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ムハンマド・ダラグメ氏(AP通信記者)講演会「中東におけるイスラム過激派の動向と今後の展望」要約

2015.06.15

P6024904_1.jpg笹川平和財団は、AP通信特派員のムハンマド・ダラグメ氏をお招きし、2015年6月2日に「中東におけるイスラム過激派の動向と展望」と題する講演会を開催しました。ダラグメ氏はパレスチナ自治区のラマッラ在住のジャーナリストで、長年にわたりパレスチナ情勢につき報じてこられました。また、中東地域への豊富な取材体験からイスラム過激派の動向に詳しく、本講演会では、現地の人々が「イスラミックステート(以下IS)」を始めとしたイスラム過激派をどのように捉えているかという切り口からお話しいただきました。なお、モデレーターは、NHK解説委員の出川展恒氏にお願いしました。

■ イスラム過激派誕生の背景

ISやその母体であるアルカーイダの起源は、1980年代、すなわち中東の人々が近代のあらゆるイデオロギーに対する信頼を失くした時期にさかのぼる。若者たちは汚職や独裁に立ち向かうべくリベラル、共産主義、ナショナリズム、民主主義と様々な政治集団に属し現実の変革を試みたが失敗に終わった。そして、既存の体制や政治運動に対する代替案として浮上してきたのが政治的イスラムであった。ISはアフガニスタンにおける闘争に参加したアルカーイダの集団によって作られた。その指導者ザルカーウィーは、イラク戦争に伴ってイラクに入り、ISの前身となる組織を設立し駐留米軍に対する自爆攻撃を行った。その後、組織を「イラクとレバントのイスラム国(ISIL)」と改称し、さらに2014年にはカリフ制を敷く「イスラム国(IS)」の設立を宣言した。そしてシナイ半島やリビアを始め中東各地のジハード組織がISへの忠誠を誓った。

■ 若者への魅力

P6024964_1.jpg私は過去2年間、何度かヨルダンを訪れ、シリアやイラクで活動するヨルダン人ジハード主義者について報じてきた。また、自爆テロ実行犯の家族に取材し、街の人々にもインタビューを行ったが、そこではISやヌスラ戦線に対し深い共感が寄せられているのを感じた。こうしたイスラム過激派を支持する人々は、預言者ムハンマドやその後のカリフ制の時代はイスラムの黄金時代であった、ムスリムは当時、軍事的にも経済的にも強勢を誇り、科学においても進んでいたと口々に述べるのであった。他方で、公正な選挙がない、就職の機会がない、一部の特権階級が富を独占し汚職を行っていると自らの置かれた現状につき、不満を述べるのであった。私が取材で会った何人かの活動家たちは、かつてのカリフ制時代の復活を思い浮かべつつ、ISの到来に希望を託していた。

■ 学校教育、モスクでの説教

中東のムスリムは、教育の中でカリフ制という考えに馴染みながら育っていく。私はかつてヨルダンの学校教科書に目を通したことがある。宗教、歴史、アラビア語の教科書を読んでみたが、過去のカリフ制の偉大さに関する記述が多いことに気が付いた。また斬首や奴隷に関する記述も散見された。他方、こうした教科書では、イスラム教が神から下された最後の宗教であることが強調され、他の宗教や信仰に関する記述は見られなかった。同様のメッセージはモスクの説教でも語られている。多くの人々がモスクでの集団礼拝に参加し、説教師の指導に耳を傾けており、過去のカリフ制を称えるという考え方は人々の間に広く行き渡っている。


■ ISに対抗するために

民主的な体制下では、対抗勢力も民主的であるが、暴力的、抑圧的な体制下では、対抗勢力も暴力的なものになる。例えば、シリアやイラクの体制がスンナ派住民を暴力的に扱ったことが、抑圧された人々をIS等イスラム過激派に向かわせた。したがって、ISに対抗する方法は、軍事的な制圧を図ることではない。むしろ、公正な選挙を伴う真の民主主義を確立すること、そして学校やモスクで教える宗教的なメッセージを現代に適した内容に変えること、これ以外にないと私は考える。

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