報告書・出版物

ご あ い さ つ本報告書は、競艇交付金による日本財団の平成16年度助成事業として実施した「船舶搭載艇の船尾降下揚収システムの研究開発」事業の成果をとりまとめたものです。海洋における人命救助、人命保護のための救命艇や救助艇の重要性は社会において深く認識されているところであり、このため救命艇、救助艇自体の構造や性能については従来から数多くの改善が図られてきております。しかしながら一方で、これら救命艇や救助艇を母船から降下・揚収する装置類については各種改善が求められているにもかかわらず、特に荒天下において迅速・安全に降下・揚収するものとしての確固たるシステムは未だ開発されていないのが現状であります。そこで当財団では、一般商船の救命システムの高度化、巡視船等の搭載艇運用の効率化・高度化に資することを目的とし、波浪海象下においても航行中の母船から迅速、安全、確実かつ少人数の作業者で着・進水でき、また揚収することが可能なシステムの研究開発を平成15年度に着手いたしました。本研究開発では、現在、海上保安庁の巡視船で採用されている船尾揚収装置の現状調査を行うとともに、CFDや船体運動計算等の船舶設計における手法を駆使しながら、母船及び搭載艇の水槽試験を実施するなどにより、新システムの開発に努めました。その結果、平成15年度及び16年度の研究開発の成果として、開発された新システムの具体案について、ここに報告書をとりまとめることができました。当財団は、本研究開発によって新しい船尾降下揚収システムがまずは警備・救難用として実用化され、海洋における人命救助や人命保護に少しでも寄与できることを一番に願っておりますが、将来的には海洋調査船やクルーズ観光船など一般商船の搭載艇に対しても今般の事業成果が一部でも採用されていくことを期待している次第であります。本研究開発は、小山健夫東京大学名誉教授を委員長とする「船舶搭載艇の船尾降下揚収システムの研究開発委員会」各委員の方々の熱心なご審議とご指導により進められ、実施にあたっては海上保安庁殿から多大なるご支援、ご協力を賜り、大学や研究所をはじめ関係各位のご協力、ご尽力によって実施されたものであり、これらの方々に対しまして、心から厚くお礼を申し上げます。平成17年7月海洋政策研究財団((財)シップ・アンド・オーシャン財団)船舶搭載艇の船尾降下揚収システムの研究開発委員会名簿( 順不同、敬称略)委 員 長 小山 健夫 東京大学 名誉教授(株式会社 日本海洋科学技術研究所 代表)委 員 大和 裕幸 東京大学大学院 新領域創成科学研究科 環境学専攻 教授〃 平山 次清 横浜国立大学大学院 工学研究院 海洋宇宙システム工学専攻 教授〃 白山 晋 東京大学 人工物工学研究センター デジタル価値工学研究部門 助教授〃 渡邊 巌 財団法人 日本船舶技術研究協会 顧問〃 石田 茂資 独立行政法人 海上技術安全研究所 海上安全研究領域耐航・復原性能研究グループ 上席研究員〃〃岩男 雅之(城野 功)海上保安庁 警備救難部 管理課 課長〃 染矢 隆一 海上保安庁 装備技術部 船舶課長〃〃正野崎 稔(高橋 努)海上保安庁 装備技術部 船舶課 首席船舶工務官〃 浅野 富夫 海上保安庁 装備技術部 船舶課 上席船舶工務官関 係 者 福富 一彦 海上保安庁 警備救難部 管理課 船舶係長〃 茅島 正毅 海上保安庁 装備技術部 船舶課 船舶維持対策官〃大橋 訓英(田中 信行)海上保安庁 装備技術部 船舶課 船舶工務官〃 松澤攝津男 高階救命器具(株) 顧問 (元海上保安庁装備技術部長)〃 永海 義博 ヤマハ発動機(株) 舟艇事業部 製品開発室長〃 入江 泰雄 三井造船(株) 船舶・艦艇事業本部 基本設計部長〃 中西 育二 三井造船(株) 艦船・特機営業部 部長代理〃 山下 進 三井造船(株) 船舶・艦艇事業本部 基本設計部 課長〃 松村 竹実 三井造船(株) 船舶・艦艇事業本部 基本設計部 課長〃 島田 潔 (株)三井造船昭島研究所 事業統括部 プロジェクトマネージャー事 務 局 工藤 栄介 海洋政策研究財団 常務理事〃田上 英正(仙頭 達也)海洋政策研究財団 海技研究グループ グループ長〃佐伯 誠治(瀬部 充一)海洋政策研究財団 海技研究グループ グループ長〃 玉眞 洋 海洋政策研究財団 海技研究グループ 調査役〃 三木 憲次郎 海洋政策研究財団 海技研究グループ グループ長代理兼 海技研究グループ 技術開発チーム チーム長注:( ) 内は前任者目 次1. 事業の目的 12. 研究開発目標 12.1. 開発目標の設定と背景 12.2. 目標波高に対する考え方 23. 現状の船尾降下揚収システムの問題点と課題解決3.1. 