報告書・出版物

はじめに海洋政策研究財団では、人類と海洋の共生の理念のもと、国連海洋法条約およびアジェンダ21 に代表される新たな海洋秩序の枠組みの中で、国際社会が持続可能な発展を実現するため、総合的・統合的な観点から海洋および沿岸域にかかわる諸問題を調査分析し、広く社会に提言することを目的とした活動を展開しています。その内容は、当財団が先駆的に取組んでいる海洋および沿岸域の統合的な管理、排他的経済水域や大陸棚における持続的な開発と資源の利用、海洋の安全保障、海洋教育、海上交通の安全、海洋汚染防止など多岐にわたっています。このような活動の一環として、当財団ではボートレースの交付金による日本財団の支援を受け、平成22年度より3 ヶ年計画で「沿岸域の総合的管理モデルに関する調査研究」を実施してきました。沿岸域では、人間の生活や産業活動が活発に行われていますが、陸域・海域を一体的にとらえて総合的に管理するという視点が欠けているために、海洋環境の悪化、水産業の低迷、開発・利用に伴う利害の対立など、様々な問題が起こっています。沿岸域総合管理は、こうした状況に対応するために諸外国で広く導入されている国際標準的な手法であり、2007 年に成立した海洋基本法においても十二の基本的施策の一つとして取り上げられています。沿岸域の問題については、全国の様々な地方公共団体がそれぞれの取組を行っていますが、本事業においては、沿岸域総合管理の実施に意欲を有する地方公共団体をサイトとして選定し、それらのサイトにおいて、1)当該地方公共団体が実施する沿岸域総合管理のモデルとなる取組みを促進すること、2)その過程を通じて地域における沿岸域総合管理の実践における課題と解決方法について調査研究を行うこと、3)我が国における沿岸域総合管理を促進するための提言を行うことを目的としています。この報告書は、これまでの調査研究の締めくくりとして、各サイトにおける沿岸域総合管理への取組、モデル事業を通じた沿岸域総合管理の効果・課題の考察をとりまとめるとともに、これらを踏まえて沿岸域総合管理の推進に関する提言を行うものです。本調査研究の成果が、沿岸域の総合的な管理の取組みを促進し、また、地域のニーズを踏まえた政策立案に資するものとなれば幸いです。最後になりましたが、本事業の実施にあたりまして熱心なご審議を頂きました「沿岸域の総合的モデルに関する調査研究委員会」の各委員と、本事業にご支援を頂きました日本財団、その他の多くの関係者の皆様に厚く御礼申し上げます。平成25 年3月海 洋 政 策 研 究 財 団理事長 今 義男沿岸域の総合的管理モデルに関する調査研究研究メンバー寺島 紘士 海洋政策研究財団 常務理事米山 茂 海洋政策研究財団 政策研究グループ グループ長代理(プロジェクトリーダー(全体総括))大川 光 海洋政策研究財団 政策研究グループ グループ長代理大塚 万紗子 海洋政策研究財団 政策研究グループ 特任研究員(プロジェクトリーダー(サイト総括))遠藤 愛子 海洋政策研究財団 政策研究グループ 研究員塩入 同 同上 (福井県小浜市担当)田上 英明 同上 (岩手県宮古市担当)釣田 いずみ 同上 (岡山県備前市(日生)担当)脇田 和美 同上 (三重県志摩市担当)市岡 卓 海洋政策研究財団 政策研究グループ グループ長(平成24年9月まで)瀬木 志央 海洋政策研究財団 政策研究グループ 研究員(岡山県備前市(日生)担当)(平成24年8月まで)平成24年度沿岸域の総合的管理モデルに関する調査研究報告書目 次はじめに沿岸域の総合的管理モデルに関する調査研究メンバー一覧第1章 事業の概要 ……………………………………………………………………… 11. 背景と目的 ………………………………………………………………………… 12. 研究内容 …………………………………………………………………………… 13. 研究体制 …………………………………………………………………………… 6第2章 本年度の調査研究内容 ………………………………………………………… 91. 各サイトにおける沿岸域総合管理への取組状況 ……………………………… 9(1)三重県志摩市 ………………………………………………………………… 9(2)岡山県備前市(日生町) …………………………………………………… 14(3)福井県小浜市 ………………………………………………………………… 21(4)岩手県宮古市 ………………………………………………………………… 26(5)高知県宿毛市・大月町(宿毛湾) ………………………………………… 31(別紙)各サイト等の概況 ………………………………………………………… 372. モデル事業を通じた沿岸域総合管理の効果・課題の考察 …………………… 54(別表)各サイトの比較整理表 …………………………………………………… 583. 沿岸域総合管理の普及・拡大 …………………………………………………… 62(1)地域のネットワーク化 ……………………………………………………… 62(2)地域の取組に関する情報発信 ……………………………………………… 64(3)沿岸域総合管理に関する集中講義の開催 ………………………………… 66第3章 沿岸域総合管理の推進に関する政策提言 …………………………………… 68第4章 まとめ …………………………………………………………………………… 73参考資料 …………………………………………………………………………………… 75第1章 事業の概要1 背景と目的沿岸域では、人間の生活や産業活動が活発に行われているが、一体的かつ適切な管理が行われていないために、海洋環境の悪化、水産業の衰退、開発・利用に伴う利害の衝突など、様々な問題が起こっている。2007 年には海洋基本法が成立し、沿岸域総合管理が十二の基本的施策の一つとして位置づけられた。また、沿岸域総合管理は、諸外国でも広く導入され、国際標準的な手法となっている。そこで、本調査研究では、沿岸域総合管理の実施に強い意欲を有する全国の各地域において、地方公共団体に対する助言等の協力を行うことにより、地域が主体となって実施する沿岸域総合管理のモデルとなる取組みを促進する。その中で、沿岸域総合管理の実施状況、その効果や実施に当たっての問題点について評価・分析を行い、これらを通じて地域における沿岸域総合管理の実践における課題について調査研究を行う。その上で、我が国における沿岸域総合管理の効果的な実施方策、また、沿岸域総合管理を促進するために必要な地域への支援のあり方(インセンティブ、制度の整備等)に関しての提言を行う。