1提言アジアに活きる日本の海事産業―「2050 年の日本」からのメッセージ―平成21 年8 月海洋政策研究財団2はじめに社会の中核を担う世代が完全に入れ替わっているであろう今から半世紀近くあと、世界の経済と社会はどうなっているであろうか。また、人類は地球や海との共生ができているであろうか。そして、海事社会はどのような姿になっているであろうか。次の世代に海事社会を健全な形で引き継いでいくためにも、世界の経済や社会などとの関わりを見据えながら、長期的な観点から今後の姿を展望しておくことが重要であろう。人口増加と生命安全さらに地球環境保全の調和点を探ろうとすれば、これから人類が共同でなすべきいくつかの課題が見えるはずである。残念ながら、いかに経済がグローバル化し、モノ、人及び情報がいとも容易く国境を越えるようになったとはいえ、その課題を国家間で平和的に共有できるにはまだまだかなりの歳月を要するであろう。しかしながら、海でつながった海事関係者の間であれば、一足早く国境を越えた協力、協調、共生の道に入れるかもしれない。地球環境、とりわけ地球温暖化への危惧は、これからの人類にとって最大の制約要因になるとの前提で、当財団は21 世紀半ばを見据えた海事産業像を描き、この像をこれからの海事政策に投影する作業を今回試みた。その結果を「提言」としてここに発表する。この提言が、日本の海事産業の持続的発展のための議論に幾ばくかの貢献をすることを願ってやまない。平成21 年8 月海洋政策研究財団会長 秋山昌廣3目次はじめに1. 「提言」の背景及び検討方法2. 2050 年の日本3. 2050 年の日本の海事産業4. 提言提言1 アジア域内の海上物流及び人流に進出すべき提言2 超省エネ船及びゼロエミッション船の全面普及を急ぐべき提言3 我が国船舶産業は若者に魅力ある産業に新生すべき提言4 新たな視点で海洋資源と海洋空間の利用に取り組むべき提言5 アジアの総合的マリタイムセンターとなるべき附録1 2050 年の世界と世界の海事産業の姿附録2 海上輸送に関する海洋政策研究財団の試算附録3 ご協力いただいた方々41. 「提言」の背景及び検討方法(1) 背景我が国は、20 世紀末までに世界第二位の経済的地位を築き上げ、世界の工場として大きな貢献をなしてきた。しかし、21 世紀に入り、世界は、経済のグローバル化、経済の多軸化、価値観の多様化及び地球環境問題の深刻化に直面している。このような大きな変化に対応して、我が国も政治、社会及び産業構造の変革を余儀なくさせられている。世界や日本が大きく変化する中で、2007 年には海洋基本法が制定され、我が国が「新たな海洋立国」の実現に向けて進み始めた今、これからの海事産業(本提言では、海運・造船に加えて、港湾及び海洋開発に関係する産業群を海事産業とした。)が、21 世紀中葉を目指してどのように進んでいくべきか、またどのような行動を起こすべきなのか。これらに対する議論は未だ十分になされていない。このような問題意識に立ち、長期的観点から提言を行うこととした。(2) 検討方法まず、長期的な想定時点として、2050 年を考えた1。2050 年における「日本の海事産業の姿」を考える際には、その時点での「世界の姿」、「世界の海事産業の姿」及び「日本の姿」を検討する必要がある。図 「日本の海事産業の姿」の検討方法そこで、「世界の姿」については、気候変動に関する政府間パネルが作成した1 2050 年は、地球温暖化対策の目標年として意識されている年であること、また、それまでに大きな社会構造及び価値観の変化を世界が経験せざるをいないことから、長期的な検討の想定時点として適当と考えた。世界の姿(IPCC A1B シナリオを採用)(人口、GDP、エネルギー需要など)日本の姿(日本社会固有事象)世界の海事産業の姿(上記に基づき独自に海上輸送量試算)日本の海事産業の姿(「なりゆき」、「望ましい」の二つ)5シナリオA1B を採用し検討を行った。次に、「世界の海事産業の姿」については、海上荷動き量などの定量的予測およびその他の変化について独自に検討を行った。これらの結果の概要については附録1 を、また、2050 年における世界(アジア、日本を含む)の海上荷動量の試算については附録2 を参照されたい。さらに、「日本の姿」については、「世界の姿」を念頭に置きながら我が国の経済社会固有の変化を総合的に検討した。「日本の姿」の変化は、我が国の海事産業への影響が直接かつ最も大きいので、次章に記載する。以上の三つの姿を踏まえて、「2050 年の日本の海事産業」について二つ想定した。すなわち、一つはこのまま産業基盤の強化が図られず、かつ、抜本的な変革が行われなかった場合の「なりゆきの姿」であり(これはかなり悲観的姿である。)、他の一つは「新たな海洋立国」の柱になっている「望ましい姿」である。「望ましい姿」への視点として、我が国の海事産業が、①世界と日本の経済社会に貢献すること、②安全・安心・環境の人類的課題や社会生活の変化に対応すること、そして③持続性と魅力ある産業になること等を設定した。次に、「なりゆきの姿」に陥ることを避け、「望ましい姿」に近づくために、21 世紀初頭に生きる我々が、「2050 年の日本の海事社会」のためにいかなる行動をとらねばならないかを2050 年から振り返った形で検討した(いわゆるバックキャスト方式)。このような検討過程を経て、2050 年の「望ましい姿」に変革していくために最も重要と考えた5 項目について、当財団の責任の下に提言としてまとめた。なお、作業の進め方、調査内容、提言の骨格などについて広範な意見を聴取すべく、財団内に委員会、作業部会を設置するとともに、詳細部分については適宜他の有識者・経験者にも検討に加わっていただいた。討論に加わっていただいた方々を附録3 に掲げる。62. 2050 年の日本(1) 急激な経済発展を遂げるアジアの中で停滞する日本一人あたりのGDP は、アジア全体(日本を除く)で2005 年比12.7 倍となるのに対し、我が国は2.2 倍に留まる。ただし、地球温暖化問題に対してアジア及び日本が今後厳しい選択を行った場合、両者の経済成長はより緩やかになる可能性がある。このように、急激な経済発展を遂げたアジアでは、我が国の経済規模に匹敵、あるいは凌ぐ国が出現しており、かつて圧倒的だった日本の経済的な存在感は低下している。我が国の経済を支える労働力についてみると、我が国の生産年齢人口(比率)の落ち込みは激しく、2005 年の8,566 万人(66.4%)から2050 年には6,285 万人(51.1%)に減少する。