報告書・出版物

平成1 7年度天然ガス改質舶用遮熱エンジンの研究開発報告書平成18年3月海洋政策研究財団(財団法人 シップ・アンド・オーシャン財団)助成平成十七年度天然ガス改質舶用遮熱エンジンの研究開発報告書平成十八年三月海 洋政策研究財団ご あ い さ つ本報告書は、平成17年度に実施した「天然ガス改質舶用遮熱エンジンの研究開発」における成果をとりまとめたものです。有害排気物質であるNOX(窒素酸化物)、SOX(硫黄酸化物)及びPM(微粒子物質)等の排出規制はますます厳しくなっており、地球温暖化の原因であるCO2(二酸化炭素)の排出削減を求める声も強さを増して来ております。また、最近の中国やインド等の有力な新興工業国の経済発展に伴い、エネルギー需要が増大して石油が値上がりし、省エネ化や石油代替エネルギーの開発も活発化してきております。このような状況の中で、燃料電池の開発などが行われておりますが、化石燃料を用いるエンジンに対して、燃料電池とモーターの組合せによる動力機関は現時点では必ずしも効果的で経済的で現実的な動力機関であるとは言い難く、少なくとも早期に社会普及することを期待するのは難しい状況にあるように思います。一方で、石油から天然ガスへの代替えは急速に進んでおり、早期実現が可能で効果的かつ経済的な方策であると考えます。既に、北欧などの環境問題に鋭敏な地域では船舶に天然ガスエンジンが採用されて航行しており、日本でも天然ガスを燃料とするバスなどが増えております。陸上発電等においても石油から天然ガスへの転換が進んでおり、埋蔵量が石油の数倍はあると言われる天然ガスの利用は、非常に重要な開発テーマになってきております。当財団では、平成10年度より日本財団からの助成を受けて、天然ガスを原燃料とし、これに排気ガス中のCO2を加え、遮熱エンジンによって得られる高温の排気ガスと特殊な触媒によってH2(水素)とCO(一酸化炭素)を作り出して燃料の発熱量を約3割も高めることができる、画期的高効率舶用天然ガスエンジンシステムの研究開発を実施してきました。平成12~13年度には本エンジンシステム技術の基盤となる高温排気ガスの得られる遮熱エンジン(単気筒)を試作いたしました。平成14年度には、この遮熱単気筒エンジンを用いた性能試験や数値計算による燃焼特性の検討を行い、本エンジンシステムの優位性を確認いたしました。また、天然ガスの主成分であるCH4(メタンガス)とCO2及びCH4とH2O(水蒸気)による改質を組み合わせ、改質効率を向上させた燃料改質装置の触媒選定を行い、さらに排ガス中のCO2の吸着・脱離から燃料改質までを連続的に行うことのできる実用燃料改質装置を試設計しました。平成15年度には、遮熱単気筒エンジンに天然ガスと改質燃料を供給して運転し、数値計算結果との比較を行いながらエンジンの燃焼特性を調査し、最適燃焼条件を得るためのデータ及び知見を得ました。平成16年度には、これらに基づいて本エンジンシステムのベースとなるCNG(圧縮天然ガス)を燃料とする HCCI(予混合圧縮着火式)6気筒エンジンを試作しました。平成17年度は、遮熱により得られる高温排気ガスのエネルギーを効果的に回収することができる新形式の排気-蒸気タービン駆動のターボチャージャー発電装置を開発し、上記 HCCI6気筒エンジンに付加し、発電効率50%を目指した新ターボコンパウンドエンジンの製作を行うとともに、CO2とH2Oによる燃料改質装置の実用化試験の実施、燃料改質装置の開発、実用コンパクト熱交換器の開発、CO2吸着・脱離装置の開発に取り組みました。次年度は、本研究開発の最終年度であり、いよいよ全体システムの製作を行う計画であります。本年度に製作したこの新ターボコンパウンド6気筒HCCI遮熱エンジンに燃料改質装置を付加し、エンジンに導入される燃料の発熱量を30%高め、発電効率57.5%, NOX排出量0.1g/kWh以下を目標とした燃料改質エンジンシステムの完成を目指す計画であります。上記の排気量で発電効率50%のガスエンジン自体が極めて画期的であり、もちろん世界最高性能となるものですが、我々が目指す最終の目標はさらに高く、従来エンジンに対しておよそ2倍の発電効率約70%という革新的な燃料改質エンジンシステムの商品化であり、それが世界中に普及することで地球環境問題の解決に大きな寄与ができることを目指しております。本研究開発は、持田 勲 九州大学名誉教授を委員長とする「天然ガス改質舶用遮熱エンジンの研究開発委員会」各委員の方々の熱心なご審議とご指導、河村英男氏による本研究開発でのご尽力並びにその他多くの関係者の方々のご協力とご努力によるものでありまして、ここに厚くお礼を申し上げます。平成18年3月海洋政策研究財団天然ガス改質舶用遮熱エンジンの研究開発委員会名簿(順不同、敬称略)委 員 長 持田 勲 九州大学 名誉教授委 員 飯田 訓正 慶應義塾大学 理工学部 システムデザイン学科 教授〃 森吉 泰生 千葉大学 工学部 電子機械工学科 助教授〃 河村 英男 フジセラテック株式会社 代表取締役関 係 者 赤間 充 フジセラテック株式会社 エンジン設計部 リーダー〃 増田 末喜 同上 設計部 スタッフ〃 成谷 忠志 同上 実験部 スタッフ〃 小沼 弘治 同上 実験部 スタッフ事 務 局 工藤 栄介 海洋政策研究財団 常務理事〃 田上 英正 同上 海技研究グループ グループ長〃 佐伯 誠治 同上 海技研究グループ グループ長〃 玉眞 洋 同上 海技研究グループ 調査役〃 三木 憲次郎 同上 海技研究グループ グループ長代理平成17 年度天然ガス改質舶用遮熱エンジンの研究開発報告書目 次1.はじめに··············································································12.開発の経緯と目標値····································································32-1.経緯···············································································32-2.本年度の開発目標値·································································33.天然ガスを用いたHCCI型多気筒エンジンの開発·········································63-1.天然ガスを用いたHCCIエンジンの開発··············································63-2.気筒間でのばらつきの低減···························································63-3.副室燃料加熱ヒーターでの着火性の確認··············································153-4.負荷向上試験·····································································273-5.