平成16年度船舶からの揮発性有機化合物(VOC)の排出影響に関する調査報告書平成17年3月(財)シップ・アンド・オーシャン財団は じ め に本報告書は、競艇交付金による日本財団の平成1 6 年度助成事業として実施した「船舶からの揮発性有機化合物(VOC)の排出影響に関する調査」事業の成果をとりまとめたものです。近年、船舶の環境影響に対して、IMO をはじめとして国際的な規制が制定されつつあります。この中で、特に船舶からの排気ガスにおける大気環境影響は、地球温暖化ガスの調査検討が進められているところでもあります。排ガス中に含まれる窒素酸化物、硫黄酸化物、二酸化炭素等が良く知られているところですが、原油、ガソリン、化学薬品類等の輸送中に大気に排出される揮発性有機化合物(VOC:Volatile Organic Compounds)は、大気環境の上では、悪臭物質、発ガン性等の有害物質、光化学スモッグ等の原因物質及び地球温暖化の影響を及ぼす重要な物質であり、その正確な把握影響評価が求められています。本事業では、当財団の過去の船舶排ガス実態調査の実績とノウハウを生かし、VOC の船舶からの排出実態の解明、排出モデル策定等の今後のVOC対策に資する総合的な調査に取り組むものです。本報告書が広く皆様に活用され、大気環境保全、地球温暖化対策に貢献できることを期待致しております。なお、本事業を実施するに当たっては、芝浦工業大学先端工学研究機構客員教授平田 賢氏を委員長とする「船舶からの揮発性有機化合物(VOC)の排出影響に関する調査委員会」各委員による熱心なご審議・ご検討を頂きました。また、アンケート・ヒアリング調査、実船計測調査にご協力頂いた各海運会社、荷主、オペレータ社等関係者に対し、感謝の意を表する次第です。平成1 7 年3 月(財)シップ・アンド・オーシャン財団船舶からの揮発性有機化合物(VOC)の排出影響に関する調査委員会委員名簿(順不同、敬称略)委員長平田 賢 芝浦工業大学 先端工学研究機構 客員教授委 員 近藤 明 大阪大学 大学院 工学研究科 地球総合工学系 環境工学専攻 助教授〃 間島 隆博 (独)海上技術安全研究所 環境・エネルギー研究領域〃 古志 秀人 石油連盟 技術環境安全部 環境・安全グループ長〃 石崎 直温 (社)日本化学工業協会 環境安全部 部長〃 黒越 仁 (社)日本船主協会 海務部 係長〃 井崎 宣昭 日本内航海運組合総連合会 審議役〃 内田 成孝 全国内航タンカー海運組合 業務グループ 海工務部長関係者華山 伸一 日本エヌ・ユー・エス㈱事務局工藤 栄介 (財)シップ・アンド・オーシャン財団仙頭 達也 (財)シップ・アンド・オーシャン財団丸山 直子 (財)シップ・アンド・オーシャン財団目 次1.調査の概要・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・12.調査の内容・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・32.1 VOC の解説・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・32.2 船舶からのVOC 排出実態調査・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・112.2.1 実船計測調査・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・11(1) VOC ベイパー採取および分析方法・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・11(2) 実測結果・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・15(a) 荷積み時におけるVOC 濃度・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・15(b) 原油排出係数・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・23(c) ケミカル排出係数・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・25(d) エンジンからの排出係数・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・25(e) VOC 排出係数のまとめ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・262.2.2 VOC 排出量の算定に関する調査・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・27(1) 輸送量に関する統計量・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・27(a) 船型別白油輸送量に関する統計量・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・29(b) 船型別ケミカル輸送量に関する統計量・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・312.2.3 輸送オペレーション・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・34(1) 輸送オペレーションに関する聞き取り調査結果・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・34(2) アンケート調査結果・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・38(a) ベイパーリターン装置の装備状況・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・38(b) ベイパーリターン作業の実施状況・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・38(c) ガスフリー作業の実施状況・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・39(d) ガスフリー作業の要請状況・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・39(e) タンク容量に対する荷積み量の状況・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・39(f) 荷役速度の状況・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・402.3 VOC 発生量に関する試算・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・412.4 船舶及び陸上からのVOC 排出に対する対策動向調査・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・422.5 船舶からのVOC 排出対策技術の動向調査・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・462.5.1 船舶VOC に関する排出対策技術・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・462.5.1 陸上におけるVOC 