OPRIについて

技術開発基金による研究開発

海運・造船産業は、海を越えて人々の必要とする物資を輸送することによって、人々の暮らしや経済を支える、なくてはならない大切な産業です。特に工業製品を輸出し、エネルギーや食料の大半を海外から輸入している我が国にとっては、海事産業なくして国民生活は成り立たないといっても過言ではなく、また、我が国の海運・造船産業の世界におけるシェアは高く、世界経済の発展にも非常に大きな役割を果たしていることを忘れることはできません。

しかしながら、今後の海事産業は、安全で効率的な海上輸送を行っていく一方で、さらに温室効果ガスやNOx(酸化窒素)などに代表される有害物質の排出低減、資源やエネルギーの獲得を目指した海洋開発・海洋空間の利用など、社会のニーズに対応していくことが強く求められており、そのための技術開発が大変重要になっております。

当財団では、造船、舶用及び海洋に関連する技術のうち、社会に役立つ技術の開発を行う企業等に対し、研究開発資金の補助または融資を行っており、これらの資金を通じて、海に関わる新しい技術の開発に貢献し、社会の発展向上に寄与してまいりました。これまでの補助金額は、1980年から2014年の事業終了までに補助が540件約110億円、融資は46件約39億円に達しました。

主な研究開発例

ヨットシミュレータ

ヨットは自然の力によって走るため、知識と経験を持って自然と対峙することがその魅力を形成しています。従って、ヨットを楽しむためにはヨットのメカニズム・操縦法を知り、気象・海象の変化に対応しうる技術を身につける必要があります。しかし、通常行われるヨットスクールやクラブでの訓練では、さまざまな自然条件をあまり経験できません。そうしたさまざまな自然条件における技術習得のためには、車や飛行機の操縦訓練に使われているようなシミュレータで訓練することが有効な手段です。この研究では、いろいろな条件を与えたときのヨットの運動を物理モデルによって計算し、ヨット実機の挙動や周囲の音・映像を再現するシミュレータが開発されました。このシミュレータは東京国際ボートショーにも出展され、現実感のある帆走状況の再現に高い評価を受けました。

ハイブリッド高速貨物船

船舶を高速化しようとすると、速度を上げるにつれて造波抵抗が増大し、高速化が妨げられます。さらに速度を上げれば逆に造波抵抗は減っていくのですが、例えば重量の大きい貨物船は重量が大きいのでこの山を超えられず、所定の速度を求めようとするとエンジン馬力が飛躍的に増大し、不経済です。そこでこの研究では、船型を工夫して造波抵抗を低減し、20ノットで進むフェリーに必要なエンジン馬力を従来の7割程度に低減することを目標に、船体の船尾側の半分のみを双胴型にしたハイブリッド船型を開発しました。

ハイステイブルキャビン

ハイステイブルキャビンというのは、波の中でも揺れを感じない船の客室のことです。船は波の影響などによって規則的または不規則的な揺れを生じ、人を運ぶ船では乗客の船酔いが問題となります。そこで波を受ける船体と人が乗る客室を分離して、客室を常に水平に保ち、衝撃的な加速度を吸収するような機構を船に搭載することで、船酔いのない快適な船旅ができる船舶を提供できるようになります。本研究では、客室を油圧式小型支持装置で支え、船体運動に連動して油圧シリンダーを伸縮することで客室の動揺を吸収する仕組みが開発され、ほぼ期待通りの結果が得られました。現在関門海峡で活躍している周遊船「ボイジャー」はこの技術を基にして建造されました。

二重反転プロペラ

二重反転プロペラは、互いに逆方向に回転する2つのプロペラを軸の前方・後方に配置する推進装置です。通常の単独プロペラでは後流に残される旋回流の分だけエネルギー損失がありますが、それを後方のプロペラで回収することにより推進効率が上がります。同時に、同じ推進力を生むためのプロペラあたりの加重も分散されるという利点もあります。これを一般商船用に実現して搭載すれば、画期的な省エネルギー対策となります。この研究では、実際に二重反転プロペラを実機として開発し、それを自動車運搬船「とよふじ5」に搭載して、省エネ効果や性能について実船計測を行いました。その結果、従来と比べて推進性能の低下がない上、16%の省エネ効果、船体振動の低減が確認されました。現在ではこの装置は実用化され、数々の船舶に採用されています。

リニアモータ減揺装置

船舶の揺れを抑えてより良い居住・作業・操船・運用環境を得るために、従来の船舶ではビルジキール、フィンスタビライザーなどの魚のひれのようなものを搭載したり、タンク内を移動する水の重量を利用した減揺水槽が一般的に使用されてきました。しかしこれらの技術にはある特定の航走条件でしか性能を発揮できないなどの欠点がありました。この研究で開発されたリニアモータ減揺装置とは、レールおよびこのレール上を移動できる重い固体(振り子)を船体に搭載し、自然の重力の効果で揺れを迎える方式(パッシブ方式)と、振り子を船体の揺れに応じて能動的に制御することで船体のバランスをとる方式(アクティブ方式)を組み合わせた、ハイブリッド減揺装置のことです。試作した装置を実際の船に搭載して揺れを計測したところ、装置がない場合には9.2度あった横揺れが、装置を動作させた場合には3.1度となり、約66%の減揺効果が認められています。

津波警報打上伝達信号

従来、津波に対する警報は警鐘・サイレン、テレビ・ラジオなどによって伝達されています。しかしこれらの手段は、沿岸や海上で漁業・港湾作業に従事する人、またレジャーを楽しんでいる人々には伝わりにくいものです。この研究では、津波の警報を伝える手段として、地上250mの高度に打ち上げるロケット信号弾を開発しました。この信号弾は、花火の倍以上の大きさの連発音と赤い煙によって、半径4kmの範囲に津波の襲来を知らせることができます。現在この信号弾は「つなび」という名称で製品化され、販売されています。

波浪抵抗の少ない船

タンカーやバルクキャリアのような低速肥大船は、実海域航行時の波浪抵抗が大きく、必要馬力も大きいのが現状です。抵抗の主な原因は肥大した船首部で波崩れが起きることですが、この抵抗を低減する新しい技術の一つとして、水線面上の船首形状を前方に尖らせた斧型船首(Ax-Bow)が開発されました。以前の模型試験による基礎研究ではこの船首形状は波浪抵抗を20%以上低減できるとされていましたが、実船に適用するためには新しい理論設計手法が必要でした。このため、Ax-Bowのような船型も設計できる手法の開発と、様々な状況下でのAx-Bowの波浪抵抗低減効果の測定を行うなど、このタイプの船の実用化に関する研究を行いました。この結果Ax-Bowは各種波向中でも抵抗低減の効果があることが確認され、また理論設計手法が完成しました。この技術を採用して建造されたバルクキャリア「KOHYOHSAN」は高い評価を得、(社)日本造船学会によるシップ・オブ・ザ・イヤー2001を受賞しました。

波浪抵抗の少ない斧型船首形状のばら積貨物船「KOHYOHSAN」。
2001年のシップ・オブ・ザ・イヤー受賞船。

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