報告書・出版物

- 2 -は じ め に本報告書は、ボートレースの交付金による日本財団の助成金を受けて実施した平成24年度大陸棚の延長に伴う課題の調査研究事業の成果を取りまとめたものです。平成6年に発効した国連海洋法条約では、海底及び海底下の天然資源に関する沿岸国の管轄権が及ぶ範囲を示す「大陸棚」について新たな規定を置きました。条約では、大陸縁辺部の外縁が200海里を超えて延びている場合には、「大陸棚」を延長することができると定められていますが、そのためには、条約の規定にもとづき、必要な科学的データを添えて大陸棚限界委員会へ申請する必要があります。委員会は申請を審査した後、勧告を発出しますが、この勧告にもとづいて沿岸国が設定した「大陸棚」の外側の限界は最終的で拘束力を有するとされています当財団では、大陸棚延長の重要性に鑑み、平成17年度から平成21年度までの5カ年にわたり、大陸棚延長に関係する国際機関等において多面的な情報収集を行い我が国の申請に資するとともに、大陸棚に関する国内外の専門家を招いて講演会等を開催し、大陸棚延長に関する理解を深めることを目的として大陸棚の限界拡張に係る支援事業を実施しました。平成22年度より、過去5カ年の支援事業で蓄積してきた各種の情報や知見を踏まえ、大陸棚延長申請をめぐる動きをはじめ、大陸棚延長を行う沿岸国はどのような海洋政策にもとづいて大陸棚延長を行い、延長した大陸棚をどのように活用しようとしているのかといった視点をも踏まえ、大陸棚の延長に伴う課題の調査研究事業を実施してきました。最終年度にあたる今年度は、大陸棚延長の最新動向に関する各種情報の収集・調査及び大陸棚に関する周知啓蒙を行うことを目的とし、海外調査による情報収集、セミナーの実施、大陸棚サイトの更新による情報発信を実施しました。平成25年1月には、今後の重要課題である大陸棚における資源開発に焦点をあてたセミナーを実施しました。平成24年4月に、大陸棚限界委員会が日本の申請に対する勧告を採択したことを受けて、日本の大陸棚における資源開発は今後、ますます重要となっていくものと思われます。また、世界各国の大陸棚延長をめぐる動きは、今後も活発さを増すことでしょう。本事業報告書および大陸棚サイト等の事業成果物が、そうした動きを正確に理解するための一助となれば幸いです。本事業を実施するにあたり、ご指導・ご協力いただいた日本財団をはじめ内閣官房総合海洋政策本部事務局、外務省国際法局海洋室、海上保安庁海洋情報部などの関係各位に厚くお礼申し上げます。平成25 年3 月海洋政策研究財団理事長 今 義男- 3 -目 次1. 事業の概要 ............................................................................................................... 11.1 事業の目的 ...................................................................................................... 11.2 事業の実施内容 ............................................................................................... 12. 国連海洋法条約にもとづく大陸棚延長について ........................................................ 22.1 国連海洋法条約における大陸棚の定義 ............................................................. 22.2 大陸棚延長の手続 ............................................................................................ 43. 各国の申請状況 ........................................................................................................ 53.1 勧告が行われた申請 ......................................................................................... 73.1.1 ロシアの申請 .......................................................................................... 73.1.2 ブラジルの申請 ..................................................................................... 103.1.3 オーストラリアの申請 ........................................................................... 123.1.4 アイルランドの申請 .............................................................................. 183.1.5 ニュージーランドの申請 ....................................................................... 203.1.6 フランス、アイルランド、スペイン、英国の共同申請 .......................... 223.1.7 ノルウェーの申請 ................................................................................. 243.1.8 フランスの申請(フランス領ギアナ及びニューカレドニア) ................ 273.1.9 メキシコの申請 ..................................................................................... 293.1.10 バルバドスの申請 ................................................................................. 313.1.11 英国の申請(アセンション島) ............................................................. 343.1.12 インドネシアの申請 .............................................................................. 363.1.13 モーリシャス、セーシェルの共同申請 ................................................... 373.1.14 スリナムの申請 ..................................................................................... 383.1.15 日本の申請 ............................................................................................ 393.1.16 フランスの申請(フランス領アンティル及びケルゲレン諸島) ................. 453.1.17 フィリピンの申請 ........................................................................................ 473.2 審査中の申請 ................................................................................................. 