報告書・出版物

平成19年度地域海事クラスターの構築に関する調査研究報告書平成20年3月海洋政策研究財団(財団法人 シップ・アンド・オーシャン財団)はじめに本報告書は、競艇交付金による日本財団の助成をえて、平成18~19 年度の2 ヵ年にわたって実施した「地域海事クラスターの構築に関する調査研究」の成果をまとめたものです。わが国の海事産業は、十数年前まではアジアのセンター的な役割を果たしてきましたが、近年は欧米やアジア諸国と比べて大きく立ち遅れております。これは先進海事国が、知識を基盤に、地域に特化した海事クラスターを構築し、既存の産業政策とは一線を画した、戦略的な活性化施策を展開してきたからです。そこで、当財団でも神戸をモデルに地域的な海事クラスターを構築しようと取り組んだのが本事業です。実施に際しては、①知識集約、②地域中心、③産学連携、④情報発信の4 つの観点から進めることにしました。神戸は今なお海事産業がバランスよく残されており、地域海事クラスターを構築するには最適な場所です。またこの地域には、長い年月を経て培われた経験と蓄積された知識があり、この長所とポテンシャルを活かせば、近隣諸国との差別化を図れると考えたのです。そこで、当財団は「国際海事都市神戸」再生のための研究会を平成18 年度に立ち上げ、具体的な検討を開始し、その成果として地域活性化のための今後の方策とともに、具体化へ移す受け皿づくりの早期発足を提言しました。この提言を受け、平成19 年5 月に神戸市、神戸商工会議所、神戸大学の3 者による準備会合が開かれ、実現に向けた地域主体の取り組みがスタートしました。本報告書は、初年度の調査研究及び研究会での成果と、本年度の地域主体の取り組みをまとめたものです。今後各地域で取り上げられるであろう、地域海事クラスター実現に大いに参考となり、具体化に向けた指針を提供することでしょう。この1、2 年で海事をめぐる動きは大きく変化しました。一つは当財団が関わった海洋基本法の制定です。また国土交通省は、日本海運の国際競争力強化のためにトン数標準税制を創設し、船籍・船員問題にも積極的に取り組んでいます。加えて最近では、「海事立国の推進」という言葉まで叫ばれはじめました。こうした一連の動きは、当財団の海事分野でのシンクタンク活動が影響を与えたことは確かです。当財団がこうしたシンクタンク機能を発揮できたのも一重に海事関係者の支援によるものです。最後に、適切なご指導を賜った宮下國生大阪産業大学教授、協力機関としてご尽力いただいた神戸市、神戸商工会議所、及び神戸大学、その他研究会に参加・協力いただいた皆様方に感謝を申し上げるとともに、日本財団のご支援に深く御礼申し上げます。平成20 年3 月海 洋 政 策 研 究 財 団会 長 秋 山 昌 廣地域海事クラスターの構築に関する調査研究研究メンバー寺 島 紘 士 海洋政策研究財団 常務理事西 田 浩 之 海洋政策研究財団 海技研究グループ長中 地 登 海洋政策研究財団 総務グループ調査役鈴 木 裕 介 海洋政策研究財団 政策研究グループ研究員「国際海事都市神戸」再生のための研究会メンバー(平成17 年9 月~平成18 年2 月)(順不同、敬称略)座長 宮下 國生 大阪産業大学 教授(神戸大学名誉教授)本岡 啓伸 住友ゴム工業株式会社 物流部課長萩本 敏昭 株式会社アシックス 経理部資金チーム山水 教賢 神栄株式会社 経営戦略室ストラテジックスタッフ中和 英三 バンドートレーディング株式会社 代表取締役社長高島 孝 富士通テン株式会社生産本部 物流部神戸物流センター長白石 保典 阪神内燃機工業株式会社 代表取締役社長佐藤 國臣 佐藤國汽船株式会社 代表取締役社長岡崎 信行 川崎造船株式会社 取締役企画本部長森本 啓久 森本倉庫株式会社 代表取締役社長古川 國丸 八馬汽船株式会社 代表取締役社長草野 誠一郎 神戸商工会議所 産業振興部国際担当部長上川 庄二郎 神戸経済同友会 特別会員佐藤 典久 神戸青年会議所 常任理事・政策室長橋間 元徳 神戸港埠頭公社 理事長並川 俊一郎 デットノルスケベリタス日本地区本部 先任主席検査員石丸 周象 神戸運輸監理部 監理部長片桐 正彦 近畿地方整備局 副局長内波 謙一 第五管区海上保安本部 本部長山本 朋廣 神戸市みなと総局 局長町本 欣信 神戸市国際文化観光局 局長眞山 滋志 神戸大学 副学長赤塚 宏一 神戸大学 監事石田 憲治 神戸大学 海事科学部教授韓 鍾吉 韓国聖潔大学校 経営学部教授寺島 紘士 海洋政策研究財団 常務理事注)職名は当時のもの平成19年度地域海事クラスターの構築に関する調査研究報告書目次はじめに序章 調査研究の概要······················································································· 1序-1.調査研究の目的····················································································· 1序-2.調査研究の体制····················································································· 1序-3.調査研究の方法····················································································· 1第1章 海事クラスター強化に向けて1.1 産業競争力としてのクラスター································································· 31.2 日本のクラスターの事例:九州地方の半導体クラスター································ 41.3 日本における海事クラスターの概要··························································· 41.4 海外における海事クラスター強化の取り組み··············································· 61.5 日本の海事クラスター強化の試み:国土交通省によって検討された「マリタイムジャパン(海事クラスター)」······································································· 8第2章 神戸地域の海事クラスターに関する調査研究2.1 神戸地域の海事クラスターの現状·····························································112.2 神戸地域の海事クラスターのセクター分析·················································132.3 神戸地域海事クラスター強化の意義と課題·················································21第3章 神戸地域海事クラスター強化の動き3.1 