エンジン分解観察結果·····························································304.新ターボコンパウンドエンジンの開発··················································404-1.排気-蒸気タービン発電機の設計···················································404-2.電動高過給コンプレッサーの設計···················································454-3.排気蒸気タービンコンプレッサーの設計変更と製作····································494-4.蒸気発生熱交換器の設計と製作·····················································584-5.新ターボコンパウンドエンジンの性能試験············································635.実用コンパクト熱交換器の開発························································755-1.経緯·············································································755-2.新しい接合方法の検討·····························································755-3.ロウ付け接合法···································································795-4.溶融アルミニウムメッキ···························································815-5.蒸着でのアルミニウムコーティング·················································935-6.熱交換試験容器の製作·····························································995-7.熱交換試験結果·································································1006.燃料改質装置の開発································································1026-1.経緯···········································································1026-2.改質試験装置の設計·····························································1036-3.生成ガスの分析装置·····························································1127.CO2吸着、脱離装置の開発·························································1137-1.経緯···········································································1137-2.リチウムジルコネート系物質の最新情報············································1137-3.CO2分離物質の調査結果························································1167-4.膜分離法の調査結果·····························································1197-5.アミン系の液体吸着剤の調査検討·················································1227-6.改質装置への適用検討···························································1227-7.H2O改質での性能検討··························································1268.まとめ············································································1318-1.天然ガスを用いたHCCI型多気筒エンジンの開発···································1318-2.新ターボコンパウンドエンジンの開発···············································1318-3.実用コンパクト熱交換器の開発····················································1328-4.燃料改質装置の開発······························································1328-5.CO2吸着、脱離装置の開発·······················································1329.目標値との比較と今後の見通し······················································1339-1.エンジン本体の出力性能·························································1339-2.排ガス性能·····································································1349-3.システム性能···································································1359-4.熱交換器の性能·································································1369-5.改質装置の性能·································································13611.はじめに今日、中国、インド等の有力新興工業国の経済発展が進み、石油などの既存エネルギー消費が増大する中、代替エネルギーの開発と、燃料消費量を抑制し、地球温暖化の原因であるCO2(二酸化炭素)の削減を求める声が大きくなってきている。