報告書・出版物

平成18 年度沖ノ鳥島の維持再生に関する調査研究報告書平成 19 年3 月海洋政策研究財団(財団法人シップ・アンド・オーシャン財団)はじめに海洋政策研究財団は、人類と海洋の共生の理念のもと、海洋・沿岸域に関する諸問題に分野横断的に取り組んでいます。国連海洋法条約及びアジェンダ21 に代表される新たな海洋秩序の枠組みの中で、国際社会が持続可能な発展を実現するため、総合的・統合的な観点から調査分析し、広く社会に提言することを目的にしています。活動内容は、海上交通の安全や海洋汚染防止といった、本財団がこれまでに先駆的に取り組んできた分野はもちろんのこと、沿岸域の統合的な管理、排他的経済水域や大陸棚における持続的な開発と資源の利用、海洋の安全保障、海洋教育など多岐にわたります。これらの研究活動を担うのは、社会科学や自然科学を専攻とする若手研究者、経験豊富なプロジェクトコーディネーター、それを支えるスタッフであり、内外で活躍する第一線の有識者のご協力をいただきながらの研究活動を展開しています。海洋政策研究財団では、平成17 年度、競艇の交付金による日本財団の支援を受けて、自然科学と社会科学の両面から「沖ノ鳥島の再生に関する調査研究」を実施しました。これらの研究の更なる発展と国際的視点を加えた先導研究を目的として、平成18 年度より3 ヶ年計画で「沖ノ鳥島の維持再生に関する調査研究」を実施することとしました。本報告書は、初年度に行った沖ノ鳥島の管理の現状、法的地位及び諸外国の管理実態に関する情報の整理、分析をとりまとめたものです。これらの調査研究がわが国における同島の管理政策の策定、実施及び国民の理解喚起のために役立つことを期待します。最後に、本書の作成にあたって、沖ノ鳥島研究会のメンバーの皆様、資料の収集等にご協力いただいた国土交通省の方々、本事業を支援していただいた日本財団、その他多くの協力者の皆様に厚く御礼申し上げます。なお、本調査研究は平成19 年度も引き続き実施する予定ですので、倍旧のご支援、ご指導をお願いする次第です。平成 19 年3 月海 洋 政 策 研 究 財 団会 長 秋山 昌 廣沖ノ鳥島研究会大 森 信 阿嘉島臨海研究所 所長茅 根 創 東京大学大学院 理学系研究科 助教授藤 田 和 彦 琉球大学 理学部 助手栗 林 忠 男 東洋英和女学院大学 教授林 司 宣 早稲田大学法学部 教授加々美 康 彦 鳥取環境大学 講師寺 島 紘 士 海洋政策研究財団 常務理事菅 原 善 則 海洋政策研究財団 政策研究グループ長仙 頭 達 也 海洋政策研究財団 企画グループ長桜 井 一 宏 海洋政策研究財団 政策研究グループ 研究員福 島 朋 彦 同 上* 加々美康彦氏は年度途中の移動のため現所属のみ記載オブザーバー泊 宏 国土交通省河川局海岸室 海洋開発審議官加 耒 順 也東京都 産業労働局 農林水産部水産課 企画調整係主任綿 貫 啓 株式会社アルファ水工コンサルタンツ 技術第二部部長青 田 徹 株式会社不動テトラ 総合技術研究所 所員窪 田 新 一 笹川平和財団 事業部 上席研究員古 川 秀 雄 日本財団 海洋グループ 海洋教育チームリーダー高 橋 雄 三 同 上 海洋教育チーム担当リーダー目 次はじめに研究メンバー第一部 本年度活動概要1.事業の概要·············································································································· 1(1)背景····················································································································· 1(2)全体計画·············································································································· 1(3)本年度実施項目··································································································· 22.調査研究内容············································································································· 3(1)沖ノ鳥島の維持再生に関する取り組み状況調査·················································· 3(2)島の地位及び管理方法に係る国際実行の比較研究··············································· 4(3)アウトリーチ·········································································································· 53.今後の課題················································································································· 8第二部 個別研究1.島・岩についての国際法制度 ················································································ 10(林司宣)2.遠隔離島の管理政策―アメリカとフランスの最近の実行を題材に― ····················· 22(加々美康彦)3.沖ノ鳥島再生のポテンシャル···················································································· 48(茅根創)4.サンゴ礁洲島(沖ノ鳥島)の形成に必要な原材料·················································· 70(藤田和彦)5.The Pacific Island and the Relevance of the Okinotorishima Project················· 84(Joeli Veitayaki )参考: 太平洋の島々と沖ノ鳥島プロジェクトの関連性(抄訳) ···························· 102第一部 本年度調査活動1.事業の概要(1)背景我が国最南端に位置する沖ノ鳥島は排他的経済水域及び大陸棚等を設定するための重要な陸域と位置付けられる。