海事産業を巡る内外の動向······································································233.2 「国際海事都市神戸」再生のための研究会の立ち上げ準備······························233.3 研究会の目的とねらい············································································253.4 研究会のメンバー構成············································································253.5 第1 回「国際海事都市神戸」再生のための研究会········································283.6 第2 回「国際海事都市神戸」再生のための研究会········································303.7 第3 回「国際海事都市神戸」再生のための研究会········································32第4章 地域海事クラスター研究の成果4.1 「国際海事都市神戸」再生のための研究会の決議及び事業実施計画·················334.2 「国際海事都市神戸」再生のための研究会に呼応する動き······························48第5 章 神戸地域主導の神戸地域海事クラスター強化の動き5.1 平成19 年度の神戸地域海事クラスター強化の動き······································495.2 「国際海事都神戸再生のための研究準備会」の本年度の活動···························51第6 章 まとめ·······························································································63-1-序章 調査研究の概要序-1.調査研究の目的先進海事国では、知識経済の時代における海事産業の再生手段として、また既存の海事産業政策の対案として、知識を基盤に地域別に特化された海事クラスターの構築が活発である。しかし、日本における海事クラスターに対する取り組みは、すでに海事クラスター政策の実践段階にある欧米やアジア諸国に比べて遅れをとっている。海事産業がハードウェアを中心とする装置産業から知識基盤産業へ構造転換するには、人為的に海事関連の産官学の集積を作り出し、海事産業のグレードアップを図る必要がある。そのためには、人的ネットワークを基本とする知識集約型海事クラスター構築により優秀な人材を確保し、海事経営・海事法・海事工学・海事行政などの専門家を業界の枠を越えて養成・活用することで、魅力ある海事産業へと転換を図るべきである。そのためには、地域の知識集約型海事クラスターを構築することが有効であり、これにより、海事産業の革新を促進し、海事分野の新事業創出、港湾都市及び地域の再生を図り、マリタイムリーダー国としての日本の新しい姿を構築することができる。本調査研究は、①知識集約、②地域中心、③産学連携、④情報発信の4 つの観点から、海運・造船・港湾などの個別産業や産学官を一つに束ねる総合的な視点に立ち、日本の海事産業の長所である長い経験と蓄積された海事関連知識を活かし、近隣諸国と差別化された知識集約型地域海事クラスターの構築に資することを目的とする。序-2.調査研究の体制地域海事クラスターの構築を促進する地域は、みなとから発展し、海運、造船、舶用工業、港湾関係などの海事産業とこれを利用する荷主企業が集積する、加えて海事に関する研究施設、教育訓練機関が集まっている「神戸」が適当であると考えられる。そして当財団は、昨年度神戸において、外航海運、内航海運、造船、舶用工業、倉庫などの海事産業、神戸港の管理者である神戸市と神戸港埠頭公社、神戸港を利用する地元の荷主企業、海技教育も行っている地元の神戸大学、地元経済団体及び政府の出先機関等からの責任者で構成される「国際海事都市神戸」再生のための研究会を設置し、地元の意見を反映させながら、地域海事クラスター強化のための方策について検討を行い、具体的な提言をまとめた。そして本年度からはこの提言を受けて、地元が中心となり、神戸大学海事科学部石田研究室を事務局にして、神戸市と神戸商工会議所、神戸大学が参加した「国際海事都市神戸」再生のための研究準備会が設置され、神戸地域海事クラスターの構築に向け地域主体の取り組みがスタートした。当財団は、地元主体の取り組みを積極的に支援するとともに、地域海事クラスター構築に係る調査研究を推進した。序-3.調査研究の方法まず、神戸港を中心とした神戸の海事活動の現状を文献等により把握し、神戸地域の海事― 1 ―-2-クラスターの現状と課題について分析した。一方神戸では、地域主導の海事クラスターの構築に向けた取り組みが行われた。そこで、これらの取り組みを積極的に支援するとともに、その動向を調査し、その意義と課題について分析した。そして、日本ではこれまで行われてこなかった地域海事クラスターの構築に向けたケーススタディとして、神戸地域の調査研究を通じて、その課題について総括した。― 2 ―-3-第1 章 海事クラスター強化に向けて1.1 産業競争力としてのクラスタークラスターとは、「ブドウの房」と称されるように、様々な構成要素が結びつき、「実」となった状態を指している。また産業における「クラスター」は、従来の生産工程や製品特性によって分類された枠組みとは異なり、ある基準による包括的枠組みによって規定される産業集積の概念である。そして、原材料や情報などを供給する企業、物流企業、研究機関、各種業界団体などによって構成される。旧来から議論される産業集積論は、港湾などの輸送条件や、大市場に近接しているなどの地理的条件にあう地域に産業が集積する、またすべきだというものであった。日本における三大都市圏の産業集積は、まさにこのような概念を基盤に構築されたものといえよう。しかし大都市部の産業集積は、経済の発展や社会ニーズの多様化により、都市環境を改善することへの要請や、労働者の確保の困難性、地価の上昇などによる工場の拡張や弾力的な生産設備の調整が難しくなるなど、問題が顕在化し、企業の生産性向上の阻害要因をもたらし、さらには日本国内の産業競争力を阻害する要因とも成りうる状況にある。またグローバリゼーションが進展する中で、日本の大都市における産業集積も、企業の経営戦略の中では、その優位性は希薄化し、産業集積の低下、さらには大都市の衰退を招いてしまう状況にも直面している。しかしこれらの現象を概観する場合、それを産業の量的生産の側面からだけで議論することは適当ではない。高度経済成長を遂げた今日の日本にとって、安価な生産要素に基づく生産規模の拡大を求めるならば、アジア各地へ工場移転を行うことが合理的であろう。しかし、産業の質的生産の側面を加えると、必ずしも生産拠点の海外移転が合理的であるとは言えない。そしてこの生産の質的側面、つまりどのように継続的なイノベーションを産み、産業競争力を維持、向上させるかという視点において、一つの政策的ヒントを与えるのが、このクラスターの概念である。