排出対策技術・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・48(1) 冷却凝縮法の特徴・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・48(2) 直接燃焼法の特徴・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・49(3) 触媒燃焼法の特徴・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・51(4) 蓄熱燃焼法の特徴・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・52(5) 溶剤回収法の特徴・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・53(6) 膜分離法の特徴・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・54(7) 吸着法の特徴・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・553.まとめ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・571.調査の概要船舶から大気環境影響を与えるものには、排ガス中に含まれる窒素酸化物、硫黄酸化物、二酸化炭素等が良く知られているが、原油、ガソリン、化学薬品類等の輸送中に大気に排出される揮発性有機化合物(VOC:Volatile Organic Compounds)もある。このVOC は、沸点が低く大気中に放出しやすい有機化合物の総称であり、メタン、エタンといったガス状物質、トルエン、ベンゼン、キシレンといった有機溶媒の蒸発分、メルカプタンや硫化水素といった微量物質が様々な濃度で混合している。これらVOC は、大気環境の上では、悪臭物質、発ガン性等の有害物質、光化学スモッグ等の原因物質及び地球温暖化の影響を及ぼす重要な物質であり、その正確な把握影響評価が求められている。陸上においては、自動車の排出基準が設定されており、大型ガソリンタンクでは、浮き屋根式タンクを用いるなどの排出削減対策が、既に進められている。一方、船舶から排出されるVOC は、燃料の未燃分として排ガス中に含まれるほか、液体貨物の輸送中もしくは荷役中に大量に大気中に排出されることが知られている。内航、外航海運に関わらず、原油、重油、ガソリン類を大量輸送している。輸送時には安全上の観点からは充分な管理対策が実施されているが、爆発限界範囲外の環境大気を対象にした対策は行われていないため、大気への蒸散量など、その排出実態については不明な点が多い。同様に排ガス中の未燃成分についても充分な調査と解析が行われてきた訳ではない。本調査においては、これらのオキシダント生成の前駆体である船舶からのVOC発生に着目し、その排出実態の解明、排出モデル策定等の今後のVOC対策に資する総合的な調査を行い、もって、大気環境保全、地球温暖化対策に貢献するものとする。本調査の全体の調査フローを図 1に示す。平成16 年度の主な調査内容は以下のとおりである。-1-調査計画の策定2.2 VOCの対策動向調査 2.3 VOC対策技術の動向・荷役時の対策技術の動向・運航時の対策技術の動向・排ガスの対策技術の動向・IMOの動向・対策先進国の動向・陸上での対策の動向2.1.1 オペレータ等に対する実態把握 オペレーターなどへのヒアリング、 アンケート2.1.2 実船測定 タンカーなど8隻分2.1.3 船舶からの排出モデル策定 排出濃度の実態解明 運航との関係解明 荷役時などの排出係数設定2.4 中間報告2.1 VOC排出実態調査初年度H16年度H17年度船舶からの各モードにおけるVOC排出対策の検討光化学シミュレーションなどによるベイパーガスの環境影響評価削減シナリオの作成総合的なVOC排出対策に対する提言策定図 1 本事業の調査フロー-2-2.調査の内容2.1 VOC の解説VOC(Volatile Organic Compounds)は、大気環境の上では、①悪臭物質としての局的な影響、②PRTR 物質としての移動量把握の義務化と局所的な影響、③光化学オキシダント(Ox)などの酸性物質の前駆体としての広域への影響、④VOC 中に含まれるメタンによる地球温暖化の影響、と、影響面も非常に多岐にわたる。特に③に関連したオキシダント生成に対する影響が最近注目されており、我が国においてもVOC 放出を削減することを目的とした二つの法律改正が平成16 年に公示されている。図 2に陸上におけるVOC 排出とその規制の動向を示した。①の悪臭対策、②のPRTR 制度下における事業者の自主的な削減取り組みは陸上では既に実施されているところであり、NOx、SOx など既存の大気汚染物質排出量と同じく、未規制の船舶からのVOC の寄与割合が、相対的に高くなっている可能性がある。次に③の光化学オキシダントの前駆体としてのVOC について考える。図 2の上半分に示しているようにオキシダントは、NOx とVOC の共存下で光化学反応により生成する。このため、我が国においてはこれまで両前駆体のうち、それ自身に環境基準値が設定されているNOx の削減のみがはかられてきた。しかし、NOx の環境基準の達成状況に比較しても光化学オキシダントの環境基準達成状況は芳しくない。図 3に、我が国のオキシダント環境基準の達成状況を示した。我が国のオキシダント環境基準は、1 時間値が0.06 ppm を超えないこととされている。環境基準の2 倍の0.12 ppm を超える可能性が高い時に「光化学スモッグ注意報」が発令され、環境基準の4 倍の0.12 ppm を超える可能性が高い時には「光化学スモッグ警報」が発令される1。環境基準の達成状況および注意報・警報発令回数の改善ともに芳しくなく、特に近年は平成14年に千葉県で18 年ぶりに警報が発令されるなど、その悪化が懸念されているところである。また、大気環境濃度の年平均値も高いまま推移しており、オキシダント高濃度状況が日常化している可能性を示唆している。前述のように、大気中のオキシダント生成に関しては、図 4に示すようにVOC とNOx の共存下で複雑な光反応が起き、オキシダントや二次粒子と呼ばれる浮遊粒子状物質が生成することが知られている。このような複雑な反応系があることから、従来のようなNOx削減だけでは、光化学オキシダント生成量を充分に抑えることができず、オキシダント環境濃度の減少には充分ではないことが指摘されてきた。このためオキシダントおよび浮遊粒子上物質に対する総合的な対策の一環として、平成16 年55 月26 日に平成16 年法律第53 号として改正大気汚染防止法が公布された。その主な抜粋を表 1に示す。また、平成16 年度に同法律の具体的な規制内容を定めるために環境省内に設置された揮発性有機化合物(VOC)排出抑制対策検討会では、表 2に示すようにリード蒸気圧が20 kPa 上の1 大気汚染防止法(第23 条第1項)においては、光化学オキシダントの濃度が高くなり、被害が生ずるおそれがあるときは、都道府県知事等が注意報を発令し、報道、教育機関等を通じて、住民、工場・事業場等に対して情報の周知徹底を迅速に行うこととなっている。また、この際、光化学オキシダントの原因物質である窒素酸化物及び炭化水素類の排出削減のため、工場・事業場等に対してはばい煙排出量の削減について、自動車の使用者に対しては運転の自主的制限について、それぞれ協力を求めることとなっている。-3-燃料を1,000 キロリットル以上貯蔵する新設タンク(既設タンクは2,000 キロリットル以上)を揮発性有機化合物排出施設として指定し、法に基づく届け出および規制値(60,000 ppmC=6%C)の遵守が求められる見込みである。