この結果、外国人労働者の雇用なしでは社会及び経済の基盤を維持できなくなっている。(2) シームレスアジアの中で生きる日本シームレスになったASEAN と日本、中国、韓国、インド、豪州、及びニュージーランドを含む経済圏において、我が国は、インド、中国等との間で経済競争を繰り広げている。その中で、我が国は、安全、安心、環境保全の分野で進んだ諸制度と技術を有する国としての地位を保ち、それらの伝搬を通してアジア全体の経済発展に貢献している。また、グローバルな自由貿易体制がさらに進化し、企業の事業所、工場等の相互の海外進出が進んでいる。アジアに展開する多国籍企業は、近隣諸国間で原材料及び部品の調達並びに中間製品及び最終製品の出荷を効率的に行うアジア域内サプライチェーンマネージメントを構築し、これに対応する形で我が国でも港湾、道路及び鉄道の整備及びロジスティクス拠点の整備が行われている。アジア経済活動のシームレス化に伴い、域内の人の移動が自由に行われている。また、我が国は極東に位置するものの、その高いホスピタリティなどから、観光立国として、外国人訪問者数で世界のトップ10 入りをしている。(3) 資源不足の中に生きる日本エネルギー、鉱物、食糧等の資源の太宗を海外からの輸入に頼らざるを得ないという構造は基本的に変わっていない。世界においては、従来の石油及び石炭から天然ガス及び再生可能エネルギーを中心とする多様なエネルギー体制にシフトしている。我が国においても、太7陽光発電、風力、波力等の再生可能エネルギーの直接利用及び二次電池、水素等による間接利用が大幅に進むとともに、メタンハイドレート等の海底資源の利用が増えることにより、エネルギー自給率は3 割程度を確保している。なお、総エネルギー消費量は人口と経済の頭打ち及び低炭素化社会への移行により、2030 年をピークに減少に転じている。人口の増加と経済発展あるいは地球温暖化の影響によって、世界では飲料水及び農業用水不足が深刻化している。我が国は年間降水量が世界平均の約2 倍あり水利用について直接的な影響は少ない。一方、海水の淡水化技術、水の再生技術、節水型の産業機器や生活機器等の一層の技術開発及び技術移転が行われており、水不足の緩和という点で世界に貢献している。(4) 低炭素社会に挑戦し続けている日本我が国の2050 年の長期削減目標である、「現状から80%の削減」を概ね達成できている。このため、経済活動、市民生活のあらゆる断面において、低炭素社会の実現に向けた行動規範が最優先されている。市民生活では、各地で低炭素な街づくりが進められ、高断熱住宅、省エネ型温水供給装置の使用、在宅勤務等のエコライフが一般化している。また、オフィスでは、省エネ建築物及びビル・エネルギー・マネジメントシステムの導入が進むとともに、特に大都市域においてヒートアイランド現象等微小気象の制御・緩和技術が実用化している。それらの結果、事業・民生部門からのCO2 排出量は2005 年比で大幅に減少している。一方、産業部門では発生した余熱の利用、高効率ボイラの利用、省エネ型商品の開発等が進んでいる。また、大型の排出源を対象に、海底下貯留を含めたCO2 回収・貯留(CCS:Carbon Capture and Storage)が一部実用化されている。交通運輸部門では、大口荷主に対するモーダルシフトの強制化が徹底されており、500km 以上の貨物輸送においては、鉄道、船舶によるトンキロベースの輸送率が70%程度を占めている。これに伴い鉄道、船舶ともに貨物ターミナルの大規模化、自動化が推し進められており、鉄道と船舶の結節点である港湾についても新規立地及び再整備が進められている。上記のような我が国での低炭素社会実現に向けた徹底した取組みは経済と環境を両立させるものとして世界から認められ、発展途上国への技術移転も進んでいる。(5) 厳しい規律の中で暮らす日本2050 年の日本人は、より平和で快適な社会の実現を求めて、管理や規制の必要性を認識し、これらに必要となる費用負担等を受容している。また、大量消8費型のライフスタイルは姿を消し、高品質・長寿命な「モノ」及び「サービス」を求めるようになっている。すなわち、人々は生命・健康に対する各種危険性にますます敏感になっており、社会的規制は合理性がある限りかなり厳しいものでも受容され、これら規制に適合しない企業は社会から排斥されている。同時に、労働安全に劣る職種は若年層から忌避され、産業によっては存続が危うくなっている。また、セキュリティ維持の観点から情報通信技術等を大幅に活用した管理社会となっている。一方、人体及び生態系に影響を与えるあらゆる生産、販売及び消費活動は、厳重な規制や監督のもとに置かれている。また、資源の有効利用と環境保全の観点から、企業活動のあらゆる面にリサイクルが組み込まれるとともに、市民生活にもリサイクルが文化として定着している。93. 2050 年の日本の海事産業(1) なりゆきの姿我が国の海事産業は、労働力・人材不足、技術開発の停滞等から、産業の活力が減少しており、また、新たな市場の開拓にも踏み出せないでいる。このため、我が国の社会、経済において十分な存在感を示せず、「新たな海洋立国」たらんとすることへの貢献が十分行えていない。(船舶を利用したサービス業)拡大したアジアの海上輸送マーケットでは2、世界の事業者が新規参入を狙って競争は一層激化している。我が国の外航大手海運企業等も、アジア全体をホームグラウンドにして、グローバルな発展を遂げていこうとしているが、資本力、サービス力及び技術力に関し必ずしも優位性がなくなっており、大きなシェアを占めるに至っていない。また、ヨーロッパは域内輸送の完全シームレス化を完了しているのに比較して、アジアにおいては、国内海運産業保護の観点から、諸制度・諸慣習・諸設備の改善がされないまま、域内海運コストが高止まりするとともに、中小海運企業の相互の自由な海外展開を阻害している。我が国においては、内航海運業界の構造改善が他の輸送機関と比較して遅れ、モーダルシフトは円滑に進まず、内航海運によるトンキロベースの輸送分担率は上昇していない。また、アジアの人々の平均所得の向上に伴い、アジア域内のクルーズが盛んになっている。この新たな市場を目指して、世界各国の資本がビジネスチャンスを狙っている。クルーズを取り扱っている国内の事業者は依然として日本の顧客を対象にしており、市場が拡大していない。2 海洋政策研究財団の試算では、世界の海上荷動き量(トンマイルベース)は、2050 年には72 兆トンマイルと2005 年の2.5 倍となる。