成果報告書「第 2 回日印海洋安全保障対話:アジアにおけるパワーゲーム」2013 年 3 月 31 日海洋政策研究財団1本書は、海洋政策研究財団が 2012 年度に実施した国際会議「第 2 回日印海洋安全保障対話:アジアにおけるパワーゲーム」の概要と成果を報告するものである。2目 次1 研究事業の趣旨等(1)目 的(2)計 画(3)研究の背景2 2012 年度国際会議の実施事項(1)日時・場所(2)テーマ(3)参加メンバー3 2012 年度国際会議の実施概要(1)プログラム(2)発表・討議の概要4 2012 年度の成果添付:2012 年度の国際会議について報じた産経新聞記事添付:発表資料綴り31 研究事業の趣旨等(1)目 的東・南アジアの国際関係と JIA シールートの安全保障に大きな影響力を及ぼすインドとの海洋安全保障協力についての対話を通じ、太平洋からインド洋にまで及ぶ広域圏における安全保障と経済発展に貢献する日本とインドの関係発展への礎とする。(2)計 画本研究事業は 2011 年度から 2013 年度までの 3 年計画とし、日本とインドで交互に 3 回のダイアローグを開催する。第二回である 2012 年度については、以下の方針に沿って実施した。2012 年度:西太平洋とインド洋を対象海域とし、東アジアの海域の地政学的特徴、特にアメリカの衰退と中国の台頭によって活発化するパワーゲームに焦点を当てる。同時に、伝統的、非伝統的安全保障の両方に焦点を当て、その中で、日印関係はどのような可能性を有するのか、意見交換の中で明らかにする。(3)研究の背景海洋政策研究財団は、海洋国家としての国家戦略を模索する日本とインドとの協力関係推進を目的とし、2003 年から 2006 年まで、「日印海洋安全保障ダイアローグ」を 5 回開催し、その成果の総括として「日本とインドの間の海洋安全保障協力に関する共同声明」を作成し、海上犯罪への対応、海洋情報の交換と共有、海事産業部門での協力強化の必要性等を提唱した。このダイアローグの取り組みはその後の政府レベルにおける日印関係の発展に大きく寄与したものと思量する。その後、ソマリア沖での海賊事案の激増、対テロ戦争の長期化、中国の海洋進出と海軍力増強、海洋資源への依存度の世界的高まり、対策が遅れる地球温暖化による海洋自然環境への影響、インドの経済発展等々から、経済の大動脈となるJIA(日本―インド洋―アラビア海)シールートを巡る安全保障環境は大きく変化した。一方、インドは日本のODAの最大の受益国であるものの、日印両国の民間から民間への投資や協力の度合いは諸外国と比べても見劣りし、日印関係にはまだまだ改善の余地がある。また、地政戦略を考慮した日印関係の重要性は以前にもまして高まっており、あらためて日本とインドのトラック 1.5の特性を生かした様々な分野を議多大とする海洋安全保障ダイアローグを開催する必要がある。一方、アメリカ、オーストラリア、シンガポール等の日本やインドと同じ海洋民主主義国家と連携し、航行の自由と自由経済を尊重する共存関係を構築する手段を追及していくことも、グローバリゼーションが急激に4進行することによって新たな問題が浮かび上がってきた現在において重要な課題である。以上の認識に基づき、2011 年度から日本とインドの海洋安全保障協力に係る対話をあらためて実施するに至った。2012 年度はこの 2 年目である。2 2012 年度国際会議の実施事項2011 年度に続く第 2 回目の国際会議「第 2 回日印海洋安全保障対話:アジアにおけるパワーゲーム」を、インドのニューデリーの 3 つの研究機関インド防衛研究所(The Institute for Defence Studies and Analyses(IDSA)),インド国家海洋財団(National Maritime Foundation(NMF)), インド洋研究センター(Society forIndian Ocean Studies(SIOS))と以下の通り共催した。(1)日時・場所:2012 年 10 月 31 日、11 月 1 日 インド・ニューデリーの IDSA の大講堂(2)テーマ:「第 2 回日印海洋安全保障対話:アジアにおけるパワーゲーム」を全体のテーマとし、海洋において高まる挑戦、インド洋と太平洋のかかわり、非伝統的脅威―テロ、海賊、サイバーテロ、インド・日本そしてアセアンの4つを各セッションで発表・討議した。(3)参加メンバーインド(現役の政府関係者)アシュウィニ・クマール(インド法務大臣)(Dr. Ashwini Kumar, Union Minister for Law.)パラムラジュ(インド閣外国防大臣)(Pallam Raju, Mnister of State for Defence)アルン・プラケシュ(国家安全保障顧問会議)(Adm. Arun Prakash, Member, National Security Advisory Board, India)サンジャイ・シン(インド外務省(東アジア担当)長官(副大臣相当))(Sanjoy Singh, Secretary (East), Ministry of External Affairs)K.