ぼすことが危惧される場合の取極め等について自由討論し、『指針』見直しの基礎資料とする。18:45-19:00 議長総括19:00-20:30 夕食10 月19 日(金)09:00 マイクロバスでホテル発、新宿駅を経由して成田空港へ海外からの参加者帰国(中国のノン・ホーン副所長は20 日に帰国)オ 参加者オーストラリアDr. Sam BATEMANProfessional Research Fellow, Australian National Centre for OceanResources and Security (ANCORS), Faculty of Law, University ofWollongong中国Dr. Nong HONGDirector, Research Center for Oceans Law and Policy, National Institute forSouth China Sea Studies (NISCS)フィリピンProfessor Rommel BANLAOIHead, Center for Intelligence & National Security Studies (CINSS) of thePhilippine Institute for Peace, Violence and Terrorism Research (PIPVTR)アメリカCommander James KRASKAHoward S. Levie Chair in International Law, U.S. Naval War College日本秋元一峰海洋政策研究財団政策研究グループ主任研究員秋山昌廣海洋政策研究財団特別顧問坂元茂樹神戸大学大学院教授林司宣海洋政策研究財団特別研究員オブザーバータイ王国RADM Tanin CharurulaThe Judge Advocate General of the Royal Thai NavyCapt. Jumpon NakbuaDeputy Head, Maritime Security Division, Operation Department, the RoyalThai NavyCdr.Teerawee PamornsakdaHead of Naval Operation, Naval Operation Department of the Royal Thai Navy会議補佐・事務局犬塚勤海洋政策研究財団企画グループ長岩石順子海洋政策研究財団政策研究グループ研究員髙田祐子海洋政策研究財団海技研究グループ国際チーム員長岡さくら海洋政策研究財団政策研究グループ研究員カ 第1 回国際会議の成果各章ごとに参加者の中から担当を決め、改定概案を作成した。改定概案は添付資料2 に示す通りあり、担当した参加者が作成した資料を添付資料3 に綴る。国際会議参加者(2012 年10 月4 日)国際会議の会議風景(2)海外の関連機関・研究所における意見交換・資料収集ア アメリカ合衆国2012 年7 月2 日(月)から6 日(金)の間、ハワイ州に所在するアメリカ太平洋軍司令部・太平洋艦隊司令部、アジア太平洋安全保障研究センター(Asia Pacific Center forSecurity Studies; APCSS)、およびパシフィックフォーラムCSIS(Pacific Forum, Centerfor Strategic and International Studies)を訪問し、意見交換・資料収集した。参加者は、本研究事業を担当する、秋元一峰・政策研究グループ主任研究員、髙田祐子・海技研究グループ国際チーム員および竹田純一・客員研究員の3 名であり、以下の通り行動した。月 日(曜) 行 動 予 定 宿泊先7 月2 日(月)移動 (UA880 成田空港発19:25)07:38 ホノルル空港着13:00 アメリカ太平洋軍司令部訪問15:00 アメリカ太平洋艦艇司令部訪問7 月3 日(火)09:00 アジア太平洋戦略研究センター訪問14:00 パシフィックフォーラムCSIS 訪問7 月4 日(水) 09:00 アメリカ太平洋艦隊部隊研修ヒルトンハワイアンビレッジ7 月5 日(木) 移動 (UA879 ホノルル空港10:30) 機中泊7 月6 日(金) 13:25 成田空港着(ア)訪問先の概要・アメリカ太平洋軍司令部・太平洋艦隊司令部アメリカ太平洋軍と太平洋艦隊は、アジア太平洋、インド洋、北極海の安全保障を担っており、国際法・海洋法を担当する部署も充実している。EEZ における海軍の活動の法的位置づけに関する国際社会の動向、海洋自由を原則とする行動方針確保のための対策等について資料を収集した。・アジア太平洋安全保障研究センター(Asia Pacific Center for Security Studies;APCSS)APCSS はアメリカ国防総省に属し、アジア太平洋地域における各国との協調的安全保障の促進を目的として活発な研究・政策提言活動に携わっており、国際法・海洋法に関する著名な研究者が在籍している。海洋法の国際的適用に関して意見を交換すると共に資料を収集した。・パシフィックフォーラムCSIS(Pacific Forum, Center for Strategic andInternational Studies)パシフィックフォーラムCSIS は、アメリカのアジア・太平洋戦略、日米同盟、対中国外交等々、幅広い研究を実施している。