アジア域内をみると、ASEAN と日中韓の域内の海上コンテナ荷動き量は、2050 年には135 百万TEU と2005 年の10.7 倍となる。一方、日本発着のコンテナの海上荷動き量は、37 百万TEU と2005 年比で2.1 倍にとどまる。なお、世界の拡大した荷動きに対し、現状の輸送効率のまま海上輸送を行った場合、2050年の世界全体の外航海運からのCO2 発生量は24 億トンと、その時点の日本国の陸上からの排出量をはるかに上回る。10(船舶・海洋開発産業)造船産業は、新規技術・設計を新船に導入したとしても船価に充分反映できないこと、知的所有権の保護が他産業と比較して十分に行われていないこと等から、技術力を競争力として活用できない状況が続く。その結果、中国、韓国だけでなくアジア地域の他の新興造船国に、一般商船の建造で太刀打ちできなくなっている。このため、国内には艦船、調査船等一部の船種を建造する造船業のみが残っている。一方、我が国の舶用工業は、一部の舶用機器を除き国際規格の作成及び基本パテントをヨーロッパ等に抑えられる状況が続き、また製造拠点がアジア諸国に移転することから、世界シェアは現状より大幅に減少している。また、造船業、舶用工業ともに、他の国内産業との比較において、一人あたりの付加価値が伸びず、労働若年層に対して魅力ある産業となっていない。さらに、地球温暖化問題を含む安全、環境に関する社会の要請に対して、他産業の積極的な取り組みに比べて、我が国の船舶産業は中長期を目指した研究開発への取り組みが滞った結果、高い技術力を持ってこれらの諸問題に対して先陣を切っていくことが極めて困難になっている。我が国が有する広大な排他的経済水域内の海洋資源の開発と海洋空間の利用に関しても、我が国の船舶産業は自ら積極的に取り組まなかった結果、商業段階に至ったプロジェクトに参画できていない。(労働力・人材不足)また、日本では著しい生産年齢人口の低下に加え海事産業への就労の魅力低下から、海運、港湾、造船等あらゆる海事分野で労働力・人材不足が深刻になっている。特に、海技者については、国際的にも不足する中で我が国の海事社会がこれを確保することは容易ではなく、商船隊の維持に支障が生じている3。この結果、先に述べたアジアの成長を思うように取り込めないことと相俟って、我が国の海事産業全体の活力が減退している。3 海洋政策研究財団の試算では、2050 年における我が国外航商船隊に必要な海技者数は約4万人となる。11(2) 望ましい姿2050 年の我が国において、海事産業が社会的にも経済的にも重要な産業であり、海洋立国の中核となっている。すなわち、我が国の海事産業は、成長するアジアの活力を十分取り込んでおり、また、高い技術力によって、海上輸送量の拡大とCO2 排出量の大幅削減を両立させている。また、他の社会的な要請にも的確に対応するとともに新規事業分野の開拓も行っている。このような総合的な取り組みは、我が国の海事産業の技術力・開発力を相乗的に高め、同時に、我が国社会はもちろん国際社会からも大きな評価を受けている。また、アジアのリーダーとしての責務を果たしつつ、人材育成の指導的役割を果たしており、世界に対する影響力と発言力を拡大している。優れた日本人専門家が世界の各地域で活動する一方、我が国の海事社会に世界の優秀な人材が融け込んでいる。(船舶を利用したサービス業)我が国の海運業は、アジア域内における海上荷動きの成長にあわせ、コンテナ貨物を中心に中間製品、完成品を含めた短・中距離輸送を対象に、同域内に適したトータルなロジスティクス等きめ細かいビジネスモデルを提供する等して、利益を確保している。なお、我が国商船隊は、2050 年においても現状レベルの勢力4を確保し、荷主を含めた市場への発言力、影響力を維持している。また内航については、国内港湾の高機能化、モーダルシフト政策5、内航貨物船の機器・装備の高機能化等から、内航海運によるトンキロベースの輸送分担率は大幅に上昇している。アジア域内で成長したクルーズ市場において、日本のクルーズ関係者もユニークなサービスの提供を売り物に世界のクルーズファンからの支持を得ながら事業展開しており、アジア人の生活スタイルに合わせたクルーズ船の一部は日本国内で建造されている。この結果、我が国のクルーズ産業は、船舶を利用するサービス業として、国民にも広く認知されるとともに、一定の産業規模を持つに至っている。4 たとえば、2005 年における我が国商船隊の規模は、載貨重量トンベースで世界船腹量の15.6%(2008 年1 月現在)、コンテナ積載数(TEU 数)で9.1%(2008 年8 月現在)。5 政府の目標値は、輸送距離500km 以上の一般貨物における分担率が2010 年までに50%。これとは別に、改正省エネ法により、大口荷主には材料製品の輸送に係わるCO2 発生量を報告する義務が発生しており、CO2 削減の観点から、今後モーダルシフトを行う荷主は多くなると予測される。12(船舶・海洋開発産業)造船所だけでなく船主や船級協会を含めた企業コンプライアンスと社会的責任(CSR)の増大の中で、①EEDI(Energy Efficiency Design Index;エネルギー効率設計指標)に代表される実船性能の比較証明が建造時に必要となること、②設計・建造時におけるあらゆるデータ管理・保護が必須となることから、知的所有権の保護が造船業においてもようやく可能になる。その結果、我が国の船舶産業は、他産業からの先端技術の導入を含め、優れた技術力を前面に押し出した競争を展開できており、設計を専門とする事業者も存在する。また、舶用機器メーカーは、アジアに生産拠点を移しながらも、我が国の他産業が誇るロボット、ナノテク、バイオ、ICT、太陽光発電等の先端技術を取り込み続けることで、世界造船業へのブランド力のあるサプライヤーとして、企業規模を拡大している。さらに、材料調達を含めた製造工程についてもさらなる自動化、省力化等が進み、船舶産業の一人あたりの付加価値は大幅に増加している。優れた技術力と生産能力を有した我が国の船舶産業は、ヨーロッパ、アジア域内の船舶産業に対して大きな優位性を持っている。なお、2050 年における船舶技術の具体的なイメージとしては、例えば次の2点が挙げられ、これらを利用した船舶が相当数建造されている。① 地球温暖化対策関連では、原子力推進船や超省エネ船、CO2 運搬・貯蔵・海洋投入船等に必要な高度な技術が、2030 年頃までに開発済みである。