他方では、NOX(窒素酸化物)、PM(微粒子物質)等の有害物質排出量規制が年々厳しくなり、既存の内燃機関の改良とともに、燃料電池等の代替機関の開発が進められている。しかし、代替機関の開発実用化には長期間を要し、現在の逼迫した要求に応えることができない。既存の内燃機関では、排気ガス後処理装置の改良、ハイブリッドエンジンシステムによる動力の有効活用が実用化されている。一方、排気ガスのクリーン化とCO2削減のため、石油から天然ガスへの変換が進んでおり、埋蔵量が石油の数倍はあると言われる天然ガスの利用は、急速にその価値が評価されてきた。今後、益々増大する有力新興工業国の経済発展に伴うエネルギー需要の増大に対応し、クリーンな地球を維持していく上で、天然ガスは非常に重要な位置を占めようとしている。このような背景の中で、当財団では、平成10年度より天然ガスを原燃料とし、これに排気ガス中のCO2あるいはH2Oを加え、高温の排気ガス熱と触媒によってH2(水素)とCO(一酸化炭素)に変換して、廃熱量を燃料に付加し、その発熱量を約3割も高めることができる画期的な高効率舶用天然ガスエンジンシステムの研究開発を開始した。平成12~13年度には、本エンジンシステム技術の基盤となる高温排気ガスの得られる遮熱単気筒エンジンを試作した。平成14年度には、この遮熱単気筒エンジンを用いた性能試験や数値計算による燃焼特性の検討を行い、本エンジンシステムの優位性を確認した。また、天然ガスの主成分であるCH4(メタンガス)とCO2による改質及びCH4とH2O(水蒸気)による改質を組み合わせ、改質効率を向上させた燃料改質装置の触媒選定を行い、さらに排ガス中のCO2の吸着・脱離から燃料改質までを連続的に行うことのできる実用燃料改質装置を試設計した。平成15年度には、遮熱単気筒エンジンに天然ガスと改質燃料を供給して運転し、数値計算結果との比較を行いながらエンジンの燃焼特性を調査し、最適燃焼条件を得るためのデータ及び知見を得た。平成16年度には、これに基づいて本エンジンシステムのベースとなるCNG(圧縮天然ガス)を燃料とする HCCI(予混合圧縮着火式)6気筒エンジンを試作した。平成17年度は、遮熱により得られる高温排気ガスのエネルギーを効果的に活かすことができる新形式の排気-蒸気タービン駆動の発電装置を開発し、上記 HCCI 6気筒エンジンに付加し、発電効率50%を目標にした新ターボコンパウンド(エレクトロターボコンパウンド)エンジンの製作を行うとともに、実用コンパクト熱交換器の開発、燃料改質装置の開発、CO2吸着・脱離装置の開発を行った。2本プロジェクトでは、天然ガスの均一混合気を主室に吸入し、別に設けられた副室に燃焼しやすい濃混合気を注入し、圧縮上死点の高温ガスにより自着火させ、均一混合気を着火させる方式の開発を目指している。天然ガスの均一混合気は、雰囲気温度が所定の温度以上になると確実に燃焼反応を起こすので、遮熱型エンジンと濃混合気を用いた着火方法では、希薄混合気を確実に燃焼させることが可能となり、現在多くの研究者が開発に取り組んでいる本格的HCCIエンジンの完成が期待できる。このエンジンの完成に次いで、排気ガスのエネルギーを動力に変換し、更なる燃費の向上を図るため、天然ガスを改質し、最終的には発電効率を57.5%まで向上させることを最終目標としている。そして、これらのエンジン及び周辺技術はそれぞれのステージにおいて、商品と成り得るレベルまでに、その完成度を向上させることを目標としている。32.開発の経緯と目標値2-1. 経緯平成10年度から11年度にかけて、天然ガスを燃料とし、低燃費かつ窒素酸化物等を大幅に削減できる舶用天然ガスエンジンの実現を目標とした改質技術に関する研究開発を行い、天然ガスと排気ガス中の二酸化炭素を触媒中で反応させ、排気熱を反応熱として用いることにより、発熱量の高い水素と一酸化炭素を効率よく供給する技術の開発を行った。平成12~13年度には、高い熱効率を得るための排気エネルギー回収システム及び窒素酸化物の排出が少ない燃焼方式の研究、及び改質ガスを燃料として確実に燃焼させる第1次遮熱単気筒エンジンの製作を行った。平成14~15年度ではこれまでの成果を基にし、それぞれの構成要素の研究を行い、改質装置の触媒選定、熱交換の基本理論の確立と実証、最適な燃焼方式を得るシステムの開発及び、熱効率の高い燃焼室を持つ単気筒遮熱エンジンの試作、評価、研究を行い、本エンジンシステムの優位性を実証すると共に、天然ガス燃料の実用改質装置、エネルギー回収装置である熱交換器の開発を行い、総合的熱利用を展開できる多気筒エンジンシステムの開発計画を立案した。平成16年度からは3ヵ年計画で、個々の要素技術の統合を行い、本エンジンシステムの実現を目指す最終ステップに入った。初年度となる昨年は、本エンジンシステムのベースとなる天然ガスを燃料とするHCCI(予混合圧縮着火式)多気筒エンジンを試作し、その評価を実施した。本年度は、この多気筒エンジンに排気-蒸気タービン駆動の発電装置を付けたエネルギー回収システムを加え、発電効率50%を目標とする、新ターボコンパウンドエンジンの製作を行うとともに、天然ガス燃料の改質装置研究を実施した。2-2.本年度の開発目標値①総合出力 206 kW②システムの発電効率 50 %③エンジン出力 155 kW(使用燃料:CNG)④エンジン単体発電効率 38 %(熱効率40%)⑤タービン発電機出力 51 kW⑥NOx排出量 0.1 g/kWh 以下(平成17 年度技術指針1.0g/kWh)⑦HC 排出量 0.17 g/kWh 以下(平成17 年度技術指針0.17g/kWh)⑧熱交換器交換効率 80 %以上⑨熱交換器熱通過率 280 W/㎡・K⑩メタン改質率 80 %以上(CO2改質:55%、H2O改質:35%)本年度の目標の熱フローを図2-1 に、最終目標の熱フローを図2-2 に示す。4図2-1.本年度の目標熱フロー図5図2-2.プロジェクトの最終目標熱フロー図63.天然ガスを用いたHCCI型多気筒エンジンの開発3-1.天然ガスを用いたHCCI エンジンの開発熱効率の優れたディーゼルサイクルに天然ガスを燃料とし、希薄混合気を供給し、燃焼させるHCCIエンジンは次のような利点がある。・ 圧縮比が高いので熱効率が良い。・ 希薄混合気なので排気ガス、特にNOxが少ない。・ 天然ガスにはSOxなどの有害成分が少ない。・ 天然ガスの燃焼により、排出されるCO2 が少ない。・ 天然ガスは着火点が800℃と高いので、HCCIエンジンに最適である。以上の特性を実用化させるため、単気筒エンジンのデータを基に多気筒エンジン用に設計し、試験した。以下その開発経緯について報告する。3-2.気筒間でのばらつきの低減燃費が優れ、排気ガスがクリーンなエンジンを実現するため、ガソリンエンジンの長所である充分な温合気による燃焼とディーゼルエンジンの長所である高圧縮率を活かした予混合圧縮着火(HCCI)が開発されている。本研究開発では、天然ガスを用いてHCCIを実現するエンジンを基盤としている。ところが、天然ガスの性状は着火温度が高く、一旦着火するとその燃焼速度が極めて速い。