これとは別に、MARPOL 73/78 条約Ⅵ附属書2の批准に伴う海洋汚染防止法の改正において、第十九条の二十三に揮発性物質放出規制港湾の指定をうたっており、将来港湾において船舶からのVOC 排出を抑制する制度の枠組みが整備されている(表 3)。本規制は、国際条約の批准手続きに基づくものであるため、我が国における船舶VOC 規制の事由などについて現時点では整理されていない。MARPOL 73/78 条約は、1991 年の総会決議において大気汚染防止の必要性を決議され、新附属書として採択された経緯がある。この1991 年の総会決議においては、その前文で必要性として1979 年に採択された「長距離越境大気汚染条約3」を引いている。長距離越境大気汚染条約では1991 年当時VOC 削減を目的とした議定書についても作業・検討を行っており、外航船についてはその実効性を担保するためにNOx、SOx と同じくIMO に対して条約作成を要請したと考えられる。したがって、ここで影響低減を目的としているVOC 影響は、長距離越境大気汚染条約が示しているように、「産業活動およびエネルギー使用に伴い発生する物質により、間接的、直接的に、人間の健康を害したり、動植物や生態系を破壊したり、財産を侵害したりするなど低減しなければいけない影響」と考えられる。VOC による悪臭や人体への直接的な有害性は越境など長距離に渡って引き起こされる可能性はごく小さい。従って、長距離越境大気汚染条約が規制対象としているVOC は、「間接的」にオキシダントや酸性物質の前駆体としてのVOC であると解釈できる。従って、IMO 総会決議においても、長距離越境大気汚染条約に基づき削減を検討されたVOC は、オキシダントや酸性雨の前駆体としてのVOC を想定していると考えられる。2 MARPOL73/78 条約Ⅵ附属書の第15 規則には、揮発性有機化合物の排出規制として以下の規定がある。タンカーからの揮発性有機化合物(VOCs)の排出が、1997 年の議定書締約国の管轄下にある港湾又は係留施設において規制される場合には、IMO に対してその旨の通告を提出するものとされている。通告には、規制されるタンカーの大きさ、規制対象荷種を含むことが必要である。指定された港湾又は係留施設において蒸気排出の規制を受けるタンカーは、機関が作成した標準を考慮して主管庁が承認した蒸気収集装置を装備するものとし、貨物の荷役中、この装置を使用するものとされている。31979 年締結、1983 年発効。日本は未加盟。国連ヨーロッパ経済委員会(ECE)のもとで採択されており、EU 諸国だけでなく米国、カナダなども署名批准を行っており、大陸間を隔てた長距離輸送を想定した条約である。SOx の30%削減を定めたヘルシンキ議定書(1985)、NOx の削減について定めたソフィア議定書(1988)、VOC 規制議定書(1991)、SOx の削減について定めたオスロ議定書(1994)、重金属議定書(1998)、POPs 議定書、酸性化・富栄養化・地上レベルオゾン低減議定書(1999)の8 つの議定書により、補足・強化されてきている。-4-VOC光化学反応性の高い物質悪臭物質VOCに含まれる有害大気汚染物質ベンゼントルエンキシレン排出源付近における局地的な汚染(屋外)近年大気汚染防止法およびPRTR制度による規制室内の汚染(シックハウス)建築基準法などによる規制陸上発生源では次第に対策が進みつつあるタンカーは現時点では全く未規制メルカプタン硫化水素低級エステル排出源付近における局地的な汚染(屋外)悪臭防止法による規制イソプロピルアルコールイソブタン、ホルムアルデヒド、アルケン族、多環芳香族自動車工場窒素酸化物光化学オキシダント(オゾン)の発生紫外線による光化学反応環境基準が全国で未達成千葉県において18年ぶりの光化学スモッグ警報の発令窒素酸化物排出量削減の限界VOC削減について検討するべき時期ただし規制により既に排出量は1/3以下に減少実測濃度海外の規制事例タンカーからの寄与割合削減技術総合的な評価と提言図 2 VOC 排出と健康被害の関係の概念図-5-○光化学オキシダント(Ox)平成14 年度の光化学オキシダントの有効測定局数のうち、環境基準達成局数は、一般局と自排局で6 局(0.5 %)と依然として低い水準となっている。また、平成14 年度における光化学オキシダント注意報等の発令延べ日数(都道府県単位での発令日の全国合計値)は184 日であり、特に千葉県では18 年ぶりに光化学オキシダント警報が発令された。濃度別の測定時間の割合で見ると、1時間値が0.06 ppm 以下の割合は94.5 %、0.06 ppm を超え0.12 ppm 未満の割合は5.4 %、0.12 ppm 以上の割合は0.1%となっており、ほとんどの測定時間において環境基準値以下であった。一方、年平均値については近年漸増している。また、大都市に限らず都市周辺部での光化学オキシダント濃度が0.12 ppm 以上となる日数も多くなっており、光化学大気汚染の特徴である広域的な汚染傾向が認められる。76305483777403767450777404426703486020040060080010001200局数10年度11年度12年度13年度14年度0.06ppm以下(環境基準達成) 0.06~0.12ppm未満0.12ppm以上環境基準達成率0.6(%) 0.3(%) 0.6(%) 0.6(%) 0.5(%)図 光化学オキシダント(1 時間値の最高値)濃度レベル別測定局数の推移00.010.020.030.040.050.06S51 S53 S55 S57 S59 S61 S63 H2 H4 H6 H8 H10 H12 H14年度濃度(ppm)一般局自排局図 光化学オキシダントの昼間の日最高1 時間値の年平均値の推移図 3 光化学オキシダントの環境濃度の状況(環境省、揮発性有機化合物(VOC)の排出抑制について-検討結果-より作成)-6-○ 揮発性有機化合物(VOC)による光化学オキシダントの生成について揮発性有機化合物(VOC)は、光化学オキシダント及び浮遊粒子状物質(SPM)の二次生成粒子の原因物質とされている。このうち、光化学オキシダントは、大気中のVOC を含む有機化合物と窒素酸化物の混合系が、太陽光(特に紫外線)照射による反応を通じて生成する。また、浮遊粒子状物質は、発生源から排出された時点で粒子となっている一次粒子と、排出された時点ではガス状であるが大気中における光化学反応などにより粒子化する二次粒子とに分類される。・一次粒子には、工場・事業場から排出されるばいじん、粉じん、自動車等から排出される粒子状物質などがある。土壌の巻き上げ粒子や海塩粒子など自然起源のものも含まれる。・二次粒子は、工場・事業場、自動車などから排出されるVOC、硫黄酸化物、窒素酸化物などが原因物質となる。火山などから排出される硫黄酸化物など自然起源のものも考えられる。なお、二次生成粒子が生成するためには、VOC から生成した反応物の蒸気圧が低い必要があるため、通常、炭素数の多いVOC が関与するが、光化学オキシダントの生成にはほとんど全てのVOC が関与する。図 大気中のVOC の反応を中心とした二次粒子の生成プロセス図 4 VOC による光化学オキシダント生成機構(環境省、揮発性有機化合物(VOC)の排出抑制について-検討結果-より作成)-7-表 1 VOC に関連する改正大気汚染防止法(抜粋)平成十六年五月二十六日 法律第五十六号改正「大気汚染防止法」より作成。