② これとは別に、運航を高度化する技術(自律航行船等)、港湾域内でのオペレーションを効率化する技術(自動離着桟、荷役の完全自動化等)等についても開発が完了している。活力ある船舶産業は、さらに海洋開発分野に積極的に進出することで、海洋構造物、関連機器、作業船、サプライボート等の設計・製造が盛んになっており、我が国の海洋資源の開発、海洋空間利用に関する商業プロジェクトの成功に大いに貢献している。(航路、港湾)地球温暖化による海氷の減少、保険制度の整備等から、北極海航路が開設されており、また北極圏に賦存する資源開発が進むことから、アジア向けの貨物・資源輸送が増大している。これに伴い、地政学的に有利な北海道(北方領土を含む)にはアジア向けの積み替え港が置かれている。なお、国内地方港湾は、後背地の交通網、産業立地、消費特性等によって再配置が図られている。またアジアのシームレスの大きな流れの中で、国際資本の受け入れ等により、厳しい競争にさらされながらも国民の経済と生活を支え13ている。2050 年における港湾は、荷役作業、通関作業、検査点検作業、セキュリティ機能、保船機能の高度集約化・完全自動化はもちろんのこと、これまで船舶に搭載されていた一部の機能のアウトソーシング化にも対応している。(労働力・人材)アジア海上物流の拡大を背景に、船舶管理、港湾管理、船舶金融・保険、仲立・倉庫、海洋資源開発、海事教育・訓練、研究、検査・検定・鑑定、コンサル等の海事関係の専門家への需要が、アジア地域全体では大きくなっている。我が国の海事社会は、若年層に対して十分な魅力を持っており、海洋立国に足る人材が確保できている。その一方で、アジアにおける海事社会全体のシームレス化により、英語を共通言語に多数の専門家が相互に国境を越えて就労している。なお、海事関係の裾野を形成する海運、港湾、造船等への就労者については、自動化、機械化等により生産性を上げつつ、外国からの労働力を活用して必要な人員を確保している。(国際的イニシアティブ)政治経済全般のアジア域内連携が高まることにより、海事分野においても域内協力体制が我が国のイニシアティブで完成している。その結果、特に海上安全・安心・環境分野における国際条約、協定等の諸制度や規則・基準の策定の世界的な検討の場で、アジアの声が十分に反映されている。14提言154. 提言提言1 アジア域内の海上物流及び人流に進出すべき今後さらに拡大するアジアの海上輸送の市場は我が国の海事産業が新生する場であり、ここへの積極的進出を成功させるべきである。海上物流については、大幅に増加するコンテナ輸送需要(2050 年において2005年の10.7 倍)に適切に対応していくことが重要である。このため、我が国の海事研究機関は、アジア域内コンテナ輸送を効率的に実施する最適なコンテナ輸送ネットワーク等の新たなビジネスモデルを創出すべきである。また、このビジネスモデルに基づき、我が国の海運事業者についてはアジア域内コンテナサービスの積極的な展開、我が国の造船事業者については最適船舶の開発、我が国の国際ロジスティクス事業者はアジア全域の港湾整備等に率先して取り組んでいくべきである。海上人流については、経済発展を背景としてアジアのクルーズ市場が大きく成長することが見込まれるところ、クルーズに関係する国内産業は、同市場の動向及び経済波及効果を的確に把握した上で、新たなビジネスモデルを構築し、早期に積極的な参入を図るべきである。なお、我が国政府は、これら我が国の海事産業のアジア域内での新たなビジネスモデルの構築と事業展開が容易になるよう、海事に関する諸制度、慣行等を抜本的に見直すとともに、アジア諸国との対話促進を図っていくべきである。16提言2 超省エネ船及びゼロエミッション船の全面普及を急ぐべき海上輸送量の拡大(2050 年において2005 年の2.5 倍)とCO2 排出量の大幅削減を両立させるべきである。このためには、すべての船舶のCO2 排出原単位6の大幅改善が必要不可欠である。これを実現するため、我が国の海事関係者は、国際的連携を取りながら、以下を同時に推進すべきである。7① 超省エネ船8の開発及び実用化の加速並びに2020 年代後半における世界的な全面普及② ゼロエミッション船9の早急な開発及び実用化並びに2030 年代後半における世界的な全面普及③ 船舶から発生する CO2 の回収・貯留システム(CCS)10の2030 年代後半までの実用化超省エネ船及びゼロエミッション船の世界的な全面普及を支えるため、国際的な技術移転の実施、再生可能エネルギー等のゼロエミッション燃料の確保等に直ちに取り組むべきである。なお、舶用燃料の転換と多様化に対応するため、ある程度の燃料費上昇は海事社会の国際責任として受容しなければならない。また、原子力、水素等これまで商船に使用されていない燃料や機関の安全な6 トンマイルあたりのCO2 排出量のこと。ただし、水素燃料、電池推進、代替燃料等の使用においては、陸上における燃料精製・エネルギー生成時に発生する間接的CO2 排出も考慮した原単位をここでは想定している。7 海洋政策研究財団の試算では、2050 年において、世界の海上輸送量の成長を確保しつつ、CO2 排出量を半減するためには、個別の船舶のCO2 排出原単位を2005 年の平均値から約88%削減する必要がある。平均20%の減速航行を行っていることを前提として、2050 年の時点で、船齢15 年未満(2036 年以降建造)の船舶(全船腹量の69%)がゼロエミッション船舶(排出原単位90%削減)に、15 年以上25 年未満(2026 年~2035 年の間の建造)の船舶(同22%)が超省エネ船舶(排出原単位50%削減)に完全に移行することで、上記の排出原単位平均88%削減が可能となる。8 超省エネ船とは、CO2 排出原単位が2005 年の同型船に比較して50%以上削減されている船。減速航行を前提にして船型、搭載主機、推進器等を全面的に見直し改良した船舶。消席率の向上等運航方法による改善も考えられる。9 ゼロエミッション船とは、CO2 排出原単位が2005 年の同型船に比較して90%以上削減されている船。超省エネ船から一層の効率向上を目指す場合と、自然エネルギー推進船、電池推進船、原子力推進船等が考えられる。10 船舶から発生するCO2 のCCS とは、船舶の運航時に推進機関等から排出されるCO2 を船上で回収し、海底下、海洋中等への隔離を行うシステム。17取り扱いや環境への配慮のための規則・基準の策定、船員の養成、港湾及び燃料供給等のインフラの整備等が必要不可欠であることに留意すべきである。