ナタリジャン(インド沿岸警備隊副本部長)(IG.K Natarajan, DDG(P&P), Coast Guard, India)5(その他、発表者およびディスカッサント)アヴィンドラ・グプタ(インド防衛研究所ディレクター所長)(Dr. Arvind Gupta, Director General, IDSA, India)S.D.ムニ(インド防衛研究所上級研究員)(Prof. SD Muni, Senior Visiting Scholar, IDSA, India)サムエル・チェリアン(インド防衛研究所準研究員)(Dr. Samuel Cherian, Associate Fellow, IDSA, India)プラディープ・カウシバ(インド国家海洋財団ディレクター)(V Adm (Retd) Predeep Kaushiva, NMF, India)ジョシー・ポール(インド国家海洋財団準研究員)(Dr. Joshy M Paul, Associate Fellow, NMF, India)ミハエル・ロイ(インド洋研究センター・ディレクター)(V Adm (Retd) Mihir Roy, Director, SIOS, India)プレムビル・ダス(インド洋研究センター)(V Adm (Retd) Premvir Das, SIOS, India)ラジブ・バティア(インド世界問題評議会会長)(Amb. Rajiv Bhatia, Director General, Indian Council of World Affairs, India)ヴィジャイ・サクジャ(インド世界問題評議会ディレクター)(Dr. Vijay Sakhuja, ICWA, India)アフターブ・セット(サン・エンド・サンズ・グループ会長)(Amb. Aftab Seth, Sun and Sands, India)GVC・ナイドゥ(ジャワハルラル・ネルー大学教授)(Prof. GVC Naidu, Jawaharlal Nehru University, India)サミヤ・チャクラボティ(元提督)(R Adm (Retd) Samir Chakravorty, India)P V・ラオ(オスマニア大学インド洋研究センターディレクター)(Prof. P V Rao, Director, Indian Ocean Institute, Osmania University, India)ラジャ・モハン(オブザーバー研究財団戦略研究長)(Dr. Raja Mohan, Head, Strategic Studies and Distinguished Fellow, ObserverResearch Foundation, India)プラバル・ゴッシュ(オブザーバー研究財団主任研究員)(Capt(Retd) Dr. Probal K. Ghosh, Senior Fellow, Observer Research Foundation, India)バラダス・ゴーシャル(インド政策研究センター上級研究員)(Prof. Baladas Ghoshal, Senior Research Fellow, Centre for Policy Research, India)日本秋山昌廣 (海洋政策研究財団特別顧問)秋元一峰 (海洋政策研究財団政策研究グループ主任研究員)犬塚 勤 (海洋政策研究財団企画グループ長)髙田 祐子(海洋政策研究財団海技研究グループ国際チーム員)長尾 賢 (海洋政策研究財団政策研究グループ研究員)6堀本武功(京都大学大学院特任教授)金田秀昭(岡崎研究所理事)小原凡司(安全保障アナリスト)清田智子(マニパール大学客員研究員)オーストラリアジェームズ・ブラウン(ローリー国際政策研究所軍事研究員)(Mr. James Brown, Military Fellow, Lowy Institute for International Policy)シンガポールクリストファー・レン(スウェーデン安全保障開発研究所研究員)(Dr. Christopher Len, Research Fellow, Institute for Security & Development Policy)アメリカ(荒天によるフライトキャンセルにより欠席)トシ・ヨシハラ(アメリカ海軍大学教授)(Prof. Toshi Yoshihara, US Naval College)(オブザーバー)日本大使館から参加した三笠展隆防衛駐在官、砂田浩孝共同通信のニューデリー支局長をはじめとして、連日 30~70 名程度のインド軍関係者、研究者等が出席。