報告書・出版物

ご あ い さ つ本報告書は、競艇交付金による日本財団の平成20 年度助成事業として実施した「船舶からの温室効果ガス削減方策に関する調査研究」事業のうち「船舶からの温室効果ガス削減に向けての市場メカニズム調査」の成果をとりまとめたものです。1997 年の国際気候変動枠組条約第3 回締約国会議(COP3)において採択された京都議定書では、外航船舶から排出される温室効果ガス(GHG)は排出削減数値目標の対象に含まれず、国際海事機関(IMO)を通じた作業によって、その排出量の抑制を追求することとされました。その後IMO での作業はあまり進んでおりませんでしたが、2009 年12 月にデンマークで開催される国際気候変動枠組条約第15 回締約国会議(COP15)では、2013 年以降のポスト京都議定書の枠組みへの合意を目指していることなどから、外航海運についても、GHG 排出量を削減する何らかの具体的な対策を早急に提示し、実行に移していく必要に迫られております。船舶からのGHG 削減対策としては、エンジン性能や推進性能の改善といった技術面からの対策、減速航行やウェザールーティングのような運航面からの対策、そして燃料課金や排出量取引制度といった経済的手法などが検討されております。しかしながら経済的手法について、特に外航海運におけるGHG 排出削減プロジェクトを実施することによって達成できる排出削減量をクレジットとして売買でき、京都議定書の付属書Ⅰ国(先進国)も獲得できる可能性のある国際的プロジェクトメカニズムについては、まだ十分な検討は行われておりません。燃料課金や排出量取引制度は、外航海運が他への支払いを行うことになりますが、このような国際的プロジェクトメカニズムでは、他から資金を得ることが可能となり、技術面などの実質的なGHG 排出削減対策にその資金を活かすことがより一層有利になるものと思われます。そこで、当財団では、外航海運に起因するGHG 排出量の削減に向けた国際的な対策を進めるための枠組みを検討し、海事産業が抱える地球温暖化問題の解決に貢献することを目的として、外航海運の規制及び特にCDM(Clean Development Mechanism)の外航海運への拡張を中心に、排出クレジットを拠出しうる国際的な削減メカニズムを調査いたしました。本調査を進めるにあたっては、福田敦日本大学理工学部教授を委員長とする「船舶からの温室効果ガス削減に向けての市場メカニズム調査研究委員会」各委員の方々の熱心なるご審議とご指導を賜りました。また、国土交通省をはじめ海運・海事関係者の方々ほか多くの皆様のご協力をいただきました。これらの方々に対しましてここに厚くお礼を申し上げます。平成21年3月海洋政策研究財団(財団法人 シップ・アンド・オーシャン財団)船舶からの温室効果ガス削減に向けての市場メカニズム調査研究委員会名簿(順不同、敬称略)委 員 長 福田 敦 日本大学 理工学部 社会交通工学科 教授委 員 黒木 昭弘 財団法人日本エネルギー経済研究所 理事松尾 直樹 有限会社クライメート・エキスパーツ 代表取締役山田 和人 パシフィックコンサルタンツ株式会社 環境事業本部地球環境部 部長斎藤 光明 社団法人日本船主協会 海務部 課長委員代理出席者 藤森 眞理子 パシフィックコンサルタンツ株式会社 環境事業本部地球環境部 グループリーダー白川 泰樹 有限会社クライメート・エキスパーツ リサーチャーオブザーバー 鈴木 康子 国土交通省 海事局 安全環境政策課 国際係長北林 邦彦 国土交通省 海事局 外航課 専門官鈴木 長之 国土交通省 海事局 安全基準課 専門官森本 清二郎 財団法人日本海事センター 企画研究部 特別研究員澤田 喜純 商船三井株式会社 経営企画部 CSR・環境室 室長沼野 正載 商船三井株式会社 経営企画部 CSR・環境室アシスタントマネージャー大竹 裕之 川崎汽船株式会社 環境推進室 室長補佐合田 浩之 日本郵船株式会社 経営企画グループ 経営企画チーム関 係 者 山口 建一郎 株式会社三菱総合研究所 環境・エネルギー研究本部地球温暖化戦略研究グループ 主任研究員小林 信之 株式会社三菱総合研究所 環境・エネルギー研究本部地球温暖化戦略研究グループ 主任研究員中塚 史紀 株式会社三菱総合研究所 環境・エネルギー研究本部地球温暖化戦略研究グループ 研究員事 務 局 工藤 栄介 海洋政策研究財団 常務理事石原 彰 海洋政策研究財団 海技研究グループ グループ長玉眞 洋 海洋政策研究財団 海技研究グループ 調査役華山 伸一 海洋政策研究財団 海技研究グループ 主任研究員三木 憲次郎 海洋政策研究財団 海技研究グループ グループ長代理段 烽軍 海洋政策研究財団 政策研究グループ 研究員目 次はじめに1. 背景要因の整理........................................................................................................................ 11.1 国際海運起源の温室効果ガス排出の推移........................................................................ 11.2 海運事業の特徴.................................................................................................................. 41.3 温室効果ガス排出削減上の検討....................................................................................... 62. 各種政策オプションの検討.................................................................................................... 72.1 船舶に対するエネルギー効率基準の設定.......................................................................... 72.2 経済的手法............................................................................................................................ 92.3 プロジェクトメカニズムの活用....................................................................................... 173. プロジェクトメカニズムの導入可能性及び効果の検討.................................................... 203.1 プロジェクトメカニズムの位置づけ............................................................................... 213.2 想定されるプロジェクトスキーム................................................................................... 243.3 プロジェクトメカニズムに関する諸課題の検討............................................................ 