予混合圧縮着火(HCCI)燃焼は、均一混合気を圧縮着火してディーゼル燃焼させるものである。この燃焼形態はディーゼル燃焼であるにも関わらず局部的温度上昇が抑制され、窒素酸化物、パティキュレートの排出が極度に低減される。従来技術では希薄混合気を燃焼させるため着火栓を用いて火花点火させるか、軽油のような着火性の良い燃料を上死点で噴射させて着火させるかの二つの方法が用いられていた。本研究では燃焼室の一部に副燃焼室を設け、この副室に天然ガス燃料を導入し、主室に希薄混合気を形成させ、副室での着火エネルギーを用いて主燃焼室の希薄混合気を短期間に燃焼させることを試みてきた。早い燃焼速度に対しては、多量のEGRを加えることで、燃焼の抑制を図ってきた。そして、単気筒エンジンを用いた燃焼試験により、副室着火による燃焼の促進の有効性を実証した。しかし、主燃焼室と副燃焼室の間に設けたポペット弁式の制御弁では、主室から副室への混合気侵入が急激で、副室から主室への火炎噴出も急激であるため、スロートを流れる火炎の熱伝達が急激となり、スロート部材が高温となり、副室と制御弁間の摺動条件が過酷になるという問題点があった。昨年度の研究開発において、この問題点を改善すべく、制御弁の構造をポペット弁式から、絞り弁方式に変更し摺動部への燃焼ガスの侵入を防ぐ構造としたところ、摺動部の温度低減を図ることができた。絞り弁方式の制御弁を用いたエンジンの内部構造を図3-1 に示す。絞り弁方式の制御弁を用いた燃焼形態とポペット弁式での燃焼形態を比較すると、ポペット弁式制御弁の場合には、副室と主室間の導通が遮断されているため、圧縮工程で副室制御弁を開くことにより、高圧の主室の空気が、一挙に低圧の副燃焼室に流れ込み、混合気を形成し、着火に至り急激に燃焼する。絞り弁式の場合には、主室混合気が圧縮される7に従い、混合気が徐々に副室に入り込むため、制御弁を開いた時には、副室の圧力が相当上昇しているので、圧力の上昇率は極めて小さく、着火後の燃焼速度も遅くなった。また、絞り弁方式の制御弁を用いることにより、熱発生の立ち上がりが緩やかになったので、ノッキングが発生する割合が少なくなり、HCCI燃焼の成立範囲が広がってきた。昨年度は、この絞り弁方式の副室制御弁を採用して、6気筒エンジンの設計、試作を実施した。試作した6気筒エンジンの評価に関しては、問題点を注出しながら、慎重に燃料流量を増加させたため、目標値の燃料流量まで到達できなかったが、本年度は、燃料流量の増加を図り、エンジン単体での目標値の達成を目指した。6 気筒エンジンの場合には、寸法のばらつきにより、気筒毎の圧縮端温度が異なる可能性があるので、気筒毎の圧縮比を揃え、燃料流量、吸入空気量の均一化を図るため、それぞれの寸法、流量の条件を計測する必要がある。一方、6気筒エンジンでの燃焼のばらつきの差異についての計測項目の系統図を図3-2 に示す。排気温度とシリンダー側面温度、副室温度、燃料弁温度は、気筒間のばらつきがわかる重要な計測項目なので、全気筒計測するようにした。8図3-1.エンジンの内部構造9図3-2.6 気筒エンジンの測定系統図10本研究開発における遮熱型HCCIエンジンでは、天然ガス燃料を2つの系統で導入し一方は、主燃焼室に希薄混合気を生成、導入させ、別に高温壁を持つ副燃焼室に自着火し易い状態の燃料を送り込み、副室で着火させ、その火炎エネルギーを用いて主燃焼室の希薄混合気を短期間に燃焼させることを試みてきた。単気筒エンジンによる燃焼研究の結果では、副燃焼室と主燃焼室をポペット弁方式で分離し、上死点付近で開口した場合、可燃混合気の急速生成により、連絡口面積を絞り弁方式の制御弁により可変方式とすることで、副室内の圧力を緩やかに上昇させることができ、燃焼を穏やかにできることを見出し、HCCIの燃焼成立範囲を拡大してきた。また、天然ガス燃料の早い燃焼速度に対しては、多量のEGRと吸気温度を低くすることで、燃焼の抑制を図ってきた。昨年度は、この可変連絡口面積となる絞り弁方式の副室制御弁を採用して、6気筒エンジンの設計、試作を実施した。しかし、6気筒エンジンでは天然ガス燃料をスムーズに燃焼できる範囲が狭いため、気筒間での圧縮比、濃度等のばらつきが大きな問題となり、全気筒が揃った状態での燃焼の実現ができ難い。気筒間の燃焼の違いが発生すると、例えばノッキングが発生している気筒と正常燃焼している気筒が生じた時、ノッキングを生じた気筒では、その急激な圧力上昇により燃焼室部材の破壊が生じ、その破壊が他気筒に連鎖して正常燃焼している他の気筒も破壊する可能性がある。燃焼のばらつきを抑制するために実施してきた対策と残存する問題点についてまとめた結果を以下に述べる。3-2-1.副燃焼室での着火状況6 気筒エンジンの場合には、寸法のばらつきにより、気筒毎の圧縮端温度が異なり、燃焼がばらつくため、気筒毎の圧縮比をピストン、ヘッドライナー等のガスケットを調整することにより揃えた。圧縮比はシリンダーライナーの鍔の下へ組み付けるシムにより調整し、所定寸法に対して±0.1 以内に収めるようにした。このように組み付けたことにより、エンジンをモータリング500rpm で運転した時の圧縮端圧力を3200±300kPa 以内に抑制することが可能となった。このように組み付けた状態で、自着火運転させるため、吸気温度を徐々に上昇させ75℃として、副燃焼室に燃料を導入すると、圧縮端圧力が高く、シリンダー壁温の高い気筒から着火が開始した。1気筒でも着火すると排気温度が上昇し、燃焼気筒である高温排気ガスと未燃で混合気が未着火のまま排出される高温ガスがEGRとして循環することにより、他の気筒の圧縮端温度が上昇し、他の気筒へ着火が伝播していくはずであるが、全気筒着火するまでには以下の問題点が発生した。① エンジンのトルクの計測は、水動力計を用い、低負荷の場合にはモーターでエンジンを回している。起動運転の過程で6 気筒中3 気筒着火すると、自力運転し、モーターとの間のクラッチが切れ、回転数が200~300rpm 程度まで上昇する。回転数が上昇しても、全気筒着火するまでに時間が掛かった。② 1気筒着火してから他の気筒の着火までに時間が掛かると、EGRガス温度が上昇しその高温排気ガスと一緒に循環する未燃気筒の混合燃料濃度が増加し、すでに着火して11いる気筒の主燃焼室に回り、その燃料が急燃焼し、ノッキングが発生する。③ 6 気筒の中でも端面の気筒である#1と#6番気筒は、シリンダー壁温が低く着火までに時間が掛かった。④ #1、6気筒が自着火するまでに5 分程かかり、この間燃焼気筒はノッキング状態を続ける。本エンジンの燃焼では、主室に導入される燃料は、温度が低く自着火し難く、副室に導入される燃料温度を高くし、自着火させる方式である。熱湯を利用した熱交換器で副室燃料を加熱することで、着火性を向上させてきたが、この熱交換装置では、副室燃料の温度を65℃程しか上昇させることができなかった。専用の加熱ヒーターが完成したので、これを用いてさらに温度を高め、着火性能を向上させる必要がある。本エンジンでは、CNGを高圧ボンベ方式から、制御弁を用いて降圧させ、0.4~0.7MPa 程にし、エンジンに供給している。ボンベ内圧力が5MPa 程度だと、断熱膨張により、ガス温度が低下し、理論的には-100℃以下になる。