「日本とインドネシアとの海洋安全保障ダイアローグ」(ジャカルタ ダイアローグ 2006)報告書平成18年3月31日海洋政策研究財団本書は、平成18 年2 月19-22 日にインドネシアのジャカルタおよびスラバヤで実施した、国際会議「日本とインドネシアとの海洋安全保障ダイアローグ」(ジャカルタ ダイアローグ2006)の成果を要約するものである。目 次1 実施の概要(1) 実施の日時・場所(2) ダイアローグの趣旨(3) 対話会議の構成(4) 対話会議の参加者2 対話会議の概要(1) セッション1「ステアリング コミッティー」(2) セッション2「オープニング セッション」(3) セッション3「日本とインドネシアの政治・外交・安全保障」(4) セッション4「海上の治安・警備および海洋安全保障協力」(5) セッション5「日本とインドネシアの関係-今後の展望-」(6) セッション6「クローズィング リマークス」3 視察の概要4 ダイアローグにおける特記事項a インドネシアの海洋安全保障態勢についてb 国境を越える問題への海峡三カ国の取り組みについてc アメリカとの共同あるいは多国間強調について5 成果および所見6 今後の方針添付資料:「ジャカルタ ダイアローグ2006発表資料ファイル」1 実施の概要(1)実施の日時・場所a 日 時平成18 年2 月19-22 日b 場 所インドネシア対話会議:ジャカルタ、ホテル「ニッコー」視 察 :スラバヤc 行動の概要別紙1「第1 回日本とインドネシアとの海洋安全保障ダイアローグ(ジャカルタ ダイアローグ2006)行動概要」に示すとおり。(2)ダイアローグの趣旨a 目 的日本とインドネシアの間で民間レベルの海洋安全保障対話を実施し、安全保障協力の可能性を見出すと共に協力のための具体策を検討し、地域さらには地球規模の総合安全保障に資する日本とインドネシアの関係構築と、日本の海洋権益を確保するための提言を得る。b 意 義マラッカ海峡の一部とロンボクおよびスンダ両国際海峡を領海に擁し、世界最大の群島水域を有するインドネシアは、頻発凶暴化する海賊・武装強盗、海上テロの危惧、さらには、群島水域内のアメリカ海軍艦艇の航行問題など、治安・軍事と海洋利用に係わる様々な問題を抱えている。これらはいずれも、日本の安全保障に大きな影響を及ぼすものである。東南アジア諸国は概して他国の干渉を好まないが、特にインドネシアは、安全保障に関して必ずしも国際協調的ではない。この傾向は、タイやシンガポール、あるいはフィリピンと比較した場合、顕著であるといえよう。その例として、アメリカ太平洋軍司令官が提案した地域海洋安全保障構想(Regional Maritime Security Initiative;RMSI)にシンガポールが同調したのに対し、インドネシアは即刻異議を唱えている。また、アメリカが望む東西を結ぶ群島航路帯の設定にも否定的である。インドネシアの協調なくして、アジア・太平洋地域における安全保障環境の安定化と、東アジアからインド洋に伸びるシーレーンの安全の確保はなし得ないと言っても過言ではない。海洋安全保障をテーマとした対話を通じて、インドネシアを安全保障協力の世界に導き、信頼醸成を促進し、海上国境の概念を超えた国際的な海上防衛警備態勢の構築を図ることができれば、日本からインド洋に至る海洋の安全保障環境は格段に安定化することになる。(3)対話会議の構成第1 回目となる今回の対話会議では、当初から議題を海洋問題に特化することなく、幅広く日本とインドネシアの政治・経済・外交・安全保障上の諸問題についても取り上げ、相互理解を図り、今後の二国間関係および海洋安全保障協力の在り方を検討していくためのしっかりとした共通認識を礎とする入り口を構築することを念頭におき、以下のことを含ませたプログラムを作成して臨んだ。a.政治・経済・外交・安全保障全般についての懸案と相互理解日本とインドネシアの政治・経済および外交・安全保障上の関心ならびに懸案事項等について意見を交換し、相互理解と協力の促進に資する。ODAや海事・造船等についても議題として取り上げる。b.海上における安全の確保航行の安全を確保するための、海賊・武装強盗あるいは海上テロへの対策に係わる協力について意見を交換する。特に、海賊・武装強盗については、根本的な発生要因を調査するなどして根絶対策を検討する。そのため、インドネシア側には実態や統計の詳細な説明を期待する。c.シーレーンの防衛・警備についての検討インドネシア群島水域およびマラッカ海峡を通るシーレーンの重要性とその防衛・警備の必要性について共通の認識を得る。d.海上防衛警備部隊の交流促進海軍力および沿岸警備部隊の役割、防衛警備関係者の交流や共同訓練などについて意見を交換し、相互理解と信頼醸成に資する。インドネシアにおける沿岸警備部隊創設に伴う日本の協力についても意見を交換する。e.総合的海洋安全保障のための海洋協力資源・環境保護を含めた総合的海洋安全保障のための協力の在り方について意見を交換し、地域の安全保障環境の安定化に資する両国関係の構築に資する。なお、対象海域を南シナ海-インドネシア群島水域-マラッカ海峡-アンダマン海にかけての海洋とし、対話はオープン、議事録を作成することとした。プログラムの詳細は、別紙2「第1 回日本とインドネシアとの海洋安全保障ダイアローグ(ジャカルタ ダイアローグ2006)対話会議プログラム」に示すとおりである。(4)対話会議の参加者別紙3「第1 回日本とインドネシアとの海洋安全保障ダイアローグ(ジャカルタ ダイアローグ2006)対話会議参加者」に示すとおり。