323.4 エネルギー効率インデックスとベースライン................................................................ 374. まとめと考察.......................................................................................................................... 404.1 プロジェクトメカニズムの導入の意義と課題................................................................ 404.2 結論..................................................................................................................................... 41参考資料........................................................................................................................................ 43参考資料 1 .参考例としてのCDM の概観........................................................................... 43参考資料 2. 有望な排出削減プロジェクトの選定・温室効果ガス排出削減量の試算...... 52参考資料 3. 用語集.................................................................................................................. 75参考資料 4. 排出権価格の推移............................................................................................... 791はじめに国際海運起源の温室効果ガス(GHG)排出量は5~10 億t-CO2 程度とされており、その規模と並び排出量の不確実性の大きさが注目される。国際海運起源のGHG 排出削減に関しては、国際海事機関(IMO)及び国連気候変動枠組条約締約国会議(COP)において京都議定書採択以降に検討されてきたが、具体策の合意には至っていない。この中で、海運事業における排出削減プロジェクトの実施によって達成する排出削減量を実施国が獲得するという国際的プロジェクトメカニズムが考えられる。これは、概念としては国際海運をあたかもひとつの非附属書Ⅰ国として扱うクリーン開発メカニズム(CDM)に近い。このような国際海運のGHG 排出量削減制度として考えられる国際的プロジェクトメカニズムのメリットとしては、海運事業におけるGHG 削減量の検討・精査の単位が個々の排出削減プロジェクトに限定されるため、排出量の不確実性に束縛されない点、割当の議論とは無縁である点、及び船籍、事業者、港湾、船舶メーカー等については開発途上国(非附属書Ⅰ国)の関与の割合が高い点など、国際海運事業においては、このようなメカニズムを受け入れる可能性の高い点が挙げられる。よって、本調査はこのようなメカニズムの実施に際しての制度的側面の検討、効果の把握等を通じ、国際的プロジェクトメカニズムの可能性について調査検討を行うことを目的とする。11. 背景要因の整理ここではまず、本調査報告の背景として、国際海運起源の温室効果ガス排出の推移、及び海運事業の特徴について概略的に整理し、現在、気候変動枠組条約に基づく規制の対象とはなっていない国際海運起源の温室効果ガス排出に関する国際的な検討の動向について述べる。1.1 国際海運起源の温室効果ガス排出の推移国際海運起源の温室効果ガス排出は増加の一途をたどっている。燃料払出量に基づいたデータの集計を行っている国際エネルギー機関(IEA)によれば、国際海運燃料起源のCO2 排出量は1990 年から2005 年の間に約51.9%も増加したが、これは同期間における世界全体のエネルギー起源CO2 増加率(29.1%)を上回る。とりわけ途上国で払出が行われた燃料の消費量は1990 年比倍増以上(118%)と増加が著しい。この理由としては国際的な荷動きの増加があり、排出量はほぼ荷動き量に比例していることが挙げられる。老朽船舶の解撤・代替等の効率向上要因はあるが、高速化の要求、コンテナ船の比率向上等の要因により、国際海運全体で見た原単位、即ち荷動き(トンマイル)あたりのCO2 排出量には大きな変化は見られない。2008 年9 月に発表されたIMO による温室効果ガス排出推計(Updated Study onGreenhouse Gas Emissions from Ships:以下IMO スタディ)では、活動量に基づいた推計方法により2007 年の国際海運起源CO2 排出量を843Mt-CO2 と推計している。これは世界のエネルギー起源CO2 排出量(2005 年:27,136Mt-CO2)の約3.1%に相当する。また、IMO スタディで検討されている162のシナリオの多くが今後の排出量の増加を予測しており、2020 年には719~1,447Mt-CO2(best estimate は1,057Mt-CO2)、2050 年には746~7,344Mt-CO2(同2,681Mt-CO2)となると想定している。- 1 -2図 1-1 国際海運起源燃料消費量の推移(出典:IMO, 2008, Updated Study on Greenhouse Gas Emissions from Ships)海運起源の温室効果ガス排出量の推計に関しては、荷動き及び船種の構成、使用される燃料等、様々な事象が想定され、推計に大きな幅がある。上記IMO スタディに用いられたもの以外の近年の大幅排出削減シナリオに基づく推計では、下記が挙げられよう。表 1-1 海運起源排出量に関する各種予測シナリオ文献名 シナリオ 排出予測 想定対策IEA,2008, EnergyTechnologyPerspectives ( BlueScenario)・ 2050 年に世界全体の温室効果ガス排出量を1990年比半減。・ 2005 年現状:750Mt-CO2・ 2050 年無対策:1,200Mt-CO2(以上、内航含む)・ 約30% の効率向上(300Mt-CO2 削減)・ 約30%のバイオエネルギー(180Mt-CO2 削減)Mckinsey, 2009,Pathway to aLow-CarbonEconomy・ 温室効果ガス濃度を将来的に450ppm安定化・ 2005 年現状:1,100Mt-CO2・ 2030 年無対策:1,800Mt-CO2(以上、内航含む)・ 無対策時から24%削減(約1,400Mt-CO2)・ 技術革新、バイオ燃料のような技術・燃料対策と、大型化、積載率向上、減速航行のような運用改善(具体的記載はない)EU 、2009 ( PolesModel)・ - ・ 2020 年まで、1990 年比30 – 50%増・ 2050 年まで、1990 年比4倍増・ IMO スタディを引用し、また他のエネルギー源の可能性もあると指摘。(標記出典より作成)結論として、海運、特に国際海運起源の温室効果ガス排出は、何も対策が講じられな- 2 -3ければ、今後、相当程度増加するとの意見の一致がある。