このクラスターの産業集積の概念は、多様な産業構成員が、地理的に「フェース・ツー・フェースで交流できる範囲1」に近接し、相互に補完関係を持つ一方、同業種間では激しい競争を内包する状況を規定している。つまり旧来のような企業城下町とは一線を画している。またその戦略的目標は、地域に集積した産業クラスターの生産性を高め、イノベーションを生み出すための阻害要因を発見、除去することにおいている。そしてその「秩序ある混沌とした」市場を構築し、その中で下請的役割を果たす中小企業が、量・質的にも中堅企業に成長させることが、クラスターの主要な機能と言えよう。1 石倉他(2003)― 3 ―-4-1.2 日本のクラスターの事例:九州地方における半導体クラスターこのような地域経済のクラスターの効果に着目し、クラスターの概念を地域経済政策にうまく汲み入れた事例として、九州地域の半導体クラスターが挙げられよう。九州地方における半導体産業は、1960 年代後半から大手メーカーが相次いで進出したことに始まる。しかし当初は大手半導体メーカーの量産工場が集積したに過ぎず、まさに量的な産業集積だった。そのため各企業間には競争と対立の意識が強く、横のつながりの少ないネットワーク性の脆弱な産業集積だった。一方、各九州地方の自治体も、強いライバル意識のもと独自に企業誘致を行い、そのエネルギーが、九州地方に半導体工場の量的集積を促す一助となる一方で、地域的な半導体産業に関する情報交換のシステム構築の機会を阻害し、各地域は半導体工場を中心とした「ミニ企業城下町」のような閉鎖的な産業集積を構築していた。しかし半導体関連産業が九州地方に集積するようになると、民間企業の中には、自社製品の競争優位性を武器に、既存の系列関係を超え、他の九州地域の企業と取引を拡大させ、多様な取引ネットワークを構築する企業もあらわれた。このような製造の川下においても競争力が高まっていくなかで、半導体工場、シリコンウェハ、プリント基板、化学薬品、プラスチック部品、半導体装置メーカー、金型・部品メーカー、関連サービス、物流業者、半導体の設計事務所、大学などのクラスターの構成要素がさらに集積するようになり、九州半導体クラスターが構築、強化されていったのである。そして1980 年代には、世界の半導体の10%以上を生産する「シリコンアイランド」としての世界的な地位を確立、また半導体関連産業の生産シェア増加を傾向させ、さらに半導体クラスターの量的、質的厚みをもたらしている。一方、九州地方の半導体クラスターの強化を目指す施策も合わせて推進されている。九州地方の産学官が協力し、「九州地域産学官半導体イノベーション研究会」を設置し、一定の集積水準を質的に向上、維持すること、中堅企業の成長・育成、半導体製造に関する頭脳部分の集積をめざす施策が推進されている。1.3 日本における海事クラスターの概要周囲を海で囲まれている日本は、海事関連産業とともに営まれた歴史を有している。特に第二次世界大戦後の復興、高度経済成長を通じた日本経済の発展は、海事産業の発展なくしては成立しない。一方その海事産業の発展は、国の強いリードに依るところが大きい。戦後の海運力の増強を目指した国の政策は、造船産業振興政策へと政策的な拡がりを見せ、高度成長期の基幹産業として海運、造船産業の発展をもたらした。さらに度重なる経営や技術課題に対しても、海運、造船、関連産業、そして国が連携を取りながら対処し、各分野の国際競争力を高めていった。このように日本の海事産業は、海運を中心に、造船産業、行政などの関連セクターがうまく機能しながら成長した歴史をたどっている。これが日本― 4 ―-5-における「海事クラスター」の姿と言えよう。しかし、1985 年以降の急激な円高や、各産業が直面した国際競争の激化に伴い、日本の海事クラスターの様相も変容する。造船業は設備廃棄などの生産調整に追われ、その産業としての勢いを失う。また海運業は、海運集約の流れを受け、外航海運は大手3 社に集約され、世界単一の海運市場の中で、海運業は徐々に世界に目を向けたグローバルな経営戦略が強化され、日本の海事クラスターのリード役としての役割を果たさなくなっていった。そしてリード役を失った日本の海事クラスターは、追い上げる韓国や中国などのアジア諸国との競争の中で、戦略的な方向性を見いだすことができないままでいる。そして現在、日本の海事クラスターは、海運業が世界単一市場の中で、日本からますますその経営的な軸足を世界に移しつつある一方、造船業は、韓国や中国の急激な成長に決定的な競争優位性を見いだせず、年々そのシェアを奪われている。また海事クラスターのインフラ的役割の担う港湾においても、かつて神戸港などが担ってきた、アジア地域のハブ港湾としての役割を、近隣諸国の韓国・釜山港や台湾・高雄港、中国の諸港などに奪われ、日本の各港は日本発着の貨物を主に扱うアジアの「地方港湾」という位置づけとなりつつある。― 5 ―-6-1.4 海外における海事クラスター強化の取り組み海事政策にクラスターの概念を取り入れる動きは、1990 年代はじめのノルウェーの海事クラスター政策に始まる。ノルウェーは海運・造船など異業種分野が協力し、シナジー効果を生み出すことを目標としたネットワークの構築と関連諸政策を実施した。この動きはその後、スウェーデンをはじめ、オランダ、イギリス、ドイツなどヨーロッパ各国の海事政策へと広がっていく。特にロンドンの海事クラスターは、海事関連サービスなど、情報が集積するクラスターとして、神戸地域の海事クラスターの議論に視座を与える。ここでは代表的な海事クラスター育成政策として、イギリス、ノルウェー、オランダの事例を提示する。表1-1 世界各国の海事クラスター支援組織(出所)海洋政策研究財団「平成17 年度 海事クラスターに相応しい海事専門教育に関する調査報告書」を一部改変イギリスイギリスの海事産業全体が抱えていた問題は、自国籍船と自国船員の減少による国際海事社会での影響力の低下であった。イギリスは、伝統的に船員が保険やブローカーなどの海事関連サービス分野へ進出し、海上勤務で身につけた技術やノウハウを生かし、国際海事社会を舞台に活躍してきた。しかし自国船員の減少は、これらの海事関連サービスへの人材供給の減少へと波及し、イギリス、ロンドンの海事社会における地位の低下をもたらしていた。このような問題に直面した海事関係者は、ロンドンの世界海運に関連するサービスのハブ機能を回復させようとMaritime London を設立した。このMaritime Londonは、海事関連機能の集積を強化することで国際的な海事センターを目指す目的のもとで、国際的な海事センターとしての影響力を高める推進組織としての役割を担っている。また構成メンバーは、ロンドンに所在する船舶金融、保険、ブローカー、法務、情報、出版といった海事サービス分野によって構成されており、造船業などの海事産業が主要ではない国名代表的な海事クラスター支援組織イギリスMaritime London, Mersey ClusterノルウェーMaritime Forum of Norwayデンマーク・スウェーデンJoint Maritime ClusterオランダDutch Maritime NetworkドイツGerman Maritime Cluster米国Connecticut Maritime CoalitionシンガポールMaritime Cluster Fund韓国中国International Maritime Center in Shanghai香港International Maritime Cluster― 6 ―-7-点が特徴である。