473.2.1 ウルグアイの申請 ........................................................................................ 473.2.2 クック諸島の申請 ........................................................................................ 48- 4 -3.2.3 アルゼンチンの申請 .................................................................................... 493.2.4 ガーナの申請 .............................................................................................. 493.2.5 アイスランドの申請 .................................................................................... 503.2.6 デンマークの申請 ........................................................................................ 513.3 審査待ちの申請 ............................................................................................. 523.3.1 ミャンマーの申請 ................................................................................. 523.3.2 イエメンの申請 .................................................................................... 553.3.3 英国の申請(ハットン・ロッコール) .................................................. 553.3.4 アイルランドの申請(ハットン・ロッコール) ...................................... 573.3.5 その他の申請(24 件目から65 件目まで) ........................................... 603.4 予備的情報を提出した国(申請期限の延長措置) .......................................... 664. セミナーおよび専門家会議「大陸棚延長に伴う課題―今後の大陸棚における資源開発に向けて―」の開催 ......... 705. 海外調査の概要 ........................................................................................................ 745.1 第29 回大陸棚限界委員会に関する情報収集 .................................................. 745.2 第30 回大陸棚限界委員会に関する情報収集 .................................................. 845.3 第7 回海洋法諮問委員会会議への参加と情報収集 .......................................... 986. 大陸棚サイト「大陸棚の延長とは?国連海洋法条約と大陸棚」の更新 .................... 1137. 成果と今後の課題 ................................................................................................... 1188. 謝辞 ........................................................................................................................ 1199. 事務局 .................................................................................................................... 119附録1. 大陸棚限界委員会(委員の構成) ......................................................................... 1232. 大陸棚延長のための手続 ...................................................................................... 1253. 国連海洋法条約 第6 部「大陸棚」 ....................................................................... 1274. 国連海洋法条約 附属書Ⅱ「大陸棚の限界に関する委員会」 ................................. 1355. 第三次国連海洋法会議最終議定書 附属書Ⅱ「大陸縁辺部の外縁の設定に用いられる特別の方法に関する了解声明」 .............. 1396. セミナー「大陸棚延長に伴う課題―今後の大陸棚における資源開発に向けて―」講演資料 ...................................... 141- 5 -1. 事業の概要1.1 事業の目的1982年に採択され、1994年に発効した「海洋法に関する国際連合条約」(以下、国連海洋法条約または単に条約という)では、沿岸国周辺の海底及びその下の部分のうち、当該国が天然資源の探査・開発に関して排他的な権利を有する部分を大陸棚と呼んでいる。この大陸棚は、当該沿岸国の排他的経済水域(領海の外にあって、領海基線から200海里までの海域)の外側であっても、陸地の自然延長の外縁まで設定することができる。設定に当たっては、沿岸国は自国周辺海域の海底の地形・地質等に関する科学的情報を、条約にもとづき設置されている「大陸棚の限界に関する委員会(Commission on the Limits of theContinental Shelf)」(以下、大陸棚限界委員会またはCLCSという)に提出し、大陸棚限界委員会の勧告にもとづいて行う必要がある。大陸棚について規定する条約第76条は、大西洋の単純な海底地形を前提として起草されたため、比較的簡明な記述ぶりとなっているが、現実の海底の地形や地質は極めて複雑で、陸地の自然延長であることを大陸棚限界委員会に認めてもらうための方法は簡単明瞭ではない。また、大陸棚限界委員会は「科学的・技術的ガイドライン」を1999年に策定し、委員会の審査に際しての指針を示したが、海底に関する科学的知見の増大や海洋探査技術の向上は続いており、同ガイドラインの想定を超えるほどである。このような状況に鑑み、当財団では2005 年度から2009 年度までの5カ年にわたり、「大陸棚の限界拡張に係る支援事業」を実施し、大陸棚延長に関する国際機関等において多面的な情報収集・調査を行ってきた。2010(平成22)年度より、過去5カ年の事業で蓄積してきた各種の情報や知見を踏まえ、大陸棚延長を行う沿岸国はどのような海洋政策にもとづいて大陸棚延長を行い、延長した大陸棚を開発利用しようとしているのかといった視点をも踏まえ、大陸棚に伴う諸問題の調査研究を実施している。今年度は、海外出張による調査研究、国連海洋法条約の実施機関としての大陸棚限界委員会の役割をテーマに据えたセミナーの実施、大陸棚サイトの更新による情報発信を実施した。