本調査研究では、地域の自然的・社会的特性を考慮したサイトを選定し、3ヵ年で、地方公共団体に協力することにより、地域が自発的に取り組む 1)沿岸域の開発、利用、保全等に関するビジョン、計画等の作成 2)沿岸域総合管理を実施するための協議会等の設置 3)地方公共団体や地域の協議会等によるビジョン、計画等の実施 などの取組みを促進する。その中で、地域におけるこれらの活動の実態や成果を把握・整理し、調査研究、さらには政策提言を行う。また、地方公共団体職員その他関係者を対象に、沿岸域総合管理の専門家による講義を行い、地域における取組みを人材育成面で支援するとともに、沿岸域総合管理に関する地域のネットワーク化を促進する。本調査研究においては、沿岸域総合管理の概念とサイトにおける取組みの進め方については、別紙の考え方を基本とし、地方公共団体関係者に対して本調査研究への協力を求めていく。なお、当財団としては本調査研究と一体的に、地域における沿岸域管理の実施状況に関する映像記録の作成・発信を実施し、地域の取組みの成果・問題点の評価・分析や、沿岸域総合管理に取り組もうとする全国の他の地域への情報発信・普及に活用する。2 研究内容(1)モデル事業の実施平成23 年度までに、地元地方公共団体の協力を得て、三重県志摩市(英虞湾)・岡山県- 1 -備前市(日生町)、福井県小浜市、岩手県宮古市の4箇所をサイトとして選定することができた。最終年度となる平成24年度においても、引き続き、地域の状況を勘案しながら、新たなサイトの選定を行うこととした。その上で、サイトごとに設置する研究会を通じ、地方公共団体と協力しながら、解決を図るべき課題の検討・整理、沿岸域総合管理のための活動の基盤となる協議会等の設置に協力し、さらに、状況に応じ、協議会等を通じたビジョンの作成等の取組みを支援することを目指すこととした。1)サイトの選定我が国の沿岸部の地域(都道府県又は市町村)の中から、沿岸域の自然・社会の状況や地域におけるこれまでの取組みの内容、今後の取組みに向けての体制・意欲等を勘案して、沿岸域総合管理を実施するサイトを選定することとした。具体的には、以下のような事項について把握・整理を行った上で、地域特性の類型や地域バランスを考慮し、サイトの選定を行うこととした。①沿岸域の自然・社会の状況以下の各点について把握・整理を行う。・関係する地方公共団体の範囲・地形、気象・海象、生態系など自然の状況・人口、産業、歴史、文化、土地や海域の利用など社会の状況・地域の課題(現在の課題・将来に向けての課題)②地域におけるこれまでの沿岸域管理への取組みの内容例えば、以下のようなものが該当すると考えられる。・幅広い関係者からなる協議会等による取組み・幅広い分野を対象とする総合的な計画に基づく取組み・研究機関との連携による取組み③今後の取組みに向けての体制・意欲例えば、以下のようなものが該当すると考えられる。・地方公共団体におけるプロジェクトチーム等対応する組織・地域住民や関係事業者の理解、協力体制・首長の強い政治的意思2)サイトにおける研究会の開催当財団が本調査研究事業を円滑に推進するため、中央に設ける本事業の実施のための研究委員会とは別に、各サイトにおいて研究会(「○○沿岸域総合管理研究会」等)を開催することとした。研究会の概要は、以下のとおりである。①目的各サイトにおいて、地方公共団体など地域の関係者と情報交換、協議を行い、- 2 -沿岸域総合管理の取組みについて研究することを目的とする。②研究会の設置研究会は、当財団がサイトにおける地方公共団体の協力を得て開催する。③参加者当財団が参加するほか、以下の関係者に参加を求める。・関係地方公共団体の職員・(必要に応じて)沿岸域管理に関する豊かな知識や経験を有する学識経験者(中央の研究委員会の委員及び地域で活動の実績を有する学識経験者)・その他④活動内容課題の整理、協議会の設置、地域の実情に応じた総合沿岸域管理への取組みについて、参加者が協議を行い、進め方を検討する。具体的な活動内容については、以下の3)~5)を参照。⑤活動期間サイトの決定後、できる限り早く開催して活動を開始し、本調査研究事業の実施期間中にわたり活動を継続する。⑥当財団の参画の内容当財団は、研究会を通じて、地域の関係者から情報収集を行い、学識経験者の協力を得ながらサイトにおける沿岸域総合管理の進め方について検討し、地域の関係者に対し助言を行うことにより、沿岸域総合管理の実施を支援する。⑦経費の負担研究会は、当財団が自らの調査研究を効果的に推進するために開催するものであるため、その開催に係る経費(学識経験者の参加経費も含む)については、当財団が負担する。3)課題の整理に対する支援サイトにおいて、沿岸域総合管理という手法の導入により解決を図るべき課題の特定・整理に対する支援を行うこととした。具体的には、以下のような事項について、研究会において整理・検討を行い、その中で地域に対する必要な助言等を行うこととした。①沿岸域における問題点は何か沿岸域における現在の、又は、将来に向けての問題点として、例えば、以下のようなものが考えられる。・海洋環境の悪化・漁業、観光など地域の産業の衰退・沿岸域の利用をめぐる利害の衝突- 3 -・地域の活力の喪失・災害の脅威②上記問題点に取り組む上での課題①の問題点に地域として対応していく上での課題について整理する。例えば、次のような課題が考えられる。・沿岸域の問題を総合的に議論する場がない・沿岸域管理に市民が参加する仕組みがない・個別の法制度との調整が難しい・地方公共団体に財政面・権能面での十分な基盤がない・取組みをリードできる人材がいない・科学的知見に基づく情報が不足している4)ビジョン・計画の策定・推進に対する支援地域のビジョン・計画の策定・推進など沿岸域総合管理の進め方に関する検討を支援することとした。具体的には、以下のような事項について、研究会において整理・検討を行い、その中で地域に対する必要な助言等を行うこととした。・地域の将来像のビジョン化・計画化・ビジョン・計画の地方公共団体の総合計画等への取込み・多様な地域の関係者の参加によるビジョン・計画の推進・実現5)協議会等の設置に対する協力研究会では、沿岸域総合管理のための活動の基盤となる協議会等の設置方法等に関し、以下のような事項についても検討を行うこととした。これらについては、具体的には地域が主体的に判断するものと考えられる。(なお、協議会等の設置には、そのための検討や関係者との調整に一定の時間を要することに留意して進める。)・協議会等の参加者・既存の協議会等がある場合には、それと本協議会等との関係・協議会等への地方公共団体の関わり6)地域との協力に当たっての留意事項上記のような進め方を基本に考えるが、研究会の設置の仕方(設置の有無も含め)など当財団による地域への協力の進め方については、サイトにおける沿岸域総合管理の取組みの進展状況など地域の実情に合った形で行うこととした。