2 対話会議の概要(1)セッション1「ステアリング コミッティー」対話会議参加者によって、本ダイアローグの実施要領等に関する意見のすり合わせを図った。秋山会長から、① 本ダイアローグについては3~4回続けたい、メンバーはなるべく固定したい、② 単なる討論で終わらせるのではなく、成果をまとめてJoint statement あるいはRecommendation といったものを作成して政府あるいはメディアに発表したい、③ 地域の海洋大国同士ではあるが必ずしもお互いを分かっていないのではないか、対話を通じて相互理解を深めていきたい、④ 海洋のみならず、政治・経済についても意思疎通を図りたい、との方針が示され、インドネシア側もこれに同意した。また、第2回ダイアローグは2006 年の秋に日本で開催することで合意した。(2)セッション2「オープニング セッション」a 基調講演ユオノ・スダルソノ 国防大臣開会に当たり、インドネシアのユオノ・スダルソノ国防大臣から要旨以下の基調講演を得た。なお、講演全文和訳は別紙4「ユオノ・スダルソノ国防大臣講演(仮訳)」の通りである。(要旨)東アジアは世界の二大経済大国であるアメリカと日本を中心として動いている。世界の貿易の90%は海上輸送に依拠しており、西太平洋の安全保障は日米安保によって確保されている。過去50 年間、アメリカ太平洋艦隊と海上自衛隊がこの地域の海上安全の中心的役割を果たしてきた。日米安保は、経済的側面も含め、東アジアの公共財となっている。ASEAN 諸国は、この公共財によって支えられてきた"アジアの海洋貿易の安定"を通じて発展を遂げてきた。2004 年11 月に発表された日本の防衛計画の大綱と、先ほど発表された米軍再編に係わる中間報告は、現在の安全保障の特徴を表しており、そこには、台頭する中国を背景とした日米のイニシアティブが示されている。中国の台頭によって、シーレーンの防衛、中台問題、尖閣問題など、日本は今後5~10 年を見越した安全保障の見直しを必要としているだろう。世界の貿易の38%がマラッカ海峡とロンボク海峡を通過している。今、シーレーンの重要性は増している。インドネシア海軍は、日米および東アジアの利益と深く関わっていることを理解している。アメリカの役割、日米安保の役割、中国の役割、ASEAN 諸国の役割、それぞれが、今後5~10 年において大きく変化してくるだろう。安全保障政策は、政治・経済と蜜に関連させつつ進めなければならない。今回、ここには、政策立案者、軍事・安全保障の専門家、市民社会で中心的な活動をして方々が参加されている。地域の安全保障枠組みの再定義につながるような議論がなされることを期待している。(主な質疑応答の要旨)Q:インドネシアの海洋安全保障に対する役割を如何考えるか。A:インドネシアの国防費は、シンガポールやマレーシアと比較して低く、人・物共に不足している。Operation readiness を向上させていかなければならないと考えている。Q:スハルト以降少なくなっていたASEAN でのリーダーシップを復活させているようにも見受けられるが。A:インドネシアは世界第三の民主主義大国でありながら、貧困の問題が未だに解決されていない。国内問題を優先させる必要がある。b 総合議長開会挨拶白石隆 政策研究大学院大学副学長インドネシアは日本にとって重要な国であり、事実上、日本の同盟国である。この地域は欧州と異なり市場が統合を推進しており、経済的に見た場合、西欧や北米よりもむしろ統合は進んでいるといえる。日本はマレーシア、タイ、シンガポールとも関係を強めている。日本とインドネシアは、海上安全と言う面から見た場合、より強く協力し合わなければならないことが理解できるだろう。海上安全保障における共通の問題としては、海賊のみならず、麻薬や密輸もある。本ダイアローグを重要な一歩として記せるよう議論を交わして頂きたい。c 開会挨拶秋山昌廣 海洋政策研究財団会長白石先生の挨拶ともダブるので多くを省略したい。二つの海洋大国、日本とインドネシアは互いにあまり多くを理解し合ってはいない。海洋の安全保障は、日本とインドネシア双方にとって重要な議題である。互いの立場を理解し、議論を尽くして制度などに関わる方図を導き出し、それを提言し、問題を解決していきたい。d 開会挨拶ベルナルド・ケン・ソンダック 元海軍参謀長国際の政治・経済の中心は東アジアに移行しつつある。東西貿易の80%はシーレーンを介して行われており、重要な海峡を領域に持つインドネシアは、国際社会に大きな責任と影響力を持っている。海洋安全保障には国際協力が必要であり、インドネシアは、日本と共に海洋安全保障の重要性の認識を共有している。個々について言えば、海賊は、海洋法条約上の定義に照らしても、今、この地域で生じている全てを海賊と定義することには反対であるが、いずれにせよ、何らかの形の国際協力が必要な面があることは認められる。テロは、インドネシアの大きな脅威であるが、これは国内問題である。インドネシアは、貧困や環境の問題など、解決されていない大きな国内問題を抱えており、努力はしているものの、海賊、テロなど、国際的に影響を及ぼす問題に自国だけで対応できる情況ではない。しかし、インドネシアの領域内で生じる問題への国際協力は、主権を侵さない範囲で、というのが基本である。インドネシア独自で対処するための情報提供や共同訓練、国内体制の構築への協力、といった国際協力は歓迎である。(3)セッション3「日本とインドネシアの政治・外交・安全保障」セッション3-a「地域における政治・外交問題と将来展望」a アジア太平洋における安全保障協力:インドネシアの視点ロシハン・アルシャド 元海軍少将かつてマハンは、海洋をハイウエイに喩え、今、海洋法条約は海洋を「人類の共通財産」としている。