3 2012 年度国際会議の実施概要(1) プログラム10 月 31 日(水)インド防衛研究所(IDSA)講堂にて会議開始9:30―10:00 参加登録10:00―11:30 基調演説(議長)ミハエル・ロイ(インド洋研究センター・ディレクター)歓迎演説 アヴィンドラ・グプタ(インド防衛研究所所長)方針表明 ミハエル・ロイ(インド洋研究センター・ディレクター)基調演説 1 秋山昌廣(海洋政策研究財団特別顧問)基調講演 2 アルン・プラケシュ(国家安全保障顧問会議メンバー)7基調講演 3 プレムビル・ダス(インド洋研究センター)就任演説 アシュウィニ・クマール(インド法務大臣)感謝決議 プラディープ・カウシバ(インド国家海洋財団ディレクター)11:15―11:45 ティーブレイク11:45―13:30 セッション 1:「海洋において高まる挑戦」議長: アヴィンドラ・グプタ(インド防衛研究所所長)発表者 1: 金田秀昭(岡崎研究所理事)発表者 2: トシ・ヨシハラ(米海軍大学教授)※荒天によるフライトキャンセルにより欠席発表者 3: ジョシー・ポール(インド海洋財団準研究員)発表者 4: 長尾賢(海洋政策研究財団研究員)ディスカッサント: サミヤ・チャクラボティ(元提督)13:30―14:30 昼食 (IDSA)14:30―16:00 セッション 2「インド洋と太平洋のかかわり」議長: 金田秀昭(岡崎研究所理事)発表者 1: 堀本武功(京都大学大学院客員教授)発表者 2: アフターブ・セット(サン・エンド・サンズ・グループ会長)発表者 3: 秋元一峰(海洋政策研究財団主任研究員)発表者 4: ヴィジャイ・サクジャ(インド世界問題評議会ディレクター)ディスカッサント: PV ラオ(オスマニア大学インド洋研究センター・ディレクター)16:00―17:30 セッション 3「非伝統的脅威―テロ、海賊、サイバーテロ」議長: プラディープ・カウシバ(インド国家海洋財団ディレクター)発表者 1:K.ナタリジャン(インド沿岸警備隊副本部長)発表者 2:清田智子(マニパール大学客員研究員)発表者 3:サムエル・チェリアン(インド防衛研究所準研究員)発表者 4:ジェームズ・ブラウン(ローリー研究所軍事研究員)ディスカッサント: プラバル・ゴッシュ(オブザーバー研究財団主任研究員)17:30―写真撮影819:30―22:00 パラムラジュ閣外国防大臣主催夕食会(Hon'ble Pallam Raju of Defence Ministry11 月 1 日(木)IDSA の講堂にて09:30―11:30 セッション 4「インド、日本そしてアセアン」議長: サンジャイ・シン(インド外務省(東)長官)発表者 1:GVC・ナイドゥ(ジャワハルラル・ネルー大学教授)発表者 2:小原凡司(安全保障アナリスト)発表者 3:クリストファー・レン(スウェーデン安全保障開発研究所研究員)発表者 4:バラダス・ゴーシャル(インド平和紛争研究所)ディスカッサント: S.D.ムニ(インド防衛研究所上級研究員)11:30―11:45 ティータイム11:45―12:45 閉会セッション議長: ラジブ・バティア(インド世界問題評議会会長)終了講演 1:プレムビル・ダス(インド洋研究センター)終了講演 2:秋山昌廣(海洋政策研究財団特別顧問)終了講演 3:ラジャ・モハン(オブザーバー研究財団戦略研究長)感謝表明: ジョシー・ポール(インド国家海洋財団準研究員)(2) 発表・討議の概要「第 2 回日印海洋安全保障対話:アジアにおけるパワーゲーム」ア 開会セッション(ア)アヴィンドラ・グプタ(インド防衛研究所ディレクター・ジェネラル)今回の日印海洋安全保障対話が日印国交 60 周年に開催されることをうれしく思う。現在、アメリカはアジアの同盟・提携関係に注目しつつあり、アジア諸国自身も提携を模索しついる。アジア太平洋地域における日印豪の連携はその一例である。これらの戦略的な提携は中国に対する不安が作り出したもので、9これらの国すべてがアメリカとの緊密な連携を進めているのである。(イ)ミハエル・ロイ(インド洋研究会・ディレクター)今回の対話はもともと海洋政策研究財団とインド洋研究会が行っていた海洋安全保障対話としては 6 回目のものでもある。今回は IDSA と NMF もともに参加した。よい会にしたい。(ウ)秋山昌廣(海洋政策研究財団特別顧問)日印関係は、過去 10 年、以前に比べれば急速に進んでいる。日印の国益上の意見が一致するため、日印はインド太平洋地域でより大きな役割を果たすと考えられる。両国の防衛交流については、より深める必要がある。特に南シナ海から東シナ海における中国の強引な傾向はインド洋へ拡大する傾向を見せており、両国にとって懸念材料となっている。インド太平洋において安全保障に関する多国間対話を進めることは、協力関係を深めるために役立つものであり、日印の戦略パートナーシップを前に進め、集団的自衛に関する議論も始めるべきである。日米豪印は海洋問題で協力するべきである。(エ)アルン・プラケシュ(国家安全保障顧問会議)今はまさに、インド、日本、中国そして他の国とも多国間の対話枠組みをつくって相互の不信と、海軍力増強レースを緩和する必要な時である。基本的な疑問は、どんな協力関係なら可能で、どんな紛争が不回避になっているのか、である。海賊対策や偶発的衝突防止のための地域的な枠組み、海洋における情勢把握にかかわる枠組みが、協力的な取組を実現させるための基盤になるものと考えられる。そのためには、最近注目を集める西太平洋だけではなく、日印協力は、マラッカ海峡の両側、インド太平洋という大きな枠組みでアジアの協力枠組みを考える必要がある。(オ)プレムビル・ダス(インド洋研究センター)日印は、民主主義の伝統、エネルギー資源の依存、海洋貿易への依存、中国の隣国、中国が主要な貿易相手国であること、などを共有した自然な同盟国である。