また、課題の整理、ビジョン・計画の策定・推進、協議会の設置等サイトにおける総合沿岸域管理をどのように進めるかについては、地域が主体的に考え、取り組むもの- 4 -であり、当財団は研究会における助言等の協力を通じ、地域の関係者による検討や意思決定を側面から支援することとした。7)地域に対する人材面の支援沿岸域の問題に関心を有する全国の地方公共団体の職員その他関係者を対象に、沿岸域総合管理に関する国内外の専門家による実践的な講義を行い、地域における沿岸域総合管理の取組みを担うリーダーの育成を図ることとした。8)地域のネットワーク化の促進当面、地方公共団体が相互に情報を共有できるような場を設けることなどにより、沿岸域総合管理に関する地域のネットワーク化を図り、将来的には自主的な地域間のネットワークの形成を目指すこととした。(2)モデル事業を通じた沿岸域総合管理の課題・効果の考察本年度は、3ヵ年計画の最終年度にあたるため、3年間のモデル事業を通じた沿岸域総合管理の課題・効果の考察を以下のとおり行い、本調査研究をとりまとめることとした。1)モデル事業の実施過程の評価・分析各サイトにおけるモデル事業の推進に当たっての問題点や事業実施の効果について評価・分析を行う。2)沿岸域総合管理の課題・効果の考察上記のモデル事業の実施過程の評価・分析を通じ、沿岸域総合管理に関する一般的な課題や期待される効果について考察を行う。3)政策提言調査研究の結果を踏まえ、沿岸域総合管理に関するモデルの提示も含め、必要な提言を行う。(参考)なお、当財団は、本調査研究とは別に、「総合的海洋政策の策定と推進に関する調査研究」(「我が国における海洋政策の調査研究」)事業を実施し、中央レベル(いわばトップダウンのアプローチ)で沿岸域総合管理の制度のあり方を検討している。これに対し本調査研究は、地域レベル(いわばボトムアップのアプローチ)でベストプラクティスの実行を促進しようとするものであるが、両者は相互に関連するため、本調査研究については「我が国における海洋政策の調査研究」事業と密接に連携を取りながら進めることとした。- 5 -3 研究体制平成22・23 年度に引き続き、「沿岸域の総合的管理モデルに関する調査研究委員会」を設置し、3回の委員会を開催した。委員会の構成は、以下のとおりである。平成24年度「沿岸の総合的管理モデルに関する調査研究委員会」委員名簿敬称略・五十音順氏名 所 属 / 役 職*來生 新 放送大学 教授磯部 作 日本福祉大学子ども発達学部心理臨床学科 教授佐々木 剛 東京海洋大学 海洋政策文化学科 准教授中田 英昭 長崎大学大学院 水産・環境科学総合研究科長中原 裕幸 社団法人海洋産業研究会 常務理事松田 治 広島大学 名誉教授八木 信行 東京大学大学院農学生命科学研究科 准教授寺島 紘士 海洋政策研究財団 常務理事*委員長- 6 -(別紙)沿岸域総合管理の概念「沿岸域総合管理」の概念については様々な考え方があるが、PEMSEAなどの国際的な取組みや、2000年に「21世紀の国土のグランドデザイン」推進連絡会議が決定した「沿岸域圏総合管理計画策定のための指針」の内容を踏まえると、当財団としては、沿岸域における諸課題を効果的に解決していくためには、以下の各項目を含む「沿岸域総合管理」を実施していくことが必要であると考える。(1)対象となる沿岸域の設定地域の関係者が協議して、自然的社会的条件からみて一体的に施策が講じられることが相当と認められる沿岸域の海域と陸域を「沿岸域」として設定する。(2)地域が主体となった取組み「沿岸域総合管理」は、地域の実情を最もよく知る地域の関係者が主体となって進めるべきである。従って、「沿岸域総合管理」は、関係地方公共団体(都道府県又は市町村)が中心になり、関係行政機関、事業者、住民、NPO等の関係者が連携・協力して取り組む。(3)総合的な取組み地域の関係者は、既存の分野ごと・縦割の枠を超えて、沿岸域の問題に総合的に取り組み、様々な施策を幅広く活用して持続可能な沿岸域の管理を推進し、関係者の利益の最大化(できる限り、より多くの関係者の利益の増進)を図る。(4)計画的・順応的な取組み「沿岸域総合管理」は、地域が直面している課題に対応するため、予め関係者が合意の上で沿岸域総合管理計画を地域の計画として策定し、これに基づいて計画的に沿岸域の管理を推進する。計画の策定にあたっては、目標を明確にし、また、計画の実施にあたっては、目標の達成状況を評価し、必要に応じて計画を見直し、PDCAサイクルによる順応的管理を確立する。(5)協議会等の設置関係地方公共団体が中心となり、関係行政機関、事業者、住民、NPO等の沿岸域に関わる多様な関係者の代表者で構成される協議会等を設置して合意形成を図り、沿岸域総- 7 -合管理の計画を策定し、関係者が一致協力して計画を推進する。(6)地方公共団体の計画への位置づけ関係地方公共団体は、協議会等が策定した計画について、その実効性を担保するため、当該地方公共団体の計画等に位置づける、又は、何らかの形で地域の計画として認定する。- 8 -1第2章1.各サイトにおける沿岸域総合管理への取組状況(1) 三重県志摩市①サイトにおける取組状況1)地域の状況と沿岸域総合管理への取組志摩市では、平成23年8月に発足した「志摩市里海創生基本計画策定委員会」での協議を経て、平成24年3月、「志摩市里海創生基本計画(志摩市沿岸域総合管理計画)(以下、基本計画と略す)」が策定された。基本計画では、「稼げる!遊べる!学べる!新しい里海のまち・志摩」を掲げ、海域と海域に影響を与える陸域を一体の「沿岸域」ととらえ、市民や関係者が一丸となって沿岸域の総合的な管理体制を構築することで、『自然の恵みの利用と保全』を効率よく進め、地域の産業振興を図り、農林水産物や観光資源、地域の文化や住環境などを含む「志摩市そのもののブランド化」を確立することを最終的な目的としている(基本計画の概要は巻末の参考資料を参照)。志摩市は、基本計画を進めるための「志摩市里海創生推進協議会(以下、協議会と略す)」を平成24年5月に設立し、平成25年2月までの間に合計4回の協議会を開催してきた。協議会の委員構成は次頁に示す通りであり、学識経験者、観光関係者、漁業関係者、三重県、環境省自然保護官事務所、志摩市役所関連部局等の代表から構成されている。これまでの協議により、基本計画に基づき、関係者が連携した取り組みを進めていくことが協議会で確認された。志摩市は、今年度の里海創生基本計画の成果として、「里海のまち宣言」を事務局が作成した後、協議会で議論・合意する予定である。