冷戦後、海が資源の供給源として注目され、海洋汚染が様々な形で人類社会に影響を及ぼす中で、海洋の秩序の重要性が認識されるようになっている。海洋の秩序作りについては、各国の対応は十分ではない。マラッカ海峡について言えば、領海主権の壁が海賊の取り締りなどを困難にしている。海洋の秩序作りには、国際協力と管轄権の二面からアプローチしていく必要がある。そこにおいては、"共通の利益と国家の主権"を勘案しての協力、という概念が大切になる。一方で、海賊やテロ対策の根本として、経済的安定化は極めて大切である。b 日本・インドネシア関係の回顧と展望白石隆 政策研究大学院大学副学長ユオノ・スダルソノ国防大臣が基調講演で触れた、日米安保の公共財的役割に加えて、米国は、タイ、フィリピン、韓国とも二国間の同盟関係を結び、このハブ-スポークスが地域の安定に大きく貢献してきた。その安定の中でASEAN 諸国が経済発展を遂げ、中国が経済的に台頭し、実質的な地域経済統合ができあがりつつある。中国は、経済発展に伴って軍の近代化を進めている。中国の台頭にどう対処していくかが、今後の地域の最大の課題である。中国をより協力的で、共通のルールに従って行動するよう促していく必要があり、そこにおいても、日本とインドネシアの協力が求められる。インドネシアの経済発展は、事実上の同盟国である日本にとっても利益である。インドネシアの国づくりの課題は、経済発展と富の衡平分配であろう。セッション3-b「海洋の安全と通商」a 海上通商路の防衛秋元一峰 海洋政策研究財団主任研究員ユーラシア大陸の南東縁辺を流れるユーラシアブルーベルトには、三つのシーレーン、「インド洋シーレーン」、「東アジアシーレーン」、「南太平洋シーレーン」が走っている。三つのシーレーンが交差する東南アジア海域、Highly Accessed Sea Area(HASA)には、海賊やテロの脅威など国境を超えるグローバルな問題、海洋利用を巡る国家間の主張の対立や未解決の領土・島嶼の帰属問題などがあって、シーレーンを不安定なものとしている。国家間紛争や海上テロ等によってマラッカ海峡が通航不能になり、ロンボク海峡に迂回した場合、日本への原油タンカーは航程が3 日多くなり、15 隻の補充が必要となる。インドネシア群島水域の全てが通航不能になった場合は、オーストラリアの南方を迂回することになり、日本への原油タンカーは、2 週間の航程増、80 隻の補充が必要となる。迂回による経済的損失については、計算の方法や前提によって異なるが、日本は、マラッカ海峡が不能の場合は8,790 万ドル、インドネシア群島水域閉鎖で12 億ドルの損失があるとの試算もある。仮にマラッカ海峡とインドネシア群島水域が閉鎖され、日本に向けた原油やその他の貨物の全てがオーストラリア南岸を迂回することがあれば、日本のみならず、東南アジア諸国や韓国など多くの国にも経済的影響は及ぶことになる。勿論、東南アジア諸国の内航航路は遮断され、また、シンガポール港などの使用も制約を受けることになり、域内経済の打撃は計り知れないものとなる。b 今日の海賊山田吉彦 日本財団広報チームリーダー海洋法条約では、海賊を、公海上で発生するものと定義している。しかし、襲われる側から言えば、公海でも領海でも海賊は海賊である。マラッカ海峡の海賊対処ではいくつかの問題がある。その中の一つは、島影など隠れ場所が多いということ、また、領海国境を越えれば逃げられるということである。沿岸国による空と海からのパトロールが実施されているが、継続が大事である。海賊の態様としては、ロビン・フッド型からテロリスト型に移行しつつあり、韋駄天号事件のように、人質をとって身代金を要求することが増えている。また、2005 年に入ってからは、ソマリア沖の海賊が問題となっている。アメリカ海軍も対応に乗り出している。海賊の行動範囲は広がりを見せつつあり、海のPKO の設立も必要ではないだろうか。c 海賊および海上テロへの対応ロバート・マンギンダーン 国立復興研究所専門委員海賊とテロリストとは区別して討議すべきである。海上テロについて、その発生の可能性を排除できない。機雷一つあれば海上テロは実行可能であり、十分な脅威となり得る。海賊も海上テロも、一国による対応と国際的な対応がある。マラッカ海峡を考えた場合、国際的な対応には更に、沿岸三カ国の対応とIMO などの国際機関を通した三カ国と他の国々との協力対応が考えられる。ちなみに、IMO はIMB よりも能力の幅が広い。IMO を通すと、MEH を絡ませることもできる。対応の作戦レベルについて考えると、抑制(Dissuasive)、拒絶(Denial)、排除(Tacticaloperation)、更正(Rehabilitation)の四種がある。これを、一国、沿岸三カ国、多国間の三対応とマトリックスにして具体的な方法を考えていくことを提案したい。作戦レベルで最も大事なのは、抑制である。人がテロリストになるきっかけを考えてみる必要がる。きっかけを取り除くことが大事である。抑制ができなければ、拒否は少し難しいものになる。排除は、その場限りで、根本的な解決ではない。更正させなければ再発する。(4)セッション4「海上の治安・警備および海洋安全保障協力」セッション4-a「海洋における法執行」a インドネシア海軍と海上警察ジョコ・スマルヨノ 元海軍中将インドネシアは、海軍、税関、海洋漁業省、警察等によるバコルカムラ(BAKORKAMLA:Coordination Agency)を通じた連携の態勢で海洋安全保障に取り組んでいる。