セミナー実施や大陸棚サイトの更新によって、大陸棚延長に対する一般の関心と理解を高めると同時に、我が国の国益をはじめ、我が国国民の海洋に対する関心と理解を高め、かつ、海洋・海事関係者の業務に寄与し、海洋政策立案にも資することを目指した。1.2 事業の実施内容平成24 年度事業の実施内容は次のとおりである。(1) 動向調査大陸棚限界委員会など関係機関の最新の情報を収集するとともに、大陸棚延長に関する情報の分析を行った。① 第29 回及び第30 回大陸棚限界委員会に関する情報収集- 1 -- 6 -② 第7 回海洋法諮問委員会会議への参加及び情報収集(2) セミナー「大陸棚延長に伴う課題-今後の大陸棚における資源開発に向けて-」の開催大陸棚限界委員会が採択した勧告が増えるにつれ、大陸棚における資源開発が現実味を増してくるが、開発に向けては多くの課題があることを踏まえ、これらの課題について検討するセミナーを開催した。(3) 基礎資料作成上記(1)の動向調査の結果、及び文献、資料等の調査結果を整理し、大陸棚延長に係る政策立案のための基礎資料として取りまとめるとともに、データベースの構築作業を行った。(4) ホームページでの情報発信当財団ホームページに設置している「大陸棚サイト」を、最新情報を踏まえて更新した。(5) とりまとめ上記(1)の動向調査の結果や (2)のセミナーの開催結果等を取りまとめ、本事業報告書を作成した。なお、本事業報告書に記載の各機関サイトのURL は、特に断りのない限り、2013 年3 月1 日時点でアクセス可能なものである。2. 国連海洋法条約にもとづく大陸棚延長について本事業報告書においては、上記1.2 の実施内容につきとりまとめることを目的としているが、まず大陸棚延長に関し、国連海洋法条約の規定に沿って、簡単に述べることとする。なお、国連海洋法条約中の大陸棚関連規定(第76 条乃至第85 条)及び同条約附属書Ⅱに関しては、本事業報告書附録4 及び5 に掲載している。2.1 国連海洋法条約における大陸棚の定義(1) 国連海洋法条約では、次の2つの基準を採用して、大陸棚の定義を規定している(第76 条1 項)1。① 領海の外側の海底であって、陸地領土の自然の延長をたどって大陸縁辺部(continental margin)の外縁(outer edge)までの海底及びその下(自然延長基準または地形学・地質学基準)② 大陸縁辺部の外縁が200 海里を超えない場合には、領海の外側であって、領海基線から200 海里までの海底とその下(距離基準)(2) 上記(1) ①の場合には、大陸縁辺部の外縁の具体的な位置を決める必要があり、そのために、国連海洋法条約では次の2つの方法が採用されている(第76 条4 項)。① ある地点の堆積岩の厚さと大陸斜面の脚部からの距離との比が1%以上の点を用いて引いた線1 島田征夫・林司宣(編)『海洋法テキストブック』(2005 年、有信堂)、68 頁。- 2 -- 7 -② 大陸斜面の脚部から60 海里を超えない点を用いて引いた線交渉当時、上記①は、アイルランドの提案にもとづくため、アイリッシュ・フォーミュラと呼ばれており、上記②は、提案者である米国の地質学者の名前にちなんで、ヘッドバーグ・フォーミュラと呼ばれている。いずれの方法も大陸斜面の脚部(the footof the continental slope)が基準となるため、その位置の決定が重要となる。大陸斜面の脚部は、反証のない限り、その大陸斜面の基部での勾配が最も変化する点とされており(第76 条4 項(b))、地形学的に決定される2。(3) 上記(2)のいずれかの方法にもとづき引かれた外縁線には、次の2つのうちのいずれかの制限が課される(第76 条5 項)。沿岸国は、2つの中から自国の外縁線を引く上で有利な方を適用することができる。① 領海基線から350 海里を超えてはならない。② 2500 メートル等深線から100 海里を超えてはならない。上記の制限は、沿岸国の大陸棚が広大なものとなり、深海の海底が必要以上に沿岸国の管轄下に入ることを制限するために導入された3。以上の大陸棚の外縁の設定については、下図を参照のこと。海洋法条約による大陸棚の定義(「海上保安レポート2008」に掲載)http://www.kaiho.mlit.go.jp/info/books/report2008/tokushu/p035.html2 「反証のない限り」とは、地形学的に信頼できる斜面の脚部を決められない場合には、地質学的・地球物理学的証拠(地下構造に関するもの等)を示すことによって斜面の脚部を決めることを認めるという趣旨である。島田・林、前掲注1、69-70 頁。いかなる地質学的・地球物理学的証拠が必要かについては、大陸棚限界委員会が1999 年に採択した「科学的・技術的ガイドライン」(CLCS/11)において示されている。3 島田・林、前掲注1、70-71 頁。- 3 -- 8 -2.2 大陸棚延長の手続(1) 領海基線から200 海里を超えて延びる大陸棚の外側の限界を画定するために、沿岸国は自国周辺の大陸棚の限界の詳細とその根拠となるデータ等を自国について条約が効力を生じてから10 年以内に4、国連海洋法条約附属書Ⅱにもとづき設置された大陸棚限界委員会に提出して勧告を受ける(国連海洋法条約第76条8項、同条約附属書Ⅱ第4条)。(2) 大陸棚限界委員会は、個人の資格で職務を遂行する21 名の地質学、地球物理学及び水路学の専門家で構成され、同委員会委員は国連海洋法条約締約国会合での選挙で、締約国が衡平な地理的代表を確保する必要性に妥当な考慮を払って、選出される(同条約附属書Ⅱ第2 条)。同委員会の委員の任期は5年であり再選可能とされている。なお、同委員会は1997 年に設立され、日本からは3期連続で選出されている5。(大陸棚限界委員会委員の構成については、本事業報告書附録1 を参照。)(3) 大陸棚限界委員会の任務は、次の2つとされている(国連海洋法条約附属書Ⅱ第3 条)。① 200 海里を超える大陸棚の限界について沿岸国が提出するデータその他の資料を検討し、国連海洋法条約第76 条及び第三次国連海洋法会議が1980 年8 月29 日に採択した了解声明6に従って勧告を行うこと。② 沿岸国の求めにより、申請のためのデータ作成に関して科学上・技術上の援助を行うこと。(4) 沿岸国は、大陸棚限界委員会の行った勧告にもとづいて自国の200 海里を超える大陸棚の外側の限界を設定する。沿岸国がこのようにして設定した大陸棚の限界は、最終的であり、かつ、拘束力を有する(第76 条8 項)。4 2001 年5 月14 日~18 日に開催された第11 回国連海洋法条約締約国会合において、1999 年5 月13日以前に条約が効力を生じた国については、大陸棚限界委員会への提出期限の10 年間の始期を1999年5 月13 日とすることが決定された(決定内容は、締約国会合文書(SPLOS/72)に掲載されている)。これにより、日本を含め、多くの沿岸国の委員会への申請期限が2009 年5 月12 日まで延長された。また、2008 年6 月の第18 回締約国会合で、申請提出期限の問題が審議され、多くの議論の後、(1)2009 年5 月12 日までに200 海里を超える大陸棚の外側の限界に関する予備的情報(preliminaryinformation)を国連事務総長に提出すれば締切を満たしたものとする、(2)この予備的情報について大陸棚限界委員会は審査をせず、その後提出される申請内容に影響を及ぼすものではない、との決定が行われた(決定内容は、締約国会合文書(SPLOS/183)に記載されている)。つまり、申請を行いたい国は、大陸棚の延長に関する大まかな情報を、完全な内容ではなくても、ひとまず2009 年5 月12 日までに提出すれば、締切に間に合ったことにするというわけである。第18 回締約国会合での議論内容については、平成20 年度事業報告書4.2.3(2) (b)を参照。5 1 期目は葉室和親氏、2 期目及び3 期目は玉木賢策氏がそれぞれ選出された。玉木氏は第3 期の任期途中、米国ニューヨークで2011 年4 月5 日(現地時間)に逝去された。玉木委員の逝去に伴い、空席が生じたので、その空席を補充するための選挙が2011 年8 月11 日に国連本部で行われ、日本から立候補した浦辺徹郎東京大学大学院理学系研究科教授が当選を果たし、委員を務めている。(大陸棚限界委員会委員長ステートメント(CLCS/72)、パラ6 参照。)