図2-1 三重県志摩市と周辺海域(志摩市里海創生基本計画より抜粋)- 9 -2表2-1 志摩市里海創生推進協議会委員名簿(出典:志摩市資料)協議会の開催実績と主な論点は以下の通りである。- 10 -3 第1回志摩市里海創生推進協議会:平成24年8月22日協議会の役割や、里海創生基本計画のポイントなどが事務局より説明され、協議会委員の紹介と、今後の取り組み計画が議論された。 第2回志摩市里海創生推進協議会:平成24年10月9日主として今後の基本計画に関する取り組みの進め方について議論が行われた。協議会委員が代表している各団体でどのような取り組みを進めているか、また、質問や今後の期待も含めて意見交換が行われた。 第3回志摩市里海創生推進協議会:平成24年12月3日協議会の役割について、再度協議会委員の間での共通認識を構築するとともに、協議会の今後の進め方について議論した。さらに、3 グループに分かれたワークショップが行われ、水産物、自然景観、農産物の各テーマについてどのように取り組みを進めて行くのが良いか活発な議論が行なわれた。今後の進め方について事務局である志摩市里海推進室より説明があり、「新しい里海創生のまちの宣言」の内容について協議会で検討を進めて行くことが合意された。 第4回志摩市里海創生推進協議会:平成25年2月4日新しい里海創生のまち宣言(仮称)の目的の共有や作り方、新しい里海創生に向けた事業計画個票の取りまとめ作業スケジュールの調整、および新しい里海の創生に向けた各種の取り組み状況と成果の共有方法が議論された。 第5回志摩市里海創生推進協議会:平成25年3月28日里海創生基本計画に基づく具体的な取り組み内容の検討、新しい里海創生のまち宣言の原案に対する意見交換等が行われた。2)当財団と地域との協力昨年度に引き続き、志摩市と海洋政策研究財団が共同で研究会(名称は昨年度に引き続き「志摩市総合沿岸域管理研究会」)を開催し、沿岸域総合管理の実現に向けた課題や志摩市里海創生推進協議会の進め方について議論した。また、当財団は今年度合計4 回開催された「志摩市里海創生推進協議会」にオブザーバーとして参加し、協議会の進め方等について助言してきた。研究会の開催実績と主な論点は以下の通りである。 第1回志摩市総合沿岸域管理研究会:平成24年6月6日(志摩市にて開催)- 11 -4志摩市関係者6名、岡山県、備前市および日生町漁業協同組合関係者13 名、当財団から2 名が出席し、沿岸域総合管理に関する志摩市と備前市のお互いの取り組みについて情報交換を行った。 第2回志摩市総合沿岸域管理研究会:平成24年8月3日(東京にて開催)志摩市農林水産部里海推進室より室長および担当者の計3 名、当財団から4 名が出席し、志摩市里海創生推進協議会の協議会構成員の選出状況、今年度の協議会計画等について議論した。 第3回志摩市総合沿岸域管理研究会:平成24年8月22日(志摩市にて開催)志摩市農林水産部里海推進室より室長および担当者の計3 名、協議会委員である高山進先生(三重大学)、松田治先生(広島大学)、当財団から4 名が出席し、第1回志摩市里海創生推進協議会の議論の進め方について議論した。 第4回志摩市総合沿岸域管理研究会:平成24年10月2日(志摩市にて開催)志摩市農林水産部里海推進室より室長および担当者の計3 名、協議会会長である高山進先生(三重大学)、協議会副会長である志摩市商工会会長坂下啓登氏、当財団から1名が出席し、市内における里海創生に関する取り組み状況のとりまとめ結果と、第2 回志摩市里海創生推進協議会の議論の進め方について議論した。 第5回志摩市総合沿岸域管理研究会:平成24年12月3日(志摩市にて開催)志摩市農林水産部里海推進室より室長および担当者の計3 名、協議会会長である高山進先生(三重大学)、協議会委員である松田治先生(広島大学)、海洋政策研究財団より3 名の出席により、第3回志摩市里海創生推進協議会の進め方について議論した。 第6回志摩市総合沿岸域管理研究会:平成25年2月4日(志摩市にて開催)志摩市農林水産部里海推進室より室長および担当者の計3 名、協議会会長である高山進先生(三重大学)、協議会委員である松田治先生(広島大学)、海洋政策研究財団より3 名の出席により、第4回志摩市里海創生推進協議会の進め方について議論した。 第7回志摩市総合沿岸域管理研究会:平成25年3月8日(東京にて開催)志摩市農林水産部里海推進室より室長および担当者の計2 名、海洋政策研究財団より5名の出席により、第5回志摩市里海創生推進協議会の進め方について議論した。②まとめこれまで、市役所や地域の関係者が沿岸域の問題について話し合う研究会や計画の- 12 -5策定・実施に関する協議会が設置され、市役所が中心になって沿岸域総合管理計画である里海創生基本計画を策定し、沿岸域総合管理の実施段階に至った。今後、協議会委員の間での協議を通じて基本計画の進め方に関する共通認識の構築と協議会委員が合意できる具体的な実行内容(取り組み)を明確にした上で、里海創生基本計画を基に、沿岸域総合管理の実施に取り組んでいく必要がある。- 13 -1(2)岡山県備前市(日生町)①サイトにおける取組状況1) 地域の状況と沿岸域総合管理への取組備前市日生地区は、岡山県の南東部に位置し瀬戸内海に面した本土部と日生諸島(計13 島)からなる漁師町である。日生の漁業者は、海洋環境問題への意識が高く約30年も前からアマモ場の再生や海底ゴミの回収などを行っている。最近では、日生町漁業協同組合・岡山県・備前市・NPO 法人里海づくり研究会議・生活協同組合おかやまコープ・日生町観光協会などが協働してアマモ場の再生活動や里海に関する講習会などのイベントを精力的に開催している。現在日生の沿岸域では、岡山県東備地区水産環境整備事業(海洋牧場)と備前市市道日生頭島線離島架橋事業(日生頭島線)という2 つの大きな事業が進められている。海洋牧場は、漁師を取り巻く社会や自然の変化に対応しつつ、持続可能な水産資源を確保していくための事業である。事業の対象海域(図2-2)では、アマモ場再生による幼稚仔保育場や魚礁を利用した成魚生息場の整備等を行うとともに、漁師だけでなく遊漁者や一般観光客の海域利用も考慮した調整が進められている。より多くの人々に海洋牧場の役割を周知していくために、観光客や消費者を対象にした広報活動も検討されている。海洋牧場の施設整備は2014 年3月に完了する予定である。日生頭島線事業は、本土から鹿久居島を経由して頭島まで橋を結ぶことで離島の社会環境を改善することを目的に進められている(図2-2)。日生頭島線が開通すると、航路だけでなく陸路での移動が可能になるため、海況が悪い時でも交通の常時性が確保できる。