海軍には東部艦隊と西部艦隊にそれぞれ海上治安グループがある。2005 年から安全保障省と調整省を中心として態勢を強化する検討がなされており、日本の海上保安庁からも意見を聞いている。インドネシアの守るべき海域は広く、それに比して防衛・警備能力は限られている。法執行は非常に難しいのが現状である。省庁間の協力でカバーしていかなければならないと考えている。国際社会の支援も勿論必要である。b 海上の治安維持促進-国際協力の必要性-縄野克彦 元海上保安庁長官海上における反税行為の増加、海賊とテロリストのネットワークを強まりへの危惧、といった現状から、海上保安に係わる協力の必要性が増大している。日本では、航行の安全確保に関して海上保安庁が責任を有している。海上保安庁とは別に警察と消防もあり、それぞれ別の役割をもっている。海上保安庁と海上自衛隊とが分かれているのは、法執行は軍事と分けたほうが良いとの考えからである。しかし、海上警備行動では海上自衛隊の協力が得られ、有事の際には海上保安庁は防衛庁の指揮下に移される。海上保安庁の海外活動は、多国間連携、二国間連携、東南アジアへの支援、国際貢献、の四つがある。海上保安庁は、北太平洋海上保安庁長官級会合を2000 年に発足させ、そのメンバーである。本会合では、共有情報の活用のための海洋システムや対テロガイドラインの作成などについて合意されている。また、2000 年には海賊対策国際会議を開催して「アジア海賊対策2000」を採択している。東南アジアにおけるコースト・ガード設立に対する支援にも積極的で、フィリピン、マレーシアに人的支援を提供している。インドネシアでも新しい制度の設立が検討されていると聞いている。セッション4-b「海賊・武装強盗・海上テロ」a 脅威査定と対応クスナント・アンゴロ博士ユドヨノ政権になって15 ヶ月が経つが、安全保障に関する文書は何も出ていない。インドネシアの安全保障の優先順位が見えてこない。2003 年の国防白書では、国家間の通常戦争の可能性は低下したものの、海上における治安上の脅威が存在し、非対称の脅威に直面しているが、それでも、アチェにおける問題などはルワンダやユーゴのように国家にとって致命的な問題にはなってないとの認識が示された。今はどうだろうか?国家として、最低限必要な人的・物的資源を把握する必要がある。国防費の79%は人件費であるという問題もある。インドネシアにとって国際協力は不可欠であるが、まず、非軍事的協力から入っていくことが必要だ。非軍事的協力の分野として、シーレーン安全確保のための貿易会社の協力というのは考えられないだろうか。企業間で情報交換はできないだろうか。b 防衛警備交流の可能性と展望山本安正 元海上幕僚長不安定な弧で海上犯罪が発生している。犯罪の多様化と凶悪化の中で、警察と軍事力との協力が必要になっている。また、犯罪は国境を越えて発生しており、国家間の協力とグローバルな対応が求められるようになっている。そのような認識の中で、海洋の安定的利用に向けた努力と対策が進んでいる。海峡三カ国によるマラッカ海峡安全構想は画期的なものであるが、三カ国の足並みは揃っていないように見受けられる。日本における海上犯罪の取り締まり所管は一義的には海上保安庁であり、海賊対策に海上自衛隊が関与することはないといえる。日本は集団的自衛権の問題から、従来、多国間行動に参加することには消極的であったが、能力の向上に資する観点からPSI 訓練にも参加している。東南アジア諸国には、米国の介入を嫌う傾向もあるが、物的資源は豊富であり、対中戦略という面からも、米軍を積極的に利用しても良いのではないか。中国が東南アジア諸国への影響力を拡大している。中国には覇権的な行動も見受けられる。中国については、今後の国際関係における動向を見守っていく必要があるだろう。(5)セッション5「日本とインドネシアの関係-今後の展望-」a 日本とインドネシア関係-今後の進展に向けて-」湯浅博 論説委員東アジア共同体について期待が高まる向きもあるが、未だ具体的ではない。各国ともナショナリズムは強いし、主権の壁もある。EU のような統合が果たしてできるのだろうか。一つの強国が他の弱小国を飲み込むだけになりはしないか。インドネシアは、スハルトからメガワティーまで日本と距離を置いてきたように思うが、ユドヨノ政権となった今、日本とインドネシアは戦略的パートナーになれるのではないか。中国は、アメリカを排除して中国がリーダーとなった共同体を考えている。中国のバブル経済が崩れる危険性もある。インドネシアは、アメリカ、日本、欧州の三大投資センターからの投資を受けつつ、国内で政治腐敗をなくし治安を改善することによって発展を遂げることができるはずだ。b 日本とインドネシアの海洋安全保障協力-その展望-」イクラル・ヌサバクティー 科学研究所研究員アメリカはテロ対策のためにマラッカ海峡に第7 艦隊を派遣するといったが、テロリストがマラッカ海峡に入ることがあり得るだろか。ほとんどの国が、あり得ないと言っている。テロを理由にして第7 艦隊がマラッカ海峡に入ると、中国や他の国も軍艦を派遣することになるだろう。海洋安全保障というものは、利害を共有しても、国によって認識や考えに相違がある。アメリカとインドネシアの間にも大きな相違がある。インドネシアがアメリカのRMSI に反対したのもその理由からだ。日本とインドネシアの協力にも問題はある。その一つは、インドネシアは海上治安のための兵力が不足しているが、日本のODAがインドネシアの海軍の支援に使えないことだ。インドネシアにはコースト・ガードがない。海峡三カ国の協力にも問題が山積している。