しかしながら、この島には、維持再生、利活用及び法的地位など、早急に検討すべき課題が残されている(平成17 年度報告書)。海洋政策研究財団の主催する沖ノ鳥島研究会は、平成17 年3 月に沖ノ鳥島再生計画を纏め、同島の維持再生技術の方向性を示した。同計画の発表、並びに先だって実施された日本財団の現地視察により、国内外において沖ノ鳥島への関心が高まり、平成17 年の年度途中から水産庁、国土交通省及び東京都が同島の維持管理・利用に関する調査を開始した。しかしながら、条約や法律に立脚した島の地位に関する検討は不十分、省庁間の連携不足、さらに国際的な視点の欠如など、依然として取り組みの強化を求める声がある。このような現状に応えるべく、当財団では平成18 年度から3 ヶ年にわたり、沖ノ鳥島の再生及び管理のあり方を提言すべく、先導的な研究に取り組むこととした。(2)全体計画本年度調査では、前述の課題を念頭に置き、国内状況に注視するとともに、国際的な視野をもって検討を行う。前者においては、国内関係省庁や自治体等の行っている取り組みのなかの目的や方法について調査し、一方後者においては、国際法における島の地位、諸外国の管理実態、同様な問題を抱える島嶼国との問題共有化に着目し、沖ノ鳥島問題を包括的に対処する方法を検討する。また、沖ノ鳥島の問題を一過性の話題にしないために、継続的に周知させる方法にも考慮する。表 1-1 全体計画項目 18年19年20年国内の取り組み  関係省庁の動き関連自治体の動き国際的管理実行国際法上の地位諸外国の管理実態島嶼国との問題共有化アウトリーチ個別研究結果統括的な提言-1-(3)本年度実施項目本年度調査を1)沖ノ鳥島維持再生に関する取り組み状況の整理、2)島の地位及び管理方法に係る国際実行の比較研究、及び3)アウトリーチに区分し、それぞれについて下記の調査を行った。1)沖ノ鳥島維持再生に関する取り組み状況の整理沖ノ鳥島関連事業を実施している水産庁、東京都及び国土交通省を対象として、取り組み状況及び今後の予定を調査した。調査対象は下記のとおり。①水産庁水産庁漁港漁場整備部/独立行政法人水産総合研究センター/社団法人水産土木建設技術センター/生育環境が厳しい条件下における増養殖技術開発調査事業検討委員会/阿嘉島臨海研究所(アドバイザリー機関として)②東京都東京都産業労働局農林水産部/沖ノ鳥島活用推進プロジェクト検討委員会③国土交通省国土交通省河川局海岸室/国土交通省関東地方整備局京浜河川事務所④その他沖ノ鳥島事業に詳しい有識者2)島の地位及び管理方法に係る国際実行の比較研究沖ノ鳥島と同様の離島を持つ諸外国の管理実態を調査するとともに、沖ノ鳥島を含めたこれらの島に関する国際法上の位置づけ並びに問題の所在を検討した。3)アウトリーチ沖ノ鳥島の抱える問題を広く知らしめるためアウトリーチに努めた。①日本沿岸域学会春期大会②日本サンゴ礁学会秋期大会-2-2.調査研究内容本年度は視察2回、面談調査6回、学会参加2回の活動を実施した(表1-2)。(1)沖ノ鳥島の維持再生に関する取り組み状況調査沖ノ鳥島の維持再生並びに有効利用に関しては国土交通省、水産庁及び東京都の取り組みがある。① 国土交通省の取り組み国土交通省は、従来から沖ノ鳥島の維持管理に取り組んでおり、本年度は北小島へのチタンネットの設置や海上保安庁による灯台設置などを実施した。以下、海上保安庁が設置した沖ノ鳥島灯台について述べる。沖ノ鳥島近海(60 海里内)には鉱石運搬をはじめとする年間1000 隻程の外航商船が航行している。主な航路は、豪州及びニュージーランドからの北関東、東北及び北海道へ向かう鉱石運搬船、豪州から中国及び九州地方に向かう石炭運搬船、フィリピンやインドネシアから関東、東北及び北海道へ向かう木材運搬船、及び豪州から韓国に向かう石炭運搬船などである。このほかにもボーキサイト、ニッケル及びマンガン鉱物が沖ノ鳥島周辺を経由して我が国に輸入されており、沖ノ鳥島周辺海域は我が国の鉱物資源海上輸送の生命線とも言われる(大貫 2004)。しかしながら周辺に陸域のない無人島であるため、沖ノ鳥島周辺には航行の危険があり、最近10 年間でも4 隻の座礁が確認されている。特に1997 年の香港船籍の貨物船コリエントの座礁は大手新聞社も取りあげたことから国内で注目を浴びることになった。海上保安庁は、周辺海域を航行する船舶や操業漁船の安全と運行能率の増進を図ることを目的として2007 年3 月16 日に沖ノ鳥島灯台を設置した。今後、航路標識法に基づき告示されるとともに、海図にも記載される予定である。設置位置は、環礁東寄りにある作業架台上の建築物の頂部で(海面からの高さは26m に相当する)、電源は太陽電池パネル、光到達距離は12 海里、点滅は8 秒に1 回である(以上、海上保安庁によるプレスリリース)。② 水産庁の取り組み水産庁漁港・漁場整備部では、「生育環境が厳しい条件下における増養殖技術開発調査事業」を平成18 年度~20 年度の計画で開始した。実施機関は社団法人水産土木建設技術センター、協力機関は独立行政法人水産総合研究センターである。同調査は、1)沖ノ鳥島の環境条件の把握、2)種苗生産技術の開発及び3)適地選定技術の開発を目的とし、最終年度には4)サンゴ礁移植のガイドライン設定を予定している。本年度の調査内容は、5 月と8 月の現地調査及びサンゴ種苗生産センター(注1)におけるサンゴの育成調査である。現地調査では沖ノ鳥島のサンゴ分布状況や生育環境条件などを調査し、サンゴ育成調査では沖ノ鳥島産のサンゴを飼育して育成技術の向上を目指している。調査研究の詳細については、年3 回実施された有識者による検討委員会(一般による傍聴も可能な形式)で方向性を諮っている(注2)。第一回は4 月、第二回は10 月及び第三回は3 月に実施された。-3-(注1)サンゴ種苗生産センターは、社団法人水産土木建設技術センターが平成18 年6 月に阿嘉島に建設したサンゴ種苗生産施設である。大きさは529 ㎡で、その中に親サンゴ水槽8基と稚サンゴ用水槽16 基が設置されている。現在は2006 年5 月と8 月に沖ノ鳥島で採取した親サンゴと5 月の調査時に船上で産卵したサンゴ種苗が飼育されている。(注2)検討委員は、阿嘉島臨海研究所の大森信所長、東京大学の茅根創助教授、水産総合研究センターの林原毅及び中山哲巌両博士、亜熱帯総合研究所の鹿熊信一郎博士で構成されている。他にもオブザーバーとして環境省自然環境局、国土交通省河川局、東京都産業労働局、サンシャイン国際水族館の関係者が参加している。③東京都の取り組み東京都では1) 沖ノ鳥島活用推進プロジェクト(平成18~20 年度)と2) 沖ノ鳥島映像資料大系の制作(平成18~19 年度)に取り組んでいる。東京都の重点施策でもある1)沖ノ鳥島活用推進プロジェクトでは①浮き魚礁の設置等の支援と②周辺海域の調査・監視を行っている。