また、現在船で約40分かかっている移動時間を車で約10分に短縮できるため、火災や救急などの緊急時への対応も円滑になる。これまでに鹿久居島と頭島を結ぶ全長300m の「頭島大橋」が完成し、2007 年には鹿久居島内の道路の供用が始まっている。現在、本土と鹿久居島を結ぶ765m の「日生大橋(仮称)」の建設が進められており、2015 年3月には事業が完了する予定である。海洋牧場や日生頭島線の完成は、地域の人の流れを大きく変える可能性がある。日生を含む備前市は、少子高齢化が鮮明な地域である。備前市の人口は、近年自然増加も社会増加も見られておらず、65 歳以上の人口の割合は32%で全国の23.3%を大きく上回る。この少子高齢化の波は、日生の海を守ってきた漁師達にも押し寄せている。一方で、日生・日生諸島への観光客は増えつつあり、2008 年以降、毎年423,000 人を上回る観光客が訪れている1。特に、全国のB級グルメの王者を決める2012 年「第7回B-1グランプリin北九州」で日生産の牡蛎をふんだんに使ったお好み焼き「カキオコ」は5位に入賞し、日本経済新聞が独自に行なった「食べ歩きが楽しい漁港ランキング(2012 年10月28 日付)」では、日生の漁港が6位に取り上げられ、2013 年2月24日に備前市や日生町漁業協同組1 備前市(2012)「平成23 年度版 備前市の統計」p20.- 14 -2合などの協力のもと開催された「ひなせかき祭」では、約5万人の観光客を動員するなど、水産業に絡んだ観光業の注目が高い。これまで離島であった地域が本土と接続することで日生では、海洋牧場周辺にも観光客などの利用者が増加することが予想される一方、人の流れを管理すべく地元の人々は減少傾向にある。こうした変化の中で生じうる課題について話し合い、陸海域を一体的に捉えた新たな管理の仕組みづくりを進めるために、当財団は平成22年度から日生を沿岸域総合管理のモデルサイトに設定し、地域関係者の協力のもとで備前市沿岸域総合管理研究会をこれまでに計9回開催している。図2-2 日生沿岸域マップ(H25年2月時点)2) 当財団と地域との協力a)共同研究会の開催等当財団は、岡山県農林水産部水産課、備前市産業部農林水産課、日生町漁業協同組合と協力しつつ「備前市沿岸域総合管理研究会」を開催し、備前東商工会や日生町観光協会の代表者の参加のもと、当地域にふさわしい沿岸域総合管理について検討してきた。研究会では、関係者の間で特に関心の高い海洋牧場海域に関する利用と管理を中心に、架橋後の地域の姿を念頭にした沿岸域総合管理の話し合いを進めている。本年度行なってきた主な活動は、以下の通り。- 15 -3・ 第8回備前市沿岸域総合管理研究会:平成24年4月17日(備前市)本研究会は、日生の沿岸域管理のリーダー的存在であった日生町漁業組合の本田組合長が亡くなってから始めて開催された。研究会では、これまでの経緯、仕切り直し、スケジュール等が協議された。研究会には、岡山県農林水産部水産課、備前市産業部農林水産課、日生町漁業協同組合、ベネフィットホテル(株)古代体験の郷まほろば、日生町観光協会、海洋政策研究財団が参加した。またオブザーバーとして、エイト日本技術開発、東京大学公共政策大学院が参加した。研究会の後、当財団の寺島常務以下4名は、西岡備前市長と面談を行い、沿岸域総合管理の取り組みに向けた備前市の対応について意見交換を行った。・ 第1回志摩市沿岸域総合管理研究会:平成24年6月6日(志摩市)日生町漁業協同組合の関係者、岡山県、備前市の担当者らが、沿岸域総合管理において先進地である三重県志摩市を訪問し、志摩市沿岸域総合管理研究会に参加するとともに、お互いの取り組みについての情報交換を行った。当財団も両地域の調整に当たるとともに、オブザーバーとして研究会に参加した。・ 漁業関係者との協議:平成24年7月~平成25年1月(備前市)岡山県農林水産部水産課、備前市産業部農林水産課の取りまとめのもとで漁業関係者を中心とした小規模の話し合いが計4 回(遊漁船業者が参加した回も含む)行なわれ、オブザーバーとして海洋政策研究財団、東京大学公共政策大学院が参加した。この話し合いは、海洋牧場の管理に関する意思統一をまずは日生町漁業協同組合内で図る必要があるという認識から、具体的にどの海域の利用を制限するのかについて検討した。話し合いを通して、漁業者だけでなく遊漁船業者も水産資源を回復させるために禁漁区等を設けることについて賛成していること等を確認した。・ 備前市沿岸域総合管理コア研究会:平成24年11月7日(東京都)備前市沿岸域総合管理研究会の主要な関係者である岡山県農林水産部水産課、備前市産業部農林水産課、海洋政策研究財団が参加し、それぞれの立場から現状の確認と今後の研究会の進め方について協議した。4月の研究会から間があいたが、その間、漁業者との会議が進められていたことや備前市の来年度のスケジュールなどについての話し合いがおこなわれた。・ 現地調査:平成24年12 月17日~18 日(備前市)日生町観光協会とベネフィットホテル(株)古代体験の郷まほろばの関係者に、研究会の課題や方向性についての聞き取り調査を行った。更に、それぞれの関係者の意見をまとめた上で、岡山県水産課や備前市農林水産課と打ち合わせを行なった。聞き取り調査では、それぞれの立場や状況は異なるが、日生を良くしていきたいという思いは共通のもので、- 16 -4そのために研究会のような話し合いの場が重要だということが分かった。・ 第9回備前市沿岸域総合管理研究会及びコア研究会:平成25年2月26日(備前市)コア研究会では、研究会で話し合う内容についての事前確認が行なわれた。研究会では、研究会のこれまでの取り組みと今後の進め方について協議された。本研究会は、今年度最後かつ3 ヵ年事業最後の研究会であり、これからの道筋を整理する重要な場となった。これまでは異なる意見を集約していく作業を中心に行なってきたが、今後はロードマップを作成しそれをもとに具体的なテーマについて議論していくという方向性が定まった。研究会には、岡山県農林水産部水産課、備前市産業部農林水産課、日生町漁業協同組合、ベネフィットホテル(株)古代体験の郷まほろば、日生町観光協会、海洋政策研究財団が参加し、オブザーバーとして東京大学公共政策大学院が参加した。