アメリカは三カ国共通の通信システムの構築に興味を示しているが、通信連絡はうまくいかない面がある。監視システムができても、どこが運営するかという問題が生じる。シンガポールがコーディネーターになりたい意向だが、たとえば、インドネシアのパトロール航空機が海峡に入るときはシンガポールに通報しなければならないことになり、問題がある。PSI には、インドネシアは過去に二度参加し、1~2 隻を派出した。インドネシアにはPSI に反対する声も強く、今後とも参加するか否かは決定されていない。地域に安全保障環境に言及する。中国がスプラトリーと台湾を押さえれば、東アジアのシーレーンを押さえることになる。日本には中国の海洋への進出に懸念を持つ人がいる。アメリカも中国の軍事力増強に関心を持っている。インドネシアと日本は強い絆がある。胸襟を開いてこの対話を推進すべきだろう。(6)セッション6「クローズィング リマークス」ケン・ソンダック 元海軍参謀長インドネシア周辺の海域を利用した海運が多くの国の経済を担っている。その海域の安全維持のためには国際協力が必要である。日本との協力により、更なる安全を図っていくことができるだろう。そこにこのダイアローグの意味があり、今後ともこのダイアローグを続けていきたい。秋山昌廣 海洋政策研究財団会長トラック2だからこそ、政府間では出てこない本音の議論がなされた。このダイアローグを3~4 回は続け、提言や共同宣言のようなものを発表したい。今後のダイアローグについては、以下について実施することを提案をしたい。① 今回討議された、海賊、海上テロ、環境などについて、さらにブレーク・ダウンして議論を深めたい。② 議題を少し広めたい。具体的には、経済統合の進む東南アジアを考慮して、国際関係論も交えた安全保障論を話し合いたい。例えば、セッション「the United States」といったものもあって良いのではないか。日本の親米政治家である椎名素男氏は「アメリカは日本の番犬」とし、金を払って日本を守ってもらっている旨の発言をしているが、これをアメリカは怒っていない。③ フィールド・スタディーを大切にしたい。インドネシア海軍基地や海上警察、海賊基地にも行ってみたい。3 視察の概要インドネシア東部スラバヤ市に、インドネシア海軍東部艦隊司令部及びPT PAL 造船所を視察し、現状に関する説明を受けると共に意見を交換した。4 ダイアローグにおける特記事項ダイアローグを通じ、特記すべき以下の発言があった。これらは、現在のインドネシアの立場や考えの顕著な表れであり、また、インドネシアの真情・主張に対する日本側の偽らざる疑問と提唱である。以降のダイアローグの進め方と議題を検討する際の参考となるものと思量する。a インドネシアの海洋安全保障態勢についてa-1 インドネシア側発言インドネシアでは、BAKORKAMLA(Coordination agency)のもとで、海軍、警察、税関、漁業の各機関が連携して海上治安に当たっていたが、犯罪の複雑化に対応して、一元的な態勢を目指した体制の改善に取り組んでいる。現在、海軍がlaw enforcement を担っているが、海軍は基本任務に専念することとし、統合化した海上法執行機関を新編する動きがある。最大の関心は海賊とテロであるが、この二つは切り離して考えるべきである。テロは国内問題である。また、国連海洋法条約でも定義されているように、公海上における海賊と領海内における武装強盗は区別されるべきであり、領海内の問題は国で対処する。a-2 インドネシア側発言インドネシア海軍の作戦海域は群島水域を結ぶ線から外側200 マイル、つまりインドネシアの排他的経済水域までである。海軍の任務は、海上武装強盗取締、違法漁業取締、油違法投棄取締、密入国取締、ボルネオの違法伐採取締、武器密輸取締などである。a-3 日本側発言海賊が最大の脅威とは思えない。国家間の紛争は最大の脅威である。また、テログループ等による大量破壊兵器の流出はより大きな脅威ではないか。海賊・武装強盗は常続的かつ地理的に連続して発生しており、領海と公海で分けてしまってよいのか?被害者からみれば海賊も墓相強盗も同じである。海上テロと海賊の結びつきも脅威ではないか。a-4 日本側発言海賊については、より能動的な対策として、欧米流の考え方を取り入れ、海賊の基地を叩くといった発想はないのか?(所 見)インドネシアでは、海上治安・防衛の体制・態勢が見直されつつあるが、コースト・ガードの設立は未だ決定に至っておらず、海軍では依然として領海内の海賊、つまり武装強盗対処など警察的任務に固執する傾向がある。そこには油や予算の分配における既得権に絡む問題等があるものと思われる。見直しが為されているこの時期に、欧米に一般的な体制への移行を図り、海軍は、群島航路帯の防衛やグローバル・イシューに係わる軍事的国際貢献などに特化する方向を目指すべきであろう。b 国境を越える問題への海峡三カ国の協力的取り組みについてb-1 日本側発言海峡三カ国の共同航空パトロール(MALSHINDO)において、指揮・通信システムや航空管制はうまく機能しているのか?b-2 インドネシア側発言インドネシアはジャカルタに指揮センターを置くことを提案したが、実現されなかった。実は、インドネシアにはその資金はなかったのだが。今のところ、一元的な指揮所はない。三カ国でそれぞれの指揮所を持っても、信頼関係があればうまくいくのだろうが、それがなければうまくいかないし、単一システムを作っての運用も実現性はない。通信も、インドネシア側から呼び掛けても応答はない。実際は、共同ではなく単独運用の形になっている。