6 第三次国連海洋法会議の交渉において、スリランカより提出され、同国のように大陸縁辺部の広範囲にわたって厚い堆積岩があるようなところに対し特別な扱いを求める修正提案にもとづき、同会議が採択したもの。同了解声明は、ベンガル湾南部の諸国(スリランカとインド)の大陸縁辺部の外縁の設定に関する勧告においては同了解声明の規定に従うことを大陸棚限界委員会に要請している。S.Nandan and S. Rosenne (eds.), United Nations Convention on the Law of the Sea 1982: ACommentary, Vol. II (Martinus Nijoff, 1993), pp. 1019-1025. 了解声明の内容については、本事業報告書附録6 を参照。- 4 -- 9 -(5) なお、第76 条10 項において、第76 条の規定は向かい合っているかまたは隣接している海岸を有する国の間における大陸棚の境界画定の問題に影響を及ぼすものではないことが明記されている。3. 各国の申請状況(2013 年3 月1 日現在)2001 年12 月にロシアが申請を提出したのを皮切りに、これまでに、65 件の申請が大陸棚限界委員会(CLCS)に対して提出されている。このうち、2012 年8 月~9 月に開催された第30 回会合までに、CLCS は下記の17 件(下記の表の(*2)を参照)に対し、勧告を発出した。(3.1「勧告が行われた申請」を参照。)勧告が行われた申請勧告が行われた申請 申請提出日 勧告採択日(*1)1 ロシアの申請 2001年12 月20 日 第11 回会合 2002 年6 月27 日2 ブラジルの申請 2004年5 月17 日 第19 回会合 2007 年4 月4 日3 オーストラリアの申請 2004 年11 月15 日 第21 回会合 2008 年4 月9 日4 アイルランドの申請 2005 年5 月25 日 第19 回会合 2007 年4 月5 日5 ニュージーランドの申請 2006 年4 月19 日 第22 回会合 2008 年8 月22 日6フランス、アイルランド、スペイン、英国の共同申請2006 年5 月19 日 第23 回会合 2009 年3 月24 日7 ノルウェーの申請 2006 年11 月27 日 第23 回会合 2009 年3 月27 日8 メキシコの申請 2007年12 月13 日 第23 回会合 2009 年3 月31 日9 フランスの申請 2007年5 月22 日 第24 回会合 2009 年9 月2 日10 バルバドスの申請(*2) 2008 年5 月8 日 第25 回会合、2010 年4 月15 日11 イギリスの申請 2008年5 月9 日 第25 回会合、2010 年4 月15 日12 インドネシアの申請 2008 年6 月16 日 第27 回会合、2011 年3 月28 日13 モーリシャス、セーシェル共同申請 2008 年12 月1 日 第27 回会合、2011 年3 月30 日14 スリナムの申請 2008年12 月5 日 第27 回会合、2011 年3 月30 日15 日本の申請 2008年11 月12 日 第29 回会合、2012 年4 月19 日16フランスの申請(仏領アンティル・ケルゲレン諸島)2009 年2 月5 日 第29 回会合、2012 年4 月19 日17 フィリピンの申請 2009 年4 月8 日 第29 回会合、2012 年4 月12 日(*1)CLCS サイトよりhttp://www.un.org/Depts/los/clcs_new/commission_submissions.htm(*2)バルバドスは、2010 年4 月に勧告を受領した後、2011 年7 月25 日に、改定した申請を提出した。当該申請がCLCS により審査された後、2012 年4 月13 日に勧告が発出された。この勧告を含めると、CLCS が発出した勧告を18 件とカウントすることができる。改定した申請の詳細については、本業報告書3.1.10 バルバドスの申請を参照。- 5 -- 10 -CLCS 手続規則では、申請の審査は同時に3 つの小委員会でしか行えないと規定されているが7、CLCS は申請数の増加を受けて、迅速かつ効率的な審査を行うために、この規定の例外として、4つめの小委員会を設置する決定が第23 回CLCS 会合(2009 年3 月~4月に開催)において行われた。それ以降、審査の迅速化の観点から、4つの小委員会が同時に審査を行う慣行が続いていた。さらに、第30 回CLCS 会合(2012 年8 月~9 月開催)において、審査のさらなる迅速化のために、それまで年2 回だった会期を、年3 回に増やし、合計で21 週間審査を行うと同時に、6 つの小委員会が同時に審査にあたることを決定した8。現在、審査が行われている申請は、下記の表にある6 件である。(3.2「審査中の申請」を参照)各国の申請を審査する小委員会の委員の構成、申請状況一覧については、本事業報告書附録1 及び2 を参照。2013 年3 月5 日現在、CLCS が扱っている申請は次のとおり。小委員会で審査中の申請 申請提出日 小委員会が設置された会合ウルグアイの申請 2009年4 月7 日 第27 回会合(2011 年3 月~4 月)クック諸島の申請 2009年4 月16 日 第28 回会合(2011 年8 月~9 月)アルゼンチンの申請 2009年4 月21 日 第30 回会合(2012 年8 月~9 月)ガーナの申請 2009年4 月28 日 第30 回会合(2012 年8 月~9 月)アイスランドの申請 2009年4 月29 日 第30 回会合(2012 年8 月~9 月)デンマークの申請 2009年4 月29 日 第30 回会合(2012 年8 月~9 月)65 件の申請のうち、審査が終了した申請(上記の17 件)と、審査中の申請(上記の6件の申請)を除いた残りの42 件の申請は、審査を受けるため順番を待っている状況である。(3.3「審査待ちの申請」を参照)。なお、申請は、国が提出した順に、審査の順番待ちの行列に並ぶ。小委員会での審査が終了すると、新たに小委員会が設置され、次の申請の審査が始まる。これらの手続については、CLCS 手続規則の規則51 に規定されている。以下では、各国の申請の概要(エグゼクティブ・サマリーと呼ばれており、CLCS のサイトで公開されている)に記載されている内容を23 件目の申請まで述べるとともに、現在の審査状況等について説明する。24 件目のフィジーの申請から65 件目の韓国についてはエグゼクティブ・サマリーに記載されている内容を基に、各申請の概要を見るにとどめる。7 CLCS 手続規則(CLCS/40/Rev.1)、規則51、4bis.8 第30 回CLCS 会合に関する委員長ステートメント(CLCS/76)、パラ10~17。- 6 -- 11 -3.1 勧告が行われた申請3.1.1 ロシアの申請2001 年12 月20 日、ロシアは、国連事務総長を通じ、CLCS に対して申請を提出した9。ロシアの申請が提出されたことが国連事務総長により、全国連加盟国に通知された後、カナダ、デンマーク、日本、ノルウェー及び米国がそれぞれ自国の見解を表明する口上書を国連事務総長に提出した10。2002 年3 月25 日~4 月12 日に開催された第10 回CLCS 会合の会期中に、ロシアの代表がプレゼンテーションを行い、CLCS はロシアの申請を審査する小委員会を設置し、審査を開始した11。その後、小委員会は同年6 月10 日~14 日に再度集まり、6 月14 日に勧告案をCLCS に提出し、CLCS は第11 回会合において当該勧告案にいくつかの修正を加えた上で採択した12。ロシアに対する勧告の概要については、第57 回国連総会会期中に提出された「海洋と海洋法」に関する事務総長報告書補遺(A/57/57/Add.1)に収録されており、以下のとおりである。① バレンツ海及びベーリング海におけるロシアの申請のうち、バレンツ海についてはノルウェーとの、ベーリング海については米国との海洋境界画定条約がそれぞれ発効した場合に、当該境界線を示す海図及び座標データをCLCS に対し提出するよう勧告した13。② オホーツク海については、その北部海域について、より精密な根拠にもとづく部分申請(well-documented partial submission)を行うよう勧告した。