18提言3 我が国船舶産業は若者に魅力ある産業に新生すべき我が国の船舶産業は、高い収益性と技術開発力のある魅力ある産業となるため、以下の取り組みを行うべきである。① 大幅な付加価値率の向上11船舶産業が若年層にとっても魅力ある産業となるためには、他国の船舶産業はもちろんのこと、国内の他の産業と比較しても十分高い収益率を有していることが必要である。国内においてトップレベルの収益性を有するためには、生産効率の向上に加え、一人あたりの付加価値の高い高度な技術水準の船舶(例えば、超省エネ船舶等)の建造を行い、2020 年までに現在の3 倍の一人あたりの付加価値を確保するべきである。② 十分な研究開発投資我が国における研究開発投資の売上高に占める割合は、2002 年から2006年の5 年間の平均が、製造業全体で4.26%であるところ、船舶産業ではこ11日本の各産業の一人あたり付加価値額(2002~2006 年の5 ヶ年の平均)(万円)電気業 4674 自動車 1436電信・電話業 4301 船舶産業 1354航空運輸業 3788 保険業 1172ガス・熱供給業 3206 通信機器 1156銑鉄・粗鋼 2991 卸売業 1080医薬品 2595 鉱業 888金融業 2222 一般機械産業 848放送業 2104 不動産業 697水運業 1761 道路運送業 566鉄道業 1543 漁業 447(注)経済産業省の工業統計調査及び企業活動基本調査並びに(独)経済産業研究所によるデータを用いて海洋政策研究財団が算出した。19れをはるかに下回ると推定される12。我が国の船舶産業は、ゼロエミッション船舶等の技術水準の高い船舶建造を可能とするため、2020 年までに売上高の5%の研究開発費を目指す等、十分な研究開発投資を行っていくべきである。ただし、短期的には公的資金による支援が必要である。③ 技術開発に関する人材育成超省エネ船、ゼロエミッション船舶等の技術開発を有効に行っていくためには、専門性とともに、視野の広い柔軟な企画力が必要である。船舶産業界は、これら人材の育成と確保を、関連学界と連携しつつ、国内に限定することなく行っていくべきである。また、優秀な人材を確保するためには、船舶産業に魅力がなければならず、このためにも、上記の収益性向上や研究開発投資が必要である。④ 知的所有権の保護技術開発を競争力の要としていくためには、知的所有権の保護が大前提であり、我が国の船舶産業の振興において重要な施策の一つであるとの認識を国が持った上で、船主、造船所、舶用機器メーカー、船級協会等ステークホルダーとの調整を行いながら、必要があれば、新たな国際ルールの作成を行っていくべきである。12 日本の製造業の売上高に占める研究開発費の割合(%)情報通信機械器具製造業 7.23 電子部品・デバイス製造業 3.90化学工業 6.76 プラスチック製品製造業 2.27輸送用機械器具製造業 5.50 繊維工業 2.01ゴム製品製造業 5.28 窯業・土木製品製造業 2.01電気機械器具製造業 4.93 非鉄金属製造業 1.82精密機械器具製造業 4.79 印刷・同関連産業 1.64一般機械器具製造業 4.77 金属製品製造業 1.47(注)経済産業省の企業活動基本調査より海洋政策研究財団で算出した。20提言4 新たな視点で海洋資源と海洋空間の利用に取り組むべき我が国は、領海及び排他的経済水域を合わせた面積が世界で6 番目に広く、この広い海底には、①原油、天然ガス、メタンハイドレート等エネルギー資源(以下、「海洋化石エネルギー」という)が相当量存在しているが、これらはいずれも有限であることには変わりない。一方、②海藻からのバイオ燃料及び潮力、風力、波力、太陽光による発電、あるいはこれらから二次生成された水素等再生可能エネルギー(以下、「海洋再生可能エネルギー」という)は、エネルギー密度が海洋化石エネルギーより遙かに低く、経済性に乗せるには大規模なシステムの開発等、その実現性の確認には時間を要する。現時点では、海洋化石エネルギーの早期開発に焦点が当てられる傾向にあるが、2050 年という長期のタイムスケールでは、同エネルギー資源の枯渇も充分に予想される。このため、持続可能な社会の中でエネルギーセキュリティの観点から敢えて資源を温存し、その代わりに海洋再生可能エネルギーの供給量に期待するという政策的選択肢もありうる。ただし、海洋化石エネルギー資源の探査・掘削・回収・精錬・輸送技術を早期に実用化させ、いつでも商業段階のプロジェクトが開始可能なレベルまで整備しておくことが前提となる。海洋化石エネルギーの開発プロジェクトスケジュールに合わせて13、海洋再生可能エネルギー生成技術についても、特に海藻からのバイオ燃料、風力、太陽光発電を中心に2020 年を目処に、技術自体の安全性及び生態系への影響についても留意しながら、開発を完了する必要がある。なお、同様の持続的資源利用の観点は、熱水鉱床、コバルトリッチクラスト等海底鉱物資源に対しても当てはまる。さらに、地球温暖化問題への対応の一環として、現在海底下貯留に限定されているCO2 貯留の海洋空間への拡張に関し、安全性及び生態系への影響についても留意しながら、国際的な協調の中で技術開発を進めるべきである。さらに、我が国は、国連気候変動枠組み条約(UNFCCC)及びロンドン条約(LC 条約)の締約国会議等において、本件に関するイニシアティブを取りながら、2025 年までに国際的合意を形成するべきである。13 国立環境研究所による「2050 日本低炭素社会」(2007 年2 月)では、2020 年に陸上の太陽光、風力発電には、水素等の蓄積・運搬可能なエネルギー貯蔵システムが併設化されるスケジュールが示されている。21海洋化石エネルギーの利用システム、海洋再生可能エネルギーの生成システム、海洋CO2 貯留システムに加え、大規模海洋養殖システム、海水の淡水化システム等の、海洋資源と海洋空間の持続的利用に関するプロジェクトは、いずれも予算規模が大きく、かつ海洋生態系への影響が懸念されることから、国民の合意を形成しつつ、国家プロジェクトとして進められるべきである。なお、これらプロジェクトは、いずれも高度かつ先端的な海洋システムであるため、我が国の船舶産業は、その高い技術力を活かして海洋開発事業の中核を担うべきである。22提言5 アジアの総合的マリタイムセンターとなるべき日本の海事社会の発展のためには、アジアの成長を取り込むことが不可欠である。