このような日印の共通点は、経済的かかわりと戦略的な相互理解の強化を通して将来にわたって強化されていくと考えられる。日本は歴史的に海洋国家であり、インドは大陸国家であるが、現在は海に焦点を当てている。(カ)アシュウィニ・クマール(インド法務大臣)日本はインドのルック・イースト政策にとって重要な国である。インドと日本は新しいアジアにおいて自然なパートナーであり、日印関係はアジアに安定をもたらし得、より広く世界のグローバルな平和と安全保障にも貢献し得る。両国の首相が定期的に相互に訪問していることは、両国の関係を強めている。日本は東アジアサミットのような地域の枠組みにインドが入れるよう助けてお10り、そのことで日印関係は過去 10 年変化を遂げてきた。今日、日印関係はより多く国益上一致する部分をを見出しており、グローバルなレベルでより決定的な役割を果たすことができるだろう。イ セッション 1:「海洋において高まる挑戦」(ア)金田秀昭(岡崎研究所理事)中国の台頭に従って、日本の防衛戦略は複雑な状況になってきている。地域のほとんどの国が海軍力を増強中である。中国の台頭と、それに伴うエネルギー消費の増大を賄うためのエネルギー供給地、輸送路としての海洋の重要性の高まりは、アメリカの戦略の中心を大西洋から太平洋へと変えることにつながっており、複合的な緊張を生み出している。地域の海洋めぐる領有権争いはより戦略的、経済的な環境の悪化を招く可能性がある。中国海軍の近代化によってもたらされた地域全体の海軍力の近代化は警戒感をもってみるべきものである。対艦弾道ミサイル、攻撃型空母、第五世代戦闘機、宇宙空間およびサイバー空間における攻撃能力の取得、昨今の A2/AD 戦略は、日本にとって深刻な懸念材料である。日本は独立を守るために、政治、経済、社会がどのようにあるべきか決めなくてはならない。そして、文化を守り、伝統を守り、価値を守らなくてはならない。日本の海洋防衛戦略の目的は領土を守り、戦略的に重要な周辺水域を守ることで、周辺水域には西太平洋が含まれる。そして中国の A2/AD 戦略を阻止する防衛態勢を整え、自律的で堅固な海洋防衛力を整えることが必要である。日本は、「ダイナミックな防衛力」を創設したい。これは、日米海洋同盟上の協力をより深く、より広範に深化させること、シーレーンを自らの力と、共通の価値を有する志を同じくする各国との協力によって守ることが含まれる。今必要なことは、日印米のミニラテラルな海洋パートナーシップによって、不安定なアジア太平洋地域におけるに対処することである。(イ)トシ・ヨシハラ(アメリカ海軍大学教授)荒天によるフライトキャンセルにより欠席。(ウ)ジョシ―・ポール(インド国家海洋財団準研究員)リアリストのパワーポリティクスの勢力均衡の見方に従えば、日印関係はゆっくりとではあるが着実に深まり、日印が、アジアが一つのパワーによる覇権に陥らないようになるための主導的な役割を果たすことになると考えられる。中国は、アメリカ主導の東アジア秩序に挑戦することが可能であるけれども、中国の最近の行動・声明をみるかぎり、中国は自らを穏健な超大国として認めさせるために、周りの国を説得しているようにはみえない。中国は大陸から海洋へと、パワープロジェクション能力を転換してきている。現在の戦略では、中国は主要な地域的な海軍国家として影響力を拡大するつもりである。中国の11海洋戦略は、太平洋では接近拒否、南シナ海の併合、インド洋への拡大というものである。中国の南シナ海の併合のための活動は、インド太平洋全体の海洋安全保障に対する主要な脅威となっている。中国は、インド周辺各国のと協力してインドを包囲し、また、ヒマラヤ山脈における軍事化を進め、インドの軍事力に投入できる資源を海洋から陸上にシフトさせて、インドがインド洋で他の国と協力した支配的な国になることを阻止しようとしている。アジアは今、中国の攻撃的な態度を封じ込めるための、「戦略的提携」システムを構築しつつある。そのため、地域の各国は軍事的能力を強化している。アメリカの中国とのバランスをとろうとする動きは、みなが中国を主要な敵とみなしたいとは思っていない上、もしアメリカとの提携に加わった場合、提携のコストも負担することを考えると、あまりいい政策ではないように考えている。けれども、地域各国は東南アジアにおける中国の階層主義的な秩序を受け入れる準備ができていない。そのため、地域的なバランスをとろうとする動きは実行可能な最良の対策になるものと考えられ、緊張を緩和するか、中国を封じ込めることになる。その中で、日本とインドは中軸として重要な役割を果たすと考えられる。(エ)長尾 賢(海洋政策研究財団研究員)日本とインドは遠く離れているのにもかかわらず、どうして関係の強化がどんどん進んでいるのか。それは、アメリカも東南アジアも日印の連携を望んでいるからである。現在、アジアでは、冷戦後のアメリカの海軍力削減の影響で、「力の空白」が生じつつあるものと考えられる。結果、海軍力を削減している米国と、海軍力を増強している中国との間でパワーゲームが展開されるようになっている。