①浮き魚礁設置等の支援では、カツオ・マグロ漁業の操業支援、シマアジの稚魚放流及び浮き魚礁設置による漁場造成を、②周辺海域の調査・監視では調査指導船の建造などによる監視強化を目的としている。本年 1 月には、沖ノ鳥島の周辺5~10kmの範囲に大水深浮き魚礁3 基を投入した。設置場所の水深は1750m~2,800m で、そこから係留した魚礁自体は水深50~60mに留まっている。今後は集魚効果のモニタリングが予定されている。沖ノ鳥島映像資料大系の制作は、元水産庁漁港部長の坂井溢郎氏とご夫人の寄付金をもとに映像資料を制作しようとするものである。専門委員会(注3)を設置し、沖ノ鳥島に対する国民の理解を深めることを目的として各編一時間程の映像資料を合計で7巻作成する予定である(本年度は5 巻まで制作済み)。(注3)専門委員会には、東京海洋大学の石丸隆教授、岡本峰雄助教授、水産庁漁場整備部の大隈篤氏、鳥取環境大学の加々美康彦講師のほか、東京都関係者が参加している。(2)島の地位及び管理方法に係る国際実行の比較研究第 10 回沖ノ鳥島研究会では米国を対象とした遠隔離島の管理政策について、第11 回沖ノ鳥島研究会ではフランスによる散在諸島などの管理について、いずれも加々美委員からの報告があった。米国を対象とした遠隔離島の管理政策の報告では、北西太平洋諸島国立記念碑を例に挙げ、海洋保護区の制度とEEZ 設置の諸条件を対比させながら海域管理について考察した。一方フランスによる散在諸島の管理方法の報告では、同国が小さな陸地面積しか持たないにもかかわらずEEZ の面積は世界の8%を占めていることや、EEZ の基点となる多くの島嶼には定住者が不在であることなど、沖ノ鳥島の国際法上の地位を考えるうえでの興味深い結果が報告された。加々美氏は論文の最後で、米国とフランスでは高潮時に水没しない陸地を持つ島嶼すべてにEEZ を設定していること、漁業活動以外にめぼしい産業がなくともEEZ を設定していること、島嶼と周辺海域に保護区の設定されることが多いこと、及び国際法上は解釈が微妙な-4-島嶼についても情報公開が進んでいることを指摘している。第 11 回沖ノ鳥島研究会では、上記とは別に、林委員による国際法制度のなかにおける島と岩の解釈に関する報告があった。具体的に、国連海洋法条約第121 条3 項の曖昧性、岩とは何か、人間居住の意味、経済生活の意味、独自の経済生活の意味、自然に形成された陸地の意味などについて、国際的な事例を交えて解説した。さらにそれらを踏まえたうえで、今後我が国がとるべき対策の最優先事項について、同委員の見解を示した。林委員の述べた最優先事項とは、沖ノ鳥島にある東小島と北小島の水没を防ぐこと、両小島が水没することを想定して新たな陸地を形成すること、及び可能な限り卓礁内及び周辺海域において経済的・商業的活動を行うことの三点である。* 加々美委員及び林委員の報告は本報告書の第二部に論文として掲載している。(3)アウトリーチ沖ノ鳥島の問題を継続的に発信するための一環として、日本沿岸域学会春期大会及び日本サンゴ礁学会秋期大会の場を借りて、当財団の取り組みを発表した。日本沿岸域学会においては1)大型有孔虫の棲息環境調査、2)大型有孔虫の棲息に適した流動環境に関する一考察、及び3)大型有孔虫が増殖しやすい人工芝基盤の効果、を発表した。1)大型有孔虫の棲息環境調査では、大型有孔虫が棲息するための条件把握を目的とし、阿嘉島における海水や波浪などの自然条件と有孔虫の出現数を関連づけて考察した。今後の展開次第では、この調査結果を元にして沖ノ鳥島の有孔虫増殖のポテンシャル推定が可能になるとした。2)大型有孔虫の棲息に適した流動環境に関する一考察の場合、流動環境が有孔虫増殖の適地選定に寄与することを前提として、大型有孔虫の分布と年間の流動環境変化を調査し、流況からみた棲息最適環境の把握に努めた。3)大型有孔虫が増殖しやすい人工芝基盤の効果では、大型有孔虫増殖の最適基盤を選定するために人工芝による周辺調査を行った。得られた結果は人工的な増殖を試みるうえの重要な技術に繋がる。日本サンゴ礁学会では1)沖ノ鳥島の完新世における形成過程及び2)砂供給者としてみた大型有孔虫の棲息環境を発表した。1)沖ノ鳥島の完新世における形成過程では、過去数千年の地層を観察し、間氷期におけるサンゴ礁の上方成長速度を推定し、同島のサンゴ成長が海面上昇に対応しうるかを分析した。併せてサンゴ生産速度を計算し、瓦礫サンゴを含めて、洲島形成のための原材料の生産力を推定した。一方2) 砂供給者としてみた大型有孔虫の棲息環境では、前述の沿岸域学会の発表内容を総合的に解析し、沖ノ鳥島及び熱帯域における有孔虫成長ポテンシャルを考察した。* 茅根委員及び藤田委員の発表内容を含めた論文は第二章にある個別研究のなか掲載している。-5-表1-2. 平成18 年度活動内容平成18 年度の活動一覧(文献調査・インターネット、電話及びメールによる調査は省略)平成18年5月26日: サンゴ種苗育成センターの現地視察(沖縄県座間味)*水産土木建設技術センターが沖縄県座間味郡阿嘉島に建設したサンゴ種苗育成センターを視察するとともに、管理担当者からサンゴ育成方針に関する情報を入手した。5月27日: 有孔虫調査の実験装置撤収(沖縄県座間味)*平成17 年度事業で実施した有孔虫加入実験の第3回目の試料を採取するとともに、実験に利用したグレージングを撤去した。5月28日: 水産庁による沖ノ鳥島調査団団員との面談調査(沖縄県座間味)*水産庁の実施した沖ノ鳥島調査の状況を把握するため、帰港直後の調査員に面談した。6月 8日: 太平洋島嶼国の実態把握のため笹川平和財団研究員と面談*太平洋島嶼国の実態把握の方向性を探るために、笹川太平洋島嶼国基金の窪田氏に面談した。6月15日: 第9回沖ノ鳥島研究会の開催日時: 平成18年6月15日(木)場所: 海洋船舶ビル4 階会議室議題: 本年度調査研究計画(案)の検討/アウトリーチ活動の紹介報告書(または配布用冊子)について6月27日: 東京都による沖ノ鳥島講演会に参加(東京都庁)*もっと知ろう沖ノ鳥島!考えよう沖ノ鳥島の未来!沖ノ鳥島ビデオ上映(概要、現地視察、サンゴ礁の内外、漁業操業)都における1 年の取り組み沖ノ鳥島周辺での漁業操業の状況と今後の可能性沖ノ鳥島の管理・保全の状況と今後の展望6月29日: 学会発表 (日本沿岸域学会 函館)大型有孔虫の棲息環境調査(藤田他)大型有孔虫の棲息に適した流動環境に関する一考察(綿貫他)大型有孔虫が増殖しやすい人工芝基盤の効果(青田他)-6-11月23日: 学会発表(日本サンゴ礁学会 仙台)沖ノ鳥島の完新世における形成過程(茅根他)砂供給者としてみた大型有孔虫の棲息環境(藤田他)12月 1日: 第10回ノ鳥島研究会の開催日時: 平成18年12月1日(金)場所: 海洋船舶ビル4 階会議室議題: 本年度調査研究進捗状況(概要)/関係機関の取り組み状況国際実行の比較研究/アウトリーチ/成果の取り纏め12月 8日: Dr. Veitayaki (IOI フィジー)と面談*South Pacific University のAssociate Professor であるDr. Veitayakiが鹿児島大学に4 ヶ月間滞在した。