第一条 目的この法律は、工場及び事業場における事業活動並びに建築物の解体等に伴うばい煙、揮発性有機化合物及び粉じんの排出等を規制し、有害大気汚染物質対策の実施を推進し、並びに自動車排出ガスに係る許容限度を定めること等により、大気の汚染に関し、国民の健康を保護するとともに生活環境を保全し、並びに大気の汚染に関して人の健康に係る被害が生じた場合における事業者の損害賠償の責任について定めることにより、被害者の保護を図ることを目的とする。第二条(定義など)4 この法律において「揮発性有機化合物」とは、大気中に排出され、又は飛散した時に気体である有機化合物(浮遊粒子状物質及びオキシダントの生成の原因とならない物質として政令で定める物質を除く。)をいう。5 この法律において「揮発性有機化合物排出施設」とは、工場又は事業場に設置される施設で揮発性有機化合物を排出するもののうち、その施設から排出される揮発性有機化合物が大気の汚染の原因となるものであつて、揮発性有機化合物の排出量が多いためにその規制を行うことが特に必要なものとして政令で定めるものをいう。6 前項の政令は、事業者が自主的に行う揮発性有機化合物の排出及び飛散の抑制のための取組が促進されるよう十分配慮して定めるものとする。第二章の二 揮発性有機化合物の排出の規制等(施策等の実施の指針)第十七条の二 揮発性有機化合物の排出及び飛散の抑制に関する施策その他の措置は、この章に規定する揮発性有機化合物の排出の規制と事業者が自主的に行う揮発性有機化合物の排出及び飛散の抑制のための取組とを適切に組み合わせて、効果的な揮発性有機化合物の排出及び飛散の抑制を図ることを旨として、実施されなければならない。(排出基準)第十七条の三 揮発性有機化合物に係る排出基準は、揮発性有機化合物排出施設の排出口から大気中に排出される排出物に含まれる揮発性有機化合物の量(以下「揮発性有機化合物濃度」という。)について、施設の種類及び規模ごとの許容限度として、環境省令で定める。(揮発性有機化合物排出施設の設置の届出)第十七条の四 揮発性有機化合物を大気中に排出する者は、揮発性有機化合物排出施設を設置しようとするときは、環境省令で定めるところにより、次の事項を都道府県知事に届け出なければならない。一 氏名又は名称及び住所並びに法人にあつては、その代表者の氏名二 工場又は事業場の名称及び所在地三 揮発性有機化合物排出施設の種類四 揮発性有機化合物排出施設の構造五 揮発性有機化合物排出施設の使用の方法六 揮発性有機化合物の処理の方法2 前項の規定による届出には、揮発性有機化合物濃度及び揮発性有機化合物の排出の方法その他の環境省令で定める事項を記載した書類を添付しなければならない。-8-表 2 改正大気汚染防止法における燃料貯蔵施設に対する規制案揮発性有機化合物(VOC)排出抑制対策検討会(平成16 年度)貯蔵小委員会報告書より作成規制対象外施設施設 規模ガソリン、原油、ナフサその他の温度37.8 度において蒸気圧が20 キロパスカルを超える揮発性有機化合物の貯蔵タンク(密閉式及び浮屋根式(内部浮屋根式を含む。)のものを除く。)容量が1,000 キロリットル以上のもの※ ただし、既設の貯蔵タンクは容量が2,000 キロリットル以上のものについて排出基準を適用する。参考 各種物質のリード蒸気圧(37.8℃) ケミカル貨物は20℃における蒸気圧からの換算値kPa 出典原油 28~40 石油産業における炭化水素ベイパー防止トータルシステム研究調査報告書ナフサ 60~100 石連資料ガソリン 44~78 JIS K2202ジェット燃料(JET A-1) 0.1 以下 石連資料灯油 0.1以下 石連資料軽油 0.1以下 石連資料A 重油 0.1以下 石連資料ベンゼン 22.2トルエン 7.1n-ヘキサン 34.2アセトン 51.7メチルエチルケトン 22.2メタノール 32.0エタノール 16.0Chemical Safety Cards(国際化学物質安全性カード)規制値施設 規模ガソリン、原油、ナフサその他の温度37.8 度において蒸気圧が20 キロパスカルを超える揮発性有機化合物の貯蔵タンク(密閉式及び浮屋根式(内部浮屋根式を含む。)のものを除く。)60,000ppmC回収処理については、欧州連合(EU)の規制では、排出基準値を35g/㎥と設定している。この基準値はガソリンの場合は、概ね54,000ppmC となる。また、米国の規制では、回収処理装置の処理効率を95%以上と設定している。この米国の基準は概ねEU の基準値に相当している。これらのことから、適用可能な技術を用いた場合の排出ガス濃度は60,000ppmC 程度まで低減可能と考えられることから、排出基準値は60,000ppmC とすることが適当である。-9-表 3 改正海防法におけるVOC 排出規制港湾(抜粋)平成十六年四月二十一日 法律第三十六号改正「海洋汚染及び海上災害の防止に関する法律4」より作成第四章の二 船舶からの排出ガスの放出の規制(揮発性物質放出規制港湾の指定)第十九条の二十三 国土交通大臣は、揮発性有機化合物質(油、有害液体物質等その他の貨物から揮発することにより発生する有機化合物質をいう。以下同じ。)を放出する貨物の積込みの状況その他の事情から判断して揮発性有機化合物質の放出による大気の汚染を防止するための措置を講ずる必要があると認められる港湾について、これを揮発性物質放出規制港湾として指定することができる。2 国土交通大臣は、前項の規定による指定をしようとするときは、あらかじめ、当該港湾の港湾管理者の意見を聴かなければならない。3 環境大臣は、船舶からの揮発性有機化合物質の放出の抑制を図るため必要があると認めるときは、国土交通大臣に対し、港湾を特定して、第一項の指定を求めることができる。4 国土交通大臣は、第一項の規定による指定をしたときは、国土交通省令で定めるところにより、揮発性物質放出規制港湾の名称及びその区域を公示しなければならない。5 第二項及び第三項の規定は、外国の港湾を指定する場合には、適用しない。6 前各項の規定は、第一項の規定による指定の変更又は廃止について準用する。(揮発性物質放出防止設備等)第十九条の二十四 船舶所有者は、揮発性物質放出規制港湾において揮発性有機化合物質を放出する貨物の積込みが行われる場合には、当該船舶(その用途、総トン数、貨物の種類等の区分に応じ国土交通省令で定めるものに限る。以下「揮発性物質放出規制対象船舶」という。)に、揮発性有機化合物質の放出による大気の汚染を防止するための設備(以下「揮発性物質放出防止設備」という。)を設置しなければならない。2 前項の規定による揮発性物質放出防止設備の設置に関する技術上の基準は、国土交通省令で定める。3 揮発性物質放出規制港湾にある揮発性物質放出規制対象船舶において揮発性有機化合物質を放出する貨物の積込みを行う者は、国土交通省令で定めるところにより、揮発性物質放出防止設備を使用しなければならない。ただし、次の各号のいずれかに該当する場合には、この限りでない。一 揮発性物質放出規制対象船舶の安全を確保し、又は人命を救助するために必要な場合二 揮発性物質放出規制対象船舶の損傷その他やむを得ない原因により揮発性有機化合物質が放出された場合において、引き続く揮発性有機化合物質の放出を防止するための可能な一切の措置をとつたとき。4 法律名は、平成16 年4 月21 日法律第36 号により「海洋汚染等及び海上災害の防止に関する法律」に改正される。ただし、1973 年の船舶による汚染の防止のための国際条約に関する1978年の議定書によって修正された同条約を改正する1997 年の議定書が日本国について効力を生ずる日から施行。-10-2.2 船舶からのVOC 排出実態調査船舶運航に伴う VOC 排出経路は、機関からの排出と原油及びガソリン、ケミカル輸送プロセス時の大気への漏えい・放出の二つに大別される。