したがって、副室燃料を高温にするため、大きな加熱ヒーターが必要で、このヒーターにより80℃以上とすることを目的とした。中央と端面の気筒間の温度差は、シリンダー側面で10℃位生じる。シリンダー側面の温度差がそのまま筒内の温度差に比例すると考えると、圧縮比を約0.5 高くすると同等となるので、圧縮比を端面の気筒のみ高くするように調整する。燃料弁ホルダーと副燃焼室の間のシールが悪い原因は、加工精度の問題が原因である。挿入穴が斜めで深く、素材も難削材であるため、奥の部分の円筒度が悪くなっており、シール性が悪化していた。この部分の加工精度を向上させ、更にラッピングにより摺り合せることにより、シール性を改善することができた。123-2-2.主燃焼室への火炎伝播天然ガスを燃料として用いていると、燃料流量の上昇とともに、ノッキングが発生し易くなる。昨年度の研究結果でも明らかであったが、燃料流量を増加させると、燃焼室の壁面温度の上昇とともに、燃料混合気が自着火する機会が増大した。本エンジンでは、副室燃料を着火源とし、主室へ火炎伝播させる燃焼方式を採用しているが、主室での燃焼はEGRを加え、自着火を抑制することを狙っている。多量のEGRにより燃焼制御する場合、燃料に対応する酸素量が十分にあることが大切で、過給により作動ガスを増加する必要がある。多気筒となった場合には、燃焼のばらつきによって、EGR濃度も左右されるので、調整が難しくなる。これまでに生じた問題点を以下に示す。① 燃料弁のリフト量等の調整を精度良く実施しないと燃料流量に差が生じ、気筒間での燃焼のばらつきが生じる。② 中央と端面の気筒間の温度差は、燃料流量の増加と共に広がり、燃焼のばらつきが生じる。③ 吸気温度にも気筒間でばらつきが生じ、燃焼にばらつきが生じる。④ 燃焼のばらつきによって、EGR濃度も左右され、安定した燃焼抑制ができない。副燃焼室と主燃焼室ともに燃料流量は、バルブのリフト量制御で行っているが、リフト量を合わせても、燃料流量にばらつきが生じていた。流量の違いは最大で、0.1L/s 程度生じており、これらのばらつきを抑制するため、オリフィスプレートを燃料配管中に入れて流量のばらつきを抑制させ、0.005L/s 以下のバラツキとするようにした。吸気温度に関しては、約10℃の温度差が気筒間で生じており、気筒毎に吸気管の遮熱を行ったところ、温度差を約3℃に縮めることができた。この条件での気筒間での燃焼の違いを図3-3、3-4 に示す。#1気筒の熱発生率が820J/℃A、#3気筒が1170 J/℃A と350J/℃A の差に縮めることができた。(J/℃A=ジュール/クランクアングル/1 度)本エンジンシステムでは、EGRガスと吸入空気はコンプレッサーにより十分に混合されるので、気筒間でのEGR濃度のばらつきは小さいと考えられる。燃焼のばらつきは、主として副室へ導入される燃料温度のばらつきによって生じる。外的に制御できる要因に関しては、吸気温度等を低温保持する制御で対策したが、シリンダー壁温は、端面の#1気筒は123℃、#3気筒で131℃とこれでも温度差が生じている。この温度差の違いを揃えることは難しいので、外部からの気筒毎の燃焼コントロールが必要である。13気筒番号 :#1エンジン回転数:1000rpm副室燃料流量 :0.2g/s主室燃料流量 :0.3g/s吸気管温度 :82℃図3-3.#1気筒の熱発生率14気筒番号 :#3エンジン回転数:1000rpm副室燃料流量 :0.2g/s主室燃料流量 :0.3g/s吸気温度 :85℃図3-4.#3 気筒の熱発生率153-3.副室燃料加熱ヒーターでの着火性の確認3-3-1.副室燃料加熱ヒーターの設計天然ガスの着火温度は650℃と他の燃料と比較すると高いので、自着火させるためには、何らかの補助着火の方策が必要となる。本研究では燃焼室の一部に副燃焼室を設け、この副室に天然ガス燃料を導入し、主室に希薄混合気を形成させ、副室での着火エネルギーを用いて主燃焼室の希薄混合気を短期間に燃焼させることを試みてきた。天然ガスの燃焼は燃料混合気の当量比が比較的小さい範囲にあるとき燃焼するので、副燃焼室はその燃料含有体積率を10~15%とし、主室はこの領域を燃焼速度の遅い混合比8%以下に押さえた希薄混合気としている。したがって、理論空燃比を持つ、副燃焼室の混合気温度が着火温度まで到達しないと容易に着火しない。圧縮工程のピストンの上昇運動によって主室圧力が上昇し、副室との圧力差により空気が流れ込み、副室圧力が上昇すると着火条件に到達する。絞り弁と副室のスロート間の隙間が0.5mm の時、副室圧力3.5MPa、温度613Kとなるが、天然ガスの着火温度900Kには到達しない。しかし、絞り弁が開放されると主室の空気が流れ込み、着火条件に到達する。すなわち、副室内に存在する燃料は、主室からの侵入空気とゆっくりと混合し、濃度が上昇するが、絞り弁の開放と共に一気に圧力、温度が上昇するので、副室上端部から、着火条件に到達し、燃焼を促進させる。副燃焼室内の天然ガスの温度を80℃まで上昇させ、主室内のガスが侵入し、その圧縮により温度上昇させた場合、1012Kまで温度上昇し、着火が極めて確実にできる。したがって、補助着火の手段として、副室の燃料の加熱を行うこととし、その加熱装置の設計を行った。現在の副室燃料配管は、図3-5 のように、3 気筒ずつの分割にしている。したがって、ヒーターは3 気筒分を加熱するように設計することとした。ヒーターは、副室への導入部の直前に加熱ヒーターを設置することとし、熱損失を少なくするよう配慮した。図3-5. 加熱ヒーターの設置位置16ヒーターの熱量計算副室内での混合気ガス温度を天然ガスの最小着火温度である918K(645℃)以上とするため、副室への投入する燃料温度の目標を80℃に設定し計算を行った。目標必要熱量 :0.312kW副室3 気分の投入燃料 :2.16kg/h目標温度 :80℃天然ガス比熱 :2.6kJ/kg.K効率(流れる空気を加熱する場合) :0.2~0.5ヒーターの抵抗値 :30Ω上記計算により設計した詳細計画図を図3-6 に示す。加熱ヒーターとして用いるものは、ニクロムを織り込んだ金網を使用することとし、波状に配置し、加熱するように計画した。必要発熱量は、前記のように、3 気筒分流量と比熱より算出し0.312kW と設定した。金網を保持するガイド及びブロックは、耐熱性、電気絶緑性が必要なので、セラミック材を使用することとした。その中でも製作加工性に優れたセラミック材を選定した。選定したセラミック材の物性値を表3-1 に示す。また、放熱防止のためにブロックの外周に、シート状のセラミック断熱材を配置した。表3-1. セラミック材料物性値部品名称 ガイド ブロック材料名 アルミナ99.5% マシナブルセラッミクス密度(g/cm3) 3.9~3.93 2.52ポアソン比 0.23 0.26体積抵抗率(Ω・cm) 1×1015 1×1016熱膨張係数 6.8~8×10-6 9.4×10-6最高使用温度(℃) 1500~1600 100017図3-6.副室燃料加熱ヒーターの設計計画図183-3-2.