問題点の解決に至る思考展開 33.2. 研究開発概要 53.3. 研究開発フロー 63.4. 次世代船尾降下揚収システムの基本コンセプト 64. ドライドック式船尾降下揚収システム4.1. 基本コンセプト 84.1.1. ドック構造 84.1.2. ウィンチ揚収方式とベルトコンベア方式 104.2. 船尾形状の研究開発 114.2.1. ストリップ法による運動計算と船尾相対水位変動 114.2.2. 波浪中CFDによる船尾流場評価 134.2.3. 実用型船尾形状 154.3. 大型模型水槽試験 164.3.1. 模型及び実験装置の概要 164.3.2. 母船運動、船尾流場計測実験、及び搭載艇降下揚収実験 214.4. ウィンチ揚収方式に関する洋上実船実験 294.4.1. 母船・搭載艇間の索受渡し洋上検証実験 294.4.2. 索を利用した新揚収方式の洋上検証実験 344.5. 試設計 434.5.1. 基本仕様と船尾揚収装置図 434.5.2. 降下揚収作業手順(作業人員数と作業時間) 504.6. 今後の検討課題 525. 導水管式船尾降下揚収システム5.1. 基本コンセプト 535.1.1. ドライドック式コンセプトの速力限界 535.1.2. 導水管式コンセプトの基本原理 535.2. 基礎実験 535.2.1. 模型および実験装置の概要 535.2.2. 平水中および規則波中実験 585.2.3. 不規則波中および過渡水波中実験 675.3. 船尾流速分布計測実験 745.3.1. 導水管式実用インレットの配置、サイズ、及び形状の検討 745.3.2. 模型及び実験装置の概要 74i5.3.3. 船尾流速分布計測実験 765.3.4. 取水効率の算定 795.4. 試設計 815.4.1. 3次元イメージと取水口開閉機構 815.4.2. 降下揚収作業手順(作業人員数と作業時間) 845.5. 今後の検討課題 856. 開発達成度および結論 867. 参考文献 89付録ii1. 事業の目的船舶及び海上における人命の安全を確保する上で、最終手段としての救命艇、他船救助に向かうための救助艇の重要性については、従来から認識されていたところであり、救命艇・救助艇の安全性・堪航性はもとより、迅速かつ安全に降下・揚収できることが非常に重要な要素となっている。救命艇・救助艇の構造、性能等については、過去の海難事例等を踏まえ改善が図られてきており、「海上における人命の安全のための国際条約」においても詳細な要件が定められている。しかし一方、救命艇・救助艇を降下・揚収する装置については、近年になってフリーフォール型の装置の開発がなされたものの、迅速・安全に降下・揚収するためのシステムについては未だ確固たるものは開発されておらず、多方面において改善が求められている。この事例に示されるように、現在多くの商船において採用されている舷側ダビットによる救命艇進水装置は、海難が発生するような荒天下では所期の目的を十分に果たしているとは言い難く、より安全で迅速かつ確実に降下が可能な「救命艇降下システム」の開発が望まれている。例えば、海上保安庁においては、高速で浅海域を航行できる小型搭載艇が、その特徴を生かして警備救難業務に活用されているが、現状多く採用されているミランダ型ダビットでは、通常海象時も母船本船を停止させ、6~8人の作業員を要して降下・揚収を行う必要がある。さらに、荒天下での警備救難作業時には、さらにそれ以上の制約があるため、降下時間の短縮、降下作業人員の少人数化の改善が強く求められている。また、舷側降下型のダビットによる降下の場合には、ダビット本体や索の強度、母船との相互関係から、数ノットを超える行き足が着いた状態で搭載艇を降下させることは困難であり、この点では船尾降下型システムの方が優れている。このため、本研究開発は航行中の母船からも搭載艇を安全、迅速、確実、更に少人数で進水できるシステムを開発し、現時点ではごく一部の船舶にしか採用されていない「船尾降下揚収システム」の多目的利用への普及を目指し、一般商船の救命システムの高度化、巡視船等の搭載艇業務効率化・高度化に資することを目的とする。2. 研究開発目標2.1. 開発目標の設定と背景研究開発目標は、現在、海上保安庁で採用されているミランダ式ダビットと呼ばれる船側での搭載艇降下揚収システム、及び、改1000㌧型巡視船「えりも(旧おじか)」の船尾ドック式船尾降下揚収システムを超える、搭載艇の航行能力限界までの海象下で、より容易、かつ、より短時間の作業で降下揚収が可能なドック式船尾降下揚収システムを開発目標とする。具体的には以下のとおりとする。図2.1.1 に図解を示す。
ページトップ