後者の液体燃料輸送プロセスに伴うVOC の排出は、積荷航海時、移入作業(タンカーからの揚げ荷時)、バラスト航海時(空き荷航海時)、移出作業(タンカーへの積み荷時)、の4 つのモードに分解できる。各過程から発生するVOC 排出量を算定するために、排出実態と排出濃度の把握を行う。このため、文献調査、ヒアリング及びアンケート、実船計測を行った(図 5参照)。なお、機関からの排出(排ガス)については、排出実態は機関の稼働率及び負荷率を用いることで推定できることから、既存文献調査による排気ガス中のVOC 濃度の情報収集整理のみとした。2.2.1 実船計測調査主に内航プロダクトタンカーを対象に荷主、運航会社を選択し、表 4に示す4 隻について測定調査を実施した。表 4 VOC 実船計測対象船舶(白油タンカー)総トン数 ベントポスト高(m) 荷種 実施日1,000 kl 型 328 4.53 レギュラーガソリン 9/162,000 kl 型 688 6.45 プレミアムガソリン 9/17-182,000 kl 型 749 6.5 レギュラーガソリン 9/225,000 kl 型 2,559 6.3 レギュラーガソリン 10/26-27(1) VOC ベイパー採取および分析方法タンカーの荷積み作業時におけるVOC 採取方法は図 7に示すとおりである。ベントポストのフレームアレスタには、ろうと状の傘を取り付けたテフロンチューブを固縛した実際の固縛状況を図 8に示した。チューブなどは全て本質防爆機材とし、テフロンチューブは静電気防止のために、導電用チューブを外側に巻いて利用した。現場で用いるFID 計は本質防爆タイプのものであるが、国内の防爆型式認定を受けていない。このため、ベントポスト直下付近の防爆地域内での測定は行わず、図 9に示すようにテドラーバッグに手動で5 分ごとに採取後に、直ちに船橋内に持ち込みFID 計で総HC 濃度を測定した。実際の作業状況を図 10および図 11に示した。また、同様にテフロン製チューブから手動でバッグに数リットル採取持ち帰り後、ラボで成分分析(MS-FID)を行った。MS-FID 法と現場測定に用いたFID 計との濃度関係を図 6に示した。n-ブタンとイソブタンのResponse Factor が、メーカー出荷時でそれぞれ1.8 および1.9 程度あるため、現場での指示値は小さいものとなっている。以下では、全ての現場でのVOC 濃度は、下記関係式を用いて補正したものである。なお、現場で使用したテフロンチューブ20m を用いて、n-ブタンの吸着を計測した結果、入力濃度に対して99%以上のVOC 濃度がチューブ出口で観測されたため、管壁面の吸着による濃度減少は無視した。-11-作業名称 積み荷航海時揚げ荷(移入)作業ガスフリー作業バラスト航海 積み荷(移出)作業機関からの排出VOC排出状況タンク内はほぼ満載である。タンク内の上部空間の圧力変化(気象や海象による温度変化や揺れに伴うもの)によりわずかに呼吸ロスが発生するタンカーから陸上タンクへの荷揚げ作業である。カーゴタンク内の燃料を船舶側動力源により陸上へ移送する。間隙には外気が導かれるタンク内のVOC 濃度を下げるため、航海中に電動ファン外気を送り込むタンク内の酸素濃度を下げる作業。タンク内の圧力変化によりわずかに呼吸ロスが発生する。一方、壁面および底面にたまった残存燃料が揮発タンカーに対する荷積み作業である。陸上側からの燃料の移入に伴い、タンク内のVOC を含んだガスが大気へと放出主機関などで燃焼される燃料の未燃分が、煙突より排出されるタンク内と外部とのやり取り点線は気体の流れ、太実線は液体燃料の流れ大気へのガス放出量微量 無視できる 大量(タンク容量の5 倍以上)無視できる 大量(荷役量とほぼ同値である)微量VOC 濃度 非常に濃い 非常に濃い状態からやや希釈されるタンククリーニングを伴う場合、初期は非常に濃いが次第に薄くなるしだいに濃くなる。ガスフリー作業を行った場合は変化無し。初期は薄いが、満載時に従い非常に濃くなる。非常に薄い作業場所 港湾区域外 港湾内 港湾区域外 港湾区域外 港湾内 主に外洋航海中太線は、VOC を含むイナートガスの放出を模擬的に示す。長さは放出量の大小を示す。ハッチングは、タンカーカーゴタンク内の積み荷燃料の量を模擬的に示す細点線は、船上で生成したイナートガス(低酸素の低反応性ガス)のカーゴタンクへの注入を模擬的に示す。長さは放出量の大小を示す。灰色線は、カーゴタンクから出し入れされる積み荷燃料の動きを。長さは荷役体積の大小を示す。図 5 船舶運航に伴うVOC 排出の模式図-12-y = 2.175x1.0288R2 = 0.9950.010.11101000.01 0.1 1 10現場測定(%C)MS-FID(%C)図 6 MS-FID 法と現場測定に用いたFID 計との濃度関係ベントポストへの設置図 配管の取りまわし図 7 VOC ベイパーの採取および現場における分析方法図 8 サンプル採取状況(ベントポストのフレームアレスタに、ろうと状の採取ポイントを固定し、テフロンチューブにて甲板上まで固縛)フレームアレスタテフロンチューブ12φをガムテープおよびロープでベントポストに固定する。チューブは固いため、R を大きめに取る。先端はポストより9m離れた位置まで敷設。チューブの長さは30m程度。採取バッグよりFID 計助燃用空気取り入れ口各排気端にはそれぞれピンチコックを装着し、引火を防ぐ。吸引速度確保のためのポンプは設置しない+FID 計の排気にはアレスタの替わりに活性炭フィルターを装着希釈用空気(固定倍率)-13-図 9 テドラーバッグを用いた採取方法(通常は左図のように、捕集ケース内を負圧するために電動ポンプを用いるが、今回の測定では右図のような手動のシリンダーポンプを用いる)。図 10 サンプル時のポンプ接続状況(黄色の足踏みポンプはチューブ内の空気を置換するために用いる)図 11 サンプル用の手動ポンプ作動状況(右図ではシリンダーが右側に引かれているため、シリンダー内の採取バッグが膨らんでいる)-14-(2) 実測結果(a) 荷積み時におけるVOC 濃度(1)項において説明した方法で測定された荷積み時のVOC 濃度について図 12から図 15に示した。図 12に示した1000 kl タンカーでは、5 つある全てのタンクに同時にガソリンが注入されていた。このため、VOC 濃度の波形は単純な増加を示しており、最終的には40 %C(=400,000ppmC)に近い値を示した。これ以外のタンカーは複数の貨物タンクを有しており、荷役作業中にタンクの切換えが行われる(満載時に行うすり切り作業が個別タンクごとに行われるため)。このため、VOC 濃度はタンク切換えの回数に応じた鋸歯状の形状を示している。また、切換えが行われる際に他のタンク内のVOC 濃度も上昇するため、荷役直後の10ppmC 以下の濃度から回数が増すにつれて次第にVOC 濃度が高くなることがわかる。また、東京都が平成7 年に実施した炭化水素類排出低減技術(蒸発防止設備)マニュアルでは、コーンルーフタンクとして船舶タンクの測定を行っている。この際の満載時VOC 濃度は33%Cであり、本測定結果とほぼ同等であると考えられた。また資源エネルギー庁が昭和50 年に実施した石油産業における炭化水素ベイパー防止トータルシステム研究調査報告書によれば、50%液面時および100%液面時のガソリンVOC 濃度はそれぞれ0.3%C と50% C となっている。夏季におけるガソリンのリード蒸気圧は業界の自主的対応により72kPa 程度に抑えられており5、これを下式6の実験式により実際の気圧に転換すると、気温30℃において61vol%(=61 kPa/101.3 kPa)と計算される。