なおイギリスの海事クラスター組織は、階層状に組織され、全国的組織(National)であるSea Vision のもとに、広域地域別(Regional)クラスター、分野別(Sectional)クラスター、地域別(Sub-regional)クラスターが組織され、連携を取りながら、海事クラスター強化への施策を実施している。Maritime London は、この分野別クラスターに分類される。ノルウェーノルウェーは、海運をはじめとする海事産業の集積する海事国である。しかし1980 年代に入り、その主要なセクターである海運において、国際競争力確保のための便宜置籍船の増加が問題となった。そしてこのような問題への解決策を模索している最中に、一つの試みとして、海事クラスター推進機関としてMaritime Forum of Norway が1990 年に設立された。このMaritime Forumは、海事産業を束ねる組織として、海事産業に属する異分野間、企業間の協力を促進する目的で設立され、海事産業政策に対する影響力の行使と、国際舞台でのノルウェーの利益保持のために活動している。このクラスターは、海運を中核として、造船、舶用工業、海洋開発、船員、港湾、教育研究機関、コンサルタントなどにより構成されている。そしてこれらのセクターの調整役を、金融、代理店、保険、船級、ブローカーが担っている。海運が中核となったノルウェーのクラスター支援組織が構築された背景には、海運分野の規模が非常に大きく、影響力が強いことが挙げられる。また、船級協会も強い影響力を持ち、特にクラスター内部の技術開発などの「knowledge」の面でクラスターの各セクターへの波及効果をもたらしている。オランダオランダも他の海運先進国と同様に、1990 年代はじめより、自国籍船の減少に直面した。また当時海事産業全体も不況に見舞われ、政府の海運政策の見直しへの機運が高まった。そこで、政府は海事産業の役割を整理した上で、海事クラスター支援組織を構築することで、政策の転換を図った。そしてこの動きを契機に、オランダの海運政策は、自国籍船確保のための産業政策から、経営環境の改善を通じて国内海運企業を自国に留めること、さらには海外海事企業を国内に誘致する産業立地政策へと転換された。そして海事クラスターの支援組織としてDutch Maritime Networkが設置された。このクラスターは、海運を中核に、港湾、海洋開発などにより構成されている。― 7 ―-8-1.5 日本の海事クラスター強化の試み:国土交通省によって検討された「マリタイムジャパン(海事クラスター)」日本の海事クラスターの総力は、近年明らかな衰退傾向にある。この現状に対し、国は海事クラスターの新たなリード役となって、その打開策を検討したことがある。それは国土交通省が主導して検討した、「海事クラスター(マリタイムジャパン)」である。国土交通省は、平成12年から弱まる日本の海事クラスターを再興することを目指した、「海事クラスター(マリタイムジャパン2)」を目指す政策の検討を行った。日本の海事産業は、これまで海運、造船、舶用工業等が特定の地域に集積しており、国内外の物流ネットワークに大きく貢献してきた。このような歴史的、地理的状況を踏まえ、近年の経済のグローバル化や国際競争の激化の時代において、海事産業はより競争力を強化し、高度なグローバルロジスティクスを提供することが重要であると捉え、海事産業の分野を超えた総合的な取り組みを推進し、海事産業の発展、さらには日本経済への貢献を果たす政策の検討が行われた。そこで具体的な施策として、まず平成12 年11 月に「マリタイムジャパン研究会」を設置し、日本の海事クラスターについて分析し、その政策的アプローチの有効性について検討した。その結果は「マリタイムジャパンに関する調査報告書」としてまとめられている。この報告書では、日本の海事クラスターのGDP は約13 兆円、全産業の約3%、波及効果は5%と推定された。また東京、神戸、長崎に関する地域研究も行われ、海事産業が集積する地域においては、クラスター効果が発生しており、地域の海事産業の活性化に大きく寄与していることを明らかにした。しかし、近年は企業の本社機能が東京へ移転し続ける傾向や、地方港湾の地位の低下に伴い、地域の海事産業の集積が弱まっているため、地域の海事クラスター効果は希薄化傾向にあるとした。その打開策として報告書では、わが国、地域の海事クラスターのグレードアップの必要性について指摘している。具体的には、民間事業者の自発的なイノベーションを促進する官民連携した取り組み、イノベーションを創出する機関の整備などを提案した。また地域における施策としては、地域海事クラスターの現状や問題点を分析し、地域のコンセンサスを得ながら、特徴ある地域海事クラスターの方向を実現する必要があるとしている。しかしこの研究会における議論は、具体的な政策という形で成就しなかった。2 「マリタイムジャパン」とは、「高度に活性化された海事国、日本」を意味し、海事産業の分野横断的な取り組みを通じた活性化を通じて、国際競争力を高めるという意味で、海事クラスターを含意しているようである。― 8 ―-9-「マリタイムジャパンに関する調査報告書」における神戸地域の海事クラスターの分析「マリタイムジャパンに関する調査報告書」では、具体的に神戸地域の海事クラスターの現状を分析している。分析では、神戸地域にはかつて海運業、造船業を中心とした集積がみられたが、近年の神戸港の貨物取扱量の低迷などに伴い、海事関連産業の集積は低下傾向にあるとした。例えば海運業は、神戸港の発展を背景に本社機能の集積が神戸地域で見られたが、荷主の東京移転などに伴い、船社の営業機能は荷主の集積する東京や大阪に移転し、神戸地域での集積は低下傾向を示している。また造船業では、大手2社の造船メーカーが中心となり、地元の造船、舶用工業メーカーに集積が見られたが、造船業の取引関係が全国に拡大するにつれて、神戸地域における関連産業間の取引が希薄化し、集積も弱まったとしている。また神戸地域の海事産業関係者にアンケートを実施し、このような神戸地域の現状、神戸の海事クラスターの意義について質問している。その結果、神戸の海事クラスターの意義として、海事産業の集積による情報交換の容易さなど、高い情報集積性を挙げている。一方、神戸港の低迷などを背景とした近年の海事産業の集積の低下は、顧客との営業効率を低下させるほか、ニーズの把握のコストを高め、結果としてクラスター効果の低下をもたらしているとした。図1-1『平成13 年版 海事レポート』において国交省が示した海事クラスターのイメージ図人材派遣舶用法務公共港運 サービス水運港湾管理商事保険金融仲介倉庫教育訓練船舶修理船級海運造船石油家電鉄鋼非鉄金属自動車穀物電力貿易― 9 ―-10-参考文献石倉洋子他(2003)『日本の産業クラスター戦略』、有斐閣.濱田哲(2000)「欧州における海事クラスター・アプローチの現状-欧州における海事クラスター調査を中心として-」、海事産業研究所報、No.414.