特に、東南アジアは、戦略的に重要な地域で、小国に分裂しており、大国に囲まれている状況から、冷戦期に米ソのパワーゲームが展開された中央ヨーロッパによく似た特徴を備えており、米中のパワーゲームの中心地になる可能性がある。そこで、そのような最悪の事態を避けるために、アメリカ海軍削減によって生じた「力の空白」を埋め、安定し繁栄したアジアをもたらす国として、日本とインドに注目が集まっているのである。特にインドについては信頼度の高い安全保障の提供者になり得る。インドは地理的に東南アジアとの近接性があり、東南アジアへの安全保障の提供者になり得る。海軍力も遠洋海軍として展開能力を急速に高めており、安全保障の提供者としての能力も得つつある。そして、民主主義国で、過去の軍事活動において力の使用を極力抑えてきた歴史を持つ。こういったインドの姿勢は信頼度が高いといえる。ただ、問題が一つあるとすれば、それはインド自身がどう考えているのか、はっきりしないことである。日本は、インドが安全保障の提供者として東南アジアに展開し、アジアに安定と繁栄をもたらす存在になること期待している。12ウ セッション2:「インド洋と太平洋のかかわり」(ア) 堀本武功(京都大学大学院客員教授)アジアにおけるアメリカの優位が、地域の安定にとって決定的に重要である。アメリカは三つの戦略で、主張を強める中国に対抗しようとしている。まず、アメリカは中国の海軍力への対抗手段を積極的に推し進めている。二つ目は中国が影響を強めている地域からの撤退を進めている。三つ目はインドや日本といった国々とともに、パワーをシェアする代替となるメカニズムの構築を進めている。ただ、日印間では国益が違う。日印の両方が台頭する中国に対してアメリカとの関係が重要であることは認めているが、日本がアメリカが支配的な地位になることを認めているのに対して、インドは認めるのを躊躇している。このような状態に対応するには、今は、関与とヘッジ両方を進め、よく観察しながら待つことである。将来像は不確かで、アジアが経済的に台頭する中で、アメリカは将来も超大国であるのかどうか、中国が現在の政治体制のまま、現在のような経済成長を持続できるのかどうか、予測しがたいのである。(イ)アフターブ・セット(サン・エンド・サンズ・グループ会長)日印関係は特に戦略面、安全保障面で協力が進んでいる。日印、米印、日米という形で、それぞれが発展した時期は違うのだけれども、発展してきた。焦点を当てるべきは、日印が東南アジア諸国と経済的、政治的に、より信頼関係のある友好的な関係を築くことができるのかどうかである。インドは、歴史的に東南アジア諸国とかかわりが深く、貿易や文化的な交流、学術的な交流等、南シナ海に自らの国境があるかのような状況がある。(ウ)秋元一峰(海洋政策研究財団主任研究員)戦略地政学的にみると、インド洋と太平洋地域は大陸の外延にある国々と多くの島国が出会う地域であり、インド太平洋として一体で捉えるべきである。戦略的に見れば日本もインドもインド太平洋地域における航行の自由を主張している。日印間の協力の焦点は海洋分野になる。だからこそ 2007 年のインド国会における安倍首相の演説は、インド太平洋で「自由な海と繁栄」を追及する協力関係強化に関するものであった。またこの演説は、「大陸の外延に沿って自由と繁栄の弧」という概念を提唱してもいる。安倍首相は国益を共有する様々な地域を選び出し、海洋安全保障面、造船、港湾整備、海洋科学技術、海洋資源開発などの分野で協力を進めることにしたのである。(エ)ヴィジャイ・サクジャ(インド世界問題評議会ディレクター)インド太平洋という概念は、どのような概念であろうか。アジアでは、別々の台頭する経済力のある国々が、相互依存、相互のつながりをもっており、その中に他国・組織も加わって貿易や戦略的活動を行い、問題を形成し続けても13いる。その結果アメリカがアジア太平洋に戦略の軸を移し始め、地域の国家と共に中国を包囲しようとし始めてから、この地域の状況を国境の枠内に収めようという力が働いている。その結果、インド太平洋という概念が生まれた。さらに、EU もインド洋において、地理経済学、地政学、海賊の脅威から航路を守る観点から、無視し得ない。今後、インド太平洋地域が直面するリスクをまとめると、5つの観点がある。国家が影響力を衰退させる可能性、大きすぎて扱い難い地域主義、経済統合を進める困難さ、どの国が多国化進む海洋の状況をリードするか、地域大国の影響下に戻るのか、それとも植民地主義の時代を思い出すことになるのか、である。(オ)PV ラオ(オスマニア大学インド洋研究センターディレクター)インド太平洋においては、統合に向かうというよりは多様化が進みつつある。インド太平洋は貧しさの弧であり、繁栄の弧ではない。ASEAN と南アジア地域協力連合(SAARC)、環インド洋地域協力連合(IOR-ARC)とアジア太平洋経済協力会議(APEC)は相互に複雑である。日米安全保障条約は主張を強める中国に対処するためには決定的に重要である。東アジア首脳会議(EAS)の宣言にもあるように、インド太平洋の重心は ASEAN、東南アジア地域にあるエ セッション3:「非伝統的脅威:テロ、海賊、サイバー空間の安全保障」(ア)K. ナタラジャン(インド沿岸警備隊統括監察官)海賊問題は、現在再び上昇しつつある。