また、CLCSは、当該部分申請は、南部海域における国家間の境界画定に関する問題に影響を及ぼさないと述べており、さらに、当該部分申請を行うためにロシアは(境界画定に関し)日本との合意に至るため最善の努力を尽くすよう勧告した。③ 中央北極海についは、CLCS の勧告に含まれる所見にもとづいて申請書の改定を行うように勧告した。9 国連海洋法条約附属書Ⅱ第5 条に大陸棚限界委員会の事務局は国連事務総長が提供することが規定されている。沿岸国より申請が提出された場合、国連事務総長がその受領を確認し、全国連加盟国への通知を行う(CLCS 手続規則第49 条及び第50 条。同規則最新版はCLCS/40 に収録されている)。10 これら5 カ国からの意見表明の内容は国連事務総長により全国連加盟国に通知されており、また、いずれも国連サイト内の大陸棚限界委員会の下記のページにおいて閲覧可能。http://www.un.org/Depts/los/clcs_new/submissions_files/submission_rus.htm11 第10 回CLCS 会合に関する委員長ステートメント(CLCS/32)、パラ7~20。12 第11 回CLCS 会合に関する委員長ステートメント(CLCS/34)、パラ18~33。13 ロシアとノルウェーとのバレンツ海における大陸棚境界画定は交渉中であることがノルウェーよりの口上書において述べられている。(両国間の海洋境界画定合意については、本項目(3.1.1 ロシアの申請)の本文の記述を参照。)また、ロシアと米国とのベーリング海における海洋境界画定条約は1990 年6 月1 日に当時のソ連と米国との間で署名されているが、ロシア議会が承認していないことが、米国よりの口上書において述べられている。前掲注10 参照。- 7 -- 12 -以上のとおり、ロシアの申請は、4つの海域に関するものであったが、いずれの海域における大陸棚延長申請についてもCLCS は、近隣諸国との境界画定のための交渉を行う必要性や、より精緻な根拠にもとづく申請を行う必要性を指摘している14。なお、2007 年8 月2 日にロシアの有人潜水調査船2艇が、北極点周辺の海底を探査し、海底にロシア国旗を立てたとの報道があった15。この海底探査は、ロシアのCLCS への再申請の提出に向け、ロモノソフ海嶺がロシアの領土と地質的に連続していることについての科学的データの収集のために行なわれたものと言われており、ロシアがいつ再申請を行うかが注目される16。一方、地球温暖化によって北極の氷が溶けるにつれ、北極周辺国による地下資源の開発権の主張が活発化している。こうした状況を受け、2008 年5 月に、グリーンランドで北極周辺の5 カ国(カナダ、デンマーク、ノルウェー、ロシア及び米国)による外相級会合が開催され、北極周辺における大陸棚延長については既存の法的枠組みである国連海洋法条約にもとづいて行うことを確認する旨のイルリサット宣言(IlulissatDeclaration)が採択された17。また、2010 年4 月27 日、ロシアのメドベージェフ大統領とノルウェーのストルテンベルグ首相がオスロで会談し、北極海及びバレンツ海において両国の主張が重複していた海域の海洋境界画定について基本合意したと発表した。これに基づき、同日付で、ロシアのラブロフ外相とノルウェーのストーレ外相が共同声明18を発表した。共同声明では、両国間の係争海域についてほぼ等分されるよう境界線を引くこと、国連海洋法条約にもとづく大陸棚の外側の限界の設定について両国間で協力すること等が推奨されており、これにもとづいて、具体的に境界線を定める条約が結ばれることになった。そして同年9 月15 日、ロシアのラブロフ外相とノルウェーのストーレ外相が、バレンツ海及び北極海における海洋境界画定及び協力に関する条約に署名した。この条約により、バレンツ海及び北極海における大陸棚及び排他的経済水域について境界が画定された。この条約は、両国の議会が14 ロシアの申請と勧告内容について、井内由美子・臼井麻乃「北極海沿岸国による大陸棚延長申請の動向」『北極海季報』第4 号(2010 年)、19-23 頁を参照。また、北極における大陸棚の限界設定及び境界画定について、深町朋子「北極における領有・境界問題の展開―陸地と大陸棚を中心に―」『国際法外交雑誌』第110 巻3 号(2011 年)、37-47 頁。15 英国BBC ニュース・オンライン版(2007 年8 月2 日付)http://news.bbc.co.uk/2/hi/europe/6927395.stm朝日新聞2007 年8 月22 日朝刊(14 版)、2 面の記事。「時々刻々・北極 争奪戦 ロシア 海底に国旗資源確保へロシア先手」Daniel Cressey, Russia at forefront of Arctic land-grab, Nature 448, 520-521 (2 August 2007).16 Daniel Cressey, Geology: The next land rush, Nature 451, 12-15 (3 January 2008).17 イルリサット宣言の全文は下記のデンマーク外務省ホームページに掲載されている。http://www.ambottawa.um.dk/en/servicemenu/news/theilulissatdeclarationarcticoceanconference.htm18 http://www.regjeringen.no/en/dep/ud/Whats-new/news/2010/statement_delimitation.html?id=601983- 8 -- 13 -承認すれば、発効する。条約文は、ノルウェー外務省サイト19に掲載されている。両国が合意した海洋境界については、下記の図を参照。また、2013 年2 月28 日、ロシアは、オホーツク海に関する再申請を提出した。この再申請に関するエグゼクティブ・サマリーにおいて、ロシアは、2002 年の勧告においてCLCSにより指摘されたことに妥当な考慮を払った上で、再度、オホーツク海に関する部分申請を提出する旨述べている。ロシアの再申請に関するCLCS サイトのページには、この再申請が2013 年7 月15 日から8 月30 日に開催予定の第32 回CLCS 会合の仮議題に含められる予定である旨記載されている20。ロシアとノルウェーが合意したバレンツ海における海洋境界2119 http://www.regjeringen.no/en/dep/smk/press-center/Press-releases/2010/treaty.html?id=61425420 CLCS サイトには、2001 年の申請とは別のページに、再申請のページが下記のとおり設けられており、エグゼクティブ・サマリーも掲載されている。http://www.un.org/Depts/los/clcs_new/submissions_files/submission_rus_rev.htm21 ノルウェー外務省サイトに掲載。前掲注(19)参照。- 9 -- 14 -3.1.2 ブラジルの申請2004 年5 月17 日、ブラジルは、国連事務総長を通じ、CLCS に対して申請を提出した。ブラジルの申請が提出されたことが国連事務総長により、全国連加盟国に通知された後、米国が自国の見解を表明する口上書を国連事務総長に提出した22。同年8 月30 日~9 月3日に開催された第14 回CLCS 会合においてブラジルはプレゼンテーションを行い、CLCSはブラジルの申請を審査する小委員会を設置し、審査を開始した23。小委員会は、その後、2005 年4 月4 日からの第15 回CLCS 会合の期間中及び同年8 月22 日から26 日にも開催された24。2005 年3 月にブラジルが自国の申請への追加データを提出したところ、CLCS は、一般的問題として、沿岸国がCLCS に申請を提出した後、小委員会が検討を行っている最中に追加的なデータを提出することは国連海洋法条約及びCLCS手続規則に照らして認められるのかという点について、国連法律顧問に対し法的見解を求めた。国連法律顧問は概要以下の法的意見を発出した25。