b-3 日本側発言海峡三カ国の信頼関係を損ねているものは何か?b-4 インドネシア側発言インドネシアとマレーシアとの間にはカリマンタン周辺の領有権問題がある。インドネシアがマレーシアの船を取り調べようとしたとき、マレーシアの軍艦が妨げたことがあった。シンガポールについては、公表軍事支出が実際よりかなり少ないことなど、信頼できない。b-5 日本側発言現在程度の海賊であれば、今の三国関係でもよいのだろうが、海賊行為がもっと過激になる、あるいは海上テロが発生し、それが環境破壊をもたらす、といった情況になっても、三カ国は主権の問題を持ち出すのか?発展途上国が主権を持ち出すのは良く理解できるが、国際社会が上記のような事態においてそれを認めるだろうか? 安全あるいは環境上の決定的なダメージが生じた場合はどうするのか。日本は国際海峡については領海を3 マイルとしている。マラッカ海峡も領海3 マイルとまでは言わないが、主権を維持しつつConsortium of Security of Malacca Strait といった構想も必要ではないか。中国や韓国も協力的な発言をしている。主権を維持しつつ安全確保を図る方途もあるのではないか。b-6 日本側発言日本も、中国や韓国との関係は良くはない。日中、日韓の間には、領有権問題があるし、信頼関係はあるいとは言いがたいが、それでも不審船情報や密輸防止、油濁汚染の情報交換システムはあり、機能している。(所 見)国境を越える犯罪やグローバル・イシューは、主権に固執すべき問題ではなく、領域内にその問題を抱える国は国際社会に対して解決のための責任と義務を持っている。むしろ、現代においては、国際社会は人道的問題、国境を越えて複数の国に影響を及ぼす問題、あるいは所謂グローバル・イシューに対して、主権を超えて介入する権利(人類社会の責任)を有するとの慣習的かつ無明文化の法概念が定着しつつあると理解すべき面もある。ここにおいて、関連国際法の進化を促すべきである。海峡三カ国は、信頼関係や主権に拘泥することなく、様々な国やアクターが参画できる協力のシステムを作り上げる責務があろう。c アメリカとの共同あるいは多国間協調についてc-1 インドネシア側発言インドネシアから見て、アメリカも中国も大きな力があり、インドネシアの政策についてすら舵取りをすることが可能である。アメリカや中国がインドネシアに協力する場合、インドネシアの国益をどのように受け入れるのかといったマネジメントシステムを作っておく必要がある。海上テロを防ぐ措置は必要だが、政治的側面や法律の問題もある。国によって交戦のルールも異なる。それらが解決されずして強力なリーダーシップをもった国と協力し合うことはできない。c-2 インドネシア側発言アメリカとの協同については、情報交換から入っていこうとしたが、アメリカは情報を渡さない。インテリジェンス・シェアリングがアメリカには可能なのか?アメリカはインドネシアを信用していないと思う。c-3 日本側発言二国間共同において、情報交換は信頼の高い相手とするものであり、最初から求めてはならない。日米共同も、当初、アメリカは日本に重要な情報は渡してくれなかった。日本の作戦・戦術能力が向上するに従い、様々な情報が提供されるようになった。それでも、海上自衛隊はアメリカ海軍から多くを学び著しく成長した。インドネシア海軍にも参考にして欲しい。c-4 日本側発言国際協力には、政治レベルと民間レベルの整合性が大切だ。戦術分野は殆ど沿岸国が担当する分野だろうが、たとえば、機雷等で海峡が封鎖された場合、多くの国の海軍が必要となり、そのための標準手続きも必要だろう。c-5 インドネシア側発言多国間協調についても、領海内の問題はインドネシアが主体となることが条件である。作戦面では能力のある国が主導権を握ることになるので協調には賛同できない。海峡レーダーなど機材の提供は受け入れる。ただ、日本がJICA を通じ提供した金属探知機は整備ができず、教育も行き届かずに現在は機能していない。c-6 インドネシア側発言PSI については、インドネシアとしては気が進まないが、太平洋艦隊という強い海軍の存在を意識した場合、協力していかざるを得ない。RMSI についても同じことが言える。インドネシアとしての政治的立場を明確にしていかなければならないだろう。(所 見)インドネシアは日本に対して、アメリカや中国に対するような警戒感がない。これは、日本に軍事的な介入の意図が全くみられないからでもあろう。日本は、インドネシアのみならず、東南アジア諸国に安全保障対話を働き掛けるに適した国であるとも言えよう。本ダイアローグは、日米安保や東アジア安全保障協力のための諸システムを補完する意義もある。5 成果および所見① 民間レベルのダイアローグとはいえ、双方からの参加者には、元関連省庁の高官、元海軍参謀長・海上幕僚長、安保問題の専門家等が含まれており、それら参加者がトラック2の特色を活かして積極的に忌憚なく意見を交換し合ったところから、様々な問題点や解決のための方向性の示唆が示され、所期の目的を達成しえたものと思量する。② 各セッションでの発表と討議を通じて、今後、本ダイアローグが策定することとしている提言或いは共同宣言のための資料を収集することができた。③ 対話会議の発表・発言はテープ・CD に記録し、一部を書き下ろしている。ダイアローグを重ねた後に、オーラル・ヒストリーとして残すことにより貴重な資料となるはずである。④ インドネシア側は、海峡およびインドネシア群島水域の安全に関して国際協力が必要であることを良く理解している。その一方で、インドネシアの主権を脅かされたくないという考えが強い。