彼が上京の機に太平洋島嶼国の抱える課題について情報収集するとともに、沖ノ鳥島問題を共有できる課題を話し合った。12月15日: Mr. Chibana (Coral Savers)と面談*パラオにあるNPO Coral Savers 代表のSteve Shinji Chibana 氏の訪問があり、太平洋島嶼国におけるサンゴ移植に関する情報を収集した。12月18日: 水産庁の沖ノ鳥島調査委員会委員と面談*平成18 年度生育が厳しい条件下における増養殖技術開発調査委託事業サンゴ増養殖技術検討委員会の林原委員と面談し、事業の進捗について情報収集した。平成19年3月 9日: 東京都の沖ノ鳥島調査担当者と面談(東京都庁)*東京都産業労働局農林水産部水産課長 山﨑氏をはじめとする沖ノ鳥島担当職員5名と面談した。3月22日: 第11 回沖ノ鳥島研究会開催日時: 平成19年3月22日(木)場所: 海洋船舶ビル8 階会議室議題: 平成18 年度活動報告/平成18 年度調査研究報告平成 19 年度活動案について3月 末: 平成18 年度沖ノ鳥島の維持再生に関する調査研究報告書作成-7-3.今後の課題(1)沖ノ鳥島維持再生に関する取り組み状況の整理本年度は、国土交通省、水産庁及び東京都との情報交換を通して、国内の取り組みを概略的に把握するとともに、関係者とのネットワーク形成の端緒を掴むことができた。次年度は、関係省庁及び自治体の実施内容を更に精査する。そのなかで調査研究目的の整合性・一貫性及びいずれの取り組みからも抜けている項目の有無についての調査を継続する。(2)島の地位及び管理方法に係る国際実行の比較研究本年度に実施した島及び岩に関する国際法制度に関するレビュー及び、米国及びフランスの管理実行についての調査により、国際的管理実行に関する概略を把握した。特に事例調査については、昨年度の事例調査対象の豪州、ベネズエラ及びメキシコと合わせると合計5 ヶ国の事例が蓄積したことになる。また予備的調査ながら、本年度は太平洋の島々の抱える問題について把握するため、南太平洋大学のVeitayaki 准教授から論文(太平洋の島々と沖ノ鳥島プロジェクトの関連性(注4))の提供を受けた。次年度は引き続き管理実行の国際的事例を調査するとともに、Veitayaki 准教授から論文を基に沖ノ鳥島と太平洋の島々との課題共有化を探る必要がある。(注4)第二部にあるVeitayaki 准教授の論文は、太平洋の島々の課題と沖ノ鳥島の再生プロジェクトの関連性について記述した内容である。(3)アウトリーチ沖ノ鳥島の課題を広く知らしめるために、引き続き学会報告、一般を対象とした普及啓蒙活動に努める。特に最終年度に予定しているシンポジウム開催を効果的なものにするため、次年度はそのアウトプットのあり方の検討を含め、周辺情報の収集に傾注する。-8-第二部 個別研究1.島・岩についての国際法制度 林 司宣2.遠隔離島の管理政策-アメリカとフランスの最近の実行- 加々美 康彦3.沖ノ鳥島再生のポテンシャル 茅根 創4.サンゴ礁洲島(沖ノ鳥島)の形成に必要な原材料 藤田 和彦5.The Pacific Island and the Relevance of the Okinotorishima Project Joeli Veitayaki参考 太平洋の島々と沖ノ鳥島プロジェクトの関連性(抄訳)-9-島・岩についての国際法制度早稲田大学 林 司宣1.はじめに島や岩に関する国際法(海洋法)の扱いについては、わが国においても専門的立場からすでに山本草二教授、栗林忠男教授等の詳細な研究があり1、またとくに沖の鳥島に関連して海洋政策研究財団の作業も進められてきた2。こうした研究からも明らかなとおり、本問題には、多くの諸国の現実的利害が絡んだ複雑な経緯があり、また現行の法制度についても不明確な点が多く、国家の実行や学者の見解も統一されていない。本稿は、過去の経緯は必要最小限にとどめ、島および岩について現在適用されている国際法の制度とその主な論点をできる限り平易に整理することを目的とする。最後にその結果を沖ノ鳥島に適用し、若干の提言を行いたい。本問題を扱う国際法制度の原則規定は国連海洋法条約(海洋法条約)、ことにその121条に定められている。同条約は、2007 年2 月16 日現在152 カ国と欧州共同体(EC)が加入し、沿岸国としてはごくわずかな非締約国の一つである米国も同条約の諸規定を事実上受け入れており、ほぼ普遍的に適用される国際法規となっている。2.海洋法条約規定海洋法条約121 条は「島の制度」とのタイトルの下に、次のように規定する。「1.島とは、自然に形成された陸地であって、水に囲まれ、高潮時においても水面上にあるものをいう。2.3に定める場合を除くほか、島の領海、接続水域、排他的経済水域及び大陸棚は、他の領土に適用されるこの条約の規定に従って決定される。3.人間の居住又は独自の経済的生活を維持することのできない岩は、排他的経済水域又は大陸棚を有しない。」この条文のいくつかの要素については、のちほど詳細に検討するが、まず全体としての規定振りから、少なくとも文言上は、1 項から3 項まで全体がそのタイトル(島の制度)も示すとおり、島についての規定であり、従って3 項が言及する「岩」も1 項で定義した島の一種であると思われる。つまり、3項の「岩」は島の特別形態とみなしていると解するのが自然であり、学説においてもこの見方が一般的といえる3。すなわち、121 条は全体が島についての規定であり、3 項の「岩」は(2 項で「3(項)に定める場合を除くほか、島の領海...は」と定めていることからもわかるように)例外的な島を扱っており、それを「岩」と呼んでいるといえよう。したがって、3 項の「岩」も、1 項が定めるように自然に形成され、水に囲まれ、かつ高潮時に水面上にあることを要する。ただし、このような規定の自然の文章に沿った文言的解釈に対しては異論もある。その代表例がわが国政府で、1999 年4 月16 日の衆議院建設委員会で政府委員は、沖の鳥島に関連し、同島は121 条1 項の定める島の条件を満たしており、島であって「岩」ではないとし、また3 項の規定は島ではなく「岩」に関するもので、しかも岩の定義もなく、かつ-10-国家の実行からみても、その規定によって特定の地形が排他的経済水域(EEZ)または大陸棚を有しないとする根拠にはならない、と答弁している4。この解釈は学説の多数には反すると思われるが、そもそも岩の定義が設けられておらず、またこの点に関する国家実行も固まっていないことは確かである。また後述のように、同3 項の規定の曖昧性、不明確性を根拠に、121 条の一般的に受け入れられる解釈は、将来の諸国の実行を通じた進展を待つべきだとする見方が有力である。