増加の程度については文献により推計が異なるが、いずれも、ほぼ途上国に匹敵する増加率が想定されている。また、長期的・大幅排出削減シナリオにおける想定では、海運は他の部門と同程度の現状比排出削減は求められていない。これは、海運における排出削減対策選択肢の希少性、管理の難易度、今後想定される荷動きの増加を踏まえてのものであると考えられる。欧州委員会は2009 年1 月28 日の「コペンハーゲンでの包括合意へ向けて」1と題したコミュニケにおいて、国際海運・航空部門に対して2020 年までに2005 年レベル以下を達成し、かつ2050 年までに1990 年レベルを大幅に下回るべきとし、また2010 年末までにICAO及びIMOより対策が打ち出されない場合はこれらの部門からの排出量を各国の総排出量に加算すべきであるとした2。1 Towards a comprehensive climate change agreement in Copenhagen、COM(2009)39Final。2 “…If at the end of 2010 there is no agreement in ICAO and IMO, emissions from international aviationand maritime transport will be counted towards national totals under the Copenhagen agreement whichwill ensure comparable action by all developed countries.”。ただし2012 年以降の温室効果ガス排出削減対策に関する合意は、2010 年末のデッドラインに先立つ2009 年末のCOP/MOP5(コペンハーゲン)で決定される予定である。- 3 -41.2 海運事業の特徴温室効果ガス排出削減を想定する場合、国際海運事業の特徴としては下記が挙げられよう。(1)代替手段の希少性海運は世界の貿易量のほとんどを担い、また海運を代替する輸送手段は現実的には想定できない場合が多い。陸続きの国の場合、鉄道・自動車またはパイプライン輸送が想定されるが、代替可能なケースは限定される。荷動き量(トンマイル)で比較すると国際海運の輸送量は国際航空(貨物)の約400 倍に達する。(2)低いGHG 排出原単位下記のように海運はGHG 排出原単位の低い輸送手段であり、むしろ他の交通モードから海運に移行すること自体が、温室効果ガス排出削減対策となると期待されている。表 1-2 各種輸送モード間エネルギー消費原単位比較図 1-2 各種輸送モード間エネルギー消費原単位比較(IMO:Updated 2000 Study on Greenhouse Gas Emissions from Ships)(3)船舶単位の規制国際海運においては規制の対象は個々の船舶であり、またその管轄主体は船籍国(旗国)である。反面、海運事業に係る主体として船舶の所有者(船主)、海運事業者、荷主等、様々な主体があり、それらの国籍が異なる場合も多い。なお航空についてもある程度類似した状況であるが、多くの場合航空機の国籍は航空事業者の所属国と同一であり、また航空事業者が航空機を所有する場合も多く、海運と比べて関連する主体は少数であ- 4 -5ろう。(4)高い途上国のプレゼンス国際海運の持つひとつの特徴として、船籍はもとより、商船隊、港湾、荷動きといった指標のいずれをとっても、途上国の占める割合が(経済規模の総合指標であるGDPにおける割合と比べて)高く、また多くの指標でそれが増加していることが挙げられる。このことは、国際輸送燃料部門に関する対策をCOP で論じる場合に途上国の反対が強いことの背景となっていると同時に、共通の対策を持つことが困難であることを示唆している。表 1-3 海運関連諸指標における各地域の割合国際海運燃料起源CO2排出量*船籍 商船船腹量海運事業者港湾貨物量コンテナ取扱量造船竣工量船齢 国内CO2排出量GDP日本 3% 2% 16% 11% 13% 6% 36% 15 5% 14%EU27 30% 23% 31% 34% 11% 16% 6% 20 15% 25%その他附属書Ⅰ国17% 7% 10% 13% 18% 9% 2% 23 34% 37%非附属書Ⅰ国50% 68% 43% 41% 57% 70% 56% 21 46% 25%年 2005 年 2005 年 2005 年 2005 年2005 年2005 年2005 年2005 年 2005 年 2005 年出典等 IEA, CO2Emissionsfrom FuelCombustion海運統計要覧(重量ベース上位80 国、全体の99%)UNCTAD(上位20か国、全体の86% )UNCTAD(上位20社、全体の71% )3海運統計要覧(上位40 港、全体の50% 程度 )4海運統計要覧(上位40 港)5海運統計要覧(重量ベース上位10か国、全体の96% )海運統計要覧(上位80 国)の加重平均、船籍ベースIEACO2 のみIEA(2000年レート)参考:航空における非附属書Ⅰ国の割合38% 航空事業者と同一航空事業者と同一38% 29%(旅客)43%(貨物)- ほぼゼロに近い。- -(出典:表中記載資料よりMRI 作成、*払出量ベース)3 上位10 位はA.P.Moller Group(デンマーク)、MSC(スイス)、P&O Nedlloyd(英蘭)、Evergreen(台湾)、CMA-CGM Group(仏)、NOL/APL(シンガポール)、China Shipping(中国)、COSCO(同)、Hanjin/DSR-Senator(韓・独)、日本郵船。4 上位10 位は上海、ロッテルダム、シンガポール、寧波(中国)、天津、香港、サウスルイジアナ、釜山、ヒューストン。5 上位10 位はシンガポール、香港、上海、深圳(中国)、釜山、高雄(台湾)、ロッテルダム、ハンブルク、ドバイ、ロサンゼルス。- 5 -61.3 温室効果ガス排出削減上の検討国際輸送燃料(海運及び航空)の取り扱いは1992 年に採択された気候変動枠組条約そのものには記載されていない。しかし枠組条約採択後、京都議定書に先立ち既に検討が開始された。気候変動枠組条約採択後、第1 回締約国会議(COP1:1995 年)に至るまでの政府間交渉会議(INC)の議題として、国際輸送燃料の配分方法のオプションは既に検討されている。当初の議論は国際輸送燃料起源の温室効果ガス排出量をどのように各国間で配分するかという点に集中し、1996 年には燃料払出量、荷主、発着地、等8 つのオプションが検討された。1997 年12 月に策定された京都議定書第2 条2 項には、「附属書Ⅰに掲げる締約国は、国際民間航空機関及び国際海事機関を通じて活動することにより、航空機用及び船舶用の燃料からの温室効果ガス(モントリオール議定書によって規制されているものを除く。)の排出の抑制又は削減を追求する。」と記載された6。また、COP3 では前年にIPCC が作成した温室効果ガス排出量推計ガイドラインに則り、国別インベントリの推計の際に国際輸送燃料に関する推計は各国の排出量には含めず、別表で記載することが確認された。以後、国際輸送燃料に起因する温室効果ガス排出対策は度々COP(SBSTA)の場で議論されたものの、継続審議扱いとなっており、結論は見えていない。