最も中心地となっているのはアデン湾である。影響は経済的、政治的双方に及ぶ。経済的な影響は、海賊によって、毎年、世界経済は 120 億ドルものコストを払っていることである。公的権力が不十分であることが、最も大きな要因となっている。政治的な影響には、海賊対策において軍事的解決が不可能なことである。また、取締においては、海賊対策に関する司法権の問題が主要な障害となっている。さらに、海賊の能力について言えば、母船を利用して活動範囲を拡大させていることも問題である。このような状況をみると、海賊活動地域に近く、地政学的にみてもインド洋の中心に位置するインドの役割は大きいといえる。(イ)清田智子(マニパール大学客員研究員)非伝統的脅威への対処は 1970 年代より研究されてきたが、今日、テロリストや海賊の暴力性が増し、軍事の中心的課題になってきている。その中で、2000年代以降、日本は東南アジア地域においても、海賊対策のための巡視艇の供与や資金的な支援を実施しており、効果を上げている。141999 年のアンドラ―レインボー号の海賊事件以来、日印の沿岸警備組織間では連携が進められており、最近では海軍間の協力に発展している。しかし、依然として表面的な協力との指摘もある。日本はインドと真の意味で信頼を醸成する措置を進める必要がある。(ウ)チェリアン・サムエル(インド防衛研究所準研究員)アジアにおけるサイバー空間の安全保障について述べる。サイバー空間においては、サイバー攻撃に該当する事例が増加傾向にある。しかし、サイバー空間を扱うルール、規制が十分ではない。アジアのサイバー空間事情をみれば、その重要性は戦略的なレベルで懸念をもって認識されるべきものといえる。西アジア、東アジア、南アジアはサイバー攻撃が頻発する地域になっている。西アジアでは、アメリカとイスラエルによってコンピューターウイルス・スタックスネット(Stuxnet)がつくられ使用された。一方、東アジアでも、サイバー犯罪が増える傾向にある。ただ、東アジアでは西アジアに比べて規模が小さいといえる。このようなサイバー攻撃をみると、国家間関係が反映されつつあり、特に中国が主要な発信源と考えられるサイバー攻撃が増えている。南アジアにおいては、コンピューターセキュリティの低さ、海賊版のソフトウェア、愛国的なハッカーが主な原因となって、低レベルのハッキングやウェブサイトの改ざんが問題となっている。20 世紀に行われたような国際協力による対策が、21世紀には有効ではないことを自覚したうえで、国際的な協力による新しい対策を進めなければならない。(エ)ジェームズ・ブラウン(ローリー研究所、軍事研究員)民間軍事会社がインド洋の海賊対策において役割を拡大させていることについて述べる。昨今、海賊対策の新しい手段として民間警備員の乗船が行われるようになった。その結果、海賊事件数は減少傾向にある。しかし、このような成功にもかかわらず、民間軍事会社を海賊対策に使用することは、問題を抱えている。特に、海上で射撃した場合、これが国際紛争や偶発的な衝突に発展する可能性を内封している。このような民間軍事会社を海賊対策に用いることは、正当化してもよい側面がある。しかし、公海上で新種のトラブルになる前に、各国政府はどのような役割を担うのか、どこまで制限するのかについて決めなければならない。現在の状況では、政府の政策も、国際機関も、国際法上も、民間軍事会社が急速に役割を拡大しているという、急速に変わる状況に全然対応できていない。(オ)P.K.ゴッシュ(オブザーバー研究財団、上級研究員)海上におけるテロ活動と海賊行為には強いつながりがある。インド洋における海賊の脅威はインド海軍と沿岸警備隊の努力によって排除することが可能である。また、海賊はギニア湾などでも増加し、問題となっているが、これも海15賊対策法ができれば一定の効果がある。しかし、民間軍事会社の活用は、他の問題を引き起こし、全然問題解決の手段にならない。オ セッション4:インド、日本、ASEAN(ア)GVC ナイドゥ(ジャワハルラル・ネルー大学、教授)日印が国交を結んでから 50 年近くになるが、2000 年代後半以降劇的に関係強化が進んだ。特に安全保障面での関係の深化は著しい。このような日印間の安全保障面の関係強化は、多くの国益と懸念の共通性に起因している。昨今の東アジア情勢の進展、地域の安全保障環境の変化は、日印関係の強化の推進材料となっている。インドは経済的に成長しており、それに伴って戦略的も重要性を高めているのであるが、実際には、それだけが主要な原因ではなく、アジアのグローバルな変化、主張を強める中国、将来の安全保障・経済環境への懸念が、日印関係を強く後押ししている。日本が大国としてどの程度アジアの安全保障上の責任を負うつもりがあるのかも定かではない。ただ、直接的にどのような利益を得られるのか、に関わらず、日印は東アジアの政治的秩序を発展させるためのパートナーであり続けるだろう。(イ)小原凡司(安全保障問題アナリスト)アジアにおいては「共通の利益」を見つけることが難しくなってきている。特に中国と東南アジアについては難しい。この利益には安全保障上の利益も含まれる。