他国のEEZ 内における情報収集活動と透明性の確保の関係について意見を交換した。(イ)成果の概要・EEZ における航行等の活動に関わるアメリカの法的解釈国連海洋法条約の規定するEEZ は資源と環境に係る主権的権利と管轄権であり、航行の自由が規制されるものではないし、軍事的な行動が制限されるものでもない、との解釈が明確に示された。・EEZ における航行等の活動についてのアメリカ軍としての基本姿勢以下の意見を聴取した。海軍の行動は一国の主権下に属する領海と内海を除いては、海洋自由の原則のもとにおいて自由である。EEZ は領海ではないので、海軍の行動も自由である。海軍の行動は国家の防衛と安全保障のためのものであり、EEZ において制限されてはならない。また、海洋における軍事上の調査活動は国連海洋法条約における科学的調査ではなく、それが他国のEEZ であったとしても沿岸国の同意を必要としない。海洋における軍事的な情報収集活動は、信頼醸成の基本となる透明性の確保につながるものでもあり、EEZ であるか否かを問わず安全保障上重要な活動である。・アメリカの国連海洋法条約への加盟についてアメリカ国内では依然として様々な意見があるが、アメリカ海軍をはじめ海洋に係る国の組織・機関の多くは加盟に積極的であるとの考えが示された。しかし、大統領選挙を控えていることから、今年中の加盟は難しいのではないかとの意見もあった。・アメリカ国内にある様々な意見EEZ における軍事的行動については、アメリカ国内にも沿岸国寄りの考え方、つまり、EEZにおいて軍事的行動は慎むべきであるとの意見を提示する向きもある。ハワイのEastWest Center もその一つであり、南シナ海においても、アメリカ海軍は中国を刺激するような行動を避けるべきであるとの論文が提出されていることを紹介された。イ ベトナム社会主義共和国およびタイ王国2013 年2 月4 日(月)から2 月10 日(日)の間、ベトナム社会主義共和国首都ハノイとタイ王国首都バンコクを訪問してEEZ における航行等の問題について意見交換した。ハノイでは、ベトナム外交学院と外務省を、またバンコクでは国家安全保障委員会、チュラロンゴン大学等を訪れた。また、両国の日本大使館員とも会合し、それぞれの国の考え方等に関する情報を収集した。参加者は、本事業を担当する、犬塚勤・企画グループ長、秋元一峰・政策研究グループ主任研究員および髙田祐子・海技研究グループ国際チーム員の3 名であり、以下の通り行動した。月 日(曜) 行 動 予 定 宿泊先2 月4 日(月) 移動(JL751 成田発18:00 ハノイ着22:25)2 月5 日(火)14:00 ベトナム外交学院訪問18:00 日本大使館小野参事官との意見交換モエヴェンピックホテル2 月6 日(水)10:00 ベトナム外務省訪問移動(VN0613 ハノイ発15:45 バンコク着17:35)2 月7 日(木)10:00 タイ王国首相府国家安全保障委員会訪問18:00 日本大使館伊澤公使との意見交換2 月8 日(金)10:00 タイ王国海軍司令部訪問14:00 チュラロンゴン大学訪問2 月9 日(土) 移動(JL34 バンコク発22:25)2 月10 日(日) 成田着(06:00)グランドセンターポイントホテル(ア)訪問先と成果の概要・ベトナム外交学院ベトナム外務省に属する外交官の教育機関である。海洋法など国際法を専門とする研究員に現指針と改定概案を示し、意見を交換した。ベトナム外交学院としては、2005 年に策定された現指針を評価しており、大きな変更は望まないとの意見が出された。2005 年までの指針策定会議には、ベトナムから外務省条約局長が参加しており、ベトナムの立場を強く主張し、その多くが取り入れられたことによるものと思われる。しかしながら、現指針策定から既に7 年以上が経過し、その間にも情況は大きく動いており、とりわけ中国との海洋権益を巡る対立からアメリカのプレゼンスへの期待が国内で高まっていることから、ベトナム国内でEEZ における軍事行動は認められるべきであるとの意見が大きくなっているため、改定案でその旨が明記されていることは歓迎された。ベトナムのEEZ 内では、尖閣諸島周辺海域と同様に、国家海洋局所属の船舶等の中国の公船が権利を主張して高圧的な行動を繰り返しており、そのことは、EEZ における海軍艦艇等の行動の是非や法的位置づけに関するベトナムの立場に大きな変化を与えており、当該研究に対するベトナム外交学院の関心は高かった。現在、指針改定の会議となる平成25 年度の国際会議へのベトナムからの参加を検討しているところであり、国際会議における討議要領やアジェンダの希望等について意見を聴取した。また、海洋政策研究財団で平成25 年度からの研究実施を検討している、OPK(OceanPeace Keeping)について紹介し、ベトナムとして関心があること、実施することにより南シナ海における関係国間の信頼醸成を促進することが期待できる等の所見を得た。・ベトナム外務省ベトナム外務省の条約局長を訪問し、ベトナム政府のEEZ に関する法的解釈について意見を聴取した。ベトナム外交学院と同じく、現指針についての理解が深かった。ベトナムは以前、EEZにおける他国海軍の活動については否定的な意見が多かったが、中国の高圧的な海洋進出に対抗するアメリカへの期待から、しだいに立場が変化していることが紹介された。