ガソリン蒸気の平均炭素数を本測定の実測値である3.89(表6 参照)とすると、今回観測された45%C のVOC 濃度は、飽和蒸気圧の19%(=45/(61×3.89))に留まっており、飽和蒸気圧には遠く及ばない結果となっている。k 0.01a 7.047×10-6b 0.01392c 2.311×10-410[ap T bT cp d ]t Rp = k × p R + + R +d -0.52365 夏場のガソリンの蒸気圧については、品質確保法に基づくものではないが、石油精製事業者の自主的対応として、平成10 年(1998 年)の中央環境審議会第三次答申を受けて、平成13 年(2001年)からは72kPa 以下とし、その後、昨年の本小委員会第一次答申及び中央環境審議会第五次答申において、平成17 年(2005 年)以降65kPa 以下まで低減することとされた(平成15 年、総合資源エネルギー調査会石油分科会石油部会石油製品品質小委員会、今後の自動車用燃料品質のあり方について)。6 Measures to Reduce Emissions of VOCs during Loading and Unloading of Ships in the EU。原典はThe Institute of Petroleum in the UK 資料とされている。-15-0510152025303540450 20 40 60 80 100 120 140 160 180 200図 12 VOC 濃度と液面の時間変化(1000kl タンカー)横軸は、荷役開始後の経過時間(分)、縦軸は○がVOC 濃度(炭素換算C%)、□が液面高さ(m)総ガソリン荷役量986kl、平均荷役速度780kl/時間(液面計を未搭載のため液面は推定値)、レギュラーガソリン。事前のガスフリー作業あり。3 つのタンクに分入。単純平均9.1%C0510152025303540450 20 40 60 80 100 120 140 160 180 200図 13 VOC 濃度と液面の時間変化(2000kl タンカー)横軸は、荷役開始後の経過時間(分)、縦軸は○がVOC 濃度(炭素換算C%)、□が液面高さ(m)総ガソリン荷役量1035kl、平均荷役速度790kl/時間、レギュラーガソリン。事前のガスフリー作業あり。3 つのタンクに分入。単純平均11.5%C総VOC 濃度(%C)タンク内油面高さ (m) タンク内油面高さ (m)98765432109876543210総VOC 濃度(%C)-16-0510152025303540450 20 40 60 80 100 120 140 160 180 200図 14 VOC 濃度と液面の時間変化(2000kl タンカー)横軸は、荷役開始後の経過時間(分)、縦軸は○がVOC 濃度(炭素換算C%)、□が液面高さ(m)総ガソリン荷役量2035kl、平均荷役速度790kl/時間、レギュラーガソリン。事前のガスフリー作業あり。3 つのタンクに分入。単純平均15.5%C0510152025303540450 20 40 60 80 100 120 140 160 180 200図 15 VOC 濃度と液面の時間変化(5000kl タンカー)横軸は、荷役開始後の経過時間(分)、縦軸は○がVOC 濃度(炭素換算C%)、□が液面高さ総ガソリン荷役量2080kl、平均荷役速度780kl/時間、レギュラーガソリン。事前のガスフリー作業あり。3 つのタンクに分入。単純平均で11.2%C9876543210タンク内油面高さ (m)9876543210タンク内油面高さ (m)総VOC 濃度(%C) 総VOC 濃度(%C)-17-05101520253035404550-7 -6 -5 -4 -3 -2 -1 0図 16液面からタンク上面距離とVOC 濃度の関係横軸は満載時の液面高さからの差異m。縦軸はVOC 濃度(%C)、△が1,000kl、□と■は2,000 kl、×が5,000 kl 積みタンカー。05101520253035404550-7 -6 -5 -4 -3 -2 -1 0図 17正規化した液面高さとVOC 濃度の関係(一度目のタンク切換えまで)横軸は満載時の液面高さからの差異m。縦軸はVOC 濃度(%C)、△が1,000kl、□と■は2,000kl、×が5,000kl 積みタンカー。FID 濃度(ppmC)総VOC 濃度(%C)総VOC 濃度(%C)-18-最終的な濃度が飽和蒸気圧に対して充分に低く、蒸散速度が一定であると仮定すると、時間当たりの蒸散量は空間に均一に分布していると仮定した場合、時間当たりの濃度は以下のように示される。50%C 弱のVOC 濃度は飽和蒸気圧に満たないが、搭載直後では充分な蒸散が進んでいないと考えられる。また、航海時には気密状態で運搬されるため、飽和蒸気圧までの上昇は進まない。今回の測定においても、揚げ荷直前のVOC 濃度は、搭載直後とほとんど変化がなく、現在の荷役作業形態では、飽和蒸気圧までの上昇はないものと考えられた。ここで、簡単なモデルを考える。蒸散速度を求めるKawamura and Mackay (1985)式に、上記のリード蒸気圧(72kPa)を代入すると、蒸散速度はおよそ0.167 kg/secと計算される。荷役全体では、およそ荷役量の0.15%のガソリンが蒸散しており(排出係数は1.5 kg/t)、いずれかのタイミングで大気中に放出されることになる。上記の蒸散速度(一定)から、タンク内の空間が経時的に減少する際の濃度上昇を図 16に示した。簡易モデルにおいては、タンク満載時の濃度はおよそ45%C程度となっており、実測値とほぼ合致する。KM A E ××= × ×R TMw Pv (kg s−1 )where E = evaporation rate, in kg s-1A = area of the evaporating puddle (4m×5m=20 m^2)KM = mass transfer coefficient, in m s-1MW = molecular weight of gasoline (66.1 kg kmol-1)PV = vapor pressure, in PaR = the gas constant (8314 J kmol-1 K-1), andT = ambient temperature, in K (20°C is equal to 293.2 K).0%5%10%15%20%25%30%35%40%45%50%0 10 20 30 40 50 60 70 80横軸は経過時間、縦軸はVOC 濃度(%C)タンク体積を1200kl、蒸散速度を0.17kg/sec、タンク内は完全混合、ガソリンの平均分子量66、RVP72kPa、温度30℃とした。図 18 ガソリンタンク内理論上VOC 濃度の上昇-19-図 16のように、最終的に到達するVOC 濃度は40%C 程度といずれも大きな差異がない。一方、液面が低い状態では、船舶によって差異が大きく、特に2 番目以降のタンク切換えによって低液面時のVOC 濃度が大きく押し上げられていることがわかる。図 17に一度目の切換え時までの濃度上昇を示した。ここでは、タンク容量が関わらず、満載液面レベルの1.5m 下から、VOC 濃度の上昇が始まる傾向があることが伺える。VOC 排出量は、荷役速度が一定であれば、VOC 濃度に比例するので、以下のようなモデルで示される。VOC 排出量 = タンク満載時直前の高濃度排出+それ以外の排出= タンク切換え回数×高濃度排出量+ 初回排出量(≒0)+ Σ2 回目以降のタンク切換直後の排出量ここで、高濃度排出量を1.5m までの高濃度区(45%C=45/3.89=11.6 vol%)の積算濃度を三角形で近似した。タンク液面積(m2)×1.5m×0.116÷2 とし、タンク切換え時の高濃度を、タンク切換え回数ごとに、全排出量を上記の3 つの排出量に分割した結果を表 5に示した。