研究会の構成メンバー海洋政策研究財団岡山県農林水産部水産課備前市産業部農林水産課日生町漁業協同組合ベネフィットホテル(株)古代体験の郷まほろば備前東商工会日生町観光協会研究会の実績年度 年・月・日 内容(場所) 詳細2010・07・02 第1回(東京) 課題の共有2010・10・06 第2回(日生) 財団調査研究事業及び沿岸域総合管理の説明2010・12・17 第3回(日生) 今後の検討方法等についての協議H222011・01・18 第4回(日生) 漁協臨時総会開催、適正利用協議会再開、進捗状況報告H23 2011・05・19 第 5回(日生) 今後の進め方の協議2011・08・26 第6回(日生) 海洋牧場構想案の説明、GIS作成検討2011・09・28 第7回(日生) 海洋牧場構想体系図の検討、GIS作成検討2012・04・17 第8回(日生 各関係者の役割を整理、スケジュール調整H242013・02・26 第9回(日生) 今後の進め方の整理オブザーバー(株)エイト日本技術開発東京大学公共政策大学院- 17 -5b)海洋マップの作成当財団は、海洋牧場の管理の検討に資するため、海洋牧場海域における現在の海域利用の状況及び今後の多面的海域利用の構想を視覚的・一覧的に表現できる海洋空間計画マップを(株)エイト日本技術開発中国支社の協力と岡山県農林水産部水産課の助言を得て随時改良・作成している。本年度は、海洋牧場周辺海域の遊漁船業者の利用状況を視覚的に捉えるための情報を整理し、漁場情報や漁業者の話し合いをもとに海洋マップを改良した(図2-3、2-4)。また、海洋牧場の海洋マップに加えて日生の沿岸域を一体的にとらえるための沿岸域マップも作成した(図2-2)。今後も研究会等の話し合いの進捗に合わせて、マップの更なる充実化を進め協議の場で利用していく。図2-3 海洋牧場の海洋マップ(H25年3 月時点)- 18 -6図2-4 海洋牧場周辺海域の遊漁船業者の利用状況(H25年3月時点)c)iJFFプロジェクト海洋空間計画ワークショップ備前市沿岸域総合管理研究会に参加している東京大学大学院公共政策学連携研究部が主催したiJFF(Integrating Joint Fact-Finding into Policy-making Processes)海洋空間計画ワークショップが平成24年10 月11 日(木)~10月13 日(土)にブリティッシュコロンビア大学(バンクーバー、カナダ)で開催され、岡山県農林水産部水産課や海洋政策研究財団もワークショップに参加した。ワークショップでは、カナダやアメリカの海洋空間計画に関与している専門家との意見交換や情報交換が行なわれた。②まとめ備前市日生町の沿岸域総合管理研究会は、平成22 年度から漁業者をはじめとする地域関係者の関心にもとづいて、県や市の担当部局が調整を行なう形で開催されてきた。平成23 年度からは、観光関連団体も研究会に参加するなど研究会の基盤が着実に整ってきている。この協力体制は、研究会の始動に大きく貢献された日生町漁業協同組合の本田組合長の逝去等、関係者の変更がある中でも崩れることなく続いている。故本田組合長の意思を継ぐためにも、この協力体制を継続していく必要があることを新組合長や理事をはじめとする漁業関係者や観光関連団体の方々も感じている。今年度は、研究会とは別に漁業関係者や遊漁船業者を対象にした小規模の話し合いの場が数回設けられたことで、海洋牧場の具体的な管理に踏み込んだ議論も進んだ。中でも、- 19 -7漁業者のみならず遊漁船業者も水産資源を回復させるために禁漁区等を設けることについて賛成していることが分かったことは、大きな成果である。今後は、より実効性のある海域管理を目指し、海洋マップ等を利用して関係者間で合意された内容をなんらかの枠組みの中でフォーマライズしていく必要がある。また、観光客や市民などの一般の方々から海洋牧場の管理内容・対象・趣旨を理解してもらった上で賛同や協力を得ていくための広報活動を推進して行くことも重要である。研究会は、日生の将来について関係者間で協議できる重要な場を提供している。これまでの研究会では、日生の多様な意見を集め将来の沿岸域の全体像を整理していく作業が行なわれてきた。この作業を経て今後はロードマップを作成し、具体的なテーマについて一つずつ整理していくという方向性が定まった。持続的に沿岸域総合管理を進めていくためには、現実的な管理体制を導入していくための具体的なテーマと対策について、引き続き関係者と協議を重ねて認識を共有していくことが重要である。海洋牧場の海域利用のルールの策定や実施に加え、今後も研究会を通して架橋の完成に向けた海と陸を一体にとらえた地域作りに関する話し合いを継続していく必要がある。- 20 -(3) 福井県小浜市①サイトにおける取組状況1) 地域の状況と沿岸域総合管理への取組小浜市(図2-5)は、日本海岸に位置し、閉鎖性の湾である小浜湾を有する人口約3万人の都市で、近年人口は減少傾向にある。観光入込客数は最近10 年間で倍増しており、豊かな海産物や歴史・文化、高速道路網の整備のメリットを活かした観光振興による地域の活性化が望まれている。漁業関係者らにより運営される民間の宿泊型漁村体験交流施設は、レジャー客や修学旅行生などの受け入れ先としても広く活用が図られている。一方、小浜湾については、漁業関係者等は、環境の悪化が進み、漁業の不振につながってきているとの見方を持っており、このような背景から、水産高校、地元NGO 等により藻場の造成など自然再生への取組みが続けられている。小浜市では、食育の促進、水産業を核とした地域の活性化のため、地産地消の促進や、海洋環境の現状把握が課題と考えている。また、これまで、地域資源である海を活かした地域振興に向けて広く市民・関係者により協議できる場がなかったことから、沿岸域総合管理のサイトとしての取組に市が中心となり着手したことに対する関係者の期待は高いと言える。市民活動が盛んな地域でもあり、平成24 年11 月には、地元NGO(アマモマーメードプロジェクト)が中心となり、「全国アマモサミット」を誘致・開催し、市民や行政も巻き込みながら盛況を得たところである。小浜市福井県滋賀県若狭湾琵琶湖京都府小浜湾図2-5 小浜市の位置図- 21 -2主催;海洋政策研究財団(共同事務局;小浜市農林水産課)開催実績=平成23年度=第1回委員会 平成24年1月26日第2回委員会 平成24年3月16日=平成24年度=第1回委員会 平成24年6月28日第2回委員会 平成24年11 月19日第3回委員会 平成25年2月6日開催実績=平成23年度=研究会 平成23年11月8日研究会 平成23年11月8日第1回研究会 平成24年3月16 日※この回から小浜市沿岸域総合管理研究会として開催=平成24年度=第1回研究会 平成24年6月28 日第2回研究会 平成24年12月14日第3回研究会 平成25年2月6 日図2-6 小浜市における沿岸域総合管理の検討体制と活動実績(出典:小浜湾海の健康診断評価委員会資料、小浜市沿岸域総合管理研究会資料)- 22 -2) 当財団と地域との協力当財団は、平成22年12 月より小浜市を訪問し、市役所、県立小浜水産高等学校、福井県立大学(海洋生物資源学部)、漁業協同組合、市民団体等の関係者と、地域における自然再生や海洋教育の取組み等について意見交換を重ねてきた。