① 国連海洋法条約及びCLCS 手続規則上、申請国が、修正や追加のデータを後から提出することを禁止する規定は存在しない。よって、申請国が、誠実に(in goodfaith)、既提出の資料を再度チェックした際に瑕疵や計算間違いが判明したということであれば、後からデータを提出できる。② 申請国が最初に提出したデータ及び後から提出したデータが、第76 条の要件を満たしているかを審査するのは、国連海洋法条約に規定されているCLCS のマンデートに鑑み、CLCS である。他方、申請国は、後からデータを提出することにより、CLCS による審査にかかる時間が不合理なまでに遅滞することのないよう、誠実に、かつ注意深く行動するよう求められる。③ 申請国が後から提出したデータが、もともと提出していたデータから大幅に乖離している場合、新たに提出された大陸棚限界についても、もともと提出されていたものと同様、公開性が与えられるべきであるが、もともとのデータと、新たな22 米国は、ブラジルの申請のエグゼクティブ・サマリーに含まれている堆積物の厚さのデータの一部に関し、他の公的データとの齟齬があること、及びブラジルがビトリア・トリンダージ海嶺としている部分に関し、他の公的データでは海嶺ではなく海山列として扱われていることを述べた。ブラジルのエグゼクティブ・サマリー及び米国発の書簡については、以下のサイトより閲覧可能。http://www.un.org/Depts/los/clcs_new/submissions_files/submission_bra.htmCLCS は、CLCS が申請国以外から表明された見解を考慮しうるのは、近隣諸国との紛争またはその他の未解決の領土もしくは海洋に関わる紛争の時のみであるとして、米国の見解を考慮しないことを決定した。(CLCS/42, para.17)23 第14 回CLCS 委員長ステートメント(CLCS/42)、パラ11~25。24 第15 回CLCS 委員長ステートメント(CLCS/44)、パラ12 及び第16 回CLCS 委員長ステートメント(CLCS/48)、パラ14。25 この法的意見は、国連法律顧問発大陸棚限界委員会委員長宛2005 年8 月25 日付書簡として発行されている(CLCS/46)。- 10 -- 15 -データがどれくらい違っているのかについて、適切に検討できるのはCLCS だけである。もし、CLCS が、大幅な差違が存在すると考えれば、申請国に対し、エグゼクティブ・サマリーへの追加を事務総長に提出するよう要請することを検討することができる。これまでの国家実行によると、エグゼクティブ・サマリーが事務総長によって公開されると他国は自らの意見を口上書の形で述べており、CLCS は、このような新たな国家実行を考慮し、追加的なエグゼクティブ・サマリーが公開された後で他国が意見を表明するための時間的枠組みについても検討することができる。以上の法的意見が示されたことを受け、CLCS は第16 回会合において、当該法的意見に留意し、かつ当該法的意見に従って行動することを決定するとともに、追加提出されたデータがもともとの申請から大幅に乖離している場合には、当該追加データはエグゼクティブ・サマリーへの追加または訂正として公開されるべきであるという点で合意し、その旨をブラジルに伝えた26。その後、ブラジルは2006 年3 月1 日にエグゼクティブ・サマリーへの追加を、国連事務総長を通じてCLCS に提出し、同追加は国連サイト内のCLCSのページ上で公開された27。2006 年3 月20 日より4 月21 日まで開催された第17 回CLCS 会合において、同年3月20 日より小委員会が開催され、21 日よりブラジル代表団との協議が行われた。本小委員会のカレラ委員長はブラジル代表団に対し、小委員会で提起された質問について同年7月31 日までに回答を提出することを要求した。ブラジルからは、同期日までに新しい地震探査及び測深データを提出するとの報告があった28。ブラジルは同年7 月26 日に小委員会の質問に対する回答と新たなデータを提出し、8月21 日から9 月15 日に開催された第18 回CLCS 会合において、小委員会は3 日間に渡ってブラジル代表団との会合をもち、その中でブラジル代表団はさまざまなプレゼンテーションと新たなデータに関する説明を行った。同会合期間中に小委員会は勧告の草案に着手し、その後の会期間会合での小委員会における審査と第19 回CLCS 会合期間中の2007年3 月19 日から23 日までの小委員会における審査が行なわれた後、同月27 日、小委員会は全体委員会に対し勧告案を提出した。29CLCS 全体委員会は、同年3 月27 日、ブラジル代表団との会合を持ち、ブラジル代表団からの説明を聞いた。ブラジル代表団ははじめにサルデンベルグ大使(ブラジル国連常駐代表)が、ブラジルの提出したデータ及び解釈の一貫性と正当性を強調する説明を行い、26 第16 回CLCS 会合委員長ステートメント(CLCS/48)、パラ19。27 http://www.un.org/Depts/los/clcs_new/submissions_files/submission_bra.htm#New:28 第17 回CLCS 委員長ステートメント(CLCS/50)、パラ14 及び15。29 第19 回CLCS 委員長ステートメント(CLCS/54)、パラ11~パラ14。- 11 -- 16 -次に各担当者が4つの海域(アマゾン海底扇状地、東部赤道地域、ビトリア・トリンダージ海嶺、サンパウロ海台及び南部地域)について技術的説明を行った30。ブラジル側の説明を聞いた後、CLCS 全体委員会はブラジルの申請に対する勧告案について審議を行い、賛成15、反対2(棄権なし)で勧告案を採択した31。2011 年2 月15 日付でブラジル政府発CLCS 宛の書簡が発出され、ブラジルは今後、改訂された申請を行う予定であるので、 2007 年4 月4 日付の勧告の要約が公表されないことを希望する旨伝えた。これに対し、CLCS は、第27 回会合(2011 年3 月~4 月開催)において、手続規則にもとづいて行動することを決定すると同時に、ブラジルに対する勧告の要約の扱いについては次回会合に先送りすることとした32。第28 回会合(2011 年8 月~9 月開催)において、ブラジルの申請を審査した小委員会のカレラ委員長が、勧告要約の改訂版について説明を行い、これにもとづき審議した結果、CLCS は、勧告の要約を採択した。この要約は、手続規則にもとづき、ブラジルと国連事務総長に送付され、国連事務総長によって公表されることになる33が、ブラジルに対する勧告の内容は、2012 年3 月31 日現在、公表されていない3435。3.1.3 オーストラリアの申請2004 年11 月15 日、オーストラリアは、国連事務総長を通じ、CLCS に対して申請を提出した。オーストラリアの申請が提出されたことが国連事務総長により、全国連加盟国に通知された後、米国、ロシア、日本、東ティモール、フランス、オランダ、ドイツ及び30 第19 回CLCS 委員長ステートメント(CLCS/54)、パラ15~パラ21。ブラジル代表団との会合は、「全体委員会において、小委員会が勧告案についての説明を行った後で、かつ、全体委員会が当該勧告案を審査し採択する前に、申請を行った沿岸国は自国の申請に関するいかなる事項についてもプレゼンテーションを行うことができる」とのCLCS 手続規則の改正が行なわれたことにもとづいて実施された。この改正手続規則については、第18 回CLCS 委員長ステートメント(CLCS/52)、パラ41を参照。31 第19 回CLCS 会合におけるブラジルの申請の審査については、平成19 年度事業報告書4.1 を参照。32 第27 回CLCS 委員長ステートメント(CLCS/70)、パラ59。33 第28 回CLCS 委員長ステートメント(CLCS/72)、パラ55。34 他方、2010 年9 月3 日に海洋資源に関するブラジル省庁間委員会により発行された官報に掲載されている同年8月26 日付の決議第3 号において、ブラジル海軍大臣の下部にある連邦機関が、ブラジルがCLCS に申請した海底エリア(約148,000 平方マイル)を特別の保護下に置いた旨、米国議会図書館のオンライン刊行物「グローバル・モニター」によって2010 年9 月10 日付で報じられている。