試作した副室燃料加熱ヒーターの評価天然ガスを用いたHCCIエンジンの開発では均一希薄混合気を如何に効果的な方法で着火させ、ノッキングを発生させずに燃焼を完結させるかがポイントである。このため、従来技術の開発状況を見ると、主室に導入された均一混合気を軽油などの着火性の良い燃料を噴射して着火させ、天然ガス燃料混合気を燃焼させる方法があるが、この方法だと燃料系が2つ要るため構造が複雑となり、軽油燃焼のパティキュレートが発生する。一方、従来どおり、希薄均一混合気に火花点火で着火させる方法は、常に点火栓の耐久性とノッキングが発生し、熱効率も低い。こうした問題を解決する技術開発の取り組みは多くの研究者により盛んに行われているが、まだ十分な解決策は見出されていない。本研究開発における遮熱HCCIエンジンでは、天然ガス燃料を主燃焼室とは別に高温壁を持つ副燃焼室に導入し、燃料を活性又は改質させ着火させる方式である。副室に導入した天然ガスの主成分のCH4 を活性化させ、H2、CO、CHラジカル等に分解すると極めて着火性が良くなる。しかし、始動直後では燃焼室の壁温が低いため、活性化が進まず着火が困難である。そのため、本年度は専用の加熱装置を設計、試作し、この問題に対処することとした。設計試作した副室燃料加熱ヒーターの外観を図3-7 に、内部を図3-8 に示す。図3-7. 副室燃料加熱ヒーターの外観19図3-5 の様にヒーターを配置した場合、ヒーターに近い気筒程、配管が短く熱損失が少なく、高温となって温度差が生じる。本6 気筒エンジンは、両端の#1,#6気筒は温度が低く、着火し難いという問題があったので、ヒーターを#1,#6気筒側に配置し、#1,#6気筒に高温のガスが流れるように配慮した。また、気筒毎に分岐されエンジンへの入口まで継がる配管部も、外側の#1,#6気筒側の熱損失が大きいので、配管へ遮熱構造を用いることにより、気筒間のばらつきを少なくすることが可能となる。この配置によって、外側の#1気筒と中央のエンジン入口の温度差を、±5℃以内に収めることができた。ヒーターの設計値と試験値の比較を表3-2 に示す。ほぼ、設計値の仕様を満足するものが、完成した。表3-2.副室燃料加熱ヒーターの性能(電圧100V)試作品単位 設計値FRONT REAR発熱量 W 312 324 310抵抗値 Ω 30 30.0 29.1このヒーターは、スライダックを用いて、電圧を変えて温度を可変できるようにした。電圧変化による副室燃料加熱ヒーターの温度特性を図3-9 に、流量による温度変化を図3-10 に示す。温度は、ヒーターの出口と、ヒーターの配管中途の温度を測定した結果である。また、上昇温度の測定は、先ず空気を流し、エンジン回転数500rpm にて測定した。配管中図3-8.副室燃料加熱ヒーターの内部構造200501001502002503000 20 40 60 80 100 120 140スライダック出力電圧(V)温度(℃)ヒーターFr出口ヒーターRr出口Fr側分岐管Rr側分岐管流量:50L/min一定0501001502002503003504004500 10 20 30 40 50 60流量(L/min) 温度(℃)ヒーターFr出口ヒーターRr出口Fr側分岐管Rr側分岐管電圧:100V一定途の温度は、いずれも80℃を越えており、これまで使用してきた温水との熱交換による65℃を越す性能を得ることができた。配管の中途から、エンジン入り口までの温度低下は、15℃程度あるので、実際の温度を考える場合には、この温度を考慮する必要がある。副室燃料の温度が335K(80℃)であれば、圧縮比16.5 の場合の圧縮端温度は773K(500℃)で、自着火温度に到達しない。140℃まで上昇させると、圧縮端温度が904K(631℃)で自着火温度に到達する。そこで、140℃が常時使用できるように、ヒーターを作製した。図3-9.電圧による温度変化図3-10.流量による温度変化213-3-3.エンジンでの着火性確認試験副室燃料加熱ヒーターを作製する前は、温水による熱交換器にて、副室燃料を加熱してきた。この熱交換器では、燃料の温度は65℃程度までしか上昇しなかった。したがって、エンジンを着火させる場合には、吸気温度を75~80℃と高くして着火させるようにしてきた。しかし、着火が始まり燃料流量を増加させると、この吸気温度ではノッキングが発生し易くなるので、燃料流量を増加させる場合には、吸気温度を50~60℃へ低下させ、多量のEGRを加える必要があった。今回試作した副室燃料加熱ヒーターでは、図3-9 に示すように、170~190℃まで、燃料の温度を加熱することが可能であるので、吸気温度を低下したままでの着火が可能になり、燃料流量の増加がスムーズに行えると考える。副室燃料加熱はシリンダーに吸入される空気量に対し、燃料の混合比10、副室燃料の割合が15%なので、加熱する気体は吸入空気量の1.5%と少ない。したがって、極めて簡単に温度を上昇させることが可能となった。本研究開発では副燃焼室を設け、この副室に天然ガス燃料を導入し、主室に希薄混合気を形成させ、副室での着火エネルギーを用いて主燃焼室の希薄混合気を短期間に燃焼させることを試みてきた。この副燃焼室の体積割合を15%とし、燃料も15%程度導入することにより、副室は濃混合比に近い状態で、主室は希薄混合気とすることが可能となる。この条件にて副室の燃料流量を固定し、これまでの温水を用いた副室燃料温度65℃と、新しい副室燃料加熱ヒーターにて燃料導入温度を変えた場合の着火性を比較した結果を表3-3 に示す。着火までの時間は、燃料を投入してから1 気筒着火するまでの時間を示し、全気筒着火時間は、1 気筒着火してから全気筒までの着火時間を示す。表3-3.副室燃料加熱ヒーターでの着火性評価単位 熱交換式 副室燃料加熱ヒーター副室燃料温度 ℃ 65 80 110 110 140吸気温度 ℃ 80 80 80 80 80燃料流量(1 気筒) L/sec 0.11 0.11 0.11 0.19 0.19副室空燃比 - 9.6 9.6 9.6 5.5 5.5副室温度 ℃ 105 109 109 103 106燃料弁温度 ℃ 80 82 82 80 81シリンダー壁温 ℃ 90 92 92 92 91着火までの時間 min 35 27 13 8 1全気筒着火時間 min 30 25 20 15 3副室温度、燃料弁温度、シリンダー壁温の計測位置を図3-11 に示す。副室燃料加熱ヒーターを用いて、副室燃料温度を高くすることにより、着火時間が短縮された。また、同じ温度でも、燃料流量を多くして、混合比を爆発限界混合比(5~15)の範囲にすると、着火がし易い傾向がある。効果が確認されたので、吸入空気温度を低くして着火性を確認することとした。22吸気温度を低下させた場合の着火状況について、下表3-4 に示す。吸気温度を低くすると、着火条件は悪化した。しかし、副室燃料の導入温度を高くすると、着火性は改善した。圧縮端圧力のばらつきを±100kPa以内にしているため、着火順序には規則性は見られない。着火する気筒は、排気温度が徐々に20℃位上昇してから、急激に温度が上昇し、副室着火状態となる。