小浜市においては、市民団体や漁業者を中心に海の環境についての地元関係者の関心が特に高いことを踏まえ、平成23年12 月からは、小浜市における沿岸域総合管理を考えるための具体的な取組みの一つとして、市や地元関係者も巻き込みながら当財団が考案した「海の健康診断」の手法を活用した海洋環境の実態把握に着手した。平成24 年3 月には、市と共同で第1 回「小浜市沿岸域総合管理研究会」を開催(図2-6)し、市や国県の関係部局のほか、広く地元の漁業・観光業・林業関係者、地元県立大学の有識者、水産高校教諭、市民団体代表らを交え、海の健康診断の中間成果なども用いながら、海を活かした地域づくりに向け議論を展開してきた。平成25 年2 月には、2 年後を目途にこの研究会を市が主体的に開催する「協議会」へ発展させることで意見がまとまった。また、沿岸域総合管理の取組におけるPDCA サイクルによる運営の必要性、地域目標となるキーワード(大きな目標)を掲げることの必要性などについて認識を共有することができた。このほか、これまで進められてきた、海の健康診断の結果が「小浜湾海の健康診断評価委員会」から報告され、今後研究会として取り上げるべき課題(図2-7)が明確化した。小浜湾の生態系エビ類ナマコ類底生生物の欠落浅場の減少藻場の減少栄養供給バランスが変化した栄養消費バランスが変化した場の質と量が変化した図2-7 小浜湾海の健康診断評価委員会による報告結果の概要(出典:平成24年度第3回小浜市沿岸域総合管理研究会資料)当財団は、研究会の議題設定や議論の方向性について事務局である市へ事前の議論を通じて助言を行ったほか、市長、副市長、地域政策の意思決定に関係のある地域の方々とも意見交換を行い、沿岸域総合管理の実施にかかる多面的な支援を行ってきた。研究会の開催実績と主な議論の内容は、以下のとおりである。- 23 -4 第1回研究会:平成24年6月28日(小浜市にて開催)今後の研究会を進める上で、事務局は、①検討スケジュール・検討内容と役割分担について、②議題を環境保全・再生に議論を絞り込み効果的に議論を進めることなどについて、参加者へ投げかけを行い意見交換を実施した。その結果、特に②については、「総合的視点」に立った議論が図られるべきという意見が地元関係者などから示された。その上で、研究会での議論がしっかりと市の施策に反映されるようするにはどうしたらよいかなどの役割分担の議論に発展した。また、地域は沿岸域総合管理の役割を行政だけに負わせることは望んでおらず、漁業者や研究者、市民団体などの役割を位置付けていきたいという前向きな意見が参加者から示され、次回以降の検討の方向性を得た。 第2回研究会:平成24年12月14日(小浜市にて開催)事務局は議題設定に向けた事前アンケートを行い、この結果を基に事務局から、①沿岸域総合管理の取組に向けた理想像、課題を設定する必要性について、②検討スケジュールとして平成25 年度末を目途に研究会としての提言をとりまとめることについて、参加者へ議題を投げかけ、意見交換を実施した。その結果、沿岸域総合管理の取組に向けた理想像や目標と市の既存計画との間にいかに整合性を図るのか、また、研究会における取組をどのようにPRするのかなどの意見が示された。 第3回研究会:平成25年2月6日(小浜市にて開催)事務局は議題設定に向けた事前アンケートを行い、研究会参加者のそれぞれの活動分野で考える個別課題を明らかにし、沿岸域の理想像・現状・問題点について意見交換を実施した。また、この意見交換に先立ち、「小浜湾海の健康診断評価委員会」から、健康診断結果(小浜湾を取り巻く社会と環境の変遷実態)の概要が報告された。その結果、健康診断結果も踏まえた意見を交わすことができ、湾を取り巻く社会と環境の変遷実態に関する情報が共有され、課題や目標を議論するための新たな糸口を得ることができた。また、今年度の研究会を締めくくるにあたり、この研究会を2年後を目途に市が主体的に開催する「協議会」へ発展させることで意見がまとまった。このほか、沿岸域総合管理の取組を展開する上では、PDCA サイクルによる運営の必要性や地域目標となるキーワード(大きな目標)を掲げる必要性などについて認識が共有され、市の広報紙(図2-8)などを活用したPRの準備があることも市から明らかにされた。- 24 -5図2-8 市の広報紙による研究会活動のPR(出典:平成25年3月広報おばま)②まとめこれまで、幅広い分野の関係者を交え研究会が開催され、議論が交わされたことは、今後、市における地域協議会の設置なども見据えた初期段階の活動組織として十分な役割を果たすに至っていると考えられる。すでに市役所内部における各部署との協力体制も確立しており、このことから、沿岸域総合管理の取組にかかる活動が、近隣の自治体の共感も得ながら、地域にしっかりと根付いた組織として自立させることが今後の重要な課題である。また、市における継続的な人材確保や、これにかかる国県による支援体制の拡充も取組の継続性を確保する上で重要な課題であると考えられる。- 25 -(4) 岩手県宮古市①サイトにおける取組状況1) 地域の状況と沿岸域総合管理への取組岩手県宮古市においては、安全なまちづくり、水産業の再建等を含め、陸域と海域とを一体にとらえた地域の復興・再生が求められている。東日本大震災以降の宮古市の動向を以下に示す。 平成23年6月1日、「宮古市震災復興基本方針」が策定された。 同6 月20 日に震災復興の総括・企画調整を専門的に行う組織として「復興推進室」が設立された。 同10 月31 日、宮古市東日本大震災復興計画【基本計画】が策定された。計画の策定にあたっては、外部検討組織の意見を参考にするとともに、市民の意見を反映させるため、市民懇談会やアンケート、パブリックコメントを実施された。 平成23 年12 月7 日に成立した「東日本大震災復興特別区域法」に基づく「東日本大震災復興交付金」を活用した復興事業の実施に向け、平成23 年3 月26 日復興庁に対して第1回目の復興交付金事業計画が提出された。 平成24 年3 月30 日に策定した宮古市東日本大震災復興計画【基本計画】に掲げた目標を達成するための具体的な実現手段を示した宮古市東日本大震災復興計画【推進計画】が策定された。 