同決議によれば、当該海底エリアにおいて、ブラジル政府は、いかなる外国政府または企業も、倉汁政府の許可なしに開発を行ってはならない旨定めているという。”Brazil: Maritime BorderExpanded,” written by Eduard Soares, Global Legal Monitor,http://www.loc.gov/lawweb/servlet/lloc_news?disp3_l205402228_text35 ブラジル政府のこの措置を、国連海洋法条約の規定を無視しており観念上も実際上も影響力があるとの立場から論評するものとして次を参照。Lipschutz, Kari, Brazil’s Maritime Claim: A Threat to UNCLOS? (2011). Yale Journal ofInternational Affairs, Vol. 6, No. 1, 2011; SOAS School of Law Research Paper No. 08/2011.Available at SSRN: http://ssrn.com/abstract=1895744- 12 -- 17 -インドがそれぞれ自国の見解を表明する口上書を国連事務総長に提出した36。2005 年4月の第15 回CLCS会合においてオーストラリア代表が申請内容についてのプレゼンテーションを行い、CLCS はオーストラリアの申請を審査する小委員会を設置し、審査を開始した37。その後、小委員会は同年6 月27 日~7 月1日に会期間会合を開催、また同年8 月29 日~9 月16 日の第16 回CLCS 会合期間中にも小委員会を開催した。第17 回CLCS 会合前の会期間中に、小委員会での審査を促進するための補完データがオーストラリアより提出された。2006 年3 月20 日から4 月21 日まで開催された第17 回CLCS 会合期間中にオーストラリア代表団と4 会合がもたれ、小委員会からオーストラリア代表団に対し8 海域についての予備的見解(preliminary views)に関するプレゼンテーションが行われた38。第18回CLCS 会合前の会期間中に、小委員会は9 海域目のケルゲレン海台(Kerguelen Plateau)の審査を進めると同時に、第17 回会合で行われた小委員会によるプレゼンテーションに対するオーストラリアからの回答を受け取った。2006 年8 月21 日~9 月15 日に開催された第18 回CLCS 会合では、小委員会は9 海域目の予備的考察(preliminary consideration)について、オーストラリア代表団に文書で提出し、期間中に小委員会はオーストラリア代表団と3 会合をもった39。2007 年3 月5 日より開催された第19 回CLCS 会合では、小委員会とオーストラリア代表団は2 会合をもち、最初の会合でオーストラリア代表団は小委員会の予備的考察に対する更なるコメントを示す広範なプレゼンテーションを行った。2 回目の会合でオーストラリア代表団は、自国の見解に関する包括的なプレゼンテーションを行った。この2 回のプレゼンテーションの後、小委員会は勧告案を作成した。3 月28 日、小委員会は勧告案を全体委員会に提出し、ブレッケ小委員会委員長より勧告案についてのプレゼンテーションを行った。同日、オーストラリア代表団からの要請を受け、全体委員会と同代表団との会合が開催され、同代表団より申請に関する全体的なプレゼンテーションが行われた40。プレ36 米国、ロシア、日本、オランダ、ドイツ及びインドの見解は、オーストラリアの申請には南極近辺の大陸棚部分が含まれているが、南極条約第4条において南極地域における領土主権・領土についての請求権が凍結されていることを確認するとともに、当該大陸棚部分についてCLCS がいかなる行動もとらないよう求めることをオーストラリア自身が要請していることに留意するというものである。他方、東ティモールの見解は、オーストラリアの申請が、自国とオーストラリアとの海洋境界画定に影響を及ぼさないことを確認するというものであり、フランスの見解は、ケルゲレン海台とニューカレドニア地域に関するオーストラリアの申請に関し、自国とオーストラリアとの大陸棚境界画定に影響を及ぼさないことを確認するものであった。オーストラリアのエグゼクティブ・サマリー及び各国の口上書は、以下のサイトで閲覧可能である。http://www.un.org/Depts/los/clcs_new/submissions_files/submission_aus.htm37 第15 回CLCS 会合に関する委員長ステートメント(CLCS/44)、パラ20~31。38 第17 回CLCS 委員長ステートメント(CLCS/50)、パラ19~21。39 第18 回CLCS 委員長ステートメント(CLCS/52)、パラ12。40 第19 回CLCS 委員長ステートメント(CLCS/54)、パラ23~パラ32。このような全体委員会での代表団によるプレゼンテーションは、CLCS 手続規則附属書III セクションVI の改正が行われたこと- 13 -- 18 -ゼンテーションを聞いた後、全体委員会は、小委員会が作成した勧告案を検討したが、結局、更なる検討を行う必要があるため勧告案の採択を次回会期まで延期することを決定した41。2007 年8~9 月に開催された第20 回CLCS 会合で、8 月28 日にオーストラリア代表団からの要請により、全体委員会において会合が持たれた。同年6 月の選挙で新たに選出されたCLCS 委員のために、オーストラリア代表団は第19 回会合で行ったものと同じプレゼンテーションを行った。全体委員会では、小委員会により提出された勧告案について海域毎の詳細な検討が行われたが、重要な論点についての協議が継続していることから、勧告の採決は、またも次回CLCS 会合に延期されることになった42。そして、2008 年3 月~4 月に開催された第21 回会合において、CLCS はオーストラリアに対する勧告をようやく採択した。採択は投票により行われ、賛成14 票、反対3 票、棄権1 票によって採択された43。勧告の要約版は2008 年10 月7日付で、大陸棚限界委員会のオーストラリアの申請のページに掲載された。勧告の要約版は、まず、勧告が依拠した一般原則について述べ、続いて個々の海域ごとに大陸斜面脚部の決定、大陸縁辺部の外縁の設定、大陸棚の外側の限界の設定を行い、勧告内容を述べ、勧告した外側の限界を図示する、という構成になっている。CLCS による勧告採択を受け、オーストラリア政府は2008 年4 月21 日に記者会見を行い、勧告を歓迎する旨述べるとともに、勧告によって延長することができる海域について説明を行った。ファーガソン(Ferguson)資源・エネルギー大臣が声明を発表するとともに、会見を開き、勧告を歓迎すると述べた。ファーガソン大臣の声明の内容は、以下のとおりである44。① 追加的な250万平方キロメートルの海底に対するオーストラリアの管轄権を確認したCLCS の判断を歓迎する。② CLCS の判断は、9 つの海域におけるオーストラリアの大陸棚の外側の限界の位置、及び200 海里を超える大陸棚の大部分に対するオーストラリアの権利を確認している。を受けて可能となったものである。当該改正については、第18 回CLCS 委員長ステートメント(CLCS/52), パラ41 を参照。オーストラリアより行われたプレゼンテーションの概要は、平成19 年度大陸棚事業報告書4.1 を参照。41 第19 回CLCS 委員長ステートメント(CLCS/54)、パラ33。第19 回CLCS 会合におけるオーストラリアの申請の審査については、平成19 年度大陸棚事業報告書4.1 を参照。42 第20 回CLCS 委員長ステートメント(CLCS/56)、パラ19~21。第20 回CLCS 会合におけるオーストラリアの申請の審査については、平成19 年度大陸棚事業報告書4.3 を参照。43 第21 回CLCS 委員長ステートメント(CLCS/58)、パラ9~11。第21 回CLCS 会合におけるオーストラリアの申請の審査については、平成20 年度大陸棚事業報告書4.1 を参照。44 下記のオーストラリア資源・エネルギー省のメディア・リリースのページに掲載されている。