国土交通省海事局編『海事レポート 平成13 年度版』国土交通省海事局(2002)『マリタイムジャパンに関する調査報告書』、平成14 年3 月.山崎朗・友景肇編(2001)『半導体クラスターへのシナリオ―シリコンアイランド九州の過去と未来』 、西日本新聞社.マイケル・E・ポーター著(1999)『競争戦略論Ⅰ・Ⅱ』(竹内弘高訳)、ダイアモンド社.財団法人 海事産業研究所(2001)『欧州海事クラスター調査報告書―英国・ノルウェー・オランダ-』、調査シリーズ2001-213.― 10 ―-11-第2章 神戸地域海事クラスターの現状とその課題2.1 神戸地域の海事クラスターの現状神戸地域の海事クラスターは、港湾を中心に育まれたと言えよう。古くは平清盛による大輪田泊修築に始まり、歴史的に長らく重要拠点として位置づけられてきた。明治時代以降からは、阪神工業地帯の物流拠点としての役割も加わり発展を遂げた。また神戸港の港勢拡大は、神戸港を拠点とした多くの海事産業を勃興させた。例えば明治14 年(1881 年)川崎正蔵による川崎兵庫造船所(現在の川崎重工業、川崎造船)、明治38 年(1905年)神戸三菱造船所(現在の三菱重工神戸造船所)、大正8年(1919年)川崎汽船などがその代表と言えよう。さらに、海事産業のみならず、神戸港を拠点とした物流ネットワークが構築されるにつれて、神戸地域の製造業の発展にも寄与し、当時隆盛を誇っていた鈴木商店が設立した神戸製鋼所などは、阪神地域の産業、さらには日本の産業を支える企業として成長した。このように、当時の神戸地域の海事クラスターは、神戸港を基盤に質・量ともに高いレベルの物流サービスを供給し、海事産業はもちろん、産業全体の競争力の源泉となっていたと言えよう。しかし戦後の復興期を経て、日本経済が発展するにつれて、神戸地域を拠点に発展してきた海事関連企業は、日本全体、世界を視野に入れた経営戦略を構築するようになる。海運業は日本の製造業の国際競争力の向上に伴い、そのビジネスを世界規模で展開されるようになり、企業の拠点は神戸から、情報が集積する東京へと移されていった。また中小海運業も、大手海運業との関係が強まるにつれて、その拠点を東京へ移す動きをみせている。グラフ2-1,2-2 は、外航海運業、沿海海運業(内航海運業にあたる)の兵庫県内事業所数の規模別推移を示している。一方造船業も、石油危機などの激しい好不況の波の中で、国や業界主導の造船建造設備処理の政策を受け、神戸地域の造船能力は縮小し、国内の造船建造拠点を長崎や坂出、瀬戸内地域へと移した。また神戸地域の海事クラスターの基盤となる神戸港の港勢も、1994 年に発生した阪神淡路大震災による神戸港の被災、また1998年の本州四国連絡道路神戸・鳴門ルートの開通による近隣地域間のロジスティクスの構造変化を受け、神戸港の貨物取扱量を大きく減少させた。さらに長らく神戸港にとって、最も重要な役割と位置づけられた「アジア地域の国際ハブ港」としての機能も、90 年後半以降のアジア各国の大規模港湾整備の影響を受け低下している。― 11 ―-12-グラフ2-1 兵庫県内における外航海運業事業所数の推移0102030405060昭和41年昭和47年昭和56年昭和61年平成3年平成13年300 人 以 上200 ~ 299 人100 ~ 199 人50 ~ 99 人30 ~ 49 人20 ~ 29 人10 ~ 19 人5 ~ 9 人1 ~ 4 人(出所)総理府統計局「事業所統計調査報告」(注)平成3年以前は海洋運輸業という区分。以降は外航海運業グラフ2-2 兵庫県内における沿海海運業事業所数の推移0100200300400500600700昭和41年昭和47年昭和56年昭和61年平成3年平成13年300 人 以 上200 ~ 299 人100 ~ 199 人50 ~ 99 人30 ~ 49 人20 ~ 29 人10 ~ 19 人5 ~ 9 人1 ~ 4 人(出所)総理府統計局「事業所統計調査報告」― 12 ―-13-2.2 神戸地域の海事クラスターのセクター分析神戸地域の海事クラスターの現状を概観すると、神戸地域の海事クラスター効果は縮小傾向にあるように見える。しかし長い歴史の中で培われた海事クラスターの効果が完全に喪失されたとは考えにくい。神戸地域には現在も多くの企業が集積し、また海事産業の一時代を築いた海事関係者も多く居住している。そこで神戸地域の海事クラスターが長年蓄積してきたノウハウや人材などの「knowledge」の集積や神戸を拠点に交流する「情報」の集積と神戸地域の優位性について検討する必要がある。本節では、神戸地域における「knowledge」や「情報」の集積とその優位性について、具体的に神戸地域の海事クラスターの中核を担う、荷主との関わりを含めた海運・港湾サービス、造船関連工業のセクター分析を通じて、その現状と課題を整理する。海運・港湾サービス神戸港を基盤とした海運や荷主が相互に関連する海運・港湾サービス分野の優位性は、国際重要港湾として、長い歴史のなかで培われたサービス水準や技術・ノウハウといった「knowledge」の蓄積である。また衰退傾向にあると言われるものの、現在も多くのモノや人が交流しており、多くの「情報」も交流している。そこで神戸港の概要を踏まえた上で、神戸港の優位性と課題について整理する。神戸港は、第2 次世界大戦後、阪神工業地帯の重要港湾として、高度経済成長期の産業を支え、日本の経済発展とともに「日本の玄関」、「アジア地域最大のハブ港」として隆盛を誇った。しかし近年のアジア諸国の経済発展に伴う、アジア域内貨物流動における日本起因の貨物量シェアの低下や、アジア諸国の大規模港湾整備は、神戸港のハブ港としての機能を弱め、その国際港湾としての相対的な位置づけを低下させた。表2-3は、神戸港の外貿コンテナ貨物推移とトランシップ率の推移である。神戸港の外貿コンテナ貨物量は震災以後、一時的に大きく減少しているものの、その後は一定の水準を維持している。一方、神戸港を経由するトランシップ貨物は、2000 年以降大幅に低下し、現在はわずかな状況である。このトランシップ貨物の推移は、国際ハブ港としての役割の大きさを示している。アジア各国の大規模な港湾整備が進むにつれて、神戸港の国際ハブ港としての役割が弱まっていることを表している。― 13 ―-14-グラフ2-3 神戸港の外貿コンテナ貨物推移とトランシップ率05001,0001,5002,0002,50019741975197619771978197919801981198219831984198519861987198819891990199119921993199419951996199719981999200020012002200320042005 0.0%10.0%20.0%30.0%40.0%50.0%60.0%(単位:千TEU) T/Sコンテナ貨物個数トランシップ率(出典)神戸市みなと総局『神戸港大観』またグラフ2-4は、コンテナ貨物を含めた、神戸港における外国貿易と内国貿易、つまり外貿取扱貨物と内貿取扱貨物の港湾総取扱貨物量1の推移である。すると神戸港の港勢は、特に内貿取扱貨物において、1995年に起きた阪神淡路大震災、1998年4月の本州四国連絡道路神戸・鳴門ルートの開通により、貨物取扱量が急減していることがわかる。