6 The Parties included in Annex I shall pursue limitation or reduction of emissions of greenhouse gasesnot controlled by the Montreal Protocol from aviation and marine bunker fuels, working through theInternational Civil Aviation Organization and the International Maritime Organization, respectively.- 6 -72. 各種政策オプションの検討近年、海運における温室効果ガス排出削減対策がIMO やUNFCCC のような機関をはじめ、専門家等により検討されてきた。これらについて概観した上で、プロジェクトメカニズムと併せて比較・検討を試みる。対象とする対策は下記のとおり。・ 船舶に対するエネルギー効率基準の設定:エネルギー効率設計指標(EEDI)、エネルギー効率運航指標(EEOI)等、現在IMO において進められているエネルギー効率基準の概要について述べる。・ 経済的手法:排出量取引、国際輸送燃料に対する課金等、IMO 及びUNFCCC 等の場で議論が開始されている経済的手法について述べる。・ プロジェクトメカニズムの活用:本報告書の主眼であるプロジェクトメカニズムについて、上記対策と比較しつつ検討する。2.1 船舶に対するエネルギー効率基準の設定現在、IMO では新規船舶に対する設計指標、及び既存船舶に対する運航指標の2 種類の「エネルギー効率インデックス(従来はCO2 インデックスと呼称)」が検討されている7。これは概念的には「CO2 排出量÷輸送量」で示され、次元は「t-CO2/トンマイル」となる。具体的には2008 年10 月の第58 回MEPC(MEPC58)において既存船舶及び新造船舶に対するエネルギー効率基準として議論されており、現在は下記のように定義されている。・ エネルギー効率運航指標(Energy Efficiency Operational Index8, EEOI):これは運航の結果、実際に達成された船舶の効率を示すものであり、運航者が船舶の運航効率を確認するための指標(CO2 排出原単位)として使用されるものである。EEOI の扱いについてはMEPC58 の時点ではでは未定だが、報告の義務化を行わないこと、EEDIとは区別することで方向が一致している。EEOI の式は、一般的には下記の形態をとる。EEOI =「燃料のCO2 換算係数(g-CO2/g-fuel)」×「燃料消費量(g-fuel)」÷(実貨物量(ton)×実航行距離(mile))・ エネルギー効率設計指標(Energy Efficiency Design Index, EEDI):これは新造船の設7 MEPC / Circ.471(2005 年7 月29 日)。8 2009 年3 月に行われたGHG 中間会合において、Energy Efficiency Oeprational Indicator と変更することがWG 内で合意されており、名称が変更になる見込み。- 7 -8計、建造段階で船舶の効率のポテンシャルを評価するものであり、船主が効率のよい船舶を選ぶための指標(CO2 排出原単位)として使用されるものである。MEPC58で、算出のための暫定ガイドラインに合意し、各国で試行を実施し、成果をMEPCに報告することとなっている。また、EEDI については、その付与、基準値達成の義務化が想定されており、将来的には、基準値の段階的引き下げを行なうことを念頭に、現在検討が進められている。EEDI の式は、一般的には下記の形態をとる。EEDI =「燃料のCO2 換算係数(g-CO2/g-fuel)」×「燃料消費率(g-fuel/kWh)」×「機関出力(kW)」÷(載貨重量(DWT-ton)×速力(mile/hr))なお、機関は主機と補機に分類され、主機出力は最大機関負荷の75%とされている。前述のように、現在IMO ではEEOI のあり方及びEEDI の義務化の手法等について検討中である。- 8 -92.2 経済的手法上記のようなエネルギー効率基準の検討と並行して、経済的手法の検討も活発化している。この背景として、前述したように自らも域内で排出量取引スキームを実施し、国際航空への拡張を決定したEU の前例がある。ここでは、代表的な経済的手法として排出量取引と国際輸送燃料に対する課金を取り上げる。2.2.1 排出量取引国際海運を対象とした排出量取引については、現在EU 諸国(欧州委員会、フランス、ノルウェー等)から提案されている。EU は自らの排出量取引スキーム(EUETS)に組み込まれることとなった航空部門と異なり、国際海運に対する排出量取引スキームに関する提案は、現時点では競売ベースの排出量取引または課税とし、収益は途上国の気候変動対策に用いるべきという原則論に留まっている9。 国際海運と排出量取引に関する主要なオプションと課題・論点を以下に示す。表 2-1 海運部門を対象とした排出量取引に関するオプション及び課題(1)項 目 オプション 課題・論点制度の様式・ キャップ・アンド・トレード:各々の対象主体が排出枠を負う。排出枠の配分は無償割当(グランドファザリング)、有償割当(競売)、あるいは両者の中間的形態がある。・ ベースライン・アンド・クレジット:一定のベンチマーク(e.g.トンマイル当たりCO2 排出量)を設定し、超過する分はクレジット購入、下回る分はクレジット売却の対象となる。・ キャップ・アンド・トレードの場合、EU排出量取引スキームで現在陸上施設に対して該当する「基準年比X%減少」という目標は海運にとって難度が高い(基準年比で増加するような目標も設定可能)。・ ベースライン・アンド・クレジットの場合、全体の排出枠は予見できないため、対象部門での排出削減を担保できない。9 Towards a comprehensive climate change agreement in Copenhagen: Extensive backgroundinformation and analysis (2009 年1 月29 日)より。”Overall, the approaches developed by ICAO andIMO could include the adoption of marketbased measures, such as a global emission trading system. Insuch a case, auctioning allowances could contribute to generating significant financial resources thatcould be used to support action to address climate change, including in developing countries, as isforeseen already in relationship to the auctioning of allowances for international aviation in the EU ETSfrom 2012 on..”- 9 -10表 2-1 海運部門を対象とした排出量取引に関するオプション及び課題(2)項 目 オプション 課題・論点制度の対象主体・ 海運事業者(オペレーター)、個々の船舶、特定航路等、船主等、多様なオプションがある(これらについては後述する)。・ 船籍や事業者の国籍で対象を制限することは、これらの国籍の移転が容易な海運では課題となる。海運単独か、他の部門とリンクするか・ 海運事業単独ケース:海運事業において独立した排出量取引制度とする。この場合、IMO 独自のイニシアティブ及びルールを用いて、UNFCCCとは完全に独立して行うことが可能。