http://minister.ret.gov.au/TheHonMartinFergusonMP/Pages/UNCONFIRMSAUSTRALIA%E2%80%99SRIGHTSOVEREXTRA.aspx- 14 -- 19 -③ CLCS の判断が意味するのは、オーストラリアは今や250 万平方キロメートルの新たな大陸棚に対する管轄権を有している、ということである。この面積はフランス 国土の約5 倍、ドイツ国土の約7 倍、ニュージーランド国土の約10 倍に相当する。これにより、オーストラリアは、大陸棚上に存在する、または大陸棚の海底下に存在する、石油資源、ガス資源及び生物資源(薬への利用が可能な微生物等)といったものへの権利を得たのである。④ CLCS の判断は、オーストラリアの沖合にある潜在的資源に対する大きな後押しであるとともに、海底にある海洋環境を保全する我々の能力に対する大きな後押しでもある。⑤ オーストラリア政府は、CLCS の勧告にもとづき、オーストラリアの大陸棚の外側の限界を公布する(proclaim)ための行動を早急に取るだろう。⑥ CLCS への申請を準備した、オーストラリア地球科学局、外務貿易省及び司法省の15 年間以上に及ぶ努力を賞賛する。また、オーストラリアの申請に際して中心的役割を果たしたオーストラリア地球科学局(Geoscience Australia)のホームページには、CLCS の勧告によって認められた延長大陸棚の部分を示す地図が掲載されている(次図を参照)。- 15 -- 20 -オーストラリア地球科学局(Geoscience Australia)のホームページに掲載されている地図http://www.ga.gov.au/oceans/mc_los_Map.jspオーストラリアの領海及び内水オーストラリアの200 海里以内の管轄権が及ぶエリアCLCS により認められた、オーストラリアの200 海里を超える大陸棚ティモール海条約にもとづく(東ティモールとオーストラリアとの)共同石油開発エリア- 16 -- 21 -さらに、2011 年9 月6 日付で、オーストラリア地球科学局のホームページに、大陸棚限界委員会の勧告によって認められた延長大陸棚の部分を示すより詳細な地図(Australia’s Maritime Jurisdiction Map)が各海域ごとに掲載された45。なお、インドネシアは、大陸棚限界委員会の勧告に対して、2009 年8 月7 日付で国連事務総長宛口上書を提出しており、その中で、勧告に含まれているアルゴ海域の大陸棚の限界のうちの一点が、インドネシア・オーストラリア間の1997 年条約46で規定されている一点と一致しているが、同条約は未発効であるため、国連海洋法条約第76 条10 項にもとづき、勧告に含まれている同点は法的効果を有しない旨述べている47。その後、オーストラリアは、大陸棚限界委員会の勧告に基づき大陸棚の限界を設定し、国連海洋法条約第76 条9 項にもとづき、海図と関連情報を国連事務総長に寄託した。この海図と関連情報は、国連海事・海洋法課ウェブサイトの寄託海図のページに掲載されている48。同ページに、オーストラリアは2012 年11 月2 日に海図と関連情報を寄託した旨の国連事務総長発の通知文書が掲載されている。45 http://www.ga.gov.au/marine/jurisdiction/map-series.html46 条約文は、国連海事海洋法課のサイトの下記ページに掲載されている。http://www.un.org/Depts/los/LEGISLATIONANDTREATIES/PDFFILES/TREATIES/AUS-IDN1997EEZ.pdf47 インドネシアの口上書は、前掲注(33)の大陸棚限界委員会のページに掲載されている。48 http://www.un.org/Depts/los/LEGISLATIONANDTREATIES/STATEFILES/AUS.htm- 17 -- 22 -3.1.4 アイルランドの申請2005 年5 月25 日、アイルランドは、国連事務総長を通じ、CLCS に対して申請を提出した。アイルランドの申請が提出されたことが国連事務総長により、全国連加盟国に通知された後、デンマークとアイスランドがそれぞれ自国の見解を表明する口上書を国連事務総長に提出した49。アイルランドの申請は、近隣諸国との帰属係争地域について交渉が継続中であるため、帰属について争いのないポーキュパイン深海平原地域の大陸棚に関する部分的申請(partial submission)であり、この点はアイルランドが提出したエグゼクティブ・サマリーの中で明示的に述べられており、国連事務総長より各国への通知の中でも述べられている。2005 年8 月29 日~9 月16 日に開催された第16 回CLCS 会合においてアイルランドはプレゼンテーションを行い、CLCS はアイルランドの申請を審査する小委員会を設置し、審査を開始した。小委員会は、2006 年1 月23 日~27 日に会期間会合を開き、アイルランド代表団と5会合をもった。2006 年3 月20 日~4 月21 日まで開催された第17 回CLCS会合では、アイルランド代表団と4 会合をもち、協議を行った。第18 回CLCS 会合では、全体委員会において本小委員会のジャファー委員長より勧告案が提示されたが、全委員が勧告案と小委員会の分析の詳細な検討を必要とし、第19 回CLCS 会合へと持ち越された50。2007 年3 月~4 月に開催された第19 回CLCS 会合において、全体委員会は小委員会の勧告案を投票にかけ、賛成14、反対2、棄権2 で勧告を採択した51。この勧告採択を受け、アイルランド政府の大陸棚延長プロジェクトを管轄しているノエル・デンプシー通信・海洋・天然資源大臣は2007 年4 月22 日付プレス・リリースにおいて、勧告を受け取ったことによりアイルランドは申請を提出したポーキュパイン深海平原エリアにおいて200海里を超える大陸棚の外側の限界を設定することができる旨述べており、また同プレス・リリース中にはアイルランドの国土面積の80 パーセントにあたる56,000 平方キロメートルが延長大陸棚となる旨の記述がある52。49 デンマークの見解は、アイルランドの申請及び同申請に対するCLCS の勧告が、デンマークが将来行う大陸棚延長申請に対して、また、デンマーク領フェロー諸島とアイルランドとの間のハットン・ロッコール区域の大陸棚境界画定に対して影響を及ぼすものではないことを述べている。アイスランドの見解は、アイルランドの申請及び同申請に対するCLCS の勧告が、将来アイスランドが行うハットン・ロッコール区域の大陸棚延長申請に対して、また、アイスランドとアイルランドとの間の大陸棚境界画定に対して影響を及ぼすものではないことを述べている。アイルランドのエグゼクティブ・サマリー及びそれぞれの国の口上書は、以下のサイトで閲覧可能である。http://www.un.org/Depts/los/clcs_new/submissions_files/submission_irl.htm50 第18 回CLCS 委員長ステートメント(CLCS/52)、パラ15 及び1751 第19 回CLCS 委員長ステートメント(CLCS/54)、パラ37。第19 回CLCS 会合におけるアイルランドの申請の審査については、平成19 年度大陸棚事業報告書4.1 を参照。52 同プレス・リリースはアイルランド通信・海洋・天然資源省の下記サイトで閲覧可能。http://www.dcenr.gov.ie/Press+Releases/2007/Ireland+Extends+Continental+Shelf+Waters+by+56000+Sq+Kilometres.htm- 18 -- 23 -勧告の要約版については、2008 年10 月7 日付で、CLCS のアイルランドの申請についてのサイトに掲載された。(アイルランドへの勧告の要約版は、申請海域が小さいこともあり、大陸斜面脚部の決定、大陸縁辺部の外縁の設定、大陸棚の外側の限界の設定についてそれぞれ詳細な説明を行った上で、勧告内容を述べている。)その後、アイルランドは、CLCS の勧告にもとづき大陸棚の限界を設定し、国連海
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