同時に、アジア海事社会をさらに円滑に大きく発展させるためには、歴史ある日本の海事社会が、諸問題に先導な立場で立ち向かうことが望ましい。さらに、国際海事社会における政策決定等において欧米と対等以上の交渉力を持つためには、アジア全体の連携を強化することが何より必要である。上記を達成するため、日本は、アジアの海事活動全般の知と技の中心、すなわちアジアに開かれた総合的マリタイムセンターになるべきである。この総合的マリタイムセンターとは、以下の3 つの機能を備えたものと考える。ここでは、日本の豊富なノウハウ14を十分活かしつつ、社会の変化を常に先取りした創造的な活動を行うべきである。① 海事に関する情報の集積及び発信(アジア及び世界の海事に関する情報の収集・分析・発信能力の強化、アジアにおける海事情報ネットワークの確立等)② 海事に関する政策の企画立案(国際海事社会に新たな政策、制度、基準を提案するための海事技術研究等に関するシンクタンク機能の強化等)③ 海事に関する人的交流の促進(海事関係国際会議・イベントの開催、海事関係国際機関の設立・誘致、海事関係人材育成事業の実施等)また、これを実現するため、我が国の海事関係者は、産官学が協力して、戦略的な計画を早急に立案し、2020 年までに日本の海事社会がアジアに開かれた総合的マリタイムセンターとして機能しているべきである。14日本が当面先導しうるノウハウとして具体的には、陸上輸送を含めたサプライチェーンマネージメント、混乗等の船員マネージメント、共有船制度等の海運経営支援制度、甲機両用の船員制度、環境への負荷が少なくリユースを考慮した解撤、災害に強く耐久性のある港湾の設計建設、海上保安制度、原油、LNG、核燃料等の危険物輸送システム、船員の教育訓練制度等があげられる。23附録24(附録1)2050 年の世界と世界の海事産業の姿1. 2050 年の世界の姿気候変動に関する政府間パネル(IPCC)が作成したシナリオA1B(2050 年までの世界の経済活動のシナリオとして現時点で最も蓋然性が高いと言われている。)によれば、世界人口は2005 年の64 億6,500 万人から2050 年には86 億7,300万人まで増加(約1.3 倍)している。また、世界のGDP は2005 年の44 兆6,880億米ドルから2050 年には193 兆2,230 億ドルまで4.3 倍に増加する。従って、人口1 人当たりGDP は、6,912 ドル/人から22,280 ドル/人まで3.2 倍に増加する。エネルギー需要も、石油から天然ガスへのシフトが進み、2050 年の需要総量は、2005 年比3.0 倍となっている。特にアジアについては、日本を除くアジア全体の人口は2005 年の34 億4,300万人から2050 年には42 億1,900 万人まで増加(約1.2 倍)している。また、アジア全体のGDP は2005 年の3 兆7,850 億米ドルから2050 年には58 兆7,490億ドルまで15.5 倍に増加する。従って、人口1 人当たりGDP は、1,099 ドル/人から13,924 ドル/人まで12.7 倍に増加する。このように、アジアは人口の点では世界よりも成長率が低いものの、GDP では世界の中でも最も高いレベルで成長が図られる地域となっている。また、経済ブロック内の相互依存関係はさらに深いものになっている。アジアについて見れば、東アジアにおける経済連携が進展し、従来以上に域内の経済活動はシームレスになり、貿易が増加している。アジアに展開する多国籍企業は、近隣諸国間で原材料及び部品の調達並びに中間製品及び最終製品の出荷を効率的に行うアジア域内サプライチェーンマネージメントを構築し、さらにアジア域内の経済発展に伴う需要創出、港湾、道路等のインフラ整備等の進展状況に応じて、生産拠点、販売拠点等を展開している。このように世界経済が拡大する中、あらゆる経済活動や一般市民生活において、地球温暖化や環境への配慮を最優先事項とすることが行動基準となっている。また、安全に対する意識も高まり続ける。特に国際協力体制が必要な事項については、安全確保に対する利用者負担への理解の深まりとともに、世界的な協力体制が構築されている。252. 2050 年の世界の海事産業の姿当財団の試算では、世界経済の拡大を背景に、世界の海上荷動き量(トンマイルベース)は、2050 年には72,498 十億トンマイルと2005 年の29,043 十億トンマイルと比べて2.5 倍となる。また、アジア域内では、コンテナの海上荷動き量が、2050 年には194 十億TEU マイルと2005 年の18 十億TEU マイルと比べて10.7 倍となる。このように、世界の海上貿易は拡大傾向をたどり、世界経済を支えるという国際海運の役割は益々重要になる。グローバルな貿易のみでなく地域的な経済ブロック内の貿易においても海上輸送の果たすべき役割は大きくなっている。特に、アジアにおいて、海上輸送の重要性は著しく大きくなっている。増大する国際海上輸送を円滑に行うためには、船舶の調達及び船員の確保が適切に行われなければならない。造船は、アジアは言うに及ばず、東欧、南米、アフリカ等の各地で事業が行われており、必要な量の船舶建造は何とかまかなえている。一方、船員については、十分な量の質の高い海技者の確保は困難を極め、ヒューマンエラーに基づく海難が輻輳海域において頻発している。また、海上荷動き量の増加が著しいアジア、中南米、アフリカにおいて、効率的な港湾の整備が十分に行われず、これら地域における港湾において貨物の集中による停滞が発生し、国際海上輸送の円滑な実施に局所的な支障が生じている。この海上荷動き量の増加に対応して、海事活動に伴うCO2 排出量が増大するとともに、輻輳海域等で海難が頻発する結果、海上輸送に関する地球温暖化問題及びその他の安全・環境への的確な対応を求める社会の要請が高まり続けている。26(附録2)海上輸送に関する海洋政策研究財団の試算1-1 予測の前提条件1-1-1 定量的な前提条件(1) 人口人口は 2005 年比1.3 倍に増加する。世界全体では増加するが、日本は減少に転じ、2050年には2005 年比1割減となる。また、世界平均に比べて急速に高齢化が進み生産年齢人口は2050 年には2005 年比で15%減少し、生産年齢人口の割合は約5割となる。(2) GDPGDP は生産性の向上に伴い、人口の増加比率よりも大きく、2050 年には2005 年比4.3 倍となる。特に、アジアをはじめとする発展途上国の生産効率が高くなることで、発展途上国でのGDP 成長が著しい。