平成24年3月30日「宮古市東日本大震災復興計画(基本計画)」の下位計画として「宮古市東日本大震災地区復興まちづくり計画」が策定された。図2-9 岩手県宮古市宮古市- 26 -22) 当財団と地域との協力<平成22年度(震災前)>平成22年12月、宮古市において、市、岩手県沿岸広域振興局が海洋政策研究財団と共同で「平成22 年度沿岸域総合管理研究会」を開催し、県、市の職員、水産関係者等と地域の実態や課題について意見交換を行った。<平成23年度> 平成23年12月13日、宮古市の復興対策に関わる職員(復興推進室、水産課)に、これまでの該当事業に関する当財団と宮古市の取り組や海域の地方公共団体への編入の考え方等について説明し、次の展開として、地域の協力を得ながら宮古市において、被災後の海域環境や防災体制の状況等を総合的に把握する取り組みを行うことを検討していることを伝え、当該事業のサイトとしての取組みの可能性について検討した。 平成24年1月18日、当該事業のサイトとしての具体的な取組みとして「海の健康診断」の手法を活かした沿岸域環境の評価の実施について宮古市の関係課(復興推進室・水産課・港湾振興室)に提案し、同市と財団の協力による取組みの開始に関する協議を行い、取り組みを進めていくことに合意した。 平成24年3月23日、宮古市と共同調査研究会「平成23年度沿岸域総合管理研究会」を開催し、海域の市町村の区域への編入、海の健康診断等による沿岸域の総合的評価等について協議した。<平成24年度> 平成24年7月19日、海を活かした復興・まちづくりに役立てるため「海の健康診断」等による宮古市沿岸域の総合的評価委員会を開催し、復旧・復興計画への提案並びに環境モニタリング計画の作成に関する検討を開始した。 平成24年7月19日、海を活かした地域の復興のあり方について検討する平成24年度沿岸域総合管理研究会を開始した。 平成24年11月8日、平成24年度沿岸域総合管理研究会において復興に向けて沿岸域総合管理の手法の活用方策により解決すべき課題等について協議した。 平成24年11月8日、「海の健康診断」等による宮古市沿岸域の総合的評価委員会において、その評価結果をもとにした沿岸域総合管理の推進に関する検討を開始した。 平成25年3月4日、平成24年度沿岸域総合管理研究会において、「海の健康診断」等による宮古市沿岸域の総合的評価委員会でとりまとめた調査結果の報告を行った。また、これまで3年間の宮古市における沿岸域総合管理における当財団と宮古市の取り組みの状況をとりまとめ、今後の同市における沿岸域総合管理の推進に向けての協議を行った。- 27 -3宮古市沿岸域総合管理研究会 参加者名簿小笠原 徳(岩手県沿岸広域振興局 経営企画部海洋担当 主任主査)菊池 和也(岩手県沿岸広域振興局 経営企画部産業振興課 主事)伊藤 孝雄(宮古市産業振興部 水産課 課長)嶋崎 愛子(宮古市産業振興部 水産課 主任)佐々木 直(宮古市産業振興部 水産課 水産振興担当)松下 寛(宮古市産業振興部 環境課 課長)三上 巧(宮古市市民生活部 環境課 主査)関口 憲史(宮古市市民生活部 環境課 主任)中島 勝也 (宮古市産業振興部 産業支援センター 港湾振興室 主事)浜田 修氏 (岩手大学三陸復興推進機構 宮古エクステンションセンタープロジェクトマネージャー)寺島 紘士 (海洋政策研究財団 常務理事)市岡 卓 (海洋政策研究財団 政策研究グループ グループ長)*第1回開催のみ大塚 万紗子(海洋政策研究財団 特任研究員)田上 英明 (海洋政策研究財団 政策研究グループ 研究員)(オブザーバー)中田 英昭(長崎大学大学院 水産・環境科学総合研究科長)*委員長山下 洋(京都大学フィールド科学教育研究センター 教授)平野 拓郎(いであ株式会社 理事 技師長)風間 崇宏(いであ株式会社 名古屋支店 生態解析部 グループ長)高橋 敦 (いであ株式会社 国土環境研究所 環境技術部 技師)「海の健康診断」等による宮古市沿岸域の総合的評価委員会 参加者名簿(委員)中田 英昭(長崎大学大学院 水産・環境科学総合研究科長)*委員長山下 洋(京都大学フィールド科学教育研究センター 教授)小松 輝久(東京大学大気海洋研究所 准教授)田村 直司(岩手大学 三陸復興推進機構釜石サテライト産学官連携コーディネーター 三陸復興担当)大河内 裕之(水産総合研究センター 東北区水産研究所宮古庁舎資源増殖グループ長)- 28 -4後藤 友明(岩手県水産技術センター, 主任専門研究員)芳賀 徹 (宮古漁業協同組合 指導課指導係長兼増殖係長)畠山 昌彦(田老町漁業協同組合 総務指導課長)高坂 勇一(重茂漁業協同組合 種苗生産課長)(オブザーバー)小笠原 徳(岩手県沿岸広域振興局 経営企画部海洋担当 主任主査)菊池 和也(岩手県沿岸広域振興局 経営企画部産業振興課 主事)伊藤 孝雄(宮古市産業振興部 水産課 課長)佐々木 直(宮古市産業振興部 水産課 水産振興担当)嶋崎 愛子(宮古市産業振興部 水産課 主任)松下 寛(宮古市産業振興部 環境課 課長)三上 巧(宮古市市民生活部 環境課 主査)関口 憲史(宮古市市民生活部 環境課 主任)中島 勝也 (宮古市産業振興部 産業支援センター 港湾振興室 主事)浜田 修氏 (岩手大学三陸復興推進機構 宮古エクステンションセンタープロジェクトマネージャー)平野 拓郎氏(いであ株式会社 理事 技師長)風間 崇宏氏(いであ株式会社 名古屋支店 生態解析部 グループ長)高橋 敦氏 (いであ株式会社 国土環境研究所 環境技術部 技師)(事務局)寺島 紘士 (海洋政策研究財団 常務理事)市岡 卓 (海洋政策研究財団 政策研究グループ グループ長)*第1回開催のみ大塚 万紗子(海洋政策研究財団 特任研究員)田上 英明 (海洋政策研究財団 政策研究グループ 研究員)②まとめ宮古市では陸と海を一体的にとらえた沿岸域の復興に向けて話し合う沿岸域総合管理研究会が開催され、復興への沿岸域総合管理活用に向けた土台作りを進めている。震災後の復興事業として、ライフラインの整備や防災に関する課題等に向けた取り組みが精力的に進められているが、震災以前から岩手県の産業振興指針等に示されているように「環境」や「防災」だけでなく、「産業振興」についても推進されることが求められている。海を活かし、海域・陸域を一体化した取組みが地域作り、まちづくりにどう貢献できるかという地域活性化の視点は各モデルサイトで共通した課題であるが、宮古市では「復興」という文脈の中で、地域活性化をどのように実現していけるか考える必要がある。- 29 -5今後、沿岸域総合管理研究会及び「海の健康診断
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