副室燃焼が始まっても、タイミングは副室制御弁の開タイミングよりも15~20℃A 程度遅れて燃焼するが、副燃焼室温度の上昇共に進角し,副室温度が200℃を超えると、副室制御弁の開タイミングのBTDC7℃A 程度で安定する。着火までの温度推移を図3-12 に示す。表3-4.吸気温度を低くした場合の着火性評価単位 副室燃料加熱ヒーター副室燃料温度 ℃ 110 130 150 170吸気温度 ℃ 50 50 50 50燃料流量(1 気筒) L/sec 0.1 0.1 0.1 0.1副室空燃比 - 9.6 9.6 9.6 9.6全体空燃比 - 64.1 64.1 64.1 64.1副室温度 ℃ 120 122 121 124燃料弁温度 ℃ 100 101 102 105シリンダー壁温 ℃ 100 97 98 101着火までの時間 min 25 15 5 1着火状況 -#2,#6 気筒のみ着火。#6,#2,#3 気筒着火。#3,#6,#5 気筒着火#2,#6,#3,#1気筒着火副室供給燃料温度が低い場合、着火に至らない気筒は、燃料導入してから、20~30℃までの温度上昇があるが、その後すぐに温度低下し、モータリング時と同じ排気温度になり、さらに温度が2~3℃低下する場合もあり、隣の気筒が着火して温度上昇しているにも関わらず、一定状態となってしまう。圧縮端圧力を調べると、着火直前の圧縮端圧力よりも200~300kPa程度低下していた。燃料の投入を停止すると、圧縮端圧力は徐々に回復し、着火直前の圧縮端圧力と同じにまで回復した。燃料弁温度副室温度シリンダー壁温図3-11.燃焼室温度計測位置230501001502002503003500:00:00 0:07:12 0:14:24 0:21:36経過時間温度(℃)#2 燃料弁温度#2 CYL温度#2 副室温度#2排気温度#2 吸気温度CNG流量と筒内圧36003650370037503800385039000 0.05 0.1 0.15 0.2 0.25 0.3副室CNG又はAIR流量(L/sec)(1気筒当り)筒内圧(kPa)AIRCNG燃料の投入によって、圧縮端圧力が低下しているようなので、副室燃料加熱ヒーターに空気を通した場合と、天然ガス燃料を通した場合とで、圧縮端圧力を測定した結果を図3-13 に示す。結果は、6 気筒の平均値を示したもので、空気は150℃の加熱を、天然ガスは加熱すると着火してしまうので、加熱無しで測定した。図3-12.安定燃焼までの温度推移図3-13.副室に燃料を投入した時の筒内圧変化24空気を投入した場合には、投入流量に応じて筒内圧は上昇するが、天然ガスは流量の増加とともに、筒内圧は低下した。実際の着火試験時には、天然ガスを暖めているにも関わらず、着火しない気筒の筒内圧は3200kPaまで低下している場合も有り、天然ガス投入による圧縮端圧力の低下効果は,着火の阻害要因になっていると考えられる。圧縮端温度の低下分は、1 気筒当りの燃料流量0.1L/sec で24.5K、0.2L/sec で30.5K となる。この温度低下を単純に空気が流れた場合の熱損失として計算すると6気筒分で、燃料流量0.1L/secで1.16kW、0.2L/sec で1.45kW となる。エンジンには、50℃までの吸気加熱と燃料を加熱して150℃とした熱量が常に加えられているので、その熱量を算出すると、吸気加熱では0.95kW、燃料加熱では0.13kW となり、合わせて1.08kW となり、奪われた熱量(1.16kW)のほうが、多いことがわかる。天然ガスを投入して、圧縮端圧力が低下する原因としては、①CO2 ガスと同様の潜熱効果、②天然ガスの改質反応による吸熱効果が考えられる。各種気体の物性値比較を表3-5 に示す。表3-5.各種気体の物性値化学式 N2 O2 H2 CO2 CH4 C2H6 C3H8分子量 28.01 32 2.016 44.01 16.04 30.07 44ガス密度(0℃、1atm) kg/m3 1.251 1.429 0.0899 1.977 0.554 1.038 1.552液密度(沸点) kg/L 0.809 1.141 0.071 1.03 0.418 0.546 0.585沸点(1atm) K 77.4 90.2 20.4 194.7 111.9 184.6 231.1融点(1atm) K 63.3 54.4 13.9 216.6 90.6 101.2 86.1臨界温度 K 126 154.6 33.2 304.2 191.1 305.5 370臨界圧力 Mpa 3.399 5.05 1.315 7.39 4.641 4.884 4.256蒸発潜熱(沸点) kcal/kg 47.5 50.9 106.6 137.0 121.9 116.9 101.7蒸発潜熱は、液体から気体に変えるための熱量であるが、これが筒内の温度低下に使われたと仮定すると、0.22kW となり、奪われた熱量より少ない。改質反応の反応式を下記に示す。CO2 改質: CH4 + CO2 → 2CO + 2H2 -59190kcal/kmolH2O 改質: CH4 + H2O → CO + 3H2 -49540kcal/kmolエンジンの中では、CO2 とH2Oは両者とも存在し、両者の反応ともに発生する可能性がある。両者がそれぞれ燃料を全て改質した場合の吸熱熱量を算出すると、CO2 改質で7.4kW、H2O 改質で6.2kW となり、奪われた熱量(1.16kW)よりも大きい。したがって、改質反応が部分的に生じて、筒内の熱を奪っている可能性が高いと考える。触媒反応を促進する代表的な活性金属は、Ni、Ru であり、H2O 改質の場合には、必ず活性金属の中に、Ni が含まれている。Ni は,副室燃料加熱ヒーターと燃焼室の耐熱金属の主成分であるが、バルク状態では本来は触媒としての活性は無いはずであるが、何らかの影響で燃料の改質反応が進み、天然ガスの着火反応を阻害していると考えられる。25エンジンの着火性を改善するためには、この改質による吸熱反応を防ぐ必要がある。すなわち、副室内に投入された燃料の一部が副室上端部に停留し、主室の圧縮空気により、圧縮加熱され、着火点に到達する。主室と副室のほとんどの気体は、吸熱反応する温度に到達せず、副室燃料の着火により火炎伝播する。これが目的とするプロセスである。表3-3に示すように,吸気温度を80℃にまで高めることでは無く、吸気温度が低くても副室燃料が着火するプロセスが理想である。また、副室燃料加熱ヒーターの材質変更、または触媒を付加し、改質反応を促進させ、副室燃料のみ活性化させることも対策のひとつと考える。3-3-4.副室燃料加熱ヒーターの改良副室燃料加熱ヒーターは、図3-6 に示す構造で、当初組立を実施し使用し始めたが、図3-14に示す配線取り出し部のシール性と絶縁性、耐熱性が問題となり、改良が必要となった。配線は、通常の細線が集まり、絶縁被覆しているものを当初用いた。また、シールは絶縁性の充填接着剤を用いた。不具合としては、細線の間からガス漏れが生じることと、外周の金属ケースの温度が、流量を低くした場合に、200~250℃に達し、樹脂系の充填接着剤が劣化する等、耐熱性に問題が生じた。したがって、熱電対と同じようなシール構造として、絶縁被覆した単線にて電流を通すように改良した。