・ 他制度とリンク:他の(陸上施設の)排出量取引とリンクし、取引を可能とする。メリットとしては、市場としては大きいであろう陸上施設とのリンクにより市場が安定することが期待される。・ その他:類似した特長を持つ国際航空とリンクする等想定可能である。・ 海運事業単独ケースの場合:排出量取引は、多様な排出削減オプション及び限界排出削減費用を持つ主体が参加した時に最も有効なものとなる。従って、ほぼ同一の燃料を同程度の効率で使用し、また今後温室効果ガス排出量がほぼ単調増加すると考えられる海運事業単体では、絶対的なキャップを持つ排出量取引のメリットを十分に享受出来ない恐れがある。・ 他制度とのリンクを行う場合の課題は下記のとおり。− 絶対量をX 年比Y%減、というスキームでは海運事業は排出権の純購入主体となる可能性がある。原単位ベースの目標であれば海運単独の制度はより可能となるが、他に絶対量ベースの目標を有する制度とのリンクが課題となる(原単位ベースの制度参加者が絶対量ベースの制度参加者より購入することはできるが、逆は出来ない、という制度が考えられる。似たような機能がEUETSに先立つ英国の排出量取引制度で用いられた)。− 国際海運起源の排出量は京都議定書の遵守に際して計上されない。従って、京都議定書に則った国内制度(例:EUETS)が海運部門から購入した場合の取り扱いが問題となる。EUETS は国際航空に拡張されるが、従来のEUETS 対象部門は国際航空部門から購入した排出権を行使できない。配分方法 ・ 無償配分(グランドファザリング):各主体の過去の実績に合わせて排出権を配分。・ 有償配分(競売):各主体がそれぞれのニーズに併せて排出権を購入する。・ 既存・既提案の排出量取引制度(EUETS 及び米国連邦議会提案制度)においては、排出量取引制度インパクトが大きい部門、及び/または国際競争力に晒される部門については、少なくとも当初は無償割当の比率を多く取り、次第に有償割当に移行するスキームである。・ 詳細は後述する。・ 無償配分:一般的に排出量取引の対象主体に対する受容性が高く、(全体の目標水準にもよるが)影響が小さい。・ 有償配分(競売):効率は最適化されるが、競売対価の徴集を伴うため、管理主体及び徴収資金の使用に関するインフラが必要。・ 海運事業は燃料費が運営コストの2/3 程度にもなる分野であり(日本:内航データ)、また外航海運は競争の自由度が高い。- 10 -11表 2-1 海運部門を対象とした排出量取引に関するオプション及び課題(3)項 目 オプション 課題・論点モニタリング・ 各船舶の燃料消費量(購入・保有量変動)より算出(排出枠の対象に属さない船舶から融通する可能性は残るが、妥当な正確性を担保する)。・ 船舶のログに通常記載されるデータで概ね対応可能と考えられる。運営主体 ・ 排出量取引の管理を行う主体をどのように設定するか、という課題がある。・ 取引の管轄に関して新たな組織の設立が必要。特に競売の場合は資金の授受を伴うため、組織の責務は大きくなる。排出量取引制度のメリットとしては、対象全体に対する総排出枠で規制する場合、その値以下の排出量抑制を担保することが挙げられる。反面、目標達成のためのコストは先験的には明らかではない。これは、排出削減効果は不明だがコストは(比較的)把握可能な環境税とは正反対である。排出量取引は国際海運において導入し、有効に機能するためには相当の制度的検討が行われる必要があろう。大きな課題と言える制度の対象の問題について、以下にいくつかのオプションを挙げ、課題について述べる。(1) 制度の対象まず、何を対象として排出量取引スキームを実施するか、という問題がある。オプション1:海運事業者を対象とする制度まず、個々の海運事業者(オペレーター)に対する制度が考えられよう。ここで海運は航空以上に途上国のプレゼンスが高く、海運事業全体として実施しないと効果は少ない。先進国(気候変動枠組条約附属書Ⅰ国)の事業者だけに限定する制度は、カバレージが少なく、かつM&A 等により容易に対象から除外される可能性がある。コンテナ輸送については先進国、途上国を含む上位20 社程度で全体の輸送量が大半をカバーされるため、これらの企業の合意により相当程度のカバー率が期待できる10が、途上国の企業も相当数含まれるため、現時点ではこのような制度に関する政治的合意には困難が伴うであろう。オプション2:個別船舶を対象とする制度次に、個別の船舶に対する制度が考えられる。船主や事業者ではなく船舶を管理対象とすることはIMO の原則に即したものである。ここで各国で実施・提案されている排出量取引スキームの多くは対象事業所・企業の規模に制限があり、同様の制限を船舶に対10 UNCTAD、Review of Maritime Transport, 2006 より作成。- 11 -12して設ける方法が妥当であろう11。この方法の課題として、排出量取引制度のひとつの典型として考えられる「過去の排出量に基づいた排出枠(グランドファザリング)を課したキャップ・アンド・トレード」を適用する場合、当該船舶が使用される航路が変更されると、過去のキャップをそのまま適用できなくなることが挙げられる。これは既存の排出量取引における事業所の閉鎖・新規開設に相当するが、海運の場合、経路変更等は船種によっては頻繁に行われるため、新規航路における何らかのキャップもしくはベースラインの再設定が頻繁に必要となる。また船舶の第一義的な管轄国としての船籍国はパナマ、リベリア等の非附属書Ⅰ国が約70%と圧倒しており、この中にはいわゆる後発途上国の部類に属し、このような毎年の更新管轄を適切に行うインフラを持たない国もある。これは国際線を営む主な事業体が付属書I 国内にある航空事業とは顕著な相違であり、ETS の適用が航空に可能であっても、海運への適用が必ずしも容易でない大きな事由になると考えられる。オプション3:特定航路に対する制度これはEU における航空産業のETS への包含の場合と同様、同一航路を航行する船舶には事業者によらず排出枠を設ける、というものであり、これにより事業者間の競争上の不公平や個々の船舶に対する過去の実績に基づいた配分が現実と整合しない等の課題がなくなることが期待される。ただし、航空と異なり、海運は経路変更が容易である(例:例えばこれまでの中東→欧州直行航路が、中東→モロッコ→欧州、となる等)。排出権購入コストを回避するための経路変更にはリース料の増加等のコストが伴うが、CO2 価格が30 ドル/t-CO2 を上回ると、半日~1 日の寄港を行うことによる回避インセンティブが生じるとされている12。このような航路変更が行われた場合、結果として排出量取引スキームの規模が当初の想定と比べて縮小し、域内の排出が域外の排出となるという、いわゆるリーケージを生む可能性がある。このようなリーケージが生じないための対策は、全世界を対象として行うことであるが、制度運営の面で困難が伴い、また政治的合意は課題となる。オプション4:船主に対する制度事業者であるかないかを問わず、オーナーである船主に対して(当該船舶の過去の実績に照らして)割り当てるという方法もあろう。本方法の課題点として、船主が事業者でない場合、自らが制御できない排出量(≒燃料消費量)に対して責任を持たねばならないという点が挙げられる。また船主には所在地を容易に移転しうる投資専門会社も多11 500 総トン数以上の船舶は全隻数の75%、総トン数の99%、排出量の95%を占めると言われている(Mueller and Stochniol、2007)。12 Peter Lockley, International Shipping in a post-2012 climate deal, WWF Background Paper, December,2008- 12 -13く、例えば附属書Ⅰ国の船主のみに割り当てる場合には問題を生じよう。