ただ、以下においては、用語の混乱を避けるため、原則として「岩」を121 条1 項が定義する島の一形態を意味するものとして使用する。したがって、島への言及は原則として「岩」も含むものとする。121 条の規定について、つぎに注意しなければならないことは、1 項の島の定義は島について一般的に適用されるが、3 項はその位置する海域の如何を問わずあらゆる海域の岩について適用されるわけではないことである。3 項が適用されないのは、3 つの場合であり、第1 に沿岸から至近距離にある島は、直線基線採用の条件をみたせば、人間居住または独自の経済的生活の維持可能性とは無関係に、当該沿岸国が直線基線を引く対象として利用することができ(海洋法条約7 条1 項)、そこを基点として領海、EEZ および大陸棚を設定することができる。第2 に「群島国」として認められる国の場合には、群島のもっとも外側にある島や低潮時に水面上にある礁を結ぶ直線基線(群島基線)を引き(同条約47 条1項)、同様に領海、EEZ 等を設定することができる。第3 にEEZ 内で沿岸から比較的遠方にある島の扱いは、他の沿岸国のEEZ との境界画定に際して、通常は関係国間の合意により決められている。海洋法条約は、EEZ と大陸棚についての境界画定は、「衡平な解決を達成するために...国際法に基づいて合意により行う。」と定めるのみであり(74 および83 条)、島の存在は個々の境界画定協定や判例において、通常衡平な結果をもたらすために考慮の対象とされるべき関連事情の一つとされ、具体的にはさまざまな扱いを受けている。3.121 条3 項の曖昧性121 条3 項の規定は、第3次海洋法会議において、主として2 つの立場の間の妥協から生まれたものである。一つは、人間居住や経済的生活になじまない孤島などが周辺の200海里に達する海域に主権的権利を獲得するのは、それだけ人類の共同遺産たる深海底とその資源を縮小させることになり、また公海漁業の自由を不当に制限することになるとして、通常の領土と同じような地位を与えるべきでないとする見解である。他はこれに反対し、小島であろうと岩であろうとEEZ・大陸棚を伴うとする立場である。こうした対立の妥協の結果、同規定はいくつかの点で解釈上の困難な文言を残すこととなった。こうして、多くの学者は同条項が極めて曖昧にしてかつ不正確なものであると性格づけることで一致している5。121 条3 項は「岩」という用語を定義することなく導入し、「人間の居住または独自の経済的生活」を維持できるものと、できないものとに2 分し、後者に対してはEEZ・大陸棚に対する権原を否定する。前者については、同条2項に従って、その領海、接続水域、EEZ、大陸棚の設定が認められる。ここでとくに問題となるのは、「岩」とは何か、「人間の居住」や「独自の経済的生活」は具体的に何を意味するか、また岩を含む島の一般的条件として同条1 項が定める「自然に形成された陸地」とは何かである。以下においては、これらの-11-問題を順次検討する。4.「岩」とは何か121 条3 項の「岩」を一般の島から区別する基準として、海洋法会議において、その大きさや、地質学的な特徴を提案するものもあった。しかし、たとえば地質学的に強固な岩質からなる比較的大きな島が「岩」とされてEEZ・大陸棚は持ちえず、他方土砂が中心の小島が通常の島として扱われることは不公平などの理由で、地質学的な形成過程による区別はされることなく扱われ、最終的には「岩」の用語のみが残された6。こうして法的な意味での岩は、一般にはサイズや地質学的特徴に関係なく、たとえば砂洲、環礁なども含まれるとするのが通説となっている。さらに、上述したように、そのような岩は満潮時においても水面上に露出していることを要する。低潮時にのみ水面上に露出するが満潮時には水面下にかくれる岩は、低潮高地と呼ばれ、沿岸国はその領海内または領海の外縁境界上にあるものは領海の幅を測定する基点として利用できるが、領海外にある低潮高地は領海も持つことができない(海洋法条約13 条)。この点に関する国家実行をみても、諸国は沿岸国から遠く離れた孤島を地質学的特徴に関係なく島として扱い、EEZ を設定している。たとえばカリブ海にあるベネズエラのアべス(Aves)島(長さ600m 弱、最も狭い幅約30m)は砂と礁からできており、グリーンランドとアイスランドに近いノルウエーのヤン・マイエン(Jan Mayen)島(面積約373 平方km)は火山島、そしてメキシコ沿岸から約670 海里の太平洋にあるフランス領のクリッパートン(Clipperton)島(面積約1.6 平方km)はサンゴ礁と火山性の岩からなっている。またメキシコは太平洋岸から数百キロに点在する無人の小岩島などからなるレビヤ・ヒヘド(Revilla Gigedo)諸島やその他の諸島にEEZ を設定している。ただし、明らかに岩の塊のみと見られる場合には、こうした傾向に反する実行もあることも指摘しなくてはならない。たとえばメキシコは同レビヤ・ヒヘド諸島の北方にあるアリホス(Alijos)岩については、EEZ を設定していない7。またイギリスは、スコットランド沿岸から約200 海里はなれた岩ロッコール(Rockall)(面積約624 平方m)からその漁業水域の一部を設定し(1976 年漁業水域法)、周辺のデンマーク(フェロー諸島)、アイルランドおよびアイスランドから同岩は121 条3 項の適用される岩だとして抗議を受けていたが、同国は、1997 年海洋法条約に加入した際、「ロッコールは、同国の漁業水域の限界を海洋法条約121 条3 項の下で定めるための有効な基点とはならないので」、その限界を再定義する必要がある旨の宣言を行い、その直後上記1976 年法を同条の要件を完全に満たすよう改正した8。5.「人間の居住または独自の経済的生活の維持」の意味121 条3 項の「人間の居住又は独自の経済的生活を維持することのできない岩」の表現は解釈上いくつかの問題を生じさせている。まず、ここには「人間の居住」と「経済的生活」の維持の2 つの要素が含まれているが、両者は「又は(or)」でつながれている。そのため一般には、いずれか一方の要件を満たせば、すなわち人間の居住と経済的生活のいずれかが維持できなければ、その岩はEEZ も大陸棚も有しないと解されている。つまり、これらのどちらかが可能であれば、その岩は一般の島と同様に扱われることになる。他方、-12-ここにいう"or"は"and"の意味で使用されていると解釈するものもある9。この点、両要素は切り離しえない一括要件ないしは単一概念であり、岩がEEZ や大陸棚を持つためにはその周囲の海洋スペースを利用する人々の「安定した共同体」を支える必要があると説くものもある10。しかしながら、この解釈は岩が121 条3 項の適用を免れるための最も厳しい条件を課すものであり、少数見解にとどまる。