例えば、欧米諸国が武器を東南アジア諸国に売る場合、欧米諸国は資金を得ることができるし、東南アジア諸国は技術を得ることができ、お互い利益が上がる関係になる。しかし、中国と東南アジア諸国の間では、次第に共通の利益を見出し難くなっている。しかし、日本とインド、東南アジア諸国については共通の利益を見出し得る。これらの国は特に東南アジア地域で紛争が起きると経済的に打撃を受ける国々であり、脅威認識なども共有している。また、特に武器取引について言えば、共通の装備を保有することによって、共通の利益を見出すことができるだろう。日本の US-2 救難飛行艇をインドが購入し、さらには東南アジア諸国が購入し、日本は資金、インドや東南アジアは技術、そして皆が相互運用性を高めるような事態になれば、それは共通の利益を増進することにつながるだろう。(ウ)クリストファー・レン(安全保障開発政策研究所、研究員)中国の政権交代、胡錦濤政権から習近平政権は南シナ海においてどのような変化があるであろうか。胡政権は 2002 年に成立して以来、南シナ海においても「微笑攻勢」をもって接してきた。これは 2008 年になっても続いている。その間、中国は力を蓄え、次第に南シナ海における主張を強めつつある。そして南シナ海における緊張が最高潮に達しつつあるときに、習政権がスタートする。16習政権は 5 つの課題に直面するだろう。1 つは領土問題である。2 つ目は中国が主張する 9 段線の主張の根拠が薄いことから、今後、中国がさらに領土要求を拡大していくのではないかという不安があること。3 つ目は、南シナ海が国際化し、日米豪印各国が介入するようになること。そして ASEAN 諸国の中で南シナ海の問題に直接関係ない国も、中国の南シナ海における主張の意図について懸念を抱きつつあることである。例えばインドネシアやシンガポールは、中国が ASEAN 各国の海底資源を一方的に開発をする動きを見せていることに懸念を持ってきている。(エ)バラダス・ゴーシャル(インド平和紛争研究所、特別名誉研究員)冷戦後のインド・ASEAN 関係の発展をみてみると、インドは 1992 年にセクター別の対話パートナーになり、1995 年からはフルパートナーになった。現在は ASEAN との間で自由貿易協定も結ばれ、より深い関係になっている。インドは東南アジア地域において、様々な国益を調整する一番良い位置にいる。また、インドと ASEAN 関係を強化するためのサブの会議があれば、インド・ASEAN 関係はより強化されるものと考えられる。また、ASEAN 各国は中国とインドの経済成長からより大きな利益を得たいと考えているが、どちらかの大国の支配下に入りたくないとも考えている。ASEAN の安全保障政策は、自分たちの自治権を、周辺の大国の介入から守ること、である。インドは ASEAN と防衛面で協力して、より強い連帯を示す必要がある。(オ)S D ムニ(南アジア研究所、客員研究教授)インド、ASEAN、中国の 3 角関係の将来は、一つに収れんする側面と多様な方向へ進側面がある。その中で、中国の役割が最も大きな影響を与える。事実、現在、中国はゲームを変えつつある。インドと ASEAN には複雑な部分もあるが、インドは常に ASEAN とよい関係にありたいと強く願ってきたといえる。カ 最終セッション(ア)ラジブ・バティア(世界問題評議会会長)これまでの議論から、新しい結論を 2 つ、提起する。日印海洋安全保障対話が初めて開かれた 2003 年以来、国際環境は大きく変化した。1つは、現在では、インド洋と太平洋は一体としてとらえられるようになったこと。もう1つはパワーゲームが激化していること。インドの戦略は何か、日本の戦略は何か、その連携に中国は反対するのか、どうしたらいいのか、議論しなくてはならない。どちらにしても、日本とインドは中国と共にアジアの世紀として 21 世紀をリードしていくことになる。(イ)プレムビル・ダス(インド洋研究会、ディレクター)17日印海洋安全保障対話プロジェクトにおいて、過去行われたすべての対話に参加してきた。過去、日本からはゆっくり進めるべきだというような慎重論があったが、今は共同演習までに至った。アメリカも入れようという主張も出たが、二国間で進めようという話もあった。昨年、クリントン米国務長官が使うようになってインド・太平洋という概念も流行るようになった。中国も変わり、インドにアプローチしている。全体として大きく変わったと思う。続けてきて意義があったといえる。(ウ)秋山昌廣(海洋政策研究財団、特別顧問)日印の問題は単に海洋安全保障の問題ではなく、政治経済全般多くの分野に影響する問題である。また、日印の関係は、より広く米中 ASEAN も含めた中で捉えるべき問題でもある。だから、次に首相になるかもしれない安倍首相が、かつてインド国会で演説したように、日印は「自然な同盟」になるべきと思う。では、この日印の「自然な同盟」とは何か。二つのアジアにおける大きな海洋国家。でもインド太平洋の東西に離れた国である。しかし、価値観、民主主義、表現の自由、人権重視、法律尊重、文化、宗教等共有する部分がある。また、インドは中国のような強引さがない。資源探査や自由貿易圏等についても話ができる関係である。