この構造により、外周ケースからシール部の距離を離したので、シール温度を低くすることができた。しかし、熱電対の金属部と絶縁された単線の距離が小さくなると、配線の絶縁が確保されない場合が生じてしまい、絶縁性とシール性の両立が難しくなった。通常では、配線シールを確保する駒の部分を前記、絶縁性の充填接着剤にて充填する方法に変更したところ、絶縁性とシール性の両立が可能となった。改良した副室燃料加熱ヒーターと燃料配管を図3-15 に示す。熱電対用フィッティング部シール剤充填部配線図3-15.改良後の配線取出し部配線セラミックケース外周金属ケース図3-14.ヒーターの配線取出し部ヒーター26副室燃料分岐管副室燃料加熱ヒーター主室燃料分岐管#1#2 #3図3-16.副室燃料加熱ヒーターの外観図燃料流量調整用コック27-100-500501001502000.0 0.5 1.0 1.5 2.01気筒当りの燃料流量(L/s)出力(kW)実測値予測値目標値3-4. 負荷向上試験本エンジンでは、副室燃料を着火源とし、主室の希薄混合気へ火炎伝播させる燃焼方式を採用している。燃焼速度の速い天然ガス燃料の燃焼抑制は、EGRを加え抑制することを狙ってきた。6気筒エンジンに適用する場合には、下記の問題点がある。① 燃料弁のリフト量等の調整を精度良く実施し、燃料流量に差が生じない様にして、気筒間での燃焼のばらつきを最小とする。② 中央と端面の気筒間の温度差を、最小限に抑制し、燃焼の均一化を図る。③ 気筒毎に燃焼が独立しているので、寸法調整によって、圧縮比を均一にすることが重要である。これまでの方法は、燃料流量、圧縮比等を均一化させ、6気筒共に燃焼を揃えることを試みてきた。燃料流量に関しては0.005L/sec 以下、吸気温度は3℃以内、圧縮比は±0.2 以下に調整し、燃焼の均一化を図ってきたが、6 気筒エンジンの真ん中の気筒である#3気筒と端面の#1気筒のシリンダー壁温の差は8℃有り、燃焼にばらつきが生じた。この温度差は、多気筒エンジンの配置からくるもので、従来は燃料流量に調整等で均一化させた。本エンジンでも最終的には燃料流量の微調整が必要になる。外部からの気筒毎の燃焼コントロールを実施することとした。気筒毎の燃料流量をコントロールする方法としては、各気筒に分配される燃料配管の中途に調整用のコックを設けて、開度を調整することにより、流量を調整した。この制御により、各気筒の熱発生率の均一化を図り、燃料流量を調整して燃焼制御を行い、その上でEGRを加え、負荷を向上させた。これにより得られた出力を目標値と比較した結果を図3-17 に示す。また、昨年度の結果と本年度の結果と目標値を比較した結果を表3-6 に示す。図3-17.6 気筒のエンジン出力比較回転数1500rpm28表3-6.エンジン性能試験結果比較単位 目標値 昨年度 現状値出力 kW 155 89.8 125.2熱効率 % 40 37.7 35.4燃料流量(1 気筒) L/sec 1.63 1.0 1.4過給圧 kPa 160 58 102EGR率 % 60 57 50NOx gkW/h 0.10 0.45 0.27THC gkW/h 0.17 2.79 3.48目標の出力に対して80%の出力が得られるまでに負荷を向上させることができたが、熱効率は低下した。また、NOx は目標値に対して高いが、昨年度より低下させることができた。THCは昨年度より増加し、目標値よりさらに高くなった。熱効率が低くなった原因としては、過給圧が低くEGR率が高いので、空気不足により燃焼が不完全となるものと考えられる。気筒毎の熱発生率を極力揃えているが、主室での均一混合気量、EGR量が気筒毎で異なり、拡散燃焼部分に差が生じていた。単気筒エンジンとの熱発生率の比較を図3-18 に示す。吸入空気圧力は単気筒のほうが高く、EGR率は同等である。6 気筒の場合には、ターボチャージャーを用いているため、単気筒に比べて吸気圧の選択の自由度が無いため、吸気圧は低下した。本エンジンでの燃焼は、副室燃料で着火し、吸気温度の低い主燃焼室で火炎伝播させ、EGRと水噴射で燃焼を抑制させるのが目標である。単気筒の燃焼波形もそうであるが、副室着火燃焼のピークに続く拡散燃焼のピークが高くなっているので、この部分の抑制が必要である。これは、副室で燃焼した火炎が主燃焼室の希薄混合気に伝播し、一気に燃焼しているためで、現状の主室温度を低くして、この拡散燃焼のピークを下げることが必要である。燃焼を目標に近づけ、排気圧力を高くすると吸気圧も上昇するので、燃焼を安定化させることができる。排ガスに関しては、NOx は主燃焼室での拡散燃焼の安定化により、さらに減少させることができると思われるが、HCに関してはピストンとシリンダーの間の隙間に侵入した混合気が、そのまま完全燃焼せずに排出したものと考える。デッドスペースに燃料が入らないように調整するとともに、完全燃焼を実現する必要がある。29図3-18.単気筒と6気筒の熱発生比較単気筒 6気筒エンジン回転数:900 900 rpm吸気圧力 :130 102 kPa吸気温度 :73 62 ℃EGR率 :50 50 %副室燃料流量 :0.298 0.2 L/sec主室燃料流量 :1.002 1.2 L/sec303-5.エンジン分解観察結果本6 気筒エンジンには単気筒エンジンの分解観察結果と試験途中に生じた問題点の対策案が盛り込まれている。また、単気筒エンジンと比べて熱負荷が増すので、遮熱構造を構成するピストンガスケット、ヘッドライナーガスケット等の高温でのガスシール性部品、摺動部について、定期的に分解、耐久、信頼性を確認する必要がある。これらの部品を中心に耐久性を確認、問題点の抽出、改良するに当たり、分解観察を行なった。以下、主要部品の分解観察結果を記す。3-5-1.ピストン回りピストンは動力の伝導機構であるので、シリンダー内をスムーズに摺動する必要がある。図3-19 にピストンASM 写真と図3-20 シリンダーライナーの内面写真を示す。ピストン側面或いはシリンダーライナー内周の当たり、ピストンリングスティックの発生は見られなかった。ピストンは遮熱構造を採用しているため、ピストンを上下二分割とし、中間に積層ガスケットを配している。そのため、ガスシール性は、重要な観察項目となる。図3-21 に示すように、ガスケットの上下のシール面には、ガスが侵入した痕跡は認められなかった。しかし、図3-22 に示すように、ピストンクラウンの下面は黒く変色していた。これは、ピストン中央の締結部よりオイルが入り込み、熱により付着したものと推測する。よって、ピストンの筒内圧に対するシール性は問題無いと判断した。また、ヘッドライナーとシリンダーライナーの間のボアガスケットについてもピストン図3-19.ピストン側面31ガスケットと同様、積層ガスケットを使用しているが、図3-23 に示すように、ガスの侵入した痕跡は認められなかった。よって、主要ガスケットの筒内圧に対するシール性は問題無いと考える図3-20.シリンダーライナー内周図3-21.ピストン積層ガスケットのシー
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