(2) 割当方法排出枠の割当方法に関しては下記の3 つのオプションが挙げられよう。オプション1:無償割当(グランドファザリング)これは上記の対象主体に、排出枠の配分を過去の実績に基づいて行うというものである。これまで検討された制度では、特に遵守コストの高い部門について政治的受容性が高い。ここで、無償割当は対象主体の将来の排出量が予見でき、また過去のものと大差ないものであることが(明示的ではないが)前提となっている。これは発電所や製鉄所のような定置型施設では概ね妥当であるが、海運事業に関して適用する場合はこの前提が必ずしも成り立たないため、検討が必要である。とりわけ対象主体が個々の船舶、船主である場合は、意図的または非意図的な航路変更等により、排出量が過去と比べて大幅に変化(減少または増加)する可能性が想起されよう。前述のように、航路に対するグランドファザリングによって排出枠を設定する場合は、この問題はある程度回避されよう。オプション2:有償割当(競売)排出枠を競売により配分する場合、各主体は自らのニーズに従い購入・取引を行うことになる。このため上記のような業務要因による排出の大幅増減は問題とはならない。また競売は経済的に最も効率の良くかつ公平な配分制度である。デメリットとして、競売は(必ず有料となるため)一般的に事業者にとって受容性が低いオプションである。また競売により徴集した資金については、R&D 等に用いる等、有効に活用できることはメリットでもあるが、誰がどのように収入の配分をするかという問題が生じる(このため競売は徴集・配分のシステムがある国内排出量取引制度に適している)。オプション3:ベースライン・アンド・クレジット各船舶について(過去の実績、あるいは船舶の仕様に基づいた)原単位を与え、これを原単位のベンチマークとする。これを未達成の事業者は、超過達成した事業者から排出権を購入する。無償割当方式に比べ、原単位ベースの目標であるため、意図的または非意図的な航路変更等により、排出量が過去と比べて大幅に変化(減少または増加)する場合の対処が容易となる。しかし、航路変更により海象が大幅に変化する場合等には対処が困難であろう。以上を総括すると、海運事業における排出量取引は広範なスキームを想定すると、広- 13 -14範な主体の参加の確保と、資金の徴集・管理・支出に関するインフラの整備という点で課題を生じる。受容性を高め、インフラを管理する手段としてはEUETS における航空部門の包含のように特定地域に限定した制度を発足させることが考えられるが、これを海運に適用すると、制度の意図的または非意図的な回避が航空に比べて容易であることが課題となる。このような「受容性と回避のジレンマ」は航空部門でも同様であるが、航空は航路変更が(海運と比べて)困難であり、また事業者と機材の国籍が同一である等、地域限定型スキームによる「回避」の問題は海運と比べて生じにくい。これらの課題はいずれも解決に時間を要するものであり、海運事業における効果的な排出量取引制度の導入には入念な検討を要することとなろう。2.2.2 国際海運燃料に対する課金一般に環境税等の課金は、①価格弾力性を利用した燃料消費低下・省エネインセンティブの付与、及び②税収入による対策実施の2 種類の目的がある。ここで、代替策の講じにくい輸送燃料は一般的に価格弾力性が低く、①を目的とすると必然的に税が高額となり、海運事業者に与える影響が大きいものと考えられる。価格弾力性を利用した燃料消費量の削減環境税で達成する場合を想定した日本での試算は45,000/t-C であり13、石油1 トン当たり約37,000 円(ほぼ重油価格と同等)である。②を目的とする場合税額は比較的低いと想定されるため、現状の提案では②を想定したものが多い。上記の②を主目的とした国際燃料に対する課金は、IMO においては、デンマークが提案している。これは国際海運を行う船舶に対して、登録された燃料販売者からのみの(課金を付加した)燃料の購入を義務付けるものであり、これら燃料販売者は課金をIMO が設立する国際GHG ファンドに送付する。ファンドは徴集した資金を温室効果ガス排出削減及び適応等に用いる。提案によれば、非締約国の船舶も、締約国に寄港する場合に検査を受けるため、登録された燃料販売者から課金付き出燃料を購入するインセンティブが生じるとしており、また国際的なファンドの事例としては国際油濁補償基金(IOPC)と類似するため、その知見が活用できる(IOPC がファンドの運営に当たることも考えられる)としている。デンマーク提案について以下に示す。13 中央環境審議会、2003.- 14 -15表 2-2 デンマークによる課金提案の概要項 目 概 要全体スキーム ・ 燃料販売者(bunker fuel suppliers)を所在する各国が登録。船舶は登録された燃料販売者からのみ購入できるものとする。・ IMO 管轄下に「国際GHG ファンド(International GHG Fund)」を設立。登録された燃料販売者は販売した燃料に応じた課金額をファンド管理者に送付。課金額 ・ 未定。対象 ・ 国際輸送を行う400 総トン以上の船舶14。課金の使途 ・ 温室効果ガス排出削減、気候変動影響緩和(とりわけ後発途上国、島嶼途上国を優先)・ 船舶の高効率化のための研究開発、既存のIMO の枠組内での技術協力、国際GHG ファンドの運営。検証 ・ 登録された燃料販売者からの購入、及び課金が支払われたことを証明する文書を各船舶に保存。各国の責務 ・ 自国に所在する燃料販売者の登録。・ 自国船籍船が登録された燃料販売者からのみ購入することを義務付け。・ 自国の港湾・領海に停泊する非締約国船籍船に対する検査。その他 ・ 非締約国に所在する燃料販売者も自主的に登録可能とする。(出典:IMO に対するデンマーク提案(2009 年2 月13 日))また、UNFCCC においては、ツバルが提案している(税収は適応対策への使途を想定している)。さらに、より詳細な提案を、有識者がNPO であるIMERS を通じて、いくつかの場で行っている。これによると貨物の最終価格に対して賦課され、税収は(主として途上国の)気候変動に対する適応、海運事業者の排出削減のための排出権購入、海運部門の技術革新に用いられることを想定している。このうち適応及び排出権購入は、実質的には海運部門から他部門への資金移出となる。国際輸送燃料に対する課金のメリットとしては、概念的にシンプルであり、かつ理論的には経済的効率が高く、公平であることが挙げられる。環境団体WWF は下記の点を主張して課金の優位性を主張している15。・ 3000 総トン以下の船舶を免除することにより、(小型船舶が寄港する)小島嶼国への影響を最小限とする制度を構築可能。・ 課金額を27 ドル/トン燃料(現在の重油価格の5%程度)とした場合、食糧価格への影響は0.5%以下。・ 同様に、輸出への影響は1~2%以下。・ 省エネインセンティブが高まるため、造船業には好影響を与える。14隻数の75%(43,093 隻)、排出量の95%を捕捉可能とされている。15 Peter Lockley, International Shipping in a post-2012 climate deal, WWF Background Paper, December,2008- 15 -16反面、課金には主として運用面での課題が指摘されている。これらの例としては下記が挙げられよう。・ まず、海運は(航空と異なり)給油地点の自由度が高いため、上記のような課金は全世界、少なくとも主要港湾で実施しないと効果が薄い。