阪神大震災では、一時的な港湾設備の利用停止を余儀なくされ、今まで神戸港を活用してきた船社・荷主が他港へ流出したとされる。その後、港湾設備の復興により、港勢は回復基調をたどったものの、一部の船社・荷主は他港の利用を継続した。長年の慣習として神戸港を活用してきた船社、荷主が、名古屋港や大阪港などの他港の利用を緊急避難的に行ったことで、代替港の利便性の高さが認識され、荷主にとって、物流体系の再構築の契機となってしまったと推察される。しかし神戸港の港勢に最も大きな影響を与えたのは、1998 年4 月に本州四国連絡道路神戸・鳴門ルートが開通したことである。グラフ2-5のように、同連絡橋の開通は、神戸港と香川県間、神戸港と徳島県間の貨物流動を大きく減少させた。特に香川県は貨物流動の総量も大きいため、神戸港の港勢に大きな影響を与えている。また兵庫県内の貨物流動の減少も大きい(グラフ2-6参照)。同ルートの開通により、1998年4月に淡1神戸港の貨物は一般に外貿取扱貨物と内貿取扱貨物に分けられる。さらに外貿取扱貨物は、石炭などのバルク貨物などを対象とする外貿一般貨物と外貿コンテナ貨物に分類される。また外貿コンテナ貨物は、神戸港からのローカル貨物と、国内他港を始終点とする内航フィーダー貨物、外国の他港で出された貨物を、神戸港を経由して、さらに外国の他港へ移出するトランシップ貨物に分けられる。また内貿取扱貨物も、神戸港からの純内貿貨物と内航フィーダー貨物に分類される。― 14 ―-15-路フェリー(神戸~大磯)が廃止されたことを受け、神戸・淡路間の貨物・旅客輸送がフェリーからトラックへと完全にシフトした。そのためデータ上輸送機械に分類される、フェリーで輸送された自家用車やトラック輸送分がなくなり、淡路島諸港間の貨物流動の約4,400万トンがほぼなくなったことが、内貿取扱貨物の大幅な減少という形で、データ上現れている。グラフ2-4 神戸港貨物取扱内訳推移02040608010012014016018020019791980198119821983198419851986198719881989199019911992199319941995199619971998199920002001200220032004外国貿易内国貿易(単位:百万トン)(出典)神戸市みなと総局『神戸港大観』― 15 ―-16-グラフ2-5 神戸港・瀬戸内海沿岸県間の貨物流動の推移05000100001500020000250001992年1999年2005年香川県福岡県愛媛県大分県徳島県岡山県山口県広島県(単位:千トン)(出典)神戸市みなと総局『平成17 年 神戸港大観』― 16 ―-17-グラフ2-6 神戸港・兵庫県他港間の貨物流動の推移01,0002,0003,0004,0005,000東播磨姫路家島赤穂尼崎・西宮・芦屋相生明石淡路島諸港その他(単位:千トン)(淡路島諸港  43,745千トン)1992年2005年背景:1998年4月に廃止された   淡路フェリー(神戸~大磯)(出典)神戸市みなと総局『平成17 年 神戸港大観』(注)・1992年の坂越港は、赤穂港に繰入・1992年尼崎港と2005年尼崎・西宮・芦屋港データを同様に扱う。・2005年の県内諸港、江井ヶ島港、阿万港はその他に分類する。・フェリーにて輸送されるトラック・自動車は輸送機械として集計されている。しかし、新しい神戸港の役割も顕在化している。それは西日本から出される貨物のフィーダー拠点としての役割とアジア経済圏の物流ネットワークにおける拠点としての役割である。先述した外貿コンテナ貨物は、トランシップ貨物が減少している中、全体の外貿コンテナ貨物は一定の水準を維持している。その背景には、神戸港の背後地出の貨物の増加とともに、瀬戸内地域を中心としたフィーダー貨物の増加があるとされる。実際震災前後は全体のコンテナ貨物の5%未満であったフィーダー貨物の割合は、2006 年には8.7%にまで増加している。2また表2-1は、神戸港の主要外航航路の貨物推移を示しているが、北米航路(西岸2航路、東岸1 航路)の寄港数は減少傾向にあるものの、タイ・インドシナ航路と中国航路は大きく伸びている。これは、日本とアジア経済圏との間の貨物需要の増加を受け、神戸港がその物流ネットワークにおいて新たな役割を担っている。このような神戸港で顕在化する新たな役割をどのように今後の神戸港の施策につなげていくかが課題である。2 神戸市みなと総局へのヒアリングによる― 17 ―-18-表2-1 神戸港における主要外航航路別貨物推移2005年対92年比対99年比1992 1999 2005隻数総トン数隻数総トン数隻数総トン数隻数隻数隻当たりトン数隻当たりトン数隻当たりトン数フルコンテナ船4,412 109,632,099 4,725 108,628,377 4,029 91,742,133 91.3% 85.3% 24849 22990 22770定期航路計4,404 109,501,533 4,718 108,225,539 4,013 91,045,075 91.1% 85.1% 24864 22939 22688北米西岸(PNW) 657 23,291,509 442 20,377,822 122 6,002,757 18.6% 27.6% 35451 46104 49203北米西岸(PSW) 645 24,342,440 499 20,910,034 431 20,371,155 66.8% 86.4% 37740 41904 47265北米東岸274 11,140,195 362 16,526,118 76 3,941,404 27.7% 21.0% 40658 45652 51861カリブ・メキシコ湾2 40,127 0 0 0 0 20064欧州501 22,191,990 262 15,688,634 417 26,789,649 83.2% 159.2% 44295 59880 64244近東・地中海103 4,410,471 134 4,552,609 0 0 42820 33975南米西岸7 146,789 70 1,437,797 15 349,214 214.3% 21.4% 20970 20540 23281南米東岸(パナマ経由) 1 23,790 2 50,994 0 0 23790 25497南米東岸(南ア経由) 7 124,940 57 1,286,433 46 1,687,928 657.1% 80.7% 17849 22569 36694東南アフリカ33 1,016,814 48 1,526,565 0 0 30813 31803西アフリカ11 236,467 0 0 0 0 21497豪州・ニュージーランド148 2,433,953 118 2,146,765 68 1,601,835 45.9% 57.6% 16446 18193 23556印・パ・ペルシア湾47 1,435,288 0 0 0 0 30538インドネシア170 3,048,991 236 4,012,693 97 1,797,330 57.1% 41.1% 17935 17003 18529タイ・インドシナ259 2,502,290 317 3,780,113 531 6,988,128 205.0% 167.5% 9661 