日本においても人口が減少する中、生産効率を高めることで2005年比2.1 倍となる。(3) エネルギー需要人口増加・GDP 増加に伴い、エネルギー需要も増加し、2050 年には2005 年比3.0 倍となる。表 2050 年における社会全体の状況2005 年 2050 年 2050/2005 出典人口 世界 6,465 8,673 1.3 倍 IPCC(百万人) アジア(日本を除く) 3,443 4,219 1.2 倍 IPCC日本 129 123 0.9 倍 IPCC生産年齢人口比率 世界 64.4% 63.9% 0.99 倍 国連アジア(日本を除く) 65.4% 64.5% 0.97 倍 国連日本 66.4% 51.1% 0.77 倍 国連GDP 世界 44,688 193,223 4.3 倍 IPCC(10 億米ドル) アジア(日本を除く) 3,785 58,749 15.5 倍 IPCC日本 3,874 7,981 2.1 倍 IPCC一人あたりGDP 世界 6,912 22,280 3.2 倍 IPCC(ドル/円) アジア(日本を除く) 1,099 13,924 12.7 倍 IPCC日本 29,927 64,915 2.2 倍 IPCCエネルギー需要 世界 10,624 31,372 3.0 倍 IPCC(百万石油換算トン) アジア(日本を除く) 2,961 10,463 3.5 倍 IPCC日本 - - - -27(注)A1B シナリオの想定より作成図 人口の変化(注)A1B シナリオの想定より作成図 GDP の変化281-1-2 定性的な前提条件(1) 世界経済・貿易体制複数の巨大国家・国家連合が世界を主導する世界に変化する。現状のアメリカに加えて、人口・経済が成長する中国とインド、統合の深化と加盟国の拡大を果たすEU が世界に大きな影響を持つ。個別国家について、現状ではBRICs の成長が著しいが、それに続いて、ネクスト11(バングラディシュ、エジプト、インドネシア、イラン、韓国、メキシコ、ナイジェリア、パキスタン、フィリピン、トルコ、ベトナム)が成長する。また、貿易体制については、WTO を中心としたグローバルな自由貿易体制が確立する。また、グローバルな自由貿易体制と共存する形で地域的な経済連携(EPA、FTA 等)が強化される。特に、アジアでは東アジア16 ヶ国(ASEAN10 ヶ国(カンボジア、インドネシア、ラオス、マレーシア、ミャンマー、フィリピン、タイ、ベトナム、ブルネイ、シンガポール)・日・中・韓・印・豪・ニュージーランド)の自由貿易経済圏が確立している。(2) 企業の姿2050 年までにはM&A が活発に行われあらゆる業種で国際的な巨大企業が誕生する。造船業においても、スケールメリットによる効率化が果たされる。グローバルな自由貿易体制の確立とともに、企業の事業所、工場等の外国進出が進む。また、企業の国際的な分業化が進展し、研究開発等の企業活動の専門的な機能が国内外の外部企業により担われる形態が一般的となる。(3) 社会の要請環境配慮への意識が高まり続ける結果、CO2 排出量の少ない製品、サービスが増加する等、あらゆる業界の行動が変化する。それに伴い、海外進出企業にも進出先において各種環境配慮が従来以上に求められる。安全に対する意識は高まり続け、安全を確保するための利用者負担に対する一般的な理解が深まっている。利用者負担に対するコスト削減に向け、安全確保に向けた世界的な協力体制の実現が図られる。また、資源の有効活用を図るためリサイクルに関する意識が高くなる。(4) 国の役割国家のあり方、産業のあり方等に関する基本的計画、中長期的計画等の立案、国益確保、国民生活の安全確保のための制度設計等を行うことが求められる。また、国際協調の中での国益確保を目指すことが重要になる。291-2 海上輸送に関する予測結果1-2-1 海上荷動き量(重量トンベース)世界の海上荷動き量(重量トンベース)は、2050 年には全貨物総量で2005 年比2.5 倍となると予測された。貨物の種類別にはLNG とコンテナの輸送量の増加が著しく、LNG が7.1倍、コンテナが7.2 倍となっている。また地域別にみるとアジア域内の流動が大きくなっており、コンテナにおいて10.7 倍となっている。また、アフリカ域内や中東域内の輸送量の増大も大きい。このように、地域経済圏の発展とともに、大陸間輸送量より地域内での輸送量の伸びが大きくなることが、2050 年における特徴である。表 海上荷動き量(重量トンベース)に関する予測世界(百万トン) アジア域内(百万トン) 日本発着(百万トン)2005 年2050 年 2050/20052005 年2050 年2050/20052005 年 2050 年 2050/2005石油 2,279 2,855 1.3 倍63 36 0.6 倍269 178 0.7 倍LNG 138 979 7.1 倍56 64 1.1 倍82 362 4.4 倍石炭 710 1,140 1.6 倍158 121 0.8 倍179 287 1.6 倍鉄鉱石 652 1,109 1.7 倍96 218 2.3 倍135 144 1.1 倍穀物 251 322 1.3 倍12 11 0.9 倍29 29 1.0 倍燐鉱,アルミナ,ボーキサイト104 129 1.2 倍- - - - - -コンテナ 1,099 7,878 7.2 倍171 1,775 10.7 倍237 487 2.1 倍コンテナ(百万TEU)84 599 7.2 倍13 135 10.7 倍18 37 2.1 倍その他 1,488 2,262 1.5 倍- - - - - -全体 6,720 16,674 2.5 倍- - - - - -(注1)コンテナ1TEU=13.15 トンで換算(注2)海洋政策研究財団の海上輸送モデルにより予測30コンテナ海上荷動き予測(単位:百万TEU) 凡例:北米東アジア中南米大洋州インド等アフリカ中東欧州1→2413→1352→20.3→90.6→290.2→45→132→22→713→4710→421→252→321→261→43→35→131→42→122→91→91→562→120.1→50.3→50.6→32→80.2→40→60.4→91→120→20→40→60→51→32005 年→2050 年注)2050 年で2 百万TEU 未満の荷動きその他一部を省略1→200.6→100.3→9(注)海洋政策研究財団の海上輸送モデルにより予測図 コンテナ海上荷動き予測311-2-2 海上荷動き量(トンマイルベース)世界の海上荷動き量(トンマイルベース)は、2050 年には全貨物総量で2005 年比2.5 倍となると予測された。