ことに、同条文起草過程の初期において3 項の2 つの要素を"and"でつなぐデンマーク提案があったが、早い段階からこれは一般に受け入れられず "or"がその後一貫して使用されていた経緯からも、2 つの要素は一体として扱われていないと見るのが自然であろう11。この点に関連した事例として1981 年のヤン・マイエン島大陸棚紛争があげられる。同島には定住民はおらず、当時数十人の気象観測要員等が年間を通じて、ほとんどが国防省管轄の基地に常駐していたが、島内において経済的活動は行われていない。そのようなヤン・マイエン島とアイスランドの間の大陸棚境界問題を扱ったアイスランド・ノルウエー間の国際調停委員会は、同年の報告書および勧告において、同島は海洋法条約草案121 条(最終的に採択された121 条と同一規定)の3 項が適用される岩であるとするアイスランドの主張を退け、同島には121 条1および2 項が適用され、よってEEZ および大陸棚を有するとした12。調停委員会は、条約草案の121 条はすでにその当時の国際法を反映するものと性格づけたこと、さらにその委員(調停人)は当時進行中の海洋法会議において中心的役割を担っていた3 名の代表13 からなっていたことから、同報告書・勧告は同条文の解釈に一定の重みを付与するものといえる。6.「人間の居住」の意味それでは「人間の居住」を維持することができないとは何を意味するであろうか。たとえば、過去に居住していたことがあるが現在居住していない場合、居住が一時的であって、恒久的でない場合、将来何らかの理由で居住の可能性がある場合、居住する人間の数や社会(共同体)の存在の必要性、居住を支えるための飲料水や食糧の自給の限度、などの扱いが問題となる。具体的には、当該岩のグアノ資源の採取等のための一時期の居住、小規模な軍隊の駐屯、気象観測や通信・研究施設のための科学者・要員の一時的ないし長期的滞在、当該の岩自体には住まないが近隣の住民が同岩の内水・領海において定期的に漁業その他の経済的活動を行う場合、経済的目的の無人構築物・施設等の遠隔操作などの例が存する。これらの疑問点に関しては、条文上明確な回答はなく、国家実行も多くない。しかし少なくとも、「維持することができない」(cannot sustain; 仏文ではne se prêtentpas à...)の表現は、現状における事実の描写とは必ずしもいえず、将来も含め「維持する」能力があることが示されれば121 条3 項は適用されないといえるであろう14。したがって歴史的な事実は、現在ないし将来の可能性を示す一つの材料にはなるが、現時点または将来において再度居住が可能であることを示す必要がある15。この点に関し、121 条3 項の2 つの要素の一体性を説く前述の論者は、人間の居住要件を満たすには一定規模のかつ組織された共同体が当該岩または近隣の領域内に存在することが必要だとしている16。また沿岸域の共同体の存在を要するとする見解もある17。しか-13-し、これらは一般に、経済的生活が継続的に維持できるためにはそのような共同体が不可欠との考えに立っているように思われる。したがってこの説は、3 項の2 要素を別個の独立したものと見る通説には必ずしも妥当しない。人間の居住可能性が関係したわずかな事例としては、前述のヤン・マイエン島に関する調停がある。同調停報告書・勧告は同島における気象観測要員等の常駐の事実を指摘して、(経済的生活については触れることなく)同島を121 条3 項の岩に該当しないと結論している。ただし、それだけで「人間の居住」要件を満たすか否かに関する具体的な検討は行っていない。他の例としてクリッパートン島があげられる。メキシコ海岸から670 海里離れたこの仏領の孤島には1892 年から1917 年まで小集団のグアノ採取業者が、食糧・水は外部からの補給に頼って住んでいたといわれ18、フランスは、121 条の草案は未だ交渉中であった1978 年に同島にEEZ を設定した。さらに、経済的活動を維持していると思われないが、沿岸警備隊の施設(レーダー基地と海洋学調査基地)を建設し軍人、科学者数人が駐留している19アベス島に関しては、ベネズエラはEEZ・大陸棚を主張し、フランス、オランダおよび米国は同国との境界画定協定を通じてこの主張を認めている。ただし、これら協定に対しては、周辺の3 国(アンティグア、セント・キッツおよびセント・ビンセント)が抗議をしており、紛争は未解決のままである20。以上のように、「人間の居住」要件については、文理解釈上も、実行上も極めて不明確な状況のままであるといえる。7.「経済的生活」の意味つぎに、「独自の経済的生活」を維持できないとは何を意味するであろうか。まず「経済的生活」の意味が問題となる。天然資源の開発やその他の生産活動はいうまでもなくこれに含まれるが、灯台やその他の航行援助施設なども、海運・漁業活動やレジャー産業に価値のあるものであり、「経済的活動」の一環とみなすものも多い21。また、地理的位置によっては商業的人工衛星の追跡基地としての利用もありうる22。他方、無人の灯台や通信施設はどんな小岩にでも設置が可能であり、それだけでは不十分で、商業的ないし生産的活動を要するとする学説もある23。しかしながら商業的活動とは限らない気象観測施設や通信施設は、ことにそれらの活動・データがウエッブで公開されるなど、ますます幅広い利用に供されつつある今日、これらを「経済的生活」からまったく区別することは困難になってきているのではなかろうか。岩における経済的目的の無人施設・構築物が遠隔地からの操作で維持されている場合はどうであろうか。この種の利用は将来増大する可能性が十分あり、「経済的生活」に含まれるとするのが妥当と思われる24。「経済的生活」の条件を満たすもう一つの可能性として、海洋保護区や自然保護区等の設定を提唱するものもいる。環境保護のためのこれら類似の措置は種々の形の経済的利益を生みだす可能性があり、たとえば魚種資源の増大、観光収入、サンゴ礁からの商品開発、汚染の減少からもたらされる健康上の利益など最終的に「経済的生活」要件を満たすというものである25。現実に自然保護区ないし同種の特別保護区域に指定された小島や岩の例としてアベス島26、メキシコのレビヤ・ヒヘド諸島27、米国の北西ハワイ諸島28などがある。しかしながら、商品開発、エコツーリズムなどのような具体的な経済的活動が認め-14-られていない限り、海洋保護区の設定自体のみでは、自動的に経済的生活に関連付けるのは少々無理があるようにも思える。したがってこの点に関しては、最終的には、個々のケースごとに実体に即して判断されるべきであろう。なお、こうした「経済的生活」は、当該岩(陸地)の上のみに限られない。島の地位をもつどんな岩であっても少なくともその主権行使の対象となる領海(基線から12 海里まで)を伴っており、たとえ海上・海底であってもそのような経済的生活に利用することが可能である。したがって領海内での漁業・養殖・畜養や鉱物資源開発は当然ながらこれに含まれる。