11925 13160シンガポール・マレーシア214 4,247,890 112 2,950,826 209 4,905,904 97.7% 186.6% 19850 26347 23473フィリピン3 27,826 53 624,952 51 487,055 1700.0% 96.2% 9275 11792 9550香港116 2,105,709 0 0 0 18153台湾36 415,652 1 9,923 0 0 11546 9923韓国517 2,124,819 496 2,059,812 344 1,871,240 66.5% 69.4% 4110 4153 5440中国603 3,882,127 1,473 10,085,557 1,581 14,093,776 262.2% 107.3% 6438 6847 8914ナホトカ50 311,456 36 197,892 25 157,700 50.0% 69.4% 6229 5497 6308不定期船8 130,566 7 402,838 16 697,058 200.0% 228.6% 16321 57548 435661992年1999年(出典)神戸市みなと総局『神戸港大観』(注)対92年比、対99年比は、2005年に対するものである。このような神戸港の港勢を踏まえると、神戸港の現状は、国際ハブ港としての役割は小さくなっているものの、アジア地域の物流ネットワークの一拠点としての役割、そして国内の、特に西日本におけるフィーダー輸送の拠点、阪神地域の物流拠点としての役割を担っていると言える。またその港勢も、先述の2 つの要因を考慮すると、数字からのイメージよりも衰退していないと言えよう。むしろ地理的に巨大な消費地や生産地を抱えていない神戸港が、東京港や横浜港、名古屋港と肩を並べていることは、神戸港が歴史的に積み上げてきた港湾サービスに優位性があると推察される。そこで今後の神戸港の港勢、さらには神戸港を利用する海運、荷主の競争力を高めるため、神戸港を管理、運営する行政機関と海運企業、荷主が、相互に連携を強めた取り組みが必要である。荷主は貨物が安く、早く、安全に輸送されることを求める。特にアジア経済圏における経済活動において、安価な労働力と効率的な物流ネットワークの構築が鍵となる。そして海運企業は、その荷主のニーズに合わせて輸送サービスを提供する。そこで重要なのは荷主のニーズがどこにあり、海運企業がそのニーズに応える場合、現在の神戸港において何が課題なのかを表明することである。特に阪神、瀬戸内地域には、厳しい国際競争の中で、鋭敏なコスト意識を持った荷主が多く存在する。そういった荷主企業を取り込み、海運企業が神戸港を活用したビジネスを拡大することを実践できるシステムが構築されれば、アジア経済圏における神戸港の優位性へとつながり、新たなアジア地域の拠点としての役割を構築することができる。特に近年、港湾サービスにおいて、securityとsafetyに関する「安全」「信頼性」といったニーズが高まっている。しかしこのような分野は、港― 18 ―-19-湾インフラと長い時間をかけて培われたノウハウ・技術が相互に機能することが重要である。このような高い港湾サービスを基盤に、貨物などの「モノ」、「ヒト」、そしてノウハウなどの蓄積やビジネスに関わる「情報」が交流することが、神戸地域の海事クラスターの再生において重要である。造船関連工業神戸地域の造船関連産業の優位性は、まさにクラスターの枠組みで捉えることができる。地理的に近接した地域に、造船、検査、修繕、舶用工業、研究機関が、face to faceの関係で集積していることが、その優位性の源泉である。一般に輸送機械産業は、多くの部品などの関連産業を抱え、ある一定の地域に集積し連携をとることで、新たな製品や生産技術などの「knowledge」を創出し、蓄積することができるとされる。造船関連産業もその傾向が強く、神戸地域の造船関連産業集積は、非常にバランスよく集積している。まず神戸地域の造船関連産業の概要について整理する。神戸地域の造船関連産業の発展は、明治時代に川崎兵庫造船所をはじめとした大規模造船所が建設されたことが契機となった。その後大手をはじめ中小造船業が新造船や修繕工場を設置し、現在も多くの工場が集積している。表2-2は、神戸運輸監理部管内(兵庫県)における造船事業者の推移であるが、事業者数や建造規模は年々小さくなっているものの、この地域の造船建造量の総トン数シェアは、2005 年で日本全体の約1 割となっており、艦船や高速船、ブロック建造、修繕などを中心に行われている。表2-2 神戸運輸監理部管内における造船業の現状合計大手中小造船法に基づく許可事業者小型船造船業法に基づく登録事業者隻数総トン数隻数総トン数隻数総トン数隻数総トン数隻数総トン数隻数総トン数1979 昭和54年15 67 207 442,048 4090 18,079,5031984 昭和59年19 63 191 855,911 3699 16,692,763 42 803,9371989 平成元年18 53 149 167,815 2928 7,781,480 16 115,4401994 平成6年18 46 99 311,169 1863 3,196,754 10 257,075 84 1,506,7441999 平成11年21 39 46 317,116 1766 1,859,518 8 281,533 44 385,2752004 平成16年21 27 45 374,929 1562 1,687,457 11 362,073 34 700,982 34 12,856 1539 1,348,5662005 平成17年21 27 34 389,865 1538 1,204,961 10 372,109 22 230,311 24 17,756 1516 974,650建造(鋼船) 修繕建造(鋼船) 修繕造船事業者建造(鋼船) 修繕(鋼船のみ)(出所)国土交通省神戸運輸監理部「管内造船及び舶用工業の現状」またこれらの造船工場の集積に伴い、神戸地域には世界でも有数の舶用工業の集積地を形成している。グラフ2-7 は日本の舶用工業の生産上位3県の製品内訳を示しているが、兵庫県は幅広い舶用工業製品を生産している。特にこの地域には100 社近くの舶用メーカー― 19 ―-20-が集積し、企業の中には、近年世界の造船産業と取引を行い、世界市場で存在感を示すものも少なくない。例えば独自の4 サイクル舶用エンジンブランドを有する阪神内燃機工業(神戸市)や船舶レーダーでは約40%の世界シェアを有する古野電気(西宮市)などが代表であろう。また中小企業の中にも、造船産業を側面から支える企業が多数集積している。グラフ2-7 舶用工業製品上位3県の概要0 20000 40000 60000 80000 100000 120000 140000 160000 180000 200000静岡兵庫長崎タービン内燃機関ボイラー補助機械係船・荷役機械軸系及びプロペラ航海用機器艤装品その他部分品・付属品(百万円)(出所)国土交通省海時局舶用工業課「舶用工業統計年報」平成15年10月さらに、このような神戸地域は、国際的物流拠点としての神戸港を有し、多くの船舶が世界各国から寄港することから、多くの船舶検査機関である船級協会の検査拠点が置かれている(表2-3参照)。