これは、大国との協調が大国のリードとなり、やがてインドネシアが政治の主体性を奪われ、かつての植民地と同じ情況となることの危惧から生じている。インドネシアには、主権への拘りと、国内にある貧困問題や軍・治安担当部署の予算不足との間のジレンマがある。このジレンマの解決と国際協力の受け入れとをハーモナイズさせることを考えてみる価値はあるだろう。⑤ オープニングにおいてユオノ・スダルソノ国防大臣の基調講演、レセプションにおいてハッタ・ラジャサ交通大臣のスピーチを得た。インドネシア側の本ダイアローグにかける期待の現われと思量する。6 今後の方針運営委員会および閉会挨拶で秋山会長が述べた通り、① 海賊、海上テロ、環境問題などの議論の具体化と深化。② 国際関係論も交えた安全保障論など、議論の幅の拡大。③ フィールド・スタディーの充実。などに努めることとする。別紙1「第1回日本とインドネシアとの海洋安全保障ダイアローグ(ジャカルタ ダイアローグ2006)行動概要」2 月18 日(土)JL725 1115 成田発 1705 ジャカルタ着ホテル・ニッコージャカルタ泊2 月19 日(日)対話会議歓迎夕食会(ケン・ソンダック元海軍参謀総長主催)2 月20 日(月)対話会議夕食会(秋山昌廣海洋政策研究財団会長主催)2 月21 日(火)日本大使館等表敬訪問GA322 1700 ジャカルタ発 1820 スラバヤ着2 月22 日(水)海軍基地、造船所等視察GA342 1930 スラバヤ発 2120 デンパサール着JL726 2325 デンパサール発2 月23 日(木)0705 成田着別紙2「第1 回日本とインドネシアとの海洋安全保障ダイアローグ(ジャカルタ ダイアローグ2006)対話会議プログラム」(日 時)2006年2月19・20日(場 所)ホテル「ニッコージャカルタ」(インドネシア ジャカルタ)(両国代表)日本 海洋政策研究財団会長 秋山 昌廣インドネシア 元海軍参謀長 ケン・ソンダック(総合議長)政策研究大学院大学副学長 白石 隆2 月19 日(日)1800-1900 セッション1「運営委員会」2 月20 日(月)0900-0930 セッション2「オープニング・セッション」(議長:秋元 一峰)1 基調講演ユオノ・スダルソノ インドネシア国防大臣2 総合議長挨拶白石 隆 政策研究大学院大学副学長3 開会挨拶秋山 昌廣 海洋政策研究財団会長ベルナルド・ケン・ソンダック 元インドネシア国軍海軍参謀長0930-1200 セッション3「日本とインドネシアの政治・外交・安全保障」(議長:クスナント・アンゴロ)0930-1010 セッション3-a「地域における政治・外交問題と将来展望」発表1:「アジア太平洋における安全保障協力:インドネシアの視点」ロシュハン・アルシャド 元海軍少将発表2:「日本-インドネシア関係:回顧と展望」白石 隆 政策研究大学院大学副学長1010-1020 休 憩1020-1110 セッション3-b「海洋の安全と通商」発表3:「海上通商路の防衛」秋元 一峰 海洋政策研究財団主任研究員:「今日の海賊」山田 吉彦 日本財団広報チームリーダー発表4:「海賊および海上テロへの対応」ロバート・マンギンダーン インドネシア国立復興研究所専門委員1110-1200 討 議1200-1300 昼食休憩1300- 1520 セッション4「海上の治安・警備および海洋安全保障協力」(議長:秋山 昌廣)1300-1340 セッション4-a「海洋における法執行」発表5:「インドネシア海軍と海上警察」ジョコ・スマルヨノ 元海軍中将インドネシア政治・法・治安省調整官発表6:「海上の治安維持促進-国際協力の必要性-」縄野 克彦 元海上保安庁長官1340-1420 セッション4-b「海賊・武装強盗・海上テロ」発表7:「脅威査定と対応」クスナント・アンゴロ博士発表8:「防衛警備交流の可能性と展望」山本 安正 元海上幕僚長1420-1520 討 議1520-1530 休 憩1530-1710 セッション5「日本とインドネシアの関係 -今後の展望-」(議長:ジュナエディ・ハディスマルト)1530-1610 発 表発表9:「日本とインドネシア関係-今後の進展に向けて-」湯浅 博 産経新聞論説委員発表10:「日本とインドネシアの海洋安全保障協力-今後の展望-」イクラル・ヌサバクティー インドネシア科学研究所研究員1610-1710 討 議 「今後に向けて」1710-1730 閉会挨拶ケン・ソンダック元海軍参謀長秋山 昌廣 会長別紙3「第1回日本とインドネシアとの海洋安全保障ダイアローグ(ジャカルタ ダイアローグ2006)対話会議参加者」日本側参加者1 秋山 昌廣 海洋政策研究財団会長(立教大学教授、元防衛事務次官)2 秋元 一峰 海洋政策研究財団主任研究員(元防衛研究所主任研究官)3 白石 隆 政策研究大学院大学副学長4 縄野 克彦 元海上保安庁長官5 山田 吉彦 日本財団広報チームリーダー6 山本 安正 元海上幕僚長7 湯浅 博 産経新聞論説委員インドネシア側参加者1 Adm. (Ret'd) Bernard Ken Sondakh, Former Navy's Chief of Staff2 Vice Adm. Djoko Sumaryono, Secretary to Coordinator Minister in Politics,Laws & Security4 Rear Adm. (Ret'd) Rosihan Arsyad5 Rear Adm. (Ret'd) Mualimin Santoso6 Mr. Robert Mangindaan, Member of Team Expert to Governor, The NationalResilience