タンク切換えを行わない小型タンカーでは、高濃度排出時のみで全体排出量の98%程度を説明できるのに対して、切換えを行う荷役では全体の7~8 割の排出を説明できるに過ぎない。また、タンク切換え直後の排出量は切換え回数などとの相関は少なく、特に同じ2000kl タンカーで見た場合でも明確な蛍光は見られなかった。船舶のタンク構造やベントポストまでの配管の構造が大きく影響していると考えられた。このため、今回の計算においては、1000 kl 以下の小型タンカーについては、0.086kg-VOC/t-Gasoline を、それ以外のタンカーについては、3 隻の平均を取り0.122kg-VOC/t-Gasoline の排出係数を採用する。表 5 VOC 排出量のまとめタンカーkl級荷役量m3VOC総排出量m3タンク切換え回数高濃度時排出量m3低濃度の排出量m3高濃度排出量による寄与率タンク切換直後の排出量m3(2回目以降)平均排出率kg-VOC/t-Gasoline1000 986 23.1 1 22.6 0.49 97.9%- 0.0872000 1035 30.6 3 23.7 6.90 77.4% 3.21 0.1102000 2035 81.1 4 58.2 22.85 71.8% 11.18 0.1495000 2080 59.9 3 39.9 19.97 66.7% 9.74 0.108-20-なお、EPA のAir Pollutant Emission Factors, AP-427においては、下式のような係数S(飽和係数)を導入し、飽和蒸気圧による理論上の排出係数E/Mw(t/t)を、補正するとしている。今回の測定では、小型タンカーにおけるS は0.04、それ以外のタンカーでは0.05 と計算できる。この数値は、EPA のサブマージドフィル時のS 値0.2 よりも大幅に低い。その理由として、米国に比較してタンカーの大きさが小さく、安全面から荷役速度が小さくなっていることが考えられる。また、今回測定したタンカーは全てガスフリー作業を実施しており、荷役開始直後のVOC 排出濃度が小さくなる可能性、また同じく安全面からタンク容量の95%までガソリンを搭載することになっており、荷役終了直前の濃度も小さくなる可能性があることが指摘された。ただし、2.2.3項のアンケート調査では、ガソリンタンカーでは年間100 回程度のガスフリー作業を実施されており、ガスフリー作業が日常化していることから、今回のVOC 排出係数を平均的な数値として用いても差し支えないと考える。今後国内外のガソリンオペレーションの差異について情報を収集することで、排出係数の差異について考察することが重要であると考えられた。lW V lRTE S M p m103 ρ=where E the emission in tonnesMw the molecular weight of the vapourpv the vapour pressure of the cargo in Paml the mass of liquid loaded in tonnes,R the gas constant in J/(mol.K)T the absolute temperature in Kρl the density of the liquid in kg/m3S 飽和係数、無次元表 6 EPA のAir Pollutant Emission Factors, AP-42 におけるS(飽和係数の設定例)Cargo Carrier Mode of Operation S FactorMarine vessels Submerged loading: ships 0.2Submerged loading: barges 0.5Submerged loading of a clean cargo tank 0.50Submerged loading: dedicated normal service 0.60Submerged loading: dedicated vapour balance service 1.00Splash loading of a clean cargo tank 1.45Splash loading: dedicated normal service 1.45Tank trucks andrail tank carsSplash loading: dedicated vapour balance service 1.00小型タンカー(Submerged loading: ships of a clean cargo tank)本測定 0.04中型タンカー(Submerged loading: ships of a clean cargo tank)0.05ただし、ガソリンと原油に対しては上記S 係数は適用より、実測値からの推定を推奨するとされている。7 U.S. EPA, Compilation of Air Pollutant Emission Factors AP-42, AP 42, Fourth Edition,Volume I Chapter 5: Petroleum Industry-21-排出されたVOC の成分について表 7に示した。国立環境研究所によるガソリンそのものの組成(表 7の右側に示す)との比較では、軽量成分が増加していることがわかる。ブタンの成分比は49.7(n-ブタンとイソブタンの合計)から65.2(C4 paraffins に相当)に増加し、プロパンの成分比11.1 から27.2(C5 paraffins に相当)と大幅に増加している。一方、オレフィン系の成分はガソリン中の成分比に対してVOC 内の成分比では、蒸気圧が軽量成分に比較して小さいことから、全て割合を落としている。なお、欧米においては、ガソリン中に含まれるMTBE などの有害成分による暴露が問題になっているが、日本においては現在MTBE の混入は行われていないことから、今回の測定ではMTBEなどの微量成分は測定していない。表 7 ガソリンVOC 組成表(左表がVOC 中の濃度組成割合、右表がガソリン中の濃度組成割合)Vol % MWComponentC3 paraffins <0.1C4 paraffins 65.2C5 paraffins 27.2C6 paraffins 0.5C7 paraffins 0.3C8 paraffins <0.1C4 olefins 3.3C5 olefins 1.9C6 olefins 0.1C7 olefins <0.1C8 olefins <0.1C6 aromatics 0.5C7 aromatics 0.2C8 aromatics 0.1GC-FID による体積濃度組成%右表の出典は「都市域におけるVOC の動態解明と大気質に及ぼす影響評価に関する研究」((独)国立環境研究所;平成12 年)1 n-ヘキサン2.5%2 シクロヘキサン0.1%3 ベンゼン0.6%4 トルエン0.7%5 キシレン0.2%7 1,3,5-トリメチルベンゼン0.001%76 n-ヘプタン0.1%77 n-ペンタン11.1%103 エチルベンゼン0.03%109 n-オクタン0.02%162 メチルシクロヘキサン0.1%171 n-ブタン25.5%172 イソブタン24.2%174 cis-2-ブテン10.4%175 trans-2-ブテン6.7%176 2-メチルペンタン4.4%177 2-メチル-2-ブテン3.4%178 2-メチル-1-ブテン2.2%179 trans-2-ペンテン1.8%180 cis-2-ペンテン1.8%181 2,3-ジメチルブタン1.1%182 2,2-ジメチルブタン1.0%183 メチルシクロペンタン0.9%184 3-メチルヘキサン0.4%185 2,4-ジメチルペンタン0.3%186 1-ヘプテン0.2%188 3-メチルヘプタン0.1%189 1-ヘキセン0.04%190 2-メチル-1,3-ブタジエン0.1%191 1,2,4-トリメチルベンゼン0.01%192 2,2,4-トリメチルペンタン0.01%193 1,2,3-トリメチルベンゼン0.001%194 n-プロピルベンゼン0.0003%195 2,3,4-トリメチルペンタン0.0004%196 1,4-ジエチルベンゼン0.0001%合 計 100.0%VOCコードVOC成分排出量構成比(%)-22-(b) 原油排出係数原油タンカーを対象とした SO 財団の調査概要を表 8から表 11に示した。