このように神戸地域では、造船・検査・修繕という船のライフサイクルにおける拠点が近接しており、造船に関連した情報が集約され、新たな技術へのフィードバックも可能にできるフィールドも有している。― 20 ―-21-表2-3 船級協会の日本事務所関東地区(北海道~中部地区) 関西地区(近畿~九州・沖縄)日本海事協会本部(東京、千葉)、支部(函館、東京、横浜、名古屋)、事務所(八戸、仙台、清水)支部(神戸、岡山、尾道、広島、坂出、今治、北九州、長崎、佐世保)、事務所(相生、因島、高知、臼杵)、駐在(鹿児島)アメリカ船級協会(AmericanBureau of Shipping)関東事務所(横浜) 神戸事務所フランス船級協会(BureauVeritas)横浜事務所神戸事務所ノルウェー船級協会(Det NorskesVeritas)横浜事務所日本地区本部・神戸事務所ドイツ船級協会(GermanischerLioyd)GL横浜事務所GL日本事務所(神戸)ギリシャ船級協会(HellenicRegister ofShipping(international))ナブテック マリタイム株式会社(神戸)韓国船級協会(Korean Register ofShipping)東京事務所神戸事務所ロイド船級協会(Lloyd's Registerof Shipping)ロイド レジスター アジア(横浜) ロイド レジスター アジア(神戸)(注)各船級協会のHPなどより作成神戸地域の造船関連産業は、地理的に近接した地域に、造船、検査、修繕、舶用工業、研究機関が、face to faceの関係で集積していることが、その優位性の源泉であり、また大きな可能性を秘めている。特に舶用工業は、中小企業などが多く、その製品も必ずしも競合しない多様な企業が集積している。このような企業にとって、この近接した神戸地域を基盤に、様々な技術や情報を入手できる仕組み、また逆に様々な情報を配信できる仕組みが確立されることは、多くのビジネスチャンスを生む可能性を秘めている。また近年、日本の造船各社は、中国などのアジア地域に進出する動きを見せており、技術開発とともに、経営マネージメントを担う人材育成が急務となっている。そしてその地域的役割を神戸地域が担うべきである。そのためにも、長い歴史を有する造船関連産業の「knowledge」の蓄積、神戸地域に集まる情報、そして神戸大学、大阪大学、大阪府立大学などの海事関連の研究教育機関が持つ技術や情報、そして海事産業に理解のある都市、行政がうまく連携することが重要である。2.3 神戸地域海事クラスター強化の意義と課題神戸地域の海事クラスターの現状を示す各種データや、海運業や造船業が神戸地域から営業・生産拠点を撤退したという近年のニュースは、この地域の海事クラスターの衰退を多くの海事関係者に印象づけている。しかし、このような現状から、神戸地域の海事クラスターの重要性は失われたと結論づけるべきではない。神戸地域には歴史的に培われた技術やノウハウを創出する基盤が存在する。荷主の安全性といった神戸港の港湾サービスへの信頼は高い。海事代理士や金融、保険など海事関連サービスを供給する基盤もある。造船分野では研究施設をはじめ、造船を支える舶用工業の集積も厚い。また各国の船舶検査― 21 ―-22-機関が神戸に拠点をおき、修繕施設なども神戸地域に集積している。このような造船、修繕に関わる技術的情報は、現在も神戸に一定の集積があると考えられる。さらにその基礎技術や人材供給する神戸大学などの教育研究機関も神戸地域に集積している。つまりデータや実際に観察しにくい「知(knowledge)」に関わる基盤や「情報」は、神戸地域の海事クラスターの重要な資産、優位性の源泉といえよう。また近年の日本周辺の経済状況をみると、アジア経済圏の急速な経済成長に伴い、経済活動、ロジスティクスは大きく変化している。日本経済とアジア経済圏との関係は高まり、その貨物流動も大きく伸びている。また日本企業は生産拠点をアジア経済圏に展開し、製品を逆に日本へ輸入する事例も多くなっている。海事産業においても、日本アジア間の海運サービスのウェイトの増加、造船業の生産拠点のアジア地域への展開の動きが顕在化している。このような経済環境の中で、神戸地域の海事クラスターも、アジア経済圏における拠点的役割を念頭に、その強化を図るべきだと考える。しかし問題となるのが、このような神戸地域の海事クラスターが有する「knowledge」に関わる基盤、そしてそこから創出される「knowledge」や交流する「情報」は、クラスターの外部からは観察しにくく、また内部においても、その存在については多様な見方が存在することである。そこで、その優位性をどのように捉え、可視化するかが課題である。まず神戸地域の「knowledge」を創出する基盤と創出されている「knowledge」、そして神戸で交流する「情報」はどのようなものかについて共通認識を持つことで、神戸地域の海事クラスターの可能性が明らかになろう。そして次の段階で、その優位性を活かし、どう方向付けをしていくかが課題となる。このような課題に取り組み、神戸地域の海事クラスターを強化し、アジア経済圏の拠点的役割を担うには、海事クラスターを構成するセクターを束ねる試みが必要となろう。また「knowledge」や「情報」を有効に活かすためには、大学などの研究教育機関の役割も欠かせない。そこで、海外でも事例があるように、広範にわたる海事産業を束ねる、産学官が参加した海事クラスターを牽引する組織を構築すべきだと考える。そしてこの枠組みのもとで、以下のような検討をまずはすべきである。・ 神戸地域の海事クラスターの「knowledge」や「情報」の基盤とその優位性はどこにあるのか。・ クラスターを構成するセクターが直面する課題は何か。・ 神戸地域の海事クラスター強化に向けて取り組むべき課題は何か。特に近年の日本の海事産業が抱える課題として、アジア経済圏における戦略的施策とそれに伴う人材育成が挙げられよう。このような課題に対し、神戸地域の海事クラスターが提供しうる役割は大きい。そして新しい産官学を基盤とした海事クラスターが神戸地域で再生され、「knowledge」創出の基盤が強化され、多くの「情報」が海事クラスターに集まり、またそこから新たに「情報」が発信されるようになれば、持続可能な神戸海事クラスターの強化に繋がるだろう。― 22 ―-23-第3章 神戸海事クラスター構築の動き3.1 海事産業を巡る内外の動向わが国の海事産業は、今でこそ中国等によるアジア諸国の経済的発展の恩恵を受け、これまでにない景況を謳歌しているが、数年前までは世界的な景気低迷と、アジア諸国の台頭に大きな不安を抱いていた。例えば、港湾におけるハブ機能はシンガポール、香港、中国、韓国、台湾等に駆逐され、世界に占める貨物の取扱量も年々後退を余儀なくされた。設備にしても世界の趨勢となりつつあった大型コンテナ船(8000TEU以上)登場に立ち遅れ、世界から大きく引き離された。海運業は徐々に景気が上向き、活発化する兆しは見せていたが、米国で起きたテロ事件の後遺症をなお引きずっており、また国際競争力の確保が懸案となっていた。造船業でも新規受注が増えだしたものの、決算内容は赤字状態が続き、経営改善する見通しは2、3年後と
ページトップ