他方領海外であるEEZ や大陸棚は主権行使の対象としての領土の一部ではなく、そこにおける活動はここでいう「経済的生活」の対象外である。つぎに121 条3 項の「維持することができない」の意味についてはすでに触れた通り、現在における状態のみならず、将来であってもその可能性が証明されればよいであろう。実際の例として、ノルウエーのアベル(Abel)島(面積13.2kmの無人島)では、北極グマ猟が認められていないが、同国の最高裁判所は、1996 年、もし禁止されていなければ同島は相当な狩猟活動を維持することが可能であり、したがって同条3 項の岩に該当しないと判示している29。現実には多くの諸国が国内法で、遠隔の無人島にEEZ・大陸棚を設定しているが、周辺海域の石油やその他の鉱物・生物資源の開発可能性を念頭にしたと思われるケースも多い。ただし、それら資源は大部分が領海内ではなく大陸棚・EEZ のものを対象にしていると思われる点で問題点も残る。たとえば、クリッパートン島やメキシコのクラリオン(Clarion)島(サンタ・ロサSanta Rosa 島)を含むレビヤ・ヒヘド諸島30、チリのサラ・イ・ゴメス(Sala y Gomez)島(長さ1.2km、幅152m)31, ニュージランドの レスペランス( L'Esperance ) 岩を含むカーマデック(Kermadec) 諸島32、フィジーのセバイラ(Ceva-i-Ra)島(コンウェイConway 礁)33などである。8.「独自の経済的生活」の意味121 条3 項のもう一つの問題は「独自の...」が何を意味するかである。それは経済的生活が当該の岩の資源のみに依存する自給可能な活動に限られるのか、それとも外部からの支援によって維持されるものも含まれるであろうか。同条文の起草過程においては自給生活の必要性を強調した国もあったが、「安定し、組織化された共同体」の必要性を強調する論者でさえ、自給は完全である必要はないとする34。この点一つの基準となりうるものは領海も含めた当該岩自身のもつ経済的価値であり、たとえば漁業資源や石油・ガス田、観光資源、風力・海水温度差など発電資源等の存在である。また、衛星追跡基地に適した場所も経済的価値を生み出す。こうした資源の利用・開発が成功すれば、外部から必要品を購入して活動を支えるに十分な経済が維持できるといえる35。問題は、独自の経済的活動とされるにはどの程度の外部的支援が認められるかである。たとえ大陸内部の一地域であっても、まったく外部からの支援のない経済的活動を維持することはほとんど考えられない現代社会において、外部から完全に遮断された孤島での自給的経済活動を要件とすることには無理があろう。こうして結局、外部からの支援の形や程度が問題となろうが、その明白な基準は存しない。そのような支援を外部に依存する場-15-合には、一般にその程度が増大すればするほど現地での経済的活動は困難となり、やがてその維持が困難になると考えられ、おのずと限界があろう。しかしこの点についても、活動の種類や科学技術の進歩によって大きく異なり、最終的には将来の国家実行に鑑み、個々のケースごとに判断せざるを得ないであろう。9. 「自然に形成された陸地」の意味121 条1 項は島とは「自然に形成された陸地であって...」と規定している。この島の要件は、前述のように3 項の「岩」も島の一種と一般に解されている限り、岩についても適用される。そこで、「自然に形成された(naturally formed)」の意味が問題となるが、たとえば低潮高地に建設された灯台やプラットフォームなどは人工的な建造物であり、自然に形成されたものとはいえないことは明白である。これらは人工島ないし構築物として扱われ、その周囲に領海を設定することはできない(海洋法条約60 および80 条)。しかしながら、「自然に形成された」の意味は曖昧で、それは陸地を形成・拡張する物質(素材)についての要件なのか、それとも形成のプロセスにおいて人間の活動の介入を排除する意味なのか不明である。一つの解釈は、素材も形成過程も自然のものに限るとするものである36。他の解釈によれば、素材の要件かまたはプロセスの要件か、いずれにもとれるとする37。前者であれば、サンゴ礁や土砂等自然素材を使用して低潮高地を埋め立て、満潮時にも海面上にある陸地を造成することは、「自然に形成された」ことになるが、後者の意味であれば、新しい島としては扱われないことになる。そのような陸地造成の例として、1971 年、トンガの最寄の島から南西約180 カイリにある海山山頂の低潮高地ミネルバ礁(MinervaReefs)に、米国ベースの私人のグループが土砂・サンゴを金網で縛り、コンクリートで固め、満潮時にも海面上に露出させ、翌年「主権宣言」を行ったケースがある38。トンガ代表は1974 年、第3 次海洋法会議の冒頭演説でこの事実にふれ、同国政府はこの私人による同礁(別名テレキ・トンガおよびテレキ・トケラウ島)の占有を防止するため、自らの主権宣言を行ったと述べている39。 トンガは同島が恒久的に海面上にあることを疑いなきものとするために、その一部に「サンゴを詰めることで自然(のプロセス)を完了させ」、12海里の領海を設定したといわれる40。海洋法会議でのトンガの発言については、誰もその法的根拠を疑うものはなかったと指摘されているが41、反論がなかったことをもってトンガの行為を先例として評価するのは適当でないと思われる。なぜならば、第1 に同国の発言は海洋法会議の冒頭における一般演説であり、それは各国の一方的な基本的立場表明の場であり、通常反論などがなされることはないからである。さらに当時の現行法であった1958 年領海・接続水域条約は、たしかに島の定義として「自然に形成された...」との要件はおいていたが、海洋法会議では島、岩などの扱いに関して未だ本格的議論は始まっていなかった時期での発言であり、その詳細や政府の意図などは(公式記録をみる限り)明確さを欠くからである。つぎに後者の場合、すなわち島の形成プロセスが問題となると解すれば、それは人間の介入をまったく排除する意味であろうか、それとも、自然のプロセスを人間が介入して促進させるのであれば依然「自然に形成された」といえるのではなかろうか。たとえば、自然の力で干拓地が造成されるのを人工の手で助ける場合や、満潮時に水面下に没する礁が常-16-時干上がるのを何らかの形で助けた場合、これはまったく非自然的な形成とはいえないとする見解が有力と思われる42。しかしながら、このような場合は、通常はすでに存在する島(陸地)の領海または内水において可能なものであって、たとえば孤立した低潮高地においてそのような一部人工的介入のプロセスで新しい独自の陸地を自然に形成させることは、現実にはありえないであろう43。10.おわりに―とくに沖ノ鳥島に関連して以上にように、海洋法条約121 条を中心とする国際法上の島の取り扱いは極めて曖昧なものにとどまっており、将来においてもこの状況はしばらく続くことであろう。