原油洗浄を行う前提では、ガソリンタンクとは異なり、初期の濃度が15vol%程度になっており、その後41%までVOC 濃度が上昇する。原油の場合は、S 係数1 以上になることが知られている。メタンやエタンなど蒸気圧の高いガス物質が大量に荷役中に蒸散するためである。同報告書のシミュレーション結果では、放出される発生ガス量は、原油積み荷総体積の約1.8 倍とされている。VOC 放出量は発生ガス量のほぼ40%、原油積み荷総体積の約1.8×0.4=0.72 倍と想定されている。NMVOC の比率が85%、原油の比重0.89、VOC 平均分子量を48 とすると、0.14kg/ton 原油と計算される。この値は表11 に示したEU の原油データの1/10 程度となっている。日本国内で荷役される原油は、中近東など原産地における荷役、原油輸送、さらに一次備蓄基地での保管などの際に、軽量成分が蒸散していると考えられることから、妥当なものと考えられた。表 8 SO 財団2000 年調査における調査対象船舶及び調査期間など対象船原油タンカー調査期間 2000年12月1日~12月9日総トン数 約70,000総トン航路 国内原油備蓄基地-国内石油精製工場積荷 Quate、Iranian Heavy、Arabian Light原油の混合。分析項目 FID/MS(水素炎イオン化検出器)を用いた炭素数7までの揮発性炭化水素ガス濃度及びそれらの総計としてTOC(総炭化水素量)濃度。ただし、主たる対象物質はメタンである。表 9 バラスト航海時のタンク内原油ガス組成濃度(vol%)(深さ方向の変化、出港後 約24 時間後)タンク頂部と採取ポイントの距離1m 5m 10m 15mメタン0.59 0.58 0.63 0.62エタン0.66 0.67 0.71 0.70プロパン2.27 2.31 2.45 2.41ブタン3.19 3.25 3.44 3.38ペンタン2.00 2.05 2.17 2.14ヘキサン0.89 0.91 0.97 0.95ヘプタン0.27 0.28 0.30 0.29TOC 9.86 10.06 10.70 10.50ほぼ+300mmHg に加圧された状態から常圧まで点検口を開放し減圧した後に、採取した。-23-表 10 原油洗浄作業による揚げ荷作業直後のタンク内原油ガス組成濃度への影響(vol%)バラスト航海出向直後原油洗浄なし 原油洗浄実施メタン 0.61 0.87エタン0.69 0.82プロパン2.37 3.72ブタン3.32 5.19ペンタン2.08 2.97ヘキサン0.92 1.07ヘプタン0.28 0.23TOC 10.26 14.89表 11 原油積み込み作業直後及び積荷航海時のタンク内原油ガス組成濃度(vol%)(入荷開始からの経過時間) 出港直後 積荷航海時6時間後 40時間後 48時間後メタン 4.51 6.75 7.42エタン7.52 8.16 8.34プロパン14.59 14.82 15.05ブタン9.82 9.93 10.04ペンタン3.65 3.67 3.69ヘキサン1.22 1.22 1.21ヘプタン0.33 0.33 0.32TOC 41.63 44.88 46.07深さ方向の採取点は一点表 12 UK における原油VOC 排出係数との比較Operation 原油のVOC排出係数kg-NMVOC/t-CrudeOilOffshore Loading 0.6-1.1Onshore loading 1.2-2.5本調査(原油洗浄あり) 0.14米国(EPA) 0.13原油の値にはメタンとエタンが含まれていない-24-(c) ケミカル排出係数ケミカル物質に関しての排出係数を以下に示した。EU レポートでは、S 係数をガソリンと同じく0.175 と設定しているが、我が国でも荷役の実態を考えると、ガソリンよりもタンク満載まで積み込むことが少なく、また、複数タンクへの同時積み込みも少ないことから、過大となる可能性もある。別途実施されている(独)海上技術安全研究所の測定8でも、ベンゼンタンクの満載時における排出濃度の飽和蒸気圧に対する割合は実測で45%程度であり、ガソリンの20%ほどではないまでも飽和蒸気圧までは達していない。分子量が大きなガソリンやケミカルカーゴのタンク内では、空気密度との差異により、液面から垂直方向に濃度勾配ができており、ベントから実際に排出される排出濃度は飽和蒸気圧に達していないと考えられる。一方、タンク切換え時には高密度ガスが一部のベイパー配管に滞留したり、他のタンク下部に流入する事により、切換え直後の濃度を押し上げている可能性もある。このため、ガソリンタンカーで検討を行ったS 係数(飽和蒸気圧×荷役容量に対する実際の排出量の割合)は、ガソリンタンカーと同等程度になることが予測される。仮に、小型タンカーのS 係数0.04(表 6参照)を採用した場合の、荷種ごとのVOC 排出係数を表 13に示した。表 13 ケミカルタンカーにおけるVOC 排出係数アセトン ベンゼン トルエン メタノール ジクロロエタンtemp温度 30 30 30 30 30TVP(蒸気圧kPa) 19.6 7.84 2.21 9.84 13.3Mw(分子量) 58.65 78 92.14 32 98.96R気体定数 8,314 8,314 8,314 8,314 8,314ρ比重 0.791 0.8765 0.8669 0.793 1.25S(S係数) 0.04 0.04 0.04 0.04 0.04E排出係数kg/ton 0.023 0.011 0.004 0.006 0.016EPA のAir Pollutant Emission Factors, AP-42 より算定。ただしS 係数として、小型ガソリンタンカーの実測値0.04 を仮定した。(d) エンジンからの排出係数IPCC(気候変動に関する政府間パネル)では、船舶用エンジンからの排出量は、大型自動車用ディーセル機関のデータをもとに12g-VOC/kg-fuel と言う値が採用されているが、船舶機関が低速であること、燃料が低質であり炭素数の少ない未燃分の発生は少ないと予測されることなどから、上記の値より低いことが予測される。日本マリンエンジアリング学会では、実船舶実験により、定常状態でのTHC の排出係数は1.2~3.0 g/kg-Fuel 程度であることから、2.5 g-VOC/kg-fuel を採用している。本調査では、SO 財団平成10 年度「船舶排ガスの地球環境への影響と防止技術の調査報告書」の1.9 g/kg-Fuel を採用した。これは、Lloyd’s の調査結果においては、2.5g/kg-Fuel のうち、12%がCH4 という数値が報告されている、88 %がNMVOC と考え、ディーゼル機関における排出係数を算定したものである。8 船舶から発生する有害揮発性ガスによる複合汚染の低減に関する研究(2004、間島隆博他)-25-(e) VOC 排出係数のまとめ表 14に原油とガソリンのVOC 排出係数を示した。ガソリンで比較すると1