海上貨物量と同様に、種類別にはLNG とコンテナの増加が著しく、LNG が10.4 倍、コンテナが5.9 倍となっている。また地域別にみるとアジア域内の流動が大きくなっており、コンテナの2005 年比で10.7 倍となっている。LNG は、重量トンベースに比較して増加率が高く、大陸間輸送等長距離輸送が多くなると予測された。他方、コンテナは、上記1.1 で述べたように地域間輸送が多く、中短距離輸送が多くなると予測された。表 海上荷動き量(トンマイルベース)に関する予測世界(十億トンマイル・十億TEU マイル)アジア域内(十億トンマイル・十億TEU マイル)日本発着(十億トンマイル・十億TEU マイル)2005 年2050 年 2050/20052005 年2050 年2050/20052005 年 2050 年 2050/2005石油 1,1749 13,053 1.1 倍170 95 0.6 倍1702 1119 0.7 倍LNG 448 4,673 10.4 倍122 131 1.1 倍205 1119 5.5 倍石炭 3,124 5,240 1.7 倍316 250 0.8 倍698 1117 1.6 倍鉄鉱石 3,711 6,458 1.7 倍96 220 2.3 倍621 586 0.9 倍穀物 1,385 1,799 1.3 倍59 54 0.9 倍136 135 1.0 倍燐鉱、アルミナ、ボーキサイト395 489 1.2 倍- - - - - -コンテナ 6,448 38,069 5.9 倍237 2551 10.7 倍1473 2512 1.7 倍コンテナ(百万TEU)490 2,894 5.9 倍18 194 10.7 倍112 191 1.7 倍その他 1,783 2,717 1.5 倍- - - - - -全体 29,043 72,498 2.5 倍- - - - - -(注1)コンテナ1TEU=13.15 トンで換算(注2)アジア域内の海上輸送としては、貨物の種類毎に以下に示す地点間の輸送量について算出石油:日本・他アジア-東南アジアLNG:日本・韓国・中国・他アジア-他アジア石炭:日本・他極東-中国・インドネシア鉄鉱石:日本・中国・他極東-アジア穀物:日本・他極東-その他コンテナ:東アジア-東アジアその他:2005 年は全世界の海上輸送量29043 十億トンマイル(海事レポート)から、本研究で対象とした貨物の全種類との差分。2050 年は伸び率がコンテナを除く貨物の平均と等しいと想定して算出。(注3)海洋政策研究財団の海上輸送モデルにより予測321-2-3 必要船腹量(載貨重量トン数及び隻数)海上輸送を行うために必要な総船腹量(載貨重量トン数)は、2050 年には、全体で2005年の約2.0 倍、船種別では、タンカー及びバルクキャリアは2005 年とほぼ同程度であるが、LNG 船では約8.1 倍、コンテナ船では約7.7 倍となる。また、輸送に必要な2050 年の船舶隻数は、全体で2005 年の約1.7 倍、船種別では、タンカー及びバルクキャリアは2005 年とほぼ同程度であるが、LNG 船では約7.2 倍、コンテナ船では約3.7 倍となる。必要船腹量の予測に際しては、船舶の大型化を想定した。表 必要船腹量に関する予測総 DWT(百万トン) 隻数(隻) 平均船型(DWT)2005 年 2050 年 50/05 2005 年 2050 年 50/05 2005 年 2050 年タンカー 317.6 297.0 0.9 3,210 2,950 0.9 98,954 100,671LNG 12.3 100.0 8.1 185 1,328 7.2 50,542 75,246バルクキャリア341.0 337.3 1.0 5,980 5,087 0.9 57,030 66,318コンテナ 97.3 748.2 7.7 3,562 13,179 3.7 27,260 56,795以上の合計 768.2 1,539.4 2.0 12,937 22,544 1.7 - -(注)海洋政策研究財団の海上輸送モデルにより予測1-2-4 CO2 排出量世界全体の国際海運からの CO2 排出量は、2050 年には全体で2000 年比4.1 倍の約24 億トンとなる。なお、コンテナ船からのCO2 排出がこのうち約半分を占める。表 貨物別にみた国際海上輸送からのCO2 排出量の推計及びそれらの合計CO2 排出量(百万トン) 2000 年 2010 年 2020 年 2030 年 2040 年 2050 年石油 117 147 174 201 175 149LNG 16 51 106 161 204 248石炭 46 63 74 85 91 97鉄鉱石 47 74 84 95 107 119穀類等 29 33 36 39 41 42コンテナ 127 259 396 634 941 1,234その他 201 290 373 456 485 514合計 583 917 1,243 1,671 2,044 2,403(注)海洋政策研究財団の海上輸送モデルにより予測33(附録3)ご協力いただいた方々(順不同、敬称略)大内 一之 東京大学大学院工学系研究科 特任教授太田 和博 専修大学商学部 教授河野 真理子 早稲田大学法学部 教授篠原 正人 東海大学海洋学部 教授末岡 英利 東京大学大学院工学系研究科 特任教授高木 健 東京大学大学院新領域創成科学研究科 教授野尻 幸宏 独立行政法人 国立環境研究所地球環境研究センター 副センター長松倉 洋史 東京大学大学院工学系研究科 特任助教宮下 國生 大阪産業大学経営学部 教授(神戸大学名誉教授)本村 真澄 独立行政法人石油天然ガス・金属鉱物資源機構 主席研究員森 隆行 流通科学大学商学部 教授山田 吉彦 東海大学海洋学部 教授大和 裕幸 東京大学大学院新領域創成科学研究科 教授34提言 アジアに活きる日本の海事産業 -「2050年の日本」からのメッセージ-平成21年8月発行発行 海洋政策研究財団(財団法人シップ・アンド・オーシャン財団)〒105-0001 東京都港区虎ノ門1-15-16 海洋船舶ビルTEL 03-3502-1828 FAX 03-3502-2033http://www.sof.or.jp本書の無断転載、複写、複製を禁じます。 ISBN4-88404-229-5