対話もいろいろ行われている。こうしてできる関係が「自然な同盟」であり、実行・行動をもって実現すべきである。(エ)ラジャ・モハン(オブザーバー研究財団、戦略研究長)地政学的なスペース、海を支配する権力闘争、これからアジアにおける秩序の構造はどうあるべきか。その三点について話す。まず、地政学的なスペースについてである。今、地政学の概念は定まったものではない。パワーのバランスによって変化してきており、アジアの新しいパワーバランスを反映して、インド太平洋という概念が提唱されるようになった。地政学は地理的条件に依存しているものの、脅威感や機会によって創造されるものである。アジアにおける競争は陸から海に移ったといえる。これまでアジアの多くの紛争は陸で起こってきた。今、海で起きそうになっている。海における権力闘争についてみると、新しい状況として、インド洋において中国が、太平洋においてインドが重要なプレーヤーになってきていることがある。特に中国は太平洋とインド洋、二つの大洋で台頭している。これは貿易立国として自然なことだが、アメリカの海軍力が落ちる中、どうしたらいいのか。安倍首相によって、日印の協力を示す最初の概念が打ち出されたが、その背景には、このような状況がある。アジアにおける秩序の構造はどうあるべきか。様々な努力が行われたが、結局は、パワーポリティクスを反映したものになっている。ルールをどうするか。国連海洋法条約 UNCLOS があるが、これもパワーポリティクスの妥協の産物となっている。集団安全保障は当面無理なら同盟しかないのか、という議論はある。中国次第である。18このような状況において我々は、政府についていくのではなく、政府より早く提案を出すように積極的に活動していくことが重要である。(オ)ミハエル・ロイ(インド洋研究会・ディレクター)かつて父は東京に行ってスバス・チャンドラボーズに会った。日本語で苦労したので、サンフランシスコにいったが、その時、多くのことを学んだ。この2 日間、大変多くのことを学んだ。ちょうどインド首相の訪日直前(結局中止になった)であり、大臣も参加した 1.5 トラックになり、大変意義のある会議になったと思う。※それぞれの発表メモ添付4 2012 年度の成果3 年計画の 2 年度に当たる 2012 年度の改善点は 3 点あった。2011 年度よりも、より安全保障に特化すること、日印以外の関係国の視点を取り入れること、そして、より若手研究者中心に意見交換を実施すること、である。これらの改善点は実現できたといえる。また、副産物として 4 つ目の成果、マスコミによる発信ができた点でも成果となった。1 つ目の、より安全保障に特化した議論を展開した点については、それぞれのセッションの議題に成果が示されている。2011 年度の成果は、①世界情勢のなかにおける日本とインドの政治・経済・外交・安全保障、②日本とインド両国関係の課題、③JIA シールートにおける安全保障と経済、④海事産業分野での課題と協力、について討議し、両国の安全保障協力推進のための資料を得るものとなった。一方、2012 年度の議題は、全体を代表とするサブタイトルとして「アジアにおけるパワーゲーム」と定め、米中の対立のなかにおける日印の在り方に焦点を当てた。そのため冒頭を飾るセッション 1 については「海洋において高まる挑戦」と題し、セッション 2 を「インド洋と太平洋のかかわり」、セッション 3 を「非伝統的脅威―テロ、海賊、サイバーテロ」、セッション 4を「インド、日本そしてアセアン」として、アジアの安全保障関係という大きな枠組みの一部分を担う存在として、日印関係とはどのような意義をもつものなのか、分析・討議した。昨年に比べ、安全保障面により焦点が当てたものとなっている。二つ目の、日印以外の視点を取り入れる点については、オーストラリアとシンガポールの参加者を呼び討論することができた点が意義深い。オーストラリアもシンガポールも、アメリカの衰退、中国の台頭という状況に直面しており、日印の役割の拡大には一定の期待がある。そのため、今後の日印関係を理解する上で、複数の国の視点をもつことは問題の本質を捉える点で貢献するものと考えられる。ただ、当初の計画ではアメリカの視点も取り入れる予定であった。荒天によるフライトのキャンセルにより実現しなかったため、今後の課題とな19っている。三番目の、より若手研究者中心に討論の機会を与えようとした点については、一定の成果が得られた、といえる。日印関係は発展しつつあり、将来大きな影響を与える。そのための将来を担う若手研究者を討論に参加させることは、今後に資する。本年度の対話では、発表者の中に若手研究者が混じった他、かつ、討論の聴講者を広く公開したため、聴講者、質問者の中にも多くの若手研究者がいた。一定の成果を上げることができたといえる。今後、より多くの若手研究者の参加を促すことができれば、将来を見据えた会議としてその意義を増すものと考えられる。最後に、このシンポジウムはインドの現役大臣 2 人が出席したこともあり、産経新聞にも比較的大きな記事が掲載された。日印の海洋安全保障上の関係強化によって日本全体に貢献しただけでなく、海洋政策研究財団の対外発信という観点からも一定の成果を収めたと考えられる。20