その意味から、EEZ は海洋の資源と環境の管理を沿岸国に委ねたものであり、軍事活動を規定するものではないとの法的解釈が主流となっている。・タイ王国首相府国家安全保障委員会タイの安全保障政策についての専門委員会組織である。タイにおけるEEZ の法的解釈、EEZ に関する安全保障上の関心事項、改定概案への所見等を得た。タイにおいても、EEZ における他国の活動に関する問題への関心は高いが、中国とASEAN 諸国との間で係争が厳しい南シナ海に直接的に面してはいないところから、軍事活動を現実的な問題として捉えていないところがある。また、タイ特有のアメリカとも中国とも対立は避けるとの外交姿勢から、EEZ に関する問題においても、同じASEAN 諸国の中でもベトナムやフィリピンとは異なる宥和的考えが垣間見える。そのため、指針の重要性は認めるものの、記述については曖昧性をもたせることを望んでいる。タイを航行の自由を主張する側に取り込むことは重要ではあるが、本件に関しては、必ずしも参加が必要な国との認識は得られなかった。・タイ王国海軍司令部タイ海軍の現下最大の任務は、アンダマン海北部の治安維持、ミャンマーとの海上国境紛争とシャム湾における違法操業と海賊への対処である。ASEAN の一国として、南シナ海には一定の発言権を有するが、中国と対立することは避けている。平成24 年度の国際会議には、タイからの参加は招聘しなかったが、タイ海軍の法律専門士官3 人が自費でオブザーバー参加したようにEEZ における他国の活動に関する国際問題についての関心は高い。タイ海軍における本問題に関する関心は、一つはアンダマン海におけるミャンマーとの関係であり、もう一つは南シナ海問題における中国と他のASEAN 諸国の双方に対するけん制の意図が強い。後者については、つまり、中国とASEAN 諸国の双方に歩み寄りを求めているのである。タイはそのための音頭をとろうとしている。・国立チュラロンゴン大学タイの政策決定に大きな影響力を持つ研究者が多く在籍する大学である。EEZ を巡るタイと隣国との国際問題等について意見を聴取した。今回、日本大使館の働きかけで、タイの政治・外交に大きな発言力と影響力を持つティティナン・ポングディラク教授と意見交換する機会を得た。同教授から、「アメリカや日本の考えは理解しているが、タイは伝統的にEEZ における他国海軍の活動は認めないとの国是をもっている」、との簡潔明快な回答を得た。これがタイ政府の方針でもあろう。一方で、チュラロンゴン大学では海洋政策研究財団が発刊している『海洋安全保障情報月報』を高く評価しており、「中立的で公平な立場で情報を簡潔に要約しており、学術的な価値も高い。ありがたく思っている」「今回、同情報誌の編集担当が来訪されたことを嬉しく思う」との発言があった。3 成果と今後の計画(1)成果現指針を検討し作成した2002 年から2005 年に掛けての時期は、海上テロや海賊等が主たる脅威として念頭に置かれており、現在の海洋安全保障環境を不安定化させている最大の要因である南シナ海問題や中国海軍力の増強は考慮されることはなかった。また、当時はEEZ の法的地位の明確化が求められており、海洋法条約で沿岸国と利用国がどのような権利と義務があるかの議論が活発であった。しかし今は、海洋法条約の曖昧性はそのままとして、資源・環境保護のためのEEZ のレジームの確立を目指しての国際協調や、安全保障環境の安定化のための信頼醸成や軍事に関する透明性の確保を念頭に置いた議論が主流となっており、それが現実的なアプローチであるとの国際認識がある。そのような時代背景の相違を勘案して、先ず目次構成を改定した。現指針と改定概案の目次構成は以下の通りである。(現指針の目次構成)1. 用語の定義2. 沿岸国の権利と義務3. 他国の権利と義務4. 海洋における監視活動5. 軍事活動6. 電子システムへの不干渉7. 海賊・その他違法行為への対処8. 海洋科学調査9. 水路測量調査(改定概案の目次構成)1. 用語の定義2. EEZ における妥当な配慮3. 海洋における監視活動4. 軍事活動5. 電子システムの不干渉6. 海洋科学調査現指針の2.と3.で触れている沿岸国と他国の権利と義務については、法解釈の調整を図ることは敢えて避け、改定概案では2.妥当な配慮として、互いに配慮すべきことを列挙した。監視活動、軍事活動、電子システムへの不干渉は、改定概案でも目次構成にそのまま取り上げ、現指針よりも更に具体的な表現を用いるように努めた。それは、中国が、海洋への進出の必要性から、現指針作成当時と比べ、沿岸国から海洋利用国の立場に姿勢を変化させている面があること、そして南シナ海諸国が中国の海洋進出を警戒してパワーバランスの安定化を求めていることに配慮したからである。現指針で取り上げた9.水路測量は、その活動の範囲が明確には定義できないことから、改定概案では敢えて削除し、航行の安全のために沿岸国は妥当な配慮を払うべきであることを示すことにした。また現指針の6.海洋科学調査は、そのまま残すこととした。(2)今後の計画2012 年度研究で作成した改定概案と海外における関連機関等で得た意見を、2013 年度の第2 回国際会議において叩き台として提示し、審議のうえ成案を得る。第2 回国際会議は、アメリカ、オーストラリア、韓国、中国、フィリピン、ベトナムと日本から専門家を招聘して東京で開催する。改定した指針を、国際海事機関等に提示し普及のための理解を得る。