しかしシンガポール、ドバイ、上海等、昨今の主要港湾の多くは途上国に存在するため、途上国の協力を得る必要がある。・ 次に、多くの途上国は逆に石油等の化石燃料に課金するどころか、むしろ補助を行っており、課金に対する国内・国際インフラが未整備である。このような状況で外航海運に対する資金徴集のための機関の設立が現実的に可能かどうか、検討が必要である。また、一国内で外航燃料に課金して内航燃料等を補助するような事態が生じると、内航燃料の外航への融通のような回避行動インセンティブとなる。IOPC のような資金メカニズムもあるが、ファンドの拠出主体はタンカーにより輸送された燃料油を港湾等で引き取る事業者である点が異なる。・ 第三に、課金は他のモードへの転換を(限定的ではあるが)引き起こす可能性があり、海運から他の輸送モードに転換する場合は温室効果ガス排出量増加の要因となる可能性が高い。また、エネルギー以外のGHG へ対応はさらなる制度上の課題を呈することが問題として挙げることが出来よう。以上のように国際輸送燃料に対する課金は概念的にはシンプルであるものの、排出量取引同様に「受容性と回避のジレンマ」の克服が必要となる。さらに、徴集及び収益の管理・支出に関する政治的合意及びインフラの整備という点で未解決の課題が多く、これらの検討が必要である。- 16 -172.3 プロジェクトメカニズムの活用経済的手法の例として排出量取引及び課金について概観した。これらに加え、これまでIMO 及びUNFCCC の場でほとんど議論されていない市場メカニズムとして、海運においてCDM16同様のプロジェクトメカニズムを行うことも考えられる。即ち、国際海運事業をキャップのかからない非附属書Ⅰ国と同等の存在として扱い、排出目標を有する国(附属書Ⅰ国)は、海運事業により排出削減対策を実施、排出削減量をクレジットとして自国の排出目標に加算するというものである。即ち国際海運事業は純粋に排出削減クレジットを提供する存在となる。図 2-1 国際海運事業におけるプロジェクトメカニズムのスキーム現在、このようなプロジェクトメカニズムがIMO またはUNFCCC の場で議論される予定はないが、上記で検討した排出量取引や課金のような制度と比較して、プロジェクトメカニズムのメリットとして下記が挙げられよう。・ 海運事業自体にペナルティを与えるものではない。プロジェクトメカニズムは海運事業を一種の非附属書Ⅰ国と同様に捉えており、自らに排出削減を義務付けるものではない。海運事業の中に、課金/褒賞や排出権獲得/移転等により資金を拠出する主体と享受する主体を作り出すものではない。・ 先進国と途上国(事業者、船籍)の区分を考える必要がない。本制度は国際海運事業を一体として捉えるため、全ての海運事業者・船舶は自らが排出削減義務を負う存在とはならない。このため、国際的な受容性が高いことが期待される。・ 造船事業者、船主、オペレーターという多様な主体への対応が可能。外部の排出削減インセンティブを活用することにより、造船事業者、船主、オペレーターという16 CDM の現状については参考資料 1 に示した。各国(または排出企業等) 国際海運事業対価排出削減クレジット排出削減プロジェクトの実施- 17 -18多様な主体への対応が可能である。・ 技術革新に直結する。排出量取引や課金等、あらゆる価格インセンティブは高効率船舶の普及につながるが、プロジェクトメカニズムでは高効率・低排出技術そのものをターゲットとすることが可能である。図 2-2 造船需要急増の影響フロー本制度の課題としては下記が挙げられよう。・ 将来的な大規模排出削減の要請への対応策としては不十分:現状の市場価格(プロジェクト事業者に対する対価としては10~15USD/t-CO2 程度が想定される)は燃料価格の約1/10 のレベルであり、(オペレーターへの)排出削減インセンティブをドラスティックに増加させることは難しい。また、「CDM なかりせばできなったか」を問う現在のCDM の考え方は、比較的短期的に立案・実施可能な排出削減対策の早期実現に効果的であり、リードタイムが長い対策や研究開発途上の対策には最適とは言えない。・ CDM 同様のインフラ(理事会、技術パネル、認証・検証)を整備する必要がある。具体的には、CDM 理事会と同様に、制度を運営する機関が必要となる。また、個別プロジェクトの本制度上の妥当性及びそれらプロジェクトに起因する排出削減量の検証(CDM のValidation 及びVerification に相当)を行う機関が必要となる。ここで、本プロジェクトメカニズムは単一分野であるためにプロジェクトのジャンルが少なく、既存のCDM 理事会の知見が活用可能であろう。またCDM の運営組織(DOE)に相当する検証機関の業務としてプロジェクトの認証、及び排出削減量の検証の2つに大別されるが、このうち少なくとも認証業務については、既存の船級登録検査を行う機関の業務と類似すると考えられる。以上のように、これら必要とされる機関の具備すべき資質を想定すると、追加的に必要な制度インフラは排出量取引や課造船需要は高効率技術を持つ国(日本、韓国、EU)以外にも波及。造船需要の急増既存船舶の使用期間の長期化。高効率技術を持たない国での造船需要の発生。低効率船舶の長期利用海運需要は、長期間低効率船舶により充足される可能性国際海運需要の急増- 18 -19金のような他の経済的手法に比べて少ないと考えられる。・ 京都議定書上の位置づけについて検討する必要がある。前述のように、京都議定書第2 条2 項では、附属書I 国はIMO 及びICAO を通じて温室効果ガスの排出削減に関する対策を追求する旨規定しているが、非附属書Ⅰ国の役割については言及していない。従って本制度と京都議定書の関連について改めて法的な整理が必要となろう。この点は他の経済的手法についても同様に想定される。これについては後述する。プロジェクトメカニズムに伴うこれらの課題は、経済的手法や課金のような他の対策についてもある程度類似している。排出量取引や課金そのものにより誘発されるより、排出権収入・課金収入がR&Dに用いられることの方が直接的な効果は高いと考えられ、また排出量取引や課金も制度的インフラが必要であろう。また、排出量取引や課金は、海運事業単独で(気候変動枠組条約や京都議定書とは別個に)実施するのではない場合、やはり京都議定書上の位置づけについて検討する必要があろう(京都議定書上の位置づけの検討はとりわけ排出量取引について必要である)。このように、プロジェクトメカニズムに伴う課題は、排出量取引や課金のような他の経済的手法に比べてプロジェクトメカニズムの魅力を大幅に減じるものではない。- 19 -203. プロジェクトメカニズムの導入可能性及び効果の検討ここでは、上記のようなプロジェクトメカニズムを海運事業に導入する場合を想定し、その可能性及び効果について検討する。具体的には下記の項目について取り上げる。なお、前述のように、本報告書で検討するようなプロジェクトメカニズムは、現状ではIMOやUNFCCC の場で提案・議論される選択肢とはなっていない。・ プロジェクトメカニズムの位置づけ(気候変動枠組条約/京都議定書とプロジェクトメカニズムはどのような関係とすべきか)・ 想定されるスキーム(多様な主体が関与する船舶において、どのようなスキームでの運用が考えられるか)・ 諸課題の検討(プロジェクトメカニズムに伴う諸課題についてどのように検討されるべきか)また、プロジェクトメカニズムにより想定されるプロジェクト(1 隻、1 年あたり)の排出削減効果について概略的に試算した結果を下記に示す。