Institute7 Mr. Heri Akhmadi, Member of Parliament8 Mr. Djunaedi Hadisumarto, National Development Planning Agency9 Mr. Agus Kartasasmita, Member of Parliament10 Dr. Kusnanto Anggoro, Researcher, Pro-Patria Institute11 Dr. Ikrar Nusa Bhakti, Researcher, Indonesian Institute of Sciences (LIPI)12 Mr. Oentoro Surya, Chairman of Indonesian National Shipowners' Assosiation事務局犬塚 勤 海洋政策研究財団内山 克也 海洋政策研究財団別紙4ユウォノ・スダルソノ国防大臣講演(仮訳)50 年来、日米安全保障体制のもと、西太平洋における軍事及び経済体制は日米両国を中心として動いてきたと言えます。西太平洋において安全保障のテコになっているのが、日米安全保障体制です。両国の軍事防衛予算は、アメリカが4400 億ドル、日本が650 億ドルで、ホノルルに司令部をおくアメリカ太平洋艦隊と日本の海上自衛隊部隊が、東南アジアを含む西太平洋地域全体で50 年にわたって中心的な役割を果たしてきたわけです。両国をあわせて15 兆2000 億ドルに上る巨大な経済力を背景に、日米両国はこの50 年間、東アジア全域のために公共財とも言える安全保障を提供してきました。過去35 年間にわたって、東南アジア諸国は、日米の協力によりASEAN の発展を支えてもらうという立場にありました。それは結果的に幅広い意味で安全保障の充実につながっています。同時にそれは東アジア諸国の海洋貿易の強化をもたらし、この地域の貿易は世界全体の38%を占めるに至りました。90 年代の初め、日本、韓国、台湾、シンガポール、香港といった国々がASEAN の経済発展の支えになってきました。そして正に日本型の、日本を先頭にした雁行型経済発展のもとで、東アジアの経済の奇跡が実現したわけです。2004 年の11 月に発表されました日本の防衛計画の大綱、それからまた最近の日米同盟の再編に関する見直し、中間報告などは、やはり現在進行中の安全保障関係のひとつの特徴を示していると思います。これには海洋安全保障も入ります。それからまた今後5 年、10 年を睨んだ東アジアの経済・貿易も非常に重要な側面として入ってきます。いわゆる荒木レポートにより、日米同盟関係だけではなく、中国、インドの台頭を念頭において日本が安全保障について自らの立場をはっきりと内外に示そうとしたものといえると思います。東アジアの安全保障において、中国とインドの台頭がひとつの決定因子となりうるのではないかという可能性を念頭に置いたものであったと思います。中国の経済の台頭は、日本が今後5 年、10 年を睨んだ安全保障に関する自国の立場を見直すことにつながっていると思います。つまり、中国の台頭は、台湾海峡、尖閣諸島、インドネシアおよび東南アジア諸国の海域を通るシーレーンを巡る情勢に影響を与えずにはおかないからです。世界の海洋貿易の38%がシンガポール、マラッカ海峡、スンダ海峡、オンバイ海峡といった海峡を通っていきます。そして中国の中東からのエネルギー供給もそこに含まれるわけです。私をはじめ、ここにいるインドネシアの海軍の士官であった仲間たちは、インドネシアが戦略的な要衝を占めるということで、日本、中国またアメリカの経済にとって非常に重要な立場にあるということを、これまでも認識し経験してきました。現在、アメリカの経済規模が11 兆、日本が4兆2000億、中国が2兆ドル。当然ながら、それがインドネシア及び東南アジア諸国の海洋安全保障政策、また防衛体制に影響を与えてくるのです。今後5 年から10 年くらいを念頭においた時に、安全保障の考え方の再定義があってしかるべきと思います。この安全保障という公共財を誰が提供するのか。アメリカのみが圧倒的な役割を果たし続けるのか。また日本が今後より自己主張を強めるような役割を果たしていくのか。それからまた特に南シナ海を中心とした海域で、一部中国の役割というものも受け入れていくのかということです。安全保障そして海洋政策、この地域の貿易という面からしても、これら大変重要になってくるのです。私は海軍の専門家ではありません。今後5 年から10 年にわたって、この地域全体の概観を申し上げたまでです。ただし、今後とくに政治、経済、安全保障のつながり、連携がより明らかになっていくだろうと思います。そういった意味で、これらの重要な問題がこの会議で焦点をあてて議論されることを期待します。日本、中国、アメリカが東アジアの貿易、投資、経済成長のために、公共財である安全保障の面でいかなる役割を果たしていくのかについて議論を期待したいと思います。今回の対話に集まった参加者の皆さんは、ポリシーメーカー、退役海軍士官、ビジネスマン、学識経験者であり、そして最も重要なこととして市民社会で活躍されている方々であると拝察します。インドネシアの東南アジアにおける戦略的な立場について、またインドネシアが東南アジア地域の安寧と発展と安全保障のために果たすべき役割について、問い直すような議論を期待したいと思います。提出されたペーパーのいくつかを拝見しました。やはり難しい問題は、細部であると思います。それは皆さんにお任せして、私の役割は将来を巨視的に展望することにあります。会議の成功をお祈りします。