しかもその法的地位は、当該島の一時点における状態を基準にしたものではなく、将来の人の居住や島独自の経済的生活の可能性を含めたダイナミックなものととらえる必要がある。米国の著名な国際法学者は、島の社会経済的事情はその資源価値と人間の居住ないし経済開発の能力は時とともに変わるとしてこの点を強調し、こうして経済的需要の変化や技術革新、または新たな人間活動を通じて、ある岩が121 条3 項の「岩」ではなくなる可能性を指摘している44。こうして、同条のより確定的な解釈は、多くの諸国の実行や国際判例が一定の基準を示すにいたるか、または新たな条約を通じてその解釈が明確化されるのを待たざるを得ない。こうした見通しにたって、国際法の観点からわが国が沖ノ鳥島の維持・再生のためになすべきことは、121 条の枠内での上述したさまざまな解釈の可能性を沖の鳥島に関連付けて検討し、できる限り多くの対策を並行的に推進することである。なおその際確認しておきたいことは、沖の鳥島の2 つの小島の周囲の卓礁は、海洋法上はいわゆる「裾礁」fringingreefs とみなすことができることである。国際水路機関(IHO)の海洋法作業グループが作成した用語集によれば、裾礁とは海岸かまたは大陸に直接付随しているか、またはその至近場所にある礁とされる45。2 つの岩には「海岸」なるものはないであろうが、それを島と見る場合、水面上に露出した部分を海岸と擬制することは可能であろう。海洋法条約は、裾礁を有する島の領海の基線は「裾礁の海側の低潮線とする。」と規定している(6 条)。したがって、低潮時に水面上にある卓礁部分はすべて内水の地位を持ち、東小島および北小島の領海はこの卓礁を取り巻く最も外側の低潮線から測定して12 海里となる46。よって東小島・北小島のみならず、卓礁全体と領海がわが国の主権がおよぶ領土であり、その空間・資源の利用はわが国の自由である。以上をふまえ、今後わが国がとるべき対策の最優先事項と思われるものは以下の3 点である。① 最も重要なことは、いうまでもなく周辺の領海、大陸棚およびEEZ の主張の権原となっている東小島および北小島が満潮時に水没することを防ぐことである。多くの点で曖昧な121 条においても、満潮時に水面上にないものは島として扱われないことは明白である。これら両島が水没すれば、たとえ護岸用のコンクリート台や卓礁上の他の構築物が残ったとしても、また周辺で経済的活動が行われていようとも、法的に島ではなくなり、わが国領土ではなくなるのである。両島についての現存の復旧・護岸工事は当面は有効と思われるが、問題はあと半世紀を待たずして地球温暖化に伴う海面上昇による水没の可能性も排除できないことである47。-17-② そこで、東小島および北小島が水没する場合を想定して、これら2島のほかに、「自然に形成された」と解釈でき、満潮時にも水面上にある陸地を一つ以上卓礁上に出現させることが必要となる。その一例としては、サンゴの欠片や有孔虫の殻で形成される洲島を卓礁内に形成させる案があり、海洋政策研究財団沖の鳥島研究会がすでに取り組んでいる48。干拓による自然プロセスの「手助け」を一般に認める有力な学説に鑑み、適当な限度における人工的な介入も含めた種々の方法が検討されるべきであろう。③ さいごに、卓礁内および周辺の領海内での経済的・商業的活動を可能な限り開発・実行することである。この点注意すべき点は、「独自の経済的生活」の維持を証明するために必要なのは卓礁と領海のみにおける活動に限られることである。EEZ および大陸棚の資源開発は、沖の鳥島が島としての地位を持つことを条件にしてはじめて付与される権利であるからである。同島の利用案として、温度差発電、風力・太陽発電、水産資源を利用した諸活動、海底鉱物資源の開発、各種研究・観測のための基地・観測機器・設備の設置などさまざまなものが出されているが、科学技術の進歩などによる社会経済的事情の恒常的変化による新たな活動の可能性を肯定する学説の傾向に鑑み、要員の現地常駐を必要としない施設・機器等の利用も積極的に検討すべきであろう。なお、長期的対策として検討すべきアイディアとして、大幅な海面上昇の予測が現実的になりつつあるという根本的な事情変更を踏まえ、水没の危険性のある島・岩を抱えた多くの諸国等と協力し、121 条の実施のための協定49を推進することを提言したい。この点、より多くの国の支持を得るためには、問題を同条の適用対象の島・岩のみに限らず、海面上昇に伴う沿岸地域の法的諸問題にも拡大することが得策であろう。1 たとえば山本草二『海洋法』(三省堂1992 年)、栗林忠男「島の制度」日本海洋協会『新海洋法条約の締結に伴う国内法制の研究』(1994 年) 107-126 頁。2 その平成 17 年度研究成果の一部は、海洋政策研究財団『沖ノ鳥島再生に関する調査研究 平成17 年度報告書』(2006 年)にまとめられており、島の地位については、加々美康彦「持続可能な開発のための触媒としての国連海洋法条約第121 条3 項―沖の鳥島再生への一試論」が扱っている。3 M.S. Fusillo, "The Legal Regime of Uninhabited 'Rocks' Lacking an Economic Life of their Own," ItalianYearbook of International Law, vol. 4 (1978-79), p. 51; R. Kolb, "L'interprétation de l'article 121, paragraphe 3, dela Convention de Montego Bay sur le droit de la mer: Les 'rochers qui ne se prêtent pas à l'habitation humaine ou àune vie économique proper...' ", Annuaire français de droit international, tome 40 (1994), p. 904; D. Anderson,"British Accession to the UN Convention on the Law of the Sea," International and Comparative Law Quarterly,vol. 46 (1997), p. 761; J. Charney, "Rocks That Cannot Sustain Human Habitation," American Journal ofInternational Law, vol. 93 (1999), p. 864.4 長内委員に対する大島正太郎外務省経済局長答弁。なお、同答弁につづく同委員からのさらなる質問に答えて、青山建設省河川局長も、大島局長答弁を確認し、3 項は岩についての規定であって、

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