表 3-1 典型的な船舶における排出削減プロジェクト実施の場合の排出削減量燃料消費量(トン)排出量(t-CO2)17排出削減量(t-CO2)t t-CO2 3%効率向上 5%効率向上 10%効率向上バラ積み貨物船主機 10,315 31,151 935 1,558 3,115補機 996 3,008 90 150 301石油タンカー主機 19,982 60,346 1,810 3,017 6,035補機 1,947 5,881 176 294 588コンテナ船主機 44,882 135,544 4,066 6,777 13,554補機 2,623 7,920 238 396 792自動車専用船主機 10,333 31,206 936 1,560 3,120補機 811 2,450 73 122 245(詳細は参考資料 2 に記載)17 燃料油の排出係数は Updated study on greenhouse gas emissions from ships(IMO)においてHeavyfuel oil の係数である3.02t-CO2/t-fuel を用いた。- 20 -213.1 プロジェクトメカニズムの位置づけこのようなプロジェクトメカニズムは気候変動枠組条約及び京都議定書のような国際条約でどのように取り扱われるべきであろうか。主なオプションは2 つある。・ UNFCCC/京都議定書スキームとのリンク・ UNFCCC/京都議定書スキームとリンクせず、一種のVerified Emissions Reduction(VER)スキームとして実施する。これらについて述べる。3.1.1 オプション1:UNFCCC/京都議定書スキームとのリンクまず、国際海運におけるプロジェクトメカニズムをUNFCCC/京都議定書スキームとリンクさせることにより、各国の温室効果ガス排出削減目標の遵守に資するというオプションが想定できる。この場合、海運事業は外部クレジットの供給主体として位置づけられ、また各国の温室効果ガス排出削減目標達成のインセンティブを自らの温室効果ガス排出削減に活用できる。前述のように、京都議定書上では附属書I 国は、国際海運及び国際航空起源の温室効果ガス排出削減をIMO(海運)及びICAO(航空)において追及すべきと規定されている。従ってこのようなプロジェクトメカニズムの実施を京都議定書に基づくものとするためには、現状の京都議定書第2 条2 項を改正する必要が生じる可能性もある。現在国際的に交渉課題となっているCDM の改革問題(プロジェクト種類の拡張、セクターアプローチの導入、組織管理面での改善)の多くが、京都議定書の施行細則とも言うべきマラケシュ合意の改定だけで盛り込むことが可能であり、近年COP 等で紛糾した炭素回収・貯留(CCS)については、マラケシュ合意を改訂せずにCDM に取り組む方向で検討されている18。一方、京都議定書上では、「附属書I 国は、国際海運及び国際航空起源の温室効果ガス排出削減をIMO(海運)及びICAO(航空)において追及すべき」と規定されており、このようなプロジェクトメカニズムの実施を京都議定書に基づくものとするためには、現状の京都議定書第2 条2 項を改正する必要が生じる可能性もある。本プロジェクトメカニズムは、付属書I 国と非付属書I 国のいずれにも属していない国際海運を、全体として非付属書I 国にみなすという割当に関する解釈の問題が生じるため、議定書レベルの改正を要する可能性があると言える。もっとも、附属書Ⅰ国(B 国)による排出削減を規定している京都議定書は、非附属書Ⅰ国で実際の排出削減を行うCDM について第12 条で記載している。このため、海運18 マラケシュ合意に対する、通常のCOP/MOP 決定としての改定は既に小規模CDM の拡張等で実施されている。- 21 -22に対するプロジェクトメカニズムの適用が「IMO の主導により」かつ「附属書Ⅰ国が京都議定書の目標を達成するために」運営・実施されるのであれば、京都議定書第2 条2項と矛盾しないと解釈されうる可能性もある。このような条文の解釈が認められるためには、まず法的専門家の検討が行われ、次いで国際交渉上での同意獲得が必要となろう。このように京都議定書のスキームとリンクすることは制度にcredibility を与え、広範な関心を(海運と直接的には無関係の)主体からも喚起できるという点で望ましい。3.1.2 オプション2:UNFCCC/京都議定書スキームとリンクしない国際海運に対するプロジェクトメカニズムは、UNFCCC/京都議定書スキームとリンクしない場合にも機能しうる。この場合、一種のVER(verified emission reductions)として、自主的なカーボンオフセットマーケットで機能させることが考えられる。購入対象者は(海運事業自体が目標を持たない場合)、京都議定書等の国際合意等に参加していない主体が想定される。このようなスキームのメリットとしては制度的にシンプルかつ安価であり、登録簿等も不要となることが挙げられる。このオプションのデメリットとしては、京都議定書/気候変動枠組条約に基づく国際的な「裏書き」がないことであり、これは制度の有効性にマイナスに作用しうる。VERマーケットにおいて国際海運部門が不利な点として、どの国にも属しておらず、従って間接的にも一国の京都議定書遵守に資することがないという点である。3.1.3 結論上記を鑑みると、最も効果があり、本来的に望ましい制度は気候変動枠組条約/京都議定書に沿った国際的な温室効果ガス排出削減制度オプション1 であり、第一義的に検討すべきであろう。海運に対するプロジェクトメカニズムについては現在COP で議論されているAWGLCA(京都議定書に捉われないポスト2012 の枠組検討)やAWGKP(CDMのあり方等の京都議定書第2 約束期間の検討)のような包括的な検討の一環として含まれることは可能と考えられよう19。前述のように国際海運部門の排出削減は京都議定書第2条2項の範疇に属するかどうかの議論を行わなければならないため、第一約束期間内でのプロジェクトメカニズムの合意は現実的とはいえない。ただし、第一約束期間内に原則合意を行った以降の排出削減を事後的に早期削減クレジットとして計上するような試みは想定されよう。両オプションの折衷案として「国家的または地域的な温室効果ガス排出削減イニシアティブに包含」というものも想定できる。この代表的な例としてはEU 排出量取引スキ19 AWGLCA やAWGKP の議事の追加が今後も可能と想定した場合。- 22 -23ーム(EUETS)への国際航空部門の包含が挙げられる。これは対象地域が限定される半面、強化された拘束力を持つ制度として一定の効果も期待できるが、EUETS で対象とする航空部門がEU より離陸・着陸する便に限られているように、地域的限定によるカバー率が低減される。前述のように海運の場合、航空部門以上に制度の回避が容易であると考えられるため、地域的限定のメリットも損なわれる可能性がある。- 23 -243.2 想定されるプロジェクトスキーム海運事業に対する国際的なプロジェクトメカニズムが制度的に認められたと仮定して、ではどのようなスキームが可能であろうか。以下に類型化して記載する。下記の類型が考えられよう。これらは下記のように一覧される。表 3-2 プロジェクトスキーム一覧# 主体となる事業者1 船主2 造船会社または舶用機器メーカー3 船主または海運事業者4 海運事業者5 荷主6 -(不特定)- 24 -253.2.1 スキーム1:船主イニシアティブ本スキームでは、プロジェクトメカニズムにより、船主がより高効率な船舶を発注することが可能となる(あるいは既存の船舶のレトロフ
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